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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066949
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】高周波電子部品用材料
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/08 20060101AFI20230509BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230509BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230509BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C01G23/08
C08L101/00
C08K3/22
H05K1/03 610R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177838
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岸 美保
(72)【発明者】
【氏名】堤 裕司
(72)【発明者】
【氏名】植村 啓宏
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晃代
(72)【発明者】
【氏名】家門 彰弘
(72)【発明者】
【氏名】小泉 寿夫
【テーマコード(参考)】
4G047
4J002
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CB08
4G047CC02
4G047CD04
4G047CD07
4J002AA001
4J002BB031
4J002BB121
4J002BC031
4J002BC071
4J002BD041
4J002BD101
4J002BD121
4J002BG061
4J002BN151
4J002CB001
4J002CC031
4J002CD011
4J002CD021
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD071
4J002CD131
4J002CD181
4J002CF001
4J002CF161
4J002CG001
4J002CH071
4J002CK021
4J002CL001
4J002CM041
4J002CP031
4J002DE136
4J002FD206
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】 比誘電率を調整することが可能であって、誘電正接が低い高周波電子部品用材料を提供する。
【解決手段】 測色計により測定されるL表色系におけるL値が90以上であり、熱重量分析装置を用いて室温から200℃まで10℃/分で昇温させた際に測定される重量減少率が0.15%以下である酸化チタンを含むことを特徴とする高周波電子部品用材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測色計により測定されるL表色系におけるL値が90以上であり、熱重量分析装置を用いて室温から200℃まで10℃/分で昇温させた際に測定される重量減少率が0.15%以下である酸化チタンを含むことを特徴とする高周波電子部品用材料。
【請求項2】
前記酸化チタンの1GHzにおける誘電正接(tanδ)が0.01以下であることを特徴とする請求項1に記載の高周波電子部品用材料。
【請求項3】
前記酸化チタンの1GHzにおける比誘電率(ε)が8以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高周波電子部品用材料。
【請求項4】
前記酸化チタンのBET比表面積が0.8~20m/gであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の高周波電子部品用材料。
【請求項5】
前記酸化チタンは、下記方法により測定されるかさ密度が0.7g/cm以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の高周波電子部品用材料。
<かさ密度の測定方法>
外径10mm、内径7mmのガラス製チューブに試料を入れ、JITAI社製ラボ用振動機(JT-14)を用い、最大出力下で試料高さが変わらなくなるまで振動させた試料高さと試料重量に基づき、下記式によりかさ密度を求める。
かさ密度(g/cm)=試料重量(g)/{0.35cm×0.35cm×3.14×試料高さ(cm)}
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の高周波電子部品用材料と樹脂とを含む樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の高周波電子部品用材料を製造する方法であって、
該製造方法は、酸化チタンを焼成する工程を含むことを特徴とする高周波電子部品用材料の製造方法。
【請求項8】
酸化チタンを含む高周波電子部品用材料を製造する方法であって、
