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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067024
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】組み合わせ皮膚生理パラメータ解析法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/107 20060101AFI20230509BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
A61B5/107 800
A61B5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177947
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(72)【発明者】
【氏名】川本 宗孝
(72)【発明者】
【氏名】大栗 基樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 牧人
【テーマコード(参考)】
4C038
4C117
【Fターム(参考)】
4C038VB03
4C038VB22
4C038VC05
4C117XA02
4C117XB13
4C117XD04
4C117XD05
4C117XE03
4C117XE42
4C117XG54
(57)【要約】
【課題】被検者の皮膚生理パラメータの分析に基づく被検者の肌の状態の評価方法を提供することを目的とする。
【解決手段】被検者の皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトルである被検者皮膚生理パラメータベクトルを生成し、あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータを表す複数の基準皮膚生理パラメータベクトルの各々と、前記被検者皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算することを含む肌状態の評価方法が提供される。また,被検者の皮膚生理パラメータの分析に基づき肌状態の評価を行うための装置およびプログラムも提供される。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)被検者の皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトル(nは2以上の整数)である被検者皮膚生理パラメータベクトルを得るステップ,
b)あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトルである複数の基準皮膚生理パラメータベクトルの各々と,前記被検者皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算するステップ,
c)ステップbの計算の結果として,最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定するステップ,
d)被検者の肌の状態が,ステップcで同定された基準皮膚生理パラメータに対応する肌の状態に類似していると評価するステップ
を含む,被検者の肌の状態の評価方法。
【請求項2】
複数の基準皮膚生理パラメータベクトルが,年齢別にあらかじめ決定されている,請求項1記載の方法。
【請求項3】
同一の被検者について,複数の異なる皮膚生理パラメータに基づき,ステップa~dを繰り返して得られる複数の結果から,被検者の肌の状態を評価する,請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
被検者皮膚生理パラメータベクトルの各要素が,シワの深さおよび/または面積に基づきn段階に層別化したシワの合計面積または体積を表す,請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
シワが被検者の目尻のシワである,請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
複数の基準皮膚生理パラメータベクトルが,男女別または所定の群別にあらかじめ決定されている,請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
被検者の肌年齢を評価するステップをさらに含む,請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
被検者の皮膚生理パラメータが,被検者の顔の画像および/または形状を解析することにより得られる,請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
複数の基準皮膚生理パラメータが,欠損しているデータを補完することにより得られる,請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
データが時系列データまたは年齢別データであり,欠損データの補完が,状態空間モデルまたは移動平均を用いて行われる,請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の肌の状態の評価方法の結果に基づき,被検者に適したスキンケア製品を提案する,レコメンド方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成された装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ヒトの肌状態の評価方法に関し,より詳細には,シワの評価法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚老化は,加齢,ホルモン,代謝等の内部要因と,紫外線,乾燥等の外部要因を含め様々な因子が介在する皮膚の変化である。皮膚老化は,例えば,しみ,しわ,たるみ,しぼみなどの形で外観上とらえられるが,例えば,皮膚内部組織の構造や構成成分の変化といった目に見えない老化が進行している場合もある。例えば,特許文献1では,血中ビタミンD濃度を指標として,老化を評価している。特許文献2では,皮膚におけるE-cadherin遺伝子,T-cadherin遺伝子等の遺伝子発現を指標とする。特許文献3では,線維芽細胞におけるOLFML2A及び/又はCRLF1の遺伝子発現を指標とする。
【0003】
このように,皮膚老化を判断する種々の指標が存在するが,肌状態を適切に評価し,老化を予防・改善するための対策をとることが重要であり,更なる指標による肌状態の評価方法が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-216435号公報
