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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067413
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
G01N30/86 F
G01N30/86 Q
G01N30/86 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178619
(22)【出願日】2021-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】矢野 哲
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 覚
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ターゲット成分を決められた時間で分析カラムから溶出させるための移動相の流量を容易に設定できるようにする。
【解決手段】分析メソッドを記憶するメソッド記憶部14、メソッド記憶部14に記憶されている分析メソッドを用いて所定のターゲット成分を含む試料についての分析を一連の分析として実行するための指示を含む分析プログラムを構築するように構成されたプログラム構築部16と、プログラム構築部16により構築された分析プログラム中の指示にしたがって送液ポンプ2及びインジェクタ4の動作を制御する演算制御部18とを備えている。演算制御部18は、流量調整動作において予備分析を実行し、ターゲット成分の保持時間と所定の基準時間との差分を所定範囲内に収めるための移動相の流量を求め、分析メソッドにおける移動相の流量の設定値を差分が所定範囲内となるように調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相を送液する送液ポンプと、
前記送液ポンプの下流に設けられ、前記送液ポンプによって送液される前記移動相中に試料を注入するインジェクタと、
前記インジェクタの下流に設けられ、前記インジェクタによって前記移動相中に注入された試料中の成分を互いに分離するための分析カラムと、
前記分析カラムの下流に設けられ、前記分析カラムからの溶出液中の成分量に応じた信号を出力する検出器と、
予め設定された分析条件のセットである分析メソッドを記憶するメソッド記憶部と、
前記メソッド記憶部に記憶されている分析メソッドを用いて所定のターゲット成分を含む少なくとも1つの試料についての分析を一連の分析として実行するための指示を含む分析プログラムを構築するように構成されたプログラム構築部と、
前記プログラム構築部により構築された前記分析プログラム中の指示にしたがって前記送液ポンプ及び前記インジェクタの動作を制御するとともに、前記検出器からの出力信号を用いた演算処理を行なうように構成された演算制御部と、を備え、
前記プログラム構築部は、前記分析において用いられる前記分析メソッドにおける移動相の流量の設定値を調整する流量調整動作を実行する指示を前記分析プログラムに含めることができるように構成されており、
前記演算制御部は、前記分析プログラムに前記流量調整動作を実行する指示が含まれている場合に、前記一連の分析を実行する前に前記流量調整動作を実行するように構成されており、かつ、
前記演算制御部は、前記流量調整動作において、前記一連の分析で用いられる前記分析メソッドを用いた予備分析を実行し、前記予備分析で得られる前記検出器からの出力信号に基づいて、前記ターゲット成分の保持時間と所定の基準時間との差分を所定範囲内に収めるための前記移動相の流量を計算処理によって求め、前記計算処理の結果に基づいて、前記メソッド記憶部に記憶されている前記分析メソッドにおける移動相の流量の設定値を前記差分が前記所定範囲内となるように調整するように構成されている、液体クロマトグラフ。
【請求項2】
前記演算制御部は、前記流量調整動作において、前記計算処理で得られた流量の計算値が所定の許容範囲内にあるか否かを判定する流量判定を実行し、前記流量判定の結果、前記計算値が前記許容範囲内にあると判定した場合にのみ前記分析メソッドにおける流量の設定値を前記計算値に書き換えるように構成されている、請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項3】
前記演算制御部は、前記流量判定の結果、前記計算値が前記許容範囲から外れていると判定した場合は、前記一連の分析を停止するように構成されている、請求項2に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項4】
