(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067089
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/74 20200101AFI20230509BHJP
A61K 6/20 20200101ALI20230509BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20230509BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20230509BHJP
【FI】
A61K6/74
A61K6/20
A61K6/70
A61K6/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178067
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】岡田 圭秀
(72)【発明者】
【氏名】藤牧 諒
(72)【発明者】
【氏名】野尻 大和
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA10
4C089BA13
4C089BA16
4C089BC03
4C089BC07
4C089BC08
4C089CA03
4C089CA07
(57)【要約】
【課題】象牙細管封鎖性に優れ、根面の象牙質に発生するう蝕における象牙質のコラーゲン分解を抑制し、さらにミネラル溶出(脱灰)した象牙質の再石灰化を促進できる歯科用組成物を提供すること。
【解決手段】リン酸四カルシウム(A)、酸性リン酸カルシウム(B)、フッ素化合物(C)、カルボジイミド化合物(D)及び非水系分散剤(E)を含有する、歯科用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸四カルシウム(A)、酸性リン酸カルシウム(B)、フッ素化合物(C)、カルボジイミド化合物(D)及び非水系分散剤(E)を含有する、歯科用組成物。
【請求項2】
前記酸性リン酸カルシウム(B)が、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO4]、無水リン酸二水素カルシウム[Ca(H2PO4)2]、酸性ピロリン酸カルシウム[CaH2P2O7]、リン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO4・2H2O]、及びリン酸二水素カルシウム1水和物[Ca(H2PO4)2・H2O]からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記フッ素化合物(C)が、無機フッ素化合物である、請求項1又は2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記フッ素化合物(C)が、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化銅、フッ化ジルコニウム、フッ化アルミニウム、フッ化亜鉛、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、フッ化水素酸、フッ化チタンナトリウム、フッ化チタンカリウム、フッ化ジアンミン銀、ヘキシルアミンハイドロフルオライド、ラウリルアミンハイドロフルオライド、グリシンハイドロフルオライド、アラニンハイドロフルオライド、フルオロシラン類からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記カルボジイミド化合物(D)が、炭素数5~30のカルボジイミド化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記カルボジイミド化合物(D)が、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、1,3-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-tert-ブチルカルボジイミド、及び1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメト-p-トルエンスルホナートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
リン酸のアルカリ金属塩(F)をさらに含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
リン酸のアルカリ金属塩(F)が、リン酸一水素二ナトリウム及び/又はリン酸二水素一ナトリウムである、請求項7に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
無機フィラー(G)をさらに含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
抗菌剤(H)をさらに含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
前記非水系分散剤(E)が、ポリエーテル、一価アルコール及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~10のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項12】
前記リン酸四カルシウム(A)の含有量が、リン酸四カルシウム(A)と酸性リン酸カルシウム(B)との合計100質量部に対して、5~75質量部である、請求項1~11のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項13】
前記酸性リン酸カルシウム(B)の含有量が、リン酸四カルシウム(A)と酸性リン酸カルシウム(B)との合計100質量部に対して、10~70質量部である、請求項1~11のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項14】
1材型である、請求項1~13のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の歯科用組成物からなる、歯面処理材。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載の歯科用組成物からなる、根面う蝕治療材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用組成物に関する。詳細には、根面に発生するう蝕における象牙質のコラーゲン分解を抑制し、かつ象牙質の再石灰化を促進することを特徴とする歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内において、歯の象牙質は、通常、エナメル質によって保護されている。しかし、歯周病の発症に伴って歯肉が退縮すると、それまで歯肉に覆われていた歯根部が口腔内で露出する。歯根部では、象牙質がエナメル質に覆われない状態で存在している。この象牙質は、無数の細管構造を保有するとともに、コラーゲンを主とする有機質層を多く含有するためミネラル密度が50%程度と低く、ミネラル密度が97%程度のエナメル質と比較して、物理的、化学的に脆弱である。そのため、口腔内で露出した歯根部には、う蝕が発生しやすい。ここで、「う蝕」とは、口腔内の細菌が糖質を代謝して産生する酸がエナメル質や象牙質を脱灰(ミネラル成分の溶出)することによる歯の実質欠損をいう。う蝕の中でも、歯根部で発生する象牙質う蝕は、「根面う蝕」と呼称されている。
【0003】
根面の象牙質に発生するう蝕は、口腔内の微生物が産生する酸によりミネラルが溶け出すことだけではなく、この象牙質に多量に含まれる有機質であるコラーゲンの分解が起こることがその進行の原因と考えられており(非特許文献1、2)、有機質をほとんど含まないエナメル質に発生するう蝕とは基本的に異なる。
【0004】
