(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006743
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】免震構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20230111BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
F16F15/02 N
F16F15/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109493
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智大
(72)【発明者】
【氏名】青山 優也
(72)【発明者】
【氏名】湯川 正貴
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048AC01
3J048BC02
3J048BC05
3J048BG01
3J048DA07
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】引張材を長くすることなく固有周期を長周期化することが可能な免震構造を提供することである。
【解決手段】下部構造物2と上部構造物3との間に設けられる免震構造1であって、上部構造物3に固定された上側構造10と、下部構造物2に固定された下側構造20と、上側構造10の下端部の上側構造下端部10bと、下側構造20の上端部の下側構造上端部20bと、に支持された引張材30と、下側構造上端部20bと引張材30の上端部30aとの間に設けられ、引張材30を下側構造上端部20bに対して免震支承する免震支承装置40と、を有することを特徴とする免震構造1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造物と上部構造物との間に設けられる免震構造であって、
前記上部構造物に固定された上側構造と、
前記下部構造物に固定された下側構造と、
前記上側構造の下端部の上側構造下端部と、前記下側構造の上端部の下側構造上端部と、に支持された引張材と、
前記下側構造上端部と前記引張材の上端部との間に設けられ、前記引張材を前記下側構造上端部に対して免震支承する免震支承装置と、
を有することを特徴とする免震構造。
【請求項2】
前記上側構造下端部と前記引張材の下端部との間または前記免震支承装置と前記引張材の上端部との間に、上下方向免震用の弾性支持部材を備えている、請求項1に記載の免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部構造物と上部構造物との間に設けられる免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物などの構造物において、地震の際に地面から伝達される振動を低減するために、基礎などの下部構造物と上部構造物との間に免震構造を設けるようにしたものが知られている。
【0003】
このような免震構造として、従来、下部構造物に固定された複数の斜めバーと、上部構造物に固定された複数の逆斜めバーと、斜めバーの上端に設けられた上部ケーシングと逆斜めバーの下端に設けられて上部ケーシングよりも下方に配置された下部ケーシングとに連結された引張材(連結部材)とを有し、下部構造物に対して上部構造物を引張材により単振り子式に支持するようにした構成のものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
免震構造は、一般的に、固有周期を長くすることで免震性能を高めることができる。上記従来の免震構造では、引張材によって構成される振り子の長さによって固有周期が決まるので、より高い免震性能を得るためには引張材をより長くする必要がある。
【0006】
しかし、上記従来の免震構造において引張材を長くするためには、下部構造物と上部構造物との間の上下方向のスペースを大きくする必要がある。そのため、建築物の1階床高さを高くしたり、基礎の底盤の位置をより深くしたりする必要があり、その分、免震構造を設置するためのコストが増加してしまうという問題点があった。
【0007】
