(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066710
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】微細セルロース繊維粉末、及び微細セルロース繊維粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 5/14 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
C08B5/14
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177465
(22)【出願日】2021-10-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐古 尚裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】岩本 伸一朗
(72)【発明者】
【氏名】谷 遼太郎
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090BA27
4C090BB63
4C090BB95
4C090DA31
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、容易に水等に分散させることが可能な、微細セルロース繊維粉末を提供することである。
【解決手段】本発明の一態様は、微細セルロース繊維と、水とを含む微細セルロース繊維粉末であり、前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm~1000nmであり、前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)(一般式(1)において、nは1~3の整数であり、M
n+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)で表される硫酸エステル基を有し、前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下であり、前記粉末のメジアン径が、800μm以下であり、前記粉末の水分率が50質量%以下である、微細セルロース繊維粉末である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維と、水とを含む微細セルロース繊維粉末であり、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm~1000nmであり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下であり、
前記粉末のメジアン径が、800μm以下であり、
前記粉末の水分率が50質量%以下である、微細セルロース繊維粉末。
【化1】
(一般式(1)において、nは1~3の整数であり、M
n+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)
【請求項2】
前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度が、500mPa・S以上である、請求項1に記載の微細セルロース繊維粉末。
【請求項3】
前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度及び26rpmで測定される粘度から求めたチキソトロピックインデックス(TI値)が、3~30である、請求項1又は2に記載の微細セルロース繊維粉末。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるMn+が、ナトリウムイオン(Na+)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維粉末。
【請求項5】
前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の全光線透過率が、96%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維粉末。
【請求項6】
前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液のヘイズ値が、20%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維粉末。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維粉末を水に分散する工程を有する、微細セルロース繊維水分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法で得られた微細セルロース繊維水分散液を成膜する工程を有する、フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維粉末を製造する方法であり、
微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維及び水を含む乾燥体を得る乾燥工程を有し、
前記乾燥工程において、凍結乾燥、晶析及び真空乾燥、並びにスプレードライから選択される少なくとも1種の乾燥が行われる、微細セルロース繊維粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維粉末を製造する方法であり、
微細セルロース繊維及び水を含む乾燥体を乾式粉砕機により粉砕し、微細セルロース繊維粉末を得る工程を有する、微細セルロース繊維粉末の製造方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維粉末を製造する方法であり、
微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維及び水を含む乾燥体を得る乾燥工程を有し、
前記乾燥工程において、凍結乾燥、晶析及び真空乾燥、並びにスプレードライから選択される少なくとも1種の乾燥が行われ、
前記乾燥工程により得られた前記乾燥体を乾式粉砕機により粉砕し、微細セルロース繊維粉末を得る工程を有する、微細セルロース繊維粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微細セルロース繊維粉末、及び微細セルロース繊維粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高まりからバイオマス由来材料の実用化を目指した検討が世界中で展開されている。例えば木質(木材チップ)から取り出されるセルロースの多くは紙として人々の生活と、CO2固定化の両方に大きく貢献している。
【0003】
塗料・コーティング・化粧品業界におけるバイオマス由来材料の活用機運が高まっている。さらには、これらの業界で使用される原材料の製造においてもバイオマス由来材料の活用機運が高まっている。また、これらの分野を始めとする多くの分野において、安全性やクオリティーオブライフの観点から、人体に悪影響な有機溶剤を水系溶剤に変更することが求められている。
【0004】
セルロースの中でもセルロースナノファイバーは、多くの分野で利用されている、又は利用することが望まれている。セルロースナノファイバーはセルロースの繊維をナノサイズにまで解繊したバイオマス由来の化合物であり、水に良分散し、分散液を乾燥させることで容易に透明なナノセルロース膜を得る事ができる。また、樹脂やゴムと混合させると強度・柔軟性・伸び率の向上といった各種物性の向上につながり、環境適合型の新材料として着目されており、様々な提案が従来から行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(以下、TEMPO)等のN-オキシル化合物を酸化触媒として用いて、セルロースを変性することにより得られた微細セルロース繊維が開示されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、平均繊維幅が2~50nmの微細繊維状セルロースと、液状化合物とを含む微細繊維状セルロース凝集物が開示されている。特許文献2では、実施例2-1において、微細繊維状セルロースとしてリン酸基を導入した微細繊維状セルロースが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、微細セルロース繊維含有乾燥固形物の製造方法が開示されており、該製造方法では、パルプを化学的に処理する化学処理工程、該化学処理工程後のパルプを平均繊維幅が1nm~1000nmの微細セルロース繊維に微細化する微細化処理工程等が必須の工程として開示されている。また、特許文献3では、パルプ繊維を構成するセルロースの水酸基の一部にスルホ基を導入する工程が、必須の工程として開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-1728号公報
