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特開2023-66973インクジェット印刷用硬化性組成物、およびこれを用いた半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066973
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】インクジェット印刷用硬化性組成物、およびこれを用いた半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20230509BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230509BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20230509BHJP
【FI】
H01L23/30 R
B41M5/00 120
B41M5/00 100
C09D11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177872
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】四釜 拓生
【テーマコード(参考)】
2H186
4J039
4M109
【Fターム(参考)】
2H186AA17
2H186AB11
2H186AB12
2H186AB23
2H186BA08
2H186DA07
2H186FB04
2H186FB11
2H186FB32
2H186FB34
2H186FB36
2H186FB38
2H186FB41
2H186FB44
2H186FB45
2H186FB46
4J039AD21
4J039AE05
4J039BC57
4J039BE25
4J039BE27
4J039EA25
4J039EA46
4J039FA01
4J039FA02
4J039GA24
4M109AA01
4M109BA04
4M109CA10
4M109EA03
4M109EA15
4M109EB02
4M109EB03
4M109EB06
4M109EB08
4M109EB09
(57)【要約】
【課題】インクジェット法による塗布が可能であり、かつ得られる硬化物の絶縁信頼性が高い、インクジェット印刷用硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】上記課題を解決するインクジェット印刷用硬化性組成物は、(A)1分子中に少なくとも1つのラジカル重合性基を含む光重合性化合物と、(B)光重合開始剤と、(C)1分子中に、2つ以上の脂環式エポキシ構造、およびシロキサン骨格を含む脂環式エポキシ化合物と、(D)熱硬化剤と、(E)シランカップリング剤と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも1つのラジカル重合性基を含む光重合性化合物と、
(B)光重合開始剤と、
(C)1分子中に、2つ以上の脂環式エポキシ構造、およびシロキサン骨格を含む脂環式エポキシ化合物と、
(D)熱硬化剤と、
(E)シランカップリング剤と、
を含む、インクジェット印刷用硬化性組成物。
【請求項2】
前記脂環式エポキシ構造が、シクロアルケンオキサイド構造である、
請求項1に記載のインクジェット印刷用硬化性組成物。
【請求項3】
(F)レベリング剤をさらに含む、
請求項1または2に記載のインクジェット印刷用硬化性組成物。
【請求項4】
前記(A)光重合性化合物が、イソボルニル(メタ)アクリレートを含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット印刷用硬化性組成物。
【請求項5】
前記(D)熱硬化剤が、ブロックドイソシアネートを含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェット印刷用硬化性組成物。
【請求項6】
前記(E)シランカップリング剤が、1分子中にエポキシ基、カルボキシル基、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェット印刷用硬化性組成物。
【請求項7】
少なくとも一方の面に回路を備える半導体回路基板または金属配線を有する基板を準備する準備工程と、
前記半導体回路基板の前記回路上、または前記基板の前記金属配線上に、インクジェット法により、請求項1~6のいずれか一項に記載のインクジェット印刷用硬化性組成物を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程後、前記インクジェット印刷用硬化性組成物の塗膜に活性光線を照射し、前記塗膜を硬化させる光硬化工程と、
前記光硬化工程後の前記塗膜を熱で硬化させる熱硬化工程と、
を含む、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷用硬化性組成物、およびこれを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体を保護するための保護層や絶縁層には、ポリイミドが広く用いられてきた。近年、半導体装置の構成が複雑化しており、例えば半導体装置等の保護層や絶縁層等をパターン状に形成することが求められている。従来、ポリイミドからなる保護層や絶縁層をパターン状に形成する場合、ポリイミドもしくはその前駆体をスピンコート法により全面に塗布し、硬化させる。その後、フォトリソグラフィや、エッチング等によって、当該ポリイミドを所望のパターンに加工することが、一般的であった。しかしながら、このような方法では作業が煩雑であり、さらに時間がかかる。また、樹脂組成物の一部を、エッチング等によって除去するため、材料の利用効率も低い。そこで、より簡便な方法で保護層や絶縁層等をパターン状に形成することが求められている。
【0003】
このような要望に対し、例えばポリアミド酸を溶媒で希釈してインクジェット法で塗布することが提案されている(例えば特許文献1)。当該方法では、ポリアミド酸をパターン状に塗布した後、当該ポリアミド酸を加熱処理してポリイミドからなる膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-144217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような、ポリアミド酸を溶媒で希釈した組成物では、多量の溶媒を揮発させる必要があり、作業環境への影響が大きい。さらに、当該方法では、インクジェットヘッド近傍に高粘度の組成物が析出してしまうことがあり、経時でインクを吐出できなくなることがある、という課題があった。
