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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067575
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】小型3軸力覚センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/1627 20200101AFI20230509BHJP
【FI】
G01L5/1627
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178958
(22)【出願日】2021-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植竹 宏明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祥弘
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AB09
2F051BA07
2F051DA03
2F051DB05
(57)【要約】
【課題】本発明は、3軸力覚センサであって、従来のセンサより小型であっても、フルブリッジ回路を構成する導電性部材の電気抵抗値を十分担保できるとともに、ノイズを低減した高精度な小型化可能な3軸力覚センサを提供する。
【解決手段】本発明の3軸力覚センサは、板状の基板と、前記基板の一面から突出するように設けられた突起部と、前記基板の一面から前記突起部の基端の周囲を囲むように円環状に窪んでいる溝を設けることで、形成される肉薄部としての起歪部と、前記突起部を設けた一面とは反対側の他面において、前記起歪部に相当する起歪領域の内周縁部及び外周縁部のそれぞれに沿って弧線状に延在し、かつ、4回回転対称性を有するように配置されている複数の導電性部材と、を備え、前記複数の導電性部材のそれぞれが、4回回転対称性を有するように配置される4個のフルブリッジ回路を構成している。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の基板と、
前記基板の一面から突出するように設けられた突起部と、
前記基板の一面から前記突起部の基端の周囲を囲むように円環状に窪んでいる溝を設けることで、形成される肉薄部としての起歪部と、
前記突起部を設けた一面とは反対側の他面において、前記起歪部に相当する起歪領域の内周縁部及び外周縁部のそれぞれに沿って弧線状に延在し、かつ、4回回転対称性を有するように配置されている複数の導電性部材と、を備え、
前記複数の導電性部材のそれぞれが、4回回転対称性を有するように配置される4個のフルブリッジ回路を構成し、
前記フルブリッジ回路のそれぞれを構成する前記導電性部材のうち前記フルブリッジ回路のそれぞれの対辺をなす一の組が前記起歪領域の内周縁部に配置され、
前記フルブリッジ回路のそれぞれを構成する前記導電性部材のうち前記フルブリッジ回路のそれぞれの対辺をなす一の組とは別の他の組が前記起歪領域の外周縁部に配置されることを特徴とする3軸力覚センサ。
【請求項2】
請求項1記載の3軸力覚センサであって、
前記起歪領域の内周縁部に配置されている前記一の組の導電性部材のそれぞれが、互いに異なる円周上に沿って弧線状に延在して、配置されていることを特徴とする3軸力覚センサ。
【請求項3】
請求項1または2記載の3軸力覚センサであって、
前記起歪領域の外周縁部に配置されている前記一の組とは別の前記他の組の導電性部材のそれぞれが、互いに異なる周上に沿って弧線状に延在して、配置されていることを特徴とする3軸力覚センサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の3軸力覚センサであって、
前記基板の他面に、前記導電性部材の端部を連結する連結部と、
前記4個のフルブリッジ回路のそれぞれに電源を供給する電源部と、
前記4個のフルブリッジ回路のそれぞれを接地するための接地部と、が設けられていることを特徴とする3軸力覚センサ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の3軸力覚センサであって、
前記基板の前記一面及び前記他面のそれぞれを機械的に固定するホルダ部と、
前記4個のフルブリッジ回路と電気信号を接続するためのセンサ基板と、を備えることを特徴とする3軸力覚センサ。
【請求項6】
請求項5に記載の3軸力覚センサであって、
前記ホルダ部に前記フルブリッジ回路の出力信号を増幅するアンプICを備えたアンプ基板を有することを特徴とする3軸力覚センサ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載の3軸力覚センサであって、
前記起歪領域に配置された前記導電性部材の両端部が、ワイヤボンディングによってセンサ基板に接続されていることを特徴とする3軸力覚センサ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の3軸力覚センサであって、
前記導電性部材がCr薄膜により構成されていることを特徴とする3軸力覚センサ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項記載の3軸力覚センサであって、
前記一の組を構成する前記導電性部材のうち、前記起歪部を中心とした円の半径が短い円周上に配置される前記導電性部材の長さが、前期起歪部を中心とした円の半径が長い円周上に配置される前記導電性部材の長さよりも長く、
前記他の組を構成する前記導電性部材のうち、前期起歪部を中心とした円の半径が短い円周上に配置される前記導電性部材の長さが、前期起歪部を中心とした円の半径が長い円周上に配置される前記導電性部材の長さよりも短く構成されていることを特徴とする3軸力覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は小型化可能な3軸力覚センサに関し、該3軸力覚センサのための起歪する基板および基板の起歪領域における導電性部材の配置パターンに関する。
