(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067253
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】多層体、成形品、および、多層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20230509BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230509BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230509BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230509BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20230509BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230509BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20230509BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B29C45/14
B32B27/00 B
B32B27/20 Z
C08L69/00
C08L101/00
C08K3/40
C08L33/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178324
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】吉田 沙和
(72)【発明者】
【氏名】三輪 雅申
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AG00
4F100AG00A
4F100AK01
4F100AK01A
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4F100AR00C
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4F206AA21
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4F206JA07
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4F206JQ81
4J002BC03X
4J002BC06X
4J002BC07X
4J002BG04X
4J002BG05X
4J002CF06X
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4J002CF16X
4J002CG00W
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4J002CL00X
4J002CN01X
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4J002DL006
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4J002FD016
4J002FD060
4J002FD070
4J002GF00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 高い透明性を有し、飛散防止性に優れ、かつ、視認性に優れた多層体、成形品、および、多層体の製造方法の提供。
【解決手段】 式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂と、ガラス充填剤と、を含む樹脂組成物から形成される基材と、基材の外側面の少なくとも一方に外側フィルムとを有し、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の屈折率の差が0.0150以下である多層体。式(1)中、R
1はメチル基を表す。
式(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、
前記式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂と、
ガラス充填剤と、
を含む樹脂組成物から形成される基材と、
前記基材の外側面の少なくとも一方に外側フィルムとを有し、
前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の屈折率の差が0.0150以下である多層体。
式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化2】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂が、さらに、式(2)で表される構成単位を含む、
請求項1に記載の多層体。
式(2)
【化3】
(式(2)中、X
2は下記のいずれかの式を表し、
【化4】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【請求項3】
前記他の熱可塑性樹脂の屈折率が1.4900~1.5500である、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂中、式(1)で表される構成単位の割合が5質量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項5】
前記他の熱可塑性樹脂が、(メタ)アクリレート重合体を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項6】
前記(メタ)アクリレート重合体が、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)を含む、請求項5に記載の多層体。
【請求項7】
前記(メタ)アクリレート重合体が、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)を含み、その質量比(b1/b2)が5~50/50~95である、請求項5に記載の多層体。
【請求項8】
前記ガラス充填剤が扁平断面を有するガラス繊維を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項9】
前記外側フィルムが、ポリカーボネート樹脂を含む層を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項10】
前記外側フィルムが、前記ポリカーボネート樹脂を含む層よりも鉛筆硬度が高い層を含む、請求項9に記載の多層体。
【請求項11】
前記外側フィルムが、(メタ)アクリル重合体を含む層を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項12】
前記外側フィルムが、ハードコート層を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項13】
前記基材の外側面の両面に、それぞれ、外側フィルムを有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の多層体を含む成形品。
【請求項15】
前記成形品が、ディスプレイ用部品、携帯情報端末部品、家庭用電気製品、または、室内調度品である、請求項14に記載の成形品。
【請求項16】
外側フィルムが装填された金型内に、前記樹脂組成物の溶融物を射出して、射出成形することを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の多層体の製造方法。
【請求項17】
前記外側フィルムが、ポリカーボネート樹脂を含む層を有する、請求項16に記載の多層体の製造方法。
【請求項18】
前記外側フィルムが、前記ポリカーボネート樹脂を含む層よりも鉛筆硬度が高い層を有し、前記鉛筆硬度が高い層が金型と接するように、前記外側フィルムを装填する、請求項17に記載の多層体の製造方法。
【請求項19】
前記外側フィルムが、(メタ)アクリル重合体を含む層を有し、前記(メタ)アクリル重合体を含む層が金型と接するように、前記外側フィルムを装填する、請求項16または17に記載の多層体の製造方法。
【請求項20】
前記外側フィルムが、ハードコート層を有し、前記ハードコート層が金型と接するように、前記外側フィルムを装填する、請求項16または17に記載の多層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層体、成形品および多層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は機械的強度に優れると共に、耐熱性、透明性などに優れているために、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子機器分野、自動車分野など様々な分野において幅広く使用されている。
ポリカーボネート樹脂は、プラスチックガラスとしての用途も多く、各種方面で広く使用されている。しかしながら、プラスチックガラスとして従来の無機ガラスと比較すると、剛性が劣る傾向にある。この欠点を改良するために、ポリカーボネート樹脂にガラス充填剤を配合したガラス強化ポリカーボネート樹脂組成物が検討されている。
【0003】
一方、ポリカーボネート樹脂と他のフィルムの多層体をインサート成形により成形することが検討されている(特許文献1、特許文献2)。具体的には、金型に、フィルムを装填し、さらに、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物を射出して多層体を製造することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-165017号公報
【特許文献2】特開平05-310956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ポリカーボネート樹脂にガラス充填剤を配合した樹脂組成物を射出成形して得られる成形品においては、ガラス充填剤が成形品の表面に浮き出す現象が見られる。このガラス充填剤の表面への浮き出しは、成形品の表面平滑性の不足を招来し、成形品を通過する平行光線が成形品の表面で散乱されて、視認性が劣る傾向にある。また、ポリカーボネート樹脂にガラス充填剤を配合した樹脂組成物を射出成形して得られる成形品は、強い衝撃を受けたときに飛散しやすいという問題もある。
