(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066993
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】樹脂シート、多層シート及び容器
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230509BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20230509BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20230509BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20230509BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20230509BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230509BHJP
B65D 1/00 20060101ALN20230509BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08L23/10
C08L23/08
C08L53/00
C08K5/521
B32B27/32 Z
B65D1/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177903
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂泉 広太
(72)【発明者】
【氏名】石黒 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】當銘 勇人
(72)【発明者】
【氏名】中野 康宏
【テーマコード(参考)】
3E033
4F071
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E033AA07
3E033AA10
3E033BA15
3E033BA16
3E033BA30
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4J002EW046
4J002FD206
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4J002GG01
(57)【要約】
【課題】高い剛性と耐衝撃性を備えた容器を製造可能であり、さらに優れた成形性も可能とする樹脂シートを提供する。
【解決手段】 下記(1)~(3)の全てを満たす樹脂シート。
(1)引張弾性率が1950MPa以上2500MPa以下である
(2)融解吸熱量(ΔH)が65J/g以上73J/g以下である
(3)結晶化速度が0.30min-1以上0.80min-1以下である
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)の全てを満たす樹脂シート。
(1)引張弾性率が1950MPa以上2500MPa以下である
(2)融解吸熱量(ΔH)が65J/g以上73J/g以下である
(3)結晶化速度が0.30min-1以上0.80min-1以下である
【請求項2】
メルトフローレート(MFR)が0.8g/10分以下である、請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
ポリプロピレン系樹脂を含み、前記ポリプロピレン系樹脂の含有量が前記樹脂シート全量に対して60質量%以上である、請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂がプロピレンモノマー単位及びエチレンモノマー単位から構成されるブロック共重合体である、請求項3に記載の樹脂シート。
【請求項5】
エチレンモノマー単位の割合が、前記樹脂シート全量に対して2.5~4.5質量%である、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項6】
さらにエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムを含む、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項7】
前記エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムの含有量が前記樹脂シート全量に対して0質量%超、4質量%以下である、請求項6に記載の樹脂シート。
【請求項8】
造核剤を含み、前記造核剤の含有量が前記樹脂シート全量に対して1200質量ppm以上2300質量ppm以下である、請求項1~7のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項9】
