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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067393
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】高耐久リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20230509BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230509BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20230509BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0568
H01M50/414
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178583
(22)【出願日】2021-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダムアライアンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】津田 遼平
(72)【発明者】
【氏名】福澤 武治
(72)【発明者】
【氏名】浜中 信秋
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021EE02
5H021HH01
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM01
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM06
5H029AM07
5H029DJ04
5H029HJ01
5H029HJ02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐久性が高くサイクル寿命の長いリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】電解質は、式(1)で表されるアニオンとリチウムカチオンとのリチウム塩と、式(1)で表されるアニオンと式(2)で表されるカチオンとの有機塩と、を少なくとも含む、リチウム二次電池とする。


【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解質と、セパレータとを少なくとも含むリチウム二次電池であって、
該電解質は、下記式(1)で表されるアニオンと、リチウムカチオンとのリチウム塩と、
下記式(1)で表されるアニオンと、下記式(2)で表されるカチオンとの有機塩と、
を少なくとも含み、
該電解質全体の重量に対する該リチウム塩と該有機塩の総重量が72重量%以上であり、かつ該リチウム塩と該有機塩の総重量のうち該有機塩の割合が56~82重量%であり、
該セパレータは、高分子樹脂を基材とする膜構造を形成しており、
該高分子樹脂は、分子内にカルボニル基を含むモノマーを構成単位とするコポリマーであり、
該モノマーに占める該カルボニル基由来の酸素の存在量が、7重量%以上21重量%以下である、
前記リチウム二次電池。
【化1】

(式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)
【化2】

(式(2)中、RおよびRは、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R、RおよびRは、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択され、但しR、RおよびRの少なくとも1つは水素原子である。)
【請求項2】
該式(1)で表されるアニオンが、ビス(フルオロスルホニル)イミド、(フルオロ)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選択される1つ以上である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
該有機塩の式(2)で表されるカチオンは、R、RおよびRが水素原子であるアルキルイミダゾリムカチオンである、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
該リチウム塩の式(1)で表されるアニオンと、該有機塩の式(1)で表されるアニオンとが、同一のアニオンである、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
該セパレータは、該基材の重量を100重量部として99重量部以上のポリイミド樹脂を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のリチウム二次電池に関する。より詳細には、本発明は、特定のアニオンとリチウムカチオンとのリチウム塩と、特定のアニオンと特定のカチオンとの有機塩とを含む電解質を用いたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ等の携帯型コードレス製品は益々小型化、ポータブル化が進んでいる。また、大気汚染や二酸化炭素の増加等の環境問題の観点から、ハイブリッド自動車、電気自動車の開発がすすめられ、実用化の段階となっている。これら電子機器や電気自動車などには、高効率、高出力、高エネルギー密度、軽量等の特徴を有する優れた二次電池が求められている。このような特性を有する二次電池の開発、研究が盛んに行われ、リチウム電池やリチウムイオン電池等の二次電池が種々実用化されている。
【0003】
