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特開2023-66815仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セット
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  • 特開-仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セット 図1
  • 特開-仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セット 図2
  • 特開-仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セット 図3A
  • 特開-仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セット 図3B
  • 特開-仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セット 図4
  • 特開-仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セット 図5
  • 特開-仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セット 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066815
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セット
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/16 20060101AFI20230509BHJP
   B23K 9/035 20060101ALI20230509BHJP
   B23K 37/00 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
B23K9/16 M
B23K9/035 A
B23K37/00 301B
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177626
(22)【出願日】2021-10-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昇悟
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 淳也
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001AA04
4E001CA01
4E001CA03
4E001DD01
4E001DF05
4E001EA02
4E081AA02
4E081BA03
4E081BA40
4E081EA39
(57)【要約】
【課題】人手を要することなく安全に仮付け溶接が可能で、不活性ガスの消費量を軽減できる仮付け溶接用シール治具の提供。
【解決手段】被溶接材料101同士の溝102に装着される方形状の板材からなる装着部材2と、少なくとも4個のナット列3は、装着部材2に対して直行するように配置されると共にナット列3の最も内側の2個のナット対の間に装着部材2の前方上部が装着固定されており、装着部材2の後方上部には錘部材7付きのハンドル6が固定されており、ナット列3の最も外側の2個のナット対には、一対の頭付きボルト4A、4Bが螺合可能であり、装着部材2の前方下部には、4つの側壁と上面開口からなる底が浅い方形状のバックシール容器8が固定されており、上面開口部位に多孔シート80が設置され、4つの側壁のうちの装着部材2が設置される側の側壁以外の部位の何れかに容器の内部に連通する不活性ガス管81が接続されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板又は配管を含む被溶接材料同士を突き合わせ溶接する際に用いる仮付け溶接用シール治具であり、
被溶接材料同士の溝に装着される方形状の板材からなる装着部材と、
ネジ穴を上下方向に向けて配置された複数のナットを直列に接続固定してなる少なくとも4個のナット列と、を備え、
