(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067013
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】抵抗率測定システム
(51)【国際特許分類】
G01R 27/02 20060101AFI20230509BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
G01R27/02 R
H01L21/66 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177929
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】山田 正良
(72)【発明者】
【氏名】福澤 理行
【テーマコード(参考)】
2G028
4M106
【Fターム(参考)】
2G028AA01
2G028BB11
2G028CG02
2G028DH08
2G028FK01
2G028GL02
2G028GL06
2G028GL07
2G028GL09
2G028HN08
2G028HN14
4M106AA01
4M106BA14
4M106CA01
4M106CA10
4M106CA11
4M106DH09
4M106DJ12
(57)【要約】
【課題】被測定物の抵抗率および被測定物における抵抗率分布を非破壊で高精度かつ高速に測定できる抵抗率測定システムを提供する。
【解決手段】抵抗率測定システムは、周期的な波形を有する電圧を保護電極23と基板支持体31との間に発生させる電圧発生部と、容量探針部20を基板Wに近接させ且つ基板Wとの間に空隙Gが形成された状態で保護電極23と基板支持体31との間に電圧が印加されたときの探針電極21に流れ込む電流を電圧に変換する電流電圧変換部と、電流電圧変換部から出力されるアナログ電圧を変換して得られるディジタルデータをフーリエ変換するフーリエ変換部と、フーリエ変換により得られる実数成分と虚数成分とから、振幅成分と位相成分を算出する振幅位相算出部と、実数成分、虚数成分、振幅成分および位相成分のうちの少なくとも1つの周波数依存性に基づいて抵抗率を算出する抵抗率算出部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物を支持する導電性の基板支持体と、
柱状の探針電極と、筒状であり前記探針電極を囲繞するように配置された保護電極と、前記探針電極と前記保護電極との間に介在する筒状の絶縁体部と、を有し、前記探針電極の前記基板支持体側の端部と前記保護電極の前記基板支持体側の端部とが同一の仮想平面上に配置されている容量探針部と、
前記保護電極を接地電位とした予め設定された設定周期の周期的な波形を有する電圧を、前記保護電極と前記基板支持体との間に発生させる電圧発生部と、
前記容量探針部を前記基板支持体に支持された前記被測定物に近接させ且つ前記被測定物との間に空隙が形成された状態で、前記電圧発生部により前記保護電極と前記基板支持体との間に前記周期的な波形を有する電圧が印加され且つ前記探針電極を擬似接地電位に維持したときの前記探針電極に流れ込む電流を電圧に変換する電流電圧変換部と、
前記電流電圧変換部から出力されるアナログ電圧を、前記設定周期に同期し且つ前記設定周期の1/Nの時間間隔でサンプリングして、ディジタルデータに変換するアナログ/ディジタル変換部と、
前記アナログ/ディジタル変換部からのディジタルデータをフーリエ変換するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換により得られる実数成分と虚数成分とから、振幅成分と位相成分を算出する振幅位相算出部と、
前記実数成分、前記虚数成分、前記振幅成分および前記位相成分のうちの少なくとも1つの周波数依存性に基づいて、抵抗率を算出する抵抗率算出部と、を備える、
抵抗率測定システム。
【請求項2】
前記抵抗率算出部は、予め設定された前記電流電圧変換部の周波数伝達関数に基づいて、前記実数成分、前記虚数成分、前記振幅成分および前記位相成分のうちの少なくとも1つの周波数依存性に基づいて、前記抵抗率を算出する、
請求項1に記載の抵抗率測定システム。
【請求項3】
前記周波数伝達関数は、前記被測定物が前記基板支持体に支持されていない状態で、前記周期的な波形を有する電圧が前記基板支持体と前記保護電極との間に印加されたときに前記アナログ/ディジタル変換部が出力するディジタルデータをフーリエ変換して得られる実数成分と虚数成分とに基づいて求められる、
請求項2に記載の抵抗率測定システム。
【請求項4】
前記周期的な波形は、前記設定周期で変動する鋸波である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の抵抗率測定システム。
【請求項5】
前記周期的な波形は、前記設定周期で変動する矩形波である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の抵抗率測定システム。
【請求項6】
前記周期的な波形は、前記設定周期で変動する三角波である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の抵抗率測定システム。
【請求項7】
前記被測定物は、半絶縁性半導体基板であり、
前記設定周期は、前記被測定物の誘電緩和時間より長い、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の抵抗率測定システム。
【請求項8】
前記容量探針部と前記基板支持体とを相対的に移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御する制御部と、を更に備え、
前記制御部は、前記被測定物の複数個所で抵抗率を測定するように前記移動機構を制御する、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の抵抗率測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗率測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
