(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066936
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物、並びにそれを収容した筆記具及び筆記具用インキカートリッジ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20230509BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K8/02 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177814
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 梓
(72)【発明者】
【氏名】薄田 莉沙
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA06
2C350HA14
2C350NA11
4J039AD09
4J039BA04
4J039BC07
4J039BC10
4J039BC35
4J039BE01
4J039BE19
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA38
4J039EA42
4J039EA47
4J039GA26
(57)【要約】
【課題】 黒色が濃く、鮮やかで、滲みが抑制された筆跡が形成可能であり、筆跡の耐水性と乾燥性が良好であると共に、優れたキャップオフ性能を奏することにより、キャップオフ状態で放置した後であってもカスレ等の筆記不良を抑制でき再筆記性に優れる、筆記具用水性インキ組成物、並びにそれを収容した筆記具及び筆記具用インキカートリッジを提供する。
【解決手段】 少なくとも、自己分散型カーボンブラックと、アセチレン結合を有する特定の界面活性剤と、ガラス転移温度が0℃を超えるアクリル系樹脂エマルションと、水とからなる、筆記具用水性インキ組成物、並びにそれを収容した筆記具及び筆記具用インキカートリッジ。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、自己分散型カーボンブラックと、下記式(1)で示されるアセチレン結合を有する界面活性剤と、ガラス転移温度が0℃を超えるアクリル系樹脂エマルションと、水とからなる、筆記具用水性インキ組成物。
【化1】
(式中、
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立に、アルキル基であり、
R
5はエチレン基であり、
l及びmは、それぞれ独立に、0以上の整数である)
【請求項2】
前記インキ組成物の総質量に対する、前記アクリル系樹脂エマルション中の樹脂の含有率が、0.1~3質量%である、請求項1記載のインキ組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のインキ組成物を収容してなる、筆記具。
【請求項4】
前記筆記具が筆ペンである、請求項3記載の筆記具。
【請求項5】
前記筆ペンが、ペン先と、インキ充填機構と、インキ供給機構とを備えてなる、請求項4記載の筆ペン。
【請求項6】
前記インキ充填機構としてインキカートリッジを備えてなる、請求項5記載の筆ペン。
【請求項7】
前記インキ充填機構が、内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、前記ペン先とインキ充填機構とが、前記インキ供給機構を介して接合されてなる、請求項5記載の筆ペン。
【請求項8】
前記インキ供給機構として、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を備えてなる、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の筆ペン。
【請求項9】
請求項1又は2記載のインキ組成物を収容してなる、筆記具用インキカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用水性インキ組成物と、それを収容した筆記具及び筆記具用インキカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具に収容されるインキには、着色剤として染料や顔料が用いられている。特に、着色剤として顔料を用いたインキは、染料よりも耐光性に優れ、経時的な退色が少ないことから盛んに利用されている。そして、顔料を含むインキに関して、筆跡の濃度や耐水性を向上させる検討が行われている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、特定の平均粒子径を有する自己分散型カーボンブラックと、ガラス転移温度が0℃以下のアクリル系樹脂エマルションとからなる筆記具用水性インキ組成物が開示されている。上記のインキ組成物(インキ)を収容する筆記具により形成される筆跡は、黒色の濃度が高いと共に、耐水性を有するものである。
【0003】
しかしながら、上記のインキは紙面への浸透性が十分でないため、インキを筆記具に適用した場合に乾燥性に優れる筆跡を形成し難く、特に、筆ペン等の、多量のインキが紙面に塗布される筆記具に適用される場合には、筆跡の乾燥性を良好とすることがいっそう困難であった。
