(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067433
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット、および、膜
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
C23C14/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178667
(22)【出願日】2021-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】林 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】梅本 啓太
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA11
4K029DC05
4K029DC09
(57)【要約】
【課題】異常放電およびパーティクルの発生を抑制でき、安定して高品質な膜を成膜することが可能なスパッタリングターゲット、および、膜を提供する。
【解決手段】Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相を有し、組織中の空隙の円相当径が4.0μm以下、空隙の面積率が10%以下であることを特徴とする。N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相を有し、
組織中の空隙の円相当径が4.0μm以下、空隙の面積率が10%以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
Mo酸化物およびNb酸化物を含む介在物の面積率が2.0%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量が1000massppm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
スパッタ面の算術平均粗さRaが1μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
酸素含有量が1000massppm以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記化合物相は、2相以下の組織で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記化合物相は、単相組織とされていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項9】
Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素からなる金属相を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項10】
Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相を有し、算術平均粗さRaが2.0nm以下であることを特徴とする膜。
【請求項11】
N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内であることを特徴とする請求項10に記載の膜。
【請求項12】
Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量が1000massppm以下であることを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の膜。
【請求項13】
酸素含有量が1000massppm以下であることを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか一項に記載の膜。
【請求項14】
前記化合物相は、2相以下の組織で構成されていることを特徴とする請求項10から請求項13のいずれか一項に記載の膜。
【請求項15】
前記化合物相は、単相組織とされていることを特徴とする請求項10から請求項14のいずれか一項に記載の膜。
【請求項16】
Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素からなる金属相を有することを特徴とする請求項10から請求項15のいずれか一項に記載の膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物からなる膜を成膜する際に用いられるスパッタリングターゲット、および、膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば10nm程度の微細な配線パターンを形成する際に用いられるEUV(極端紫外線)マスクブランクスのEUV反射膜として、特許文献1に示すように、低屈折率相と高屈折率層とを積層した多層膜が提案されている。
ここで、高屈折率膜として、Si含有膜が用いられている。また、低屈折率膜として、MoやNbの窒化物膜、炭化物膜、ホウ化物膜、が用いられている。
【0003】
そして、特許文献1においては、MoやNbの窒化物膜を成膜する際には、Mo,Nb等の金属からなるスパッタリングターゲットを用いて、窒素リアクティブ成膜を行っている。
また、MoやNbの炭化物膜を成膜する際には、Mo,Nb等の金属からなるスパッタリングターゲットを用いて、炭素リアクティブ成膜を行っている。
さらに、MoやNbのホウ化物膜を成膜する際には、Mo,Nb等の金属のホウ化物からなるスパッタリングターゲットを用いて成膜を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に示すように、リアクティブ成膜においては、反応状態によっては均一な膜を得ることが困難であった。特に、大面積の基板上に成膜する場合には、均一性を確保することができなかった。
