(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006679
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】静電チャック
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
H01L21/68 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109403
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】糸山 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】上藤 淳平
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131BA03
5F131BA04
5F131BA19
5F131BA23
5F131CA03
5F131CA04
5F131EA03
5F131EB12
5F131EB13
5F131EB18
5F131EB78
5F131EB82
5F131EB85
(57)【要約】 (修正有)
【課題】加工中に放電抑制効果の低下を抑制できる静電チャックを提供する。
【解決手段】静電チャック110は、吸着対象物を載置する第1主面11aと、その反対側の第2主面11bと、第2主面から第1主面にかけて設けられた貫通孔15と、を有するセラミック誘電体基板11と、該誘電体基板を支持し貫通孔と連通するガス導入路53を有する金属製のベースプレート50と、該誘電体基板とベースプレートとの間に配置され貫通孔及びガス導入路と連通する開口部60sを有する接合層60と、ガス導入路に設けられ、該誘電体基板側の上面と反対側の下面とを有するセラミック質の多孔質部70とを備える。ベースプレートから誘電体基板へ向かう第1方向に対して垂直な方向を第2方向としたときに、第2方向視において、多孔質部の上面は開口部と重なるよう配置されており、多孔質部とガス導入路との間に絶縁性の弾性体からなる位置ずれ防止材90を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着の対象物を載置する第1主面と、前記第1主面とは反対側の第2主面と、前記第2主面から前記第1主面にかけて設けられた貫通孔と、を有するセラミック誘電体基板と、
前記セラミック誘電体基板を支持し、前記貫通孔と連通するガス導入路を有する金属製のベースプレートと、
前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に配置され、前記貫通孔および前記ガス導入路と連通する開口部を有する接合層と、
前記ガス導入路に設けられ、前記セラミック誘電体基板側の上面と、前記上面と反対側の下面とを有するセラミック質の多孔質部と、
を備え、
前記ベースプレートから前記セラミック誘電体基板へ向かう第1方向、前記第1方向に対して垂直な方向を第2方向としたときに、前記第2方向視において、前記多孔質部の前記上面は前記開口部と重なるよう配置されており、
前記多孔質部と前記ガス導入路との間に絶縁性の弾性体からなる位置ずれ防止部を備えた静電チャック。
【請求項2】
前記多孔質部は、前記ガス導入路内において位置が可変に構成される、請求項1記載の静電チャック。
【請求項3】
前記第1方向に垂直な平面に投影したときに、前記多孔質部は、前記上面を含む第1部分と、前記下面を含む第2部分と、前記第1部分と前記第2部分との間に位置する第3部分と、を有し、
前記位置ずれ防止部は、前記多孔質部と前記ガス導入路との間であって、前記多孔質部の前記第2部分および前記第3部分のいずれかに対応する位置に設けられる、請求項1または2に記載の静電チャック。
【請求項4】
前記位置ずれ防止部は、前記第2部分に対応する位置に設けられる、請求項3記載の静電チャック。
【請求項5】
前記位置ずれ防止部は、前記第2部分に対応する位置であって、前記下面近傍に設けられる、請求項4記載の静電チャック。
【請求項6】
前記位置ずれ防止部は、セラミック、樹脂、の少なくとも1つを含む、請求項1~5のいずれか1つに記載の静電チャック。
【請求項7】
前記位置ずれ防止部は環状であり、前記多孔質部の外周および前記下面の少なくともいずれかと前記ガス導入路との間に配置される、請求項1~6のいずれか1つに記載の静電チャック。
【請求項8】
前記位置ずれ防止部は、耐プラズマ性を備えた樹脂製のOリングである、請求項7記載の静電チャック。
【請求項9】
