(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067161
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】プラスチックレンズ、およびレンズユニット
(51)【国際特許分類】
G02B 1/14 20150101AFI20230509BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20230509BHJP
G02B 13/04 20060101ALI20230509BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
G02B1/14
G02B1/115
G02B13/04 D
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178178
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】杉本 建
(72)【発明者】
【氏名】加本 貴則
(72)【発明者】
【氏名】ダマスコ ティ ジェニファー トレス
(72)【発明者】
【氏名】山本 明典
(72)【発明者】
【氏名】川上 政孝
【テーマコード(参考)】
2H087
2K009
【Fターム(参考)】
2H087KA01
2H087LA03
2H087PA04
2H087PA18
2H087PB05
2H087QA02
2H087QA07
2H087QA17
2H087QA22
2H087QA25
2H087QA34
2H087QA42
2H087QA45
2H087RA04
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA13
2H087RA32
2H087RA43
2H087RA44
2H087UA01
2K009AA03
2K009AA15
2K009BB14
2K009CC02
2K009CC03
2K009CC09
2K009EE04
(57)【要約】
【課題】耐久品質をより向上することができるプラスチックレンズ、およびレンズユニットを提供すること。
【解決手段】プラスチックレンズPは、樹脂製のレンズ本体P1と、レンズ本体P1の少なくとも一方面Paを覆うハードコート層P2と、ハードコート層P2をレンズ本体P1とは反対側から覆う反射防止層P3とを備える。レンズ本体P1は、環構造として環状イミド構造を有する。ハードコート層P2の膜厚HC、および反射防止層P3の総膜厚ARは、以下の条件式を満たす。
2μm≦HC≦20μm
200nm≦AR≦500nm
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のレンズ本体と、前記レンズ本体の少なくとも一方面を覆うハードコート層と、前記ハードコート層を前記レンズ本体とは反対側から覆う反射防止層と、を備え、
前記レンズ本体は、環構造として環状イミド構造を有し、
前記ハードコート層の膜厚HCは、以下の条件式(1)
2μm≦HC≦20μm・・・(1)
を満たし、
前記反射防止層の総膜厚ARは、以下の条件式(2)
200nm≦AR≦500nm・・・(2)
を満たすことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項2】
請求項1に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記ハードコート層は、シリカ粒子を含有し、
前記ハードコート層における前記シリカ粒子の含有率をSとしたとき、含有率Sは以下の条件式(3)
40%≦S≦65%・・・(3)
を満たすことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記反射防止層は、二酸化珪素膜と、二酸化珪素膜より屈折率が大きい高屈折率膜とが交互に積層された誘電体多層膜であり、
前記反射防止層において前記レンズ本体から最も離隔する最外層は二酸化珪素膜であって、前記最外層の膜厚をtsとしたとき、膜厚tsは、以下の条件式(4)
60nm≦ts≦150nm・・・(4)
を満たすことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項4】
請求項3に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記高屈折率膜は四窒化三珪素膜であることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載のプラスチックレンズにおいて、
レンズ中心の膜厚におけるMTF変化量と、レンズ外周の膜厚におけるMFT変化量の差は、0.02%以下であることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載のプラスチックレンズにおいて、
レンズ中心における前記ハードコート層の膜厚とレンズ外周における前記ハードコート層の膜厚との差は、15μm以下であることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記一方面の曲率半径をR11としたとき、曲率半径R11は、以下の条件式(5)
9.000mm≦R11≦16.000mm・・・(5)
を満たすことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記レンズ本体の前記一方面は、非球面であることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項9】
請求項1から請求項8までの何れか一項に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記ハードコート層は、光硬化性樹脂であることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項10】
請求項1から9までの何れか一項に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記レンズ本体は、主鎖に前記環構造を有する構造単位を有するメタクリル系樹脂であって、
前記構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、およびグルタルイミド系構造単位のうち、少なくとも一種の構造単位を含むことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項11】
請求項1から10までの何れか一項に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記一方面の曲率半径をR11とし、前記プラスチックレンズの焦点距離をf1としたとき、曲率半径R11および焦点距離f1は、以下の条件式(6)
-5.000≦R11/f1≦-1.000・・・(6)
を満たすことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項12】
請求項1から11までの何れか一項に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記一方面の有効半径をsd11とし、前記一方面の中心から前記有効半径に対応する半径位置まで前記一方面に沿って測定したときの距離をARS11としたとき、有効半径sd11および距離ARS11は、以下の条件式(7)
1.000<ARS11/sd11<1.013・・・(7)
を満たすことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項13】
請求項1から12までの何れか一項に記載のプラスチックレンズを含む複数のレンズを備えたレンズユニットであって、
前記プラスチックレンズは、前記複数のレンズのうち、最も物体側で前記一方面を物体側に向けていることを特徴とするレンズユニット。
【請求項14】
請求項13に記載のレンズユニットにおいて、
前記一方面の曲率半径をR11とし、前記複数のレンズからなるレンズ系全体の焦点距離をf0としたとき、曲率半径R11および焦点距離f0は、以下の条件式(8)