GaAs、InP、SiC等の化合物半導体のうち半絶縁性を有するものは集積回路やパワーデバイスを作製するための半導体基板として広く用いられている。このような半絶縁性半導体基板(以下、基板と略称することもある。)は、融液からの引き上げ法や昇華法等で結晶成長された化合物半導体のインゴットを薄く輪切りにした後、研磨することによって製造されている。基板上に形成するFETなどの電子デバイスの特性が基板の抵抗率に大きく影響されるために、その抵抗率が所定の範囲内であり、基板全体にわたる抵抗率分布が均一であることが求められている。このために、基板の抵抗率の平均値や標準偏差値、さらには、基板全面にわたる抵抗率分布を測定することが必須となっている。
【0003】
基板の抵抗率を測定する従来方法として、基板を導電性基板支持体に載置して基板表面に導電性触子を接触させた状態で、導電性触子と導電性基板支持体との間に電圧を印加したときに流れる電流を測定する方法(例えば特許文献1参照)、また、基板表面に複数のオーミック電極を形成した状態で、4端子法にて抵抗率を測定する方法(例えば特許文献2参照)、更に、基板表面に複数の導電性のプローブを接触させた状態で、プローブ間に流れる電流を測定する方法(例えば特許文献3参照)が用いられてきた。
【0004】
しかし、これらの方法では、基板表面に導電性触子を接触したりオーミック電極を形成したりすることで、基板表面が損傷したり破壊したりするという課題があった。また、導電性触子と基板表面との界面における電気的な不安定性さ或いは半絶縁性半導体基板にオーミック電極を形成することの困難さ等により、抵抗率を高精度且つ安定して測定することができないという課題があった。更に、基板全面にわたる抵抗率分布を測定する場合、比較的長い時間を要するという課題もあった。
【0005】
これに対して、基板の損傷や破壊をしない測定方法として、容量探針を用いる非破壊測定方法がある(例えば非特許文献1、非特許文献2参照)。これらの非破壊測定方法では、導電性の基板支持体に基板の一方の面を接触した状態で載置し、導電性の探針電極とこの探針電極の側面を絶縁して取り囲む保護電極からなる容量探針を、前述の基板の他方の面に近接させた状態で、保護電極を接地電位で維持するとともに探針電極を電荷増幅器の端子に接続して擬似接地電位として、ある特定の波形を有する電圧を基板支持体に印加した時の電荷増幅器の出力端子から出力される出力電圧を測定する。
【0006】
特に、非特許文献1には、波形が単極性の単発階段波である電圧を基板支持体に印加すると、電荷増幅器の出力電圧を表す電荷量Q(t)について、時刻t=0における電荷量Q(0)、時刻t=∞における電荷量Q(∞)および時刻t=τにおける電荷量Q(τ)として、方程式Q(τ)=Q(∞)-(1/e)(Q(∞)-Q(0))が成立することを理論的に導き、誘電緩和時間τから抵抗率ρが求まることが開示されている。しかしながら、電荷量Q(t)の実測定においては、単発階段波の立ち上がりが瞬時ではなくある程度の時間をかけて立ち上がっており、電荷増幅器も理想的なものではなく、その利得と位相には周波数依存性があるとともに直流ドリフト等にも影響される。このため、非特許文献1に開示された非破壊測定方法には、測定精度や測定時間に課題があった。特に、抵抗率ρが大きい場合、Q(∞)の測定に比較的長い時間を要するとともに電荷増幅器の直流ドリフトの影響が大きくなりQ(∞)の測定精度が低下してしまう。一方、抵抗率ρが小さい場合、単発階段波形の立ち上り時間と電荷増幅器の利得と位相の周波数依存性との影響によりQ(0)の測定精度が低下するという課題があった。
【0007】
上述の非破壊測定方法の課題を解決するために、非特許文献2に見られるように本発明者は、基板支持体に単極性の単発階段波電圧ではなく両極性で周期的に繰り返す矩形波電圧を印加すること、さらに、電荷増幅器からの出力電圧の時間応答を解析するのではなく周波数応答を解析することを提案し、半絶縁性半導体基板の製造分野において、極めて有用な基板評価技術になることを既に示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63-33666号公報
【特許文献2】特開平02-24573号公報
【特許文献3】特開平05-164795号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R. Stibal, J. Windscheif, W. Janz, Semicond. Sci. Technol. Vol. 6, 1991,pp. 995-1001.
【非特許文献2】M. Fukuzawa, M. Yamada, Institute of Physics, Conference Series Number174, Paper presented at 29th International Symposium Compound Semiconductors, Lausanne, Switzerland, 7-10 October 2002, pp. 85-88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献2には、前述の課題を解決する具体的な方法や抵抗率を測定する方法、更には、抵抗率を測定するシステムの具体的な構成が開示されていない。
【0011】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、被測定物の抵抗率および被測定物における抵抗率分布を非破壊で高精度かつ高速に測定できる抵抗率測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る抵抗率測定システムは、
被測定物を支持する導電性の基板支持体と、
柱状の探針電極と、筒状であり前記探針電極を囲繞するように配置された保護電極と、前記探針電極と前記保護電極との間に介在する筒状の絶縁体部と、を有し、前記探針電極の前記基板支持体側の端部と前記保護電極の前記基板支持体側の端部とが同一の仮想平面上に配置されている容量探針部と、
前記保護電極を接地電位とした予め設定された設定周期の周期的な波形を有する電圧を、前記保護電極と前記基板支持体との間に発生させる電圧発生部と、
前記容量探針部を前記基板支持体に支持された前記被測定物に近接させ且つ前記被測定物との間に空隙が形成された状態で、前記電圧発生部により前記保護電極と前記基板支持体との間に前記周期的な波形を有する電圧が印加され且つ前記探針電極を擬似接地電位に維持したときの前記探針電極に流れ込む電流を電圧に変換する電流電圧変換部と、
