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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067023
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】害虫誘引阻止材
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/34 20110101AFI20230509BHJP
   A01M 29/08 20110101ALI20230509BHJP
【FI】
A01M29/34
A01M29/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177945
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】504389485
【氏名又は名称】大成ファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池野谷 仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121BB25
2B121DA28
2B121DA37
2B121EA01
2B121FA12
2B121FA13
(57)【要約】
【課題】白色LED光源ランプを利用する場合であっても、人の視認性を確保しつつ優れた害虫誘引阻止能を有する、害虫誘引阻止材を提供する。
【解決手段】440~470nmの範囲および500~550nmの範囲にそれぞれ極小ピークが存在し、440~470nmの範囲に存在する極小ピークの光透過率が20%以下であり、500~550nmの範囲に存在する極小ピークの光透過率が20%以下である、透過スペクトルを有する、害虫誘引阻止材とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
440~470nmの範囲および500~550nmの範囲にそれぞれ極小ピークが存在し、440~470nmの範囲に存在する極小ピークの光透過率が20%以下であり、500~550nmの範囲に存在する極小ピークの光透過率が20%以下である、透過スペクトルを有する、害虫誘引阻止材。
【請求項2】
前記440~470nmの範囲における極小ピークの光透過率が5~20%であり、前記500~550nmの範囲における極小ピークの光透過率の10~20%である、請求項1に記載の害虫誘引阻止材。
【請求項3】
前記440~470nmの範囲における極小ピークが445~455nmの範囲にある、請求項1または2に記載の害虫誘引阻止材。
【請求項4】
前記500~550nmの範囲における極小ピークが510~540nmの範囲にある、請求項1~3のいずれか1項に記載の害虫誘引阻止材。
【請求項5】
430~570nmの範囲では30%以下の光透過率を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の害虫誘引阻止材。
【請求項6】
430~570nmの範囲では5~30%の光透過率を有する、請求項5に記載の害虫誘引阻止材。
【請求項7】
430~570nmの範囲では10~25%の光透過率を有する、請求項5に記載の害虫誘引阻止材。
【請求項8】
600nm以上の範囲では光透過率が20%以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の害虫誘引阻止材。
【請求項9】
600nm以上の範囲では光透過率が30%以上である、請求項8に記載の害虫誘引阻止材。
【請求項10】
550nmより大きな波長領域では、光透過率が少なくとも15%である、請求項1~9のいずれか1項に記載の害虫誘引阻止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫が感応する波長領域の光を低減して、害虫の飛来を抑制する害虫誘引阻止材に関する。
【背景技術】
【0002】
昆虫が光の刺激に誘引されて光源周囲に飛来する走光性は特定の波長領域の光によって引き起こされることが知られている。図8に示すように、多くの昆虫で走光性を生じさせる光の波長は、360~380nmを中心として、200~600nmの波長域にある。
このため、従来から、害虫対策として、夜間の照明について昆虫が感応する波長域の光を遮断する様々な方法が試みられている。
【0003】
紫外線領域の光に特化して遮断する害虫誘引阻止として、400nm以下の波長の透過率が20%以下で、かつ420nm以上の可視光領域の透過率が55%以上である害虫誘引阻止アクリル樹脂フィルム(特許文献1)および200~500nmの波長の光を選択的に吸収する遮光剤を透明合成樹脂に含有させた害虫誘引阻止材(特許文献2)が提案されている。
