(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066749
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】溶接継手、溶接継手の製造方法、自動車部品、及び建材部品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230509BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20230509BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20230509BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20230509BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20230509BHJP
B23K 35/30 20060101ALN20230509BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/38
B23K9/173 A
B23K9/16 J
B23K9/00 501C
B23K9/00 501B
B23K35/30 320A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177531
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】松葉 正寛
(72)【発明者】
【氏名】石田 欽也
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001CA01
4E001EA08
4E081YX03
4E081YX13
(57)【要約】
【課題】電着塗装不良を抑制し、且つ、スケール密着性を高めることができる溶接継手、自動車部品、及び建材部品、並びに溶接継手の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る溶接継手は、第1の鋼板と、第2の鋼板と、第1の鋼板の端部及び第2の鋼板の第1面を接合する溶接ビードと、溶接ビードの周囲に形成され、第2の鋼板の第2面において第2の鋼板の外部に露出するHAZと、第2の鋼板の第2面において、HAZに付着したスケールと、を備え、第1の鋼板のSi含有量が0~0.20質量%であり、第2の鋼板のSi含有量が0.20~1.20質量%であり、溶接ビードの面積に対する、溶接ビードに付着したスラグの面積の割合が9%以下であり、溶接ビードの溶け込み深さが第2の鋼板の板厚に対し15%以上85%以下であり、第2の鋼板の第2面においてHAZから検出される、ファイアライトをさらに備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の鋼板と、
第2の鋼板と、
前記第1の鋼板の端部及び前記第2の鋼板の第1面を接合する溶接ビードと、
前記溶接ビードの周囲に形成され、前記第2の鋼板の第2面において前記第2の鋼板の外部に露出するHAZと、
前記第2の鋼板の前記第2面において、前記HAZに付着したスケールと、
を備え、
前記第1の鋼板のSi含有量が0~0.20質量%であり、
前記第2の鋼板のSi含有量が0.20~1.20質量%であり、
前記溶接ビードの面積に対する、前記溶接ビードに付着したスラグの面積の割合が9%以下であり、
前記溶接ビードの溶け込み深さが、前記第2の鋼板の板厚に対し15%以上85%以下であり、
前記第2の鋼板の前記第2面においてX線結晶構造解析を行うことによって前記HAZから検出される、ファイアライトをさらに備える
溶接継手。
【請求項2】
前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とが重ねられた、重ね隅肉溶接継手であることを特徴とする請求項1に記載の溶接継手。
【請求項3】
前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とがなす角度が80°~100°である、T継手であることを特徴とする請求項1に記載の溶接継手。
【請求項4】
前記第1の鋼板、前記第2の鋼板、前記溶接ビード、前記HAZ、前記スラグ、及び前記スケールを覆う電着塗膜をさらに備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の溶接継手。
【請求項5】
塗装不良面積率が7%以下であることを特徴とする請求項4に記載の溶接継手。
【請求項6】
第1の鋼板の端部と、第2の鋼板の第1面とをガスシールドアーク溶接して、溶接ビードを形成する工程を備える溶接継手の製造方法であって、
前記第1の鋼板のSi含有量が0~0.20質量%であり、
前記第2の鋼板のSi含有量が0.20~1.20質量%であり、
前記溶接ビードの周囲に形成されるHAZが、前記第2の鋼板の第2面において前記第2の鋼板の外部に露出し、
前記溶接ビードの溶け込み深さが、前記第2の鋼板の板厚に対し15%以上85%以下であり、
前記ガスシールドアーク溶接のために用いられるシールドガスにおける酸化性ガスの割合が10%以下である
溶接継手の製造方法。
【請求項7】
前記シールドガスにおける酸化性ガスの割合が5%以下であることを特徴とする請求項6に記載の溶接継手の製造方法。
【請求項8】
