(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066989
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】ヒータ監視装置、熱処理装置、ヒータ監視方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
H05B 3/00 20060101AFI20230509BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
H05B3/00 320Z
H05B3/00 310C
G05B23/02 302S
G05B23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177898
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトサーモシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】服部 昌
【テーマコード(参考)】
3C223
3K058
【Fターム(参考)】
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB03
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF16
3C223FF21
3C223FF31
3C223FF46
3C223GG01
3C223HH02
3K058AA84
3K058AA96
3K058CA05
(57)【要約】
【課題】熱処理装置に備えられる抵抗加熱ヒータの劣化を、簡易な構成でより正確に判断できるようにする。
【解決手段】ヒータ監視装置10は、被処理物100を加熱する熱処理装置1に備えられる抵抗加熱ヒータ3を監視する監視部11を有する。監視部11は、抵抗加熱ヒータ3での消費電力Pと、抵抗加熱ヒータ3の制御出力値MVと、の関係から得られる関係値Pmvの時系列変化に基づいて、抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷率である出力値が設定されることで前記出力値に応じた発熱を行う抵抗加熱ヒータを備える熱処理装置に備えられる前記抵抗加熱ヒータを監視する監視部を備え、
前記監視部は、前記抵抗加熱ヒータでの消費電力と、前記出力値と、の関係から得られる関係値の時系列変化に基づいて、前記抵抗加熱ヒータの劣化を判定する、ヒータ監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の監視装置であって、
前記消費電力をPとし、前記出力値をMVとし、前記関係値をPmvとしたときに、Pmv=P/MVである、ヒータ監視装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のヒータ監視装置であって、
前記監視部は、時間を横軸とし前記関係値を縦軸としたときに得られる前記関係値の関数の傾きに基づいて前記抵抗加熱ヒータの劣化度合を判定する、ヒータ監視装置。
【請求項4】
請求項3に記載のヒータ監視装置であって、
前記監視部は、単位時間毎の前記関係値を算出し、複数の前記単位時間における前記関係値の平均値を平均関係値として算出し、前記関数における前記関係値として前記平均関係値を用いる、ヒータ監視装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載のヒータ監視装置であって、
前記監視部は、前記関係値の時系列変化としての、前記消費電力を一定にした状態における前記出力値の時系列変化に基づいて、前記抵抗加熱ヒータの劣化を判定する、ヒータ監視装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1項に記載のヒータ監視装置であって、
前記監視部は、前記関係値の時系列における変化率が所定のしきい値を超えた場合に、前記抵抗加熱ヒータが断線したと判定する、ヒータ監視装置。
【請求項7】
前記抵抗加熱ヒータと、
請求項1~請求項6の何れか1項に記載のヒータ監視装置と、
を備えている、熱処理装置。
【請求項8】
負荷率である出力値が設定されることで前記出力値に応じた発熱を行う抵抗加熱ヒータを備える熱処理装置に備えられる前記抵抗加熱ヒータを監視するヒータ監視方法であって、
前記抵抗加熱ヒータでの消費電力と、前記出力値と、の関係から得られる関係値の時系列変化に基づいて、前記抵抗加熱ヒータの劣化を判定する、ヒータ監視方法。
【請求項9】
負荷率である出力値が設定されることで前記出力値に応じた発熱を行う抵抗加熱ヒータを備える熱処理装置に備えられる前記抵抗加熱ヒータを監視するプログラムであって、
コンピュータに、
前記抵抗加熱ヒータでの消費電力と、前記出力値と、の関係から得られる関係値の時系列変化に基づいて、前記抵抗加熱ヒータの劣化を判定するステップを実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒータ監視装置、熱処理装置、ヒータ監視方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被処理物を熱処理する熱処理装置では、ヒータが用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のヒータとして、抵抗加熱ヒータが用いられることがある。抵抗加熱ヒータは、金属線等の電熱線に電流を流すことでジュール熱を発生させ、このジュール熱を被処理物に作用させる。抵抗加熱ヒータは、高温で使用され、且つ、スイッチのオン-オフによって常温状態と高温状態とを繰り返されるため、経年劣化する。具体的には、抵抗加熱ヒータが長期に使用されると、発熱体の表面に酸化皮膜が形成される。発熱体の加熱のオンオフによって発熱体の温度が大きく変化すると、酸化皮膜は、発熱体の膨張や収縮によって発熱体から剥離する。なお、発熱体の温度が一定でも発熱体から酸化皮膜が剥離する現象はある程度生じる。そして、このような酸化皮膜の剥離が繰り返されると、発熱体の断面積が小さくなり、抵抗加熱ヒータの抵抗値が上昇する。また、発熱体の組織の変化によっても抵抗値が上昇する。これらの現象により、抵抗加熱ヒータに流れる電流値が低下する。結果、抵抗加熱ヒータの消費電力が低下し、抵抗加熱ヒータの温度低下という不具合が生じる。また、発熱体の断面積が小さくなる結果、抵抗加熱ヒータの発熱体の断線という不具合が生じる。このため、抵抗加熱ヒータの劣化を監視し、劣化を検出できるようにすることで、抵抗加熱ヒータを適切に修理・交換できるようにする必要がある。特許文献1では、ヒータの異常検出を、ヒータに流れる電流に基づいて行う。
【0005】
このように、抵抗加熱ヒータの劣化を検出する構成は存在するものの、抵抗加熱ヒータの劣化を定量化し、抵抗加熱ヒータの加熱能力(劣化の度合い)をより的確に、且つ、簡易な構成で判断できるようにすることが好ましい。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みることにより、熱処理装置に備えられる抵抗加熱ヒータの劣化を、簡易な構成でより正確に判断できる、ヒータ監視装置、熱処理装置、ヒータ監視方法、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)この発明のある局面に係わるヒータ監視装置は、負荷率である出力値が設定されることで前記出力値に応じた発熱を行う抵抗加熱ヒータを備える熱処理装置に備えられる前記抵抗加熱ヒータを監視する監視部を備え、前記監視部は、前記抵抗加熱ヒータでの消費電力と、前記出力値と、の関係から得られる関係値の時系列変化に基づいて、前記抵抗加熱ヒータの劣化を判定する。
