(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067303
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】カンゾウエキス及びその製造方法、並びに、腸内細菌調整用組成物、腸管バリア機能増強組成物、抗肥満用組成物、抗糖尿病用組成物、及びNLRP3インフラマソーム活性制御用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/484 20060101AFI20230509BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230509BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230509BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20230509BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230509BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20230509BHJP
A61K 31/7034 20060101ALI20230509BHJP
A61K 31/121 20060101ALI20230509BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230509BHJP
【FI】
A61K36/484
A61P3/10
A61P3/04
A61P1/14
A61P43/00 111
A61K31/352
A61K31/7034
A61K31/121
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178401
(22)【出願日】2021-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(71)【出願人】
【識別番号】595132360
【氏名又は名称】株式会社常磐植物化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】長井 良憲
(72)【発明者】
【氏名】古澤 之裕
(72)【発明者】
【氏名】高津 聖志
(72)【発明者】
【氏名】本田 裕恵
(72)【発明者】
【氏名】木村 宣仁
(72)【発明者】
【氏名】酒井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】矢尻 喜栄
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE05
4B018MD61
4B018ME01
4B018ME03
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4B018MF06
4C086AA01
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4C088CA30
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA69
4C088ZA70
4C088ZC35
4C088ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB15
4C206MA01
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4C206NA14
4C206ZA69
4C206ZA70
4C206ZC35
4C206ZC41
(57)【要約】
【課題】
カンゾウエキス及びこれに含まれる化合物の新たな効果を提供し新規薬効を発揮する組成物として提供する。
【解決手段】
本発明の一観点のカンゾウエキスの製造方法はグリチルリチン酸を除去する工程を有する。また他の観点に係るカンゾウエキスはイソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有する。また、他の観点に係る腸管バリア機能増強組成物はILGを有効成分として含有する。また、他の観点に係る腸内細菌調整用組成物はカンゾウエキス、又は、L及びILGの少なくともいずれかを有効成分とする。また、他の観点に係る抗肥満用組成物、抗糖尿病用組成物又はNLRP3インフラマソーム活性制御用組成物はILGを含有し、更に、L、IL及びLGのうち少なくとも1種を含有するカンゾウエキスを有効成分として含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリチルリチン酸を除去する工程を有する、カンゾウエキスの製造方法。
【請求項2】
グリチルリチン酸の濃度が1重量%以下となるよう前記グリチルリチン酸を除去する工程を有する、カンゾウエキスの製造方法。
【請求項3】
グリチルリチン酸の濃度が0.5重量%以下となるよう前記グリチルリチン酸を除去する工程を有する、カンゾウエキスの製造方法。
【請求項4】
イソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、
リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有するカンゾウエキス。
【請求項5】
前記リクイリチン(L)、前記イソリクイリチン(IL)及び前記リクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも2種を含有する請求項4に記載のカンゾウエキス。
【請求項6】
前記イソリクイリチゲニン(ILG)を0.1重量%以上30重量%以下、前記リクイリチンを10重量%以下、前記イソリクイリチン(IL)を15重量%以下、及び、前記リクイリチゲニン(LG)を30重量%以下で含有する請求項5に記載のカンゾウエキス。
