(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066887
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】タンデム型太陽電池、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0725 20120101AFI20230509BHJP
H01L 31/0352 20060101ALI20230509BHJP
H01L 31/0248 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
H01L31/06 410
H01L31/04 342A
H01L31/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177735
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向井 剛輝
【テーマコード(参考)】
5F149
5F151
5F251
5F849
【Fターム(参考)】
5F149BB06
5F149DA33
5F149LA09
5F149XB24
5F151AA02
5F151AA07
5F151BA14
5F151CB11
5F151DA11
5F151DA13
5F151DA16
5F151FA02
5F151FA04
5F151FA06
5F251AA02
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5F251DA13
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5F251FA02
5F251FA04
5F251FA06
5F849BB06
5F849DA33
5F849LA09
5F849XB24
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で、低コストに製造可能であり、高い光電変換効率を実現可能なタンデム型太陽電池、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】互いに吸収波長域が異なる2層以上の光吸収層を積層してなるタンデム型太陽電池であって、複数の前記光吸収層のうち、少なくとも1つの光吸収層は、超格子構造を成す量子ドットからなる量子ドット超格子層であり、互いに隣接する前記光吸収層どうしの間にトンネル接合層を介在させないことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに吸収波長域が異なる2層以上の光吸収層を積層してなるタンデム型太陽電池であって、
複数の前記光吸収層のうち、少なくとも1つの光吸収層は、超格子構造を成す量子ドットからなる量子ドット超格子層であり、
互いに隣接する前記光吸収層どうしの間にトンネル接合層を介在させないことを特徴とするタンデム型太陽電池。
【請求項2】
前記量子ドットはコロイド型量子ドットであって、金属硫化物、金属セレン化物、金属テルル化物、金属砒化物、金属リン化物、金属アンチモン化物のうち、少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載のタンデム型太陽電池。
【請求項3】
複数の前記光吸収層は、積層方向に沿ってそれぞれの前記光吸収層のエネルギーバンドが、前記光吸収層の中を通過するキャリアのエネルギーが減少する方向に配列されることを特徴とする請求項1または2に記載のタンデム型太陽電池。
【請求項4】
前記コロイド型量子ドットは、その表面に結晶面方位に依存したファセット面を持つことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のタンデム型太陽電池。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のタンデム型太陽電池の製造方法であって、
