(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066711
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】マイクロ波加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/74 20060101AFI20230509BHJP
H05B 6/80 20060101ALI20230509BHJP
H05B 6/64 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
H05B6/74 E
H05B6/80 Z
H05B6/64 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177468
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】須田 保
(72)【発明者】
【氏名】浦山 健一朗
【テーマコード(参考)】
3K090
【Fターム(参考)】
3K090AA02
3K090AB20
3K090BB18
(57)【要約】
【課題】本開示は、マイクロ波加熱用の空洞共振器が、中心軸上に磁界が集中する励振モードで励振されるときに、マイクロ波加熱対象の収容容器での加熱効率が、マイクロ波発生器での供給電力に対して向上することを目的とする。
【解決手段】本開示は、マイクロ波加熱用の空洞共振器31と、マイクロ波加熱対象の収容容器32と、を備え、空洞共振器31は、中心軸上に磁界が集中する励振モードで励振され、収容容器32は、空洞共振器31の中心軸上に配置され、空洞共振器31は、中心軸と平行方向に側面311上にスリットを形成されることを特徴とするマイクロ波加熱装置3である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波加熱用の空洞共振器と、マイクロ波加熱対象の収容容器と、を備え、
前記空洞共振器は、中心軸上に磁界が集中する励振モードで励振され、
前記収容容器は、前記空洞共振器の前記中心軸上に配置され、
前記空洞共振器は、前記中心軸と平行方向に側面上にスリットを形成される
ことを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【請求項2】
前記空洞共振器は、天板及び床板として、スリットを形成されない平板を採用される
ことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
前記空洞共振器は、前記励振モードとして、TM11モードを採用される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のマイクロ波加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空洞共振器を用いるマイクロ波加熱技術に関する。
【背景技術】
【0002】
空洞共振器を用いるマイクロ波加熱技術は、マイクロ波加熱した触媒を用いて、エタノールを反応させ水素を発生させ、水素を燃料電池に供給し、入力電力より大きい出力電力を取得する用途等に適用されている(例えば、特許文献1等を参照。)。
【0003】
特許文献1では、空洞共振器は、中心軸上に電界が集中するTM01モードで励振される。そして、マイクロ波加熱対象の収容容器は、空洞共振器の中心軸上に配置され、反応物質を流入され生成物質を流出する。よって、マイクロ波加熱対象が、誘電体であるときに、収容容器での反応効率は、マイクロ波発生器での供給電力に対して最大となる。そして、励振モードの電磁界強度分布は、単調に変化する単純な分布となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、特許文献1では、空洞共振器は、中心軸上に電界が集中するTM01モードで励振される。よって、マイクロ波加熱対象が、誘電体ではなく導電体又は磁性体であるときに、収容容器での反応効率は、マイクロ波発生器での供給電力に対して低下する。
【0006】
解決手段では、空洞共振器は、中心軸上に磁界が集中するTM11モードで励振される。そして、マイクロ波加熱対象の収容容器は、空洞共振器の中心軸上に配置され、反応物質を流入され生成物質を流出する。よって、マイクロ波加熱対象が、導電体又は磁性体であるときに、収容容器での反応効率は、マイクロ波発生器での供給電力に対して向上する。そして、励振モードの電磁界強度分布は、高次モードのうちの最も単純な分布となる。
【0007】
