(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066874
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】銅/セラミックス接合体、および、絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
H01L 23/12 20060101AFI20230509BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20230509BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
H01L23/12 Q
H01L23/12 C
C04B37/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177715
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】西元 修司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼桑 啓
【テーマコード(参考)】
4G026
【Fターム(参考)】
4G026BA17
4G026BB23
4G026BE04
4G026BF16
4G026BF24
4G026BF44
4G026BG02
4G026BH07
(57)【要約】
【課題】厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材の割れや剥離の発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体を提供する。
【解決手段】セラミックス部材11の少なくとも一方の面に銅部材12が接合されており、銅部材12のセラミックス部材11との接合面とは反対側の面において、銅部材12の端部には、外方に向けて凸となる凸R形状部12aが形成され、この凸R形状部12aの幅wが端部から50μm以上600μm以下の範囲内とされており、セラミックス部材11と銅部材12との接合界面において、銅部材12側にはAg-Cu合金層が形成されており、銅部材12の端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さteと、銅部材12の中央部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さtcとの比te/tcが1.3以上3.0以下の範囲内とされている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材とセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記セラミックス部材の少なくとも一方の面に前記銅部材が接合されており、
前記銅部材の前記セラミックス部材との接合面とは反対側の面において、前記銅部材の端部には、外方に向けて凸となる凸R形状部が形成され、この凸R形状部の幅が前記端部から50μm以上600μm以下の範囲内とされており、
前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記銅部材側にはAg-Cu合金層が形成されており、
前記銅部材の端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さteと、前記銅部材の中央部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さtcとの比te/tcが1.3以上3.0以下の範囲内とされていることを特徴とする銅/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記銅部材の一端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte1と、前記銅部材の他端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte2との比te1/te2が0.5以上1.5以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項3】
セラミックス基板の表面に銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、
前記セラミックス基板の少なくとも一方の面に前記銅板が接合されており、
前記銅板の前記セラミックス基板との接合面とは反対側の面において、前記銅板の端部には、外方に向けて凸となる凸R形状部が形成され、この凸R形状部の幅が前記端部から50μm以上600μm以下の範囲内とされており、
前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記銅板側にはAg-Cu合金層が形成されており、
前記銅板の端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さteと、前記銅板の中央部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さtcとの比te/tcが1.3以上3.0以下の範囲内とされていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項4】
前記銅板の一端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte1と、前記銅板の他端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte2との比te1/te2が0.5以上1.5以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項3に記載の絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅又は銅合金からなる銅部材とセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体、および、セラミックス基板の表面に銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュールおよび熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子および熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して形成した放熱用の金属層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面および他方の面に、銅板を接合することにより回路層および金属層を形成した絶縁回路基板が提案されている。この特許文献1においては、セラミックス基板の一方の面および他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材を介在させて銅板を配置して加熱処理を行うことにより、セラミックス基板と銅板が接合されている(いわゆる活性金属ろう付け法)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、絶縁回路基板に搭載される半導体素子の発熱温度が高くなる傾向にあり、絶縁回路基板には、従来にも増して、厳しい冷熱サイクルに耐えることができる冷熱サイクル信頼性が求められている。