8.000≦R11/f0≦14.000・・・(8)
を満たすことを特徴とするレンズユニット。
【請求項15】
請求項13または14に記載のレンズユニットにおいて、
半画角をωとしたとき、半画角ωは以下の条件式
75deg≦ω≦120deg
を満たし、
前記一方面の曲率半径をR11とし、前記一方面の有効半径をsd11としたとき、曲率半径R11および有効半径sd11は、以下の条件式(9)
0.300≦sd11/R11≦0.600・・・(9)
を満たすことを特徴とするレンズユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズ、およびレンズユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて、成形性等に優れている一方、傷が付きやすい。このため、レンズユニット等において最も物体側に配置されるレンズにはガラスレンズが多用される(例えば、特許文献1参照)。一方、アクリル樹脂やカーボネート樹脂からなるプラスチック製のレンズ本体の表面にハードコート層を設け、傷が付きにくくする技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-181857号公報
【特許文献2】特開2008-76598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載のプラスチックレンズは、眼鏡レンズを対象とするものである。一方、監視カメラや車載カメラに用いられるレンズには、眼鏡レンズと比較して、温度変化が大きな環境下で使用されるため、耐久品質がより強く求められる。このため、特許文献2に記載の構成では、十分に対応することができないという問題点ある。
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、耐久品質をより向上することができるプラスチックレンズ、およびレンズユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、樹脂製のレンズ本体と、前記レンズ本体の少なくとも一方面に設けられたハードコート層と、前記ハードコート層の前記レンズ本体とは反対側の面に積層された反射防止層と、を備え、前記レンズ本体は、環構造として環状イミド構造を有し、前記ハードコート層の膜厚HCは、以下の条件式(1)
2μm≦HC≦20μm・・・(1)
を満たし、
前記反射防止層の総膜厚ARは、以下の条件式(2)
200nm≦AR≦500nm・・・(2)
を満たすことを特徴とする。
【0006】
本発明において、レンズ本体を構成する樹脂は、環状イミド構造を有するため、透明であり、ガラス転移温度が通常のメタクリル系樹脂等と比較して30℃から40℃高い。また、ハードコート層の膜厚HCが2μm未満、あるいは20μm超えた場合、例えば、-40℃から+85℃までの間の熱衝撃によってクラックが発生しやすいが、本発明では、ハードコート層の膜厚HCが2μm以上、かつ20μm以下であるため、熱衝撃によるクラックが発生しにくい。
【0007】
本発明において、前記ハードコート層は、シリカ粒子を含有し、
前記ハードコート層における前記シリカ粒子の含有率をSとしたとき、含有率Sは以下の条件式(3)
40%≦S≦65%・・・(3)
を満たすことが好ましい。
【0008】
本発明において、前記反射防止層は、二酸化珪素膜と、二酸化珪素膜より屈折率が大きい高屈折率膜とが交互に積層された誘電体多層膜であり、前記反射防止層において前記レンズ本体から最も離隔する最外層は二酸化珪素膜であって、前記最外層の膜厚をtsとしたとき、膜厚tsは、以下の条件式(4)
60nm≦ts≦150nm・・・(4)
を満たすことが好ましい。
【0009】
本発明において、前記高屈折率膜は四窒化三珪素膜である態様を採用することができる。
【0010】
本発明において、レンズ中心の膜厚におけるMTF変化量と、レンズ外周の膜厚におけるMFT変化量の差は、0.02%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明において、レンズ中心における前記ハードコート層の膜厚とレンズ外周における前記ハードコート層の膜厚との差は、15μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明において、前記一方面の曲率半径をR11としたとき、曲率半径R11は、以下の条件式(5)
9.000mm≦R11≦16.000mm・・・(5)
を満たすことが好ましい。
【0013】
本発明において、前記レンズ本体の前記一方面は、非球面である態様を採用することができる。
【0014】
本発明において、前記ハードコート層は、光硬化性樹脂であることが好ましい。
【0015】
本発明において、前記レンズ本体は、例えば、主鎖に前記環構造を有する構造単位を有するメタクリル系樹脂であって、前記構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、およびグルタルイミド系構造単位のうち、少なくとも一種の構造単位を含む態様を採用することができる。
【0016】
本発明において、前記一方面の曲率半径をR11とし、前記プラスチックレンズの焦点距離をf1としたとき、曲率半径R11および焦点距離f1は、以下の条件式(6)
-5.000≦R11/f1≦-1.000・・・(6)
を満たすことが好ましい。
【0017】
本発明において、前記一方面の有効半径をsd11とし、前記一方面の中心から前記有効半径に対応する半径位置まで前記一方面に沿って測定したときの距離をARS11としたとき、有効半径sd11および距離ARS11は、以下の条件式(7)
1.000<ARS11/sd11<1.013・・・(7)
を満たすことが好ましい。
【0018】
本発明に係るプラスチックレンズを含む複数のレンズを備えたレンズユニットにおいて、前記プラスチックレンズは、前記複数のレンズのうち、最も物体側で前記一方面を物体側に向けて配置される。
【0019】
本発明において、前記一方面の曲率半径をR11とし、前記複数のレンズからなるレンズ系全体の焦点距離をf0としたとき、曲率半径R11および焦点距離f0は、以下の条件式(8)
8.000≦R11/f0≦14.000・・・(8)
を満たすことが好ましい。
【0020】
本発明において、半画角をωとしたとき、半画角ωは以下の条件式
75deg≦ω≦120deg
を満たし、
前記一方面の曲率半径をR11とし、前記一方面の有効半径をsd11としたとき、曲率半径R11および有効半径sd11は、以下の条件式(9)
0.300≦sd11/R11≦0.600・・・(9)
を満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明において、レンズ本体を構成する樹脂は、環状イミド構造を有するため、透明であり、ガラス転移温度が通常のメタクリル系樹脂等と比較して30℃から40℃高い。また、ハードコート層の膜厚HCが2μm未満、あるいは20μm超えた場合、例えば、-40℃から+85℃までの間の熱衝撃によってクラックが発生しやすいが、本発明では、ハードコート層の膜厚HCが2μm以上、かつ20μm以下であるため、熱衝撃によるクラックが発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明を適用したプラスチックレンズの説明図。
【
図2】
図1に示すプラスチックレンズの鉛筆硬度を示す説明図。
【
図3】
図1に示すハードコート層を形成する条件を示す説明図。
【
図4】
図1に示すハードコート層を形成するための塗布液の粘度とハードコート層の厚さとの関係を示すグラフ。
【
図5】
図1に示すハードコート層におけるシリカ含有率と反射防止層表面の鉛筆硬度との関係を示すグラフ。
【
図6】
図1に示すハードコート層の膜厚差とMTFとの関係を示すグラフ。
【
図7】
図1に示すハードコート層の膜厚差と画角との関係を示すグラフ。
【
図8】
図1に示す反射防止層の層構造を示す説明図。
【
図9】
図1に示す反射防止層の光学特性を示す説明図。
【
