(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067334
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】流体濾過装置
(51)【国際特許分類】
B01D 24/00 20060101AFI20230509BHJP
B01D 29/07 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
B01D29/00 A
B01D29/06 510A
B01D29/06 510D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178465
(22)【出願日】2021-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000252252
【氏名又は名称】和興フィルタテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
(74)【代理人】
【識別番号】100157417
【弁理士】
【氏名又は名称】並木 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100218095
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(72)【発明者】
【氏名】古田 悠樹
【テーマコード(参考)】
4D116
【Fターム(参考)】
4D116AA07
4D116AA16
4D116BB01
4D116BC13
4D116BC23
4D116BC45
4D116BC47
4D116BC75
4D116BC76
4D116DD06
4D116GG12
4D116KK06
4D116QA12C
4D116QA12F
4D116QA25A
4D116QA25B
4D116QA25C
4D116QA25F
4D116QA39C
4D116QA39F
4D116QA40C
4D116QA40F
4D116QB03
4D116QB11
4D116QB16
4D116QB17
4D116QB22
4D116QB23
4D116QB26
4D116QB43
4D116QB48
4D116QB49
4D116VV30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】内部流体が凍結して体積膨張が生じたときにこれを吸収して装置の損傷を防止する、流体濾過装置を提供する。
【解決手段】流体濾過装置10は、入口部11aおよび出口部15aを有する下および上ハウジング11、15と、その内部空間内に配設されたフィルタエレメント30とを備えて構成され、内部空間20を、入口部11aに繋がる一次流体空間21,22と出口部15aに繋がる二次流体空間23,24,25に仕切るようにしてフィルタエレメント30が内部空間20内に配設され、入口部11aから一次流体空間に導入された流体を濾過して二次流体空間に流入させ、出口部15aを通って排出し、出口部15aはエア溜め空間より下方において二次流体空間内に開口し、二次流体空間と出口部15aの内部通路とを遮断可能に繋ぐエア抜き装置40を設け、エア溜め空間内のエアを出口部15aの内部通路に排出させてエア溜め空間の形成領域を設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過流体の入口通路および出口通路を有した内部空間を備えるハウジングと、前記内部空間内に配設されたフィルタエレメントとを備えて構成され、
前記内部空間を前記入口通路に繋がる一次流体空間と前記出口通路に繋がる二次流体空間に仕切るようにして前記フィルタエレメントが前記ハウジングの前記内部空間内に配設され、
前記入口通路から前記一次流体空間に導入された流体を、前記フィルタエレメントの濾材を通過させて濾過して前記二次流体空間に流入させ、前記出口通路を通って排出するように構成された流体濾過装置であって、
前記二次流体空間の上部に閉塞したエア溜め空間が設けられ、濾過流体から発生する気泡などにより生じたエアを前記エア溜め空間内に貯留するようになっており、
前記出口通路は前記エア溜め空間より下方において前記二次流体空間内に開口し、
前記二次流体空間と前記出口通路とを遮断可能に繋ぐエア抜き装置が設けられており、前記エア抜き装置は、前記エア溜め空間内のエアを前記出口通路に排出させて前記エア溜め空間の形成領域を設定するように構成されたことを特徴とする流体濾過装置。
【請求項2】