前記造核剤がリン酸エステル金属塩である、請求項8に記載の樹脂シート。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の樹脂シートを少なくとも1層含む、2層以上の積層構造である多層シート。
【請求項11】
接着層及びガスバリア層からなる群から選択される1以上の層を含む、請求項10に記載の多層シート。
【請求項12】
最外層の少なくとも一方として前記樹脂シートを含む、請求項10又は11に記載の多層シート。
【請求項13】
請求項1~9のいずれかに記載の樹脂シート又は請求項10~12のいずれかに記載の多層シートからなり、かつ、フランジ部を有する容器。
【請求項14】
食品用容器である請求項13に記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シート、多層シート及び容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等を収容するための樹脂製の容器は、強度面の要請から十分な剛性と耐衝撃性を備えることが求められる。例えば、特許文献1には、そのような要請を考慮した容器を得るための無機系造核剤含有樹脂組成物の開示がある。
しかしながら、容器の剛性と耐衝撃性を高めようとすると、十分な成形性が得られないという課題があった。すなわち、熱延伸性の悪化等により成形時に所望の形状が得られにくくなり、また、見た目が悪くなるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高い剛性と耐衝撃性を備えた容器を製造可能であり、さらに優れた成形性も可能とする樹脂シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述したように、容器の剛性・耐衝撃性と、その成形性とはトレードオフの関係にあり、また、剛性と耐衝撃性も両立の困難な特性であるが、本発明者らが鋭意検討した結果、特定の物性を満足するよう樹脂シートを構成することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
本発明によれば、以下の樹脂シート等が提供される。
1.下記(1)~(3)の全てを満たす樹脂シート。
(1)引張弾性率が1950MPa以上2500MPa以下である
(2)融解吸熱量(ΔH)が65J/g以上73J/g以下である
(3)結晶化速度が0.30min-1以上0.80min-1以下である
2.メルトフローレート(MFR)が0.8g/10分以下である、1に記載の樹脂シート。
3.ポリプロピレン系樹脂を含み、前記ポリプロピレン系樹脂の含有量が前記樹脂シート全量に対して60質量%以上である、1又は2に記載の樹脂シート。
4.前記ポリプロピレン系樹脂がプロピレンモノマー単位及びエチレンモノマー単位から構成されるブロック共重合体である、3に記載の樹脂シート。
5.エチレンモノマー単位の割合が、前記樹脂シート全量に対して2.5~4.5質量%である、1~4のいずれかに記載の樹脂シート。
6.さらにエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムを含む、1~5のいずれかに記載の樹脂シート。
7.前記エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムの含有量が前記樹脂シート全量に対して0質量%超、4質量%以下である、6に記載の樹脂シート。
8.造核剤を含み、前記造核剤の含有量が前記樹脂シート全量に対して1200質量ppm以上2300質量ppm以下である、1~7のいずれかに記載の樹脂シート。
9.前記造核剤がリン酸エステル金属塩である、8に記載の樹脂シート。
10.1~9のいずれかに記載の樹脂シートを少なくとも1層含む、2層以上の積層構造である多層シート。
11.接着層及びガスバリア層からなる群から選択される1以上の層を含む、10に記載の多層シート。
12.最外層の少なくとも一方として前記樹脂シートを含む、10又は11に記載の多層シート。
13.1~9のいずれかに記載の樹脂シート又は10~12のいずれかに記載の多層シートからなり、かつ、フランジ部を有する容器。
14.食品用容器である13に記載の容器。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高い剛性と耐衝撃性を備えた容器を製造可能であり、さらに優れた成形性も可能とする樹脂シートが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一態様に係る容器の一例の上面図(a)及び断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る樹脂シート、多層シート及び容器について説明する。本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。一の技術的事項に関して、「x以上」等の下限値が複数存在する場合、又は「y以下」等の上限値が複数存在する場合、当該上限値及び下限値から任意に選択して組み合わせることができるものとする。