【0006】
一方、UV硬化性の組成物を用いて、上記保護層や絶縁層を形成することも検討されている。しかしながら、一般的なUV硬化性の組成物では、所望のパターン状に塗布しやすいものの、絶縁信頼性が得られ難かった。つまり、所望のパターン状に形成しやすく、かつ絶縁信頼性が高い組成物が得られていないのが実情である。
【0007】
本発明は、インクジェット法による塗布が可能であり、かつ得られる硬化物の絶縁信頼性が高い、インクジェット印刷用硬化性組成物、およびこれを用いた半導体装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のインクジェット印刷用硬化性組成物を提供する。
(A)1分子中に少なくとも1つのラジカル重合性基を含む光重合性化合物と、(B)光重合開始剤と、(C)1分子中に、2つ以上の脂環式エポキシ構造、およびシロキサン骨格を含む脂環式エポキシ化合物と、(D)熱硬化剤と、(E)シランカップリング剤と、を含む、インクジェット印刷用硬化性組成物。
【0009】
また、本発明は、以下の半導体装置の製造方法を提供する。
少なくとも一方の面に回路を備える半導体回路基板または金属配線を有する基板を準備する準備工程と、前記半導体回路基板の前記回路上、または前記基板の前記金属配線上に、インクジェット法により、上記記載のインクジェット印刷用硬化性組成物を塗布する塗布工程と、前記塗布工程後、前記インクジェット印刷用硬化性組成物の塗膜に活性光線を照射し、前記塗膜を硬化させる光硬化工程と、前記光硬化工程後の前記塗膜を熱で硬化させる熱硬化工程と、を含む、半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェット印刷用硬化性組成物によれば、インクジェット法による塗布が可能である。また、当該インクジェット印刷用硬化性組成物によれば、絶縁信頼性が高い硬化物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.インクジェット印刷用硬化性組成物
本発明のインクジェット印刷用硬化性組成物(以下、単に「組成物」とも称する)は、インクジェット法によって塗布可能であり、その後、光および熱によって硬化可能な組成物である。当該組成物の硬化物は絶縁信頼性が高く、当該組成物は、半導体装置の回路基板や金属配線の保護層や絶縁層の形成に好適である。ただし、当該組成物の用途は、回路基板や金属配線の保護層や絶縁層の形成に限定されない。
【0012】
ここで、半導体装置の回路基板や金属配線の保護層や絶縁層の絶縁信頼性を高めるためには、保護層等が水分を透過させないことが非常に重要である。また、使用時の熱等によって、保護層等が変形し難く、さらには劣化し難いことも重要である。これに対し、従来のインクジェット塗布可能な組成物では、水分透過性が低く、かつ耐熱性の高い層を形成することが難しかった。
【0013】
一方、本発明の組成物は、(A)1分子中に少なくとも1つのラジカル重合性基を含む光重合性化合物と、(B)光重合開始剤と、(C)1分子中に、2つ以上の脂環式エポキシ構造、およびシロキサン骨格を含む脂環式エポキシ化合物と、(D)熱硬化剤と、(E)シランカップリング剤と、を含む。上記(C)脂環式エポキシ化合物がシロキサン骨格を含むと、得られる硬化物の構造が緻密になりやすく、硬化物の水分透過性が低くなる。また、当該シロキサン骨格は、耐熱性が高く、組成物を硬化させる際に収縮が生じ難い。さらに、脂環式エポキシ構造は比較的嵩高い構造であることから、(C)脂環式エポキシ化合物のエポキシ基どうしを重合させた際に、三次元架橋構造が形成される。その結果、硬化物の水分透過性がさらに低くなり、耐熱性もより高くなる。つまり、シロキサン骨格および脂環式エポキシ構造の両方を含む(C)脂環式エポキシ化合物によれば、硬化物の水分透過性を非常に低く抑えることが可能であり、さらには硬化時の変形や収縮、劣化等も抑制される。
【0014】
ただし、このような(C)脂環式エポキシ化合物を主に含む組成物では、粘度が高くなりやすい。そこで、本発明では、(C)脂環式エポキシ化合物に(A)光重合性化合物を組み合わせ、粘度を所望の範囲に調整している。このように(A)光重合性化合物によって粘度調整を行うことで、組成物に溶媒を含める必要がなく、環境に対する負荷も生じ難い。
【0015】
また、当該組成物は、光による仮硬化が可能であるため、組成物の塗布後、素早く仮硬化させることが可能である。つまり、組成物の粘度がある程度低くても、所望の形状や所望の厚みを有する硬化物を容易に形成可能であるという利点もある。以下、当該組成物が含む各成分について説明する。なお、本発明の組成物は、(A)光重合性化合物と、(B)光重合開始剤、(C)脂環式エポキシ化合物、(D)熱硬化剤、および(E)シランカップリング剤以外の成分を含んでいてもよく、例えば(F)レベリング剤等を含んでいてもよい。
【0016】
(A)光重合性化合物
(A)光重合性化合物は、1分子中に少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、光照射によって重合可能な化合物であればよい。(A)光重合性化合物は、モノマーであってもよく、オリゴマーであってもよく、ポリマーであってもよいが、組成物の粘度を低減するとの観点で、モノマーが好ましい。また、組成物は、(A)光重合性化合物を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0017】
ここで、(A)光重合性化合物が含むラジカル重合性基の例には、不飽和二重結合が含まれ、ビニル基または(メタ)アクリロイル基が好ましく、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。本明細書において、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル、メタクリロイル、またはこれらの両方を表す。(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレート、またはこれらの両方を表す。また、(メタ)アクリルとは、アクリル、メタクリル、またはこれらの両方を表す。