図10】は、
図1に示す反射防止層のナノインデンター押込み弾性率を示す説明図。
【
図11】
図1に示す反射防止層等のビッカース硬度を示す説明図。
【
図12】
図1に示すレンズ本体を構成する樹脂の線膨張係数を示すグラフ。
【
図13】
図1に示す反射防止層P3を成膜する際の温度と画角変化量との関係を示すグラフ。
【
図14】
図1に示す反射防止層を成膜する際の温度とMTF変化量との関係を示すグラフ。
【
図15】本発明の実施例1に係るレンズユニットの説明図。
【
図16】
図15に示すレンズユニットにおける各レンズデータおよび非球面係数等を示す説明図。
【
図17】
図15に示すレンズユニットの主なパラメータを示す説明図。
【
図18】
図15に示すレンズユニットの光学特性を示す説明図。
【
図20】本発明の実施例2に係るレンズユニットの説明図。
【
図21】
図20に示すレンズユニットにおける各レンズデータおよび非球面係数等を示す説明図。
【
図22】
図20に示すレンズユニットの光学特性を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用したプラスチックレンズ、およびレンズユニットを説明する。
(プラスチックレンズPの構成)
図1は、本発明を適用したプラスチックレンズPの説明図である。
図1に示すように、
図1に示すプラスチックレンズPは、光軸Lの延在方向の物体側Laに向く一方面Paと、物体側Laとは反対の像側Lbに向く他方面Pbとを備えている。本発明は、一方面Paが球面あるいは非球面のいずれであっても適用することができ、他方面Pbが球面あるいは非球面のいずれであっても適用することができる。
図1に例示するプラスチックレンズPは、物体側Laに凸面を向けたメニスカスレンズであり、像側Lbに凹面を向けている。
【0024】
本形態のプラスチックレンズPは、少なくとも、樹脂製のレンズ本体P1と、レンズ本体P1の一方面Paを覆うハードコート層P2と、ハードコート層P2をレンズ本体P1とは反対側から覆う反射防止層P3とを備えている。かかるプラスチックレンズPの製造方法では、後述するように、レンズ本体P1を成形した後、ハードコート層P2を成膜するハードコート層形成工程と、反射防止層P3を形成する反射防止層形成工程とを行う。
【0025】
(レンズ本体P1の構成)
図2は、
図1に示すプラスチックレンズPの鉛筆硬度を示す説明図である。
図2には、環構造として環状イミド構造を有する樹脂を用いた本発明を適用したプラスチックレンズPの鉛筆硬度をC1で示し、環状イミド構造を有しない汎用のメタクリル樹脂を用いた比較例に係るプラスチックレンズの鉛筆硬度をC2で示してある。
【0026】
レンズ本体P1を構成するプラスチックは、JIS-K7121に準拠して測定した場合のガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが好ましい。また、レンズ本体P1の成形性等を考慮すると、レンズ本体P1を構成するプラスチックは、ガラス転移温度Tgが200℃以下であることが好ましい。よって、レンズ本体P1を構成するプラスチックは、ガラス転移温度Tgが110℃以上、かつ200℃以下であることが好ましい。また、熱的安定性を考慮すると、レンズ本体P1を構成するプラスチックは、ガラス転移温度Tgが130℃以上、かつ200℃以下であることが好ましい。
【0027】
レンズ本体P1を構成するプラスチックは、環構造として環状イミド構造を有する樹脂である。より具体的には、レンズ本体P1は、主鎖に環構造を有する構造単位を有するメタクリル系樹脂であって、構造単位は、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、およびグルタルイミド系構造単位のうち、少なくとも一種の構造単位を含む。より具体的には、レンズ本体P1は、主鎖に上記の環構造を有する構造単位(X)とメタクリル酸エステル単量体由来の構造単位(Y)とを含む。本実施形態において、レンズ本体P1は、上記の構造単位(X)と構造単位(Y)とのみからなる。
【0028】
かかる構造単位を含むメタクリル系樹脂は、耐熱性と光学特性との両方に優れている。より具体的には、レンズ本体P1を構成する樹脂は、環状イミド構造を有するため、透明であり、通常のメタクリル系樹脂等と比較してガラス転移温度Tgが30℃から40℃高い。従って、レンズ本体P1は、例えば110℃の温度に晒されても変形せず、光透過率は90%を超える。かかる樹脂については、例えば、特開2018-53044号公報や特開2020-63436号公報に例示されている。
【0029】
メタクリル酸エステル単量体由来の構造単位(Y)は、例えば、以下に示すメタクリル酸エステル類から選ばれる1種あるいは2種以上の単量体に由来する。メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プ
ロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸ジシクロオクチル、メタクリル酸トリシクロドデシル等が挙げられる。
【0030】
N-置換マレイミド単量体由来の構造単位(X)は、下記式(1)で表される構造単位、および下記式(2)で表される構造単位からなる群から選ばれる1種あるいは2種以上の構造単位から形成される。
【0031】
【0032】
式(1)中、R1は、炭素数7~14のアリールアルキル基、または炭素数6~14のアリール基である。R2およびR3は各々、水素原子、酸素原子、硫黄原子、炭素数1~12のアルキル基、または炭素数6~14のアリール基である。R2またはR3がアリール基の場合には、R2またはR3は置換基としてハロゲン原子を含んでいてもよい。
【0033】
【0034】
式(2)中、R4は、水素原子、炭素数3~12のシクロアルキル基、または炭素数1~12のアルキル基である。R5及びR6は各々、水素原子、酸素原子、硫黄原子、炭素数1~12のアルキル基、または炭素数6~14のアリール基である。
【0035】
グルタルイミド系構造単位は、下記一般式(3)で表される。
【0036】
【0037】
上記一般式(3)において、R7及びR8は各々、例えば、水素原子またはメチル基である。R9は、水素原子、メチル基、ブチル基、またはシクロヘキシル基である。R7はメチル基であり、R8は水素であり、R9はメチル基である。
【0038】
かかる環状イミド構造を有する樹脂を用いてレンズ本体P1を形成した場合には、環状イミド構造を有しない汎用のメタクリル樹脂を用いてレンズ本体P1を形成した場合よりレンズ面の鉛筆硬度が高い。例えば、環状イミド構造を有しない汎用のメタクリル樹脂を用いてレンズ本体P1を形成した場合、ハードコート層P2および反射防止層P3を設けた状態におけるレンズ面の鉛筆硬度は、
図2に棒グラフC2で示すように、約5Hであるのに対し、環状イミド構造を有するメタクリル樹脂を用いてレンズ本体P1を形成した場合、ハードコート層P2および反射防止層P3を設けた状態におけるレンズ面の鉛筆硬度は、
図2に棒グラフC1で示すように、約6Hである。なお、プラスチックレンズPの樹脂材料には、紫外線吸収剤を添加してもよい。
【0039】
(ハードコート層P2の構成)
図1に示すプラスチックレンズPにおいて、ハードコート層P2は、プラスチックレンズ基材に耐擦傷性を付与するとともに、レンズ本体P1を構成するプラスチック基材と反射防止層P3との密着性を高めている。
【0040】
本形態において、ハードコート層P2は、有機材料層や有機ケイ素化合物層からなるベース層を備える。また、ハードコート層P2は、ベース層に金属酸化物微粒子が分散した層からなる。金属酸化物微粒子の具体例としてはSiO2、Al2O3、SnO2、TiO2等の金属酸化物からなる。本形態では、金属酸化物微粒子として、SiO2(シリカ)が用いられる。
【0041】
有機材料層の形成には、各種樹脂層が用いられる。有機ケイ素化合物層の形成には、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ビニルトリアルコキシシラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン等が用いられる。