【請求項7】
グリチルリチン酸を除去する工程を経て製造されるカンゾウエキスであって、イソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)から選ばれる少なくとも1種を含有するカンゾウエキス。
【請求項8】
前記イソリクイリチゲニン(ILG)を0.1重量%以上30重量%以下、前記リクイリチン(L)を10重量%以下、前記イソリクイリチン(IL)を15重量%以下、及び、前記リクイリチゲニン(LG)を30重量%以下で含有する請求項7に記載のカンゾウエキス。
【請求項9】
イソリクイリチゲニン(ILG)を有効成分として含有する、腸管バリア機能増強用組成物。
【請求項10】
リクイチン(L)及びイソリクイリチゲニン(ILG)の少なくともいずれかを有効成分として含有する、腸内細菌調整用組成物。
【請求項11】
更に、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を有効成分として含有する請求項10に記載の腸内細菌調整用組成物。
【請求項12】
カンゾウエキスを有効成分として含有する、腸内細菌調整用組成物。
【請求項13】
医薬品組成物又は飲食用組成物である請求項10~請求項12のいずれか1項に記載の腸内細菌調整用組成物。
【請求項14】
腸内細菌がA.muchiniphila及びP.goldsteiniiの少なくともいずれかである請求項10~請求項12のいずれか1項に記載の腸内細菌調整用組成物。
【請求項15】
前記A.muchiniphila及び前記P.goldsteiniiの少なくともいずれかの存在比を増加させる請求項14記載の腸内細菌調整用組成物。
【請求項16】
イソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、
リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有するカンゾウエキスを有効成分として含有する抗肥満用組成物。
【請求項17】
医薬品組成物又は飲食用組成物である請求項16記載の抗肥満用組成物。
【請求項18】
イソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、
リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有するカンゾウエキスを有効成分として含有する抗糖尿病用組成物。
【請求項19】
医薬品組成物又は飲食用組成物である請求項18記載の抗糖尿病用組成物。
【請求項20】
イソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、
リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有するカンゾウエキスを有効成分として含有するNLRP3インフラマソーム活性制御用組成物。
【請求項21】
医薬品組成物又は飲食用組成物である請求項20記載のNLRP3インフラマソーム活性制御用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンゾウエキス及びその製造方法、並びに、腸内細菌調整用組成物、腸管バリア機能増強組成物、抗肥満用組成物、抗糖尿病用組成物、及びNLRP3インフラマソーム活性制御用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カンゾウ(学名 G.glabra、G.uralensis、G.echinata、G.inflata、G.yunnanensis、G.eurycarpa、G.aspera、G.pallidiflora、和名 甘草、英名 Licorice)は、中国の東北部、北部、西北部、さらに蒙古、シベリアなどに広く分布する多年生草本であり、大きな根茎と四方に地下茎を走出し、主根は長く1~2mに達するのが特徴である。またカンゾウは、根やストロンを主使用部位とし、西洋、東洋問わず世界中の薬典に収載されており、日本では例えば日本薬局方にも掲載されている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
また、カンゾウの作用としては、抗潰瘍作用、鎮咳作用等の生理活性を示すことが知られており、現在では、風邪薬から慢性肝炎の医薬品、またはドリンク剤などにも広く使用されている。つまりカンゾウは、化粧品や医薬部外品での利用の他、甘味料としての使用も多く、日常生活に広く浸透している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】https://jpdb.nihs.go.jp/jp/DetailList_ja.aspx?submit=%e8%a9%b3%e7%b4%b0%e6%a4%9c%e7%b4%a2(%e6%97%a5%e6%9c%ac%e8%aa%9e%e5%90%8d)&keyword=%e3%82%ab%e3%83%b3%e3%82%be%e3%82%a6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、カンゾウには様々な用途が検討されているが、カンゾウのエキスの効能については未知の部分も少なくなく、カンゾウエキス及びこれに含まれる化合物の新たな効果を発見できれば、カンゾウの有用性をさらに高めるとともに、人類の健康増進につながる。