【0008】
この構成によると、監視部は、関係値から、抵抗加熱ヒータの抵抗値と等価な値を得ることができる。そして、抵抗加熱ヒータが劣化すると、抵抗加熱ヒータにおける抵抗値が増加する。よって、監視部は、関係値の時系列変化を通じて、抵抗加熱ヒータの抵抗値の増加の有無、すなわち、抵抗加熱ヒータの劣化の有無を監視できる。しかも、監視部は、抵抗加熱ヒータの劣化によって直接の影響をうける抵抗値と等価な値に基づいて抵抗加熱ヒータの劣化を判定できる。よって、監視部は、抵抗加熱ヒータの劣化をより正確に判定できる。また、ヒータ監視装置において、抵抗加熱ヒータの通電中の抵抗値を直接測定するための構成が不要であるので、抵抗加熱ヒータの劣化を簡易な構成で検出できる。
【0009】
(2)前記消費電力をPとし、前記出力値をMVとし、前記関係値をPmvとしたときに、Pmv=P/MVである場合がある。
【0010】
この構成によると、監視部は、抵抗加熱ヒータの通電中の抵抗値の変化、すなわち、抵抗加熱ヒータの劣化の度合いを、簡易な演算で検出することができる。
【0011】
(3)前記監視部は、時間を横軸とし前記関係値を縦軸としたときに得られる前記関係値の関数の傾きに基づいて前記抵抗加熱ヒータの劣化度合を判定する場合がある。
【0012】
この構成によると、監視部は、抵抗加熱ヒータの現在の劣化度合いを検出でき、また、抵抗加熱ヒータの将来の劣化度合を推測できる。
【0013】
(4)前記監視部は、単位時間毎の前記関係値を算出し、複数の前記単位時間における前記関係値の平均値を平均関係値として算出し、前記関数における前記関係値として前記平均関係値を用いる場合がある。
【0014】
大抵のパワーデバイスで制御されるヒータは、消費電力と出力値とが比例関係にある。このため、抵抗加熱ヒータの劣化の影響が出ない程度の短期間(例えば、1日)であれば、関係値は、理論上は、一定の値を示す。しかしながら、抵抗加熱ヒータの定常運転時であっても、出力値は一定であるとは限らず、抵抗加熱ヒータに応答性を求めるような制御であれば、出力値が大きく変動する場合もある。極端な場合には、出力値は、0%と100%をオン-オフ制御のように繰り返されることがある。また、消費電力は、実効値を測定する必要があり、瞬時値である出力値と実効値である消費電力の検出タイミングの差の関係で、ある瞬間に見た場合、関係値にぶれがあることは、よくある。さらに、消費電力および出力値についての高出力部、低出力部でのリニアリティーのずれがある。このため、ある短い一定期間であっても、瞬時、瞬時で対応する測定データが必ずしも比例関係にあるとはいえず、関係値に大きな変動が生じることがある。一方でヒーターの劣化は長期的なスパンで観察すればよい。
上記の現象を踏まえて、上記(4)の構成によると、監視部は、抵抗加熱ヒータの劣化診断を、有る一定以上の長期的なスパンでの消費電力と出力値の観察結果に基づいて行うことができる。この構成であれば、関係値から求められる、抵抗加熱ヒータにおける瞬間的な抵抗値の計算値が正確である必要はなく、監視部は、複数の単位時間における関係値の平均関係値の推移を監視することで、抵抗加熱ヒータの劣化度合いをより正確に判定できる。熱処理装置においては、抵抗加熱ヒータ等の温度調整系統では応答の高速性が要求されることは一般に少ない。よって、例えば単位時間が1分であったとしても、すなわち、関係値のサンプリング周期が1分であったとしても、1日では1440点のサンプリングデータを得ることができる。そして、この多数のサンプリングデータをある一定の期間毎(例えば、1日毎)に平均化すれば、上述した関係値のぶれを平滑化できる。
【0015】
(5)前記監視部は、前記関係値の時系列変化としての、前記消費電力を一定にした状態における、前記出力値の時系列変化に基づいて、前記抵抗加熱ヒータの劣化を判定する場合がある。
【0016】
この構成によると、例えば、熱処理装置において、被処理物の熱処理と熱処理との間におけるスタンバイ状態での熱負荷が同等である場合、被処理物の熱処理時の負荷状態が種々に変化していても、このスタンバイ状態での出力値の時系列変化を用いて、抵抗加熱ヒータの劣化を監視部で判定できる。
【0017】
(6)前記監視部は、前記関係値の時系列における変化率が所定のしきい値を超えた場合に、前記抵抗加熱ヒータが断線したと判定する場合がある。
【0018】
この構成によると、抵抗加熱ヒータが断線すると、関係値が急峻に変化する。監視部は、この変化を捉えることで、抵抗加熱ヒータの断線を検出できる。しかも、抵抗加熱ヒータの断線を検出するための断線検知器等、断線検出専用の構成が不要であるので、ヒータ監視装置の構成が複雑にならずに済む。
【0019】
(7)この発明のある局面に係わる熱処理装置は、前記抵抗加熱ヒータと、前記ヒータ監視装置と、を備えている。
【0020】
(8)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わるヒータ監視方法は、負荷率である出力値が設定されることで前記出力値に応じた発熱を行う抵抗加熱ヒータを備える熱処理装置に備えられる前記抵抗加熱ヒータを監視するヒータ監視方法であって、前記抵抗加熱ヒータでの消費電力と、前記出力値と、の関係から得られる関係値の時系列変化に基づいて、前記抵抗加熱ヒータの劣化を判定する。
【0021】
(9)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わるプログラムは、負荷率である出力値が設定されることで前記出力値に応じた発熱を行う抵抗加熱ヒータを備える熱処理装置に備えられる前記抵抗加熱ヒータを監視するプログラムであって、コンピュータに、前記抵抗加熱ヒータでの消費電力と、前記出力値と、の関係から得られる関係値の時系列変化に基づいて、前記抵抗加熱ヒータの劣化を判定するステップを実行させる。
【0022】
上記(7),(8),(9)のそれぞれの構成によると、熱処理装置に備えられる抵抗加熱ヒータの劣化を、簡易な構成でより正確に判断できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、熱処理装置に備えられる抵抗加熱ヒータの劣化を、簡易な構成でより正確に判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱処理装置の模式図である。
【
図2】
図2(A)および
図2(B)は、平均関係値を示すグラフの一例である。
【
図3】
図3は、抵抗加熱ヒータの延べの使用時間と、抵抗加熱ヒータの抵抗値との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4(A)および
図4(B)は、平均関係値を示す関数の別の一例である。
【
図5】
図5は、ヒータ監視装置における抵抗加熱ヒータの監視動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、抵抗加熱ヒータの制御のリニアリティの一例を説明するための図である。
【
図7】
図7は、実施形態の変形例における、熱処理装置の動作パターンについて説明するためのグラフである。
【
図8】
図8(A)および
図8(B)は、関係値としての平均出力値を示すグラフの一例である。
【
図9】
図9は、変形例でのヒータ監視装置における抵抗加熱ヒータの監視動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態または変形例におけるヒータ監視装置を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<本発明に想到するに至った経緯>