前記ガスシールドアーク溶接の後で、前記第1の鋼板、前記第2の鋼板、前記溶接ビード、前記HAZ、スラグ、及びスケールに電着塗装する工程をさらに備えることを特徴とする請求項6又は7に記載の溶接継手の製造方法。
【請求項9】
前記ガスシールドアーク溶接の際に、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とを重ね合わせることを特徴とする請求項6~8のいずれか一項に記載の溶接継手の製造方法。
【請求項10】
前記ガスシールドアーク溶接の際に、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とがなす角度を80°~100°とすることを特徴とする請求項6~8のいずれか一項に記載の溶接継手の製造方法。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載の溶接継手を備える自動車部品。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか一項に記載の溶接継手を備える建材部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接継手、溶接継手の製造方法、自動車部品、及び建材部品に関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造部品、例えば自動車部品及び建材部品の耐食性を向上させる手段として、電着塗装がある。電着塗装とは、電着塗料が入ったタンクの中に被塗物及び電極を入れ、両者の間に電位差を生じさせ、塗膜成分を電気泳動させる事により、被塗物の表面に塗膜を析出させる塗装方法である。
【0003】
しかしながら、機械構造部品が溶接部を有する場合、溶接部に形成されるスラグ及びスケールが、部品の耐食性を劣化させることがある。スラグとは、溶接ビードを部分的又は全体的に覆っている非金属物質のことである。スラグは、母材鋼板及び溶接材料が溶融凝固して溶接ビードが形成される際に、溶接ビードから排出される酸化物等から構成される。スケールとは、溶接熱によって金属の表面に生じる酸化被膜のことである。スケールは溶接ビードおよびその周辺の熱影響部(Heat Affected Zone/HAZ)に形成される。
【0004】
一般的に、スラグの導電性は低い傾向にある。そのため、スラグが付着した溶接部を電着塗装すると、スラグが付着した箇所においては塗膜が析出しない。その結果、溶接部には、塗膜が形成されずスラグおよび下地金属が露出した箇所が生じる。即ち、スラグは電着塗装不良の原因となる。
【0005】
スケールは、電着塗装不良の原因とはなりにくい。しかしながら、スケールが付着した溶接部を電着塗装すると、下地金属と塗膜との間にスケールと化成皮膜が配されることとなる。一般的にスケールは下地金属から剥がれ易い。そのため、スケールが塗膜と共に下地金属から剥離する恐れがある。
【0006】
塗装不良が生じた領域、及びスケール密着性が損なわれた領域のいずれにおいても、電着塗膜による耐食性向上効果が得られない。このような領域では、赤錆が容易に生成及び成長し、腐食進行による減肉が生じ、部品の機械特性が損なわれる。従って、溶接部における塗装不良率の低減、及びスケール密着性の向上が求められている。
【0007】
特許文献1では、複数枚の薄鋼板をガスシールドアーク溶接により接合するためのガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤであって、ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.05~0.20%、Si:0.01~0.18%、Mn:1.0~3.0%、Ti:0.06~0.25%、Al:0.003~0.10%、B:0~0.0100%、P:0超~0.015%、S:0超~0.015%、及び任意元素を含み、残部が鉄及び不純物からなり、Si×Mn≦0.30及び(Si+Mn/5)/(Ti+Al)≦3.0を満たし、さらにCeqが0.40~0.90%であるソリッドワイヤが開示されている。
【0008】
特許文献2では、Arを92~99.5体積%含有するシールドガスを用いて、引張強度が780MPa以上の鋼板を溶接するためのガスシールドアーク溶接方法であって、前記シールドガス中のAr含有量(体積%)をCAr、前記シールドガスを供給するノズルの内径(mm)をD、溶接速度(cm/min)をv、溶接電流(A)をI、としたとき、式(1)により算出される値が0.20以上であることを特徴とする、ガスシールドアーク溶接方法が開示されている。
{√v/(D/2)2}×10-{(100-CAr)×I/v}×0.1 ・・・(1)
【0009】
特許文献3では、鋼材に溶接して鋼製溶接構造物を得る工程と、EDTA又はその塩を含有する酸性溶液に鋼製溶接構造物を浸漬させる鋼製溶接構造物の洗浄方法により前記鋼製溶接構造物を洗浄する工程とを備える鋼製溶接構造物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2021-3732号公報
【特許文献2】特開2020-66036号公報
【特許文献3】特開2018-21227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示された技術においては、溶接ビードの表面に発生するスラグを導電性スラグとすることにより、溶接部の電着塗装不良を抑制している。しかしながら、特許文献1には、熱影響部の表面に形成されたスケールに起因するスケール密着性の低下を解決する手段が開示されていない。