前記電流電圧変換部から出力されるアナログ電圧を、前記設定周期に同期し且つ前記設定周期の1/Nの時間間隔でサンプリングして、ディジタルデータに変換するアナログ/ディジタル変換部と、
前記アナログ/ディジタル変換部からのディジタルデータをフーリエ変換するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換により得られる実数成分と虚数成分とから、振幅成分と位相成分を算出する振幅位相算出部と、
前記実数成分、前記虚数成分、前記振幅成分および前記位相成分のうちの少なくとも1つの周波数依存性に基づいて、抵抗率を算出する抵抗率算出部と、を備える。
【0013】
また、本発明に係る抵抗率測定システムは、
前記抵抗率算出部が、予め設定された前記電流電圧変換部の周波数伝達関数に基づいて、前記実数成分、前記虚数成分、前記振幅成分および前記位相成分のうちの少なくとも1つの周波数依存性に基づいて、前記抵抗率を算出する、ものであってもよい。
【0014】
また、本発明に係る抵抗率測定システムは、
前記周波数伝達関数が、前記被測定物が前記基板支持体に支持されていない状態で、前記周期的な波形を有する電圧が前記基板支持体と前記保護電極との間に印加されたときに前記アナログ/ディジタル変換部が出力するディジタルデータをフーリエ変換して得られる実数成分と虚数成分とに基づいて求められる、ものであってもよい。
【0015】
また、本発明に係る抵抗率測定システムは、
前記周期的な波形が、前記設定周期で変動する鋸波であってもよい。
【0016】
また、本発明に係る抵抗率測定システムは、
前記周期的な波形が、前記設定周期で変動する矩形波であってもよい。
【0017】
また、本発明に係る抵抗率測定システムは、
前記周期的な波形が、前記設定周期で変動する三角波であってもよい。
【0018】
また、本発明に係る抵抗率測定システムは、
前記被測定物が、半絶縁性半導体基板であり、
前記設定周期が、前記被測定物の誘電緩和時間より長くてもよい。
【0019】
また、本発明に係る抵抗率測定システムは、
前記容量探針部と前記基板支持体とを相対的に移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御する制御部と、を更に備え、
前記制御部は、前記被測定物の複数個所で抵抗率を測定するように前記移動機構を制御する、ものであってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、容量探針部、被測定物および基板支持体が、導電性を有する探針電極、空隙、被測定物、導電性を有する基板支持体の順に並ぶように配置されるため、容量探針部が被測定物に接触しない。従って、被測定物の損傷や破壊、更に、被測定物との接触部分における電気的不安定性の影響等の課題は生じない。したがって、被測定物の抵抗率および被測定物の抵抗率分布を非破壊で且つ高精度で安定的に測定できる。
【0021】
また、本発明によれば、容量探針部の保護電極を接地電位とし探針電極を電流電圧変換部の端子に接続しているので探針電極は擬似接地電位となるため、容量探針部と基板支持体との間の電界分布は、容量探針部の保護電極の外周部分では端面効果のために不均一となる。但し、探針電極部分、即ち、容量探針部が測定する対象領域での前述の電界分布は均一であり、保護電極から探針電極に流れ込む漏れ電流などの好ましくない電流の影響も受けなくなる。従って、高精度な抵抗率測定が可能になる。
【0022】
更に、本発明によれば、電圧発生部が発生する電圧の設定周期に同期して電流電圧変換部とアナログ/ディジタル変換部を動作させるので、設定周期毎にディジタルデータの加算処理を行うことにより測定時の電気的ノイズ成分を低減することができる。従って、測定時の電気的ノイズに起因した抵抗率の測定値のばらつきを抑制できる。
【0023】
また、本発明によれば、電圧発生部が発生する電圧の設定周期の1/Nの時間間隔で得られたディジタルデータをフーリエ変換するので、角周波数における実数成分と虚数成分、並びに、実数成分と虚数成分とから振幅成分と位相成分とを即座に算出できる。従って、実数成分、虚数成分、振幅成分および位相成分それぞれの周波数依存性を一度で高速に算出することができるので、被測定物における直流ドリフトのような測定には好ましくない電流の発生の影響も除去できる。それ故、抵抗率測定を高速且つ高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施の形態に係る抵抗率測定システムの機構系の概略構成図である。
【
図2】実施の形態に係る容量探針部、基板、基板支持体、および絶縁支持体の配置を示す概略拡大断面図である。
【
図3】実施の形態に係る探針電極、空隙、基板、および基板支持体が形成する電気的等価回路図である。
【
図4】実施の形態に係る抵抗率測定システムの計測演算制御系のブロック図である。
【
図5】実施の形態に係る電圧発生部が発生する電圧の波形の一例を示し、(A)は鋸波を示す図であり、(B)は矩形波を示す図であり、(C)は三角波を示す図である。
【
図6】実施の形態に係る矩形波応答時のサンプリング間隔とサンプリング回数と周期との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施する場合の形態について、本発明の抵抗率測定システムの機構系と計測制御系を分けて、図面を参照して具体的に説明する。
【0026】
図1は、本発明の抵抗率測定システムの機構系の概略図である。抵抗率測定システムの機構系は、容量探針部20と、基板Wと、基板支持体31と、絶縁支持体32と、移動機構90と、を備える。移動機構90は、X軸ステージ91とY軸ステージ92とZ軸ステージ93とを有する。Z軸ステージ93は、容量探針部20が取り付けられた移動台(図示せず)を、矢印AR13に示すようにZ軸方向に沿って昇降させる。即ち、容量探針部20は、Z軸ステージ93により上下方向に移動可能となっている。X軸ステージ91は、絶縁支持体32が取り付けられた移動台91aを矢印AR11に示すようにX軸方向に沿って移動させる。Y軸ステージ92は、X軸ステージ91が取り付けられた移動台92aを矢印AR12に示すようにY軸方向に沿って移動させる。Y軸ステージ92は、ベース(図示せず)に固定されている。
【0027】