抵抗加熱ヒータは、劣化に伴い抵抗値が増加する。したがって、ヒータの劣化をとらえるには、ヒーターの抵抗値を監視すればよい。しかしながら、抵抗加熱ヒータへの通電中に当該抵抗加熱ヒータの抵抗値を測ることは難しい。なお、電圧制御方式のSCR(サイリスタ)を用いて、ヒータ両端の電圧および電流を実効値で測れば、上記抵抗値を測定することはできるけれども、機器構成は限られてしまう。また、抵抗加熱ヒータを駆動するSCR(サイリスタ)やSSR(固体リレー)等のパワーデバイスは必ずしも電圧/電流を演算できるようにこれら電圧/電流がアナログ的に変化する構成ばかりではない。
【0026】
ヒータ抵抗値そのものを測定しなくとも、等価な要素を測定できれば、上記抵抗値を代用することは可能である。この等価な要素は、抵抗加熱ヒータの消費電力P(W)と、制御器から抵抗加熱ヒータへの出力値MV(%)と、の比Pmv=P/MVを取る。抵抗加熱ヒータが劣化すると、抵抗加熱ヒータの抵抗値が上昇し、抵抗加熱ヒータの消費電力が低下する。これは、抵抗加熱ヒータの劣化に伴い上記の比Pmv=P/MVが低下してくることに他ならない。
【0027】
<実施形態>
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱処理装置1の模式図である。
図1を参照して、熱処理装置1は、被処理物100を加熱処理するために用いられる。被処理物100として、金属部品、半導体素材、電子部品素材を例示できる。
【0029】
熱処理装置1は、筐体2と、抵抗加熱ヒータ3と、電力計4と、電源回路5と、制御部6と、表示部7と、温度センサ9と、ヒータ監視装置10と、を有している。
【0030】
なお、本実施形態では、ヒータ監視装置10が熱処理装置1の筐体2に隣接している形態を例に説明する。しかしながら、この通りでなくてもよい。ヒータ監視装置10は、筐体2が設置されている工場とは別の場所に設置されていてもよい。また、ヒータ監視装置10は、熱処理装置1とは独立して設けられて熱処理装置1とは通信可能に構成され、熱処理装置1ではない構成であってもよい。
【0031】
筐体2は、被処理物100の加熱処理時に被処理物100が収容される空間を区画している。筐体2は、箱形状に形成されている。筐体2には図示しない扉が設置されており、この扉を通して被処理物100が筐体2に出し入れされる。筐体2内に抵抗加熱ヒータ3が配置されている。
【0032】
抵抗加熱ヒータ3は、発熱体に電流を流すことで電力をジュール熱に変換するヒータである。本実施形態の抵抗加熱ヒータ3は、間接加熱方式のヒータであり、発生したジュール熱を熱伝導や熱輻射によって被処理物100に与える。抵抗加熱ヒータ3の消費電力(発熱量)をPとし、抵抗加熱ヒータ3に流れる電流をIとし、抵抗加熱ヒータ3の電気抵抗をRとすると、P=I2R(W)である。抵抗加熱ヒータ3は、後述するように、負荷率である出力値MVが設定されることで、出力値MVに応じた発熱を行う。
【0033】
抵抗加熱ヒータ3は、発熱体としての電熱線3aを有している。電熱線3aは、本実施形態では、金属系素材で形成されている。金属系素材として、鉄-クロムアルミ系素材、ニッケル-クロム系素材、白金、モリブデン、タンタル、および、タングステンを例示できる。電熱線3aの定格温度は、例えば、1000℃~1400℃程度である。
【0034】
本実施形態では、抵抗加熱ヒータ3は、複数の電熱線3a(本実施形態では、3つの電熱線3aを例示)が並列接続されている。上記の抵抗値Rは、複数の電熱線3aの全体としての抵抗値である。各電熱線3aは、起伏形状(蛇腹形状)に形成されていてもよいし、直線形状に形成されていてもよい。また、抵抗加熱ヒータ3は、多孔質セラミック等の部材に埋設されていてもよいし、筐体2内の空間に露出して配置されていてもよい。また、抵抗加熱ヒータ3において電熱線3aが並列に接続されている本数は、1本でもよいし、2以上の任意の整数本であってもよい。
【0035】
電源回路5は、電力会社の商用電源8からの電力を、抵抗加熱ヒータ3に適した電流および電圧に変換して抵抗加熱ヒータ3に供給する回路である。本実施形態では、電源回路5の出力は、交流電力であるけれども、直流電力であってもよい。電源回路5から抵抗加熱ヒータ3への供給電力は、制御部6によって制御される。
【0036】
制御部6は、PLC(Programmable Logic Controller)、調整計等を用いて形成されている。制御部6は、抵抗加熱ヒータ3の負荷率を、出力値MVとして規定している。制御部6は、出力値MV%を、例えば、0%<MV≦100%の間で設定可能に構成されている。なお、出力値MVの下限は、0でなくてもよい。また、出力値MVの上限は、100でなくてもよい。制御部6において、出力値MVは、変更可能に構成されていてもよいし、変更不可能な固定値として構成されていてもよい。本実施形態では、制御部6は、電力計4の計測結果を基に出力値MVを変更可能に構成されている。
【0037】
本実施形態では、制御部6は、抵抗加熱ヒータ3の初期状態(新品状態)における、定常運転時の出力値MVをMV0として設定している。本実施形態では、MV0=70%を例に説明する。そして、抵抗加熱ヒータ3の初期状態において、出力値MV=MV0のときにおける抵抗加熱ヒータ3の消費電力P=P0である。
【0038】
本実施形態では、出力値MVの初期値MV0は、0<MV0≦100であればよい。なお、この初期値MV0は、初期の運転時平均ヒータ負荷率であり、抵抗加熱ヒータ3の寿命を考える上で必要となる概念である。
【0039】
制御部6は、電力計4、温度センサ9、および、電源回路5に接続されている。制御部6は、電力計4から、抵抗加熱ヒータ3の消費電力P(実測値)を特定する信号を与えられる。温度センサ9は、熱電対等を含んでおり、被処理室としての筐体2の内部における雰囲気温度に応じた信号を制御部6へ供給する。制御部6は、温度センサ9の測定結果に基づいて出力値MVを設定し、この出力値MVを電源回路5へ供給する。
【0040】
電源回路5は、出力値MVに応じた電力を抵抗加熱ヒータ3へ供給する。
【0041】
本実施形態では、制御部6は、フィードバック制御を行っており、温度センサ9で計測された温度と、筐体2内の目標温度との偏差ΔTがゼロに近づくように出力値MVを設定する。なお、目標温度は、図示しない操作部が操作されること等によって設定され、制御部6が参照する。例えば、抵抗加熱ヒータ3の劣化によって抵抗加熱ヒータ3の抵抗値Rが高くなると、抵抗加熱ヒータ3に流れる電流値Iが減少して消費電力Pが低下してしまい、抵抗加熱ヒータ3の電熱線3aの温度が低下し、温度センサ9の計測温度が低下する。このような場合、制御部6は、出力値MVを高くすることで、電源回路5から抵抗加熱ヒータ3へ供給される電流値I(電力値)を上昇させ、上記の偏差ΔTがゼロに近づくようにする。
【0042】
電力計4は、抵抗加熱ヒータ3の通電時における消費電力Pを実測する。電力計4は、電源回路5、および、抵抗加熱ヒータ3の電熱線3aに接続されている。電力計4は、例えば、電圧計と電流計とを有している。なお、電力計4は、抵抗加熱ヒータ3の消費電力Pを測定できればよく、具体的な構成は限定されない。
【0043】
ヒータ監視装置10は、PLC(Programmable Logic Controller)等を用いて形成されている。なお、ヒータ監視装置10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含むコンピュータを用いて形成されていてもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)を含む構成であってもよいし、シーケンス回路等を用いて形成されていてもよい。
【0044】
ヒータ監視装置10は、抵抗加熱ヒータ3を監視するための監視部11を有している。