従来、リチウム二次電池用非水電解液は、リチウム塩を溶解した極性非プロトン性有機溶媒が使用されていた。これらは引火点が低く、過充電時や短絡時に発熱により引火や爆発等が起こる可能性があり、安全性に難があった。リチウム二次電池を使用する電気機器類の小型化や軽量化を進める上で、高出力・高容量のリチウム二次電池の開発が急務となり、これに伴い、リチウム二次電池の安全性の向上を図る必要があった。そこで、リチウム二次電池の非水電解液に、イオン液体を使用することが試みられている。ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンをアニオン成分として含むイオン液体は、粘度が比較的低く、高エネルギー密度、高電圧であるため、近年、リチウム二次電池の非水電解液の溶媒としてよく検討されている。
【0004】
一方、特許文献1は、N(CSO 等のアニオン成分を含むイオン性液体及びリチウム塩を含む電解液と、空孔率が80%~98%のセパレータを用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。
【0005】
さらに特許文献2は、リチウムイミド塩と常温溶融塩と高蒸気圧溶媒とを含有するリチウムイオン二次電池用電解液が開示されている。
【0006】
特許文献3には、表面に、モル比が0.2:0.8から0.8:0.2となるように、-C-Fと、-C-OOHおよび-C-C=Oからなる群より選択される一種以上の極性官能基を備えた多孔性樹脂を含んだリチウム二次電池用分離膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-189239号公報
【特許文献2】特開2018-170271号公報
【特許文献3】特表2019-503571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、イオン液体を非水電解質二次電池の電解液に利用することは多数試みられている。特許文献1は、従来から用いられているカーボネート系溶媒よりも粘性が高いイオン液体を電解液に用いるにあたり、セパレータの空孔率や正極合剤に工夫をすることにより大電流特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することを目的としている。さらに特許文献2は、比較的不織布セパレータへの含浸が難しい常温溶融塩を利用したリチウムイオン二次電池において、所定の高蒸気圧溶媒を添加することによりセパレータへの電解液の含浸を高め、リチウムイオン二次電池の初期容量を向上させることを目的としている。特許文献3は、プロピレンカーボネート等の従来型の有機溶媒を用いた電解液を使用するリチウム二次電池において、負極でのリチウムデンドライトの形成を防ぐべく、表面に-C-Fと、-C-OOHおよび-C-C=Oからなる群より選択される一種以上の極性官能基を備えた多孔性樹脂を使用することを特徴としている。
一方、リチウム二次電池の特性の一つとしてサイクル寿命があるが、イオン液体を非水電解質二次電池の電解液に利用する従来技術の中には、二次電池のサイクル寿命の改善を試みたものがなかった。イオン液体を利用した二次電池には、充放電サイクルを繰り返すと、充電容量や放電容量がたちまち下落してしまうという問題があるが、このような課題に取り組む従来技術はない。
【0009】
したがって、本発明者らは、イオン液体を利用した二次電池において、特にサイクル寿命を向上させることを目的に、電解質とセパレータとの組み合わせを検討した。本発明は、耐久性が高く、サイクル寿命の長い、新規なリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、正極と、負極と、電解質と、セパレータとを少なくとも含むリチウム二次電池である。ここで該電解質は、下記式(1)で表されるアニオンと、リチウムカチオンとのリチウム塩と、下記式(1)で表されるアニオンと、下記式(2)で表されるカチオンとの有機塩と、を少なくとも含み、該電解質全体の重量に対する該リチウム塩と該有機塩の総重量が72重量%以上であり、かつ該リチウム塩と該有機塩の総重量のうち該有機塩の割合が56~82重量%であり、該セパレータは、高分子樹脂を基材とする膜構造を形成しており、該高分子樹脂は、分子内にカルボニル基を含むモノマーを構成単位とするコポリマーであり、該モノマーに占める該カルボニル基由来の酸素の存在量が、7重量%以上21重量%以下であることを特徴とする。
【化1】

(式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)
【化2】

(式(2)中、RおよびRは、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R、RおよびRは、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択され、但しR、RおよびRの少なくとも1つは水素原子である。)
【0011】
ここで、該式(1)で表されるアニオンが、ビス(フルオロスルホニル)イミド、(フルオロ)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選択される1つ以上であることが好ましい。
【0012】
また、該有機塩の式(2)で表されるカチオンは、R、RおよびRが水素原子であるアルキルイミダゾリムカチオンであることが好ましい。
【0013】
該リチウム塩の式(1)で表されるアニオンと、該有機塩の式(1)で表されるアニオンとが、同一のアニオンであると、より好ましい。
【0014】
該セパレータは、該基材の重量を100重量部として99重量部以上のポリイミド樹脂を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかるリチウム二次電池は、高出力・高容量でありながら、耐久性に優れ、サイクル寿命が長い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一の実施形態は、正極と、負極と、電解質と、セパレータとを少なくとも含むリチウム二次電池である。ここで当該電解質は、下記式(1)で表されるアニオンと、リチウムカチオンとのリチウム塩と、下記式(1)で表されるアニオンと、下記式(2)で表されるカチオンとの有機塩と、を少なくとも含み、該電解質全体の重量に対する該リチウム塩と該有機塩の総重量が72重量%以上であり、かつ該リチウム塩と該有機塩の総重量のうち該有機塩の割合が56~82重量%であり、該セパレータは、高分子樹脂を基材とする膜構造を形成しており、該高分子樹脂は、分子内にカルボニル基を含むモノマーを構成単位とするコポリマーであり、該モノマーに占める該カルボニル基由来の酸素の存在量が、7重量%以上21重量%以下であることを特徴とする。
