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特開2023-66753深紫外線発生装置、殺菌装置、深紫外線発生方法、及び、殺菌方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066753
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】深紫外線発生装置、殺菌装置、深紫外線発生方法、及び、殺菌方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/16 20060101AFI20230509BHJP
   A61L 2/10 20060101ALI20230509BHJP
   H01J 61/70 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
H01J61/16 N
A61L2/10
H01J61/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177537
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】佐久川 貴志
【テーマコード(参考)】
4C058
5C015
【Fターム(参考)】
4C058AA19
4C058AA30
4C058BB06
4C058KK02
4C058KK12
4C058KK44
4C058KK46
5C015PP03
5C015PP06
(57)【要約】
【課題】安価な希ガスであるArを用いて、効率的に深紫外線を発光することができる深紫外線発生装置、深紫外線発生方法、並びに、これらを用いる殺菌装置及び殺菌方法を提供する。
【解決手段】放電媒質20と、放電媒質20を収容する容器10と、容器10内に設けられた一対の電極30,31と、一対の電極30,31の間にパルス電圧又は交流電圧を印加する電源40とを備え、放電媒質20が、アルゴンと、水蒸気、酸素又は水素とを含み、一対の電極30,31の間にパルス電圧又は交流電圧を印加することにより、容器10内に放電プラズマ60を発生させて深紫外線70を発生させる、深紫外線発生装置1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電媒質と、前記放電媒質を収容する容器と、前記容器内に設けられた一対の電極と、前記一対の電極の間にパルス電圧又は交流電圧を印加する電源とを備え、
前記放電媒質が、アルゴンと、水蒸気、酸素又は水素とを含み、
前記一対の電極の間にパルス電圧又は交流電圧を印加することにより、前記容器内に放電プラズマを発生させて深紫外線を発生させる、深紫外線発生装置。
【請求項2】
前記放電媒質が前記容器内を流れる、請求項1に記載の深紫外線発生装置。
【請求項3】
前記放電媒質が前記容器内に封入されている、請求項1に記載の深紫外線発生装置。
【請求項4】
前記放電媒質が大気圧状態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の深紫外線発生装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の深紫外線発生装置を用いる殺菌装置。
【請求項6】
容器内の一対の電極の間に、アルゴンと、水蒸気、酸素又は水素とを含む放電媒質の存在下、パルス電圧又は交流電圧を印加することにより、前記容器内に放電プラズマを発生させて深紫外線を発生させる、深紫外線発生方法。
【請求項7】
前記容器内に前記放電媒質を流入させ、前記放電媒質を排出しながら、前記一対の電極の間にパルス電圧又は交流電圧を印加する、請求項6に記載の深紫外線発生方法。
【請求項8】
前記容器内に前記放電媒質を封入している状態で、前記一対の電極の間にパルス電圧又は交流電圧を印加する、請求項6に記載の深紫外線発生方法。
【請求項9】
