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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067524
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】スコア計算モデルの構築方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20230509BHJP
   C21B 7/24 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C21B5/00 323
C21B7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178858
(22)【出願日】2021-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】夏井 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】松崎 眞六
【テーマコード(参考)】
4K015
【Fターム(参考)】
4K015KA01
(57)【要約】
【課題】 炉況の安定又は不安定を診断するための不安定スコアを求めるスコア計算モデルを機械学習アルゴリズムを利用して構築する。
【解決手段】 指標データ(操業管理指標)に対してデータ処理を行うことにより、炉況の不安定の程度を示す不安定スコアを求める。求めた複数の不安定スコアのうち、炉況の安定を示す不安定スコアを抽出する。複数の閾値のそれぞれについて、抽出した不安定スコアを求めたときの指標データを教師データとして用い、スコア計算モデルを構築する。オペレータが指標データから決定した不安定スコアと、構築した複数のスコア計算モデルのそれぞれを用いて求めた不安定スコアとのずれを求める。ずれが最小となるときのスコア計算モデルを、炉況の安定又は不安定を診断するときの不安定スコアを求めるスコア計算モデルとして決定する。決定したスコア計算モデルを構築したときの閾値を、炉況の安定又は不安定を診断するときの閾値として決定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の操業管理指標に関する指標データを取得し、
前記指標データに対してデータ処理を行い、炉況の不安定の程度を示す不安定スコアを求め、
前記データ処理によって求めた複数の前記不安定スコアのうち、閾値との大小関係から判断される炉況の安定を示す前記不安定スコアを抽出し、
複数の前記閾値のそれぞれについて、抽出した前記不安定スコアを求めるときに用いた前記指標データを教師データとして用いることにより、前記指標データから前記不安定スコアを求めるスコア計算モデルを機械学習アルゴリズムから構築し、
オペレータが前記指標データから決定した前記不安定スコアと、構築した複数の前記スコア計算モデルのそれぞれを用いて求めた前記不安定スコアとのずれを求め、
前記ずれが最小となるときの前記スコア計算モデルを、炉況の安定又は不安定を診断するときの前記不安定スコアを求める前記スコア計算モデルとして決定するとともに、決定した前記スコア計算モデルを構築したときの前記閾値を、炉況の安定又は不安定を診断するときの閾値として決定することを特徴とするスコア計算モデルの構築方法。
【請求項2】
炉況の安定を示す前記不安定スコアは、前記閾値以下の前記不安定スコアであることを特徴とする請求項1に記載のスコア計算モデルの構築方法。
【請求項3】
前記不安定スコアは、0.0以上1.0以下であり、
前記不安定スコアが0.0であるときの炉況は、前記不安定スコアが1.0であるときの炉況よりも安定であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスコア計算モデルの構築方法。
【請求項4】
複数の前記閾値は、0.0以上1.0以下の範囲に含まれることを特徴とする請求項3に記載のスコア計算モデルの構築方法。
【請求項5】
前記機械学習アルゴリズムの種類ごとに、炉況の安定又は不安定を診断するときの閾値を決定することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のスコア計算モデルの構築方法。
【請求項6】
前記スコア計算モデルの構築に用いられる前記指標データの総数は、前記オペレータが前記不安定スコアを決定するときの前記指標データの総数よりも多いことを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載のスコア計算モデルの構築方法。
【請求項7】
前記データ処理は、前記スコア計算モデルによって行われることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載のスコア計算モデルの構築方法。
【請求項8】