ハードコート層P2を形成するための塗布液は、ベース層を形成するための液状物に金属酸化物微粒子を分散させた塗布液が用いられる。また、ハードコート層P2を形成する際、レンズ本体P1の表面に、レンズ本体P1とハードコート層P2との密着性等を向上するための酸処理やプライマー処理等の前処理が行われることがある。
【0042】
(ハードコート層P2の形成方法等)
図3は、
図1に示すプラスチックレンズPのハードコート層P2を形成する条件を示す説明図である。
図4は、
図1に示すハードコート層P2を形成するための塗布液の粘度とハードコート層の厚さとの関係を示すグラフである。
図5は、
図1に示すハードコート層におけるシリカ含有率と反射防止層表面の鉛筆硬度との関係を示すグラフである。
【0043】
ハードコート層P2を形成する工程では、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法等の塗布方法を用いて塗膜を形成した後に、塗膜に熱、紫外線等の電磁波または電子ビームなどによって硬化させる。熱を用いる場合には、塗布液を塗布した後、40~200℃の温度で数時間程度、加熱乾燥する方法が例示できる。塗布液における金属酸化物微粒子の配合量が少なすぎると、形成されるハードコート層P2の耐摩耗性が不十分となる場合がある。一方、塗布液における金属酸化物微粒子の配合量が多すぎると、ハードコート層P2にクラックが生じる場合がある。
【0044】
ハードコート層P2の材料としては、光硬化性樹脂材料であることが好ましい。本形態
において、ハードコート層形成工程では、アクリルおよび/またはウレタンから成る光硬化性樹脂材料、および金属酸化物微粒子を含む塗布液をスピンコート法によって塗布した後、塗布液からなる塗膜に熱を与えて乾燥させた後、紫外線灯の電磁波または電子ビーム等によって光硬化させ、ハードコート層P2を形成する。従って、レンズ本体P1のガラス転移温度Tg未満の温度でハードコート層P2を形成することができる。さらに、ハードコート層P2がアクリルおよび/またはウレタン等から成る光硬化性樹脂であるため、レンズ本体P1との密着性に優れており、レンズ本体P1と反射防止層P3との間で優れた緩衝層として機能する。
【0045】
なお、本形態では、ハードコート層P2の材料は光硬化性樹脂材料を使用したが、ハードコート層P2の材料は、光硬化性樹脂材料に替えて熱硬化性樹脂材料であってもよい。
【0046】
スピンコート法では、レンズ本体P1の一方面Paに塗布液を滴下した後、レンズ本体P1を光軸L周りに回転させて塗布液の塗膜を形成する。その際、ハードコート層P2を十分に厚く形成するには、塗布液の高粘度化が考えられるが、従来の塗布条件のまま、塗布液の粘性を高めると、塗膜の均一性が悪くなり、レンズ形状が実質的に歪んでしまう。
従って、本形態では、粘度が26mPa・s~50mPa・sの比較的高粘度の塗布液を塗布し、レンズ本体P1の表面全体に塗布液が行き渡るように、滴下した後、スピンコーターの回転を、
図3に示すように制御する。
【0047】
より具体的には、まず、1次回転では、スピンコーターの回転速度に所定の加速勾配を付けて徐々に加速させた後、一定速度で一定時間回転させ、その後、所定の減速勾配を付けて、徐々に減速する。より具体的には、1次回転では、加速勾配a1、等速回転時の角速度r1、および減速勾配d1を各々、以下の条件とする。
a1=100rpm/s~3000rpm/s
r1=900rpm~3000rpm
d1=100rpm/s~3000rpm/s
【0048】
例えば、1次回転では、一定速度で一定時間回転させる際の角速度r1を1000rpmとし、回転時間を10秒とする。また、角速度r1が1000rpmとなるまでの加速勾配a1を333rpm/sとし、減速勾配d1を200rpm/sとする。
【0049】
次に、1次回転後の塗布状態を確認し、その確認結果によっては、1次回転より早い速度で一定時間回転させる2次回転を行う。2次回転でも、1次回転と同様、スピンコーターの回転速度に所定の加速勾配を付けて徐々に加速させた後、一定速度で一定時間回転させ、その後、所定の減速勾配を付けて、徐々に減速する。より具体的には、等速回転時の角速度r2を1次回転における角速度r1の2倍以上とする。
【0050】
例えば、2次回転では、一定速度で一定時間回転させる際の角速度r2を3000rpmとし、回転時間を9秒とする。また、角速度r2が3000rpmとなるまでの加速勾配a2を3000rpm/sとし、減速勾配d2を600rpm/sとする。
【0051】
なお、1次回転および2次回転を行って塗布液の塗膜を形成する場合、2次回転では、1次回転の等速回転から減速させることなく、所定の加速勾配を付けて徐々に加速させた後、一定速度で一定時間回転させ、その後、所定の減速勾配を付けて、徐々に減速するように構成してもよい。
【0052】
このような条件でハードコート層P2を形成する際、塗布液の粘度とハードコート層P2の厚さとの関係は、
図4に示す通りである。
図4では、標準的な粘度とした場合の結果を丸で示し、粘度を26mPa・s~50mPa・sまで高粘度化した場合の結果を三角
で示してある。
図4から分かるように、塗布液の粘度が高い場合には、ハードコート層P2を厚くすることができる。
【0053】
このように本形態では、粘度が26mPa・s~50mPa・sの比較的高粘度の塗布剤を用いることによって、ハードコート層P2を厚くする。また、塗布剤を滴下した後のスピン工程の条件を上記条件に設定し、加速時および減速時の速度勾配を緩やかにすることによって、急加速および急停止を防ぐ。このため、急加速および急停止に伴う慣性モーメントを小さくすることができるので、十分な厚さのハードコート層P2を形成した場合でも、塗膜の厚さにばらつきが生じにくい。
【0054】
例えば、粘度が46mPa・sの塗布剤を用いた場合、レンズ本体P1の一方面Paの中心Pa1に形成されたハードコート層P2の膜厚は7.4μmであり、一方面Paの外周Pa2に形成されたハードコート層P2の膜厚は7.55μmであり、一方面Paの中心Pa1と外周Pa2とに形成されたハードコート層P2の膜厚差は±0.3μmであった。従って、透過光の光学的歪みが生じないプラスチックレンズPを実現できる。
【0055】
ここで、ハードコート層P2の膜厚HCは、以下の条件式を満たすことが好ましい。
2μm≦HC≦20μm
【0056】
膜厚HCが2μm以上であれば、高い鉛筆硬度を実現することができる。また、膜厚HCが20μm以下であれば、耐熱衝撃性能を高めることができる。
【0057】
好ましくは、ハードコート層P2の膜厚HCは、以下の条件式を満たすことが好ましい。
5μm≦HC≦10μm
【0058】
膜厚HCが5μm以上であれば、6H以上の鉛筆硬度を実現することができる。また、膜厚HCが10μm以下であれば、熱衝撃によるクラックの発生をさらに抑制できる。
【0059】
より好ましくは、ハードコート層P2の膜厚HCは、以下の条件式を満たすことが好ましい。
6μm≦HC≦9μm
【0060】
膜厚HCが6μm以上であれば、6H以上の鉛筆硬度を確実に実現することができる。また、膜厚HCが9μm以下であれば、-40℃および85℃の各々で30分保持する熱衝撃試験を1000サイクル行った場合でも反射防止層P3に欠陥が発生しにくい。
【0061】
また、レンズ本体P1の一方面Paにおける中心Pa1と外周Pa2とにおけるハードコート層P2の膜厚差を±0.7μm以下とすることが好ましい。
【0062】
ここで、ハードコート層P2におけるシリカ含有率と反射防止層P3表面の鉛筆硬度との関係は、
図5に示す通りである。
【0063】
また、
図5から分かるように、シリカ含有量が多い程、反射防止層P3の表面の硬度が高くなる。従って、ハードコート層P2におけるシリカ粒子の含有率をSとしたとき、含有率Sは以下の条件式
40%≦S≦65%
を満たすことが好ましい。
【0064】
より具体的には、例えば、ハードコート層P2が6μmの場合において検証したところ