少なくとも4個のナット列は、前記装着部材に対して直行するように配置されると共に、前記ナット列の最も内側の2個のナット対の間に前記装着部材の前方上部が装着固定されており、
前記装着部材の後方上部には錘部材付きのハンドルが固定されており、
前記装着部材の両側に配置される前記ナット列の最も外側の2個のナット対には、一対の頭付きボルトが螺合可能であり、
前記装着部材の前方下部には、バックシール容器が固定されており、
前記バックシール容器は、4つの側壁と上面開口からなる底が浅い方形状の容器で形成され、前記上面開口部位に多孔シートが設置され、
前記4つの側壁のうちの前記装着部材が設置される側の側壁以外の部位の何れかに、前記容器の内部に連通する不活性ガス管が接続されている、
ことを特徴とする仮付け溶接用シール治具。
【請求項2】
前記バックシール容器の側壁に、間隔を開けて水平に延びる2条の方形状の連結板が固定されており、該連結板は前記装着部材の両側壁面に各々水平面を維持して固着されている、
ことを特徴とする請求項1記載の仮付け溶接用シール治具。
【請求項3】
前記多孔シートは、パンチングメタルであり、前記バックシール容器にはスチールウールが入れられていることを特徴とする請求項1又は2記載の仮付け溶接用シール治具。
【請求項4】
前記装着部材を被溶接材料同士の溝に装着して、前記一対の頭付きボルトをナットに螺合し、該頭付きボルトの先を、前記被溶接材料の表面に押圧して、前記バックシール容器を前記被溶接材料同士の溝の下方に配置して、不活性ガスによりバックシールして仮付け溶接を行い、
各々の頭付きボルトの先を、前記被溶接材料の表面に対する押圧を解除して、仮付け溶接用シール治具を取り外すようにして使用する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の仮付け溶接用シール治具の使用。
【請求項5】
鋼板又は配管を含む被溶接材料同士を突き合わせて仮付け溶接をした後、不活性ガスでバックシールしながら本溶接を行う本溶接用シール治具であり、
該本溶接用シール治具は、前記被溶接材料同士の溝に沿って該被溶接材料の下方に配置される軌道を備えており、
前記軌道上には、バックシール容器を搭載した支持台が移動可能に配置されと共に、前記被溶接材料同士の下面に対して接離可能に配置されており、
前記バックシール容器は、弾性部材によって、前記被溶接材料の下面に向けて弾性的に付勢されており、
前記弾性部材による弾性的な付勢によって、前記バックシール容器が、前記被溶接材料の下面に密着されたまま移動すること
を特徴とする本溶接用シール治具。
【請求項6】
前記軌道は、一対のレールからなることを特徴とする請求項5記載の本溶接用シール治具。
【請求項7】
前記一対のレールは、該レールの中間部位を凸状扇形に形成されていることを特徴とする請求項6記載の本溶接用シール治具。
【請求項8】
前記支持台には、引き紐の一端が取付けられていることを特徴とする請求項5~7の何れかに記載の本溶接用シール治具。
【請求項9】
請求項5~8の何れかに記載の溶接用シール治具を用いて、仮付け溶接によってスポット溶接を行った箇所の上に、本溶接を行うこと
を特徴とする本溶接用シール治具の使用。
【請求項10】
鋼板又は配管を含む被溶接材料同士を突き合わせ溶接する際に用いる仮付け溶接用シール治具であり、
被溶接材料同士の溝に装着される方形状の板材からなる装着部材と、
ネジ穴を上下方向に向けて配置された複数のナットを直列に接続固定してなる少なくとも4個のナット列と、を備え、
少なくとも4個のナット列は、前記装着部材に対して直行するように配置されると共に、前記ナット列の最も内側の2個のナット対の間に前記装着部材の前方上部が装着固定されており、
前記装着部材の後方上部には錘部材付きのハンドルが固定されており、
前記装着部材の両側に配置される前記ナット列の最も外側の2個のナット対には、一対の頭付きボルトが螺合可能であり、
前記装着部材の前方下部には、バックシール容器が固定されており、
前記バックシール容器は、4つの側壁と上面開口からなる底が浅い方形状の容器で形成され、前記上面開口部位に多孔シートが設置され、
前記4つの側壁のうちの前記装着部材が設置される側の側壁以外の部位の何れかに、前記容器の内部に連通する不活性ガス管が接続されている仮付け溶接用シール治具と、