【0009】
1.樹脂シート
本発明の一態様に係る樹脂シートは、下記(1)~(3)の全てを満たす。
(1)引張弾性率が1950MPa以上2500MPa以下である
(2)融解吸熱量(ΔH)が65J/g以上73J/g以下である
(3)結晶化速度が0.30min-1以上0.80min-1以下である
【0010】
本態様に係る樹脂シートによれば、上記(1)~(3)が相乗的に作用することによって、高い剛性と耐衝撃性を備えた容器を製造可能であり、かつ、優れた成形性をも可能とし、特に容器の成形性に優れる。
【0011】
樹脂シートの引張弾性率、融解吸熱量(ΔH)及び結晶化速度は、それぞれ、実施例に記載の方法により測定する。
【0012】
一実施形態において、樹脂シートの引張弾性率は、1975~2400MPa又は2000~2300MPaである。
樹脂シートの引張弾性率が、1950MPa以上、1975MPa以上、さらには2000MPa以上であることにより、樹脂シートを用いて製造される成形体(例えば容器)が過剰に柔らかくなることが防止され、荷重に応じて成形体が変形することが防止される。
樹脂シートの引張弾性率が、2500MPa以下、2400MP以下、さらには2300MPa以下であることにより、樹脂シートを用いて製造される成形体(例えば容器)の剛性を担保しつつ、良好な成形性が実現できる。
【0013】
一実施形態において、樹脂シートの融解吸熱量(ΔH)は、66~72J/g又は67~71J/gである。
樹脂シートの融解吸熱量(ΔH)が、65J/g以上、さらには67J/g以上であることにより、例えば熱板加熱時において、熱板に樹脂シートが貼りつくことが防止され、広い加熱条件を適用できる。
樹脂シートの融解吸熱量(ΔH)が、73J/g以下、72J/g以下、さらには71J/g以下であることにより、成形時の熱延伸性が良好になり、成形体(例えば容器)の外観不良が防止され、容器厚みのバランスも良好になる。
【0014】
一実施形態において、樹脂シートの結晶化速度は、0.35~0.75min-1又は0.40~0.70min-1である。
樹脂シートの結晶化速度が、0.30min-1以上、0.35min-1以上さらには0.40min-1以上であることにより、球晶成長速度が向上し、所望の剛性が得られ易くなる。
樹脂シートの結晶化速度が、0.80min-1以下、0.75min-1以下、さらには0.70min-1以下であることにより、冷却固化までの時間が十分に確保され、局所的な熱延伸ムラが発生することが防止され、成形体(例えば容器)の外観不良が防止されることなどにより、生産効率を向上できる。
【0015】
一実施形態において、樹脂シートのメルトフローレート(MFR)は、0.8g/10分以下、0.7g/10分以下又は0.6g/10分以下である。
これにより、樹脂の流動性が適度に低下し、熱延伸時の追従性が向上する。
樹脂シートのMFRの下限は格別限定されず、0g/10min超であればよく、入手容易性の観点からは、例えば、0.3g/10min以上、0.4g/10min以上又は0.5g/10min以上であってもよい。
樹脂シートのMFRは、実施例に記載の方法により測定する。
【0016】
本態様に係る樹脂シートの組成(樹脂等の構成成分やそれらの含有量)は、上述した(1)~(3)の全てを満たすものであれば特に限定されない。
【0017】
一実施形態において、樹脂シートは、ポリプロピレン系樹脂を含む。
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン系ブロック共重合体、プロピレン単独重合体等が挙げられる。
【0018】
一実施形態において、プロピレン系ブロック共重合体は、プロピレン単独重合体からなるホモ部と、エチレンモノマー単位及びプロピレンモノマー単位から構成される(換言すれば、モノマー単位としてエチレン及びプロピレンを含む)エチレン-プロピレン共重合部とを含む。エチレン-プロピレン共重合部は、例えば、エチレン-プロピレンランダム共重合部であり得る。
【0019】
一実施形態において、エチレンモノマー単位の割合は、樹脂シート全量に対して、2.5~4.5質量%、3.0~4.4質量%、又は3.5~4.3質量%である。
尚、上記「エチレンモノマー単位」には、ポリプロピレン系樹脂に含まれるエチレンモノマー単位だけでなく、樹脂シートに含まれる他の成分に含まれるエチレンモノマー単位も含める。他の成分に含まれるエチレンモノマー単位は、例えば、後述するエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムにおけるエチレンモノマー単位であり得る。
エチレンモノマー単位の割合が2.5質量%以上、3.0質量%以上、又は3.5質量%以上であることにより、成形性が良好であり、適度な剛性も担保される。