そのため、たとえ歯質ミネラルの溶出を単に防いだとしても、象牙質コラーゲンの分解が進行すれば根面のう蝕はさらに悪化することになる。このコラーゲンが分解されてしまえば、逆にミネラルが沈着する際の足場材も失うことになるため、再石灰化も生じにくくなり、う蝕の治癒又は回復においても非常に不利となる。
【0005】
したがって、根面の象牙質に発生するう蝕を治療するためには、象牙質コラーゲンの分解を抑制しなければならず、その上でさらにミネラルの回復(再石灰化)を促進することが必要となる。
【0006】
特許文献1には、リン酸カルシウム、フッ化物、非水系分散剤を含有するペーストタイプの象牙細管封鎖材が象牙細管封鎖性に優れることが提案されている。また、特許文献2には、リン酸カルシウム、フッ化物及び水を含有する象牙質石灰化剤が象牙細管封鎖性に優れ、根面う蝕予防材として使用することが提案されている。
【0007】
根面う蝕を予防する技術としては、特許文献3に記載の技術が知られている。特許文献3においては、象牙質う蝕抑制、象牙質知覚過敏症の抑制を目的として、ラクタム骨格を有し、かつ酸性基を有するラクタム化合物を含有する口腔用組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2015/019601号
【特許文献2】特開2013-71917号公報
【特許文献3】国際公開第2013/47826号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Katz,S.;Park,K.K.;and Palenik,C.J.,Journal of Oral Medicine 42, 40-48,1987
【非特許文献2】P. Schupbach,B. Guggenheim,F.Lutz,,Journal of Oral Pathology & Medicine 18(3): 146-156,1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らが検討した結果、特許文献1に記載の組成物は、象牙細管封鎖性の耐久性及び保存安定性に優れ、特許文献2に記載の組成物は、象牙細管封鎖性に優れるものの、これらの組成物は、リン酸カルシウム、フッ化物では、根面う蝕の露出コラーゲンを保護することができないため、コラーゲンの分解を抑制することはできないという側面があり、更なる改善の余地があった。
【0011】
特許文献3において、ラクタム化合物として例示されている、ピロリドンカルボン酸(以下、「PCA」ともいう)及びその塩は、コラーゲン分解抑制効果を有しているものの再石灰化能が不十分という課題があった。
【0012】
そこで、本発明は、象牙細管封鎖性に優れ、根面の象牙質に発生するう蝕における象牙質のコラーゲン分解を阻害し、さらにミネラル溶出(脱灰)した象牙質の再石灰化を促進できる歯科用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の組成の歯科用組成物が上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1]リン酸四カルシウム(A)、酸性リン酸カルシウム(B)、フッ素化合物(C)、カルボジイミド化合物(D)及び非水系分散剤(E)を含有する、歯科用組成物。
[2]前記酸性リン酸カルシウム(B)が、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO4]、無水リン酸二水素カルシウム[Ca(H2PO4)2]、酸性ピロリン酸カルシウム[CaH2P2O7]、リン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO4・2H2O]、及びリン酸二水素カルシウム1水和物[Ca(H2PO4)2・H2O]からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の歯科用組成物。
[3]前記フッ素化合物(C)が、無機フッ素化合物である、[1]又は[2]に記載の歯科用組成物。
[4]前記フッ素化合物(C)が、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化銅、フッ化ジルコニウム、フッ化アルミニウム、フッ化亜鉛、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、フッ化水素酸、フッ化チタンナトリウム、フッ化チタンカリウム、フッ化ジアンミン銀、ヘキシルアミンハイドロフルオライド、ラウリルアミンハイドロフルオライド、グリシンハイドロフルオライド、アラニンハイドロフルオライド、フルオロシラン類からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の歯科用組成物。
[5]前記カルボジイミド化合物(D)が、炭素数5~30のカルボジイミド化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[6]前記カルボジイミド化合物(D)が、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、1,3-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-tert-ブチルカルボジイミド、及び1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメト-p-トルエンスルホナートからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[7]リン酸のアルカリ金属塩(F)をさらに含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[8]リン酸のアルカリ金属塩(F)が、リン酸一水素二ナトリウム及び/又はリン酸二水素一ナトリウムである、[7]に記載の歯科用組成物。
[9]無機フィラー(G)をさらに含有する、[1]~[8]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[10]抗菌剤(H)をさらに含有する、[1]~[9]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[11]前記非水系分散剤(E)が、ポリエーテル、一価アルコール及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[10]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[12]前記リン酸四カルシウム(A)の含有量が、リン酸四カルシウム(A)と酸性リン酸カルシウム(B)との合計100質量部に対して、5~75質量部である、[1]~[11]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[13]前記酸性リン酸カルシウム(B)の含有量が、リン酸四カルシウム(A)と酸性リン酸カルシウム(B)との合計100質量部に対して、10~70質量部である、[1]~[11]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[14]1材型である、[1]~[13]のいずれかに記載の歯科用組成物。
[15][1]~[14]のいずれかに記載の歯科用組成物からなる、歯面処理材。
[16][1]~[14]のいずれかに記載の歯科用組成物からなる、根面う蝕治療材。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、象牙細管封鎖性に優れ、根面の象牙質に発生するう蝕における象牙質のコラーゲン分解を阻害し、さらにミネラル溶出(脱灰)した象牙質の再石灰化を促進できる歯科用組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の歯科用組成物に用いられる各成分について、説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に何ら限定されるものではない。
【0017】
本発明の歯科用組成物は、リン酸四カルシウム(A)、酸性リン酸カルシウム(B)、フッ素化合物(C)、カルボジイミド化合物(D)及び非水系分散剤(E)を備える。