【化3】

(式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)
【化4】

(式(2)中、RおよびRは、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R、RおよびRは、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択され、但しR、RおよびRの少なくとも1つは水素原子である。)
【0017】
実施形態の二次電池とは、可逆的に充放電可能な化学電池のことを云う。本明細書では、リチウムイオンの移動により可逆的に充電および放電を行う電池をすべてリチウム二次電池と称する。本明細書において、リチウム二次電池の語は、後述する負極活物質として金属リチウムを用いた、いわゆる金属リチウム二次電池と、負極活物質としてリチウムイオンを吸脱着することが可能な物質を用いた、リチウムイオン二次電池の両方を含むものとする。
【0018】
実施形態における正極ならびに負極を含む電極は、リチウム二次電池の構成要素である。リチウム二次電池の放電の際に、電位の高い方の電極が正極、電位の低い方の電極が負極である。実施形態において、電極は、電極集電体の表面に電極活物質を含む電極合剤層が形成されてなる。ここで電極集電体は、通常、金属板または金属箔から構成され、電極活物質をその表面に保持し、電流を電極活物質に供給する、あるいは電極活物質から電流が供給される役割を果たす。また、電極活物質とは、化学反応を起こしてエネルギーを放出する物質であり、特に二次電池内において電池反応を起こして外部に電気エネルギーを放出することができる物質のことである。電極合剤層は、先述の電極活物質のほか、導電助剤やバインダを必要に応じて含む電極活物質混合物を堆積させた層である。導電助剤を互いに結着して電極合剤層を構成するためのものである。電極合剤層は、電池反応の場を提供する。ここで導電助剤とは、電極合剤質層中の電子移動を補助するためのものである。一方、バインダとは、上述の電極活物質、および場合により導電助剤を互いに結着して電極合剤層を構成するためのものである。
【0019】
実施形態において、正極は、正極集電体の表面に正極活物質を含む正極合剤層が形成されたものである。正極集電体は、金属板または金属箔、特にアルミニウム板またはアルミニウム箔から構成され、正極活物質をその表面に保持し、電流を正極活物質に供給する、あるいは正極活物質から電流が供給される役割を果たす。正極集電体の厚さは、好ましくは5μm~20μmである。ここで正極活物質として用いられる材料としては、特に限定されないが、リチウムイオンを充放電時に吸蔵、放出できる金属酸化物や金属硫化物が好ましい。このような金属酸化物や金属硫化物として、バナジウムの酸化物、バナジウムの硫化物、モリブデンの酸化物、モリブデンの硫化物、マンガンの酸化物、クロムの酸化物、チタンの酸化物、チタンの硫化物及びこれらの複合酸化物、複合硫化物等が挙げられる。このような化合物としては、たとえばCr38、V25、V518、VO2、Cr25、MnO2、TiO2、MoV28、TiS225MoS2、MoS3VS2、Cr0.250.752、Cr0.50.52が挙げられる。また、LiMY2(Mは、Co、Ni等の遷移金属、YはO、S等のカルコゲン化合物)、LiM24(MはMn、YはO)、WO3等の酸化物、CuS、Fe0.250.752、Na0.1CrS2等の硫化物、NiPS8,FePS8等のリン、硫黄化合物等を用いることもできる。また、マンガン酸化物、スピネル構造を有するリチウム・マンガン複合酸化物も好ましいものである。
【0020】
正極活物質として、具体的には、LiCoO2、LiNiCoMn、LiNiCoAl、Li6FeO4、LiMn、Li(NiMn、LiVOPO、LiMnO-LiMO固溶体等の、リチウムを含む、リチウム複合酸化物を好適に用いることができる。
【0021】
実施形態において、正極合剤層は、先述の正極活物質のほか、導電助剤やバインダを必要に応じて含む正極活物質混合物を堆積させた層である。正極合剤層は、電池反応(正極反応)の場を提供する。ここで導電助剤とは、正極合剤層中の電子移動を補助するためのものである。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料を用いることができる。一方、バインダとは、上述の正極活物質、場合により導電助剤を互いに結着して正極合剤層を構成するためのものである。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。その他、正極合剤層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用してもよい。
【0022】
正極は、正極活物質、導電助剤、バインダを含む正極合剤を適切な溶媒に分散させたスラリを、概して平面状の正極集電体の少なくとも1つの表面に塗布し、溶媒を蒸発させて正極合剤層を形成することにより得ることができる。
【0023】
本実施形態において金属リチウム二次電池を作製する場合、正極活物質は、LiNi1-x(0<a<1.2、0.45<x<0.95、Mは、Mn、Co、Fe、Zr、Alから選択される少なくとも1種以上の元素)で表されるリチウムニッケル複合酸化物(NCM、NMC等と称される。)を含むことが好ましい。より具体的には、LiNiCoMn1-x-yやLiNiCoAl1-x-y(0.45<x<0.95、0.01≦y<0.55)(NCAと称される。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が好ましい。