不活性ガスでバックシールしながら本溶接を行う本溶接用シール治具であり、
該本溶接用シール治具は、前記被溶接材料同士の溝に沿って該被溶接材料の下方に配置される軌道を備えており、
前記軌道上には、バックシール容器を搭載した支持台が移動可能に配置されと共に、前記被溶接材料同士の下面に対して接離可能に配置されており、
前記バックシール容器は、弾性部材によって、前記被溶接材料の下面に向けて弾性的に付勢されており、
前記弾性部材による弾性的な付勢によって、前記バックシール容器が、前記被溶接材料の下面に密着されたまま移動する本溶接用シール治具と、
を備えることを特徴とする溶接用シール治具セット。
【請求項11】
請求項10に記載の仮付け溶接用シール治具と本溶接用シール治具とを備える溶接用シール治具セットの使用であって、
前記仮付け溶接用シール治具を用いて、仮付け溶接によってスポット溶接を行った箇所の上に、本溶接用シール治具を用いて本溶接を行うこと
を特徴とする溶接用シール治具セットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セットに関し、詳しくは、人手を要することなく安全に仮付け溶接が可能で、不活性ガスの消費量を軽減できる仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セットに関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス等の部材は、溶接中に溶けている部分が、空気に触れると酸化してしまい、溶接ビードの中に欠陥ができてしまう。
それを防ぐために、アルゴンガスのような不活性ガスで、空気と遮断するガスシール法が行われている。
【0003】
溶接をしている表側は、溶接トーチからガスが出てシールされているが、そのガスは溶けている鋼板の裏側には届かないため、裏側は別にガスシールしなければならない。
【0004】
裏側をガスシールするバックシールを行うには、これまで人手によって行う手法が知られている。人手によってバックシールを行うには、溶接個所の裏側に溶接する作業者とは別の作業者が入って、その作業者がシールガスのホースを持って、溶接個所の裏側に向けてシールガスを吹き付ける。
【0005】
しかし、溶接個所の裏側は狭いので、シールガスを吹き付ける作業者の態勢が悪いため、腰を痛めたり、作業者の目にゴミが入ったりすることがあり、作業性が良くないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-51988号公報
【特許文献2】特開2017-164762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、溶接部の下方をシールドガスボックスで被覆し、被溶接部材の上部の操作用磁石ユニットを動かすと、被溶接部材の下部のローラー部が動き、シールドガスボックスを移動させるようにしたバックシールド治具が開示されている。
しかし、この治具は、被溶接部材の表面が滑らかであるわけではないので、操作用磁石ユニットを自由にスライドさせることができない恐れがあり、シールドガスボックスによるガスシールが不十分である欠点がある。また、非磁性の材料には適用できない。
【0008】
また特許文献2は、配管の内部にガス供給管を設けて、溶接部の裏面の空気を不活性ガスで置換して、バックシールドを行う装置が開示されている。
しかし、この手法では、配管径が大きい場合には、不活性ガスを大量に必要とし、大幅なコスト増を招く欠点がある。
【0009】
そこで、本発明は、人手を要することなく安全に仮付け溶接が可能で、不活性ガスの消費量を軽減できる仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セットを提供することを課題とする。
【0010】
また、本発明のその他の課題は、以下の記載によって明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
鋼板又は配管を含む被溶接材料同士を突き合わせ溶接する際に用いる仮付け溶接用シール治具であり、
被溶接材料同士の溝に装着される方形状の板材からなる装着部材と、
ネジ穴を上下方向に向けて配置された複数のナットを直列に接続固定してなる少なくとも4個のナット列と、を備え、