【0004】
また、380nm以下の波長の光を実質的に遮断して、400~480nmの波長の光透過率を30%以下とし、520nm以上の波長の光透過率を50%以上とし、580nm以上の波長の光は実質的に阻止しない合成樹脂シートが提案されている(特許文献3)。
【0005】
また、波長200~420nmでは10%以下、波長420~480nmでは30%以下、波長480nm以上では20~50%の光透過率を有する害虫誘引阻止材が開示されている(特許文献4)。
【0006】
また、450nm以下の波長域における光透過率が5%以下で且つ550nmを越える波長域における光透過率が80%以上である、黄系統色材を含む透光性フィルムからなる第一層と、350nm以下の波長域における光透過率が5%以下で且つ400nmを越える波長域における光透過率が50%以上である、青系統色材を含む透光性フィルムからなる第二層と、を積層してなる害虫誘引阻止シートが提案されている(特許文献5)。
また、黄系統色材と、当該黄系統色材と補色関係をなす青系統色材とを含有する透光性フィルムを有する、害虫誘引阻止材が開示されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-169767号公報
【特許文献2】特開昭63-133933号公報
【特許文献3】特公平4-65651号公報
【特許文献4】特許第2682818号公報
【特許文献5】特許第6282131号公報
【特許文献6】特開2015-149921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、引用文献1および2に記載する害虫誘引阻止フィルムは、紫外線を主として遮断しており、可視光における制御に欠けているため誘引阻止効果が不十分であった。他方、引用文献3~6の害虫誘引阻止材は、人間の視認性に対し配慮しながら害虫の誘引を阻止できるように紫外線領域の光のみならず可視光も一定の範囲で制御しようというものであるが、人間の視認性および誘引阻止効果をより改善し得るものであった。また、いずれの害虫誘引阻止材も、近年利用が進んでいる白色LED光源ランプへの適用を想定しておらず、白色LED光源ランプを利用する場合には、誘引阻止効果が低減するという問題点があった。
ここで、本願明細書において「人間の視認性」とは、ものの形を認識するために必要な明るさ、色の見え方を表す演色性(色の再現性)の双方に影響される、目で見た時の対象物の発見や理解、見やすさといった認識に関する指標である。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、白色LED光源ランプを利用する場合であっても、人の視認性、特に高い演色性を奏しながら優れた害虫誘引阻止能を有する、害虫誘引阻止材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的に鑑み、白色LED光源ランプの発光分光分布と、昆虫の分光感度をより詳細に検討し、可視光領域の特定の2つの波長範囲で局所的に光透過率を低くすることにより、人の視認性、特に高い演色性を奏しながらより効果的に害虫誘引阻止効果を発揮し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の害虫誘引阻止材を提供する。
[1] 440~470nmの範囲および500~550nmの範囲にそれぞれ極小ピークが存在し、440~470nmの範囲に存在する極小ピークの光透過率が20%以下であり、500~550nmの範囲に存在する極小ピークの光透過率が20%以下である、透過スペクトルを有する、害虫誘引阻止材。
[2] 前記440~470nmの範囲における極小ピークの光透過率が5~20%であり、前記500~550nmの範囲における極小ピークの光透過率の10~20%である、[1]に記載の害虫誘引阻止材。
[3] 前記440~470nmの範囲における極小ピークが445~455nmの範囲にある、[1]または[2]に記載の害虫誘引阻止材。
[4] 前記500~550nmの範囲における極小ピークが510~540nmの範囲にある、[1]~[3]のいずれか1項に記載の害虫誘引阻止材。
[5] 430~570nmの範囲では30%以下の光透過率を有する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の害虫誘引阻止材。
[6] 430~570nmの範囲では5~30%の光透過率を有する、[5]に記載の害虫誘引阻止材。
[7] 430~570nmの範囲では10~25%の光透過率を有する、[5]に記載の害虫誘引阻止材。
[8] 600nm以上の範囲では光透過率が20%以上である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の害虫誘引阻止材。