また、上記のインキを収容した筆記具はペン先が露出した状態、いわゆるキャップオフ状態で放置されると、ペン先からの水分蒸発に伴って樹脂が固化、析出して、再筆記の際にカスレ等の筆記不良を生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、濃い黒色の筆跡が形成可能であり、筆跡の乾燥性と耐水性が良好であると共に、さらに、優れたキャップオフ性能を奏する筆記具用水性インキ組成物、並びにそれを収容した筆記具及び筆記具用インキカートリッジを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも、自己分散型カーボンブラックと、下記式(1)で示されるアセチレン結合を有する界面活性剤と、ガラス転移温度が0℃を超えるアクリル系樹脂エマルションと、水とからなる筆記具用水性インキ組成物を要件とする。
【化1】
(式中、
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立に、アルキル基であり、
R
5はエチレン基であり、
l及びmは、それぞれ独立に、0以上の整数である)
また、前記インキ組成物の総質量に対する、前記アクリル系樹脂エマルション中の樹脂の含有率が、0.1~3質量%であることを要件とする。
さらには、前記インキ組成物を収容してなる筆記具を要件とする。
また、前記筆記具が筆ペンであること、前記筆ペンがペン先と、インキ充填機構と、インキ供給機構とを備えてなること、前記インキ充填機構としてインキカートリッジを備えてなること、前記インキ充填機構が、内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、前記インキ充填機構とペン先とが、前記インキ供給機構を介して接合されてなること、前記インキ供給機構として、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を備えてなることを要件とする。
さらには、前記インキ組成物を収容してなるインキカートリッジを要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、黒色が濃く、鮮やかで、滲みが抑制された筆跡が形成可能であり、筆跡の耐水性と乾燥性が良好であると共に、優れたキャップオフ性能を奏することによりキャップオフ状態で放置した後であってもカスレ等の筆記不良を抑制でき、再筆記性に優れる筆記具用水性インキ組成物、並びにそれを収容した筆記具及び筆記具用インキカートリッジを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明による筆記具(筆ペン)の一実施例を示す説明図である。
【
図2】本発明による筆記具(筆ペン)用インキカートリッジの一実施例を示す説明図である。
【
図3】本発明による筆記具(筆ペン)の他の実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、「インキ組成物」、又は「インキ」と表すことがある)は、少なくとも、自己分散型カーボンブラックと、上記式(1)で示されるアセチレン結合を有する界面活性剤と、ガラス転移温度が0℃を超えるアクリル系樹脂エマルションと、水とを含んでなる。以下に、本発明によるインキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0010】
本発明によるインキ組成物は、自己分散型カーボンブラックを含んでなる。
自己分散型カーボンブラックとは樹脂、界面活性剤等の分散剤を用いることなく、水性媒体中に分散することが可能なカーボンブラックのことである。カーボンブラックに物理的処理又は化学的処理を施して、表面に親水性の官能基(以下、「親水基」と表すことがある)を形成させることにより、分散剤を用いなくてもカーボンブラックを水性媒体中に分散させることが可能となる。
親水性の官能基としては、例えば、-COOM、-SO3M、-SO2M、-CO-、-COO-、-OM、-SO2NH2、-RSO2M、-PO3HM、-PO3M2、-SO2NHCOR、-NH3、-NR3等を例示できる。
上記した官能基中のMは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、置換基を有していてもよいフェニル基、有機アンモニウムである。また、官能基中のRは、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、又は置換基を有していてもよいナフチル基である。
物理的処理としては、例えば、真空プラズマ処理等を例示できる。
化学的処理としては、例えば、水中で酸化剤により酸化する湿式酸化法や、p-アミノ安息香酸をカーボンブラック表面に結合させることにより、フェニル基を介してカルボキシ基を結合させる方法等を例示できる。
【0011】
紙面浸透性に優れる、顔料を用いたインキは、ビヒクルと共に顔料が紙内部に浸透し易いものであるが、一方で筆跡の発色性を損ない易い傾向にある。しかしながら、本発明によるインキ組成物は自己分散型カーボンブラックを含むことにより、インキ組成物の紙面浸透性に優れながらも、黒色が濃く、鮮やかな筆跡を形成することができる。また、自己分散型カーボンブラックを用いることにより、筆跡の滲みを抑制することもできる。
これは、自己分散型カーボンブラックの表面に存在する親水基と紙繊維のセルロースとが高い親和性を有することにより、インキが紙面に接触した際に自己分散型カーボンブラックは表面に存在する親水基を介して紙表面のセルロースに速やかに吸着し、自己分散型カーボンブラックが紙内部に侵入することや、紙面に接触したインキが接触部の周辺に広がることが抑制されるためであると推察される。
【0012】
自己分散型カーボンブラックとして具体的には、BONJET BLACK CW-1、同CW-2、同CW-3〔オリヱント化学工業(株)製〕、CAB-O-JET 200、同300(キャボットコーポレーション製)、Aqua-Black 001、同162〔東海カーボン(株)製〕、FUJI JET BLACK A-20、同B-15、同B-22、同D-12〔冨士色素(株)製〕等を例示できる。
【0013】