絶縁支持体32は、絶縁性材料から平板状に形成されたものである。基板支持体31は、導電性材料から平板状に形成されたものであり、絶縁支持体32の鉛直上方に配設されている。これにより、基板支持体31は、X軸ステージ91とY軸ステージ92とにより水平面内で移動可能となっている。そして、容量探針部20は、探針面24が基板Wの上面に対して空隙Gを保って、水平面内で移動することができる。
【0028】
被測定対象物である基板Wは、基板支持体31の上面に載置された状態で基板支持体31により支持される。基板Wの形状は一般的に円盤状の薄板であるが、他の形状のものであってもよい。
【0029】
図2は、容量探針部20、基板W、基板支持体31の配置を示す概略拡大断面図である。容量探針部20は、導電性を有する円柱状の探針電極21と、円筒状であり探針電極21を囲繞するように配置された導電性を有する保護電極23と、探針電極21と保護電極23との間に介在する円筒状の絶縁体部22と、を有する。ここで、探針電極21の基板支持体31側の端部と保護電極23の基板支持体31側の端部とが同一の仮想平面VP1上に配置されている。言い換えると、容量探針部20は、導電性を有する探針電極21と導電性を有する保護電極23と探針電極21と保護電極23との間に介在して絶縁する絶縁体部22とを有する。そして、探針電極21の基板支持体31側の端面と保護電極23の基板支持体31側の端面とが同一の仮想平面VP1内に存在する探針面24になるようにして、探針電極21と絶縁体部22および保護電極23が一体に形成されている。ここで、探針電極21の中心軸と絶縁体部22の筒軸と保護電極23の筒軸とが一致している。なお、探針電極21の形状は、円柱状に限定されるものではなく、例えば角柱体或いは他の形状であってもよい。また、絶縁体部22および保護電極23の形状も、円筒状に限定されるものではなく、角筒状或いは他の形状であってもよい。探針電極21、保護電極23および基板支持体31は、それぞれ、導線を介して端子a、端子b、端子cに接続されている。
【0030】
容量探針部20が有する探針電極21と保護電極23とは、後述するように、擬似的に等電位にして用いられる。したがって、保護電極23から探針電極21に、あるいは、その逆方向に伝わるリーク電流は流れ込まない。空隙Gを狭くして基板支持体31と保護電極23との間に電圧を印加した場合、容量探針部20と基板Wとの間の電気力線は
図2中の矢印で示すようになる。保護電極23の外周の下方部分では端面効果のために不均一となるが、探針電極21の下方部分である測定対象領域では均一になる。
【0031】
測定対象領域の基板Wの上面に仮想電極があると想定して、仮想電極と基板支持体31とが基板Wを挟んで形成している容量と抵抗とを、それぞれC
s、R
sとし、また、仮想電極と探針電極21とが空隙Gを隔てて形成している容量をC
aとすると、探針電極21、空隙G、基板Wおよび基板支持体31が形成する電気的等価回路図は
図3に示すようになる。なお、容量探針部20の保護電極23と仮想電極或いは探針電極21との間の容量については省略している。
【0032】
図2に示すように、探針面24と基板支持体31との間隔をd
0、基板の厚さをd
s、空隙Gの距離をd
aとしたとする。そして、半絶縁性の半導体基板の抵抗率と比誘電率とを、それぞれ、ρとε
r、真空の誘電率をε
0とし、前述の仮想電極の電極面積をAとすれば、C
s=ε
0ε
rA/d
s、R
s=ρd
s/Aとなる。また、誘電緩和時間をτ
sとすると、τ
s=C
sR
s=ε
0ε
rρとなる。ここで、τ
sは、電極面積或いは電極間隔などの幾何学的形状に依存しない物質固有のものである。また、容量C
aは、C
a=ε
0A/d
aとなる。以下での式の取り扱いを簡便にするためにτ
a=C
aR
sとする。なお、τ
s、τ
aは、時間の単位を持ち、電気回路工学分野では時定数と呼ばれる。本発明の目的である抵抗率ρの測定は、比誘電率ε
rが既知であれば誘電緩和時間τ
sを測定することと等価になる。
【0033】
図4は、本発明の抵抗率測定システムの計測演算制御系の概略図である。抵抗率測定システムの計測演算制御系は、電圧発生部40と、電流電圧変換部50と、アナログ/ディジタル変換部60と、X軸ドライバ96、Y軸ドライバ97、および、Z軸ドライバ98と、パーソナルコンピュータ(以下、「PC」と称する。)100と、を有する。
【0034】
電圧発生部40は、波形メモリ41と、ディジタル/アナログ変換回路42と、電力増幅回路43と、を有し、前述の保護電極23を接地電位とした予め設定された設定周期の周期的な波形を有する電圧を、保護電極23と基板支持体31との間に発生させる。電圧発生部40は、PC100の制御部95から出力される波形クロックW
clkに同期して波形メモリ41に記録された波形データをディジタル/アナログ変換回路42に逐次送出し、電力増幅回路43を経て、任意波形の周期的な電圧V
in(t)を発生させる。電圧発生部40が発生する電圧は、電力増幅回路43の出力に接続された端子c’と接地電位の端子b’に供給される。端子c’と端子b’とは、それぞれ、
図1に示す端子cと端子bとに接続される。電圧発生部40は、
図5(A)乃至(C)に示すような鋸波、矩形波、三角波などの前述の設定周期を有する周期的な電圧を波形クロックW
clkに同期して発生することができる。以後、設定周期をTとして説明する。
【0035】
図4に戻って、電流電圧変換部50は、容量探針部20を基板支持体31に支持された基板Wに近接させ且つ基板Wとの間に空隙Gが形成された状態で、電圧発生部40により保護電極23と基板支持体31との間に周期的な波形を有する電圧が印加され且つ探針電極21を擬似接地電位に維持したときの探針電極21に流れ込む電流を電圧に変換する。電流電圧変換部50は、演算増幅器52と帰還受動素子51とを有する。電流電圧変換部50の入力端子は、端子a’と端子b’である。端子a’と端子b’とは、それぞれ、
図1に示す容量探針部20の端子aと端子bとに接続される。なお、帰還受動素子51は、それが容量成分のみの場合、電荷増幅器と呼ばれ、帰還受動素子51は、それが抵抗成分のみの場合、電流増幅器と呼ばれることがある。演算増幅器52は、利得が大きく、位相遅れが少なく、入力インピーダンスが大きく且つ入力バイアス電流または入力バイアス電圧が小さいものほど好ましい。
【0036】