前記エア抜き装置は、前記二次流体空間と前記出口通路とを繋ぐエア抜き通路と、前記エア抜き通路内に上下移動可能に配置されたフロート弁とを備え、
前記エア溜め空間が大きくなってその下端面位置が下動して前記フロート弁を下動させたときに、前記フロート弁は前記エア抜き通路を開放して前記エア溜め空間内のエアを前記出口通路内に排出し、
前記エア溜め空間が小さくなってその下端面位置が上動して前記フロート弁を浮上させたときに、前記フロート弁は前記エア抜き通路を閉止して前記エア溜め空間にエアを保持することを特徴とする請求項1に記載の流体濾過装置。
【請求項3】
前記フィルタエレメントが、円筒状のインナー支持部材と、前記インナー支持部材の外周に蛇腹状に折曲された状態で巻き付けられた濾材と、前記インナー支持部材の上端に前記濾材の上端を覆って取り付けられた上エンドプレート部材と、前記インナー支持部材の下端に前記濾材の下端を覆って取り付けられた下エンドプレート部材とを有して構成され、
前記下エンドプレート部材が前記ハウジングに前記内部空間を上下に仕切るようにして取り付けられ、
前記内部空間のうちの前記下エンドプレートより下側の下側空間に前記入口通路が連通し、
前記エンドプレートには前記下側空間と前記濾材に囲まれた前記インナー支持部材の内側支持空間とを連通させる下連通孔が形成されており、前記下側空間および前記内側支持空間とにより前記一次流体空間が形成されることを特徴とする請求項1もしくは2に記載の流体濾過装置。
【請求項4】
前記上エンドプレートに上連通孔が形成され、前記インナー支持部材に、前記上連通孔と連通して下方に延びる凹部空間を形成する出口空間形成部材が設けられ、前記凹部空間は前記上連通孔を介して前記二次流体空間と連通しており、
前記出口通路を形成する通路形成部材が前記出口空間形成部材の前記凹部空間内に上方から下方に突出して下端が前記凹部空間に開口しており、前記凹部空間の下部から前記出口通路に前記二次流体空間内の流体を流入させて排出させるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の流体濾過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体中のごみ、塵などの異物を濾過する流体濾過装置、特に流体凍結対策機能を備えた流体濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体中のごみ、塵などの異物を濾過する流体濾過装置は従来から広く用いられているが、濾過対象流体の種類によっては、濾過装置内の流体が低温下で凍結し、体積膨張が生じて濾過装置に損傷を与えるという問題があることが知られている。例えば、ディーゼルエンジンの排気ガス中の窒素酸化物を浄化する尿素SCRシステムにおいて、尿素水溶液を尿素水噴射装置により排気ガス中に噴射する前に、尿素水溶液中のごみ、塵などを濾過する尿素水溶液濾過装置において、低温下で尿素水溶液が凍結して尿素水溶液濾過装置に損傷を与えるという問題がある。
【0003】
このような問題に対処するため、特許文献1に開示されているように、フィルタ筐体内にガス封入により収縮可能となる要素を配置した液体フィルタ装置がある。この液体フィルタ装置によれば、濾過筐体内で流体の凍結が発生して体積膨張が生じたとき、この体積膨張による圧力に応じて収縮可能要素が収縮し、フィルタ装置の損傷を防止するようになっている。また、特許文献2に開示されているように、フィルタエレメントを、環状フィルタ体およびこれにより包囲される支持体から構成し、支持体の素材をエラストマーとした液体フィルタ装置もある。この液体フィルタ装置においては、濾過対象となる尿素水溶液の凍結時に、エラストマーからなる支持体が内側に変形するようにして、フィルタ装置の損傷を防止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013-510712号公報
【特許文献2】特開2010-214367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1や、特許文献2に開示の液体フィルタ装置によれば、濾過対象となる液体(例えば、尿素水溶液)が凍結して体積膨張が生じたとしても、フィルタの損傷を防止できる。しかし、特許文献1のフィルタ装置ではフィルタ筐体内にガス封入により収縮可能となる要素を配置する必要がある。また、特許文献2のフィルタ装置では、環状フィルタ体により包囲される支持体の素材をエラストマーとする必要がある。