インキ組成物の総質量に対する自己分散型カーボンブラックの含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは5~15質量%、より好ましくは6~14質量%の範囲である。自己分散型カーボンブラックの含有率が上記の範囲内にあることにより、筆跡の黒色が濃く、鮮やかでありながらも、筆跡を擦過したときに自己分散型カーボンブラックが筆跡周辺に付着して紙面が汚染されることを抑制することができる。また、筆記具のペン先からインキ中の水分が蒸発して乾燥した場合に、再筆記が不能となることを抑制し易くなる。
【0014】
本発明によるインキ組成物は、さらに下記式(1)で示されるアセチレン結合を有する界面活性剤を含んでなる。
【化2】
(式中、
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立に、アルキル基であり、
R
5はエチレン基であり、
l及びmは、それぞれ独立に、0以上の整数である)
【0015】
本発明によるインキ組成物は、上記のアセチレン結合を有する特定の界面活性剤を含むことにより、インキ組成物の紙面浸透性を良好とすることができる。
例えば、筆ペンのようなペン先にインキが潤沢にある筆記具は、紙面に筆記した場合に多量のインキが紙面に塗布されるため、筆跡の乾燥性を損ない易い傾向にある。しかしながら、本発明によるインキ組成物は、上記式(1)で示される界面活性剤を含むことにより紙面浸透性に優れ、紙面に多量のインキが塗布された場合であっても筆跡の乾燥性を良好とすることができる。
さらに上記の界面活性剤は、インキ組成物が、後述するペン先、インキ充填機構、インキ供給機構等を備えた筆記具のインキ流路を円滑に移動することができるようにするため、本発明によるインキ組成物により、筆記具のインキ吐出性を向上させることもできる。
【0016】
式(1)で示される界面活性剤は、インキ組成物の紙面浸透性を良好とし易いことから、HLB値が4~18であるものが好ましく、8~17であるものがより好ましく、12~16であるものがさらに好ましい。HLB値はグリフィン法に基づく数値であり、下記式(2)により算出される値である。なお、グリフィン法によるHLB値は、0~20の範囲にあり、数値が大きいほど化合物が親水性であることを示す。
HLB値=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/界面活性剤の分子量) (2)
また、式(1)におけるlとmの合計(l+m)は、0≦(l+m)≦30であることが好ましく、0≦(l+m)≦20であることがより好ましい。
上記の界面活性剤は、一種又は二種以上を併用して用いることができる。
【0017】
式(1)で示されるアセチレン結合を有する界面活性剤として具体的には、オルフィンD-10A、同D-10PG、同E1004、同E1010、同E1020、同E1030W、同PD-001、同PD-002W、同PD-003、同PD-004、同PD-201、同PD-301、同EXP.4001、同EXP.4200、同EXP.4123、同EXP.4300、サーフィノール82、同104E、同104H、同104A、同104PA、同104-PG50、同104S、同420、同440、同465、同485、同2502、ダイノール604、同607〔日信化学工業(株)製〕、アセチレノールE13T、同EX、同EL、同E40、同E60、同E81、同E100、同85〔川研ファインケミカル(株)製〕を例示できる。これらの中でも、インキ組成物の紙面浸透性及びインキ吐出性を良好とし易いことから、オルフィンE1010、オルフィンE1020、サーフィノール485が好ましい。
【0018】
本発明によるインキ組成物には、上記のアセチレン結合を有する界面活性剤以外の界面活性剤を配合させることもでき、インキ組成物を所望の粘度、表面張力に調整し、インキ吐出安定性を向上させて筆記不良を抑制すると共に、紙面における筆跡の滲みや裏抜けを抑制して、より良好な筆跡を形成できるインキ組成物とすることができる。
アセチレン結合を有する界面活性剤以外の界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0019】
インキ組成物の総質量に対する、上記式(1)で示されるアセチレン結合を有する界面活性剤の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.5~3質量%、より好ましくは0.5~2.5質量%の範囲である。界面活性剤の含有率が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の紙面浸透性をより良好として筆跡の乾燥性を高めると共に、筆跡の滲みをより抑制することができる。
【0020】
本発明によるインキ組成物は、さらにガラス転移温度が0℃を超えるアクリル系樹脂エマルション(以下、「アクリル系樹脂エマルション」と表すことがある)を含んでなる。
樹脂エマルションとは、樹脂が水性媒体に溶解せず、水性媒体中に粒子状で分散したものである。アクリル系樹脂エマルションは、例えば、界面活性剤を乳化剤として使用して、樹脂を乳化させて水性媒体中で分散させる方法によって製造することができる。
【0021】
本発明によるインキ組成物において、ガラス転移温度が0℃を超えるアクリル系樹脂エマルションは、インキを収容した筆記具により形成される筆跡に優れた耐水性を付与する効果を有する。
これは、インキが紙面に接触した際に、インキ中に含まれるアクリル系樹脂が紙面に強固に固着されるためであると推察される。
【0022】
また、本発明によるインキ組成物は、ガラス転移温度が0℃を超えるアクリル系樹脂エマルションを含むことにより、インキ組成物を収容した筆記具のキャップオフ性能を優れたものとする効果を奏する。