ここで、上述のように、Ag-Cu-Ti系の接合材を用いてセラミックス基板と銅板とを接合した場合には、接合界面近傍が硬くなり、冷熱サイクル負荷時にセラミックス部材に割れが生じ、冷熱サイクル信頼性が低下するおそれがあった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材の割れや剥離の発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体、および、この銅/セラミックス接合体からなる絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するために、本発明の銅/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材とセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、前記セラミックス部材の少なくとも一方の面に前記銅部材が接合されており、前記銅部材の前記セラミックス部材との接合面とは反対側の面において、前記銅部材の端部には、外方に向けて凸となる凸R形状部が形成され、この凸R形状部の幅が前記端部から50μm以上600μm以下の範囲内とされており、前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記銅部材側にはAg-Cu合金層が形成されており、前記銅部材の端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さteと、前記銅部材の中央部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さtcとの比te/tcが1.3以上3.0以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0008】
本発明の銅/セラミックス接合体によれば、前記銅部材の前記セラミックス部材との接合面とは反対側の面において、前記銅部材の端部に、外方に向けて凸となる凸R形状部が形成され、この凸R形状部の幅が前記端部から50μm以上600μm以下の範囲内とされているので、冷熱サイクル負荷時に、銅部材の端部に応力が集中することを抑制でき、セラミックス部材の割れを抑制することができる。よって、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
そして、前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記銅部材側にはAg-Cu合金層が形成されており、前記銅部材の端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さteと、前記銅部材の中央部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さtcとの比te/tcが1.3以上3.0以下の範囲内とされており、銅部材の端部においてAg-Cu合金層が厚く形成されているので、前記銅部材の端部に凸R形状部が形成されていても、セラミックス部材と銅部材とを強固に接合することができる。
【0009】
ここで、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記銅部材の一端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte1と、前記銅部材の他端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte2との比te1/te2が0.5以上1.5以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記銅部材の一端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte1と前記銅部材の他端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte2との差が小さく、冷熱サイクル負荷時に、応力が不均一に作用することを抑制でき、冷熱サイクル信頼性をさらに向上させることができる。
【0010】
本発明の絶縁回路基板は、セラミックス基板の表面に銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、前記セラミックス基板の少なくとも一方の面に前記銅板が接合されており、前記銅板の前記セラミックス基板との接合面とは反対側の面において、前記銅板の端部には、外方に向けて凸となる凸R形状部が形成され、この凸R形状部の幅が前記端部から50μm以上600μm以下の範囲内とされており、前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記銅板側にはAg-Cu合金層が形成されており、前記銅板の端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さteと、前記銅板の中央部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さtcとの比te/tcが1.3以上3.0以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0011】
本発明の絶縁回路基板によれば、前記銅板の前記セラミックス基板との接合面とは反対側の面において、前記銅板の端部には、外方に向けて凸となる凸R形状部が形成され、この凸R形状部の幅が前記端部から50μm以上600μm以下の範囲内とされているので、冷熱サイクル負荷時に、銅板の端部に応力が集中することを抑制でき、セラミックス基板の割れを抑制することができる。よって、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