【0006】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、カンゾウエキス及びこれに含まれる化合物の新たな効果を提供し新規薬効を発揮する組成物として提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行ったところ、所定の製造方法によって得たカンゾウエキス及びこれに含まれる化合物が、腸内細菌調整作用、腸管バリア機能増強作用、抗肥満作用、抗糖尿病作用、及びNLRP3インフラマソーム活性制御作用を示すことを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一観点に係るカンゾウエキスの製造方法は、グリチルリチン酸を除去する工程を有するものである。
【0009】
また、本発明の他の一観点に係るカンゾウエキスの製造方法は、グリチルリチン酸の濃度が1重量%以下となるようグリチルリチン酸を除去する工程を有するものである。
【0010】
また、本発明の他の一観点に係るカンゾウエキスの製造方法は、グリチルリチン酸の濃度が0.5重量%以下となるようグリチルリチン酸を除去する工程を有するものである。
【0011】
また、本発明の他の一観点に係るカンゾウエキスは、イソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有するものである。
【0012】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも2種を含有するものであることが好ましい。
【0013】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、イソリクイリチゲニン(ILG)を0.1重量%以上30重量%以下、リクイリチンを10重量%以下、イソリクイリチン(IL)を15重量%以下、及び、リクイリチゲニン(LG)を30重量%以下で含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の他の一観点に係るカンゾウエキスは、グリチルリチン酸を除去する工程を経て製造されるカンゾウエキスであって、イソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)から選ばれる少なくとも1種を含有するものである。
【0015】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、イソリクイリチゲニン(ILG)を0.1重量%以上30重量%以下、リクイリチン(L)を10重量%以下、イソリクイリチン(IL)を15重量%以下、及び、リクイリチゲニン(LG)を30重量%以下で含有することが好ましい。
【0016】
また、本発明の他の一観点に係る腸管バリア機能増強用組成物は、イソリクイリチゲニン(ILG)を有効成分として含有するものである。
【0017】
また、本発明の他の一観点に係る腸内細菌調整用組成物は、リクイチン(L)及びイソリクイリチゲニン(ILG)の少なくともいずれかを有効成分として含有するものである。
【0018】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、更に、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を有効成分として含有することが好ましい。
【0019】
また、本発明の他の一観点に係る腸内細菌調整用組成物は、カンゾウエキスを有効成分として含有するものである。
【0020】
また、上記観点に係る腸内細菌調整用組成物は、限定されるわけではないが、医薬品組成物又は飲食用組成物であることが好ましい。
【0021】
また、上記観点に係る腸内細菌調整用組成物は、限定されるわけではないが、腸内細菌がA.muchiniphila及びP.goldsteiniiの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0022】
また、上記観点に係る腸内細菌調整用組成物は、限定されるわけではないが、A.muchiniphila及びP.goldsteiniiの少なくともいずれかの存在比を増加させるものであることが好ましい。
【0023】
また、本発明の他の一観点に係る抗肥満用組成物は、イソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有するカンゾウエキスを有効成分として含有するものである。
【0024】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、医薬品組成物又は飲食用組成物であることが好ましい。
【0025】
また、本発明の他の一観点に係る抗糖尿病用組成物は、イソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有するカンゾウエキスを有効成分として含有するものである。
【0026】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、医薬品組成物又は飲食用組成物であることが好ましい。
【0027】
また、本発明の他の一観点に係るNLRP3インフラマソーム活性制御用組成物は、イソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有するカンゾウエキスを有効成分として含有するものである。
【0028】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、医薬品組成物又は飲食用組成物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
以上、本発明によって、カンゾウエキス及びこれに含まれる化合物の新たな効果を提供し新規薬効を発揮する組成物として提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】各マウス群における体重の変化を示す図である。
【
図3】摂餌開始から12週における各マウス群の肝臓重量を示す図である。
【
図4】摂餌開始から12週における各マウス群の精巣上体細胞組成重量を示す図である。