そこで、本発明者らは、金型に外側フィルムを装填し、その中に、溶融状態の、ポリカーボネート樹脂とガラス充填剤を含む樹脂組成物を射出して、多層体を成形することを検討した。このように、ポリカーボネート樹脂とガラス充填剤を含む樹脂組成物から形成された基材の表面にインサートフィルム(外側フィルム)を設けることによって、衝撃時の飛散防止性が期待できる。また、ガラス充填剤が多層体の表面への浮き出すことの抑制も期待できる。ここで、本発明者らは、多層体の透明性をより向上させるために、ポリカーボネート樹脂として、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂を用いることを検討した。ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂は、本来的に流動性が高いため、樹脂組成物の流動性を高めることができ、ガラス充填剤の周辺にも十分に熱可塑性樹脂成分を充填させることができる。このように充填性を高めると、多層体の透明性の向上が期待できる。しかしながら、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂は、ガラス充填剤との屈折率差が大きい。そのため、かかる観点から透明性が劣ってしまうことが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、高い透明性を有し、飛散防止性に優れ、かつ、視認性に優れた多層体、成形品、および、多層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、基材を形成する樹脂組成物に、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂等の所定のポリカーボネート樹脂とガラス充填剤に加えて、他の熱可塑性樹脂を配合して、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の屈折率の差を小さくすることにより、上記課題を解決できることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、前記式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂と、ガラス充填剤と、を含む樹脂組成物から形成される基材と、前記基材の外側面の少なくとも一方に外側フィルムとを有し、前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の屈折率の差が0.0150以下である多層体。
式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化2】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
<2>前記ポリカーボネート樹脂が、さらに、式(2)で表される構成単位を含む、<1>に記載の多層体。
式(2)
【化3】
(式(2)中、X
2は下記のいずれかの式を表し、
【化4】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
<3>前記他の熱可塑性樹脂の屈折率が1.4900~1.5500である、<1>または<2>に記載の多層体。
<4>前記ポリカーボネート樹脂中、式(1)で表される構成単位の割合が5質量%以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の多層体。
<5>前記他の熱可塑性樹脂が、(メタ)アクリレート重合体を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の多層体。
<6>前記(メタ)アクリレート重合体が、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)を含む、<5>に記載の多層体。
<7>前記(メタ)アクリレート重合体が、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)を含み、その質量比(b1/b2)が5~50/50~95である、<5>に記載の多層体。
<8>前記ガラス充填剤が扁平断面を有するガラス繊維を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の多層体。
<9>前記外側フィルムが、ポリカーボネート樹脂を含む層を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の多層体。
<10>前記外側フィルムが、前記ポリカーボネート樹脂を含む層よりも鉛筆硬度が高い層を含む、<9>に記載の多層体。
<11>前記外側フィルムが、(メタ)アクリル重合体を含む層を含む、<1>~<10>のいずれか1つに記載の多層体。
<12>前記外側フィルムが、ハードコート層を含む、<1>~<11>のいずれか1つに記載の多層体。
<13>前記基材の外側面の両面に、それぞれ、外側フィルムを有する、<1>~<12>のいずれか1つに記載の多層体。
<14><1>~<13>のいずれか1つに記載の多層体を含む成形品。
<15>前記成形品が、ディスプレイ用部品、携帯情報端末部品、家庭用電気製品、または、室内調度品である、<14>に記載の成形品。
<16>外側フィルムが装填された金型内に、前記樹脂組成物の溶融物を射出して、射出成形することを含む、<1>~<13>のいずれか1つに記載の多層体の製造方法。
<17>前記外側フィルムが、ポリカーボネート樹脂を含む層を有する、<16>に記載の多層体の製造方法。
<18>前記外側フィルムが、前記ポリカーボネート樹脂を含む層よりも鉛筆硬度が高い層を有し、前記鉛筆硬度が高い層が金型と接するように、前記外側フィルムを装填する、<17>に記載の多層体の製造方法。
<19>前記外側フィルムが、(メタ)アクリル重合体を含む層を有し、前記(メタ)アクリル重合体を含む層が金型と接するように、前記外側フィルムを装填する、<16>または<17>に記載の多層体の製造方法。
<20>前記外側フィルムが、ハードコート層を有し、前記ハードコート層が金型と接するように、前記外側フィルムを装填する、<16>または<17>に記載の多層体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高い透明性を有し、飛散防止性に優れ、かつ、視認性に優れた多層体、成形品、および、多層体の製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の多層体の層構成の一例を示す断面模式図である。
【
図2】本発明における外側フィルムの層構成の一例を示す断面模式図である。
【
図3】本発明の多層体をインサート成形により成形する際の模式図である。
【
図4】実施例におけるデュポン衝撃試験の方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書における多層体は、それぞれ、フィルムまたはシートの形状をしているものを含む趣旨である。「フィルム」および「シート」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいう。また、本明細書における「フィルム」および「シート」は、単層であっても多層であってもよい。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2021年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0010】
本実施形態の多層体は、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、前記式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂と、ガラス充填剤と、を含む樹脂組成物から形成される基材と、前記基材の外側面の少なくとも一方に外側フィルムとを有し、前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の屈折率の差が0.0150以下であることを特徴とする。
式(1)
【化5】
(式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化6】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【0011】
このような構成とすることにより、高い透明性を有し、さらに、飛散防止性および視認性に優れた多層体が得られる。
すなわち、ポリカーボネート樹脂として、透明性の高いポリカーボネート樹脂を配合し、さらに、ガラス充填剤よりも屈折率の低い熱可塑性樹脂を配合し、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の屈折率の差を所定の範囲以下とすることによって、透明性を向上させることができたと推測される。また、外側フィルムを設けることにより、成形品の表面の荒れに基づく光散乱を効果的に抑制でき、視認性に優れた多層体が得られたと推測される。さらに、外側フィルムを設けることにより、飛散防止性にも優れた多層体が得られたと推測される。
【0012】
<多層体の層構成および特性>
本実施形態の多層体は、基材と、基材の外側面の少なくとも一方に外側フィルムとを有する。このように基材の表面に外側フィルムを設けることにより、基材に含まれるガラス充填剤に由来する視認性の悪化や、多層体に衝撃がかかった場合に、多層体の飛散を効果的に抑制することができる。
ここで、外側面とは、基材の表面であってもよいし、基材と外側フィルムの間に、中間層を有していてもよい。本実施形態においては、基材の表面に外側フィルムが設けられていることが好ましい。中間層を有する場合、接着層が例示される。接着層の詳細は、特開2019-116039号公報の段落0100~0101の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
また、上述の通り、本実施形態においては、基材の外側面の少なくとも一方に、外側フィルムを有していればよいが、基材の外側面の両面に、外側フィルムを有することが好ましい。ここで、基材の両面に外側フィルムを設ける場合、それぞれの外側フィルムは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0013】
図1は、本実施形態の多層体の層構成の一例を示す断面模式図である。
図1において、1は多層体を、2は基材を、3は外側フィルムをそれぞれ示している。
図1においては、基材2と外側フィルム3の間に便宜上、空間が設けられているが、本実施形態においては、基材2と外側フィルム3は接している。また、上述の通り、基材2と外側フィルム3の間に中間層を有していてもよい。
図1の実施形態においては、外側フィルムは3層からなっているが、外側フィルムは1層のみからなっていてもよいし、2層からなっていてもよく、4層以上からなっていてもよい。外側フィルムの詳細は後述する。
【0014】
本実施形態の多層体において、総厚みは、用途に応じて、適宜定めることができるが、例えば、1.0mm以上であることが好ましく、1.2mm以上であることがより好ましく、1.5mm以上であることがさらに好ましく、1.7mm以上であることが一層好ましく、2.0mm以上であることがより一層好ましい。また、前記多層体の総厚みは、10mm以下であることが好ましく、7mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることがさらに好ましく、4mm以下であることが一層好ましく、3mm以下であることがより一層好ましい。
【0015】