とはいえ、特許文献1では、マイクロ波加熱対象が、誘電体であるときに、収容容器での反応効率は、マイクロ波発生器での供給電力に対して最大となることと比べて、解決手段では、マイクロ波加熱対象が、導電体又は磁性体であるときに、収容容器での反応効率は、マイクロ波発生器での供給電力に対してあまり向上しておらず、その原因は不明である。
【0008】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、マイクロ波加熱用の空洞共振器が、中心軸上に磁界が集中する励振モードで励振されるときに、マイクロ波加熱対象の収容容器での加熱効率が、マイクロ波発生器での供給電力に対して向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題の原因を追究するために、空洞共振器が、側面、天板及び床板として、通常の板材の構造を採用されるときに、中心軸上に磁界が集中する励振モードの電流分布を計算した。すると、側面、天板及び床板の一部において、電流密度が高いため、渦電流損が大きく、消費電力が大きく、マイクロ波加熱対象の収容容器での加熱効率が低下する。
【0010】
ここで、空洞共振器が、側面、天板及び床板として、線材の網目格子状の構造を採用されるときに、中心軸上に磁界が集中する励振モードの電流分布を計算した。すると、側面の一部において、電流密度が高いところ、中心軸方向の電流密度は高いが、円周方向の電流密度は低い。一方で、天板及び床板の一部において、電流密度が高いところ、電流密度が高い方向が、円周方向と直径方向のいずれであるかは、一概に言えない。
【0011】
そこで、空洞共振器が、側面として、線材のスリット状の構造(線材は中心軸方向のみに配置。)に代替されるときに、中心軸上に磁界が集中する励振モードの電流分布を計算した。すると、空洞共振器が、側面、天板及び床板として、線材の網目格子状の構造を採用されるときの、中心軸上に磁界が集中する励振モードの電流分布とほぼ同様になる。
【0012】
そして、空洞共振器が、側面として、線材のスリット状の構造(線材は中心軸方向のみに配置。)に代替されるときの、中心軸上に磁界が集中する励振モードの電磁界強度分布は、空洞共振器が、側面、天板及び床板として、通常の板材の構造を採用されるときの、中心軸上に磁界が集中する励振モードの電磁界強度分布とほぼ同様になる。
【0013】
そこで、前記課題を解決するために、空洞共振器は、側面として、線材のスリット状の構造(線材は中心軸方向のみに配置。)を採用される。すると、側面の一部において、電流密度が高くても、円周方向の電流が阻止され、二次元面内の渦電流が阻止され、渦電流損が小さく、消費電力が小さく、マイクロ波加熱対象の収容容器での加熱効率が向上する。
【0014】
具体的には、本開示は、マイクロ波加熱用の空洞共振器と、マイクロ波加熱対象の収容容器と、を備え、前記空洞共振器は、中心軸上に磁界が集中する励振モードで励振され、前記収容容器は、前記空洞共振器の前記中心軸上に配置され、前記空洞共振器は、前記中心軸と平行方向に側面上にスリットを形成されることを特徴とするマイクロ波加熱装置である。
【0015】
この構成によれば、マイクロ波加熱用の空洞共振器が、中心軸上に磁界が集中する励振モードで励振されるときに、側面がスリット状であることで、マイクロ波加熱対象の収容容器での加熱効率が、マイクロ波発生器での供給電力に対して向上することができる。
【0016】
また、本開示は、前記空洞共振器は、天板及び床板として、スリットを形成されない平板を採用されることを特徴とするマイクロ波加熱装置である。
【0017】
この構成によれば、マイクロ波加熱用の空洞共振器が、中心軸上に磁界が集中する励振モードで励振されるときに、天板及び床板が平板状であっても、マイクロ波加熱対象の収容容器での加熱効率が、マイクロ波発生器での供給電力に対して向上することができる。
【0018】
また、本開示は、前記空洞共振器は、前記励振モードとして、TM11モードを採用されることを特徴とするマイクロ波加熱装置である。
【0019】
この構成によれば、マイクロ波加熱対象が、導電体又は磁性体であるときに、収容容器での反応効率が、マイクロ波発生器での供給電力に対して最大とすることができる。そして、励振モードの電磁界強度分布が、高次モードのうちの最も単純な分布とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本開示は、マイクロ波加熱用の空洞共振器が、中心軸上に磁界が集中する励振モードで励振されるときに、マイクロ波加熱対象の収容容器での加熱効率が、マイクロ波発生器での供給電力に対して向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示のマイクロ波加熱システムの構成を示す図である。