本発明は、引張材を長くすることなく固有周期を長周期化することが可能な免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の免震構造は、下部構造物と上部構造物との間に設けられる免震構造であって、前記上部構造物に固定された上側構造と、前記下部構造物に固定された下側構造と、前記上側構造の下端部の上側構造下端部と、前記下側構造の上端部の下側構造上端部と、に支持された引張材と、前記下側構造上端部と前記引張材の上端部との間に設けられ、前記引張材を前記下側構造上端部に対して免震支承する免震支承装置と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の免震構造は、上記構成において、前記上側構造下端部と前記引張材の下端部との間または前記免震支承装置と前記引張材の上端部との間に、上下方向免震用の弾性支持部材を備えているのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、引張材を長くすることなく固有周期を長周期化することが可能な免震構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る免震構造の構成を模式的に示した正面図である。
【
図2】
図1に示す免震支承装置の拡大断面図である。
【
図3】(a)は、
図2に示す免震支承装置の平面図であり、(b)は、
図2に示すA-A線に沿う断面図である。
【
図4】
図1に示す弾性支持部材の拡大断面図である。
【
図5】
図1に示す免震構造の、免震動作を行っている状態を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る免震構造について、図面を参照しつつ詳細に例示説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明の一実施形態である免震構造1は、下部構造物2と上部構造物3との間に設けられる。免震構造1は、地面から下部構造物2を介して上部構造物3に伝達される水平方向の振動を低減することができる。
【0014】
免震構造1は、下部構造物2と上部構造物3との間に、3体以上設置することで、上部構造物3を安定的に支持することが可能となる。複数の免震構造1を下部構造物2と上部構造物3との間に配置する際の配置パターンや配置数は、適宜変更可能である。
【0015】
下部構造物2は、地面に直接または間接に固着した構造物である。上部構造物3は、下部構造物2の上方に構築された構造物である。本実施の形態では、下部構造物2は建築物の基礎であり、上部構造物3は例えばビルディング、倉庫、木造の建物などの建築物である。
【0016】
なお、下部構造物2は、地面に固着した構造物であれば、建築物の基礎に限らず、例えば建築物の下層階を構成する部分などの他の構造物であってもよい。下部構造物2を建築物の下層階を構成する部分とした場合には、上部構造物3は建築物の上層階を構成する部分である。
【0017】
免震構造1は、上側構造10、下側構造20、引張材30及び免震支承装置40を備えている。
【0018】
上側構造10は、上部構造物3に固定されている。上側構造10は、例えば、2本の傾斜する柱部10aの下端を互いに接合し、これらの柱部10aの上端において上部構造物3に固定されたトラス構造とすることができる。上側構造10は、例えば鋼材等により、上部構造物3の荷重を支持可能な所定の剛性を有するように構成される。上側構造10の下端部は、上側構造下端部10bとなっている。
【0019】
上側構造10は、下端部に上側構造下端部10bを備えて上部構造物3に固定される構成であれば、上記したトラス構造に限らず、例えば門型の構成とするなど、その形状ないし構成は種々変更可能である。
【0020】
下側構造20は、下部構造物2に固定されている。下側構造20は、例えば、2本の傾斜する柱部20aの上端を互いに接合し、これらの柱部20aの下端において下部構造物2に固定されたトラス構造とすることができる。下側構造20は、例えば鋼材等により、上部構造物3の荷重を支持可能な所定の剛性を有するように構成される。下側構造20の上端部は、下側構造上端部20bとなっている。下側構造上端部20bは、上側構造下端部10bの上方に所定の間隔を空けて配置されている。
【0021】
下側構造20は、上端部に下側構造上端部20bを備えて下部構造物2に固定される構成であれば、上記したトラス構造に限らず、例えば門型の構成とするなど、その形状ないし構成は種々変更可能である。
【0022】
引張材30は、その下端側において上側構造下端部10bに支持されるとともに上端側において下側構造上端部20bに支持されている。これにより、引張材30は、下部構造物2に固定された下側構造20に対して上部構造物3に固定された上側構造10を吊り下げ保持している。引張材30は、例えば、鋼材等により上下方向(鉛直方向)に沿って延びるとともに上部構造物3の重量を支持可能な引張り強度を有する棒状のものとすることができるが、上部構造物3の重量を支持可能な引張り強度を有するワイヤー、チェーン等であってもよい。
【0023】
引張材30は、上側構造下端部10b及下側構造上端部20bのそれぞれに対して、水平方向の何れの方向に向けても傾動可能(回動可能)となっている。これにより、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動すると、引張材30は、当該振動により、上側構造下端部10bと下側構造上端部20bとの間で振り子のように振動方向に傾動することができる。
