(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067235
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】樹脂シート、積層体、成形体及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230509BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20230509BHJP
B29C 51/12 20060101ALI20230509BHJP
B29C 51/14 20060101ALI20230509BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230509BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08J5/18 CFH
B29C51/10
B29C51/12
B29C51/14
B32B27/00 101
B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178300
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹村 英祥
(72)【発明者】
【氏名】松浦 辰郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 要
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4F208
【Fターム(参考)】
4F071AA15X
4F071AA20
4F071AA67
4F071AA67X
4F071AA87
4F071AA88
4F071AB03
4F071AC10
4F071AC15
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4F071AE22
4F071AF11Y
4F071AF28Y
4F071AH03
4F071AH07
4F071AH11
4F071BB06
4F071BC01
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4F100AA37B
4F100AK01C
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK52A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA03
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4F100GB07
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4F100HB00
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4F100JK14A
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4F208MA01
4F208MA02
4F208MA03
4F208MB01
4F208MB11
4F208MC10
4F208MG04
4F208MH06
(57)【要約】
【課題】意匠性と光沢保持性とを両立できる樹脂シートを提供する。
【解決手段】(a)ポリプロピレン、及び(b)シリコーン系ポリマーを含む樹脂シートであって、前記(b)成分として、(b-1)シリコーン-オレフィン共重合体を含む場合、前記(b-1)成分の含有量は0.3質量%以上20.0質量%以下であり、前記(b)成分として、(b-2)シリコーン-オレフィン共重合体ではないシリコーン系ポリマーを含む場合、前記(b-2)成分の含有量は2.0質量%以上5.5質量%以下であり、動摩擦係数が0.25以下であり、かつ算術平均高さSaが0.20μm以下である面を有する、樹脂シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリプロピレン、及び
(b)シリコーン系ポリマー
を含む樹脂シートであって、
前記(b)成分として、(b-1)シリコーン-オレフィン共重合体を含む場合、前記(b-1)成分の含有量は0.3質量%以上20.0質量%以下であり、
前記(b)成分として、(b-2)シリコーン-オレフィン共重合体ではないシリコーン系ポリマーを含む場合、前記(b-2)成分の含有量は2.0質量%以上5.5質量%以下であり、
動摩擦係数が0.25以下であり、かつ算術平均高さSaが0.20μm以下である面を有する、
樹脂シート。
【請求項2】
前記(b-1)シリコーン-オレフィン共重合体を含む場合の前記(b-1)成分の含有量が、0.3質量%以上5.0質量%未満である、請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
前記(b-2)シリコーン-オレフィン共重合体ではないシリコーン系ポリマーを含む場合の前記(b-2)成分の含有量が、2.2質量%以上4.5質量%以下である、請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
前記(a)成分のポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上98%モル以下である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項5】
前記(a)成分のポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min-1以下である、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項6】
前記(a)成分のポリプロピレンがスメチカ晶を有する、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項7】
前記(a)成分のポリプロピレンが、示差走査熱量測定で得られる曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1J/g以上の発熱ピークを有する、請求項1~6のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項8】
前記樹脂シートが造核剤を含まない、請求項1~7のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の樹脂シートを最外層として含む、積層体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の樹脂シート又は請求項9に記載の積層体を用いて製造された、成形体。
【請求項11】
熱可塑性樹脂を含む成形体本体と、
前記成形体本体の表面の少なくとも一部を被覆する、請求項1~8のいずれかに記載の樹脂シート又は請求項9に記載の積層体と、を含む、成形体。
【請求項12】
請求項1~8のいずれかに記載の樹脂シート又は請求項9に記載の積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して前記樹脂シート又は前記積層体と前記成形用樹脂とを一体成形する、成形体の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂シート又は前記積層体を金型の上に配置すること、及び
成形用樹脂を前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するように賦形しつつ、前記成形用樹脂と、前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、請求項12に記載の成形体の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するよう賦形すること、及び
成形用樹脂を、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、請求項12に記載の成形体の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂シート又は前記積層体を加熱して金型のキャビティ面上に配置し、前記樹脂シート又は前記積層体を前記金型の形状に合致するように賦形すること、及び
成形用樹脂を、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、請求項12に記載の成形体の製造方法。
【請求項16】
