(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066752
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】ドレープおよびドレープ付き開瞼器
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
A61F9/007 200A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177535
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】517344251
【氏名又は名称】株式会社MIRAI EYE
(74)【代理人】
【識別番号】100114764
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100178124
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】飽浦 淳介
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 善九
(57)【要約】
【課題】本発明は、第1に、手術時に眼の周りに簡単かつ確実に設置することができ、第2に、眼瞼縁と結膜嚢を広い範囲で被覆することができるドレープ並びにドレープ付き開瞼器を提供することを提供することを目的とする。
【解決手段】眼科手術時において眼Oの周りに設置されるドレープDであって、眼瞼縁Nに対応する開口部41が形成された環状の本体部4と、該本体部4の内縁部41aから後方に延びる態様で設けられた垂下部5と、該垂下部5において上眼瞼M1側と下眼瞼M2側に互いに対向する態様で設けられた陥凹部6とを備え、該陥凹部6に開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31と第2の掛止部32がそれぞれ嵌め込まれて使用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科手術時において眼の周りに設置されるドレープであって、
眼瞼縁に対応する開口部が形成された環状の本体部と、
該本体部の内縁部から後方に延びる態様で設けられた垂下部と、
該垂下部において上眼瞼側と下眼瞼側に互いに対向する態様で設けられた陥凹部とを備えることを特徴とするドレープ。
【請求項2】
前記陥凹部は、前記垂下部に設けられた外壁部と、該外壁部に対向する態様で設けられた内壁部と、外壁部と内壁部の後端部に設けられた底壁部と、前記外壁部と前記内壁部の両側部に設けられた側壁部とから構成される請求項1に記載のドレープ。
【請求項3】
前記陥凹部は、内側に突出する一ないし複数の襞部が設けられている請求項1から請求項2に記載のドレープ。
【請求項4】
前記本体部は、垂下部における目尻に対応する部分から耳側に向けて延びる溝部が形成されている請求項1から請求項3のいずれかに記載のドレープ。
【請求項5】
前記溝部は、互いに間隔を空けながら前記溝部に沿って延びる複数の突条が設けられている請求項4に記載のドレープ。
【請求項6】
前記本体部は、外縁部が厚肉に形成されている請求項1から請求項5のいずれかに記載のドレープ。
【請求項7】
前記垂下部は、目頭に対応する部分に鼻側に突出する窪み部が形成されている請求項1から請求項6のいずれかに記載のドレープ。
【請求項8】
請求項1から請求項7に記載のドレープと、
眼瞼を開くための掛止部を有する開瞼器とを備え、
前記ドレープの前記陥凹部に前記開瞼器の前記掛止部が嵌め込まれるものとなされていることを特徴とするドレープ付き開瞼器。
【請求項9】
前記開瞼器は、
上眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第1の掛止部と、
下眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第2の掛止部と、
前記第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めたり、拡げたりする把持機構とを備え、
前記把持機構は、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を狭める際、前記第1の掛止部の開口方向を上眼瞼側の上方から眼側の後方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を下眼瞼側の下方から眼側の後方に変更させる一方、
前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を拡げる際、前記第1の掛止部の開口方向を眼側の後方から上眼瞼側の上方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を眼側の後方から下眼瞼側の下方に変更させる請求項8に記載のドレープ付き開瞼器。
【請求項10】
前記把持機構は、眼瞼よりも耳側または鼻側において上下方向に延びる把持部と、
前記把持部の上側部から上眼瞼側に延びて前記第1の掛止部に連設する第1のアーム部と、
前記把持部の下側部から下眼瞼側に延びて前記第2の掛止部に連設する第2のアーム部とを備え、
前記把持部の上側部と下側部が近接方向に閉じられると、前記第1のアーム部と前記第2のアーム部が互いに近接しながら眼瞼に対して相対的に軸回転し、それに伴って前記第1の掛止部と前記第2の掛止部が互いに間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させる一方、
前記把持部の上側部と下側部が離間方向に開かれると、前記第1のアーム部と前記第2のアーム部が互いに離間しながら眼瞼に対して相対的に軸回転し、それに伴って前記第1の掛止部と前記第2の掛止部が互いに間隔を拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させる請求項9に記載のドレープ付き開瞼器。
【請求項11】
前記把持部は、弾性変形可能な線状部材により構成され、
一端部が前記第1のアーム部に連設され、眼瞼よりも耳側または鼻側に延びる上側部と、
一端部が前記第2のアーム部に連設され、眼瞼よりも耳側または鼻側に延びる下側部と、
一端部が前記上側部の他端部に折り返される態様で連設され、かつ他端部が前記下側部の他端部に折り返される態様で連設され、前記上側部と前記下側部の間においてループ状に形成されたループ部とを備え、
