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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067392
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】サージング予兆検知方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/16 20060101AFI20230509BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
F02B39/16 F
F02D45/00 345
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178582
(22)【出願日】2021-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松尾 哲也
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】金澤 真吾
【テーマコード(参考)】
3G005
3G384
【Fターム(参考)】
3G005EA04
3G005EA16
3G005JA13
3G005JA16
3G005JA23
3G005JA28
3G005JA40
3G005JA42
3G384DA50
3G384DA56
3G384FA11Z
3G384FA18Z
3G384FA40Z
(57)【要約】
【課題】過給機におけるコンプレッサのサージングの予兆を検知できるサージング予兆検知方法を提供する。
【解決手段】エンジンの運転状態に関する複数のパラメータの計測データを取得する計測データ取得ステップと、複数のパラメータの計測データに基づいて、過給機のコンプレッサの圧力比及び吸込空気量を推定する推定ステップと、コンプレッサの吸込空気量と圧力比とを座標軸とするコンプレッサマップ上に、推定ステップで推定した圧力比及び吸込空気量により定まるコンプレッサの作動点をプロットして、作動点の推移をモニタリングする作動点推移モニタリングステップと、作動点推移モニタリングステップでモニタリングされる作動点と、サージラインに応じて定められた閾値ラインとを比較することにより、コンプレッサのサージングの予兆を検知するサージング予兆検知ステップと、を備える。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機におけるコンプレッサのサージングの予兆を検知するためのサージング予兆検知方法であって、
前記過給機に接続されたエンジンの運転状態に関する複数のパラメータの計測データを取得する計測データ取得ステップと、
前記複数のパラメータの計測データに基づいて、前記過給機のコンプレッサの圧力比及び吸込空気量を推定する推定ステップと、
前記コンプレッサの吸込空気量と圧力比とを座標軸とするコンプレッサマップ上に、前記推定ステップで推定した前記圧力比及び前記吸込空気量により定まる前記コンプレッサの作動点をプロットして、前記作動点の推移をモニタリングする作動点推移モニタリングステップと、
前記作動点推移モニタリングステップでモニタリングされる前記作動点と、サージラインに応じて定められた閾値ラインとを比較することにより、前記コンプレッサのサージングの予兆を検知するサージング予兆検知ステップと、
を備える、サージング予兆検知方法。
【請求項2】
前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気圧力の計測データを含み、
前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記エンジンの給気圧力に基づいて前記コンプレッサの圧力比を推定する、請求項1に記載のサージング予兆検知方法。
【請求項3】
前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記過給機の回転数の計測データを含み、
前記推定ステップでは、前記給気圧力に基づいて推定した前記コンプレッサの圧力比と、前記計測データ取得ステップで取得した前記過給機の回転数と、前記過給機の回転数と前記圧力比と前記コンプレッサの吸込空気量との相関関係を示す吸込空気量相関情報と、に基づいて前記コンプレッサの吸込空気量を推定する、請求項2に記載のサージング予兆検知方法。
【請求項4】
前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記過給機におけるタービンの入口圧力及び入口温度の計測データを含み、
前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記タービンの入口圧力及び入口圧力並びにタービン修正流量に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する、請求項1に記載のサージング予兆検知方法。
【請求項5】
前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気温度及び給気圧力の計測データを含み、
前記推定ステップでは、前記エンジンの仕様並びに前記計測データ取得ステップで取得した前記給気温度及び前記給気圧力に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する、請求項1に記載のサージング予兆検知方法。
【請求項6】
前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの燃料消費量と、前記エンジンの排気の酸素濃度とを含み、
前記推定ステップでは、前記エンジンの使用燃料の理論空気量並びに前記計測データ取得ステップで取得した前記燃料消費量及び前記酸素濃度に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する、請求項1に記載のサージング予兆検知方法。
【請求項7】
以下の(1)~(4)のうち何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量と他の何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量とに差異が無いかを確認するステップを含む、請求項1に記載のサージング予兆検知方法。