【
図5】各マウス群のインスリン抵抗性試験の結果を示す図である。
【
図6】各マウス群の実験開始後12週間後の血漿中インスリン濃度の結果を示す図である。
【
図7】16S-rRNA解析による各マウス群の腸内細菌の確認結果を示す図である。
【
図8】Speciesレベルでの腸内細菌の解析結果を示す図である。
【
図9】大腸組織のClaudin-1のWesternBlotによる発現解析を行った結果を示す図である。
【
図10】
図9におけるClaudin-1の発現量を示す図である。
【
図11】Akkermansia muciniphila及びParabacteroides goldsteiniiに対する菌叢解析の結果を示す図である。
【
図12】各マウス群の摂餌後2週目の糞便の解析結果を示す図である。
【
図13】腸内のAkkermansia muciniphila及びParabacteroides goldsteiniiの存在比を解析した結果を示す図である。
【
図14】移植後8週目のマウスの内臓脂肪の量を示す図である。
【
図16】マクロファージ様細胞株J774.A1からのIL-1βの産生に与える影響を測定した結果を示す図である。
【
図17】内臓脂肪組織からのIL-1βの産生に与える影響を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例における具体的な例示にのみ限定されるものではない。
【0032】
(カンゾウエキスの製造方法)
本実施形態に係るカンゾウエキスの製造方法(以下「本方法」という。)は、カンゾウ根からグリチルリチン酸が除去される工程を有するものである。
【0033】
まず、本方法では、上記の通りグリチルリチン酸を除去する工程を有する。本工程によりカンゾウエキス中のグリチルリチン酸の濃度を低くすることが可能となる。
【0034】
ここで原材料となる「カンゾウ」とは、上記したとおり、学名をG.glabra、G.uralensis、G.echinata、G.inflata、G.yunnanensis、G.eurycarpa、G.aspera、又はG.pallidifloraとする植物(和名 甘草、英名 Licorice)であって、中国の東北部、北部、西北部、さらに蒙古、シベリアなどに広く分布する多年生草本である。カンゾウは、大きな根茎と四方に地下茎を走出し、主根は長く1~2mに達するのが特徴である。
【0035】
本方法において、用いられるカンゾウの部位は、所望の有効成分を得ることができる限りにおいて限定されるものではないが、例えば根やストロン、種子等の各部位とすることが可能であり、ときには周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)であってもよいが、根であることがより有効なエキスを得ることができる観点から好ましい。
【0036】
また、ここで、グリチルリチン酸除去の方法としては、グリチルリチン酸を除去することができる限りにおいて限定されず、例えば、含水エタノールへの溶解度を利用した除去、合成吸着樹脂を利用した除去、酸性条件下での沈殿による除去、金属塩化による除去等を用いることができる。
【0037】
また、ここで除去されるグリチルリチン酸としては、十分に乾燥させた抽出物を100重量%とした場合に、1重量%以下の含有量とすることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以下である。一般的な除去前の抽出物の全重量を100重量%とした場合、グリチルリチン酸を5.0重量%以上含むのが一般的であるが、これを上記の範囲以下とすることが好ましい。
【0038】
グリチルリチン酸の除去は、カンゾウから抽出物を得て、この抽出物に対して行うことが好ましい。カンゾウから抽出物を得る方法としては特に限定されず一般的な方法を採用することができるが、例えばカンゾウからアンモニア水等のアルカリ水溶液にて抽出を行い、そこに硫酸等の酸を添加して沈殿物を得て、更にこの後ろ過を経てろ液を濃縮、乾燥する方法を採用することができる。
【0039】
本実施形態に係るカンゾウエキス(以下「本エキス」という。)は、上記方法によって得られた抽出物をそのままカンゾウエキスとして用いることも含まれうるものではあるが、得られた液状の抽出物からグリチルリチン酸を除去して濃縮したもの、乾燥させたもの、さらには、乾燥させた上で改めて水等の溶媒に溶解させたものとしてもよい。
【0040】
(製造されるカンゾウエキス)
上記の通り、本エキスは、上記方法によって得られるものであり、具体的な成分としてはイソリクイリチゲニン(ILG)を必須成分として含有し、さらに、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有するものであり、より好ましくは、上記必須成分のほか、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも2種を含有するものである。
【0041】
本エキスにおいて、イソリクイリチゲニン(ILG)とは、本エキスの必須成分であって、下記式にて示される化合物である。
【化1】
【0042】
また、本エキスにおいて、イソリクイリチゲニン(ILG)は、本エキスが所望の効果を得ることができる限りにおいて限定されるわけではないが、0.1重量%以上30重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以上20重量%以下であり、更に好ましくは3重量%以上15重量%以下である。
【0043】
また、本エキスにおいて、リクイリチン(L)は、選択的に含まれるものであるがイソリクイリチゲニンと同様な効果を発揮することができる化合物であって、下記式で示される化合物である。
【化2】
【0044】
