(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067163
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】ブロー成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 49/36 20060101AFI20230509BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20230509BHJP
B29C 48/32 20190101ALI20230509BHJP
B29C 49/04 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
B29C49/36
B29C48/08
B29C48/32
B29C49/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178181
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】佐野 尊
【テーマコード(参考)】
4F207
4F208
【Fターム(参考)】
4F207AA04
4F207AA11
4F207AG08
4F207AH55
4F207AR04
4F207AR12
4F207AR17
4F207KA01
4F207KA17
4F207KL88
4F207KM15
4F207KW42
4F208AA04
4F208AA11
4F208AG07
4F208AH55
4F208AR12
4F208LA01
4F208LA07
4F208LA09
4F208LB01
4F208LD01
4F208LD10
4F208LD11
4F208LG04
4F208LG22
4F208LJ09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】成形不良を抑制することができる、ブロー成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】ロータリー成形機を用いたブロー成形体の製造方法であって、投入工程と、成形工程を備え、前記ロータリー成形機は、金型12と、金型駆動機構10とを有し、前記金型は、前記ブロー成形体が成形されるキャビティを有し、且つ、開閉可能に構成され、前記金型駆動機構は、公転軸を中心に前記金型を回転させるように構成され、前記投入工程では、前記キャビティに溶融樹脂を配置し、前記成形工程では、前記金型駆動機構によって前記公転軸を中心に前記金型を回転させながら、前記キャビティの前記溶融樹脂を成形し、前記溶融樹脂は、動的粘弾性測定において、以下の(a)及び(b)を満たす樹脂で構成される、製造方法とする。
(a)G'>290(Pa)
(b)tanδ<4.60
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリー成形機を用いたブロー成形体の製造方法であって、
投入工程と、成形工程を備え、
前記ロータリー成形機は、金型と、金型駆動機構とを有し、
前記金型は、前記ブロー成形体が成形されるキャビティを有し、且つ、開閉可能に構成され、
前記金型駆動機構は、公転軸を中心に前記金型を回転させるように構成され、
前記投入工程では、前記キャビティに溶融樹脂を配置し、
前記成形工程では、前記金型駆動機構によって前記公転軸を中心に前記金型を回転させながら、前記キャビティの前記溶融樹脂を成形し、
前記溶融樹脂は、動的粘弾性測定において、以下の(a)及び(b)を満たす樹脂で構成される、方法。
(a)G'>290(Pa)
(b)tanδ<4.60
tanδ:G''/G'
G':前記溶融樹脂の190度における貯蔵弾性率
G'':前記溶融樹脂の190度における損失弾性率
【請求項2】
請求項1に記載の容器であって、
前記溶融樹脂のメルトフローレート(MFR)は、0.80~2.00g/10分である、方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の容器であって、
前記溶融樹脂のメルトテンション(MT)は、14~35mNである、方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1つに記載の方法であって、
前記ブロー成形体は、口部及び胴部を有し、