少なくとも4個のナット列は、前記装着部材に対して直行するように配置されると共に、前記ナット列の最も内側の2個のナット対の間に前記装着部材の前方上部が装着固定されており、
前記装着部材の後方上部には錘部材付きのハンドルが固定されており、
前記装着部材の両側に配置される前記ナット列の最も外側の2個のナット対には、一対の頭付きボルトが螺合可能であり、
前記装着部材の前方下部には、バックシール容器が固定されており、
前記バックシール容器は、4つの側壁と上面開口からなる底が浅い方形状の容器で形成され、前記上面開口部位に多孔シートが設置され、
前記4つの側壁のうちの前記装着部材が設置される側の側壁以外の部位の何れかに、前記容器の内部に連通する不活性ガス管が接続されている、
ことを特徴とする仮付け溶接用シール治具。
(請求項2)
前記バックシール容器の側壁に、間隔を開けて水平に延びる2条の方形状の連結板が固定されており、該連結板は前記装着部材の両側壁面に各々水平面を維持して固着されている、
ことを特徴とする請求項1記載の仮付け溶接用シール治具。
(請求項3)
前記多孔シートは、パンチングメタルであり、前記バックシール容器にはスチールウールが入れられていることを特徴とする請求項1又は2記載の仮付け溶接用シール治具。
(請求項4)
前記装着部材を被溶接材料同士の溝に装着して、前記一対の頭付きボルトをナットに螺合し、該頭付きボルトの先を、前記被溶接材料の表面に押圧して、前記バックシール容器を前記被溶接材料同士の溝の下方に配置して、不活性ガスによりバックシールして仮付け溶接を行い、
各々の頭付きボルトの先を、前記被溶接材料の表面に対する押圧を解除して、仮付け溶接用シール治具を取り外すようにして使用する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の仮付け溶接用シール治具の使用。
(請求項5)
鋼板又は配管を含む被溶接材料同士を突き合わせて仮付け溶接をした後、不活性ガスでバックシールしながら本溶接を行う本溶接用シール治具であり、
該本溶接用シール治具は、前記被溶接材料同士の溝に沿って該被溶接材料の下方に配置される軌道を備えており、
前記軌道上には、バックシール容器を搭載した支持台が移動可能に配置されと共に、前記被溶接材料同士の下面に対して接離可能に配置されており、
前記バックシール容器は、弾性部材によって、前記被溶接材料の下面に向けて弾性的に付勢されており、
前記弾性部材による弾性的な付勢によって、前記バックシール容器が、前記被溶接材料の下面に密着されたまま移動すること
を特徴とする本溶接用シール治具。
(請求項6)
前記軌道は、一対のレールからなることを特徴とする請求項5記載の本溶接用シール治具。
(請求項7)
前記一対のレールは、該レールの中間部位を凸状扇形に形成されていることを特徴とする請求項6記載の本溶接用シール治具。
(請求項8)
前記支持台には、引き紐の一端が取付けられていることを特徴とする請求項5~7の何れかに記載の本溶接用シール治具。
(請求項9)
請求項5~8の何れかに記載の溶接用シール治具を用いて、仮付け溶接によってスポット溶接を行った箇所の上に、本溶接を行うこと
を特徴とする本溶接用シール治具の使用。
(請求項10)
鋼板又は配管を含む被溶接材料同士を突き合わせ溶接する際に用いる仮付け溶接用シール治具であり、
被溶接材料同士の溝に装着される方形状の板材からなる装着部材と、
ネジ穴を上下方向に向けて配置された複数のナットを直列に接続固定してなる少なくとも4個のナット列と、を備え、
少なくとも4個のナット列は、前記装着部材に対して直行するように配置されると共に、前記ナット列の最も内側の2個のナット対の間に前記装着部材の前方上部が装着固定されており、
前記装着部材の後方上部には錘部材付きのハンドルが固定されており、
前記装着部材の両側に配置される前記ナット列の最も外側の2個のナット対には、一対の頭付きボルトが螺合可能であり、
前記装着部材の前方下部には、バックシール容器が固定されており、
前記バックシール容器は、4つの側壁と上面開口からなる底が浅い方形状の容器で形成され、前記上面開口部位に多孔シートが設置され、
前記4つの側壁のうちの前記装着部材が設置される側の側壁以外の部位の何れかに、前記容器の内部に連通する不活性ガス管が接続されている仮付け溶接用シール治具と、
不活性ガスでバックシールしながら本溶接を行う本溶接用シール治具であり、