【0045】
監視部11は、抵抗加熱ヒータ3の劣化を監視する。抵抗加熱ヒータ3の劣化とは、本実施形態では、抵抗加熱ヒータ3の劣化によって抵抗加熱ヒータ3の抵抗値Rが増加すること、および、抵抗加熱ヒータ3の電熱線3aの少なくとも1つが断線すること、を指している。
【0046】
監視部11は、制御部6、および、電力計4に接続されている。監視部11は、制御部6から、出力値MVを特定する信号を与えられる。また、監視部11は、電力計4から、抵抗加熱ヒータ3の消費電力Pを特定する信号を与えられる。
【0047】
監視部11は、抵抗加熱ヒータ3での消費電力Pと、出力値MVと、の関係から得られる関係値Pmvの時系列変化に基づいて、抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定する。
【0048】
本実施形態では、関係値Pmv=P/MVである。抵抗加熱ヒータ3が劣化していない場合には、消費電力Pと出力値MVとの関係は一定であって不変であり、関係値Pmvの時系列変化はない。一方で、抵抗加熱ヒータ3が劣化して抵抗値Rが上昇した場合には、同じ出力値MVに対しては、抵抗加熱ヒータ3の電流値Iが低下して消費電力Pが低下するため、P/MVが低下する。すなわち、抵抗加熱ヒータ3が劣化すると、関係値Pmvが低下する。熱処理装置1において、同じ温度で運転するためには、抵抗加熱ヒータ3の消費電力Pは同じである必要がある。しかしながら、抵抗加熱ヒータ3が劣化すると、消費電力Pを劣化前の値と同じにするためには、出力値MVが変わってしまい、抵抗加熱ヒータ3の劣化時点でのPmvも変わってしまう。すなわち、抵抗加熱ヒータ3が劣化しても、抵抗加熱ヒータ3が初期の能力を維持するためには、抵抗加熱ヒータ3の消費電力P=P0であり続ける必要がある。抵抗加熱ヒータ3が劣化してくると、同じ消費電力P0を発生させるためには、出力値MVを大きくしていく必要がある。
【0049】
上述したように、抵抗加熱ヒータ3は、劣化により抵抗値Rが増加するため、流すことのできる電流値Iは劣化に従い減少する。抵抗加熱ヒータ3の劣化の度合いは、抵抗加熱ヒータ3にフルパワーの電力を印加したときの消費電力Pを測定すればわかる。しかしながら、このような劣化診断法は、被処理物100の熱処理を行っている状態(稼働状態)では出来ない。
【0050】
一方で、熱処理装置1の稼働状態で抵抗加熱ヒータ3の劣化を判断するためには、抵抗加熱ヒータ3がどれだけの消費電力Pとなり得るかを考えればよい。ここで、出力値MVに対して、どれだけの消費電力Pとなるかを指標として、即ちPmv=P/MVを指標として考えることができる。
【0051】
例えば、抵抗加熱ヒータ3の抵抗値Rが1.1倍になると、電流値Iは1/1.1=0.91になるため、消費電力Pも0.91倍になる。例えば、本実施形態のように、初期出力値MV0=70%(0.7)であれば、抵抗値Rが1/0.7=1.4倍以上になると、この抵抗加熱ヒータ3は、初期の消費電力P0を発生できなくなる。
【0052】
このように、監視部11は、抵抗加熱ヒータ3の劣化に連動する指標として関係値Pmvの時系列変化を捉えることで、抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定する。
【0053】
なお、関係値Pmvは、消費電力Pと出力値MVとの関係から得られる値であればよく、P/MVに限定されない。関係値Pmvは、抵抗加熱ヒータ3の劣化による抵抗値Rの増大に伴って変化する値であればよい。
【0054】
監視部11は、記憶部12と、関係値算出部13と、関係値単位化部14と、分析部15と、判定部16と、を有している。
【0055】
記憶部12は、揮発性メモリまたは不揮発性メモリを用いて構成されており、関係値Pmvと、この関係値Pmvの消費電力Pおよび出力値MVが生じていたときの日時等を記憶している。
【0056】
関係値算出部13は、関係値Pmvを算出する。関係値算出部13は、最小単位時間、例えば、1分毎の消費電力Pおよび出力値MVから関係値Pmvを算出する。
【0057】
関係値単位化部14は、最小単位時間毎の関係値Pmvを一定の基準時間毎の関係値Pmvとして単位化する。関係値単位化部14は、例えば、1日(24時間)を基準時間として、関係値Pmvを単位化する。具体的には、監視部11において、単位時間毎の関係値Pmvを関係値算出部13で算出し、関係値単位化部14では、複数の単位時間(複数の1分の集合である1日)における関係値Pmvの平均値を平均関係値Pmv_aとして算出する。監視部11では、関係値として平均関係値Pmv_aを用いる。
【0058】
図2(A)および
図2(B)は、平均関係値Pmv_aを示すグラフの一例である。
図2(A)および
図2(B)の平均関係値Pmv_aは、同じである。
図2(A)では、平均関係値Pmv_aを太線で示しており、
図2(B)では、平均関係値Pmv_aを細線で示すとともに、平均関係値Pmv_aを分析部15で処理して得られる関数y1のグラフを太線で示している。
図2(A)および
図2(B)において、横軸は時間x(本実施形態では、1日を単位とする時間)であり、縦軸は、平均関係値Pmv_aである。本実施形態では、抵抗加熱ヒータ3が、経年劣化、特に、抵抗加熱ヒータ3への通電のオンとオフを繰り返されることで、抵抗加熱ヒータ3の電熱線3aが劣化した場合を示している。
図2(A)および
図2(B)では、時間の経過に伴って、平均関係値Pmv_aが緩やかに低下している傾向が示されている。
【0059】
図1、
図2(A)および
図2(B)を参照して、分析部15は、平均関係値Pmv_aの経時変化を示す関数y1=ax+bを算出する。より具体的には、分析部15は、平均関係値Pmv_aの経時変化から、平均関係値Pmv_aの関数y1の傾きaおよび切片bを算出する。
【0060】
分析部15は、例えば、回帰分析によって、平均関係値Pmv_aの傾きを算出する。グラフyでは、初期消費電力P0と初期出力値MV0とから、切片bは、Pmv0=P0/MV0となる。分析部15は、平均関係値Pmv_aの関数y1の傾きaを、回帰分析以外の方法、例えば、カルマンフィルタを用いたグラフの傾き算出や、移動平均線を算出した後にこの移動平均線上の数値を離散化して傾きを算出する等、他の方法で算出してもよい。
【0061】
判定部16は、時間xを横軸とし平均関係値Pmv_aを縦軸としたときに得られる平均関係値Pmv_aの関数y1=ax+bの傾きaに基づいて抵抗加熱ヒータ3の劣化度合を判定(算出)する。
【0062】
図2(A)および
図2(B)では、僅かではあるが、関数y1は、経時変化によって傾いている。例えば、この傾きa=-1.53×10
-5kW/%日である。この場合の劣化度合い(%)は、以下の式(2)で表される。
劣化度合い=(a×日数x)/切片b=ax/Pmv0・・・(2)
上述したように、Pmv0=P0/MV0である。本実施形態では、
図2(A)、
図2(B)に示されているように、Pmv0=0.13(kW/%)である。本実施形態では、傾きaの日数xが1000日でax=-0.0153となる。このとき、劣化度合い=0.0153/0.13=約0.118となり、約12%の劣化している。すなわち、監視部11は、初期から約12%劣化したと判定する。
【0063】
本実施形態では、判定部16は、抵抗加熱ヒータ3が初期消費電力P0を発生できなくなったタイミングを、抵抗加熱ヒータ3の寿命と推測する。次に、抵抗加熱ヒータ3の寿命推測の考え方について説明する。
【0064】
図3は、抵抗加熱ヒータ3の延べの使用時間と、抵抗加熱ヒータ3の抵抗値Rとの関係を示すグラフである。