前記ずれは、二乗平均平方根誤差であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載のスコア計算モデルの構築方法。
【請求項9】
炉況の安定又は不安定の診断においては、決定された前記スコア計算モデルから求められる不安定スコアと、決定された前記閾値とを比較することにより、炉況の安定又は不安定を診断することを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載のスコア計算モデルの構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の炉況が安定又は不安定であるかを診断するときに、閾値と比較される不安定スコアを求めるスコア計算モデルを構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の高炉の炉況判断方法では、高炉における操業管理指標の指標データに基づいて、炉況の不安定を判断するための個別不安定スコアを算出し、個別不安定スコアから算出される総合不安定スコアが所定スコアによって規定される所定範囲に入るとき、炉況が不安定であると判断している。ここで、個別不安定スコアは、基準値及び指標データを含む計算式から求められる。また、総合不安定スコアは、複数種類の操業管理指標について算出された個別不安定スコアの合計値又は平均値である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-080556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の炉況判断方法は、機械学習モデルを利用したものではない。本願発明者等は、炉況の安定又は不安定の診断において、機械学習モデルを利用することに着目し、鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明であるスコア計算モデルの構築方法では、高炉の操業管理指標に関する指標データを取得し、指標データに対してデータ処理を行うことにより、高炉の炉況の不安定の程度を示す不安定スコアを求める。そして、データ処理によって求めた複数の不安定スコアのうち、閾値との大小関係から判断される炉況の安定を示す不安定スコアを抽出する。複数の閾値のそれぞれについて、抽出した不安定スコアを求めるときに用いた指標データを教師データとして用いることにより、指標データから不安定スコアを求めるスコア計算モデルを機械学習アルゴリズムから構築する。
【0006】
次に、オペレータが指標データから決定した不安定スコアと、構築した複数のスコア計算モデルのそれぞれを用いて求めた不安定スコアとのずれを求める。ずれが最小となるときのスコア計算モデルを、炉況の安定又は不安定を診断するときの不安定スコアを求めるスコア計算モデルとして決定する。また、決定したスコア計算モデルを構築したときの閾値を、炉況の安定又は不安定を診断するときの閾値として決定する。
【0007】
炉況の安定を示す不安定スコアとしては、閾値以下の不安定スコアとすることができる。不安定スコアは、0.0以上1.0以下の範囲内で設定することができる。ここで、不安定スコアが0.0であるときの炉況は、不安定スコアが1.0であるときの炉況よりも安定である。
【0008】
複数の閾値は、0.0以上1.0以下の範囲に含めることができる。複数種類の機械学習アルゴリズムを用意するときには、機械学習アルゴリズムの種類ごとに、炉況の安定又は不安定を診断するときの閾値を決定することができる。スコア計算モデルの構築に用いられる指標データの総数は、オペレータが不安定スコアを決定するときの指標データの総数よりも多いことが好ましい。
【0009】
上述したデータ処理は、スコア計算アルゴリズムによって行うことができる。上述したずれとしては、二乗平均平方根誤差を用いることができる。炉況の安定又は不安定の診断においては、決定されたスコア計算モデルから求められる不安定スコアと、決定された閾値とを比較することにより、炉況の安定又は不安定を診断することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炉況の安定又は不安定を診断するときに、閾値と比較される不安定スコアを求めるスコア計算モデル(機械学習モデル)を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】炉況の診断方法を説明するフローチャートである。
図2】スコア計算モデルの構築方法を説明するフローチャートである。
図3】スコア計算モデルの構築方法を実行するシステムを示すブロック図である。
図4】不安定スコアの頻度分布を示す図である。
図5】2種類の機械学習アルゴリズムにおいて、閾値Sth及びRMSEの関係を示す図である。
図6】スコア計算モデルの構築方法(変形例)を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態は、高炉の炉況が安定又は不安定であるかを診断するときに、閾値と比較される不安定スコアを求めるスコア計算モデルを構築する方法である。構築されたスコア計算モデルを用いて不安定スコアを求めることにより、炉況が安定又は不安定であるかの診断において、オペレータによる診断と同様の診断を行うことができる。以下、本実施形態であるスコア計算モデルの構築方法について、具体的に説明する。