該製造方法は、アルカリ金属元素の含有割合が0.1質量%以下である酸化チタンを700℃以上1200℃以下の温度で焼成する工程を含むことを特徴とする高周波電子部品用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電子部品用材料に関する。より詳しくは、高周波機器等における無機フィラー等に有用な高周波電子部品用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本を含む世界市場においてAI/IoT化が進み、スマートフォンやタブレット等の通信装置、IoT家電や製造装置、非接触式ICカードやRFIDの自動認識技術の普及及び、今後の自動運転車の実用化に伴い高周波信号(1MHz以上)の伝送が増加している。高周波領域では従来の波長よりも伝送損失が大きいため、比誘電率及び誘電正接の低い材料が必要とされている。その一方で、誘電体デバイスの大きさは対象とする電磁波の波長に比例し、波長は比誘電率が大きいほど短くなることから、デバイスの軽量化、薄型化の観点からは比誘電率が高いもののニーズもあり、用途に応じて比誘電率を調整することが可能な材料が求められている。
【0003】
高誘電率の樹脂材料に関して、例えば、特許文献1には、(A)エポキシ樹脂、(B)誘電体粉末、(C)ノニオン性界面活性剤、及び(D)硬化剤を含有する樹脂組成物が開示され、特許文献2には、所定の熱可塑性樹脂(A)及び所定の無機粒子(B)を含有することを特徴とする回路基板用または電波レンズ用樹脂組成物が開示されている。
しかし、一般に基盤や封止用途に用いられる樹脂材料のみでは比誘電率と誘電正接を同時に制御することは困難であるため、低誘電正接かつ種々の比誘電率を併せ持つ無機フィラーが求められている。
【0004】
無機フィラーに関して、特許文献3には、Cl濃度が20ppm以下、抽出水電気伝導度が70μS/cm以下、平均粒子径が1μm以上30μm以下である高純度チタン酸バリウム系粉末が開示され、特許文献4には、400nm~700nmの波長の光反射率が 80%以下であることを特徴とする酸化チタンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-105523号公報
【特許文献2】特開1999-323046号公報
【特許文献3】国際公開第2017/217235号
【特許文献4】国際公開第2009/087951号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、従来、高周波電子部品に用いられる種々の無機フィラーが開発されているものの、比誘電率の調整と低誘電正接との両立の点で充分ではなかった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、比誘電率を調整することが可能であって、誘電正接が低い高周波電子部品用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高周波電子部品に用いることができる材料について種々検討したところ、測色計により測定されるL表色系におけるL値が所定値以上であり、熱重量分析による重量減少率が所定値以下である酸化チタンが、誘電正接が低いことを見いだした。更に、本発明者らは、この要件を満たす酸化チタンは、比表面積や焼成温度を調整することで比誘電率を調整することが可能であることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、測色計により測定されるL表色系におけるL値が90以上であり、熱重量分析装置を用いて室温から200℃まで10℃/分で昇温させた際に測定される重量減少率が0.15%以下である酸化チタンを含む高周波電子部品用材料である。
【0010】
上記酸化チタンは、1GHzにおける誘電正接(tanδ)が0.01以下であることが好ましい。
【0011】
上記酸化チタンは、1GHzにおける比誘電率(ε)が8以上であることが好ましい。
【0012】
上記酸化チタンは、BET比表面積が0.8~20m/gであることが好ましい。
【0013】
上記酸化チタンは、下記方法により測定されるかさ密度が0.7g/cm以上であることが好ましい。
<かさ密度の測定方法>
外径10mm、内径7mmのガラス製チューブに試料を入れ、JITAI社製ラボ用振動機(JT-14)を用い、最大出力下で試料高さが変わらなくなるまで振動させた際の試料高さと試料重量に基づき、下記式によりかさ密度を求める。
かさ密度(g/cm)=試料重量(g)/{0.35cm×0.35cm×3.14×試料高さ(cm)}
【0014】
本発明はまた、上記高周波電子部品用材料と樹脂とを含む樹脂組成物でもある。
【0015】
本発明は更に、上記高周波電子部品用材料を製造する方法であって、該製造方法は、酸化チタンを焼成する工程を含む高周波電子部品用材料の製造方法でもある。
【0016】
本発明は更に、酸化チタンを含む高周波電子部品用材料を製造する方法であって、該製造方法は、アルカリ金属元素の含有割合が0.1質量%以下である酸化チタンを700℃以上1200℃以下の温度で焼成する工程を含む高周波電子部品用材料の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高周波電子部品用材料は、上述の構成よりなり、比誘電率を調整することが可能であって、誘電正接が低いため、高周波機器等における無機フィラー等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0019】
本発明の高周波電子部品用材料は、測色計により測定されるL表色系におけるL値が90以上であり、熱重量分析装置を用いて室温から200℃まで10℃/分で昇温させた際に測定される重量減少率(以下、熱重量分析による重量減少率ともいう。)が0.15%以下である。