電流電圧変換部50の端子に流れ込む電流は、帰還受動素子51に流れ出す電流と演算増幅器52の負の端子に流れ込む電流の和となる。演算増幅器52の入力インピーダンスが極めて大きいために演算増幅器52の負の端子に流れ込む電流は極めて小さく、電流電圧変換部50の端子に流れ込む電流は、帰還受動素子51に流れ出す電流に等しくなる。演算増幅器52の正の端子は接地電位に保たれているので、電流電圧変換部50の端子、すなわち、演算増幅器52の負の端子は、擬似接地電位になる。演算増幅器52の利得や位相、および、帰還受動素子51のインピーダンスは一般的に周波数依存性をもっている。そして、電流電圧変換部50の周波数依存性は、実数成分と虚数成分とを有する周波数伝達関数で表される。
【0037】
アナログ/ディジタル変換部60は、サンプリング/ホールド回路61とアナログ/ディジタル変換回路62とを有し、電流電圧変換部50から出力されるアナログ電圧を、前述の設定周期に同期し且つ設定周期の1/Nの時間間隔でサンプリングして、ディジタルデータに変換する。アナログ/ディジタル変換部60の入力は、電流電圧変換部50の電圧出力と端子gとに接続される。電流電圧変換部50の出力を切り離して端子gに外部アナログ電圧出力を接続すれば、電流電圧変換部50の出力電圧以外のアナログ電圧を測定することもできる。
図6は、電圧発生部40が矩形波電圧を発生しているときに電流電圧変換部50から出力される電圧をサンプリングするタイミングを表したものである。制御部95は、
図6に示すように、電圧発生部40が発生する周期的な波形の電圧の設定周期TをN分割した時間間隔Δt毎に、すなわち、時刻t=nΔt(n=1,2,3,・・・)にサンプリングクロックS
clkをアナログ/ディジタル変換部60に送出する。アナログ/ディジタル変換部60は、出力されたサンプリングクロックS
clkに同期して、電流電圧変換部50から出力される電圧をサンプリング/ホールド回路61によりサンプリング/ホールドした後アナログ/ディジタル変換回路62によって変換した時系列のディジタルデータD
n(n=1,2,3,・・・)を、PC100の後述するインタフェースへ出力する。
【0038】
PC100は、汎用のPCであり、CPU(Central Processing Unit)と主記憶部と補助記憶部とインタフェースと各部を接続するバスとを有する。主記憶部は、揮発性メモリから構成され、CPUの作業領域として使用される。補助記憶部は、不揮発性メモリから構成され、CPUが実行するプログラムを記憶する。そして、CPUは、補助記憶部が記憶するプログラムを主記憶部に読み込んで実行することにより、前処理部81、フーリエ変換部70、振幅位相算出部82、抵抗率算出部83および制御部95として機能する。
【0039】
制御部95は、システムクロックに同期して、電圧発生部40に波形クロックWclkを、アナログ/ディジタル変換部60にサンプリングクロックSclkを送出する。また、制御部95は、X軸ドライバ96、Y軸ドライバ97、および、Z軸ドライバ98に、位置指令パルスを送出して、X軸ステージ91、Y軸ステージ92、および、Z軸ステージ93の位置決めを行う。
【0040】
前処理部81は、アナログ/ディジタル変換部60から入力される時系列のディジタルデータD
n(n=1,2,3,・・・)を1周期毎(n=1,2,3,・・・,N)に区切りM周期分の加算平均する処理を実行する。時系列のディジタルデータD
n(n=1,2,3,・・・)は、
図3に示す電気的等価回路図で表される回路から出力される複素出力電圧をサンプリングして得られるデータである。時系列のディジタルデータD
n(n=1,2,3,・・・)を1周期毎(n=1,2,3,・・・,N)に区切りM周期分のディジタルデータをD
n、m(n=1,2,3,・・・,N、m=1,2,3,・・・,M)、即ち、D
1,1,D
2,1,D
3,1,・・・,D
N,1、D
1,2,D
2,2,D
3,2,・・・,D
N,2、D
1,3,D
2,3,D
3,2,・・・,D
N,3、・・・D
1,M,D
2,M,D
3,M,・・・,D
N,Mとし、加重平均処理した周期的なディジタルデータをE
n(n=1,2,3,・・・,N)とすれば、E
1=(D
1,1+D
1,2+D
1,3+・・・+D
1,M)/M、E
2=(D
2,1+D
2,2+D
2,3+・・・+D
2,M)/M、E
3=(D
3,1+D
3,2+D
3,3+・・・+D
3,M)/M、・・・、E
N=(D
N,1+D
N,2+D
N,3+・・・+D
N,M)/Mとなる。この前処理を多周期に渡って行えば、ディジタルデータのノイズ低減、すなわち、抵抗率測定の高精度化につながるが、測定時間が長くなる。したがって、この前処理を何周期まで行うかは、抵抗率測定の高精度化と高速化のトレードオフで決めればよい。そして、前処理部81は、前述の加重平均処理を実行することにより生成したディジタルデータE
n(n=1,2,3,・・・,N)を、フーリエ変換部70に通知する。
【0041】
フーリエ変換部70は、アナログ/ディジタル変換部60から入力されるディジタルデータをフーリエ変換する。より詳細には、フーリエ変換部70は、アナログ/ディジタル変換部60から入力され前処理部81で加重平均処理が実行されたディジタルデータをフーリエ変換する。このフーリエ変換部70は、ディジタルデータEn(n=1,2,3,・・・,N)に対して、Nが2のべき乗のときは高速フーリエ変換(FFT)のアルゴリズムを用いてフーリエ変換を実行し、Nが2のべき乗以外のときは離散フーリエ変換(DFT)のアルゴリズムを用いてフーリエ変換を実行する。なお、FFTの変換速度は、DFTの変換速度に比べて極めて速い。このフーリエ変換の結果、角周波数nωn(n=1,2,3,・・・,N)に対して、複素出力電圧の実数成分Pn、虚数成分Qnを得る。
【0042】
ここで、フーリエ変換部70が実行するフーリエ級数解析について詳細に説明する。電圧発生部40から出力される周期的な電圧Vin(t)は、フーリエ級数展開でき、周期をT、角周波数をωn=2πn/Tとすれば、下記式(1)のように表される。
【0043】
【数1】
(n=1,2,3,・・・,∞)
・・・式(1)
【0044】
また、式(1)におけるフーリエ係数anおよびbnは、下記式(2)および式(3)で表される。a0は電圧Vin(t)の平均値すなわち直流成分である。以下では、式の取扱いを簡便にするためにa0=0として扱う。これは、Vin(t)が両極性の正負対称波形である場合に相当する。