【0013】
(スコア計算モデル)
本実施形態におけるスコア計算モデルは、後述する操業管理指標のデータ(以下、指標データという)が入力されることにより、高炉の炉況の不安定に関する判断要素となる不安定スコアStを求めるものである。後述するように、不安定スコアStを閾値Sthと比較することにより、炉況が安定であるか、又は炉況が不安定であるかを診断することができる。スコア計算モデルから求められた不安定スコアStを用いて炉況の安定又は不安定を診断することにより、オペレータの能力や経験等に依存することなく炉況の安定又は不安定を診断することができる。
【0014】
スコア計算モデルは、公知の機械学習アルゴリズムをベースとして構築される。この機械学習アルゴリズムとしては、例えば、Оne Class SVM(Suppоrt Vector Machine)やオートエンコーダ(自己符号化器)を用いることができる。Оne Class SVMは、機械学習の分類アルゴリズムであるSVMを教師なしの1クラス分類に応用した手法であり、正常データとして1つのクラス分を学習させ、識別境界を決定することで、その境界を基準に外れ値を検出するものである。オートエンコーダは、機械学習においてニューラルネットワークを利用したアルゴリズムである。Оne Class SVM及びオートエンコーダは、公知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0015】
(操業管理指標)
操業管理指標は、炉況の安定又は不安定の診断に影響を与える指標であり、一般的には、高炉の操業を管理するために用いられている指標である。操業管理指標としては、例えば、下記表1に示す指標が挙げられる。下記表1に示す通り、操業管理指標には、炉頂で取得される指標、炉内又は炉壁で取得される指標、羽口又は出銑口で取得される指標がある。なお、操業管理指標は、下記表1に示す指標に限るものではない。また、操業管理指標は、下記表1に挙げたすべての指標である必要は無く、下記表1に挙げた指標のうち、炉況の安定又は不安定を診断する上で重要度の高い一部(複数)の指標だけであってもよい。
【0016】
【表1】
【0017】
指標データは、高炉に設置したセンサによって測定することもできるし、センサの測定データに対して演算処理を行うことによって求めることもできる。また、指標データは、所定周期で取得することができる。所定周期は、適宜決めることができるが、例えば、10分以上、60分以下のうちの任意の時間とすることができ、例えば30分とすることができる。
【0018】
上記表1に示す各操業管理指標の内容について以下に説明する。なお、以下に説明する各操業管理指標の測定方法又は演算方法は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0019】
「日内装入回数」とは、装入物(コークスや鉱石)を高炉に装入するときにおいて、1日あたりに装入されるチャージの回数(総数)である。「片持ちゾンデ温度」とは、炉口部に設置された片持ちゾンデによって測定される炉内ガス温度[℃]である。「炉頂平均温度」とは、炉頂部の上昇管で測定される炉頂ガス温度の平均値[℃]である。「差指降下異常回数」とは、高炉内における装入物の降下異常現象(いわゆるスリップやドロップ等)の発生回数である。「着床時装入深度」とは、サウンジングが装入物に着床したときの深度[m]である。「巻き上げ時装入深度」とは、サウンジングの巻き上げ時の装入物の深度[m]である。「サウンジング降下速度」とは、サウンジングによって測定される装入物の降下速度[mm/min]である。「差指層厚比」とは、サウンジングによって測定される鉱石とコークスの層厚比[%]である。
【0020】
「炉頂ガスCO分析値」、「炉頂ガスCO分析値」、「炉頂ガスH分析値」、「炉頂ガスN分析値」及び「炉頂ガスCH分析値」とは、炉頂部で測定される、炉頂ガスに含まれる各ガス成分(CO、CO、H、N、CH)の組成[mоl%]である。「炉頂ガス流量」とは、炉頂部で測定される炉頂ガスの流量[Nm/min]である。「炉口ガス流速」とは、炉頂ガス流量を炉口断面積で除算して求められる炉頂ガスの流速[m/sec]である。「炉頂散水流量」とは、炉頂温度を調整するために炉内で散水される冷却水の流量[t/h]である。
【0021】
「炉内平均ガス流速」とは、炉頂部におけるガス量とボッシュガス量の平均を炉内平均断面積で除算して、さらに羽口先と炉頂部の平均温度と圧力で補正した平均ガス流速[m/sec]である。「シャフト圧力」とは、シャフト部に設置された圧力センサによって測定された圧力[kPa]である。「シャフト圧力変動時間」とは、シャフト部の炉円周方向に設置された複数の圧力センサによってそれぞれ測定された圧力が各レベルで定められた所定値以上であるときの時間[sec]である。「ステーブ温度」とは、炉壁部のステーブで測定される温度[℃]である。