【特許文献2】特開2010-115131号公報
【特許文献3】特開2013-116088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の1つの目的は,データサイエンスの観点から,更なる指標による肌状態の評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示により,被検者の皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトル(nは2以上の整数)である被検者皮膚生理パラメータベクトルを生成し,あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトルである複数の基準皮膚生理パラメータベクトルの各々と,前記被検者皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算することによって,被検者の肌状態を評価する方法,装置及びプログラムが提供される。
【0007】
より具体的には,本開示は以下の態様に関する:
[態様1] a)被検者の皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトル(nは2以上の整数)である被検者皮膚生理パラメータベクトルを得るステップ,
b)あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトルである複数の基準皮膚生理パラメータベクトルの各々と,前記被検者皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算するステップ,
c)ステップbの計算の結果として,最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定するステップ,
d)被検者の肌の状態が,ステップcで同定された基準皮膚生理パラメータに対応する肌の状態に類似していると評価するステップ
を含む,被検者の肌の状態の評価方法。
[態様2] 複数の基準皮膚生理パラメータベクトルが,年齢別にあらかじめ決定されている,態様1記載の方法。
[態様3] 同一の被検者について,複数の異なる皮膚生理パラメータに基づき,ステップa~dを繰り返して得られる複数の結果から,被検者の肌の状態を評価する,態様1または2記載の方法。
[態様4] 被検者皮膚生理パラメータベクトルの各要素が,シワの深さおよび/または面積に基づきn段階に層別化したシワの合計面積または体積を表す,態様1~3のいずれか一項に記載の方法。
[態様5] シワが被検者の目尻のシワである,態様1~4のいずれか一項に記載の方法。
[態様6] 複数の基準皮膚生理パラメータベクトルが,男女別または所定の群別にあらかじめ決定されている,態様1~5のいずれか一項記載の方法。
[態様7] 被検者の肌年齢を評価するステップをさらに含む,態様1~6のいずれか一項記載の方法。
[態様8] 被検者の皮膚生理パラメータが,被検者の顔の画像および/または形状を解析することにより得られる,態様1~7のいずれか一項記載の方法。
[態様9] 複数の基準皮膚生理パラメータが,欠損しているデータを補完することにより得られる,態様1~8のいずれか一項記載の方法。
[態様10] データが時系列データまたは年齢別データであり,欠損データの補完が,状態空間モデルまたは移動平均を用いて行われる,態様9記載の方法。
[態様11] 態様1~10のいずれか一項に記載の肌の状態の評価方法の結果に基づき,被検者に適したスキンケア製品を提案する,レコメンド方法。
[態様12] 態様1~11のいずれか一項に記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
[態様13] 態様12に記載のプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
[態様14] 態様1~11のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成された装置。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は,男性(Male)と女性(Female)のシワのサイズ(小さい方から順にSS,SL,M,L)と数の分布データを示している。SSとはシワ面積1.0mm2未満・シワ深さ110μm未満のシワ,SLとはシワ面積2.0mm2未満・シワ深さ180μm未満でSSに該当しないシワ,MとはSS・SL・Lに該当しないシワ,Lとはシワ面積4.0mm2以上・シワ深さ360μm以上のシワを指す。
図2図2は,シワのサイズ(小さい方から順にSS,SL,M,L)ごとの状態空間モデルで補完したデータを示している。
図3図3は,シワのサイズ(小さい方から順にSS,SL,M,L)ごとの移動平均で補完したデータを示している。
図4図4は,男女の年齢差について,状態空間モデルで補完したデータを解析した結果を示している。
図5図5は,男女の年齢差について,移動平均で補完したデータを解析した結果を示している。
図6A図6Aは,本開示に係る装置の構成例を示している。
図6B図6Bは,本開示に係る装置の構成例を示している。
図7図7は,本開示に係るシステムの構成例を示している。
図8図8は,本開示に係る処理を実現可能なハードウェア構成の一例を示す図である。
図9A図9Aは,本開示に係る装置による処理(プログラム)の一例を示すフローチャートである。
図9B図9Bは,本開示に係る装置による処理(プログラム)の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[肌状態の評価方法]
本開示の1つの態様は,被検者皮膚生理パラメータをベクトル化して解析することを特徴とする被検者の肌の状態の評価方法に関する。より具体的には,a)被検者の皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトル(nは2以上の整数)である被検者皮膚生理パラメータベクトルを得るステップ,b)あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトルである複数の基準皮膚生理パラメータベクトルの各々と,前記被検者皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算するステップ,c)ステップbの計算の結果として,最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定するステップ,ならびにd)被検者の肌の状態が,ステップcで同定された基準皮膚生理パラメータに対応する肌の状態に類似していると評価するステップを含む,被検者の肌の状態の評価方法に関する。なお,これらのステップは,コンピュータを用いて実行されてもよく,よって,本開示の1つの態様は,コンピュータにより実装される方法でありうる。