【背景技術】
【0002】
物体に加わる力を測定するために用いられる力センサは主に起歪体と起歪体に接、加わる力を電気的に変換させる導電性部材を備える。導電性部材は適当な歪ゲージを有し、歪に応じて電気抵抗値を変化させる。
【0003】
特に3軸方向の力のそれぞれを検知するための力センサが特許文献1で提案されている。特許文献1の力センサは3軸の力を受ける円柱部と円柱部によって受けた力によって歪を発生させる、起歪部を有している。起歪部で発生した歪を電気的に変換させるために歪ゲージからなるCr基薄膜で構成された導電性部材を用いている。該導電性部材の配置を調整することで、各方向からの力を測定できるように構成されている。
【0004】
また、例えば特許文献2では、Cr基薄膜によって構成された導電性部材を単線状に構成し起歪体に接するように配置した力センサを用いた力センサアレイが提案されている。該力センサアレイに用いられている、個々の力センサは溝を有した起歪体の下面に導電性部材がブリッジ回路を構成するように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-166847号公報
【特許文献2】特開2021-060226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
力センサはウェアラブル端末(例えば、特開2021―067553号公報)などのICT産業に応用されることが期待されることから、ウェアラブル端末など小型化に適した環境で利用可能な力センサが必要である。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の力センサを小型化する場合、導電性部材そのものも小型になるため、電気抵抗値を十分な大きさにできなくなるという課題がある。電気抵抗値が十分な大きさとして担保されないと、センサの熱的な測定誤差や電磁気的な測定誤差が大きくなるため、センサとして十分に力を測定できなくなる。特に、電気抵抗値は導電性部材の長さに比例し、断面に反比例するが、3軸力覚センサにおける起歪体を10mm以下で製造する場合、導電性部材の長さが十分ではなくなるため、電気抵抗値が安定せずに、測定の精度が低下する。従って、既存の3軸力覚センサの起歪体は10mm以下安定して製造できないという課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、3軸力覚センサであって、従来のセンサより小型であっても、フルブリッジ回路を構成するセンサの電気抵抗値を十分担保できるとともに、ノイズを低減した高精度かつ小型化可能な3軸力覚センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の3軸力覚センサは、板状の基板と、前記基板の一面から突出するように設けられた突起部と、前記基板の一面から前記突起部の基端の周囲を囲むように円環状に窪んでいる溝を設けることで、形成される肉薄部としての起歪部と、前記突起部を設けた一面とは反対側の他面において、前記起歪部に相当する起歪領域の内周縁部及び外周縁部のそれぞれに沿って弧線状に延在し、かつ、4回回転対称性を有するように配置されている複数の導電性部材と、を備え、前記複数の導電性部材のそれぞれが、4回回転対称性を有するように配置される4個のフルブリッジ回路を構成し、前記フルブリッジ回路のそれぞれを構成する前記導電性部材のうち前記フルブリッジ回路のそれぞれの対辺をなす一の組が前記起歪領域の内周縁部に配置され、前記フルブリッジ回路のそれぞれを構成する前記導電性部材のうち前記フルブリッジ回路のそれぞれの対辺をなす一の組とは別の他の組が前記起歪領域の外周縁部に配置されることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、少なくとも突起部の上面および側面のいずれか一方から受ける力によって起歪部に歪を発生させることができる。起歪部に発生する歪の空間分布を4個のフルブリッジ回路によって測定するので、高精度かつ高感度の3軸力覚センサが実現される。また、フルブリッジ回路を構成する一の組の導電性部材を起歪領域の内周縁部に配置し、フルブリッジ回路を構成する他の組の導電性部材を起歪領域の外周縁部に配置し、各導電性部材を弧線状に延在するように形成する。よって、3軸力覚センサを10mm以下ひいては、5mm程度まで小型にした場合であっても、限られた基板の空間内において各導電性部材の電気抵抗値はフルブリッジ回路を構成するうえで十分に担保される。さらに、各導電性部材を重ねて配置したり、折って配置したりすることがないので、導電性部材同士が接触することがなくなり、短絡の発生を抑制することができるので、小型化しても十分な耐久性を維持する。
【0011】
(2)また、本発明の3軸力覚センサにおいて、前記起歪領域の内周縁部に配置されている前記一の組の導電性部材のそれぞれが、互いに異なる円周上に沿って弧線状に延在して、配置されていることが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、内径が短い起歪領域であっても導電性部材に十分な電気抵抗値を担保するほどの長さが維持される。また、一の組を構成する2個の導電性部材が起歪領域の内周縁部に配置されるので、センサを小型にしても力を高精度に計測すること及び高耐久が実現される。
【0013】
(3)また、本発明の3軸力覚センサにおいて、前記起歪領域の外周縁部に配置されている前記一の組とは別の前記他の組の導電性部材のそれぞれが、互いに異なる周上に沿って弧線状に延在して、配置されていることが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、外径が短い起歪領域であっても導電性部材に十分な電気抵抗値を担保しうるほどの長さが維持されうる。また、他の組を構成する2個の導電性部材が起歪領域の外周縁部に配置されるので、センサを小型にしても力を高精度に計測すること及び高耐久が実現される。
【0015】