【
図2】本開示のマイクロ波加熱装置の構成を示す図である。
【
図3】比較例のTM11モードの電磁界強度分布を示す図である。
【
図4】比較例のTM11モードの電流分布を示す図である。
【
図5】比較例のTM11モードの電流分布を示す図である。
【
図6】本開示のTM11モードの電流分布を示す図である。
【
図7】本開示のTM11モードの電磁界強度分布を示す図である。
【
図8】本開示の空洞共振器の側面、天板及び床板の構成を示す図である。
【
図9】本開示の空洞共振器の側面、天板及び床板の構成を示す図である。
【
図10】比較例及び本開示のマイクロ波加熱システムの特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0023】
(本開示のマイクロ波加熱システムの構成)
本開示のマイクロ波加熱システムの構成を
図1に示す。本開示のマイクロ波加熱システムMは、マイクロ波発生器1、整合器2及びマイクロ波加熱装置3を備える。本開示のマイクロ波加熱装置の構成を
図2に示す。本開示のマイクロ波加熱装置3は、マイクロ波加熱用の空洞共振器31、マイクロ波加熱対象の収容容器32、空洞共振器31の励振器33及び励振器33の給電線34を備える。空洞共振器31及び収容容器32については、本開示で説明する。励振器33及び給電線34については、特許文献1を参照する。
【0024】
空洞共振器31は、中心軸上に磁界が集中する励振モードで励振される。本開示では、励振モードとして、TM11モードを採用されているが、変形例として、他の高次モードを採用されてもよい。収容容器32は、空洞共振器31の中心軸上に配置され、反応物質を流入され生成物質を流出する。よって、マイクロ波加熱対象が、導電体又は磁性体であるときに、収容容器32での反応効率は、マイクロ波発生器1での供給電力に対して最大となる。そして、励振モードの電磁界強度分布は、高次モードのうちの最も単純な分布となる。以下では、空洞共振器31の中心軸に平行な方向をZ軸方向とする。
【0025】
ここで、空洞共振器31は、中心軸と平行方向に側面上にスリットを形成される。一方で、空洞共振器31は、天板及び床板として、スリットを形成されない平板を採用される。よって、空洞共振器31が、中心軸上に磁界が集中するTM11モードで励振されるときに、収容容器32での加熱効率が、マイクロ波発生器1での供給電力に対して向上することができる。以下に、比較例の課題を説明した後に、本開示の長所を説明する。
【0026】
(比較例の空洞共振器の側面、天板及び床板の構成)
比較例のTM11モードの電磁界強度分布を
図3に示す。
図3では、空洞共振器31が、側面、天板及び床板として、通常の板材の構造を採用される。
図3の左欄では、中心軸上において、電界強度が低い。
図3の右欄では、中心軸上において、磁界が集中する。
【0027】
比較例のTM11モードの電流分布を
図4に示す。
図4でも、空洞共振器31が、側面、天板及び床板として、通常の板材の構造を採用される。すると、側面、天板及び床板の一部において、電流密度が高いため、渦電流損が大きく、消費電力が大きく、収容容器32での加熱効率が低下する。ただし、電流密度が高い/低い方向は、示されていない。
【0028】
比較例のTM11モードの電流分布を
図5にも示す。
図5では、空洞共振器31が、側面、天板及び床板として、線材の網目格子状の構造を採用される。すると、側面の一部において、電流密度が高いところ、Z軸方向の電流密度は高いが、円周方向の電流密度は低い。一方で、天板及び床板の一部において、電流密度が高いところ、電流密度が高い方向が、円周方向と直径方向のいずれであるかは、一概に言えない。
【0029】
(本開示の空洞共振器の側面、天板及び床板の構成)
本開示のTM11モードの電流分布を
図6に示す。
図6では、空洞共振器31が、側面として、線材のスリット状の構造(線材はZ軸方向のみに配置。)に代替される。すると、空洞共振器31が、側面、天板及び床板として、線材の網目格子状の構造を採用されるときの、比較例のTM11モードの電流分布とほぼ同様になる。
【0030】
本開示のTM11モードの電磁界強度分布を
図7に示す。
図7でも、空洞共振器31が、側面として、線材のスリット状の構造(線材はZ軸方向のみに配置。)に代替される。すると、空洞共振器31が、側面、天板及び床板として、通常の板材の構造を採用されるときの、比較例のTM11モードの電磁界強度分布とほぼ同様になる。
【0031】
そこで、
図6及び