また、本エキスにおいて、リクイリチン(L)は、本エキスが所望の効果を得ることができる限りにおいて限定されるわけではないが、リクイリチン(L)を含む場合、10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下である。
【0045】
また、本エキスにおいて、イソリクイリチン(IL)は、選択的に含まれるものであるがイソリクイリチゲニン(ILG)と同様に効果を発揮することができる化合物であって、下記式で示される化合物である。
【化3】
【0046】
また、本エキスにおいて、イソリクイリチン(IL)は、本エキスが所望の効果を得ることができる限りにおいて限定されるわけではないが、イソリクイリチン(IL)を含む場合、15重量%以下であることが好ましく、より好ましくは10重量%以下であり、更に好ましくは5重量%以下である。
【0047】
また、本エキスにおいて、リクイリチゲニン(LG)は、選択的に含まれるものであるがイソリクイリチゲニン(ILG)と同様に効果を発揮することができる化合物であって、下記式で示される化合物である。
【化4】
【0048】
また、本エキスにおいて、リクイリチゲニン(LG)は、本エキスが所望の効果を得ることができる限りにおいて限定されるわけではないが、リクイリチゲニン(LG)を含む場合、30重量%以下であることが好ましく、より好ましくは25重量%以下であり、更に好ましくは20重量%以下である。
【0049】
本エキスにおいて、イソリクイリチゲニン(ILG)等の各濃度は上記のとおりであるが、まとめとして、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)、リクイリチゲニン(LG)の含有量としては、イソリクイリチゲニン(ILG)を0.1重量%以上30重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以上20重量%以下であり、更に好ましくは3重量%以上15重量%以下、リクイリチン(L)を10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%以下、イソリクイリチン(IL)を15重量%以下であることが好ましく、より好ましくは10重量%以下であり、更に好ましくは5重量%以下、及び、リクイリチゲニン(LG)を30重量%以下であることが好ましく、より好ましくは25重量%以下であり、更に好ましくは20重量%以下で含有することが好ましい。
【0050】
また、本エキスに含まれる上記化合物は、カンゾウから効率的に抽出されるものであって、後述の実施例からも明らかとなるが、上記化合物を所定の量用いることで所望の効果を発揮することができる。一方で、本エキス自体も所定の量用いることで、所望の効果を発揮することが可能であり、化合物のみによる場合よりも効果が高い場合が少なくない。しかしながら、本エキスにおけるすべての成分を本件特許出願の時点において直接特定することはおおよそ実際的ではなく、製造方法によって特定することが実際的である。具体的に表現すると、本エキスは、グリチルリチン酸が除去される工程によって製造されるものであって、イソリクイリチゲニン(ILG)を含有し、更に、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)から選ばれる少なくとも1種を含有するもの、といえる。
【0051】
以上、本エキスについては、上記所定の化合物を少なくとも含み、上記した本方法によって抽出し、製造することが可能となる。
【0052】
上記の通り、本エキス及びこれに含まれる化合物(以下これらを「本エキス等」ともいう)は、腸内細菌調整作用、腸管バリア機能増強作用、抗肥満作用、抗糖尿病作用、及びNLRP3インフラマソーム活性制御作用を示すものであり、本エキス等を含む組成物(以下「本組成物」という。)は、腸内細菌調整用組成物、腸管バリア機能増強用組成物、抗肥満組成物、抗糖尿病用組成物、NLRP3インフラマソーム活性制御用組成物として用いることが可能である。
【0053】
また、本組成物は、上記各作用を発揮することができる限りにおいてその形態は限定されず、例えば、医薬品組成物、飲食用組成物としての形態をとりうる。
【0054】
本組成物が医薬品組成物である場合、医薬品としては、ヒトのための医薬品や医薬部外品であることが好ましいが、動物用の医薬品であってもよい。
【0055】
また本組成物が医薬品組成物である場合に、その投与方法及びその形態は、効果を発揮することができる限りにおいて限定されず、上記エキス等を有効成分として含む錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤等の内服薬の形態であってもよく、湿布剤、軟膏剤等の外用薬、更には液剤等の注射薬のいずれの形態であってもよい。すなわち、本組成物は、経口投与、注射、舌下投与、皮膚投与等が可能である。
【0056】
また本組成物が医薬品組成物である場合、上記の形態をとる組成物の製造を容易にする、品質の安定化を図る、又は効果を高める等の観点から、賦形剤、安定化剤、保存剤、緩衝材、懸濁化剤、乳化剤、着色剤、着香剤、粘度調整剤、結合剤、緊張化剤、溶解補助剤、防腐剤、抗酸化剤、凝固剤、コーティング剤等の上記有効成分以外の成分、いわゆる医薬品添加物を含むことができる。もちろん、本組成物の品質や効果等を変化させない範囲で水や生理食塩水等の溶媒や、ビタミン類、ミネラル類、香料等を含ませることも可能である。
【0057】
また、本組成物が飲食用組成物の場合、いわゆる食品や飲料を含む。飲食料品はヒトが食用にするものであることが好ましいが、動物に対する食用のものであってもよい。
【0058】