図3のグラフでは、横軸が抵抗加熱ヒータ3の延べの使用時間であり、縦軸が、抵抗加熱ヒータ3の初期抵抗値R0と、各使用時間における抵抗値Rとの比である抵抗比R/R0を示している。
【0065】
図1~
図3を参照して、抵抗加熱ヒータ3を使用すると、前述したように、電熱線3aの表面に酸化皮膜が形成される。そして、この酸化皮膜が剥離するという現象が繰り返されて電熱線3aの断面積が減少することや、電熱線3aの組織の劣化によって、抵抗値Rが初期抵抗値R0から上昇する。
【0066】
本実施形態では、ある使用時間t1になると、抵抗値Rがしきい抵抗値R1に到達する。ここで、上述したように、例えば、抵抗加熱ヒータ3の抵抗値Rが1.1倍になると、電流値Iは1/1.1=0.91になるため、消費電力Pも0.91倍になる。本実施形態では、出力値MVの初期値MV0=70%、すなわち、(MV0/100)=0.7である。このため、抵抗値Rが初期の抵抗値R0に対して1/0.7=1.4倍になると、この抵抗加熱ヒータ3は、初期の消費電力P0を発生できなくなる。このときの抵抗値Rが、しきい抵抗値R1である。すなわち、R1/R0となって以降、この抵抗加熱ヒータ3は、初期消費電力P0を発生できなくなり、断線してはいないが、寿命であると判定される。従来の抵抗加熱ヒータの寿命判定は、断線が生じたときを基準としていた。しかしながら、本実施形態では、断線に限らず、初期消費電力P0を発生できなくなったときを基準として抵抗加熱ヒータ3の寿命を判定できる。より一般化すると、抵抗値Rが抵抗値R0に対して{1/(MV0/100)}倍になると、この抵抗加熱ヒータ3は、初期の消費電力P0を発生できなくなる。なお、抵抗値Rがしきい抵抗値R1より大きい第2しきい抵抗値R2となり、抵抗比R2/R0を超えたタイミングt2以降では、電熱線3aの断面積減少や組織劣化によって、抵抗加熱ヒータ3に断線が生じる可能性が生じる。
【0067】
上記
図3のグラフにおける初期抵抗値R0、および、しきい抵抗値R1は、抵抗加熱ヒータ3固有の値であり、抵抗加熱ヒータ3の型番等の性質毎に異なる。記憶部12は、例えば、抵抗値R=R1であるときの抵抗加熱ヒータ3の劣化度合い(%)を記憶している。なお、記憶部12は、抵抗値R=R2であるときの抵抗加熱ヒータ3の劣化度合い(%)を記憶していてもよい。
【0068】
判定部16は、記憶部12を参照しつつ、しきい抵抗値R1のときの劣化度合いを、上記劣化度合い算出式(2)から算出する。そして、このタイミングを、抵抗加熱ヒータ3の寿命であると推測する。なお、判定部16は、第2しきい抵抗値R2のときの劣化度合いとなるタイミングを、上記劣化度合い算出式(2)から算出し、このタイミング以降から抵抗加熱ヒータ3が断線し易いと推測してもよい。これらの推測結果は、熱処理装置1の表示部7に表示される。
【0069】
表示部7は、例えば、液晶モニタ等であり、ヒータ監視装置10から供給された情報を例えば画像として表示する。
【0070】
次に、監視部11による、抵抗加熱ヒータの断線検出について説明する。
【0071】
図4(A)および
図4(B)は、平均関係値Pmv_aを示す関数y1の別の一例である。
図4(A)および
図4(B)の平均関係値Pmv_aは、同じである。
図4(A)では、平均関係値Pmv_aを太線で示しており、
図4(B)では、平均関係値Pmv_aを細線で示すとともに、平均関係値Pmv_aを分析部15で処理して得られる関数y1のグラフを太線で示している。
図4(A)および
図4(B)のグラフが
図2(A)および
図2(B)のグラフと異なっている点は、複数の電熱線3aのうちの1つが断線した状態を示している。
【0072】
図1、
図4(A)および
図4(B)を参照して、平均関係値Pmv_aは、ある時期x1を境に、ステップ的に(急峻に)低下している。これは、電熱線3aの断線によって、関係値Pmvおよび平均関係値Pmv_aが急激に低下したことを示している。このように、判定部16は、平均関係値Pmv_aの時系列における変化率が所定のしきい値th1を超えた場合に、抵抗加熱ヒータ3が断線したと判定する。このしきい値th1は、少なくとも1本の電熱線3aが断線したときの平均関係値Pmv_aの変化率以上であればよい。
【0073】
次に、ヒータ監視装置10における抵抗加熱ヒータ3の監視動作の一例を説明する。
【0074】
図5は、ヒータ監視装置10における抵抗加熱ヒータ3の監視動作の一例を説明するためのフローチャートである。以下では、フローチャートを参照して説明する時は、
図5以外の図面も適宜参照しながら説明する。また、本実施形態では、監視部11(ヒータ監視装置10)を動作させることによって、ヒータ監視方法が実施される。よって、本実施形態におけるヒータ監視方法の説明は、以下のヒータ監視装置10の動作説明に代える。
【0075】
図5を参照して、監視部11の関係値算出部13および関係値単位化部14は、関係値Pmv、および、平均関係値Pmv_aを算出する(ステップS11)。具体的には、関係値算出部13は、最小単位時間(例えば、1分)毎の関係値Pmvを算出する。そして、関係値単位化部14は、1日分の関係値Pmvの平均値を、平均関係値Pmv_aとして算出する。瞬時の関係値Pmvは、分母の出力値MVが0の場合演算できず、0でなくても0に近い値の場合、大きな誤差を生ずる。このため、平均関係を算出する時間での平均消費電力P’および平均出力値MV’を用いて平均関係値Pmv_a=P’/MV’を算出してもよいし、上記時間での消費電力Pの総和ΣPおよび出力値MVの総和ΣMVを用いて平均関係値Pmv_a=ΣP/ΣMVを算出してもよい。
【0076】
次に、分析部15は、平均関係値Pmv_aの経時変化を示す関数y1=ax+bを算出する(ステップS12)。
【0077】
次に、判定部16は、平均関係値Pmv_aの時系列変化に基づいて、抵抗加熱ヒータ3の現在の劣化度合いを判定する(ステップS13)。本実施形態では、判定部16は、関数y1の傾きaを含む劣化度合い算出式(2)を用いて、抵抗加熱ヒータ3の劣化度合い(%)を算出する。
【0078】
次に、判定部16は、抵抗加熱ヒータ3の将来における劣化度合いを推測する(ステップS14)。具体的には、判定部16は、劣化度合い算出式(2)と将来の日数xから、抵抗加熱ヒータ3の劣化度合いを推測する。このとき、判定部16は、一定期間毎の劣化度合いを算出してもよいし、一定の劣化度合い毎(例えば、劣化が10%進行する毎)の時間xを算出してもよい。また、判定部16は、記憶部12を参照しつつ、しきい抵抗値R1のときの劣化度合いを上記式(2)から算出し、算出されたタイミング(日数)を、抵抗加熱ヒータ3が初期性能を発揮できなくなったタイミングと推定する。
【0079】
判定部16は、ステップS13で算出した、現時点での抵抗加熱ヒータ3の劣化度合いと、ステップS14で推測した、将来の抵抗加熱ヒータ3の劣化度合い、および、抵抗加熱ヒータ3が寿命となるタイミングを、表示部7に表示する(ステップS15)。表示部7では、例えば、「現在の劣化度合いは○○%です。○○日先には、抵抗加熱ヒータが××%の劣化と推測されます」といった表示や、「○○日先には、抵抗加熱ヒータが寿命を迎えると推測されます」といった表示がなされる。なお、判定部16は、劣化度合いが一定の値を超えたときに、抵抗加熱ヒータ3が劣化した旨を表示部7に表示させてもよい。
【0080】
次に、判定部16は、抵抗加熱ヒータ3の電熱線3aにおける断線の有無を判定する(ステップS16)。判定部16は、平均関係値Pmv_aの時系列における変化率が所定のしきい値th1を超えた場合、例えば、傾きaが所定値を超えた場合に、抵抗加熱ヒータ3が断線したと判定し(ステップS16でYES)、断線した旨の通知を表示部7に表示させる(ステップS17)。一方、判定部16は、平均関係値Pmv_aの時系列における変化率が所定のしきい値th1未満である場合、例えば、傾きaが上記所定値未満である場合には、抵抗加熱ヒータ3は断線していないと判定する(ステップS16でNO)。