溶媒に分散させたコロイド型量子ドットを基板に沈降させて、前記量子ドット超格子層を形成することを特徴とするタンデム型太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記基板は、錐形のマイクロホールを複数配列したテンプレートであることを特徴とする請求項5に記載のタンデム型太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光吸収層を有するタンデム型太陽電池、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の発電効率を上げるために、互いに異なる波長域の光を光電変換する複数の光吸収層(光電変換層)を組み合わせたタンデム型太陽電池が知られている。従来のタンデム型太陽電池は、積層された複数の光吸収層から電極まで、ポテンシャル障壁を越えることなくキャリアが流れるようにするために、光吸収層どうしをトンネル接合層によって接続している(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、発電効率を更に上げるために、例えば、複数の量子ドットが埋込層内に配置された複数の量子ドット層を積層させた中間バンドが形成されている中間バンド型太陽電池セルと、この中間バンド型太陽電池セルの光入射側に形成された電流調整用太陽電池セルとを備え、電流調整用太陽電池セルはpn接合でなるトンネル層を備え、このトンネル層によって中間バンド型太陽電池セルに接合されているタンデム型太陽電池が開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-111687号公報
【特許文献2】特開2016-122752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されたタンデム型太陽電池は、いずれも互いに吸収波長域の異なる複数の光吸収層どうしをトンネル接合層によって接続しているために、それぞれの光吸収層で発生するキャリアの総量を一致させる必要があった。このため、タンデム化によって光吸収波長の拡大と開放電圧の上昇といった効果は得られるものの、開放電圧での短絡電流を上昇させることは困難であった。しかも、トンネル接合層の形成によって太陽電池の層構成が複雑になるため、製造コストが高くなるという課題もあった。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みて提案されたものであり、簡易な構成で、低コストに製造可能であり、高い光電変換効率を実現可能なタンデム型太陽電池、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のタンデム型太陽電池は、 互いに吸収波長域が異なる2層以上の光吸収層を積層してなるタンデム型太陽電池であって、複数の前記光吸収層のうち、少なくとも1つの光吸収層は、超格子構造を成す量子ドットからなる量子ドット超格子層であり、互いに隣接する前記光吸収層どうしの間にトンネル接合層を介在させないことを特徴とする。
【0008】
また、本発明では、前記量子ドットはコロイド型量子ドットであって、金属硫化物、金属セレン化物、金属テルル化物、金属砒化物、金属リン化物、金属アンチモン化物のうち、少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0009】
また、本発明では、複数の前記光吸収層は、積層方向に沿ってそれぞれの前記光吸収層のエネルギーバンドが、前記光吸収層の中を通過するキャリアのエネルギーが減少する方向に配列されていてもよい。
【0010】
また、本発明では、前記コロイド型量子ドットは、その表面に結晶面方位に依存したファセット面を持つ構成であってもよい。
【0011】
また、本発明のタンデム型太陽電池の製造方法は、前記各項に記載のタンデム型太陽電池の製造方法であって、溶媒に分散させたコロイド型量子ドットを基板に沈降させて、前記量子ドット超格子層を形成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、前記基板は、錐形のマイクロホールを複数配列したテンプレートであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な構成で、低コストに製造可能であり、高い光電変換効率を実現可能なタンデム型太陽電池、およびその製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態のタンデム型太陽電池を示す断面図である。
【
図2】第1実施形態のタンデム型太陽電池のバンドダイヤグラムを示す模式図である。
【
図3】本発明の第2実施形態のタンデム型太陽電池を示す断面図である。
【
図4】第2実施形態のタンデム型太陽電池のバンドダイヤグラムを示す模式図である。
【
図5】タンデム型太陽電池の製造方法に用いる基板の一例としてのテンプレートを示すSEM写真である。
【
図6】検証例1のタンデム型太陽電池のバンドダイヤグラムを示す模式図である。
【