【特許文献2】国際公開2014/024876号
【特許文献3】特開2020-97812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的にセルロースナノファイバーは繊維長が数百nmから最大数10μmであり、繊維幅が1nmから数100nmの繊維である。しかしながら、これまでのセルロースナノファイバーの産業界への適用には、処方設計の自由度や保管・輸送に多くの課題があった。
【0010】
従来はセルロースナノファイバー水分散液を一度乾燥し、セルロースナノファイバー粉末として得た場合には、セルロースナノファイバー粉末を再度別の水系組成物中に分散させること、及び樹脂等の材料中に均一に分散させることが困難であった。さらに、セルロースナノファイバー水分散液では、セルロースナノファイバーの濃度を高くすることが困難であった。このため、従来のセルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーの濃度が低濃度、例えば0.5~2wt%程度の水分散液として、販売、使用等されることが多かった。このため、セルロースナノファイバー水分散液は、大半が水により構成され、体積及び重量が大きくなり、輸送や保管において、大掛かりな設備が必要であった。また、従来のセルロースナノファイバーは、塗料や化粧品等の組成物に添加する際に、セルロースナノファイバー量を増加させるためには、同時に添加される水の量、すなわち分散媒としての水の量が増えるため、水の量が増えることによる不具合、例えば組成物の粘度特性や、濃度バランス等が大きく崩れるという不具合があり、処方設計の自由度が低いという問題があった。
【0011】
特許文献1に開示された微細セルロース繊維、特許文献2に開示されたリン酸基を導入した微細繊維状セルロースであっても、粉末化させた後に、水に再分散させることは困難であった。
【0012】
特許文献3に開示された微細セルロース繊維含有乾燥固形物は、水への再分散は可能であったが、本発明者らの検討によると、微細セルロース繊維をナノレベルで分散させるためには、分散処理時間が長時間必要であったり、高圧ホモジナイザー等の大掛かりな装置が必要であったり、未だ十分な分散性を有する物ではなかった。
【0013】
また、従来のセルロースナノファイバー水分散液は、水を多量に含むため、保管時に雑菌が繁殖するリスクがあった。このため従来のセルロースナノファイバー水分散液には、防腐剤等の添加材が添加されていることがあったが、セルロースナノファイバーの用途によっては防腐剤の添加は好ましくなかった。さらに特許文献3に開示された微細セルロース繊維含有乾燥固形物では、再分散を可能にするため、微細セルロース繊維以外の成分(例えば分散剤)を用いた態様が開示されているが、セルロースナノファイバーの用途によっては分散剤の添加は好ましくなかった。
【0014】
そこで、本開示の目的は、容易に水等に分散させることが可能な、微細セルロース繊維粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、特定の微細セルロース繊維粉末であれば、上記課題を解決することができることを見出し、本開示に至った。
【0016】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0017】
(1) 微細セルロース繊維と、水とを含む微細セルロース繊維粉末であり、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm~1000nmであり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下であり、
前記粉末のメジアン径が、800μm以下であり、
前記粉末の水分率が50質量%以下である、微細セルロース繊維粉末。
【化1】
(一般式(1)において、nは1~3の整数であり、M
n+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)
(2) 前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度が、500mPa・S以上である、(1)に記載の微細セルロース繊維粉末。
(3) 前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度及び26rpmで測定される粘度から求めたチキソトロピックインデックス(TI値)が、3~30である、(1)又は(2)に記載の微細セルロース繊維粉末。
(4) 前記一般式(1)におけるM
n+が、ナトリウムイオン(Na
+)である、(1)~(3)のいずれかに記載の微細セルロース繊維粉末。
(5) 前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の全光線透過率が、96%以上である、(1)~(4)のいずれかに記載の微細セルロース繊維粉末。
(6) 前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液のヘイズ値が、20%以下である、(1)~(5)のいずれかに記載の微細セルロース繊維粉末。
(7) (1)~(6)のいずれかに記載の微細セルロース繊維粉末を水に分散する工程を有する、微細セルロース繊維水分散液の製造方法。
(8) (7)に記載の製造方法で得られた微細セルロース繊維水分散液を成膜する工程を有する、フィルムの製造方法。
(9) (1)~(6)のいずれかに記載の微細セルロース繊維粉末を製造する方法であり、
微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維及び水を含む乾燥体を得る乾燥工程を有し、
前記乾燥工程において、凍結乾燥、晶析及び真空乾燥、並びにスプレードライから選択される少なくとも1種の乾燥が行われる、微細セルロース繊維粉末の製造方法。
(10) (1)~(6)のいずれかに記載の微細セルロース繊維粉末を製造する方法であり、
微細セルロース繊維及び水を含む乾燥体を乾式粉砕機により粉砕し、微細セルロース繊維粉末を得る工程を有する、微細セルロース繊維粉末の製造方法。
(11) (1)~(6)のいずれかに記載の微細セルロース繊維粉末を製造する方法であり、
微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維及び水を含む乾燥体を得る乾燥工程を有し、
前記乾燥工程において、凍結乾燥、晶析及び真空乾燥、並びにスプレードライから選択される少なくとも1種の乾燥が行われ、
前記乾燥工程により得られた前記乾燥体を乾式粉砕機により粉砕し、微細セルロース繊維粉末を得る工程を有する、微細セルロース繊維粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本開示により、容易に水等に分散させることが可能な、微細セルロース繊維粉末を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態の一態様は、微細セルロース繊維と、水とを含む微細セルロース繊維粉末であり、前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm~1000nmであり、前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下であり、前記粉末のメジアン径が、800μm以下であり、前記粉末の水分率が50質量%以下である、微細セルロース繊維粉末である。