このため、フィルタ装置の構成を複雑化したり、コストが増加したりするという問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、追加的な装置、機構を必要とせず、従来用いられている流体濾過装置の構成を流用でき、内部流体が凍結して体積膨張が生じたときにこれを吸収して装置の損傷を防止できる構成の流体濾過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る流体濾過装置は、濾過流体の入口通路(例えば、実施形態における入口部11aの内部通路)および出口通路(例えば、実施形態における出口部15aの内部通路)を有した内部空間(例えば、実施形態における内部空間20)を備えるハウジング(例えば、実施形態における下および上ハウジング11、15)と
、前記内部空間内に配設されたフィルタエレメントとを備えて構成され、前記内部空間を前記入口通路に繋がる一次流体空間(例えば、実施形態における第1および第2内部空間21、22)と前記出口通路に繋がる二次流体空間(例えば、実施形態における第3~第5内部空間23~25)に仕切るようにして前記フィルタエレメントが前記ハウジングの前記内部空間内に配設され、前記入口通路から前記一次流体空間に導入された流体を、前記フィルタエレメントの濾材を通過させて濾過して前記二次流体空間に流入させ、前記出口通路を通って排出するように構成される。そして、前記二次流体空間の上部に閉塞したエア溜め空間が設けられ、濾過流体から発生する気泡などにより生じたエアを前記エア溜め空間内に貯留するようになっており、前記出口通路は前記エア溜め空間より下方において前記二次流体空間内に開口し、前記二次流体空間と前記出口通路とを遮断可能に繋ぐエア抜き装置が設けられており、前記エア抜き装置は、前記エア溜め空間内のエアを前記出口通路に排出させて前記エア溜め空間の形成領域を設定するように構成される。
【0008】
上記の流体濾過装置において、好ましくは、前記エア抜き装置は、前記二次流体空間と前記出口通路とを繋ぐエア抜き通路と、前記エア抜き通路内に上下移動可能に配置されたフロート弁とを備え、前記エア溜め空間が大きくなってその下端面位置が下動して前記フロート弁を下動させたときに、前記フロート弁は前記エア抜き通路を開放して前記エア溜め空間内のエアを前記出口通路内に排出し、前記エア溜め空間が小さくなってその下端面位置が上動して前記フロート弁を浮上させたときに、前記フロート弁は前記エア抜き通路を閉止して前記エア溜め空間にエアを保持する。
【0009】
上記の流体濾過装置において、好ましくは、前記フィルタエレメントが、円筒状のインナー支持部材と、前記インナー支持部材の外周に蛇腹状に折曲された状態で巻き付けられた濾材と、前記インナー支持部材の上端に前記濾材の上端を覆って取り付けられた上エンドプレート部材と、前記インナー支持部材の下端に前記濾材の下端を覆って取り付けられた下エンドプレート部材とを有して構成され、前記下エンドプレート部材が前記ハウジングに前記内部空間を上下に仕切るようにして取り付けられ、前記内部空間のうちの前記下エンドプレートより下側の下側空間(例えば、実施形態における第1内部空間21)に前記入口通路が連通し、前記エンドプレートには前記下側空間と前記濾材に囲まれた前記インナー支持部材の内側支持空間(例えば、実施形態における第2内部空間22)とを連通させる下連通孔(例えば、実施形態における下エンドプレート32の開口32b)が形成されており、前記下側空間および前記内側支持空間とにより前記一次流体空間が形成される。
【0010】
上記の流体濾過装置において、好ましくは、前記上エンドプレートに上連通孔(例えば、実施形態における上エンドプレート31の開口31b)が形成され、前記インナー支持部材に、前記上連通孔と連通して下方に延びる凹部空間(例えば、実施形態における第5内部空間25)を形成する出口空間形成部材が設けられ、前記凹部空間は前記上連通孔を介して前記二次流体空間と連通しており、前記出口通路を形成する通路形成部材(例えば、実施形態における吸込みパイプ16)が前記出口空間形成部材の前記凹部空間内に上方から下方に突出して下端が前記凹部空間に開口しており、前記凹部空間の下部から前記出口通路に前記二次流体空間内の流体を流入させて排出させるように構成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る流体濾過装置によれば、前記入口通路から前記一次流体空間に導入された流体を、前記フィルタエレメントの濾材を通過させて濾過して前記二次流体空間に流入させ、前記出口通路を通って排出するように構成される流体濾過装置において、前記二次流体空間の上部に閉塞したエア溜め空間が設けられ、濾過流体から発生する気泡などにより生じたエアを前記エア溜め空間内に貯留するようになっており、前記出口通路は前記エア溜め空間より下方において前記二次流体空間内に開口し、前記二次流体空間と前記出口通