(4)また、本発明の3軸力覚センサにおいて、前記基板の他面に、前記導電性部材の端部を連結する連結部と、前記4個のフルブリッジ回路のそれぞれに電源を供給する電源部と、前記4個のフルブリッジ回路のそれぞれを接地するための接地部と、が設けられていることが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、連結部、電源部および接地部がセンサと一体となり構成されるので、3軸力覚センサの小型化を実現する。また、外部影響を低減できるので、高精度に力を測定できる。
【0017】
(5)また、本発明の3軸力覚センサは、前記基板の一面及び他面のそれぞれを機械的に固定する一組のホルダ部と、前記4個のフルブリッジ回路と電気信号を接続するためのセンサ基板と、を備えることが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、ホルダ部およびセンサ基板がセンサと一体となり構成されるので、3軸力覚センサの小型化を実現する。また、外部影響を低減できるので、高精度に力を測定できる。
【0019】
(6)また、本発明の3軸力覚センサは、前記ホルダ部に前記フルブリッジ回路の出力信号を増幅するアンプICを備えたアンプ基板を有することが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、アンプ基板がセンサと一体となり構成されるので、3軸力覚センサの小型化を実現する。また、外部影響を低減できるので、高精度に力を測定できる。さらにアンプ基板を内蔵することで高感度の力センサが実現される。
【0021】
(7)また、本発明の3軸力覚センサにおいて、前記基板上に配置された前記導電性部材の両端部が、ワイヤボンディングによって前記センサ基板に接続されていることが好ましい。
【0022】
かかる構成によれば、ワイヤボンディングを用いて、接続するので、小型であっても短絡を低減でき、高耐久性を備えたセンサを実現する。
【0023】
(8)また、本発明の3軸力覚センサにおいて、前記導電性部材がCr基薄膜により構成されていることが好ましい。
【0024】
かかる構成によれば、Cr薄膜からなる導電性部材が用いられるので、高感度であり、3軸の力を高精度で計測する。
【0025】
(9)また、本発明の3軸力覚センサにおいて、前記一の組を構成する前記導電性部材のうち、前記起歪部を中心とした円の半径が短い円周上に配置される前記導電性部材の長さが、前期起歪部を中心とした円の半径が長い円周上に配置される前記導電性部材の長さよりも長く、前記他の組を構成する前記導電性部材のうち、前期起歪部を中心とした円の半径が短い円周上に配置される前記導電性部材の長さが、前期起歪部を中心とした円の半径が長い円周上に配置される前記導電性部材の長さよりも短く構成されていることが好ましい。
【0026】
かかる構成によれば、起歪領域の内周縁部であっても、内周縁部の最近傍に位置する導電性部材の長さが電気抵抗値を十分な大きさに担保するための、長さとすることができる。また、隣接する別の導電性部材と接することがないため、短絡など影響を削減し、耐久性を向上できる。さらに、十分な断面積を有するので、製造時の電気抵抗値のばらつき抑制でき、小型であってもノイズや誤差を低減し、高精度で計測するセンサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の3軸力覚センサの基板の概略構成を示す図である。
図2】本発明の3軸力覚センサの第1実施形態に係る導電性部材の配置の概略構成を示す図である。
図3図2のうち一のフルブリッジ回路を拡大した拡大図である。
図4図3のフルブリッジ回路に係る回路図である。
図5】本発明の3軸力覚センサの第2実施形態に係る導電性部材の配置の概略構成を示す図である。
図6図5のうち一のフルブリッジ回路を拡大した拡大図である。
図7図6のフルブリッジ回路に係る回路図である。
図8】有限要素法のシミュレーションによって得られた基板の垂直荷重とひずみの関係を示す図である。
図9】有限要素法のシミュレーションによって得られた基板の水平荷重とひずみの関係を示す図である。
図10】本発明の3軸力覚センサのセンサヘッドを示す図である。
図11A】本発明の3軸力覚センサのセンサヘッドとセンサ基板及び一部の連結線の位置関係を基板の他面の上面からみたときの模式的な図である。
図11B】本発明の3軸力覚センサのセンサヘッドとセンサ基板及び一部の連結線の位置関係を示す模式図である。
図12】Z方向荷重印加時の荷重と各フルブリッジから得られる出力との関係を示す図である。
図13A】X方向荷重印加時の荷重と各フルブリッジから得られるブリッジ出力との関係を示す図である。
図13B】X方向荷重印加時の荷重と各フルブリッジから得られるアンプ出力との関係を示す図である。
図14A】Y方向荷重印加時の荷重と各フルブリッジから得られるブリッジ出力との関係を示す図である。
図14B】Y方向荷重印加時の荷重と各フルブリッジから得られるアンプ出力との関係を示す図である。
図15A】各導電性部材の荷重と電気抵抗値の実測値との関係を示す図である。
図15B】各導電性部材の荷重と電気抵抗値のシミュレーション値との関係を示す図である。
図16】各導電性部材の電気抵抗値変化の感度係数依存性を示す図である。
図17A】本発明の第1実施形態に係る導電性部材の配置においてワイヤボンディングの数を低減した際の概略構成を示す図である。
図17B】本発明の第1実施形態に係る導電性部材の配置においてワイヤボンディングの数をさらに低減した際の概略構成を示す図である。
図18A】本発明の第2実施形態に係る導電性部材の配置においてワイヤボンディングの数を低減した際の概略構成を示す図である。