前記胴部の最大外径は、前記口部の外径の4倍以上である、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記ブロー成形体は、向かい合う一対のパーティングラインを有し、
前記金型は、前記一対のパーティングラインが前記公転軸を中心とする径方向に並ぶように、前記金型駆動機構に取り付けられ、
前記胴部の前記最大外径は、前記胴部における前記一対のパーティングライン間の距離である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロー成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ブロー成形された樹脂製の容器が各種提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示されている樹脂製の容器は、各種の薬液等を内容液として充填可能に構成されており、ブロー成形で製造される。ブロー成形では、例えば、熱可塑性樹脂からなる溶融樹脂を分割金型で挟み、溶融樹脂内に空気を注入して膨らませ、溶融樹脂を金型の内面に密着させた後に冷却固化し、ブロー成形体として金型から取り出す成形方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブロー成形の製造方式は、各種提案されているが、例えば、ロータリー成形機を用いた方式がある。ロータリー成形機では、複数の金型が円心円上に並べられている。そして、金型を回転させながら金型に溶融樹脂を連続的に供給し、溶融樹脂が供給された金型を順次閉じて溶融樹脂内にエアーが吹き込まれる。このような製造方式では、金型の回転に伴って金型内の溶融樹脂の姿勢が変わる。このため、溶融樹脂の姿勢と溶融樹脂に加わる力(例えば重力)の方向との関係が時間的に(動的に)変化し、成形不良につながる、という課題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、成形不良を抑制することができる、ブロー成形体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ロータリー成形機を用いたブロー成形体の製造方法であって、投入工程と、成形工程を備え、前記ロータリー成形機は、金型と、金型駆動機構とを有し、前記金型は、前記ブロー成形体が成形されるキャビティを有し、且つ、開閉可能に構成され、前記金型駆動機構は、公転軸を中心に前記金型を回転させるように構成され、前記投入工程では、前記キャビティに溶融樹脂を配置し、前記成形工程では、前記金型駆動機構によって前記公転軸を中心に前記金型を回転させながら、前記キャビティの前記溶融樹脂を成形し、前記溶融樹脂は、動的粘弾性測定において、以下の(a)及び(b)を満たす樹脂で構成される、方法が提供される。
(a)G'>290(Pa)
(b)tanδ<4.60
tanδ:G''/G'
G':前記溶融樹脂の190度における貯蔵弾性率
G'':前記溶融樹脂の190度における損失弾性率
【0007】
本発明によれば、溶融樹脂が、動的粘弾性測定において、以下の(a)及び(b)を満たす樹脂で構成されている。
(a)G'>290(Pa)
(b)tanδ<4.60
tanδ:G''/G'
G':前記溶融樹脂の190度における貯蔵弾性率
G'':前記溶融樹脂の190度における損失弾性率
つまり、溶融樹脂は、溶融樹脂に加わる力の向きが動的に変化することを踏まえた特性を備えており、その結果、ロータリー成形機における成形不良を抑制することができる。
【0008】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記溶融樹脂のメルトフローレート(MFR)は、0.80~2.00g/10分である、方法が提供される。
好ましくは、前記溶融樹脂のメルトテンション(MT)は、14~35mNである、方法が提供される。
好ましくは、前記ブロー成形体は、口部及び胴部を有し、前記胴部の最大外径は、前記口部の外径の4倍以上である、方法が提供される。
好ましくは、前記ブロー成形体は、向かい合う一対のパーティングラインを有し、前記金型は、前記一対のパーティングラインが前記公転軸を中心とする径方向に並ぶように、前記金型駆動機構に取り付けられ、前記胴部の前記最大外径は、前記胴部における前記一対のパーティングライン間の距離である、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係るブロー成形方法で用いるロータリー成形機を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すロータリー成形機を用いてブロー成形体である容器1を製造している様子を示す正面図である。