【0012】
特許文献2に開示された技術においては、溶接ビード上に膜状に均一に生成される酸化被膜にスラグを埋没させ、さらにスラグ生成量を減少させることにより、溶接部の電着塗装不良を抑制している。しかしながら、特許文献2には、熱影響部の表面に形成されたスケールに起因するスケール密着性の低下を解決する手段が開示されていない。
【0013】
特許文献3に開示された技術においては、化成処理前の鋼製溶接構造物を洗浄してスケールを除去することによって、その耐食性を向上させている。しかしながら、スケールを除去するための洗浄工程は、機械構造部品の生産性を低下させ、製造コストを増大させる。
【0014】
以上の事情に鑑みて、本発明は、電着塗装不良を抑制し、且つ、スケール密着性を高めることができる溶接継手、自動車部品、及び建材部品、並びに溶接継手の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0016】
(1)本発明の一態様に係る溶接継手は、第1の鋼板と、第2の鋼板と、前記第1の鋼板の端部及び前記第2の鋼板の第1面を接合する溶接ビードと、前記溶接ビードの周囲に形成され、前記第2の鋼板の第2面において前記第2の鋼板の外部に露出するHAZと、前記第2の鋼板の前記第2面において、前記HAZに付着したスケールと、を備え、前記第1の鋼板のSi含有量が0~0.20質量%であり、前記第2の鋼板のSi含有量が0.20~1.20質量%であり、前記溶接ビードの面積に対する、前記溶接ビードに付着したスラグの面積の割合が9%以下であり、前記溶接ビードの溶け込み深さが、前記第2の鋼板の板厚に対し15%以上、85%以下であり、前記第2の鋼板の前記第2面においてX線結晶構造解析を行うことによって前記HAZから検出される、ファイアライトをさらに備える。
(2)上記(1)に記載の溶接継手は、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とが重ねられた重ね隅肉溶接継手であってもよい。
(3)上記(1)に記載の溶接継手は、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とが直角に配置されたT継手であってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の溶接継手は、前記第1の鋼板、前記第2の鋼板、前記溶接ビード、前記HAZ、前記スラグ、及び前記スケールを覆う電着塗膜をさらに備えてもよい。
(5)上記(4)に記載の溶接継手では、塗装不良面積率が7%以下であってもよい。
【0017】
(6)本発明の別の態様に係る溶接継手の製造方法は、第1の鋼板の端部と、第2の鋼板の第1面とをガスシールドアーク溶接して、溶接ビードを形成する工程を備える溶接継手の製造方法であって、前記第1の鋼板のSi含有量が0~0.20質量%であり、前記第2の鋼板のSi含有量が0.20~1.20質量%であり、前記溶接ビードの周囲に形成されるHAZが、前記第2の鋼板の第2面において前記第2の鋼板の外部に露出し、前記溶接ビードの溶け込み深さが、前記第2の鋼板の板厚に対し15%以上85%以下であり、前記ガスシールドアーク溶接のために用いられるシールドガスにおける酸化性ガスの割合が10%以下である。
(7)上記(6)に記載の溶接継手の製造方法では、前記シールドガスにおける酸化性ガスの割合が5%以下であってもよい。
(8)上記(6)又は(7)に記載の溶接継手の製造方法は、前記ガスシールドアーク溶接の後で、前記第1の鋼板、前記第2の鋼板、前記溶接ビード、前記HAZ、スラグ、及びスケールに電着塗装する工程をさらに備えてもよい。
(9)上記(6)~(8)のいずれか一項に記載の溶接継手の製造方法では、前記ガスシールドアーク溶接の際に、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とを重ね合わせてもよい。
(10)上記(6)~(8)のいずれか一項に記載の溶接継手の製造方法では、前記ガスシールドアーク溶接の際に、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とがなす角度を80°~100°としてもよい。
【0018】
(11)本発明の別の態様に係る自動車部品は、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の溶接継手を備える。
(12)本発明の別の態様に係る建材部品は、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の溶接継手を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電着塗装不良を抑制し、且つ、スケール密着性を高めることができる溶接継手、自動車部品、及び建材部品、並びに溶接継手の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る重ね隅肉溶接継手の、溶接線に垂直な断面図である。
【
図2】本実施形態に係るT継手の、溶接線に垂直な断面図である。
【
図3】本実施形態に係る重ね隅肉溶接継手の斜視図である。
【
図4】溶接直後、及び化成処理後の溶接継手a~cの第2の鋼板の第2面の写真である。
【
図5】電着塗装直後、及び剥離試験後の溶接継手a~cの第2の鋼板の第2面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一態様に係る溶接継手について、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る溶接継手1は、