【0010】
さらに,本開示の1つの態様は,同一の被検者について,複数の異なる皮膚生理パラメータに基づき,上記のステップa~dを繰り返して得られる複数の結果から,被検者の肌の状態を評価する方法に関する。
【0011】
[被検者の皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトル(nは2以上の整数)である被検者皮膚生理パラメータベクトルを得るステップ]
被検者皮膚生理パラメータベクトルの各要素は,例えば,シワの深さおよび/または面積に基づきn段階に層別化したシワの合計面積を表すものでありうるが,これに限定はされない。nは2以上の整数であり,例えば,2~50の整数,例えば,2,3,4,5,6,7,8,9,10,15,20,25,30でありうるが,これらに限定はされない。例えば,シワの大きさを小さい方から,SS,SL,M,およびLの4段階に層別化して,それぞれのレベルごとに合計面積を算出して,4次元ベクトル化することができる。その他の皮膚生理パラメータは,例えば,シミ,肌色,ツヤ,ハリ,弾力性,粘性,たるみ,バリア性,保湿性,うるおい,皮脂などに関するものでありうるが,これらに限定はされない。また,種類の異なる皮膚生理パラメータを組み合わせて解析に用いてもよく,1つのベクトルに異なる属性に由来するパラメータが含まれていてもよい。例えば,1つの皮膚生理パラメータベクトルに,シワに関する情報とシミに関する情報が一緒に含まれていてもよい。
【0012】
シワは,例えば,被検者の目尻のシワでありうるが,これに限定はされない。例えば,被検者の皮膚生理パラメータは,被検者の肌の画像および/または形状を取得して,解析を行うことにより,取得することができる。あるいは,被検者の皮膚生理パラメータは,専用の各種測定機器を用いた測定や,熟練者による観察にもとづいて取得してもよい。シワの評価は,例えば,肌画像診断装置(例えば,Canfield Scientific社製Visia Evolutionなど)を用いた画像解析により行うことができる。本開示の方法は,被検者の肌の画像および/または形状を取得するステップ,および被検者の肌の画像および/または形状を解析して皮膚生理パラメータベクトルを生成するステップをさらに含みうる。
【0013】
シワを含む肌画像の取得方法について,例えばシワ部位のレプリカを採取後,斜光照明を当て,それにより生じた鋳型の影を画像として取得する手法や,所定条件の照明とデジタルカメラとから構成される顔画像取得システム等により,被検者の顔画像を撮影し,取得された顔画像から,特定される部位(例えば,目尻)の肌画像を取得する手法を用いることができる。顔画像取得システムとしては,本出願人の特許第5528692号に記載された装置等を用いることが可能である。
【0014】
上述した顔画像取得システムにより撮影される画像は,例えば拡散光を照射することにより肌表面の反射や影の影響等を抑えることが可能であり,撮影された部位の皮膚の「色」を計測し,肌の色情報を取得することが可能である。例えば,特許第5528692号に記載の装置は,取得された肌画像に対して画像処理を実行し,肌画像の解析領域からシミの領域を抽出することができる。同様な画像解析技術を用いて,画像中のシワを同定し,シワの大きさ,シワの深さ,面積,および体積などを解析することができる。上述のように,シワの評価は,例えば,肌画像診断装置(例えば,Canfield Scientific社製Visia Evolutionなど)を用いた画像解析により行ってもよい。そのほか,機器計測法としては,例えばシワ部位のレプリカによる斜光照明を用いた二次元画像解析法やレプリカによる三次元解析法,in vivo(直接法)による三次元解析法等が存在する。レプリカによる解析法としては,例えばシワ部位のレプリカを採取した後,斜光照明を当て,それにより生じたシワの鋳型に起因する影を画像解析する手法や,光切断法により三次元形状を得る手法がある。また,in vivo(直接法)による三次元解析法としては,例えばPRIMOS(Phaseshift-Rapid In-vivo Measurement Of Skin:ドイツGFM社製の生体直接(in vivo)測定用三次元測定装置)を用いて目尻にスリットパターンを直接投影することにより非接触で三次元形状を得る手法がある。
【0015】
[あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトルである複数の基準皮膚生理パラメータベクトルの各々と,前記被検者皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算するステップ]
複数の基準皮膚生理パラメータベクトルは,例えば,年齢別にあらかじめ決定されたものでありうる。複数の基準皮膚生理パラメータベクトルは,例えば,男女別または他の所定の群別(例えば,体重別,身長別などの任意の属性に基づき層別化した群別)にあらかじめ決定されたものであってもよい。例えば,基準皮膚生理パラメータベクトルとして,年齢ごと(例えば,20歳から79歳),男女ごとに,シワの大きさを小さい方から,SS,SL,M,およびLの4段階に層別化して,それぞれのレベルごとに合計体積を算出し,4次元ベクトル化したものを用意することができる。基準皮膚生理パラメータベクトルの作成にあたっては,各年齢,性別について,複数のサンプルからデータを取得し,その統計量(平均値,中央値,最頻値など)を用いることができる。例えば,20歳から79歳,男女ごとに基準皮膚生理パラメータベクトルを用意する場合,合計120個の基準皮膚生理パラメータベクトルが作られることになる。それぞれについて,例えば,5人分のデータを取得するとした場合,合計600個の基準皮膚生理パラメータベクトルを集める必要が生じる。
【0016】
例えば,基準皮膚生理パラメータベクトルを作成する際に,すべての年齢におけるデータが揃っていない場合もありうる。そのような場合には,欠損しているデータを補完することにより,複数の基準皮膚生理パラメータを取得してもよい。データが時系列データである場合には,欠損データの補完は,例えば,状態空間モデルまたは移動平均を用いて行うこともできる。
【0017】
