(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067279
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
E03D 11/13 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
E03D11/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178356
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 知里
(72)【発明者】
【氏名】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 博
(72)【発明者】
【氏名】坪根 雄一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 茂
(72)【発明者】
【氏名】高野 賢一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 聖
【テーマコード(参考)】
2D039
【Fターム(参考)】
2D039AA02
2D039AC03
2D039CB02
(57)【要約】
【課題】排出性能の向上を図ること。
【解決手段】実施形態に係る水洗大便器は、ボウル部と、吐水部と、排水トラップ部と、排水ソケットとを備える。ボウル部は、汚物受け面と、リム部とを有する。吐水部は、ボウル部内へと洗浄水を吐出する。排水トラップ部は、ボウル部の底部に接続され、ボウル部内の汚物を排出する。排水ソケットは、上流側が排水トラップ部に接続され、下流側が床面の排水口に接続され、排水トラップ部から排出された洗浄水の流路となる管状の排水ソケットであって、排水トラップ部から下方へと延びた上側排水ソケットを有する。上側排水ソケットは、平面視において、前方領域の流路断面積が後方領域の流路断面積よりも大きい。前方領域および後方領域は、それぞれの管形状が曲率変化しており、互いの接続部分において、それぞれの管形状の曲率変化よりも大きく曲率が変化した変曲点を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボウル形状の汚物受け面と、前記汚物受け面の上方に形成されたリム部とを有するボウル部と、
前記リム部に設けられ、前記ボウル部内へ向けて洗浄水を吐出する吐水部と、
前記ボウル部の底部に接続され、前記ボウル部内の汚物を排出する排水トラップ部と、
上流側が前記排水トラップ部に接続され、下流側が床面の排水口に接続され、前記排水トラップ部から排出された洗浄水の流路となる管状の排水ソケットであって、前記排水トラップ部から下方へと延びた上側排水ソケットを有する排水ソケットと
を備え、
前記上側排水ソケットは、
平面視において、前方領域の流路断面積が後方領域の流路断面積よりも大きく、
前記前方領域および前記後方領域は、
それぞれの管形状が曲率変化しており、互いの接続部分において、前記それぞれの管形状の曲率変化よりも大きく曲率が変化した変曲点を有する
ことを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
前記排水ソケットは、
後方から前方へと延びた前側排水ソケットと、
前記前側排水ソケットに対して上流側で接続され、上方から流れてきた洗浄水が前方へ向かうように流路を変更する後側R部と
を有し、
前記前側排水ソケットは、
洗浄水の一部を貯留する水溜部を有し、
前記水溜部は、
前記排水トラップ部の前方下端部の下方に配置され、
前記上側排水ソケットは、
上流から下流へかけて後方へと下り傾斜した傾斜部を有し、
前記傾斜部は、
その前側面が前記排水トラップ部の前方下端部の下方に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項3】
前記変曲点は、
平面視において、前記前方領域の端部から前記後方領域の端部までの間を接続するような線状である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の水洗大便器。
【請求項4】
前記排水ソケットは、
後方から前方へと延びた前側排水ソケットと、
前記前側排水ソケットに対して上流側で接続され、上方から流れてきた洗浄水が前方へ向かうように流路を変更する後側R部と
を有し、