(1)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気圧力の計測データと、前記過給機の回転数の計測データとを含み、前記推定ステップでは、前記エンジンの給気圧力に基づいて推定した前記コンプレッサの圧力比と、前記計測データ取得ステップで取得した前記過給機の回転数と、前記過給機の回転数と前記圧力比と前記コンプレッサの吸込空気量との相関関係を示す吸込空気量相関情報と、に基づいて前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(2)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記過給機におけるタービンの入口圧力及び入口温度の計測データを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記タービンの入口圧力及び入口温度並びにタービン修正流量に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(3)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気温度及び給気圧力の計測データを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記給気温度及び前記給気圧力並びに前記エンジンの仕様に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(4)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの燃料消費量と、前記エンジンの排気の酸素濃度とを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記燃料消費量及び前記酸素濃度並びに前記エンジンの使用燃料の理論空気量に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
【請求項8】
以下の(1)~(4)のうち何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量と他の何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量との平均値と、前記圧力比と、により定まる前記コンプレッサの作動点と、前記閾値ラインとを比較することにより、前記コンプレッサのサージングの予兆を検知する、請求項1に記載のサージング予兆検知方法。
(1)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気圧力の計測データと、前記過給機の回転数の計測データとを含み、前記推定ステップでは、前記エンジンの給気圧力に基づいて推定した前記コンプレッサの圧力比と、前記計測データ取得ステップで取得した前記過給機の回転数と、前記過給機の回転数と前記圧力比と前記コンプレッサの吸込空気量との相関関係を示す吸込空気量相関情報と、に基づいて前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(2)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記過給機におけるタービンの入口圧力及び入口温度の計測データを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記タービンの入口圧力及び入口温度並びにタービン修正流量に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(3)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気温度及び給気圧力の計測データを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記給気温度及び前記給気圧力並びに前記エンジンの仕様に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(4)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの燃料消費量と、前記エンジンの排気の酸素濃度とを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記燃料消費量及び前記酸素濃度並びに前記エンジンの使用燃料の理論空気量に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サージング予兆検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、過給機とエンジンとのマッチング試験等で過給機の作動点が確認された後には、過給機の運転時において過給機の作動点は確認されていない。一方、例えば、過給機の部品等への燃料未燃分の付着等によって作動点が変化すると、サージング等の異常事象が発生する場合がある。サージングが発生した場合、過給機のみならずエンジンが損傷する可能性がある。
【0003】
特許文献1には、過給機にサージングが発生したときに、目標EGR率をゼロにすることで速やかにサージングを解消できること記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-127688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、サージングが発生した場合に事後的にサージングを解消する方法が開示されているに過ぎず、サージングが発生する前にサージングの予兆を検知することはできない。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態は、過給機におけるコンプレッサのサージングの予兆を検知できるサージング予兆検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の少なくとも一実施形態に係るサージング予兆検知方法は、
過給機におけるコンプレッサのサージングの予兆を検知するためのサージング予兆検知方法であって、
前記過給機に接続されたエンジンの運転状態に関する複数のパラメータの計測データを取得する計測データ取得ステップと、
前記複数のパラメータの計測データに基づいて、前記過給機のコンプレッサの圧力比及び吸込空気量を推定する推定ステップと、
前記コンプレッサの吸込空気量と圧力比とを座標軸とするコンプレッサマップ上に、前記推定ステップで推定した前記圧力比及び前記吸込空気量により定まる前記コンプレッサの作動点をプロットして、前記作動点の推移をモニタリングする作動点推移モニタリングステップと、
前記作動点推移モニタリングステップでモニタリングされる前記作動点と、サージラインに応じて定められた閾値ラインとを比較することにより、前記コンプレッサのサージングの予兆を検知するサージング予兆検知ステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、過給機におけるコンプレッサのサージングの予兆を検知できるサージング予兆検知方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係るサージング予兆検知方法の適用対象である過給機の構成を概略的に示す概略構成図である。
図2】上述した過給機3に適用可能なサージング予兆検知方法の概要を示すフロー図である。