前記樹脂シート又は前記積層体を金型のキャビティ面上に配置し、前記樹脂シート又は前記積層体をクランプ枠で前記金型と密着させて、真空吸引により前記樹脂シート又は前記積層体と前記金型との間の空気を排出し、その後、前記樹脂シート又は前記積層体を加熱して、前記樹脂シート又は前記積層体を前記金型の形状に合致するように賦形すること、及び
成形用樹脂を、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、請求項12に記載の成形体の製造方法。
【請求項17】
チャンバーボックス内に芯材を配設し、前記芯材の上方に、請求項1~8のいずれかに記載の樹脂シート又は請求項9に記載の積層体を配置し、前記チャンバーボックス内を減圧し、前記樹脂シート又は前記積層体を加熱軟化し、加熱軟化させた前記樹脂シート又は前記積層体を前記芯材に押圧して被覆させる、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シート、積層体、成形体及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電、建材、日用品、情報通信機器等様々な分野にて、外観の意匠性を向上させる方法として塗装が用いられている。しかし、塗装は、大量のVOCを排出するため、環境負荷が大きい方法である。さらに、塗装ブースの温度・湿度コントロールや焼き付け工程にて、多量のエネルギーを消費し、大量の二酸化炭素を排出している。特に、新車の生産では、排出する二酸化炭素のうち、塗装が2割を占めている。これらの環境負荷を低減させるため、塗装を代替する工法が、積極的に開発されている。
【0003】
成形品の塗装を代替する方法としては、顔料や染料の添加による樹脂の着色や水圧転写、加飾シートを成形品表面に貼合する方法等が挙げられる。これらの工法は、成形品に用いられる樹脂の種類や形状、コスト等に応じて適切な方法が選択される。成形品に用いられる樹脂が発色性に優れる非晶性樹脂である場合は、樹脂着色が積極的に検討される。一方、発色性や密着性に劣るポリプロピレンを用いる場合は、材料着色では意匠性に劣るため、加飾シートを成形品表面に積層する方法が好適である。
【0004】
また、樹脂シートの防汚性等の特性を改善するための技術として、樹脂シートの表面をコーティングする技術(特許文献1)、樹脂シートの組成を調整する技術(特許文献2~5)、及び樹脂シートの表面に凹凸を形成する技術(特許文献6)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-100821号公報
【特許文献2】特開2017-206587号公報
【特許文献3】特開2017-39816号公報
【特許文献4】国際公開第2009/072299号
【特許文献5】特開2013-241534号公報
【特許文献6】特開2016-107708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の樹脂シートは、優れた意匠性と、使用に伴う摺擦等を経ても表面光沢を保持し得る光沢保持性とを両立することが困難であった。
本発明の目的は、意匠性と光沢保持性とを両立できる樹脂シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、樹脂シートが特定の組成を有し、かつ特定の表面特性を満足することによって上記課題が解決可能であることを見出し、本発明を完成した。
本発明によれば、以下の樹脂シート等を提供できる。
1.(a)ポリプロピレン、及び
(b)シリコーン系ポリマー
を含む樹脂シートであって、
前記(b)成分として、(b-1)シリコーン-オレフィン共重合体を含む場合、前記(b-1)成分の含有量は0.3質量%以上20.0質量%以下であり、
前記(b)成分として、(b-2)シリコーン-オレフィン共重合体ではないシリコーン系ポリマーを含む場合、前記(b-2)成分の含有量は2.0質量%以上5.5質量%以下であり、
動摩擦係数が0.25以下であり、かつ算術平均高さSaが0.20μm以下である面を有する、
樹脂シート。
2.前記(b-1)シリコーン-オレフィン共重合体を含む場合の前記(b-1)成分の含有量が、0.3質量%以上5.0質量%未満である、1に記載の樹脂シート。
3.前記(b-2)シリコーン-オレフィン共重合体ではないシリコーン系ポリマーを含む場合の前記(b-2)成分の含有量が、2.2質量%以上4.5質量%以下である、1又は2に記載の樹脂シート。
4.前記(a)成分のポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率が80モル%以上98%モル以下である、1~3のいずれかに記載の樹脂シート。
5.前記(a)成分のポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min-1以下である、1~4のいずれかに記載の樹脂シート。
6.前記(a)成分のポリプロピレンがスメチカ晶を有する、1~5のいずれかに記載の樹脂シート。
7.前記(a)成分のポリプロピレンが、示差走査熱量測定で得られる曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1J/g以上の発熱ピークを有する、1~6のいずれかに記載の樹脂シート。
8.前記樹脂シートが造核剤を含まない、1~7のいずれかに記載の樹脂シート。
9.1~8のいずれかに記載の樹脂シートを最外層として含む、積層体。
10.1~8のいずれかに記載の樹脂シート又は9に記載の積層体を用いて製造された、成形体。
11.熱可塑性樹脂を含む成形体本体と、
前記成形体本体の表面の少なくとも一部を被覆する、1~8のいずれかに記載の樹脂シート又は9に記載の積層体と、を含む、成形体。
12.1~8のいずれかに記載の樹脂シート又は9に記載の積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して前記樹脂シート又は前記積層体と前記成形用樹脂とを一体成形する、成形体の製造方法。
13.前記樹脂シート又は前記積層体を金型の上に配置すること、及び
成形用樹脂を前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するように賦形しつつ、前記成形用樹脂と、前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、12に記載の成形体の製造方法。
14.前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するよう賦形すること、及び
成形用樹脂を、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、12に記載の成形体の製造方法。
15.前記樹脂シート又は前記積層体を加熱して金型のキャビティ面上に配置し、前記樹脂シート又は前記積層体を前記金型の形状に合致するように賦形すること、及び
成形用樹脂を、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、12に記載の成形体の製造方法。
16.前記樹脂シート又は前記積層体を金型のキャビティ面上に配置し、前記樹脂シート又は前記積層体をクランプ枠で前記金型と密着させて、真空吸引により前記樹脂シート又は前記積層体と前記金型との間の空気を排出し、その後、前記樹脂シート又は前記積層体を加熱して、前記樹脂シート又は前記積層体を前記金型の形状に合致するように賦形すること、及び
成形用樹脂を、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、賦形された前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、12に記載の成形体の製造方法。
17.チャンバーボックス内に芯材を配設し、前記芯材の上方に、1~8のいずれかに記載の樹脂シート又は9に記載の積層体を配置し、前記チャンバーボックス内を減圧し、前記樹脂シート又は前記積層体を加熱軟化し、加熱軟化させた前記樹脂シート又は前記積層体を前記芯材に押圧して被覆させる、成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、意匠性と光沢保持性とを両立できる樹脂シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】樹脂シートを製造するための製造装置の一例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一態様に係る樹脂シート、積層体、成形体及び成形体の製造方法について詳述する。本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。数値範囲に関して記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。また、以下に記載される本発明の個々の形態を2つ以上組み合わせた形態もまた、本発明の形態である。