前記後側R部の最上流端および最下流端の間にはエッジ部分が存在する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水洗大便器においては、ボウル部内の汚物を排出する排水トラップ部と床面の排水口とを接続する排水ソケットを備える。また、排水ソケットには、配管形状に応じた種類が複数あり、例えば、上流側が排水トラップ部に接続され、下流側は一度便器後方へ振られた後(延在された後)、便器前方へ向けて延在して排水口に接続される、いわゆる後振排水ソケットなどが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、後振排水ソケットは、上方から流れてきた洗浄水が前方へ向かうように流路を屈曲させた箇所が洗浄水で満たされるため、サイホン作用を発生させやすいという利点を有する。一方で、後振排水ソケットは、屈曲させた箇所で乱流が発生しやすいため、例えば、排水ソケットの前方領域を流れる洗浄水と後方領域を流れる洗浄水との水勢差が広がり、排水性能が低下するおそれがある。このように、従来技術には、排水性能を向上させる点について改善の余地があった。
【0005】
実施形態の一態様は、排出性能の向上を図ることができる水洗大便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に係る水洗大便器は、ボウル形状の汚物受け面と、前記汚物受け面の上方に形成されたリム部とを有するボウル部と、前記リム部に設けられ、前記ボウル部内へ向けて洗浄水を吐出する吐水部と、前記ボウル部の底部に接続され、前記ボウル部内の汚物を排出する排水トラップ部と、上流側が前記排水トラップ部に接続され、下流側が床面の排水口に接続され、前記排水トラップ部から排出された洗浄水の流路となる管状の排水ソケットであって、前記排水トラップ部から下方へと延びた上側排水ソケットを有する排水ソケットとを備え、前記上側排水ソケットは、平面視において、前方領域の流路断面積が後方領域の流路断面積よりも大きく、前記前方領域および前記後方領域は、それぞれの管形状が曲率変化しており、互いの接続部分において、前記それぞれの管形状の曲率変化よりも大きく曲率が変化した変曲点を有する。
【0007】
このような構成によれば、洗浄水の流速が遅い後方領域の流路断面積が小さいため、排水ソケット内における不要な乱流や逆流が発生する箇所を狭い領域とすることができる。一方、洗浄水の流速が速い前方領域の流路断面積が大きいため、排水ソケットを流れる洗浄水全体を見た場合に下流へ向かう良好な流れが形成され、これにより、排出性能の向上を図ることができる。また、排水ソケットの前方領域と後方領域との接続部分に大きく曲率が変化した変曲点を有することで、排水ソケット内における不要な乱流や逆流が発生する箇所を狭い領域に留めることができ、前方領域の流れの速い洗浄水が妨げられない状態を作り出すことができる。これにより、排水ソケット内において下流へ向かう良好な流れが形成され、排出性能の向上を図ることができる。
【0008】
また、上記した水洗大便器では、前記排水ソケットは、後方から前方へと延びた前側排水ソケットと、前記前側排水ソケットに対して上流側で接続され、上方から流れてきた洗浄水が前方へ向かうように流路を変更する後側R部とを有し、前記前側排水ソケットは、洗浄水の一部を貯留する水溜部を有し、前記水溜部は、前記排水トラップ部の前方下端部の下方に配置され、前記上側排水ソケットは、上流から下流へかけて後方へと下り傾斜した傾斜部を有し、前記傾斜部は、その前側面が前記排水トラップ部の前方下端部の下方に配置される。
【0009】
このような構成によれば、便器洗浄後、排水トラップ部の前方下端部から滴下する水滴が、水溜部に直接落ちず、上側排水ソケットの傾斜面に一度衝突して落下の勢いを弱めてから、傾斜面の下端部から水溜部へ到達する。これにより、洗浄水の滴下音を抑制することができる。
【0010】
また、上記した水洗大便器では、前記変曲点は、平面視において、前記前方領域の端部から前記後方領域の端部までの間を接続するような線状である。
【0011】
このような構成によれば、排水ソケットの前方領域と後方領域との接続部分に大きく曲率変化した変曲点が線状であることで、前方領域と後方領域とをより明確に分けることができ、排水ソケット内における不要な乱流や逆流が発生する箇所を狭い領域に留めることができ、前方領域の流れの速い洗浄水が妨げられない状態を作り出すことができる。これにより、排水ソケット内において下流へ向かう良好な流れが形成され、排出性能の向上を図ることができる。
【0012】
また、上記した水洗大便器では、前記排水ソケットは、後方から前方へと延びた前側排水ソケットと、前記前側排水ソケットに対して上流側で接続され、上方から流れてきた洗浄水が前方へ向かうように流路を変更する後側R部とを有し、前記後側R部の最上流端および最下流端の間にはエッジ部分が存在する。
【0013】