図18B】本発明の第2実施形態に係る導電性部材の配置においてワイヤボンディングの数をさらに低減した際の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の3軸力覚センサの実施形態は次の説明及び図面を用いることで説明される。図1Aは、本発明の3軸力覚センサの一面10の上方からみた上面図である。本発明の3軸力覚センサは、基板1と、基板1の一面10から突出するように形成される突起部2と、基板1の一面10に、突起部2の基端の周囲を囲む円環状に窪んでいる溝を設けることで、形成される肉薄部としての起歪部3を有する。図1AのAA断面図である図1Bに示すように、起歪部3を形成する溝は基板1の一面10にU字断面を有するように設けられる。3軸力覚センサの構成要素の位置および姿勢の説明のため、基板1の幾何重心を極点とする3次元円筒座標系(r、θ、Z)を用いる。
【0029】
基板1の外郭形状は円柱として構成されるが、これに限られない。基板1の外郭形状は角柱など測定環境に対して最適な形状となる任意の形状であってもよい。突起部2の形状は一面10側に凸面を有した円柱として形成されるが、これに限らない。突起部2の一面10側の面が平面であってもよいし凹面であってもよい。また、突起部2の形状は任意の角柱、円錐台、角錐台、円錐、角錐、その他本発明の3軸力覚センサが使用される場所に沿って最適な形状を有してもよい。突起部2は基板1に一体として形成されるが、これに限らず、ネジによる螺着や、圧入による接着など様々な方法で形成できるような構造であっても良い。起歪部3の一面10の上部からみた形状は円環として、形成されるが、これに限られない。起歪部3の一面10の上部からみた形状は四角形や三角形など任意の形状の辺に沿った、環状構造を有してもよい。また、起歪部3の厚さは基板1の起歪部3以外の領域の厚さよりも薄く形成される。起歪部3の厚さを一定に維持してもよいし、厚さが径に沿って連続的または非連続的に変化してもよい。その他、基板1の厚さおよび構造は、所定の歪を発生させる観点から調整される。基板1の材料としては、所定の弾性率を有した材料が選択される。基板1の材料として、所定の弾性率と耐食性を備えた金属材料を通常用いるが、金属材料に限らず、セラミックやゴムなどの有機材料をも用いることができる。
【0030】
突起部2および基板1のいずれか一方に力が加わると、起歪部3に歪が発生するが、所定の力以上の荷重が加わると起歪部3の破損につながる。そのため、起歪部3の厚さは、加わる最大荷重に対して耐えうるように調整される。好ましくは、加わる最大荷重によって発生するミーゼス応力の3倍以上の安全率が担保しうるように調整される。
【0031】
続いて、本発明の3軸力覚センサの一面10側の面とは反対側の面である他面11の上面からみた図である図2で示すように、本発明の3軸力覚センサの基板1の他面11に設けられ、起歪部3に接するように配置される導電性部材4が備えられる。導電性部材4は起歪部3で発生した歪を電気的に測定するために利用される。
【0032】
導電性部材4は、例えば、特許文献1に記載されているCrおよび不可避不純物からなるCr薄膜、または、Cr、Nおよび不可避不純物からなるCr-N薄膜により構成されている。Cr-N薄膜は、例えば、一般式Cr1 0 0-xxで表され、組成比xは原子%で0.0001≦x≦30である。
【0033】
また、導電性部材4は、一般式Cr1 0 0-xMn(xは原子%であり、0.1≦x≦34である)または一般式Cr1 0 0-xAlx(xは原子%であり、4≦x≦25である)で表されるCr薄膜により構成されていてもよい。導電性部材4は、一般式Cr1 0 0-x-yAlxy(x、yは原子%であり、4≦x≦25、0.1≦y≦20である。)で表されるCr薄膜により構成されていてもよい。Cr-N薄膜は、抵抗温度係数(TCR)が極めて小さいため(<±50ppm/℃)、温度変化に対して安定であるため、圧力感度及び圧力測定精度は温度に依存しない。
【0034】
本発明の実施形態の好ましい例では、導電性部材4はCr-N膜であり、約0.1μmの厚みでスパッタ成膜される。成膜は、Crターゲットを用い、Arガスに適量のN2ガスを添加した反応性スパッタリングによって行われる。成膜後、ポジレジストを用いて所定のパターンを形成した後に、Crのエッチング薬液を用いてウエットエッチングを行い不要な部分を除去し、Cr-Nからなる導電性部材4を得る。
【0035】
導電性部材4を構成するCr薄膜またはCr-N薄膜を成膜する手法は特に限定されないが、Cr薄膜またはCr-N薄膜の形成が可能な合金を原料とした蒸着法、CrターゲットまたはCr-N薄膜の形成が可能な合金ターゲット、複合ターゲットまたは多元ターゲットを用いたスパッタリング法、Cr-N薄膜の場合は、窒素ガスを含む成膜雰囲気を用いた反応性スパッタリング法、上記薄膜の形成が可能な原料を用いた気相輸送法、もしくはめっきを含む液相法等により成膜してもよい。また、このような薄膜を形成する際に、マスク法などを用いて所望の形状の薄膜を形成してもよいし、薄膜を形成した後、ドライエッチング(プラズマエッチング、スパッタエッチング等)、化学エッチング(腐食法)、リフトオフ法、レーザトリミング法などのエッチングまたはトリミング加工などを施すことにより測定装置に対して最適な形状に加工してもよい。さらに、Cr薄膜またはCr-N薄膜は成膜したままで使用してもよいが、大気中、非酸化性ガス中、還元性ガス中または真空中で200℃以上1000℃以下の温度の加熱処理を行うことが好ましい。
【0036】
導電性部材4は、4個のフルブリッジ回路40、41、42、43のそれぞれを構成する。4個のフルブリッジ回路40、41、42、43のそれぞれは基板1の極を基準にして4回回転対称性を有しており、起歪部3を4等分するように配置されている。フルブリッジ回路40、41、42、43のそれぞれは4個の導電性部材4によって構成される。この時、導電性部材400、401、402、403はフルブリッジ回路40を構成し、導電性部材410、411、412、413はフルブリッジ回路41を構成し、導電性部材420、421、422、423はフルブリッジ回路42を構成し、導電性部材430、431、432、433はフルブリッジ回路43を構成する。また、導電性部材4のそれぞれは弧線状に延在するように形成される。
【0037】