【0045】
【数2】
(n=1,2,3,・・・,∞)
・・・式(2)
【0046】
【数3】
(n=1,2,3,・・・,∞)
・・・式(3)
【0047】
式(1)乃至式(3)のように正弦波と余弦波を用いたフーリエ級数は、別表現となる複素数を用いた複素フーリエ級数と複素フーリエ係数で表してもよい。ここでは、具体的な式を示すのは省略する。
【0048】
電圧発生部40から実際に出力される電圧は有限の立ち上り時間と立ち下り時間を持っているので、式(1)から式(3)までは、N項までの部分和とするのが適切である。部分和とした場合、ギブスの現象といわれる不連続点近傍における振動的な現象を生じるが、これを緩和するためにハミング窓などを使って各項を重み付け、すなわち、各項の係数anとbnを補正すればよい。あるいは、後述するが、電圧発生部40から出力される電圧を実際に測定し、各項の係数anとbnを予め算出しておけばよい。
【0049】
電圧発生部40から出力される電圧が、
図5(A)乃至(C)に示すように、振幅が|V
in|の鋸波電圧、矩形波電圧、あるいは、三角波電圧の三種類について考察する。電圧発生部40から出力される電圧の波形が、
図5(A)に示すように、鋸状波である場合、前述の式(1)は次の式(4)のようになる。
【0050】
【数4】
(n=1,2,3,・・・,∞)
・・・式(4)
【0051】
式(4)から、鋸波電圧は、正弦波電圧の和のみで構成され、その周波数は奇数波成分および偶数成分を持ち、奇数成分の振幅は正となり、偶数成分の振幅は負となり、周波数が高くなるほど振幅の絶対値は奇数倍に減少していくことが分かる。
【0052】
電圧発生部40から出力される電圧の波形が、
図5(B)に示すように、矩形波である場合、式(1)は次の式(5)のようになる。
【0053】
【0054】
式(5)から、矩形波電圧は、正弦波電圧の和のみで構成され、その周波数は奇数波成分しか持たず、周波数が高くなるほど振幅が奇数倍に減少していくことが分かる。
【0055】
電圧発生部40から出力される電圧の波形が、
図5(C)に示すように、三角波である場合、式(1)は次の式(6)のようになる。
【0056】
【0057】
式(6)から、三角波電圧は、余弦波電圧の和のみで構成され、その周波数は奇数波成分しか持たず、周波数が高くなるほど振幅は奇数倍の2乗に減少、すなわち、高調波成分は急激に減少していくことが分かる。
【0058】
ここで、角周波数ω
nの複素電圧V
in
n(ω
n)を、
図3に示す電気的等価回路図の端子aと端子cとの間に印加した場合について考察する。端子aと端子cとの間の複素インピーダンスをZ
n(ω
n)、虚数単位をjとすると、複素インピーダンスの逆数である複素アドミッタンスZ
n
-1(ω
n)は、下記式(7)で表される。
【0059】
【0060】
そして、端子aと端子cとの間に流れる複素電流をIn(ωn)とすれば、下記式(8)の関係式が得られる。
【0061】
【0062】
電圧Vin(t)を複素フーリエ級数展開したときの第n項目の複素電圧をVin
n(ωn)、電流電圧変換部50の周波数伝達関数の実数成分をG(ωn)、虚数成分をF(ωn)とすれば、電流電圧変換部50に複素電流In(ωn)を入力したとき、電流電圧変換部50が出力する複素出力電圧Vn(ωn)は、前述の式(8)を代入して、下記式(9)のようになる。
【0063】
【0064】
また、複素出力電圧の実数成分Re[Vn(ωn)]と虚数成分Im[Vn(ωn)]は、それぞれ、下記式(10)および式(11)で表される。
【0065】
【0066】
【0067】
図4に戻って、振幅位相算出部82は、フーリエ変換により得られる実数成分P
nと虚数成分Q
nとから、振幅成分と位相成分を算出する。具体的には、振幅位相算出部82は、各角周波数成分に直交性があることを利用して、角周波数ω
n(n=1,2,3,・・・,N)毎に算出する。振幅位相算出部82は、フーリエ変換により得られる実数成分P
nと虚数成分Q
nの場合、振幅成分をS
n=[P
n
2+Q
n
2]
1/2、位相成分をU
n=arctan(Q
n/P
n)として算出する。
【0068】
ここで、複素出力電圧の振幅成分|Vn(ωn)|と位相成分φn(ωn)は、それぞれ、下記式(12)および式(13)で表される。
【0069】
【0070】
【0071】
なお、式(10)乃至式(13)において、γ=τa/τs=ds/εrdaとした。
【0072】
次に、本実施の形態に係る抵抗率測定システム10を用いて、電圧発生部40から出力される周期的な電圧V
in(t)を複素フーリエ級数展開したときの複素電圧V
in
n(ω
n)を測定する方法について説明する。
図4に示す電流電圧変換部50の出力を切り離して電圧発生部40の出力端子である端子c’をアナログ/ディジタル変換部60のサンプリング/ホールド回路61の入力端子gに接続する。電圧発生部40が出力する電圧をアナログ/ディジタル変換部60によってディジタルデータとし、そのディジタルデータをフーリエ変換部70によってフーリエ変換すれば、複素電圧V
in
n(ω
n)が得られる。
【0073】
次に、本実施の形態に係る抵抗率測定システムを用いて、電流電圧変換部50の周波数伝達関数の実数成分G(ω
n)と虚数成分F(ω
n)を測定する方法について説明する。
図4に示す電圧発生部40の出力端子である端子c’を電流電圧変換部50の端子である端子a’に接続して、電圧発生部40が出力する電圧をアナログ/ディジタル変換部60によってディジタルデータとし、そのディジタルデータをフーリエ変換部70によってフーリエ変換すれば、電流電圧変換部50の周波数伝達関数の実数成分G(ω
n)と虚数成分F(ω
n)が直接得られる。
【0074】
また、
図2と
図3において基板Wを基板支持体31上に載置しない状態で、すなわち、d
s=0、d
a=d
0としたときC
a=C
0=ε
0A/d
0、τ
s→∞であり、電圧発生部40が出力する電圧をアナログ/ディジタル変換部60によってディジタルデータとし、そのディジタルデータをフーリエ変換部70によってフーリエ変換すれば、前述の式(8)および式(9)から下記式(14)が得られる。
【0075】
【数14】
(n=1,2,3,・・・,N)
・・・式(14)
【0076】
従って、予めjωnC0Vin