このような構成によれば、上方から滴下してきた水(洗浄水)がエッジ部分をつたって水溜部へ到達するため、洗浄水の滴下音をさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
実施形態の一態様によれば、排出性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態に係る水洗大便器を示す側断面図である。
【
図3】
図3は、上側排水ソケットの管形状を示す平断面図である。
【
図4】
図4は、排水ソケット内の洗浄水の流れの説明図(その1)である。
【
図5】
図5は、排水ソケット内の洗浄水の流れの説明図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する水洗大便器の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
(実施形態)
<水洗大便器の全体構成>
まず、
図1を参照して実施形態に係る水洗大便器1の全体構成について説明する。
図1は、実施形態に係る水洗大便器1を示す側断面図である。なお、
図1では、説明を分かりやすくするため、鉛直上向きを正方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、他の図においても図示する場合がある。
【0018】
また、以下の説明では、直交座標系におけるX軸正方向を「右方」、X軸負方向を「左方」、Y軸正方向を「前方」、Y軸負方向を「後方」、Z軸正方向を「上方」、Z軸負方向を「下方」と記載する場合がある。なお、
図1および
図2以降に示す図は、いずれも模式図である。
【0019】
図1に示すように、水洗大便器1は、ボウル部2と、吐水部3と、排水トラップ部4と、排水ソケット5とを備える。また、水洗大便器1は、床置き式の水洗大便器である。なお、ボウル部2などを含む便器本体は、例えば陶器製であるが、これに限られず、例えば、樹脂製でもよいし、陶器および樹脂を組み合わせて製造されたものでもよい。
【0020】
ボウル部2は、汚物受け面21と、リム部22とを備える。汚物受け面21は、汚物を受けることが可能なボウル状に形成される。リム部22は、汚物受け面21の上方に形成され、ボウル部2の上縁を構成するように形成される。なお、
図1にあっては、図示の簡略化のため、ボウル部2の上部に設けられる便座や便座を覆うカバーなど一部の部材の図示を省略している。
【0021】
吐水部3は、ボウル部2内へ向けて洗浄水を吐出する。例えば、吐水部3は、リム部22に設けられ、図示しない貯水タンクから供給される洗浄水を吐水口を介してボウル部2内へ吐出する。なお、
図1では、図示の簡略化のため、吐水部3(吐水口)を二点鎖線で模式的に図示している。
【0022】
吐水部3から吐出された洗浄水は、例えばボウル部2の汚物受け面21で旋回流を生じ、ボウル部2の洗浄を行う。また、ボウル部2へ供給された洗浄水は、便器洗浄後、ボウル部2および排水トラップ部4に貯留される。なお、
図1では、ボウル部2および排水トラップ部4に貯留された洗浄水を二点鎖線で示し、かかる洗浄水を、以下では溜水W
Tと記載する場合がある。このように、排水トラップ部4等が溜水W
Tで満たされることで、溜水W
Tが封水として機能し、後述する排水配管61からの臭気等がボウル部2側へ逆流することを防止する。
【0023】
排水トラップ部4の構成について説明すると、排水トラップ部4は、ボウル部2の底部2aに接続され、ボウル部2内の汚物を洗浄水とともに排出する。詳しくは、排水トラップ部4は、入口部41と、上昇管路42と、下降管路43とを備える。
【0024】
入口部41は、ボウル部2の汚物受け面21の下方に連続するように接続され、ボウル部2からの洗浄水や汚物を排水トラップ部4へ流入させる。上昇管路42は、入口部41に接続され、入口部41の下流端部から斜め後ろ上方へ延びるように形成される。下降管路43は、上昇管路42に接続され、上昇管路42の下流端部から下方へ延びるように形成される。また、下降管路43の下流端部には、排水ソケット5が接続される。
【0025】
従って、排水トラップ部4においては、便器洗浄が行われる場合、ボウル部2の洗浄水や汚物は、入口部41、上昇管路42および下降管路43を通って、排水ソケット5へと排出される。
【0026】
<排水ソケットの構成>
次いで、排水ソケット5について説明する。排水ソケット5は、排水トラップ部4からの洗浄水や汚物を排水配管61へ排出する。例えば、排水ソケット5は、上流側が排水トラップ部4(正確には、排水トラップ部4の下降管路43)に接続されるとともに、下流側が床面Fの排水口62に接続され、よって排水トラップ部4から洗浄水等を排水配管61へ排出する流路となる。