図2は本発明の第1実施形態に係る3軸力覚センサに導電性部材4を設けたときの基板1の他面11の上部からみた上面図である。フルブリッジ回路40を構成する導電性部材4のうち、導電性部材403および導電性部材401は、起歪部3の起歪領域の内周縁部に互いに径方向に隣接するように配置され、導電性部材400および導電性部材402は、起歪部3の起歪領域の外周縁部に互いに径方向に隣接するように配置される。ここで、導電性部材403および導電性部材401がブリッジの対辺を構成する一の組であり、導電性部材400および導電性部材402がもう一の組とは別の対辺を構成する他の組である。フルブリッジ回路41、42、43のそれぞれを構成する導電性部材410~413、420~423、430~433のそれぞれもフルブリッジ回路40と同様に配置される。
【0038】
図5は本発明の第2実施形態に係る3軸力覚センサに導電性部材4を設けたときの基板1の他面11の上部からみた上面図である。フルブリッジ回路40を構成する導電性部材のうち、導電性部材403および導電性部材401は、起歪部3の起歪領域の内周縁部に互いに径方向に隣接するように配置され、導電性部材400および導電性部材402は、起歪部3の起歪領域の外周縁部に互いに周方向に隣接するように配置される。ここで、導電性部材403および導電性部材401がブリッジの対辺を構成する一の組であり、導電性部材400および導電性部材402が一の組とは別の対辺を構成する他の組である。フルブリッジ回路41、42、43のそれぞれを構成する導電性部材410~413、420~423、430~433のそれぞれもフルブリッジ回路40と同様に配置される。
【0039】
以下、重複の記載の観点から、フルブリッジ回路40のみを説明するが、フルブリッジ回路41、42、43のそれぞれも、フルブリッジ回路40と同様に構成される。図3には、本発明の第1実施形態に係る3軸力覚センサの4個のフルブリッジのうち、フルブリッジ回路40を拡大した図であり、図4は第1実施形態に係るフルブリッジ回路40の回路を示す回路図である。図6には、本発明の第2実施形態に係る3軸力覚センサの4個のフルブリッジのうち、フルブリッジ回路40を拡大した図であり、図7は第2実施形態に係るフルブリッジ回路40の回路を示す回路図である。第1実施形態では、フルブリッジ回路40を構成する一の組の導電性部材403および導電性部材401のそれぞれは互いに異なる円周上に沿った略90度の弧線状に延在するように配置され、他の組の導電性部材400および導電性部材402のそれぞれは互いに異なる円周上に沿った略90度の弧線状に延在するように配置される。第2実施形態では、フルブリッジ回路40を構成する一の組の導電性部材403および導電性部材401のそれぞれは互いに異なる円周上に沿った略90度の弧線状に延在するように配置され、他の組の導電性部材400および導電性部材402のそれぞれは同じ円周上に沿った略45度の弧線状に延在するように配置される。
【0040】
本発明の各導電性部材4の長さ及び断面積は起歪部3の径方向に沿って調整される。起歪部3の内径及び外径が短くなると、導電性部材4を電気的に接続する電極パッド5の大きさにより配置が困難になる。そこで、フルブリッジ回路40を構成する導電性部材のうち、一の組を構成する導電性部材403及び導電性部材401うち、起歪部3を中心とした円の半径が短い円周上に配置される導電性部材403長さが、起歪部3を中心とした円の半径が長い円周上に配置される導電性部材401よりも長く構成されることが好ましいが、この限りではない。導電性部材403の長さは導電性部材401の長さと同じであってもよいし、導電性部材403の長さは導電性部材401の長さよりも短くてもよい。また、フルブリッジ回路40を構成する導電性部材のうち、他の組を構成する導電性部材402及び導電性部材400うち、起歪部3を中心とした円の半径が短い円周上に配置される導電性部材402の長さが、起歪部3を中心とした円の半径が長い円周上に配置される導電性部材400の長さよりも長く構成されることが好ましいが、この限りではない。導電性部材402の長さは導電性部材400の長さと同じであってもよいし、導電性部材402の長さは導電性部材400の長さよりも短くてもよい。また、本発明の第2実施形態に係る3軸力覚センサの導電性部材400および導電性部材402は同じ円周上に配置されるので、同じ円周上にある導電性部材400および導電性部材402の長さ及び断面積をそれぞれ同じにするが、これに限られず、同じ電気抵抗値になるように断面積及び長さが調整されてもよい。
【0041】
また、各導電性部材4の断面積は各導電性部材4の電気抵抗値が同じになるように調整される。電気抵抗値は長さに比例し断面積に反比例するので、導電性部材401の断面積は導電性部材403の断面積よりも小さく、導電性部材400の断面積は導電性部材402の断面積よりも大きいことが好ましいが、これに限らず、各導電性部材の長さに応じて調整される。
【0042】
続いて、電極パッド5が形成される。好ましい実施形態においては、ポジレジストを塗布し、パッド電極部を露光及び現像してレジストパターンが形成され、電極パッド5の材料となるTi及びAuがスパッタによって連続成膜され、リフトオフ法により不要部が除去され、最終洗浄が行われる。このようにして、他面11に、4個のフルブリッジ回路40、41、42および43のそれぞれが所定の位置に形成される。
【0043】
図10は本発明のセンサヘッドを表す図である。本発明の3軸力覚センサは、基板1を固定するためのホルダ部7を有する。ホルダ部7は基板1の一面10から固定するトップホルダ70と他面11から固定するボトムホルダ71を有する。
【0044】
トップホルダ70は略矩形板状であって、トップホルダ70の一面700から他面701へ貫通した孔704を備える。孔704の一面700の上面からみた形状は円であるが、孔704の半径はトップホルダの一面700から他面701に向かって断続的に増加する。この時、孔704は、トップホルダ70の一面700側に設けられ、半径が基板1の起歪部3の外径よりも長く、基板1の半径より短くなるように構成される貫通部705と、トップホルダ70の他面701側に設けられ、半径が基板1の半径と略同一になるように構成されるザグリ部706とを有する。軸線方向について、ザグリ部706の深さの位置については、後述するボトムホルダ71と組み合わせたときに、基板1の起歪部3の外側にある環状部分の一面10と当接することを条件として、様々に変更されてもよい。また、貫通部705およびザグリ部706をトップホルダ70の一面700の上部からみた形状の中心は、起歪部3を基板1の一面10の上部からみた形状の中心と一致するように設けられる。