酸化チタンは結晶中に酸素欠陥が増えるとn型半導体化することで電子伝導性が増加し、これに伴って誘電正接が高くなる。本発明者らは、酸化チタンは酸素欠損が増加するにつれて色調が白色→黄色→灰色→青色と変化し、L*値が低下すること、すなわち、酸化チタンの色調と誘電正接との相関関係を見いだし、上記L値が90以上であれば、誘電正接が充分に低いものとなり、高周波電子部品用材料として好適に用いることができることを見いだした。
また、酸化チタンは、表面の水酸基や吸着水の影響により誘電正接が高くなるが、上記熱重量分析による重量減少率が0.15%以下であれば、誘電正接が充分に低いものとなり、高周波電子部品用材料として好適に用いることができる。
酸化チタンは外部からの紫外線照射や加熱等のエネルギー供給によって酸素欠陥が増える傾向にあり、例えば加熱等により酸化チタン表面の水酸基や吸着水を減少させようとしても、酸素欠陥が増えることとなり、誘電正接を低減することは難しいため、本発明の高周波電子部品用材料において、酸素欠陥の増加の抑制と酸化チタン表面の水酸基や吸着水の量が少ないこととを両立し、誘電正接を充分に低減することができることは、特に技術的意義が高い。
【0020】
上記L値として好ましくは92以上であり、より好ましくは93以上であり、更に好ましくは94以上であり、特に好ましくは95以上である。また、L値として好ましくは99以下である。
【0021】
上記熱重量分析による重量減少率として好ましくは0.12%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。
【0022】
上記高周波電子部品用材料における酸化チタンは、1GHzにおける誘電正接(tanδ)が0.01以下であることが好ましい。より好ましくは0.005以下であり、更に好ましくは0.003以下であり、特に好ましくは0.001以下である。
上記1GHzにおける誘電正接は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0023】
上記高周波電子部品用材料における酸化チタンは、1GHzにおける比誘電率(ε)が8以上であることが好ましい。より好ましくは10以上であり、更に好ましくは12以上であり、特に好ましくは15以上である。1GHzにおける比誘電率(ε)の上限は特に制限されないが、100以下であることが好ましい。
上記1GHzにおける比誘電率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0024】
上記高周波電子部品用材料における酸化チタンは、BET比表面積が0.8~20m/gであることが好ましい。酸化チタンのBET比表面積を制御することにより高周波電子部品用材料の比誘電率を調整することができる。BET比表面積としてより好ましくは0.8~18m/gであり、更に好ましくは0.8~15m/gであり、特に好ましくは0.8~13m/gである。
上記BET比表面積は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
上記高周波電子部品用材料における酸化チタンは、上記方法により測定されるかさ密度が0.7g/cm以上であることが好ましい。これにより、誘電正接をより充分に低減することができる。上記かさ密度としてより好ましくは0.8g/cm以上であり、更に好ましくは1.0g/cm以上である。かさ密度の上限は特に制限されないが、ルチル型酸化チタンの密度4.2g/cm以下である。
【0026】
上記高周波電子部品用材料における酸化チタンの結晶相は特に制限されないが、ルチル型構造が他の構造に比べて結晶の密度が高く、比誘電率も高くなるため、ルチル型結晶相を主相とするものであることが好ましい。酸化チタン粉粒体の粉末X線回折パターン(CuKα、2θ=10~70°の測角範囲)において、ルチル型酸化チタンのメインピーク(回折角2θ=27.4°)のピーク強度と、アナタース型酸化チタンのメインピーク(回折角2θ=27.4°)のピーク強度を足し合わせたものをルチル型酸化チタンのメインピーク強度で割り付けた値をルチル率(%)として表記した。
上記主相とはルチル率が50%以上を意味する。さらにルチル率が80%以上であることが好ましい。より好ましくは85%以上であり、最も好ましくは90%以上である。
粉末X線回折パターンの具体的な測定条件は、実施例において後述する。
なお、XRD測定データ全体にノイズが多い場合は、XRDに付属の解析ソフト(例えば、株式会社リガク製X線回折装置(RINT-TTR3)付属の粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアPDXL2)等を用いて、スムージング、バックグランド除去を実施してから判定を行ってもよい。
【0027】
上記高周波電子部品用材料における酸化チタンは、表面処理剤により表面処理されたものであってもよいが、表面処理剤としては、水酸基が少ないものが好ましい。
上記表面処理剤として具体的には、ヘキサメチルジシラザンや3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0028】
上記高周波電子部品用材料は、上記酸化チタンを含むものであればよいが、上記酸化チタンの含有割合としては、高周波電子部品用材料100質量%に対して80~100質量%であることが好ましい。より好ましくは90~100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
【0029】
上記高周波電子部品用材料は、上記酸化チタン以外のその他の成分を含んでいてもよい。