本実施形態の多層体における外側フィルムの厚みの割合は、多層体の総厚みに対し、0.5%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましく、5%以上であることが一層好ましく、10%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、飛散防止性や視認性がより向上する傾向にある。また、多層体における外側フィルムの厚みの割合は、多層体の総厚みに対し、49%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましく、35%以下であることが一層好ましく、25%以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、基材の厚みが厚くなる傾向にあり、溶融した樹脂組成物の金型への射出がより容易になり、また、得られる成形品にガラス充填剤で強化した基材の機械的強度をより効果的に発揮させることができる。
本実施形態の多層体は、外側フィルムを片面のみに有していても、両面に有していてもよいが、両面に有している場合、外側フィルムの厚みの合計が上記値となることが好ましい。
【0016】
また、本実施形態の多層体においては、基材と外側フィルムの合計厚みが、多層体の厚みの90%以上を占めることが好ましく、95%以上を占めることがより好ましく、98%以上を占めることがさらに好ましい。
【0017】
本実施形態の多層体においては、基材と外側フィルムの密着強度が高いことが好ましい。密着強度が高いことにより、得られる多層体の透明性がより向上する傾向にある。
本実施形態の多層体においては、JIS K6854に従った90度剥離試験により測定された外側フィルムと基材の密着強度は3N/15mm以上であることが好ましく、より好ましくは5N/15mm以上である。上限は特に定めるものでは無いが、30N/15mm以下でも十分に要求性能を満たすものである。
例えば、総厚み2mmの多層体であって、基材フィルムの両面に100μmの厚さの外側フィルムを用い、密着強度が0.8N/15mmであるとき、HAZEが6.2%(基材の厚み2mm換算HAZEで6.9%)であった。前記において、金型温度を変更したところ、密着強度は9.3N/15mmとなり、HAZEは5.3%(基材の厚み2mm換算HAZEで5.9%)となった。すなわち、密着強度が透明性に大きな影響を与えうることが分かった。また、製品強度の観点からも、密着強度は3N/15mm以上であることが好ましい。尚、後述する実施例で、実施例として示す多層体は、いずれも、密着強度が3N/15mm以上であった。
【0018】
本実施形態の多層体は、透明性に優れていることが好ましい。具体的には、基材の厚みを2mmに換算したときに、JIS K-7105に準じた23℃におけるHAZE(ヘイズ)/2mm換算をガラス充填剤の含有量(質量%)で除した時、1.00未満であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましい。前記HAZE/2mm換算をガラス充填剤の含有量(質量%)で除した時の下限値は0が理想であるが、0.001以上が実際的である。
HAZE(ヘイズ)は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0019】
<基材>
次に、基材について説明する。本実施形態で用いる基材は、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、前記式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂と、ガラス充填剤と、を含む樹脂組成物から形成される。さらに、前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の屈折率の差が0.0150以下である。
熱可塑性樹脂成分とは、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂および他の熱可塑性樹脂の合計を意味する。本実施形態で用いる樹脂組成物は、樹脂組成物のガラス充填剤を除く成分の、通常95質量%以上、好ましくは97質量%以上、より好ましくは99質量%以上が熱可塑性樹脂成分である。
【0020】
<<樹脂組成物>>
本実施形態で用いる樹脂組成物は、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を含む。
ポリカーボネート樹脂が式(1)で表される構成単位を含むことにより、熱可塑性樹脂成分の透明性を高くすることができる。さらに、得られる成形品の表面硬度を高くできる。
式(1)
【化7】
式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化8】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
【0021】
ZがCと結合して形成される脂環式炭化水素としては、シクロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。ZがCと結合して形成される置換基を有する脂環式炭化水素としては、上述した脂環式炭化水素基のメチル置換体、エチル置換体などが挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シクロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
【0022】
式(1)中、X
1が、
【化9】
である場合、R
3およびR
4は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
またX
1が、
【化10】
の場合、Zは、上記式(1)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6~12の2価の脂環式炭化水素基を形成するが、2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
式(1)中、X
1は下記構造が好ましい。
【化11】
【0023】
上記式(1)で表される構成単位の好ましい具体例としては、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわち、ビスフェノールCから構成される構成単位(カーボネート構成単位)である。
【0024】
本実施形態において、ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構成単位を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0025】
本実施形態において、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂は、さらに、式(2)で表される構成単位を含むことが好ましい。ここで、式(2)で表される構成単位を含むとは、本実施形態で用いる樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂が、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂であることの他、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物等であってもよい趣旨である。式(2)で表される構成単位を含むことにより、得られる多層体の耐熱性がより向上する傾向にある。
式(2)
【化12】
式(2)中、X
2は下記のいずれかの式を表し、
【化13】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
【0026】
式(2)中、X
2が、
【化14】
である場合、R
3およびR
4は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
またX
2が、
【化15】
の場合、Zは、上記式(2)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6~12の2価の脂環式炭化水素基を形成するが、2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
式(2)中、X
2は下記構造が好ましい。
【化16】
【0027】
本実施形態では、ポリカーボネート樹脂は、式(2)で表される構成単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0028】
本実施形態において、ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構成単位および式(2)で表される構成単位以外の他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位としては、以下に示すジヒドロキシ化合物由来の構成単位が例示される。
【0029】
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、4,4'-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4'-(1,4-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4'-ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-6-メチル-3-tert-ブチルフェニル)ブタン。
【0030】
また、他の構成単位の一実施形態として、国際公開第2017/099226号の段落0008に記載の式(2)で表される構成単位、国際公開第2017/099226号の段落0043~0052の記載、特開2011-046769号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0031】
また、本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構成単位の割合が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、さらには、35質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、75質量%以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の透明性がより向上する傾向にあると共に、成形品の表面硬度を高くすることができ、さらに、誘電正接を低くすることができる傾向にある。また、前記式(1)で表される構成単位の割合は、100質量%であってもよいが、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、84質量%以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、荷重たわみ温度がより高くなる傾向にある。