【0018】
ここで、(A)光重合性化合物が含むラジカル重合性基の数は1つのみであってもよく、2つ以上であってもよいが、組成物が(A)光重合性化合物として、1分子中にラジカル重合性基を1つのみ含む単官能光重合性モノマーを含むと、組成物の粘度が低くなり、所望の範囲に収まりやすい。
【0019】
単官能光重合性モノマーの具体例には、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、2-(ジシクロペンタニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、テトラシクロドデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式構造含有(メタ)アクリレート類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の脂肪族アルキル(メタ)アクリレート類;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル-α-(ヒドロキシメチル)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート等の複素環式(メタ)アクリレート類;メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、イソブチル(メタ)アクリルアミド、t-ブチル(メタ)アクリルアミド、t-オクチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン等のN置換型(メタ)アクリルアミド類;N-メチレンアリルアミン、N-(2,2-ジメチルプロピリデン)アリルアミン、N-(2-フリルメチレン)アリルアミン、N-ベンジリデンアリルアミン、N-(4-メチルベンジリデン)アリルアミン、N-(4-クロロベンジリデン)アリルアミン等のN-アルキレンアリルアミン;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類;スチレン、α-メチルスチレン、p-ヒドロキシスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン、インデン等のスチレン類;エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル類;等が含まれる。組成物は、単官能光重合性モノマーを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0020】
上記の中でも、嵩高い構造を有し、硬化収縮が少ないこと等から、単官能光重合性モノマーは脂環式構造含有(メタ)アクリレートが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0021】
組成物中の上記単官能光重合性モノマーの量は、組成物の総量に対して50~80質量%が好ましく、55~65質量%がより好ましい。上記単官能光重合性モノマーの量が当該範囲であると、組成物の粘度が所望の範囲に収まりやすい。
【0022】
一方、組成物が(A)光重合性化合物として、1分子中にラジカル重合性基を2つ以上含む多官能光重合性モノマーを含むと、組成物の硬化物の強度が高くなりやすい。したがって、組成物は、(A)光重合性化合物として、多官能光重合性モノマーも含むことが好ましい。
【0023】
多官能光重合性モノマーの具体例には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、等の2官能(メタ)アクリレート;テトラメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、ソルビトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリアリルエーテル;トリアリルイソシアヌレート等が含まれる。組成物は、多官能光重合性モノマーを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0024】
上記の多官能光重合性モノマーの中でも、組成物の硬化物の強度が高まりやすいとの観点で、3官能以上の(メタ)アクリレートが好ましく、組成物の粘度を鑑みると、特に3官能の(メタ)アクリレートが好ましい。
【0025】
組成物中の上記多官能光重合性モノマーの量は、組成物の総量に対して1~10質量%が好ましく、3~6質量%がより好ましい。上記多官能光重合性モノマーの量が当該範囲であると、組成物の粘度が所望の範囲に収まりやすい。
【0026】
組成物中の(A)光重合性化合物の総量は、組成物の総量に対して55~80質量%が好ましく、60~70質量%がより好ましい。(A)光重合性化合物の総量が上記範囲であると、組成物の光硬化性が良好になりやすい。
【0027】
(B)光重合開始剤
(B)光重合開始剤は、光の照射によって、上記(A)光重合性化合物の重合を開始させることが可能な活性種を発生可能な化合物であればよく、例えば光の照射によってラジカルを発生する、ラジカル重合開始剤とすることができる。
【0028】
ラジカル重合開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン系光ラジカル重合開始剤;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等のベンゾイン系光ラジカル重合開始剤;ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル等のベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤;2-イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系光ラジカル重合開始剤;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤;等が含まれる。組成物は、(B)光重合開始剤(ラジカル重合開始剤)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0029】