エチレンモノマー単位の割合が4.5質量%以下、4.4質量%以下、又は4.3質量%以下であることにより、樹脂シートの適度な剛性が担保される。
【0020】
一実施形態において、プロピレン系ブロック共重合体は、上述したプロピレン単独重合体からなるホモ部と、エチレン-プロピレン共重合部とを含むプロピレン系ブロック共重合体におけるホモ部又はエチレン-プロピレン共重合部がブテン-1等のα-オレフィンを共重合したものに置き換わったもの(結晶性プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体)である。
【0021】
一実施形態において、ポリプロピレン系樹脂全量に対して、プロピレン系ブロック共重合体の含有量は、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上又は実質的に100質量%である。
尚、「実質的に100質量%」の場合、不可避不純物を含んでもよい。
ポリプロピレン系樹脂全量に対するプロピレン系ブロック共重合体の含有量が多いほど、本発明の効果が良好に発揮される。
【0022】
一実施形態において、ポリプロピレン系樹脂全量に対して、プロピレン単独重合体の含有量は、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下又は1質量%以下である。
一実施形態において、樹脂シートは、プロピレン単独重合体を含まない。
ポリプロピレン系樹脂全量に対するプロピレン単独重合体の含有量が少ないこと(又は樹脂シートがプロピレン単独重合体を含まないこと)により、より高い成形性を実現できる。
【0023】
ポリプロピレン系樹脂として、以上に説明したものから選択される一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0024】
一実施形態において、ポリプロピレン系樹脂の含有量は、樹脂シート全量に対して、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、92質量%以上、94質量%以上又は96質量%以上である。上限は特に制限されないが、例えば、100質量%であってもよく、99質量%であってもよく、98質量%以下であってもよい。
【0025】
一実施形態において、樹脂シートは、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムを含む。
一実施形態において、樹脂シートは、上述したポリプロピレン系樹脂と、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムとを含む。
【0026】
エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムとしては、エチレンと、炭素数3~20のα-オレフィン又は該α-オレフィン及びジエン系単量体とをランダム共重合させて得られたものが挙げられる。
【0027】
炭素数3~20のα-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、ノネン-1、デセン-1、ウンデセン-1、ドデセン-1等が挙げられる。好ましくは、炭素数4~12のα-オレフィンである。
【0028】
ジエン系単量体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン化合物、1,4-へキサジエン、1,6-オクタジエン、シクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン等の共役ジエン化合物が挙げられる。
【0029】
このエチレン-α-オレフィン共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレン共重合体ゴム(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム(EPDM)、エチレン-ブテン-1共重合体ゴム(EBR)、エチレン-ヘキセン-1共重合体ゴム、エチレン-オクテン-1共重合体ゴム(EOR)、エチレン-デセン-1共重合体ゴム、エチレン-ドデセン-1共重合体ゴム等を例示することができる。
尚、これらはいずれも熱可塑性エラストマーに属するものである。
【0030】
エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムとして、以上に説明したものから選択される一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0031】
一実施形態において、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴムの含有量は、樹脂シート全量に対して0~4質量%である。
【0032】
一実施形態において、樹脂シートは、造核剤を含む。
一実施形態において、造核剤は有機系造核剤である。