前記放電媒質が大気圧状態である、請求項6~8のいずれか一項に記載の深紫外線発生方法。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか一項に記載の深紫外線発生方法を用いる殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深紫外線発生装置、殺菌装置、深紫外線発生方法、及び、殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の深紫外線発生装置として、殺菌用の水銀灯や希ガスとハロゲンを用いたエキシマランプがある(特許文献1~3等)。エキシマランプは媒質によって波長が異なるが、例えばKrClエキシマは222nmに発光の中心波長がある。
200~300nmの深紫外線(DUV)の波長領域には、殺菌・滅菌に有効とされる、UV-C(200~280nm)が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-188085号公報
【特許文献2】特開2008-146906号公報
【特許文献3】特開2020-080297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の深紫外線発生装置において、水銀灯は紫外線波長254nmを含むスペクトルを発光するので、殺菌に有効であるが水銀を用いているため廃棄時には環境負荷がかかる。エキシマランプは基本的に放電媒質としては高価な希ガス(KrやXe)とハロゲンを用いている。
一方、放電媒質として安価な希ガスであるArを用いた場合、深紫外線(DUV)の波長領域の発光強度が弱い。
【0005】
本発明は上述した事情に照らし、安価な希ガスであるArを用いて、効率的に深紫外線を発光することができる深紫外線発生装置、深紫外線発生方法、並びに、これらを用いる殺菌装置及び殺菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
[1] 放電媒質と、前記放電媒質を収容する容器と、前記容器内に設けられた一対の電極と、前記一対の電極の間にパルス電圧又は交流電圧を印加する電源とを備え、
前記放電媒質が、アルゴンと、水蒸気、酸素又は水素とを含み、
前記一対の電極の間にパルス電圧又は交流電圧を印加することにより、前記容器内に放電プラズマを発生させて深紫外線を発生させる、深紫外線発生装置。
[2] 前記放電媒質が前記容器内を流れる、[1]に記載の深紫外線発生装置。
[3] 前記放電媒質が前記容器内に封入されている、[1]に記載の深紫外線発生装置。
[4] 前記放電媒質が大気圧状態である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の深紫外線発生装置。
[5] [1]~[4]のいずれか一項に記載の深紫外線発生装置を用いる殺菌装置。
【0007】
[6] 容器内の一対の電極の間に、アルゴンと、水蒸気、酸素又は水素とを含む放電媒質の存在下、パルス電圧又は交流電圧を印加することにより、前記容器内に放電プラズマを発生させて深紫外線を発生させる、深紫外線発生方法。
[7] 前記容器内に前記放電媒質を流入させ、前記放電媒質を排出しながら、前記一対の電極の間にパルス電圧又は交流電圧を印加する、[6]に記載の深紫外線発生方法。
[8] 前記容器内に前記放電媒質を封入している状態で、前記一対の電極の間にパルス電圧又は交流電圧を印加する、[6]に記載の深紫外線発生方法。
[9] 前記放電媒質が大気圧状態である、[6]~[8]のいずれか一項に記載の深紫外線発生方法。
[10] [6]~[9]のいずれか一項に記載の深紫外線発生方法を用いる殺菌方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安価な希ガスであるArを用いて、効率的に深紫外線を発光することができる深紫外線発生装置、深紫外線発生方法、並びに、これらを用いる殺菌装置及び殺菌方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る実施形態の深紫外線発生装置1を示す模式図である。
図2】Ar+HOの放電プラズマから発生した放射スペクトルの分光測定結果である。
図3】Arの放電プラズマから発生した放射スペクトルの分光測定結果である。
図4】Ar+HOのパルス放電の電圧及び電流の波形を示すグラフである。
図5】Arのパルス放電の電圧及び電流の波形を示すグラフである。
図6】HCT-116(ヒト大腸癌由来細胞株)へ、Ar+HOの放電プラズマからの細胞照射後の生存率を示すグラフである。
図7】HCT-116(ヒト大腸癌由来細胞株)へ、UV光(312nm)と殺菌灯(254nm)による細胞照射後の生存率を示すグラフである。