組成物中の(B)光重合開始剤の量は、(A)光重合性化合物の総量に対して3~10質量%が好ましく、6~8質量%がより好ましい。(A)光重合性化合物の総量に対する(B)光重合開始剤の量が当該範囲であると、(A)光重合性化合物を効率よく硬化させることが可能である。
【0030】
(C)脂環式エポキシ化合物
(C)脂環式エポキシ化合物は、1分子中に、2つ以上の脂環式エポキシ構造、およびシロキサン骨格を含む化合物である。本明細書において、「脂環式エポキシ構造」とは、脂環式炭化水素構造に直接エポキシ基が結合した構造をいい、「シロキサン骨格」とは、SiとOとが結合したシロキサン構造を2つ以上含む骨格をいう。組成物は(C)脂環式エポキシ化合物を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0031】
ここで、(C)脂環式エポキシ化合物が含むシロキサン骨格中のSi原子の数は2~17が好ましく、4~17がより好ましい。(C)脂環式エポキシ化合物が、Si原子を2以上含むシロキサン骨格を有すると、組成物の硬化物の構造が緻密になりやすく、水分透過性が低くなりやすい。一方、シロキサン骨格中のSi原子の数が17以下であると、(C)脂環式エポキシ化合物の分子量が過度に高まらず、組成物の粘度が所望の範囲に収まりやすくなる。
【0032】
シロキサン骨格の形状は特に制限されず、例えば環状の骨格であってもよく、直鎖状の骨格であってもよい。また、かご型やラダー型等のポリシルセスキオキサン骨格であってもよい。
【0033】
一方、(C)脂環式エポキシ化合物が含む脂環式エポキシ構造の数は2つ以上であればよく、4以上がより好ましい。(C)脂環式エポキシ化合物中の脂環式エポキシ構造の数が多いほど、組成物の硬化物の架橋密度が高まり、絶縁信頼性が高まる。ただし、脂環式エポキシ構造の数が多いほど組成物の粘度が高まりやすいことから、5以下が好ましい。
【0034】
(C)脂環式エポキシ化合物の脂環式エポキシ構造は、以下の一般式で表される構造(シクロアルケンオキサイド構造)である。シクロアルケンオキサイド構造とは、シクロアルケンを過酸化物等の酸化剤でエポキシ化して得られる構造であり、脂肪族環と、脂肪族環を構成する2つの炭素原子および酸素原子で構成されるエポキシ基と、を有する構造である。
【化1】
上記一般式において、Mは脂環式構造を表し、その炭素数は好ましくは4~8であり、さらに好ましくは5~6である。脂環式構造の炭素数が8以下であると、組成物の粘度が低くなりやすい。*は連結基またはシロキサン骨格との結合手を表す。
【0035】
ここで、(C)脂環式エポキシ化合物が、不純物としてハロゲンイオン等を含むと、組成物の硬化物中で当該ハロゲンイオンがマイグレーションしたりして、絶縁信頼性が低下することがある。これに対し、上記シクロアルケンオキサイド構造を有する(C)脂環式エポキシ化合物は、合成の際にハロゲンを含む化合物を使用する必要がない。そのため、(C)脂環式エポキシ化合物は、他のエポキシ化合物と比較してハロゲンイオンを含み難く、当該(C)脂環式エポキシ化合物によれば、絶縁信頼性の高い硬化物が得られやすい。
【0036】
上記シクロアルケンオキサイド構造の具体例には、シクロヘキセンオキサイド構造や、シクロペンテンオキサイド構造が含まれるが、好ましくはシクロヘキセンオキサイド構造である。
【0037】
(C)脂環式エポキシ化合物において、脂環式エポキシ構造は、シロキサン骨格のSiやOに直接結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。連結基は、二価の基であればよく、その例には、アルキレン基(-(CH-(nは0以上の整数))や、エーテル結合(-O-)、これらの組み合わせ等が含まれる。ただし、脂環式エポキシ構造と、シロキサン骨格との距離が近いほうが、緻密な硬化物が得られやすく、その絶縁信頼性が高まりやすい。そこで、連結基を介して脂環式エポキシ構造およびシロキサン骨格が結合している場合、脂環式エポキシ構造およびシロキサン骨格の間に存在する原子の数は、4以下が好ましく、2以下がより好ましい。
【0038】
また、(C)脂環式エポキシ化合物の重量平均分子量は、300~2500が好ましく、800~1800がより好ましい。脂環式エポキシ化合物の重量平均分子量が800以上であると、組成物の硬化物の強度が特に高まりやすい。一方、脂環式エポキシ化合物の重量平均分子量が1800以下であると、組成物の粘度が特に適度な範囲に収まりやすい。(C)脂環式エポキシ化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算値である。また、当該(C)脂環式エポキシ化合物は、25℃で液体状であることが好ましい。
【0039】
上記(C)脂環式エポキシ化合物は市販品であってもよく、その例には、X-40-2669、X-40-2670、X-40-2678、X-22-169AS、X-22-169B、X-22-2046、KR-470(いずれも商品名、信越シリコーン社製)、YL9029(商品名、三菱ケミカル社製)等が含まれる。
【0040】
上記(C)脂環式エポキシ化合物の量は、組成物の総量に対して5~20質量%が好ましく、8~14質量%がより好ましい。(C)脂環式エポキシ化合物の量が上記範囲であると、組成物の熱硬化性が良好になりやすく、さらに硬化物の絶縁信頼性が良好になりやすい。
【0041】
(D)熱硬化剤
(D)熱硬化剤は、上記(C)脂環式エポキシ化合物を熱硬化可能なものであれば特に制限されない。熱硬化剤の例には、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ブロックドイソシアネート等が含まれる。組成物は(D)熱硬化剤を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0042】
アミン系硬化剤の例には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノプロピルアミン、メンタンジアミン、イソホロンジアミン、ビス[4-アミノ-3-メチルジシクロヘキシル]メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、m-キシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン及びこれらをエポキシアダクト、マイケル付加、マンニッヒ反応等により変性した変性ポリアミン、ポリアミドアミン等が含まれる。