図3】表示装置12に表示するコンプレッサマップMpと作動点の推移Lpiの一例を示す図である。
図4】作動点piの推定方法の一例を示す図である。
図5】作動点piの推定方法の他の一例を示す図である。
図6】作動点piの推定方法の他の一例を示す図である。
図7】作動点piの推定方法の他の一例を示す図である。
図8】作動点piの推定方法の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
図1は、本開示の一実施形態に係るサージング予兆検知方法の適用対象である過給機の構成を概略的に示す概略構成図である。本開示の幾つかの実施形態にかかるサージング予兆検知方法は、過給機3が備えるコンプレッサ32のサージング(逆流)の予兆を検知するためのものである。過給機3は、図1に示されるような、エンジン5を備えるエンジンシステム2に搭載される。
【0012】
(エンジンシステム)
エンジンシステム2は、図1に示されるように、内部で燃料を燃焼させることで動力を発生させるように構成されたエンジン(エンジン本体)5と、エンジン5に空気を圧縮して供給するための空気供給ライン6と、空気供給ライン6に設けられたコンプレッサ羽根車4を有する過給機3と、空気供給ライン6のコンプレッサ羽根車4よりも下流側に設けられた中間冷却器7と、を備える。中間冷却器7は、中間冷却器7を通過する空気を冷却するように構成された熱交換器からなる。
【0013】
図示される実施形態では、エンジンシステム2は、エンジン5から排出された排ガスを導くための排ガス排出ライン8と、エンジン5の内部に燃料を噴射するように構成された燃料噴射弁9と、制御装置11と、表示装置12とをさらに備える。
【0014】
制御装置11は、エンジンシステム2における各装置(エンジン5や燃料噴射弁9など)の運転を制御するためのエンジンコントロールユニットからなる。制御装置11は、電気回路から構成されてもよいし、コンピュータから構成されてもよい。制御装置11は、コンピュータから構成される場合、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサとを備え、プロセッサが、記憶装置に記憶されているプログラムを実行することにより、その機能を実現する。
【0015】
また、制御装置11は、詳しくは後述するように、表示装置12の表示を制御して表示装置12に過給機3のコンプレッサ32のコンプレッサマップMpを表示させ、コンプレッサマップMp上にコンプレッサ32の作動点をプロットして作動点の推移をモニタリングする。
【0016】
エンジン5は、少なくとも1つのシリンダ51と、少なくとも1つのシリンダ51の内部に各々が軸方向に沿って往復動可能に収容された少なくとも1つのピストン52と、を含む。エンジン5は、シリンダ51とピストン52により区画された燃焼室53を内部に有する。燃焼室53は、空気供給ライン6の中間冷却器7よりも下流側に気体を流通可能に接続されている。空気供給ライン6は、コンプレッサ32からの圧縮された空気を燃焼室53に導くための流路である。燃焼室53は、排ガス排出ライン8に気体を流通可能に接続されている。排ガス排出ライン8は、燃焼室53から排出された排ガスをタービン33に流通させるための流路である。
【0017】
燃料噴射弁9から燃焼室53又は空気供給ライン6に噴射された燃料は、空気供給ライン6を通じて燃焼室53に送られる空気に混合された後に、燃焼室53内で燃焼する。燃焼室53で燃焼後の排ガスは、排ガス排出ライン8を通り、エンジンシステム2の外部に排出される。
【0018】
(過給機)
図示される実施形態では、過給機3は、エンジン5から排出された排気(排ガス)のエネルギにより駆動するタービン33と、エンジン5に供給される空気を圧縮するコンプレッサ32と、回転シャフト31とを含む。コンプレッサ32は、上述した空気供給ライン6に設けられたコンプレッサ羽根車4と、コンプレッサ羽根車4を回転可能に収容するコンプレッサハウジング34と、を含む。コンプレッサ羽根車4は、回転シャフト31の一方側に機械的に接続されている。タービン33は、上述した排ガス排出ライン8に設けられたタービン翼35と、タービン翼35を回転可能に収容するタービンハウジング36と、を含む。タービン翼35は、回転シャフト31の他方側に機械的に接続されている。
【0019】
コンプレッサ32のコンプレッサ羽根車4を通過した空気は、空気供給ライン6を通じてエンジン5の燃焼室53に導かれ、燃焼室53における燃焼に供される。燃焼室53における燃焼により生じた排ガスは、排ガス排出ライン8を通じてタービン33のタービン翼35に導かれる。過給機3は、エンジン5から排出された排ガスのエネルギにより、タービン翼35を回転させるように構成されている。コンプレッサ羽根車4は、回転シャフト31を介してタービン翼35に機械的に連結されているため、タービン翼35の回転に連動して回転する。過給機3は、コンプレッサ羽根車4の回転により、コンプレッサ羽根車4を通過する空気を圧縮し、該空気の密度を高めてエンジン5に送るように構成されている。
【0020】
(エンジンシステムに搭載される計測機器)
エンジンシステム2は、図1に示されるように、エンジン5の運転状態に関する複数のパラメータを計測するための装置として、エンジン5の給気圧力(掃気圧力)Psを計測する給気圧力センサ22と、エンジン5の給気温度Tsを計測する給気温度センサ24、過給機3の回転数(以下、過給機回転数Ntと記載する。)を計測する過給機回転数センサ25と、タービン33の入口圧力(以下、タービン入口圧力P1と記載する。)を計測するタービン入口圧力センサ26と、タービン33の入口温度(以下、タービン入口温度T1と記載する。)を計測するタービン入口温度センサ27と、エンジン5の筒内圧力Pcを計測する筒内圧力センサ28と、エンジンの筒内温度Tcを計測するための筒内温度センサ29と、エンジン5の回転数(以下、エンジン回転数Neと記載する。)を計測するエンジン回転数センサ30と、エンジン5の燃料消費量F(燃料噴射弁9に供給される燃料の流量)を計測する燃料流量センサ38と、エンジン5の排気の酸素濃度C1を計測する酸素濃度センサ40と、を備える。図示する例では、給気圧力センサ22は空気供給ライン6における中間冷却器7とエンジン5の間の位置で給気圧力Psを計測し、給気温度センサ24は空気供給ライン6における中間冷却器7とエンジン5の間の位置で給気温度Tsを計測している。なお、酸素濃度センサ40は、エンジン5がガスエンジンやガソリンエンジンである場合に空燃比制御における酸素量を正確に把握するために設けられる酸素濃度センサであってもよい。
【0021】