【
図4】
図4Aは、溶融樹脂を製造するための押出機21の概要説明図である。
図4Bは、ダイヘッド13の概要構成を説明するための断面図である。
【
図5】
図5は、ブロー成形体である容器1の正面図である。
【
図6】
図6Aは、
図5に示す容器1の横側面図である。
図6Bは、
図6Aに示すB-B端面図である。
図6Bでは、周方向に角度を12等分して得られた位置1~12が示されている。
【
図7】
図7Aは、
図3に示す位置p3に位置する金型12の溶融樹脂Pに作用する重力を示した図である。
図7Bは、
図3に示す位置p4に位置する金型12の溶融樹脂Pに作用する重力を示した図である。
図7A及び
図7Bでは、分割金型12a,12bとの接触面を通る面で、溶融樹脂Pを切断した状態を示す断面図である。
【
図8】
図8は、容器1の肉厚について説明するための容器1の高さ位置の説明図である。
【
図9】
図9は、表4に示す肉厚データをプロットしたグラフである。縦軸は、
図8の位置1~19に対応している。横軸は、肉厚を示し、単位はmmである。
【
図10】
図10は、図に示す肉厚データをプロットしたグラフである。
図10において、縦軸は、肉厚であり、単位はmmであり、横軸は、
図6Bに示す位置1~12に対応している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態
1.容器1の構成説明
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
図5~
図6Bに示す容器1は、ブロー成形体であり、胴部2と、口部3と、吊り部4と、キャップ部5とを備えている。容器1は、内容液を収容可能に構成されており、例えば、薬液を滴下するための輸液ボトルとして用いられる。容器1を構成する樹脂は、ブロー成形に適した熱可塑性樹脂を使用することができ、例えば、オレフィン系樹脂を用いることができる。実施形態では、容器1を構成する樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン、又は、これらの混合樹脂で構成される。
【0011】
図5~
図6Bにおいて、PLは、容器1の周方向において、容器1のパーティングラインの位置を示している。また、PL90は、容器1の周方向において、容器1のパーティングラインの位置から90度の角度をなす位置を示している。
【0012】
胴部2は、ストレート部2Aと、一対の縮径部2Bとを備えている。ストレート部2Aでは、長軸xの方向の幅及び短軸yの方向の幅が一定である。縮径部2Bは、胴部2から離れるにしたがって縮径するように形成されている。容器1は、扁平容器で構成されている。具体的には、ストレート部2Aの長軸xの方向の幅Txは、ストレート部2Aの短軸yの方向の幅Tyよりも広くなっている。幅Txは、胴部2における最大外径である。胴部2の最大外径(幅Tx)は、胴部2における一対のパーティングライン間の距離である。
【0013】
幅Txは、例えば90(mm)であり、幅Tyは、例えば25(mm)である。このため、幅Txと幅Tyとの比の値(Ty/Tx)は、約0.28である。ここで、容器1の扁平率を1-(Ty/Tx)と定義したとき、実施形態では、容器1の扁平率fは、1-0.28=0.72である。なお、扁平率fは、これに限定されるものではない。具体的には、扁平率fは、例えば、0.50,0.55,0.60,0.65,0.70,0.75,0.80,0.85,0.90に設定することができる。また、扁平率fは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内で定義してもよい。扁平率fが0.70以上となるような扁平率が比較的高い容器の場合において、本実施形態の作用・効果が顕著である。
【0014】
また、実施形態において、幅Tx(胴部2の最大外径)は、口部3の外径T21の4倍以上であるが、これに限定されるものではない。具体的には、幅Txは、例えば、外径T21の2.5,3.0,3.5,4.0,4.5,5.0,5.5,6.0倍に設定することができる。また、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内で定義してもよい。口部3の外径T2と胴部2の幅Txとの割合がこのような関係を満たす容器1を製造する場合に、本実施形態の作用・効果が特に顕著である。