【0043】
フェノール系硬化剤の例には、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS等のビスフェノール類;ビフェノール、ヒドロキシフェノール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル等のフェノール類;2,6-ビス[(2-ヒドロキシフェニル)メチル]-フェノール等のフェノールノボラック類;o-クレゾールノボラック、m-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック等のクレゾールノボラック類;等が含まれる。
【0044】
酸無水物系硬化剤の例には、ジデセニル無水コハク酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート等が含まれる。
【0045】
ブロックドイソシアネートは、イソシアネートと、その反応基を保護し、加熱によって解離するブロック剤と、から構成される。イソシアネートは、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、および脂環族ポリイソシアネート等のいずれであってもよい。
【0046】
上記芳香族ポリイソシアネートの例には、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体;トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体;4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのオリゴマー等が含まれる。
【0047】
脂肪族ポリイシシアネートの例には、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体;ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体;ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体;ヘキサメチレンジイソシアネートのオリゴマー、ヘキサメチレンジイソシアネートのウレトジオン、トリレンジイソシアネートとヘキサメチレンジイソシアネートからなるコポリマーのイソシアヌレート体;等が含まれる。
【0048】
脂環族ポリイソシアネートの例には、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体;イソホロンジイソシアネートのオリゴマー;等が含まれる。
【0049】
ブロック剤の例には、メチルエチルケトンオキシム、ジメチルピラゾール、マロン酸ジエチル、ε-カプロラクタム、ブタノンオキシム、フェノール、および活性メチレン化合物等が含まれる。
【0050】
また、ブロックドイソシアネートは、市販品であってもよく、その例には、スミジュールBL3175(住化コベストロウレタン社製)、デスモジュールBL1100/1(住化コベストロウレタン社製)、デスモジュールPL350(住化コベストロウレタン社製)、デュラネートMF-K60B(旭化成ケミカルズ社製)、SBN-70D(旭化成ケミカルズ社製)、MF-B60B(旭化成ケミカルズ社製)、MF-B90B(旭化成ケミカルズ社製)、17B-60P(旭化成ケミカルズ社製)、TPA-B80B(旭化成ケミカルズ社製)、TPA-B80E(旭化成ケミカルズ社製)、E402-B80B(旭化成ケミカルズ社製)、BI-7950(Baxenden社製)、BI-7951(Baxenden社製)、BI-7960(Baxenden社製)、BI-7961(Baxenden社製)、BI-7963(Baxenden社製)、BI-7982(Baxenden社製)、BI-7991(Baxenden社製)、BI-7992(Baxenden社製)、カレンズMOI-BM(昭和電工社製)、カレンズMOI-BP(昭和電工社製)等が含まれる。
【0051】
上記の中でも、(D)熱硬化剤は、ブロックドイソシアネートが好ましい。(D)熱硬化剤がブロックドイソシアネートであると、組成物の保存安定性が高まる。また、加熱によって効果的に組成物を熱硬化させることができる。
【0052】
組成物中の(D)熱硬化剤の量は、組成物の総量に対して10~25質量%が好ましく、12~20質量%がより好ましい。(C)脂環式エポキシ化合物の量に対する(C)熱硬化剤の量が当該範囲であると、(C)脂環式エポキシ化合物を効率よく熱硬化させることが可能である。
【0053】
(E)シランカップリング剤
(E)シランカップリング剤は、組成物の硬化物と半導体装置の金属配線や基板と接着性を高める機能を担う。当該シランカップリング剤は、組成物中の成分と結合する基、および金属配線等と結合する基を併せ持った化合物であればよく、その構造は特に制限されない。組成物は、(E)シランカップリング剤を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0054】
ただし、本発明では、(E)シランカップリング剤が、(A)光重合性化合物のラジカル重合性基と重合可能な基、または(C)脂環式エポキシ化合物のエポキシ基と重合可能な基を有することが好ましい。具体的には、(E)シランカップリング剤が、ビニル基、エポキシ基、カルボキシル基、(メタ)アクリロイル基、イソシアネート基等の反応性基を有することが好ましい。
【0055】
(E)シランカップリング剤の具体例には、トリメトキシシリル安息香酸、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が含まれる。
【0056】
組成物が含む(E)シランカップリング剤の量は、組成物の総量に対して2~8質量%が好ましく、3~5質量%がより好ましい。(E)シランカップリング剤の量が当該範囲であると、組成物の硬化物と、金属配線等との密着性が良好になる。
【0057】
(F)レベリング剤