【0024】
正極活物質の含有量は、正極活物質層の全体を100質量部としたとき、85質量部以上99.4質量部以下であることが好ましい。これによりリチウムの十分な吸蔵および放出が期待できる。
【0025】
バインダの含有量は、正極活物質層の全体を100質量部としたとき、0.1質量部以上5.0質量部以下が好ましい。バインダの含有量が上記範囲内であると、電極スラリの塗工性、バインダの結着性および電池特性のバランスがより一層優れる。また、バインダの含有量が上記上限値以下であると、電極活物質の割合が大きくなり、電極質量当たりの容量が大きくなるため好ましい。バインダの含有量が上記下限値以上であると、電極剥離が抑制されるため好ましい。
【0026】
導電助剤の含有量は、正極活物質層の全体を100質量部としたとき、0.1質量部以上3.0質量部以下であることが好ましい。導電助剤の含有量が上記上限値以下であると、電極活物質の割合が大きくなり、電極質量当たりの容量が大きくなるため好ましい。導電助剤の含有量が上記下限値以上であると、電極の導電性がより良好になるため好ましい。
【0027】
正極活物質層の密度は特に限定されないが、たとえば、2.0~3.6g/cmとすることが好ましい。この数値範囲内とすると、高放電レートでの使用時における放電容量が向上するため好ましい。
【0028】
一方、実施形態において、負極は、負極集電体の表面に負極活物質を含む負極合剤層が形成されたものである。負極集電体は、好ましくは金属板または金属箔、特に銅板または銅箔から構成され、負極活物質をその表面に保持し、電流を負極活物質に供給する、あるいは負極活物質から電流が供給される役割を果たす。負極集電体として銅または銅合金にリチウムを点在させたものや、銅または銅合金に他の金属種(たとえば、スズ、インジウム)をめっきや蒸着により成膜したものを用いることもできる。負極集電体の厚さは、好ましくは5μm~20μmである。ここで負極活物質として用いられる材料としては、正極から移動するリチウムイオンを吸脱着することが可能な物質であれば特に限定されないが、炭素材料、特に黒鉛を挙げることができる。黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形態であることが好ましい。黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛がある。天然黒鉛は安価に大量に入手することができ、構造が安定し耐久性に優れている。人造黒鉛とは人工的に生産された黒鉛のことであり、純度が高い(同素体等の不純物がほとんど含まれていない)ため電気抵抗が小さい。実施形態における負極活物質として、天然黒鉛、人造黒鉛とも好適に用いることができる。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛、あるいは非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を用いることもできる。非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メゾポーラスカーボン等が挙げられる。これらの負極活物質は場合により混合して用いてもよい。また、非晶質炭素で被覆された黒鉛を用いることもできる。
なお、実施形態の負極における負極活物質として、金属リチウムを用いることもできる。
【0029】
実施形態において、負極合剤層は、先述の負極活物質のほか、導電助剤やバインダを必要に応じて含む負極活物質混合物を堆積させた層である。負極合剤層は、電池反応(負極反応)の場を提供する。ここで導電助剤とは、負極合剤層中の電子移動を補助するためのものである。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料を用いることができる。一方、バインダとは、上述の負極活物質、場合により導電助剤を互いに結着して負極合剤層を構成するためのものである。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。その他、負極合剤層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤物を適宜使用してもよい。
【0030】
負極は、負極活物質、導電助剤、バインダを含む負極合剤を適切な溶媒に分散させたスラリを、概して平面状の負極集電体の少なくとも1つの表面に塗布し、溶媒を蒸発させて負極合剤層を形成することにより得ることができる。負極活物質として金属リチウムを用いる場合は、スパッタリング、メッキ、蒸着、箔の貼合等の従来から既知の方法により負極集電体の表面に金属リチウムの層を設けることができる。また負極活物質として、黒鉛等の炭素材料を用いることもできる。
【0031】
また、実施形態で用いる負極は、負極集電体のみから構成されていてもよい。負極集電体のみから構成されるとは、負極合剤層等が設けられていない負極集電体をそのまま用いるという意味である。すなわち、実施形態のリチウム二次電池の初期状態において、集電体が露出した状態の負極であることを意味する。
【0032】
負極集電体からなる負極を用いた本実施形態のリチウム二次電池は、使用に先立ち電圧を印加することで、上述の正極に由来するリチウムが負極集電体上に析出して負極合剤層を形成する。実施形態のリチウム二次電池を、初回充電電圧4.0V以上で充電すると、負極上に適切な量の負極活物質であるリチウムが析出する。このように、負極集電体からなる負極を用いることで、リチウム二次電池の製造過程において高い反応性を有する金属リチウムを直接使用する必要がなくなるので、電池の製造時や製造後の発火リスクを軽減することができる。
【0033】
実施形態のリチウム二次電池は、電解質を含む。実施形態において電解質は、下記式(1):
【化5】