図8】実施例1の深紫外線発生装置2を示す模式図である。
図9】各放電媒質20の放電プラズマから発生した放射スペクトルの分光測定結果である。
図10】各放電媒質20の放電プラズマから発生した放射スペクトルの分光測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<<深紫外線発生装置>>
以下、本発明を適用した一実施形態である深紫外線発生装置について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明に係る実施形態の深紫外線発生装置1を示す模式図である。
本実施形態の深紫外線発生装置1は、放電媒質20と、放電媒質20を収容する容器10と、容器10内に設けられた一対の電極30,31と、一対の電極30,31の間にパルス電圧又は交流電圧を印加する電源40とを備え、放電媒質20が、アルゴンと、水蒸気、酸素又は水素とを含み、一対の電極30,31の間にパルス電圧又は交流電圧を印加することにより、容器10内に放電プラズマ60を発生させて深紫外線70を発生させる。
【0012】
一対の電極30,31は、深紫外線(DUV)を透過できる石英管からなる容器10内に対向させて設けられている。一対の電極30,31の形状は、棒状又は針状であってよく、一対の電極30,31の材質は、放電摩耗の少ないタングステンが好ましいがステンレスやその他の金属を用いてもよい。
一対の電極の間隔は特に限定されるものではなく、100mm以下であってよく、80mm以下であってよく、40mm以下であってよく、10mm以下であってもよい。
一対の電極の間隔は2~100mmであってよく、4~80mmであってよく、8~40mmであってもよい。
【0013】
本実施形態の深紫外線発生装置1は、放電媒質20が、アルゴンと、水蒸気、酸素又は水素とを含むので、一対の電極30,31の間にパルス電圧又は交流電圧を印加することにより、容器10内に放電プラズマ60を発生させて深紫外線70を効率的に発生させることができる。具体的には、放電プラズマ60から、波長400nm以下の紫外線の波長領域の発光スペクトルを短波長側にシフトさせる。本実施形態の深紫外線発生装置1から発せられる発光スペクトルには、深紫外線(DUV)の波長領域(200~300nm)のスペクトルが含まれ、特に、殺菌、消臭、ウイルス不活化に有効な、紫外線の中でも波長の短いUV-C(200~280nm)のスペクトルが含まれる。
【0014】
本実施形態の深紫外線発生装置1において、放電媒質20はアルゴン(Ar)と水蒸気(HO)とを含む。放電媒質20として、アルゴン(Ar)を水中にバブリングして、水蒸気(HO)を含むアルゴン(Ar)を、放電媒質流入口50から導入し、放電媒質排出口51から排出させている。放電媒質20は大気圧状態であり、石英管からなる容器10に一定流量(例えば、2L/min)で流れている。
【0015】
放電媒質20として、アルゴン(Ar)に酸素(O)又は水素(H)を添加したものを用いることもでき、アルゴン(Ar)に酸素(O)及び水素(H)の両方を添加したものを用いることもできる。放電媒質20として安価な希ガスであるアルゴン(Ar)を用いているので、深紫外線発生装置1の製造コストを軽減できる。
【0016】
本実施形態の深紫外線発生装置1は、放電媒質20が容器10内を流れる形態を採用する。このため、上述の放電媒質20の種類を上述のように任意に選択することができ、放電媒質20を大気圧状態とすることができる。ここで、「大気圧状態」とは、放電媒質20を流れる形態にする以外に、特に、大気圧から加圧したり減圧したりしない状態をいう。放電媒質20が容器10内に封入されていてもよい。放電媒質20を封入することで、深紫外線発生装置1の量産化が実現でき、製造コストの低減化を図ることができる。
【0017】
容器10内の放電媒質20における、水蒸気(HO)、酸素(O)又は水素(H)の含有割合は特に限定されない。水蒸気(HO)、酸素(O)又は水素(H)の含有割合は、アルゴン(Ar)の含有割合よりも少ない方が、前記容器内に放電プラズマを安定して発生させることができる。水蒸気(HO)、酸素(O)又は水素(H)の含有割合は、放電媒質20の100Vol%に対して、20Vol%以下が好ましく、15Vol%以下がより好ましく、10Vol%以下がさらに好ましい。