【0018】
本発明の歯科用組成物が根面に発生するう蝕における象牙質のコラーゲン分解を抑制し、かつ象牙質の再石灰化を促進する効果を示す理由は定かではないが、以下のように推定される。本発明の歯科用組成物は、象牙細管封鎖性があり、封鎖物が歯面表面に残留するため、後述する無機質強化とコラーゲン架橋効果を向上させると考えられる。すなわち、本発明の歯科用組成物は、患部に塗布することにより、リン酸四カルシウム(A)、酸性リン酸カルシウム(B)が開口した象牙細管を物理的に封鎖する。その後、治療時の嗽や唾液との接触によって、象牙細管を封鎖したリン酸四カルシウム(A)、酸性リン酸カルシウム(B)と水とが反応し、ヒドロキシアパタイトに転化し、さらにフッ化物イオンも存在することで、フルオロアパタイト、フッ化カルシウムが生成し、象牙質に沈着し、無機質を強化すると考えられる。以上の無機質強化、コラーゲン分子鎖の2つの効果が相乗的に働くことにより、本発明の歯科用組成物は象牙質のコラーゲン分解を抑制し、かつ象牙質の再石灰化を促進する効果を有すると考えている。
【0019】
以下、本発明の歯科用組成物に含有される成分についてそれぞれについて説明する。
【0020】
本発明に使用されるリン酸四カルシウム(A)は、特に限定されないが、粒子状であることが好ましい。リン酸四カルシウム(A)を酸性リン酸カルシウム(B)とともに用いることで、本発明の歯科用組成物は象牙細管封鎖性に優れる。また、リン酸四カルシウム(A)は、酸性リン酸カルシウム(B)、フッ素化合物(C)、及びカルボジイミド化合物(D)と一緒になって相乗的に脱灰した象牙質の再石灰化を促進できるため、本発明の歯科用組成物はミネラル密度回復能に優れる。リン酸四カルシウム(A)の粒子の平均粒子径は、0.5~10μmであることが好ましい。平均粒子径が0.5μm未満の場合は、リン酸四カルシウム(A)の溶解が過度となり、水溶液のpHが高くなる。このことにより、ヒドロキシアパタイトの析出が円滑でなくなり、象牙細管封鎖性の耐久性が低下するおそれがある。平均粒子径は、好適には1.0μm以上であり、より好適には2.0μm以上である。一方、平均粒子径が10μmを超える場合は、象牙細管径に対して粒子径が大きくなり過ぎるため、初期の象牙細管封鎖性が低下するおそれがある。平均粒子径は、好適には8.0μm以下であり、より好適には6.0μm以下である。ここで、本発明で使用するリン酸四カルシウム(A)の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた体積基準における測定により、メディアン径として算出されるものである。
【0021】
リン酸四カルシウム(A)の製造方法は特に限定されない。市販されているリン酸四カルシウム粒子をそのまま用いてもよいし、適宜粉砕して粒子径を整えて使用してもよい。粉砕する際には、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、市販のリン酸四カルシウム粒子をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることによりリン酸四カルシウム(A)を得ることもできる。粉砕に用いる粉砕装置としては、特に限定されず、公知の粉砕装置を使用でき、ボールミルを用いることが好ましく、そのポット及びボールの材質としては、好適にはアルミナ、ジルコニアが採用される。上記のように粉砕して調製した場合の形状は、通常、不定形の粒子となる。
【0022】
本発明の歯科用組成物において、リン酸四カルシウム(A)の含有量は、リン酸四カルシウム(A)と酸性リン酸カルシウム(B)との合計100質量部中、5~85質量部である。5質量部未満の場合、象牙細管封鎖性の耐久性が低下する。リン酸四カルシウム(A)の含有量は、前記合計100質量部に対して、好適には15質量部以上であり、より好適には25質量部以上である。一方、リン酸四カルシウム(A)が75質量部を超える場合にも、象牙細管封鎖性の耐久性が低下する。リン酸四カルシウム(A)の含有量は、前記合計100質量部中、好適には80質量部以下であり、より好適には75質量部以下である。また、本発明の歯科用組成物において、リン酸四カルシウム(A)の含有量は、歯科用組成物の全量100質量部において、10~70質量部であることが好ましく、15~65質量部であることがより好ましく、20~60質量部であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明で使用される酸性リン酸カルシウム(B)は、特に限定されないが、粒子状であることが好ましい。酸性リン酸カルシウム(B)は、無水物であってもよく、水和物であってもよいが、無水物が好ましい。酸性リン酸カルシウム(B)をリン酸四カルシウム(A)とともに用いることで、本発明の歯科用組成物は象牙細管封鎖性に優れる。また、酸性リン酸カルシウム(B)はリン酸四カルシウム(A)、フッ素化合物(C)、及びカルボジイミド化合物(D)と一緒になって相乗的に脱灰した象牙質の再石灰化を促進できるため、本発明の歯科用組成物はミネラル密度回復能に優れる。酸性リン酸カルシウム(B)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
酸性リン酸カルシウム(B)は、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO4]、無水リン酸二水素カルシウム[Ca(H2PO4)2]、酸性ピロリン酸カルシウム[CaH2P2O7]、リン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO4・2H2O]、及びリン酸二水素カルシウム1水和物[Ca(H2PO4)2・H2O]からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO4]がより好ましい。
【0025】
本発明で使用される酸性リン酸カルシウム(B)の粒子の平均粒子径は0.1~7.5μmであることが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満の場合は、歯科用組成物の粘度が大きくなり過ぎるおそれがあり、塗布性が低下した結果、象牙細管封鎖性が低下するおそれがある。酸性リン酸カルシウム(B)の平均粒子径は、より好適には0.3μm以上である。一方、酸性リン酸カルシウム(B)の平均粒子径が7.5μmを超える場合は、酸性リン酸カルシウム(B)が象牙細管封鎖材中で溶解しにくくなるため、リン酸四カルシウム(A)の溶解が過度となり、組成物のpHが高くなることでヒドロキシアパタイトの析出が円滑でなくなり、硬化物の機械的強度が低下するおそれがある。酸性リン酸カルシウム(B)の粒子の平均粒子径は、より好適には5.0μm以下であり、さらに好適には3.0μm以下である。酸性リン酸カルシウム(B)の平均粒子径は、水と反応して硬化するリン酸四カルシウム(A)の場合と同様にして測定し、算出したものである。
【0026】
酸性リン酸カルシウム(B)の製造方法は特に限定されない。市販されている酸性リン酸カルシウム粒子をそのまま用いてもよいし、上記したリン酸四カルシウム(A)と同様に適宜粉砕して粒子径を整えて使用してもよい。
【0027】
本発明の歯科用組成物において、酸性リン酸カルシウム(B)の含有量は、リン酸四カルシウム(A)と酸性リン酸カルシウム(B)との合計100質量部中、10~70質量部である。10質量部未満の場合、初期の象牙細管封鎖性が低下し、象牙細管封鎖性の耐久性も低下する。酸性リン酸カルシウム(B)の含有量は、前記合計100質量部中、好適には15質量部以上であり、より好適には20質量部以上である。一方、酸性リン酸カルシウム(B)が70質量部を超える場合にも、象牙細管封鎖性の耐久性が低下する。酸性リン酸カルシウム(B)の含有量は、前記合計100質量部中、好適には60質量部以下であり、より好適には50質量部以下である。また、本発明の歯科用組成物において、酸性リン酸カルシウム(B)の含有量の含有量は、歯科用組成物の全量100質量部において、1~60質量部であることが好ましく、5~50質量部であることがより好ましく、8~40質量部であることがさらに好ましい。