一般的に、樹脂を含むインキ組成物を収容した筆記具は、キャップオフ状態で放置されると、ペン先からの水分蒸発に伴ってペン先で樹脂が固化、析出するため、再筆記の際にカスレ等の筆記不良を生じ易くなる傾向にある。しかしながら、本発明によるインキ組成物に含まれるアクリル系樹脂エマルションは、筆記具のペン先における水分蒸発に伴う樹脂の固化、析出が生じ難く、インキ組成物を収容した筆記具をキャップオフ状態で放置した後であっても、カスレ等の筆記不良の発生が抑制され、良好な筆跡を形成することができる。
つまり、本発明によるインキ組成物において、特定のガラス転移温度を有するアクリル系樹脂エマルションは、筆跡に良好な耐水性を付与すると共に、インキ組成物を収容した筆記具に優れたキャップオフ性能をもたらすものである。
【0023】
アクリル系樹脂エマルションを構成するアクリル系樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー〔以下、「(メタ)アクリロイルモノマー」と表すことがある〕を必須の単量体単位として含む樹脂のことである。なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基(CH2=CH-COO-)、又はメタクリロイル基〔CH2=C(-CH3)-COO-〕を意味する。
アクリル系樹脂としては、単独の(メタ)アクリロイルモノマーによる重合体、又は二種以上の(メタ)アクリロイルモノマーによる共重合体等が挙げられるが、(メタ)アクリロイルモノマーと他のモノマーによる共重合体であってもよく、例えば、エチレン-アクリル共重合樹脂、スチレン-アクリル共重合樹脂、酢酸ビニル-アクリル共重合樹脂、シリコーン-アクリル共重合樹脂、塩化ビニル-アクリル共重合樹脂等を例示できる。
アクリル系樹脂エマルションは、一種又は二種以上を併用して用いることができる。
【0024】
ガラス転移温度が0℃を超えるアクリル系樹脂エマルションとしては、インキ組成物により形成される筆跡の耐水性と、インキ組成物を収容した筆記具のキャップオフ性能を良好とし易いことから、アルカリ可溶型のアクリル系樹脂エマルション、又はスチレン-アクリル共重合樹脂エマルションが好ましい。
【0025】
ガラス転移温度が0℃を超えるアクリル系樹脂エマルションとして具体的には、NeoCryl A-1125、同A-2092、同BT-9、同BT-20、同BT-62(DSM Coating Resins社製)、Joncryl PDX-7326、同PDX-7356(BASF社製)、TOCRYL W463、同BCX-3101〔トーヨーケム(株)製〕、ボンロンS-476、同S-1120、同S-483TBF、同S-434〔三井化学(株)製〕等を例示できる。
【0026】
アクリル系樹脂エマルションのガラス転移温度(以下、「Tg」と表すことがある)は、例えば、示差熱分析(DTA)、示差走査熱量測定(DSC)、熱機械分析(TMA)、動的粘弾性測定(DMA)等の方法により求めることができる。また、アクリル系樹脂が共重合体である場合には、単独のモノマーiによる重合体のTgをTgi、モノマーiの質量分率をWiとして、下記式(3)によりTgを求めることもできる〔但し、iは1~nの整数である(nは2以上の整数を示す)〕。
1/Tg=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+・・・+(Wn/Tgn) (3)
(式中、W1+W2+・・・+Wn=1である)
【0027】
アクリル系樹脂エマルションのガラス転移温度は、5℃以上、50℃以下であることが好ましく、10℃以上、50℃以下であることがより好ましく、20℃以上、50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上、40℃以下であることが特に好ましい。
【0028】
インキ組成物の総質量に対する、アクリル系樹脂エマルション中の樹脂の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.3~2質量%、さらに好ましくは0.4~1質量%、特に好ましくは0.45~0.95質量%の範囲である。樹脂(アクリル系樹脂)の含有率が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物を収容した筆記具のペン先における水分蒸発に伴う樹脂の固化、析出の発生を抑制しながらも、インキ組成物の耐水性と、筆記具のキャップオフ性能をより高度に両立することができる。
【0029】
本発明によるインキ組成物は、自己分散型カーボンブラックと、アセチレン結合を有する特定の界面活性剤と、ガラス転移温度が0℃を超えるアクリル系樹脂エマルションとが共存することにより、黒色の筆跡の発色性と、紙面に形成される筆跡の乾燥性、及び耐水性と、インキ組成物を収容した筆記具のキャップオフ性能を高度に並立させ、このインキ組成物を収容した筆記具、特に筆ペンを優れたものとする効果を奏する。
【0030】
本発明によるインキ組成物は、さらに水を含んでなる。
水としては特に制限されるものではなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、及び蒸留水等を例示できる。
インキ組成物の総質量に対する水の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは10~90質量%、より好ましくは30~80質量%の範囲である。
【0031】
本発明によるインキ組成物には、水と相溶性のある水溶性有機溶剤を配合させることができ、筆記具のペン先からの水分蒸発を抑制する効果を奏する。