前記位置ずれ防止部はばね状であり、前記ガス導入路と前記多孔質部の下面との間に配置される、請求項1~6のいずれか1つに記載の静電チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ等のセラミック誘電体基板のあいだに電極を挟み込み、焼成することで作製されるセラミック製の静電チャックは、内蔵する電極に静電吸着用電力を印加し、シリコンウェーハ等の基板を静電力によって吸着するものである。このような静電チャックにおいては、セラミック誘電体基板の表面と、吸着対象物である基板の裏面と、の間にヘリウム(He)等の不活性ガスを流し、吸着対象物である基板の温度をコントロールしている。
【0003】
例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置、スパッタリング装置、イオン注入装置、エッチング装置など、基板に対する処理を行う装置において、処理中に基板の温度上昇を伴うものがある。このような装置に用いられる静電チャックでは、セラミック誘電体基板と吸着対象物である基板との間にHe等の不活性ガスを流し、基板に不活性ガスを接触させることで基板の温度上昇を抑制している。
【0004】
He等の不活性ガスによる基板温度の制御を行う静電チャックにおいては、セラミック誘電体基板及びセラミック誘電体基板を支持する金属製のベースプレートに、He等の不活性ガスを導入するための穴(ガス導入路)が設けられる。
【0005】
ここで、装置内で基板を処理する際、ガス導入路内において放電が発生することがある。特許文献1には、ガス導入路内にセラミック焼結多孔体を設け、セラミック焼結多孔体の構造及び膜孔をガス流路にすることで、ガス導入路内での絶縁性を向上させた静電チャックが開示されている。
【0006】
特許文献2には、アーク放電を抑制するために、多孔質プラグ244をチャック本体のチャック空洞部とベース空洞部に延在させて配置することが記載されている。
【0007】
特許文献3には、冷却プレートの筒状孔に緻密質プラグが配置され、緻密質プラグの上面がセラミックプレートの下面にセラミック接合された静電チャックが開示されている。
【0008】
特許文献4には、セラミック板あるいはベース部材に形成された収容質に多孔質体を配置し、多孔質体の周りに環状プロテクト材を配置し、該プロテクト材の外周側に接合層を配置する構成が記載されている
【0009】
しかしながら、セラミック誘電体基板と、金属製のベースプレートとでは熱膨張係数に差がある。また、セラミック誘電体基板とベースプレートとの熱膨張の程度が異なることに起因して、ウェーハ加工時に静電チャックに加わる熱によって、多孔体に応力が加わりその位置が所望の位置から変化したり、多孔体にクラック等の破損が生じたりする恐れがあることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010-123712号公報
【特許文献2】特開2019-212910号公報
【特許文献3】特開2020-057786号公報
【特許文献4】特開2021-057468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、ガス導入路内に多孔質部を設けた構造において、ウェーハ加工中に放電抑制効果が低下することを抑制できる静電チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、吸着の対象物を載置する第1主面と、前記第1主面とは反対側の第2主面と、前記第2主面から前記第1主面にかけて設けられた貫通孔と、を有するセラミック誘電体基板と、前記セラミック誘電体基板を支持し、前記貫通孔と連通するガス導入路を有する金属製のベースプレートと、前記セラミック誘電体基板と前記ベースプレートとの間に配置され、前記貫通孔および前記ガス導入路と連通する開口部を有する接合層と、前記ガス導入路に設けられ、前記セラミック誘電体基板側の上面と、前記上面と反対側の下面とを有するセラミック質の多孔質部と、を備え、前記ベースプレートから前記セラミック誘電体基板へ向かう第1方向、前記第1方向に対して垂直な方向を第2方向としたときに、前記第2方向視において、前記多孔質部の前記上面は前記開口部と重なるよう配置されており、前記多孔質部と前記ガス導入路との間に絶縁性の弾性体からなる位置ずれ防止部を備えた静電チャックである。
【0013】
この静電チャックによれば、ウェーハ加工時にセラミック誘電体基板と金属製ベースプレートとの膨張差などにより多孔質部に応力が加わった場合でも、多孔質部が破損することを抑制し、かつ、多孔質部の位置がずれ放電抑制効果が低下することを抑制することができる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、前記多孔質部は、前記ガス導入路内において位置が可変に構成される静電チャックである。
【0015】