【0028】
リン酸四カルシウム(A)と酸性リン酸カルシウム(B)の配合割合(A/B)は、特に限定されないが、モル比で40/60~60/40の範囲となるような配合割合で使用されることが好ましい。これによって、硬化物の機械的強度が高い歯科用組成物を得ることができる。上記配合割合(A/B)は、より好適には45/55~55/45であり、実質的に50/50であることが最適である。
【0029】
本発明の歯科用組成物は、耐酸性の観点から、さらにフッ素化合物(C)を含む。フッ素化合物(C)は、リン酸四カルシウム(A)、酸性リン酸カルシウム(B)、及びカルボジイミド化合物(D)と一緒になって相乗的に脱灰した象牙質の再石灰化を促進できるため、本発明の歯科用組成物はミネラル密度回復能に優れる。本発明で用いられるフッ素化合物(C)としては特に限定されず、無機フッ素化合物、有機フッ素化合物が挙げられる。フッ素化合物(C)としては、具体的には、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化銅、フッ化ジルコニウム、フッ化アルミニウム、フッ化亜鉛、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、フッ化水素酸、フッ化チタンナトリウム、フッ化チタンカリウム、フッ化ジアンミン銀等の無機フッ素化合物;ヘキシルアミンハイドロフルオライド、ラウリルアミンハイドロフルオライド、グリシンハイドロフルオライド、アラニンハイドロフルオライド、フルオロシラン類(パーフルオロアルキルシラン等のフルオロアルキルシラン等)等の有機フッ素化合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも安全性の観点からフッ化亜鉛、フッ化ストロンチウム、フッ化ナトリウムが好適に用いられる。
【0030】
本発明で用いられるフッ素化合物(C)の含有量については特に限定されないが、歯科用組成物の全量100質量部においてフッ素化合物(C)の換算フッ化物イオンを0.01~10質量部含有することが好ましい。象牙細管内における封鎖物の耐酸性をより高めるために、フッ素化合物(C)の換算フッ化物イオンの含有量は、前記全量100質量部において0.05質量部以上であることがより好ましい。また、安全性の点から、フッ素化合物(C)の換算フッ化物イオンの含有量は、前記全量100質量部において5質量部以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明の歯科用組成物は、う蝕における象牙質のコラーゲンの分解を阻害し、脱灰した象牙質の再石灰化を他の成分と一緒になって相乗的に促進する観点から、さらにカルボジイミド化合物(D)を含む。本発明で用いられるカルボジイミド化合物(D)としては、環状構造を有するカルボジイミド化合物、環状構造を有しないカルボジイミド化合物等が挙げられる。カルボジイミド化合物(D)としては、炭素数5~30のカルボジイミド化合物が好ましく、炭素数6~28のカルボジイミド化合物がより好ましく、炭素数7~25のカルボジイミド化合物がさらに好ましい。本発明で用いられる前記特定のカルボジイミド化合物(D)の範囲であれば、象牙質のコラーゲンの分解を阻害し、脱灰した象牙質の再石灰化を促進する効果がより優れる。
【0032】
環状構造としては、シクロアルキル基、アリール基、複素環基等が挙げられる。本発明に係る歯科用組成物は、カルボジイミド化合物(D)を用いることで、根面の象牙質に発生するう蝕における象牙質のコラーゲン分解を阻害でき、さらにカルボジイミド化合物(D)が他の成分と一緒になって相乗的に脱灰した象牙質の再石灰化を促進できるため、本発明の歯科用組成物はミネラル密度回復能に優れる。このため、根面う蝕に対する治療効果にも優れる。
【0033】
シクロアルキル基の炭素数は、3~8であってもよい。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。シクロアルキル基は、置換基を有していてもよい。
【0034】
アリール基の炭素数は、炭素数6~10であってもよい。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。アリール基は、置換基を有していてもよい。
【0035】
複素環基としては、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む5員又は6員の単環性芳香族複素環基;3~8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性芳香族複素環基等が挙げられ、前記5員又は6員の単環性芳香族複素環基が好ましい。5員又は6員の単環性芳香族複素環基としては、モルホリノ基、ピペラジノ基、ピペリジノ基、ピロリジニル基等が挙げられる。複素環基は、置換基を有していてもよい。
【0036】
環状構造が有する置換基としては、炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~6のアルキルアミノ基等が挙げられる。環状構造が有する置換基の数は、特に限定されないが、1~5が好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0037】
環状構造を有するカルボジイミド化合物が有する環の数は、特に限定されず、1~5であることが好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。環状構造を有するカルボジイミド化合物が2つ以上の環状構造を有する場合、2つ以上の環状構造は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0038】
環状構造を有するカルボジイミド化合物は、環状構造とカルボジイミド結合とが直接結合した化合物であってもよい。
【0039】
また、他の実施形態としては、環状構造を有するカルボジイミド化合物は、前記環状構造とカルボジイミド結合とに結合した二価の炭化水素基を含んでもよい。言い換えると、環状構造を有するカルボジイミド化合物は、環状構造が二価の炭化水素基を介してカルボジイミド結合と結合した部分を含む化合物であってもよい。
【0040】
環状構造が二価の炭化水素基を介してカルボジイミド結合と結合した部分を含む化合物としては、例えば、すべての環状構造が二価の炭化水素基を介してカルボジイミド結合と結合した化合物;環状構造とカルボジイミド結合とが直接結合した部分と、環状構造が二価の炭化水素基を介してカルボジイミド結合と結合した部分とを有する化合物が挙げられる。
【0041】
環状構造を有するカルボジイミド化合物が、環状構造が二価の炭化水素基を介してカルボジイミド結合と結合した部分を含む化合物であり、かつ前記環状構造が含窒素複素環基である場合、含窒素複素環基は、前記二価の炭化水素基と、窒素原子とが結合していてもよい。
【0042】
前記二価の炭化水素基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基等が挙げられる。
【0043】
アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。アルキレン基としては、炭素数1~12のアルキレン基が挙げられ、例えばメチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、シクロプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基、シクロブチレン基、1-メチル-シクロプロピレン基、2-メチル-シクロプロピレン基、n-ペンチレン基、n-ヘキシレン基等が挙げられる。アルキレン基の炭素数としては、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、1~6がさらに好ましい。
【0044】