前記ループ部の弾性力により前記上側部と前記下側部が開く方向に付勢される請求項10に記載のドレープ付き開瞼器。
【請求項12】
前記開瞼器は、
上眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第1の掛止部と、
下眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第2の掛止部と、
前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を狭めたり、拡げたりする連結機構とを備え、
前記連結機構は、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を狭める際、前記第1の掛止部の開口方向を上眼瞼側の上方から眼側の後方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を下眼瞼側の下方から眼側の後方に変更させる一方、
前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を拡げる際、前記第1の掛止部の開口方向を眼側の後方から上眼瞼側の上方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を眼側の後方から下眼瞼側の下方に変更させる請求項8に記載のドレープ付き開瞼器。
【請求項13】
前記陥凹部は、左右方向の長さが前記開瞼器の前記掛止部の左右方向の長さよりも短くなるように形成されている請求項8から請求項12に記載のドレープ付き開瞼器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科手術時において眼の周りに設置されるドレープ及びドレープ付き開瞼器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、白内障手術や他の眼科手術の際、まず念頭におかなければならないのは、手術後の細菌性眼内炎を防止することである。具体的には、眼瞼、睫毛、結膜嚢には常在菌が存在しており、手術中にそれら眼瞼、睫毛、結膜嚢に触れた手術器具、眼内レンズあるいは手術装置から供給される眼内灌液体を通して、常在菌が切開創から眼内に侵入し、術後細菌性眼内炎の原因になっていた。この術後細菌性眼内炎は滅多に発生するものではないが、発症して、その原因がMRSAなどの薬剤耐性菌の場合は失明する危険もあった。
【0003】
そこで、この術後細菌性眼内炎を防止するため、通常の眼科手術では消毒液で眼瞼や眼球結膜を洗浄した後、滅菌済みのドレープで眼の周りを覆い、金属製や樹脂製の開瞼器を用いて眼瞼を開いて手術を行っていた。
【0004】
ところが、単にドレープで眼の周りの眼瞼を覆う場合、手術前にドレープを切ったり貼ったりする作業が必要な上、眼瞼縁、特に耳側と鼻側の角の眼瞼縁の皮膚や睫毛を覆うことができなかった。特に耳側の角の眼瞼縁の皮膚は、切開創に挿入される手術器具が何度も接触する箇所であり、その手術器具を通して眼内に常在菌が持ち込まれることが危惧されていた。
【0005】
また、眼瞼のカバーする部分が広い使い捨ての開瞼器も提案されているが(例えば、特許文献1を参照)、これも依然として、耳側と鼻側の角の眼瞼縁の皮膚や睫毛を覆うことができなかった。
【0006】
そこで、耳側と鼻側の角の眼瞼縁も含めて、眼瞼縁の全体を覆うドレープとしての機能を有する開瞼器も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。これは、眼を囲繞し、顔面に接して装着される可撓性を有する上リングと、結膜嚢内に挿入され、瞼結膜側に接して装着される下リングと、柔軟な筒型薄膜の端部の一方を上リングへ、他方を下リングへ各々取り付け、顔面側から瞼結膜側にかけて位置する弾性シートにより構成される。これによれば、眼瞼縁および瞼結膜を覆うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-227457号公報
【特許文献2】特開2011-55990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この開瞼器は、全体として柔軟性を有するとしながらも、眼瞼を開くための開瞼器としての機能が要求されるために、元に戻ろうとする弾性力が大きく、手術時において眼瞼に設置することが難しく、設置作業が煩わしいという問題があった。しかも、この開瞼器は、眼瞼縁および瞼結膜を覆ったとしても、その奥に位置する結膜嚢まで覆うものではなかった。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、第1に、手術時に眼の周りに簡単かつ確実に設置することができ、第2に、眼瞼縁と結膜嚢を広い範囲で被覆することができるドレープ並びにドレープ付き開瞼器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、眼科手術時において眼の周りに設置されるドレープであって、眼瞼縁に対応する開口部が形成された環状の本体部と、該本体部の内縁部から後方に延びる態様で設けられた垂下部と、該垂下部において上眼瞼側と下眼瞼側に互いに対向する態様で設けられた陥凹部とを備えることを特徴とする。
【0011】
これによれば、開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部をドレープにおける上眼瞼側と下眼瞼側の陥凹部にそれぞれ嵌め込んだあと、開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の裏側に挿入しながら互いに開いていくことによって、ドレープを眼の周りに簡単かつ確実に設置することができるとともに、ドレープにより眼瞼縁と結膜嚢を広い範囲で被覆することができる。
【0012】
また、前記陥凹部は、前記垂下部に設けられた外壁部と、該外壁部に対向する態様で設けられた内壁部と、外壁部と内壁部の後端部に設けられた底壁部と、前記外壁部と前記内壁部の両側部に設けられた側壁部とから構成されてもよい。これによれば、開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部をドレープにおける上眼瞼側と下眼瞼側の陥凹部に安定して嵌め込むことができる。
【0013】