【0032】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂における、上記式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位の合計は、末端基を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、99質量%以上を占めることがさらに好ましい。前記合計の上限としては、100質量%以下である。
【0033】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂は、以下の形態が好ましい。
(A1)式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂
(A2)式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物
(A3)式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂
(A4)式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物
(A5)式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物
(A6)式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物
(A7)上記(A1)~(A6)において、ポリカーボネート樹脂またはそのブレンド物を構成するポリカーボネート樹脂が式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位以外の他の構成単位を含むポリカーボネート樹脂
(A8)上記(A1)~(A7)のポリカーボネート樹脂またはブレンド物と、他の構成単位とからなるポリカーボネート樹脂とのブレンド物
【0034】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂の波長486nmにおける屈折率は、例えば、1.5600以上であり、さらには1.5700以上であり、特には、1.5800以上である。また、ポリカーボネート樹脂の屈折率の上限値は、1.6500以下であることが好ましく、1.6400以下であることがより好ましく、1.6300以下であることがさらに好ましく、1.6200以下であることが一層好ましく、1.6100以下であることがより一層好ましく、さらには、1.6000以下、特には、1.5990以下であってもよい。
屈折率は後述する実施例の記載に従って測定される。2種以上のポリカーボネート樹脂を含む場合は、混合物の屈折率とする。
【0035】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、下限値が5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、12,000以上であることが一層好ましい。また、Mvの上限値は、32,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、29,000以下であることがさらに好ましく、27,000以下であることが一層好ましい。
粘度平均分子量を上記下限値以上とすることにより、成形性が向上し、かつ、機械的強度の高い成形品が得られる。また、上記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の流動性が向上し、薄肉の成形品なども効率的に製造することができる。
樹脂組成物が2種以上のポリカーボネート樹脂を含む場合は、各ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量に質量分率をかけた値の合計とする。
特に、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、20,000~30,000であることが好ましく、20,000~28,000であることがより好ましい。また、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、12,000~28,000であることが好ましく、18,000~27,000であることがより好ましい。
粘度平均分子量(Mv)は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0036】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂(式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含む全ポリカーボネート樹脂)は、ISO 15184に従って測定した鉛筆硬度が3B~2Hであることが例示され、2B~2Hが好ましい。鉛筆硬度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
特に、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は、H~2Hであることが好ましく、また、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は、2B~HBであることが好ましい。
【0037】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されないが、例えば、特開2014-065901号公報の段落0027~0043および実施例の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0038】
本実施形態で用いる樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、40質量部以上であり、50質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であることがより好ましく、68質量部以上であることがさらに好ましく、70質量部以上であることが一層好ましく、72質量部以上であることがより一層好ましく、75質量部以上であることがさらに一層好ましく、76質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、樹脂組成物から形成される成形品の衝撃強度がより向上する傾向にあり、また、樹脂組成物の耐熱性の低下を効果的に抑制できる傾向にある。また、本実施形態で用いる樹脂組成物における、ポリカーボネート樹脂の含有量は、樹脂成分100質量部に対し、85質量部以下であり、84質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物から形成される成形品の表面硬度、および、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。
【0039】
本実施形態で用いる樹脂組成物は、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂に加えて、これ以外の他の熱可塑性樹脂を含む。前記他の熱可塑性樹脂(通常は、ポリカーボネート樹脂よりも屈折率の低い樹脂)を含むことにより、熱可塑性樹脂成分の屈折率を低くすることができる。
前記ポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂は、その種類等特に定めるものではないが、通常、ポリカーボネート樹脂およびガラス充填剤よりも屈折率が低いものが選択される。具体的には、他の熱可塑性樹脂(好ましくは後述する(メタ)アクリレート重合体)の波長486nmにおける屈折率は、1.5500以下であることが好ましく、1.5400以下であることがより好ましく、1.5300以下であることがさらに好ましく、1.5250以下であることが一層好ましい。また、他の熱可塑性樹脂の屈折率の下限値は、1.4900以上であることが好ましく、1.5000以上であることがより好ましく、1.5100以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、樹脂組成物から形成される成形品の表面硬度をより高めることができる。
【0040】
他の熱可塑性樹脂としては、(メタ)アクリレート重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクリレート・スチレン共重合体(MS樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が例示され、(メタ)アクリレート重合体が好ましい。特に、(メタ)アクリレート重合体を含むことにより、樹脂組成物から形成される成形品の表面硬度を高めることができ、また、樹脂組成物の流動性を高めることができる。
本実施形態で用いる(メタ)アクリレート重合体は、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)を含むことが好ましく、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)を含むことが好ましい。芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)を含むことにより、ポリカーボネート樹脂との相溶性を高めることができ、メチルメタクリレート構成単位(b2)を含むことにより、樹脂組成物から形成される成形品の表面硬度を高めることができる。
【0041】
芳香族(メタ)アクリレート構成単位を構成する単量体である芳香族(メタ)アクリレート(b1)とは、芳香族基を有する(メタ)アクリレートのことをいう。芳香族(メタ)アクリレート(b1)としては、ベンゼン環および/またはナフタレン環を含む(メタ)アクリレートであることが好ましく、ベンゼン環を含む(メタ)アクリレートであることがより好ましい。芳香族(メタ)アクリレート(b1)の具体例としては、フェニル(メタ)アクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらのうち、好ましくはフェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートであり、より好ましくはフェニルメタクリレートである。
(メタ)アクリレート重合体は、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0042】
メチルメタクリレート構成単位(b2)を構成する単量体は、メチルメタクリレートである。
【0043】
本実施形態で用いる(メタ)アクリレート重合体においては、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)を含む場合、(b1)/(b2)の質量比は、5~50/50~95であることがより好ましく、25~50/50~75であることがさらに好ましく、25~45/55~75であることが一層好ましく、30~40/60~70であることがより一層好ましい。
本実施形態で用いる(メタ)アクリレート重合体が、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)を含む場合、他の構成単位を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。他の構成単位を含む場合、スチレン構成単位、ならびに、(b1)と(b2)以外の(メタ)アクリレート構成単位が好ましく、(b1)と(b2)以外の(メタ)アクリレート構成単位がより好ましい。(b1)と(b2)以外の(メタ)アクリレート構成単位としては、メチルメタクリレート以外の脂肪族(メタ)アクリレートが例示される。