【0011】
1.樹脂シート
本発明の一態様に係る樹脂シートは、(a)ポリプロピレン、及び(b)シリコーン系ポリマーを含む樹脂シートである。
前記(b)成分として、(b-1)シリコーン-オレフィン共重合体を含む場合、前記(b-1)成分の含有量は0.3質量%以上20.0質量%以下であり、前記(b)成分として、(b-2)シリコーン-オレフィン共重合体ではないシリコーン系ポリマーを含む場合、前記(b-2)成分の含有量は2.0質量%超5.0質量%未満である。
また、上記樹脂シートは、動摩擦係数が0.25以下であり、かつ算術平均高さSaが0.20μm以下である面(以下、「面α」ともいう。)を有する。
本発明の一態様に係る樹脂シートは、上記の構成を有することにより、表面光沢に優れる。また、摩耗や傷付きに対する耐性が高く、使用に伴う摺擦等を経ても表面光沢を長期間保持することができる。この効果は、当該樹脂シートを用いて製造される成形体においても好適に発揮される。
【0012】
尚、上述した通り、「光沢保持性」は、樹脂シートの面αにおける光沢の保持性を意味し、より狭義には、面αの任意の部材による摺擦に伴う光沢度の低下が小さいことを意味する。光沢保持性は、例えば摺擦に伴う面αの傷付きが防止されることに起因して発揮され得る。
従来、「耐傷付き性」として、傷が付いたとしても目立たないように予め樹脂シート表面にシボ(凹凸)を形成しておく技術が知られているが(例えば特許文献6)、本発明に係る樹脂シートはそのような技術とは発想が全く異なり、シート表面への傷付き自体を抑制することで、当初から保有する表面光沢を長期間保持し得るものである。
【0013】
(動摩擦係数)
一実施形態において、面αの動摩擦係数は、0.25以下、0.24以下、0.23以下又は0.22以下である。これにより、光沢保持性がより顕著に発揮される。面αの動摩擦係数の下限は格別限定されないが、例えば、0.05以上、0.07以上、0.10以上、0.12以上又は0.14以上であってもよい。
面αの動摩擦係数は、例えばシリコーン系ポリマーの含有量等により調整可能である。
動摩擦係数の具体的な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0014】
(算術平均高さSa)
一実施形態において、面αの算術平均高さSaは、0.20μm以下、0.19μm以下、0.18μm以下、0.17μm以下、0.16μm以下、0.15μm以下、0.14μm以下、0.13μm以下、0.12μm以下、0.11μm以下又は0.10μm以下である。これにより、より優れた意匠性が発揮される。面αの算術平均高さSaの下限は格別限定されないが、例えば、0.01μm以上、0.02μm以上、0.03μm以上、0.04μm以上又は0.05μm以上であってもよい。
面αの算術平均高さSaは、例えば樹脂シートの製造条件や、シリコーン系ポリマーの含有量等により調整可能である。例えば、樹脂シートの押出し成形に用いる冷却ロール、及び該冷却ロールに対して樹脂シートを挟んで対向するように配置される金属性エンドレスベルトの一方又は両方の表面粗さによって、面αの算術平均高さSaを調整できる。
算術平均高さSaの具体的な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0015】
動摩擦係数が0.25以下であり、かつ算術平均高さSaが0.20μm以下である面αは、樹脂シートの少なくとも一方の面に形成されていればよく、樹脂シートの両面に形成されていてもよい。
樹脂シートの各面の動摩擦係数は、互いに同一でもよく、異なってもよい。また、樹脂シートの各面の算術平均高さSaは、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0016】
((a)成分:ポリプロピレン)
樹脂シートに含まれるポリプロピレンは、少なくともプロピレンをモノマー単位として含む重合体である。具体的には、ホモポリプロピレン、プロピレンとオレフィンとの共重合体等が挙げられる。
プロピレンとオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよく、これらの混合物でもよい。オレフィンとしては、エチレン、ブチレン、シクロオレフィン等が挙げられる。
一実施形態において、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンである。これにより、樹脂シートの耐熱性及び硬度が向上する。
【0017】
(ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率)
樹脂シート中にポリプロピレンを含む場合、当該ポリプロピレンは、アイソタクチックペンタッド分率が、80モル%以上であることが好ましく、86モル%以上であることがより好ましく、91モル%以上であることがより好ましく、また、98モル%以下であることがより好ましい。
また、アイソタクチックペンタッド分率は、80モル%以上98モル%以下であることが好ましく、86モル%以上98モル%以下であることがより好ましく、91モル%以上98モル%以下であることがより好ましい。
アイソタクチックペンタッド分率が上記範囲内にあれば、樹脂シートの高い透明性が得られ、成形体としたときに良好な加飾性を得られる。
【0018】
アイソタクチックペンタッド分率とは、樹脂組成の分子鎖中のペンタッド単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合したもの)でのアイソタクチック分率である。この分率の測定法は、例えばマクロモレキュールズ(Macromolecules)第8巻(1975年)687頁に記載された方法を採用でき、13C-NMRにより測定できる。
アイソタクチックペンタッド分率の具体的な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0019】
(ポリプロピレンの130℃での結晶化速度)
樹脂シートに含まれるポリプロピレンの130℃での結晶化速度は、特に限定されないが、2.5min-1以下であると、樹脂シートの意匠性と成形性の観点から好ましい。
加飾シートに用いられる樹脂シートは、意匠面と反対の面に印刷された際の意匠の表現性やシート自体を着色した場合の発色性を考慮すると、透明であることが望ましい。一般に、結晶性樹脂であるポリプロピレンを用いた樹脂シートは、可視光の波長より大きな結晶を含み、不透明となって意匠性に劣る。そのため、造核剤や急冷によって結晶サイズを小さくすることが適用される。しかし、造核剤を添加するとポリプロピレンを透明にできるが、白濁した外観となるため、加飾シートとして用いるには意匠性が不足する。そのため、加飾シートとして用いるポリプロピレン樹脂シートは、急冷によって結晶形をスメチカ晶とすることが好ましい。
【0020】
本発明においては、樹脂シートが高い表面光沢を有することから、上記のスメチカ晶を組み合わせることによって、表面光沢に優れ、かつ、高い奥行き感(立体感)を有する、深みのある優れた意匠性を発現することが可能となる。
【0021】
130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であると、溶融のポリプロピレンの急冷時にスメチカ晶を生成しやすくなり、意匠性が向上する。また、結晶化速度が2.5min-1以下であると、金型へ接触した部分が急速に硬化すること等を抑制でき、意匠性の低下を防止することができる。下限値は特に限定されないが、通常0.1min-1以上である。
130℃での結晶化速度の具体的な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0022】
(ポリプロピレンの結晶構造(結晶形))
樹脂シートに含まれるポリプロピレンは、結晶構造としてスメチカ晶を含むことが好ましい。スメチカ晶は準安定状態の中間相であり、1つ1つのドメインサイズが小さいことから透明性に優れるため好ましい。また、スメチカ晶は、準安定状態であるため、結晶化が進んだα晶と比較して低い熱量でシートが軟化することから、成形性に優れるため、好ましい。
ポリプロピレンの結晶構造には、スメチカ晶の他に、α晶、β晶、γ晶、非晶部等他の結晶形を含んでもよい。
例えば、樹脂シート中のポリプロピレンの30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上又は90質量%以上がスメチカ晶であってもよい。
結晶構造の具体的な確認方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0023】
(ポリプロピレンの最大吸熱ピーク)