図7】検証例2のタンデム型太陽電池のバンドダイヤグラムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態のタンデム型太陽電池、およびその製造方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0016】
(タンデム型太陽電池:第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態のタンデム型太陽電池を示す断面図である。
本実施形態のタンデム型太陽電池(以下、単に太陽電池と称することがある)10は、表面電極11と、裏面電極12と、この2つの電極間に形成された光吸収積層体13と、から構成されている。
【0017】
こうした太陽電池10は、表面電極11側から太陽光を入射させ、光吸収積層体13において光電変換を行い、表面電極11と裏面電極12との間で発電した電力を取り出すことができる。
【0018】
本実施形態の表面電極11は、金属膜を櫛形に形成し、櫛歯部分どうしの隙間から太陽光を透過可能な櫛歯電極にした。金属膜としてはAgを用いた。こうした櫛歯電極の場合、太陽光が不透過であっても透明導電性材料よりも導電率が高い金属膜によって構成することができる。
【0019】
なお、表面電極11は、太陽光を透過可能な透明導電性材料、例えば、酸素欠陥を制御した酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム等の電気伝導性酸化物の他、酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜であるAZO(AlドープZnO)、BZO(BドープZnO)、FZO(FドープZnO)、GZO(GaドープZnO)等、酸化スズを主成分とする透明導電膜であるATO(SbドープSnO2)、FTO(FドープSnO2)等、酸化インジウムを主成分とする透明導電膜であるITO(SbドープIn2O3)、IFO(FドープIn2O3)等を所定の厚みで成膜して構成することもできる。
【0020】
なお、表面電極11の外面側には、更に透明な硬質膜などの表面保護層(図示略)を形成することも好ましい。こうした表面保護層を形成することによって、表面電極11を物理的な応力から保護することができる。
また、光吸収積層体13と表面電極11との間には、更に反射防止膜(図示略)を形成することも好ましい。
【0021】
裏面電極12は、表面電極11と対を成す電極であると共に、光吸収積層体13を透過した太陽光を反射させて光吸収積層体13に再入射させる反射層の役割も果たす。このため、裏面電極12は、導電性でかつ光反射性の金属、例えば、AlやAlを含む合金、AgやAgを含む合金など、光反射性が高く、かつ導電性の高い金属を用いることが好ましい。
【0022】
本実施形態の光吸収積層体13は、複数の光吸収層、即ち、表面電極11側から順に、第1光吸収層14、第2光吸収層15、第3光吸収層16が積層されてなる。これら第1光吸収層14、第2光吸収層15、第3光吸収層16は、互いに吸収波長域が異なる材料から構成されている。そして、第1光吸収層14、第2光吸収層15、第3光吸収層16は、互いの間にトンネル接合層を介在させることなく積層されている。
【0023】
第1光吸収層14は、セレン化錫(II)(SnSe)のナノシート(厚さ数十~数百ナノメートル)から構成されている。こうした第1光吸収層14は、複数の光吸収層14,15,16のうち、短波長側の波長域の太陽光を吸収し、光電変換を行う。
【0024】
第2光吸収層15は、超格子構造を成す半導体である硫化鉛(PbS)の量子ドットからなる量子ドット超格子層(バンド端吸収波長1800nm)である。こうした半導体量子ドットが規則的に配列した量子ドット超格子層は、隣接した量子ドット間の相互作用により、独立した個々の量子ドットとは異なる、量子ドット集合体としての物性を有している。
【0025】
特に、量子ドット間の距離が5ナノメートル以下まで近接した場合には、量子共鳴と称される量子ドット間の波動関数(電子の広がり)の結合が生じる。こうした量子共鳴によって、電子状態は集合体全体に広がり、電荷移動度が大きく向上する。
【0026】
例えば、量子ドットが周期的に配列している場合には、波動関数は定在波としての特定のエネルギー状態を量子ドットの集合体全体で保持するようになる。この特定のエネルギー状態を中間バンドと称する。また、このような量子ドットの集合体を量子ドット超格子と称する。中間バンド中の電子は極めて良好に超格子内を移動できる。このような中間バンドは、量子ドットが孤立していた場合の基底準位および励起準位を元にして複数形成される。
【0027】