環状構造を有しないカルボジイミド化合物は、鎖状構造を含むことが好ましい。鎖状構造としては、アルキル基、アルケニル基等の炭化水素基が挙げられ、アルキル基が好ましい。鎖状構造は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。アルキル基の炭素数としては、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、1~6がさらに好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。環状構造を有しないカルボジイミド化合物がアルキル基を含む場合、2つのアルキル基は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0045】
鎖状構造は、置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1~6のアルキルアミノ基等が挙げられる。鎖状構造としては、例えば、炭素数1~6のアルキルアミノ基2個で置換された、炭素数1~6のアルキル基であってもよい。
【0046】
カルボジイミド化合物(D)は、塩の形態であってもよい。例えば、塩酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0047】
カルボジイミド化合物(D)としては、具体的には、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、1,3-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-tert-ブチルカルボジイミド、及び1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメト-p-トルエンスルホナートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらのカルボジイミド化合物(D)のうち、生体適合性の観点から、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩、1,3-ジイソプロピルカルボジイミドが特に好ましい。カルボジイミド化合物(D)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。カルボジイミド化合物(D)の含有量は、う蝕における象牙質のコラーゲンの分解を阻害し、脱灰した象牙質の再石灰化を他の成分と一緒になって相乗的に促進する観点から、歯科用組成物の全量100質量部において、0.01~30質量部であることが好ましい。象牙質のコラーゲンの分解を阻害し、脱灰した象牙質の再石灰化を促進する効果がより優れる点から、カルボジイミド化合物(D)の含有量は、前記全量100質量部において0.05~25質量部であることがより好ましく、0.1~20質量部であることがさらに好ましい。
【0048】
非水系分散剤(E)は、歯科用組成物をペースト性状にして取り扱い性を付与するための成分である。非水系分散剤(E)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明に使用される非水系分散剤(E)としては特に限定されないが、ポリエーテル、一価アルコール及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール(以下、PEGと略記することがある)、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。多価アルコールとしては、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等が挙げられる。これらの中でも、特にグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールがより好適に使用される。
【0049】
非水系分散剤(E)の含有量は、本発明の歯科用組成物の全量100質量部中、20~90質量部であることが好ましい。20質量部未満の場合、ペーストの粘度が高く操作性が低下するおそれがある。非水系分散剤(E)の含有量は、歯科用組成物100質量部中、より好適には25質量部以上であり、さらに好適には30質量部以上である。一方、非水系分散剤(E)の含有量が90質量部を超える場合には、象牙細管封鎖性が低下するおそれがある。非水系分散剤(E)の含有量は、歯科用組成物100質量部中、より好適には85質量部以下であり、さらに好適には82質量部以下である。
【0050】
本発明の歯科用組成物は、リン酸のアルカリ金属塩(F)をさらに含有することが好ましい。リン酸のアルカリ金属塩(F)を含有することにより、硬化時間をさらに短くすることができるため操作性が向上するとともに、象牙細管封鎖性を向上させることができる。用いられるリン酸のアルカリ金属塩(F)としては特に限定されないが、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一リチウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が用いられる。中でも、安全性、並びに高純度原料の入手の容易さの観点から、リン酸のアルカリ金属塩(F)がリン酸一水素二ナトリウム及び/又はリン酸二水素一ナトリウムであることが好ましい。
【0051】
本発明の歯科用組成物において、リン酸のアルカリ金属塩(F)の含有量は、リン酸四カルシウム(A)と酸性リン酸カルシウム(B)との合計100質量部に対して、0.5~15質量部である。0.5質量部未満の場合、リン酸のアルカリ金属塩(F)を配合しても象牙細管封鎖性の耐久性の向上効果が小さい。リン酸のアルカリ金属塩(F)の含有量は、前記合計100質量部に対して、好適には1質量部以上であり、より好適には2質量部以上である。一方、リン酸のアルカリ金属塩(F)の含有量が15質量部を超える場合に、初期の象牙細管封鎖性が低くなる。リン酸のアルカリ金属塩(F)の含有量は、前記合計100質量部に対して、好適には12質量部以下であり、より好適には10質量部以下である。なお、前記リン酸のアルカリ金属塩(F)の含有量は、リン酸カルシウム(A)と酸性リン酸カルシウム(B)の合計質量を100質量部に換算した場合において、リン酸カルシウム(A)と酸性リン酸カルシウム(B)との合計100質量部を基準とし、当該100質量部に対するリン酸のアルカリ金属塩(F)の配合割合を意味する。前記基準には、リン酸四カルシウム(A)及び酸性リン酸カルシウム(B)以外の他の化合物(例えば、後述する他のカルシウム含有化合物等)を含まない。
【0052】
本発明に使用されるリン酸のアルカリ金属塩(F)は、特に限定されないが、粒子状であることが好ましい。リン酸のアルカリ金属塩(F)の粒子の平均粒子径は、1.0~12μmであることが好ましい。リン酸のアルカリ金属塩(F)の平均粒子径が1.0μm未満の場合、水との接触によって溶解が速過ぎてリン酸イオン濃度が高くなるため、カルシウムイオンとリン酸イオンの供給バランスが崩れ、ヒドロキシアパタイトの析出速度が低下するおそれがある。リン酸のアルカリ金属塩(F)の平均粒子径は、より好適には3.0μm以上である。一方、リン酸のアルカリ金属塩(F)の平均粒子径が12μmを超える場合、リン酸のアルカリ金属塩(F)が水と接触した際に溶解しにくくなり、ヒドロキシアパタイトの析出速度が低下するおそれがある。リン酸のアルカリ金属塩(F)の平均粒子径は、より好適には8.0μm以下である。リン酸のアルカリ金属塩(F)の平均粒子径は、上記リン酸四カルシウム(A)の粒子の平均粒子径と同様にして算出される。
【0053】
リン酸のアルカリ金属塩(F)の製造方法は特に限定されない。市販されているリン酸のアルカリ金属塩をそのまま用いてもよいし、上記したリン酸四カルシウム(A)と同様に適宜粉砕して粒子径を整えて使用してもよい。
【0054】
本発明の歯科用組成物は、無機フィラー(G)をさらに含有してもよい。本発明で使用される無機フィラー(G)の種類は特に限定されず、石英、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が好適に用いられる。中でもバリウムガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、シリカ、及びジルコニアからなる群から選択される少なくとも1種がより好適に用いられる。