上述した制御装置11には、給気圧力センサ22、給気温度センサ24、過給機回転数センサ25、タービン入口圧力センサ26、タービン入口温度センサ27、筒内圧力センサ28、筒内温度センサ29、エンジン回転数センサ30、燃料流量センサ38及び酸素濃度センサ40の各々から計測結果が送られるようになっている。すなわち、制御装置11は、給気圧力センサ22によって計測された給気圧力Ps、給気温度センサ24によって計測された給気温度Ts、過給機回転数センサ25によって計測された過給機回転数Nt、タービン入口圧力センサ26によって計測されたタービン入口圧力P1、タービン入口温度センサ27によって計測されたタービン入口圧力P1、筒内圧力センサ28によって計測された筒内圧力Pc、筒内温度センサ29によって計測された筒内温度Tc、エンジン回転数センサ30によって計測されたエンジン回転数Ne、燃料流量センサ38によって計測された燃料消費量F、酸素濃度センサ40によって計測された酸素濃度C1を取得するように構成されている。
【0022】
(サージング予兆検知方法)
図2は、上述した過給機3に適用可能なサージング予兆検知方法の概要を示すフロー図である。
図2に示すサージング予兆検知方法は、計測データ取得ステップ(S11)、推定ステップ(S12)、作動点推移モニタリングステップ(S13)及びサージング予兆検知ステップ(S14)を備える。以下、計測データ取得ステップ、推定ステップ、作動点推移表示ステップ及びサージング予兆検知ステップをそれぞれS11、S12、S13及びS14と記載する。以下で示す例では、S11~S14の各々は上述した制御装置11によって実行されるが、S11~S14のうち1つ以上の任意のステップが人によって手動で実行されてもよい。
【0023】
S11では、制御装置11は、エンジン5の運転状態に関する複数のパラメータの計測データ(エンジンシステム2の運転データ)を時々刻々とオンラインデータとして取得する。S11で制御装置11が取得するエンジン5の運転状態に関する複数のパラメータの計測データは、例えば上述の給気圧力Ps、給気温度Ts、過給機回転数Nt、タービン入口圧力P1、タービン入口温度T1、筒内圧力Pc、筒内温度Tc、エンジン回転数Ne、燃料消費量F及び酸素濃度C1のうち2種類以上のパラメータの計測データであってもよい。
【0024】
S12では、制御装置11は、S11で取得した複数のパラメータの計測データに基づいて、コンプレッサ32の圧力比R及びコンプレッサ32の吸込空気量Qを推定する。圧力比R及び吸込空気量Qの推定方法の詳細については後述する。
【0025】
S13では、制御装置11は、図3に示すように、コンプレッサ32の吸込空気量Qと圧力比Rとを座標軸とするコンプレッサマップMpを表示装置12に表示させて、S12で推定した吸込空気量Q及び圧力比Rにより定まるコンプレッサ32の作動点piをコンプレッサマップMp上に時系列でプロットして、作動点piの推移Lpiをモニタリングする。図3に示す例では、表示装置12に表示されるコンプレッサマップMpは、コンプレッサ32のサージラインLsと、サージラインLsに応じて定められた2つの閾値ラインLth1,Lth2と、過給機3の回転数毎の流量と圧力比との関係を示す等速ライン(LN1,LN2t,・・・)と、を含む。図示する例では、2つの閾値ラインLth1,Lth2の各々は、サージラインLsと平行又は略平行に設定されており、同一圧力比の条件下における吸込空気量Qは、サージラインLsよりも閾値ラインLth2の方が所定のマージン分大きくなっており、閾値ラインLth1よりも閾値ラインLth2の方がさらに所定のマージン分だけ大きくなっている。
【0026】
S14では、制御装置11は、S13で表示されたコンプレッサ32の現在の作動点pi(S12で推定されたコンプレッサ32の圧力比Rと吸込み空気量Qとにより定まる現在の作動点)と閾値ラインLth1,Lth2の各々とを比較することにより、コンプレッサ32のサージングの予兆を検知する。
【0027】
例えば、現在の作動点piと閾値ラインLth1とを比較して、現在の作動点piが閾値ラインLth1よりも小流量側に位置する場合には、サージングの予兆が生じていることを検知して、サージングの予兆が生じていることを警告する警告表示を表示装置12に表示させてもよいし、サージングの予兆が生じていることを示す警告音を不図示の他の警報装置によって発生させてもよい。また、現在の作動点piが閾値ラインLth1よりも小流量側に位置していない場合には、サージングの予兆が生じていないため、上記警告表示等は行わない。
【0028】
また、現在の作動点piが閾値ラインLth1よりも小流量側に位置する場合には、さらに、現在の作動点piと閾値ラインLth2とを比較する。この場合、現在の作動点piが閾値ラインLth2よりも小流量側に位置する場合には、サージングの強い予兆が生じていることを検知して、サージングの強い予兆が生じていることを警告する警告表示を表示装置12に表示させてもよいし、サージングの強い予兆が生じていることを示す警告音を不図示の警報装置によって発生させてもよい。なお、「現在の作動点piが閾値ラインよりも小流量側に位置する」とは、現在の作動点piの圧力比に対応する閾値ラインの流量よりも、現在の作動点piの流量の方が小さいことを意味する。
【0029】
図1図3を用いて説明したサージング予兆検知方法によれば、エンジン5の運転状態に関する複数のパラメータの計測データに基づいてコンプレッサの32作動点piを推定することができるため、作動点の推移Lpiをモニタリングしてコンプレッサ32の作動点piと閾値ラインLth1,Lth2とを比較することにより、エンジン5の運転中にコンプレッサ32のサージングの予兆を監視してサージングの予兆を速やかに精度よく検知することができる。これにより、サージングが発生する前にサージングの予防措置を講ずることができる。
【0030】
次に、上述したS11~S12における作動点piの推定方法の幾つかの具体例を図4図7を用いて説明する。
【0031】
図4は、作動点piの推定方法の一例を示す図である。
図4に示す例では、S11において、制御装置11は、エンジン5の運転状態に関する複数のパラメータの計測データ(エンジンシステム2の運転データ)として、給気圧力センサ22によって計測された給気圧力Psの計測データと、過給機回転数センサ25によって計測された過給機回転数Ntの計測データとを取得する。
【0032】
図4に示す例では、S12は、ステップS12a~S12bを含む。
S12aにおいて、制御装置11は、S11で取得した給気圧力Psに基づいて、中間冷却器7での圧力損失を考慮してコンプレッサ32の圧力比Rを算出(推定)する(S12a)。例えば、中間冷却器7での圧力損失の大きさをΔPとし、コンプレッサ32の入口圧力を大気圧P0と仮定すると、圧力比Rは、下記式(a)によって算出される。
R=(Ps+ΔP)/P0 ・・・(a)
【0033】
S12bにおいて、制御装置11は、S11で取得した過給機回転数Ntと、S12で算出した圧力比Rと、過給機回転数と圧力比とコンプレッサ32の吸込空気量との関係を示す上述のコンプレッサマップMpとに基づいて、S11で取得した過給機回転数NtとS12で算出した圧力比Rとに応じたコンプレッサ32の吸込空気量QをコンプレッサマップMpから推定する。ここで、コンプレッサマップMpは、例えば、過給機3の出荷前に過給機3を用いて行った試験のデータに基づくものであってもよいし、該試験のデータ以外の過去の実績値や実験値、数値解析結果などを基に作成されたものであってもよい。