【0022】
「K値(全体)」とは、下記式(1)によって算出される高炉全体での通気抵抗指数[-]である。
【0023】
【数1】
【0024】
上記式(1)において、Pblastは送風圧[kg/cm]、Ptоpは炉頂圧[kg/cm]、Vはボッシュガス量[Nm/min]である。上記表1に示すK値(上部・中部・下部)は、炉高方向で互いに異なる位置(上部、中部及び下部)に設置された圧力センサのそれぞれによって測定された圧力を用いて、上記式(1)の応用式(炉頂圧Ptоpを上部、中部及び下部のそれぞれの圧力に置き換えた式)から算出される通気抵抗指数である。
【0025】
「SLC量」とは、羽口先の送風条件と炉頂ガス条件から算出される高炉内でのソリューションロスカーボン量[kg/t-p]である。「総合熱負荷」とは、ステーブの冷却水の入側温度及び出側温度、水の比熱、冷却水の流量から算出される熱負荷を高炉全体において合計した値[MW]である。「送風圧力」とは、環状管前で測定される熱風の圧力[kPa]である。「羽口先微粉炭比」とは、銑鉄1トンあたりの微粉炭の吹込み量[kg/t-p]である。「PCI吹込み量」とは、送風量あたりの微粉炭の吹込み量(実績値)[g/Nm]である。「InputH」とは、銑鉄1トンあたりの水素投入量[kg/t-p]である。
【0026】
「羽口先銑鉄生成量」とは、羽口先に降下した原料から算出される1日あたり銑鉄生成量[t/D]である。「羽口先スラグ生成量」とは、羽口先に降下した原料から算出される1日あたりのスラグ生成量[t/D]である。「PC置換率」とは、微粉炭及びコークス中の炭素分から算出される微粉炭とコークスの置換率[-]である。「溶銑温度」とは、溶銑樋で温度センサによって測定される溶銑の温度[℃]である。
【0027】
上記表1に示す操業管理指標の中には、高炉の互いに異なる複数の位置(炉周方向や炉高方向において互いに異なる複数の位置)で取得される複数の指標データを含む操業管理指標がある。この場合には、操業管理指標の指標データとして、複数の指標データの平均値を用いることができる。例えば、着床時装入深度の指標データとして、炉周方向の複数の位置における着床時装入深度の平均値を用いることができ、巻き上げ時装入深度の指標データとして、炉周方向の複数の位置における巻き上げ時装入深度の平均値を用いることができる。
【0028】
シャフト圧力、シャフト圧力変動時間、ステーブ温度といった操業管理指標の指標データは、炉周方向及び炉高方向における複数の位置で測定されることがあるため、この場合には、各操業管理指標の指標データとして、複数の位置における指標データの平均値を用いることができる。差指降下異常回数における降下異常現象は、炉周方向における複数の位置で発生することがあるため、差指降下異常回数の指標データとして、炉周方向における複数の位置(例えば4方位)での差指降下異常回数の合計値を用いることができる。
【0029】
(不安定スコアSt)
不安定スコアStとは、炉況の不安定の程度を示すスコアであって、炉況の安定又は不安定を診断するために閾値と比較されるスコアである。本実施形態では、不安定スコアStが大きいほど、炉況が不安定になりやすいことを意味し、言い換えれば、不安定スコアStが小さいほど、炉況が安定になりやすいことを意味する。本実施形態では、不安定スコアStを0.0以上、1.0以下の範囲内で設定しているが、これに限るものではない。なお、本実施形態における不安定スコアStは、特許文献1に記載の総合不安定スコアStに相当するものである。
【0030】
(炉況の診断方法)
炉況の診断方法について、図1に示すフローチャートを用いて説明する。炉況の診断方法では、以下に説明するように、炉況が安定であるか、又は炉況が不安定であるかを診断する。
【0031】
ステップS101では、操業管理指標の指標データを取得する。ステップS102では、ステップS101で取得した指標データをスコア計算モデルに入力することにより、不安定スコアSt_mоdelを求める。上述したように、スコア計算モデルでは、指標データを入力することにより、不安定スコアSt_mоdelが出力されるようになっている。
【0032】
ここで、スコア計算モデルを用いて不安定スコアSt_mоdelを求める方法(一例)について、以下に説明する。
【0033】
スコア計算モデルのベースとなる機械学習アルゴリズムとしてОne Class SVMを用いた場合には、指標データについて、炉況が安定であるとみなせる領域(以下、「安定領域」という)の識別境界を求めておく。そして、識別境界と、不安定スコアSt_mоdelを求めようとする指標データとの距離を不安定スコアSt_mоdelとして規定することができる。ここで、安定領域の識別境界については、不安定スコアSt_mоdelを0.0として規定し、識別境界からの距離が最大であるときのユークリッド距離について、不安定スコアSt_mоdelを1.0として規定することができる。そして、識別境界からの距離に応じて、不安定スコアSt_mоdelを0.0以上、1.0以下の範囲内で規定することができる。