(式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)で表されるアニオンと、リチウムカチオンとのリチウム塩と、
下記式(1):
【化6】

(式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。)
で表されるアニオンと、下記式(2):
【化7】

(式(2)中、RおよびRは、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R、RおよびRは、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択され、但しR、RおよびRの少なくとも1つは水素原子である。)で表されるカチオンとの有機塩と、を少なくとも含む。
【0034】
ここで、式(1)中、RおよびRは、同一または異なって、フッ素原子または炭素数1~4のフッ素化アルキル基から選択される。式(1)で表されるアニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)、(フルオロ)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドおよびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)からなる群より選択される1つ以上であることが好ましい。すなわち、実施形態において、式(1)で表されるアニオンと、リチウムカチオンとのリチウム塩とは、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム、(フルオロ)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムおよびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムからなる群より選択される1つ以上である。
【0035】
一方、式(2)で表されるカチオンは、一般にイミダゾリウムカチオンと呼ばれるカチオンである。式(2)で表されるカチオンのRおよびRは、同一または異なって、炭素数1~8のアルキル基から選択され、R、RおよびRは、同一または異なって、水素原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群より選択される。ここでR、RおよびRの少なくとも1つは水素原子である。R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子であることの技術的な意義は、後述する。なお、式(2)で表されるカチオンは、R、RおよびRが水素原子であるアルキルイミダゾリムカチオンであることが非常に好ましい。式(2)で表されるカチオンとして、たとえば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-n-オクチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオンが挙げられる。
【0036】
実施形態において、電解質全体の重量に対するリチウム塩と有機塩の総重量が72重量%以上であり、かつリチウム塩と有機塩の総重量のうち有機塩の割合が56~82重量%であることが好ましい。実施形態の電解質がこの割合を満たす場合に、特にリチウム二次電池のサイクル特性が向上し、リチウム二次電池の寿命が改善することが見いだされた。なお、電解質は、リチウム塩と有機塩の外、これらの塩の溶剤であるハイドロフルオロエーテル類(たとえば1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル)、カーボネート類、エーテル類、エステル類、スルホン類、ニトリル類、リン化合物、ホウ素化合物、フッ素化芳香族化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等含んでいて良い。
【0037】
実施形態の電解質は、イオン(アニオンとカチオン)のみから構成される有機塩を主成分として含むものである。実施形態の電解質に含有されている有機塩は、一般にイオン液体、イオン性液体または常温溶融塩と呼称される液体の塩であることが好ましい。本明細書では、このような液体の塩を主にイオン液体と称するものとする。本実施形態においては、リチウム塩と有機塩(イオン液体)との2種の塩を主成分として用いることが好ましい。ここで、2種の塩、すなわち、式(1)で表されるアニオンと、リチウムカチオンとのリチウム塩と、式(1)で表されるアニオンと、式(2)で表されるカチオンとの有機塩とに共通の構成要素である式(1)で表されるアニオンは、同一のものであっても異なるものであっても良い。リチウム塩と有機塩とに共通の構成要素である式(1)で表されるアニオンが同一のアニオンであることが非常に好ましい。
【0038】
実施形態のリチウム二次電池には、セパレータを含む。セパレータは、正極と負極との間に積層され、正極と負極を分離して短絡を防止することや、電池反応に必要な電解質を保持して高いイオン導電性を確保すること、電池反応阻害物質の通過防止、安全性確保のための電流遮断特性を有することを目的として使用される部材である。セパレータは、高分子樹脂を基材とする膜構造を形成している。高分子樹脂を基材とする膜構造として、ポリオレフィンフィルムを用いることができる。ポリオレフィンとは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセン等のα-オレフィンを重合または共重合させて得られる化合物のことであり、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセンのほか、これらの共重合体を挙げることができる。このほか、ポリイミド樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリパラフェニレンベンズビスチアゾール樹脂等を用いても良い。樹脂が低融点あるいは低軟化点である場合、リチウム二次電池の温度が上昇するとセパレータが熱溶融し収縮しやすい。セパレータの熱収縮が起こると電極間での短絡を起こすという問題が生じることから、樹脂としては、融点あるいは軟化点が高いもの、たとえば、140℃以上の融点あるいは軟化点を有するものが好ましい。