時系列データは自己相関があるという特徴を持ち,独立性の担保が必要な通常の統計解析手法を用いることはできない。状態空間モデル(SSM)は,時系列解析に用いられる手法の一つであり,その特徴は,時系列で推移する観測できない潜在的な「状態」から観測値を得られると考える点にある。状態空間モデルは,観測できない潜在的な真の状態の変化の原理を表す「システムモデル」とそれを表す数式である「状態方程式」,観測値が得られるかどうかを示す「観測モデル」とそれを表す数式である「観測方程式」からなり,ある時点の観測できない「状態」をその前時点の「状態」の関数と状態ノイズで表し,観測値はその時点の状態の関数と観測ノイズで表す。ある時点の観測値は一つ前の観測値を参照しない点が,直接的に観測値の関係性を求めていく単純な時系列分析と大きく異なる点であり,モデルがシステムモデルと観測モデルとで分かれている特徴から柔軟なモデリングを行うことが可能である.また,観測できない潜在的な「状態」を想定しているため,観測された時系列データに欠損値がある場合にも扱うことが可能である。状態空間モデルの計算は,例えば,stanとR,Pythonを利用して行うことができる。
【0018】
移動平均(MA)とは,時系列データにおいて,ある一定区間ごとの平均値を,区間をずらしながら求めたものである。移動平均は,主に時系列のデータを平滑化するためによく用いられる。移動平均には,単純移動平均(SMA),加重移動平均(WMA),指数移動平均(EMA)などの種類があり,当業者は適切な手法を適宜選択することができる。移動平均の計算は,例えば,RやPythonのライブラリを利用して行うことができる。
【0019】
本開示に係る評価方法は,評価のために,基準皮膚生理パラメータベクトルと被検者の皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算するステップを含むことを特徴とする。コサイン類似度は,ベクトル空間モデルにおいて,ベクトル同士を比較する際に用いられる類似度計算手法である。コサイン類似度は 2本のベクトルがどれくらい同じ向きを向いているのかを表す指標であり,そのままベクトル同士のなす角度の近さを表すため,通常の三角関数のコサインと同様に,1に近ければ類似しており,0に近ければ類似していないことになる。コサイン類似度は-1から1の値を取りうる。例えば,ベクトルaとベクトルbのコサイン類似度は,以下のようにして計算される。
【0020】
【数1】
【0021】
本開示に係る評価方法は,評価のために,複数の基準皮膚生理パラメータベクトルの各々と,被検者皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算するステップを含むことを特徴とする。例えば,基準皮膚生理パラメータベクトルとして,年齢ごと(例えば,20歳から79歳の60歳分の範囲),男女ごとに,シワの大きさを小さい方から,SS,SL,M,およびLの4段階に層別化して,それぞれのレベルごとに合計体積を算出したものを要素とした(例えば,60×2=120個の)4次元ベクトルを用意し,その各々と被検者の皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を総当たりで計算することができる。そして,そのようにして計算されたコサイン類似度の値をもとに,肌状態の評価が行われうる。
【0022】
[最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定するステップ]
上記のように,複数の基準皮膚生理パラメータベクトルの各々と,前記被検者皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算した結果として,最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定することができる。上記のように,コサイン類似度は-1から1の値を取ることができることから,このステップでは,1に等しい,または1に最も近いコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定する。ただし,コサイン類似度の計算は必ずしも,用意された基準皮膚生理パラメータベクトルの全てに対して計算しなくともよい。例えば,上記のようにして120個の4次元ベクトルを用意した場合であっても,男女の一方のみ(例えば,被検者と同じ性別のみ),あるいは40歳代から50歳代といった特定の年齢の範囲に対してのみ計算を行ってもよい。
【0023】
[被検者の肌の状態が,同定された基準皮膚生理パラメータに対応する肌の状態に類似していると評価するステップ]
上記のように,コサイン類似度は-1から1の値を取ることができ,値が大きいほど,つまり1に近いほど2つのベクトルが類似していると評価することができる。よって,最も大きく,最も1に近いコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータに対応する肌の状態に,被検者の肌の状態が類似していると評価することができる。例えば,最も類似していると同定された基準皮膚生理パラメータが,40歳の女性の肌状態に対応するものである場合は,被検者の肌の状態が40歳の女性の肌状態に相当すると評価することができる。このような評価結果に基づき,被検者の肌の状態に適したスキンケア製品のレコメンデーションを行ってもよい。また,男女といった複数の群の様々な年齢の基準皮膚生理パラメータベクトル同士のコサイン類似度を群間で総当たりで算出し,一方の群のある年齢の基準皮膚生理パラメータベクトルと最も類似している別の群のある年齢の基準皮膚生理パラメータベクトルを特定して年齢差を算出することができる。
【0024】
[複数の異なる皮膚生理パラメータに基づく評価]
本開示に係る一部の態様では,同一の被検者について,複数の異なる皮膚生理パラメータに基づき,a)被検者の皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトル(nは2以上の整数)である被検者皮膚生理パラメータベクトルを得るステップ,b)あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトルである複数の基準皮膚生理パラメータベクトルの各々と,前記被検者皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算するステップ,c)ステップbの計算の結果として,最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定するステップ,ならびにd)被検者の肌の状態が,ステップcで同定された基準皮膚生理パラメータに対応する肌の状態に類似していると評価するステップを繰り返して得られる複数の結果から,被検者の肌の状態を評価することができる。例えば,シワに関する皮膚生理パラメータで解析を行った後,ハリに関する皮膚生理パラメータとシミに関する皮膚生理パラメータで解析を行うことによって,より多次元的な評価を行うことができる。
【0025】
[レコメンデーション方法]