[9] 600nm以上の範囲では光透過率が30%以上である、[8]に記載の害虫誘引阻止材。
[10] 550nmより大きな波長領域では、光透過率が少なくとも15%である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の害虫誘引阻止材。
【0012】
本発明の害虫誘引阻止材は、上述の通り、可視光領域の特定の2つの狭い波長範囲で極小波長の光透過率が20%以下となるように、可視光領域の光透過率が緻密に制御されている。図7に示す通り、白色LED光源ランプの分光放射強度は、400nm以下の領域では殆どゼロである。他方、白色LED光源ランプの分光放射強度は、450nm付近に最も大きなピーク(強度比:約3.5)があり、その後低下して480nmで1以下の強度比となるが、そこから増加し570nm付近に2番目のピークがあり(強度比:約2.3)、そこから滑らかに減少する。
これに対して、多くの昆虫の走行度は、図8に示す通り、400nm以下の領域で最も大きくなり、420nm付近で最大ピークの10分の1以下になるが、その後、徐々に増加し450nm付近で最大ピークの10分の1程度となり、480nm付近で約5分の1に達する。その後、徐々に低下するが500nm付近で増加に転じ、520nm付近に小さなピークがあり、その後低下して、560nm付近でゼロになる。本発明では、両スペクトを緻密に照合し、可視光領域の特定の2つの狭い波長範囲における極小波長、具体的には、440~470nm、好ましくは445~455nmの範囲における極小波長および500~550nm、好ましくは520~530nmの範囲における極小波長の光透過率がそれぞれ20%以下となる光透過スペクトルを有する害虫誘引阻止材を設計している。後述する実施例により実証されている通り、本発明の害虫誘引阻止材は、この様な光透過スペクトルの緻密な制御により、人の良好な視認性を確保しつつより効果的に害虫誘引阻止効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1のシートの光透過スペクトルを示す。丸は極小ピークを示す。
図2】実施例2のフィルムの光透過スペクトルを示す。丸は極小ピークを示す。
図3】比較例1のフィルムの光透過スペクトルを示す。
図4】比較例2のシートの光透過スペクトルを示す。丸は極小ピークを示す。
図5】比較例3のフィルムの光透過スペクトルを示す。丸は極小ピークを示す。
図6】防虫誘引抑制効果の試験に用いた装置の概略を示す。
図7】一般的な昼白色LED光源ランプの分光放射強度を示す。
図8】昆虫の走行度と波長との関係の一例を示すグラフである(E.D.Bickford, I.E.S.Nat-conf.Paper,1964から引用)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定して理解されるべきものではない。
【0015】
本発明は、その実施形態において、可視光領域の450nm付近と520nm付近の特定の2つの狭い波長範囲で極小ピークを有し、その光透過率がそれぞれ20%以下である、光透過スペクトルを有する害虫誘引阻止材を提供する。上述の通り、昆虫の分光感度および白色LED光源ランプの分光放射強度から、この2つの狭い波長範囲で局所的に光透過率を低下させることで、人の良好な視認性を確保しつつより効果的に害虫誘引阻止効果を発揮し得る。
【0016】
具体的には、本発明の実施形態による害虫誘引阻止材は、440~470nmの範囲および500~550nmの範囲に極小ピークを有し、その光透過率がそれぞれ20%以下となるように、可視光領域の光透過率スペクトルが制御されている。ここで、本願明細書において「極小ピーク」とは、ある特定の波長範囲(例えば、440~470nmの範囲)に存在する光透過率が最小となり、その前後の波長で光透過率が増加しているポイントを意味する。
440~470nmの範囲における極小ピークの光透過率は、より優れた演色性を奏しながら効果的に害虫誘引抑制効果を発揮させるために、好ましくは5~20%であり、より好ましくは10~20%であり、更に好ましくは15~20%である。同様の点で、500~550nmの範囲における極小ピークの光透過率は、好ましくは10~20%であり、より好ましくは10~18%であり、更に好ましくは10~15%である。
【0017】
また、より高い昆虫誘引抑制効果を発揮させるためには、440~470nmの範囲における極小ピークは、445~455nmの範囲にあることが好ましく、447~453nmの範囲にあることがより好ましい。同様に、500~550nmの範囲における極小ピークは、510~540nmの範囲にあることが好ましく、520~530nmの範囲にあることがより好ましい。