【0024】
免震支承装置40は、下側構造上端部20bと引張材30の上端部30aとの間に設けられている。免震支承装置40は、引張材30を下側構造上端部20bに対して水平方向に免震支承する。
【0025】
図2に示すように、本実施形態では、免震支承装置40は、滑り支承となっている。
図2、
図3、
図4に示すように、本実施形態では、下側構造上端部20bは矩形の板状に形成されており、その上面は水平方向と平行な平らな滑り面41となっている。下側構造上端部20bの中央には、引張材30の外径より大きい内径を有する円形の貫通孔42が設けられており、引張材30は貫通孔42を貫通して下側構造上端部20bの上方に突出している。
【0026】
滑り面41の上には、ベースプレート43が配置されている。ベースプレート43は、下面の全面において滑り面41に接する矩形板状の摩擦材43aと、摩擦材43aが下面に固着された板状の球座受け材43bとを有している。ベースプレート43は、摩擦材43aが滑り面41上を摺動することで、下側構造上端部20bに対して水平方向に移動することができる。ベースプレート43の中央には、引張材30の外径より大きい内径を有するとともに摩擦材43a及び球座受け材43bを上下方向に貫通する円形の貫通孔43cが下側構造上端部20bの貫通孔42と同軸に設けられており、引張材30の上端部30aは貫通孔42と貫通孔43cとを貫通してベースプレート43の上方に突出している。
【0027】
球座受け材43bの上面には、貫通孔43cと同軸であるとともに球座受け材43bの上面から下方に向けて凹む半球状の球座受け面43dが設けられている。一方、引張材30の上端部30aには、ナット31を用いて球座32が取り付けられている。球座32は、球座受け面43dと同一の半径を有して下方に向けて突出する半球状となっており、その半球状の外周面32aにおいて球座受け面43dに当接している。引張材30は球座32の軸心を貫通しており、ナット31は球座32の上方において引張材30にネジ止めされている。球座32は、ナット31により、引張材30に対する上方への移動が規制されている。
【0028】
本実施形態では、引張材30は、球座32の外周面32aが球座受け面43dに沿って摺動することで、下側構造上端部20bに対して、水平方向の何れの方向に向けても傾動可能(回動可能)となっている。
【0029】
免震支承装置40は、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動すると、摩擦材43aが滑り面41上を摺動することで、ベースプレート43が下側構造上端部20bに対して水平方向に移動して、引張材30の下側構造上端部20bに支持される位置を水平方向に変化させることができる。
【0030】
免震構造1は、上側構造下端部10bと引張材30の下端部30bとの間または免震支承装置40と引張材30の上端部30aとの間に、上下方向免震用の弾性支持部材50を備えた構成とすることができる。本実施形態では、上側構造下端部10bと引張材30の下端部30bとの間に上下方向免震用の弾性支持部材50を備えた構成とした場合を示す。
【0031】
図4に示すように、本実施形態では、上側構造下端部10bは板状に形成されており、その中央には、引張材30の外径より大きい内径を有する円形の貫通孔10cが設けられている。引張材30は、貫通孔10cを貫通して上側構造下端部10bの下方に突出している。引張材30の上側構造下端部10bの下方に突出した下端部30bには、上側構造下端部10bに所定の間隔を空けて対向するフランジ51が固定されている。
【0032】
弾性支持部材50は圧縮コイルバネあり、上側構造下端部10bとフランジ51との間に圧縮された状態で配置されている。弾性支持部材50は、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して上下方向(鉛直方向)に振動したときに、弾性変形によって伸縮することで、当該振動による下部構造物2と上部構造物3との間隔の変化に応じて上側構造下端部10bと下側構造上端部20bとの間の引張材30の長さを変化させて、当該鉛直方向の振動が下部構造物2から上部構造物3に伝達されることを抑制することができる。弾性支持部材50は圧縮コイルバネに限らず、例えば上下方向に複数枚重ねられた皿バネなどの他の弾性部材であってもよい。
【0033】
本実施形態では、引張材30は、貫通孔10cを支点として上側構造下端部10bにより支持されつつ弾性支持部材50が傾斜方向に弾性変形することで、上側構造下端部10bに対して、水平方向の何れの方向に向けても傾動可能(回動可能)となっている。
【0034】