【0055】
本発明で使用される無機フィラー(G)の平均粒子径は0.002~0.5μmである。無機フィラー(G)の平均粒子径が0.002μm未満の場合、歯科用組成物の粘度が高くなり取り扱い性が悪化する。平均粒子径は、好適には0.003μm以上であり、より好適には0.005μm以上である。一方、無機フィラー(G)の平均粒子径が0.5μmを超える場合、象牙細管封鎖率が低下する。平均粒子径は、好適には0.2μm以下であり、より好適には0.1μm以下である。無機フィラー(G)の平均粒子径は、エポキシ樹脂中に分散させた一次粒子の写真を透過型電子顕微鏡を用いて撮影し、任意に選択した100個以上の一次粒子の粒子径を測定し、その算術平均として算出される。
【0056】
本発明の歯科用組成物は、無機フィラー(G)の含有量は、リン酸四カルシウム(A)と酸性リン酸カルシウム(B)との合計100質量部に対して、0.1~50質量部である。0.1質量部未満の場合、象牙細管封鎖性の向上効果が小さくなる。無機フィラー(G)の含有量は、前記合計100質量部に対して、好適には1質量部以上であり、より好適には2質量部以上である。一方、無機フィラー(G)の含有量が50質量部を超える場合には、歯科用組成物の粘度が大きくなり取り扱い性が低下する。無機フィラー(G)の含有量は、前記合計100質量部に対して、好適には30質量部以下であり、より好適には30質量部以下である。無機フィラー(G)の含有量の基準は、リン酸のアルカリ金属塩(F)の含有量の基準と同様である。
【0057】
本発明の歯科用組成物は、必要に応じて抗菌剤(H)をさらに含有してもよい。抗菌剤(H)としては、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルピリジニウム等の第四級アンモニウム塩、塩酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アレキシジン、酢酸アレキシジン、グルコン酸アレキシジン等のビグアニド系殺菌剤等のカチオン性殺菌剤、n-ラウロイルサルコンシンナトリウムなどのアニオン性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤、酸化亜鉛、塩化亜鉛などの亜鉛化合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
本発明で用いられる抗菌剤(H)の含有量については特に限定されず、歯科用組成物の全量100質量部において0.01~10質量部であることが好ましい。象牙細管内における封鎖物の耐酸性をより高めるために、抗菌剤(H)の含有量は、前記全量100質量部において0.05質量部以上であることがより好ましい。また、安全性の点から、抗菌剤(H)の含有量は、前記全量100質量部において10質量部以下であることがより好ましい。
【0059】
本発明の歯科用組成物は、必要に応じて無機フィラー(G)以外の増粘剤を含んでもよい。これはペーストの粘度を調節し、術者が取り扱いやすいペースト性状に調節することができるためである。増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩等の合成高分子;ポリグルタミン酸、ポリグルタミン酸塩、ポリアスパラギン酸、ポリアスパラギン酸塩、ポリLリジン、ポリLリジン塩等のポリアミノ酸若しくはこれらの塩;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース化合物;セルロース以外のデンプン(例えば、コーンスターチ、バレイショデンプン、タピオカデンプン等のアミロース含有量が10~70%のデンプン等)、デキストラン、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、グアーガム、キタンサンガム、セルロースガム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、ペクチン、ペクチン酸塩、キチン、キトサン等の多糖類;アルギン酸プロピレングリコールエステル等の酸性多糖類エステル;コラーゲン、ゼラチン;及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
本発明で用いられる無機フィラー(G)以外の増粘剤の含有量は特に限定されず、歯科用組成物の全量100質量部において、0.01~10質量部であることが好ましい。ペーストの流動性を高めて操作性をさらに改善させ得ることから、増粘剤の含有量は、前記全量100質量部において0.05質量部以上であることがより好ましい。また、ペーストの流動性の低下を抑制し得ることから、増粘剤の含有量は、前記全量100質量部において8質量部以下であることがより好ましい。
【0061】
本発明の歯科用組成物は、必要に応じて薬理学的に許容できるあらゆる薬剤等を配合することができる。薬剤の例としては、消毒剤、抗癌剤、抗生物質、アクトシン、PEG1などの血行改善薬、bFGF、PDGF、BMPなどの増殖因子、骨芽細胞、象牙芽細胞、さらに未分化な骨髄由来幹細胞、胚性幹(ES)細胞、線維芽細胞等の分化細胞を遺伝子導入により脱分化・作製した人工多能性幹(iPS:induced Pluripotent Stem)細胞ならびにこれらを分化させた細胞など硬組織形成を促進させる細胞などを配合させることができる。
【0062】
本発明の歯科用組成物は、象牙質う蝕の抑制効果の向上、象牙質知覚過敏症の抑制等を目的として、γ-ラクタム骨格、δ-ラクタム骨格、又はε-ラクタム骨格のいずれかのラクタム骨格を有し、かつ酸性基を有するラクタム化合物を含有してもよい。前記ラクタム化合物としては、例えば、ピロリドンカルボン酸、6-オキソ-2-ピペリジンカルボン酸、3-(2-オキソ-1-アゼパニル)プロパン酸等が挙げられる。
【0063】
本発明の歯科用組成物は、重合性単量体を実質的に含有しないものが好ましい。本発明において、ある成分を実質的に含有しないとは、歯科用組成物の全量100質量部において、5質量部未満であることが好ましく、1質量部未満であることがより好ましく、0.1質量部未満であることがさらに好ましい。
【0064】
本発明の歯科用組成物は、カルシウムイオン徐放性を補助するために、リン酸四カルシウム(A)、酸性リン酸カルシウム(B)以外のカルシウム含有化合物(以下、「他のカルシウム含有化合物」ともいう。)を含んでもよい。他のカルシウム含有化合物としては、トリカルシウムシリケート、ジカルシウムシリケート、ケイ酸カルシウム水和物等のケイ酸カルシウム;酸化カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム等のカルシウム塩が挙げられる。他のカルシウム含有化合物の含有量は、特に限定されないが、歯科用組成物の全量100質量部において、5質量部未満であってもよく、1質量部未満であってもよく、0.1質量部未満であってもよい。
【0065】
本発明の歯科用組成物は、少なくともリン酸四カルシウム(A)、酸性リン酸カルシウム(B)、フッ素化合物(C)、カルボジイミド化合物(D)及び非水系分散剤(E)を含むペーストとして得られる。本発明の歯科用組成物(ペースト)は一材型の剤型として調製可能である。
【0066】
リン酸四カルシウム(A)、酸性リン酸カルシウム(B)、フッ素化合物(C)、カルボジイミド化合物(D)及び非水系分散剤(E)を含むペーストの調製方法は特に限定されない。例えば、二軸型混練機、三軸型混練機、もしくは遊星型混練機などを用いて混合することにより得ることができる。
【0067】
本発明の歯科用組成物は、象牙質表面に塗布すること、或いは、象牙質表面にすり込むことにより好適に使用される。すり込む操作は、マイクロブラシ、綿棒、ラバーカップあるいは歯ブラシ等で象牙質表面を30秒程度擦るだけでよく、それにより象牙細管内に約5μmの深さで封鎖物が生成される。
【0068】
本発明の歯科用組成物の好適な実施形態としては、歯面処理材、根面う蝕治療材、象牙質知覚過敏抑制材、歯磨材などが挙げられる。本発明の歯科用組成物を上記用途に使用した場合、象牙細管内の封鎖性が良好であり、象牙質のコラーゲン分解を抑制し、かつ象牙質の再石灰化が期待される。さらには、本発明の歯科用組成物は、口腔内で水との接触によってヒドロキシアパタイトに転化し、適用された部位で歯牙との一体化が起こることから生体親和性に優れている。