この静電チャックによれば、ウェーハ加工時にセラミック誘電体基板と金属製ベースプレートとの膨張差などにより多孔質部に応力が加わった場合でも、多孔質部が破損することを効果的に抑制することができる
【0016】
第3の発明は、第1または2の発明において、前記第1方向に垂直な平面に投影したときに、前記多孔質部は、前記上面を含む第1部分と、前記下面を含む第2部分と、前記第1部分と前記第2部分との間に位置する第3部分と、を有し、前記位置ずれ防止部は、前記多孔質部と前記ガス導入路との間であって、前記多孔質部の前記第2部分および前記第3部分のいずれかに対応する位置に設けられる静電チャックである。
【0017】
この静電チャックによれば、多孔質部の位置ずれを効果的に抑制することができる。また、プラズマによる位置ずれ防止部のエロージョンを抑制することができる。
【0018】
第4の発明は、第3の発明において、前記位置ずれ防止部は、前記第2部分に対応する位置に設けられる静電チャックである。
【0019】
この静電チャックによれば、多孔質部の位置ずれをより効果的に抑制することができる。また、プラズマによる位置ずれ防止部のエロージョンを抑制することができる。
【0020】
第5の発明は、第4の発明において、前記位置ずれ防止部は、前記第2部分に対応する位置であって、前記下面近傍に設けられる静電チャックである。
【0021】
この静電チャックによれば、多孔質部の位置ずれをさらに効果的に抑制することができる。また、プラズマによる位置ずれ防止部のエロージョンを抑制することができる。
【0022】
第6の発明は、第1~第5のいずれか1つの発明において、前記位置ずれ防止部は、セラミック、樹脂、の少なくとも1つを含む静電チャックである。
【0023】
この静電チャックによれば、多孔質部の位置ずれを長期間に亘って抑制することができる。
【0024】
第7の発明は、第1~第6のいずれか1つの発明において、前記位置ずれ防止部は環状であり、前記多孔質部の外周および前記下面の少なくともいずれかと前記ガス導入路との間に配置される静電チャックである。
【0025】
この静電チャックによれば、多孔質部の位置ずれを効果的に抑制することができる。
【0026】
第8の発明は、第7の発明において、前記位置ずれ防止部は、耐プラズマ性を備えた樹脂製のOリングである静電チャックである。
【0027】
この静電チャックによれば、簡便な構造で多孔質部の位置ずれを効果的に抑制することができる。
【0028】
第9の発明は、第1~第6のいずれか1つの発明において、前記位置ずれ防止部はばね状であり、前記ガス導入路と前記多孔質部の下面との間に配置される静電チャックである。
【0029】
この静電チャックによれば、多孔質部の位置ずれを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の態様によれば、ガス導入路内に多孔質部を設けた構造においてウェーハ加工中に放電抑制効果が変化することを抑制できる静電チャックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施形態に係る静電チャックを例示する模式的断面図である。
【
図2】
図2(a)~
図2(c)は、実施形態に係る静電チャックを例示する模式図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、実施形態に係る静電チャックを例示する模式図である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、実施形態に係る静電チャックを例示する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0033】
図1は、本実施形態に係る静電チャックを例示する模式的断面図である。
図1に表したように、実施形態に係る静電チャック110は、セラミック誘電体基板11と、ベースプレート50と、多孔質部70と、を備える。
セラミック誘電体基板は例えば、Al2O3、AlN、SiC、Y2O3等である。好ましくはAl2O3である。
【0034】
セラミック誘電体基板11は、例えば焼結セラミックによる平板状の基材であり、シリコンウェーハなどの半導体基板等の吸着の対象物Wを載置する第1主面11aと、この第1主面11aとは反対側の第2主面11bと、を有する。セラミック誘電体基板11には、第2主面11bから第1主面11aにかけて設けられた貫通孔15を備えている。貫通孔15にはヘリウム(He)等の伝達ガスが供給される。
【0035】
セラミック誘電体基板11には、電極12が設けられる。電極12は、セラミック誘電体基板11の第1主面11aと、第2主面11bと、のあいだに介設されている。すなわち、電極12は、セラミック誘電体基板11の中に挿入されるように形成されている。静電チャック110は、この電極12に吸着保持用電圧80を印加することによって、電極12の第1主面11a側に電荷を発生させ、静電力によって対象物Wを吸着保持する。