n(ωn)が測定されていれば、式(14)から電流電圧変換部50の周波数伝達関数の実数成分G(ωn)と虚数成分F(ωn)とが得られる。
【0077】
なお、本実施の形態に係る抵抗率測定システムにおいて、基板Wを基板支持体31上に載置しない状態では、d
s=0、d
a=d
0としたときC
a=C
0、τ
s→∞となる。そして、
図4に示す電圧発生部40の出力端子である端子c’をアナログ/ディジタル変換部60のサンプリング/ホールド回路61の入力側に接続して、電圧発生部40が出力する電圧をアナログ/ディジタル変換部60によってディジタルデータに変換してから、そのディジタルデータをフーリエ変換部70によってフーリエ変換することで、jω
nC
0V
in
n(ω
n)が得られる。
【0078】
抵抗率算出部83は、前述の複素出力電圧の実数成分、虚数成分、振幅成分および位相成分のうちの少なくとも1つの周波数依存性に基づいて、抵抗率を算出する。前述のように、容量探針部20の探針面24と基板支持体31との間隔をd0、基板の厚さをds、空隙Gの距離をdaとしたとする。そして、被測定物である半絶縁性の半導体基板の抵抗率と比誘電率とを、それぞれ、ρとεr、真空の誘電率をε0とし、前述の仮想電極の電極面積をAとすれば、Cs=ε0εrA/ds、Rs=ρds/Aとなる。そして、誘電緩和時間をτsとすると、τs=CsRs=ε0εrρとなる。そこで、抵抗率算出部83は、前述の誘電緩和時間τsを算出し、算出したτsからρ=ε0εr/τsの関係式を用いて抵抗率ρを算出する。
【0079】
ここで、抵抗率算出部83が、誘電緩和時間τsを算出する方法について説明する。フーリエ変換部70が、周期的なディジタルデータEn(n=1,2,3,・・・,N)に対して高速フーリエ変換あるいは離散フーリエ変換を実行することにより得られる実数成分Pn、虚数成分Qn、振幅成分Sn=[Pn
2+Qn
2]1/2、位相成分Un=arctan(Qn/Pn)は、それぞれ、角周波数ωn(n=1,2,3,・・・,N)毎に、式(10)、式(11)、式(12)および式(13)を満たすことになり、成分毎にN個の方程式からなる連立方程式が得られる。そして、Vin
n(ωn)、G(ωn)、F(ωn)の角周波数依存性が無視できる場合、或いは、予め測定されており既知である場合、式(10)、式(11)並びに式(12)は、τs、γおよびCaを未知数とした連立方程式となり、式(13)は、τsとγを未知数とした連立方程式となる。そこで、抵抗率算出部83は、これらの連続方程式を用いてτsを算出する。なお、抵抗率算出部83は、γを幾何学的寸法であるdsとdaおよび被測定物の比誘電率εrとから算出し、Caを幾何学的寸法であるAおよびdaと真空中の誘電率ε0とから算出する。また、抵抗率算出部83は、周期的なディジタルデータEn(n=1,2,3,・・・,N)に対して高速フーリエ変換あるいは離散フーリエ変換を行った結果から得られた実数成分Pn、虚数成分Qn、振幅成分Sn=[Pn
2+Qn
2]1/2、位相成分Un=arctan(Qn/Pn)が、角周波数ωn毎に式(10)、式(11)、式(12)或いは式(13)の全てに満たすように、τsを算出してもよい。
【0080】
抵抗率算出部83が、式(12)で与えられている|Vn(ωn)|とフーリエ変換で求めた振幅成分Snとから、誘電緩和時間τsを算出する。以下、|Vn(ωn)|が依存するパラメータτs、γ、Caを含めて、|Vn(ωn)|を|Vn(ωn:τs,γ,Ca)|と表す。抵抗率算出部83は、下記式(15)に示すような、各角周波数ωnにおける|Vn(ωn:τs,γ,Ca)|とSnとの差の二乗の平均、すなわち、分散s2を表す誤差関数を用いる。
【0081】
【数15】
(n=1,2,3,・・・,N)
・・・式(15)
【0082】
抵抗率算出部83は、式(15)の誤差関数で表される分散s2が最尤推定値になるパラメータτs、γ、Caを算出する。ここで、抵抗率算出部83は、反復法であるガウス・ニュートン法、レーベンバーグ・マーカート法等の非線形最小二乗法を用いてパラメータτs、γ、Caを算出する。最小二乗法を用いて近似的に算出する場合、式(12)で与えられている|Vn(ωn)|または振幅成分Snの中に外れ値または異常値が含まれている場合、近似の尤もらしさが極端に低下する虞がある。そこで、パラメータγとCaについては、予め測定した幾何学的寸法と被測定物の比誘電率εrとを用いたり、最小二乗法におけるパラメータγとCaの値の探索範囲を限定したりするのが好ましい。そして、抵抗率算出部83は、算出したτsからρ=ε0εr/τsの関係式を用いて抵抗率ρを算出する。
【0083】
以上説明したように、本実施の形態に係る抵抗率測定システムによれば、容量探針部20、基板Wおよび基板支持体31が、導体(探針電極21)-絶縁体(空隙G)-半絶縁体(基板W)-導体(基板支持体31)の順に鉛直上方から下方に向かって並ぶように配置され、容量探針部20が基板Wに接触しない。従って、基板Wの損傷や破壊、更に、基板Wとの接触部分における電気的不安定性の影響等の課題が生じない。したがって、基板Wの抵抗率および基板Wの抵抗率分布を非破壊で且つ高精度で安定的に測定できる。
【0084】
また、本実施の形態に係る抵抗率測定システムによれば、容量探針部20の保護電極23を接地電位とし探針電極21を電流電圧変換部50の端子a’に接続しているので、探針電極21が擬似接地電位となり、容量探針部20と基板支持体31との間の電界分布は、容量探針部20の保護電極23の外周部分で端面効果のために不均一となる。但し、探針電極21部分すなわち容量探針部20が測定する対象領域では電界分布が均一になるとともに、保護電極23から探針電極21に流れ込む漏れ電流の発生のような好ましくない電流の影響を受けなくなる。従って、抵抗率の測定精度を高めることができる。
【0085】
更に、本実施の形態に係る抵抗率測定システムによれば、電圧発生部40が発生する電圧の設定周期に同期して電流電圧変換部50とアナログ/ディジタル変換部60を動作させるので、設定周期毎にディジタルデータを加算処理することにより測定時の電気的ノイズ成分を低減することができる。従って、測定時の電気的ノイズに起因した抵抗率の測定値のばらつきを抑制できる。
【0086】