【0045】
ボトムホルダ71は略矩形状の板712と、板712の4つの隅角部から板712の他面711に突出するように形成される4本の突出部717とを有する。板712は、板712の一面710から他面711へ貫通する孔714を備える。孔714の一面710の上面からみた形状は円であるが、孔714の半径はボトムホルダ71の一面710から他面711に向かって断続的に増加する。この時、孔714は、板712の他面711側に設けられ、半径が基板1の起歪部3の外径よりも長く、基板1の半径より短くなるように構成される貫通部715と、ボトムホルダ71の一面710側に設けられ、半径が基板1の半径と略同一になるように構成されるザグリ部716とを有する。軸線方向について、ザグリ部716の深さの位置については、トップホルダ70と組み合わせたときに、基板1の起歪部3の外側にある環状部分の他面11と当接することを条件として、様々に変更されてもよい。また、貫通部715およびザグリ部716を板712の一面700の上部からみた形状の中心は、起歪部3を基板1の一面10の上部からみた形状の中心と一致するように設けられる。また、図11Aに示されているように、突出部717はボトムホルダ71の中心に最も近い一の隅角部が外側にえぐれたような、略四角柱状である。
【0046】
基板1のフルブリッジ回路40、41、42、43のそれぞれが形成されている他面11は、ボトムホルダ71のザグリ部716に挿入され、同じく、ザグリ部706が形成されたトップホルダ70を基板1の突起部2が形成されている一面10から被せて、挟み込む。続いて、複数のネジによって、トップホルダ70およびボトムホルダ71を螺着する。当該構成によって、基板1の挿入位置の調整が容易になり、基板1のホルダ7内での回転および移動を抑制した構造にできる。また、当該構成によって、ホルダ部を機械的に固定されるので、基板1の一面10および他面11のうち、トップホルダ70とボトムホルダ71とが当接されている領域が固定境界条件になる。
【0047】
また、ボトムホルダ71の板712は、基板1を保持する一面710とは別の他面711に開口した貫通部715が設けられ、貫通部715に各フルブリッジ回路40~43に電源や接地を提供するセンサ基板72および各フルブリッジ回路40~43から得られた信号を増幅するアンプ基板73と各フルブリッジ回路40~43を連結する接続線75が設けられている。アンプ基板73とセンサ基板72のそれぞれは、図11Aに示されているように、4つの突出部717を避けるように略十字状に形成され、かつ、図11Bに示されているように、当該4つの突出部717により水平な姿勢で支持されている。基板1の一面10の向いている軸方向をZ軸とした場合、ホルダ部は、トップホルダ70、基板1、ボトムホルダ71の板712、センサ基板72、アンプ基板73の順で構成される。耐ノイズ性を高める為にセンサ基板72直下にアンプ基板73が配置されているが、これに限らず、センサ基板72とアンプ基板73の順番を逆にしてもよい。
【0048】
図11は基板1の各フルブリッジ回路40~43とセンサ基板72に接続する概要図を示す図である。接続するための接続線75はAu線をワイヤボンディングによって接続されることが好ましいが、この限りではなく、異方性導電材料(ACP、ACF等)を用いて接続してもよい。センサ基板72は、円形の開口を有し、ワイヤボンディングのキャピラリーはその開口を往復して配線を接続する。接続線75の配線作業終了後に、センサ基板72のボンディング部にエポキシ樹脂によりポッティングを実施し、接続線75の剥離を防止することが好ましい。
【0049】
センサ基板72と基板の各フルブリッジ回路40~43の接続後、センサ基板72上に接着層を設け、その後、アンプ基板73が接着される。アンプ基板73には略矩形状の増幅用のアンプICが実装されている。センサ基板から出力される4個のブリッジ出力は、アンプICの入力側に接続されており、所定の倍率で増幅される。アンプICは増幅率を選択できるように設計される。アンプ基板73は、外部に対して、出力線として増幅された4本のアナログ信号と、電源部及び接地部の合計6本の線が接続されていることが好ましい。この6本の線は、外部のデータ収集システムや制御装置に接続されて用いられる。尚、前記センサ基板及びアンプ基板は4層構造基板とし、2つの層を信号線層、残りを電源線層と接地層とすることが好ましい。
【0050】
また、ワイヤボンディングは通常、1つのフルブリッジ回路に対して、電源部61は2個、接地部62は2個、正のブリッジ出力部は2個、負のブリッジ出力部は2個であり、合計8個のボンディングをして接続され、ワイヤボンディングの数は合計32個であるが、これに限らない。前述したリソグラフィによるパターン形成工程において、4個の導電性部材を所定の配置方法で接続する連結部63も備えたフォトマスクを用いて製作することで、後工程のワイヤボンディングの数を削減してもよい。
【0051】
例えば、図17Aで示されているように、1つのフルブリッジ回路40に対してワイヤボンディング数を6個にしたものが考えられる。ブリッジの正の出力同士、負の出力同士が連結部63で接続されている。連結部63の任意の位置でワイヤボンディングすれば良く、図17Aでは、ワイヤボンディング位置が連結部63の中央に配置されている。この場合、4個のフルブリッジ回路40、41、42、43に対して、ワイヤボンディング数は24個になる。
【0052】
また、例えば、図18Aで示されているように、1つのフルブリッジ回路に対してワイヤボンディング数を4個にしたものも考えられる。電源部61を1個、接地部62を1個、正のブリッジ出力部を1個、負のブリッジ出力部を1個にし、連結部63を起歪部3だけでなく、起歪領域の外側に設けることで4個のフルブリッジ回路40、41、42、43に対してワイヤボンディング数は合計16個になる。