【0015】
口部3は、円柱状に形成されている。口部3の中心軸に平行な方向において、口部3の一端部は、胴部2の縮径部2Bに接続され、口部3の他端部は、カットオフ部3aを介してキャップ部5に接続されている。カットオフ部3aは、容器1のうち薄肉形成された部分である。キャップ部5は、カットオフ部3aを介して口部3から分離可能に構成されている。
実施形態において、口部3の外径T21は、溶融樹脂Pの直径(例えば16(mm))に近く、例えば、16.5(mm)であるが、これに限定されるものではない。具体的には、外径T21は、例えば、溶融樹脂Pの直径の1.01,1.02,1.03,1.04,1.05,1.06,1.07,1.08,1.09,又は1.10倍に設定することができる。また、外径T21は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内で定義してもよい。
【0016】
吊り部4は、例えば円形の開口が形成されており、例えばフックに引っ掛けることが可能となっている。また、吊り部4は、中実の板状部材で構成されている。吊り部4は、縮径部2Bに接続されている。
【0017】
容器1の全長T1が長くなるほど、ロータリー成形において、後述する成形不良(ドローダウン)の影響が顕在化しやすくなる。全長T1は、例えば、胴部2の幅Txの2.0,2.2,2.4,2.6,2.8,3.0,3.2,3.4,3.6,3.8,又は4.0倍に設定することができる。また、全長T1は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内で定義してもよい。
【0018】
2.製造方法について
2-1.ブロー成形用の樹脂
2-1-1.動的粘弾性測定について
実施形態に係る製造方法のブロー成形用の樹脂(溶融樹脂)は、ポリプロピレン、ポリエチレン、又は、これらの混合樹脂で構成される。この溶融樹脂は、動的粘弾性測定において、以下の条件(a)及び条件(b)の両方を満たす。
条件(a):G'>290(Pa)
条件(b):tanδ<4.60
ここで、tanδは、G''/G'で表される。
G'は、溶融樹脂の190度における貯蔵弾性率である。
G'':溶融樹脂の190度における損失弾性率である。
【0019】
本明細書おいて、動的粘弾性測定は、以下の方法で実施している。
・測定モード:回転モード(周波数依存)
・ギャップ:1.5~2.0mm
・測定治具:φ25mmパラレルプレート
・試料(溶融樹脂)のサイズ:φ20mm
・周波数:0.1~100Hz
・回転歪み幅:1%
・測定温度:190度
・測定装置:TA Instrument社製の動的粘弾性測定装置(型番ARES-G2)
【0020】
本発明の発明者は、溶融樹脂の動的粘弾性測定に関する知見をロータリー成形の溶融樹脂に活用することを見出し、ブロー成形体の成形性を向上させるに至っている。
溶融樹脂の姿勢が傾かない成形方法では、例えば、メルトフローレートやメルトテンションといった特性を加味した溶融樹脂が採用され、良好な成形体を得ることができている。しかし、発明者は、ロータリー成形ではこのような特性のみに着目した溶融樹脂を用いても、成形不良が発生する場合があることに気がついた。そして、発明者は、その不良の要因が、
図7A及び
図7Bに示すように、順次、溶融樹脂Pの姿勢が傾くように変わり、溶融樹脂Pの姿勢と溶融樹脂Pに加わる力(重力fg)の方向との関係が時間的に(動的に)変化していくことにあることを着想した。具体的には、ロータリー成形において、金型が閉じる直前(金型が
図3に示す位置p2に至る直前)の位置の溶融樹脂は、既に閉じている金型が回転して進むことで、引っ張られた状態(撓みにくい状態)となっている。金型が閉じると、筒状の溶融樹脂の上端及び下端が金型に挟み込まれて固定されるが、この溶融樹脂の中間部分は、フリーの状態(金型のキャビティ面に対して非接触)となっている。この中間部分が、上述したような関係が時間的に(動的に)変化する重力の影響でドローダウンし、撓みやすくなっている。溶融樹脂が撓んだ状態で溶融樹脂内にエアーが吹き込まれると、肉厚にばらつきが生じてしまい、成形不良が発生しやすい。
【0021】