【0034】
このように、図4に示す例では、過給機を備えるエンジンシステムにおいて一般的に計測が行われているエンジンの給気圧力を用いてコンプレッサ32の圧力比Rを推定できる。このため、エンジンシステム2にコンプレッサ32の出口圧力を計測する圧力センサやコンプレッサの圧力比を計測する圧力比計測装置が設けられていない場合でも、コンプレッサ32の圧力比を精度良く推定することができる。また、給気圧力Psの計測データと過給機回転数Ntの計測データとコンプレッサマップMpとを用いて、コンプレッサ32の吸込空気量Qを精度良く推定することができる。
【0035】
これにより、推定した圧力比R及び吸込空気量Qによって定まるコンプレッサ32の作動点piをモニタリングし、コンプレッサ32のサージングの予兆を速やかに精度良く検知することができる。
【0036】
図5は、作動点piの推定方法の他の一例を示す図である。
図5に示す例では、S11において、制御装置11は、エンジン5の運転状態に関する複数のパラメータの計測データ(エンジンシステム2の運転データ)として、給気圧力センサ22によって計測された給気圧力Psの計測データと、タービン入口圧力センサ26によって計測されたタービン入口圧力P1の計測データと、タービン入口温度センサ27によって計測されたタービン入口温度T1の計測データとを取得する。
【0037】
図5に示す例では、S12は、S12a及びS12c~S12eを含む。
S12aにおいて、制御装置11は、S11で取得した給気圧力Psに基づいて、図4を用いて説明した方法と同様の方法(例えば上記式(a)を用いた方法)により、中間冷却器7での圧力損失を考慮してコンプレッサ32の圧力比Rを算出(推定)する。
【0038】
S12cにおいて、制御装置11は、S11で取得したタービン入口圧力P1及びタービン入口温度T1と、予め定められた定数Kであるタービン修正流量Kと、に基づいて、タービンの質量流量であるタービン流量Gを算出(推定)する。
ここで、タービン修正流量Kは、K=(G√T)/Pによって表されるため、タービン流量Gは、下記式(b)を用いて算出される。
G=K・(P1)/√(T1) (b)
ここで、タービン修正流量Kは、例えば、過給機3の出荷前に過給機3を用いて行った試験のデータに基づくものであってもよいし、該試験のデータ以外の過去の実績値や実験値、数値解析結果などを基に作成されたものであってもよい。
【0039】
S12dにおいて、制御装置11は、S12cで算出したタービン流量Gに基づいてコンプレッサ32の質量流量であるコンプレッサ流量Jを算出する。そして、S12eにおいて、制御装置11は、S12dで算出したコンプレッサ流量Jをコンプレッサ32の体積流量である吸込空気量Qに変換する。ここで、コンプレッサ流量Jは、例えば、タービン流量Gとエンジン5の燃料消費量Fとの和により算出されてもよいし、タービン流量Gに対してエンジン5の燃料消費量Fが無視できる程度に小さい場合には、タービン流量Gと同一の値がコンプレッサ流量Jとして近似的に用いられてもよい。
【0040】
このように、図5に示す例では、過給機を備えるエンジンシステムにおいて一般的に計測が行われているエンジンの給気圧力を用いてコンプレッサ32の圧力比Rを推定できる。また、タービン33の入口圧力P1及び入口温度T1の計測データ並びにタービン修正流量Kに基づいて、コンプレッサ32の吸込空気量Qを精度良く推定することができる。
【0041】
これにより、推定した圧力比R及び吸込空気量Qによって定まるコンプレッサ32の作動点piをモニタリングし、コンプレッサ32のサージングの予兆を速やかに精度良く検知することができる。
【0042】
図6は、作動点piの推定方法の他の一例を示す図である。
図6に示す例では、S11において、制御装置11は、エンジン5の運転状態に関する複数のパラメータの計測データ(エンジンシステム2の運転データ)として、給気圧力センサ22によって計測された給気圧力Psの計測データと、給気温度センサ24によって計測された給気温度Tsの計測データ等を取得する。例えば、制御装置11は、給気圧力Ps及び給気温度Tsの計測データに加えて、筒内圧力センサ28によって計測された筒内圧力Pcの計測データと、筒内温度センサ29によって計測された筒内温度Tcの計測データと、エンジン回転数センサ30によって計測されたエンジン回転数Neの計測データと、タービン入口圧力センサ26によって計測されたエンジン5の背圧P1(タービン入口圧力)の計測データとを取得する。
【0043】
図6に示す例では、S12は、S12a及びS12f~S12iを含む。
S12aにおいて、制御装置11は、S11で取得した給気圧力Psに基づいて、図4を用いて説明した方法と同様の方法(例えば上記式(a)を用いた方法)により、中間冷却器7での圧力損失を考慮してコンプレッサ32の圧力比Rを算出(推定)する。
【0044】
S12fにおいて、S11で取得した給気圧力Ps及び給気温度Ts等(例えば給気圧力Ps、給気温度Ts、筒内圧力Pc、筒内温度Tc、エンジン回転数Ne及び背圧P1)並びにエンジン5の給気タイミング(掃気タイミング)及び排気タイミングに基づいて、エンジン5の充填効率η1及び掃気効率η2を算出する。例えば、S11で取得した給気圧力Ps及び給気温度Ts等と、これらのパラメータとエンジン5の充填効率と掃気効率との関係を示す相関情報Hとに基づいて、エンジン5の充填効率η1及び掃気効率η2を算出(推定)してもよい。
【0045】
S12gにおいて、エンジン5の仕様(例えばエンジンのボア径、ストローク及びシリンダ数)に基づいて、エンジン5の全行程容積の計画値TSVpを算出する。S12hにおいて、S12fで算出したエンジン5の充填効率η1及び掃気効率η2並びにS12gで算出したエンジン5の全行程容積の計画値TSVpに基づいて、エンジン5の全行程容積の実際値TSVaを算出(推定)する。S12iにおいて、S12hで算出したエンジン5の全行程容積の実際値TSVaに基づいてコンプレッサ32の吸込空気量Qを算出する。
【0046】
このように、図6に示す例では、過給機を備えるエンジンシステムにおいて一般的に計測が行われているエンジンの給気圧力を用いてコンプレッサ32の圧力比Rを推定できる。また、給気圧力Ps及び給気温度Ts等の計測データ並びにエンジン5の仕様に基づいて、コンプレッサ32の吸込空気量Qを精度良く推定することができる。
【0047】
これにより、推定した圧力比R及び吸込空気量Qによって定まるコンプレッサ32の作動点piをモニタリングし、コンプレッサ32のサージングの予兆を速やかに精度良く検知することができる。
【0048】
図7は、作動点piの推定方法の他の一例を示す図である。
図7に示す例では、S11において、制御装置11は、エンジン5の運転状態に関する複数のパラメータの計測データ(エンジンシステム2の運転データ)として、給気圧力センサ22によって計測された給気圧力Psの計測データと、燃料流量センサ38によって計測された燃料消費量Fの計測データと、酸素濃度センサ40によって計測された酸素濃度C1の計測データとを取得する。