また、窒化物、炭化物、ホウ化物からなるスパッタリングターゲットは、窒化物粉、炭化物粉、ホウ化物粉等を原料として、焼結することで製造される。
【0006】
しかしながら、窒化物粉、炭化物粉、ホウ化物粉は、焼結性が低く、空隙が生じ易く、密度を向上させることができなかった。このようなスパッタリングターゲットを用いて成膜した場合には、空隙に起因した異常放電が発生し、パーティクルの原因となる。
ここで、上述のように、EUVマスクブランクスは微細な配線パターンを形成する際に用いられるため、スパッタ成膜時にパーティクルが発生すると、成膜した膜を、EUV反射膜として利用することができないおそれがあった。
【0007】
また、空隙が多く存在するスパッタリングターゲットを用いて成膜された膜は、表面粗さが大きくなる。EUV反射膜は、上述のように、低屈折率相と高屈折率層とが積層された構造とされているので、膜の表面粗さが大きいと入射光が拡散してしまい、反射率が低下してしまうおそれがあった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、異常放電およびパーティクルの発生を抑制でき、安定して高品質な膜を成膜することが可能なスパッタリングターゲット、および、膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のスパッタリングターゲットは、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相を有し、組織中の空隙の円相当径が4.0μm以下、空隙の面積率が10%以下であることを特徴としている。
【0010】
本発明のスパッタリングターゲットにおいては、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、Mo酸化物およびNb酸化物を含む介在物の面積率が2.0%以下であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量が1000massppm以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、スパッタ面の算術平均粗さRaが1μm以下であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、酸素含有量が1000massppm以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、前記化合物相は、2相以下の組織で構成されていることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、前記化合物相は、単相組織とされていることが好ましい。
【0017】
また、本発明のスパッタリングターゲットにおいては、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素からなる金属相を有していてもよい。
【0018】
本発明の膜は、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相を有し、算術平均粗さRaが2.0nm以下であることを特徴とする。
【0019】
ここで、本発明の膜においては、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の膜においては、Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量が1000massppm以下であることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の膜においては、酸素含有量が1000massppm以下であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の膜においては、前記化合物相は、2相以下の組織で構成されていることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明の膜においては、前記化合物相は、単相組織とされていることが好ましい。
【0024】
また、本発明の膜においては、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素からなる金属相を有していてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、異常放電およびパーティクルの発生を抑制でき、安定して高品質な膜を成膜することが可能なスパッタリングターゲット、および、膜を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施形態であるスパッタリングターゲット、および、膜について説明する。
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、例えば、EUV(極端紫外線)マスクブランクスのEUV反射膜として使用される膜を成膜する際に用いられるものである。
【0028】
なお、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、その形状に特に限定はなく、スパッタ面が矩形状をなす矩形平板型スパッタリングターゲットであってもよいし、スパッタ面が円形をなす円板型スパッタリングターゲットとしてもよい。あるいは、スパッタ面が円筒面とされた円筒型スパッタリングターゲットであってもよい。