図1又は
図2に示されるように、第1の鋼板11と、第2の鋼板12と、第1の鋼板11の端部111及び第2の鋼板12の第1面121を接合する溶接ビード13と、溶接ビード13の周囲に形成され、第2の鋼板12の第2面122に露出するHAZ14と、溶接ビード13の表面に付着したスラグ15と、第2の鋼板12の第2面122のHAZ14に付着したスケール16と、を有する。
【0022】
(溶接継手1の形状について)
本実施形態に係る溶接継手1は、
図1に例示される重ね隅肉溶接継手であってもよい。溶接継手1が重ね溶接継手1である場合、第1の鋼板11と第2の鋼板12とは重ねられている。換言すると、第1の鋼板11と第2の鋼板との挟角の大きさは例えば0°~10°の範囲内である。また、本実施形態に係る溶接継手1は、
図2に例示されるT継手であってもよい。溶接継手1がT継手である場合、第1の鋼板11と第2の鋼板12とは実質的に直角に配される。例えば、溶接継手1がT継手である場合、第1の鋼板11と第2の鋼板12とがなす角度は80°~100°の範囲内であってもよい。もっとも、第1の鋼板11と第2の鋼板12とがなす角度は特に限定されず、0°以上180°以下の種々の値をこれに適用することができる。
【0023】
いずれの場合であっても、本実施形態に係る溶接継手1においては、一方の鋼板の端部が、他方の鋼板の表面に溶接された形状を有する。以下、便宜上、本実施形態に係る溶接継手1においては、端部が溶接される鋼板を第1の鋼板11と称し、表面が溶接される鋼板を第2の鋼板12と称する。また、第2の鋼板12の2つの表面のうち、第1の鋼板11と溶接される方の表面を第1面121と称し、第1の鋼板11と溶接されない方の表面を第2面122と称する。
【0024】
溶接継手1は、第1の鋼板11の端部111及び第2の鋼板12の第1面121を接合する溶接ビード13を有する。溶接ビード13とは、溶接中に溶融凝固した金属のことである。さらに溶接継手1は、溶接ビード13の周囲に形成されたHAZ14を有する。HAZ14(熱影響部、Heat Affected Zone)とは、溶接中に溶融していないが、溶接熱によって組織、冶金的性質、及び機械的性質等が変化した部分のことである。以下、溶接ビード13及びHAZ14をまとめて「溶接部」と称する場合がある。
【0025】
本実施形態に係る溶接継手1において、HAZ14は、第2の鋼板12の第2面122において、第2の鋼板12の外部に露出している。さらに、第2の鋼板12の第2面122において、HAZ14の表面にはスケール16が付着している。スケール16とは、溶接熱によって金属の表面に生じる酸化被膜のことである。
図3に示されるように、第2の鋼板12を溶接ビード13の裏側から見ると、溶接熱によって変色した箇所を視認することができる。この変色部が、スケール16が付着した部分である。
【0026】
なお、溶接時の入熱を小さくすることによって、HAZ14を小さくして、第2の鋼板12の外部に露出させないようにすることも可能である。これにより、第2の鋼板12の第2面122に生じるスケール16の量を減少させ、スケールの密着性を向上させ、電着塗膜を保持することができる。ただし、この場合、溶接金属の溶け込み深さが不足して、溶接継手1の接合強度が確保されないおそれがある。そのため、本実施形態に係る溶接継手1は、HAZ14が第2の鋼板12の第2面122まで及ぶ程度の入熱量を適用した溶接によって製造される。
【0027】
(第1の鋼板11について)
第1の鋼板11は、そのSi含有量が0~0.20質量%とされる。鋼板中に含まれるSiは、溶接中に酸素と結びついて酸化物を形成し、スラグ15として溶接ビード13の外側に排出される。Si酸化物は非晶質のため導電性が低く、Si酸化物を多く含むスラグ15は電着不良を招く。第1の鋼板11のSi含有量を0.20質量%以下とすることにより、溶接ビード13に付着するスラグ15の量を低減することができる。第1の鋼板11のSi含有量を0.18質量%以下、0.15質量%以下、又は0.12質量%以下としてもよい。
【0028】
一方、第1の鋼板11のSi含有量が低いほど、溶接スラグ内のSi含有量を抑えることに加え、そのスラグの量を低減することができる。そのため、第1の鋼板11のSi含有量は0質量%にすることが望ましい。しかし、精錬コストを考慮して、第1の鋼板11のSi含有量を0.02質量%以上、0.05質量%以下、又は0.08質量%以上としてもよい。
【0029】
Si含有量が上述の範囲内である限り、第1の鋼板11の厚さは特に限定されない。第1の鋼板11の厚さは、例えば1mm以上、2mm以上、又は4mm以上であってもよい。第1の鋼板11の厚さは、例えば8mm以下、6mm以下、又は4mm以下であってもよい。
【0030】
第1の鋼板11が含有する、Si以外の合金元素の量も特に限定されない。第1の鋼板11の化学成分の例として、例えば、C:0.07%、Si:0.02%、Mn:1.2%、Ti:0.08%、Al:0.04、B:0.005%、P:0.007%、S:0.001%、O:0.0017%、N:0.0022%が挙げられる。
【0031】
第1の鋼板11の機械特性も特に限定されない。例えば第1の鋼板11の引張強さは高い程好ましく、440MPa以上、780MPa以上、又は980MPa以上としてもよい。
【0032】