【0018】
また、430~570nmの範囲が、可視光領域で多くの昆虫が感応する主要な波長範囲であるため、人間の視認性を確保しつつ更に誘引阻止効果を高めるためには、この範囲の光透過率を5~30%に制御することが好ましく、10~25%の光透過率に制御することがより好ましい。
【0019】
他方、550nmより大きな波長領域では光透過率を高め、555nm付近に極小ピークが存在しないようにすることが好ましい。570nm付近には、白色LED光源ランプの第2の発光強度を有するピークがあるが、555nm付近は人間が最も明るさを強く感じる波長であり、550nmより大きな波長領域では、多くの昆虫の分光感度(走行度)は非常に小さく、600nmでほぼゼロになる。従って、この波長領域の光透過率を高めることで、昆虫誘引抑制効果に悪影響を及ぼすことなく人間の視認性をより高めることができる。具体的には、550nmより大きな波長領域では、光透過率を少なくとも15%とすることが好ましく、20%以上とすることがより好ましい。より具体的には、光透過率を15%~70%とすることが好ましく、20%~70%とすることがより好ましい。
【0020】
特に、600nm以上の範囲では、昆虫の分光感度(走行度)はほぼゼロであり、白色LED光源ランプの発光強度は徐々に低くなるので、昆虫誘引抑制効果に悪影響を及ぼすことなくより演色性を高めるために、光透過率を20%以上とすることが好ましく、30%以上とすることがより好ましい。より具体的には、光透過率を20%~70%とすることが好ましく、30%~70%とすることがより好ましい。
【0021】
上述の通り、白色LED光源ランプの分光放射強度は、400nm以下の範囲では殆どゼロである。従って、害虫誘引阻止材を白色LED光源ランプに適用する場合には、400nm以下の領域での光吸収特性は要求されない。しかし、蛍光灯にも適用可能とするために、400nm以下の領域での光吸収特性を付与してよい。この場合には、420nm以下の範囲の光透過率が30%となるようにすることが好ましく、20%となるようにすることがより好ましい。
【0022】
害虫誘引阻止材における上述した透過スペクトルは、イエロー系またはオレンジ系の色材と、レッド系またはバイオレット系の色材と、ブルー系またはブラック系の色材とを適宜組み合わせることで得ることができる。
より具体的には、イエロー系またはオレンジ系の色材によって、主に440~470nmの範囲、特に450nm付近の光を吸収することができる。また、レッド系またはバイオレット系の色材によって、主に500~550nmの範囲、特に520nm付近の光を吸収することができる。更に、ブルー系またはブラック系の色材によって、イエロー系またはオレンジ系の色材およびレッド系またはバイオレット系の色材で吸光度の低い波長の吸収を補って、430~570nmの範囲で全体的に光を吸収することができる。
個々の色材は、それぞれ固有の光透過スペクトルを有しており、所望の透過スペクトルを有する害虫誘引阻止材を設計する際には、使用する色材の光透過スペクトルに応じて、色材の組み合わせ、各色材の含有量および害虫誘引阻止材の厚さを決める必要がある。もっとも、多くの場合、害虫誘引阻止材は0.01mm~3.0mmの厚さで設計され、イエロー系またはオレンジ系の色材は、通常、害虫誘引阻止材中0.002~3.0%の濃度で含有させればよく、0.005~1.5%の濃度で含有させることが好ましい。また、多くの場合、レッド系またはバイオレット系の色材は、害虫誘引阻止材中0.001~1.0%の濃度で含有させればよく、0.002~0.5%の濃度で含有させることが好ましい。また、ブルー系またはブラック系の色材は、通常、害虫誘引阻止材中0.001~1.0%の濃度で含有させればよく、0.002~0.5%の濃度で含有させることが好ましい。
【0023】
イエロー系またはオレンジ系の色材としては、特に限定するものではないが、耐候性の点で顔料が好ましく、アゾ系、イソインドリノン系、アゾメチン系、ジケトピロロピロール系、またはペリノン系等の顔料を挙げることができる。
中でも、ジケトロピロロピロール系オレンジが、耐候性、透明性、波長吸収性の点で好ましい。
【0024】
レッド系またはバイオレット系の色材としては、特に限定するものではないが、耐候性の点で顔料が好ましく、キナクリドン系、ジオキサジン系、ペリレン系等の顔料を挙げることができる。中でも、ジオキサジン系バイオレットが、耐候性、透明性、波長吸収性の点で好ましい。
【0025】
ブルー系またはブラック系の色材としては、特に限定するものではないが、耐候性の点で顔料が好ましく、ブルー系として、銅フタロシアニン系、アントラキノン系、コバルト系等の顔料を挙げることができる。中でも銅フタロシアニン系が耐候性、透明性の点で好ましい。ブラック系としては、カーボンブラック、酸化鉄、銅・クロムブラック系、等を挙げることができる。中でも、カーボンブラックが耐候性、透明性の点で好ましい。