【0049】
S12aにおいて、制御装置11は、S11で取得した給気圧力Psに基づいて、図4を用いて説明した方法と同様の方法(例えば上記式(a)を用いた方法)により、中間冷却器7での圧力損失を考慮してコンプレッサ32の圧力比Rを算出(推定)する。
【0050】
S12jにおいて、制御装置11は、燃料流量センサ38によって計測された燃料消費量Fに理論空気量を乗じることにより、エンジン5の空気消費量Vを算出する。
S12kにおいて、制御装置11は、酸素濃度センサ40によって計測された酸素濃度C1に基づいてエンジン5の空気過剰率mを算出する。
S12lにおいて、制御装置11は、S12jで算出した空気消費量VとS12kで算出した空気過剰率mとを乗じることにより、コンプレッサ32の吸込空気量Qを算出(推定)する。
【0051】
このように、図7に示す例では、過給機を備えるエンジンシステムにおいて一般的に計測が行われているエンジンの給気圧力を用いてコンプレッサ32の圧力比Rを推定できる。また、エンジン5の燃料消費量Fの計測データ及びエンジン5の排気の酸素濃度C1の計測データに基づいて、コンプレッサ32の吸込空気量Qを精度良く推定することができる。
【0052】
これにより、推定した圧力比R及び吸込空気量Qによって定まるコンプレッサ32の作動点piをモニタリングし、コンプレッサ32のサージングの予兆を速やかに精度良く検知することができる。
【0053】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0054】
例えば、上述した幾つかの実施形態では、給気圧力Psに基づいて圧力比Rを算出したが、例えば図5図7に示す幾つかの実施形態において、S11で給気圧力Psを取得することに代えて過給機回転数Ntを取得し、取得した過給機回転数Ntと、図5図7を用いて説明した何れかの方法で算出した吸込空気量Qと、上述のコンプレッサマップMpとに基づいて、取得した過給機回転数Nt及び推定した吸込空気量Qに応じたコンプレッサ32の圧力比RをコンプレッサマップMpから推定してもよい(図8参照)。かかる方法によっても、コンプレッサ32の吸込空気量Qと圧力比Rとよって定まる作動点piを推定することができる。
【0055】
また、図3に示した例では、2つの閾値ラインLth1,Lth2が設定されたが、閾値ラインの数は限定されず、1以上であればよい。
【0056】
また、幾つかの実施形態に係るサージング予兆検知方法は、図4図8における何れか1つの推定ステップ(S12)で推定したコンプレッサ32の吸込空気量Qと他の何れか1つの推定ステップ(S12)で推定したコンプレッサ32の吸込空気量Qとに差異が無いかを確認するステップを備えていてもよい。
【0057】
すなわち、以下の(1)~(4)のうち何れか1つの推定ステップで推定したコンプレッサ32の吸込空気量Qと他の何れか1つの推定ステップで推定したコンプレッサ32の吸込空気量Qとに差異が無いかを確認するステップを備えていてもよい。これにより、コンプレッサ32の吸込空気量Qの推定値の信頼性を高めることができる。
(1)計測データ取得ステップで取得する複数のパラメータの計測データは、給気圧力Psの計測データ過給機回転数Ntの計測データを含み、推定ステップでは、給気圧力Psに基づいて推定したコンプレッサ32の圧力比Rと、計測データ取得ステップで取得した過給機回転数Ntと、過給機回転数Ntと圧力比Rとコンプレッサ32の吸込空気量Qとの相関関係を示すコンプレッサマップMpと、に基づいてコンプレッサ32の吸込空気量Qを推定する。
(2)計測データ取得ステップで取得する複数のパラメータの計測データは、過給機3におけるタービン33の入口圧力P1及び入口温度T1の計測データを含み、推定ステップでは、計測データ取得ステップで取得したタービン33の入口圧力P1及び入口温度T1並びにタービン修正流量Kに基づいて、コンプレッサ32の吸込空気量Qを推定する。
(3)計測データ取得ステップで取得する複数のパラメータの計測データは、エンジン5の給気温度Ts及び給気圧力Psの計測データを含み、推定ステップでは、計測データ取得ステップで取得した給気温度Ts及び給気圧力Ps並びにエンジン5の仕様に基づいて、コンプレッサ32の吸込空気量Qを推定する。
(4)計測データ取得ステップで取得する複数のパラメータの計測データは、エンジン5の燃料消費量Fと、エンジン5の排気の酸素濃度C1とを含み、推定ステップでは、計測データ取得ステップで取得した燃料消費量F及び酸素濃度C1並びにエンジン5の使用燃料の理論空気量に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
【0058】
また、幾つかの実施形態では、上記の(1)~(4)のうち何れか1つの推定ステップで推定したコンプレッサ32の吸込空気量Qと他の何れか1つの推定ステップで推定したコンプレッサ32の吸込空気量Qとの平均値を用いて定めた作動点と、閾値ラインとを比較することにより、コンプレッサ32のサージングの予兆を検知してもよい。これにより、コンプレッサ32の作動点を精度良く推定してコンプレッサ32のサージングの予兆を速やかに精度良く検知することができる。
【0059】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0060】
[1]本開示の少なくとも一実施形態に係るサージング予兆検知方法は、
過給機(例えば上述の過給機3)におけるコンプレッサ(例えば上述のコンプレッサ32)のサージングの予兆を検知するためのサージング予兆検知方法であって、
前記過給機に接続されたエンジン(例えば上述のエンジン5)の運転状態に関する複数のパラメータ(例えば上述の給気圧力Ps、給気温度Ts、過給機回転数Nt、タービン入口圧力P1、タービン入口圧力P1、筒内圧力Pc、筒内温度Tc、エンジン回転数Ne、燃料消費量F及び酸素濃度C1のうち適切な2種類以上のパラメータ)の計測データを取得する計測データ取得ステップと、
前記複数のパラメータの計測データに基づいて、前記コンプレッサの圧力比(例えば上述の圧力比R)及び吸込空気量(例えば上述の吸込空気量Q)を推定する推定ステップと、
前記コンプレッサの吸込空気量と圧力比とを座標軸とするコンプレッサマップ(例えば上述のコンプレッサマップMp)上に、前記推定ステップで推定した前記圧力比及び前記吸込空気量により定まる前記コンプレッサの作動点(例えば上述の作動点pi)をプロットして、前記作動点の推移(例えば上述の作動点の推移Lpi)をモニタリングする作動点推移モニタリングステップと、
前記作動点推移モニタリングステップでモニタリングされる前記作動点と、サージラインに応じて定められた閾値ライン(例えば上述のLth1及び/又はLth2)とを比較することにより、前記コンプレッサのサージングの予兆を検知するサージング予兆検知ステップと、
を備える。
【0061】