本開示の1つの態様は,本開示に係る方法により評価された被検者の肌の状態に基づき,適切な化粧料,薬剤もしくは化粧方法を被検者に提案するレコメンド方法に関する。例えば,本開示に係る方法により,被検者の肌の弾力性(ハリ)が同世代の一般的なものに比べて低下している,あるいは,たるみが増している,シワが増えているとの評価が得られた場合,弾力性やたるみ,シワの改善に適した化粧料,薬剤もしくは化粧方法の使用を被検者にレコメンドすることができる。被検者の肌の状態に応じて推奨される化粧料,薬剤もしくは化粧方法は,例えば,あらかじめ決定しておき,データベースに記録しておいてもよい。
【0026】
[装置・システム]
本開示の1つの態様は,被検者の肌の状態の評価する,肌状態評価装置に関する。一部の態様において,本装置は,(i)肌の画像および/または形状を取得する肌状態取得部,(ii)取得した肌の画像および/または形状を解析する肌状態解析部,(iii)画像および/または形状の解析結果に基づき肌状態を評価する,肌状態評価部,および(iv)評価結果を出力する,結果出力部を備える。一部の態様において,本装置は,(i)肌の画像および/または形状を取得する肌状態取得部,(ii)取得した肌の画像および/または形状を解析する肌状態解析部,(iii)画像および/または形状の解析結果に基づき肌状態を評価する,肌状態評価部,および(iv)評価結果を出力する,結果出力部のそれぞれが,物理的に離れた場所に存在していてもよい。
【0027】
一部の態様において,本装置は,(i)肌の画像および/または形状を取得するように構成された肌状態取得手段,(ii)取得した肌の画像および/または形状を解析するように構成された肌状態解析手段,(iii)画像および/または形状の解析結果に基づき肌状態を評価するように構成された肌状態評価手段,および(iv)評価結果を出力するように構成された結果出力手段を備える。
【0028】
図6Aに例示した装置100は,肌状態取得部110,肌状態解析部120,肌状態評価部130,および結果出力部140を有している。装置100は,CPU(Central Processing Unit)等の演算装置と,ROM/RAM,ハードディスク,フラッシュメモリ等の記憶装置を有しうる。この記憶装置には,装置を制御するためのプログラムや取得されたデータ(画像,パラメータ等)が格納されうる。そして,演算装置は,記憶装置に格納されたプログラムを実行することにより装置100を肌状態取得部110,肌状態解析部120,肌状態評価部130,および結果出力部140として機能させうる。すなわち,肌状態取得部110,肌状態解析部120,肌状態評価部130,および結果出力部140はCPUの機能として構成されうる。なお,装置100は,ネットワークにより接続されたサーバ(例えば,クラウドサーバ)の演算装置および記憶装置と協同して動作してもよい。本開示に係る装置は例えば,サーバ40と,ネットワーク41によりサーバに接続された端末42とから構成されるシステムとして捉えてもよい(図7)。
【0029】
肌状態取得部110は,外部から肌の画像および/または形状を受け取ることができる。肌状態取得部110には,画像を撮影するカメラ,照明,制御用プロセッサ等のハードウェアがさらに含まれていてもよい。あるいは,肌状態取得部110は有線または無線で接続されたカメラ等の外部デバイスから画像データを受け取ることもできる。例えば,上述の特許第5528692号に記載されたシステムが,本開示に係る装置に無線または有線で接続されることができ,あるいは本開示に係る装置の一部として一体化されていてもよい。肌状態取得部110は,入力された画像および/または形状を記憶するデータベース(DB)を含んでいてもよい。
【0030】
肌状態解析部120は,入力された画像および/または形状を解析して,被検者の皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトル(nは2以上の整数)である被検者皮膚生理パラメータベクトルを生成することができる。画像および/または形状の解析には,コンピュータを用いた当業者に公知の任意の画像解析方法,機械学習を用いた方法などを利用することができる。
【0031】
肌状態評価部130は,肌状態解析部で得られた被検者皮膚生理パラメータベクトルをもとに,肌状態の評価を行う。肌状態評価部130は,肌状態解析部で得られた皮膚生理パラメータベクトルと,あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトルである複数の基準皮膚生理パラメータベクトルの各々と,前記被検者皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算し,最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定して,被検者の肌の状態が,同定された基準皮膚生理パラメータに対応する肌の状態に類似していると評価することができる。
【0032】
一部の実施態様では,肌状態評価部130は,肌状態の評価に応じて,化粧料,薬剤もしくは化粧方法のレコメンデーションを行うレコメンデーション部をさらに含むことができる。レコメンデーション部は,化粧料,薬剤もしくは化粧方法の情報を蓄積したデータベース(DB)を含んでいてもよい。本明細書において,レコメンデーション部を含む本開示に係る装置は,レコメンデーション装置とも表現されうる。
【0033】
結果出力部140は,ユーザに情報を提示するためのディスプレイ,プリンタ,スピーカー等を含むことができる。また,結果出力部140は,有線または無線で接続された外部デバイスに対して,結果を出力してもよい。
【0034】
一部の態様において,本開示にかかる装置は,(i) 皮膚生理パラメータを取得する皮膚生理パラメータ取得部,(ii)取得した皮膚生理パラメータを解析する皮膚生理パラメータ解析部,(iii) 皮膚生理パラメータの解析結果に基づき肌状態を評価する,肌状態評価部,および(iv)評価結果を出力する,結果出力部を備える。一部の態様において,本装置は,(i) 皮膚生理パラメータを取得する皮膚生理パラメータ取得部,(ii)取得した皮膚生理パラメータを解析する皮膚生理パラメータ解析部,(iii) 皮膚生理パラメータの解析結果に基づき肌状態を評価する,肌状態評価部,および(iv)評価結果を出力する,結果出力部のそれぞれが,物理的に離れた場所に存在していてもよい。なお,皮膚生理パラメータは,例えば,シワ(シワの長さ,深さ,面積,体積など),シミ(シミの大きさ,色の濃さなど),肌色,ツヤ,ハリ,弾力性,粘性,たるみ,バリア性,保湿性,うるおい,皮脂などに関するものでありうるが,これらに限定はされない。
【0035】