本実施形態で用いる(メタ)アクリレート重合体は、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)の合計が、末端基を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、99質量%以上を占めることがさらに好ましい。前記合計の上限は末端基を除く全構成単位の100質量%以下であってもよい。
【0044】
本実施形態で用いる(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量は、好ましくは5,000以上であり、より好ましくは10,000以上であり、さらに好ましくは13,000以上である。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の衝撃強度、耐熱性がより向上する傾向にある。また、(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量は、好ましくは30,000以下であり、より好ましくは25,000以下であり、さらに好ましくは20,000以下であり、一層好ましくは16,000以下である。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。
(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0045】
本実施形態で用いられる(メタ)アクリレート重合体は、上述の他、国際公開第2014/038500号、国際公開第2013/094898号、特開2006-199774号公報、特開2010-116501号公報、特開2014-065901号公報、特開2016-027068号公報に記載のもの、ならびに、特開2016-047937号公報に記載の「芳香族(メタ)アクリレート」を採用することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0046】
本実施形態で用いる樹脂組成物における他の熱可塑性樹脂(好ましくは(メタ)アクリレート重合体)の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、15質量部以上であり、16質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、樹脂組成物から形成される成形品の表面硬度、および、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。また、本実施形態で用いる樹脂組成物における他の熱可塑性樹脂(好ましくは(メタ)アクリレート重合体)の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、60質量部以下であり、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、32質量部以下であることがさらに好ましく、30質量部以下であることが一層好ましく、28質量部以下であることがより一層好ましく、25質量部以下であることがさらに一層好ましく、24質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物から形成される成形品の衝撃強度がより向上する傾向にあり、また、樹脂組成物の耐熱性の低下を効果的に抑制できる傾向にある。
【0047】
本実施形態で用いる樹脂組成物は、ガラス充填剤を含む。ガラス充填剤を含むことにより、得られる成形品の機械的強度を向上させることができる。
本実施形態におけるガラス充填剤は、特に定めるものではなく、熱可塑性樹脂の強化に用いられる充填剤を広く用いることができる。
【0048】
本実施形態に用いられるガラス充填剤の波長486nmの屈折率は、例えば、1.5500以上であり、さらには1.5600以上であり、特には1.5700以上である。また、ガラス充填剤の屈折率は、例えば、1.5900以下であり、さらには1.5850以下であり、特には1.5800以下である。屈折率は、後述する実施例の記載に従って測定される。
2種以上のガラス充填剤を含む場合、ガラス充填剤の屈折率は、各ガラス充填剤の屈折率に質量分率をかけた値の合計とする。
【0049】
本実施形態で用いるガラス充填剤は、繊維状、板状、ビーズ状等のいずれの形状であってもよいが、繊維状であることが好ましい。
本実施形態で用いるガラス充填剤が繊維状である場合、数平均繊維長(カット長)が0.5~10.0mmのものが好ましく、1.0~5.0mmのものがより好ましい。このような数平均繊維長のガラス充填剤(ガラス繊維)を用いることにより、機械的強度をより向上させることができる。数平均繊維長(カット長)が0.5~10.0mmのガラス繊維は、チョップドストランドとして販売されているものが例示される。数平均繊維長は光学顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維長を測定する対象のガラス繊維をランダムに抽出してその長辺を測定し、得られた測定値から数平均繊維長を算出する。観察の倍率は20倍とし、測定本数は1,000本以上として行う。概ね、カット長に相当する。
また、ガラス繊維の断面形状は、円形、楕円形、長円形、長方形、長方形の両短辺に半円を合わせた形状、まゆ型等いずれの形状であってもよい。
本実施形態では、ガラス充填剤が扁平断面を有するガラス繊維を含むことが好ましく、扁平率が1.5~8であることがより好ましく、扁平率が2~6であることがさらに好ましい。このような扁平ガラス繊維を用いることにより、光の散乱を効果的に抑制し、得られる成形品の透明性をより向上させることができる。
ガラス繊維の数平均繊維径は、下限が、4.0μm以上であることが好ましく、4.5μm以上であることがより好ましく、5.0μm以上であることがさらに好ましい。ガラス充填剤の数平均繊維径の上限は、15.0μm以下であることが好ましく、12.0μm以下であることがより好ましい。なお、ガラス繊維の数平均繊維径は、電子顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維径を測定する対象のガラス繊維をランダムに抽出し、中央部に近いところで繊維径を測定し、得られた測定値から算出する。観察の倍率は1,000倍とし、測定本数は1,000本以上として行う。円形以外の断面を有するガラス繊維の数平均繊維径は、断面の面積と同じ面積の円に換算したときの数平均繊維径とする。
【0050】
次に、本実施形態で好ましく用いられるガラス繊維について説明する。
ガラス繊維は、一般的に供給されるEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、Rガラス、Mガラス等を溶融紡糸して得られる繊維が用いられるが、ガラス繊維にできるものであれば使用可能であり、特に限定されない。本実施形態では、Eガラスを含むことが好ましい。
本実施形態で用いるガラス繊維は、例えば、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤の付着量は、ガラス繊維の0.01~1質量%であることが好ましい。さらに必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いることもできる。本実施形態で用いるガラス繊維は、集束剤で集束されていてもよい。この場合の集束剤としては、エポキシ系集束剤またはウレタン系集束剤が好ましい。
【0051】
ガラス繊維は市販品として入手できる。市販品としては、例えば、日本電気硝子社製、T-187、T-286H、T-756H、T-289H、オーウェンスコーニング社製、DEFT2A、PPG社製、HP3540、日東紡社製、CSG3PA820等が挙げられる。
【0052】
本実施形態で用いる樹脂組成物におけるガラス充填剤(好ましくはガラス繊維)の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。また、本実施形態で用いる樹脂組成物におけるガラス充填剤(好ましくはガラス繊維)の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、100質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることがさらに好ましく、70質量部以下であることが一層好ましく、さらには、50質量部以下、30質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、射出成形時の流動性が向上する傾向にある。
また、本実施形態で用いる樹脂組成物におけるガラス充填剤(好ましくはガラス繊維)の含有量は、樹脂組成物中、5質量%以上であることが好ましく、9質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることが一層好ましい。また、前記ガラス充填剤(好ましくはガラス繊維)の含有量は、樹脂組成物中、50質量%以下であることが好ましく、41質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、さらには、30質量%以下、特には、28質量%以下であってもよい。
本実施形態で用いる樹脂組成物は、ガラス充填剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0053】
本実施形態で用いる樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂((メタ)アクリレート重合体等)、および、ガラス充填剤に加え、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外の他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、各種樹脂添加剤などが挙げられる。
樹脂添加剤としては、例えば、離型剤(エステル化合物等)、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤等)、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。これらの詳細は、特開2014-065901号公報の段落0059~0080の記載、特開2018-165017号公報の段落0069~0093の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態で用いる樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂((メタ)アクリレート重合体等)と、ガラス充填剤と、必要に応じ配合される樹脂添加剤(例えば、エステル化合物、安定剤)の合計が100質量%となるように調整される。
【0054】