、シリカ含有量を40%以上とすれば、反射防止層P3の表面の硬度を鉛筆硬度で6H以上とすることができる。ここで、ハードコート層P2のシリカ含有量が65%を超えると、1000サイクルの熱衝撃試験(-40℃~85℃、30分)によって反射防止層P3に欠陥が発生しやすくなる。従って、ハードコート層P2は、シリカ含有量を40%以上、かつ65%以下とすることが好ましく、さらに、シリカ含有量を44%以上、かつ62%以下とすることがさらに好ましい。ハードコート層P2の膜厚HCを変更した場合でも、略同様の結果が得られた。
【0065】
(ハードコート層P2のレンズユニットへの影響)
以下、プラスチックレンズPを後述するレンズユニットに用いた場合の影響を説明する。
図6は、
図1に示すハードコート層P2の膜厚差とMTF(Modulation Transfer Function)との関係を示すグラフである。
図7は、
図1に示すハードコート層P2の膜厚差と画角との関係を示すグラフである。なお、
図6および
図7には、レンズ中心と外周の膜厚差が1μm、2μm、3μm、6μm、10μm、15μm、20μm、25μmの場合の結果を実線t1、t2、t3、t6、t10、t15、t20、t25で示してある。
図6および
図7から分かるように、レンズ中心と外周の膜厚差が小さい程、MTFおよび画角の変化が小さい。
【0066】
それ故、レンズの中心Pa1におけるハードコート層P2の膜厚とレンズの外周Pa2におけるハードコート層P2の膜厚との差は、15μm以下であることが好ましい。かかる態様によれば、MTFの変化を小さく抑えることができるため、解像度を維持することができる。また、レンズの中心Pa1の膜厚におけるMTF変化量と、レンズの外周Pa2の膜厚におけるMFT変化量との差は、0.02%以下であることが好ましい。かかる態様によれば、解像度を維持することができる。
【0067】
上記のように、従来のスピンコート方法では、レンズ中心と外周の膜厚差が15μmを超えるため、ユニットとしての画像がボケる。具体的には60lP/mmのMTFの変化量の差が0.02%を超える。これに対して、本形態によれば、膜厚差の変化量の差が15μm以下となるため、画像がボケない。具体的には、MTFの差で0.02%以下となる。なお、膜厚差の変化量の差は、6μm以下がより好ましい。
【0068】
また、プラスチックレンズPの一方面Paの曲率半径R11は、例えば、以下の条件式を満たすことが好ましい。
9.000mm≦R11≦16.000mm
【0069】
曲率半径R11が9.000mm未満の場合、レンズ外周での液溜まりの発生を解消しきれず、ハードコート層の膜厚差が3μm以上となってしまう。その結果、MTF値が15%以下となってしまう。これに対し、曲率半径R11が16.000mmを超えると、ハードコート層の膜厚差は低減できるが、魚眼レンズユニット用として不適となってしまう。
【0070】
それ故、本形態のプラスチックレンズPを第1レンズL1として用いたレンズユニット100では、実使用環境においてレンズにキズがつきにくい。従って、レンズユニット100としての画像のボケや乱れが起きにくく、耐久性が高い。また、プラスチックレンズPであるため、レンズ形状を非球面とすることも容易である。非球面形状とすることで、レンズユニット100とした構成にした場合、高い解像力を得ることができる。さらに本発明のコーティングをすることで、非球面形状を崩すことなくコーティングすることが可能となるため、以下に説明する反射防止層P3の効果と合わせて、鉛筆硬度6H以上を保ちつつ、高解像力なレンズユニット100とすることができる。
【0071】
(反射防止層P3の構成)
図8は、
図1に示す反射防止層P3の層構造を示す説明図である。
図9は、
図1に示す反射防止層P3の光学特性を示す説明図である。
図10は、
図1に示す反射防止層P3のナノインデンター押込み弾性率を示す説明図である。
【0072】
図1に示すプラスチックレンズPにおいて、反射防止層P3は、低屈折率膜と高屈折率膜とが交互に積層された誘電体多層膜からなる。本形態においては、
図8に示すように、反射防止層P3は、低屈折率膜としての二酸化珪素膜(SiO2膜)と高屈折率膜としての四窒化三珪素膜(Si
3N
4膜)とが交互に積層された誘電体多層膜からなる。
【0073】
本形態においては、反射防止層P3では、最上層が二酸化珪素膜であることが望ましい。また、最上層の二酸化珪素膜の膜厚は60nm以上であることが好ましい。ここで、反射防止層P3において成膜される多層膜は、膜性能および成膜作業の効率性を考慮すると、5層または7層程度が好ましく、その反射防止層P3の総膜厚ARは、以下の条件式を満たすことが好ましい。
200nm≦AR≦500nm
【0074】
好ましくは、反射防止層P3の総膜厚ARは、以下の条件式を満たすことが好ましい。
280nm≦AR≦500nm
【0075】
かかる構成によれば、以下に説明するように、プラスチックレンズPの反射防止性能に優れている。例えば、反射防止層P3の総膜厚ARが500nmを超えると、反射防止層P3の応力が高すぎて被膜が割れやすくなるとともに、成膜時にレンズ本体P1の温度が過度に上昇し、レンズ面への影響が生じる。また、反射防止層P3の総膜厚ARが200nm未満であると、適正な反射防止特性が得られないとともに、反射防止層P3の硬度を確保しにくく、傷がつきやすい。また、反射防止層P3の総膜厚ARを適正化することにより、反射防止層P3を成膜する際の温度上昇を抑制すると、MTF変化を抑制することができる。それ故、高い解像度を維持することができる等、品位の高い画像を得ることができる。
【0076】
例えば、
図8に示す実施例では、低屈折率膜としての二酸化珪素膜(SiO
2膜)と高屈折率膜としての四窒化三珪素膜(Si
3N
4膜)とが交互に計8層、積層されている。最上層は、厚さが104.17nmの二酸化珪素膜であり、反射防止層P3の総膜厚は、296.18nmである。なお、
図8に示す実施例では、第1層目が四窒化三珪素膜であったが、第1層目は二酸化珪素膜であってもよい。また、高屈折率膜としては、四窒化三珪素膜の他に、酸化タンタル膜、酸化チタン膜、酸化ニオブ膜であってもよい。また、低屈折率膜としては、Al
2O
3であってもよい。
【0077】
また、
図10に示す実施例のように、本形態の反射防止層P3は、ナノインデンター押込み弾性率が70GPa以上、かつ、110GPa以下である。
図10に示すように、ナノインデンター押込み弾性率が70GPa未満であると、反射防止層P3に割れは生じないが、耐傷性が劣る。一方、ナノインデンター押込み弾性率が110GPaを超えると、反射防止層P3の応力が高すぎて割れが発生するおそがある。それ故、ナノインデンター押込み弾性率が上記範囲であれば、耐傷性と膜応力を両立できる。なお、本形態では、ENT-NEXUS(株式会社エリオニクス)を用いた負荷除荷試験によって、ナノインデンター押込み弾性率を求めた。試験には、Berkovich型ダイヤモンド圧子を用いた。試験における最大荷重は、1mN以下である。
【0078】
また、反射防止層P3において、レンズ本体P1から最も離隔する最外層は二酸化珪素膜であって、最外層の膜厚をtsとしたとき、膜厚tsは、以下の条件式
60nm≦ts≦150nm
を満たすことが好ましい。また、より好ましくは、膜厚tsは、以下の条件式
60nm≦ts≦100nm
を満たすことが好ましい。
【0079】
かかる構成によれば、反射防止層P3の最外層を二酸化珪素膜とし、かつ膜厚を60nm以上とすることによって、反射防止層P3の耐薬品性等の耐久性を向上することができる。また、反射防止層P3の最外層を二酸化珪素膜としたため、実使用環境においてプラスチックレンズPにキズがつきにくく、レンズユニットとしての画像のボケや乱れが起きにくい。それ故、耐久性の高いレンズユニットを構成することができる。
【0080】
かかる反射防止層P3を設けたプラスチックレンズPでは、
図9に示すように、420nmより長波長の可視光に対して優れた反射防止効果を発揮する。
なお、反射防止層P3を形成した後、プラスチックレンズ表面の撥水撥油性能を向上させる目的で、含フッ素シラン化合物からなる防汚層が形成されることがある。含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液を用いて反射防止層上に塗布する方法を採用することができる。