【0029】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいては、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相を有するものとされている。
そして、組織中の空隙の円相当径が4.0μm以下、及び空隙の面積率が10%以下に制限されている。なお、空隙の円相当径は、観察された空隙の面積の平均値から算出した値である。空隙の面積率は、測定した全体の面積と空隙の面積を元に算出した値である。
【0030】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいては、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相を主相としており、その化合物相の面積率が50%以上とされていることが好ましい。
なお、上述の化合物相以外に、金属Mo相、金属Nb相が存在していてもよい。これら金属Mo相および金属Nb相の合計面積率は50%以下であることが好ましい。
【0031】
また、本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいては、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内であることが好ましい。
すなわち、本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいては、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内とされ、残部がMo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素および不可避不純物とした組成とされていることが好ましい。
【0032】
また、本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいては、Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量が1000massppm以下であることが好ましい。
さらに、本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいては、酸素含有量が1000massppm以下であることが好ましい。
また、本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいては、Mo酸化物およびNb酸化物を含む介在物の面積率が2.0%以下に制限されていることが好ましい。
【0033】
さらに、本実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいては、前記化合物相は、2相以下の組織で構成されていることが好ましく、単相組織とされていることがさらに好ましい。
また、スパッタ面の算術平均粗さRaが1μm以下であることが好ましい。
【0034】
以下に、本実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、空隙、組成、不純物量、酸素含有量、介在物、化合物相、表面粗さについて、上述のように規定した理由を示す。
【0035】
(空隙)
本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいては、上述のように、組織中の空隙の円相当径が4.0μm以下、かつ組織中の空隙の面積率が10%以下とされている。
空隙を上述のように制限することにより、スパッタ成膜時に、空隙を起因とした異常放電の発生を抑制でき、安定してスパッタ成膜することができる。また、異常放電によるパーティクルの発生を抑制でき、高品質な膜を成膜することができる。さらに、表面粗さが小さく、平滑な膜を成膜することができる。
ここで、空隙の円相当径は3.0μm以下とすることが好ましく、2.0μm以下とすることがより好ましい。また、空隙の面積率は8%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。なお、空隙は存在しないことが最も好ましく、空隙の円相当径の下限は0μm、空隙の面積率の下限は0%である。
【0036】
(組成)
本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内とされている場合には、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属の窒化物膜、炭化物膜、ホウ化物膜を確実に成膜することが可能となる。
ここで、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量の下限は20原子%以上とすることがより好ましく、30原子%以上とすることがさらに好ましい。また、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量の上限は80原子%以下とすることがより好ましく、70原子%以下とすることがさらに好ましい。
【0037】
(不純物量)
本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、不純物であるFe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量が1000massppm以下とされている場合には、これら不純物を起因としたパーティクルの発生を抑制することができる。よって、高品質な膜を確実に成膜することができる。