上記[1]に記載のサージング予兆検知方法によれば、エンジンの運転状態に関する複数のパラメータの計測データに基づいてコンプレッサの作動点(圧力比及び吸込空気量の組み合わせ)を推定することができるため、作動点の推移をモニタリングしてコンプレッサの作動点と閾値ラインとを比較することにより、エンジンの運転中にコンプレッサのサージングの予兆を監視してサージングの予兆を速やかに精度よく検知することができる。これにより、サージングが発生する前にサージングの予防措置を講ずることができる。
【0062】
[2]幾つかの実施形態では、上記[1]に記載のサージング予兆検知方法において、
前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気圧力(例えば上述の給気圧力Ps)の計測データを含み、
前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記給気圧力に基づいて前記コンプレッサの圧力比を推定する。
【0063】
上記[2]に記載のサージング予兆検知方法によれば、過給機を備えるエンジンシステムにおいて一般的に計測が行われているエンジンの給気圧力を用いてコンプレッサの圧力比を推定できる。また、エンジンシステムにコンプレッサの出口圧力を計測する圧力センサやコンプレッサの圧力比を計測する圧力比計測装置が設けられていない場合でも、コンプレッサの圧力比を精度良く推定してコンプレッサのサージングの予兆を速やかに精度よく検知することができる。
【0064】
[3]幾つかの実施形態では、上記[2]に記載のサージング予兆検知方法において、
前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記過給機の回転数(例えば上述の過給機回転数Nt)の計測データとを含み、
前記推定ステップでは、前記給気圧力に基づいて推定した前記コンプレッサの圧力比と、前記計測データ取得ステップで取得した前記過給機の回転数と、前記過給機の回転数と前記圧力比と前記コンプレッサの吸込空気量との相関関係を示す吸込空気量相関情報(例えば上述のコンプレッサマップMp)と、に基づいて前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
【0065】
上記[3]に記載のサージング予兆検知方法によれば、エンジンの給気圧力の計測データと過給機の回転数の計測データを用いて、コンプレッサの吸込空気量を精度良く推定することができる。これにより、推定した吸込空気量を用いてコンプレッサの作動点をモニタリングし、コンプレッサのサージングの予兆を速やかに精度良く検知することができる。
【0066】
[4]幾つかの実施形態では、上記[1]に記載のサージング予兆検知方法において、
前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記過給機におけるタービンの入口圧力(例えば上述のタービン入口圧力P1)及び入口温度(例えば上述のタービン入口温度T1)の計測データを含み、
前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記タービンの入口圧力及び入口圧力並びにタービン修正流量(例えば上述のタービン修正流量K)に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
【0067】
上記[4]に記載のサージング予兆検知方法によれば、タービンの入口圧力及び入口温度の計測データを用いて、コンプレッサの吸込空気量を精度良く推定することができる。これにより、推定した吸込空気量を用いてコンプレッサの作動点をモニタリングし、コンプレッサのサージングの予兆を速やかに精度良く検知することができる。
【0068】
[5]幾つかの実施形態では、上記[1]に記載のサージング予兆検知方法において、
前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気温度(例えば上述の給気温度Ts)及び給気圧力(例えば上述の給気圧力Ps)の計測データを含み、
前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記給気温度及び前記給気圧力並びに前記エンジンの仕様(例えば上述のエンジン5のボア径、ストローク及びシリンダ数)に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
【0069】
上記[5]に記載のサージング予兆検知方法によれば、エンジンの給気温度及び給気圧力の計測データを用いて、コンプレッサの吸込空気量を精度良く推定することができる。これにより、推定した吸込空気量を用いてコンプレッサの作動点をモニタリングし、コンプレッサのサージングの予兆を速やかに精度良く検知することができる。
【0070】
[6]幾つかの実施形態では、上記[1]に記載のサージング予兆検知方法において、
前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの燃料消費量と、前記エンジンの排気の酸素濃度(例えば上述の酸素濃度C1)とを含み、
前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記燃料消費量及び前記酸素濃度並びに前記エンジンの使用燃料の理論空気量に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
【0071】
上記[6]に記載のサージング予兆検知方法によれば、エンジンの燃料消費量の計測データ及びエンジンの排気の酸素濃度の計測データを用いて、コンプレッサの吸込空気量を精度良く推定することができる。これにより、推定した吸込空気量を用いてコンプレッサの作動点をモニタリングし、コンプレッサのサージングの予兆を速やかに精度良く検知することができる。
【0072】
[7]幾つかの実施形態では、上記[1]に記載のサージング予兆検知方法において、
以下の(1)~(4)のうち何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量と他の何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量とに差異が無いかを確認するステップを含む、請求項1に記載のサージング予兆検知方法。