【0026】
蛍光灯にも適用可能な害虫誘引阻止材を設計する場合、400nm以下の領域での光吸収特性を付与するために、紫外線吸収剤を含有することが好ましい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系等の紫外線吸収剤が挙げられる。ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2,2-ジ-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2-ジ-ヒドロキシ-4,4-ジ-メトキシベンゾフェノンが挙げられる。
【0027】
ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等が挙げられる。シアノアクリレート系の紫外線吸収剤としては、2-エチルヘキシル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、エチル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、ヘキサデシル2-シアノ-3-(4-メチルフェニル)アクリレート等が挙げられる。トリアジン系紫外線吸収剤としては、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0028】
害虫誘引阻止材は、例えば、上述した色材と透明な樹脂を含む固形組成物を、加圧下および/または加熱下でシート状、フィルム状、プレート状等に成型して、色材が樹脂中に分散している成型品をすることで製造することができる。得られた成型品は、更に透明な樹脂のシート、フィルム、プレート等に積層して、害虫誘引阻止材としてもよい。
色材を分散させる樹脂および色材を分散させたシート等が積層されるシート等を構成する樹脂は、透明で有れば特に制限はないが、例えば塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂が挙げられる。また、害虫誘引阻止材に粘着性を付与する場合には、上述の樹脂に粘着性を付与した樹脂を選択すればよい。
【0029】
色材が樹脂に分散された害虫誘引阻止材を成型する方法としては、例えば押出法、カレンダー法、等を挙げることができる。押出法では、各種配合剤を抽入口からシリンダーに入れ、スクリューと呼ばれる大型ねじを回して材料を送りながら、溶融、混練して、口金から一定の形状で押し出されて成型される。カレンダー法では、各種配合剤を加熱混錬し、流動性のコンパウンド状にした後、加熱した最初のローラー2本に挟み込みながら圧延し、途中何本かのローラーを配して加熱され、最後に冷却されたローラー表面に沿わせて薄く成膜され、巻き取って成型される。
成型に供する組成物は、通常50~99.99質量%の樹脂と、0.005~1.5質量%のイエロー系またはオレンジ系の色材と、0.002~0.5質量%のレッド系またはバイオレット系の色材と、0.002~0.5質量%のブルー系またはブラック系の色材と、0~1.0質量%の紫外線吸収剤とを配合して調製すればよく、70~99.9質量%の樹脂と、0.005~0.2質量%のイエロー系またはオレンジ系の色材と、0.002~0.1質量%のレッド系またはバイオレット系の色材と、0.002~0.1質量%のブルー系またはブラック系の色材と、0~0.1質量%の紫外線吸収剤とを配合して調製することが好ましい。
【0030】
害虫誘引阻止材はまた、上述した色材および透明な樹脂を溶媒中に溶解した液状組成物を調製し、この組成物を基材(積層体とする場合には基材は透明な樹脂からなる)に塗布し、溶媒を揮散させて製造することができる。
色材と樹脂を有機溶媒中に含有する溶液は、通常10~30質量%の樹脂と、0.01~0.6質量%のイエロー系またはオレンジ系の色材と、0.002~0.2質量%のレッド系またはバイオレット系の色材と、0.002~0.2質量%のブルー系またはブラック系の色材と、0~0.5質量%の紫外線吸収剤と、70~90質量%の有機溶媒とを配合して調製すればよく、15~25質量%の樹脂と、0.1~0.3質量%のイエロー系またはオレンジ系の色材と、0.003~0.1質量%のレッド系またはバイオレット系の色材と、0.003~0.1質量%のブルー系またはブラック系の色材と、0~0.3質量%の紫外線吸収剤と、75~85質量%の有機溶媒とを配合して調製することが好ましい。有機溶剤は、樹脂を溶解し得るものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、イソプロピルアルコール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤を挙げることができる。また、害虫誘引阻止材を粘着性フィルムとして製造する場合には、粘着性の樹脂を上述した色材と共に溶媒中に溶解し、この組成物を基材に塗布することで製造することができる。このような粘着性の樹脂としては、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコン粘着剤等が挙げられる。