組成物は、レベリング剤を含んでいてもよい。レベリング剤は、組成物を塗布後、所望の領域に濡れ広がらせたり、その表面の平坦性を高めたりするための化合物である。レベリング剤の種類は特に制限されず、公知のレベリング剤を使用できる。(F)レベリング剤の例には、シリコーン系、アクリル系、フッ素系の化合物が含まれる。具体例には、BYK-340、BYK-345(いずれもビックケミー・ジャパン社製)、サーフロンS-611(AGCセイミケミカル社製)等が含まれる。
【0058】
組成物が含む(F)レベリング剤の量は、組成物の総量に対して0.1~0.5質量%が好ましく、0.2~0.3質量%がより好ましい。(F)レベリング剤の量が0.2質量%以上であると、組成物の濡れ性を良好にできる。また、(F)レベリング剤の量が0.3質量%以下であると、組成物中の低分子量成分が過度に多くならず、装置等にダメージが生じ難い。
【0059】
(G)その他の成分
組成物は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、上述の(A)光重合性化合物、(B)光重合開始剤、(C)脂環式エポキシ化合物、(D)熱硬化剤、(E)シランカップリング剤、および(F)レベリング剤以外の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例には、増感剤、酸化防止剤、顔料等が含まれる。
【0060】
増感剤は、(B)光重合開始剤や(D)熱硬化剤の活性を高めて、組成物の硬化反応をより促進させる機能を有する化合物である。このような増感剤は、公知の化合物を使用できる。
【0061】
<組成物の物性>
(粘度)
本発明の組成物のE型粘度計により25℃、20rpmで測定される粘度は、5~50mPa・sであり、5~30mPa・sが好ましく、10~20mPa・sがより好ましい。粘度が当該範囲であると、組成物をインクジェット法で塗布する際の、吐出性が良好となりやすい。
【0062】
(表面張力)
本発明の組成物の表面張力は20~40mN/mが好ましく、25~40mN/mがより好ましく、25~35mN/mがさらに好ましい。表面張力は、25℃、Wilhelmy法により測定される値である。組成物の表面張力が40mN/m以下であると、組成物をインクジェット法で塗布した際にレベリングしやすく、半導体回路基板の回路等をムラ無く被覆可能となる。一方で、組成物の表面張力が20mN/m以上であると、インクジェット法で塗布した際に過度に濡れ広がり難く、所望の厚みやパターンを保持できる。
【0063】
(硬化物の物性)
上記組成物の硬化物の1.6Hz(10rad/s)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる、25~150℃における損失正接(tanδ)は0.01以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましい。なお、上記値は、組成物に対し、波長395nmの光を450mJ/cm照射し、さらに200℃で90分間硬化させた後に測定される値である。硬化物の損失正接(tanδ)が当該範囲であると、硬化物の絶縁信頼性が良好になる。
【0064】
さらに、上記硬化物の1.6Hz(10rad/s)の周波数で動的粘弾性測定を行って得られる、85℃における貯蔵弾性率E’は1×10Pa~1×1010Paが好ましく、1×10Pa~1×1010Paがより好ましい。またこのときの損失正接(tanδ)は0.03以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。
【0065】
85℃における貯蔵弾性率や損失正接が上記範囲であると、硬化物を半導体装置のリパッシベーション層等に使用したときに、高温環境下でもリパッシベーション層等が十分に衝撃を吸収しやすくなる。
【0066】
<組成物の調製方法>
組成物は、上述の成分を、例えばホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、3本ロールなどの混合機を用いて混合して得ることができる。
【0067】
2.半導体装置の製造方法
上述のように、上記組成物は、半導体回路基板や、金属配線を保護する保護層や絶縁層を形成するための組成物として使用できる。
【0068】
上記組成物によって、半導体回路基板上に保護層や絶縁層を形成して半導体装置を製造する場合、1)少なくとも一方の面に回路が形成された半導体回路基板を準備する準備工程と、2)半導体回路基板の回路上に、上述の組成物をインクジェット法で塗布する塗布工程と、3)組成物の塗膜に活性光線を照射し、塗膜を硬化させる光硬化工程と、4)光硬化工程後の塗膜を熱で硬化させる熱硬化工程と、を行うことが好ましい。なお、必要に応じて半導体モールドレジン層を形成する工程をさらに有していてもよい。
【0069】
1)準備工程は、半導体回路基板を準備する工程であり、例えば各種基板上に公知の方法(例えばスパッタ法)等により回路を形成する工程等であってもよい。
【0070】
半導体回路基板は、基板の一方の面、または両方の面に所望の回路が形成された基板とすることができる。例えば、各種基板上に、各種回路(金属配線)を形成した構造とすることができる。基板の種類は特に制限されず、例えばSiONやSiN、SiO等からなる公知の基板を使用できる。また、回路(金属配線)の材料やパターンも特に制限されず、例えば銅等、一般的な半導体装置に使用される金属からなる回路を使用できる。
【0071】
2)塗布工程は、半導体回路基板の回路上に、インクジェット法により、上記組成物を塗布する工程である。当該組成物の塗布に使用可能なインクジェット装置は、インクタンクや、インクジェット式記録ヘッド、インクジェット式記録ヘッドの駆動機構等を有する公知の装置とすることができる。インクジェット式記録ヘッドの方式は特に制限されず、例えばピエゾ方式、バルブ方式のいずれの方式であってもよい。また、塗布時の条件は特に制限されず、所望の層の厚みやパターン等に合わせて適宜選択される。
【0072】
3)光硬化工程は、上記組成物の塗膜に活性光線を照射し、塗膜を硬化させる工程である。光硬化工程は、塗布工程終了から60秒以内に行うことが好ましく、10秒以内に行うことがより好ましい。光硬化工程で照射する活性光線の種類は特に制限されず、上述の光重合開始剤の種類に応じて適宜選択されるが、通常、紫外光が用いられる。また、照射に用いる光源も特に制限されず、その例には、キセノンランプ、カーボンアークランプ、UV-LED光源等の公知の光源が含まれる。
【0073】