また、前記陥凹部は、内側に突出する一ないし複数の襞部が設けられてもよい。これによれば、開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部をドレープにおける上眼瞼側および下眼瞼側の陥凹部に嵌め込んだ際、開瞼器の掛止部が襞部により規制されるため、ドレープが開瞼器から抜け落ちることを防止することができる。
【0014】
また、前記本体部は、垂下部における目尻に対応する部分から耳側に向けて延びる溝部が形成されてもよい。これによれば、眼科手術時において眼の瞼裂内に貯留する液体を溝部に沿って簡単かつ確実に排出することができる。
【0015】
しかも、垂下部が目尻に対応する部分において溝部に連設しているため、開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部をドレープにおける上眼瞼側と下眼瞼側の陥凹部にそれぞれ嵌め込んだあと、本体部を眼瞼に載置した状態において開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の裏側に挿入しながら互いに開いていくと、溝部に連設した垂下部の目尻に対応する部分が上眼瞼側と下眼瞼側に向けて開くように伸びるため、陥凹部を眼瞼の裏側奥の結膜嚢まで挿入し易くなる。
【0016】
また、前記溝部は、互いに間隔を空けながら前記溝部に沿って延びる複数の突条が設けられてもよい。これによれば、各突条の間の排液路に毛細管現象等による液体の吸引力が生じるため、眼の瞼裂内に貯留する液体を溝部に沿ってより一層簡単かつ確実に排出することができる。
【0017】
また、前記本体部は、外縁部が厚肉に形成されてもよい。これによれば、本体部の平面方向の形状が適度に維持されるため、ドレープが取り扱い易くなり、ドレープを眼の周りにより一層簡単かつ確実に設置することができる。
【0018】
また、前記垂下部は、目頭に対応する部分に鼻側に突出する窪み部が形成されてもよい。これによれば、開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部をドレープにおける上眼瞼側と下眼瞼側の陥凹部にそれぞれ嵌め込んだあと、本体部を眼瞼に載置した状態において開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の裏側に挿入しながら互いに開いていくと、窪み部が上眼瞼側と下眼瞼側に向けて開くように伸びるため、陥凹部を眼瞼の裏側奥の結膜嚢まで挿入し易くなる。
【0019】
また、本発明は、前記ドレープと、眼瞼を開くための掛止部を有する開瞼器とを備え、前記ドレープの前記陥凹部に前記開瞼器の前記掛止部が嵌め込まれるものとなされていることを特徴とする。
【0020】
これによれば、開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部をドレープにおける上眼瞼側と下眼瞼側の陥凹部にそれぞれ嵌め込んだあと、開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の裏側に挿入しながら互いに開いていくことによって、ドレープを眼の周りに簡単かつ確実に設置することができるとともに、ドレープにより眼瞼縁と結膜嚢を広い範囲で被覆することができる。
【0021】
また、前記開瞼器は、上眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第1の掛止部と、下眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第2の掛止部と、前記第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めたり、拡げたりする把持機構とを備え、前記把持機構は、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を狭める際、前記第1の掛止部の開口方向を上眼瞼側の上方から眼側の後方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を下眼瞼側の下方から眼側の後方に変更させる一方、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を拡げる際、前記第1の掛止部の開口方向を眼側の後方から上眼瞼側の上方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を眼側の後方から下眼瞼側の下方に変更させてもよい。これによれば、開瞼器をドレープに装着する際、把持機構によって第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させることにより、開瞼器における第1の掛止部と第2の掛止部をドレープにおける上眼瞼側と下眼瞼側の陥凹部に簡単かつ確実に嵌め込むことができる。また、開瞼器の把持機構によって第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を次第に拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させていくことによって、ドレープが装着された開瞼器の第1の掛止部と第2の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の眼瞼縁に掛け止めながら上眼瞼と下眼瞼の裏側に挿入していくと、患者の眼瞼を簡単かつ安全に開くことができるとともに、ドレープと開瞼器を患者の眼の周りに簡単かつ確実に設置することができる。
【0022】
また、前記把持機構は、眼瞼よりも耳側または鼻側において上下方向に延びる把持部と、前記把持部の上側部から上眼瞼側に延びて前記第1の掛止部に連設する第1のアーム部と、前記把持部の下側部から下眼瞼側に延びて前記第2の掛止部に連設する第2のアーム部とを備え、前記把持部の上側部と下側部が近接方向に閉じられると、前記第1のアーム部と前記第2のアーム部が互いに近接しながら眼瞼に対して相対的に軸回転し、それに伴って前記第1の掛止部と前記第2の掛止部が互いに間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させる一方、前記把持部の上側部と下側部が離間方向に開かれると、前記第1のアーム部と前記第2のアーム部が互いに離間しながら眼瞼に対して相対的に軸回転し、それに伴って前記第1の掛止部と前記第2の掛止部が互いに間隔を拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させてもよい。これによれば、開瞼器を眼瞼に設置する際、把持部を閉じることにより第1のアーム部と第2のアーム部を介して第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更したあと、把持部を開いていくことにより第1のアーム部と第2のアーム部を介して第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を次第に拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させていく過程において、第1の掛止部と第2の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の裏側に同時にスライドさせながら挿入させ易くなるともに、上眼瞼と下眼瞼の眼瞼縁に掛け止めた状態で眼瞼を開き易くなる。