樹脂シートに含まれるポリプロピレンは、好ましくは示差走査熱量(DSC)測定で得られる曲線(DSC曲線)において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上、より好ましくは1.5J/g以上の発熱ピーク(「低温側発熱ピーク」ともいう。)を有する。上限値は特に限定されないが、通常10J/g以下である。
最大吸熱ピークについての具体的な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0024】
一実施形態において、樹脂シートにおけるポリプロピレンの含有量は、樹脂シート全量に対して、70.0質量%以上、80.0質量%以上、90.0質量%以上、92.0質量%以上、94.0質量%以上であり、また、98.4質量%以下、98.2質量%以下又は98.0質量%以下、97.8質量%以下又は97.6質量%以下である。
【0025】
((b)成分:シリコーン系ポリマー)
本発明の一態様に係る樹脂シートに用いるシリコーン系ポリマーとしては、(b-1)シリコーン-オレフィン共重合体と、(b-2)シリコーン-オレフィン共重合体ではないシリコーン系ポリマーとが挙げられる。以下、各成分について説明する。
【0026】
((b-1)成分:シリコーン-オレフィン共重合体)
(b-1)成分であるシリコーン-オレフィン共重合体は、シリコーン(シロキサン結合を有する高分子化合物)とオレフィン(又はポリオレフィン)との共重合体である。
(b-1)成分を構成するシリコーンは、好ましくは下記式(1)で表される構造単位を有する。
【化1】
(式(1)中、R
1は、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基又はケイ素含有基を表し、炭化水素基、酸素含有基、ケイ素含有基は1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。
Y
1は、O、S又はNR(Rは水素原子又は炭化水素基を表す)を表す。)
【0027】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基が挙げられる。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基等の直鎖状又は分岐状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基等のシクロアルキル基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアリールアルキル基が挙げられる。
【0028】
アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0029】
酸素含有基としては、アルコキシ基、アリールオキシ基が挙げられる。
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ベンジルオキシ基、2-フェニルエトキシ基等が挙げられる。
アリールオキシ基としては、フェノキシ基、トリルオキシ基、ビフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0030】
ケイ素含有基としては、アルキルシリル基、アルケニルシリル基、アリールシリル基、アルキルシロキシ基、アルケニルシロキシ基、アリールシロキシ基、アルコキシシリル基、アリールオキシシリル基、アルコキシシロキシ基、アリールオキシシロキシ基、ポリシロキシル等が挙げられる。ポリシロキシル基は2個以上のシロキサンの繰り返し単位を有する基であり、直鎖でも分岐していても構わない。
【0031】
また上記の炭化水素基、酸素含有基、およびケイ素含有基は、1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的には、これらの基の少なくとも1つの水素が、ハロゲン原子、酸素、窒素、ケイ素、リン、イオウを含む基で置換された基が含まれる。
【0032】
ポリオレフィンは、通常、ビニル基を1以上含む構造を有する。
ビニル基を除いた構造が、エチレン単独重合鎖、プロピレン単独重合鎖、又はエチレン、プロピレン、ブテン、ビニルノルボルネン、2個以上の二重結合を有する環状ポリエンおよび2個以上の二重結合を有する鎖状ポリエンからなる群から選択される2種以上のオレフィンの共重合鎖であることが好ましい。
【0033】
シリコーン-オレフィン共重合体は、公知の方法により合成することができる。
シリコーン-オレフィン共重合体中における、構造単位(1)の割合は、シリコーン-オレフィン共重合体の目的機能が発現されればよく、特に限定されないが、通常5~99質量%であり、好ましくは10~95質量%である。
【0034】
シリコーン-オレフィン共重合体は、市販の共重合体を用いてもよいし、製造したものを用いてもよい。市販品としては、シリコーン-オレフィン共重合体「イクスフォーラ」(三井化学株式会社製、商品名)が挙げられる。また、ビニル基の含有量が0~1mol%のジメチル・ビニルポリシロキサンと、不飽和基の含有量が0~5質量%のEPDM(エチレン-プロピレンゴム)、SBS(スチレン-ブタジエンスチレンブロックコポリマー)、又はSIS(スチレン-イソプレンブロックコポリマー)との部分架橋物や、アミノ変性シリコーン又はカルボキシル変性シリコーンと、無水マレイン酸変性したオレフィンポリマー又はオリゴマー(ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体等)との反応物を用いてもよい。
【0035】
また、これらを樹脂でマスターバッチ化したペレットである「X-22-2101」、「X-22-2147」(信越化学工業株式会社製、商品名)、樹脂と部分グラフト重合したペレットである「BY27-201」(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名)等も挙げられる。
【0036】
一実施形態において、樹脂シートにおける(b-1)成分の含有量は、樹脂シート全量に対して0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、0.6質量%以上、0.7質量%以上、0.8質量%以上又は0.9質量%以上であり、また、20.0質量%未満、18.0質量%以下、15.0質量%以下、13.0質量%以下、10.0質量%以下、8.0質量%以下、5.0質量%以下、5.0質量%未満、4.0質量%以下、3.0質量%以下、2.5質量%以下又は2.0質量%未満である。
(b-1)成分の含有量が上記のような範囲であることによって、優れた光沢保持性が発揮されるだけでなく、優れた意匠性を獲得することが可能となる。特に、(b-1)成分が20.0質量%未満であることによって、(b-1)成分のブリードアウトが好適に防止されるため、ブリードアウトした(b-1)成分によって樹脂シート自体及び該樹脂シートに積層された他の層等が汚染されることが防止される。これにより、意匠性がさらに向上する。
一実施形態において、樹脂シートにおける(b-2)成分の含有量は、樹脂シート全量に対して、5.0質量%未満又は2.0質量%未満である。
【0037】
((b-2)成分:シリコーン-オレフィン共重合体ではないシリコーン系ポリマー)
(b-2)成分である、シリコーン-オレフィン共重合体ではないシリコーン系ポリマーとしては、ケイ素原子と酸素原子が繰り返し並ぶシロキサン結合を主鎖とするものや、(b-1)成分について説明した式(1)で表される構造単位を有するもの等が挙げられる。
【0038】
(b-2)成分の具体例として、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン等のシリコーンポリマーが挙げられる。
(b-2)成分は、側鎖や末端に任意の有機基を導入することにより変性されていてもよい。有機基はポリマーであってもよいが、オレフィンやポリオレフィンを共重合したものは含まない(オレフィンやポリオレフィンを共重合したものは、(b-1)成分に該当する。)。
【0039】
一実施形態において、樹脂シートにおける(b-2)成分の含有量は、樹脂シート全量に対して2.0質量%以上、2.0質量%超、2.1質量%以上、2.2質量%以上、2.3質量%以上、2.4質量%以上、又は2.5質量%以上であり、また、5.5質量%以下、5.0質量%以下、5.0質量%未満、4.9質量%以下、4.8質量%以下、4.7質量%以下、4.6質量%以下、4.5質量%以下、4.4質量%以下、4.3質量%以下、4.2質量%以下、4.1質量%以下又は4.0質量%以下である。
(b-2)成分の含有量が上記のような範囲であることによって、優れた光沢保持性が発揮されるだけでなく、優れた意匠性を獲得することが可能となる。特に、(b-2)成分が5.5質量%以下であることによって、(b-2)成分のブリードアウトが好適に防止されるため、ブリードアウトした(b-2)成分によって樹脂シート自体及び該樹脂シートに積層された他の層等が汚染されることが防止される。これにより、意匠性がさらに向上する。