【0053】
その他、例えば、前述のリソグラフィにおけるパターン形成工程において、連結部63の他に、4個のフルブリッジ回路40、41、42および43のそれぞれに共通して接続される電源部61と接地部62を合わせて形成すると、ワイヤボンディングの数は更に削減できる。図17Bは、ワイヤボンディング数を18個とした場合である。図17Aの実施形態と比較して図17Bの実施形態では、ワイヤボンディング数が24個から18個に削減している。導電性部材400の外側に電源部61を設け、基板1の中心領域に接地部62が切り欠きを有する円環状に配置されている。ワイヤボンディングの内訳を詳細に説明すれば、1つのフルブリッジに対して電源部61は1個、接地部62は1個、正のブリッジ出力部は1個、負のブリッジ出力部は1個の合計4個で、4個のフルブリッジ回路40、41、42、43に対して合計16個になり、更に共通パターンとなる電源部61および接地部62に各1個必要となり、前者と合わせて合計18になる。なお、図示しないが、導電性部材400と導電性部材402の間、もしくは導電性部材401と導電性部材403の間に、共通の電源部61からの線を配置して、導電性部材401の片側の電極パッド5に接続した連結部63を設けると、各フルブリッジ回路40、41、42、43に必要なワイヤボンディング数は、接地部62を1個、正のブリッジ出力部を1個、負のブリッジ出力部を1個の合計3個となり、4個のブリッジで合計12個となり、共通パターンとなる電源部61と接地部62の各1個と合わせて、合計14個となる。
【0054】
さらに、例えば、図18Bのように、図18Aに対して、共通となる電源部61と接地部62を前述と同様に配置することも考えられる。この場合、各フルブリッジ回路40、41、42および43のそれぞれにおけるワイヤボンディング数は、正のブリッジ出力部と負のブリッジ出力部の2個のみで、4個のフルブリッジ40、41、42、43に対しては合計8個となる。共通のパターンとなる電源部61と接地部62のパターンの各1個を加えて、ワイヤボンディング数は合計10個にすることもできる。
【0055】
共通となる電源部61と接地部62は、その膜厚を厚くすることや、この共通パターンに接続するワイヤボンディング線の径を太くするなどの対策が合わせて実施されることが好ましいが、この限りではない。なお、電源部61と接地部62のパターンの配置は、接地部62を外側にして、電源部61を内側に配置することも可能であり、導電性部材400、401、402および403のそれぞれの配置を妨げず、かつ、ホルダ部7との絶縁が成り立つ範囲で調整可能である。また、各電源部61、接地部62、正のブリッジ出力部、負のブリッジ出力部の領域は円環状に限らず、任意の形状に調整されてもよい。
【0056】
なお、本発明は上記実施形態に限らず、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有する者によってその変形や改良が可能である。
【実施例0057】
(基板1の形成)
以下、本発明の実施例について説明する。実施例は第1実施形態に則された形で構成される。SUS316Lを用いた直径5.4mm、平坦部の厚さ1.2mmの円板状の基板1の一面10に、外径2mm、中央部の高さ2.7mmの突起部2を基板1の中央部に一体的に形成し、突起部2の基端の周囲を囲む、内径2mm、外径3mm、深さ0.9mmの溝を設けることで、円環状の0.3mm薄の起歪部3を形成した。一方、基板1の他面11は溝加工後に平坦度の修正と鏡面加工が施され、表面粗さは算術平均粗さRaが1nm以下に仕上げられている。
【0058】
(フルブリッジ回路の形成)
基板1の他面11には、4個のフルブリッジ回路40~43が基板1の中心を基準にして4回回転対称性を有するように配置される。フルブリッジ回路40は4個の略90度の弧線状に延在するように形成される導電性部材400~403から構成される。同様に、フルブリッジ回路41、42及び43のそれぞれも4個の略90度の弧線状に延在するように形成される導電性部材410~413、420~423、及び430~433のそれぞれから構成される。
【0059】
以下、重複の観点から、フルブリッジ回路40のみを説明するが、特に言及がない場合、他のフルブリッジ回路41~43も同様である。また、導電性部材400、401、402及び403のそれぞれの説明も、特に言及がない場合導電性部材410、411、412及び413のそれぞれ、導電性部材420、421、422及び423のそれぞれ並びに導電性部材430、431、432及び433のそれぞれにも同様に適用される。導電性部材401及び導電性部材403は基板1の他面11であって、起歪部3の内径の円周上に隣接して配置され、導電性部材400及び導電性部材402は基板1の他面11であって、起歪部3の外径の円周上に隣接して配置される。ここで、導電性部材400及び導電性部材402で構成される一の組がフルブリッジ回路40の対辺を構成し、導電性部材401及び導電性部材403で構成される他の組がフルブリッジ回路40のもう一組の対辺を構成している。
【0060】
導電性部材400、402、401及び403のそれぞれの幅の中心は、円板状の基板1の中心を基準にそれぞれ3.0mm(起歪部3の外径に一致)、2.84mm、2.16mm、2.0mm(起歪部3の内径に一致)径の円周上に配置される。導電性部材400、402、401及び403の幅の設計値は、それぞれ異なり、およそ27μmから46μmの範囲とした。また、導電性部材400、402、401及び403の長さの設計値は、それぞれ異なり1.26mmから2.14mmの範囲とした。このように調整した結果、設計段階における4個の金属導体の電気抵抗値は、4個とも等しく約160.5Ωとなっている。この電気抵抗値は産業上広く利用されるひずみゲージの標準的な電気抵抗値の1つである120Ωよりも高い値であり、小型化しつつ実用的な電気抵抗値となっている。
【0061】