【0023】
また、前記把持部は、弾性変形可能な線状部材により構成され、一端部が第1のアーム部に連設され、眼瞼よりも耳側または鼻側に延びる上側部と、一端部が第2のアーム部に連設され、眼瞼よりも耳側または鼻側に延びる下側部と、一端部が前記上側部の他端部に折り返される態様で連設され、かつ他端部が前記下側部の他端部に折り返される態様で連設され、前記上側部と前記下側部の間においてループ状に形成されたループ部とを備え、前記ループ部の弾性力により前記上側部と前記下側部が開く方向に付勢されてもよい。これによれば、把持部の上側部と下側部を簡単かつ確実に近接離間方向に開閉し得るため、第1の掛止部と第2の掛止部の間隔および開口方向を簡単かつ確実に変更させることができる。また、把持部を閉じた状態から把持力を弱めていくと、ループ部が有する弾性力により把持部の上側部と下側部が自動的に離間方向に開くため、眼瞼をスムーズに開くことができる。さらに、弾性変形可能な線状部材を単にループ状に形成する構成であるため、開瞼器の製造コストを抑えることができる。
【0024】
前記開瞼器は、上眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第1の掛止部と、下眼瞼の眼瞼縁に掛け止められる第2の掛止部と、前記第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めたり、拡げたりする連結機構とを備え、前記連結機構は、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を狭める際、前記第1の掛止部の開口方向を上眼瞼側の上方から眼側の後方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を下眼瞼側の下方から眼側の後方に変更させる一方、前記第1の掛止部と前記第2の掛止部の間隔を拡げる際、前記第1の掛止部の開口方向を眼側の後方から上眼瞼側の上方に変更させるとともに、前記第2の掛止部の開口方向を眼側の後方から下眼瞼側の下方に変更させてもよい。これによれば、開瞼器を眼瞼に設置する際、連結機構によって第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させたあと、連結機構によって第1の掛止部と第2の掛止部の間隔を次第に拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させていく過程において、第1の掛止部と第2の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の結膜嚢に同時にスライドさせながら挿入していき、上眼瞼と下眼瞼の眼瞼縁に掛け止めた状態で眼瞼を開いていくことによって、あらゆる患者の眼瞼を簡単かつ安全に開くことができる。
【0025】
また、前記陥凹部は、左右方向の長さが前記開瞼器の前記掛止部の左右方向の長さよりも短くなるように形成されてもよい。これによれば、開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部をドレープにおける上眼瞼側と下眼瞼側の陥凹部にそれぞれ嵌め込んだ際、陥凹部により開瞼器の掛止部が左右方向に締め付けられた状態となるため、ドレープが開瞼器から抜け落ちることを防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部をドレープにおける上眼瞼側と下眼瞼側の陥凹部にそれぞれ嵌め込んだあと、開瞼器における上眼瞼側と下眼瞼側の掛止部を上眼瞼と下眼瞼の裏側に挿入しながら互いに開いていくことによって、ドレープを眼の周りに簡単かつ確実に設置することができるとともに、ドレープにより眼瞼縁と結膜嚢を広い範囲で被覆することができる。よって、眼科手術において術者は、事前の煩わしい作業を行うことなく、患者の眼の周りにドレープと開瞼器を速やかに設置することができ、ひいては手術後の細菌性眼内炎などを効果的に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る開瞼器の斜視図である。
【
図2】
図1の開瞼器の(a)開いた状態を示す平面図、(b)閉じた状態を示す平面図である。
【
図3】
図1の開瞼器の掛止部の(a)開いた状態を示す正面図、(b)閉じた状態を示す平面図、(c)開口方向を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るドレープの表側斜視図である
【
図8】ドレープの陥凹部に開瞼器の掛止部が嵌め込まれた状態を示す(a)拡大平面図、(b)拡大側面図、(c)C-C線断面図である。
【
図9】開瞼器によりドレープを眼の周りに設置したあとの状態を示す平面図である。
【
図10】
図8の開瞼器の(b)A-A線断面図、(c)B-B線断面図である。
【
図11】ドレープを開瞼器に装着する過程を示す図(写真)である。
【
図12】本発明の他の実施形態に係る開瞼器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施形態に係る開瞼器CおよびドレープDについて
図1~
図11を参照しつつ説明する。なお、開瞼器CおよびドレープDが眼Oの周りの顔面に設置された際、
図9の左右方向を患者の左右方向、
図9の上下方向を患者の上下方向、
図10の上下方向を患者の前後方向とする。
【0029】
[開瞼器Cの構成]
本実施形態に係る開瞼器Cは、
図1および
図2に示すように、把持機構1、アーム部2および掛止部3が金属等の弾性変形可能な一の線状部材を曲折することにより構成されている。なお、