【0020】
本実施形態の微細セルロース繊維粉末は、容易に水等に分散させることが可能である。また、水等に分散させた後の安定性に優れ、液分離が発生しづらい。本実施形態の微細セルロース繊維粉末は、容易に水等に分散するため、分散液ではなく、粉末として組成物中に配合できるため、処方設計の自由度が高く、また、分散剤を用いる必要が無い。さらに、粉末は、水を多量に含む分散液ではないため、輸送及び保管が容易であり、水分量が少ない粉末として保管可能であるため、防腐剤を用いる必要もない。このため、本実施形態の微細セルロース繊維粉末は、塗料・コーティング・化粧品業界を始めとする様々な分野で使用することが可能である。
【0021】
以下、本実施形態について、詳細に説明する。
【0022】
(微細セルロース繊維)
本実施形態の微細セルロース繊維粉末は、微細セルロース繊維を含有する。なお、一般的なセルロース(未変性セルロース)は、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合した多糖類であり、(C6H10O5)nで示されるが、本実施形態における微細セルロース繊維は、硫酸エステル基を有することからも明らかなように、変性されたセルロースから構成される繊維である。
【0023】
微細セルロース繊維の平均繊維幅は、1nm~1000nmであり、1nm~100nmであることが好ましく、2nm~10nmであることがより好ましい。微細セルロース繊維の平均繊維長は、特に制限はないが、通常は0.1μm~6μmであり、0.1μm~2μmであることが好ましい。
【0024】
平均繊維幅及び平均繊維長は、例えば原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維幅(繊維径(円相当直径))及び繊維長を計測し、それぞれ加算平均値をとることで測定することができる。平均繊維幅及び平均繊維長は硫酸等の試薬の濃度、反応溶液に対するパルプの量、反応時間を調整することにより、所望の範囲に設定することができる。
【0025】
微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有する。なお、微細セルロース繊維を、硫酸エステル化セルロースナノファイバーとも記す。微細セルロース繊維は、通常は繊維を構成するセルロース中のOH基の一部を、一般式(1)で表される硫酸エステル基で置換することにより、硫酸エステル基が導入されている。微細セルロース繊維は、例えば、実施例で示したように、原料パルプを硫酸エステル化及び解繊することにより製造することができる。
【0026】
【化2】
(一般式(1)において、nは1~3の整数であり、M
n+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)
【0027】
Mn+としては、水素イオン(H+)、金属イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。nが2又は3の場合、Mn+は、2つ又は3つの-OSO3
-との間でイオン結合を形成する。
【0028】
金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、その他の金属イオンが挙げられる。
【0029】
ここで、アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、ルビジウムイオン(Rb+)、セシウムイオン(Cs+)等が挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)等が挙げられる。遷移金属イオンとしては、鉄イオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、銅イオン、銀イオン等が挙げられる。その他の金属イオンとしては、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン等が挙げられる。
【0030】
アンモニウムイオンとしては、NH4
+だけでなく、NH4
+の1つ以上の水素原子が有機基に置き換わってできる各種アミン由来のアンモニウムイオンも挙げられる。アンモニウムイオンとしては、例えば、NH4
+、第四級アンモニウムカチオン、アルカノールアミンイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。
【0031】
Mn+としては、微細セルロース繊維粉末の各用途における加工性の観点から、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、又は第四級アンモニウムカチオンが好ましく、ナトリウムイオン(Na+)であることが特に好ましい。上記一般式(1)で表される硫酸エステル基が有するMn+としては1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0032】
微細セルロース繊維が、繊維を構成するセルロース中のOH基の一部を、一般式(1)で表される硫酸エステル基で置換することにより、硫酸エステル基が導入されている場合には、波線は前記OH基が結合していた炭素原子への結合部位である。
【0033】
微細セルロース繊維は、上記一般式(1)で表される硫酸エステル基の他に、他の置換基を有していてもよい。ここで、微細セルロース繊維が、上記一般式(1)で表される硫酸エステル基以外の基、すなわち、他の置換基を有する場合、他の置換基は通常微細セルロース繊維を構成するセルロース中のOH基の少なくとも1つと置換されている。他の置換基としては、例えば、特に限定されないが、アニオン性置換基及びその塩、エステル基、エーテル基、アシル基、アルデヒド基、アルキル基、アルキレン基、アリール基、これらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。他の置換基が2種以上の組み合わせの場合、それぞれの置換基の含有比率は限定されない。他の置換基としては、中でも、ナノ分散性の観点からアニオン性置換基及びその塩、又はアシル基が好ましい。アニオン性置換基及びその塩としては、特にカルボキシ基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、ザンテート基が好ましい。アニオン性置換基が塩の形態である場合、ナノ分散性の観点からナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩が特に好ましい。また特に好ましいアシル基としては、ナノ分散性の観点からアセチル基が好ましい。
【0034】
微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下である。硫酸エステル基導入量は、前記範囲内で、用途等に応じて任意の適切な値に設定することができる。微細セルロース繊維の、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量は、微細セルロース繊維1g当たりの硫黄含有率(mmol)で表すことができる。硫黄導入量は、0.4mmol/g以上、2.5mmol/g以下であることが好ましく、0.8mmol/g以上、2.0mmol/g以下であることがより好ましい。硫黄導入量が前記範囲内であると、乾燥後の高い水分散性の観点から好ましい。
【0035】
硫黄導入量は、例えば実施例で記載した燃焼吸収-イオンクロマトグラフィー(IC)法(燃焼吸収-IC法、燃焼IC法)により求めることができる。硫黄導入量は、例えばパルプを解繊する際に用いる溶液(解繊溶液)中の硫酸等の試薬の濃度、解繊溶液に対するパルプの量、反応時間、反応温度等を制御することにより、調整することができる。
【0036】
(微細セルロース繊維粉末)
本実施形態の微細セルロース繊維粉末は、微細セルロース繊維と、水とを含む。微細セルロース繊維粉末は、微細セルロース繊維及び水以外の成分を含んでいてもよいが、微細セルロース繊維及び水のみから形成されていてもよい。微細セルロース繊維は、水に溶解することが通常無いため、微細セルロース繊維粉末が、微細セルロース繊維及び水のみから形成される場合には、前記粉末及び水から調製された微細セルロース繊維水分散液における固形分とは、微細セルロース繊維を意味し、固形分濃度と、微細セルロース繊維の濃度とは実質的に同義であり、固形分質量と、微細セルロース繊維の質量とは実質的に同義である。