【0027】
また、排水ソケット5は、上記したように上流側が排水トラップ部4に接続され、下流側は一度便器後方(Y軸負方向)へ振られた後、便器前方(Y軸正方向)へ向けて延在して排水口62に接続される、いわゆる後振排水ソケットである。
【0028】
ところで、上記した水洗大便器1にあっては、便器洗浄時、例えば排水ソケット5に洗浄水が満たされてサイホン作用が生じ、これによって汚物を排出させる。しかしながら、排水ソケット5が例えば後振排水ソケットである場合、排水ソケット5の排水流路の長さ(例えば、
図1に示す排水流路の前後方向(Y軸方向)の長さLなど)が比較的長くなりやすい。そのため、水洗大便器1においては、サイホン作用が排水ソケット5の下流側まで持続しにくく、結果として排出性能が低下するおそれがある。なお、上記したサイホン作用が排水ソケット5の下流側まで持続しにくい事象は、後振排水ソケットに限らず、起こり得る。
【0029】
そこで、本実施形態にあっては、汚物の排出性能を向上させることができるような構成とした。以下、かかる構成について、
図2も参照しつつ具体的に説明する。
図2は、排水ソケット5の拡大断面図である。
【0030】
図1および
図2に示すように、排水ソケット5は、上側排水ソケット(縦管)51と、後側R部52と、前側排水ソケット(横引き管)53と、前側R部54と、水溜部55と、絞り部56とを備える。なお、排水ソケット5は、樹脂製であるが、これに限定されるものではない。
【0031】
縦管51は、鉛直方向(Z軸方向)に延在する配管であり、上方から流れてきた洗浄水を下方へ流す。例えば、縦管51は、
図2に示すように、上流側端部51aが排水トラップ部4(正確には、排水トラップ部4の下降管路43)に接続され、下流側端部51bが後側R部52に接続される。
【0032】
上流側端部51aと下流側端部51bとの間には、中間部51cが形成される。かかる中間部51cは、後方(Y軸負方向)側へ屈曲するように形成され、これによって縦管51における流路が後方へ振られることとなる。これにより、排水ソケット5にあっては、洗浄水が縦管51の屈曲箇所付近に満たされやすくなり、よってサイホン作用を発生させやすくすることができる。
【0033】
後側R部52は、水洗大便器1の後側に配置され、上方から流れてきた洗浄水が前方へ向かうように流路を変更する配管である。例えば、後側R部52は、上流側端部52aが縦管51(正確には縦管51の下流側端部51b)に接続され、下流側端部52bが横引き管53に接続される。
【0034】
上流側端部52aと下流側端部52bとの間には、湾曲部52cが形成される。かかる湾曲部52cは、前方へ湾曲するように形成されることで、上方から流れてきた洗浄水の流路を前方へ向かう流路に変更する。
【0035】
横引き管53は、前後方向(Y軸方向)に延在する配管であり、後方から流れてきた洗浄水を前方へ流す。例えば、横引き管53は、上流側端部53aが後側R部52(正確には、後側R部52の下流側端部52b)に接続され、下流側端部53bが前側R部54に接続される。
【0036】
上流側端部53aと下流側端部53bとの間には、中間部53cが形成される。かかる中間部53cは、前後方向に延在するように形成され、よって後方から流れてきた洗浄水を前方へ流す。
【0037】
前側R部54は、後側R部52よりも下流に設けられ、後方から流れてきた洗浄水が下方へ向かうように流路を変更する配管である。例えば、前側R部54は、上流側端部54aが横引き管53(正確には横引き管53の下流側端部53b)に接続され、下流側端部54bが絞り部56を介して排水配管61の排水口62に接続される。
【0038】
上流側端部54aと下流側端部54bとの間には、上昇部54cおよび下降部54dが形成される。上昇部54cは、上流側端部54aに接続され、上流側端部54aから斜め前上方へ延びるように形成される。下降部54dは、上昇部54cに接続され、上昇部54cの下流側から下方へ延びるように形成される。このように、前側R部54は、上昇部54cおよび下降部54dが湾曲するように形成されることで、後方から流れてきた洗浄水の流路を下方へ向かう流路に変更する。
【0039】
また、排水ソケット5においては、前側R部54が斜め前上方へ延びるように形成される上昇部54cを備えることから、後側R部52から前側R部54までの流路において洗浄水の一部を貯留する水溜部55が形成される。なお、
図2では、水溜部55に貯留された洗浄水を二点鎖線で示し、かかる洗浄水を、以下では貯留水W
aと記載する場合がある。
【0040】
このように、排水ソケット5にあっては、貯留水Waが常に貯留される水溜部55を備えるため、例えば、便器洗浄時、貯留水Waを利用することで、比較的少ない洗浄水で配管内が満たされ、よってサイホン作用を早期に発生させることが可能になる。