第1の鋼板11が、表面処理を有していてもよい。例えば、第1の鋼板11が、その表面にZn系めっき、Al系めっき、Sn系めっき等を有していてもよい。これにより、第1の鋼板11の耐食性を一層向上させることができる。
【0033】
(第2の鋼板12について)
第1の鋼板11とは対照的に、第2の鋼板12は、そのSi含有量が0.20~1.20質量%とされる。これにより、第2の鋼板12の第2面122において露出したHAZ14の表面にファイアライトを形成し、スケール密着性を高めることができる。
【0034】
本発明者らは、第2の鋼板12の第2面122、即ち溶接ビード13の反対側の面における耐食性を向上させるために種々の検討を重ねた。第2の鋼板12の第2面122において、耐食性を損なう要因は、スケールと共に塗膜が剥離する事にあった。また、第2の鋼板12の第2面122のスケール密着性を評価したところ、スケール16が付着した領域におけるスケール密着性は、スケール16が付着していない領域と比べて劣っていた。しかしながら、様々な鋼種を第2の鋼板12に適用して、様々な溶接条件で試験を重ねたところ、一部の溶接継手1においては、スケール16が付着した箇所において優れたスケール密着性が発現していた。このような溶接継手1のスケール16を分析したところ、いずれの溶接継手1においても、第2の鋼板12の第2面122に露出したHAZ14の表面からファイアライトが検出された。
【0035】
ファイアライトとは、化学式Fe2SiO4で表される、鉄及びシリコンの複合酸化物である。通常の鋼のスケール16は、マグネタイト(Fe3O4)、ヘマタイト(Fe2O3)、及びウスタイト(FeO)等の鉄酸化物から構成されており、ファイアライトは含まれない。一方、Si含有量が多い鋼を高温酸化させると、その表面に形成されるスケール16にはファイアライトが含まれることとなる。
【0036】
本発明者らの実験結果によれば、第2の鋼板12のHAZ14の表面にファイアライトを生成させるためには、第2の鋼板12のSi含有量を0.20質量%以上とする必要があることがわかった。そのため、本実施形態に係る溶接継手1においては、第2の鋼板12のSi含有量を0.20質量%以上とする。第2の鋼板12のSi含有量を0.25質量%以上、0.30質量%以上、又は0.50質量%以上としてもよい。
【0037】
ただし、第2の鋼板12のSi含有量が増大するほど、溶接金属の表面に形成されるスラグ15の量が増大する。本実施形態に係る溶接継手1においては、第1の鋼板11のSi含有量を低下させて、溶融金属においてSiを希釈し、スラグ15の生成量を抑制している。しかし、第2の鋼板12のSi含有量が1.20質量%超となると、スラグ15の量が過剰となり、塗装不良率を十分に低減することができなくなる。そのため、本実施形態に係る溶接継手1においては、第2の鋼板12のSi含有量を1.20質量%以下とする。第2の鋼板12のSi含有量を1.00質量%以下、0.80質量%以下、又は0.60質量%以下としてもよい。
【0038】
なお、特許文献1において説明されているように、鋼板に含まれるSiは絶縁性のスラグ15を形成して電着塗装不良を招来する。そのため、電着塗装によって溶接継手の耐食性を向上させようとする場合において、溶接スラグによる電着塗装不良と、スケール密着性向上に有効なファイアライトとの2つに同時に着目した例はない。
【0039】
Si含有量が上述の範囲内である限り、第2の鋼板12の厚さは特に限定されない。第2の鋼板12の厚さは、例えば1mm以上、2mm以上、又は4mm以上であってもよい。第2の鋼板12の厚さは、例えば8mm以下、6mm以下、又は4mm以下であってもよい。
【0040】
第2の鋼板12が含有する、Si以外の合金元素の量も特に限定されない。第2の鋼板12の化学成分の例として、C:0.04%、Si:0.85%、Mn:1.5%、Ti:0.10%、Al:0.06、B:0.002%、P:0.009%、S:0.003%、O:0.0011%、N:0.0030%が挙げられる。
【0041】
第2の鋼板12の機械特性も特に限定されない。例えば第2の鋼板12の引張強さは高い程好ましく、440MPa以上、780MPa以上、又は980MPa以上としてもよい。
【0042】
(スラグ面積率について)
本実施形態に係る溶接継手1において、溶接ビード13の表面にスラグ15が付着していてもよい。スラグ15は、電着塗装の際に塗膜の析出を妨げ、塗装不良を生じさせる。しかし、溶接ビード13の表面を観察することによって測定される、溶接ビード13の投影面積に対するスラグ15の投影面積の割合、即ちスラグ面積率が9%以下であれば、溶接継手1に必要な耐食性を確保することができる。そのため、本実施形態に係る溶接継手1において、スラグ面積率は9%以下とされる。なおスラグ面積率は小さい程好ましく、8%以下、7%以下、6%以下、又は5%以下であってもよい。また、スラグ面積率の下限値を特に限定する必要はなく、スラグ面積率が0%であってもよい。一方、スラグ面積率が1%以上、2%以上、又は4%以上であってもよい。
【0043】
スラグ面積率は、溶接ビード13が設けられた表面に垂直な方向で、溶接ビード13を写真撮影し、その写真を画像解析して、溶接ビード13の投影面積及びスラグ15の投影面積を特定することにより、測定することができる。溶接ビード13の表面に電着塗膜が設けられている場合は、リムーバーを用いて電着塗膜を除去してから、溶接ビード13を写真撮影すればよい。なお、スラグ面積率と電着塗装不良率とはおおむね一致する。そのため、溶接ビード13の表面に電着塗膜が設けられている場合は、後述の手段によって電着塗装不良率を求め、この不良率をスラグ面積率とみなしてもよい。