【0037】
微細セルロース繊維粉末の水分率は、50質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。また、水分率は1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。水分率が高いほど容易に水に分散させることができる。一方で水分率が低いほど輸送及び保管が容易であり、水分量を増やすことなく、組成物等に配合することができるため、処方設計の自由度が高く好ましい。本発明において水としては、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水、精製水及び天然水が挙げられ、水道水、イオン交換水、蒸留水、精製水が好ましく、イオン交換水、蒸留水、精製水がより好ましい。
【0038】
微細セルロース繊維粉末の水分率は、例えばJIS P8203に準拠して、求めることができる。
【0039】
微細セルロース繊維粉末に含まれる微細セルロース繊維の量としては、通常は50質量%以上であり、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。また、微細セルロース繊維の量は99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
微細セルロース繊維粉末のメジアン径は、800μm以下であり、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。また、メジアン径は10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。メジアン径が前記範囲内であると、水への分散性が高く、粉塵爆発防止および粉末飛散を抑止してハンドリングが可能であるという観点から好ましい。
【0041】
微細セルロース繊維粉末のメジアン径は、例えばレーザ回折・散乱法の規格ISO 13320及びJIS Z 8825に準拠した乾式粒度分布計を用いて測定することができる。
【0042】
微細セルロース繊維粉末は、微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度が、500mPa・S以上であることが好ましく、1000mPa・S以上であることがより好ましく、5000mPa・S以上であることが特に好ましい。また、2.6rpmで測定される粘度が50000mPa・S以下であることが好ましく、40000mPa・S以下であることがより好ましい。なお、2.6rpmは、粘度の測定に用いられる粘度計(例えばB型粘度計)の回転数を意味する。
【0043】
なお、微細セルロース繊維の濃度とは、微細セルロース繊維粉末の濃度とは異なる概念である。すなわち、微細セルロース繊維の濃度とは、微細セルロース繊維粉末中に含まれる、微細セルロースに着目した際の濃度である。例えば、微細セルロース繊維粉末が、微細セルロース繊維及び水のみを含み、水分率が25質量%である場合、微細セルロース繊維粉末を0.4g秤量し、99.6gの水と混合することにより、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液を100g調製することができる。
【0044】
微細セルロース繊維粉末は、微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の25℃における2.6rpmで測定される粘度及び26rpmで測定される粘度から求めたチキソトロピックインデックス(TI値)が、3~30であることが好ましく、4~20であることがより好ましく、5~15であることが特に好ましい。なお、2.6rpm及び26rpmはそれぞれ、粘度の測定に用いられる粘度計(例えばB型粘度計)の回転数を意味する。また、TI値は下記式より算出することができる。
TI値=(2.6rpmで測定される粘度)/(26rpmで測定される粘度)
【0045】
微細セルロース繊維粉末は、前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の全光線透過率が、96%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。全光線透過率は、通常は100%未満である。
【0046】
微細セルロース繊維粉末は、前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液のヘイズ値が、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
【0047】
微細セルロース繊維粉末が、微細セルロース繊維及び水以外の成分を含む場合には、例えば添加物を含んでいてもよい。添加物としては無機添加物であってもよく、有機添加物であってもよい。
【0048】
無機添加物としては、例えば無機微粒子が挙げられる。無機微粒子の例として、シリカ、マイカ、タルク、クレー、カーボン、炭酸塩(例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム)、酸化物(例えば酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄)、セラミックス(例えばフェライト)、又はこれらの混合物の微粒子が挙げられる。無機微粒子は例えば微細セルロース繊維粉末中に、0.09~5質量%の範囲内の量で含まれていてもよい。
【0049】
有機添加物としては、例えば、樹脂及びゴムからなる群から選択される少なくとも1種の物質が挙げられる。樹脂及びゴムとしては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂(例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、アクリルアミド樹脂、シリコーン樹脂、天然ゴム、合成ゴムが挙げられる。また、微細セルロース繊維粉末は、有機添加物として、機能性化合物を含んでもよい。機能性化合物としては、色素、UV吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤が挙げられる。有機添加物は例えば微細セルロース繊維粉末中に、0.09~5質量%の範囲内の量で含まれていてもよい。
【0050】
微細セルロース繊維粉末は、微細セルロース繊維及び水以外の成分を含んでいてもよいが、微細セルロース繊維粉末が、微細セルロース繊維及び水のみから形成されることが、好ましい態様の一つである。なお、微細セルロース繊維及び水のみから形成されるとは、微細セルロース繊維及び水の合計量が微細セルロース繊維粉末の100質量%を占める場合だけでなく、微細セルロース繊維粉末が、微細セルロース繊維及び水を含み、それ以外の成分が意図的に添加されていない場合も含まれる。すなわち、不純物として、微細セルロース繊維及び水以外の成分が微細セルロース繊維粉末に含まれる場合にも、微細セルロース繊維及び水のみから形成される微細セルロース繊維粉末に該当する。すなわち、微細セルロース繊維及び水のみから形成される微細セルロース繊維粉末とは、実質的に微細セルロース繊維及び水のみから形成される微細セルロース繊維粉末を包含する概念である。なお、実質的に微細セルロース繊維及び水のみから形成される微細セルロース繊維粉末とは、例えば、微細セルロース繊維粉末100質量%中に、微細セルロース繊維及び水を合計で99質量%以上含む態様が挙げられる。
【0051】
本実施形態の微細セルロース繊維粉末は、例えば微細セルロース繊維水分散液として、各種用途に使用可能である。本実施形態の微細セルロース繊維水分散液としては、例えば、微細セルロース繊維粉末が水に分散された、微細セルロース繊維水分散液が挙げられる。言い換えると本発明には、一実施形態として、微細セルロース繊維粉末を水に分散する工程を有する、微細セルロース繊維水分散液の製造方法が含まれる。
【0052】