活性光線の照射量は、活性光線照射後の組成物の形状が変化しない程度に硬化可能であれば特に制限されない。例えば300~400nmの波長の光を用いる場合、積算光量を300~3000mJ/cmとすることで、上述の組成物の塗膜を硬化させることができる。
【0074】
4)熱硬化工程は、光硬化工程後、さらに塗膜を熱で硬化させる工程である。熱硬化工程を行うことにより上記組成物の塗膜を十分に硬化させることができる。加熱温度は80~180℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。また、加熱時間は10~60分が好ましく、10~30分がさらに好ましい。
【0075】
上記組成物の硬化物からなる層は、例えば回路と他の部材との電気的な導通を抑制するための絶縁層として機能するものであってもよく、回路の腐食や破損等を抑制するための保護層として機能するものであってもよい。なお、上述の半導体回路基板の両面に回路が形成されている場合、保護層や絶縁層を両面に形成してもよい。また特に、半導体回路基板とモールドレジンとの間に上記硬化物からなる層を形成することで、当該層がクッションとなり衝撃から回路を保護できる。
【0076】
当該層(硬化物)の形状は、半導体装置の種類や用途に応じて適宜選択される。例えば、当該層が半導体回路基板に形成された回路全てを覆っていてもよく、回路の一部領域のみを覆っていてもよい。
【0077】
層(硬化物)の厚みは、半導体回路基板上の回路を保護したり、絶縁したりすることが可能であれば特に制限されない。例えば5~20μmが好ましく、5~15μmがより好ましい。
【0078】
また、上記4)熱硬化工程後、硬化物の上に、半導体モールドレジン層を形成してもよい。半導体モールドレジン層の形成方法は、公知の方法とすることができる。また、当該半導体モールドレジン層の形状は半導体装置の種類や用途等に応じて適宜選択される。半導体モールドレジン層を、硬化物上にパターン状に配置してもよく、上記層(硬化物)の全面を覆うように配置してもよい。
【0079】
一方、上記組成物によって、金属配線上に保護層や絶縁層を形成して半導体装置を製造する場合、a)少なくとも一方の面に金属配線が配置された基板を準備する準備工程と、b)基板の金属配線上に、上述の組成物をインクジェット法で所望のパターン状に塗布する塗布工程と、c)上記組成物の塗膜に活性光線を照射し、塗膜を硬化させる光硬化工程と、d)光硬化工程後の塗膜を熱で硬化させる熱硬化工程と、を行うことが好ましい。なお、必要に応じて配線部を形成する工程をさらに有していてもよい。
【0080】
a)準備工程は、金属配線を有する基板を準備する工程であり、例えば半導体回路基板上に公知の方法により金属配線を形成する工程等であってもよい。
【0081】
上記金属配線を有する基板は、各種回路を有する基板とすることができる。当該基板では、一方の面のみに金属配線を有していてもよく、両方の面に金属配線を有していてもよい。また、金属配線のパターンは半導体装置の種類や用途に応じて適宜選択される。
【0082】
b)塗布工程は、基板の金属配線上に、インクジェット法により、上記組成物を所望のパターン状に塗布する工程である。当該組成物の塗布に使用するインクジェット装置は、上記と同様である。また、組成物の塗布条件は特に制限されず、所望の層の厚みやパターン等に合わせて適宜選択される。
【0083】
3)光硬化工程は、上記組成物の塗膜に活性光線を照射し、塗膜を硬化させる工程である。光硬化工程は、塗布工程終了から60秒以内に行うことが好ましく、10秒以内に行うことがより好ましい。活性光線の種類は特に制限されず、上述の(B)光重合開始剤の種類に応じて適宜選択されるが、通常、紫外光である。また、照射に用いる光源の例には、キセノンランプ、カーボンアークランプ、UV-LED光源などの公知の光源が含まれる。活性光線の照射は、活性光線照射後の組成物の形状が変化しない程度に行えばよく、特に制限されないが、例えば300~400nmの波長の光を、300~3000mJ/cmの積算光量の光を照射することによって好適に硬化させることができる。
【0084】
4)熱硬化工程は、光硬化工程後、さらに塗膜を熱で硬化させる工程である。熱硬化工程を行うことにより、インクジェット塗布型配線保護用組成物の塗膜を十分に硬化させることができる。加熱温度は80~180℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。また、加熱時間は10~60分が好ましく、10~30分がさらに好ましい。
【0085】
上記金属配線上に配置する、上記組成物の硬化物からなる層は、金属配線等を衝撃等から保護するための層、すなわちリパッシベーション層等として機能する層であってもよい。当該層(硬化物)の形状は、半導体装置の種類や用途に応じて適宜選択され、金属配線と配線部とを電気的に接続するためのスルーホール等を有していてもよい。
【0086】
当該層(硬化物)の厚みは、衝撃を吸収することで、金属配線を保護したり、絶縁したり可能な厚さであればよく、例えば5~20μmが好ましく、5~15μmがより好ましい。
【0087】
また、当該層上に、さらに配線部を形成する工程を行ってもよい。配線部の構造や種類は、半導体装置の種類や用途に応じて適宜選択される。またこのとき、保護層が形成されていない領域に露出した金属配線上に導電路を形成し、基板側の金属配線と保護層上の各種配線部とを繋げてもよい。
【実施例0088】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0089】
1.材料の準備
以下の材料を準備した。
(A)光重合性化合物
・IBXA(大阪有機化学社製、イソボルニルアクリレート)
・A-TMPT(新中村化学工業社製、トリメチロールプロパントリアクリレート)
・A-TMPT-3EO(新中村化学工業社製、エトキシ変性トリメチロールプロパントリアクリレート)
・4HBAGE(三菱ケミカル社製、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル)
・CHDMMA(三菱ケミカル社製、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート)
【0090】
(B)光重合開始剤
・TPO(BASF社製、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