そして、前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記銅板側にはAg-Cu合金層が形成されており、前記銅板の端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さteと、前記銅板の中央部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さtcとの比te/tcが1.3以上3.0以下の範囲内とされており、銅板の端部においてAg-Cu合金層が厚く形成されているので、前記銅板の端部に凸R形状部が形成されていても、セラミックス基板と銅板とを強固に接合することができる。
【0012】
ここで、本発明の絶縁回路基板においては、前記銅板の一端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte1と、前記銅板の他端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte2との比te1/te2が0.5以上1.5以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記銅板の一端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte1と前記銅板の他端部領域における前記Ag-Cu合金層の厚さte2との差が小さく、冷熱サイクル負荷時に、応力が不均一に作用することを抑制でき、冷熱サイクル信頼性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材の割れや剥離の発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体、および、この銅/セラミックス接合体からなる絶縁回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の回路層および金属層とセラミックス基板との接合界面における端部領域(一端部領域および他端部領域)および中央部領域の説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の回路層および金属層とセラミックス基板との接合界面の拡大説明図である。(a)が一端部領域、(b)が中央部領域、(c)が他端部領域である。
【
図5】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法のフロー図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の金属片形成工程の概略説明図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
【
図8】実施例における絶縁回路基板の回路層および金属層の端部の断面観察写真である。(a)が本発明例1-9および比較例1-4に形成された凸R形状部、(b)が比較例5に形成された凹R形状部である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックスからなるセラミックス部材としてのセラミックス基板11と、銅又は銅合金からなる銅部材としての金属片42(回路層12)および金属片43(金属層13)と、が接合されてなる絶縁回路基板10である。
図1に、本実施形態である絶縁回路基板10を備えたパワーモジュール1を示す。
【0016】
このパワーモジュール1は、回路層12および金属層13が配設された絶縁回路基板10と、回路層12の一方の面(
図1において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、金属層13の他方側(
図1において下側)に配置されたヒートシンク5と、を備えている。
【0017】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、接合層2を介して接合されている。
接合層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0018】
ヒートシンク5は、前述の絶縁回路基板10からの熱を放散するためのものである。このヒートシンク5は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態ではりん脱酸銅で構成されている。このヒートシンク5には、冷却用の流体が流れるための流路が設けられている。
なお、本実施形態においては、ヒートシンク5と金属層13とが、はんだ材からなるはんだ層7によって接合されている。このはんだ層7は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0019】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、
図1および
図2に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1および
図2において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1および
図2において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
【0020】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れた窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、セラミックス基板11は、特に信頼性の優れた窒化ケイ素(Si3N4)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0021】
回路層12は、
図7に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図7において上面)に、銅又は銅合金からなる金属片42が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、回路層12は、無酸素銅の圧延板を打ち抜いた金属片42がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、回路層12となる金属片42の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0022】
金属層13は、
図7に示すように、セラミックス基板11の他方の面(
図7において下面)に、銅又は銅合金からなる金属片43が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、金属層13は、無酸素銅の圧延板を打ち抜いた金属片43がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、金属層13となる金属片43の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0023】
ここで、