【0044】
(溶接ビード13の溶け込み深さについて)
上述のように、本実施形態に係る溶接継手1においては、第2の鋼板12の第2面122においてHAZ14にファイアライトを形成する必要がある。そのためには、第2の鋼板12のSi含有量を0.20質量%以上にすることに加えて、溶接中に第2の鋼板12の第2面122を十分に加熱する必要がある。第2面122の加熱が不十分であった場合、第2の鋼板12の第2面122においてHAZ14の表面からファイアライトが検出されない。
【0045】
溶接中に第2の鋼板12の第2面122の温度を測定することは容易ではなく、従って、ファイアライトを形成するために必要な加熱温度は明らかではない。しかし本発明者らの実験の結果、第2の鋼板12のSi含有量を0.20質量%以上とし、且つ、溶接ビード13の溶け込み深さを第2の鋼板12(裏面のHAZがある鋼板)の板厚に対し15%以上とした場合に、第2の鋼板12の第2面122においてHAZ14の表面からFe2SiO4が検出されることが確認された。従って、本実施形態に係る溶接継手1においては、溶接ビード13の溶け込み深さを第2の鋼板12(裏面のHAZがある鋼板)の板厚に対し15%以上とする。溶接ビード13の溶け込み深さを、第2の鋼板12の板厚に対し20%以上、30%以上、又は40%以上としてもよい。なお、溶接ビード13の溶け込み深さは、第2の鋼板12の第1面121を基準として測定される。
【0046】
ただし、溶け込み深さが過剰であると、溶接中に溶融金属が第2の鋼板12を貫通する。この場合、第2の鋼板12の第2面122において溶接金属が露出する。そして、この場合、ファイアライトが溶融し、スケールの成長が促進されるためスケールの密着性は低下する。従って、本実施形態に係る溶接継手1においては、溶接ビード13の溶け込み深さを第2の鋼板12(裏面のHAZがある鋼板)の板厚に対し85%以下とする。溶接ビード13の溶け込み深さを第2の鋼板12の板厚に対し80%以下、75%以下、または70%としてもよい。
【0047】
(ファイアライトについて)
本実施形態に係る溶接継手1は、上述したように、第2の鋼板12の第2面122においてHAZ14の表面から検出されるファイアライトをさらに有する。原因は明らかではないが、HAZ14の表面にファイアライトを生成させることにより、たとえHAZ14にスケール16が付着していたとしても、HAZ14におけるスケール密着性を向上させることができる。
【0048】
ファイアライトは、第2の鋼板12の第2面122においてX線結晶構造解析を行うことによって、HAZ14の表面から検出される。X線結晶構造解析の手順は以下の通りである。該当箇所にX線を2θ(5~100deg)照射し、反射されたX線回折を取り込んで、回折図形を得る。そして、得られた回折図形とデータベース内の回折図形を照合し、物質を同定する。なお、第2の鋼板12の第2面122に電着塗膜が配されている場合は、電着塗膜の種類に応じたリムーバーを用いて電着塗膜を除去してから、上述の手順で解析を行えばよい。ただし、ファイアライト以外の酸化物が第2の鋼板12の第2面122に多く付着している場合、この酸化物が妨げとなり、ファイアライトの有無が不明確になる場合がある。もし、X線結晶構造解析においてファイアライトの有無が判断できなかった場合、スケール断面をSEM/EDS/EPMAで評価することにより得られる物質の組成比をさらに考慮して、ファイアライトを同定してもよい。
【0049】
(電着塗膜)
溶接継手1が第1の鋼板11、第2の鋼板12、溶接ビード13、HAZ14、スラグ15、及びスケール16を覆う電着塗膜をさらに有してもよい。これにより、溶接継手1の耐食性が飛躍的に向上する。なお、本実施形態に係る溶接継手1においては、ビードに付着したスラグ15の面積率が9%以下に制限され、さらに、第2の鋼板12の第2面122においてHAZ14の表面にファイアライトが設けられている。そのため、本実施形態に係る溶接継手1によれば、電着塗膜の塗装不良率は低減され、さらに、電着塗膜のスケール密着性が高められる。例えば、本実施形態に係る溶接継手1によれば、電着塗膜の塗装不良面積率を7%以下、6%以下、5%以下、又は3%以下とすることができる。電着塗膜の種類は特に限定されず、溶接継手1の用途に応じて適宜選択することができる。
【0050】
電着塗膜の塗装不良面積率は、電着塗装された溶接ビード13を写真撮影し、その写真を画像解析し、溶接ビード13の投影面積及び電着塗装不良部の投影面積を特定することにより、測定することができる。
【0051】
(溶接継手1の製造方法)
次に、本発明の別の態様に係る溶接継手1の製造方法について説明する。本実施形態に係る溶接継手1の製造方法によれば、上述した本実施形態に係る溶接継手1を好適に製造することができる。
【0052】
本実施形態に係る溶接継手1の製造方法は、第1の鋼板11の端部111と、第2の鋼板12の第1面121とをガスシールドアーク溶接して、溶接ビード13を形成する工程を有する。ガスシールドアーク溶接においては、第1の鋼板11及び第2の鋼板12のSi含有量、入熱量、及びシールドガスの成分が重要な要素となる。
【0053】
(第1の鋼板11及び第2の鋼板12のSi含有量)
本実施形態に係る溶接継手1の製造方法では、第1の鋼板11のSi含有量を0~0.20質量%とし、第2の鋼板12のSi含有量を0.20~1.20質量%とする。このようなSi含有量を有する2枚の鋼板を組み合わせることにより、溶接ビード13に付着するスラグ15の面積率を低減する効果と、第2の鋼板12の第2面122、即ち溶接ビード13の反対面においてHAZ14の表面にファイアライトを形成する効果の両方を得ることができる。