前記プログラム構築部は、前記流量調整動作において2回目の予備分析を実行する指示を前記分析プログラムに含ませることができ、
前記演算制御部は、前記分析プログラムに前記2回目の予備分析を実行する指示が含まれている場合に、前記流量調整動作において、前記流量の設定値が前記計算値に書き換えられた分析メソッドを用いた2回目の予備分析を実行し、前記2回目の予備分析で得られる前記検出器からの出力信号に基づいて前記ターゲット成分の前記保持時間を特定し、特定した前記保持時間と前記基準時間との差分が前記所定範囲内にあるか否かを判定する溶出判定を実行し、前記溶出判定の結果、前記保持時間と前記基準時間との差分が前記所定範囲内にあると判定した場合に、前記一連の分析を実行するように構成されている、請求項2又は3に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項5】
前記プログラム構築部は、前記溶出判定の結果、前記保持時間と前記基準時間との差分が前記所定範囲から外れていると判定された場合のその後のアクションとして、前記一連の分析の実行、一時停止、及びスキップのうちのいずれか1つを実行すべき指示を、前記分析プログラムにおいて設定するように構成されており、
前記演算制御部は、前記溶出判定の結果、前記保持時間と前記基準時間との差分が前記所定範囲から外れていると判定された場合に、前記分析プログラムにおいて設定されている前記アクションを前記溶出判定の後で実行するように構成されている、請求項4に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項6】
前記プログラム構築部は、前記溶出判定の結果、前記保持時間と前記基準時間との差分が前記所定範囲から外れていると判定した場合のその後のアクションを、前記一連の分析の実行、一時停止、及びスキップのいずれかからユーザに選択させるように構成されている、請求項5に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項7】
前記一連の分析に、移動相の流量以外の少なくとも1つの分析条件が互いに異なっている複数種類の分析メソッドをそれぞれ用いる複数の分析が含まれている場合において、
前記演算制御部は、前記流量調整動作の前記計算処理によって得られた前記計算値を前記複数種類の分析メソッドのすべてに適用する指示がユーザによって予め入力されており、かつ、前記計算値が前記許容範囲内にあるときは、前記複数種類の分析メソッドのそれぞれにおける流量の設定値を前記計算値に書き換えるように構成されている、請求項2から6のいずれか一項に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項8】
前記演算制御部は、ユーザによって与えられたターゲット情報に基づいて前記ターゲット成分の前記保持時間を特定するように構成されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項9】
前記ターゲット情報は、前記検出器からの出力信号に基づいて得られるクロマトグラム上で前記分析カラムからの溶出順位に基づいて割り振られる成分ピークのID番号である、請求項8に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項10】
前記基準時間はユーザによって設定されたものである、請求項1から9のいずれか一項に記載の液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフは、試料を移動相とともに分析カラムへ導入し、試料に含まれる各成分と分析カラム内の充填剤との間の相互作用の強さの差を利用して、各成分の間で分析カラムから溶出する時間(すなわち、保持時間)の差を生じさせ、それによって各成分を時間的に分離する(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、液体クロマトグラフを使用した医薬品品質管理試験において、「測定対象化合物が規定された時間で分析カラムから溶出する」という規格が日本薬局方において定められている場合がある。これまでは、本試験を開始する前に予備的な分析を実施し、その予備分析で得られた分析結果に基づいて分析条件を調整していた。具体的には、本試験と同じ試料について予備分析を実施し、その予備分析で得られたクロマトグラムに基づいて、分析者が、測定対象化合物のピークの保持時間が規定された時間と一致しているか否かを確認する。そして、確認の結果、測定対象化合物のピークの保持時間が規定された時間よりも早い場合は移動相の流量の設定値を下げ、測定対象化合物のピークの保持時間が規定された時間よりも遅い場合は移動相の流量の設定値を上げるという対応が一般にとられている。