【0069】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、前記構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例0070】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0071】
本実施例において、リン酸四カルシウム(A)、リン酸のアルカリ金属塩(F)の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-2300型」)を用いて体積基準で測定し、測定の結果から算出されるメディアン径を平均粒子径とした。
【0072】
[各成分の調製]
(1)リン酸四カルシウム(A)の調製
リン酸四カルシウム(A)として本実施例で使用するリン酸四カルシウム粒子(TTCP、平均粒子径1.1μm)は、以下の通りに調製した。市販のリン酸四カルシウム粒子(太平化学産業株式会社製、平均粒子径5.2μm)50g、95%エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製「Ethanol(95)」)120g、及び直径が10mmのジルコニアボール240gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「Type A-3 HDポットミル」)中に加え、120rpmの回転速度で24時間湿式粉砕を行い、篩がけを行い、ジルコニアボールを取り除き得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後60℃で6時間乾燥させ、さらに60℃で24時間真空乾燥することでリン酸四カルシウム粒子(TTCP)を得た。
【0073】
(2)酸性リン酸カルシウム(B)の調製
酸性リン酸カルシウム(B)として本実施例で使用する無水リン酸一水素カルシウム粒子(DCPA、平均粒子径:5.0μm)は、市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(富士フイルム和光純薬株式会社製、平均粒子径10.2μm)50g、95%エタノール240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD-B-104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で7時間湿式振動粉砕を行い、篩がけを行い、ジルコニアボールを取り除くことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後60℃で6時間乾燥させ、さらに60℃で24時間真空乾燥することで無水リン酸一水素カルシウム粒子(DCPA)を得た。
【0074】
(3)フッ素化合物(C)
本実施例で使用するフッ素化合物(C)は下記の化合物をそのまま使用した。
ZnF2:フッ化亜鉛(Fluorochem社製)
SrF2:フッ化ストロンチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0075】
(4)カルボジイミド化合物(D)
本実施例で使用するカルボジイミド化合物(D)は下記の化合物をそのまま使用した。
EDC:1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(東京化成工業株式会社製)
DCC:1,3-ジイソプロピルカルボジイミド(東京化成工業株式会社製)
【0076】
(5)非水系分散剤(E)
本実施例で使用する非水系分散剤(E)は下記の化合物をそのまま使用した。
グリセリン(東京化成工業株式会社製)
【0077】
(6)リン酸のアルカリ金属塩(F)の調製
リン酸のアルカリ金属塩(F)の粒子として本実施例で使用するリン酸一水素二ナトリウム粒子(Na2HPO4、平均粒子径5.2μm)は、市販のリン酸一水素二ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)をナノジェットマイザー(NJ-100型、株式会社アイシンナノテクノロジーズ製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0078】
(7)無機フィラー(G)
本実施例で使用する無機フィラー(G)は下記の化合物をそのまま使用した。
Ar130(日本アエロジル株式会社製、アエロジル(登録商標)130、平均粒子径:16μm)
【0079】
(8)抗菌剤(H)
本実施例で使用する抗菌剤(H)は下記の化合物をそのまま使用した。
CPC:塩化セチルピリジニウム(Combi-Blocks社製)
【0080】
[歯科用組成物の調製]
表1に示す組成で秤量した、リン酸四カルシウム(A)、酸性リン酸カルシウム(B)、フッ素化合物(C)、カルボジイミド化合物(D)、非水系分散剤(E)、リン酸のアルカリ金属塩(F)、無機フィラー(G)、及び抗菌剤(H)を万能混合撹拌機(株式会社ダルトン製「混合撹拌機ツインミックス STM-08」)中に加え、自転130rpm、公転37rpmの回転速度で60分間混合することで、1材型の歯科用組成物を得た。
【0081】
[象牙細管封鎖性の評価]
(1)象牙細管封鎖性評価用牛歯の作製
健全牛歯切歯の頬側中央を#80,#1000の研磨紙を用いて回転研磨機により研磨してトリミングし、頬側象牙質が露出した厚さ2mmの平板状の象牙質板を作製した。この象牙質板の表面(研磨面)をさらにラッピングフィルム(#1200,#3000,#8000,スリーエムジャパン株式会社製)を用いて研磨し、平滑とし、平滑面を得た。
この象牙質板の平滑面において縦軸方向及び横軸方向に各2mmの正方形が2つ隣接するように線を引き、試験部分の窓(以下、「象牙質窓」と称する。)を2つ規定した(象牙質窓A及びB)。この平板状の象牙質板をEDTA(エチレンジアミン四酢酸)3%溶液に浸漬させながら、超音波を10分かけ、2つの象牙質窓の脱灰を行った後、水洗することで象牙細管封鎖性評価に用いる牛歯を調製した。
上記牛歯の頬側象牙質の平滑面の一方の象牙質窓(象牙質窓B)に対して、前記の通りに調製した歯科用組成物を十分量付着させ、マイクロブラシ(MICROBRUSH INTERNATIONAL製「REGULAR SIZE(2.0mm),MRB400」)を用いて象牙質窓の全面に対して30秒間すり込みを行った。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で30秒水洗し、除去した(n=3)。
【0082】
(2)SEM観察用サンプルの作製
上記処理後、牛歯をエアブロー、乾燥し、象牙細管観察用サンプルとした。
【0083】
(3)SEM観察
SEM観察には走査電子顕微鏡(商品名「SU3500」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用した。加速電圧は5kVの条件で、脱灰した後に歯科用組成物を未塗布側の象牙質窓(象牙質窓A)と、もう一方の歯科用組成物を塗布して除去した後の象牙質窓(象牙質窓B)の両方の象牙質窓について形態観察を行った(n=3)。一つのSEM観察用サンプルにつき任意の3点を観察し、象牙細管封鎖性を次式で表される象牙細管封鎖率(%)で評価した。
象牙細管封鎖率(%)=封鎖された象牙細管(本)/観察された象牙細管(本)×100
ここで、「観察された象牙細管」は、歯科用組成物を未塗布側の象牙質窓(象牙質窓A)から観察された象牙細管の本数を意味する。「封鎖された象牙細管」は、前述の「観察された象牙細管」の本数から、歯科用組成物を塗布して除去した後の象牙質窓(象牙質窓B)において観察された、封鎖されていない象牙細管の本数を、減じた数を意味する。
前記評価では、2つの象牙質窓は同一サイズであり、2つの象牙質窓に対して歯科用組成物の塗布以外は同一処理を行っているため、歯科用組成物を未塗布側の象牙質窓(象牙質窓A)において観察された象牙細管の本数を、象牙質窓Bにおいて歯科用組成物を塗布する前に観察された象牙細管の本数とみなした。