【0040】
以上に説明した(b)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
一実施形態において、樹脂シートに含まれる(b)成分の60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上又は100質量%が、
(b-1)成分であるか、又は
(b-2)成分である。
一実施形態において、樹脂シートに含まれる(b)成分は、
(b-1)成分を含み、かつ(b-2)成分を含まないか、又は
(b-2)成分を含み、かつ(b-1)成分を含まない。
【0041】
一実施形態において、樹脂シートにおける(b)成分の含有量((b-1)成分及び(b-2)成分の合計の含有量であり得る)は、樹脂シート全量に対して0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、0.6質量%以上、0.7質量%以上、0.8質量%以上、0.9質量%以上、又は1.0質量%以上であり、また、25.5質量%以下、23.0質量%以下、20.0質量%以下、18.0質量%以下、15.0質量%以下、13.0質量%以下、10.0質量%以下、8.0質量%以下、5.0質量%以下、5.0質量%未満、3.0質量%以下、又は2.0質量%未満である。
【0042】
(シリコーン系ポリマーの分散サイズ)
一実施形態において、樹脂シートに含まれるシリコーン系ポリマーは、シート製造時にシートへ印加されるせん断応力により、流動方向へ引き延ばされた偏平な形状で樹脂シート中へ分散している。シリコーン系ポリマーの流動方向(MD)の分散サイズは、1.5μm以上、1.7μm以上、2.0μm以上、2.2μm以上、2.5μm以上、2.7μm以上又は2.9μm以上であり、また、15.0μm以下、14.0μm以下、13.0μm以下、12.0μm以下、11.0μm以下又は10.1μm以下である。
一実施形態において、樹脂シートに含まれるシリコーン系ポリマーの樹脂シートの幅方向(TD)の分散サイズは、1.5μm以上、1.7μm以上、2.0μm以上、2.2μm以上、2.5μm以上、2.7μm以上、3.0μm以上又は3.1μm以上であり、また、10.0μm以下、8.0μm以下、5.0μm以下、4.8μm以下、4.5μm以下又は4.3μm以下である。
シリコーン系ポリマーの分散サイズMD及びTDの具体的な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0043】
(他の成分)
樹脂シートは、(a)成分及び(b)成分以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、その他の樹脂成分、金属箔粉、パール調顔料、着色剤、その他の添加剤等が挙げられる。
【0044】
その他の樹脂成分としては、例えば、エラストマー等が挙げられる。エラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等のような熱可塑性エラストマーが挙げられる。一実施形態において、熱可塑性エラストマーはオレフィン系エラストマーである。オレフィン系エラストマーとしては、例えばダウケミカル株式会社製「エンゲージ8200」等のような市販品を用いてもよい。
樹脂シートにおけるその他の樹脂成分の含有量は、(a)成分100質量部に対して、例えば、1質量部以上であり、また、10質量部以下、8質量部以下、5質量部以下、3質量部以下、2質量部以下又は1質量部以下である。
【0045】
金属箔粉としては、例えば、金属薄膜層の両面を透明薄膜層で被覆したシートを破砕して得られる破砕非定型偏平片等が挙げられる。パール調顔料としては、例えば、マイカ(雲母)を主成分とした非定型扁平片等が挙げられる。
樹脂シートにおける金属箔粉又はパール調顔料の含有量は、(a)成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上であり、また、例えば、5質量部以下、3質量部以下、2質量部以下又は1質量部以下である。
【0046】
着色剤としては、例えば、有機顔料、無機顔料、染料等の一般的な着色剤を使用できるが、この限りではない。
樹脂シートにおける着色剤の含有量は、(a)成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上であり、また、例えば、30質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、8質量部以下、5質量部以下、3質量部以下、2質量部以下又は1質量部以下である。
【0047】
その他の添加剤としては、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系耐候剤、帯電防止剤、酸化防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、目ヤニ防止剤、滑剤、上述した造核剤等が挙げられるが、この限りではない。
樹脂シートにおけるその他の添加剤の含有量は、(a)成分100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上であり、また、例えば、10質量部以下、8質量部以下、5質量部以下、3質量部以下、2質量部以下又は1質量部以下である。
【0048】
尚、樹脂シートは、造核剤の含量が少ないことが好ましく、造核剤を含まないことがより好ましい。樹脂シートの造核剤の含有量は、樹脂シートの総量に対して、好ましくは3.0質量%以下又は1.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、又は0.001質量%以下である。また、ポリプロピレンの量に対して、例えば、1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、又は0.001質量%以下である。
造核剤としては、例えば、ソルビトール系造核剤等が挙げられ、市販品としてはゲルオールMD(新日本理化学株式会社)やリケマスターFC-1(理研ビタミン株式会社)等が挙げられる。
【0049】
結晶性樹脂であるポリプロピレンを透明にする方法として、造核剤の添加によって強制的に微細結晶を生成する方法がある。当該方法では、造核剤により結晶化速度を速め、結晶を多数発生させて高充填状態とし、各結晶が物理的に成長するスペースを制限することで結晶を微細化する。しかしながら、造核剤には核となる物質が存在するため、通常、若干の白味を帯びる。また、造核剤によって130℃での結晶化速度を2.5min-1を超える速度まで速めれば、成形に伴う樹脂シートの白化を生じ得る。
これに対して、造核剤の含量が少ないか又は含まなくても、ポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であることによって、白化が防止され、意匠性(外観)に優れた成形体を得ることができる。
【0050】
一実施形態において、樹脂シートは、(a)成分及び(b)成分のみからなるか、又は、実質的に(a)成分及び(b)成分のみからなる。後者の場合、樹脂層シートは不可避不純物を含んでもよい。
一実施形態において、樹脂シートは、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上又は100質量%が、
(a)成分及び(b)成分であるか、
(a)成分及び(b)成分並びに上述した他の成分から選択される1以上の成分である。
【0051】
樹脂シートの厚さは格別限定されない。
一実施形態において、樹脂シートの厚さは、5μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上又は25μm以上であり、また、1000μm以下、800μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下、80μm以下又は50μm以下である。
【0052】
一実施形態において、樹脂シートは、延伸されていない(延伸工程を経ていない)。樹脂シートが未延伸であることによって、成形への適性に優れる。
【0053】
一実施形態において、樹脂シートは、2層以上の積層構造における最外層を形成している。これにより、積層構造に、優れた意匠性と高い光沢保持性とを付与できる。樹脂シートの面αは、積層構造の最表面を形成することが好ましい。積層構造(積層体)に関しては、後に積層体についてする説明が援用される。
【0054】
樹脂シートの製造方法は格別限定されず、例えば押出法等が挙げられる。押出法等において、溶融状態からの冷却は、好ましくは80℃/秒以上で行い、樹脂シートの内部温度がポリプロピレンの結晶化温度以下となるまで行う。冷却は、90℃/秒以上、100℃/秒以上、110℃/秒以上、120℃/秒以上、130℃/秒以上、140℃/秒以上、150℃/秒以上又は160℃/秒以上であり得る。上限は格別限定されず、例えば、300℃/秒以下、250℃/秒以下又は200℃/秒以下であり得る。