該本溶接用シール治具は、前記被溶接材料同士の溝に沿って該被溶接材料の下方に配置される軌道を備えており、
前記軌道上には、バックシール容器を搭載した支持台が移動可能に配置されと共に、前記被溶接材料同士の下面に対して接離可能に配置されており、
前記バックシール容器は、弾性部材によって、前記被溶接材料の下面に向けて弾性的に付勢されており、
前記弾性部材による弾性的な付勢によって、前記バックシール容器が、前記被溶接材料の下面に密着されたまま移動する本溶接用シール治具と、
を備えることを特徴とする溶接用シール治具セット。
(請求項11)
請求項10に記載の仮付け溶接用シール治具と本溶接用シール治具とを備える溶接用シール治具セットの使用であって、
前記仮付け溶接用シール治具を用いて、仮付け溶接によってスポット溶接を行った箇所の上に、本溶接用シール治具を用いて本溶接を行うこと
を特徴とする溶接用シール治具セットの使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、人手を要することなく安全に仮付け溶接の際のバックシールが可能で、不活性ガスの消費量を軽減できる仮付け溶接用シール治具、本溶接用シール治具、および、溶接用シール治具セットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る仮付け溶接用シール治具の一実施形態を示す斜視図
図2図1に示す仮付け溶接用シール治具の平面図
図3A図1に示す仮付け溶接用シール治具の使用状態を示す側面図
図3B図1に示す仮付け溶接用シール治具の使用状態を示す側面図
図4】本発明に係る本溶接用シール治具の一実施形態を示す斜視図
図5図4の本溶接用シール治具のバックシール部位を示す平面図
図6図4の本溶接用シール治具のバックシール部位を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0016】
<仮付け溶接用シール治具及びその使用>
図1は、本発明に係る仮付け溶接用シール治具の一実施形態を示す斜視図であり、1は、被溶接材料101、101同士を突き合わせ溶接する際に用いる仮付け溶接用シール治具である。被溶接材料101は、鋼板又は配管が挙げられ、素材としては、ステンレス鋼などが好ましく用いられる。以下の説明では、2枚の鋼板を突き合わせ溶接する例について説明する。
図2は、図1に示す仮付け溶接用シール治具の平面図である。
【0017】
被溶接材料101、101同士を突き合わせ溶接する際には、開先溶接が好ましく採用される。ここで、開先とは、グルーブ(Groove)ともいい、溶接を行う被溶接材料(母材)間に設ける溝のことで、溝の形状には、I型、V型、レ型、U型などがある。
【0018】
本発明に係る仮付け溶接用シール治具は、2枚の鋼板101、101同士を突き合わせた状態で仮付け溶接する際に、不活性ガスでバックシールを行う溶接用シール治具である。図1の例は、2枚の鋼板101と101の間に、V型の溝(開先)102が形成されている。
【0019】
2は、方形状の板材からなる装着部材であり、2枚の鋼板101と101の間の溝102に装着され、溝102に沿って移動可能である。
【0020】
方形状の板材は、例えば長方形の板材が好ましい。板材の形状は格別限定されるわけではないが、例えば長さ180~250mm×幅70~90mm×厚み2.5~3.5mmの範囲を例示できる。具体的な形状としては、長さ185mm×幅80mm×厚み3mmのものを例示できる。
【0021】
V字型の溝102の場合、溝の下部は被溶接材料101の裏面まで貫通している。このため、貫通部分は間隙となるので、装着部材2を支持して仮付け溶接の実効を図るために、装着部材2を側面から支持する押圧支持部材2aを装着することが好ましい。押圧支持部材2aは間隙に装着し易くするために、先細に形成されることが好ましい。押圧支持部材2aを装着する際には、保管部2bから押圧支持部材2aを外して使用することが好ましいが、保管部2bに挿入して装着位置を決めるようにしても良い。
【0022】
3は、ネジ穴を上下方向に向けて配置された複数のナットを直列に接続固定してなるナット列であり、ナット列3は、少なくとも4個のナットによって構成される。図示の例では3A、3B、3C、3Dの4個ナットが示されているが、ナットの数は、6個、8個などでもよい。