上述したメルトフローレートやメルトテンションの測定は、溶融樹脂にゆっくりと力を加えていくタイプの静的な試験であり、溶融樹脂がより動的に移動するような状況における樹脂選定にあたっては、十分な試験とは言い切れないと考えられる。それに対し、動的粘弾性測定では、試料に対して時間によって変化・振動する応力を加えるため、溶融樹脂Pの姿勢と溶融樹脂Pに加わる力(重力fg)の方向との関係が動的に変化するような成形方法の樹脂選定に好適であると考えられる。そこで、発明者は、動的粘弾性測定の結果を加味した溶融樹脂を用いてブロー成形を実施したところ、成形体の成形性を向上させることができた。
【0022】
動的粘弾性測定では、試料に周期的な微小歪みを与え、それに対する応答を測定することにより、貯蔵弾性率G'、損失弾性率G''及びtanδ(損失正接)といった値を取得する。
貯蔵弾性率G'は、試料(溶融樹脂)の固体的(弾性的)な性質の強さに対応する指標である。
損失弾性率G''は、試料(溶融樹脂)の液体的(粘性的)な性質の強さに対応する指標である。
tanδは、試料(溶融樹脂)の性質が、固体的(弾性的)な性質及び液体的(粘性的)な性質のうちのいずれ寄りであるかを示す指標である。
発明者は、貯蔵弾性率G'が290(Pa)より大きく、且つ、tanδが4.60未満である溶融樹脂が、ロータリー成形といったような溶融樹脂に働く力が動的に変化する状況に対して、粘性及び弾性のバランスがよく、良好な成形体を得ることができることがわかった。
【0023】
なお、ロータリー成形では、金型12内の溶融樹脂Pが回転するため、遠心力が作用する。本実施形態では、遠心力は、重力fgと比較すると小さいが、成形性を損なわせる可能性がある。しかし、本実施形態の製造方法は、上述の動的粘弾性測定の結果を踏まえた溶融樹脂Pを使用しているため、こういった遠心力が作用するような状況でも、好適である。
【0024】
実施形態では、貯蔵弾性率G'の下限が290(Pa)であるものとして説明したが、これに限定されるものではない。貯蔵弾性率G'の下限(Pa)は、例えば、290,300,310,320,330,340,350,360,370,380,390,400,410,420,430,440,450,460,470,480,490,500,510,520,530,540,550,560,570,580,590,600(Pa)とすることができる。
【0025】
また、実施形態では、tanδの上限が4.60であるものとして説明したが、これに限定されるものではない。tanδの上限は、例えば、1.70,1.80,1.90,2.00,2.10,2.20,2.30,2.40,2.50,2.60,2.70,2.80,2.90,3.00,3.10,3.20,3.30,3.40,3.50,3.60,3.70,3.80,3.90,4.00,4.10,4.20,4.30,4.40,4.50,4.60とすることができる。特に、後述する実施例(表1)のように、tanδ<3.30であると、成形性が全て○であることから、ロータリー成形における溶融樹脂として、好適であると考えられる。
【0026】
2-1-2.メルトフローレート(MFR)について
本実施形態の溶融樹脂のMFR(g/10分)は、0.80~2.00が好ましい。溶融樹脂のドローダウンを抑制することができるためである。
溶融樹脂のMFR(g/10分)は、具体的には例えば、0.8,0.9,1.0,1.1,1.2,1.3,1.4,1.5,1.6,1.7,1.8,1.9,2.0(g/10分)であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内で定義してもよい。
【0027】
MFRは、JIS K-7210に準じて試験温度190度、試験荷重2.16kgにて測定を行って得られる値を意味する。
【0028】
2-1-3.メルトテンション(MT)について
溶融樹脂のMT(mN)は、14~35が好ましい。ブロー成形時において、ブロー成形体にピンホールが発生することを抑制することができるためである。
溶融樹脂のMT(mN)は、具体的には例えば、14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35(mN)であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内で定義してもよい。
【0029】
MTは、メルトテンションテスターを用い、試験温度190度、押出速度10mm/分で、直径2.095mm、長さ8mmのオリフィスからストランドを押し出し、このストランドを直径80mmのローラに巻き取り速度16rpmで巻き取ったときの張力を意味する。