【0004】
また、これまでは図6のように複数の装置がある場合に、装置ごとにメソッドファイルを用意する必要があったため、同じ試験を別の装置で行う際に、ユーザは別のメソッドファイルを新規作成したり、別の装置から流用して作成しなおしたりしていた。そして作成したメソッドファイルを分析用メソッドとして選択して分析を開始するが、これら一連の操作のなかで、メソッドファイルの作成や選択で誤りが生じやすい状況となっていた。そこで、図7のように、製品や試験法ごとに定められた分析条件(パラメータ)を保存したメソッドファイルをマスターメソッドとして登録しておき、分析時にそのマスターメソッドを指定することで、各装置でメソッドファイルの編集なしでそのまま分析を開始できる機能であるマスターメソッド機能を搭載するという対応が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2901923号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、これまでは、分析者が予備分析の分析結果を確認して移動相の流量設定を上げたり下げたりしていた。しかし、そのような手法では、測定対象化合物のピークの保持時間から移動相の流量の調整量を分析者が求める必要がある上、測定対象化合物のピークを別の化合物のピークと見間違えるなどの人為的エラーが起きる可能性もある。したがって、移動相の流量の調整作業は、誰にでも容易に実施することができるというものではなかった。さらに、複数の装置がある場合には、同じ分析条件を設定しても装置ごとに配管容量などが異なるため、保持時間が異なってしまう。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ターゲット成分を決められた時間で分析カラムから溶出させるための移動相の流量を容易に設定できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液体クロマトグラフは、移動相を送液する送液ポンプと、前記送液ポンプの下流に設けられ、前記送液ポンプによって送液される前記移動相中に試料を注入するインジェクタと、前記インジェクタの下流に設けられ、前記インジェクタによって前記移動相中に注入された試料中の成分を互いに分離するための分析カラムと、前記分析カラムの下流に設けられ、前記分析カラムからの溶出液中の成分量に応じた信号を出力する検出器と、予め設定された分析条件のセットである分析メソッドを記憶するメソッド記憶部と、前記メソッド記憶部に記憶されている分析メソッドを用いて所定のターゲット成分を含む少なくとも1つの試料についての分析を一連の分析として実行するための指示を含む分析プログラムを構築するように構成されたプログラム構築部と、前記プログラム構築部により構築された前記分析プログラム中の指示にしたがって前記送液ポンプ及び前記インジェクタの動作を制御するとともに、前記検出器からの出力信号を用いた演算処理を行なうように構成された演算制御部と、を備え、前記プログラム構築部は、前記分析において用いられる前記分析メソッドにおける移動相の流量の設定値を調整する流量調整動作を実行する指示を前記分析プログラムに含めることができるように構成されており、前記演算制御部は、前記分析プログラムに前記流量調整動作を実行する指示が含まれている場合に、前記一連の分析を実行する前に前記流量調整動作を実行するように構成されており、かつ、前記演算制御部は、前記流量調整動作において、前記一連の分析で用いられる前記分析メソッドを用いた予備分析を実行し、前記予備分析で得られる前記検出器からの出力信号に基づいて、前記ターゲット成分の保持時間と所定の基準時間との差分を所定範囲内に収めるための前記移動相の流量を計算処理によって求め、前記計算処理の結果に基づいて、前記メソッド記憶部に記憶されている前記分析メソッドにおける移動相の流量の設定値を前記差分が前記所定範囲内となるように調整するように構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る液体クロマトグラフでは、流量調整動作を実行するように分析プログラムを構築することができ、それによって、一連の分析を実行する前に流量調整動作が実行され、試料中のターゲット成分の保持時間が所定の基準時間になるように分析メソッドにおける流量の設定値が自動的に調整される。したがって、ユーザにとって、ターゲット成分を決められた時間で分析カラムから溶出させるための移動相の流量を容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】液体クロマトグラフの一実施例を示す概略構成図である。