【0081】
(反射防止層P3の形成工程)
図11は、
図1に示す反射防止層P3等のビッカース硬度を示す説明図である。
図11において、反射防止層P3を蒸着法で形成した場合のビッカース硬度をひし形で示し、5層構造の反射防止層P3をスパッタ法で形成した場合のビッカース硬度を三角で示し、9層構造の反射防止層P3をスパッタ法で形成した場合のビッカース硬度を丸で示してある。
【0082】
本形態において、反射防止層形成工程では、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理蒸着法(PVD法)、あるいは化学蒸着法(CVD法)などを採用することができる。ここで、蒸着されたAR膜と比較して、スパッタされたAR膜は引っかき傷に対する耐性が高くなり、耐擦過性が向上する。
【0083】
例えば、
図11には、スパッタ法および蒸着法で形成した反射防止層P3のビッカース硬度を比較して示してある。なお、
図11には、スパッタ法によって約200nmから約550nmの厚さで形成した反射防止層P3のビッカース硬度を、蒸着法によって約250nmの厚さで形成した反射防止層P3のビッカース硬度と比較して示してある。
図11から分かるように、蒸着法によれば、ビッカース硬度が400kgf/mm2未満の反射防止層P3しか実現できないのに対し、スパッタ法によれば、ビッカース硬度が400kgf/mm2を超える反射防止層P3を実現することができる。
【0084】
従って、本形態では、スパッタ法によって反射防止層P3を形成する。より具体的には、例えば、マグネトロンスパッタリング装置内に2~5Pa程度の圧力のアルゴンを導入し、電界で加速したアルゴンイオンをターゲットの二酸化珪素に照射し、二酸化珪素膜を形成する。また、マグネトロンスパッタリング装置内に2~5Pa程度の圧力のアルゴンを導入し、電界で加速したアルゴンイオンをターゲットの四窒化三珪素に照射し、四窒化三珪素膜を形成する。
【0085】
(反射防止層P3の成膜時の温度等の影響)
図12は、レンズ本体P1を構成する樹脂の線膨張係数を示すグラフである。
図13は、
図1に示す反射防止層P3を成膜する際の温度と画角変化量との関係を示すグラフである。
図14は、
図1に示す反射防止層P3を成膜する際の温度とMTF変化量との関係を示すグラフである。なお、
図13および
図14において、成膜した際の温度が50℃、7
0℃、80℃、90℃、110℃の場合の結果を実線t50,t70,t80、t90,t110で示してある。
【0086】
スパッタ工程において、反射防止層P3を成膜する際、温度が上昇する。その際の温度は、レンズ本体P1を構成する樹脂のガラス転移温度Tgより低く、かつガラス転移温度Tgと成膜温度との差が50℃以上であることが好ましい。より具体的には、
図12に示すように、レンズ本体P1を構成する樹脂は、温度が上昇するに伴い、線膨張係数が増大する。
【0087】
例えば、レンズ本体P1を構成する樹脂のガラス転移温度Tgが130℃の場合、成膜時の温度と線膨張係数との関係は以下の通りである。
成膜時の温度 熱膨張係数(65ppm/℃)
25℃(Tgとの差=105℃) 65
50℃(Tgとの差=80℃) 65
70℃(Tgとの差=60℃) 82(25℃の1.26倍)
90℃(Tgとの差=40℃) 107(25℃の1.65倍)
【0088】
上記の結果から分かるように、成膜時の温度がレンズ本体P1を構成する樹脂のガラス転移温度Tgより低いが、成膜時の温度とガラス転移温度Tgとの温度差が50℃未満のときのレンズ本体P1の線膨張係数は、25℃を基準としたときの1.3倍以上である。
【0089】
これに対して、成膜時の温度がレンズ本体P1を構成する樹脂のガラス転移温度Tgより低く、かつ、成膜時の温度とガラス転移温度Tgとの温度差が50℃以上である場合、レンズ本体P1の線膨張係数は、25℃を基準としたときの1.3倍未満である。従って、本形態では、成膜時の温度についてはレンズ本体P1を構成する樹脂のガラス転移温度Tgより低く、かつ、成膜時の温度とガラス転移温度Tgとの差が30℃以上であることが好ましい。かかる条件範囲によれば、反射防止層P3を形成する際のレンズ本体P1に加わる熱応力が小さいので、反射防止層P3に発生する圧縮応力を小さくすることができる。また、本形態では、レンズ本体P1を構成する樹脂がイミド構造を有するため、ガラス転移温度Tgが高く、80℃から100℃の温度での線膨張係数が小さい。従って、反射防止層P3とレンズ本体P1との線膨張係数の差が小さい。
【0090】
また、反射防止層P3の総膜厚が厚いので、膨張もしくは収縮によって反射防止層P3に加わる応力が小さい。この場合でも、反射防止層P3の総膜厚を500nm以下に限定したため、成膜時間が短く済む。このため、成膜時におけるプラスチックレンズPの温度上昇を抑制することができる。
【0091】
従って、反射防止層P3で発生する圧縮応力が小さい。それ故、85℃で30minと-40℃で30minの温度サイクルを1000サイクル行う信頼性試験に耐えることができる。それ故、実使用環境においてキズがつきにくく、レンズユニットとしての画像のボケや乱れが起きにくいので、耐久性の高いレンズユニットを構成することができる。
【0092】
また、反射防止層P3を成膜する際の温度は、成膜時間が長い程、上昇する。従って、反射防止層P3の膜厚は、反射防止層P3を成膜する際の温度に影響を及ぼす。ここで、反射防止層P3を成膜する際の温度が高い程、熱膨張等の影響によって光学特性が変化する。例えば、
図13および
図14に示すように、
図1に示す反射防止層P3を成膜する際の温度が高い程、画角の変化量およびMTFの変化量が大きい。それ故、反射防止層P3を成膜する際、温度の影響を受けにくくなるように、反射防止層P3の膜厚を薄くし、レンズ本体P1を構成する樹脂のガラス転移温度Tgを高くすることが好ましい。
【0093】
(プラスチックレンズPの変形例)
変形例としては、プラスチックレンズPは、光軸Lの延在方向の像側Lbに向く一方面Paと、物体側Laとは反対の物体側Laに向く他方面Pbとを備えてもよい。すなわち、変形例のプラスチックレンズPは、光軸Lの延在方向の像側Lbに向く一方面Paを覆うハードコート層P2と、ハードコート層P2をレンズ本体P1とは反対側から覆う反射防止層P3とを備えてもよい。
【0094】
また、変形例のプラスチックレンズPは、一方面Paおよび他方面Pbの両側に、ハードコート層P2と、ハードコート層P2をレンズ本体P1とは反対側から覆う反射防止層P3とを備えてもよい。
【0095】
(レンズユニットの実施例1)
図面を参照して、本発明を適用したプラスチックレンズPを用いたレンズユニットを説明する。なお、以下の説明においては、特別な指示がない限り、その単位はmmである。
図15は、本発明の実施例1に係るレンズユニット10の説明図であり、
図15には、レンズデータおよび非球面係数に対応する面ナンバーを括弧内に示してある。また、面ナンバーの後ろに「*」を付した面は非球面である。
図16は、
図15に示すレンズユニット10における各レンズデータおよび非球面係数等を示す説明図である。
図17は、
図15に示すレンズユニット10の主なパラメータを示す説明図である。
図18は、
図15に示すレンズユニット10の光学特性を示す説明図であり、非点収差/ディストーション(a)、球面収差(b)、および倍率色収差(c)を示す。
図18において、サジタル方向の特性にはSを付し、タンジェンシャル方向の特性にはTを付してある。また、ディストーションとは、撮像中央部と周辺部における像の変化比率を示し、ディストーションをあらわす数値の絶対値が小さいほど、高精度なレンズといえる。
図19は、
図15に示すレンズユニット10の横収差を示す説明図であり、
図19(a)、(b)、(c)、(d)には、0deg、29.46deg、55.40deg、76.76deg、95.90degにおけるX軸方向およびY軸方向における横収差を示してある。なお、
図18および
図19において、波長645の光に対する収差については(R)を付し、波長588の光に対する収差については(G)を付し、波長486の光に対する収差については(B)を付してある。なお、