【0054】
なお、第1の鋼板11及び第2の鋼板12には、例えば、上述した本実施形態に係る溶接継手1における第1の鋼板11及び第2の鋼板12の好適な形態を適用することができる。また、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の位置関係についても、上述した本実施形態に係る溶接継手1における好適な形態を適用することができる。即ち、第1の鋼板11と第2の鋼板12とがなす角度は、0°以上180°以下の任意の値とすることができる。第1の鋼板11と第2の鋼板12とを重ね合わせて、溶接継手1を重ね隅肉溶接継手としてもよい。また、第1の鋼板11と第2の鋼板12とがなす角度を80°~100°として、溶接継手1をT継手としてもよい。
【0055】
(シールドガスの成分)
本実施形態に係る溶接継手1の製造方法では、ガスシールドアーク溶接のために用いられるシールドガスにおける酸化性ガスの割合を10%以下とする。酸化性ガスとは、第1の鋼板11及び第2の鋼板12に含まれるスラグ生成元素、例えばSiを酸化させる効果を有するガスである。例えば、酸化性ガスとはCO2、及びO2等である。酸化性ガスがシールドガスに占める体積率を10%以下にすることにより、溶接ビード13に付着するスラグ15の面積率を低減する効果が得られる。酸化性ガスがシールドガスに占める体積率を9%以下、8%以下、5%以下、又は3%以下としてもよい。
【0056】
(HAZ14の大きさ、及び溶け込み深さ)
本実施形態に係る溶接継手1の製造方法では、溶接ビード13の周囲に形成されるHAZ14が、前記第2の鋼板12の第2面122において前記第2の鋼板12の外部に露出し、且つ、溶接ビード13の溶け込み深さが、第2の鋼板12の板厚に対して15%以上85%以下となるように、入熱量及びトーチ角度等の溶接条件を制御する必要がある。これにより、第1の鋼板11及び第2の鋼板12を接合する溶接ビード13を形成し、溶接継手1に通常必要とされる強度を確保することができる。さらに、上述の溶接条件によれば、第2の鋼板12の第2面122を十分に加熱して、HAZ14の表面にファイアライトを形成することができる。
【0057】
ガスシールドアーク溶接において、上記以外の溶接条件は特に限定されず、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の厚さ等に応じて適宜選択することができる。ガスシールドアーク溶接における溶加材の成分も特に限定されず、第1の鋼板11及び第2の鋼板12の成分等に応じて適宜選択することができる。溶加材の好適な一例はソリッドワイヤであり、ソリッドワイヤの好適な化学成分の一例は、質量%で、C:0.05~0.20%、Si:0.15%以下、Mn:0.3~2.5%、P:0.02%以下、S:0.04%以下、Ti:0.02~0.20%、B:0.012%以下、Al:0.22%以下、Cr:0.5%以下、Nb:0.3%以下、V:0.3%以下、Mo:1.0%以下、Ni:3.0%以下、Zr:0.200%以下、Cu:0.5%以下、及び残部:鉄及び不純物である。
【0058】
(電着塗装)
本実施形態に係る溶接継手1の製造方法では、ガスシールドアーク溶接の後で、第1の鋼板11、第2の鋼板12、溶接ビード13、HAZ14、スラグ15、及びスケール16に電着塗装を実施してもよい。通常の溶接継手の製造方法においては、電着塗装の前にスラグ15及びスケール16を除去する場合がある。しかし、本実施形態に係る溶接継手1の製造方法においてそのような工程は必要とされない。スラグ15及びスケール16を部分的に除去してもよいし、又は、スラグ15及びスケール16を除去する工程を省略してもよい。上述の条件に従うガスシールドアーク溶接によれば、スラグ15及びスケール16が無害化されるので、これらを除去することなく良好な電着塗膜を得ることができる。
【0059】
(自動車部品、及び建材部品)
次に、本発明の別の態様に係る自動車部品、及び建材部品について説明する。本実施形態に係る自動車部品、及び建材部品は、本実施形態に係る溶接継手1を有する。自動車部品及び建材部品のいずれも、主に屋外で用いられるので、高い耐食性が求められる。本実施形態に係る自動車部品及び建材部品は、塗装不良率が低く、さらにスケール密着性が高い溶接継手1を有するので、高い耐食性を有する。
【0060】
もっとも、本実施形態に係る溶接継手1の用途は特に限定されない。自動車部品及び建材部品以外の幅広い分野の機械部品の接合部に、本実施形態に係る溶接継手1を適用することができる。
【実施例0061】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0062】
(実施例1)
表1に示される種々の第1の鋼板の端部と、第2の鋼板の第1面とをガスシールドアーク溶接して、溶接ビードを形成することにより、種々の溶接継手を製造した。ガスシールドアーク溶接のために用いられるシールドガスには、酸化性ガスとしてCO2が含まれており、その割合は表1に記載の通りであった。
【0063】
シールドガス以外の溶接条件は全ての実施例及び比較例において同一とした。その内容を表2に示す。なお、溶接の際に用いられた治具の形状は、溶接ビードの裏側と接触しないようなものとした。これにより、被溶接材から治具への抜熱を最小限に抑制した。溶接ワイヤは、YGW11をベースに試作した、直径1.2mmの低Si溶接ワイヤとした。