ここで、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおけるFe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量は800massppm以下とすることがより好ましく、500massppm以下とすることがさらに好ましい。なお、Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kは含有しないことが最も好ましく、Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量の下限は0massppmである。
【0038】
(酸素含有量)
本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、酸素含有量を1000massppm以下に制限した場合には、酸素を含む介在物の発生を抑制でき、介在物を起因とした異常放電の発生を抑制でき、パーティクルの発生を抑制することができる。
ここで、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおける酸素含有量は800massppm以下とすることがより好ましく、500massppm以下とすることがさらに好ましい。なお、酸素含有量の下限に特に制限はないが、実質的には、10massppm以上となる。
【0039】
(介在物)
本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、Mo酸化物およびNb酸化物を含む介在物の面積率が2.0%以下である場合には、Mo酸化物およびNb酸化物を含む介在物が少ないことから、この介在物を起因とした異常放電の発生を抑制できるとともに、パーティクルの発生を抑制することができる。
ここで、Mo酸化物およびNb酸化物を含む介在物の面積率は1.0%以下とすることがより好ましく、0.5%以下とすることがさらに好ましい。なお、Mo酸化物およびNb酸化物を含む介在物は存在しないことが最も好ましく、Mo酸化物およびNb酸化物を含む介在物の面積率の下限は0%である。
【0040】
(化合物相)
Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属の窒化物、炭化物、ホウ化物は、多種の組成比の化合物の相を形成し、同一の組成比でも結晶構造の異なる相を形成する。異なる組成比や結晶構造が異なる相では、スパッタレートが互いに異なるため、異常放電およびパーティクルの原因となる。
このため、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相を2相以下の組織で構成することにより、スパッタ成膜時における異常放電およびパーティクルの発生を抑制することが可能となる。なお、化合物相の数は、異なる組成比の化合物の相、および、同一組成比において結晶構造が異なる相の合計数である。
また、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相は、単相組織で構成されていることがさらに好ましい。
【0041】
(表面粗さ)
本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、スパッタ面の算術平均粗さRaが1μm以下とされている場合に、スパッタ面が平滑で凹凸が少なく、スパッタ成膜時に凸部への電荷の集中が抑制されることになり、異常放電の発生をさらに抑制することができる。
ここで、スパッタ面の算術平均粗さRaは0.8μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。なお、スパッタ面の算術平均粗さRaの下限に特に制限はないが、実質的には、0.01μm以上となる。
【0042】
次に、上述した本実施形態であるスパッタリングターゲットの製造方法の一例について、
図1を参照して説明する。
【0043】
(原料粉準備工程S01)
原料粉として、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物粉を準備する。なお、金属Mo粉および金属Nb粉を準備してもよい。
なお、本実施形態では、化合物粉をハンマーミル等で粉砕し、粒子径が大きい粗粉と、粒子径が小さい微粉と、に分けておく。なお、篩を用いて分級して粗粉と微粉とに分けてもよい。また、粉砕前の粉を粗粉、粉砕・篩後の粉を微粉として用いてもよい。さらに、乳鉢で手粉砕したものを粗粉、手粉砕後ハンマーミルで再度粉砕したものを微粉としてもよい。
また、本実施形態においては、化合物粉(化合物原料)をX線分析し、化合物粉の構成相の数を確認して、構成相の少ないものを選択して用いることが好ましい。
【0044】
(原料粉洗浄工程S02)
次に、準備した原料粉を、塩酸を用いて洗浄することにより、原料粉に含まれる不純物量を低減する。
【0045】
(原料粉還元工程S03)
次に、洗浄した原料粉を、真空雰囲気下で加熱して還元処理を行い、原料粉の酸素含有量および酸化物を低減する。
本実施形態では、還元処理の条件を、15Pa以下の真空雰囲気下、加熱温度を1000℃以上1500℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を2時間以上4時間以下の範囲内、とすることが好ましい。
なお、還元処理を行った後において、平均粒子径が5.0μm以上7.0μm以下の範囲内の第1原料粉と、平均粒子径が1.0μm以上3.0μm以下の範囲内の第2原料粉と、を準備することが好ましい。
【0046】
(原料粉混合工程S04)
次に、所定の配合比となるように原料粉を秤量して混合する。このとき、第1原料粉の体積比を20vol%以上80vol%以下の範囲内、第2原料粉の体積比を20vol%以上80vol%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、第1原料粉の体積比および第2原料粉の体積比の合計は、100vol%である。このように、原料粉の体積比を調整して第1原料粉および第2原料粉を混合することにより、粒子径を必要以上に微細化することなく、焼結後の密度を向上させることが可能となる。