路とを遮断可能に繋ぐエア抜き装置が設けられており、前記エア抜き装置は、前記エア溜め空間内のエアを前記出口通路に排出させて前記エア溜め空間の形成領域を設定するように構成される。このため、エア溜め空間内に常時エアが溜められることとなり、内部空間内の流体が低温下で凍結して体積膨張が生じたとしても、前記エア溜め空間内のエアが圧縮することによりこの体積膨張を吸収でき、内圧の増加が防止されて流体濾過装置が損傷することを防止できる。なお、前記出口通路は前記エア溜め空間より下方において前記二次流体空間内に開口しているため、前記出口通路を通って前記エア溜め空間内のエアを吸い込むおそれがない。
【0012】
本発明に係る流体濾過装置において、前記エア溜め空間が大きくなってその下端面位置が下動して前記フロート弁を下動させたときに、前記フロート弁は前記エア抜き通路を開放して前記エア溜め空間内のエアを前記出口通路内に排出し、前記エア溜め空間が小さくなってその下端面位置が上動して前記フロート弁を浮上させたときに、前記フロート弁は前記エア抜き通路を閉止して前記エア溜め空間にエアを保持するのが好ましい。これにより前記エア溜め空間の領域、すなわち、濾過流体との境界位置を適切な位置に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る尿素水溶液濾過装置10を用いた尿素SCRシステムの構成を示す概略図である。
【
図2】上記尿素水溶液濾過装置を示す縦断面図である。
【
図3】上記尿素水溶液濾過装置を示す横断面図である。
【
図4】上記尿素水溶液濾過装置に用いるフィルタエレメントを示す斜視図である。
【
図5】上記フィルタエレメントにおいてインナー支持部材およびその外周に取り付けられた濾材を示す斜視図である。
【
図6】インナー支持部材およびその外周に取り付けられた濾材を示す底面図である。
【
図8】インナー支持部材に濾材を接合する方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、本発明に係る流体濾過装置としての尿素水溶液濾過装置10を用いる対象となる尿素SCRシステムの概略構成について、
図1を参照して説明する。このシステムは、ディーゼルエンジン1の排気管2に繋がる排気通路2a内に設けられた尿素SCR触媒装置3に、尿素水溶液を供給して排気中の窒素酸化物を浄化するものである。浄化された排気は排出管2bから大気放出される。尿素SCRシステムは、尿素水溶液を貯留する尿素水溶液貯留タンク5と、尿素水溶液貯留タンク5から導入配管7、8を介して尿素水溶液を吸込み、噴射供給配管9を介して尿素SCR触媒装置3に尿素水溶液を噴射する尿素水溶液噴射装置6を備える。このとき、尿素水溶液中のごみ、塵を浄化するために尿素水溶液濾過装置10が、導入配管7、8の間に設けられている。
【0015】
尿素水溶液濾過装置10は、
図2および
図3に示すように、下ハウジング11および上ハウジング15により囲まれた内部空間20内にフィルタエレメント30を交換可能に配設して構成される。下ハウジング11は入口部11aを介して導入配管7と繋がり、導入配管7の導入路7aを通って尿素タンク5内に貯留された尿素水溶液を内部空間20に導入する。このことから分かるように、入口部11aの内部通路が請求の範囲に規定する入口通路に対応する。上ハウジングは出口部15aを介して導入配管8と繋がり、導入配管8の導入路8aに濾過された尿素水溶液を送り出す。下ハウジング11および上ハウジング15は、下ハウジングフランジ部11bと上ハウジングフランジ部15bが嵌合してシ
ールリング12により内部空間20を気密保持する。なお、下ハウジング11は左右に取り付けフランジ部13、13を備えており、所定の取付位置に尿素水溶液濾過装置10を固定することができる。
【0016】
フィルタエレメント30は、
図4にも示すように、円盤状の上エンドプレート31と、円盤状の下エンドプレート32と、上および下エンドプレート31、32に挟まれて設けられた上下に延びる略円筒状のインナー支持部材35と、インナー支持部材35の外周側に蛇腹状に折曲された状態で巻き付けられた濾材33とを有して構成される。フィルタエレメント30が内部空間20内に配設された状態で、下エンドプレート32は下ハウジング11の内周に嵌合保持され、上エンドプレート31はその上面に設けられた係止突起31aを介して上ハウジング15の上部内面に固定される。このようにして内部空間20内にフィルタエレメント30が取り付けられる。この状態で、下エンドプレート32は下ハウジング11の内周に嵌合するとともにシール32aにより密封し、内部空間20の一部としての第1内部空間21を形成する。第1内部空間21は入口部11aを介して導入配管7と繋がり、導入配管7の導入路7aを通って尿素水溶液が第1内部空間21に導入される。なお、第1内部空間21の下側部にヒーター50が設けられるが、これについては後述する。