本実施形態で用いる樹脂組成物は、離型剤を含んでいてもよい。離型剤を含むことにより、離型性がより向上する傾向にある。
離型剤としては、公知のものを採用できるが、エステル化合物が好ましく、脂肪族アルコール(例えば、炭素数16~22の脂肪族飽和1価アルコールまたは炭素数2~12の多価アルコール)と脂肪族カルボン酸(例えば、炭素数16~22のモノまたはジカルボン酸)とのエステル化合物がより好ましい。エステル化合物の詳細は、特開2020-029481号公報の段落0047~0054の記載を参酌でき、この内容は明細書に組み込まれる。
【0055】
本実施形態で用いる樹脂組成物が離型剤(好ましくはエステル化合物)を含む場合、その含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、離型性改善効果が効果的に発揮される傾向にある。また、上限値としては、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、2.2質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であってもよく、さらには、1.0質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、射出成形時の金型汚染などの問題を効果的に抑制することができる。また、得られる成形品の透明性がより向上する傾向にある。
本実施形態で用いる樹脂組成物は、離型剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0056】
本実施形態で用いる樹脂組成物は安定剤を含んでいてもよい。
安定剤としては、熱安定剤や酸化防止剤が挙げられる。
熱安定剤としては、リン系安定剤が好ましく用いられる。
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0057】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が好ましく用いられる。
ヒンダードフェノール系安定剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフェート、3,3',3'',5,5',5''-ヘキサ-tert-ブチル-a,a',a''-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0058】
このようなヒンダードフェノール系安定剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「Irganox(登録商標。以下同じ)1010」、「Irganox1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0059】
本実施形態で用いる樹脂組成物における安定剤の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。安定剤の含有量を前記範囲とすることにより、安定剤の添加効果がより効果的に発揮される。
本実施形態で用いる樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0060】
<<樹脂組成物の製造方法>>
本実施形態で用いる樹脂組成物の製造方法は、特に制限はなく、公知の樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、上記ポリカーボネート樹脂、他の熱可塑性樹脂、ガラス充填剤、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0061】
<<屈折率の差>>
本実施形態では、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の屈折率の差が0.0150以下となるように調整される。なお、屈折率の差とは絶対値を意味する。このような構成とすることにより、得られる成形品の透過率を向上させることができる。前記屈折率の差の上限値は、0.0100以下であることが好ましく、0.0080以下であることがより好ましく、0.0060以下であることがさらに好ましく、0.0040以下であることが一層好ましく、0.0030以下であることがより一層好ましく、0.0025以下であることがさらに一層好ましく、さらには、0.0020以下、0.0010以下、0.0009以下、0.0008以下であることが好ましい。前記屈折率の差の下限は、0が理想であるが、例えば、0.0001以上、さらには、0.0003以上であっても十分に要求性能を満たすものである。
【0062】
<<基材の厚さ>>
本実施形態の基材の厚さは、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、また、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。前記下限値以上であると、成形品について十分な機械的強度を得ることができ、また、射出成形性の観点から好ましい。前記上限値以下であると、軽量化、コストの観点から好ましい。
【0063】
<外側フィルム>
次に、本実施形態の多層体が有する外側フィルムについて説明する。
外側フィルムは、本発明の趣旨を逸脱しない限り、その種類等、特に定めるものでは無く、また、外側フィルムは、上述の通り、基材の片面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。両面に設ける場合、それぞれの外側フィルムは同一であってもよいし、異なっていてもよい。本実施形態の多層体は、用途によっては部品の一部として組み込まることが想定されるが、この場合、一方の面が部品の表面に露出しており、他方の面が部品の内部を向いていることが多い。このような場合、一方の面の外側フィルムの表面と他方の面の外側フィルムの表面に求められる性能は当然に異なってくるであろう。例えば、一方の面は、高硬度が求められる一方、他方の面は高硬度が求められない等である。
【0064】
本実施形態で用いる外側フィルムは、単層フィルムであっても、多層フィルムであってもよい。多層フィルムの場合、特に層数には制限はなく、樹脂層以外に、多色刷りの印刷や蒸着等の層を組み込んでもよい。外側フィルムは、1層または2層以上が好ましく、3層以上であってもよく、また、5層以下、4層以下、3層以下であってもよい。また、外側フィルムは、上述の通り、基材の片面に設けてもよいし、両面に設けてもよいが、両面に設ける場合、一方が、単層フィルムであって、他方が、多層フィルムであってもよい。
【0065】
本実施形態で用いる外側フィルムは、透明性が高いことが好ましい。透明性が高いことにより、得られる多層体自体の透明性を向上することができる。
具体的には、外側フィルムのヘイズが、1.0%未満であることが好ましく、0.8%未満であることがより好ましく、0.5%未満であることがさらに好ましい。外側フィルムのヘイズの下限値は、0%が理想であるが、0.001%以上であっても要求性能を満たすものである。ヘイズは、JIS K-7105に準じ、ヘイズメーターを用いて、23℃におけるHAZE(ヘイズ)を測定した値とする。
なお、後述するポリカーボネート樹脂層(ポリカーボネート樹脂を含む層)、(メタ)アクリル重合体層((メタ)アクリル重合体を含む層)、ハードコート層等は、通常、上記ヘイズを満たすものである。
また、本実施形態で用いる外側フィルムは、ガラス充填剤等の充填剤を実質的に含まないことにより、上記優れた透明性を達成できる。ガラス充填剤は、通常、熱可塑性樹脂成分との屈折率差が大きいため、透明性を悪化させやすいことに基づく。ここで、実質的に含まないとは、充填剤の含有量が、外側フィルムの質量の5質量%以下であることをいい、1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0066】
本実施形態で用いる外側フィルムは、また、最表面の層が基材のポリカーボネート樹脂に密着した樹脂層(例えば、ポリカーボネート樹脂層)よりも鉛筆硬度が高い層を含むことが好ましい。ここでの基材のポリカーボネート樹脂は、樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂(2種以上の場合は混合物)を意味する。このような層を含むことにより、本実施形態の基材の表面を保護することができる。具体的には、鉛筆硬度がH以上の層を有することが好ましく、2H以上の層を有することがより好ましく、また、9H以下の層であってもよい。後述する(メタ)アクリル重合体を含む層やハードコート層がこれに該当する。また、樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂よりも鉛筆硬度が高いポリカーボネート樹脂を含む層も、前記ポリカーボネート樹脂よりも鉛筆硬度が高い層に該当する。
【0067】
本実施形態で用いる外側フィルムの基材に密着する層は、衝撃により割れたときの破片の飛散防止性の観点から、引張強さ、引張伸びに優れたものであることが好ましく、JIS K7127に従い、引張強さが60MPa以上あり、および/または、引張伸びが50%以上であることがより好ましい。引張強さおよび/または引張伸びが上記下限以上であると、基材が衝撃により割れた際に、外側フィルムが基材の破片を繋ぎとめて、破片が飛散することを防止し易くなる傾向がある。この観点から、外側フィルムの引張強さは65MPa以上であることがより好ましく、引張伸びは60%以上であることが好ましい。外側フィルムの一例として、引張強さは、通常、80MPa以下であり、引張伸びは300%以下であることが挙げられる。後述するポリカーボネート樹脂フィルムがこれに該当する。
【0068】
本実施形態で外側フィルムの基材に密着する層に用いる樹脂は、荷重たわみ温度が高いことが好ましい。樹脂を用いることにより、外側フィルムが断熱効果の役割を果たし、射出される樹脂組成物から形成される基材中の樹脂はフィルムへの接触温度をより高くできるため、より充填しやすくなり、よりガラス浮き抑えることができ、透明性がより向上する。前記荷重たわみ温度は、荷重1.80MPaにおいて、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。上限は、例えば、200℃以下であり、150℃以下であってもよい。このような荷重たわみ温度を満たす樹脂として、ポリカーボネート樹脂、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、熱可塑性ポリウレタンエラストマー等が例示される。
荷重たわみ温度は、JIS K7191に従って測定される。
また、熱可塑性ポリウレタンのようなエラストマーにおいてはビカット軟化点が60℃以上(上限は、例えば、200℃以下)を満たすことが好ましい。ビカット軟化点は、JIS K7206 A50法(昇温速度50k/h、荷重10N)に従って測定される。
【0069】