図2に示すように、本実施形態である絶縁回路基板10においては、回路層12および金属層13のセラミックス基板11との接合面とは反対側の面において、回路層12および金属層13の端部には、外方に向けて凸となる凸R形状部12a,13aが形成されている。
そして、この凸R形状部12a,13aの幅Wは、端部から50μm以上600μm以下の範囲内とされている。
【0024】
また、セラミックス基板11と回路層12および金属層13との接合界面においては、
図4に示すように、セラミックス基板11側から順に、活性金属化合物層21、Ag-Cu合金層22が形成されている。
ここで、活性金属化合物層21は、後述する接合材45で用いる活性金属(Ti,Zr,Nb,Hf)の化合物からなる層である。より具体的には、セラミックス基板11が窒化ケイ素(Si
3N
4)、窒化アルミニウム(AlN)等の窒化物からなる場合には、これらの活性金属の窒化物からなる層となり、セラミックス基板11がアルミナ(Al
2O
3)等の酸化物からなる場合には、これらの活性金属の酸化物からなる層となる。活性金属化合物層21は、活性金属化合物の粒子が集合して形成されている。この粒子の平均粒径は10nm以上100nm以下である。
なお、本実施形態では、後述する接合材45が活性金属としてTiを含有し、セラミックス基板11が窒化アルミニウムで構成されているため、活性金属化合物層21は、窒化チタン(TiN)で構成される。すなわち、平均粒径が10nm以上100nm以下の窒化チタン(TiN)の粒子が集合して形成されている。
【0025】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10においては、
図4に示すように、回路層12および金属層13とセラミックス基板11との接合界面の構造について、以下のように規定されている。
ここで、本実施形態において、回路層12および金属層13の端部領域A(一端部領域A1、他端部領域A2)は、
図3に示すように、回路層12および金属層13とセラミックス基板11との積層方向に沿った断面において、回路層12および金属層13の幅方向端部から50μmまでの領域である。
また、回路層12および金属層13の中央部領域Bは、
図3に示すように、回路層12および金属層13とセラミックス基板11との積層方向に沿った断面において、回路層12および金属層13の幅方向中心を含む幅方向50μmの領域である。
【0026】
本実施形態においては、
図4に示すように、回路層12および金属層13の端部領域AにおけるAg-Cu合金層22の厚さte(
図4(a),(c)参照)と、回路層12および金属層13の中央部領域BにおけるAg-Cu合金層22の厚さtc(
図4(b)参照)との比te/tcが1.3以上3.0以下の範囲内とされている。
すなわち、本実施形態では、回路層12および金属層13の端部領域AにおけるAg-Cu合金層22の厚さteが、回路層12および金属層13の中央部領域BにおけるAg-Cu合金層22の厚さtcよりも厚く形成されている。
【0027】
さらに、本実施形態においては、
図4に示すように、回路層12および金属層13の一端部領域A1におけるAg-Cu合金層22の厚さte1(
図4(a)参照)と、回路層12および金属層13の他端部領域A2におけるAg-Cu合金層22の厚さte2(
図4(c)参照)との比te1/te2が0.5以上1.5以下の範囲内とされていることが好ましい。
すなわち、本実施形態では、回路層12および金属層13の一端部領域A1と他端部領域A2とAg-Cu合金層22の厚さte1,te2の差が、小さく抑えられていることが好ましい。
【0028】
以下に、本実施形態に係る絶縁回路基板10の製造方法について、
図5から
図7を参照して説明する。
【0029】
(金属片形成工程S01)
まず、回路層12となる金属片42および金属層13となる金属片43を形成する。
金属板40(本実施形態では無酸素銅の圧延板)を打ち抜き加工して、金属片42,43を形成する。本実施形態では、
図6(a)に示すように、打ち抜き加工機50の凸型51および凹型52によって金属板40を挟持して剪断する。これにより、金属片42,43を金属板40から打ち抜く。
【0030】
このとき、金属片42,43の外縁部においては、
図6(b)に示すように、厚さ方向の一方には、外方に向けて凸となるダレ部42a,43aが形成される。また、厚さ方向の他方には、幅中央部側に後退したくびれ部42b,43bが形成されることがある。
なお、ダレ部42a,43aおよびくびれ部42b,43bの形状は、打ち抜き加工時の加工条件(板厚、クリアランス、打ち抜き荷重、打ち抜き速度等)によって調整することができる。
【0031】
(接合材配設工程S02)
次に、
図7に示すように、回路層12となる金属片42および金属層13となる金属片43の接合面に、接合材45を塗布し、乾燥させる。ペースト状の接合材45の塗布厚さは、乾燥後で10μm以上50μm以下の範囲内とすることが好ましい。
本実施形態では、スクリーン印刷によってペースト状の接合材45を塗布する。なお、 接合材45をセラミックス基板11表面に塗布しても構わない。
【0032】
接合材45は、Agと活性金属(Ti,Zr,Nb,Hf)を含有するものとされている。本実施形態では、接合材45として、Ag-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)を用いている。なお、Ag-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)としては、例えば、Cuを0mass%以上45mass%以下の範囲内、活性金属であるTiを0.5mass%以上20mass%以下の範囲で含み、残部がAgおよび不可避不純物とされた組成のものを用いることが好ましい。
【0033】
接合材45に含まれるAg粉の比表面積は、0.15m2/g以上とすることが好ましく、0.25m2/g以上とすることがさらに好ましく、0.40m2/g以上とすることがより好ましい。一方、接合材45に含まれるAg粉の比表面積は、1.40m2/g以下とすることが好ましく、1.00m2/g以下とすることがさらに好ましく、0.75m2/g以下とすることがより好ましい。
なお、ペースト状の接合材45に含まれるAg粉の粒径は、D10が0.7μm以上3.5μm以下、かつ、D100が4.5μm以上23μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0034】
(積層工程S03)
次に、セラミックス基板11の一方の面(
図7において上面)に、接合材45を介して回路層12となる金属片42を積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面(
図7において下面)に、接合材45を介して金属層13となる金属片43を積層する。