【0017】
インナー支持部材35は、
図7に示すように、略円筒状の支持枠36と、この支持枠の一部をくさび状に仕切って形成されたくさび状凹部空間形成部38とを有する。支持枠36は、上下端に位置するリング状の支持枠36a、36aと、中間に位置する複数のリング状の中間枠36bと、上下に延びて上下の支持枠36a、36aと複数の中間枠36bとを繋ぐ複数の縦枠36cとを有し、円筒枠状に形成されている。上部の支持枠36aの内周には支持フランジ37aを介して繋がった円筒状の出口空間形成部材37が支持枠36の内部に延びて設けられている。出口空間形成部材37は上方に開口した円筒中空容器状の部材であり、支持フランジ37aの中央の開口に繋がって上端が開口する。くさび状凹部形成部38は、出口空間形成部材37の外周面と繋がる上下に延びた底面壁38cと、底面壁38cから径方向外側に拡がるとともに上下に延びる左右壁38a、38bとを有し、これら左右壁38a、38bおよび底面壁38cに囲まれて外周側に開放したくさび状凹部空間38dが形成される。なお、
図2、
図4に示すように、底面壁38の下部に連通小孔39が形成されており、連通小孔39を介して出口空間形成部材37の内部空間とくさび状凹部空間38dが連通する。
【0018】
インナー支持部材35の略円筒状の支持枠36の外周に、蛇腹状に折曲された濾材33が、
図5(および底面から見た形状を示す
図6)に示すように巻き付けられて取り付けられている。このとき、濾材33の一端側折曲面33aが右壁38aの外側壁面に溶着接合され、他端側折曲面33bが左壁38bの外側壁面に溶着接合される。この溶着接合は、
図8に示すように、超音波溶着工具60(溶着用ホーン61および超音波溶着用受け治具62からなる)を用いて行われる。例えば、
図8に示すように、右壁38aの内面に超音波溶着用受け治具62を当て、右壁38aの外面に濾材33の端部折曲面33aを当てるとともに溶着用ホーン61を押しつけ、超音波溶着用受け治具62と溶着用ホーン61とにより右壁38aおよび濾材33の端部折曲面33aを挟持する。この状態で溶着用ホーン61から超音波を加え、右壁38aの外面に濾材33の端部折曲面33aを熱溶着させる。右壁38a(インナー支持部材35)は樹脂製であり、濾材33を形成する樹脂繊維と熱溶着される。この溶着は、左壁38bと濾材33の他端についても同様に行われ、その結果、
図5、
図6に示すように、インナー支持部材35の略円筒状の支持枠36の外周に、蛇腹状に折曲された濾材33が巻き付けられて取り付けられる。なお、熱溶着に代えて、接着など他の方法での接合を行っても良い。
【0019】
このようにしてインナー支持部材35の支持枠36の外周に濾材33を巻き付けて
図5
、
図6に示す状態とした後、インナー支持部材35および濾材33の上端を覆って上エンドプレート31を取り付け、下端を覆って下エンドプレートを取り付ける。これにより、
図4に示すフィルタエレメント30が作られる。上エンドプレート31には開口31bが形成されており、この開口31bを介して、インナー支持部材35の出口空間形成部材37の内部空間が外部と連通する。下エンドプレート32にも開口32bが形成されており、この開口32bを介して第1内部空間21がインナー支持部材35の内部と連通する。なお、このフィルタエレメント30は、下および上ハウジング11、15の内部空間20内に上述したように装着される。
【0020】
ここで
図2に戻って説明を続ける。下ハウジング11の内部空間下部にヒーター50が装着される。ヒーター50は、上カバー51が下ハウジング11の内周面に嵌合して取り付けられており、シール52a、52bにより液密状態となった配設空間55が形成される。この配設空間55に繋がって、エンジン冷却水入口53および出口54が設けられており、エンジン冷却水が冷却水入口53から内部空間55に導入され、内部空間55から冷却水出口54を通って排出される。これにより、エンジン冷却水の熱が上カバー51を介して第1内部空間21内の尿素水溶液に伝えられ、低温環境下において濾過対象となる尿素水溶液を暖める。なお、シール52aは内部空間20と外部との液密性を保つためのものであり、シール52bはヒーター50の内部空間と外部との液密性を保つためのものである。このため、いずれかのシールに不具合が生じても、尿素水溶液とエンジン冷却水とが混ざり合うことがない。