【0023】
4個のナット列3は、装着部材2に対して直行するように配置される。ナット列3の最も内側の2個のナット対3B、3Cの間に装着部材2の前方上部が装着固定されている。 従って、装着部材2の一方側にはナット3Aと3Bが配置され、他方側にはナット3Cと3Dが配置される。本態様において、ナット3Aと3Bの間、ナット3Bと装着部材2の間、装着部材2とナット3Cの間、ナット3Cと3Dの間は、各々溶接によって固定されている。
【0024】
ナット3Bと3Cの間には、装着部材2が垂直方向となるように介在して配置される。固定位置は格別限定されるわけではないが、装着部材2の着脱の容易性を考慮すると、装着部材2の前方上部をナット3Bと3Cの間に装着して、溶接固定されることが好ましい。
【0025】
装着部材2の上面は、ナット3Bと3Cの上面と面一になるように固定することは、装着部材2を被溶接材料同士の溝からの着脱をする上で好ましい。装着部材2の上端がナット3Bと3Cの上面よりも突き出ていると、装着部材2の着脱の際に、作業の安全性を欠く場合があるからである。
【0026】
本態様において、装着部材2の両側に配置されるナット列3の最も外側の2個のナット対3Aと3Dには、一対の頭付きボルト4Aと4Bが螺合され、立設される。5はボルト頭である。
【0027】
本態様において、ナット列3を用いることの意義は、一対の頭付きボルト4Aと4Bを、間隔を開けて立設した場合に、その間隔を測定しなくても判明することがあげられる。ナットの大きさ、寸法などは、JISによって決まっているので、ナット規格さえわかれば、ボルト4Aと4Bの距離は測定しなくてもわかる。またナットの角部を揃えて溶接すれば、直線性が出しやすいメリットもある。また距離の調整もナットの数を増減することにより行える効果もある。
【0028】
本態様において、装着部材2の後方上部にはハンドル6が固定されており、ハンドル6には錘部材7が固定されており、錘部材付きのハンドルとなっている。ハンドル6の上下動によって、装着部材2の上下の動きを可能とする。錘部材7の重量は、バックシール容器よりも重いことが好ましい。頭付きボルトを締める前の仮付け溶接用シール治具の移動を制限するためである。
【0029】
8は、仮付け溶接個所の裏面をシールするバックシール容器であり、バックシール容器8は装着部材2の前方下部に固定されている。
【0030】
バックシール容器8は、4つの側壁と上面開口とからなり、底が浅い方形状の容器で形成されている。ここで、底が浅いというのは、10mm~30mmの範囲をいう。底が浅いことにより、同平面積の容器と比較すれば、容器全体の実質容積が小さいので、不活性ガスの容量も少なくて済む効果がある。
【0031】
上面開口部位近傍には、多孔シート80が設置されている。多孔シート80は、不活性ガスを溶接部位の間隙に送る通気孔の役割を果たすと共に、高温の溶接カスが落下してバックシール容器8に直接入ってくるのを防止する。本態様において、多孔シート80としては、格別限定されるわけではないが、パンチングメタルを例示できる。
【0032】
バックシール容器8の4つの側壁のうちの装着部材2が設置される側の側壁以外の部位に、容器8の内部に連通する不活性ガス管81が接続されている。バックシール容器8に多孔シート80が設けられていると、高温の溶接カスが落下して不活性ガス管81に当たって、不活性ガスの通気孔を塞いでしまうのを防止できる。
溶接時には、不活性ガス管81に、図示しないゴムホースを接続し不活性ガスを供給する。
【0033】
バックシール容器8には、スチールウールのような微細かつ柔軟な鉄繊維を入れておくことが好ましい。スチールウールにより不活性ガスがバックシール容器8内に滞留し易くなる。これにより、不活性ガスの容量も少なくて済み、また、溶接個所への不活性ガスの雰囲気化を高める効果がある。
【0034】
本態様においては、バックシール容器8の側壁に、間隔を開けて水平に延びる2条の方形状の連結板9,9が固定されている。連結板9,9は装着部材2の両側壁面に、各々水平面を維持して固着されている。かかる連結板9,9を設けると、装着部材2とバックシール容器8の側壁の接着強度を補強できるので好ましい。
【0035】
本発明の仮付け溶接用シール治具の使用の態様を図3Aおよび図3Bに基づいて説明する。
【0036】