図2において、左側を患者の耳側、右側を患者の鼻側、上側を患者の上側、下側を患者の下側として、以下、説明する。
【0030】
前記把持機構1は、眼瞼Mよりも耳側で左右方向に延びる上側の第1の把持部11(上側部)と、眼瞼Mよりも耳側で左右方向に延びる下側の第2の把持部12(下側部)と、第1の把持部11と第2の把持部12の間に設けられたループ部13と、ループ部13の後側に設けられたヒンジグリップ部14とを備え、全体として上下方向に延びる構成になっている。
【0031】
前記ループ部13は、一端部が第1の把持部11の耳側の端部に折り返される態様で連設され、かつ他端部が第2の把持部12の耳側の端部に折り返される態様で連設され、第1の把持部11と第2の把持部12の間において略円形のループ状に形成されている。
【0032】
前記ループ部13の形状について具体的に説明すると、
図2に示すように、平面視(左右・上下方向)において、第1の把持部11の耳側の端部から第2の把持部12に向けて
図2の右斜め下方向に延び、第1の曲折箇所P1で
図2の右斜め上方向に緩やかに曲折しながら延びたあと、第2の曲折箇所P2で第1の把持部11に向けて
図2の左斜め上方向に緩やかに曲折しながら延び、第3の曲折箇所P3で
図2の左斜め下方向に緩やかに曲折しながら延びていき、第2の把持部12の耳側の端部に連設される。
【0033】
また、側面視(左右・前後方向)において、第1の把持部11の耳側の端部から
図2の右斜め前方向に延び、第1の曲折箇所P1で
図2の右斜め後方向に緩やかに曲折しながら延びたあと、第2の曲折箇所P2で緩やかに曲折しながら
図2の左斜め前方向に延び、第3の曲折箇所P3で
図2の左斜め後方向に緩やかに曲折しながら延びていき、第2の把持部12の耳側の端部に連設される。
【0034】
また、前記ループ部13は、上記構造によりバネのような弾性力を有し、このループ部13の弾性力により第1の把持部11と第2の把持部12が開く方向に付勢される。なお、本実施形態では、前記ループ部13は、一のループを形成しているが、これに限られず、二以上のループを形成してもよい。また、前記ループ部13は、アーム部2から前方の垂直方向に延びてもよい。
【0035】
前記ヒンジグリップ部14は、第1の把持部11と第2の把持部12の間に架設され、頂点部Kを有する正面視山型に形成された帯状部材である。このヒンジグリップ部14は、第1の把持部11と第2の把持部12とループ部13により構成される把持機構を補助する第2の把持機構であって、第1の把持部11と第2の把持部12が開閉される際に開瞼器Cが型崩れするのを抑制するとともに、第1の把持部11と第2の把持部12が開かれる際に第1の把持部11と第2の把持部12が所定の角度以上に開くことを規制する。
【0036】
前記アーム部2は、第1の把持部11の鼻側の端部に設けられ、上眼瞼M1側に延びる第1のアーム部21と、第2の把持部12の鼻側の端部に設けられ、下眼瞼M2側に延びる第2のアーム部22とを備える。これら第1のアーム部21および第2のアーム部22は、
図2(a)に示すように把持機構1の第1の把持部11と第2の把持部12が自然に開いた状態において、鼻側の端部同士が耳側の端部同士よりも離間したハの字形状に形成され、
図2(b)に示すように前記把持機構1の第1の把持部11と第2の把持部12が近接方向に閉じられたときに互いに略平行な状態になる。
【0037】
前記掛止部3は、第1のアーム部21の鼻側の端部に設けられた第1の掛止部31と、第2のアーム部22の鼻側の端部に設けられた第2の掛止部32とを備える。
【0038】
前記第1の掛止部31は、上眼瞼G1の裏側の結膜嚢L1に挿入される平面視略コ字状のスライド部31aと、上眼瞼G1の眼瞼縁Nに引っ掛けられる引掛部31bとを備える。スライド部31aは、上眼瞼G1に対して後斜め上方に傾斜しながら延びている。また、引掛部31bは、スライド部31aの両側端部から前斜め上方に向けて屈曲しながら延びている。
【0039】
前記第2の掛止部32は、下眼瞼G2の裏側の結膜嚢L1に挿入される平面視略コ字状のスライド部32aと、下眼瞼G2の眼瞼縁に引っ掛けられる引掛部32bとを備える。スライド部32aは、下眼瞼G2に対して後斜め下方に傾斜しながら延びている。また、引掛部32bは、スライド部32aの両側端部から前斜め下方に向けて屈曲しながら延びている。
【0040】
また、前記第1の掛止部31および前記第2の掛止部32は、
図3(a)(b)に示すように、スライド部31a、32aと引掛部31b、32bにより正面視でU字状に形成され、該U字状の開口している方向を開口方向Xとする。
【0041】
なお、本実施形態では、本開瞼器Cは、
図2(a)に示すように完全に開いた自然状態において、
図3(a)に示すように、第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向も眼瞼Gの平面方向に対して後方に傾斜した状態で上方および下方に向いている。このときの第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向の傾斜角度αについては、特に限定されるものではないが、眼瞼Gの平面方向に対して25°~45°の傾斜角度の範囲内であるのが好ましい(
図3(c)参照)。
【0042】
また、本開瞼器は、
図2(b)に示すように完全に閉じた状態において、
図3(b)に示すように、第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向も眼瞼Gの平面方向に対してほぼ垂直に傾斜した状態で後方に向いている。このときの第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向の傾斜角度βについては、特に限定されるものではないが、眼瞼Gの平面方向に対して60°~90°の傾斜角度の範囲内であるのが好ましい(
図3(c)参照)。
【0043】
而して、
図2(a)に示すように本開瞼器Cが開いた自然状態において、把持機構1の第1の把持部11と第2の把持部12を把持して、ループ部13の付勢力に抗しながら内側方向に把持力を作用させると、ループ部13が第1の把持部11および第2の把持部12の前側に浮き上がりながら、第1の把持部11と第2の把持部12が近接方向に閉じていく。
【0044】
そして、このように第1の把持部11と第2の把持部12が近接方向に閉じていくと、第1のアーム部21と第2のアーム部22は互いに近接しながら眼瞼Mに対して相対的に90度の範囲内で軸回転する。このとき、第1の掛止部31と第2の掛止部32が互いに間隔を狭めながら眼瞼Mに対して横倒状態から起立状態に姿勢を変更し、それに伴って、