また、本実施の形態に係る抵抗率測定システムによれば、電圧発生部40が発生する電圧の設定周期Tの1/Nの時間間隔ΔT(=T/N)で得られたディジタルデータをフーリエ変換することにより、電圧発生部40が発生する電圧の、角周波数ωn(=2πn/T、n=0,1,2,・・・,N)における実数成分と虚数成分、並びに、実数成分および虚数成分から振幅成分と位相成分とを即座に算出できる。従って、実数成分、虚数成分、振幅成分および位相成分の周波数依存性が一度で高速に得られるので、基板W中に発生する直流ドリフトのような好ましくない電流の発生の影響を除去できる。それ故、抵抗率測定を高速且つ高精度に行うことができる。
【0087】
更に、本実施の形態に係る抵抗率測定システムによれば、電流電圧変換部50の周波数伝達関数の実数成分G(ωn)と虚数成分F(ωn)とを予め求めておくので、電圧発生部40が発生する電圧の設定周期Tの1/Nの時間間隔ΔT(=T/N)で得られたディジタルデータのフーリエ変換で得られた実数成分と虚数成分を容易に補正できる。従って、電流電圧変換部50の利得と位相の周波数依存性の影響を除去することができるので、高精度な抵抗率測定が可能になる。
【0088】
また、本実施の形態に係る抵抗率測定システムによれば、基板Wを基板支持体31に載置しない状態で容量探針部20を基板支持体31に近接して測定したディジタルデータをフーリエ変換することにより、電流電圧変換部50の周波数伝達関数の実数成分G(ωn)と虚数成分F(ωn)とを求める。このため、電流電圧変換部50の周波数伝達関数の実数成分G(ωn)と虚数成分F(ωn)とを比較的容易に求めることができる。
【0089】
更に、本実施の形態に係る抵抗率測定システムによれば、電圧発生部40が発生する電圧の波形が、設定周期Tの鋸波、矩形波または三角波である。これにより、電圧の波形をフーリエ級数展開すれば、角周波数ωn(=2πn/T、n=0,1,2,・・・,N)の正弦波または余弦波の和で表現される。即ち、電圧発生部40は、基本角周波数ω1から超高角周波数ω∞までの正弦波または余弦波の和で表される波形の電圧を印加することになるので、抵抗率を算出する際の処理を高速化できる。
【0090】
また、本実施の形態に係る抵抗率測定システムによれば、電圧発生部40が発生する電圧の設定周期Tが基板Wの誘電緩和時間τsよりも長い。これにより、誘電緩和時間τsの逆数である誘電緩和周波数ωsが基本角周波数ω1から超高角周波数ωMまでの角周波数範囲内になるように設定することができる。従って、電圧発生部40が発生する電圧の、フーリエ変換後の実数成分、虚数成分、振幅成分、および、位相成分のうちの少なくとも1つの周波数依存性から、高精度に抵抗率を算出することができる。
【0091】
更に、本実施の形態に係る抵抗率測定システムによれば、容量探針部20と基板Wとの間に空隙Gが形成された状態で、容量探針部20を基板支持体31に対して相対的に移動させることができる。これにより、基板Wを損傷させずに基板Wにおける複数の位置で抵抗率を高速かつ高精度に測定できるので、抵抗率分布を高速かつ高精度に測定することができる。
【0092】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前述の実施の形態の構成に限
定されるものではない。例えば、抵抗率算出部83は、前述の式(10)、式(11)で表されるRe[Vn(ωn)]と虚数成分Im[Vn(ωn)]ならびにフーリエ変換で求めた実数成分Pnと虚数成分Qnとから、誘電緩和時間τsを算出するものであってもよい。以下、Re[Vn(ωn)]ならびにIm[Vn(ωn)]を、τs、γ、Caをパラメータとした、Re[Vn(ωn:τs,γ,Ca)]並びにIm[Vn(ωn:τs,γ,Ca)]と表す。具体的には、抵抗率算出部83が、下記式(16)に示すような、各角周波数ωnにおけるRe[Vn(ωn:τs,γ,Ca)]とPnとの差の二乗の平均と、Im[Vn(ωn:τs,γ,Ca)]とQnとの差の二乗の平均とを、それぞれ重み付けして足し合わせた分散s2を表す誤差関数を用いるものであってもよい。
【0093】
【数16】
(n=1,2,3,・・・,N)
・・・式(16)
【0094】
ここで、実数成分の重み係数と虚数成分の重み係数とを、それぞれ、wとvとしている。抵抗率算出部83は、式(16)の誤差関数で表される分散s2が最尤推定値になるパラメータτs、γ、Caを最小二乗法によって算出する。
【0095】
また、抵抗率算出部83は、前述の式(13)で与えられているφn(ωn)とフーリエ変換で求めた位相成分Unとから、誘電緩和時間τsを算出するものであってもよい。以下、φn(ωn)を、τs、γをパラメータとした、φn(ωn)をφn(ωn:τs,γ)と表す。具体的には、抵抗率算出部83が、下記式(17)に示すような、各角周波数ωnにおけるφn(ωn:τs,γ)とUnとの差の二乗の平均、即ち、分散s2を表す誤差関数を用いるものであってもよい。
【0096】
【数17】
(n=1,2,3,・・・,N)
・・・式(17)
【0097】
抵抗率算出部83は、式(17)の誤差関数で表される分散s2が最尤推定値になるパラメータτs、γを最小二乗法によって算出する。ここで、式(17)の誤差関数で表される分散s2は、前述の式(15)または式(16)と異なり、パラメータCaに依存しない。従って、抵抗率算出部83は、最小二乗法によりパラメータτs,γをより早く算出することができる。
【0098】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、半絶縁性半導体基板の抵抗率、抵抗率分布を測定するための抵抗率測定システムとして好適である。
【符号の説明】
【0100】
20:容量探針部、21:探針電極、22:絶縁体部、23:保護電極、24:探針面、30:基板、31:基板支持体、32:絶縁支持体、40:電圧発生部、41:波形メモリ、42:ディジタル/アナログ変換回路、43:電力増幅回路、50:電流電圧変換部、51:帰還受動素子、52:演算増幅器、60:アナログ/ディジタル変換部、61:サンプリング/ホールド回路、62:アナログ/ディジタル変換回路、70:フーリエ変換部、81:前処理部、82:振幅位相算出部、83:抵抗率算出部、90:移動機構、91:X軸ステージ、91a,92a:移動台、92:Y軸ステージ、93:Z軸ステージ、95:制御部、96:X軸ドライバ、97:Y軸ドライバ、98:Z軸ドライバ、100:PC、a,a’,b,b’,c,c’,g:端子、G:空隙、VP1:仮想平面