水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-ピロリドン等を例示できる。これらの中でも、筆跡の乾燥性をよりいっそう高めることができることから、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、2-ピロリドンが好ましい。
水溶性有機溶剤は、一種又は二種以上を併用して用いることができる。
本発明によるインキ組成物が水溶性有機溶剤を含む場合、インキ組成物の総質量に対する水溶性有機溶剤の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは1~40質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは10~25質量%の範囲である。水溶性有機溶剤の含有率が40質量%を超えるとインキ粘度が高くなり易く、インキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性が低下し、筆記不良を生じ易くなる。一方、含有率が1質量%未満では水分蒸発を抑制する効果に乏しくなる。
【0032】
本発明によるインキ組成物には、その他必要に応じて、各種添加剤を配合させることもできる。
添加剤としては、例えば、染料、上記した自己分散型カーボンブラック以外の顔料、防腐剤、防黴剤、湿潤剤、消泡剤、比重調整剤、pH調整剤等を例示できる。
【0033】
本発明によるインキ組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、従来知られている任意の方法を用いることができる。具体的には、上記の各成分を配合した混合物を、プロペラ攪拌、ホモディスパー、若しくはホモミキサー等の各種攪拌機で攪拌することにより、又はビーズミル等の各種分散機等で分散することにより、インキ組成物を製造することができる。
【0034】
本発明によるインキ組成物の粘度は、特に限定されるものでないが、20℃の環境下において、1~6mPa・sであることが好ましく、2~5mPa・sであることがより好ましい。粘度が上記の範囲内にあることにより、インキ吐出性を良好としつつ、インキの紙面浸透性を高めて筆跡乾燥性を高めることが容易となる。
なお、粘度は、EL型回転粘度計〔東機産業(株)製、製品名:RE-80L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)〕を用いて、インキ組成物を20℃の環境下に置いて測定した値である。
【0035】
本発明によるインキ組成物の表面張力は、特に限定されるものではないが、20℃の環境下において、25~40mN/mであることが好ましく、25~35mN/mであることがより好ましい。表面張力が上記の範囲内にあることにより、インキの紙面浸透性を良好としつつ、筆跡の滲みを抑制することが容易となる。
なお、表面張力は、表面張力計測器〔協和界面科学(株)製、製品名:DY-300〕を用いて、インキ組成物を20℃の環境下に置いて、白金プレートを用いた垂直平板法により測定した値である。
【0036】
本発明によるインキ組成物は、筆記具に収容されて用いられる。
筆記具としては、例えば、ボールペン、マーキングペン、万年筆、筆ペン等の各種筆記具を例示できる。本発明によるインキ組成物は、多量のインキが紙面に塗布される筆記具に適用される場合であっても筆跡の乾燥性が良好であり、さらに優れたキャップオフ性能を奏することから、筆ペンに用いられることが好適である。
【0037】
筆ペンとしては、筆形態のペン先を備えるものであれば構造や形状は特に限定されるものではなく、例えば、筆形態のペン先と、インキ充填機構とを備えた筆ペンを例示できる。
【0038】
ペン先としては、筆形態であれば特に限定されるものではなく、例えば、繊維相互を長手方向に密接状に束ねた毛筆等の繊維集束体、連続気孔を有するプラスチックポーラス体、合成樹脂繊維の熱融着体若しくは樹脂加工体、又は、軟質性樹脂若しくはエラストマーの押出成形加工体からなる筆形態のチップを例示できる。
チップは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、アラビアガム等の水溶性物質で糊付けされたものであってもよい。
【0039】
インキ充填機構としては特に限定されるものではなく、例えば、インキを直に充填することのできる、内側にインキ収容室を設けた軸筒を例示できる。
軸筒の材質としては特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリウレタン、ポリスチレン等の合成樹脂、金属、ガラス、ゴムを例示できる。これらの中でも、ポリエチレン、又はポリプロピレンが好ましい。
【0040】
インキ充填機構としては、インキを充填することのできるインキ収容体、又はインキ吸蔵体であってもよい。
インキ収容体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体や、金属製管状体が用いられる。
インキ吸蔵体は、捲縮状繊維を長手方向に集束させた繊維集束体であり、プラスチック筒体やフィルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40~90%の範囲になるように調整して構成されたものが用いられる。
【0041】
インキ充填機構はインキカートリッジであってもよく、筆ペン等の筆記具のインキ充填機構を着脱可能な構造とすることができる。この場合、筆記具のインキカートリッジに充填されるインキを使い切った後に、新たなインキカートリッジと取り換えることにより、再度筆記具を使用することが可能となる。
インキカートリッジとしては、筆記具本体に接続することで筆記具を構成する軸筒を兼ねたものや、筆記具本体に接続した後に軸筒(後軸)を被覆して保護するものが適用できる。後者においては、筆記具本体とインキカートリッジが接続されているものや、筆記具のユーザーが使用時に軸筒内のインキカートリッジを接続して使用を開始するように非接続状態で軸筒内に収容したもののいずれであってもよい。