【0041】
<上側排水ソケット(縦管)の構成>
次いで、
図3~
図6を参照して上側排水ソケット(縦管)51の構成についてさらに説明する。
図3は、上側排水ソケット(縦管)51の管形状を示す平断面図である。なお、
図3には、
図2におけるA-A断面を示している。
図4および
図5は、排水ソケット5内の洗浄水の流れの説明図である。なお、
図4および
図5には、排水ソケット5の拡大断面を用いて洗浄水の流れを示している。
図6は、後側R部52を示す斜視図である。
【0042】
図3に示すように、排水ソケット5は、排水トラップ部4(
図1参照)から排出された洗浄水の流路となるように管状である。また、排水ソケット5は、上記したように、排水トラップ部4の下降管路43(いずれも、
図1参照)から下方へと延びた上側排水ソケットである縦管51を有する。
【0043】
そして、
図3に示すように、縦管51においては、前方領域511の流路断面積S1が後方領域512の流路断面積S2よりも大きい。なお、前方領域511とは、左右方向に沿った境界線L
Bで区画され、境界線L
Bから前方の領域のことをいう。また、後方領域512とは、境界線L
Bから後方の領域のことをいう。なお、排水トラップ部4(下降管路43)から排出された洗浄水は、後方において流速が遅く、前方において流速が速い。
【0044】
このような前方領域511および後方領域512は、それぞれの管形状が一定の曲率ではなく、曲率が変化(曲率変化)している。また、前方領域511および後方領域512は、平面視で円弧状である。また、前方領域511および後方領域512は、両端部同士が接続されて管状となり、互いの接続部分において、それぞれの管形状の曲率変化よりも大きく曲率が変化した変曲点513を有する。
【0045】
変曲点513は、平面視において、前方領域511の端部から後方領域512の対向する端部までの間を接続するような線状である。なお、変曲点513は、前方領域511の一方端部および後方領域の一方端部を接続する変曲点513と、前方領域511の他方端部および後方領域の他方端部を接続する変曲点513との2つが設けられる。
【0046】
このように、変曲点513が線状であることで、前方領域511と後方領域512とを明確に分けることができる。なお、「線状」とは、ほぼ直線状の場合を含む。
【0047】
また、
図4および
図5に示すように、縦管51は、上流から下流へかけて後方へ向けて下り傾斜した傾斜部514を有する。傾斜部514は、後方へ下り傾斜の傾斜面となる前側面が排水トラップ部4(下降管路43)の前方下端部431の下方に配置される。
【0048】
<水溜部の構成>
次いで、
図4を参照して水溜部55の構成についてさらに説明する。
図4に示すように、水溜部55は、下流側の底面において、その前端部553側へ向けて上り傾斜した傾斜面551を有する。傾斜面551は、底面が下方へ向けて凹んだ状態となる凹部552を形成する。水溜部55は、傾斜面551によって、前端部553側へ向けての傾斜角度が徐々に大きくなる。
【0049】
このように、水溜部55において、前端部553側へ向けての傾斜角度が徐々に大きくなるため、例えば、大きな汚物が水溜部55から下流側へ流れる場合でも、傾斜角度の急な変化による汚物の停滞が抑制される。
【0050】
また、水溜部55は、排水トラップ部4の前方下端部431の下方に位置する。なお、水溜部55において、前端部553および後端部554は、貯留水Waの前後端によって規定され、貯留水Waの量に応じて変動し得る部分でもある。
【0051】
<排水ソケット内の洗浄水の流れ>
次いで、
図4および
図5を参照して排水ソケット5内の洗浄水の流れについて説明する。
図4に示し、かつ、上記したように、水溜部55は、排水トラップ部4(下降管路43)の前方下端部431の下方に位置する。このため、下降管路43の前方下端部431から滴下する水滴は、水溜部55に直接落ちることはない。
【0052】
図4に示すように、排水トラップ部4(下降管路43)から排出された洗浄水は、排水ソケット5内において、後側R部52に衝突した後に、前方(横引き管53)へ向かう流れ(洗浄水W1)と、上方や左右側方へ流れる流れ(洗浄水W2)、すなわち、乱流や逆流とに大別される。
【0053】
また、
図5に示すように、前方領域511を流れる洗浄水W3は、流速の速い流れであり、傾斜部514の前側面(傾斜面)に沿って斜め後ろ下方へ向けて流れる。すなわち、前方領域511を流れる洗浄水W3は、後側R部52の湾曲部52c(
図2参照)へと向かうように流れ、湾曲部52cに衝突した後、前方へと流れの方向を変えて下流となる横引き管53へ流入する。