また、本組成物が飲食用組成物である場合、その形態は特に限定されず、例えば食品、飲料、調味料、サプリメント、機能性表示食品、特定保健用食品であってもよい。食品の場合は、例えば、飴、キャンディー、ガム、チョコレート等の菓子類を例示することができ、飲料の場合は清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等を例示することができる。なお機能性食品やサプリメント、特定保健用食品の場合は、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤など上記医薬品と同様に種々の形態をとることができる。
【0059】
また本組成物が食品組成物である場合も、上記医薬品組成物の場合と同様、各種効果を発揮することができる限りにおいて特に制限はなく、賦形剤、安定化剤、保存剤、緩衝材、懸濁化剤、乳化剤、着色剤、着香剤、粘度調整剤、結合剤、緊張化剤、溶解補助剤、防腐剤、抗酸化剤、凝固剤、コーティング剤等の上記有効成分以外の成分、いわゆる食品添加物を含むことができる。もちろん、本組成物の品質や効果等を変化させない範囲で水や生理食塩水等の溶媒や、ビタミン類、ミネラル類、香料等を含ませることも可能である。
【0060】
(腸内細菌調整用組成物)
上記の通り、本エキスは腸内細菌調整用組成物として用いることができる。すなわち、本実施形態に係る腸内細菌調整用組成物は、カンゾウエキスを有効成分として含有するものであり、本エキスは、イソリクイリチゲニン(ILG)を必須成分とし、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有する。なおこの場合において、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも2種を含有することが好ましい。
【0061】
また、本エキスに含まれる化合物は、エキスから離れ、合成又は単離された化合物として効果を発揮し、腸内細菌調整用組成物として用いることができる。すなわち、本実施形態に係る腸内細菌調整用組成物は、リクイリチン(L)及びイソリクイリチゲニン(ILG)の少なくともいずれかを必須成分とし、更に、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を有効成分として含有するものである。なお、この場合において、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも2種を有効成分として含有することがより好ましい。
【0062】
本実施形態において、腸内細菌調整用組成物は、腸内細菌の存在比を調整することができる組成物であり、より具体的には抗肥満・抗糖尿病作用を有する腸内の細菌の存在比を調整することができる。腸内細菌の種類としては、限定されるわけではないが、A.muchiniphila及びP.goldsteiniiに対して効果が確認されており、これらの少なくともいずれかを対象とするものが好ましい。
【0063】
(腸管バリア機能増強用組成物)
また、本エキスに含まれる化合物は、エキスから離れ、合成又は単離された化合物として効果を発揮し、腸管バリア機能増強用組成物として用いることができる。すなわち、本実施形態に係る腸内細菌調整用組成物は、イソリクイリチゲニン(ILG)を必須の有効成分とする。また更に、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を有効成分として含有するものであることが好ましい。またこの場合において、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも2種を有効成分として含有することがより好ましい。
【0064】
(抗肥満用組成物)
上記の通り、本エキスは抗肥満用組成物として用いることができる。すなわち、本実施形態に係る抗肥満用組成物は、カンゾウエキスを有効成分として含有するものであり、本エキスは、イソリクイリチゲニン(ILG)を必須成分とし、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有する。なおこの場合において、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも2種を含有することが好ましい。
【0065】
(抗糖尿病用組成物)
上記の通り、本エキスは抗糖尿病用組成物として用いることができる。すなわち、本実施形態に係る抗糖尿病用組成物は、カンゾウエキスを有効成分として含有するものであり、本エキスは、イソリクイリチゲニン(ILG)を必須成分とし、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有する。なおこの場合において、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも2種を含有することが好ましい。
【0066】
(NLRP3インフラマソーム活性制御用組成物)
また、本実施形態に係るカンゾウエキスは、NLRP3インフラマソーム活性制御用組成物としても用いることができる。より具体的に、本実施形態に係るNLRP3インフラマソーム活性制御用組成物は、カンゾウエキスを有効成分として含有しており、本エキスは、イソリクイリチゲニン(ILG)を必須成分として含有し、更に、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも1種を含有するカンゾウエキスを有効成分として含有する。なおこの場合において、リクイリチン(L)、イソリクイリチン(IL)及びリクイリチゲニン(LG)のうち少なくとも2種を含有することが好ましい。
【0067】
以上、本エキスは、腸内細菌調整作用、腸管バリア機能増強作用、抗肥満作用、抗糖尿病作用、及びNLRP3インフラマソーム活性制御作用を示すものであり、カンゾウエキスの新たな効果を提供し新規薬効を発揮することができる。
【実施例0068】
ここで、上記実施形態に係るカンゾウエキスを実際に製造しその各種効果について確認を行った。以下具体的に説明する。
【0069】