【0042】
インキカートリッジの構造としては特に限定されるものではなく、例えば、長手方向に対して直交する直交断面が円形状である有底筒体が例示できる。なお、筒体とは中空の細長い棒状体のことである。また、インキカートリッジは、押圧変形及び復元可能な構造を有していたり、筒体の外面や内面がテーパー状に傾斜していたりしてもよい。
また、内部に、後述するインキ供給機構を設けた構造を有するインキカートリッジであってもよい。
【0043】
インキ充填機構が、インキを直に充填することができる構成のものである場合、自己分散型カーボンブラックの再分散を容易とするために、インキが充填される軸筒やインキ収容体には、インキを攪拌する攪拌ボール等の攪拌体を内蔵させてもよい。攪拌体の形状としては、球状体、棒状体等が挙げられる。攪拌体の材質としては特に限定されるものではなく、例えば、金属、セラミック、樹脂、硝子等を例示できる。
【0044】
ペン先と、インキ充填機構を備えた筆記具には、さらに、インキ充填機構に充填されるインキをペン先に供給するためのインキ供給機構を備えさせてもよい。
インキ供給機構としては特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として備え、これを介在させてインキをペン先に供給する機構、(2)櫛溝状のインキ流量調節体を備え、これを介在させてインキをペン先に供給する機構、(3)インキを含浸可能な、連続気孔を有する多孔体をインキ流量調節体として備え、これを介在させてインキをペン先に供給する機構、(4)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ充填機構からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介して、インキをペン先に供給する機構、(5)弁機構によるインキ流量調節体を備え、開弁によりインキをペン先に供給する機構等が挙げられる。
【0045】
ペン芯の材質としては、多数の円盤体を櫛溝状とした構造に射出成形できる合成樹脂であれば特に制限されるものではない。合成樹脂としては、例えば、汎用のポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等を例示できる。特に、成形性が高く、ペン芯性能を得られ易いことから、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)が好適に用いられる。
【0046】
弁機構としては、チップの押圧により開放する、従来より汎用のポンピング式形態を用いることができ、筆圧により押圧開放可能なバネ圧に設定したものが好適である。
【0047】
本発明による筆記具には、ペン先を覆うようにキャップを設けてキャップ式筆記具とすることにより、ペン先が乾燥して筆記できなくなることや、筆記先端部が汚染・破損されることを防ぐことができる。
また、本発明による筆記具の形態は上記した構成に限らず、相異なる形態のチップを装着させた複合式筆記具(両頭式筆記具)であってもよい。
【0048】
本発明による筆記具として好ましくは、ペン先として筆形態のチップと、インキ充填機構と、インキ供給機構とを備えた筆ペンである。
本発明によるインキ組成物は、上記構成の筆ペンのインキ流路を円滑に移動し、インキ充填機構に充填されるインキが安定してペン先に供給されるため、上記構成の筆ペンは、発色性に優れる黒色の筆跡を明瞭に形成することができると共に、筆跡の速乾性と耐水性に優れ、さらに良好なキャップオフ性能を有する筆記具であり、好適に用いられる。
より好ましい筆ペンの構成としては、上記構成においてインキ供給機構が、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ充填機構からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介して、インキをペン先に供給する機構である筆ペンである。上記構成の筆ペンは、インキ充填機構からのインキ流量が適度に調節され、インキがより安定してペン先に供給されてインキ吐出安定性に優れるため、より好適である。
【0049】
本発明による筆記具のうち、ペン先として筆形態のチップと、インキ充填機構と、インキ供給機構とを備えた筆ペンとして具体的には、(1)インキ充填機構が、内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、インキ供給機構が、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ充填機構からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介して、インキをペン先に供給する機構であり、ペン先とインキ充填機構とが、インキ供給機構を介して接合されてなる筆ペン、(2)インキ充填機構としてインキカートリッジを備えてなり、インキ供給機構が、インキを含浸可能な、連続気孔を有する多孔体を介して、インキをペン先に供給する機構であり、ペン先とインキ充填機構とが、インキ供給機構を介して接合されてなる筆ペン、(3)インキ充填機構が、内側に2つのインキ収容室を設けた軸筒からなり、インキ供給機構が、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ充填機構からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介して、インキをペン先に供給する機構であり、軸筒の一端及び他端のそれぞれに、ペン先がインキ供給機構を介して接合されてなる筆ペン(両頭式筆ペン)等を例示できる。
【0050】