このとき、ダレ部42a,43aがセラミックス基板11とは反対側を向くように(くびれ部42b,43bがセラミックス基板11側を向くように)、金属片42,43を積層する。
【0035】
(接合工程S04)
次に、金属片42とセラミックス基板11と金属片43とを加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、接合材45を溶融させて液相を生成させる。その後、冷却を行うことにより、生成した液相を凝固させて、回路層12となる金属片42とセラミックス基板11、セラミックス基板11と金属層13となる金属片43とを接合する。
ここで、接合工程S04における加熱温度は、800℃以上850℃以下の範囲内とすることが好ましい。
また、接合工程S04における加圧荷重は、0.029MPa以上2.94MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
さらに、接合工程S04における真空度は、1×10-6Pa以上5×10-2Pa以下の範囲内とすることが好ましい。
また、冷却時における冷却速度は、2℃/min以上20℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。なお、ここでの冷却速度は加熱温度からAg-Cu共晶温度である780℃までの冷却速度である。
【0036】
以上のように、金属片形成工程S01,接合材配設工程S02、積層工程S03、接合工程S04によって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造されることになる。
ここで、積層工程S02において、金属片42,43を、ダレ部42a,43aがセラミックス基板11とは反対側を向くようにセラミックス基板11に積層するとともに、接合工程S04において、上述の加圧荷重で積層方向に加圧することにより、回路層12および金属層13の凸R形状部12a,13aの幅(形状)が制御される。
【0037】
(ヒートシンク接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側にヒートシンク5を接合する。
絶縁回路基板10とヒートシンク5とを、はんだ材を介して積層して加熱炉に装入し、はんだ層7を介して絶縁回路基板10とヒートシンク5とをはんだ接合する。
【0038】
(半導体素子接合工程S06)
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
前述の工程により、
図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)によれば、回路層12および金属層13のセラミックス基板11との接合面とは反対側の面において、回路層12および金属層13の端部に、外方に向けて凸となる凸R形状部12a,12bが形成されており、この凸R形状部12a,12bの幅Wが、端部から50μm以上600μm以下の範囲内とされているので、冷熱サイクル負荷時に、回路層12および金属層13の端部に応力が集中することを抑制でき、セラミックス基板11の割れを抑制することができる。よって、冷熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0040】
そして、セラミックス基板11と回路層12および金属層13との接合界面において、回路層12および金属層13側にはAg-Cu合金層22が形成されており、回路層12および金属層13の端部領域AにおけるAg-Cu合金層22の厚さteと、回路層12および金属層13の中央部領域BにおけるAg-Cu合金層22の厚さtcとの比te/tcが1.3以上3.0以下の範囲内とされており、回路層12および金属層13の端部においてAg-Cu合金層22が厚く形成されているので、回路層12および金属層13の端部に凸R形状部12a,12bが形成されていても、セラミックス基板11と回路層12および金属層13とを強固に接合することができる。
【0041】
なお、凸R形状部12a,12bの幅Wの下限は、端部から75μm以上であることが好ましく、端部から100μm以上であることがより好ましい。一方、凸R形状部12a,12bの幅Wの上限は、端部から550μm以下であることが好ましく、端部から500μm以下であることがより好ましい。
また、回路層12および金属層13の端部領域AにおけるAg-Cu合金層22の厚さteと、回路層12および金属層13の中央部領域BにおけるAg-Cu合金層22の厚さtcとの比te/tcの下限は、1.4以上であることが好ましい。一方、比te/tcの上限は、2.9以下であることが好ましく、2.8以下であることがより好ましい。
【0042】
本実施形態である絶縁回路基板において、回路層12および金属層13の一端部領域A1におけるAg-Cu合金層22の厚さte1と、回路層12および金属層13の他端部領域A2におけるAg-Cu合金層22の厚さte2との比te1/te2が0.5以上1.5以下の範囲内とされている場合には、回路層12および金属層13の一端部領域AにおけるAg-Cu合金層22の厚さte1と回路層12および金属層13の他端部領域A2におけるAg-Cu合金層22の厚さte2との差が小さく、冷熱サイクル負荷時に、応力が不均一に作用することを抑制でき、冷熱サイクル信頼性をさらに向上させることができる。
【0043】
なお、回路層12および金属層13の一端部領域A1におけるAg-Cu合金層22の厚さte1と、回路層12および金属層13の他端部領域A2におけるAg-Cu合金層22の厚さte2との比te1/te2の下限は、0.55以上であることがより好ましく、0.6以上であることがさらに好ましい。また、比te1/te2の上限は、1.45以下であることがより好ましく、1.4以下であることがさらに好ましい。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0045】
また、本実施形態の絶縁回路基板では、セラミックス基板として、窒化アルミニウム(AlN)で構成されたものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、アルミナ(Al2O3)、窒化ケイ素(Si3N4)等の他のセラミックス基板を用いたものであってもよい。
【0046】
さらに、本実施形態では、接合材に含まれる活性金属としてTiを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、Ti,Zr,Hf,Nbから選択される1種又は2種以上の活性金属を含んでいればよい。なお、これらの活性金属は、水素化物として含まれていてもよい。
【0047】