【0064】
これにより得られた種々の溶接継手における溶け込み深さを表1に示す。また、これら溶接継手の第2の鋼板の前記第2面においてX線結晶構造解析を行った際に、HAZからファイアライトが検出されたか否かも表1に示す。なお、全ての実施例及び比較例において、HAZは第2の鋼板の外部に露出していた。
【0065】
さらに、これら溶接継手に電着塗装を行い、次いで、塗装不良面積率及び塗膜剥離面積率を測定した。電着塗装は、母材部で20μmになるよう実施した。塗装不良面積率は、電着塗装された溶接ビードを写真撮影し、その写真を画像解析し、溶接ビードの投影面積及び電着塗装不良部の投影面積を特定することにより、測定した。塗膜剥離面積率は、第2の鋼板の第2面における溶接ビードの裏側にあたる箇所に剥離試験を行うことで求めた。剥離試験は、試験対象箇所にテープを貼り付けて剥がし、これにより塗膜が剥離した領域の面積を測定することにより求めた。テープは、幅24mm及び長さ150mmのニチバン製セロハンテープとした。剥離面積を、セロハンテープの面積(24×150=3600mm2)で割ることにより、塗膜剥離面積率を算出した。塗装不良面積率が7%以下である溶接継手を、電着塗装不良が抑制された溶接継手だと判断した。また、塗膜剥離面積率が10%以下である溶接継手を、スケール密着性に優れた溶接継手だと判断した。表1において、発明範囲外の値には下線を付した。
【0066】
【0067】
【0068】
実施例7~14、及び18は、第1の鋼板及び第2の鋼板のSi含有量、溶け込み深さ、及びシールドガス中の酸化性ガスの割合が適切であった例である。これらの例に係る溶接継手においては、スラグ面積率が9%以下に抑制され、さらに、第2の鋼板の第2面においてHAZの表面からファイアライトが検出された。これらの例に係る溶接継手では、電着塗装不良が抑制され、且つ、スケール密着性が高められていた。
【0069】
一方、比較例1に係る溶接継手においては、スラグ面積率が過剰であり、さらにファイアライトが検出されなかった。これは、第1の鋼板のSi含有量が過剰であり、第2の鋼板のSi含有量が不足し、且つシールドガス中の酸化性ガスの割合が過剰であったからであると推定される。その結果、比較例1に係る溶接継手においては、塗装不良面積率及び塗膜剥離面積率の両方が合否基準を超過した。
【0070】
比較例2に係る溶接継手においては、スラグ面積率が過剰であった。これは、第1の鋼板のSi含有量が過剰であり、且つシールドガス中の酸化性ガスの割合が過剰であったからであると推定される。その結果、比較例2に係る溶接継手においては、塗装不良面積率が合否基準を超過した。
【0071】
比較例3に係る溶接継手においては、スラグ面積率が過剰であった。これは、第1の鋼板のSi含有量が過剰であったからであると推定される。その結果、比較例3に係る溶接継手においては、塗装不良面積率が合否基準を超過した。
【0072】
比較例4に係る溶接継手においては、ファイアライトが検出されなかった。これは、第2の鋼板のSi含有量が不足したからであると推定される。その結果、比較例4に係る溶接継手においては、塗膜剥離面積率が合否基準を超過した。
【0073】
比較例5に係る溶接継手においては、スラグ面積率が過剰であり、さらにファイアライトが検出されなかった。これは、第1の鋼板のSi含有量が過剰であり、第2の鋼板のSi含有量が不足したからであると推定される。その結果、比較例5に係る溶接継手においては、塗装不良面積率及び塗膜剥離面積率の両方が合否基準を超過した。
【0074】
比較例6に係る溶接継手においては、第1の鋼板のSi含有量が過剰であった。その結果、比較例6に係る溶接継手においては、塗装不良面積率が合否基準を超過した。
【0075】
比較例15に係る溶接継手においては、ファイアライトが検出されなかった。これは、溶け込み深さが不足し、第2の鋼板の第2面が十分に加熱されなかったからであると推定される。その結果、比較例15に係る溶接継手においては、塗膜剥離面積率が合否基準を超過した。
【0076】
比較例16に係る溶接継手においては、ファイアライトが検出されなかった。これは、第2の鋼板のSi含有量が不足したからであると推定される。その結果、比較例16に係る溶接継手においては、塗膜剥離面積率が合否基準を超過した。
【0077】
比較例17に係る溶接継手においては、スラグ面積率が過剰であった。これは、第1の鋼板のSi含有量が過剰であったからであると推定される。その結果、比較例17に係る溶接継手においては、塗装不良面積率が合否基準を超過した。
【0078】
(実施例2)
以下の3種類の溶接継手を作製し、そのスケール密着性を評価した。溶接条件及びスケール密着性の評価方法は、上述した表1の実施例及び比較例と同一とした。
(a)第2の鋼板のSi含有量が0.05%
(b)第2の鋼板のSi含有量が0.15%
(c)第2の鋼板のSi含有量が0.30%
【0079】
図4に、溶接継手a~cの第2の鋼板の第2面の、溶接直後の写真及び化成処理後の写真を示す。
図5に、溶接継手a~cの第2の鋼板の第2面の、電着塗装直後の写真及び剥離試験後の写真を示す。
図4及び
図5に示されるように、溶接継手a~cの第2の鋼板の第2面は、電着塗装前及び電着塗装の直後においてほとんど同一の様相を示した。一方、剥離試験後には明瞭な相違がみられた。Si量が0.20%未満であった溶接継手a及びbにおいては電着塗膜の著しい脱落が生じたが、Si量が0.20%以上であった溶接継手cにおいては、電着塗膜の脱落が全く見られなかった。