【0030】
2-2.製造装置について
図1~
図4Bに示すように、実施形態に係るブロー成形体の製造方法では、押出機21内で溶融してなる溶融樹脂を押出機21から押し出して筒状の溶融樹脂を形成し、溶融樹脂をブロー成形してブロー成形体(容器1)を得る。この製造方法は、ロータリー成形機で実施することができる。ロータリー成形機は、一例では、
図1~
図4Bに示すように、押出機21、金型駆動機構10及び複数の金型12を備えている。
【0031】
2-2-1.押出機21
図4Aに示すように、押出機21は、シリンダ23と、樹脂投入口25と、スクリュー27と、温度制御部29と、樹脂押出口28と、ダイヘッド13とを備えている。
【0032】
樹脂投入口25は、いわゆるホッパーであり、ここから、原料樹脂を投入する。原料樹脂の形態は、特に限定されないが、通常は、ペレット状である。原料樹脂は、上述した特性を備えるブロー成形用の樹脂である。原料樹脂は、樹脂投入口25からシリンダ23内に投入された後、シリンダ23内で加熱されることによって溶融されて溶融樹脂になる。また、シリンダ23内に配置されたスクリュー27の回転によってシリンダ23の一端に設けられた樹脂押出口28に向けて搬送される。
【0033】
スクリュー27は、シリンダ23内に配置され、その回転によって溶融樹脂を混練しながら樹脂押出口28に向けて搬送する。スクリュー27の一端にはギア装置26が設けられており、ギア装置26によってスクリュー27が回転駆動される。
【0034】
温度制御部29は、シリンダ23に沿って設けられた複数の温調ユニットを個別に制御して、シリンダ23の各部分の温度を制御するように構成されている。また、温度制御部29は、溶融樹脂を形成するためのダイヘッド13の温度、及びシリンダ23とダイヘッド13の間の連結部20の温度も制御可能である。
【0035】
溶融樹脂は、樹脂押出口28から押し出され、連結部20を通じてダイヘッド13内に注入される。
図4Bに示すように、ダイヘッド13は、筒状のダイ外筒41と、その内部に収容されるマンドレル43を備え、その間の空間47にシリンダ23から押し出された溶融樹脂を貯留する。そして、空間47に溶融混練樹脂が所定量貯留された後にリング状ピストン45を鉛直方向に押し下げることによって溶融混練樹脂をダイスリット49から押し出して筒状の溶融樹脂Pを形成する。
【0036】
2-2-1.金型駆動機構10及び金型12
図3に示すように、金型駆動機構10には、公転軸Cを中心に複数の金型12が円心円上に並べられている。金型駆動機構10は、例えば、不図示の動力源(例えばモーター)によって、予め定められた周期で金型12を回転可能に構成されている。各金型12は、公転軸Cを中心として予め定められた回転半径rの位置に設けられている。回転半径rは、公転軸Cから、各金型12のうち公転軸Cまでの直線距離が最も近い部分まで、の距離に対応する。容器1は、向かい合う一対のパーティングラインを有するが、金型12は、一対のパーティングラインが公転軸Cを中心とする径方向に並ぶように、金型駆動機構10に取り付けられている。このため、分割金型12aと分割金型12bの接触面に平行な面は、公転軸Cの延びる方向に直交することになる。
【0037】
各金型12は、分割金型12a,12bを備えている。
図2に示すように、分割金型12a,12bが、公転軸Cに平行方向(
図2の示す矢印Ar参照)に移動することで、各金型12が開閉される。各金型12は、
図3において、時計回りに回転する。
図3に示す位置p0及び位置p1の位置では、金型12は、全開である。そして、位置p1と位置p2との間の位置において、金型12が閉まりはじめ、位置p2において全閉となる。位置p2~位置p6の間では、金型12は、全閉である。このとき、金型12内では溶融樹脂Pが成形される。位置p6と位置p7との間の位置において、金型12が開きはじめ、位置p7では全開となる。
【0038】
2-2.製造工程について
実施形態に係るブロー成形体の製造方法は、投入工程と、成形工程と、取出工程とを備える。
【0039】