量子ドット超格子、およびその結果としての中間バンドを形成するためには、できるだけ均一な量子ドットを、できるだけ整った状態で3次元的に、かつ周期的に配列させる必要がある。例えば、上述した特許文献2には、量子ドット超格子をIII-V族半導体の気相エピタキシャル成長法によって作製する例が開示されている。
【0028】
しかしながら、特許文献2のような気相エピタキシャル成長法における量子ドットは、基板との格子不整合に由来した成長中の結晶歪みをその形成原理としているため、成長中に時々刻々と変化する結晶歪みの制御が難しく、均一な量子ドットが周期的に配列された超格子層を形成することには限界があることが知られている。
【0029】
第3光吸収層16は、単結晶シリコン層から構成されている。こうした第3光吸収層16は、複数の光吸収層14,15,16のうち、長波長側の波長域の太陽光を吸収し、光電変換を行う。
【0030】
図2は、
図1に示す本実施形態のタンデム型太陽電池のバンドダイヤグラムを示す模式図である。
本実施形態の太陽電池10の光吸収積層体13は、それぞれのバンドギャップの上端が、第1光吸収層14から順に3.74eV、4.2eV、4.05eVとなっているが、第2光吸収層15を量子ドット超格子層としたために、この第2光吸収層15で4.2eVよりも高いエネルギー位置に中間バンドが形成されるため、光吸収積層体13のいずれにも電子にとってのポテンシャル障壁(キャリアが電極に向かって流れようとする場合にエネルギーを得ないと超えられない障壁)が形成されることがない。また、正孔にとっても同様のことが言える。
【0031】
このように、積層方向に沿ってそれぞれの光吸収層14,15,16のエネルギーバンドが、光吸収層の中を通過するキャリアのエネルギーが減少する方向に配列されることによって、電子、及び正孔が裏面電極12、及び表面電極11に向かってスムーズに流れる。
【0032】
第2光吸収層15を構成する量子ドット超格子層は、単なる量子ドット光吸収層とは異なる。従来の量子ドット光吸収層は、単一量子ドット中には励起準位は存在するものの孤立しており、エネルギーバンド化していない。そのため、単なる励起準位はキャリアフローの助けにはなっていない。例えば、第2光吸収層15として量子ドットが超格子を形成していない量子ドット光吸収層とした場合、ポテンシャル障壁が生じるため、それぞれの光吸収層の間にトンネル接合層を挿入する必要が生じる。
【0033】
こうした量子ドット超格子層(本実施形態では第2光吸収層15)における中間バンドの形成位置は、量子ドットの材料やサイズによって、任意の位置に調整することが可能である。
【0034】
例えば、量子ドット超格子層の構成材料としては、金属硫化物、金属セレン化物、金属テルル化物、金属砒化物、金属リン化物、金属アンチモン化物のうち、少なくとも1種を含むものであればよい。より具体的には、例えば、PbS,CdS,CdSe,CdTe,GaAs,GaSb,HgSe,HgTe,InAs,InP,InSb,PbSe,PbTe,ZnS,ZnSe,ZnTe,Ag2S,SnSe,SnTe、あるいはこれらを混合したものから構成することができる。
【0035】
第2光吸収層15を構成する量子ドット超格子層は、上述した構成材料を用いて、例えば、気相エピタキシャル成長法によって量子ドット超格子を構成できる。また、より良好な超格子を実現するための量子ドットとして、コロイド型量子ドットを用いることもできる。コロイド型量子ドットは、液体中の化学反応によって作製することができる。コロイド型量子ドットは、気相エピタキシャル成長法のように基板に束縛されずに形成することができるので、高均一な量子ドットにすることができる。
【0036】
更に、コロイド型量子ドットを取り囲む配位子の大きさを調整することによって、互いに隣接する量子ドットどうしの最近接距離を制御することもできる。また、安価に大量に製造することができる。コロイド型量子ドットを溶媒中で基板上に沈降、積層させると、量子ドットが最密充填されて、3次元的な周期構造としての量子ドット超格子層を形成することができる。
【0037】
コロイド型量子ドットの表面には、結晶面方位に依存したファセット面を持たせることもできる。ファセット面は、コロイド型量子ドットを溶媒中で沈降、積層させて量子ドット超格子層を形成させる際に、各量子ドットの結晶面方位を同一方向に揃える働きがある。各量子ドットの結晶面方位が揃っていると、量子ドット間の波動関数の結合が良好となり、電気的特性の優れた中間バンドが形成される。
【0038】