図3(b)に示すように第1の掛止部31と第2の掛止部32の開口方向Xを上方または下方から後方に変更し、最終的に
図2(b)に示すように本開瞼器Cが閉じた状態に移行する。なお、第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向Xは、互いに概ね後方の同じ方向に向いている。
【0045】
一方、
図2(b)に示すように本開瞼器Cが閉じた状態において、把持機構1に対する把持力を弱めると、ループ部13が当初の位置に復帰するように後側に沈みながら、第1の把持部11と第2の把持部12が離間方向に開いていく。
【0046】
そして、このように第1の把持部11と第2の把持部12が離間方向に開いていくと、第1のアーム部21と第2のアーム部22は互いに離間しながら眼瞼Mに対して相対的に90度の範囲内で軸回転する。このとき、第1の掛止部31と第2の掛止部32が互いに間隔を拡げながら眼瞼Mに対して起立状態から横倒状態に姿勢を変更し、それに伴って、
図3(a)に示すように、第1の掛止部31と第2の掛止部32の開口方向Xを後方から上方または下方に変更し、最終的に
図2(a)に示すように本開瞼器Cが開いた状態に移行する。このとき、第1の掛止部31および第2の掛止部32の開口方向Xは、互いに概ね上方および下方の逆方向に向いている。
【0047】
これによれば、把持機構1の第1の把持部11と第2の把持部12を簡単かつ確実に近接離間方向に開閉し得るため、第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔および開口方向Xを簡単かつ確実に変更させることができる。また、把持機構1を閉じた状態から把持力を弱めていくと、ループ部13が有する弾性力により把持機構1の第1の把持部11と第2の把持部12が自動的に離間方向に開くため、眼瞼Mをスムーズに開くことができる。さらに、把持機構1は弾性変形可能な線状部材を単にループ状に形成する構成であるため、開瞼器Cの製造コストを抑えることができる。
【0048】
[ドレープDの構成]
本ドレープDは、眼科手術時において眼Oの周りに設置されるものであって、
図4~
図7に示すように、眼瞼Mの表面に載置される本体部4と、本体部4に設けられた垂下部5と、垂下部5に設けられた陥凹部6とを備え、これら本体部4、垂下部5および陥凹部6は連続した一枚の可撓性のシート部材で形成されている。なお、
図5において、左側を患者の耳側、右側を患者の鼻側、上側を患者の上側、下側を患者の下側として、以下、説明する。
【0049】
前記本体部4は、鼻側の先端部4aが平面視山型に形成され、上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の側端部4b、4bが平面視直線状に形成されるとともに、耳側の基端部4cが平面視円弧状に形成された環状のシート部材であって、上下方向の長さが65mm、左右方向の長さが95mmの大きさに形成されている。なお、本実施形態では、本体部4は完全な環状に形成されているが、周方向に一部途切れている略環状に形成されているものも環状に形成されているとする。
【0050】
また、前記本体部4は、外縁部(先端部4a、側縁部4b、4b、基端部4c)が他の部分よりも厚肉に形成されることにより、面方向の形状が適度に維持されるため、ドレープDが取り扱い易くなっている。なお、前記本体部4は、上述のように可撓性のシート部材で形成されているため、ドレープDを眼の周りに設置した際、
図6に示すように、本体部4の左右方向の中間部が湾曲することにより患者の顔面の形状に沿うようになっている。
【0051】
また、前記本体部4は、上下方向の中央であって、かつ左右方向の鼻側の先端部4a寄りの位置において開口部41が形成されている。この開口部41は、ドレープDを顔面に設置した時に患者の眼Oを露出させるものであり、患者の眼瞼縁Nの形状に概ね沿うように上下方向の長さが15mm~20mm、左右方向の長さが20mm~25mmの平面視略楕円形状に形成されている。なお、本体部4は、内縁部41aの鼻側の目頭に対応する部分が鼻側に向けて突出する態様で窪んで形成されており、該窪んだ部分が後述する垂下部5の窪み部51に連設する。
【0052】
また、前記本体部4は、垂下部5の目尻に対応する部分から耳側の基端部4cに向けて延びる溝部42が形成されている。この溝部42は、ドレープDを顔面に設置したときに手術中に眼Oの瞼裂内に貯留する液体を排出するものであり、
図5に示すように、上下方向に設けられた2枚の側面部42aと、側面部42aの間に設けられた底面部42bとを備える。
【0053】
また、前記溝部42は、側面部42aが目尻に対応する先端部42cから鼻側にかけて互いに離間するとともに、本体部4の表側から裏側にかけて互いに近接する態様の正面視略台形状に形成されており、液体が流れ易いようになっている。
【0054】
また、前記溝部42は、底面部42bにおいて互いに間隔を空けながら溝部42に沿って延びる2本の突条43が設けられている。これにより、2本の突条43の間の排液路に毛細管現象等による液体の吸引力が生じるため、眼Oの瞼裂内に貯留する液体を溝部42に沿ってより一層簡単かつ確実に排出することができる。なお、本実施形態では、溝部42は2本の突条43が設けられるものとしたが、3本以上の突条43が設けられてもよい。
【0055】
また、前記溝部42は、本体部4の目尻に対応する先端部42cがV字状に形成されている。これによれば、開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31と第2の掛止部32をドレープDにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の陥凹部6にそれぞれ嵌め込んだあと、
図9に示すように、本体部4を眼瞼Mに載置した状態において開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31および第2の掛止部32をを上眼瞼M1と下眼瞼M2の裏側に挿入しながら互いに開いていく際、V字状の先端部42cが上眼瞼M1側と下眼瞼M2側に上下方向に開くように伸びるため、陥凹部6を眼瞼Mの裏側奥の結膜嚢L1まで挿入し易くなる。また、上眼瞼M1と下眼瞼M2を開いた後においても、手術時に眼Oの瞼裂内に貯留する液体をV字状の先端部42cから溝部42に誘導し易くなる。
【0056】