図5に示すように、上記構成を有する本実施形態の免震構造1は、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動すると、引張材30が当該振動によって上側構造下端部10bと下側構造上端部20bとの間で振り子のように振動方向に傾動することで免震動作して、下部構造物2の振動が上部構造物3に伝達されることを抑制することができる。
【0035】
また、上記構成を有する本実施形態の免震構造1は、下側構造上端部20bと引張材30の上端部30aとの間に、引張材30の振り子動作による免震機構に対して直列に、免震支承装置40を設けているので、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動すると、
図5、
図6に示すように、摩擦材43aが滑り面41上を摺動することで、ベースプレート43が下側構造上端部20bに対して水平方向に移動して、引張材30の下側構造上端部20bに支持される位置が、引張材30の傾動動作(振り子動作)に合わせて水平方向に変化することになる。これにより、
図5に示すように、免震動作時における引張材30の振り子動作による回転半径R1は、免震支承装置40が設けられない場合の回転半径R2に対し、ベースプレート43が下側構造上端部20bに対して水平方向に移動する分だけ大きくなる。よって、水平方向の振動に対する免震構造1の固有周期は、免震支承装置40が設けられない場合に比べて長周期化することになる。
【0036】
このように、本実施形態の免震構造1では、下側構造上端部20bと上側構造下端部10bとに支持された引張材30の振り子動作による免震機構に加えて、下側構造上端部20bと引張材30の上端部30aとの間に、引張材30を下側構造上端部20bに対して免震支承する免震支承装置40を設けた構成としたので、引張材30を長くすることなく、免震構造1の免震動作の際の固有周期を長周期化することができる。
【0037】
また、上記構成を有する本実施形態の免震構造1では、引張材30を長くすることなく免震動作の際の固有周期を長周期化することができるので、下部構造物2と上部構造物3との間の上下方向のスペースを拡大するために、建築物の1階床高さを高くしたり、基礎の底盤の位置をより深くしたりすることを不要として、免震構造1を設置するためのコストを低減することができる。
【0038】
さらに、本実施形態の免震構造1では、トラス構造とされた上側構造10の内側に免震支承装置40を配置することができるので、免震支承装置40を配置するためのスペースを小さくすることができ、また、上部構造物3を建築物とした場合には、建築物の居住空間等に免震支承装置40を配置することを不要として、建築物の空間を有効に利用することが可能となる。
【0039】
このように、本実施形態の免震構造1によれば、設置コストを高めることなく、固有周期を長周期化して免震構造1の免震性能を高めることができる。
【0040】
免震構造1の、水平方向の振動に対する固有周期Tは、以下の通りとなる。
【0041】
すなわち、上記構成を有する本実施形態の免震構造1において、引張材30の振り子動作時における振り子角度θが小さい場合には、sinθ≒θとなるため、引張材30の振り子動作による免震機構の水平剛性Kpは、引張材30の支持重量をmg、引張材30の振り子長さ(引張材30の球座32の中心から上側構造下端部10bまでの長さ)をLとすると、以下の(式1)となる。
【0042】
[数式]
Kp=mg/L (式1)
【0043】
一方、免震支承装置40の等価剛性Ksは、免震支承装置40の水平方向への変位量をd、摩擦材43aと滑り面41との間の摩擦係数をμとすると、以下の(式2)となる。
【0044】
[数式]
Ks=μN/d=μmgcos2θ/d (式2)
【0045】
なお、引張材30の振り子動作時における張力をFtとすると、Ft=mgcosθ、N=Ftcosθとなるので、引張材30による振り子機構と免震支承装置40とが直列配置となる免震構造1の全体の剛性Kは、1/K=1/Kp+1/Ks=(μLcos2θ+d)/μmgcos2θから、以下の(式3)となる。
【0046】
[数式]
K=μmgcos2θ/(μLcos2θ+d) (式3)
【0047】
よって、免震構造1の、水平方向の振動に対する固有周期Tは、以下の(式4)となる。
【0048】
[数式]
T=2π/ω=2π{(μLcos2θ+d)/μgcos2θ}1/2=2π{(L/g)+(d/μgcos2θ)}1/2 (式4)
【0049】
このように、免震構造1の、水平方向の振動に対する固有周期Tは、免震支承装置40が設けられない場合の固有周期2π(L/g)1/2より伸長されている。
【0050】
上記構成を有する本実施形態の免震構造1においては、摩擦材43aと滑り面41との間の摩擦係数μは、種々変更可能である。
【0051】