なお、原料粉の混合は、不活性ガス雰囲気において乾式混合することが好ましい。
【0047】
(焼結工程S05)
次に、上述のように混合した原料粉を、成形容器内に充填し、これを加熱および加圧して焼結し、焼結体を得る。なお、本実施形態では、ホットプレス(HP)によって焼結を行う。
この焼結工程S05における焼結温度は1300℃以上2000℃以下の範囲内、焼結温度での保持時間を120分以上240分以下の範囲内とする。また、焼結工程S05における加圧圧力は10MPa以上とする。
ここで、本実施形態において、焼結温度は1500℃以上とすることが好ましく、1600℃以上とすることがより好ましい。また、焼結温度は1900℃以下とすることが好ましく、1800℃以下とすることがより好ましい。
また、焼結温度での保持時間は120分以上とすることが好ましく、180分以上とすることがより好ましい。また、焼結温度での保持時間は210分以下とすることが好ましく、195分とすることがより好ましい。
さらに、加圧圧力は20MPa以上とすることが好ましく、30MPa以上とすることがより好ましい。
【0048】
(加工工程S06)
次に、得られた焼結体に対して、機械加工を行い、所定サイズのスパッタリングターゲットを得る。
【0049】
(ボンディング工程S07)
次に、得られたスパッタリングターゲットを、バッキング材にボンディングする。なお、平板形状のスパッタリングターゲットの場合にはバッキングプレートにボンディングし、円筒形状のスパッタリングターゲットの場合にはバッキングチューブにボンディングすることになる。
【0050】
(鏡面加工工程S08)
次に、スパッタ面に対して鏡面加工を行う。これにより、スパッタ面の算術平均粗さRaを小さくする。
【0051】
上述の工程により、本実施形態であるスパッタリングターゲットが製造されることになる。
【0052】
そして、本実施形態である膜は、上述の本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて成膜されたものである。
【0053】
本実施形態である膜は、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相を有する。
なお、上述の化合物相以外に、金属Mo相、金属Nb相が存在していてもよい。
【0054】
そして、本実施形態である膜においては、算術平均粗さRaが2.0nm以下とされている。表面粗さが小さく平滑な膜とすることで、膜表面での光の拡散を抑制でき、反射率を向上させることが可能となる。
なお、膜の算術平均粗さは、1.0nm以下であることが好ましく、0.5nm以下であることがより好ましい。
【0055】
また、本実施形態に係る膜においては、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内であることが好ましい。
すなわち、本実施形態に係るmにおいては、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内とされ、残部がMo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素および不可避不純物とした組成とされていることが好ましい。
【0056】
また、本実施形態である膜においては、Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量が1000massppm以下であることが好ましい。
本実施形態に係る膜において、不純物であるFe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量を1000massppm以下に抑えることで、膜表面のコンタミネーションによる汚染が抑制されており、膜の反射率の低下を抑制することができる。
なお、本実施形態に係る膜におけるFe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量は、800massppm以下とすることがより好ましく、500massppm以下とすることがさらに好ましい。なお、Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kは含有しないことが最も好ましく、Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量の下限は0massppmである。
【0057】
さらに、本実施形態に係る膜においては、酸素含有量が1000massppm以下であることが好ましい。
本実施形態に係る膜において、酸素含有量を1000massppm以下に抑えることで、膜表面の酸化が抑制されており、膜の反射率の低下を抑制することができる。
なお、本実施形態である膜における酸素含有量は、酸素含有量は800massppm以下とすることがより好ましく、500massppm以下とすることがさらに好ましい。なお、酸素含有量の下限に特に制限はないが、実質的には、10massppm以上となる。
【0058】
また、本実施形態に係る膜において、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相を2相以下の組織で構成することにより、膜の結晶成長への影響を抑制することができ、多層反射膜において安定した光学特性を発揮することが可能となる。なお、化合物相の数は、異なる組成比の化合物の相、および、同一組成比において結晶構造が異なる相の合計数である。