一部の態様において,本開示にかかる装置は,(i) 皮膚生理パラメータを取得するように構成された皮膚生理パラメータ取得手段,(ii)取得した皮膚生理パラメータを解析するように構成された皮膚生理パラメータ解析手段,(iii) 皮膚生理パラメータの解析結果に基づき肌状態を評価するように構成された肌状態評価手段,および(iv)評価結果を出力するように構成された結果出力手段を備える。
【0036】
図6Bに例示した装置300は,皮膚生理パラメータ取得部310,皮膚生理パラメータ解析部320,肌状態評価部330,および結果出力部340を有している。装置300は,CPU(Central Processing Unit)等の演算装置と,ROM/RAM,ハードディスク,フラッシュメモリ等の記憶装置を有しうる。この記憶装置には,装置を制御するためのプログラムや取得されたデータ(パラメータ等)が格納されうる。そして,演算装置は,記憶装置に格納されたプログラムを実行することにより装置300を皮膚生理パラメータ取得部310,皮膚生理パラメータ解析部320,肌状態評価部330,および結果出力部340として機能させうる。すなわち,皮膚生理パラメータ取得部310,皮膚生理パラメータ解析部320,肌状態評価部330,および結果出力部340はCPUの機能として構成されうる。なお,装置300は,ネットワークにより接続されたサーバ(例えば,クラウドサーバ)の演算装置および記憶装置と協同して動作してもよい。本開示に係る装置は例えば,サーバ40と,ネットワーク41によりサーバに接続された端末42とから構成されるシステムとして捉えてもよい(図7)。
【0037】
皮膚生理パラメータ取得部310は,外部(例えば、測色計などの専用測定機器)から皮膚生理パラメータを受け取ることができる。皮膚生理パラメータ取得部310には,皮膚生理パラメータを取得するための専用測定機器(例えば、測色計)がさらに含まれていてもよい。あるいは,皮膚生理パラメータ取得部310は有線または無線で接続された専用測定機器からデータを受け取ることもできる。皮膚生理パラメータ取得部310は,入力された皮膚生理パラメータを記憶するデータベース(DB)を含んでいてもよい。
【0038】
皮膚生理パラメータ解析部320は,入力された皮膚生理パラメータを解析して,被検者の皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトル(nは2以上の整数)である被検者皮膚生理パラメータベクトルを生成することができる。
【0039】
肌状態評価部130は,皮膚生理パラメータ解析部で得られた被検者皮膚生理パラメータベクトルをもとに,肌状態の評価を行う。肌状態評価部330は,皮膚生理パラメータ解析部で得られた皮膚生理パラメータベクトルと,あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータを表すn次元のベクトルである複数の基準皮膚生理パラメータベクトルの各々と,前記被検者皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算し,最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定して,被検者の肌の状態が,同定された基準皮膚生理パラメータに対応する肌の状態に類似していると評価することができる。
【0040】
一部の実施態様では,肌状態評価部330は,肌状態の評価に応じて,化粧料,薬剤もしくは化粧方法のレコメンデーションを行うレコメンデーション部をさらに含むことができる。レコメンデーション部は,化粧料,薬剤もしくは化粧方法の情報を蓄積したデータベース(DB)を含んでいてもよい。本明細書において,レコメンデーション部を含む本開示に係る装置は,レコメンデーション装置とも表現されうる。
【0041】
結果出力部340は,ユーザに情報を提示するためのディスプレイ,プリンタ,スピーカー等を含むことができる。また,結果出力部340は,有線または無線で接続された外部デバイスに対して,結果を出力してもよい。
【0042】
[ハードウェア構成]
ここで,上述した装置においては,各機能をコンピュータに実行させることができる実行プログラムを生成し,例えば汎用のパーソナルコンピュータ,サーバ等,またはそれらの組み合わせにその実行プログラムをインストールすることにより,処理を行なうことができる。
【0043】
ここで,本開示に係る処理が実現可能なコンピュータのハードウェア構成例について図を用いて説明する。
【0044】
図4は,本開示に係る処理が実現可能なハードウェア構成の一例を示す図である。図4におけるコンピュータ本体には,入力装置51と,出力装置52と,ドライブ装置53と,補助記憶装置54と,メモリ装置55と,各種制御を行うCPU(Central Processing Unit)56と,ネットワーク接続装置57とを有するよう構成されており,これらはシステムバスBで相互に接続されている。
【0045】
入力装置51は,ユーザ等が操作するキーボードおよびマウス等のポインティングデバイスを有しており,ユーザ等からのプログラムの実行等,各種操作信号を入力する。また,入力装置51は,ネットワーク接続装置57等に接続された外部装置から通信ネットワークを介して得られる,被検者の顔画像等の各種データを入力することもできる。
【0046】
出力装置52は,本開示に係る処理を行うためのコンピュータ本体を操作するのに必要な各種ウィンドウやデータ等を表示するディスプレイを有し,CPU56が有する制御プログラムによりプログラムの実行経過や結果等を表示することができる。また,出力装置52は,上述の処理結果等を紙等の印刷媒体に印刷して,ユーザ等に提示することができる。
【0047】
ここで,本開示においてコンピュータ本体にインストールされる実行プログラムは,例えば,USB(Universal Serial Bus)メモリやCD-ROM,DVD等の記録媒体58等により提供される。プログラムを記録した記録媒体58は,ドライブ装置53にセット可能であり,記録媒体58に含まれる実行プログラムが,記録媒体58からドライブ装置53を介して補助記憶装置54にインストールされる。
【0048】
補助記憶装置54は,ハードディスク等のストレージ手段であり,本開示に係る実行プログラムや,コンピュータに設けられた制御プログラム等を蓄積し必要に応じて入出力を行うことができる。
【0049】
メモリ装置55は,CPU56により補助記憶装置54から読み出された実行プログラム等を格納する。なお,メモリ装置55は,ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等からなる。
【0050】