【0036】
ここで、本実施形態の説明においては、ベースプレート50からセラミック誘電体基板11へ向かう方向をZ方向(第1方向の一例に相当する)、Z方向と略直交する方向の1つをY方向(第2方向の一例に相当する)、Z方向及びY方向に略直交する方向をX方向(第2方向の一例に相当する)ということにする。
【0037】
電極12は、セラミック誘電体基板11の第1主面11a及び第2主面11bに沿って薄膜状に設けられている。電極12は、対象物Wを吸着保持するための吸着電極である。電極12は、単極型でも双極型でもよい。
【0038】
電極12には、セラミック誘電体基板11の第2主面11b側に延びる接続部20が設けられている。接続部20は、電極12と導通するビア(中実型)やビアホール(中空型)、もしくは金属端子をロウ付けなどの適切な方法で接続したものである。
【0039】
ベースプレート50は、セラミック誘電体基板11を支持する金属製の部材である。
ベースプレート50には、ガス導入路53が設けられる。ガス導入路53は、ベースプレート50を例えば貫通するように設けられる。ガス導入路53は、ベースプレート50を貫通せず、他のガス導入路53の途中から分岐してセラミック誘電体基板11側まで設けられていてもよい。また、ガス導入路53は、ベースプレート50の複数箇所に設けられていてもよい。
【0040】
ガス導入路53は、貫通孔15と連通する。対象物Wを吸着保持した状態でガス導入路53からヘリウム(He)等の伝達ガスを導入すると、対象物Wと溝14(後述)との間に設けられた空間に伝達ガスが流れ、対象物Wを伝達ガスによって直接冷却することができるようになる。セラミック誘電体基板11は、
図2(a)に表した接合層60によってベースプレート50の上に固定される。
【0041】
接合層60は、Z方向において、ベースプレート50とセラミック誘電体基板11との間の一部に設けられ、ベースプレート50とセラミック誘電体基板11とを接合する。接合層60は、セラミック誘電体基板11の貫通孔15およびガス導入路53と連通する開口部60sを有する。接合層60は、樹脂材料を含む。接合層60としては、例えばシリコーン接着剤の硬化層が用いられる。
【0042】
ベースプレート50は、例えば、アルミニウム製の上部50aと下部50bとに分けられており、上部50aと下部50bとのあいだに連通路55が設けられている。連通路55は、一端側が入力路51に接続され、他端側が出力路52に接続される。
【0043】
ベースプレート50は、静電チャック110の温度調整を行う役目も果たす。例えば、静電チャック110を冷却する場合には、入力路51から冷却媒体を流入し、連通路55を通過させ、出力路52から流出させる。これにより、冷却媒体によってベースプレート50の熱を吸収し、その上に取り付けられたセラミック誘電体基板11を冷却することができる。一方、静電チャック110を保温する場合には、連通路55内に保温媒体を入れることも可能である。または、セラミック誘電体基板11やベースプレート50に発熱体を内蔵させることも可能である。このように、ベースプレート50を介してセラミック誘電体基板11の温度が調整されると、静電チャック110で吸着保持される対象物Wの温度を調整することができる。
【0044】
また、セラミック誘電体基板11の第1主面11a側には、必要に応じてドット13が設けられており、ドット13の間に溝14が設けられている。この溝14は連通していて、静電チャック110に搭載された対象物Wの裏面と溝14とのあいだに空間が形成される。
【0045】
溝14には、セラミック誘電体基板11に設けられた貫通孔15が接続される。
【0046】
ドット13の高さ(溝14の深さ)、ドット13及び溝14の面積比率、形状等を適宜選択することで、対象物Wの温度や対象物Wに付着するパーティクルを好ましい状態にコントロールすることができる。
【0047】
多孔質部70は、ベースプレート50に設けられたガス導入路53に設けられる。多孔質部70は、ベースプレート50(ガス導入路53)のセラミック誘電体基板11側に嵌め込まれる。多孔質部70は、例えば、ガス導入路53内において位置が可変に構成されている。
【0048】
図2(a)~
図2(c)は、実施形態に係る静電チャックを例示する模式図である。
図2(a)は、多孔質部70の周辺を例示する断面図である。
図2(a)は、
図1に示すA部の拡大図に相当する。
図2(b)は、多孔質部70を例示する平面図である。
図2(c)は、多孔質部70を例示する模式的断面図である。
図3(a)および
図3(b)は、実施形態に係る静電チャックを例示する模式図である。