金型12は、位置p0から位置p1の間では最も開いた状態になっており、その後、位置p1から位置p2に向かう間に徐々に閉じる。投入工程は、位置p1から位置p2に向かう間のタイミングに対応している。位置p1から位置p2に向かう間において、分割金型12a,12bのキャビティ間に溶融樹脂Pが配置されるとともに、分割金型12a,12bが互いに閉じていく。ダイヘッド13から供給される溶融樹脂Pの温度は、190度であるが、完全にこれに一致している必要はない。例えば、ダイヘッド13から供給される溶融樹脂Pの温度は、180度~200度であれば、実施形態の作用・効果を得ることが可能である。なお、実施形態では、溶融樹脂Pがポリプロピレン、ポリエチレン、又は、これらの混合樹脂で構成するものとして説明しているが、溶融樹脂Pとして使用する樹脂の種類に応じて、溶融樹脂の温度を調整することが好ましい。
【0040】
成形工程は、位置p2から位置p6の間において行われる。成形工程では、金型12内の筒状の溶融樹脂P内にエアーを供給してキャビティcvに溶融樹脂Pを賦形して、成形体を成形する。成形工程において、金型12内の筒状の溶融樹脂Pの姿勢は、
図7A及び
図7Bに示すように移り変わっていく。このため、溶融樹脂Pの姿勢と溶融樹脂Pに加わる力(重力fg)の方向との関係が時間的に(動的に)変化していく。しかし、実施形態では、上述したように、動的粘弾性測定の結果を加味した溶融樹脂を採用しているため、成形不良が生じることを抑制することができる。
【0041】
成形不良には、例えば、上述した関係が時間的に変化することで溶融樹脂Pのドローダウンが促進されてしまい、成形体にピンホールや未成形部分が発生したり、肉厚がばらついたりすることが挙げられる。例えば、
図7A及び
図7Bに示す位置w1では、溶融樹脂Pがドローダウンしたときに薄肉化し、ピンホールが発生しやすい。なお、位置w1は、容器1の縮径部2Bの上部の位置に対応している。特に、金型12が下死点の位置(
図3の位置p4)よりも後に、溶融樹脂P内へのエアー供給が開始されるような製造条件では、ドローダウンの影響が大きくなりやすい。
その他に、例えば、容器の口部の部分(径が小さい部位)において、溶融樹脂Pがキャビティcvからはみ出してバリが生じてしまう現象や、前の成形ショットで生成されたバリが金型内に残り、その残ったバリが次の成形体に入り込んでしまう現象(バリ噛み)も挙げられる。
図7A及び
図7Bに示す位置w2では、溶融樹脂Pがドローダウンしたときにバリ噛みが生じやすい位置である。なお、位置w2は、容器1の口部3の位置に対応している。
【0042】
上述したような扁平率fの数値範囲を満たすブロー成形体を製造する場合や上述したような口部3の外径T2及び胴部2の幅Txに関する数値範囲を満たすブロー成形体を製造する場合は、溶融樹脂Pを膨張させる度合いが大きくなりやすく、ドローダウンの影響が顕在化しやすい。また、上述したような口部3の外径T21及び溶融樹脂Pの直径に関する数値範囲を満たす場合は、口部3と溶融樹脂Pとの間のクリアランスが小さい製造条件であり、バリの発生やバリ噛みが顕在化しやすい。
しかし、実施形態に係る溶融樹脂を用いることで、上述の成形不良が、特に効果的に抑制される。
【0043】
成形工程において、各金型12内に配置される溶融樹脂Pの重量は、実施形態では22.6(g)であるが、例えば、15~30(g)に設定することが好ましい。また、各金型12内に配置される溶融樹脂Pの重量(g)は、例えば、15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30(g)に設定することができる。各金型12内に配置される溶融樹脂Pの重量は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内で定義することもできる。
【0044】
取出工程では、金型12を開き、成形されたブロー成形体を金型12から取り出す。取出工程は、位置p6から位置p7に向かう間のタイミングに対応している。
【0045】
なお、金型12の回転周期や、金型12の回転半径に応じて、溶融樹脂Pへの重力fgの作用の仕方が、変わる。回転周期や回転半径は、以下のように設定されていることが好ましい。なお、回転周期とは、各金型12が公転軸C周りを1周するのに要する時間である。
金型12の回転周期は、例えば、15~45(秒)に設定することができる。具体的には、回転周期(秒)は、例えば、15,20,25,30,35,40,又は45(秒)に設定することができる。また、回転周期は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内で定義してもよい。