有機系造核剤としては、例えば、ソルビトール系及びノニトール系等のアセタール系核剤;カルボキサミド、トリアミド、ビスアミド等のアミド系核剤;リン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩、フェニルホスホン酸金属塩等の有機金属塩系核剤等が挙げられる。これらの中でも、剛性と成形性の両立という観点から、リン酸エステル金属塩を用いることが好ましい。
【0033】
一実施形態において、樹脂シートは、造核剤として無機系造核剤を含んでもよいし含まなくてもよい。無機系造核剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、カーボンブラック、シリカ、ドロマイト粉、ケイ酸塩、石英粉、珪藻土、アルミナ等が挙げられる。
【0034】
造核剤として、以上に説明したものから選択される一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0035】
造核剤は、樹脂材料と直接ドライブレンドすることもできるが、造核剤の樹脂中への分散性の観点からは、予めポリオレフィン樹脂等の樹脂(例えばポリプロピレン樹脂等)に高濃度に充填したもの(マスターバッチ)を用いてもよい。
【0036】
一実施形態において、造核剤全量に対して、有機系造核剤(例えばリン酸エステル金属塩)の含有量は、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上又は実質的に100質量%である。
尚、「実質的に100質量%」の場合、不可避不純物を含んでもよい。
造核剤全量に対する有機系造核剤(例えばリン酸エステル金属塩)の含有量が多いほど、本発明の効果が良好に発揮される。
【0037】
一実施形態において、造核剤全量に対して、無機系造核剤(例えばタルク)の含有量は、5質量%以下、1質量%以下又は0質量%である。
一実施形態において、樹脂シートは、無機系造核剤(例えばタルク)を含まない。
【0038】
一実施形態において、造核剤の含有量は、樹脂シート全量に対して、1200~2300質量ppm、1350~2150質量ppm又は1500~2000質量ppmである。
造核剤の含有量が、1200質量ppm以上、1350質量ppm以上、さらには1500質量ppm以上であることにより、樹脂シートの剛性が好適に発現し、加工性が向上する。
造核剤の含有量が、2300質量ppm以下、2150質量ppm以下、さらには2000質量ppm以下であることにより、造核剤による結晶化の過剰な促進が防止され(融解吸熱量や結晶化速度が好適化し)、熱延伸性が良好になる結果、成形性が向上する。
【0039】
本態様に係る樹脂シートは、本発明の効果を損なわない範囲で、以上に説明した成分以外の他の成分を含んでもよい。
他の成分として、例えば、熱可塑性樹脂等の樹脂、添加剤、着色剤等が挙げられる。
樹脂として、例えば、上述したポリプロピレン系樹脂以外のポリオレフィン樹脂(例えばポリエチレン系樹脂)、ブタジエン系共重合体・水添ゴムが挙げられる。ポリエチレン系樹脂として、チーグラー・ナッタ系触媒又はメタロセン系触媒等を用いて得られた、低密度ポリエチレン又は高圧法で得られたポリエチレン、エチレン系共重合体等が挙げられる。ブタジエン系共重合体・水添ゴムとして、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)又はその水添物(SEBS)、その他、スチレン-エチレン/ブチレン-オレフィン結晶ブロックポリマー、オレフィン結晶-エチレン/ブチレン-オレフィン結晶ブロックポリマー等が挙げられる。
添加剤として、例えば、酸化防止剤、易滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0040】
一実施形態において、樹脂シートの70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上又は実質的に100質量%が、
ポリプロピレン系樹脂、造核剤、及び任意に上述した他の成分から選択される1種以上であるか、
ポリプロピレン系樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム、造核剤、及び任意に上述した他の成分から選択される1種以上である。
尚、「実質的に100質量%」の場合、不可避不純物を含んでもよい。
【0041】
一実施形態において、樹脂シートの厚さは、600~1000μm、700~900μm又は750~850μmである。
【0042】
本発明の一態様に係る樹脂シートを製造する方法は格別限定されず、従来公知の方法を採用できる。例えば、ポリプロピレン系樹脂を溶融し、これに造核剤等他の原料を加えて混錬する等の方法により樹脂組成物を調製できる。樹脂シートに関しても、従来公知の方法を採用できる。例えば、樹脂組成物のペレットを溶融混錬し、ダイスを用いて押し出し、冷却ロールで固化させて樹脂シートを得ることができる。