図2(a)に表したように、例えば、ベースプレート50(ガス導入路53)のセラミック誘電体基板11側には、座ぐり部53aが設けられる。座ぐり部53aはガス導入路53の一部である。座ぐり部53aは、筒状に設けられる。座ぐり部53aの内径を適切に設計することで、多孔質部70は、座ぐり部53aに嵌合される。
本明細書において、「多孔質部70とガス導入路53との間」とは、ガス導入路53(座ぐり部53a)と多孔質部70の外周(緻密領域73の側面73s)との間、および、ガス導入路53(座ぐり部53a)と多孔質部70の下面70Bとの間、ガス導入路53内部等が該当する。
【0049】
図2(a)および
図2(c)に示すように、多孔質部70は、上面70Uと、下面70Bと、を有する。多孔質部70の上面70Uは、セラミック誘電体基板11の第2主面11bと対向している。絶縁体プラグ70の上面70Uは、絶縁体プラグ70のZ方向(第1方向)の端面である。下面70Bは上面70Uと反対側の面である。
多孔質部70は、上面70Uを含む第1部分701と、下面70Bを含む第2部分702と、第1部分701と第2部分702との間に位置する第3部分703と、を有する。Z方向において、第2部分702、第3部分703、第1部分701の順に並んで配置される。第3部分703は例えば、多孔質部70のZ軸に沿う長さLの中心を含むように設定してもよい。第1部分701と第2部分702との間には第3部分703のほかにも部分を備えていてもよい。
【0050】
X方向またはY方向視(第2方向視)において、多孔質部70の上面70Uは、開口部60sと重なるよう配置される。多孔質部70の上面70Uは、接合層60の開口部60s内に位置する。多孔質部70の上面70Uと、セラミック誘電体基板11の第2主面11bとの間には隙間SPがないことが好ましい。それによって放電を効果的に抑制することができる。好ましくは多孔質部70の上面70Uはセラミック誘電体基板11の第2主面11bと接している。
【0051】
多孔質部70は、ガス導入路53内において接着剤などで位置を一定程度固定されていてもよいが、位置が可変に構成されていることがより好ましい。それによって、ウェーハ加工時にセラミック誘電体基板11と金属製ベースプレート50との膨張差などにより多孔質部70に加わる応力によって多孔質部70が破損することを抑制できる。
【0052】
図2(b)に表したように、多孔質部70は、例えば、複数の孔を有する多孔領域71と、多孔領域71よりも緻密な緻密領域73と、を有する。
多孔質部70は、柱状(例えば円柱状)である。また、多孔領域71は、柱状(例えば円柱状)である。緻密領域73は、多孔領域71と接している、または、多孔領域71と連続している。緻密領域73と多孔領域71とは別体であってもよい。一例として、多孔領域71の外周に、緻密領域73として1または2以上に分割されたセラミックスリーブを配置してもよい。
図2(b)に示すように、この例ではZ方向に沿って見たときに、緻密領域73は、多孔領域71の外周を囲む。緻密領域73は、多孔領域71の側面71sを囲む筒状(例えば円筒状)である。言い換えれば、多孔領域71は、緻密領域73をZ方向に貫通するように設けられている。ガス導入路53から流入したガスは、多孔領域71に設けられた複数の孔を通り、貫通孔15を通って溝14に供給される。
【0053】
このような多孔領域71を有する多孔質部70を設けることにより、貫通孔15に流れるガスの流量を確保しつつ、多孔質部70における熱伝導率を高めることができるため、吸着の対象物Wに対してウェーハ温度均一性の高い温度制御を行うことができる。また、多孔質部70が緻密領域73を有することにより、多孔質部70の剛性(機械的な強度)を向上させることができる。
【0054】
緻密領域73は、多孔領域71に比べて孔が少ない領域、または、実質的に孔を有さない領域である。緻密領域73の気孔率(パーセント:%)は、多孔領域71の気孔率(%)よりも低い。そのため、緻密領域73の密度(グラム/立方センチメートル:g/cm3)は、多孔領域71の密度(g/cm3)よりも高い。緻密領域73が多孔領域71に比べて緻密であることにより、例えば、緻密領域73の剛性(機械的な強度)は、多孔領域71の剛性よりも高い。
【0055】
緻密領域73の気孔率は、例えば、緻密領域73の全体積に占める、緻密領域73に含まれる空間(孔)の体積の割合である。多孔領域71の気孔率は、例えば、多孔領域71の全体積に占める、多孔領域71に含まれる空間(孔)の体積の割合である。例えば、多孔領域71の気孔率は、5%以上40%以下、好ましくは10%以上30%以下であり、緻密領域73の気孔率は、0%以上5%以下である。
【0056】
緻密領域73の厚さ(多孔領域71の側面71sと、緻密領域73の側面73sと、の間の長さL0)は、例えば、100μm以上3000μm以下である。