カンゾウ30kgにアンモニア水125Lを加えて抽出し、そこに硫酸を添加することで沈殿物3kgを得た。次に、沈殿物3kgに80重量%エタノールおよび活性炭を添加後ろ過し、ろ過液にアンモニア水を加えて再度ろ過を行い、ろ過液を濃縮、乾燥することにより抽出物1127gを得た。
【0070】
次に、上記で得られた抽出物1127gに対し、合成吸着樹脂XAD-7HPおよびHP-20を用いて、グリチルリチン酸およびその類縁体化合物を除去し、濃縮、乾燥することで、グリチルリチン酸除去カンゾウエキス46.8gを得た。なお、このカンゾウエキスに対してHPLCによる定量分析を行った結果、下記の通りであった。
【表1】
【0071】
(マウスへの投与)
10週令の雄の実験用マウス(C57BL/6)6匹を1群とし、それぞれの群に対し、(1)普通食(ND)、(2)高脂肪食(HFD)、及び(3)高脂肪食(HFD)を摂餌させ、(1)(2)については水を、(3)についてはカンゾウエキス(GE―1)を、胃ゾンデを用いて12週間経口投与(週5回)し、そのそれぞれに対して、体重、摂餌量、肝臓重量、精巣上体細胞組織重量、インスリン抵抗性試験、血漿中インスリン濃度をそれぞれ調べた。なお、上記カンゾウエキスの投与量については1日当たり4mg/匹とした。
【0072】
(体重及び抗肥満作用)
図1に、上記マウス群に対する体重の変化の結果を示す。横軸は投与開始からの経過時間(週)を、縦軸に体重(g)をそれぞれ示す。なお、
図2には、各マウス群における1日当たりの摂餌量について示す。
【0073】
これらの図で示すように、同程度の摂餌量であっても、高脂肪食(HFD)摂餌群では時間の経過とともに体重が増加している一方、カンゾウエキス(GE-1)を経口投与することでその体重増加を抑えることができていることを確認した。すなわち、カンゾウエキス(GE-1)の抗肥満作用を確認することができた。
【0074】
また、摂餌開始から12週におけるマウスの肝臓重量、精巣上体脂肪組成重量についても同様に確認を行った。この結果を
図3、4にそれぞれ示す。
【0075】
この結果においても、高脂肪食のみを与えた場合は、大幅な肝臓重量、精巣上体脂肪組成重量の増加を確認できた一方で、カンゾウエキスを経口投与したマウス群においてはこれらの上昇を抑えることができていることを確認した。
【0076】
以上、本実施例においては、本実施例の組成のカンゾウエキスが抗肥満用組成物としての効果を有することを確認した。
【0077】
(抗糖尿病作用)
次に、
図5に、インスリン抵抗性試験について行った結果を示す。本図は、摂餌開始後11週目の各マウス群に対し、2時間の絶食後、インスリンを0.75IU/kgで腹腔内投与し、投与前、30分、60分、120分後の血糖値を測定したものである。
【0078】
本図の結果によると、高脂肪食摂餌マウスではインスリンによる血糖値の低下が軽度であるのに対し、カンゾウエキスを経口投与したマウスにおいては血糖値の低下の程度が大きかった。すなわち、高脂肪食摂餌によって誘導されたインスリン抵抗性は、カンゾウエキスを経口投与することにより改善した。
【0079】
さらに、
図6に実験開始12週間後の血漿中インスリン濃度の結果について示す。解剖時の血漿中インスリン濃度をELISA法にて測定した。
【0080】
本図の結果において、高脂肪食を摂餌したマウス群では普通食を摂餌したマウス群よりも血漿中インスリン濃度が高くなるが、カンゾウエキスを経口投与したマウス群においてはインスリン濃度上昇を抑えることができることを確認した。本実施例に係るカンゾウエキスを有効成分とすることで、抗糖尿病用組成物として効果を発揮できることを確認した。
【0081】
(腸内細菌調整用組成物)
次に、本実施例に係るイソリクイリチゲニン(ILG)の効果を確認するため、上記と同様のマウスを用い、腸内細菌についての確認を行った。腸内細菌の確認はマウスの腸内の細菌に対する16S-rRNA解析により行った。なお、本実施例では、(1)普通食(ND)、(2)普通食+イソリクイリチゲニン(ND+ILG)、(3)高脂肪食(HFD)、(4)高脂肪食+イソリクイリチゲニン(HFD+ILG)の4種類のいずれかの餌を与えるマウス群にて確認を行った。この解析結果について
図7に示す。本図では、Phylum(門)レベルでの解析結果であって、摂餌開始後1~4週間後におけるマウス群それぞれの解析結果を示す。なお、ここでILGは、高脂肪食に0.5%混餌し投与した。
【0082】
本図で示す解析結果によると、腸内においてはBacteroidetes及びFirmicutesが7割以上を示すものであって、高脂肪食(HFD)を摂餌することでFirmicutesに対するBacteroidetesの値が減少する一方、普通食(ND)または高脂肪食(HFD)いずれの場合においてもイソリクイリチゲニン(ILG)を摂餌することによりこの値を増加させることができるのを確認した。
【0083】
次に、上記において、Phylum(門)からさらに進んでSpecies(種)レベルでの解析を行った。この結果について
図8に示す。
【0084】
本図によると、高脂肪食を開始することでVerrucomicrobia門のAkkermansia muciniphilaが減少するものの、イソリクイリチゲニン(ILG)を混餌することで増加に転じることが確認できた。なお、イソリクイリチゲニン(ILG)を混餌することで最も多く存在比が増加した細菌はBacteroidetesのParabacteroides goldsteiniiであることが分かった。
【0085】
以上の結果より、イソリクイリチゲニン(ILG)は腸内細菌の存在比を調整することのできる腸内細菌調整用組成物であって、より具体的にはAkkermansia muciniphila 及びParabacteroides goldsteiniiの存在比を増加させるものであることが確認できた。
【0086】