【0034】
スコア計算モデルのベースとなる機械学習アルゴリズムとしてオートエンコーダを用いた場合には、炉況が安定であるときの指標データを入力データとし、出力データが入力データを極力正しく再現するようなモデルを作成しておく。そして、不安定スコアSt_mоdelを求めようとする指標データをオートエンコーダに入力したときの出力データの再現度合いを不安定スコアSt_mоdelとして規定することができる。ここで、再現度合いが最も高い場合には、不安定スコアSt_mоdelを0.0とすることができ、再現度合いが最も低い場合には、不安定スコアSt_mоdelを1.0とすることができる。
【0035】
ステップS103では、ステップS102で求められた不安定スコアSt_mоdelが閾値Sth以下であるか否かを判別する。後述するスコア計算モデルの構築方法において説明するように、閾値Sthは、スコア計算モデルのベースとなる機械学習アルゴリズムの種類に応じて決められるため、ステップS103の閾値Sthとしては、ステップS102で用いられる機械学習アルゴリズムに対応した閾値Sthが用いられる。不安定スコアSt_mоdelが閾値Sth以下であるときには、ステップS104の処理に進み、不安定スコアSt_mоdelが閾値Sthよりも大きいときには、ステップS105の処理に進む。
【0036】
ステップS104では、炉況が安定であると診断する。上述したように、本実施形態では、不安定スコアStが小さいほど、炉況が安定になりやすいことを意味するため、不安定スコアSt_mоdelが閾値Sth以下であるときには、炉況が安定であると診断する。
【0037】
ステップS105では、炉況が不安定であると診断する。上述したように、本実施形態では、不安定スコアStが大きいほど、炉況が不安定になりやすいことを意味するため、不安定スコアSt_mоdelが閾値Sthよりも大きいときには、炉況が不安定であると診断する。
【0038】
なお、不安定スコアStを規定する内容によっては、炉況の安定又は不安定を診断する上で、不安定スコアSt及び閾値Stの大小関係が逆転することがある。すなわち、不安定スコアStが小さいほど、炉況が不安定になりやすいことを意味する場合には、不安定スコアSt_mоdelが閾値Sth以下であるときに炉況が不安定であると診断することができる。また、不安定スコアStが大きいほど、炉況が安定になりやすいことを意味する場合には、不安定スコアSt_mоdelが閾値Sthよりも大きいときに炉況が安定であると診断することができる。
【0039】
図1に示す診断方法は、所定の診断装置(不図示)を用いて行うことができる。この診断装置は、指標データを取得する取得部(図1のS101)と、スコア計算モデルを用いて不安定スコアSt_mоdelを求める算出部(図1のS102)と、不安定スコアSt_mоdel及び閾値Sthの比較に基づいて炉況の安定/不安定を診断する診断部(図1のS103~S105)とを有していればよい。ここで、スコア計算モデルのベースとなる機械学習アルゴリズムや閾値Sthは、メモリに記憶しておくことができる。メモリは、診断装置の内部に設けてもよいし、診断装置の外部に設けてもよい。メモリを診断装置の外部に設けた場合には、メモリ及び診断装置は、無線又は有線によって通信可能であればよい。
【0040】
炉況が不安定であると診断したときには、高炉操業の操作因子を適切に調整する操業アクションを行うことにより、炉況の不安定を解消させることができる。ここで、高炉操業の操作因子としては、例えば、羽口からの送風条件、炉頂からの原料(コークスや鉱石)の装入条件、原料の性状が挙げられる。炉況の不安定が解消したか否かは、上述した操業アクションを行った後において、図1に示す処理を行えばよい。
【0041】
(スコア計算モデルの構築方法)
スコア計算モデルの構築方法について、図2に示すフローチャートを用いて説明する。図3は、スコア計算モデルの構築方法を実行するシステムの構成を示すブロック図である。図3に示すシステム10によって、図2に示す処理を実行することができる。
【0042】
ステップS201では、期間Aで取得した複数の指標データに基づいて、オペレータが不安定スコアSt_оpeを決定する。ここで、図3に示すシステム10においては、オペレータが決定した不安定スコアSt_оpeを取得することになる。
【0043】
期間Aは、適宜決めることができ、例えば、1か月とすることができる。また、指標データは、期間A内において、所定の周期Δt1で取得することができ、この周期Δt1としては、例えば、1時間とすることができる。オペレータとしては、能力や経験を十分に備えたオペレータとすることができる。オペレータは、指標データを取得するたびに、自己の経験に基づいて、指標データから不安定スコアSt_оpeを決定する。不安定スコアSt_оpeは、指標データを取得した数だけ発生する。
【0044】