微細セルロース繊維水分散液には、水以外の成分が含まれていてもよい。水以外の成分としては、例えば、塗料・コーティング・化粧品業界等で、水系組成物に配合される各種成分を用いることができる。微細セルロース繊維粉末は、容易に水に分散するため、分散剤を用いることなく、微細セルロース繊維水分散液として、微細セルロース繊維が均一に分散した組成物を得ることができる。また、従来の微細セルロース繊維は、低濃度の水分散液として流通することが通常であったため、水系組成物と混合する際に、微細セルロース繊維と共に、多量の水が水系組成物中に添加されることになり、処方設計の自由度が低かったが、微細セルロース繊維粉末は、直接水系組成物と混合することが可能であるため、処方設計の自由度が高く好ましい。
【0053】
微細セルロース繊維水分散液は、その用途に応じて、適宜使用することができるが、例えば、塗料やコーティングの分野においては、成膜することにより、フィルムを形成することができる。本実施形態のフィルムとしては、例えば微細セルロース繊維水分散液を成膜して作製された、フィルムが挙げられる。言い換えると本発明には、一実施形態として、微細セルロース繊維水分散液を成膜する工程を有する、フィルムの製造方法が含まれる。フィルム(塗膜)の厚さとしては、特に制限はなく、その用途に応じて適宜設定することができる。本実施形態のフィルムは、微細セルロース繊維の分散性に優れる、微細セルロース繊維水分散液から得られるため、フィルムにおいても微細セルロース繊維の凝集が抑制されており好ましい。
【0054】
(微細セルロース繊維粉末の製造方法)
前述の微細セルロース繊維粉末を製造する方法としては特に制限はないが、例えば、水や水以外の分散媒を含む微細セルロース繊維の分散液を乾燥させる工程及び粉末化工程を経て得る事ができる。水以外の分散媒としては、ジメチルスルホキシド、アルコールやポリオール等の極性有機溶媒、また4級アンモニウム化合物等のイオン液体が挙げられるが、分散媒としては、水又は水と有機溶媒との混合溶媒を用いることが好ましく、安全性等の観点から水を用いることが好ましい。
【0055】
水や水以外の分散媒を含む微細セルロース繊維の分散液を調製する方法としては特に制限はないが、例えば実施例に記載の方法により、セルロースの繊維をナノサイズにまで解繊する際に、硫酸エステル基を導入し、精製を行い、水に分散することにより得ることができる。
【0056】
微細セルロース繊維の分散液から分散媒を除去(乾燥)することにより、微細セルロース繊維の乾燥体を得ることができる。乾燥方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、凍結乾燥、スプレードライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、晶析法、真空乾燥を挙げることができる。乾燥装置は、特に限定されないが、コニカル乾燥装置、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤー乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。乾燥方法としては、微細セルロース繊維を損傷させにくく、さらに粉末化させやすいポーラスな乾燥体を得ることができる理由から、凍結乾燥、晶析及び真空乾燥(晶析法と真空乾燥との組み合わせ)、スプレードライを行うのが好ましい。
【0057】
本発明において、微細セルロース繊維粉末とは、微細セルロース繊維、例えば、セルロースナノファイバー等の微細なセルロース繊維、が水と共に凝集した粉末を意味し、化粧品等の分野で使用されているセルロース粒子を意味するものではない。微細セルロース繊維粉末は、乾燥体を必要に応じて粉砕、好ましくは乾式粉砕機によって粉砕することにより得ることができる。
【0058】
ある実施形態、すなわち微細セルロース繊維粉末の製造方法の実施形態A、である前述の微細セルロース繊維粉末を製造する方法として、微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維及び水を含む乾燥体を得る乾燥工程を有し、前記乾燥工程において、凍結乾燥、晶析及び真空乾燥、並びにスプレードライから選択される少なくとも1種の乾燥が行われる、微細セルロース繊維粉末の製造方法が挙げられる。分散液の分散媒としては、少なくとも水が用いられ、水又は水と有機溶媒との混合溶媒を用いることが好ましく、安全性等の観点から水を用いることがより好ましい。本実施形態では、予め微細セルロース繊維の水分散液を調製する。該水分散液を特定の方法で乾燥することにより、微細セルロース繊維及び水を含む乾燥体を得ることができる。なお、乾燥体を、通常は粉砕することにより、微細セルロース繊維粉末を得ることができる。微細セルロース繊維の水分散液における微細セルロース繊維の濃度としては、特に制限はないが、通常は0.1~50質量%であり、好ましくは0.5~10質量%である。
【0059】
別の実施形態、すなわち微細セルロース繊維粉末の製造方法の実施形態B、である前述の微細セルロース繊維粉末を製造する方法として、微細セルロース繊維及び水を含む乾燥体を乾式粉砕機により粉砕し、微細セルロース繊維粉末を得る工程を有する、微細セルロース繊維粉末の製造方法が挙げられる。本実施形態では、予め微細セルロース繊維及び水を含む乾燥体を調製する。該乾燥体の調製方法としては、特に制限はないが、上述の実施形態Aにより調製する方法が好ましい。すなわち、実施形態Aと、実施形態Bを組み合わせた、以下の実施形態Cが、好ましい実施形態の一つである。
【0060】
微細セルロース繊維粉末の製造方法の実施形態Cである前述の微細セルロース繊維粉末を製造する方法として、微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維及び水を含む乾燥体を得る乾燥工程を有し、前記乾燥工程において、凍結乾燥、晶析及び真空乾燥、並びにスプレードライから選択される少なくとも1種の乾燥が行われ、前記乾燥工程により得られた前記乾燥体を乾式粉砕機により粉砕し、微細セルロース繊維粉末を得る工程を有する、微細セルロース繊維粉末の製造方法があげられる。
【実施例0061】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
ジメチルスルホキシド(DMSO)150g、無水酢酸16.5g(解繊溶液における濃度:14質量%)及び硫酸3.35g(解繊溶液における濃度:1.87質量%)を300mlのサンプル瓶に入れ、23℃の室温下で磁性スターラーを用いて約30秒撹拌し、解繊溶液を調製した。
【0063】
次いで、解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)5.0gを加え、23℃の室温下でさらに120分撹拌した。撹拌後、セルロースを含む解繊溶液に蒸留水を250ml加えて反応を停止させ、続いて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで加え、硫酸を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。なお、遠心分離の速度は12000rpm、遠心分離時間は50分であった。
【0064】
さらに蒸留水1350mlとエタノール1350mlを加えて均一分散するまで撹拌した後、同じ遠心条件で遠心分離して上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。遠心分離により洗浄した後に蒸留水を加え、全体の重さが1000gになるまで希釈した。
【0065】
次に、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.5質量%の均一な硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維の水分散液1000gを得た。続いて、得られた微細セルロース繊維の水分散液を、凍結乾燥機(FDU-2110、東京理化器械製)を用いて72時間乾燥させることで微細セルロース繊維乾燥体5gを得た。
【0066】
同様の操作を計3回行うことで微細セルロース繊維乾燥体15gを得た。続いて、微細セルロース繊維乾燥体15gを乾式粉砕機(ワンダーブレンダー WB1、大阪ケミカル製)で3分間処理することで微細セルロース繊維粉末である試料No.1を得た。なお、実験器具に対して、使用前の滅菌処理は行わなかった。
【0067】
[実施例2]