【0081】
以上説明したように、本実施形態によると、監視部11は、抵抗加熱ヒータ3での消費電力Pと、出力値MVと、の関係から得られる関係値Pmvの時系列変化に基づいて、抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定する。この構成によると、監視部11は、関係値Pmv=P/MVから、抵抗加熱ヒータ3の抵抗値Rと等価な値を得ることができる。そして、抵抗加熱ヒータ3が劣化すると、抵抗加熱ヒータ3における抵抗値Rが増加する。よって、監視部11は、関係値Pmvの時系列変化を通じて、抵抗加熱ヒータ3の抵抗値Rの増加の有無、すなわち、抵抗加熱ヒータ3の劣化の有無を監視できる。しかも、監視部11は、抵抗加熱ヒータ3の劣化によって直接の影響をうける抵抗値Rと等価な値に基づいて抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定できる。よって、監視部11は、抵抗加熱ヒータ3の劣化をより正確に判定できる。また、ヒータ監視装置10において、抵抗加熱ヒータ3の通電中の抵抗値Rを直接測定するための構成が不要であるので、抵抗加熱ヒータ3の劣化を簡易な構成で検出できる。
【0082】
また、監視部11は、消費電力Pと出力値MVという、汎用性の高い指標を用いるので、抵抗加熱ヒータ3の制御に用いる機器の構成の影響を受けにくく、しかも、特殊な計測機器を用いずに抵抗加熱ヒータ3を監視できる。
【0083】
また、本実施形態によると、関係値Pmv=P/MVである。この構成によると、監視部11は、抵抗加熱ヒータ3の通電中の抵抗値Rの変化、すなわち、抵抗加熱ヒータ3の劣化の度合いを、簡易な演算で検出することができる。
【0084】
また、本実施形態によると、監視部11は、時間xを横軸とし関係値Pmvを縦軸としたときに得られる関係値Pmvの関数y1の傾きaに基づいて抵抗加熱ヒータ3の劣化度合を判定する。この構成によると、監視部11は、抵抗加熱ヒータ3の現在の劣化度合いを検出でき、また、抵抗加熱ヒータ3の将来の劣化度合を推測できる。
【0085】
また、本実施形態によると、監視部11は、複数の単位時間における関係値Pmvの平均値を平均関係値Pmv_aとして算出し、関数y1における関係値Pmvとして平均関係値Pmv_aを用いている。ここで、大抵のパワーデバイスで制御されるヒータは、消費電力と出力値とが比例関係にある。このため、抵抗加熱ヒータ3の劣化の影響が出ない程度のある短期間(例えば、1日)であれば、定常運転時の抵抗加熱ヒータ3における関係値Pmvは、理論上は一定の値を示す。しかしながら、抵抗加熱ヒータ3の定常運転時であっても、出力値MVは一定であるとは限らず、抵抗加熱ヒータ3に応答性を求めるような制御であれば、出力値MVが大きく変動する場合もある。極端な場合には、出力値MVは、0%と100%をオン-オフ制御のように繰り返されていることがある。また、消費電力Pは、実効値を測定される必要があり、瞬時値である出力値MVと実効値である消費電力Pの検出タイミングの差の関係で、ある瞬間に見た場合、関係値Pmvにぶれがあることは、よくある。さらに、消費電力Pおよび出力値MVについての高出力部、低出力部でのリニアリティーのずれがある。このため、ある短い一定期間であっても、瞬時、瞬時で対応する測定データが必ずしも比例関係にあるとはいえず、関係値Pmvに大きな変動が生じることがある。このような関係は、
図6に示されている。
図6は、抵抗加熱ヒータ3の制御のリニアリティの一例を説明するための図である。
図6では、横軸が出力値MVであり、縦軸が消費電力Pである。
図6では、出力値MVと消費電力Pとの関係が多数の時点で計測された状態を示している。
図6から明らかなように、瞬時値における出力値MVと消費電力Pとが必ずしも比例関係にあるとは限らないが、統計的分布としては明らかな線形性を示している。一方で抵抗加熱ヒータ3の劣化は長期的なスパンで観察すればよい。
【0086】
上記の現象を踏まえて、監視部11は、抵抗加熱ヒータ3の劣化診断を、有る一定以上の長期的なスパンでの消費電力Pと出力値MVの観察結果(関係値Pmvの経時変化)に基づいて行うことができる。この構成であれば、関係値Pmvから求められる、抵抗加熱ヒータ3における瞬間的な抵抗値Rの計算値が正確である必要はなく、監視部11は、複数の単位時間における関係値Pmvの平均関係値Pmv_aの推移を監視することで、抵抗加熱ヒータ3の劣化度合いをより正確に判定できる。熱処理装置1においては、抵抗加熱ヒータ3等の温度調整系統では応答の高速性が要求されることは一般に少ない。よって、例えば単位時間が1分であったとしても、すなわち、関係値Pmvのサンプリング周期が1分であったとしても、1日では1440点のサンプリングデータを得ることができる。そして、この多数のサンプリングデータをある一定の期間毎(例えば、1日毎)に平均化すれば、上述した関係値Pmvのぶれを平滑化できる。
【0087】
また、本実施形態によると、抵抗加熱ヒータ3が断線すると、関係値Pmvが急峻に変化する。監視部11は、この変化を捉えることで、抵抗加熱ヒータ3の断線を検出できる。しかも、抵抗加熱ヒータ3の断線を検出するための断線検知器等、断線検出専用の構成が不要であるので、ヒータ監視装置10の構成が複雑にならずに済む。
【0088】
なお、以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。以下では、上述の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の実施形態と同様の構成には図に同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0089】
<変形例>
(1)上述の実施形態では、監視部11は、関係値Pmvの時系列変化として、関係値Pmv=P/MVの時系列変化(関数y1)を用いて抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定していた。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、監視部11は、関係値の時系列変化としての、消費電力P(負荷状態)を一定にした状態における出力値MVの時系列変化に基づいて、抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定してもよい。
【0090】
図7は、実施形態の変形例における、熱処理装置1の動作パターンについて説明するためのグラフである。
図7では、1日の一部における熱処理装置1の動作パターンを示しており、横軸は、時刻であり、左側の縦軸は、筐体2内の温度であり、右側の縦軸は、抵抗加熱ヒータ3の出力値MVを示している。
【0091】
図8(A)および
図8(B)は、関係値としての平均出力値MV_aを示すグラフの一例である。
図8(A)および
図8(B)の平均出力値MV_aは、同じである。
図8(A)では、平均出力値MV_aを太線で示しており、
図8(B)では、平均関係値MV_aを細線で示すとともに、平均出力値MV_aを分析部15で処理して得られる関数y1Aのグラフを太線で示している。
図8(A)および
図8(B)では、長期間における熱処理装置1の動作パターンの一例を示しており、横軸は、抵抗加熱ヒータ3の時間x(本変形例では、1日を単位とする時間)であり、縦軸は、平均出力値MV_aである。
【0092】