また,実行プログラムは,任意のネットワークを介して必要時に外部機器からその全部または一部がダウンロードされるものであってもよい。さらに,実行プログラムがインストールされる補助記憶装置54および/またはインストールされた実行プログラムを格納するメモリ装置55が,外部機器に備えられていてもよい。外部機器はサーバであってよい。サーバは,特定のサーバであってもよいし,クラウド基盤のような不定のサーバであってもよい。さらには,実行プログラムは,サブスクリプション型のサービスによって提供されてもよい。サブスクリプション型のサービスとは,コンピュータのソフトウェアの利用形態の1つであって,ソフトウェアを利用した期間に応じて料金を支払う方式のサービスである。このように,実行プログラムの利用形態は任意であってよく,限定されるものではない。
【0051】
CPU56は,OS(Operating System)等の制御プログラム,およびメモリ装置55に格納されている実行プログラムに基づいて,各種演算や各ハードウェア構成部とのデータの入出力等,コンピュータ全体の処理を制御して各処理を実現することができる。なお,プログラムの実行中に必要な各種情報等は,補助記憶装置54から取得することができ,また実行結果等を格納することもできる。
【0052】
ネットワーク接続装置57は,通信ネットワーク等と接続することにより,実行プログラムを通信ネットワークに接続されている他の端末,サーバ等から取得したり,プログラムを実行することで得られた実行結果または本開示に係る実行プログラム自体を他の端末,サーバ等に提供したりすることができる。
【0053】
上述したようなハードウェア構成により,本開示に係る解析処理を実行することができる。また,プログラムをインストールすることにより,汎用のパーソナルコンピュータ,スマートフォン,タブレット等で本開示に係る処理を容易に実現することができる。
【0054】
[プログラム]
本開示に係る方法は,コンピュータで実装される方法であってもよく,本発明を実行するための命令を記憶可能なメモリとプロセッサを含むコンピュータにより実行されうる。本開示に係る方法をコンピュータで実行するための命令またはプログラムは,非一時的なコンピュータ可読媒体に記録されていてもよい。
【0055】
本開示の一部の態様は,本開示に係る方法をコンピュータに実行させるプログラムに関する。別の観点から言えば,本開示に係る方法は,その一部または全部がコンピュータ上で実行される方法であってもよい。一部の態様において,本開示に係るプログラムは,(i)肌の画像および/または形状を取得するステップ(ステップ100),(ii)取得した肌の画像および/または形状を解析して,皮膚生理パラメータベクトルを生成するステップ(ステップ110),(iii)画像および/または形状の解析結果に基づき得られた皮膚生理パラメータベクトルと,あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算するステップ(ステップ120),および(iv)最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定することにより肌状態を評価するステップ(ステップ130)を含むプロセスをコンピュータに実行させるプログラムでありうる。図9Aには,装置による処理の一例が示されている。ステップ100からステップ130は,装置(サーバを含んでもよい)のCPUがプログラムを実行することにより実行される。
【0056】
また,本開示の一部の態様は,プロセッサにより実行されると以下のステップを実行する,非一過的に命令が格納されたコンピュータ可読媒体に関する:(i)肌の画像および/または形状を取得するステップ(ステップ100),(ii)取得した肌の画像および/または形状を解析して,皮膚生理パラメータベクトルを生成するステップ(ステップ110),(iii)画像および/または形状の解析結果に基づき得られた皮膚生理パラメータベクトルと,あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算するステップ(ステップ120),および(iv)最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定することにより肌状態を評価するステップ(ステップ130)。
【0057】
一部の態様において,本開示に係るプログラムは,ステップ130において,肌状態の評価に基づき,適切な化粧料,薬剤もしくは化粧方法のレコメンデーションを行うステップをさらに含むことができる。この場合,本開示に係るプログラムは,化粧料,薬剤もしくは化粧方法の情報を蓄積したデータベース(DB)に照会を行う。また,一部の態様において,本開示に係るプログラムは,ステップ130において,評価結果またはレコメンデーション結果を出力することをさらに含みうる。結果の出力は,有線または無線で接続された各種のデバイス(ディスプレイ,プリンタ,スピーカー等)に対して行われうる。
【0058】
本開示の一部の態様は,本開示に係る方法をコンピュータに実行させるプログラムに関する。別の観点から言えば,本開示に係る方法は,その一部または全部がコンピュータ上で実行される方法であってもよい。一部の態様において,本開示に係るプログラムは,(i)皮膚生理パラメータを取得するステップ(ステップ300),(ii)取得した皮膚生理パラメータを解析して,皮膚生理パラメータベクトルを生成するステップ(ステップ310),(iii) 皮膚生理パラメータの解析結果に基づき得られた皮膚生理パラメータベクトルと,あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算するステップ(ステップ320),および(iv)最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定することにより肌状態を評価するステップ(ステップ330)を含むプロセスをコンピュータに実行させるプログラムでありうる。図9Bには,装置による処理の一例が示されている。ステップ300からステップ330は,装置(サーバを含んでもよい)のCPUがプログラムを実行することにより実行される。なお,皮膚生理パラメータは,例えば,シワ(シワの長さ,深さ,面積,体積など),シミ(シミの大きさ,色の濃さなど),肌色,ツヤ,ハリ,弾力性,粘性,たるみ,バリア性,保湿性,うるおい,皮脂などに関するものでありうるが,これらに限定はされない。
【0059】
また,本開示の一部の態様は,プロセッサにより実行されると以下のステップを実行する,非一過的に命令が格納されたコンピュータ可読媒体に関する:(i) 皮膚生理パラメータを取得するステップ(ステップ300),(ii)取得した皮膚生理パラメータを解析して,皮膚生理パラメータベクトルを生成するステップ(ステップ310),(iii) 皮膚生理パラメータの解析結果に基づき得られた皮膚生理パラメータベクトルと,あらかじめ決定された複数の基準皮膚生理パラメータベクトルとのコサイン類似度を計算するステップ(ステップ320),および(iv)最も大きなコサイン類似度を与える基準皮膚生理パラメータベクトルを同定することにより肌状態を評価するステップ(ステップ330)。