また、回転半径rは、例えば、200~800(mm)に設定することができる。具体的には、回転半径r(mm)は、例えば、200,250,300,350,400,450,50,550,600,650,700,750,又は800(mm)に設定することができる。また、回転半径rは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内で定義することもできる。
【実施例0046】
3.実施例
押出機21、金型駆動機構10及び金型12を用いて、ブロー成形体(容器1)を作製し、ブロー成形体の評価を行った。原料樹脂には、表1(実施例)及び表2(比較例)に示す樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン、又は、ポリプロピレンとポリエチレンの混合材料)を用いた。表1では、実施例1~実施例10の樹脂の特性を示している。表2では、比較例1~比較例6の樹脂の特性を示している。表3では、表1の実施例及び表2の比較例の樹脂の詳細を示している。
実施例4~実施例9はポリプロピレンとポリエチレンの混合材料であり、割合(%)は質量比率である。溶融樹脂Pの温度は、190度となるように温度制御部29に制御されている。ロータリー成形機の回転半径rは、410(mm)であり、回転周期は、27.3秒である。
【0047】
ブロー成形体が、良品であるか否かは、上述した成形不良の有無(ピンホールや未成形部分が発生等)に基づいて判定している。なお、表1の記号○及び記号△は、ともに、ブロー成形体として良品が得られたことを表しており、表2の記号×は、ブロー成形体が不良品であったことを表している。また、表1の記号△は、製造過程においてロータリー成形機の調整(例えば、溶融樹脂の投入角度等)が必要になる場合があったことを表している。
実施例1~実施例9の容器1の製造で用いた溶融樹脂Pは、条件(a):G'>290(Pa)及び条件(b):tanδ<4.60の両方を満たしている。これらの容器1は、いずれも良品であった。それに対し、比較例1~比較例6の容器1の製造で用いた溶融樹脂Pは、条件(a):G'>290(Pa)及び条件(b):tanδ<4.60のうちの少なくとも一方を満たしていない。これらの容器は、ピンホールや未成形部分等の成形不良が発見され、不良品であった。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
実施例で製造した容器1の寸法や重量について、
図5~
図6Bを参照して説明する。
容器1の全長T1は、258(mm)である。
胴部2の幅Txは、90(mm)である。
胴部2の幅Tyは、25(mm)である。
口部3の外径T21は、16.5(mm)である。
口部3の高さ幅T22は、18.6(mm)である。
吊り部4の高さ幅T31は、20(mm)である。
吊り部4の幅T32は、20(mm)である。
吊り部4の肉厚T33は、1.7(mm)である。
キャップ部5の高さ幅T41は、27(mm)である。
キャップ部5の幅T42は、23.5(mm)である。
また、容器1の重量は、19.5gである。
【0052】
実施例で製造した容器1の胴部2の肉厚寸法について、
図5~
図6B,
図8~
図10,表4及び表5を参照して概要を説明する。なお、表4は、
図8に示す容器1の肉厚を示した表であり、肉厚の単位はmmである。表4において、縦方向(列方向)に並ぶ位置1~19は、
図8に示す位置1~19に対応している。表4において、横方向(行方向)は、
図6Bに示す位置1~12に対応している。表5は、
図8の位置9における周方向位置の肉厚を示す表である。表5において、単位はmmである。
【0053】
胴部2のストレート部2Aは、ブロー成形で溶融樹脂Pが大きく延ばされる部分であるため、胴部2のストレート部2A(
図9の位置3~位置15)の肉厚は、胴部2の縮径部2B(
図9の位置1,2,16~18)や口部3(
図9の位置19)と比較して、肉厚が全体的に薄い。
PL及びPL90の位置において、胴部2のストレート部2A(
図9の位置3~位置15)の肉厚は、0.156~0.656(mm)の範囲内に分布している。また、PL及びPL90の位置において、胴部2の縮径部2B(
図9の位置1,2,16~18)の肉厚は、0.159~1.128(mm)の範囲内に分布している。縮径部2Bでは、肉厚が薄めであるストレート部2Aから、肉厚が厚めである口部3又は吊り部4へかけて急激に肉厚が厚くなっている。
胴部2のストレート部2Aの中間部位(
図9の位置9の位置)の周方向の肉厚は、0.254~0.607(mm)の範囲内に分布している。
【0054】
【0055】