図3Aは、装着部材2を被溶接材料101,101同士の溝に装着しているが、一対の頭5付きボルト4A,4Bをまだ締めていない状態を示している。
この状態においては、一対の頭5付きボルト4B(4A)は、被溶接材料101,101の表面に接触している。
そして、錘部材7の重量により、バックシール容器8の先端部は、被溶接材料101,101の裏面に接触する状態となっている(矢印Q)。
この状態は、バックシール容器8の部位、一対の頭5付きボルト4A,4Bと被溶接材料101,101の表面との接触部位、ハンドル6の部位の3点によりテコの原理を構成している。
これにより、バックシール容器8の動きが制限されるため、治具の不測な移動や滑落等が防止され、溶接を行う作業者に対する安全性が確保されている。
【0037】
図3Bは、装着部材2を被溶接材料101,101同士の溝に装着して、一対の頭5付きボルト4A,4Bをナット3A,3Dに螺合し、該頭付きボルトの先を、被溶接材料101の表面P点を押圧している状態を示している。
【0038】
このP点の押圧によって、装着部材2の上端面は水平を維持し、装着部材2に連結固定されているバックシール容器8は被溶接材料同士の溝の下方に密接して配置される。溝の下方は、不活性ガスによりバックシールされ、仮付け溶接を行うことができる。図3Aの矢印Mは溶接方向であり、この仮付け溶接では、点(スポット)溶接が行われる。
【0039】
また、ボルト4A,4Bを締め付け、被溶接材料101の表面P点を押圧することにより、被溶接材料101,101の段差も解消された状態で点(スポット)溶接が行われる。
【0040】
次に、仮付け溶接が終了し、ボルト4A,4Bに先端による被溶接材料101の表面P点に対する押圧を解除すると、図3Aのように、バックシール容器8のバックシールは解放される。P点の部位の支持がなくなるが、上述の通り、テコの原理により、バックシール容器8の動きが制限されているため、安全に仮付け溶接用シール治具1を取り外すことができる。
【0041】
仮付け溶接を行った後は、この溶接用シール治具を、矢印Mで示す後方(錘7の側)に移動させれば、仮付け溶接部に妨げられることなく、移動させることができる。そして、次の箇所の仮付け溶接作業を順次行うことができる。
【0042】
この溶接用シール治具1は、被溶接材料101,101の表面だけで作業者が取付け、移動、取外しができるものである。
【0043】
また、この溶接用シール治具1により、バックシール作業が容易かつ安全となり、身体的な負担を軽減でき、目にゴミが入ったり、目を焼いたりするリスクもなくなり、1人でも作業ができるようになるので、コストダウンも達成できる。
【0044】
<本溶接用シール治具及びその使用>
次に、上記の仮付け溶接が終了した後に、本溶接用シール治具を用いて、本溶接を行う。なお、本発明の本溶接用シール治具を用いた本溶接は、上記仮付け溶接用シール治具により仮溶接されたものに限定されない。
【0045】
図4乃至図6には、2枚の鋼板101、101を突き合わせた状態で仮付け溶接した後、本溶接するときに用いる不活性ガスでバックシールを行う本溶接用シール治具が示されている。
なお、図5、6では後述する多孔シート55上に3枚の胴板57が配置されている態様を示しているが、これに限定されず胴板57は必ずしも必要はない。
【0046】
この本溶接用シール治具は、2枚の鋼板101、101同士の溝102に沿って鋼板101、101の下方に配置される軌道50を備えている。この軌道50は、一対のレールからなるのが好ましい。
【0047】
このレールは、型鋼や丸棒などによって構成されることが好ましい。図示の例は、H型鋼を用いた例が示されている。本溶接の長さは、比較的に長い距離の場合がある。距離が長い場合には、レールの中間部位では、自重で下に垂れることがあるので、その垂れを防止するために、レールの中間部位を上向きの凸状扇形に形成しておくことも好ましい。自重垂れによってレールが破損するのを予防できるからである。
【0048】
軌道50上には、支持台51が移動可能に配置されている。この支持台51には、引き紐52の一端が取付けられている。
支持台51上には、バックシール容器53が、鋼板101、101の下面に対して接離可能に配置されている。
【0049】