【0039】
実施形態で使用するセパレータとしてポリオレフィンフィルムを用いる場合、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンフィルムであると好都合である。また、セパレータとして架橋されたポリオレフィンフィルムを用いることができる。なお、セパレータの片面または両面に耐熱性微粒子層を有していてもよい。耐熱性の無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α-アルミナ、β-アルミナ、θ-アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウム等の無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライト等の鉱物を挙げることができる。
【0040】
さらにセパレータとして、三次元的に空孔が連通孔により互いに連通された多孔質樹脂膜(本明細書では、このような構造を「3DOM構造」と称するものとする。)を用いることも好ましい。このような「3DOM構造」のセパレータを用いることにより、二次電池(特にリチウム二次電池、またはリチウムイオン二次電池)中のリチウムイオンの電流分布を均一化し、リチウムデンドライトを生成することなく安全に二次電池の充放電を行うことが可能となる。リチウムイオンの拡散が均一化され、これにより拡散律速反応の場合においても、イオン電流密度が均一化されるため、リチウムの電析反応が均一に制御される。また、3DOM構造がイオン電流密度を均一化する効果によって、電流密度の高い充放電条件においても、リチウムの電析反応が均一に制御され、リチウム金属負極を用いた二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0041】
3DOM構造のセパレータは、分子内にカルボニル基を含むモノマーを構成単位とするコポリマーである高分子樹脂で形成することが好ましい。3DOM構造のセパレータは、多塩基酸または多塩基酸無水物とジアミンとの縮合物であるポリイミドで形成することが特に好ましい。すなわちセパレータを構成する高分子樹脂基材の重量を100重量部として、99重量部以上がポリイミド樹脂であることが非常に好ましい。ポリイミド樹脂の一つの原料モノマーである多塩基酸として、四塩基酸を用いることが好ましい。四塩基酸とは、1分子で4個の水素イオンを塩基に供与できる酸のことであり、たとえば、テトラカルボン酸類やジフタル酸類を挙げることができる。実施形態で用いるセパレータを形成するポリイミド樹脂の原料として好適に用いられるのは、分子内に芳香族基を有する四塩基酸およびその無水物であり、たとえば、ベンゼン-1,1,4,5-テトラカルボン酸およびその無水物、ジフェニル-3,3’、4,4’テトラカルボン酸およびその無水物、4,4’-オキシジフタル酸およびその無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパンおよびその二無水物、4,4’-ビフタル酸およびその無水物、3、4’-ビフタル酸およびその無水物を挙げることができる。
【0042】
一方、ポリイミド樹脂のもう一つの原料モノマーであるジアミンは、一分子内に2つのアミノ基を有する化合物である。ポリイミド樹脂の原料として用いられるジアミンは、好ましくは分子内に芳香族基を有するジアミンであり、たとえば、1,4-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル、3,4-フェニレンジアミン、4、4’-イソプロピリデンビス-[(4-アミノフェノキシ)ベンゼン]、2,4,6-トリメチル-1,3-フェニレンジアミン、4、4’-メチレンビス(2-クロロアニリン)、o-トルイジン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,6-ジアミノカルバゾール挙げることができる。また、一分子内の2つのアミノ基が脂肪族基または脂環族基を介して結合したジアミン、たとえば、1,4-シクロヘキサン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミンを用いても良い。
【0043】
ここで、上記のモノマー全体に占めるカルボニル基由来の酸素の存在量は、7重量%以上21重量%以下であることが好ましい。すなわち、ポリイミド樹脂にてセパレータを形成する場合、原料である四塩基酸(あるいはその無水物)とジアミンの総重量のうち、四塩基酸(またはその無水物)に含まれているカルボニル基由来の酸素の存在量が、7重量%以上21重量以下、好ましくは9重量%以上16重量%以下となるように、四塩基酸(またはその無水物)とジアミンの組み合わせを選択することが重要である。たとえば、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸無水物(ピロメリット酸無水物、分子量:218.12)と1,4-フェニレンジアミン(分子量:108.14)とを縮重合させて得たポリイミド樹脂(ポリマーを構成する最小単位の分子量:308.3)において、モノマー全体に占めるカルボニル基由来の酸素(ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸無水物に含まれている4つの酸素)の存在量は、64.0/308.3=20.8重量%と計算できる。モノマー全体に占めるカルボニル基由来の酸素の存在量を上記のように調整することには以下のような技術的な意味がある:先に説明したとおり、イオン液体に含まれている式(2)で表されるイミダゾリウムカチオンの環の置換基R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子であるが、このようにイミダゾリウムカチオンに存在する水素原子と、ポリイミド樹脂中のカルボニル基は水素結合を形成し、これによりイオン液体中のイミダゾリウムカチオンが安定化する。イミダゾリウムカチオンが安定化し、ひいてはイオン液体自体が安定化することにより、充放電による電解質の分解が抑制され、充放電サイクル寿命が改善される。