上記その他の成分としては、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属元素及びその酸素原子を含む化合物や、Al、Si、Ca,Zr,Nb、Sn等のアルカリ金属以外の元素及びその酸素原子を含む化合物が挙げられる。
アルカリ金属元素及びその酸素原子を含む酸素化合物の含有割合としては、酸化チタン100質量%に対して1質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.07質量%以下であり、更に好ましくは0.05質量%以下である。
上記アルカリ金属元素以外の元素及びその酸素原子を含む化合物の含有割合としては、高周波電子部品用材料100質量%に対して20質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10質量%以下であり、最も好ましくは5質量%以下である。
【0030】
<高周波電子部品用材料の製造方法>
本発明の高周波電子部品用材料の製造方法は特に制限されないが、酸化チタンを焼成する工程を行って製造することが好ましい。これにより、比誘電率を調整することが可能であって、従来よりも誘電正接が低い高周波電子部品用材料を得ることができる。
上記酸化チタンを焼成する工程を含む高周波電子部品用材料の製造方法もまた本発明の1つである。
【0031】
上記高周波電子部品用材料の製造方法は、アルカリ金属元素の含有割合が0.1質量%以下である酸化チタンを700℃以上1200℃以下の温度で焼成する工程を含むものであることが好ましい。これにより酸化チタンにおいて酸素欠陥が増加することをより充分に抑制し、高周波電子部品用材料の誘電正接をより充分に低減することができる。
【0032】
上記酸化チタンのアルカリ金属元素の含有割合としてより好ましくは酸化チタン100質量%に対して0.07質量%以下であり、更に好ましくは0.05質量%以下である。
上記酸化チタンにおけるアルカリ金属元素の含有割合は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0033】
上記焼成工程における焼成温度を調節することにより、高周波電子部品用材料の比誘電率を調節することができる。焼成温度としては700℃以上1200℃以下であることが好ましく、より好ましくは800~1150℃であり、更に好ましくは900~1150℃である。
【0034】
上記焼成工程における焼成時間としてより好ましくは1~100時間であり、更に好ましくは4~30時間である。
【0035】
<樹脂組成物>
本発明はまた、上記高周波電子部品用材料と樹脂とを含む樹脂組成物でもある。
本発明の高周波電子部品用材料は、誘電正接が低いため、樹脂のみの場合よりも、上記樹脂組成物の誘電正接を充分に低減することができる。
【0036】
上記樹脂組成物における高周波電子部品用材料の割合は特に制限されないが、樹脂組成物100体積%に対して5~75体積%であることが好ましい。より好ましくは10~70体積%であり、更に好ましくは15~65体積%である。
【0037】
上記樹脂組成物は、樹脂組成物100質量%に対する高周波電子部品用材料の割合が、15~92質量%であることが好ましい。より好ましくは30~90質量%であり、更に好ましくは40~88質量%である。
【0038】
上記樹脂組成物は、樹脂組成物100質量%に対する樹脂の割合が、8~85質量%であることが好ましい。より好ましくは10~70質量%であり、更に好ましくは12~60質量%である。
【0039】
上記樹脂組成物に含まれる樹脂としては特に制限されないが、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂等各種のものを用いることができる。
具体的には例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリメタクリル酸メチル、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、液晶樹脂(LCP)、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
これらの樹脂の中でエポキシ樹脂は、高い電気絶縁性、耐水性、耐薬品性、耐食性、高接着性に優れることから電子部品材料に好適である。
【0040】
上記エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、tert-ブチルカテコール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、トリメチロール型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等が好ましい。エポキシ樹脂は1種又は2種以上を使用することができる。
【0041】
上記樹脂組成物は、更に硬化剤を含むことが好ましい。
上記硬化剤としては特に制限されないが、例えば、チオール系硬化剤、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤等が挙げられる。中でもチオール系硬化剤が好ましい。
【0042】
チオール系硬化剤としては、例えば、3,3’-ジチオジプロピオン酸、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、エチレングリコールジチオグリコレート、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、トリス[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート(TEMPIC)、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)(TMMP)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(PEMP)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)(DPMP)等のポリオールとメルカプト有機酸のエステル化反応によって得られるチオール化合物等が挙げられる。