【0055】
図1を参照して、樹脂シートの製造方法の一例について説明する。
図1は、樹脂シートを製造するための製造装置の一例の概略構成図である。
当該製造装置の動作を説明する。押出機のTダイ12より押し出された溶融樹脂を第1冷却ロール13上で金属製エンドレスベルト17と第4冷却ロール16との間に挟み込む。この状態で、溶融樹脂(樹脂シートを形成するための樹脂組成物)を第1、第4冷却ロール13、16で圧接するとともに急冷する。
樹脂シートは、続いて、第4冷却ロール16の略下半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト17と第4冷却ロール16とに挟まれて面状圧接される。第4冷却ロール16で面状圧接及び冷却された後、金属製エンドレスベルト17に密着した樹脂シートは、金属製エンドレスベルト17の回動とともに第2冷却ロール14上に移動される。樹脂シートは、前述同様、第2冷却ロール14の略上半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト17により面状圧接され、再び冷却される。第2冷却ロール14上で冷却された樹脂シート11は、その後、金属製エンドレスベルト17から剥離される。尚、第1、第2冷却ロール13、14の表面には、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)製の弾性材22が被覆されている。また、第3冷却ロール15は、金属製エンドレスベルト17を下部で支えて回転する機能を果たしている。
多層成形の場合(樹脂シートを含む積層体を成形する場合)、樹脂シートを形成するための樹脂組成物は、第4冷却ロール16と金属性エンドレスベルト17のいずれかに積層(接触)させてもよく、両方に積層(接触)させてもよい。表面光沢に優れ、かつ、深みのある意匠を持つ樹脂シートを得るには、第4冷却ロール16及び金属性エンドレスベルト17の一方又は両方の表面粗さを小さくすることが好ましい。
【0056】
2.積層体
本発明の一態様に係る積層体は、本発明の一態様に係る樹脂シートを最外層として含む。
【0057】
本態様に係る積層体によれば、優れた意匠性と高い光沢保持性とを両立できる。この際立った効果は、積層体を用いて製造される成形体においても好適に発揮され得る。樹脂シートの面αは、積層体の最表面を形成することが好ましい。
【0058】
積層体に含まれる、樹脂シート以外の層は格別限定されず、各種機能や意匠性を付与するための層を適宜含むことができる。このような層としては、易接着層、アンダーコート層、金属層、印刷層等が挙げられる。以下、これらの層について説明する。
【0059】
(易接着層)
易接着層は、好ましくはウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂を含む。
そのような易接着層を設けることで、後述する成形体が複雑な非平面状に成形された場合であっても、易接着層が樹脂シートに追従して良好に層構成を形成でき、ひび割れや剥離が生じることを防止できる。
【0060】
ウレタン系樹脂としては、ジイソシアネート、高分子量ポリオール及び鎖延長剤を反応させて得られるウレタン系樹脂が好ましい。高分子量ポリオールは、ポリエーテルポリオール又はポリカーボネートポリオールとしてもよい。ウレタン系樹脂の市販品としては、ハイドランWLS-202(DIC株式会社製)等が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、アクリット8UA-366(大成ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂としては、アローベースDA-1010(ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0061】
易接着層は、上述した材料を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
易接着層が含むウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂のうち、後述する金属層及び印刷層への密着性や成形性を考慮すると、ウレタン系樹脂が好ましい。
【0063】
なお、易接着層がポリプロピレン系樹脂を含む場合、易接着層が含むポリプロピレン系樹脂は、樹脂シートや成形体本体が含み得るポリプロピレンとは、通常、異なる。
【0064】
易接着層は、1層単独でもよく、又は、2層以上の積層構造でもよい。
【0065】
易接着層の厚さは、35nm以上3000nm以下としてもよく、50nm以上2000nm以下としてもよく、50nm以上1000nm以下としてもよい。
また、易接着層の厚さは、35nm以上、又は50nm以上としてもよく、3000nm以下、2000nm以下、又は1000nm以下としてもよい。
【0066】
易接着層は、例えば、上述した樹脂をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、40~100℃にて10秒~10分間乾燥することで形成することができる。
【0067】
易接着層の上には、インキやハードコート、反射防止コート、遮熱コート等の各種コーティングを積層できる。
また、樹脂シートにおいて、上記の易接着層(第1の易接着層)と反対側の面に易接着層をもう1層設けてもよい(第2の易接着層)。このようにすることで、成形体の表面となるポリオレフィン樹脂層に、表面処理やハードコーティング等の機能性を付与することができる。
【0068】
(アンダーコート層)
アンダーコート層は、易接着層と金属層とを密着させることができる層である。アンダーコート層を設けることにより、熱成形時に応力が加わった場合でも、金属層に極めて微細なクラックを無数に生じさせることができ、レインボー現象の発生を無くし、又は低減することができる。
アンダーコート層を形成する材料としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル等が挙げられる。
【0069】
成形時の耐白化性(白化現象の起こりにくさ)や金属層との密着性の観点から、アンダーコート層を形成する材料としては、アクリル樹脂が好ましく、例えば荒川化学工業株式会社製「DA-105」を用いることができる。
【0070】
上記材料は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
アンダーコート層において、上述した樹脂成分(主剤)に硬化剤を組み合わせて用いてもよい。硬化剤としては、アジリジン系化合物、ブロックドイソシアネート化合物、エポキシ系化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられ、例えば荒川化学工業株式会社製「CL102H」を用いることができる。
【0072】
硬化剤を用いる場合、アンダーコート層における主剤と硬化剤の含有割合は、固形分の質量比で、例えば35:4~35:40であり、好ましくは35:4~35:32であり、より好ましくは35:12~35:32である。また、35:12~35:20としてもよい。
硬化剤の配合量が主剤35に対して4以上であると、硬化反応が問題なく進行し、耐白化性を維持することができる。40以下であると、アンダーコート層の伸び性が良好であり、成形時のひび割れを抑制することができる。
【0073】
アンダーコート層の形成方法としては、例えば、上述した材料をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、50~100℃にて10秒~10分間乾燥し、40~100℃にて10~200時間エージングすることで形成することができる。
【0074】
アンダーコート層の厚さは、0.05μm~50μmとしてもよく、0.1μm~10μmとしてもよく、0.5μm~5μmとしてもよい。
また、アンダーコート層の厚さは、0.05μm以上、0.1μm以上、又は0.5μm以上としてもよく、50μm以下、10μm以下、又は5μm以下としてもよい。
【0075】
(金属層)
金属層は、金属又は金属酸化物を含む層である。
金属層を形成する金属としては、積層体に金属調の意匠を付与できる金属であれば特に限定されないが、例えば、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含む合金を用いてもよい。
上記のうち、インジウム及びアルミニウムは伸展性と色調に特に優れるため好ましい。金属層が伸展性に優れると、積層体を三次元成形した際にひび割れが発生しにくい。
【0076】