上記(1)において、より具体的な構造としては、有底筒体よりなる軸筒の前部にペン先とインキ供給機構が装着され、インキ供給機構の後方の軸筒内にインキ収容室が形成されてなる構造が挙げられる。
上記(2)において、より具体的な構造としては、ペン先とインキ供給機構とが装着された前軸筒と、インキカートリッジからなる後軸筒とが離合可能に接続されてなる構造や、ペン先とインキ供給機構とが装着された前軸筒と、インキカートリッジが離合可能に接続され、インキカートリッジが後軸筒で被覆されてなる構造が挙げられる。
上記(3)において、より具体的な構造としては、両端が開口されてなる軸筒の一端及び他端のそれぞれに、ペン先とインキ供給機構が装着され、軸筒内には、隔壁が設けられることにより形成された2つのインキ収容室を有し、各インキ収容室は互いにインキが流通しないように遮断されてなる構造が挙げられる。なお、軸筒の一端及び他端のそれぞれに装着されるペン先は、相異なる形態のチップであってもよい。
【実施例0051】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断らない限り実施例中の「部」は、「質量部」を示す。
【0052】
実施例1
インキ組成物の調製
自己分散型カーボンブラック〔東海カーボン(株)製、製品名:Aqua-Black 162(固形分:20%)〕40部と、アセチレン結合を有する界面活性剤〔日信化学工業(株)製、製品名:オルフィンE1010〕1部と、アクリル系樹脂エマルション〔DSM Coating Resins社製、製品名:Neocryl BT-20(固形分:40%)(ガラス転移温度:29℃)〕2.25部と、トリエタノールアミン0.5部と、エチレングリコール10部と、グリセリン5部と、防腐剤〔ロンザジャパン(株)製、製品名:プロキセルXL-2〕0.4部と、水40.85部とを混合して、インキ組成物を調製した。インキ組成物の総質量に対する、アクリル系樹脂の含有率は、0.9質量%である。
【0053】
筆ペンAの作製
ペン先として筆形態のチップと、インキ充填機構としてインキカートリッジと、インキ供給機構とを備えてなり、インキ充填機構とペン先とが、インキ供給機構を介して接合されてなる構成の筆ペンのインキカートリッジに、実施例1のインキ組成物を充填し、キャップを装着して筆ペンAを作製した。
筆ペンA、及び筆ペンAに装着されるインキカートリッジの具体的な構成としては、下記に記載のとおりである。
【0054】
筆ペンAの構成(
図1参照)
筆ペンA(1)は、押圧変形及び復元可能な、ポリエチレン製有底筒体のインキカートリッジ(2)からなる後軸筒と、熱可塑性ポリエステルエラストマーの集束体からなるペン先(4)と連続気孔が形成された環状多孔体(5)とが装着された前軸筒(3)とが離合可能に接続されてなり、インキカートリッジ(2)の一端には中心孔(6)を備える中栓(7)が嵌着され、ペン先(4)は後端面に突起部(9)を備える固着層(8)が設けられてなり、ペン先(4)の後部側周に環状多孔体(5)が緩挿され、突起部(9)と中栓(7)の前端とが、固着層(8)と中栓(7)の前端との間に誘導間隙(10)を形成しながら当接されてなる。
【0055】
筆ペンAに装着されるインキカートリッジの構成(
図2参照)
インキカートリッジ(2)は、中栓(7)の後部に中心孔(6)より大径の第一の取り付け孔(20)、及び第一の取り付け孔より大径の第二の取り付け孔(21)が同心状に配設され、第一の取り付け孔(20)及び第二の取り付け孔(21)には、内パイプ(22及び外パイプ(23)が嵌着されてなる。
【0056】
筆ペンBの作製
ペン先として筆形態のチップと、インキ充填機構として、内側にインキ収容室を設けた軸筒と、インキ供給機構とを備えてなり、ペン先とインキ充填機構とが、インキ供給機構を介して接合されてなる構成の筆ペンのインキ充填機構に、実施例1のインキ組成物を充填し、キャップを装着して筆ペンBを作製した。
筆ペンBの構成としては、下記に記載のとおりである。
【0057】
筆ペンBの構成
筆ペンB(11)は、ポリエチレン製有底筒体からなる軸筒(12)の前部に、ポリウレタンで表面を被覆した軟質性樹脂の押出成形加工体からなるペン先(14)を備えてなるインキ供給機構(13)が装着され、インキ供給機構(13)の後方の軸筒内にインキ収容室(15)が形成されてなる。インキ供給機構(13)は、多数の円盤体(16)が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体(16)を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝(17)及び該溝より太幅の通気孔(18)が設けられ、軸心にインキ誘導芯(19)が配置され、インキ誘導芯(19)がペン先(14)と接続されてなる。
【0058】
実施例2~6、並びに、比較例1~3
配合する材料の種類と配合量を以下の表1に記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして、インキ組成物を調製した。インキ組成物の総質量に対する、アクリル系樹脂の含有率は、表1に記載のとおりである。
また、筆ペンA、及び筆ペンBは、実施例1と同様にして作製した。
【0059】
【0060】
表1中の材料の内容を、注番号に沿って説明する。
(1)自己分散型カーボンブラック分散体A(表面処理によって表面にカルボキシ基が結合したカーボンブラックが分散されてなる分散体、分散剤非含有)
〔東海カーボン(株)製、製品名:Aqua-Black 162(固形分:20%)〕
(2)自己分散型カーボンブラックB(表面処理によって表面にカルボキシ基が結合したカーボンブラックが分散されてなる分散体、分散剤非含有)
〔冨士色素(株)製、製品名:FUJI JET BLACK D-12(固形分:12.5%)〕