図16に示す非球面係数A4、A6、A8、A10は、以下の非球面関数における各係数に相当する。ここで、Zはサグ量、cは曲率半径の逆数、Kは円錐係数、rは光線高さである。
【0096】
【0097】
図15および
図16に示すレンズユニット10は水平画角が120度以上である。レンズユニット10では、物体側から像側に向かって第1レンズL1、第2レンズ12、第3レンズ13、絞り17、第4レンズ14、および第5レンズ15が順に配置されており、第5レンズ15に対して像側には、フィルタ18および撮像素子19が順に配置される。第1レンズL1は、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズである。本形態において、第1レンズL1の凸面からなる物体側の面(第1面1)は球面であり、凹面からなる像側の面(第2面2)は非球面である。
【0098】
第2レンズ12は、像側に凹面を向けた負レンズである。本形態において、第2レンズ12は、像側に凹面を向けた負メニスカスレンズであって、凸面からなる物体側のレンズ
面(第3面3)、および凹面からなる像側のレンズ面(第4面4)の少なくとも一方が非球面である。本形態において、第2レンズ12の物体側の面(第3面3)、および像側の面(第4面4)の双方が非球面である。
第3レンズ13は、像側に凸面を向けた正メニスカスレンズ、または両凸レンズであって、物体側のレンズ面(第5面5)および像側のレンズ面(第6面6)の少なくとも一方が非球面である。本形態において、第3レンズ13は、両凸レンズであって、凸面からなる物体側の面(第5面5)、および凸面からなる像側の面(第6面6)の双方が非球面である。
【0099】
第4レンズ14は、像側に凹面を向けた負メニスカスレンズ、または両凹レンズである。本形態において、第4レンズ14は、像側に凹面を向けた負メニスカスレンズであって、第4レンズ14の凸面からなる物体側の面(第8面8)、および凹面からなる像側の面(第9面9)の双方が非球面である。
第5レンズ15は、両凸レンズである。第4レンズ14および第5レンズ15は、プラスチックレンズであって、第4レンズ14の像側のレンズ面と第5レンズの物体側のレンズ面が接合された接合レンズ16を構成している。接合レンズ16の接合面(第9面9)、および第5レンズ15の凸面からなる像側の面(第10面10)の双方が非球面である。本形態においては、第1レンズL1、第2レンズ12および第3レンズ13も、第4レンズ14および第5レンズと同様、プラスチックレンズである。
このように構成したレンズユニット10の主なパラメータを
図17に示す。
図17に示すパラメータは、以下の通りである。なお、
図17には、後述する実施例2のパラメータも示してある。
f0・・レンズ系全体の焦点距離
f1・・第1レンズL1の焦点距離
R11・・第1レンズL1の第1面(1)の曲率半径
r・・視野角
sd11・・第1レンズL1の第1面(1)の有効半径
ARS11・・第1レンズL1の第1面(1)の中心から有効半径に対応する半径位置まで第1面(1)に沿って測定したときの距離
【0100】
図16に示すように、レンズユニット10は、光学系全体の焦点距離f0(Effective FocaL Length)が0.822mmであり、物像間距離(TotaL
TRack/光学全長)が9.206mmであり、レンズ系全体のF値(Image Space F/#)が2.4であり、最大画角(Max. FieLd Angle)が192degであり、水平画角(HOIRizontaL Field Angle)が192degである。
【0101】
また、
図16および
図17に示すように、レンズユニット10は、以下の条件式を全て満たしている。
【0102】
プラスチックレンズPの一方面Paの曲率半径R11とプラスチックレンズPの焦点距離f1との比R11/f1は、-3.601であり、以下の条件式を満たしている。
-5.0≦R11/f1≦-1.0
【0103】
プラスチックレンズPの一方面Paの有効半径sd11と、一方面Paの中心から有効半径に対応する半径位置まで一方面Paに沿って測定したときの距離ARS11との比sd11/R11は、1.030であり、以下の条件式を満たしている。
1.000<ARS11/sd11<1.013
【0104】
一方面Paの曲率半径R11とレンズ系全体の焦点距離f0との比R11/f0は、1
3.509であり、以下の条件式を満たしている。
8.000≦R11/f0≦14.000
【0105】
R11/f0が下限(8.00)以上であるため、レンズパワーが強くなりすぎることを回避することができる。従って、各種収差の補正を適正に行うことができ、高い光学特性を実現することができる。また、R11/f0が上限(14.00)以下であるため、プラスチックレンズPからなる第1レンズL1のパワーが弱くなりすぎることを回避することができる。それ故、レンズユニットの小型化を図ることができる。
半画角ωは、95.901degであり、以下の条件式を満たしている。
75deg≦ω≦120deg
【0106】
一方面Paの曲率半径R11と一方面Paの有効半径sd11との比sd11/R11は、0.410であり、以下の条件式を満たしている。
0.300≦sd11/R11≦0.600
【0107】
半画角ωが下限以上であるため、広画角化を図ることができる。また、半画角ωが上限以下であるため、周辺光量比が中心部分と比較して小さくなって画像の周辺部分が暗くなることを防ぐことができる。また、sd11/R11が上限以下であるため、プラスチックレンズからなる第1レンズL1の他方面の周辺部が接線となす角度が過度に小さくなることを抑制できる。したがって、プラスチックレンズPからなる第1レンズL1の他方面の成形が容易になる。
【0108】
このように構成したレンズユニット10の非点収差/ディストーション(歪曲収差)、球面収差、および倍率色収差は、
図18に示す通りであり、横収差は
図19に示す通りであり、いずれも収差も小さい。
【0109】
(レンズユニットの実施例2)
図20は、本発明のプラスチックレンズPを備えたレンズユニット10の実施例1の説明図である。
図21は、
図20に示すレンズユニット10における各レンズデータおよび非球面係数等を示す説明図である。
図22は、
図20に示すレンズユニット10の光学特性を示す説明図であり、非点収差/ディストーション(a)、球面収差(b)、および倍率色収差(c)を示す。
図23は、
図19に示すレンズユニット10の横収差を示す説明図であり、
図23(a)、(b)、(c)、(d)には、0deg、29.46deg、55.40deg、76.76deg、95.90degにおけるX軸方向およびY軸方向における横収差を示してある。なお、本形態の基本的な構成は、実施例1と同様であるため、共通する部分には同一の符号を付して図示し、それらの詳細な説明を省略する。
【0110】
図20に示すレンズユニット10は、実施例1と同様、水平画角が120度以上であり、物体側から像側に向かって第1レンズL1、第2レンズ12、第3レンズ13、絞り17、第4レンズ14、および第5レンズ15が順に配置されている。第1レンズL1は、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズである。本形態において、第1レンズL1の凸面からなる物体側の面(第1面1)は球面であり、凹面からなる像側の面(第2面2)は非球面である。
【0111】
第2レンズ12は、像側に凹面を向けた負レンズである。本形態において、第2レンズ12は、像側に凹面を向けた負メニスカスレンズであって、凸面からなる物体側のレンズ面(第3面3)、および凹面からなる像側のレンズ面(第4面4)の少なくとも一方が非球面である。本形態において、第2レンズ12の物体側の面(第3面3)、および像側の面(第4面4)の双方が非球面である。
【0112】
第3レンズ13は、像側に凸面を向けた正メニスカスレンズ、または両凸レンズであって、物体側のレンズ面(第5面5)および像側のレンズ面(第6面6)の少なくとも一方が非球面である。本形態において、第3レンズ13は、像側に凸面を向けた正メニスカスレンズであって、凹面からなる物体側の面(第5面5)、および凸面からなる像側の面(第6面6)の双方が非球面である。