金属層の形成方法は特に制限されないが、質感が高く高級感のある金属調の意匠を積層体に付与する観点から、例えば、上記の金属を用いた、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の蒸着法等を用いることができる。特に、真空蒸着法は低コストであり、かつ、被蒸着体へのダメージを少なくすることができる。真空蒸着法の条件は、用いる金属の溶融温度又は蒸発温度に応じて適宜設定すればよい。
【0077】
上記方法の他、上記の金属又は金属酸化物を含むペーストを塗工する方法、上記の金属を用いためっき法等を用いることもできる。
【0078】
金属層の厚さは、5nm以上80nm以下としてもよい。5nm以上であると所望の金属光沢が問題なく得られ、80nm以下であるとひび割れが発生しにくい。
【0079】
(印刷層)
印刷層の形状としては、特に制限されないが、例えばベタ状、カーボン調、木目調等の様々な形状が挙げられる。
印刷の方法としては、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、スプレーコート法等の一般的な印刷方法が利用できる。特に、スクリーン印刷法はインキの膜厚が厚くできるため、複雑な形状に成形した際にインキ割れが発生しにくい。
例えば、スクリーン印刷の場合、成形時の伸びに優れたインキが好ましく、十条ケミカル株式会社製の「FM3107高濃度白」や「SIM3207高濃度白」等が例示できるが、この限りではない。
【0080】
3.成形体
本発明の第1態様に係る成形体は、本発明の一態様に係る樹脂シート又は本発明の一態様に係る積層体を用いて製造されたものである。
【0081】
本態様に係る成形体によれば、優れた意匠性と高い光沢保持性とを両立できる。樹脂シートの面αは、成形体の最表面を形成することが好ましい。なお、樹脂シートの面αの物性は、成形体とした場合にも原則としてそのまま維持される。
【0082】
一実施形態において、成形体は、樹脂シート又は積層体を熱成形等の方法によって成形して製造されたものである。
一実施形態において、成形体には三次元曲面を含む形状が付与されている。
【0083】
本発明の第2態様に係る成形体は、
熱可塑性樹脂を含む成形体本体と、
前記成形体本体の表面の少なくとも一部を被覆する、本発明の一態様に係る樹脂シート又は本発明の一態様に係る積層体と、を含む。
【0084】
本態様に係る成形体によっても、優れた意匠性と高い光沢保持性とを両立できる。樹脂シートの面αは、成形体の最表面を形成することが好ましい。なお、樹脂シートの面αの物性は、成形体とした場合にも原則としてそのまま維持される。
【0085】
4.成形体の製造方法
本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、本発明の一態様に係る樹脂シート又は本発明の一態様に係る積層体を成形することを含む。成形方法としては、例えば、インモールド成形、インサート成形、金型内附形インサート成形、被覆成形等が挙げられる。
以下に各成形方法について、本発明の一態様に係る積層体を用いる場合を例に説明するが、本発明の一態様に係る樹脂シートを用いる場合も同様である。
【0086】
インモールド成形は、金型内に積層体を設置して、金型内に供給される成形用樹脂の圧力で所望の形状に成形して成形体を得る方法である。
インモールド成形として、積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して一体化して行うことが好ましい。
【0087】
インサート成形では、金型内に設置する賦形体を予備賦形しておき、その形状に成形用樹脂を充填することで、成形体を得る方法である。より複雑な形状を形成することができる。
インサート成形として、積層体を金型に合致するよう賦形し、賦形した積層体を金型に装着し、成形用樹脂を供給して一体化して行うことができる。
金型に合致するように行う賦形(予備賦形)は、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形、プラグアシスト成形等で行うことができる。
【0088】
成形用樹脂は、成形可能な熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、アセチレン-スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル重合体等が例示できるが、この限りではない。熱可塑性樹脂には、ファイバーやタルク等の無機フィラーを添加してもよい。
供給は、射出で行うことが好ましく、圧力5MPa以上120MPa以下が好ましい。金型温度は20℃以上90℃以下であることが好ましい。
【0089】
また、インサート成形の一類型として、積層体の予備賦形を、射出成形を行う金型内で行う方法も挙げられる。
具体的には、積層体を加熱して金型のキャビティ面上に配置し、積層体を金型の形状に合致するように賦形すること、及び、成形用樹脂を賦形された積層体に向けて供給することで、成形用樹脂と、賦形された積層体と、を一体化させることを含む。
積層体の予備賦形の方法の一例として、例えば、積層体をヒーター等で予め加熱し、加熱された積層体を射出成形用の金型のキャビティ面上に配置し、キャビティ内部を吸引することで、積層体を金型の内部形状に合致するように賦形することができる。その後、キャビティ内に賦形された積層体を設置したまま、成形用樹脂を充填することで、成形体を得ることができる。
また、積層体の予備賦形の方法の他の例として、例えば、積層体(未加熱でもよい)をクランプ枠で金型と密着させて、真空吸引により積層体と金型との間の空気を排出し、その後、積層体を加熱して、積層体を金型の形状に合致するように賦形することができる。その後、キャビティ内に賦形された積層体を設置したまま、成形用樹脂を充填することで、成形体を得ることができる。
これらの方法によれば、より複雑な形状の成形体を、より簡易な方法により形成することができる。
【0090】
被覆成形では、チャンバーボックス内に芯材を配設し、芯材の上方に、積層体を配置し、チャンバーボックス内を減圧し、積層体を加熱軟化し、芯材の上面に、積層体を接触し、加熱軟化させた積層体を芯材に押圧して被覆させることができる。
加熱軟化後、芯材の上面に積層体を接触させてもよい。押圧は、チャンバーボックス内において、積層体の芯材と接する側を減圧したまま、積層体の芯材の反対側を加圧して行うことができる。
【0091】
芯材は、凸状でも凹状であってもよく、例えば三次元曲面を有する樹脂、金属、セラミック等が挙げられる。樹脂は格別限定されず、例えば上述の成形に用いる熱可塑性樹脂と同様のものが挙げられる。
【0092】
被覆成形には、例えば、互いに分離可能な上下2つの成形室から構成されるチャンバーボックスを用いることができる。
まず、下成形室内のテーブル上へ芯材を載せ、セットする。被成形物である積層体を下成形室上面にクランプで固定する。この際、上・下成形室内は大気圧である。
次に上成形室を降下させ、上・下成形室を接合させ、チャンバーボックス内を閉塞状態にする。上・下成形室内の両方を大気圧状態から、真空タンクによって真空吸引状態とする。
上・下成形室内を真空吸引状態にした後、ヒーターを点けて積層体の加熱を行なう。次に上・下成形室内は真空状態のまま下成形室内のテーブルを上昇させる。
次に、上成形室内の真空を開放し大気圧を入れることによって、積層体は芯材へ押し付けられてオーバーレイ(成形)される。尚、上成形室内に圧縮空気を供給することで、より大きな力で積層体を芯材へ密着させることも可能である。
オーバーレイが完了した後、ヒーターを消灯し、下成形室内の真空も開放して大気圧状態へ戻し、上成形室を上昇させ、積層体が表皮材として被覆された製品を取り出す。
【0093】
(用途)
本発明の一態様に係る樹脂シート、本発明の一態様に係る積層体、本発明の一態様に係る成形体の用途は格別限定されず、例えば、自動車内外装、二輪車外装、家電、住宅設備等の加飾シートとして好適に用いられる。
【実施例0094】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0095】
(原料)
実施例及び比較例で用いた原料は下記のとおりである。
・ポリプロピレン1:株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロF113G」、メルトフローインデックス3g/10分、ホモポリプロピレン、アイソタクチックペンダット分率98mol%
・ポリプロピレン2:株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロF-300SP」、メルトフローインデックス2.8g/10分、ホモポリプロピレン、アイソタクチックペンダット分率92mol%