(3)樹脂分散型カーボンブラック〔アクリル樹脂によってカーボンブラックが分散されてなる分散体、固形分15%〕
(4)アセチレン結合を有する界面活性剤A
〔日信化学工業(株)製、製品名:オルフィンE1010(HLB値:13.3)〕
(5)アセチレン結合を有する界面活性剤B
〔日信化学工業(株)製、製品名:オルフィンE1020(HLB値:15~16)〕
(6)リン酸エステル系界面活性剤
〔第一工業製薬(株)製、製品名:プライサーフAL〕
(7)アクリル系樹脂エマルションA
〔DSM Coating Resins社製、製品名:Neocryl BT-20(固形分:40%)(ガラス転移温度:29℃)〕
(8)アクリル系樹脂エマルションB
〔BASF社製、製品名:Joncryl PDX-7356(固形分:45.5%)(ガラス転移温度:25℃)〕
(9)アクリル系樹脂エマルションC
〔DSM Coating Resins社製、製品名:Neocryl A-2092(固形分:47%)(ガラス転移温度:8℃)〕
(10)アクリル系樹脂エマルションD
〔東亞合成(株)製、製品名:ジュリマーAT-210(固形分:30%)(ガラス転移温度:-8℃)〕
(11)防腐剤
〔ロンザジャパン(株)製、製品名:プロキセルXL-2〕
【0061】
[表面張力測定]
実施例1~6、並びに、比較例1~3で調製した各インキ組成物について、自動表面張力計〔協和界面科学(株)製、製品名:DY-300〕を用いて、室温(20℃)環境下で、白金プレートを用いた垂直平板法により表面張力を測定した。測定結果は、表1に記載のとおりである。
【0062】
[筆記試験]
実施例1~6、並びに、比較例1~3で作製した各筆ペンA、及び筆ペンBを用いて、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)に手書きで、文字「小諸なる」を筆記した。試験用紙には、JWIMA M 003:2015(「筆ペン」日本筆記具工業会基準)に準拠した筆記用紙〔日本製紙(株)製、製品名:NPiフォーム<55>〕を用いた。
【0063】
[筆跡濃度評価]
「小諸なる」の文字の筆跡について、筆跡の濃度を目視により確認し、下記基準で筆跡濃度を評価した。評価結果は、以下の表2に記載のとおりであり、評価「A」を合格とした。
A:筆跡は濃く、鮮やかな黒色であった。
B:筆跡は若干薄い黒色、又は、薄灰色であった。
また、上記の「小諸なる」の筆跡の描線部分を、蛍光分光濃度計〔コニカミノルタ(株)製、製品名:FD-7型〕の測定部分にセットし、蛍光分光濃度計のK値から筆跡の濃度値を測定した。評価結果は、以下の表2に記載のとおりである。
なお、濃度値(K値)は3回の測定の平均値であり、数値が大きいほど筆跡の濃度が高いことを示す。
【0064】
[筆跡乾燥性評価]
実施例1~6、並びに、比較例1~3で作製した各筆ペンA、及び筆ペンBを用いて、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)に手書きで、文字「永」を筆記した。筆記から一定時間後に「永」の文字を擦過し、筆跡周辺にインキが広がるかを目視にて確認した。筆跡が乾燥するまでの時間から、下記基準で筆跡乾燥性を評価した。評価結果は、以下の表2に記載のとおりであり、評価「A」及び「B」を合格とした。試験用紙には、ケント紙(連量:125kg)を用いた。
A:筆記1秒後に筆跡を擦過したときに、インキが筆跡周辺に広がった形跡が確認されなかった。
B:筆記1秒後に筆跡を擦過したときにはインキが筆跡周辺に広がるが、筆記3秒後に筆跡を擦過したときには、インキが筆跡周辺に広がった形跡が確認されなかった。
C:筆記後4秒が経過しても、筆跡を擦過すると、インキが筆跡周辺に広がった形跡が確認された。
【0065】
[筆跡耐水性評価]
実施例1~6、並びに、比較例1~3で作製した各筆ペンBを用いて、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)に手書きで、文字「永」を筆記した。筆記から24時間経過後に「永」の文字上に水を1滴垂らし、その後水を自然乾燥させ、筆跡に滲みが発生しているかを目視にて確認した。筆跡の状態から、下記基準で筆跡耐水性を評価した。評価結果は、以下の表2に記載のとおりであり、評価「A」及び「B」を合格とした。試験用紙には、書道用半紙を用いた。
A:筆跡に滲みは確認されなかった。
B:筆跡にやや滲みが確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
C:筆跡に顕著な滲みが確認された。
【0066】
[キャップオフ性能評価]
実施例1~6、並びに、比較例1~3で作製した各筆ペンA、及び筆ペンBのキャップを外し、温度20℃、湿度65%に設定した恒温槽内に2時間、横向きの状態で静置させた。2時間経過後に恒温槽から取り出し、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)に手書きで、文字「小諸なる古城のほとりくも白く遊子かなしむ(20文字)」を筆記した。得られた筆跡を目視により確認し、筆跡のカスレの有無から下記基準でキャップオフ性能を評価した。評価結果は、以下の表2に記載のとおりであり、評価「A」及び「B」を合格とした。試験用紙には、JWIMA M 003:2015(「筆ペン」日本筆記具工業会基準)に準拠した筆記用紙〔日本製紙(株)製、製品名:NPiフォーム<55>〕を用いた。
A:筆記開始時から筆跡にカスレは発生せず、良好な筆跡が得られた。
B:筆記開始時から筆跡にややカスレが発生したが、10文字筆記し終えるまでにカスレの発生は解消され、実用上問題のないレベルであった。
C:筆記開始時から筆跡にカスレが発生し、11文字筆記し終えるまでにカスレの発生は解消されなかった。
【0067】