【0113】
第4レンズ14は、像側に凹面を向けた負メニスカスレンズ、または両凹レンズである。本形態において、第4レンズ14は、像側に凹面を向けた負メニスカスレンズであって、第4レンズ14の凸面からなる物体側の面(第8面8)、および凹面からなる像側の面(第9面9)の双方が非球面である。
【0114】
第5レンズ15は、両凸レンズである。第4レンズ14および第5レンズ15は、プラスチックレンズであって、第4レンズ14の像側のレンズ面と第5レンズの物体側のレンズ面が接合された接合レンズ16を構成している。接合レンズ16の接合面(第9面9)、および第5レンズ15の凸面からなる像側の面(第10面10)の双方が非球面である。本形態においては、第1レンズL1、第2レンズ12および第3レンズ13も、第4レンズ14および第5レンズと同様、プラスチックレンズである。
【0115】
このように構成したレンズユニット10において、光学系全体の焦点距離f0が1.410mmであり、物像間距離が11.378mmであり、レンズ系全体のF値が2.0であり、最大画角が156deg、水平画角が130degである。
【0116】
また、
図17および
図21に示すように、レンズユニット10は、以下の条件式を全て満たしている。まず、プラスチックレンズPの一方面Paの曲率半径R11とプラスチックレンズPの焦点距離f1との比R11/f1は、-4.015であり、以下の条件式を満たしている。
-1.0≦R11/f1≦-5.0
【0117】
プラスチックレンズPの一方面Paの有効半径sd11と、一方面Paの中心から有効半径に対応する半径位置まで一方面Paに沿って測定したときの距離ARS11との比sd11/R11は、1.018であり、以下の条件式を満たしている。
1.000<ARS11/sd11<1.013
【0118】
一方面Paの曲率半径R11とレンズ系全体の焦点距離f0との比R11/f0は、9.948であり、以下の条件式を満たしている。
8.000≦R11/f0≦14.000
【0119】
半画角ωは、77.846degであり、以下の条件式を満たしている。
75deg≦ω≦120deg
【0120】
一方面Paの曲率半径R11と一方面Paの有効半径sd11との比sd11/R11は、0.324であり、以下の条件式を満たしている。
0.300≦sd11/R11≦0.600
いる。
【0121】
このように構成したレンズユニット10の非点収差/ディストーション(歪曲収差)、球面収差、および倍率色収差は、
図22に示す通りであり、横収差は
図23に示す通りであり、いずれも収差も小さい。
【0122】
以上説明してきたように、本明細書には下記の事項が開示されている。
【0123】
(001)
樹脂製のレンズ本体P1と、前記レンズ本体P1の少なくとも一方面Paに設けられたハードコート層P2と、前記ハードコート層P2の前記レンズ本体P1とは反対側の面に積層された反射防止層P3と、を備え、前記レンズ本体P1は、環構造として環状イミド構造を有し、前記ハードコート層P2の膜厚HCは、以下の条件式(1)
2μm≦HC≦20μm・・・(1)
を満たし、
前記反射防止層P3の総膜厚ARは、以下の条件式(2)
200nm≦AR≦500nm・・・(2)
を満たすことを特徴とする。
【0124】
(001)によれば、レンズ本体P1を構成する樹脂は、環状イミド構造を有するため、透明であり、ガラス転移温度が通常のメタクリル系樹脂等と比較して30℃から40℃高い。また、ハードコート層P2の膜厚HCが2μm未満、あるいは20μm超えた場合、例えば、-40℃から+85℃までの間の熱衝撃によってクラックが発生しやすいが、本発明では、ハードコート層P2の膜厚HCが2μm以上、かつ20μm以下であるため、熱衝撃によるクラックが発生しにくい。
【0125】
(002)
(001)において、前記ハードコート層P2は、シリカ粒子を含有し、
前記ハードコート層P2における前記シリカ粒子の含有率をSとしたとき、含有率Sは以下の条件式(3)
40%≦S≦65%・・・(3)
を満たすことが好ましい。
【0126】
(003)
(001)または(002)において、前記反射防止層P3は、二酸化珪素膜と、二酸化珪素膜より屈折率が大きい高屈折率膜とが交互に積層された誘電体多層膜であり、前記反射防止層P3において前記レンズ本体P1から最も離隔する最外層は二酸化珪素膜であって、前記最外層の膜厚をtsとしたとき、膜厚tsは、以下の条件式(4)
60nm≦ts≦150nm・・・(4)
を満たすことが好ましい。
【0127】
(004)
(003)において、前記高屈折率膜は四窒化三珪素膜である態様を採用することができる。
【0128】
(005)
(001)から(004)までの何れかにおいて、レンズ中心Pa1の膜厚におけるMTF変化量と、レンズ外周Pa2の膜厚におけるMFT変化量の差は、0.02%以下であることが好ましい。
【0129】
(006)
(001)から(005)の何れかにおいて、レンズ中心Pa1における前記ハードコート層P2の膜厚とレンズ外周Pa2における前記ハードコート層P2の膜厚との差は、15μm以下であることが好ましい。
【0130】
(007)
(001)から(006)の何れかにおいて、前記一方面Paの曲率半径をR11とした
とき、曲率半径R11は、以下の条件式(5)
9.000mm≦R11≦16.000mm・・・(5)
を満たすことが好ましい。
【0131】
(008)
(001)から(007)の何れかにおいて、前記レンズ本体P1の前記一方面Paは、非球面である態様を採用することができる。
【0132】
(009)
(001)から(008)の何れかにおいて、前記ハードコート層P2は、光硬化性樹脂であることが好ましい。
【0133】
(010)
(001)から(009)の何れかにおいて、前記レンズ本体P1は、例えば、主鎖に前記環構造を有する構造単位を有するメタクリル系樹脂であって、前記構造単位が、N-置換マレイミド単量体由来の構造単位、およびグルタルイミド系構造単位のうち、少なくとも一種の構造単位を含む態様を採用することができる。
【0134】
(011)
(001)から(010)の何れかにおいて、前記一方面Paの曲率半径をR11とし、前記プラスチックレンズPの焦点距離をf1としたとき、曲率半径R11および焦点距離f1は、以下の条件式(6)
-5.000≦R11/f1≦-1.000・・・(6)
を満たすことが好ましい。
【0135】
(012)
(001)から(011)の何れかにおいて、前記一方面Paの有効半径をsd11とし、前記一方面Paの中心から前記有効半径に対応する半径位置まで前記一方面Paに沿って測定したときの距離をARS11としたとき、有効半径sd11および距離ARS11は、以下の条件式(7)
1.000<ARS11/sd11<1.013・・・(7)
を満たすことが好ましい。
【0136】
(013)
(001)から(012)の何れかに係るプラスチックレンズPを含む複数のレンズを備えたレンズユニットにおいて、前記プラスチックレンズPは、前記複数のレンズのうち、最も物体側Laで前記一方面Paを物体側Laに向けて配置される。
【0137】
(014)
(013)において、前記一方面Paの曲率半径をR11とし、前記複数のレンズからなるレンズ系全体の焦点距離をf0としたとき、曲率半径R11および焦点距離f0は、以下の条件式(8)
8.000≦R11/f0≦14.000・・・(8)
を満たすことが好ましい。
【0138】
(015)
(013)または(014)において、半画角をωとしたとき、半画角ωは以下の条件式
75deg≦ω≦120deg
を満たし、
前記一方面Paの曲率半径をR11とし、前記一方面Paの有効半径をsd11とした
とき、曲率半径R11および有効半径sd11は、以下の条件式(9)
0.300≦sd11/R11≦0.600・・・(9)
を満たすことが好ましい。
【符号の説明】
【0139】
L…光軸、La…物体側、Lb…像側、P…プラスチックレンズ、Pa…一方面、Pb…他方面、Pa1…レンズ中心、Pa2…レンズ外周、P1…レンズ本体、P2…ハードコート層、P3…反射防止層