容器10内の放電媒質20における、水蒸気(HO)の含有割合は、放電媒質20の100Vol%に対して、0.2×10-4~20×10-4Vol%が好ましく、0.4×10-4~10×10-4Vol%がより好ましく、1×10-4~4×10-4Vol%がさらに好ましい。
容器10内の放電媒質20の残りは、実質的に、全て、アルゴン(Ar)であることが好ましい。
【0018】
容器10は、少なくとも一部が深紫外線を透過する材質で構成され、一対の電極を対向して設けるようにできていればよい。容器10には、放電媒質流入口50及び放電媒質排出口51が設けられていてもよく、放電媒質20を封入できる容器10であってもよい。
【0019】
本実施形態の深紫外線発生装置1は、上述の通り、放電媒質20が、アルゴンと、水蒸気、酸素又は水素とを含むように構成されている。通常の紫外線(254nm)を用いる殺菌ランプでは、通常、アルゴン(Ar)に水銀(Hg)を添加した放電プラズマの発光を用いているが、本実施形態の深紫外線発生装置1では、水銀(Hg)を用いないので、廃棄時の環境負荷を軽減できる。
【0020】
本実施形態の深紫外線発生装置1は、電源40として、電圧立ち上がりの速い高電圧パルス電源を用いている。高電圧パルス電源を用いることで、省電力化でき、ランニングコストを抑えることができる。一対の電極30,31の間隔と放電媒質20のガス圧の調整によっては低電圧化と交流電源での深紫外線(DUV)の発光も可能である。
【0021】
<殺菌装置>
本発明の殺菌装置は、前述の本発明の深紫外線発生装置を用いる。
本発明の殺菌装置は、前述の本発明の深紫外線発生装置を用いており、放電媒質20が、アルゴンと、水蒸気、酸素又は水素とを含むので、深紫外線70を効率的に発生させることができ、特に、殺菌に有効な、紫外線の中でも波長の短いUV-C(200~280nm)を効率的に発生させることができるので、優れた殺菌効果を奏する。放電媒質20として安価な希ガスであるアルゴン(Ar)を用いているので、殺菌装置の製造コストを軽減できる。
【0022】
<<深紫外線発生方法>>
本発明を適用した一の実施形態である深紫外線発生方法は、容器内の一対の電極の間に、アルゴンと、水蒸気、酸素又は水素とを含む放電媒質の存在下、パルス電圧又は交流電圧を印加することにより、前記容器内に放電プラズマを発生させて深紫外線を発生させる。
【0023】
本実施形態の深紫外線発生方法は、前記容器内に前記放電媒質を流入させ、前記放電媒質を排出しながら、前記一対の電極の間にパルス電圧又は交流電圧を印加する。
【0024】
本実施形態の深紫外線発生方法は、前記放電媒質が大気圧状態である。
【0025】
本実施形態の深紫外線発生方法は、前述の図1に示される深紫外線発生装置1を用いて実施することができる。本実施形態の深紫外線発生方法の効果は、前述の深紫外線発生装置1で説明される構成の効果と同様である。
【0026】
本発明を適用した他の実施形態である深紫外線発生方法は、前記容器内に前記放電媒質を封入している状態で、前記一対の電極の間にパルス電圧又は交流電圧を印加する。
【0027】
<殺菌方法>
本実施形態の殺菌方法は、前述の本発明の深紫外線発生装置を用いることができ、放電媒質20が、アルゴンと、水蒸気、酸素又は水素とを含むので、深紫外線70を効率的に発生させることができ、特に、殺菌に有効な、紫外線の中でも波長の短いUV-C(200~280nm)を効率的に発生させることができるので、優れた殺菌効果を奏する。放電媒質20として安価な希ガスであるアルゴン(Ar)を用いているので、殺菌装置の製造コストを軽減できる。
【実施例0028】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
図8に示される実施例1の深紫外線発生装置2を作製した。
以下の説明では、上述した実施形態の深紫外線発生装置1と同様の構成には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
図8に示される深紫外線発生装置2において、容器10は深紫外線(DUV)を透過できる石英管である。石英管の両端に棒状の一対の電極を対向させ、一対の電極の間隔xを70mmに設定した。一対の電極30,31は、何れもステンレス製である。
【0030】