本実施形態で用いる外側フィルムは、最表層の表面粗さRaが小さいことが好ましい。具体的には、Raが0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。Raの下限値は特に定めるものでは無いが、例えば、0.0001μm以上であってもよい。Raの測定は、国際公開第2019/146807号の段落0158の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。このようなRaが小さいフィルムは、ポリカーボネート樹脂層(例えば、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂層)、(メタ)アクリル重合体を含む層、ハードコート層であることが好ましい。
【0070】
本実施形態で用いる外側フィルムの基材に密着する層に用いる樹脂は、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性エラストマー、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、および、脂環式ポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれた1以上の樹脂を熱可塑性樹脂成分として含有するものが好ましい。特にポリエステル樹脂やポリアミド樹脂を用いる場合等、通常では耐熱性が弱いフィルムの場合は2軸延伸によって強度、耐熱性を強化したフィルムが望ましい。
高硬度層となる(メタ)アクリル重合体を含む層、および/または、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂層は多層体の最表面となる位置に設けられることが好ましい。また、本実施形態で用いるフィルムは、さらにフィルムの最表面にハードコート層を含むことが好ましい。ハードコート層は、多層体の(メタ)アクリル重合体を含む層、および/または、ポリカーボネート樹脂層(好ましくは、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂層)上の最表面となる位置に設けられることが好ましい。
【0071】
(メタ)アクリル重合体を含む層((メタ)アクリル重合体層)は、1種または2種以上の(メタ)アクリル重合体を主成分とする層であり、例えば、(メタ)アクリル重合体層の80質量%以上(好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上)が(メタ)アクリル重合体である。
(メタ)アクリル重合体としては、公知の(メタ)アクリル重合体を広く用いることができ、ポリメチルメタクリレートなどの(メタ)アクリル重合体が好ましい。
また、上述した樹脂組成物に耐候性、耐指紋性等を改良する添加剤を配合してもよい。
【0072】
(メタ)アクリル重合体層の厚みは、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは40μm以上であり、また、好ましくは150μm以下、より好ましくは120μm以下である。
【0073】
一方、ポリカーボネート樹脂を含む層(好ましくは、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を含む層)(ポリカーボネート樹脂層)はポリカーボネート樹脂を主成分とする層であり、例えば、ポリカーボネート樹脂層の60質量%以上(好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上)がポリカーボネート樹脂である。
式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂としては、上述の樹脂組成物の所で説明した式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と同義である。なお、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂には、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位の両方を含むポリカーボネート樹脂や、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物も含む趣旨である。
また、上述した樹脂組成物に配合してもよい樹脂添加剤を含んでいてもよい。
【0074】
ポリカーボネート樹脂を含む層(好ましくは、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を含む層)の厚みは、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは40μm以上であり、また、好ましくは150μm以下、より好ましくは120μm以下である。
【0075】
上記の他、他の熱可塑性樹脂については、特開2019-116039号公報の段落0083~0096の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。熱可塑性エラストマーとしては、特開2020-163597号公報の段落0078~0091の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0076】
次に、ハードコート層について説明する。ハードコート層を形成するためのハードコート剤としては、公知の材料を適宜使用することができ、例えば、シリコーン系、アクリル系、シラザン系、ウレタン系などの種々のハードコート剤を使用することができる。
また、耐候性、耐指紋性、接着性を向上させるために、ハードコート剤に添加剤を配合したり、ハードコート剤を塗布する前に接着剤入りプライマー層、あるいは耐候性改良剤を加えたプライマー層等を設ける2コートタイプのハードコート剤であってもよい。ハードコート剤のコーティング方法としては、特に制限はないが、スプレーコート、ディップコート、フローコート、スピンコート、バーコート、カーテンコート、ダイコート、グラビアコート、ロールコート、ブレードコートおよびエアーナイフコート等のいずれの塗工方法によって塗布することもできる。
【0077】
ハードコート層の厚みは、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、また、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。
【0078】
本実施形態で用いる外側フィルムは、上記の他、反射防止層、防汚層、印刷層、接着層、ギラツキ防止層等を設けてもよい。
【0079】
外側フィルムの厚み(総厚み)は、薄膜性と取り扱い性および引張強さ等の兼ね合いから、50μm以上であることが好ましく、75μm以上であることがより好ましく、また、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。
外側フィルムとして2軸延伸ポリエステルフィルムを用いる場合は、フィルムの結晶性が高いため基材である樹脂組成物と熱融着で密着性に乏しい場合がある。この場合、フィルムに接着層を設けることが好ましい。
また、2軸延伸ポリエステルフィルムはその密着性が小さいことから、ハードコート層や加飾層等を積層するための転写シートとして使うことも可能である。具体的には、2軸延伸ポリエステルフィルム上に少なくともハードコート層および/または加飾層と、プライマー層、接着層を積層し、射出成形時に基材と接着層を熱接着し、その後、2軸延伸ポリエステルフィルムを取り除くことで基材の最表面にハードコート層および/または加飾層を設けることが可能になる。
2軸延伸ポリエステルフィルムとハードコート層および/または加飾層を積層することにより、成形時の断熱効果も発現されるため、基材(樹脂組成物)はより高流動となり、得られる多層体のガラス充填剤の浮きが効果的に抑制でき、透明性が向上する。なお、2軸延伸ポリエステルフィルムはハードコート層との離型性を向上させるため表面に離型層を設けてもよい。
【0080】
次に、外側フィルムの好ましい層構成の一例を
図2に従って説明する。
図2は、外側フィルム3の一例を示すものであり、31はハードコート層を、32は(メタ)アクリレート重合体層を、33はポリカーボネート樹脂層を示している。
図2に示す本実施形態においては、最外層がハードコート層31となっている。最外側層は、低いRaや高い鉛筆硬度を有することが好ましい。
図2に示す実施形態においては、最内層、すなわち、通常は、基材と接している層は、ポリカーボネート樹脂層である。最内層は、樹脂組成物とのなじみがよいものが好ましい。
また、
図2に示す実施形態においては、最外層と最内層の間の層は、(メタ)アクリレート重合体層である。最外層と最内層の間の層は、(メタ)アクリレート重合体層の他、硬度や強度が高いものが好ましい。また、最外層と最内層の間の層は、2層以上であってもよい。
【0081】
以下に、本実施形態で用いる外側フィルムの好ましい層構成を示す。本実施形態の多層外がこれらに限定されるものでは無いことは言うまでもない。なお、以下に示す層構成においては、左側が最外層であっても、右側が最内層であってもよいが、左側が最外層であることが好ましい。
(1)ポリカーボネート樹脂層
(2)ハードコート層/ポリカーボネート樹脂層
(3)(メタ)アクリレート重合体層/ポリカーボネート樹脂層
(4)ハードコート層/(メタ)アクリレート重合体層/ポリカーボネート樹脂層
(5)式(1)を含むポリカーボネート樹脂層/ポリカーボネート樹脂層
(6)ハードコート層/式(1)を含むポリカーボネート樹脂層/ポリカーボネート樹脂層
上記の中でも、成形品において、表面に露出する部位に用いられる外側フィルムは(2)~(6)が好ましい。また、成形品において、内部に位置する外側フィルムはポリカーボネート樹脂層側が好ましい。
【0082】
<成形品>
次に、本実施形態の成形品について説明する。本実施形態の成形品は、本実施形態の多層体を含む成形品である。本実施形態の成形品の用途は特に定めるものでは無いが、ディスプレイ用部品、携帯情報端末部品、家庭用電気製品、または、室内調度品であることが好ましい。より好ましくは、タッチパネル用カバーとして有用であり、例えば、スマートホン等のタブレット型の各種携帯端末、タブレット型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーションやカーオーディオ等のタッチパネル用カバーなど、ディスプレイの樹脂カバーとして有用である。
なお、成形品にするに際し、多層体の外側フィルムの表面に、さらに他の層を有することを排除するものでないことは言うまでもない。
【0083】
<多層体の製造方法>
次に、本実施形態の多層体の製造方法について説明する。
本実施形態における多層体は、外側フィルムが装填された金型内に、前記樹脂組成物の溶融物を射出して、射出成形することを含む。このような構成とすることにより、樹脂組成物中のガラス充填剤の成形品の表面における浮きを効果的に抑制することができる。また、外側フィルムが断熱効果を果たし、樹脂組成物のガラス浮きを効果的に抑制し、透明性が向上し、さらに、外側フィルムと基材の高い密着性を達成できる。
【0084】
図3は、本実施形態の多層体の製造方法の一例を示す概略図であって、3は外側フィルムを、4は金型を、5は射出成形機を示している。また、21は基材形成用の樹脂組成物である。1は多層体を示している。