押出法においては、単層の樹脂シート、又は樹脂シートを少なくとも1層含む、2層以上の積層構造である多層シート(「多層シート」については以下に詳述する)を得ることができる。多層シートに関して、より具体的には、例えば、樹脂シートを製造するための樹脂組成物のペレットを溶融混錬すると共に、他の層(例えば他の樹脂層、接着層など)を含めて積層した後、ダイスを用いて押し出し、冷却ロールで固化させて、多層シートを得ることができる。
【0043】
2.多層シート
本発明の一態様に係る多層シートは、本発明の一態様に係る樹脂シートを少なくとも1層含む、2層以上の積層構造である。
【0044】
多層シートの構成は、本発明の一態様に係る樹脂シート(以下、「基材層」とも言う)を含んでいれば特に限定されず、2層又は3層以上の積層構造であってもよく、また、例えば、後述する「基材層/基材層」、「基材層/基材層/基材層」、「基材層/バリア層/基材層」、「基材層/接着層/バリア層/接着層/基材層」のように、基材層を複数含んでもよい。基材層を複数含む場合、当該複数の基材層の組成は同一でもよいし、異なってもよい。また、当該複数の基材層の厚さは同一でもよいし、異なってもよい。
【0045】
本発明の一態様に係る多層シートに用いる他の層としては、例えば、バリア層、接着層等が挙げられる。
一実施形態において、多層シートは、接着層及びバリア層からなる群から選択される1以上の層を含む。
【0046】
バリア層(「ガスバリア層」ともいう。)は、酸素バリア性を有する層であり、容器として用いた場合に内容物の酸化劣化を抑制することができる。
バリア層に用いられる材料としては、例えば、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、ポリアクリロニトリル樹脂(PAN)等が挙げられ、これらのうち1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、バリア層はコーティング法により形成することも可能であり、この場合に使用できる材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、アルミ、及び窒化ケイ素等の無機系材料、ポリビニルアルコール(PVA)等の有機系材料、並びにシリカ/PVA等の有機無機ハイブリッド材料等からなる群から選択されるコート材料等が挙げられる。
【0047】
バリア層の厚さは、通常、1μm以上であり、好ましくは5μm以上である。また、通常、150μm以下であり、好ましくは130μm以下である。
本発明の一態様に係る多層シートにおいて、バリア層を複数設けてもよい。バリア層を複数含む場合、当該複数のバリア層の組成は同一でもよいし、異なってもよい。また、当該複数のバリア層の厚さは同一でもよいし、異なってもよい。
【0048】
接着層は、多層シートの各層の密着性を高めるために必要に応じて用いる層であり、例えば、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又はエチレン酢酸ビニル(EVA)などが使用可能であり、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0049】
接着層の厚さは、通常、1μm以上であり、好ましくは3μm以上である。また、通常、20μm以下であり、好ましくは10μm以下である。
本発明の一態様に係る多層シートにおいて、例えば、後述する「基材層/接着層/バリア層/接着層/基材層」のように、接着層を複数設けてもよい。接着層を複数含む場合、当該複数の接着層の組成は同一でもよいし、異なってもよい。また、当該複数の接着層の厚さは同一でもよいし、異なってもよい。
【0050】
本発明の一態様に係る多層シートの積層構造としては、例えば下記に示す構造が挙げられる。
(1)基材層/基材層
(2)基材層/基材層/基材層
(3)基材層/バリア層
(4)基材層/接着層/バリア層
(5)基材層/バリア層/基材層
(6)基材層/接着層/バリア層/接着層/基材層
(「/」は積層界面を示す。)
【0051】
一実施形態において、多層シートは、最外層のうち少なくとも一方として、本発明の一態様に係る樹脂シート(基材層)を含む。
【0052】
一実施形態において、多層シートは、最外層のうち一方として、剥離機能層を含む。剥離機能層は、例えば、上述した積層構造(1)~(6)のそれぞれにおけるいずれかの最外層上にさらに積層されて、最外層を形成し得る。
剥離機能層は、例えば、当該剥離機能層上に例えばヒートシール等により貼着された蓋材(「蓋材」については後に詳述する。)の易剥離性に優れる層であり得る。また、剥離機能層に係る易剥離性は、剥離機能層が凝集剥離を生じることによって実現されてもよく、剥離機能層が複数の層から構成されており層間剥離を生じることによって実現されてもよい。