一方、コロイド型量子ドットを溶媒中で沈降させて作製した3次元的な周期構造は、電子顕微鏡の視野程度の狭い領域では均一な周期構造ではあるものの、より広い領域で見た場合には配列方向が無秩序である。その理由は、コロイド型量子ドットの配列が局所的に無秩序に同時進行するからである。
【0039】
こうした課題を解決し、より広い領域で配列方向を揃えるために、コロイド型量子ドットが無秩序に移動できる平面基板ではなく、配列方向を強制的に整えるための加工を施した基板を用いることができる。このような加工基板は、エッチングレートが基板の結晶面方位に依存する異方性エッチングなどで作製できる。
【0040】
気相エピタキシャル成長法によって、量子ドットではなくコロイド型量子ドットを用いることの別の利点として、材料選択の任意性が挙げられる。気相エピタキシャル成長法では、結晶成長に使用する基板とほとんど格子整合させる必要性のために、使用できる材料には自ずと制限があるが、コロイド型量子ドットを用いる場合にはそのようなことがない。その結果、タンデム型太陽電池のバンドダイヤグラムを設計する際、材料選択の制限を全くなくすことが可能になり、自由に構成材料が選択可能になる。
【0041】
以上のように、本実施形態の太陽電池10によれば、光吸収積層体13を構成する光吸収層14,15,16のうち、第2光吸収層15を量子ドット超格子層にすることによって任意の位置に中間バンドを形成し、ポテンシャル障壁をなくすことができる。これにより、トンネル接合層を形成しなくても、キャリアをスムーズに電極に向かって移動させることができる。その結果、太陽電池10の設計時に電流整合条件が不要となり、電極間電圧と生成電流を同時に向上させることができるようになった結果、高効率な太陽電池を実現することができる。また、任意の位置に中間バンドを形成することができるので、それぞれの光吸収層の設計自由度を大きく向上させることができる。
【0042】
(タンデム型太陽電池:第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態のタンデム型太陽電池を示す断面図である。また、
図4は、
図3のタンデム型太陽電池のバンドダイヤグラムを示す模式図である。
本実施形態の太陽電池20は、太陽光の入射側から順に、表面電極21、正孔輸送層24、光吸収積層体23、裏面電極22が積層されてなる。光吸収積層体23は、第1光吸収層25、第2光吸収層26から構成されている。
【0043】
本実施形態の裏面電極22は、アルミニウム基板とした。また、表面電極21は、太陽光を透過可能な透明導電性材料であるITOを所定の厚みで成膜して構成した。
【0044】
正孔輸送層24は、正孔を表面電極21側へ円滑に流し、電子の流入をブロックする層であり、光吸収積層体23と表面電極21の界面での再結合を抑制している。本実施形態の正孔輸送層24は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):(PEDOT)、ポリ(4-スチレンスルホン酸):(PSS)の混合物から構成されている。
【0045】
第1光吸収層25は、超格子構造を成す半導体である硫化鉛(PbS)の量子ドットからなる量子ドット超格子層(バンド端吸収波長1400nm)である。PbSの量子ドット超格子層からなる第1光吸収層25は、量子ドット内の電子が他の隣接する量子ドットへと移動できる中間バンドが形成される。こうした第1光吸収層25は、複数の光吸収層25,26のうち、短波長側の波長域の太陽光を吸収し、光電変換を行う。
【0046】
第2光吸収層26は、超格子構造を成す半導体である硫化鉛(PbS)の量子ドットからなる量子ドット超格子層(バンド端吸収波長1800nm)である。PbSの量子ドット超格子層からなる第2光吸収層26は、量子ドット内の電子が他の隣接する量子ドットへと移動できる中間バンドが形成される。こうした第2光吸収層26は、複数の光吸収層25,26のうち、長波長側の波長域の太陽光を吸収し、光電変換を行う。
【0047】
本実施形態の太陽電池20の光吸収積層体23は、それぞれのバンドギャップの上端が、第1光吸収層25から順に4.1eV、4.2eVとなっているが、第1光吸収層25および第2光吸収層26をいずれも量子ドット超格子層としたために、この第1光吸収層25および第2光吸収層26でそれぞれのエネルギーバンド端よりも高いエネルギー位置に中間バンドが形成される。これにより、光吸収積層体23のいずれにもポテンシャル障壁が形成されない。よって、電子が電極に向かってスムーズに流れる。また、正孔にとっても同様のことが言える。
【0048】
(タンデム型太陽電池の製造方法)