また、前記溝部42は、本体部4の基端部4cの裏側において排出口42dが形成されており、溝部42を流れてきた液体が排出口42dからドレープD外に排出されるようになっている。
【0057】
前記垂下部5は、本体部4の内縁部41aから後方に延びる態様で設けられた略筒状の可撓性のシート部材であって、本体部4の開口部41と同様、患者の眼瞼縁Nの形状に概ね沿うように上下方向の長さが15~20mm、左右方向の長さが20~25mm、前後方向の長さが10mmの平面視略楕円形状に形成されている。
【0058】
また、前記垂下部5は、ドレープDを眼Oの周りに設置したときの鼻側の目頭に対応する部分において鼻側に突出する窪み部51が形成されている。これによれば、開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31および第2の掛止部32をドレープDにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の陥凹部6にそれぞれ嵌め込んだあと、
図9に示すように、本体部4を眼瞼Mに載置した状態において開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31と第1の掛止部32を上眼瞼M1と下眼瞼M2の裏側に挿入しながら互いに開いていく際、該窪み部51が上眼瞼M1側と下眼瞼M2側に向けて開くように伸びるため、陥凹部6を眼瞼Mの裏側奥の結膜嚢L1まで挿入し易くなる。
。
【0059】
しかも、垂下部5は、ドレープDを眼Oの周りに設置したときの耳側の目尻に対応する部分において溝部42に連設しているため、本体部4を眼瞼Mに載置した状態において開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31と第1の掛止部32を上眼瞼M1と下眼瞼M2の裏側に挿入しながら互いに開いていく際、溝部52に連設した垂下部5の目尻に対応する部分も上眼瞼M1側と下眼瞼M2側に向けて開くように伸びるため、陥凹部6を眼瞼Mの裏側奥の結膜嚢L1までより一層挿入し易くなる。
【0060】
前記陥凹部6は、垂下部5の後端部において上眼瞼M1側と下眼瞼M2側に互いに対向する態様で設けられている。具体的には、この陥凹部6は、
図8に示すように、垂下部5における上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の内面の中間位置において、垂下部5に設けられた外壁部61と、外壁部61に対向する態様で設けられた内壁部62と、外壁部61と内壁部62の後端部に設けられた底壁部63と、外壁部61と内壁部62の両側部に設けられた側壁部64とから構成され、左右方向の長さ(幅)が12mm~15mm、前後方向の長さ(深さ)が3mm~5mm、上下方向の長さ(間隔)が1mm~2mmに形成されている。
【0061】
而して、開瞼器Cにおける上眼瞼M1側および下眼瞼M2側の第1の掛止部31および第2の掛止部32をドレープDにおける上眼瞼M1側および下眼瞼M2側の陥凹部6に嵌め込むと、
図8に示すように、開瞼器Cの第1の掛止部31(スライド部31a)および第2の掛止部32(スライド部32a)が陥凹部6の外壁部61、内壁部62、底壁部63および側壁部64に囲まれた状態となって固定される。
【0062】
また、前記陥凹部6は、左右方向の長さが開瞼器Cの第1の掛止部31(スライド部31a)および第2の掛止部32(スライド部32a)の左右方向の長さよりも短くなるように形成されている。これによれば、開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31および第2の掛止部32をドレープDにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の陥凹部6にそれぞれ嵌め込んだ際、陥凹部6により開瞼器Cの第1の掛止部31および第2の掛止部32が左右方向に締め付けられた状態となるため、ドレープDが開瞼器Cから抜け落ちることを防止することができる。
【0063】
また、前記陥凹部6は、外壁部61および内壁部62から其々内側に突出する2枚の襞部65が内面に設けられている。これによれば、開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31(スライド部31a)および第2の掛止部32(スライド部32a)をドレープDの陥凹部6に嵌め込んだ際、第1の掛止部31(スライド部31a)および第2の掛止部32(スライド部32a)の前方が襞部65により規制されるため、この点からもドレープDが開瞼器Cから抜け落ちることを防止することができる。
【0064】
また、前記陥凹部6は、
図8(b)に示すように、底壁部63の左右方向の中央部に平面視矩形状の孔部66が形成されているが、これはドレープDの製造時において金型からドレープDを抜く際に必要となる部分である。
【0065】
[開瞼器CによるドレープDの設置方法]
次に、本開瞼器CによりドレープDを眼Oの周りに設置する方法について、
図9~
図11を参照しつつ説明する。
【0066】
まず、
図11(a)に示すように、一方の手により開瞼器Cの把持機構1の第1の把持部11と第2の把持部12を把持しながら近接方向に閉じると、第1のアーム部21と第2のアーム部22は互いに近接しながら眼瞼Mに対して相対的に90度の範囲内で軸回転し、それに伴って第1の掛止部31と第2の掛止部32が開口方向Xを上方または下方から後方に変更した状態となる。そして、他方の手によりドレープDを平面状態を維持しながら把持した上、一方の手で把持している閉じた状態の開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31(スライド部31a)および第2の掛止部32(スライド部32a)をドレープDにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の陥凹部6にそれぞれ嵌め込むことによって、開瞼器CにドレープDを装着する。
【0067】
次に、
図11(b)に示すように、ドレープDを装着した閉じた状態の開瞼器Cを患者の眼Oの前方に配置したあと、ドレープDの本体部4を眼瞼Mの表面に載置するとともに、陥凹部6が嵌め込まれた開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31(スライド部31a)および第2の掛止部32(スライド部32a)を上眼瞼M1と下眼瞼M2の間に差し込んで角膜O上に載置したあと、患者の上眼瞼M1と下眼瞼M2の裏側に向けて挿入する。