図2】流量調整動作に関する設定を行なうための設定画面の一例を示す図である。
図3】分析プログラム(バッチテーブル)の一例を示す図である。
図4】分析プログラムを実行することによって実現される動作の一例を示すフローチャートである。
図5】流量調整動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る液体クロマトグラフの一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
液体クロマトグラフは、送液ポンプ2、インジェクタ4、分析カラム6、検出器8、オーブン10、及び演算処理装置12を備えている。
【0013】
送液ポンプ2は移動相を送液する。インジェクタ4は送液ポンプ2の下流に流体接続されており、送液ポンプ2によって送液される移動相に試料を注入する。分析カラム6はインジェクタ4の下流に流体接続されており、インジェクタ4によって移動相に注入された試料中の成分を互いに分離する。検出器8は分析カラム6のさらに下流に流体接続されており、分析カラム6からの溶出液中の成分濃度に応じた信号を出力する。オーブン10は分析カラム6を内部に収容し、分析カラム6の温度を設定された温度に調節する。演算処理装置12は、送液ポンプ2、インジェクタ4、検出器8及びオーブン10と通信可能であり、検出器8からの出力信号を用いた演算処理、及び、この液体クロマトグラフの動作管理を行なうためのものである。
【0014】
演算処理装置12は、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリなどの情報記憶デバイスと、そのような情報記憶デバイスに格納されたコンピュータプログラムを実行するCPU(中央演算装置)と、を備えたコンピュータ装置によって実現される。演算処理装置12は、メソッド記憶部14、プログラム構築部16、及び演算制御部18を備えている。メソッド記憶部14は情報記憶デバイスの一部の記憶領域によって実現される機能であり、プログラム構築部16及び演算制御部18は、CPUが所定のプログラムを実行することによって実現される機能である。
【0015】
メソッド記憶部14は、移動相の流量の設定値、オーブン10の温度の設定値といった分析条件のセットである分析メソッドを記憶する。分析メソッドは、ユーザが任意に設定することができる。
【0016】
プログラム構築部16は、複数の試料の分析を一連の分析として実行するための指示を含む分析プログラムを、ユーザによって入力される情報に基づいて構築するように構成されている。分析プログラムには、どの試料をどのような順番でどの分析メソッドを用いて実行するかという指示が含まれる。そのような分析プログラムは、図3に例示されているバッチテーブルによって表されるものであってよい。
【0017】
さらに、プログラム構築部16は、ユーザが所望すれば、流量調整動作を実行するための指示を分析プログラムに含ませることができる。流量調整動作とは、特定の分析メソッドにおける移動相の流量の設定値を、ターゲット成分を所定の基準時間で分析カラム6から溶出させるように調整する動作である。
【0018】
図2は流量調整動作に関する設定画面の一例である。この流量調整動作に関する設定画面では、ユーザが最上部の「流量調整の実行」にチェックを入れると、一連の分析の前に流量調整動作を実行する指示が分析プログラムに組み込まれる。さらに、ユーザが「調整後の確認」にチェックを入れると、分析メソッドにおける流量の設定値を調整した後の確認動作を実行する指示が分析プログラムに組み込まれる。この設定画面では、基準保持時間の特定方法、及び、基準保持時間に溶出させるターゲット成分(対象ピーク)の特定方法のほか、ユーザによって設定された流量変更の許容範囲、流量調整後の確認動作における保持時間の許容範囲(ターゲット成分の保持時間と基準時間との差分)、流量調整が不調であった場合のアクションなどを設定することができる。
【0019】