電源40として、電圧立ち上がりの速い、磁気パルス圧縮(MPC:Magnetic Pulse Compression)方式の自作の高電圧パルス電源(最大出力:1J/pulse)を用いた。一対の電極30,31の間の電圧及び電流の時間変化を測定するオシロスコープを接続した。さらに、容器10から40cmの位置に、MPCコントローラーに繋がれた分光器のセンサーを設置して、放電発光スペクトルを計測することができるようにした。
【0031】
放電媒質20として、アルゴン(Ar)を水中にバブリングして、2L/minの一定流量で、水蒸気(HO)を含むアルゴン(Ar)を、放電媒質流入口50から導入し、放電媒質排出口51から排出させた。放電媒質20は大気圧状態であった。
【0032】
電源40から、一対の電極30,31の間に高電圧パルス電圧を印加した。図2は、これによってAr+HOの放電プラズマから発生し、石英管を透過した放射スペクトルの分光測定結果である。短波長側に紫外線(UV)が発生し、長波長側(680nm以上)は典型的なArのスペクトル線である。特に、UV-C(200~280nm)を含む深紫外線(DUV)では、218nmを最大とする3つのスペクトルピークが得られた。また、パルス繰り返し周波数:250Hzのときのパルス放電の電圧及び電流の波形を図4に示す。パルス電圧は24kV、パルス電流は450A程度に達していた。
【0033】
[比較例1]
図8に示される実施例1の深紫外線発生装置2において、放電媒質20をArのみに変更したこと以外は同様にして、電源40から、一対の電極30,31の間に高電圧パルス電圧を印加した。図3は、これによってArの放電プラズマから発生し、石英管を透過した放射スペクトルの分光測定結果である。紫外線(UV)の発生は観測されなかった。また、パルス繰り返し周波数:250Hzのときのパルス放電の電圧及び電流の波形を図5に示す。パルス電圧は24kV、パルス電流は450A程度に達しており、実施例1のときの波形と違いはあまり見られなかった。
【0034】
[実施例2]
図8に示される実施例1の深紫外線発生装置2において、一対の電極の間隔xを75mmに変更したこと以外は同様にして、電源40から、一対の電極30,31の間に高電圧パルス電圧を印加し(照射時間:60s、パルス繰り返し周波数:4,50,100,250Hz)、容器10の石英管の直下300mmの位置に設置したHCT-116(ヒト大腸癌由来細胞株、細胞番号:RCB2979、理化学研究所バイオリソース研究センターから入手)に深紫外線を照射した。細胞照射前後の細胞数を、Cell Counting Kit-8(株式会社同仁化学研究所)を用いて、最適細胞数決定法により測定することで、細胞照射後の生存率を求めた。
結果を図6に示す。図6の縦軸は細胞の生存率を示し、図6の横軸はパルス繰り返し周波数である。本発明の深紫外線発生装置を用いて、後述する比較例3の殺菌灯と比較しても遜色の無い殺菌効果が得られた。したがって、本発明の深紫外線発生装置及び深紫外線発生方法は、多くの細菌の殺菌装置及び殺菌方法として有用であり、多くのウイルスの不活化装置及び不活化方法等として有用である。
【0035】
[比較例2,3]
UV照射装置(LX-312、フランス VILBER LOURMAT社)を用いて、UV光(312nm)を、ランプの直下300mmの位置に設置したHCT-116(ヒト大腸癌由来細胞株)に照射した(照射時間:32s、照射強度:50,100mW/cm、比較例2)。
15W形の殺菌灯(GL15、パナソニック社)を用いて、UV光(254nm)の直下300mmの位置に設置したHCT-116(ヒト大腸癌由来細胞株)に照射した(照射時間:32s、照射強度:60,120mW/cm、比較例3)。
それぞれ、実施例2と同様に、細胞照射前後の細胞数を測定することで、細胞照射後の生存率を求めた。
結果をそれぞれ図7に示す。図7の縦軸は細胞の生存率を示し、図7の横軸は照射強度である。
【0036】
[実施例3]
図8に示される実施例1の深紫外線発生装置2において、一対の電極の間隔xを10mmに変更し、一対の電極30,31の材質をタングステンに変更したこと以外は同様にして、電源40から、一対の電極30,31の間に高電圧パルス電圧を印加した。図9に、これによってAr+HOの放電プラズマから発生し、石英管を透過した放射スペクトルの分光測定結果を示す。短波長側に紫外線(UV)が発生し、長波長側(680nm以上)は典型的なArのスペクトル線である。特に、UV-C(200~280nm)を含む深紫外線(DUV)では、218nmを最大とする3つのスペクトルピークが得られた。このときのパルス放電の電圧及び電流の波形を測定したところ、電圧最大値が180V、電流最大値が352Aのパルス波形となっていた。