剥離機能層の材質は格別限定されず、易剥離性に優れる樹脂組成物又は樹脂を適宜選択して用いることができる。剥離機能層は、例えば、プロピレン系樹脂80質量%未満及びプロピレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂20質量%以上の組合せを含む樹脂組成物又は樹脂により構成することができ、また、プロピレン系樹脂により構成することもできる。そして、剥離機能層は、例えば、1以上の層により構成することができる。
上記プロピレン系樹脂については、本発明の一態様に係る樹脂シートについて例示したものが挙げられる。
上記プロピレン系重合体以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン、ブテン-1、3-メチルブテン-1、3-メチルペンテン-1、4-メチルペンテン-1等のα-オレフィン、又はノルボルネン等の環状オレフィンの単独重合体やこれらの共重合体等が挙げられる。代表例としては、高密度、中密度、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン・ノルボルネン共重合体、エチレン・テトラシクロドデセン共重合体、ポリブテン-1、ポリ4-メチルペンテン-1等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0053】
一実施形態において、多層シートの厚さは、好ましくは100μm以上であり、より好ましくは150μm以上であり、さらに好ましくは200μm以上である。また、好ましくは2000μm以下であり、より好ましくは1500μm以下、さらに好ましくは1200μm以下、特に好ましくは1000μm以下である。
【0054】
一実施形態において、多層シート全量に対する樹脂シートの含有量は、80質量%以上又は90質量%以上である。これにより、剛性と成形性を好適に両立できる。上限については特に制限はないが、例えば、99.5質量%以下又は95質量%以下であり得る。
【0055】
本発明の一態様に係る多層シートの製造方法は特に限定されず、上述した樹脂シートと他の層を同時押出により形成してもよいし、例えば、樹脂シート(基材層)上にコーティング法によりバリア層等を形成してもよい。
【0056】
3.容器
本発明の一態様に係る容器は、本発明の一態様に係る樹脂シート又は本発明の一態様に係る多層シートにより構成され、かつ、フランジ部を有する。
図1に例示するように、容器1は、容器1における収容部2を取り囲むようにフランジ部3を有することができる。フランジ部3の上面には、図示しない蓋材を貼着することができ、これにより収容部2に封入された任意の内容物を密閉することができる。尚、容器の形状は
図1の例に限定されない。容器の収容部の形状としては、円形、角形、楕円形の他、各種形状とすることができる。
【0057】
本発明の一態様に係る容器を製造する方法は格別限定されない。例えば、本発明の一態様に係る樹脂シート又は本発明の一態様に係る多層シートを、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、射出成形等の成形に供する方法が挙げられる。好ましくは、真空成形及び真空圧空成形である。
【0058】
容器のフランジ部に貼着される蓋材の材質は格別限定されず、例えばフィルム(樹脂フィルム)等であり得る。例えば蓋材としてラミネートフィルムを用いることで、ヒートシール等によって、容器のフランジ部に貼着することができる。容器のフランジ部から蓋材を剥離することで、容器を開封し、内容物を容器の外部に取り出すことができる。
【0059】
本態様に係る容器は、食品用途、医療用途等の各種用途に使用できる。
一実施形態において、容器は、内容物として食品を収容するための、食品用容器である。食品は、液体、固体及びそれらの混合物であってもよい。
【0060】
4.その他
本発明の一態様に係る樹脂シート及び本発明の一態様に係る多層シートは、容器の製造に好適に用いられるが、これに限定されない。樹脂シート及び多層シートは、成形加工品全般の製造にも好適に用いられる。成形加工品として、具体的には、タンク、パレット、植木鉢等が挙げられる。また、樹脂シート及び多層シートは、加飾シートとして、任意の成形体を被覆する用途にも好適に用いられる。
【実施例0061】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例により限定されない。
【0062】
実施例及び比較例で用いた材料は以下の通りである。
<プロピレン系樹脂>
B-PP1:プロピレン-エチレンブロック共重合体(市販品、エチレンモノマー単位の含有量:3.9質量%、MFR:0.5g/10分)
B-PP2:プロピレン-エチレンブロック共重合体(市販品、エチレンモノマー単位の含有量:3.9質量%、MFR:0.9g/10分)
B-PP3:プロピレン-エチレンブロック共重合体(市販品、エチレンモノマー単位の含有量:7.2質量%、MFR:0.5g/10分)
<造核剤>
造核剤1:造核剤としてリン酸エステル金属塩(アルミニウム=ビス(4,4’,6,6’-テトラ-tert-ブチル-2,2’-メチレンジフェニル=ホスファート)=ヒドロキシド)を5質量%含有するマスターバッチ(以下「M/B」とも言う)(市販品、担体樹脂:プロピレン(MFR:8g/10分))