図2では、基準保持時間の特定方法として、化合物IDが選択された状態となっている。化合物ID(成分ピークのID)とは、分析カラム6からの溶出順位に基づいて割り振られるID番号である。メソッド記憶部には表1のような別途予め作成された化合物ID、化合物名、保持時間の化合物テーブルが記憶されている。基準保持時間の特定方法として「化合物ID指定」が設定されると、該化合物テーブルうち、この設定画面で設定されたIDと同じIDの行に予め設定されている保持時間が基準保持時間として設定される。なお、基準保持時間の特定方法としては、「化合物ID指定」のほかに、「時間指定」を選択することができる。基準保持時間の特定方法として「時間指定」を選択すると、任意の時間をユーザが直接的に指定することができ、ユーザによって指定された時間が基準保持時間として設定される。
【0020】
また、図2では、ターゲット成分のピーク(対象ピーク)の特定方法として「最近接ピーク」が選択されているが、このほかに「最大ピーク」などの特定方法を選択することができる。対象ピークの特定方法として「最近接ピーク」が選択されると、予備分析で得られたクロマトグラムに現れているピークのうち、上記の方法によって特定された基準保持時間に最も近接した成分ピークが対象ピークとして特定される。一方で、対象ピークの特定方法として「最大ピーク」が選択されると、予備分析で得られたクロマトグラムに現れているピークのうちピーク面積値の最も大きいピークが対象ピークとして特定される。このほか、対象ピークとしたいピークのIDをユーザが直接的に指定することができるようになっていてもよい。
【0021】
流量調整動作では、予備分析で得られるクロマトグラムの成分ピークのうち、上記の特定方法によって対象ピークとして特定された成分ピークの保持時間が基準保持時間となるように、移動相の流量の設定値が調整される。
【0022】
また、流量調整が不調であった場合のアクションとして、図2では「バッチ分析を停止」が表示されているが、「バッチ分析を継続」、「バッチ分析をスキップ」といったアクションを選択することができるようになっていてもよい。「バッチ分析を停止」とは、流量調整動作の後に予定されている一連の分析を実行せずに、ユーザによって何らかの措置が採られるまで待機することを意味し、「バッチ分析を継続」は、流量調整が不調であった場合でも一連の分析を実行することを意味する。また、「バッチ分析をスキップ」は、現在のバッチ分析をスキップし、次に予定されているバッチ分析を実行することを意味する。
【0023】
図3は、流量調整動作を実行する指示が組み込まれた分析プログラム(バッチテーブル)を例示している。この例では、流量調整のための予備分析を実行する指示が1行目に組み込まれており、調整後の流量でターゲット成分が基準時間に溶出するか否かを確認するための2回目の予備分析を実行する指示が2行目に組み込まれている。バッチテーブルの3行目~6行目には、試料1~4の分析を実行する指示が組み込まれている。流量調整に用いる試料は含有成分が既知であり、ターゲット成分のIDが予めわかっているものである。試料1~4は、流量調整用の試料と含有成分が完全に同じである必要はないが、流量調整用の試料と同じターゲット成分を含むものである。バッチテーブルの最右欄には、各分析において使用する分析メソッドが表示されている。図3のバッチテーブルではすべての分析において同じ分析メソッドを用いるように指定されているが、一連の分析に含まれるすべての分析対して必ずしも同じ分析メソッドを設定する必要はない。
【0024】
演算制御部18は、検出器8からの出力信号を用いた演算処理を行なうとともに、プログラム構築部16によって構築された分析プログラムにしたがって、指示されている分析を順次実行するように、送液ポンプ2、インジェクタ4及びオーブン10の動作を制御する。
【0025】
演算制御部18が分析プログラムを実行することによって実現される液体クロマトグラフの動作の一例について、図4のフローチャートを用いて説明する。
【0026】
流量調整動作を実行する指示が含まれている場合、流量調整動作が実行される(ステップ101、102)。流量調整動作の詳細については後述するが、流量調整動作の過程で、所定条件が満たされなかった場合に、流量調整が不調である旨の判定がなされる。流量調整が不調でなければ、分析プログラムにおいて指示されている一連の分析が実行される(ステップ104)。一方で、流量調整が不調であれば、予め設定されているアクションが実行される(ステップ105)。予め設定されているアクションとは、「一連の分析を続行」、「一連の分析を停止」、「一連の分析をスキップ」などである。
【0027】
次に、流量調整動作の一例について、図5のフローチャートを用いて説明する。
【0028】
ユーザは、ターゲット成分を含有する流量調整用の試料のバイアルを所定の位置にセットしておき、分析プログラムの構築の際に、セットしたバイアルの試料を流量調整動作で使用するように設定しておく。流量調整動作を開始すると、ユーザがセットした流量調整用の試料についての予備分析が、分析プログラムにおいて指定されている分析メソッドを用いて実行される(ステップ201)。