【0043】
上記硬化剤の配合量は特に限定されないが、上記樹脂の官能基と等量反応する硬化剤を用いる場合、上記樹脂の官能基量に対して、60~100当量であることが好ましい。また、触媒として機能する硬化剤を用いる場合、上記硬化剤の配合量は、上記樹脂100質量%に対して60~100質量%であることが好ましい。
【0044】
上記樹脂組成物は、更に硬化促進剤を含むことが好ましい。
上記硬化促進剤としては特に制限されないが、例えば、アミン系硬化促進剤、グアニジン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、ホスホニウム系硬化促進剤、金属系硬化促進剤等が挙げられる。中でもイミダゾール系硬化促進剤が好ましい。
【0045】
上記硬化促進剤の配合量は、上記樹脂100質量%に対して0.01~5質量%であることが好ましい。
【0046】
上記樹脂組成物は、上記高周波電子部品用材料、樹脂、硬化剤及び硬化促進剤以外のその他の成分を含んでいてもよい。
上記その他の成分としては特に制限されないが、上記高周波電子部品用材料以外の無機粒子、低応力化剤、シランカップリング剤、表面処理剤、難燃助剤、難燃剤、着色剤、離型剤等が挙げられる。
上記その他の成分の含有割合は、樹脂組成物100質量%に対して0~10質量%であることが好ましい。より好ましくは0~5質量%であり、更に好ましくは0~2質量%である。
【0047】
上記高周波電子部品用材料以外の無機粒子としては特に制限されないが、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、二酸化チタン等のチタン化合物等が挙げられる。
【0048】
<高周波電子部品用材料、樹脂組成物の用途>
本発明の高周波電子部品用材料は、誘電正接が低いため、本発明の高周波電子部品用材料、樹脂組成物は、高周波機器等の回路基板、封止材、絶縁材、アンダーフィル、レジストインキ等に好適に用いることができる。
高周波機器の周波帯としては1MHz以上であることが好ましい。より好ましくは10MHz以上であり、更に好ましくは100MHz以上であり、特に好ましくは1GHz以上である。また、高周波機器の周波帯として好ましくは500GHz以下である。
【実施例0049】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0050】
≪物性評価≫
以下の手順により、得られた高周波電子部品用材料の物性を評価した。
<L表色系における明度L値、色度a値、b値>
測色計(日本電色工業社製、商品名「SE2000」)を用いて、L表色系における明度L値、色度a値、b値を測定した。
【0051】
<比表面積(BET-SSA)>
JIS Z8830(2013年)の規定に準じ、試料を窒素雰囲気中、200℃で60分間熱処理した後、比表面積測定装置(マウンテック社製、商品名「Macsorb HM-1220」)を用いて、比表面積(BET-SSA)を測定した。
【0052】
<複素誘電率実部、誘電正接>
誘電率測定装置ADMS01Nc1(エーイーティ―社製)、および付属の1GHz共振器を用いて高周波電子部品用材料の複素誘電率実部、誘電正接を測定した。
【0053】
<熱重量分析>
粉末の熱重量分析は示差熱・熱重量同時測定装置STA7300(日立ハイテクサイエンス社)を用い、10℃/分で室温から1000℃まで昇温した際の重量を測定した。測定結果より、200℃における初期重量に対する重量変化率を求めた。
【0054】
<XRD測定>
X線回折装置(RINT―TTR3、Rigaku製)を用いて、以下の条件により測定した。
光学系:平行ビーム光学系(長尺スリット:PSA200/分解能:0.057°)
管電圧:50kV
電流:300mA
測定方法:連続スキャン
測定範囲(2θ):10°~70°
サンプリング幅:0.04°
スキャンスピード:5°/min
ルチル率は上記条件で得られたXRDに付属の解析ソフト(例えば、株式会社リガク製X線回折装置(RINT-TTR3)を用いて式1に基づいて算出した。
ルチル率(%)=ルチル型酸化チタンのメインピーク強度/(ルチル型酸化チタンのメインピーク強度+アナタース型酸化チタンのメインピーク強度)×100(%)
ルチル型酸化チタンのメインピーク:2θ=27.4°
アナタース型酸化チタンのメインピーク強度:2θ=25.3°
なお、XRD測定データ全体にノイズが多い場合は、XRDに付属の解析ソフト(例えば、株式会社リガク製X線回折装置(RINT-TTR3)付属の粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアPDXL2)等を用いて、スムージング、バックグランド除去を実施してから判定を行ってもよい。
各成分のメインピークがソフトウェア上ピークとして検出されなかった際には、検出バラつきを考慮し、各成分共に5%以下として算出を行った。例えばアナタース型酸化チタンのメインピークが確認されなかった際にはルチル率95%以上とした。
【0055】
<蛍光X線(XRF)によるアルカリ金属元素の含有量の測定>