【0063】
実施例1
(1)樹脂組成物及び樹脂シートの調製
表1に示す材料を、表1に示す配合量(質量%)で溶融混合し、樹脂組成物(ペレット)を調製した。得られた樹脂組成物を用いて、押出成形機により厚さ800μmの樹脂シートを作製した。
樹脂シート全量におけるエチレンモノマー単位の含有量は、下記の方法で13C-NMR測定することで算出した。
前処理として、シートを裁断後、50mLのサンプル管に500mg秤量し、5mLの1,2,4-トリクロロベンゼンに加え、150℃で4時間撹拌し、抽出した。内容物を高温ろ過し、不溶分を取り除いた。可溶分に重ベンゼン0.25mLを加え、10mm径のNMR試料管に移し、13C-NMRを測定した。測定条件としては、パルスモードをプロトン完全デカップリング法、試料管外径10mm、測定溶媒を1,2,4-トリクロロベンゼン/重ベンゼン混合溶媒、測定温度を130℃とした。得られたエチレンピーク強度から、エチレンモノマー単位の含有量を算出した。
【0064】
(2)樹脂シートの各物性値の測定
得られた樹脂シートについて以下の物性値を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
(2-1)引張弾性率
JIS K 7161に準拠して引張弾性率を測定した。測定は、押出方向(MD方向)に対して行った。
【0066】
(2-2)融解吸熱量(ΔH)
示査走査型熱量分析(DSC)(DSC-7:パーキンエルマー社製)を用いて、試料10mgを窒素雰囲気下220℃で3分開溶融させた後、降温速度を1℃/分として-40℃まで降温させたときに得られる結晶化発熱カーブの最大ピークの頂点を結晶化温度とした。-40℃で3分間保持した後、昇温速度10℃/分で昇温させることによって融解吸熱量(ΔH)を得た。
【0067】
(2-3)結晶化速度・結晶化時間
示差走査熱量測定器(DSC)(パーキンエルマー社製「Diamond DSC」)を用いて、試料を10℃/分にて50℃から230℃に昇温し、230℃にて5分間保持し、80℃/分で230℃から130℃に冷却し、その後130℃に保持して結晶化を行った。130℃になった時点から熱量変化について測定を開始し、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線から、以下の手順(i)~(iv)により結晶化速度を求めた。
(i)測定開始から最大ピークトップまでの時間の10倍の時点から、20倍の時点までの熱量変化を直線で近似したものをベースラインとした。
(ii)ピークの変曲点における傾きを有する接線とベースラインとの交点を求め、結晶化開始及び終了時間を求めた。
(iii)得られた結晶化開始時間から、ピークトップまでの時間を結晶化時間として測定した。
(iv)得られた結晶化時間の逆数から、結晶化速度を求めた。
【0068】
(2-4)MFR
MFRは、JIS-K7210に準拠して、測定温度230℃、荷重2.16kgで測定した。
【0069】
(3)樹脂シートの評価
得られた樹脂シートについて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
(3-1)成形性
樹脂シートを真空成形し、
図1に示す容器を得た(実施例及び比較例の全てについて同一形状の容器を成形した)。得られた容器内をLEDライトで照らし、マーブル(容器側壁の厚みムラ)やドラッグライン(容器首下の厚みムラ)といった厚みムラの有無を目視で観察し、成形品の品質(成形性)を下記評価基準で評価した。
<評価基準>
A:マーブル及びドラッグラインのいずれも見られない。
B:マーブル又はドラッグラインが僅かに見られる。
C:マーブル又はドラッグラインが顕著に見られる。
【0070】
(3-2)耐衝撃性
樹脂シートを真空成形し、
図1に示す容器を複数個得た(実施例及び比較例の全てについて同一形状の容器を成形した)。得られた容器を-18℃の温度条件下で状態調整した後、各容器にそれぞれ水を充填して、全容器の総重量が2kgとなるようにそれぞれ調整した。これらを20cmの高さから落下させたときの容器の状態を下記評価基準で評価した。
<評価基準>
A:いずれの容器においても割れやひびのいずれも見られない。
B:少なくとも一部の容器において割れ又はひびが僅かに見られる。
C:少なくとも一部の容器において割れ又はひびが顕著に見られる。
【0071】
(3-3)座屈強度(剛性)
樹脂シートを真空成形し、
図1に示す容器を得た(実施例及び比較例の全てについて同一形状の容器を成形した)。得られた容器を底部が上側になるように、2枚の平行円板間に配置し、上部円盤を10mm/分の速度で下降させて容器底部に応力を加え、変形が生じた応力と歪み量を測定した。
【0072】
実施例1及び2では高い座屈強度が得られた。一方、比較例1及び3の樹脂シートから得られた成形品は座屈強度が低く、剛性が不十分であった。
【0073】