【0037】
[比較例4]
実施例3の深紫外線発生装置2において、放電媒質20として、酸素(O)を水中にバブリングして、2L/minの一定流量で、水蒸気(HO)を含む酸素(O)を、放電媒質流入口50から導入し、放電媒質排出口51から排出させたこと以外は同様にして、電源40から、一対の電極30,31の間に高電圧パルス電圧を印加した。図9に、これによってO+HOの放電プラズマから発生し、石英管を透過した放射スペクトルの分光測定結果を示す。紫外線(UV)の発生が観測されたが、実施例3のAr+HOの放電プラズマから発生した放射スペクトルに比べて、全体的に発光強度は弱かった。
【0038】
[比較例5]
実施例3の深紫外線発生装置2において、放電媒質20として、ヘリウム(He)を水中にバブリングして、2L/minの一定流量で、水蒸気(HO)を含むヘリウム(He)を、放電媒質流入口50から導入し、放電媒質排出口51から排出させたこと以外は同様にして、電源40から、一対の電極30,31の間に高電圧パルス電圧を印加した。図9に、これによってHe+HOの放電プラズマから発生し、石英管を透過した放射スペクトルの分光測定結果を示す。紫外線(UV)の発生が観測されなかった。
【0039】
[実施例4]
実施例3の深紫外線発生装置2において、放電媒質20として、アルゴン(Ar)に酸素(O)のドナーガスをAr:O=9:1の体積比で混合し、2L/minの一定流量で、アルゴン(Ar)及び酸素(O)の混合ガスを、放電媒質流入口50から導入し、放電媒質排出口51から排出させたこと以外は同様にして、電源40から、一対の電極30,31の間に高電圧パルス電圧を印加した。図10に、これによってAr+Oの放電プラズマから発生し、石英管を透過した放射スペクトルの分光測定結果を、実施例3の結果と共に示す。短波長側に紫外線(UV)が発生し、特に、UV-C(200~280nm)を含む深紫外線(DUV)では、3つのスペクトルピークが得られた。
【0040】
[実施例5]
実施例3の深紫外線発生装置2において、放電媒質20として、アルゴン(Ar)に水素(H)のドナーガスをAr:H=9:1の体積比で混合し、2L/minの一定流量で、アルゴン(Ar)及び水素(H)の混合ガスを、放電媒質流入口50から導入し、放電媒質排出口51から排出させたこと以外は同様にして、電源40から、一対の電極30,31の間に高電圧パルス電圧を印加した。図10に、これによってAr+Hの放電プラズマから発生し、石英管を透過した放射スペクトルの分光測定結果を、実施例3及び4の結果と共に示す。短波長側に紫外線(UV)が発生し、特に、UV-C(200~280nm)を含む深紫外線(DUV)では、3つのスペクトルピークが得られた。
【0041】
O、H、Oの3種のドナーガスとも、400nm以下の短波長の領域において若干の強度差はあるもののスペクトル形状は一致していた。
ArにHO、H、Oのいずれかをドナーガスとして添加すれば、放電プラズマを発生させることで、UV-C(200~280nm)を含む深紫外線(DUV)が、良好に発光させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の深紫外線発生装置及び深紫外線発生方法は、深紫外線(DUV)の波長領域で良好な強度のスペクトルピークが得られるので、殺菌装置及び殺菌方法、滅菌装置及び滅菌方法、ウイルスの不活化装置及び不活化方法、空気清浄装置及び空気清浄方法、半導体の洗浄装置及び洗浄方法、消臭装置及び消臭方法などの幅広い用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…深紫外線発生装置、10…容器、20…放電媒質、30,31…一対の電極、40…電源、50…放電媒質流入口、51…放電媒質排出口、60…放電プラズマ、70…深紫外線、x…一対の電極の間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10