【0057】
多孔質部70の材料には、絶縁性を有するセラミックが用いられる。多孔質部70(多孔領域71及び緻密領域73のそれぞれ)は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)及び酸化イットリウム(Y2O3)の少なくともいずれかを含む。これにより、多孔質部70の高いウェーハ温度均一性と高い剛性とを得ることができる。
【0058】
例えば、多孔質部70は、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化イットリウムのいずれかを主成分とする。
【0059】
本明細書において、セラミック誘電体基板11の酸化アルミニウムなどのセラミックス純度は、蛍光X線分析、ICP-AES法(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry:高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)などにより測定することができる。
【0060】
例えば、多孔領域71の材料と緻密領域73の材料とは、同じである。ただし、多孔領域71の材料は緻密領域73の材料と異なっていてもよい。多孔領域71の材料の組成は、緻密領域73の材料の組成と異なっていてもよい。
【0061】
図3(a)および
図3(b)を参照してさらに説明する。
図2(a)および(b)に示すように、多孔質部70とガス導入路53との間に、位置ずれ防止部90が設けられる。この例では、位置ずれ防止部90は多孔質部70およびガス導入路53のそれぞれと接して配置されている。例えば多孔質部70のうち、緻密領域73の側面(外周)73sと、ガス導入路53の座ぐり部53aとの間に位置ずれ防止部90が配置される。位置ずれ防止部90は、絶縁性の弾性体からなる。
上述した通り、多孔質部70の上面70Uと、セラミック誘電体基板11の第2主面11bとの間に隙間SPがあると、この隙間SPにて放電が生じ、セラミック誘電体基板11や多孔体70などが破損する恐れがある。そのため、隙間SPが極力ゼロとなるように多孔質部70の上面70Uを配置している。
【0062】
ところが、ウェーハ加工時に処理チャンバ内が高温となり、静電チャックも高温に曝される。セラミック誘電体基板11と金属製のベースプレート50とでは熱膨張に差がある。セラミックスの線熱膨張係数は3~7×10
-6/℃程度、金属の線膨張係数は10~30×10
-6/℃程度である。
図3(a)に示すように、静電チャックが高温に曝された際のベースプレート50の熱膨張F2は、セラミック誘電体基板11の熱膨張F1より大きい。一方、静電チャック110使用時に、ベースプレート50は、その外周がチャンバに固定されている(図示省略)。したがって、ベースプレート50は外周が固定された状態で膨張する。一方、ベースプレート50とセラミック誘電体基板11との間に配置される接合層60はベースプレート50の変形に追従して変形する。そのため、
図3(b)に示すように、多孔質部70の上面70Uにおいて、セラミック誘電体基板11の第2主面11bとの間の隙間SPが大きくなり、放電抑制効果が低下する恐れがある。また、多孔質部70に応力が加わって多孔質部70が破損する恐れがある。
【0063】
多孔質部70とガス導入路53との間位置に位置ずれ防止部90を設けることで、多孔質部70の上面よUとセラミック誘電体基板11の第2主面11bとの間の隙間SPが変化することを抑制でき、放電抑制効果が変化することを防止できる。また、多孔質部70に加わる応力を位置ずれ防止部90によって緩和することができ多孔質部70の破損を抑制できる。さらに、位置ずれ防止部90が絶縁性であるため、放電を効果的に抑制できる。
【0064】
位置ずれ防止部90は、多孔質部70とガス導入路53との間であって、多孔質部70のうち第2部分702および第3部分703のいずれかに対応する位置に設けられる。位置ずれ防止部90を多孔質部70の第3部分703に対応する位置に配置する例では、位置ずれ防止部90は座ぐり部53aと緻密領域73の側面(外周)73s、すなわち多孔質部70の外周の少なくとも一部に配置される。位置ずれ防止部90を多孔質部70の上面70Uから一定の距離離間した下側の位置に配置することで、多孔質部70の位置ずれを効果的に抑制することができる。また、位置ずれ防止部90をプラズマからより離間した位置に配置できるため、位置ずれ防止部90のプラズマによるエロージョンを抑制できる。位置ずれ防止部90は、多孔質部70のうち第2部分702に対応する位置に設けられることが好ましい。また、位置ずれ防止部90を、多孔質部70のうち第2部分702に対応する位置であって、下面70B近傍に設けることがより好ましい。