図7に示したように、空洞共振器31は、側面として、線材のスリット状の構造(線材はZ軸方向のみに配置。)を採用される。すると、側面の一部において、電流密度が高くても、円周方向の電流が阻止され、二次元面内の渦電流が阻止され、渦電流損が小さく、消費電力が小さく、収容容器32での加熱効率が向上する。
【0032】
本開示の空洞共振器の側面、天板及び床板の構成を
図8に示す。空洞共振器31は、側面311の全面において、線材のスリット状の構造(線材はZ軸方向のみに配置。)を採用される。一方で、空洞共振器31は、天板312及び床板313において、通常の板材の構造を採用される。ここで、空洞共振器31は、側面311の全面において、渦電流を阻止するとともに、不要放射を抑圧するために、線材のスリット状の隙間を狭くする(線材の直径を大きくする又は線材の本数を多くする。)ことが望ましい。
【0033】
本開示の空洞共振器の側面、天板及び床板の構成を
図9にも示す。空洞共振器31は、側面311のうちの電流密度の高い部分において、線材のスリット状の構造(線材はZ軸方向のみに配置。)を採用される。一方で、空洞共振器31は、側面311のうちの電流密度の低い部分において、通常の板材の構造を採用される。そして、空洞共振器31は、天板312及び床板313において、通常の板材の構造を採用される。
【0034】
なお、空洞共振器31は、天板312及び床板313において、渦電流を阻止するとともに、不要放射を抑圧するように、線材の構造を採用されてもよい。ただし、空洞共振器31が、天板312及び床板313において、通常の板材の構造を採用されるときでも、不要放射を抑圧するのみならず、渦電流を十分に阻止することができる。
【0035】
(比較例及び本開示のマイクロ波加熱システムの特性)
比較例及び本開示のマイクロ波加熱システムの特性を
図10に示す。マイクロ波加熱用のマイクロ波周波数は、2.45GHzであり、空洞共振器31は、TM01モード(中心軸上に電界が集中。)又はTM11モード(中心軸上に磁界が集中。)で励振される。空洞共振器31は、アルミ筐体であり、収容容器32は、石英管である。マイクロ波加熱対象の誘電体は、比誘電率ε
r=3及び誘電正接tanδ=0.01を有する。マイクロ波加熱対象の導電体(カーボン)は、導電率σ=4×10
4S/mを有する。
【0036】
図10の第1の比較例として、空洞共振器31が、TM01モードで励振され、通常の板材の構造を採用され、マイクロ波加熱対象が、誘電体である場合を示す。入力電力が、100Wであるときに、空洞共振器31での消費電力は、26.900Wであり、収容容器32での消費電力は、わずかな電力であり、誘電体への加熱電力は、63.630Wであり、収容容器32での加熱効率が、十分に高くなっている。
【0037】
図10の第2の比較例として、空洞共振器31が、TM11モードで励振され、通常の板材の構造を採用され、マイクロ波加熱対象が、誘電体である場合を示す。入力電力が、100Wであるときに、空洞共振器31での消費電力は、91.549Wであり、収容容器32での消費電力は、わずかな電力であり、誘電体への加熱電力は、0.344Wであり、収容容器32での加熱効率が、かなり低くなっている。
【0038】
図10の第3の比較例として、空洞共振器31が、TM11モードで励振され、通常の板材の構造を採用され、マイクロ波加熱対象が、導電体(カーボン)である場合を示す。入力電力が、100Wであるときに、空洞共振器31での消費電力は、40.779Wであり、収容容器32での消費電力は、わずかな電力であり、導電体(カーボン)への加熱電力は、47.346Wであり、収容容器32での加熱効率が、十分には高くない。
【0039】
図10の本開示として、空洞共振器31が、TM11モードで励振され、線材のスリット状の構造を採用され、マイクロ波加熱対象が、導電体(カーボン)である場合を示す。入力電力が、100Wであるときに、空洞共振器31での消費電力は、2.612Wであり、収容容器32での消費電力は、わずかな電力であり、導電体(カーボン)への加熱電力は、54.824Wであり、収容容器32での加熱効率が、十分に高くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本開示のマイクロ波加熱装置は、マイクロ波加熱した触媒を用いて、エタノールを反応させ水素を発生させ、水素を燃料電池に供給し、入力電力より大きい出力電力を取得する用途等のように、マイクロ波加熱を用いる様々な用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
M:マイクロ波加熱システム
1:マイクロ波発生器
2:整合器
3:マイクロ波加熱装置
31:空洞共振器
32:収容容器
33:励振器
34:給電線
311:側面
312:天板
313:床板