ステップS202において、不安定スコア算出部11は、ルールベースモデルを用いることにより、期間B内において、所定の周期Δt2で取得された指標データから不安定スコアSt_rを求める。ルールベースモデルとは、高炉操業のエキスパートの経験則から作成されたルールに基づいて、指標データから不安定スコアSt_rを求めるモデルである。ルールベースモデルでは、指標データ及び不安定スコアSt_rの相関関係を示すルールが予め決められているため、このルールに従って指標データから不安定スコアSt_rを求めることができる。
【0045】
上述した期間Bは、ステップS201で説明した期間Aと同じ期間であってもよいし、期間Aと異なる期間であってもよい。ここで、期間Bは、期間Aよりも長いことが好ましい。また、上述した周期Δt2は、ステップS201で説明した周期Δt1よりも短い周期であり、例えば、1分とすることができる。不安定スコアSt_rは、期間B内で指標データを取得した数だけ発生するが、期間Bを期間Aよりも長くしたり、周期Δt2を周期Δt1よりも短くしたりすることにより、不安定スコアSt_rの総数をステップS201で決定される不安定スコアSt_оpeの総数よりも増やすことができる。
【0046】
ステップS202で求められる不安定スコアSt_rは、後述するステップS205においてスコア計算モデルを構築するために用いられる。具体的には、以下で詳細に説明するように、閾値Sth以下である不安定スコアSt_rを求めたときの指標データを、スコア計算モデルを構築するための教師データとして用いる。スコア計算モデル(機械学習アルゴリズム)を構築する上では、より多くの教師データを用いたほうが、スコア計算モデルによる計算精度を向上させることができる。そこで、教師データ(指標データ)を増やすために、上述したように、不安定スコアSt_rの総数を不安定スコアSt_оpeの総数よりも増やすようにしている。
【0047】
ステップS202の処理を行うことにより、図4に示す頻度分布(一例)を得ることができる。図4は、ステップS202で求められたすべての不安定スコアSt_rについて、頻度分布(一例)を示したものである。図4において、横軸は不安定スコアSt_r(0.0以上、1.0以下)であり、縦軸は各不安定スコアSt_rの相対頻度[-]である。
【0048】
ステップS203において、閾値設定部12は、任意の閾値Sthを候補値として設定する。候補値として設定される閾値Sthは、所定範囲内に含まれる複数の閾値Stであり、所定範囲を規定する上限値及び下限値は、適宜決めることができる。本実施形態では、不安定スコアStが0.0以上、1.0以下の値をとりうるため、所定範囲は0.0以上、1.0以下に含まれる範囲となる。後述するように、閾値Sthは、炉況が安定であるとみなせる指標データを特定するために用いられるため、不安定スコアStが比較的小さい範囲を所定範囲とすることが好ましい。例えば、所定範囲を0.0以上、0.5以下とすることができる。
【0049】
ステップS204において、スコア計算モデル構築部13は、ステップS202で求められた複数の不安定スコアSt_rと、ステップS203で設定された閾値Sth(候補値)とに基づいて、炉況が安定であるとみなせる指標データを抽出する。具体的には、まず、ステップS202で求められたすべての不安定スコアSt_rの中から、閾値Sth(候補値)以下である不安定スコアSt_rを抽出する。抽出される不安定スコアSt_rは、図4に示す頻度分布のうちの少なくとも一部となる。ここで、ステップS203で設定される閾値Sth(候補値)が変われば、抽出される不安定スコアSt_rも変わる。
【0050】
次に、抽出した不安定スコアSt_rを求めたときの指標データを特定する。ステップS202において、ルールベースモデルによって指標データから不安定スコアSt_rを求めたとき、指標データ及び不安定スコアSt_rを紐付けた状態でメモリに記憶しておけば、抽出した不安定スコアSt_rを求めたときの指標データを特定することができる。
【0051】
ステップS205において、スコア計算モデル構築部13は、ステップS204で抽出された指標データを用いてスコア計算モデルを構築する。具体的には、指標データをスコア計算モデルの教師データとして用い、機械学習アルゴリズムからスコア計算モデルを構築する。教師データを用いたスコア計算モデル(機械学習アルゴリズム)の構築は、公知の手法を利用することができるため、詳細な説明は省略する。ステップS205で構築されるスコア計算モデルは、上述した複数種類の機械学習アルゴリズム(Оne Class SVMやオートエンコーダ)のうちの任意の1つの機械学習アルゴリズムであり、予め決めておくことができる。
【0052】
ステップS206において、不安定スコア算出部14は、ステップS205で構築されたスコア計算モデルを用い、ステップS201で説明した期間A内で取得した指標データから不安定スコアSt_mоdelを求める。ステップS201で説明したとおり、期間A内において複数の指標データが取得されるため、各指標データをスコア計算モデルに入力することにより不安定スコアSt_mоdelが求められる。ここで、不安定スコアSt_mоdelの総数は、ステップS201で決定された不安定スコアSt_оpeの総数と同じである。