また、詳細な解析として、腸管バリア機能分子の発現についての解析を行った。本解析では、上記16S-rRNA解析等と同様に、摂餌させたマウス群を用い、摂餌開始後6週間後の各マウス群の5匹ずつに対し、大腸組織のClaudin-1のWesternBlotによる発現解析を行った結果である。この結果を
図9、
図10に示す。
図9はWesternBlotの結果であって、
図10はその発現量(β-actinに対する比)を定量化したものである。
【0087】
本図の結果によると、高脂肪食(HFD)を摂餌することでバリア機能分子であるClaudin-1の発現量が減少する一方、イソリクイリチゲニン(ILG)を投与することでこのClaudin-1の発現量が増加すること、すなわち、腸管バリア機能を回復させることが確認できた。
【0088】
また、一方で、次に、リクイリチン(L)による腸内細菌調整作用効果の対比について行った。具体的には、(1)普通食(ND)、(2)高脂肪食(HFD)、(3)高脂肪食+イソリクイリチゲニン(HFD+ILG)、(4)高脂肪食+リクイリチン(HFD+L)の4種類のいずれかの餌を与えるマウス群に対し、摂餌開始後2週間における各マウス群の4匹において、その糞便から菌叢解析、特にAkkermansia muciniphila及びParabacteroides goldsteiniiに対する解析を行った。この結果を
図11に示す。
【0089】
上記の結果によると、高脂肪食(HFD)を摂餌させることでAkkermansia muciniphila及びParabacteroides goldsteiniiのいずれにおいても存在比が減少する。しかしながら、イソリクイリチゲニン(ILG)またはリクイリチン(L)を混餌させることで、HFDによる両細菌の存在比の減少が回復し、大きく増加することが確認できた。
【0090】
なお、カンゾウエキスに関しても同様の効果が得られるか否かについてであるが、(1)普通食(ND)、(2)高脂肪食(HFD)、(3)高脂肪食+上記カンゾウエキス 4mg/匹(HFD+GE―1 4mg)、(4)高脂肪食+上記カンゾウエキス10mg/匹(HFD+GE―1 10mg)のいずれかのマウス群の糞便を採取し、リアルタイムPCR解析を用いることでどの程度Akkermansia muciniphilaの存在比の増加があるのかについて確認を行った。この結果について
図12に示しておく。なお本結果は摂餌後2週目の糞便の解析結果であり、カンゾウエキスについては4mg/匹の場合と、10mg/匹の場合で分けて確認した。
【0091】
この結果、カンゾウエキス(GE-1)を経口投与したマウスにおいては、Akkermansia muciniphilaの存在比の増加があることを確認することができた。
【0092】
さらに、上記高脂肪食+イソリクイリチゲニン(HFD+ILG)のマウス群におけるマウスの糞便を高脂肪食(HFD)のマウス群のマウスに移植することで、Akkermansia muciniphila及びParabacteroides goldsteiniiにどの程度の影響があるのかについて確認を行った。具体的には、高脂肪食(HFD)を投与した摂餌開始から4週後のマウス群に抗生剤をカクテルして4日間投与し、さらに3日間回復期間を設けたのち、週5回糞便移植を行った。そして、その後8週間高脂肪食(HFD)を投与し、腸内のAkkermansia muciniphila及びParabacteroides goldsteiniiの存在比を解析した。この結果を
図13に示す。
【0093】
この結果、イソリクイリチゲニンを投与したマウス群の糞便を移植することでもAkkermansia muciniphila及びParabacteroides goldsteiniiの存在比を増加させることができることを確認した。
【0094】
さらに、この確認として、内臓脂肪重量及び体重の変化についても確認を行った。
図14に、移植後8週目のマウスの内臓脂肪を、
図15にその体重の変化について示しておく。
【0095】
上記の結果によっても、糞便を移植することで、内臓脂肪重量、体重のいずれも減少があることを確認した。
【0096】
(NLRP3インフラマソーム活性制御作用)
またここで、カンゾウエキスによるNLRP3インフラマソーム活性制御作用についても確認した。ここでマウスに対する投与に先立ちin vitroにおける効果を確認した。具体的には、マクロファージ様細胞株J774.A1細胞株をLPS 1 μg/mLにて3時間プライミングし、細胞を洗浄した後、カンゾウエキスを添加し30分間反応させ、Nigericin 10 μMを添加し、培養上清中に産生されるIL-1βの量をELISA法にて測定した。この結果を
図16に示す。
【0097】
また、in vivoにおいてカンゾウエキスによるNLRP3インフラマソーム活性制御作用についても確認した。具体的には、10週令のオスのマウスに対し、(1)普通食(ND)、(2)高脂肪食(HFD)、及び(3)高脂肪食(HFD)を摂餌させ、(1)(2)については水を、(3)についてはカンゾウエキス(GE―1)を胃ゾンデを用いて12週間経口投与した(週5回)。それぞれ精巣上体脂肪を単離し、ミンスした精巣上体脂肪をEx vivoにて培養してELISA法によりIL-1βの産生に対し与える影響を測定した。糖尿病における内臓脂肪組織においては、パルミチン酸やグルコースによりNLRP3インフラマソームが活性化されることが報告されている。この結果を
図17に示す。
【0098】
まとめ
以上の通り、本実施例により、本エキス及び本化合物の腸内細菌調整作用、腸管バリア機能増強作用、抗肥満作用、抗糖尿病作用、及びNLRP3インフラマソーム活性制御作用を確認することができた。
本発明は、カンゾウエキスを含有する組成物、及びこれを含む腸内細菌調整用組成物、腸管バリア機能性増強用組成物、抗肥満用組成物、抗糖尿病用組成物、及びNLRP3インフラマソーム活性制御用組成物として産業上の利用可能性がある。