乾式粉砕機での処理時間を3分間から2分間に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.2を得た。
【0068】
[実施例3]
乾式粉砕機での処理時間を3分間から1.5分間に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.3を得た。
【0069】
[実施例4]
乾式粉砕機での処理時間を3分間から1分間に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.4を得た。
【0070】
[実施例5]
解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)5.0gを加えた際の攪拌時間を120分から30分に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.5を得た。
【0071】
[実施例6]
解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)5.0gを加えた際の攪拌時間を120分から180分に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.6を得た。
【0072】
[実施例7]
凍結乾燥機を用いた乾燥を、72時間から48時間に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.7を得た。
【0073】
[実施例8]
凍結乾燥機を用いた乾燥を、72時間から24時間に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.8を得た。
【0074】
[実施例9]
5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を、5質量%の水酸化カリウム水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.9を得た。
【0075】
[実施例10]
5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を、5質量%の水酸化カルシウム水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.10を得た。
【0076】
[実施例11]
実施例1と同様の方法で、0.5質量%の均一な硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維の水分散液1000gを得た。微細セルロース繊維の水分散液1000gにメタノール3000gを加えて、2時間攪拌する事で微細セルロース繊維の晶析を行った。
【0077】
晶析工程で得られた微細セルロース繊維沈殿物を含む分散液を遠心分離機で処理して上澄みを除去し、微細セルロース繊維沈殿物を得た。なお遠心分離の速度は12000rpm、遠心分離時間は50分であった。
【0078】
続いて、微細セルロース繊維沈殿物をビーカーに取り出し、ビーカーごと真空乾燥機(AVO-200V、アズワン製)を用い、40℃、24時間真空乾燥を行い、微細セルロース繊維乾燥体5gを得た。
【0079】
同様の操作を計3回行うことで微細セルロース繊維乾燥体15gを得た。続いて、微細セルロース繊維乾燥体15gを乾式粉砕機(ワンダーブレンダー WB1、大阪ケミカル製)で3分間処理することで微細セルロース繊維粉末である試料No.11を得た。
【0080】
[実施例12]
実施例1と同様の方法で、0.5質量%の均一な硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維の水分散液1000gを得た。微細セルロース繊維の水分散液1000gを、スプレードライヤー(シバタ製、Mini Spray Dryers, Model B-290)を用い、入口温度160℃で乾燥させ、微細セルロース繊維乾燥体5gを得た。
【0081】
同様の操作を計3回行うことで微細セルロース繊維乾燥体15gを得た。続いて、微細セルロース繊維乾燥体15gを乾式粉砕機(ワンダーブレンダー WB1、大阪ケミカル製)で1分間処理することで微細セルロース繊維粉末である試料No.12を得た。
【0082】
[比較例1]
乾式粉砕機での処理時間を3分間から30秒間に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.13を得た。
【0083】
[比較例2]
乾式粉砕機での処理時間を3分間から10秒間に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.14を得た。
【0084】
[比較例3]
実施例1と同様の方法で、0.5質量%の均一な硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維の水分散液1000gを得た。微細セルロース繊維の水分散液1000gを、ビーカーのまま熱風乾燥機(LC-114、エスペック製)に入れ、40℃で120時間乾燥させ、フィルム状の微細セルロース繊維乾燥体である試料No.15を得た。
【0085】
[比較例4]
凍結乾燥機を用いた微細セルロース繊維の水分散液の乾燥時間を72時間から18時間に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維粉末である試料No.16を得た。
【0086】
[比較例5]
尿素15g、リン酸二水素ナトリウム二水和物8.3g、及びリン酸水素二ナトリウム6.2gを、水16.4gに溶解させて、リン酸化試薬を調製した。
【0087】
乾燥状態の針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)の抄上げシートを、カッターミル及びピンミルで処理し、綿状繊維を得た。絶乾質量15gの綿状繊維にリン酸化試薬をまんべんなくスプレーし、手で練り合わせて含浸パルプを得た。140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機で含浸パルプを80分間加熱処理した。以上の処理により、リン酸化パルプを得た。
【0088】
15gのリン酸化パルプに1.5Lのイオン交換水を加えて、均一に分散するまで撹拌した後、分散液をろ過脱水した。得られたシートと1.5Lのイオン交換水を均一に分散するまで撹拌し、分散液をろ過脱水した。得られたシートをもう一回同様に処理した。次いで、得られたシートと1.5Lのイオン交換水を撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12~13のパルプスラリーを得た。このパルプスラリーを脱水して、シートを得た。シートと1.5Lのイオン交換水を均一に分散するまで撹拌し、分散液をろ過脱水した。得られたシートをさらに二回、同様に処理した。得られたシートとイオン交換水を混合して0.5質量%のリン酸化パルプを含むスラリーを得た。
【0089】
0.5質量%のリン酸化パルプを含むスラリーを、解繊処理装置(クレアミックス-11S、エム・テクニック株式会社製)を用いて、6900回転/分の条件で180分間解繊処理した。続いてイオン交換水を添加してスラリーの固形分濃度を0.5質量%に調整し、リン酸エステル化された微細セルロース繊維の水分散液を得た。
【0090】
続いて、得られた微細セルロース繊維の水分散液を凍結乾燥機(FDU-2110、東京理化器械製)に入れ、72時間乾燥させることでリン酸エステル化された微細セルロース繊維乾燥体15gを得た。
【0091】
リン酸エステル化された微細セルロース繊維乾燥体15gを乾式粉砕機(ワンダーブレンダー WB1、大阪ケミカル製)で3分間処理することでリン酸エステル化された微細セルロース繊維粉末である試料No.17を得た。なお、実験器具に対して、使用前の滅菌処理は行わなかった。
【0092】
[比較例6]