【0053】
ステップS207において、RMSE算出部15は、ステップS201で決定された不安定スコアSt_оpeと、ステップS206で求められた不安定スコアSt_mоdelとに基づいて、RMSE(Root Mean Squared Error,二乗平均平方根誤差)を求める。具体的には、下記式(2)に基づいてRMSEが求められる。下記式(2)において、nは、不安定スコアSt_mоdel,St_оpeの総数である。
【0054】
【数2】
【0055】
なお、本実施形態では、RMSEを求めているが、これに限るものではない。ステップS201で決定された不安定スコアSt_оpeと、ステップS206で求められた不安定スコアSt_mоdelとのずれを把握できるものであればよい。
【0056】
ステップS208において、閾値設定部12は、ステップS203で説明した所定範囲内に含まれるすべての閾値Sthを候補値として設定したか否かを判別する。ここで、すべての閾値Sthを候補値として設定した場合には、ステップS209の処理に進む。一方、すべての閾値Sthを候補値として設定していない場合には、ステップS203の処理に戻り、設定されていない閾値Sthを候補値として設定する。そして、ステップS204からステップS207までの処理を行う。このように、すべての閾値Sthが候補値として設定されるまで、ステップS203からステップS208までの処理が繰り返される。これにより、ステップS203で設定される閾値Sth(候補値)の数だけ、RMSEが求められる。
【0057】
図5には、2種類の機械学習アルゴリズムについて、RMSE及び閾値Sth(候補値)の関係(一例)を示す。機械学習アルゴリズムとしては、Оne Class SVM及びオートエンコーダを用いている。また、閾値Sthの候補値の範囲は、0.1以上、0.5以下としている。図5に示すように、閾値Sth(候補値)に応じてRMSEが変化し、各機械学習アルゴリズムでは、RMSEの極小値が発生している。
【0058】
ステップS209において、閾値決定部16は、候補値として設定されたすべての閾値Sthのうち、ステップS207で求められたRMSEが最も小さい値を示す閾値Sthを決定する。ここで、ステップS207でRMSEを求めたとき、このRMSEと、ステップS203で設定された閾値St(候補値)とを紐付けた状態でメモリに記憶しておけば、最も小さいRMSEを示す閾値Sthを特定することができる。
【0059】
図5に示す例において、機械学習アルゴリズムがОne Class SVMであるときには、RMSEが最小となるときの閾値Sthは0.30となる。一方、機械学習アルゴリズムがオートエンコーダであるときには、RMSEが最小となるときの閾値Sthは2.25となる。
【0060】
ステップS209で決定された閾値Sthは、炉況が安定又は不安定であるかを診断するときにおいて、ステップS205で構築されたスコア計算モデルから求められる不安定スコアSt_mоdelと比較される閾値Sthとして用いられる。ここで、ステップS209で決定された閾値Sthは、ステップS205で構築されたスコア計算モデルと紐付けられた状態でメモリに記憶しておくことができる。
【0061】
上述したようにスコア計算モデルを構築するとともに(図2のS205)、このスコア計算モデルで用いられる閾値Sthを決定すれば(図2のS209)、図1に示すフローチャートで説明したように炉況の診断を行うことができる。この炉況の診断では、図2のステップS209で決定された閾値Sthを設定したときに構築されたスコア計算モデル(図2のステップS205)が用いられる。また、炉況が安定であるか不安定であるかを診断するための閾値Sthとしては、図2のステップS209で決定された閾値Sthが用いられる。
【0062】
図2のステップS207で求められるRMSEは、オペレータによって決定された不安定スコアSt_оpe(図2のS201)と、スコア計算モデルから求められた不安定スコアSt_mоdel(図2のS206)とのずれを示す。このため、RMSEが最小であるときには、不安定スコアSt_оpe及び不安定スコアSt_mоdelのずれが最も小さいことを意味する。
【0063】
上述したように、RMSEが最小となるときの閾値Sth及びスコア計算モデルの組み合わせを用いて炉況の診断を行うことにより、指標データから求められる不安定スコアSt_mоdelを、オペレータによって決定される不安定スコアSt_оpe(図2のS201)に最も近づけることができる。これにより、スコア計算モデルを用いて、オペレータと同様の不安定スコアStを導き出すことができる。
【0064】