図7に示す動作パターンは、約2時間の間スタンバイ状態として抵抗加熱ヒータ3を約910℃にし、次いで、約1時間の間、抵抗加熱ヒータ3をスタンバイ状態の温度よりも高い温度にして被処理物100を熱処理するパターンである。本変形例では、1日において、約2時間のスタンバイ状態と約1時間の熱処理状態とが繰り返されるパターンを例示している。
図8(A)および
図8(B)は、
図7に示すパターンが繰り返されたときのグラフである。この動作パターンでは、スタンバイ状態は、被処理物100が筐体2内に存在しないので、同じ熱負荷状態であるから、この状態の消費電力Pは、一定であるはずである。それにもかかわらず、出力値MVが変化しているなら、同じ消費電力Pを発生させるために、より大きな出力値MV(負荷率)が必要となり、抵抗加熱ヒータ3が劣化していることがわかる。
【0093】
図1、
図7、
図8(A)、および、
図8(B)を参照して、本変形例では、監視部11は、スタンバイ状態での出力値MVから、抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定する。本実施形態では、監視部11は、抵抗加熱ヒータ3での消費電力Pと、出力値MVと、の関係から得られる関係値PmvAの時系列変化に基づいて、抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定する。
【0094】
本変形例では、関係値PmvAは、一定の消費電力P0と、出力値MVと、の関係から得られる。すなわち、関係値PmvAは、一定の消費電力P0に対する出力値MVの関係を示しており、出力値MV自体である(PmvA=MV)。スタンバイ状態では、抵抗加熱ヒータ3の温度は一定(本変形例では、約913℃)とされるので、抵抗加熱ヒータ3の消費電力Pは一定の値P0である。一方、出力値MVは、抵抗加熱ヒータ3の消費電力Pが一定であっても、抵抗加熱ヒータ3の劣化に伴い、上昇する。すなわち、抵抗加熱ヒータ3が劣化すると、消費電力P=I2Rのうちの電流値Iが低下するので、電流値Iを上げるために、関係値PmvA(=出力値MV)が上昇する。よって、出力値MVの時系列変化に基づいて、監視部11は、抵抗加熱ヒータ3の劣化の有無を判定することができる。
【0095】
なお、抵抗加熱ヒータ3が劣化していない場合には、消費電力P0と出力値MVとの関係は一定であり、出力値MV(=関係値PmvA)の時系列変化はない。このように、監視部11は、抵抗加熱ヒータ3の劣化に連動する指標として出力値MVの時系列変化を捉えることで、抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定する。
【0096】
記憶部12は、スタンバイ状態における抵抗加熱ヒータ3の初期消費電力P0と、この初期消費電力P0に対する出力値MVと、日時と、を記憶している。
【0097】
関係値算出部13は、最小単位時間、例えば、1分毎の出力値MVを参照する。
【0098】
関係値単位化部14は、最小単位時間毎の出力値MVの複数を一定の基準時間毎の出力値MVとして単位化する。関係値単位化部14は、例えば、1日(24時間)を基準時間として、出力値MVを単位化する。具体的には、関係値単位化部14は、1日毎に、出力値MVの平均値を、平均出力値MV_aとして算出する。
【0099】
図8(A)および
図8(B)では、時間の経過に伴って抵抗加熱ヒータ3が劣化し、平均出力値MV_aが緩やかに上昇している傾向が示されている。
【0100】
分析部15は、平均出力値MV_aの経時変化を示す関数y1A=cx+dを算出する。より具体的には、分析部15は、平均出力値MV_aの経時変化から、平均出力値MV_aの関数y1Aの傾きcおよび切片dを算出する。
【0101】
分析部15は、例えば、回帰分析によって、平均出力値MV_aの傾きcを算出する。グラフy1Aでは、出力値MVの初期値MV0が切片dとなる。なお、分析部15は、平均出力値MV_aの関数y1Aの傾きcを、回帰分析以外の方法、例えば、カルマンフィルタを用いた傾き算出や、移動平均線を算出した後にこの移動平均線上の数値を離散化して傾きを算出する等、他の方法で算出してもよい。
【0102】
判定部16は、時間xを横軸とし平均出力値MV_aを縦軸としたときに得られる平均出力値MV_aの関数y1Aの傾きcに基づいて抵抗加熱ヒータ3の劣化度合を判定する。
【0103】
図8では、グラフy1Aの一例を示している。このグラフy1Aでは、僅かではあるが、経時変化によって傾いている。例えば、この傾きc=0.62%/年である。この場合の劣化度合い(%)は、以下の式(3)で表される。
劣化度合い=(c×日数x)/切片d=cd/MV0・・・(3)
本変形例では、
図7(A)、
図7(B)に示されているように、切片d=MV0=約31.5%である。
本変形例では、傾きcの日数xが365日(1年)でcx=0.62%となる。このとき、劣化度合い=0.62%/31.5%=0.0197=約2%であり、判定部16は、初期から約2%劣化したと判定することができる。
【0104】
本変形例においても、抵抗加熱ヒータ3が断線した瞬間、出力値MV(関係値PmvA)が急峻に上昇する(グラフでの図示は省略)。よって、判定部16は、平均出力値MV_aの時系列における変化率が所定のしきい値th1Aを超えた場合(傾きcが所定値を超えた場合)に、抵抗加熱ヒータ3が断線したと判定する。このしきい値th1Aは、少なくとも1本の電熱線3aが断線したときの平均出力値MV_aの変化率以上であればよい。
【0105】
次に、変形例におけるヒータ監視装置10における抵抗加熱ヒータ3の監視動作の一例を説明する。
図9は、変形例でのヒータ監視装置10における抵抗加熱ヒータ3の監視動作の一例を説明するためのフローチャートである。本変形例では、監視部11(ヒータ監視装置10)を動作させることによって、ヒータ監視方法が実施される。よって、本変形例におけるヒータ監視方法の説明は、以下のヒータ監視装置10の動作説明に代える。
【0106】
図9を参照して、監視部11の関係値単位化部14は、平均出力値MV_aを算出する(ステップS21)。具体的には、関係値単位化部14は、最小単位時間(例えば、1分)毎の出力値MVを参照し、1日分の出力値MVの平均値を、平均出力値MV_aとして算出する。このように、関係値単位化部14は、単位時間毎の出力値MVについて、複数の単位時間(1分を単位時間とする複数の単位時間としての1日)における出力値MVの平均値を、平均出力値MV_aとして算出し、出力値MVの関数y1Aにおける関係値として平均出力値MV_aを用いる。
【0107】
次に、分析部15は、平均出力値MV_aの経時変化を示す関数y1A=cx+dを算出する(ステップS22)。関数y1Aの作成方法は、関数y1の作成方法と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0108】
次に、判定部16は、平均出力値MV_aの時系列変化に基づいて、抵抗加熱ヒータ3の現時点での劣化度合いを判定する(ステップS23)。例えば、判定部16は、関数y1Aの傾きcを含む劣化度合い算出式(3)を用いて、抵抗加熱ヒータ3の劣化度合い(%)を算出する。
【0109】
次に、判定部16は、抵抗加熱ヒータ3の将来における劣化度合いを推測する(ステップS24)。具体的には、判定部16は、劣化度合い推測式(3)と将来の日数xから、抵抗加熱ヒータ3の劣化度合いを推測する。このとき、判定部16は、一定期間毎の劣化度合いを算出してもよいし、一定の劣化度合い毎の使用時間xを算出してもよい。
【0110】
判定部16は、ステップS23で算出した、現時点での抵抗加熱ヒータ3の劣化度合いと、ステップS24で推測した、将来の抵抗加熱ヒータ3の劣化度合いとを、表示部7に表示する(ステップS25)。表示部7では、例えば、「現在の劣化度合いは○○%です。○○日先には、××%の劣化と推測されます」といった表示がなされる。なお、判定部16は、劣化度合いが一定の値を超えたときに、抵抗加熱ヒータ3が劣化した旨を表示部7に表示させてもよい。