なお、本実施形態に係る膜において、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相は、単相組織で構成されていることがさらに好ましい。
【0059】
以上のような構成とされた本実施形態であるスパッタリングターゲットによれば、組織中の空隙の円相当径が4.0μm以下、空隙の面積率が10%以下とされているので、スパッタ成膜時に、空隙を起因とした異常放電の発生を抑制でき、安定してスパッタ成膜することができる。
【0060】
また、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が10原子%以上90原子%以下の範囲内である場合には、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属の窒化物膜、炭化物膜、ホウ化物膜を確実に成膜することができる。
【0061】
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、Mo酸化物およびNb酸化物を含む介在物の面積率が2.0%以下に制限されている場合には、この介在物を起因とした異常放電の発生を抑制できるとともに、パーティクルの発生を抑制することができる。
【0062】
また、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量が1000massppm以下である場合には、スパッタ成膜時におけるパーティクルの発生を抑制することができる。
【0063】
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、スパッタ面の算術平均粗さRaが1μm以下とされ、平滑面とされている場合には、電荷の集中が抑制され、スパッタ成膜時における異常放電の発生を抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、酸素含有量が1000massppm以下である場合には、酸素を含む介在物の発生を抑制でき、介在物を起因とした異常放電の発生、および、パーティクルの発生を抑制することができる。
【0065】
さらに、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、前記化合物相が、2相以下の組織で構成されている場合、さらに前記化合物相が単相組織とされている場合には、スパッタ成膜時における異常放電およびパーティクルの発生を抑制することが可能となる。
【0066】
本実施形態である膜においては、Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物相を有し、算術平均粗さRaが2.0nm以下とされていることから、膜表面での光の拡散を抑制でき、光の反射率を向上させることができる。
【0067】
また、本実施形態である膜において、Fe,Ni,Cr,Cu,Na,Kの合計含有量が1000massppm以下である場合には、膜表面のコンタミネーションによる汚染が抑制されており、膜の反射率の低下を抑制することができる。
さらに、本実施形態である膜において、酸素含有量が1000massppm以下である場合には、膜表面の酸化が抑制されており、膜の反射率の低下を抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態である膜において、前記化合物相が、2相以下の組織で構成されている場合、さらに前記化合物相が単相組織とされている場合には、膜の結晶成長への影響を抑制することができ、多層反射膜において安定した光学特性を発揮することができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0070】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について表1から表4を参照して説明する。
【0071】
Mo,Nbから選択される1種又は2種の金属元素と、N,B,Cから選択される1種又は2種以上の元素とからなる化合物原料を準備し、この化合物原料をハンマーミルによって粉砕し、化合物粉を得た。また、金属Mo粉および金属Nb粉を準備した。なお、原料粉は、平均粒子径が大きい第1原料粉と平均粒子径が該第1原料粉よりも小さい第2原料粉とを準備した。また、第1原料粉の体積比は20vol%以上80vol%以下の範囲内とした。
そして、得られた化合物粉の一部においては塩酸で洗浄した。
【0072】
また、一部の化合物粉については、15Pa以下の真空雰囲気下で、1200℃で3時間保持の還元処理を行った。
そして、原料粉(第1原料粉および第2原料粉)を表1に示す体積比で混合し、原料粉とした。なお、混合は、Arガス雰囲気の乾式ボールミルにて実施した。
【0073】
ボールを篩で除いた後、原料粉をカーボン製の成形型に充填し、真空雰囲気のホットプレス装置(HP)を用いて、焼結温度2000℃、加圧荷重35MPaの条件で、3時間の加圧焼結を行った。
【0074】
得られた焼結体を機械加工し、152.4mmφ×6mmの円板状のスパッタリングターゲットを得た。
このスパッタリングターゲットをCu製のバッキングプレートにボンディングした。
その後、一部のスパッタリングターゲットにおいては、スパッタ面を鏡面加工した。
【0075】
得られたスパッタリングターゲット、および、膜について、以下の項目について評価した。
【0076】
(化合物粉の粒子径)
混合前の原料粉(第1原料粉および第2原料粉)について、粒度分布計で粒度分布を測定しD50を粒子径として規定した。表に示す。
【0077】
(化合物粉の相)
混合後の原料粉のX線回折パターンを測定し、ピークから組成及び結晶構造を同定した。なお、組成が同じもの(例えばMo(50)B(50)at%)であっても正方晶と斜方晶など結晶構造が異なるのであれば、異なる相として数えた。