【0029】
演算制御部18は、予備分析中の検出器8からの出力信号を処理し、流量調整用の試料についてのクロマトグラムを作成し、そのクロマトグラム上でターゲット成分のピークを特定し、そのピークの保持時間を特定する(ステップ202)。ターゲット成分のピークの特定は、化合物IDなど、分析プログラムにおいて設定されている方法(図2参照)を用いて行なわれる。演算制御部18は、ターゲット成分のピークの保持時間と所定の基準時間との差分を計算し、その差分が所定の許容範囲内に入っているか否かを判定する(ステップ203)。基準時間は、ユーザが予め任意に設定した値であってよい。
【0030】
ターゲット成分のピークの保持時間と所定の基準時間との差分が所定の許容範囲内に入っている場合(ステップ203:Yes)、現在の流量の設定値は、ターゲット成分を基準時間で分析カラム6から溶出させるのに適した値であるといえるので、演算制御部18は、現在の設定値を維持したまま流量調整動作を終了する。
【0031】
一方で、ターゲット成分のピークの保持時間と所定の基準時間との差分が所定の許容範囲内に入っていない場合(ステップ203:No)、演算制御部18は、ターゲット成分の保持時間が基準時間となるような移動相の流量を求める計算処理を実行する(ステップ204、205)。分析中の移動相の組成及び流量が一定であることを前提とした場合、ターゲット成分が分析カラム6内を移動する速度は、移動相の流量に比例すると考えられる。したがって、分析中の移動相の組成及び流量が一定であることを前提とした場合、予備分析での流量の設定値がL1でターゲット成分の保持時間がT1であったとすると、ターゲット成分の保持時間を基準時間T0にするための理論上の流量Lは、
L=L1×T1/T0
によって求めることができる。
【0032】
演算制御部18は、上記のような計算処理によって求めた流量の計算値が予め設定された許容範囲内に入っているか否かの流量判定を実行する(ステップ206)。流量の計算値が予め設定された許容範囲から外れている場合(ステップ206:No)、演算制御部18は、流量調整が不調であると判定し、流量調整動作を終了する。その後、流量調整が不調である場合のアクションが実行される(図4のステップ105参照)。一方で、流量の計算値が許容範囲に入っている場合(ステップ206:Yes)、演算制御部18は、上記予備分析で使用した分析メソッドにおける流量の設定値を計算値に書き換える(ステップ207)。これにより、メソッド記憶部14には、流量の設定値が書き換えられた分析メソッドが記憶される。
【0033】
その後、流量調整後の確認を実行する指示が分析プログラムに組み込まれていない場合、演算制御部18は、分析メソッドの流量の設定値を書き換えた後、流量調整動作を終了する(ステップ208:No)。その後は、分析プログラムで指示されている一連の分析が実行される。
【0034】
流量調整後の確認を実行する指示が分析プログラムに組み込まれている場合、演算制御部18は、ステップ201に戻って、流量の設定値が書き換えられた分析メソッドを用いた2回目の予備分析を実行する。演算制御部18は、2回目の予備分析で得られる検出器6からの出力信号に基づいてクロマトグラムを作成し、ターゲット成分のピークの保持時間を特定して、基準時間との差分を評価する(ステップ202、203)。差分が許容範囲に入っている場合、演算制御部18は流量調整動作を終了する(ステップ203:Yes)。その後、分析プログラムで指示されている一連の分析が実行される。一連の分析では、分析ごとに指定されている分析メソッドが分析メソッド記憶部14から読み出されて使用されるため、流量調整動作で用いた分析メソッドと同じ分析メソッドを使用する分析には、流量調整動作によって調整された流量が適用されることになる。
【0035】
一方で、差分が許容範囲から外れている場合、演算制御部18は流量調整が不調と判定し、流量調整動作を終了する(ステップ203:No、ステップ204:No)。この場合は、その後、流量調整が不調である場合のアクションが実行される(図4のステップ105参照)。
【0036】
なお、上記実施例では、流量調整動作に流量調整後の確認の動作を組み込むか否か、すなわち、分析メソッドの流量の設定値を書き換えた後で2回目の予備分析を実行するか否かを、ユーザが任意に選択することができる。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、分析メソッドの流量の設定値を書き換えた後で必ず2回目の予備分析が実行されるようになっていてもよい。