基材への塗布方法についても、特に制限はなく、例えば、バーコーター、グラビアコーター、リバースコーター等を用いて行うことができる。
色材と樹脂を含む組成物または溶液は、必要に応じて、安定剤、加工補助剤、可塑剤、充填剤、着色剤、抗菌剤等の添加剤を含んでよい。
【0031】
光透過率は、害虫誘引阻止材の厚さによっても変動するため、害虫誘引阻止材の厚さは、所望の光透過スペクトルが得られるように適宜調整することが好ましい。色材の含有量によって変動するが、通常、0.01mm~3.0mmとすればよく、0.02mm~2.0mmとすることが好ましい。
【0032】
本発明の害虫誘引阻止材は、主に、白色LED光源ランプへの適用が望ましく、白色LED光源ランプとしては、青色LEDと黄色蛍光体との組み合わせ、青色LEDと緑色LEDと赤色LEDとの組み合わせ、近紫外LEDと青色緑色赤色蛍光体の組み合わせ等があり、もっとも一般的な青色LEDと黄色蛍光体による白色LED光源ランプへの適用が望ましい。もっとも、紫外線吸収特性を付与した害虫誘引阻止材では、蛍光灯等の紫外線領域の光を放出する光源でも適用可能である。
本発明の害虫誘引阻止材は、例えば、工場等の建築物の間仕切り、また短冊状に切断してカーテンとして使用することができる。また、粘着性を付与することで、工場、レストラン等の現場で、建築物の透明な窓ガラス、アクリル板等に貼り付けて、防虫フィルムとして利用される。また、直管型ランプへの被覆、ライトユニットのカバーとして防虫用ライトに利用される。また、ポリエステル製の基布に両面から貼り合わせ、シャッター用シート、間仕切り用シートとして利用される。
【実施例0033】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、特に言及しない場合、「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0034】
[実施例1]
以上の成分を配合して、ポリ塩化ビニル系着色組成物を調製した。
【表1】
【0035】
得られた着色組成物をカレンダー法により0.3mm厚の赤茶系シートを作成した。このシートは、防虫シートとして、工場等の建築物の間仕切り、また短冊状に切断してカーテンとして使用することができる。
作成したシートについて、300nm~800nmの範囲の透過率を、分光光度計(日本分光社製V-670)により分析した。図1に、得られた光透過スペクトルを示す。図1に示す通り、430~570nmの範囲では13~22%の光透過率を有するが、600nm以上の範囲では、光透過率が32%以上である。また、440~470nmの範囲では、445nmに極小ピークが存在し、その光透過率は16%であった。また、500~550nmの範囲では530nmに極小ピークがあり、その光透過率は13%であった。
【0036】
[実施例2]
以上の成分を配合して、アクリル系着色粘着組成物を調製した。
【表2】

得られた着色組成物を、バーコーターにて、厚さ50μmのポリエステルフィルムに、厚さ20μmで塗布し、これに、離型フィルムを貼り合わせ、黄緑系の接着フィルムを作成した。これは、防虫フィルムとして、工場、レストラン等の現場で、離型フィルムを剥離し、建築物の透明な窓ガラス、アクリル板等に貼り付けて利用される。
離型フィルムを剥離後の粘着フィルムについて、300nm~800nmの範囲の透過率を、分光光度計(日本分光社製V-670)により分析した。図2に、得られた光透過スペクトルを示す。図2に示す通り、430~570nmの範囲では7~27%の光透過率を有するが、600nm以上の範囲では光透過率が21%以上である。また、440~470nmの範囲では445nmに極小ピークがあり、その光透過率は7%であった。また、500~550nmの範囲では530nmに極小ピークがあり、その光透過率は18%であった。
【0037】
[比較例1]
以上の成分を配合して、アクリル系着色粘着組成物を調製した。
【表3】

得られた着色組成物を、バーコーターにて、厚さ50μmのポリエステルフィルムに、厚さ20μmで塗布し、これに、離型フィルムを貼り合わせ、灰色系の接着フィルムを作成した。