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(TEMPO)0.38mmol及び臭化ナトリウム30mmolを水に溶解させて、750mLの水溶液を得た。この水溶液に、絶対乾燥状の態針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)15gを加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。混合物の温度を20℃にした後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)96mmolを添加して酸化反応を開始させた。反応中、反応系の温度を20℃に保ち、3N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加することによりpHを10に維持した。3時間反応させた後、結果物をガラスフィルターでろ過し、ろ物を十分に水洗した。それにより、酸化処理されたパルプを得た。
【0093】
酸化処理されたパルプにイオン交換水を酸化処理されたパルプに添加してスラリーの固形分濃度を0.5質量%に調整し、超高圧ホモジナイザーを用いてこのスラリーを140MPaで3回処理し、TEMPO酸化された微細セルロース繊維の水分散液を得た。続いて、得られた微細セルロース繊維の水分散液を、凍結乾燥機(FDU-2110、東京理化器械製)に入れ、72時間乾燥させることでTEMPO酸化された微細セルロース繊維乾燥体15gを得た。
【0094】
続いて、TEMPO酸化された微細セルロース繊維乾燥体15gを乾式粉砕機(ワンダーブレンダー WB1、大阪ケミカル製)で3分間処理することでTEMPO酸化された微細セルロース繊維粉末である試料No.18を得た。なお、実験器具に対して、使用前の滅菌処理は行わなかった。
【0095】
[水分率]
実施例、比較例で得た試料の水分率は、試料作製完了後24h以内に以下の方法で求めた。
水分率(質量%)は、JIS P8203に準拠して、試料の質量に対する水分量で表すことができる。つまり、水分率(質量%)は、下記式から求めることができる。
水分率(質量%)=((試料の質量-試料の固形分質量)/試料の質量)×100
(試料の質量は、測定に供した試料の質量(g)を意味する。試料の固形分質量は、測定に供した試料と同量の試料を105℃の雰囲気下で2時間、恒量になるまで乾燥させた後に残った固形物の質量(g)を意味する。)
【0096】
[平均繊維幅]
実施例、比較例で得た試料中の微細セルロース繊維の平均繊維幅は、原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維幅を計測し、加算平均値をとることで測定した。なお、評価サンプルは以下の方法で調製したものを用いた。
【0097】
微細セルロース繊維が3gとなるように試料を秤量し、試料を、試料との合計が1000gになるように秤量した蒸留水に加え、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.3質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液(微細セルロース繊維水分散液)を得た。続いて、高圧分散処理機である高圧ホモジナイザー(M-110EH-30、Microfluidics社製)に200μm補助処理モジュールおよび87μmインターアクションチャンバーを取り付け、200MPa条件下で3パス処理する事で、高分散処理を行った。続いて、高分散処理後の0.3質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液1.0gに蒸留水149.0gを加え、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.002質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液を得た。続いて天然マイカ(天然白雲母)基板(15mm×15mm×厚さ0.15mm)にマイクロピペットで0.002質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液を30μL滴下し、0.5時間自然乾燥する事で評価サンプルを得た。
【0098】
[メジアン径]
実施例、比較例で得た試料のメジアン径は、以下の方法で求めた。
レーザ回折・散乱法の規格ISO 13320及びJIS Z 8825に準拠した乾式粒度分布計(マイクロトラック MT-3000、マイクロトラック・ベル社製)を用い、粒子径を測定した。続いて、測定した粒度分布の積算値が50%となる値であるメジアン径(X50)を求めた。
【0099】
[置換基導入量]
実施例、比較例で得た試料中の微細セルロース繊維の置換基導入量は、以下の方法で求めた。
試料No.1~No.16については、置換基導入量として、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量(mmol/g)を求め、試料No.17については、置換基導入量として、リン酸エステル基に起因するリン導入量(mmol/g)を求め、試料No.18については、置換基導入量として、カルボキシル基に起因するカルボキシル基導入量(mmol/g)を求めた。
【0100】
試料中の微細セルロース繊維の硫黄導入量は、日本ダイオネクス株式会社製のICS-1500を用いた燃焼吸収-IC法により定量した。磁性ボードに乾燥した微細セルロース繊維(0.01g)を入れ、酸素雰囲気(流量:1.5L/分)環状炉(1350℃)にて燃焼させ、発生したガス成分を3%過酸化水素水(20ml)に吸収させて吸収液を得た。得られた吸収液を純水で100mlにメスアップし、希釈液をイオンクロマトグラフィーに供した。測定結果から微細セルロース繊維中の硫酸イオン濃度(重量%)を測定し、微細セルロース繊維1gあたりの硫黄導入量(mmol/g)を算出した。なお、乾燥した微細セルロース繊維は、試料を105℃の雰囲気下で、恒量になるまで乾燥させることにより得た。
【0101】
試料No.17中の微細セルロース繊維のリン導入量は、アルカリ滴定により測定した。具体的には以下のように実施した。前処理として、試料No.17を、固形分濃度が0.2質量%になるように純水で希釈した後、スラリーに対して10体積%の強酸性イオン交換樹脂を混合し1時間振とうし、目開きが90μmメッシュの金網にてスラリーのみを分離した。
【0102】
上記前処理により分離したスラリーを使用して、アルカリ滴定を行なった。アルカリ滴定には、濃度は0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を使用した。具体的には、アルカリ滴下毎に電気伝導度を測定し、そのアルカリ滴定量と電気伝導度のプロットから変極点の滴定量を読み取り、その値を測定に供した試料No.17中の微細セルロース繊維の質量(固形分質量)で除することで、リン導入量を算出した。なお、リン酸基には強酸性基と弱酸性基が存在し、これに起因して変極点が2点存在するが、本実験では強酸性基量をリン酸基量、すなわちリン導入量として表記した。
【0103】
試料No.18中の微細セルロース繊維のカルボキシ基導入量は、アルカリ滴定により測定した。具体的には以下のように実施した。乾燥重量を精秤したセルロース試料から0.5~1重量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行った。測定はpHが約11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式を用いてカルボキシル基の官能基量を決定した。
カルボキシル基官能基量(mmol/g)=V(ml)×0.05/セルロースの質量(g)
【0104】
実施例及び比較例で得た試料中の微細セルロース繊維の種類、平均繊維幅、置換基導入量、陽イオンの種類、試料のメジアン径、水分率、乾燥法を表1、2に示す。なお、表1、2においては、硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維を、硫酸エステル化CNFと記す。また、表2において、リン酸エステル化された微細セルロース繊維を、リン酸エステル化CNFと記し、TEMPO酸化された微細セルロース繊維を、TEMPO酸化CNFと記す。
【0105】
【0106】
【0107】
[微細セルロース繊維水分散液の作製]
実施例、比較例で得た試料を用いて、微細セルロース繊維水分散液を作製した。