図3に示すように、本実施形態では、金型4・4に、それぞれ、外側フィルム3・3を装填する。このときの外側フィルム3・3は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。次いで、金型を閉じた後、射出成形機5から、溶融状態の樹脂組成物21を射出する。射出成形条件には特に制限はなく、ポリカーボネート樹脂組成物を用いる通常の射出成形条件を採用することができる。例えば、樹脂組成物の射出速度は通常10~100mm/sec、型締め時の保圧力は通常10~100MPa、保圧時間は通常5~30sec程度である。金型温度は、例えば、70~110℃の範囲で適宜定めることができる、
【0085】
外側フィルムの表面温度は金型温度により目標の温度に設定できるが、樹脂組成物のTgに近い温度、あるいは、溶融している樹脂組成物の温度が低い場合にはTgを超えることもありうるため、射出保圧時のみ金型温度を加熱し、冷却時にTgより小さくする成形の工程に合わせて金型の加熱冷却を用いたり、射出の直前にフィルムのみ加熱する方法などを実施する方法が望ましい。次いで、金型4・4で冷却後、金型から外し、多層体1を得る。
【0086】
本実施形態で用いる外側フィルムは上述の通りであり、好ましい範囲も同様である。
本実施形態の多層体の製造方法においては、外側フィルムが、前記ポリカーボネート樹脂よりも鉛筆硬度が高い層を有し、前記鉛筆硬度が高い層が金型と接するように、前記フィルムを装填することが好ましい。
また、本実施形態の多層体の製造方法においては、外側フィルムが、(メタ)アクリル重合体を含む層、および/または、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を含む層を有し、前記(メタ)アクリル重合体を含む層、および/または、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を含む層の一方が金型と接するように、前記外側フィルムを装填することが好ましい。
さらに、本実施形態の多層体の製造方法においては、外側フィルムが、ハードコート層を有し、前記ハードコート層が金型と接するように、前記外側フィルムを装填することが好ましい。
その他、本実施形態の多層体の製造方法は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、特開2019-116039号公報の段落0102~0106の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例0087】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0088】
1.原料
基材形成用樹脂組成物は、表1-1に記載の原料を、外側フィルムは、表1-2に記載のフィルムを用いた。
【表1-1】
【表1-2】
【0089】
<製造例1:ポリカーボネート樹脂A1-1の製造>
ビスフェノールC(BPC)26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.79モル(5.74kg)を、撹拌機および留出凝縮装置付きのアルミ(SUS)製反応器(内容積10リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(Cs2CO3)を、BPC1モルに対し1.5×10-6モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを留出させた。
次に、反応器内の温度を60分かけて284℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに60分間反応を続け、重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の撹拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は289℃、撹拌動力は1.00kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を二軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp-トルエンスルホン酸ブチルを二軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を二軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してポリカーボネート樹脂A1-1のペレットを得た。
【0090】
<ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)の測定>
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度(η)(単位:dL/g)を求め、以下のSchnellの粘度式から算出した。
η=1.23×10-4Mv0.83
【0091】
<鉛筆硬度の測定>
<<ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度の測定>>
ポリカーボネート樹脂ペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機((株)ファナック社製「S-2000i150B」)を用い、シリンダー設定温度280℃、金型温度100℃にて、スクリュー回転数100rpm、射出速度30mm/sの条件下にて、平板状試験片(150mm×100mm×2mm厚)を射出成形した。
上記で得られた平板状試験片(150mm×100mm×2mm厚)について、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
鉛筆硬度試験機は、東洋精機(株)製のものを用いた。
【0092】
<<フィルムの鉛筆硬度の測定>>
ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
鉛筆硬度試験機は、東洋精機(株)製のものを用いた。
【0093】
<(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量(Mw)>
(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量はクロロホルムを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定したポリスチレン(PS)換算の値とした。
【0094】
<樹脂組成物ペレットの製造>
上記表1-1に記載した各成分(ガラス充填剤を除く)を、下記表2~表6に示す割合(特記しない限り、質量部にて表示)にて配合し、タンブラーミキサーにて均一に混合した後、1ベントを二軸押出機(芝浦機械株式会社製、TEM26SX)に上流のフィーダーより供給し、さらにガラス充填剤をバレルの途中より供給して(押出機の上流(ホッパー部位)から、バレル長さLの3/5の下流位置)、シリンダー設定温度260℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/hrにて押出機上流部のバレルより押出機にフィードし、溶融混練して樹脂組成物ペレットを得た。
【0095】
2.実施例1~16、比較例1~8
<多層体の製造>
図3に示すように、金型4・4に、表1-2に示した外側フィルム3・3をセットし、この状態で樹脂組成物21を射出成形することで、厚み2mmの、樹脂組成物21から形成された基材2と、外側フィルム3・3を一体成形して、多層体1を得た。
射出成形機((株)ファナック社製「S-2000i150B」)を用い、シリンダー設定温度280℃、金型温度100℃にて、スクリュー回転数100rpm、射出速度30mm/sの条件下にて、平板状試験片(150mm×100mm×2mm厚)を射出成形した。
なお、外側フィルムは、HC/PMMA/PCフィルムはHC(ハードコート層)が、PMMA/PCフィルムはPMMA層が金型に接する様に配置した。
【0096】
<ヘイズ(Haze)の測定>
上記で得られた多層体について、JIS K-7105に準じ、ヘイズメーターを用いて、23℃におけるHAZE(ヘイズ)を測定した(単位%)。
ヘイズメーターは、日本電色工業(株)製のNDH-4000型ヘイズメーターを用いた。
得られたヘイズについて、基材を2mmの厚さに換算し、ガラス充填剤の含有量(質量%)で除した値として示した。これは、今回製造した多層体の総厚みはいずれも2mmであり、ヘイズが基材の厚みに応じて高くなることに基づく。すなわち、樹脂組成物由来の基材の厚みの割合が高くなるほど、ヘイズが悪化する傾向にあり、対比を容易にするためである。
【0097】
<視認性>
得られた多層体について、ガラス充填剤の浮きに由来する視認性を目視にて評価した。評価は専門家5人が行い、多数決とした。
A:ガラス充填剤の浮きは認められなかった
B:ガラス充填剤の浮きは認められた
【0098】
<飛散防止性>
JIS K5600-5-3に準じ、得られた多層体について、
図4に示すようなデュポン衝撃試験のための装置10に外側フィルム1側を上側となるように多層体1を受け台11の上に配置し、先端が1/8”Rである撃ち型12をセットし、高さ1.0mの位置から、0.5Kgのおもり13を落下させた。上記衝撃試験後の多層体の状態を以下の通り評価した。
A:飛散無し(例えば、割れがあっても独立した破片が生じない等)
B:飛散あり(例えば、割れて独立した破片が生じる)
【0099】
<屈折率の測定方法>
各種樹脂、熱可塑性樹脂成分およびガラス充填剤の屈折率は以下の通り測定した。
各種樹脂および熱可塑性樹脂成分の屈折率は、以下の方法で行った。
屈折率測定用の平板状試験片(90mm×50mm×1mm厚)を製造し、波長486nmにおける屈折率を測定した。
屈折率の測定に際し、セキテクノトロン社製「MODEL2010 プリズムカプラ」を用いた。
屈折率測定用の平板状試験片(90mm×50mm×1mm厚)は、樹脂、または、樹脂組成物ペレットからガラス充填剤を除いた樹脂組成物ペレットであって上記と同様に製造したものを、100℃で5時間乾燥させた後、射出成形機((株)日本製鋼所製「J55-60H」)を用い、シリンダー設定温度280℃、金型温度80℃にて、スクリュー回転数100rpm、射出速度100mm/sの条件下にて射出成形して作製した。
ガラス充填剤の屈折率については、樹脂組成物(熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の混合物)の平板状試験片を製造し、その屈折率から熱可塑性樹脂成分の屈折率を引くことで、値を算出した。
また、得られた屈折率より、屈折率差(熱可塑性樹脂成分の屈折率-ガラス充填剤の屈折率、絶対値)を算出した。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
上記表2~6において、樹脂屈折率とは、波長486nmにおける熱可塑性樹脂成分の屈折率を意味し、GF屈折率とは、波長486nmにおけるガラス充填剤の屈折率を意味する。また、屈折率差とは、波長486nmにおける熱可塑性樹脂成分の屈折率と波長486nmにおけるガラス充填剤の屈折率の差を意味する。
上記結果から明らかなとおり、本発明の多層体は、高い透明性を達成し、また、飛散防止性および視認性に優れていた。