このバックシール容器53は、弾性部材54によって、図4中矢印Rで示すように、鋼板101、101の下面に向けて弾性的に付勢されている。本態様における弾性部材54は、支持台51に設けられた筒状体の中にスプリングが配置され、当該筒状体に、バックシール容器53の下面に設けられた脚部が挿入されることにより鋼板101、101の下面に向けて弾性的に付勢されているが、これに限定されない。例えば、前記筒状体と前記脚部とが一体である圧縮コイルバネであっても良い。
【0050】
ここで、引き紐52を一方に引っ張ることによって、2枚の鋼板101、101の下面にバックシール容器53を沿わせた状態で、溝102に沿って移動可能である。このとき、鋼板101、101の下面に凹凸や歪みがあっても、弾性部材54による弾性的な付勢によって、バックシール容器53は、鋼板101、101の下面に密着されたまま移動する。
【0051】
バックシール容器53は、4つの側壁と上面開口とからなる。
【0052】
バックシール容器53の上面開口部位近傍には、多孔シート55が設置されている。多孔シート55は、不活性ガスを溶接部位の間隙に送る通気孔の役割を果たすと共に、高温の溶接カスが落下してバックシール容器53に直接入ってくるのを防止する。本態様において、多孔シート55としては、格別限定されるわけではないが、金網を例示できる。
また、多孔シート55上に複数の胴板57を配置することは好ましい。本溶接は鋼板101、101の側端102、102全てを溶接するため、高温の溶接カスの落下も多い。胴板57を配置することにより、高温の溶接カスがバックシール容器53に直接入ってくることをさらに防止できる。
【0053】
バックシール容器53の4つの側壁のうちのいずれかに、容器53の内部に連通する不活性ガス管56が接続されている。不活性ガス管は、バックシール容器53の移動方向とは逆の側壁に接続されていることが好ましい。また、バックシール容器53に多孔シート55が設けられていると、高温の溶接カスが落下して不活性ガス管56に当たって、不活性ガスの通気孔を塞いでしまうのを防止できる。
溶接時には、不活性ガス管56に、図示しないゴムホースを接続し不活性ガスを供給する。
【0054】
バックシール容器53には、スチールウールのような微細かつ柔軟な鉄繊維を入れておくことが好ましい。スチールウールにより不活性ガスがバックシール容器53内に滞留し易くなる。これにより、不活性ガスの容量も少なくて済み、また、溶接個所への不活性ガスの雰囲気化を高める効果がある。
【0055】
本態様では、引き紐52を引っ張り、この溶接用シール治具を、図4及び図6中、矢印Mで示す後方(引き紐52の側)に移動させ、仮付け溶接によってスポット溶接を行った箇所の上に、本溶接を行うことができる。
【0056】
この本溶接用シール治具により、バックシール作業が容易かつ安全となり、身体的な負担を軽減でき、目にゴミが入ったり、目を焼いたりするリスクもなくなり、1人でも作業ができるようになるので、コストダウンも達成できる。
【0057】
<仮溶接用シール治具と本溶接用シール治具を備える溶接用シール治具セット及びその使用>
さらなる別発明として、上記仮溶接用シール治具と上記本溶接用シール治具を備える溶接用シール治具セット及びその使用が挙げられる。
各治具の構成の説明は、上記の各説明を援用し、ここでは省略する。
【0058】
仮溶接用シール治具と本溶接用シール治具を備える溶接用シール治具セットにより、仮溶接段階、本溶接段階の溶接全ての工程において、バックシール作業が容易かつ安全となり、身体的な負担を軽減でき、目にゴミが入ったり、目を焼いたりするリスクもなくなり、1人でも作業ができるようになるので、コストダウンも達成できる。
【0059】
本発明の本溶接用シール治具を用いた本溶接の前段階として、本発明の仮溶接用シール治具を用いて仮溶接を行うことは好ましい。
【符号の説明】
【0060】
1 仮付け溶接用シール治具
101 被溶接材料
102 溝(開先)
2 装着部材
2a 押圧支持部材
2b 保管部
3 ナット列
3A、3B、3C、3D ナット
4A、4B 頭付きボルト
5 ボルト頭
6 ハンドル
7 錘部材
8 バックシール容器
80 多孔シート
81 不活性ガス管
9 連結板
50 軌道
51 支持台
52 引き紐
53 バックシール容器
54 弾性部材
55 多孔シート
56 不活性ガス管
57 胴板
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6