【0044】
ポリイミド樹脂3DOM構造セパレータは、たとえば、以下のように形成することができる:単分散のポリスチレンビーズ等を鋳型として用い、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを縮重合させる。得られたポリイミド樹脂膜を加熱してポリスチレンビーズを昇華させると、ポリスチレンビーズが存在していた部分に空隙が生じる。こうして、三次元的な空孔が連通孔により互いに連通された多孔質(3DOM構造を有する)ポリイミド樹脂膜を得ることができる。
【0045】
上記の正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、発電素子を形成することができる。正極と負極と、セパレータは、それぞれ1以上積層することができる。かかる発電素子に、正極タブおよび負極タブ等の、電流を取り出すための部材を適宜設け、その他必要な部材を適宜加え、金属製のコインセルやアルミニウムラミネートフィルム等の外装体に封入し、電解質を注入して、実施形態のリチウム二次電池を得ることができる。電池の形状はラミネート型のほか、筒型、角型、コイン型等、従来知られた形状を含むどのような形状であってもよく、特に限定されるものではない。リチウム二次電池が、たとえばコイン型等の電池である場合、通常、セル床板上に負極板を乗せ、その上にセパレータと電解質を乗せ、さらに負極と対向するように正極を乗せ、ガスケット、封口板と共にかしめてリチウム二次電池とされる。また二次電池がたとえばラミネート型の電池である場合、発電素子に正極タブ、負極タブ等の端子を付け、これらを、セパレータを介して積層して発電素子を形成し、これを金属ラミネートフィルムで作製したバッグに挿入し、バッグ内に電解質を注入してラミネートフィルムを封止しリチウム二次電池を得ることができる。実施形態のリチウム二次電池の構造あるいは作製方法がこれらに限定されるものではない。
【0046】
実施形態のリチウム二次電池において、電池を構成する正極、負極、電解質等は、従来の二次電池の正極、負極、電解液の材料として公知あるいは周知のもののいずれを用いてもよい。
【実施例0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
<リチウム二次電池の作製>
正極活物質であるリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(LiNi0.8Co0.1Mn0.1、以下NMC811)98重量%、導電助剤としてカーボンナノチューブ1重量%、バインダとしてポリビニリデンフルオライド(PVDF)1重量%を混合した正極合剤を厚さ12μmのアルミニウム箔上に目付3.2mg/cmで積層した正極を用意した。一方、厚さ10μmの銅箔上に金属リチウムを厚さ20μmになるように積層した負極を用意した。セパレータは、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸無水物(PMDA)と4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とを縮重合させて得たポリイミド樹脂(分子内にカルボニル基を含むモノマーを構成単位とするコポリマー、モノマーに占めるカルボニル基由来の酸素の存在量は20.8重量%)から形成された3DOM構造を有する高分子樹脂基材膜(全体の厚さ20μm)を用いた。電解質として、1-エチル-3メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニルイミド)(EMIFSI)(有機塩)にリチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)を濃度34重量%(EMIFSIとLiFSIの総重量を基準とした値)となるように溶解させた混合溶液を用いた。なおこの段階で得られた電解質を目視により観察し、溶解性を評価した。ほぼ均一な電解質が得られたものを「良好」、不溶成分が見られるものを「不良」と評価した。
【0049】
なお、負極活物質として使用する金属リチウムは適切な市販品を入手することができる。また正極活物質として使用するNMC811は、たとえば北京当升材料科技股彬有限公司、ユミコア社等による市販品を、バインダとして使用するPVDFは、たとえばクレハ株式会社、ソルベイ社、アルケマ社等による市販品を、導電助剤として使用するカーボンナノチューブは、たとえばNano C社等による市販品を、電解質として使用するEMIFSIは、たとえばキシダ化学株式会社、東京化成工業株式会社等による市販品を、同じくLiFSIは、たとえば日本触媒株式会社、キシダ化学株式会社、東京化成工業株式会社等による市販品を、それぞれ入手することができる。
【0050】
上記の正極(4.0×3.0cm)と、セパレータ(4.5×3.5cm)と、負極(4.2×3.2cm)とを重ね合わせ、発電素子を作製し、これに正極タブと負極タブを設けた。正極の空孔体積とセパレータの空孔体積(各々の単位:ミリリットル)の合計の2倍の体積の上記電解質と共に、タブを設けた電池素子をアルミニウムラミネートフィルム(厚さ:110μm)の外装体内に組み込み、外装体の周囲を封止して、セル容量40mAhのラミネート型のセル(二次電池)を得た。
【0051】
<二次電池のサイクル特性>
[初回充放電]
上記の通り作製したラミネート型セルの初回充放電を行った。初回充放電は、雰囲気温度25℃で、0.1C電流、上限電圧4.3V、0.03Cカットオフでの定電流定電圧(CC-CV)充電を行い、その後、2.8Vまで0.1C電流での定電流(CC)放電を行った。
【0052】
[2サイクル目以降の充放電]