タンデム型太陽電池の製造方法として、量子ドット超格子層を形成する際には、溶媒、例えばトルエンにコロイド型量子ドット分散させた量子ドット分散液(以下、QD(Quantum Dot)分散液と称する)を用いて、このQD分散液中の量子ドットを基板上に沈降させることで形成することができる。
【0049】
こうした基板としては、
図5に示すように、錐形のマイクロホール101,101…を複数配列したテンプレート100を用いることができる。テンプレート100は、例えば、シリコン基板を用い、レジストの露光、現像などの半導体プロセスによって、3μm四方、深さ3μmの四角錐形のマイクロホール101,101…を上下左右1μm間隔で配列形成したものを用いることができる。
【0050】
これらの錐形のマイクロホール101は、例えば、基板がシリコン単結晶であり、エッチング溶液として水酸化カリウム(KOH)溶液を用いることで、エッチング速度が面方位に依存して異なる結果、錐面に基板の面方位が現れた均一なマイクロホールとすることができる。
【0051】
こうしたテンプレート100にQD分散液を滴下して、あるいはテンプレートをQD分散液に浸漬して、それぞれのマイクロホール101内に量子ドットを沈降させ、その後、あるいは同時に、溶媒を蒸発させることによって、量子ドット超格子層を形成することができる。
【0052】
ここで、量子ドットの沈降に要する時間は、溶媒とQDの種類によって様々である。QDが基板上で力学的に最も安定な場所に落ち着くことによって、QDの最密充填が実現し、周期的な3次元配列が形成されるため、できるだけ時間をかけてQDを沈降させることが好ましい。また、必要とされる沈降時間と3次元配列の完全性は、基板と溶媒やQDとの親和性にも影響を受ける。すなわち、時間が短いほど低くなる製造コストと、時間をかけるほど向上する配列の完全性とを比較して、沈降時間を選べば良い。例えば、トルエンを溶媒とし配位子をオレイン酸とするPbS量子ドットを用いる場合、典型的な沈降時間は3日から1週間程度である。
【0053】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。こうした実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0054】
(検証例1)
本発明の効果を検証した。
検証例1として、光吸収積層体を2層で構成した場合において、本発明例1、比較例1、2の太陽電池の性能を試算した。
【0055】
本発明例1として、表面電極(正極)としてAu膜、裏面電極(負極)としてAl膜、を用い、光吸収積層体として、セレン化錫(SnSe)ナノワイヤーからなる光吸収層と、超格子構造を成す半導体である硫化鉛(PbS)の量子ドットからなる量子ドット超格子層(バンド端吸収波長1400nm)とを、この順に積層したものを用いた。
【0056】
比較例1として、本発明例1の量子ドット超格子層に代えて、超格子構造でない量子ドット光吸収層を用いた。
比較例2として、比較例1のナノワイヤーからなる光吸収層と量子ドット光吸収層との間にトンネル接合層を形成したものを用いた。
これら本発明例1、比較例1、2の太陽電池のバンドダイヤグラムを
図6に示す。
【0057】
図6(a)に示す本発明例1では、光吸収積層体として量子ドット超格子層を用いたことによって、中間バンドが形成され、キャリアである電子と正孔はそれぞれ2層の光吸収層から正極や負極に向かってスムーズに流れる。
【0058】
一方、比較例1では、ナノワイヤーからなる光吸収層と超格子構造でない量子ドット光吸収層との間で、電子については大きなエネルギー差のために多大な熱が発生し、正孔についてはポテンシャル障壁のために電流が流れず、タンデム型の太陽電池として機能しない。こうしたポテンシャル障壁を解消する比較例2では、トンネル接合層によってナノワイヤーからなる光吸収層の伝導体の電子と量子ドット光吸収層の価電子帯の正孔とを再結合させることにより、電流は流れて熱発生も抑制できるが、再結合によりキャリアの余剰が生じないように、電流整合条件を満たす設計を行うことが必要である。
【0059】
次に、実際にタンデム型太陽電池として機能する本発明例1と比較例2の太陽電池の出力を計算した。計算にあたって、本発明例1の量子ドット超格子層の電流生成能を中間バンドによる光吸収を考慮して40mA/cm2、SnSeナノワイヤーからなる光吸収層の電流生成能を10mA/cm2、比較例2の超格子構造でない量子ドット光吸収層の電流生成能を15mA/cm2にそれぞれ設定した。
【0060】
本発明例1では、開放電圧(V1)は正極と負極の仕事関数の差で決まり、1.04Vである。また、短絡電流密度(D1)は光吸収積層体全体で生じた電流の合計で決まるため、50mA/cm2である。そして、フィルファクターを0.8に設定すると、本発明例1の太陽電池の出力は、V1×D1×0.8=41.06mA/cm2である。