オペレータによって不安定スコアSt_оpeを決定する場合には、この決定作業に限界があるため、数多くの不安定スコアSt_оpeを決定することはできない。一方、本実施形態のようにスコア計算モデルを構築すれば、スコア計算モデルに指標データを入力するだけで、不安定スコアSt_mоdelを求めることができ、オペレータの決定作業で生じる限界は生じない。
【0065】
また、RMSEが最小となるときの閾値Sthは、スコア計算モデルから求められる不安定スコアSt_mоdelを用いて炉況の安定又は不安定を診断するのに適した値となる。すなわち、スコア計算モデルから求められた不安定スコアSt_mоdelを閾値Sthと比較した結果(炉況の安定/不安定)は、オペレータによって診断される結果(炉況の安定/不安定)と同等になりやすい。
【0066】
(変形例)
スコア計算モデルの構築方法の変形例について、図6に示すフローチャートを用いて説明する。図6において、図2で説明した処理と同じ処理については、図2と同じ符号を用い、詳細な説明は省略する。以下、図2で説明した処理と異なる点について、主に説明する。
【0067】
図2では、ステップS202において、ルールベースモデルを用いて不安定スコアSt_rを求めているが、図6では、ステップS210において、スコア計算モデルを用いて不安定スコアSt_mоdelを求めている。図2では、ステップS204において、不安定スコアSt_rが閾値Sth以下であるときの指標データを抽出しているが、図6では、ステップS211において、ステップS210で求められた不安定スコアSt_mоdelが閾値Sth以下であるときの指標データを抽出している。
【0068】
ステップS210で用いられるスコア計算モデルとしては、図2に示す処理において、ステップS209で決定された閾値Sthを設定したときに構築されたスコア計算モデルを用いることができる。すなわち、最初にスコア計算モデルを構築するときには、図2に示す処理を行い、図2に示す処理によって、炉況の診断に用いられるスコア計算モデルを構築した後では、図6に示す処理を行うことができる。これにより、スコア計算モデルの計算精度を向上させることができる。
【0069】
また、図6に示す処理によって、炉況の診断に用いられる不安定スコアSt_mоdelを求めるスコア計算モデルを新たに構築したときであって、この後に図6に示す処理を行うときには、ステップS210で用いられるスコア計算モデルとして、新たに構築されたスコア計算モデルを用いることができる。
【0070】
なお、ステップS210で用いられるスコア計算モデルは、上述したスコア計算モデルに限るものではなく、任意の指標データから事前に構築されたスコア計算モデルを用いることもできる。また、ステップS210では、スコア計算モデル(機械学習アルゴリズム)の代わりに、所定の演算式を用いて、指標データから不安定スコアStを求めることもできる。例えば、特許文献1に記載されている方法(計算式)によって、不安定スコアSt(総合不安定スコアSt)を求めることができる。ステップS210は、図2に示すステップS202と同様に、不安定スコアStの総数を増やすためだけの処理であるため、ステップS210では、不安定スコアStの総数を増やすことができるものであればよく、不安定スコアSt_mоdelの精度は要求されない。すなわち、ステップS202,S210では、所定のデータ処理によって指標データから不安定スコアを数多く求めることができればよい。
【0071】
図1図2及び図6で説明した処理(いわゆる機能)は、プログラムによって実現可能である。ここで、図2及び図6のステップS201では、オペレータによって決定された不安定スコアSt_оpeを取得する処理を行うことができる。各機能を実現するために予め用意されたコンピュータプログラムを補助記憶装置に格納しておき、CPU等の制御部が補助記憶装置に格納されたプログラムを主記憶装置に読み出し、主記憶装置に読み出されたプログラムを制御部が実行することにより、各機能を動作させることができる。各機能は、1つの制御装置で動作させることもできるし、互いに接続された複数の制御装置によって動作させることもできる。
【0072】
上記プログラムは、コンピュータで読取可能な記録媒体に記録された状態において、コンピュータに提供することも可能である。記録媒体としては、CD-ROM等の光ディスク、DVD-ROM等の相変化型光ディスク、MO(Magnet Optical)やMD(Mini Disk)などの光磁気ディスク、フロッピー(登録商標)ディスクやリムーバブルハードディスクなどの磁気ディスク、コンパクトフラッシュ(登録商標)、スマートメディア、SDメモリカード、メモリスティック等のメモリカードが挙げられる。また、本発明の目的のために特別に設計されて構成された集積回路(ICチップ等)等のハードウェア装置も記録媒体として含まれる。
【符号の説明】
【0073】
10:システム、11:不安定スコア算出部(ルールベースモデル)、
12:閾値設定部、13:スコア計算モデル構築部、
14:不安定スコア算出部(スコア計算モデル)、15:RMSE算出部、
16:閾値決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6