【0060】
一部の態様において,本開示に係るプログラムは,ステップ330において,肌状態の評価に基づき,適切な化粧料,薬剤もしくは化粧方法のレコメンデーションを行うステップをさらに含むことができる。この場合,本開示に係るプログラムは,化粧料,薬剤もしくは化粧方法の情報を蓄積したデータベース(DB)に照会を行う。また,一部の態様において,本開示に係るプログラムは,ステップ330において,評価結果またはレコメンデーション結果を出力することをさらに含みうる。結果の出力は,有線または無線で接続された各種のデバイス(ディスプレイ,プリンタ,スピーカー等)に対して行われうる。
【0061】
一部の態様において,本開示に係るプログラムは,スマートフォンやタブレットにインストールして用いられうる。その場合,一部の処理はネットワークにより接続されたサーバ上で行われてもよい。また,一部の態様において,本開示に係るプログラムは,サーバにインストールされて用いられうる。その場合,画像データはネットワークで接続されたスマートフォンやタブレットから取得されてもよく,また,評価結果はネットワークで接続されたスマートフォンやタブレットに出力されてもよい。
【実施例0062】
組み合わせ皮膚生理パラメータについての群間年齢差の算出
これまで,多次元の組み合わせ皮膚生理パラメータについての群間比較,特に年齢差算出方法は確立されていなかった。今回,皮膚生理パラメータの1つである目尻のシワの総体積について調べたところ,男女の年齢による差はなかったが,目尻のシワをレベル別に区切って「シワ特性」を比較すると,年代ごとにデータをまとめた場合には男女で年齢による差があることが見出された。そこで,「組み合わせ皮膚生理パラメータについての群間年齢差算出方法の確立」,「データを年代にまとめなくても目尻シワ特性に男女差があることの確認」,そして「実際の目尻シワ特性の男女の年齢差を数値化することとその年齢差の推移の解明」を行った。
【0063】
まず,図1に示される男性(A群)および女性(B群)の年齢ごとに,シワの大きさを小さい方から,SS,SL,M,およびLの4段階に層別化して,それぞれのレベルごとに合計体積を算出したデータの確認を行ったところ,女性(Female)では各年齢について各サイズ(小さい方から順にSS、SL、M、L)のシワのデータが比較的得られている一方で,男性(Male)においては,全ての年齢のデータが揃っておらず,データに欠損があることが確認された(図1)。
【0064】
そこで,この男女それぞれの4段階に層別化したデータを用いてstanとRを使用して状態空間モデルを用いたコーディングを行い,状態方程式と観測方程式を用いて,男性データについては欠損データをベイズ推定し補完するとともに男女の全ての年齢においての代表値を得ることで,年代にまとめなくても目尻シワ特性に男女差があることが確認された(図2)。図2からは,男性は女性よりも低い年齢から大きめのシワが生じる傾向があることが見て取れる。
【0065】
さらに,男性のデータについては移動平均(n=15)を取ってスムージングすることで欠損値を補完して全ての年齢の代表値のデータを取得し,全ての年齢のデータが揃っている女性については各年齢の平均値を用いて男女の全ての年齢においての代表値を得たところ,この方法でも,データを年代にまとめなくても目尻シワ特性に男女差があることが確認された(図3)。図3からも,男性は女性よりも低い年齢から大きめのシワが生じる傾向があることが見て取れる。
【0066】
そこで,この男女ごとに状態空間モデルまたは移動平均により算出したSS,SL,M,およびLの4段階に層別化した組み合わせ皮膚生理パラメータを4次元のベクトルと見做し,A群のある年齢(:X1)の組み合わせデータとB群のそれぞれの年齢(:X1・・・Xn)の組み合わせデータについて,その組み合わせのバランスがどのくらい似ているかを,これらのベクトル同士についてのコサイン類似度を用いて総当たりで算出し,その算出結果を元に最も類似しているB群の年齢(:Xresult)を決定した。そして,決定したB群の年齢(:Xresult)とそれと計算を掛け合わせたA群の年齢(X1)を引くことで,年齢差を算出した。これをA群の残りの全年齢データ(:X2・・・Xn)についても同様に繰り返し計算を行った。
【0067】
その結果,実際の目尻シワ特性の男女の年齢差を数値化し,その年齢差の推移が明らかとなった。目尻シワ特性について,女性よりも男性は50歳以下で13.6歳(状態空間モデル)または10.9歳(移動平均)上であると数値特定された。いずれの解析も,50歳を超えるとその年齢差は縮まることが判明した(図4および5)。
【0068】
上記の例で示したように,様々な皮膚生理パラメータ等のいくつかの要素(:数値)の組み合わせのバランスについて適用できる,データが欠損している年齢での数値を補完した後に,A群(男性など)のある年齢の数値バランスと最も近いB群(女性など)のある年齢の数値バランスを見つけ出し,その年齢差を算出するという,組み合わせ皮膚生理パラメータについての群間年齢差算出方法が確立された。
【0069】
また,具体的な解析の結果として,目尻シワ特性には男女差があり,その差は50歳以降では縮まることが発見された。そして,目尻シワ特性(算出元データ:状態空間モデル)の男女の年齢差が50歳以下で13.6歳(30歳以上50歳以下では12歳),目尻シワ特性(算出元データ:移動平均)の男女の年齢差が50歳以下で10.9歳であると新規に数値特定することができた。
【0070】
本実施例に開示の手法は,群間の比較だけでなく,特定の観測値と複数の基準値との比較など,様々な解析に応用可能である。
【0071】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。本開示の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定され,本明細書中の例示は,本開示の技術的範囲を限定するものではない。本開示の趣旨を逸脱しないことを条件として,本開示の変更,例えば,本開示の構成要件の追加,削除および置換を行うことができる。
【符号の説明】
【0072】
40 サーバ
41 ネットワーク
42 端末
51 入力装置
52 出力装置
53 ドライブ装置
54 補助記憶装置
55 メモリ装置
56 CPU
57 ネットワーク接続装置
58 記録媒体
100 装置
110 肌状態取得部
120 肌状態解析部
130 肌状態評価部
140 結果出力部
300 装置
310 皮膚生理パラメータ取得部
320 皮膚生理パラメータ解析部
330 肌状態評価部
340 結果出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B