【0068】
次に、
図11(c)に示すように、一方の手の開瞼器Cの把持機構1の第1の把持部11と第2の把持部12が離間方向に開いていくと、第1のアーム部21と第2のアーム部22は互いに離間しながら眼瞼Mに対して相対的に90度の範囲内で軸回転し、それに伴って第1の掛止部31と第2の掛部32の開口方向Xを後方から上方または下方に変更する。このとき、第1の掛止部31と第2の掛止部32は、引掛部31b、32bが上眼瞼M1と下眼瞼M2の眼瞼縁Nに掛け止められた状態で、スライド部31a、32aが結膜嚢L1までスライドしながら挿入されことによって、上眼瞼M1と下眼瞼M2を次第に開いていく。
【0069】
このように、開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31と第2の掛止部32をドレープDにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M1側の陥凹部6にそれぞれ嵌め込んだあと、開瞼器Cにおける上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の第1の掛止部31と第2の掛止部32を上眼瞼M1と下眼瞼M2の裏側に挿入しながら互いに開いていくことによって、ドレープDを眼Oの周りのに簡単かつ確実に設置することができる。
【0070】
また、
図9および
図10に示すように、開瞼器Cにより上眼瞼M1と下眼瞼M2が開いた状態において、本体部4が眼瞼Mに載置されることによって、眼瞼Mの表面が全周に亘って被覆される。また、上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の垂下部5が、本体部4の内縁部から眼瞼Mの裏側に折り返される一方、鼻側と耳側の垂下部5が、眼瞼Mの裏側に折り返された垂下部5により上下に引っ張られながら鼻側と耳側の結膜L上まで挿入されることによって、眼瞼縁Nが全周に亘って被覆される。さらに、陥凹部6が上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の結膜嚢L1まで挿入されることによって、上眼瞼M1側と下眼瞼M2側の結膜嚢L1が被覆される。よって、ドレープDにより眼瞼縁Nと結膜嚢L1を広い範囲で被覆することができる。
【0071】
而して、眼科手術において術者は、事前の煩わしい作業を行うことなく、患者の眼Oの周りにドレープDと開瞼器Cを速やかに設置することができ、ひいては手術後の細菌性眼内炎などを効果的に防止することが可能となる。
【0072】
なお、開瞼器Cは、ループ部13によりアーム部2を近接離間方向に移動させるものとしたが、その他の把持機構によりアーム部2を近接離間方向に移動させてもよい。また、把持機構1によりアーム部2を介して掛止部3を近接離間方向に移動させるものとしたが、アーム部2を介さずに掛止部3を近接離間方向に移動させてもよい。
【0073】
また、開瞼器Cは、把持機構1およびアーム部2に代わって、連結機構1’により第1の掛止部31と第2の掛止部32を開閉させてもよい。具体的には、この連結機構1’は、
図12に示すように、第1の掛止部31と第2の掛止部32の両端部を上下方向に沿って連結する2本の復元力を有する弾性の連結部15、15を備える。これによれば、開瞼器CおよびドレープDを眼Oの周りに設置する際、第1の掛止部31と第2の掛止部32を近接方向に押圧しながら連結機構1’の連結部15、15を山型に閉じることにより、第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔を狭めながら開口方向を上方または下方から後方に変更させ、第1の掛止部31と第2の掛止部32をドレープDの陥凹部6にそれぞれ嵌め込む。そして、第1の掛止部31と第2の掛止部32に対する押圧を次第に弱めていきながら連結機構1’の連結部15、15を開いていくことにより、第1の掛止部31と第2の掛止部32の間隔を次第に拡げながら開口方向を後方から上方または下方に変更させる過程において、第1の掛止部31と第2の掛止部32のスライド部31a、32aを上眼瞼M1と下眼瞼M2の裏側に同時にスライドさせながら挿入していくとともに、第1の掛止部31と第2の掛止部32の引掛部31b、32bを上眼瞼M1と下眼瞼M2の眼瞼縁Nに引っ掛けることによって、第1の掛止部31と第2の掛止部32を眼瞼Mの眼瞼縁Nに掛け止めた状態で眼瞼Mを簡単かつ安全に開いていくことができる。
【0074】
また、ドレープDの本体部4は、溝部42が形成されるものとしたが、溝部42が形成されていなくてもよい。
【0075】
また、ドレープDの本体部4は、外縁部(先端部4a、側縁部4b、4b、基端部4c)が厚肉に形成されるものとしたが、これに代えて、外縁部に塑性変形可能な剛性体を設けるなどしてもよい。
【0076】
また、ドレープDの垂下部5は、略筒状に形成されるものとしたが、完全に筒状に形成されてもよいし、あるいは上眼瞼M1側と下眼瞼M2側のみに形成されてもよい。
【0077】
また、ドレープDの陥凹部6は、外壁部61、内壁部62、底壁部63、側壁部64から構成されるものとしたが、外壁部61、内壁部62および底壁部63のみから構成されるものなど、開瞼器Cの掛止部3を嵌め込むことができるものであれば、その他の構成であってもよい。
【0078】
また、ドレープDが付いた開瞼器Cとして、ドレープDが別体に構成されたものについて説明したが、ドレープDの陥凹部6に開瞼器Cの掛止部3があらかじめ嵌め込まれることによりドレープDが一体に構成されたものであってもよい。
【0079】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…把持機構
11…第1の把持部(上側部)
12…第2の把持部(下側部)
13…ループ部
14…ヒンジグリップ部
2…アーム部
21…第1のアーム部
22…第2のアーム部
3…掛止部
31…第1の掛止部
31a…スライド部
31b…引掛部
32…第2の掛止部
32a…スライド部
32b…引掛部
4…本体部
4a…先端部
4b…側端部
4c…基端部
41…開口部
42…溝部
42a…側面部
42b…底面部
42c…先端部
42d…排出口
43…突条
5…垂下部
51…窪み部
6…陥凹部
61…外壁部
62…内壁部
63…底壁部
64…側壁部
65…襞部
66…孔部
D…ドレープ
K…開瞼器
M…眼瞼
M1…上眼瞼
M2…下眼瞼
N…眼瞼縁
L…結膜
L1…結膜嚢
O…眼(角膜)