さらに、本実施形態においては、回路層を、無酸素銅の圧延板をセラミックス基板に接合することにより形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅板を打ち抜いた銅片を回路パターン状に配置された状態でセラミックス基板に接合されることによって回路層を形成してもよい。この場合、それぞれの銅片において、上述のような構造を有していればよい。
【実施例0048】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0049】
まず、窒化ケイ素(Si3N4)からなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.32mmt)を準備した。
また、表1に示す厚さの無酸素銅の圧延板を、表1に示す条件で打ち抜きすることにより、回路層および金属層となる金属片(37mm×37mm×0.6mmt)を得た。なお、金属片に形成されたダレ部の幅を表1に示した。
また、比較例5に用いる金属片は同様に無酸素銅とした。
【0050】
回路層および金属層となる金属片に、Ag-28mass%Cu-2mass%Tiからなる接合材を塗布した。塗布厚さは8μmとした。
そして、セラミックス基板の一方の面に、回路層となる金属片を積層した。また、セラミックス基板の他方の面に、金属層となる金属片を積層した。
【0051】
この積層体を、積層方向に加圧した状態で加熱し、Ag-Cu液相を発生させた。そして、加熱した積層体を冷却することにより、回路層となる銅板とセラミックス基板と金属層となる金属板を接合し、絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。このとき、接合工程の接合荷重、接合温度、保持時間を、表1の通りとした。
なお、比較例5では、接合工程後に回路層および金属層に対してエッチング処理を行った。エッチング処理は塩化第二鉄を用い、温度45℃で実施した。
【0052】
ここで、本発明例1-9および比較例1-4においては、
図8(a)に示すように、回路層および金属層の幅端部には、外方に向けて凸となる凸R形状部が形成された。
一方、回路層および金属層に対してエッチング処理を実施した比較例5においては、
図8(b)に示すように、路層および金属層の幅端部には、内方に向けて凹となる凹R形状部が形成された。
【0053】
そして、得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、凸R形状部の幅、Ag-Cu合金層の厚さ、冷熱サイクル信頼性を、以下のようにして評価した。
【0054】
(凸R形状部の幅)
絶縁回路基板の回路層および金属層の中心部を通る積層方向に沿った断面をキーエンス社製レーザー顕微鏡(VK-X200)で観察し、回路層および金属層の端部に形成された凸R形状部の幅を測定した。
【0055】
(Ag-Cu合金層)
回路層とセラミックス基板との接合界面、および、セラミックス基板と金属層との接合界面の断面を、EPMA装置(JEOL社製JXA-8800RL)を用いて、Ag,Cu,活性金属(Ti)の各元素マッピングを取得した。それぞれ5視野で各元素マッピングを取得した。
Ag+Cu+活性金属(Ti)=100質量%としたとき、Ag濃度が15質量%以上である領域をAg-Cu合金層とし、その面積を求めて、測定領域の幅で割った値(面積/測定領域の幅)を求めた。その値の平均をAg-Cu合金層の厚さとした。
そして、回路層および金属層の端部領域におけるAg-Cu合金層の厚さteと中央部領域におけるAg-Cu合金層の厚さtcとの比te/tc、回路層および金属層の一端部領域におけるAg-Cu合金層の厚さte1と回路層および金属層の他端部領域におけるAg-Cu合金層の厚さte2との比te1/te2を算出し、表1に記載した。
【0056】
(冷熱サイクル信頼性)
上述の絶縁回路基板に対して、-40℃×5min←→150℃×5minの冷熱サイクルを3000サイクル負荷した。負荷後の絶縁回路基板を厚さ方向に切断し、樹脂包埋、鏡面研磨を行い、各10視野でセラミックス割れの有無をSEM観察(HITACHI S-3400N)実施により判定した。10視野におけるセラミックス割れの平均長さが1mm超の場合を「×」、10視野におけるセラミックス割れの平均長さが0.1mmを超え1mm以下であった場合を「△」、10視野におけるセラミックス割れの平均長さが0.1mm以下、もしくは、セラミックス割れが全く確認されなかったものを「〇」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
比較例1においては、凸R形状部の幅が40μmとされており、冷熱サイクル信頼性が「×」となった。凸R形状部の幅が狭く、十分な応力緩和効果を得ることができず、セラミックス基板に割れが生じたと推測される。
【0059】
比較例2においては、凸R形状部の幅が700μmとされており、冷熱サイクル信頼性が「×」となった。凸R形状部の幅が広すぎて、接合時に十分な荷重をかけることができなかったため、セラミックス基板が剥離したと推測される。
【0060】
比較例3においては、回路層および金属層の端部領域におけるAg-Cu合金層の厚さteと、回路層および金属層の中央部領域におけるAg-Cu合金層の厚さtcとの比te/tcが1.2とされており、冷熱サイクル信頼性が「×」となった。比te/tcが小さいために、凸R形状部が形成された部分で十分な接合強度が得られず、セラミックス基板が剥離したと推測される。
【0061】
比較例4においては、回路層および金属層の端部領域におけるAg-Cu合金層の厚さteと、回路層および金属層の中央部領域におけるAg-Cu合金層の厚さtcとの比te/tcが3.3とされており、冷熱サイクル信頼性が「×」となった。比te/tcが大きいために、接合材が外部まではみ出して端部が硬くなりすぎ、セラミックス基板に割れが生じたと推測される。
【0062】
比較例5においては、凸R形状部が形成されておらず、
図8(b)に示すような凹R形状部となっており、冷熱サイクル信頼性が「×」となった。凸R形状部が形成されていないため、応力緩和効果を得ることができず、セラミックス基板に割れが生じたと推測される。
【0063】
これに対して、本発明例1-9においては、凸R形状部の幅が端部から50μm以上600μm以下の範囲内とされ、回路層および金属層の端部領域におけるAg-Cu合金層の厚さteと、回路層および金属層の中央部領域におけるAg-Cu合金層の厚さtcとの比te/tcが1.3以上3.0以下の範囲内とされており、冷熱サイクル信頼性が「〇」となった。
【0064】
以上の確認実験の結果から、本発明例によれば、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材の割れや剥離の発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体、および、この銅/セラミックス接合体からなる絶縁回路基板を提供可能であることが確認された。