【0054】
このように、前方領域511の流れの速い洗浄水W3の一部が傾斜部514の前側面(傾斜面)に沿って流れるため、傾斜部514の下端部からこの傾斜部514を離れた洗浄水W1は、後側R部52に衝突した後、水勢を維持した状態で下流へ流れる。
【0055】
また、
図4に示すように、後方領域512を流れる洗浄水W2は、上記したように流速の遅い流れであり、後側R部52で跳ね返り、上方へと跳ねるような流れを形成する。この場合、後方領域512の流路断面積S2の方が相対的に小さいため、流速の遅い、もしくは逆流する洗浄水W2によって排水ソケット5内における不要な乱流や逆流が発生する箇所を狭い領域に抑えられる。
【0056】
また、
図6に示すように、後側R部52の内周面には、エッジ部分52dが設けられる。エッジ部分52dは、後側R部52の最上流端と最下流端との間に存在する。このように、後側R部52の最上流端と最下流端との間にエッジ部分52dが存在することで、滴下してきた洗浄水W4がエッジ部分52dをつたって水溜部55へ到達するようになる。
【0057】
以上説明したように、上記した実施形態によれば、洗浄水の流速が遅い後方領域512の流路断面積S2が小さいため、排水ソケット5内における不要な乱流や逆流が発生する箇所を狭い領域とすることができる。一方、洗浄水の流速が速い前方領域511の流路断面積S1が大きいため、排水ソケット5を流れる洗浄水全体を見た場合に下流へ向かう良好な流れが形成され、これにより、排出性能の向上を図ることができる。
【0058】
また、排水ソケット5の前方領域511と後方領域512との接続部分に大きく曲率が変化した変曲点513を有することで、排水ソケット5内における不要な乱流や逆流が発生する箇所を狭い領域に留めることができ、前方領域511の流れの速い洗浄水が妨げられない状態を作り出すことができる。これにより、排水ソケット5内において下流へ向かう良好な流れが形成され、排出性能の向上を図ることができる。
【0059】
また、縦管51の前方領域511と後方領域512との接続部分に大きく曲率変化した変曲点513が線状であることで、前方領域511と後方領域512とをより明確に分けることができ、排水ソケット5内における不要な乱流や逆流が発生する箇所を狭い領域に留めることができ、前方領域511の流れの速い洗浄水が妨げられない状態を作り出すことができる。これにより、排水ソケット5内において下流へ向かう良好な流れが形成され、排出性能の向上を図ることができる。
【0060】
また、前方領域511の流れの速い洗浄水W3の一部が傾斜部514の前側面(傾斜面)に沿って流れるため、傾斜部514の下端部からこの傾斜部514を離れた洗浄水W3は、後側R部52に衝突した後、水勢を維持した状態で下流へ流れる。これにより、排水ソケット5内において下流へ向かう良好な流れが形成され、排出性能の向上を図ることができる。また、水溜部55が排水トラップ部4(下降管路43)の前方下端部431の下方に位置しており、便器洗浄後、排水トラップ部4(下降管路43)の前方下端部431から滴下する水滴が、水溜部55に直接落ちず、縦管51の傾斜部514の傾斜面に一度衝突して落下の勢いを弱めてから、傾斜部514の下端部から水溜部55へ到達するため、洗浄水の滴下音が抑制される。
【0061】
また、後側R部52の最上流端および最下流端の間にはエッジ部分52dが存在するため、上方から滴下してきた洗浄水W4がエッジ部分52dをつたって水溜部55へ到達する。これにより、洗浄水W4の滴下音をさらに抑制することができる。
【0062】
なお、上記した実施形態では、縦管51の前方領域511と後方領域512とを明確に分けるとともに管形状が滑らかとなるように2つの領域511,512の接続部分の変曲点513を線状としているが、例えば、変曲点513を点状としてもよい。変曲点513が点状の場合、例えば、前方領域511と後方領域512とを接続した形状が平面視でだるま穴状となるように2つの領域511,512の管外形が形成されてもよい。
【0063】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 水洗大便器
2 ボウル部
3 吐水部
4 排水トラップ部
5 排水ソケット
21 汚物受け面
22 リム部
51 上側排水ソケット(縦管)
52 後側R部
53 前側排水ソケット(横引き管)
54 前側R部
55 水溜部
56 絞り部
61 排水配管
62 排水口
431 前方下端部
511 前方領域
512 後方領域
513 変曲点
514 傾斜部
F 床面
S1 流路断面積
S2 流路断面積
W1 洗浄水
W2 洗浄水
W3 洗浄水
Wa 貯留水
WT 溜水