【0061】
一方、比較例2では、開放電圧(V1)は1.04Vである。また、短絡電流密度(D1)は電流整合条件を満たすために、電流生成能が小さい、SnSeナノワイヤー光吸収層の生成電流に整合するように、超格子構造でない量子ドット光吸収層の生成電流を調整する必要がある。その結果、短絡電流密度(D1)は10mA/cm2となる。フィルファクターを0.8に設定すると、比較例2の太陽電池の出力は、V1×D1×0.8=8.32mA/cm2である。
【0062】
以上の検証例1の結果から、光吸収層として量子ドット超格子層を用いた本発明例1の太陽電池は、同一構成で光吸収層として超格子構造でない量子ドット光吸収層を用いた比較例2の太陽電池と比較して、出力が約4.9倍に改善された。本発明の効果が確認された。
【0063】
(検証例2)
検証例2として、光吸収積層体を3層で構成した場合において、本発明例2、比較例3、4の太陽電池の性能を試算した。
【0064】
本発明例2として、表面電極(正極)としてAu膜、裏面電極(負極)としてAl膜、を用い、光吸収積層体として、超格子構造を成す半導体であるセレン化錫(SnSe)ナノワイヤーからなる光吸収層と、超格子構造を成す半導体である硫化鉛(PbS)の量子ドットからなる量子ドット超格子層(バンド端吸収波長1800nm)と、n型単結晶シリコン層とを、この順に積層したものを用いた。
【0065】
比較例3として、本発明例2の量子ドット超格子層に代えて、超格子構造でない量子ドット光吸収層を用いた。
比較例4として、比較例3のSnSeナノワイヤー光吸収層とPbS量子ドット光吸収層との間、およびPbS量子ドット光吸収層とn型単結晶シリコン層との間に、それぞれトンネル接合層を形成したものを用いた。
これら本発明例2、比較例3、4の太陽電池のバンドダイヤグラムを
図7に示す。
【0066】
図7(a)に示す本発明例2では、光吸収積層体としてPbS量子ドット超格子層を用いたことによって中間バンドが形成され、キャリアである電子と正孔はそれぞれ3層の光吸収層から正極や負極に向かってスムーズに流れる。
【0067】
一方、比較例3では、超格子構造でないPbS量子ドット光吸収層とn型単結晶シリコン層との間に、電子に対しても正孔に対してもポテンシャル障壁が形成され、電流が流れず、タンデム型の太陽電池として機能しない。こうしたポテンシャル障壁を解消する比較例4では、トンネル接合層によって、SnSe量子ドット光吸収層とPbS量子ドット光吸収層との間、およびPbS量子ドット光吸収層とn型単結晶シリコン層との間で、それぞれ伝導体の電子と価電子帯の正孔とを再結合させることにより、電流は流れるが、再結合によりキャリアの余剰が生じないように、電流整合条件を満たす設計を行うことが必要である。
【0068】
次に、実際にタンデム型太陽電池として機能する本発明例2と比較例4の太陽電池の出力を計算した。計算にあたって、本発明例2のSnSeナノワイヤー光吸収層の電流生成能を10mA/cm2、量子ドット超格子層の電流生成能を中間バンドによる光吸収を考慮して40mA/cm2、比較例4の超格子構造でない量子ドット光吸収層の電流生成能を15mA/cm2、n型単結晶シリコン層の電流生成能をシリコン太陽電池の性能として典型的に知られている値である25mA/cm2にそれぞれ設定した。
【0069】
本発明例2では、開放電圧(V1)は正極と負極の仕事関数の差で決まり、1.04Vである。また、短絡電流密度(D1)は光吸収積層体全体で生じた電流の合計で決まるため、75mA/cm2である。そして、フィルファクターを0.8に設定すると、本発明例2の太陽電池の出力は、V1×D1×0.8=62.4mA/cm2である
【0070】
一方、比較例4では、開放電圧(V1)は1.04Vである。また、短絡電流密度(D1)は電流整合条件を満たすために、電流生成能が最も小さいSnSeナノワイヤー光吸収層の生成電流に整合するように、PbS量子ドット光吸収層およびn型単結晶シリコン層の生成電流を調整する必要がある。その結果、短絡電流密度(D1)は10mA/cm2となる。フィルファクターを0.8に設定すると、比較例2の太陽電池の出力は、V1×D1×0.8=8.32mA/cm2である。
【0071】
以上の検証例2の結果から、光吸収層として量子ドット超格子層を用いた本発明例2の太陽電池は、同一構成で光吸収層として超格子構造でない量子ドット光吸収層を用いた比較例4の太陽電池と比較して、出力が約7.5倍と大幅に改善された。本発明の効果が確認された。