走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusII(株式会社リガク製)を用いてナトリウム又はカリウム含有量を測定した。検出された場合にはそれらをアルカリ金属の割合とした。
【0056】
<実施例1>
ルチル型酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「STR-100N」、比表面積100m/g、略称R1)20gをアルミナ製るつぼに入れ、焼成炉にて900℃で4時間焼成を行い、高周波電子部品用材料を得た。上記焼成工程における昇温及び降温は200℃/時間とした。
【0057】
<実施例2>
ルチル型酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「STR-100N」、比表面積100m/g、略称R1)20gをアルミナ製るつぼに入れ、焼成炉にて1100℃で4時間焼成を行い、高周波電子部品用材料を得た。上記焼成工程における昇温及び降温は200℃/時間とした。
【0058】
<実施例3>
アナターゼ型酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「SSP-N」、比表面積270m/g、略称A1)20gをアルミナ製るつぼに入れ、焼成炉にて1100℃で4時間焼成を行い、高周波電子部品用材料を得た。上記焼成工程における昇温及び降温は200℃/時間とした。
【0059】
<実施例4>
アナターゼ型酸化チタン(昭和タイタニウム社製、商品名「F1A」、比表面積20m/g、略称A2)20gをアルミナ製るつぼに入れ、焼成炉にて1100℃で4時間焼成を行い、高周波電子部品用材料を得た。上記焼成工程における昇温及び降温は200℃/時間とした。
【0060】
<比較例1、2>
ルチル型酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「STR-100N」、比表面積100m/g、略称R1)、アナターゼ型酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「A120」、比表面積9m/g、略称A3)をそれぞれ比較例1、2の高周波電子部品用材料とした。
【0061】
<比較例3>
アナターゼ型酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「A120」、比表面積9m/g、略称A3)20gをアルミナ製るつぼに入れ、焼成炉にて1100℃で4時間焼成を行い、高周波電子部品用材料を得た。上記焼成工程における昇温及び降温は200℃/時間とした。
【0062】
<比較例4>
ルチル型酸化チタン(堺化学工業社製、商品名「STR-100N」、比表面積100m/g、略称R1)20gをアルミナ製るつぼに入れ、焼成炉にて1250℃で4時間焼成を行い、高周波電子部品用材料を得た。上記焼成工程における昇温及び降温は200℃/時間とした。
【0063】
実施例1~4及び比較例1~4の高周波電子部品用材料の物性を表1に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
<樹脂評価>
実施例及び比較例で得られた高周波電子部品用材料が50体積%となるように、表2の配合量のとおり、エポキシ樹脂(DIC社製エピクロン850)、多官能チオールエポキシ樹脂硬化剤(SC有機化学製TMMP)、イミダゾール(四国化成工業社製キュアゾール2E4MZ)を軟膏容器に入れ、攪拌脱泡装置(シンキー社製、あわとり練太郎ARE-310)を用いて回転数2000rpmで分散を5分間、回転数2200rpmで脱泡を1分間行って混合後、縦60mm横10mm深さ1mmのテフロン(登録商標)製の型に投入した。その後、加熱式油圧プレス機(東洋精機製作所製、製品名 ミニテストプレスMP-WNH)を用いて0.5MPaの設定圧力、100℃で1時間プレスして樹脂を硬化させ、複素比誘電率測定用樹脂試験片を作製した。作製した樹脂試験片に対して、誘電率測定装置ADMS01Nc1(エーイーティ―社製)、及び付属の10GHz共振器を用いて、10GHzにおける複素比誘電率実数部(ε)、誘電正接(tanδ)を測定した。結果を表2に示した。
【0066】
【表2】
【0067】
表1から確認されるとおり、実施例1、2ではR1原体を用い、1GHzにおけるtanδは同程度であるが、実施例2では焼成温度(熱処理温度)を1100℃に上げることによりBET比表面積が低下し、結晶子径の増大に伴うεの増加が確認された。一方で同じくR1原体を用いても比較例1のように焼成なしでは、表面水酸基が多いため、200℃までの重量減少が多く確認され、tanδが十分に下がらない。また比較例4ではR1を1250℃で焼成するとL値の低下が確認され、tanδが増加することを確認した。
実施例2と比較例3との比較から、アルカリ金属元素の少ない原体を用いることにより、L値を高く保つことができ、tanδを低下させることができることが確認された。アルカリ金属元素がより少ない原体A1、A2を用いた実施例3、4ではL値をより高く保ったまま、比表面積及び表面水酸基を充分に減少させることができ、tanδを低下させながら、εをさらに高く調整することが可能であることが理解できる。
【0068】
表2から確認されるとおり、実施例は10GHzにおけるεが6.3から13.9まで広範囲の値を示しており、かつ、比較例は何れも樹脂のみの場合に対するtanδの割合が100%以上であるのに対して、実施例は何れも100%未満を示した。これらの結果から、本発明の高周波電子部品用材料は、比誘電率を調整することが可能であって、誘電正接が低いことが確認されたため、高周波機器等における無機フィラー等に好適に用いることができる。