【0111】
次に、判定部16は、抵抗加熱ヒータ3の電熱線3aにおける断線の有無を判定する(ステップS26)。判定部16は、平均出力値MV_aの時系列における変化率、すなわち、傾きcが所定のしきい値を超えた場合に、抵抗加熱ヒータ3が断線したと判定し(ステップS26でYES)、断線通知を表示部7に表示させる(ステップS27)。一方、判定部16は、平均出力値MV_aの時系列における変化率が所定のしきい値未満である場合には、抵抗加熱ヒータ3は断線していないと判定する(ステップS26でNO)。
【0112】
以上説明したように、この変形例によると、監視部11は、関係値Pmvの時系列変化としての、消費電力Pを一定値P0にしたスタンバイ状態における出力値MVの時系列変化に基づいて、抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定する。この構成によると、熱処理装置1において、被処理物100の熱処理と熱処理との間におけるスタンバイ状態での熱負荷が同等である場合、被処理物100の熱処理時の負荷状態が種々に変化していても、このスタンバイ状態での出力値MVの時系列変化を用いて、抵抗加熱ヒータ3の劣化を監視部11で判定できる。
【0113】
<他の変形例>
(2)また、上述の実施形態および変形例では、抵抗加熱ヒータ3の劣化判定に用いられる関数y1,y1Aが一次関数である形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。関数y1,y1Aに関して、分析部15は、平均関係値Pmv_aおよび平均出力値MV_aの算出を、例えば、1ヶ月毎、または、1週間毎に離散的に行い、平均関係値Pmv_aおよび平均出力値MV_a(平均関係値)のそれぞれの離散値から、関数y1,y1Aのそれぞれの傾きを算出してもよい。この場合、抵抗加熱ヒータ3の電熱線3aの劣化に伴い関数y1,y1Aの傾きa,cが小さくなることから、この傾きcの変化を用いて抵抗加熱ヒータ3の定量的な劣化評価を行ってもよい。このような判定方法であれば、抵抗加熱ヒータ3が初期性能を発揮できなくなるのが何時になるかという推測が可能である。
【0114】
(3)また、上述の実施形態および変形例では、抵抗加熱ヒータ3の劣化を判定するための関数y1,y1Aについて、平均関係値Pmv_aおよび平均出力値MV_aが用いられる形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。実施形態における関係値Pmv、および、変形例における関係値としての出力値MVについて、一定期間の平均値を用いずに、関係値Pmv(=P/MV)、関係値PmvA(=Pが一定のときのMV)を直接用いて関数y1,y1Aを算出してもよい。
【0115】
(4)また、上述の実施形態および変形例では、電力計4を用いて抵抗加熱ヒータ3の消費電力Pを計測した。しかしながら、この通りでなくてもよい。抵抗加熱ヒータ3の消費電力を間接的に推定できるような回路構成によって抵抗加熱ヒータ3の消費電力Pが推定されてもよい。
【0116】
(5)また、上述の実施形態における抵抗加熱ヒータ3の劣化判定と、変形例における抵抗加熱ヒータ3の劣化判定と、が監視部11において選択可能に構成されてもよいし、併用可能に構成されてもよい。
【0117】
[プログラム]
本実施形態におけるプログラムは、コンピュータに、
図5,
図9に示すステップS11~S17、および、ステップS21~S27の少なくとも一方を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施形態におけるヒータ監視装置10(監視部11)とヒータ監視方法とを実現することができる。この場合、コンピュータのプロセッサは、関係値算出部13、関係値単位化部14、分析部15、および、判定部16として機能し、処理を行なう。
【0118】
[物理構成]
ここで、実施形態または変形例におけるプログラムを実行することによって、劣化診断装置を実現するコンピュータについて
図10を用いて説明する。
図10は、本発明の実施形態または変形例におけるヒータ監視装置を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【0119】
図10に示すように、コンピュータ110は、CPU111と、メインメモリ112と、記憶装置113と、入力インターフェイス114と、表示コントローラ115と、データリーダ/ライタ116と、通信インターフェイス117とを備える。これらの各部は、バス121を介して、互いにデータ通信可能に接続される。なお、コンピュータ110は、CPU111に加えて、または、CPU111に代えて、GPU(Graphics Processing Unit)、または、FPGA(Field-Programmable Gate Array)を備えていてもよい。
【0120】
CPU111は、記憶装置113に格納された、実施形態または変形例におけるプログラム(コード)をメインメモリ112に展開し、これらを所定順序で実行することにより、各種の演算を実施する。メインメモリ112は、典型的には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性の記憶装置である。また、実施形態または変形例におけるプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体120に格納された状態で提供される。なお、上記プログラムは、通信インターフェイス117を介して接続されたインターネット上で流通していてもよい。
【0121】
また、記憶装置113の具体例としては、ハードディスクドライブ、SSD(Solid State Drive)の他、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置があげられる。入力インターフェイス114は、CPU111と、キーボードおよびマウスといった入力機器118との間のデータ伝送を仲介する。表示コントローラ115は、ディスプレイ装置119と接続され、ディスプレイ装置119での表示を制御する。
【0122】
データリーダ/ライタ116は、CPU111と記録媒体120との間のデータ伝送を仲介し、記録媒体120からのプログラムの読み出し、およびコンピュータ110における処理結果の記録媒体120への書き込みを実行する。通信インターフェイス117は、CPU111と、他のコンピュータとの間のデータ伝送を仲介する。
【0123】
また、記録媒体120の具体例としては、CF(Compact Flash(登録商標))およびSD(Secure Digital)などの汎用的な半導体記憶デバイス、フレキシブルディスク(Flexible Disk)などの磁気記録媒体、またはCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)などの光学記録媒体があげられる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、ヒータ監視装置、熱処理装置、ヒータ監視方法、および、プログラムとして適用することができる。
【符号の説明】
【0125】
1 熱処理装置
3 抵抗加熱ヒータ
10 ヒータ監視装置
11 監視部
100 被処理物
a,c 傾き
MV 出力値
P 抵抗加熱ヒータの消費電力
Pt0 抵抗加熱ヒータの消費電力の初期設定値
Pmax 抵抗加熱ヒータの定格出力
Pmv,PmvA 関係値
Pmv_a,MV_a 平均関係値
th1,th1A しきい値