前記水分率に基づき、微細セルロース繊維が0.3gとなるように試料を秤量し、試料を、試料との合計が100gになるように秤量した蒸留水に加え、ミキサー(G5200、 Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.3質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液(微細セルロース繊維水分散液-1)を得た。
【0108】
[粘度]
実施例、比較例で得た試料から作製された微細セルロース繊維水分散液-1の粘度は、以下の条件で脱泡及び24時間静置した後、B型粘度計を用いて、粘度測定開始後(回転開始後)10分の時点の粘度を記録(N=3)し、平均値を算出することにより求めた。
【0109】
微細セルロース繊維水分散液100gを脱泡装置(泡とり練太郎ARE-310、シンキー製)で10秒間脱泡処理し、24時間静置した。続いてB型粘度計(DV-II+、Brookfield社製)を用いて、回転数2.6rpmで粘度測定を行い、測定開始後(回転開始後)10分の時点の粘度を記録した。同様の方法で別に調整した計3つの微細セルロース繊維水分散液の粘度測定を記録(N=3)し、その3回の平均値を微細セルロース繊維水分散液の粘度(回転数2.6rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度)とした。なお、測定は水分散液の温度が25℃となる環境で実施した。
【0110】
微細セルロース繊維水分散液100gを脱泡装置(泡とり練太郎ARE-310、シンキー製)で10秒間脱泡処理し、24時間静置した。続いてB型粘度計(DV-II+、Brookfield社製)を用いて、回転数26rpmで粘度測定を行い、測定開始後(回転開始後)10分の時点の粘度を記録した。同様の方法で別に調整した計3つの微細セルロース繊維水分散液の粘度測定を記録(N=3)し、その3回の平均値を微細セルロース繊維水分散液の粘度(回転数26rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度)とした。なお、測定は水分散液の温度が25℃となる環境で実施した。
【0111】
回転数2.6rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度及び回転数26rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度から、下記式に基づきチキソトロピックインデックス(TI値)を算出した。
TI値=(回転数2.6rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度)/(回転数26rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度)
【0112】
[透過率]
実施例、比較例で得た試料から作製された微細セルロース繊維水分散液-1の透過率を以下の方法で測定した。
【0113】
微細セルロース繊維水分散液2mLを測定セルに投入し、透過率計(UV-2600、島津製作所製)を用い、波長600nmにおける、平行線透過率、拡散光線透過率及び全光線透過率を測定した。
【0114】
[ヘイズ]
前記[透過率]の項で記載した方法により求めた拡散光線透過率及び全光線透過率を用い、下記式に基づきヘイズ値を計算することにより、波長600nmにおけるヘイズ値を求めた。なお、波長600nmにおけるヘイズ値を単にヘイズとも記す。
ヘイズ値=(拡散光線透過率/全光線透過率)×100
【0115】
[微細セルロース繊維水分散液-2の作製]
実施例、比較例で得た試料を用いて、微細セルロース繊維水分散液-2を作製した。
前記水分率に基づき、微細セルロース繊維が1.0gとなるように試料を秤量し、試料を、試料との合計が100gになるように秤量した蒸留水に加え、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより1.0質量%の微細セルロース繊維の水分散液(微細セルロース繊維水分散液-2)を得た。
【0116】
[液分離安定性]
実施例、比較例で得た試料から作製された微細セルロース繊維水分散液-2の液分離安定性を以下の方法で測定した。
【0117】
ウレタン系水性塗料であるファインウレタンU100(日本ペイント株式会社製、固形分52%)46.7gと、1.0質量%の微細セルロース繊維の水分散液(微細セルロース繊維水分散液-2)20.0gとを攪拌機(あわとり練太郎ARE-310、シンキー製)で3分間処理し、微細セルロース繊維の固形分濃度が0.3質量%である液分離安定性の評価液を調整した。続いて以下の基準で液分離安定性を評価した。
◎:上澄みが60日経過時点で未発生
〇:上澄みが30日以上、60日未満経過で発生
△:上澄みが10日以上、30日未満経過で発生
×:上澄みが10日未満経過で発生
【0118】
[膜中の微細セルロース繊維凝集物抑制]
150mLの実施例、比較例で得た試料から作製された微細セルロース繊維水分散液-1を内寸10cm×10cm×5cmの樹脂製容器に流し込み、10日間自然乾燥させることによりS-CNF膜を得た。続いて、S-CNF膜を光学顕微鏡(VHX-8000、キーエンス製)を用いて任意の10か所で500μm×500μm範囲における観察を行い、以下の基準で膜中の微細セルロース繊維凝集物抑制を評価した。
◎:20μm以上の微細セルロース繊維凝集物が0個
〇:20μm以上の微細セルロース繊維凝集物が1個以上、3個未満
△:20μm以上の微細セルロース繊維凝集物が3個以上、5個未満
×:20μm以上の微細セルロース繊維凝集物が5個以上
【0119】
[カビ耐性]
実施例、比較例で得た試料(微細セルロース繊維粉末)のカビ耐性を以下の方法で評価した。
【0120】
試料5gを30mLバイアル瓶に入れて密栓した。各試料を入れたバイアル瓶は30℃、60%RHの恒温恒湿槽(LHL-114、エスペック製)に3か月間静置した。3か月経過後、バイアル瓶から試料をシャーレに取り出し、光学顕微鏡観察を行いカビ等の菌類に由来するコロニー発生の有無を確認し、以下の基準でカビ耐性評価をした。
〇:直径0.3mm以上のカビ等の菌類に由来するコロニーが発生無し
×:直径0.3mm以上のカビ等の菌類に由来するコロニーが発生有り
【0121】
実施例及び比較例で得た試料を用いた微細セルロース繊維水分散液の各物性、液分離安定性の評価結果、膜中の微細セルロース繊維凝集物の評価結果、及びカビ耐性の評価結果を、表3、4に示す。なお、表3、4においては、微細セルロース繊維水分散液をCNF水分散液と記し、回転数2.6rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度を、粘度 2.6rpmと記し、回転数26rpmにおける微細セルロース繊維水分散液の粘度を、粘度 26rpmと記し、微細セルロース繊維凝集物をCNF凝集物と記す。
【0122】
【0123】
【0124】
実施例で得られた試料を用いた水分散液は、液分離安定性に優れ、膜中の微細セルロース繊維凝集物の発生が抑制されており、且つ試料のカビ耐性にも優れていた。また、微細セルロース繊維粉末は容易に水に分散させることが可能であるため、微細セルロース繊維水分散液は、2.6rpmで測定される粘度が高く、TI値が大きい傾向にあり、また、透過率が高く、ヘイズが低い傾向があった。
【0125】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。また、本願において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値及び上限値として含む。
【0126】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液の全光線透過率が、96%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維粉末。
前記微細セルロース繊維粉末を、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.3質量%の水分散液のヘイズ値が、20%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維粉末。