【0021】
一方、上ハウジング内部には、エア抜き装置40が設けられている。エア抜き装置40は、内部空間20と出口部15aの内部通路とを繋ぐ小孔からなるエア抜き孔41と、フロート42とからなる。フロート42は尿素水溶液中では浮かび上がる比重を有し、内部空間20内に尿素水溶液が充満してフロートが浮かぶとエア抜き孔41を塞ぐ。尿素水溶液に混入している泡(エア)が内部空間20の上部に溜まると、空気層空間24aが形成される。この空気層空間24aより下側の尿素水溶液の水面24c(
図2で二点鎖線で示す)がフロート42を浮かばせる位置より上昇すると、フロート42がエア抜き孔41を塞ぐため、尿素水溶液に混入している泡(エア)が内部空間20の上部に溜まる。これにより空気層空間24aが大きくなり、尿素水溶液の水面24cが下がるとフロート42の位置を下げ、エア抜き孔41が開放されて空気層空間24a内のエアが出口部15aに排出される。このようにエア抜き装置40は、内部空間20内に空気層空間24aを形成させるとともに尿素水溶液の水面24cの位置を所定位置に設定して、空気層空間24aの大きさを所定の大きさに保持する。
【0022】
上ハウジング15の上内部には、出口部15aの内部通路に繋がって下方に突出する吸込みパイプ16を取り付けている。この吸込みパイプ16は、
図2に示すように、内部空間20内に装着されたフィルタエレメント30の上エンドプレート31の開口31bを通ってインナー支持部材35の出口空間形成部材37の内部空間内に突出する。なお、出口部15aの内部通路および吸込みパイプ16の内部通路は、特許請求の範囲の出口通路に対応する。
【0023】
以上のように構成された
図2に示す尿素水溶液濾過装置10において、内部空間20は、フィルタエレメント30により複数の内部空間に区分けされるので、これについて説明する。まず前述したように、下エンドプレート32より下側に第1内部空間21が形成され、ここに導入配管7から尿素水溶液が送り込まれる。下エンドプレート32には開口32bが形成されており、第1内部空間21は、インナー支持部材35の外周に取り付けられた濾材33に囲まれた内部空間(これを第2内部空間22と称する)に繋がり、尿素水溶液は第2内部空間22内にそのまま送られる。これら第1および第2内部空間21、22が特許請求の範囲の一次流体空間に対応する。なお、インナー支持部材35の支持枠3
6内の空間内に出口空間形成部材37が突出するがこの内部空間は第2内部空間22とは遮断されている。同様に、くさび状凹部空間形成部38のくさび状凹部空間38dも第2内部空間22から遮断されている。
【0024】
フィルタエレメント30の濾材33の外周側の空間(これを第3内部空間23と称する)には、濾材33を通過して濾過された尿素水溶液が流れ込む。第3内部空間23はフィルタエレメント30の外周に位置する空間であり、くさび状凹部空間形成部38のくさび状凹部空間38dは第3内部空間23と連通しており、第3内部空間23の一部となる。この第3内部空間23は上ハウジング15の内部空間(これを第4内部空間24と称する)と連通している。上述のように第4内部空間24内に空気層空間24aが形成されるため、第4内部空間24は空気層空間24aおよび尿素水溶液充填空間24bに区分けされ、その境界面24cが尿素水溶液の水面となる。
【0025】
第4内部空間24はさらに、フィルタエレメント30の上エンドプレート31の開口31bを介してインナー支持部材35の出口空間形成部材37の内部空間(これを第5内部空間25と称する)と連通する。第5内部空間25には、上述したように、吸込みパイプ16が上方から突出しており、第5内部空間25は吸込みパイプ16の内部通路空間(これを第6内部空間26と称する)と連通する。第6内部空間26は、出口部15aの内部通路(これを第7内部空間27と称する)と繋がる。このことから分かるように、第3~第5内部空間23~25が特許請求の範囲に規定する二次流体空間に対応し、第6および第7内部空間が出口通路に対応する。
【0026】