・シリコーン系ポリマー1マスターバッチ(以下、マスターバッチを「MB」と略記する場合がある。):デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル株式会社製「MB50-001」、シリコーンポリマー((b-2)成分に該当)とポリプロピレンとを含むマスターバッチ、(b-2)成分配合量50質量%
・シリコーン系ポリマー2マスターバッチ:三井化学ファイン株式会社製「イクスフォーラ(登録商標)PP2000」、シリコーン-ポリエチレン共重合体((b-1)成分に該当)とホモポリプロピレンとを含むマスターバッチ、(b-1)成分配合量30質量%
・造核剤1マスターバッチ:株式会社ADEKA社製、アデカスタブM-801(リン酸エステル系造核剤マスターバッチ、アデカスタブNA-21 5質量%配合、ベース樹脂:ポリプロピレン)
・黒色マスターバッチ1:東京インキ株式会社製、PPM91291 BLACK #315、カーボンブラック配合量30質量%
【0096】
(実施例1~5及び比較例1~5)
図1を参酌して説明した製造方法により、表1に示す配合で、第1の樹脂層と第2の樹脂層とを含む積層体を製造した。製造条件は下記の通りである。なお、第1の樹脂層が本発明の一態様に係る樹脂シートである。
<製造条件>
・第1の樹脂層の押出機直径:50mm
・第2の樹脂層の押出機直径:75mm
・Tダイ12の幅:900mm
・厚み:300μm
・樹脂シート11の引き取り速度:3m/分
・第4冷却ロール16及び金属製エンドレスベルト17の表面温度:17℃
・冷却速度:10,800℃/分(180℃/秒)
【0097】
(比較例6)
表1に示す配合で、キャスト成形機(Dr.COLLIN社製「TEACH-LINE 押出機 E20T」、押出機の直径20mm)を用いて、成形温度230℃で押出成形し、300μm厚の樹脂シート(単層構造)を製造した。
【0098】
得られた樹脂シートについて以下の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(アイソタクチックペンタッド分率)
樹脂シートに用いたポリプロピレンについて13C-NMRスペクトルを評価することでアイソタクチックペンタッド分率を測定した。具体的には、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,8,687(1975)」で提案されたピークの帰属に従い、下記の条件にて行った。測定の結果、ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率は98モル%であった。
(測定方法・条件)
装置:13C-NMR装置(日本電子株式会社製「JNM-EX400」型)
方法:プロトン完全デカップリング法(濃度:220mg/ml)
溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
(計算式)
アイソタクチックペンタッド分率[mmmm]=m/S×100
S:全プロピレン単位の側鎖メチル炭素原子のシグナル強度
m:メソペンタッド連鎖:21.7~22.5ppm
【0100】
(結晶化速度)
示差走査熱量測定器(DSC)(パーキンエルマー社製「Diamond DSC」)を用いて樹脂シートの結晶化速度を測定した。具体的には、樹脂シートを10℃/分にて50℃から230℃に昇温し、230℃にて5分間保持し、80℃/分で230℃から130℃に冷却し、その後130℃に保持して結晶化を行った。130℃になった時点から熱量変化について測定を開始し、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線から、以下の手順(i)~(iv)により結晶化速度を求めた。
(i)測定開始からピークトップまでの時間の10倍の時点から、20倍の時点までの熱量変化を直線で近似したものをベースラインとした。
(ii)ピークの変曲点における傾きを有する接線とベースラインとの交点を求め、結晶化開始及び終了時間を求めた。
(iii)得られた結晶化開始時間から、ピークトップまでの時間を結晶化時間として測定した。
(iv)得られた結晶化時間の逆数から、結晶化速度を求めた。
【0101】
(結晶構造(結晶形))
樹脂シートのポリプロピレンの結晶構造を、X線発生装置(株式会社リガク製「model ultra X 18HB」)を用いて、広角X線の散乱パターンを下記測定条件で測定し、同定した。ピーク分離してもスメチカ晶型のピークが見られる場合は、樹脂シート中にスメチカ晶が存在すると判定した。スメチカ晶型のピークが見られない場合は、表1中、「α晶」と表記した。
(測定条件)
・光源波長:300mAのCuKα線(波長=1.54Å)の単色光
・線源出力 電圧/電流:50kV/250mA
・照射時間:60分
・カメラ長:1.085m
・試料厚み:1.5~2.0mmになるようにシートを重ねる。製膜(MD)方向が揃うようにシートを重ねる。
なお、測定時間を短縮するため、1.5~2.0mmになるようにシートを重ねているが、測定時間を長くすれば、シートを重ねずに1枚でも測定可能である。
【0102】
(示差走査熱量測定(最大吸熱ピーク))
樹脂シートに用いたポリプロピレンについて、上記結晶化速度の測定と同じ示差走査熱量測定装置を用いて測定した。具体的には、ポリプロピレンを10℃/分にて50℃から230℃に昇温して吸熱ピーク及び発熱ピークを観察し、最大吸熱ピークの低温側における1.0J/g以上の発熱ピークの有無を確認した。
【0103】
(動摩擦係数)
第1の樹脂シートの表面について、以下の測定装置、測定条件、算出方法により動摩擦係数を測定した。
・測定装置:株式会社島津製作所製オートグラフAGSX-1kN
・測定条件
移動側試験片の形状:80mm(流れ方向)×70mm(幅方向)
固定側試験片:金属(材質:NAK55(プリハードン鋼、大同特殊鋼株式会社製)、表面仕上げ:ストロークと平行方向にRa=1.6μmとなるよう機械研削)
荷重:3.7N
クロスヘッドスピード:300mm/分
移動距離:50mm
・動摩擦係数の算出方法
動摩擦係数は、ストロークが10mmから40mmの間の試験力平均と移動錘の質量を用いて、以下の式から算出した。
動摩擦係数=ストローク10mm~40mmの平均試験力/移動錘の質量
なお、上記は樹脂シートの動摩擦係数の測定方法であるが、樹脂シート(又は積層体)から得られた成形体の表面についても、原則として同じ方法で動摩擦係数を測定できる。この際、成形体から上記条件に合う平坦な試験片を切り出すことができれば、上記の測定方法で成形体表面の動摩擦係数を測定する。そのような試験片の切り出しが困難な場合、切り出し可能な試験片のサイズに合わせて金属(錘)の大きさを適宜調整することで、成形体表面の動摩擦係数を測定する(アモントン・クーロンの法則より、金属の大きさを変更しても得られる動摩擦係数は変わらない)。
【0104】
(算術平均高さSa)
オリンパス製のレーザー顕微鏡OLS4000を用いて、樹脂シートの表面の算術平均高さSaを測定した。測定条件を下記する。
対物レンズ:MPLAPONLEXT 50×
光学ズーム:1倍
測定ピッチ:0.06μm
走査モード:高精度カラー
レーザー強度:100%
カットオフ値:800μm
解析範囲:257μm×257μm/サンプル
【0105】
(シリコーン系ポリマーの分散サイズ)
樹脂シートの断面を流動方向(MD)及び幅方向(TD)それぞれ厚さ30μmにミクロトームで切り出し、この断面を株式会社ニコン製の位相差顕微鏡「イクリプス80i」を用いて、倍率200倍で観察した。得られた画像から、樹脂シートの流動方向(MD)及び幅方向(TD)のそれぞれにおけるシリコーン系ポリマーの分散サイズを測定した。具体的には、観察像における粒径1μm~50μmの粒子を目視により任意に5個選択し、当該5個の粒子の粒径の単純平均(算術平均)を分散サイズとした。粒径としては、粒子の長径を用いた。
【0106】
(光沢保持性)
ブラシ(株式会社サンワード製、ブラシ材質:ポリエチレン、毛丈220mm、働き幅200mm、十字型先割れタイプ)の中心から207mmの位置に第1の樹脂シートを設置し、ブラシを毎分94回転で20分間回転させて、第1の樹脂シートの表面を摺擦した。
上記摺擦の前後で樹脂シートの表面の20°光沢度をJIS Z8741に準拠して測定し、下記式より20°光沢残存率[%]を算出した。20°光沢残存率が大きいほど、光沢保持性に優れると評価できる。
20°光沢残存率[%]=(試験後の20°光沢度/試験前の20°光沢度)×100
【0107】
(意匠性)
第1の樹脂シートの表面を目視により観察し、下記評価基準で意匠性を評価した。
<評価基準>
〇:表面光沢に優れ、かつ、高い奥行き感(立体感)が生じており、深みのある優れた意匠性を発現している。
△:表面光沢と奥行き感(立体感)の一方は良好であるが、他方は不十分である。
×:表面光沢と奥行き感(立体感)のいずれも不十分であるか、又はシリコーン系ポリマー成分のブリードアウトが見られる。
【0108】