【0037】
ここで、流量調整動作では、流量調整で使用された分析メソッドの流量の設定値が書き換えられるだけである。したがって、流量調整動作の後で実行される一連の分析のうち流量調整動作で調整された流量が適用されるのは、流量調整で使用された分析メソッドと同じ分析メソッドを使用する分析だけである。ただし、同一のターゲット成分を含む複数の試料(特に、同一の試料)の分析を一連の分析として処理する場合、各分析でのターゲット成分の保持時間が同じになるように設定されることが一般的であり、複数の分析で互いに異なる分析メソッドが使用されていたとしても、それらの分析メソッドは、成分の保持時間に影響を与える分析条件(移動相の流量など)が互いに同じであることがほとんどである。そこで、分析プログラムの構築時に、流量調整動作で得られた流量の計算値を一連の分析で使用されるすべての分析メソッドに適用するか否かをユーザが任意に選択することができるようになっていてもよい。その場合、ユーザが、流量調整動作で得られた流量の計算値を一連の分析で使用されるすべての分析メソッドに適用するように設定すると、演算制御部18は、予備分析に使用した分析メソッドにおける流量の設定値を計算値に書き換えるタイミング(図5のステップ207)で、一連の分析で使用されるすべての分析メソッドにおける流量の設定値を書き換える。
【0038】
以上において説明した実施例は、本発明に係る液体クロマトグラフの実施形態の一例に過ぎない。本発明に係る液体クロマトグラフの実施形態は、以下のとおりである。
【0039】
本発明に係る液体クロマトグラフは、移動相を送液する送液ポンプ(2)と、前記送液ポンプ(2)の下流に設けられ、前記送液ポンプ(2)によって送液される前記移動相中に試料を注入するインジェクタ(4)と、前記インジェクタ(4)の下流に設けられ、前記インジェクタ(4)によって前記移動相中に注入された試料中の成分を互いに分離するための分析カラム(6)と、前記分析カラム(6)の下流に設けられ、前記分析カラム(6)からの溶出液中の成分量に応じた信号を出力する検出器(8)と、予め設定された分析条件のセットである分析メソッドを記憶するメソッド記憶部(14)と、前記メソッド記憶部(14)に記憶されている分析メソッドを用いて所定のターゲット成分を含む少なくとも1つの試料についての分析を一連の分析として実行するための指示を含む分析プログラムを構築するように構成されたプログラム構築部(16)と、前記プログラム構築部(16)により構築された前記分析プログラム中の指示にしたがって前記送液ポンプ(2)及び前記インジェクタ(4)の動作を制御するとともに、前記検出器(8)からの出力信号を用いた演算処理を行なうように構成された演算制御部(18)と、を備え、前記プログラム構築部(16)は、前記分析において用いられる前記分析メソッドにおける移動相の流量の設定値を調整する流量調整動作を実行する指示を前記分析プログラムに含めることができるように構成されており、前記演算制御部(18)は、前記分析プログラムに前記流量調整動作を実行する指示が含まれている場合に、前記一連の分析を実行する前に前記流量調整動作を実行するように構成されており、かつ、前記演算制御部(18)は、前記流量調整動作において、前記一連の分析で用いられる前記分析メソッドを用いた予備分析を実行し、前記予備分析で得られる前記検出器(8)からの出力信号に基づいて、前記ターゲット成分の保持時間と所定の基準時間との差分を所定範囲内に収めるための前記移動相の流量を計算処理によって求め、前記計算処理の結果に基づいて、前記メソッド記憶部(14)に記憶されている前記分析メソッドにおける移動相の流量の設定値を前記差分が前記所定範囲内となるように調整するように構成されている。
【0040】
上記一実施形態の第1態様では、前記演算制御部(18)は、前記流量調整動作において、前記計算処理で得られた流量の計算値が所定の許容範囲内にあるか否かを判定する流量判定を実行し、前記流量判定の結果、前記計算値が前記許容範囲内にあると判定した場合にのみ前記分析メソッドにおける流量の設定値を前記計算値に書き換えるように構成されている。
【0041】
上記第1態様において、前記演算制御部(18)は、前記流量判定の結果、前記計算値が前記許容範囲から外れていると判定した場合は、前記一連の分析を停止又はキャンセルするように構成されている。
【0042】