以上のように構成された尿素水溶液濾過装置10による尿素水溶液の濾過について説明する。尿素水溶液噴射装置6により尿素水溶液貯留タンク5から吸引される尿素水溶液(これは濾過前の状態であるため、一次尿素水溶液と称する)は導入配管7から入口部11aを通って第1内部空間21内に流入する。一次尿素水溶液はさらに、第1内部空間21から開口32bを通って第2内部空間22内に流入し、濾材33を通過して濾過された後、第3内部空間23内に流入する。このようにして濾過された尿素水溶液を二次尿素水溶液と称する。第3内部空間23内に入り込んだ二次尿素水溶液は、フィルタエレメント30の外周から上方に向かって第4内部空間24に送られる。第4内部空間24は最も上方に位置する空間であり、尿素水溶液中に含まれる泡(エア)が集まるなどして上部に空気層が形成される。この空気層の大きさは上述したようにエア抜き装置40により調整されて
図2に二点鎖線で示す境界面24cが設定される。
【0027】
第4内部空間24内の二次尿素水溶液は、上エンドプレート31の開口31bを介してインナー支持部材35の出口空間形成部材37の内部空間である第5内部空間25内に流入する。そして、第5内部空間25から吸込みパイプ16の内部通路空間である第6内部空間26を通るとともに、出口部15aの内部通路である第7内部空間27を通り、導入配管8に送り出される。この場合において、吸込みパイプ16は第5空間25内において上方から下方に向かって突出し、下端開口が第5空間25の下部に位置するため、空気層空間24a内のエアを吸い込むことが無い構成となっている。
【0028】
以上のように構成された尿素水溶液濾過装置10を備えた尿素SCRシステムは、ディーゼルエンジンが用いられる車両などに搭載されるものであり、この車両が寒冷地で使用されることがある。寒冷地での使用に際しては、尿素水溶液が凍結するという問題があるが、この尿素水溶液濾過装置10では凍結対策を施している。すなわち、第4内部空間24に空気層空間24aを形成するようにしており、内部空間20内の尿素水溶液が凍結して体積膨張が生じても空気層空間24a内のエアが圧縮されて収縮することにより内部圧力の増加を防止する。これにより、内部部材の損傷を効率的に防止できる。
【0029】
なお、エア抜き装置40において、エア抜き孔41を介して第4内部空間24の空気層空間24a内のエアを第7内部空間27に流出させる構成であり、このとき第4内部空間24内の尿素水溶液も若干流出するが、第4内部空間24内には濾過されて清浄化された二次尿素水溶液があるので、この流出があっても問題を生じることがない。
【0030】
図1を用いて説明した尿素SCRシステムにおいて、低温時の尿素水溶液の凍結防止対策の一環として、エンジン停止時に尿素水溶液噴射装置6により尿素水を逆流させてシステム内部の尿素水溶液を尿素水溶液貯留タンク5に回収するようになっている。このとき、第5内部空間25は出口空間形成部材37の内部空間であり、上端が開口した容器状の空間であるため、第5内部空間25の下部に尿素水溶液が残留するおそれがある。そこで、上述したように、底面壁38の下部に連通小孔39を形成し、連通小孔39を介して出口空間形成部材37の内部空間とくさび状凹部空間38dを連通させている。これにより、第5内部空間25の内部の尿素水溶液は連通小孔39を通ってくさび状凹部空間38dに流出するため、第5内部空間25の下部に尿素水溶液が残留するという問題を解消している。なお、この連通小孔39の大きさは、第5内部空間25の内部に残留した尿素水溶液をくさび状凹部空間38dに流出させるために必要最小限の大きさに抑え、尿素SCRシステム使用時において、くさび状凹部空間38dから連通小孔39を通って第5内部空間25の内部に直接流入する二次尿素水溶液の量を抑えている。これにより、濾過された二次尿素水溶液が第3内部空間23から上方の第4内部空間24に流れた後、第5内部空間に流れるという流れを確保している。
【0031】
以上、本発明を適用する実施形態の一例としての尿素水溶液濾過装置10を説明したが、本発明に係る流体濾過装置はこれに限られるものではない。例えば、濾過対象となる流体は尿素水溶液に限られるものでは無く、水を含む種々の流体、特に低温時に凍結するという問題がある流体を対象とする濾過装置に適用される。また、フィルタエレメントのインナー支持部材に設けられるくさび状凹部形成部材38は、このような形状に限られず、断面扇形に拡がるくさび状凹部空間を形成するような種々の形状であっても良い。例えば、半円筒状の凹部空間を形成するようなものであっても良い。
【符号の説明】
【0032】
10 尿素水溶液濾過装置 11 下ハウジング
15 上ハウジング 20 内部空間
21~27 第1~第7内部空間 30 フィルタエレメント
31 上エンドプレート 32 下エンドプレート
33 濾材 35 インナー支持部材
36 支持枠 37 出口空間形成部材
38 くさび状凹部形成部材 40 エア抜き装置
41 エア抜き孔 42 フロート
50 ヒーター 51 上カバー
60 超音波溶着工具