(1)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気圧力(例えば上述の給気圧力Ps)の計測データと、前記過給機の回転数(例えば上述の過給機回転数Nt)の計測データとを含み、前記推定ステップでは、前記エンジンの給気圧力に基づいて推定した前記コンプレッサの圧力比(例えば上述の圧力比R)と、前記計測データ取得ステップで取得した前記過給機の回転数と、前記過給機の回転数と前記圧力比と前記コンプレッサの吸込空気量との相関関係を示す吸込空気量相関情報(例えば上述のコンプレッサマップMp)と、に基づいて前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(2)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記過給機におけるタービンの入口圧力(例えば上述のタービン入口圧力P1)及び入口温度(例えば上述のタービン入口温度T1)の計測データを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記タービンの入口圧力及び入口温度並びにタービン修正流量(例えば上述のタービン修正流量K)に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(3)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気温度(例えば上述の給気温度Ts)及び給気圧力(例えば上述の給気圧力Ps)の計測データを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記給気温度及び前記給気圧力並びに前記エンジンの仕様に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(4)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの燃料消費量(例えば上述の燃料消費量F)と、前記エンジンの排気の酸素濃度(例えば上述の酸素濃度C1)とを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記燃料消費量及び前記酸素濃度並びに前記エンジンの使用燃料の理論空気量に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
【0073】
上記[7]に記載のサージング予兆検知方法によれば、上記(1)~(4)のうち何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量と他の何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量とに差異が無いかを確認することにより、コンプレッサの吸込空気量の推定値の信頼性を高めることができる。
【0074】
[8]幾つかの実施形態では、上記[1]に記載のサージング予兆検知方法において、
以下の(1)~(4)のうち何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量と他の何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量との平均値を用いて定めた前記コンプレッサの作動点と、前記閾値ラインとを比較することにより、前記コンプレッサのサージングの予兆を検知する、請求項1に記載のサージング予兆検知方法。
(1)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気圧力(例えば上述の給気圧力Ps)の計測データと、前記過給機の回転数(例えば上述の過給機回転数Nt)の計測データとを含み、前記推定ステップでは、前記エンジンの給気圧力に基づいて推定した前記コンプレッサの圧力比(例えば上述の圧力比R)と、前記計測データ取得ステップで取得した前記過給機の回転数と、前記過給機の回転数と前記圧力比と前記コンプレッサの吸込空気量との相関関係を示す吸込空気量相関情報(例えば上述のコンプレッサマップMp)と、に基づいて前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(2)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記過給機におけるタービンの入口圧力(例えば上述のタービン入口圧力P1)及び入口温度(例えば上述のタービン入口温度T1)の計測データを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記タービンの入口圧力及び入口温度並びにタービン修正流量(例えば上述のタービン修正流量K)に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(3)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの給気温度(例えば上述の給気温度Ts)及び給気圧力(例えば上述の給気圧力Ps)の計測データを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記給気温度及び前記給気圧力並びに前記エンジンの仕様に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
(4)前記計測データ取得ステップで取得する前記複数のパラメータの計測データは、前記エンジンの燃料消費量(例えば上述の燃料消費量F)と、前記エンジンの排気の酸素濃度(例えば上述の酸素濃度C1)とを含み、前記推定ステップでは、前記計測データ取得ステップで取得した前記燃料消費量及び前記酸素濃度並びに前記エンジンの使用燃料の理論空気量に基づいて、前記コンプレッサの吸込空気量を推定する。
【0075】
上記[8]に記載のサージング予兆検知方法によれば、上記(1)~(4)のうち何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量と他の何れか1つの推定ステップで推定した前記コンプレッサの吸込空気量との平均値を用いて前記コンプレッサの作動点を推定するため、コンプレッサの作動点を精度良く推定して前記コンプレッサのサージングの予兆を速やかに精度良く検知することができる。
【符号の説明】
【0076】
2 エンジンシステム
3 過給機
4 コンプレッサ羽根車
5 エンジン
6 空気供給ライン
7 中間冷却器
8 排ガス排出ライン
9 燃料噴射弁
11 制御装置
12 表示装置
22 給気圧力センサ
24 給気温度センサ
25 過給機回転数センサ
26 タービン入口圧力センサ
27 タービン入口温度センサ
28 筒内圧力センサ
29 筒内温度センサ
30 エンジン回転数センサ
31 回転シャフト
32 コンプレッサ
33 タービン
34 コンプレッサハウジング
35 タービン翼
36 タービンハウジング
38 燃料流量センサ
40 酸素濃度センサ
51 シリンダ
52 ピストン
53 燃焼室
C1 酸素濃度
F 燃料消費量
G タービン流量
H 相関情報
J コンプレッサ流量
K タービン修正流量
Lpi 推移
Ls サージライン
Lth1,Lth2 閾値ライン
Mp コンプレッサマップ(吸込空気量相関情報)
Ne エンジン回転数
Nt 過給機回転数
P1 タービン入口圧力(背圧)
Pc 筒内圧力
Ps 給気圧力
Q 吸込空気量
R 圧力比
T1 タービン入口温度
TSVa 全行程容積の実際値
TSVp 全行程容積の計画値
Tc 筒内温度
Ts 給気温度
V 空気消費量
m 空気過剰率
pi 作動点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8