・Omnirad819(IGMレジン社製、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド)
・Omnirad907(IGMレジン社製、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン)
【0091】
(C)脂環式エポキシ化合物
・X-40-2669(信越シリコーン社製、下記化学式で表される化合物)
【化2】
・X-40-2678(信越シリコーン社製、下記化学式で表される化合物)
【化3】
・KR-470(信越シリコーン社製、下記化学式で表される化合物)
【化4】
・YL9029(三菱ケミカル社製、下記化学式で表される化合物)
【化5】
【0092】
(C’)その他のエポキシ化合物
・X-40-2701(信越シリコーン社製、直鎖シロキサンエポキシグリシジルエーテル(脂環式構造なし))
・YL9028(三菱ケミカル社製、特殊シロキサンエポキシグリシジルエーテル(脂環式構造なし))
・PETG(昭和電工カレンズ社製、非シロキサン系エポキシグリシジルエーテル(シロキサン骨格および脂環式構造なし))
・BATG(昭和電工カレンズ社製、ヒ素シロキサン系エポキシグリシジルエーテル(シロキサン骨格および脂環式構造なし))
・CEL2021P(ダイセル有機合成社製、脂環式エポキシ化合物(シロキサン骨格なし))
・CEL8010ダイセル有機合成社製、脂環式エポキシ化合物(シロキサン骨格なし))
【0093】
(D)熱硬化剤
・HNA-100(新日本理化社製)
・MH-100(ミマキエンジニアリング社製)
・BI-7982(Baxenden社製)
【0094】
(E)シランカップリング剤
・KBM-403(信越シリコーン社製、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)
・KBM-5103(信越シリコーン社製、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)
【0095】
(F)レベリング剤
・BYK-UV3500
【0096】
2.インクジェット印刷用硬化性組成物の調製
[実施例1~7]
表1に示す組成比(質量比)で、(A)光重合性化合物、(B)光重合開始剤、(C)脂環式エポキシ化合物、(D)熱硬化剤、(E)シランカップリング剤、および(F)レベリング剤を混合し、インクジェット印刷用硬化性組成物を調製した。
【0097】
[比較例1~9]
表2または表3に示す組成比(質量比)で、(A)光重合性化合物、(B)光重合開始剤、(C)脂環式エポキシ化合物またはは(C’)その他のエポキシ化合物、(D)熱硬化剤、(E)シランカップリング剤、および(F)レベリング剤を混合し、インクジェット印刷用硬化性組成物を調製した。
【0098】
[評価]
以下の方法で、粘度測定、およびbHAST試験を行った。
【0099】
(粘度測定)
E型粘度計により25℃、20rpmで測定した。評価は以下の基準で行った。
〇:粘度が30mPa・s以下である
×:粘度が30mPa・s超である
【0100】
(bHAST試験)
くし形(ライン/スペース=10μm/10μm)の電極を有する基板に、各インクジェット印刷用硬化性組成物を硬化後の厚みが25μmとなるように塗布した。そして、1500mJ/cmでUV照射して、仮硬化塗膜を得た。その後、200℃、90分で熱硬化を実施し、試験サンプルを得た。
当該試験サンプルに対し、エレクトロケミカルマイグレーション評価システム(SIR13、楠本化成社製)にて以下の条件で試験を行った。また、以下のように評価した。
(試験条件)
・温度:130℃
・湿度:85%RH
・電極間電圧:16.7V
・試験時間:48時間
(評価基準)
○:マイグレーションが発生しなかった
×:マイグレーションが発生した
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
表1に示すように、(A)光重合性化合物と、(B)光重合開始剤と、(C)1分子中に、2つ以上のエポキシ基、脂環式炭化水素構造、およびシロキサン骨格を含む脂環式エポキシ化合物と、(D)熱硬化剤と、(E)シランカップリング剤とを含む、実施例1~7のインクジェット印刷用硬化性組成物では、いずれも粘度が30mPa・s以下であり、さらにその硬化物のbHAST試験の結果も良好であった。
【0105】
組成物が、シロキサン骨格および脂環式エポキシ構造を有する(C)脂環式エポキシ化合物を含むことで、水分透過性が低く、かつ耐熱性が高い硬化物が形成できたため、bHAST試験の結果が良好になったと考えられる。また、このような(C)脂環式エポキシ化合物に、光重合性化合物を組み合わせることで、組成物の粘度が十分に低くなったと考えられる。
【0106】
これに対し、エポキシ化合物として、脂環式エポキシ構造を有さない化合物を用いた場合(比較例1、2、および5)には、bHAST試験の結果が低かった。硬化物の水分侵入抑制効果や耐熱性が十分でなかったことが一因として考えられる。また、エポキシ化合物として、シロキサン骨格を有さないエポキシ化合物を用いた場合(比較例6および7)にも、bHAST試験の結果が低かった。この場合も、硬化物の水分侵入抑制効果や耐熱性が十分でなかったことが一因として考えられる。さらに、脂環式構造もシロキサン骨格も有さないエポキシ化合物を用いた場合(比較例3および4)にも同様に、bHAST試験の結果が低くなった。
【0107】
また、エポキシ化合物を一切含まず、主に光重合性化合物および光重合開始剤を含むインクジェット印刷用硬化性組成物(比較例8)では、粘度は良好であったが、bHAST試験の結果が低かった。一方、光重合性化合物を含まず、主にエポキシ化合物と熱硬化剤とを含むインクジェット印刷用硬化性組成物(比較例9)では、bHAST試験の結果は良好であったものの、粘度が高く、インクジェット印刷用の組成物としては適切でなかった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のインクジェット印刷用硬化性組成物は、インクジェット法による塗布が可能であることから、半導体装置の保護層や絶縁層を容易に形成可能である。また、当該インクジェット印刷用硬化性組成物によれば、絶縁信頼性が高い硬化物が得られる。したがって、半導体装置の製造分野において、非常に有用である。