作成した粘着フィルムを、離型フィルムを剥離した状態で、300nm~800nmの範囲の透過率を、分光光度計(日本分光社製V-670)により分析した。図3に、得られた光透過スペクトルを示す。図3に示す通り、430~570nmの範囲では17~22%の光透過率を有し、600nm以上の範囲では、光透過率が24%以上である。430~800nmまで光透過率がなだらかに上昇し、440~470nmの範囲および500~550nmの範囲に極小ピークが存在しない。
【0038】
[比較例2]
以上の成分を配合して、ポリ塩化ビニル系着色組成物を調製した。
【表4】
【0039】
得られた着色組成物をカレンダー法により0.3mm厚の赤紫系シートを作成した。
作成したシートについて、300nm~800nmの範囲の透過率を、分光光度計(日本分光社製V-670)により分析した。図4に、得られた光透過スペクトルを示す。図4に示す通り、430~570nmの範囲では11~56%の光透過率を有し、600nm以上の範囲では、光透過率が40%以上である。440~470nmの範囲では極小ピークが認められず、440nmで52%の光透過率であり、470nmでの光透過率は36%であった。500~550nmの範囲では530nmで極小ピークが認められ、その光透過率は、11%であった。
【0040】
[比較例3]
以上の成分を配合して、アクリル系着色粘着組成物を調製した。
【表5】

得られた着色組成物を、バーコーターにて、厚さ50μmのポリエステルフィルムに、厚さ20μmで塗布し、これに、離型フィルムを貼り合わせ、黄緑系の接着フィルムを作成した。
作成した粘着性フィルムを、離型フィルムを剥離した状態で、300nm~800nmの範囲の透過率を、分光光度計(日本分光社製V-670)により分析した。図5に、得られた光透過スペクトルを示す。図5に示す通り、430~570nmの範囲では8~30%の光透過率を有し、600nm以上の範囲では、光透過率が17~37%である。440~470nmの範囲における極小ピークが450nmにあり、その光透過率は8%であった。500~550nmの範囲においては、光透過率は、19%から29%に増加していき極小ピークは認められなかった。
【0041】
[評価試験]
実施例1および2ならびに比較例1~3の害虫誘引阻止材について、可視光線透過率、平均演色評価数(Ra)および昆虫誘引阻止率を評価した。
【0042】
1.可視光線透過率
可視光線透過率は、分光光度計を用いて波長380~780nmまでの光透過率を測定し、JIS A5759に従って求めた。
【0043】
2.平均演色評価数(Ra)
JIS Z8726で定められている基準光で見たR1~R8各試験色に対し、対象光源で照らしたときの各試験色がどれだけ忠実に再現できているかを示す、演色性の評価指標である。
実施例1および2ならびに比較例1~3の害虫誘引阻止材で被覆した10形の直管昼白色LEDランプから得られた光について、分光放射照度計(UPRTEK社製PG-200N)を用いてR1~R8の平均値を計算して平均演色評価数(Ra)を求めた。
【0044】
3.害虫誘引阻止効果
実施例1、2及び比較例1~3の害虫誘引阻止材で被覆した白色LEDランプについて、害虫誘引阻止材で被覆しない白色LEDランプと比較して害虫誘引阻止効果を評価した。
試験は、図6に示す照明装置を用いて行った。この装置には、上述した各白色LEDランプ14が組み込まれ、ランプの両側に粘着シート13が付設されている。従って、白色LEDランプ14に誘引された昆虫が粘着シート13で捕獲される。試験では、照明装置を、段ボール17の上に載置して使用した。白色LEDランプは、型番:LDF10ss・N/6/6、オーム電機社製を使用した。
試験では、各害虫誘引阻止材で被覆した白色LEDランプと、害虫誘引阻止材で被覆しない白色LEDランプとを5m離して配置し、夜間20分間点灯した際に各装置の粘着シートに捕捉された昆虫の数から、以下の式に従って誘引阻止率を求めた。
【数1】
【0045】
各害虫誘引阻止材で被覆した白色LEDランプの平均演色評価数(Ra)および害虫誘引阻止効果についての試験結果を、各害虫誘引阻止材の可視光領域での光透過特性と共に以下に示す。
【表6】
【0046】
上記の通り、実施例1および2比較例1~3の何れの害虫誘引阻止材でも可視光線透過率は、21または22%と同じであったが、実施例1および2の害虫誘引阻止材で被覆した白色LEDランプでは、高い演色性を奏しながらも、優れた害虫誘引阻止効果を発揮したのに対して、比較例1~3の害虫誘引阻止材で被覆した白色LEDランプでは、害虫誘引阻止効果が低かった。また、比較例2および3の害虫誘引阻止材で被覆した白色LEDランプでは、演色性の点でも劣る結果となった。
【符号の説明】
【0047】
1 照明装置
2 粘着シート
3 光源(各害虫誘引阻止材で被覆した白色LEDランプ、または害虫誘引阻止材で被覆しない白色LEDランプ)
4 段ボール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8