上記のように初回充放電したラミネート型セルに、サイクル充放電を行った。サイクル条件は、温度25℃環境下で、充電:0.2C電流、上限電圧4.3V、0.03Cカットオフでの定電流定電圧(CC-CV)充電、放電:0.5C電流、下限電圧2.8V、カットオフでの定電流(CC)放電の充放電を1サイクルとして、100サイクル(100回)繰り返した。
初回充放電、および2サイクル目以降の充放電における充電容量、放電容量は、正極のNMC811の質量あたりの比容量として算出した。初回充放電後のセルの容量に対する100サイクルの充放電終了後のセルの容量の割合を算出し、セルの容量維持率とした。
【0053】
[実施例2-8]
実施例1において、EMIFSIとLiFSIの混合比を変更した混合溶液を調製し、実施例1と同様にラミネート型のセルを得た(実施例2~8)。実施例1と同様に、セルのサイクル特性を測定し、セルの容量維持率を算出した。
【0054】
[比較例1-3]
実施例1において、LiFSIの濃度を8重量%としたこと以外は実施例1と同様にセルを得た(比較例1)。また、実施例1において、LiFSIの濃度を46%としたこと以外は実施例1と同様にラミネート型のセルを得た(比較例2)。実施例1と同様に、セルのサイクル特性を測定し、セルの容量維持率を算出した。
また、実施例1において、電解質として、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(MPPYFSI)に、LiFSIを濃度36重量%となるように溶解させたイオン液体を用いたこと以外は実施例1と同様にラミネート型のセルを得た(比較例3)。実施例1と同様に、セルのサイクル特性を測定し、セルの容量維持率を算出した。
なお、MPPYFSIは、たとえばキシダ化学株式会社、東京化成工業株式会社等による市販品を適宜入手することができる。
【0055】
[実施例9]
実施例1において調製した、EMIFSIとLiFSIの混合溶液81重量%と、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル19重量%とを混合した液体を用いたこと以外は実施例1と同様にラミネート型のセルを作製した。実施例1と同様に、セルのサイクル特性を測定し、セルの容量維持率を算出した。
なお、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルは、たとえば富士フィルム和光純薬株式会社、東京化成工業株式会社等による市販品を適宜入手することができる。
【0056】
[実施例10]
実施例9において、EMIFSIとLiFSIの混合溶液72重量%と、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル28重量%とを混合した液体を用いたこと以外は実施例9と同様にラミネート型のセルを作製した。実施例9と同様に、セルのサイクル特性を測定し、セルの容量維持率を算出した。
【0057】
[比較例4-5]
実施例1において調製した、EMIFSIとLiFSIの混合溶液62重量%と、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル38重量%とを混合した液体を用いたこと以外は実施例9と同様にラミネート型のセルを作製した。実施例9と同様に、セルのサイクル特性を測定し、セルの容量維持率を算出した(比較例4)。
比較例3において調製した、MPPYFSIとLiFSIの混合溶液80重量%と、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル20重量%とを混合した液体を用いたこと以外は比較例3と同様にラミネート型のセルを作製した。比較例3と同様に、セルのサイクル特性を測定し、セルの容量維持率を算出した(比較例5)。
【0058】
[比較例6]
実施例1において、セパレータとして、厚さ16μmの二軸延伸ポリプロピレン(PP)に厚さ4μmのアルミナコーティングを施した膜を用いたこと以外は実施例1と同様にラミネート型のセルを作製した。実施例1と同様に、セルのサイクル特性を測定し、セルの容量維持率を算出した。
なお、二軸延伸ポリプロピレンセパレータは、たとえば旭化成株式会社、東レ株式会社等による市販品を、適宜入手することができる。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
本発明の実施例のリチウム二次電池は、いずれも、サイクル充放電による電池容量の大きな低下が見られなかった。特に、実施例1、5、6のリチウム二次電池は、200回の充放電を繰り返してもなお当初の電池容量の95%を維持していた。実施例のリチウム二次電池に用いた電解質の溶解性はいずれも良好であり、不溶成分が見られなかった。
一方、比較例1のリチウム二次電池に用いた電解質は、リチウム塩の量がやや少ないものである。比較例1のリチウム二次電池は、サイクル充放電による電池容量の低下が早めに見られた。また比較例2のリチウム二次電池に用いた電解質は、リチウム塩の量がやや多く、不溶成分が観察されるものであった。比較例3のリチウム二次電池に用いた電解質の有機塩は、本発明の式(1)で表されるアニオンと、式(2)で表されるカチオンとの塩ではない。比較例3のリチウム二次電池は、充放電を良好に行うことができなかった。比較例4のリチウム二次電池に用いた電解質には、ハイドロフルオロエーテルが多く含まれており、これにより均一な電解質を得ることができなかった。比較例5のリチウム二次電池に用いた電解質の有機塩は、本発明の式(1)で表されるアニオンと、式(2)で表されるカチオンとの塩ではない。比較例5のリチウム二次電池はサイクル充放電により直ちに電池容量が低下した。比較例6のリチウム二次電池は、電解質がセパレータに適切に含浸せず、正常な充放電が難しかった。
【0062】
本発明のリチウム二次電池は、特定のリチウム塩と有機塩とを含む電解質と特定のセパレータとの組み合わせを用いたことにより、サイクル充放電による容量劣化が少なく、寿命が長いものである。