【0078】
(ターゲットの組成)
得られたスパッタリングターゲットから測定試料を採取し、ICP発光分析によって分析し、各元素含有量を測定した。
【0079】
(空隙)
スパッタリングターゲットのスパッタ面を、EPMAを用いて1000倍の倍率で観察する。同倍率で撮像した二次電子像について、画像処理ソフトImageJを用いて、Thershold colorによる二値化を行い、得られた画像についてParticle測定機能を用いて、空隙の面積を算出し、全体の面積(観察面積:10000μm2)で割った割合(面積率)を計算した。空隙の面積の平均値から円相当径を算出した。
【0080】
(ターゲット中の不純物量)
得られたスパッタリングターゲットから測定試料を採取し、Fe,Ni,Cr,CuはAgilent Technologies 製 のAgilent 7900 ICP-MSを用いてICP-MS分析した。また、Na,Kは日本ジャーレル・アッシュ製 の炎光光度計AA-8500を用いて分析した。5massppm未満の場合は0とした。そして、これらの合計を不純物量として表に記載した。
【0081】
(ターゲットの酸素含有量)
得られたスパッタリングターゲットから測定試料を採取し、不活性ガス融解-赤外線吸収法によって酸素含有量を測定した。
【0082】
(介在物の面積率)
スパッタリングターゲットのスパッタ面を、EPMAを用いて1000倍の倍率で観察する。同倍率でO元素マッピング分析を行い、得られたマッピング像について、画像処理ソフト画像処理ソフトImageJを用いて、Thershold colorによる二値化を行い、得られた画像についてParticle測定機能を用いて、0.5μm^2以上の介在物の面積をそれぞれ算出し、全体の面積で割った割合(面積率)を計算した。
【0083】
(ターゲットスパッタ面の表面粗さ)
Mitutoyo社製サーフテストSV-3000H4を用いて、スパッタ前のターゲットスパッタ面の表面粗さ(算術平均粗さRa)を測定した。
【0084】
(ターゲットの相)
スパッタリングターゲットのスパッタ面においてX線回折パターンを測定し、ピークから組成及び結晶構造を同定した。なお、組成が同じもの(例えばMo(50)B(50)at%)であっても正方晶と斜方晶など結晶構造が異なるのであれば、異なる相として数えた。
【0085】
(異常放電)
電力DC1.5W/cm2、ガス圧0.4Paにて11hスパッタした際の異常放電数をカウントした。
【0086】
(パーティクル数)
電力DC1.5W/cm2、ガス圧0.4Paにて11h(約10kWh)スパッタした際のスパッタチャンバー内の気中パーティクルをカウントした。パーティクルのカウントにはWexx社製の真空中パーティクルモニタISPM-2Way-ICFを用いた。
【0087】
(膜の組成分析)
電力DC1.5W/cm2、ガス圧0.4Paの条件下で500nmとなるように成膜を行い、得られた膜から測定試料を採取し、ICP発光分析によって分析し、各元素含有量を測定した。
【0088】
(膜の不純物量)
電力DC1.5W/cm2、ガス圧0.4Paの条件下で500nmとなるように成膜を行い、得られた膜から測定試料を採取し、Fe,Ni,Cr,CuはAgilent Technologies 製 のAgilent 7900 ICP-MSを用いてICP-MS分析した。また、Na,Kは日本ジャーレル・アッシュ製 の炎光光度計AA-8500を用いて分析した。5massppm未満の場合は0とした。そして、これらの合計を不純物量として表に記載した。
【0089】
(膜の酸素含有量)
電力DC1.5W/cm2、ガス圧0.4Paの条件下で500nmとなるように成膜を行い、得られた膜から測定試料を採取し、不活性ガス融解-赤外線吸収法によって酸素含有量を測定した。
【0090】
(膜の相)
電力DC1.5W/cm2、ガス圧0.4Paの条件下で500nmとなるよう成膜を行い、得られた膜のX線回折パターンを測定し、ピークから組成及び結晶構造を同定した。なお、組成が同じもの(例えばMo(50)B(50)at%)であっても正方晶と斜方晶など結晶構造が異なるのであれば、異なる相として数えた。
【0091】
(膜の表面粗さ)
電力DC1.5W/cm2、ガス圧0.4Paの条件下で500nmとなるよう成膜を行い、得られた膜について、セイコーインスツルメンツ社製の走査型プローブ顕微鏡を用いて、DFM測定を行って表面形状像を撮像し、得られた画像から表面粗さ(算術平均粗さRa)を算出した。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
比較例1においては、スパッタリングターゲットの空隙の円相当径が4.2μmとされており、異常放電発生回数が57回、パーティクル数が13個となった。また、膜の表面粗さ(算術平均粗さRa)が2.30nmと大きくなった。
比較例2においては、スパッタリングターゲットの空隙の面積率が11.0%とされており、異常放電発生回数が65回、パーティクル数が9個となった。また、膜の表面粗さ(算術平均粗さRa)が2.10nmと大きくなった。
【0097】
これに対して、本発明例1~15においては、スパッタリングターゲットの空隙の円相当径が4.0μm以下とされ、空隙の面積率10%以下とされており、異常放電発生回数が32回以下、パーティクル数が0個となった。また、膜の表面粗さ(算術平均粗さRa)が0.92nm以下となり、平滑な膜を成膜することができた。
さらに、スパッタリングターゲットの相の数を少なくすることで異常放電発生回数が少なくなることが確認された。
【0098】
以上のことから、本発明例によれば、異常放電およびパーティクルの発生を抑制でき、安定して高品質な膜を成膜することが可能なスパッタリングターゲット、および、膜を提供できることが確認された。