図3(b)に示すように、多孔質部70の外周部分に隙間SPが生じる場合には、位置ずれ防止部90を多孔質部70の外周部分に接して配置することも好ましい。
【0065】
位置ずれ防止部90を構成する材料は、弾性体である。耐プラズマ性に優れることも好ましい。具体的には、位置ずれ防止部90は、セラミック、樹脂の少なくとも1つを含む。樹脂の例として、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。セラミックの例として、アルミナ、ジルコニア、イットリアなどが挙げられる。
【0066】
図2に示すように、一例として、位置ずれ防止部材90は環状であり、多孔質部70の外周を囲うように配置される。多孔質部70の外周および下面70Uの少なくともいずれかとガス導入路53(座ぐり部53a)との間に配置する。多孔質部70の外周に位置ずれ防止部90を配置する場合、例えば位置ずれ防止部90が多孔質部70の外周を囲うように配置してもよい。
図2(a)に示すように、位置ずれ防止部90を多孔質部70の下面70Uに接して配置すれば、位置ずれ防止部90の弾性効果によって、より効果的に位置ずれを防止でき好ましい。例えば位置ずれ防止部材90は耐プラズマ性を備えた樹脂製のOリングである。これによって簡便な手段で効果的に多孔質部70の位置ずれを抑制することができる。
【0067】
図4(a)及び
図4(b)は、他の実施形態に係る静電チャックを例示する模式的断面図である。
図4(a)および
図4(b)に示すように、本実施形態では、位置ずれ防止部材90は、その一端90aが多孔質部70の下面70Bに接して配置されている。位置ずれ防止部90の一端90aの反対側の他端90bを有し、他端90bは固定部(図示しない)などに接続されてもよい。位置ずれ防止部材90はばね状であり、多孔質部70の下面70から上方に押し上げることで、ウェーハ加工時に多孔質部70の上面70Uとセラミック誘電体基板11の第2主面11bとの間に隙間SPが生じることを抑制している。この構成によれば多孔質部70の位置ずれを効果的に抑制することができる。
図4(a)に示す例では位置ずれ防止部材90として複数のばねを多孔質部70の下面70Bと接する位置であり、かつ、ガス導入路53の内壁近傍に配置している。
図4(b)に示す例では、位置ずれ防止部材90として1つのばねを多孔質部70の下面70Bと接する位置であり、かつガス導入路53全体に配置している。
これらは位置ずれ防止部材90をばねで構成する場合の一例であって本発明はこれに限定されない。例えば、位置ずれ防止部材90を1つの環状のばねで構成し、多孔質部70の下面70Bと接する位置であり、かつ、ガス導入路53の内壁近傍に配置してもよい。また、1つの環状のばねの中央に、さらに別のばねを配置して位置ずれ防止部90を構成してもよい。このとき、ガス導入路53の内壁近傍に配置される環状のばねの力を、中央に配置される別のばねの力よりも大きくしてもよい。位置ずれ防止部90を複数のばねで構成し、ガス導入路53全体に配置してもよい。位置ずれ防止部90を複数のばねで構成し、ガス導入路53全体に配置する際に、ガス導入路53の内壁近傍に配置されるばねの力を、ガス導入路の中央部分に配置されるばねの力よりも大きくしてもよい。なお、多孔質部70と位置ずれ防止部90とが直接接しておらず間に介在物があってもよい。
ばねの材質は例えばアルミナやジルコニア、イットリア、窒化アルミ等のセラミックスあるいはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエーテルイミド(PEI)等の樹脂である。
【0068】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。例えば、静電チャック110として、クーロン力を用いる構成を例示したが、ジョンソン・ラーベック力を用いる構成であっても適用可能である。また、前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0069】
11 セラミック誘電体基板、 11a 第1主面、 11b 第2主面、 12 電極、 13 ドット、 14 溝、 15 貫通孔、 20 接続部、 50 ベースプレート、 50U 上面、 50a 上部、 50b 下部、 51 入力路、 52 出力路、 53 ガス導入路、 53a 座ぐり部、 55 連通路、 60 接合層、60s 開口部、 70 多孔質部、 70B 下面、70U 上面、 701 第1部分、 702 第2部分、 703 第3部分、71 多孔領域、 73 緻密領域、 73s 側面(外周)、 80 吸着保持用電圧、 90 位置ずれ防止部、90a 一端、 90b 他端、 110 静電チャック、 F 膨張力、 L 長さ、 SP 隙間、 W 対象物