【0084】
3つのサンプルの象牙細管封鎖率の平均について、以下の基準で評価した。得られた評価結果を表1にまとめて示す。
〇:象牙細管封鎖率が80%以上
△:象牙細管封鎖率が40%以上80%未満
×:象牙細管封鎖率が40%未満
【0085】
[ミネラル密度回復能の評価]
象牙質の脱灰部の再石灰化を促進できる特性を、ミネラル密度回復能として、以下の方法で評価した。
(1)脱灰液の作製
酢酸(東京化成工業株式会社製)50mM水溶液と酢酸ナトリウム3水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)50mM水溶液を混合させ、pH4.5に調整した。
【0086】
(2)人工唾液の調整
塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)87.6mg、リン酸二水素カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)122mg、塩化カルシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)166mg、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)(株式会社同仁化学研究所製)477mgを約800mLの水に溶解し、NaOH(富士フイルム和光純薬株式会社製)飽和水溶液で、pH7.0に調整、1.0Lにメスアップした。
【0087】
(3)試験片の作製に使用する試薬
試験片作製に使用した試薬は下記の化合物を使用した。
エタノール:関東化学株式会社製
プロピレンオキシド:富士フイルム和光純薬株式会社製
エポキシ樹脂主剤:(エポキュア2主剤、BUEHLER社製)
硬化剤(エポキュア2硬化剤、BUEHLER社製)
【0088】
(4)試験片の作製
牛歯の歯頚部を用いて試験片の作製を行った。牛歯の歯頚部に対して、表面を#80の研磨紙を用いて研磨し、象牙質を露出させた後、#1000の研磨紙を用いてさらに研磨し、5分間超音波処理を行った。牛歯の歯頚部の試験片の表面の一部に約5mm×2mmの試験窓を作製し、ダイヤモンドカッター(Isomet 1000 BUEHLER社製)を用いて、分割した面を中心に左右対称になるように牛歯の歯頚部の試験片を2つに分割した。分割した双方の試験片において試験窓以外の部分にマニキュアを塗布し、それぞれが5mm×1mmの試験窓を有する試験片を2つ作製した。双方の試験片を脱灰液に浸漬し、37℃で2週間脱灰させた。脱灰液への浸漬開始から、3日に1回の頻度で脱灰液を交換した。
試験窓の一方(試験窓A)を、マニキュアで塗布し、乾燥させた。もう一方の試験片の試験窓(試験窓B)には、サンプル(各実施例及び比較例の歯科用組成物)を30秒擦り塗りした。双方の試験片を30分間、恒温恒湿機内で37℃、95%RH保管した。当該保管後の試験片を人工唾液に浸漬し、浸漬開始から7日間経過時までに5回人工唾液を交換し、37℃で2週間保管した。
得られた試験片からマニキュアを剥がし、70%エタノール、80%エタノール、90%エタノール、99%エタノール、100%エタノールに10分ずつ浸漬後、100%エタノールに1日浸漬した。プロピレンオキシド/エタノール=1/1の混合液、プロピレンオキシドに10分ずつ浸漬後、プロピレンオキシドに1日浸漬した。エポキシ樹脂主剤/プロピレンオキシド=1/1の混合液、エポキシ樹脂主剤/プロピレンオキシド=4/1、エポキシ樹脂主剤に2時間ずつ浸漬後、エポキシ樹脂主剤/硬化剤=4/1に浸漬し、浸漬したまま60℃で1日保管し、硬化させた。硬化物である試験片をダイヤモンドカッター(Isomet 1000 BUEHLER社製)で試験窓の長辺に垂直に、約1.2mmの厚みに切断し、ラッピングフィルム(#1200,#3000,#8000,スリーエムジャパン株式会社製)を使用して、試験片の厚みを0.060mm~0.110mmとした。
【0089】
(5)CMR(Contact Micro Radiography)
得られた双方の試験片について、軟X線検査装置(商品名「CMR-2」、ソフテックス株式会社製)とガラス乾板(HIGH PRECISION PHOTO PLATE HPP-SN2 2×2、コニカミノルタ株式会社製)を使用し、管電圧10kV、管電流2.0mA、照射時間10分で試験片全体を撮影した。撮影した試験片(乾板)を現像液(医療用X線液体現像液「ハイレンドール」、富士フイルム株式会社)に5分浸漬し、蒸留水で1分洗浄し、定着液(定着剤「ハイレンフィックス」、富士フイルム株式会社)に5分浸漬し、蒸留水で30秒洗浄した。
【0090】
(6)解析
得られたCMR像を顕微鏡(Nikon DS-Ri1、株式会社ニコンソリューションズ製)で撮影し、未脱灰部分のマニキュア保護直下、100μmの輝度値を基準として、画像解析ソフトウェア(ImageJ、オープンソース、パブリックドメイン)を用いて試験窓の表面から試験窓の深さ方向に輝度値を測定し(n=3)、下記式より、ミネラル密度回復能(%)を求めた。以下の各式において、「コントロール」は、サンプル(各実施例及び比較例の歯科用組成物)で処理していない場合を意味する。
【0091】
任意の深さのコントロールミネラル密度=
任意の深さのコントロール輝度値/未脱灰部分のマニキュア保護直下100μmの輝度値)
【0092】
任意の深さの処理面ミネラル密度=
任意の深さの処理面輝度値/未脱灰部分のマニキュア保護直下100μmの輝度値)
【0093】
【0094】
ミネラル密度回復能の平均値(n=3)について、以下の基準で評価した。得られた評価結果を表1にまとめて示す。
〇:ミネラル密度回復能が20%以上
△:ミネラル密度回復能が15%以上20%未満
×:ミネラル密度回復能が15%未満
【0095】
[コラーゲン分解抑制率の評価]
(1)測定に使用した試薬
Collagen I型:シグマ アルドリッチジャパン合同会社製
トリス塩酸緩衝液 :富士フイルム和光純薬株式会社
コラゲナーゼ:シグマ アルドリッチジャパン合同会社製
ニンヒドリンエタノール溶液:東京化成工業株式会社製
【0096】
(2)測定方法
Collagen I型 10mgに対して、サンプル100mg(各実施例及び比較例の歯科用組成物)を30秒接触させた。当該サンプルを蒸留水に浸漬し、超音波洗浄5分、水洗、ろ過後、減圧乾燥を行った。乾燥品3mgを1.2mLの0.05Nトリス塩酸緩衝液pH7.2(0.001M CaCl2を含む)に浸漬した。100 unitのコラゲナーゼを添加し、4時間インキュベートした後、エタノール300μLを添加し、酵素反応を停止した。遠心分離(3000rpm、5min)にて得た上澄み0.5mLに対して、ニンヒドリンエタノール溶液0.5mLを添加し、50℃、90分条件下、インキュベートした後、吸光度(λ=515nm)を分光光度計(商品名「U-1900」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で測定した。また別途、蒸留水の吸光度(λ=515nm)を測定した。コラーゲン分解抑制率は下記の式より算出した。
コラーゲン分解抑制率(%)=(1-(サンプルの吸光度/蒸留水サンプルの吸光度))×100
【0097】
コラーゲン分解抑制率の平均値(n=3)について、下記評価基準に基づいて、得られた評価結果を表1にまとめて示す。
〇:コラーゲン分解抑制率が50%以上
△:コラーゲン分解抑制率が25%以上50%未満
×:ミネラル密度回復能が25%未満
【0098】
【0099】
上記の結果からも明らかなように、本発明に係る歯科用組成物(実施例1~3)は、高い象牙細管封鎖性を示し、ミネラル密度回復能、及びコラーゲン分解抑制率のいずれにおいても高いことが確認された。
【0100】
これに対して、カルボジイミド化合物を含まない比較例1はコラーゲン分解抑制率が低く、さらにミネラル密度回復能も不十分であった。フッ素化合物を含まない比較例2はミネラル密度回復能が低く、リン酸四カルシウム及び酸性リン酸カルシウムを含まない比較例3は象牙細管封鎖性、ミネラル密度回復能ともに低いことが確認された。