上記一実施形態の第2態様では、前記プログラム構築部(16)が、前記流量調整動作において2回目の予備分析を実行する指示を前記分析プログラムに含ませることができ、前記演算制御部(18)は、前記分析プログラムに前記2回目の予備分析を実行する指示が含まれている場合に、前記流量調整動作において、前記流量の設定値が前記計算値に書き換えられた分析メソッドを用いた2回目の予備分析を実行し、前記2回目の予備分析で得られる前記検出器からの出力信号に基づいて前記ターゲット成分の前記保持時間を特定し、特定した前記保持時間と前記基準時間との差分が前記所定範囲内にあるか否かを判定する溶出判定を実行し、前記溶出判定の結果、前記保持時間と前記基準時間との差分が前記所定範囲内にあると判定した場合に、前記一連の分析を実行するように構成されている。このような態様により、前記計算処理によって求めた流量の計算値が実際にターゲット成分を基準時間で分析カラムから溶出させる値であるか否かを、一連の分析を実行する前に確認することができる。この第2態様は、上記第1態様と組み合わせることができる。
【0043】
上記一実施形態の第3態様では、前記プログラム構築部(16)は、前記溶出判定の結果、前記保持時間と前記基準時間との差分が前記所定範囲から外れていると判定された場合のその後のアクションとして、前記一連の分析の実行、一時停止、及びキャンセルのうちのいずれか1つを実行すべき指示を、前記分析プログラムにおいて設定するように構成されており、前記演算制御部(18)は、前記溶出判定の結果、前記保持時間と前記基準時間との差分が前記所定範囲から外れていると判定された場合に、前記分析プログラムにおいて設定されている前記アクションを前記溶出判定の後で実行するように構成されている。この第3態様は、上記第1態様及び/又は第2態様と組み合わせることができる。
【0044】
上記第3態様において、前記プログラム構築部(16)は、前記溶出判定の結果、前記保持時間と前記基準時間との差分が前記所定範囲から外れていると判定した場合のその後のアクションを、前記一連の分析の実行、一時停止、及びキャンセルのいずれかからユーザに選択させるように構成されていてもよい。これにより、ユーザは、前記溶出判定によって流量調整が不調であると判断された後のアクションを任意に設定することができる。
【0045】
また、上記第1態様~第3態様において、前記一連の分析に、移動相の流量以外の少なくとも1つの分析条件が互いに異なっている複数種類の分析メソッドをそれぞれ用いる複数の分析が含まれている場合、前記演算制御部(18)は、前記流量調整動作の前記計算処理によって得られた前記計算値を前記複数種類の分析メソッドのすべてに適用する指示がユーザによって予め入力されており、かつ、前記計算値が前記許容範囲内にあるときは、前記複数種類の分析メソッドのそれぞれにおける流量の設定値を前記計算値に書き換えるように構成されていてもよい。
【0046】
上記一実施形態の第4態様では、前記演算制御部(18)は、ユーザによって与えられたターゲット情報に基づいて前記ターゲット成分の前記保持時間を特定するように構成されている。このような態様により、ターゲット成分の特定方法をユーザが任意に設定することができる。この第4態様は、上記第1態様、第2態様、及び/又は第3態様と組み合わせることができる。
【0047】
上記第4態様において、前記ターゲット情報は、前記検出器(8)からの出力信号に基づいて得られるクロマトグラム上で前記分析カラム(6)からの溶出順位に基づいて割り振られる成分ピークのID番号であってもよい。
【0048】
上記一実施形態の第5態様では、前記基準時間はユーザによって設定されたものである。この第5態様は、上記第1態様、第2態様、第3態様、及び/又は第4態様と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0049】
2 送液ポンプ
4 インジェクタ
6 分析カラム
8 検出器
10 オーブン
12 演算処理装置
14 メソッド記憶部
16 プログラム構築部
18 演算制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-11-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
図1】液体クロマトグラフの一実施例を示す概略構成図である。
図2】流量調整動作に関する設定を行なうための設定画面の一例を示す図である。
図3】分析プログラム(バッチテーブル)の一例を示す図である。
図4】分析プログラムを実行することによって実現される動作の一例を示すフローチャートである。
図5】流量調整動作の一例を示すフローチャートである。
図6複数の装置がある場合におけるメソッドファイルの従来の取扱いについて説明するための概念図である。
図7マスターメソッド機能について説明するための概念図である。