例えば、摩擦係数μを比較的小さく設定することにより、地震などによって下部構造物2が上部構造物3に対して水平方向に振動したときに、免震支承装置40が積極的に免振動作を行うようにして、固有周期Tが長周期化した免震構造1によって、当該振動が上部構造物3に伝達されることを効果的に抑制することができる。この場合、免震支承装置40には復元機能がないため、小さな地震の後であってもジャッキ等を用いて免震支承装置40を原点位置に復帰させる必要が生じる。
【0052】
これに対し、摩擦係数μを比較的大きく設定することにより、免震支承装置40をフェイルセーフとして使用することもできる。すなわち、摩擦係数μを比較的大きく設定することにより、小地震の際には摩擦材43aが滑り面41に対して摺動せず、所定の震度以上の大地震の際にのみ摩擦材43aが滑り面41に対して摺動する構成とすることもできる。この場合、小地震の際には、免震支承装置40が作動しないので、免震構造1の固有周期Tを長周期化することはできないが、小地震の後に、免震支承装置40の復元作業を不要とすることができる。一方、大地震の際には、摩擦材43aが滑り面41に対して摺動することで、免震構造1の固有周期Tを長周期化して、大地震による大きな振動を免震構造1によって効果的に免振することができる。また、摩擦係数μを比較的大きくすることにより、免震動作時に摩擦材43aと滑り面41との間に生じる摩擦抵抗を大きくして、振動を減衰する効果を得ることができる。
【0053】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0054】
例えば、免震支承装置40は、滑り支承に限らず、例えば、転がり支承、積層ゴム支承など、水平方向の振動を免震できるものであれば、他の構成のものであってもよい。
【0055】
免震支承装置40として球面転がり支承を用いる場合には、下側構造上端部20bと球座受け材43bとの間に、摩擦材43aに替えて、それぞれ球面を備えた上皿と下皿とを互いの球面を対向させて上下に配置し、これらの上皿と下皿との間に球面に接する駒を配置する。この場合、免震支承装置40の球面の半径(回転半径)は、引張材30の免震支承装置40が免振動作していないときの回転半径R2よりも大きく設定する。免震支承装置40として球面転がり支承を用いることで、地震の後に、免震支承装置40を自動的に原点位置に復帰させることができる。
【0056】
免震支承装置40として積層ゴム支承を用いる場合には、下側構造上端部20bと球座受け材43bとの間に、摩擦材43aに替えて積層ゴム支承を配置する。積層ゴム支承としては、これに加わる回転荷重に抗するために、扁平な形状のものを用いるのが好ましい。免震支承装置40として積層ゴム支承を用いることで、地震の後に、免震支承装置40を原点位置に容易に復帰させることができる。また、積層ゴム支承として、高減衰ゴムを使用したものを用いることで、免震支承装置40に減衰機能を付与することもできる。
【0057】
免震構造1は、上下方向免震用の弾性支持部材50を、上側構造下端部10bと引張材30の下端部30bとの間に設けた構成に限らず、上下方向免震用の弾性支持部材50を、免震支承装置40と引張材30の上端部30aとの間に設けた構成としてもよい。また、免震構造1は、弾性支持部材50を備えない構成とすることもできる。これらの場合、引張材30の下端部30bは、例えばピン接合、ユニバーサルジョイント、リング部材など、上側構造下端部10bに引張荷重を伝達でき且つ引張材30を上側構造下端部10bに対して傾動可能(回動可能)とする種々の連結構造によって上側構造下端部10bに連結した構成とすることができる。
【0058】
上記実施形態では、上側構造10及び下側構造20を、それぞれ2本の柱部10a、20aを有するトラス構造として説明したが、上側構造10及び下側構造20は、各々3本以上の柱部10a、20aを有するトラス構造であってもよい。上側構造10及び下側構造20を、各々3本以上の柱部10a、20aを有するトラス構造とすることで、より安定した免震構造1とすることができる。また、上側構造10及び下側構造20を各々1本の柱部10a、20aを有する構成とした場合であっても、免震構造1を3体以上設置することで、上部構造物3を安定的に支持することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 免震構造
2 下部構造物
3 上部構造物
10 上側構造
10a 柱部
10b 上側構造下端部
10c 貫通孔
20 下側構造
20a 柱部
20b 下側構造上端部
30 引張材
30a 上端部
30b 下端部
31 ナット
32 球座
32a 外周面
40 免震支承装置
41 滑り面
42 貫通孔
43 ベースプレート
43a 摩擦材
43b 球座受け材
43c 貫通孔
43d 球座受け面
50 弾性支持部材
51 フランジ
R1 回転半径
R2 回転半径