導電性部材403は起歪部3の内径である基板1の中心を基準とした直径2.0mmの円周上に配置されており、線幅は30μm、弧長は1.4mmである。直径2.0mmの円の周長は6.28mmであり、その1/4の周長は1.57mmと計算されるが、導電性部材403の弧長は1.40mmであり、1/4の周長の89%を利用している。このような長さが確保できるので、線幅を30μmに設定でき、製造が安定で再現性の良い弧線として構成される。
【0062】
隣接する導電性部材401は、導電性部材403と80μm離されて配置されており、基板1の中心を基準とした直径2.16mmの円周上にある。そして導電性部材401の幅は、27μm、長さは1.26mmに設定されている。力覚センサの感度としては、導電性部材401は導電性部材403と出来るだけ近接させるのが有利であるが、導電性部材4の両端に設ける電極パッド5の大きさを考量して、電極パッド5は隣接する導電性部材4に触れないように決める必要がある。本実施例では、電極パッド5が他の導電性部材4と20μm以上離れて配置されるようになっている。
【0063】
起歪部3の起歪領域の外周縁部に配置される導電性部材400と導電性部材402の関係も同様な手法で実施される。導電性部材400は起歪部3の外径である基板1の中心を基準とした直径3.0mmの円周上に配置されており、線幅は46μm、長さは2.14mmである。導電性部材402は基板1の中心を基準とした直径2.84mmの円周上に配置されており、幅は36μm、長さは1.68mmである。導電性部材400及び導電性部材402は導電性部材401及び導電性部材403に比較して幅が広くなるので、より製造が安定で再現性の良い弧線として構成される。
【0064】
表1に上記に記載した方法で実施された各導電性部材4の電気抵抗値を示す。また、フルブリッジ回路40、41、42および43のそれぞれの平均値、標準偏差、レンジ(最大値-最小値の値)及び平均値の±2.5%に相当する値も示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1によれば、フルブリッジ回路40、41、42および43のそれぞれを構成する導電性部材4の電気抵抗値は標準偏差が小さく、レンジが平均値の±2.5%の幅の中に十分納まっている。表1の「全体」と記された欄の数値は、合計32個の導電性部材4の電気抵抗値の平均値とその標準偏差である。導電性部材4X0、4X1、4X2および4X3のXには、それぞれ0~3の整数が代入される。フルブリッジ回路40に対しては、導電性部材4X0、4X1、4X2および4X3のXには、0が代入され、導電性部材4X0、4X1、4X2および4X3のそれぞれは、導電性部材400、401、402および403のそれぞれになる。同様に、フルブリッジ回路41、42および43のそれぞれに対して、Xには1、2および3のそれぞれが代入される。各導電性部材4標準偏差は2.09Ωになっており、フルブリッジ回路40、41、42および43のそれぞれの誤差は少ない。従って、本発明の実施例で示された導電性部材4は、細さによって、電気抵抗値が安定しない起歪領域の内周縁部に配置される導電性部材4X1及び導電性部材4X3であっても、電気抵抗値の大きさが維持されるので、小型であっても、力を高精度で計測するセンサが実現される。
【0067】
各導電性部材400、401、402および403のそれぞれは両端に備わった電極パッド5にワイヤボンディングにより外部と接続される。1つのフルブリッジに対して、電源部61は2個、接地部62は2個、正のブリッジ出力部は2個、負のブリッジ出力部は2個であり、合計8個のボンディングをして接続される。これは、基板1に形成したフルブリッジ回路40を構成する導電性部材4が弧線状に延在するように設けられていることによる。4個のフルブリッジ回路40、41、42および43に対して本発明は実施されるので、合計32個のワイヤボンディングを形成する。電源部61からは各フルブリッジ回路40、41、42および43のそれぞれに3.3Vの電圧を印可する。また、得られた出力はアンプ基板73を利用することで50倍の増幅率で出力された。
【0068】
(結果)
最初にシミュレーションの結果を示す。突起部2の頂点に40Nの垂直荷重が印加された場合のひずみを有限要素法で計算した。得られたひずみの分布を図8に示す。ひずみは、基板1の中心に対して対称であるので片側のみを示す。〇は、周方向のひずみ、□は径方向のひずみを示す。r=-1.9mmの外側は固定境界条件になっている。図には、導電性部材400、導電性部材402、導電性部材401、導電性部材403のそれぞれの位置も示した。
【0069】
周方向ひずみは、全般にわたって正の値(引張)を示し、内径側が外径側より高い値を示す。一方、径方向ひずみは、内径付近で大きな正のひずみを持ち、この近傍では、周方向と径方向が同じ符号になって加算されるので、導電性部材401と導電性部材403の電気抵抗値変化は大きくなる。続いて径方向ひずみは、起歪部3の外側に向かうにつれて急激に減少をはじめ、起歪部3の起歪領域の内周縁部と外周縁部との間の中央付近で負(圧縮)に転じ、起歪部3の外径付近で圧縮の最大値を持つ。導電性部材400と導電性部材402はこの近傍に配置されている。ここでは、周方向ひずみは正の値であるが、径方向ひずみが大きく上回る負の値であるので、加算された値は、大きな負の値を有する。
【0070】
このように、大きなひずみ量を示す位置に、フルブリッジの対辺をなす一の組の導電性部材401及び導電性部材403と、もう他の組の導電性部材400及び導電性部材402が配置されている。そして、金属導体の材料は、径方向のひずみを感知する能力の高い、すなわち横感度の高いCr-N薄膜を用いている。従って、高感度なブリッジを形成できる。
【0071】
従って、Z方向の荷重は、4組のフルブリッジ回路40、41、42、43の出力の和を利用できる。すなわち、ブリッジの出力を、それぞれEZ40、EZ41、EZ42、EZ43とすると、Z方向の荷重は、EZ40、EZ41、EZ42、EZ43の和に線形的に比例する。
【0072】
次に、突起部2に水平方向荷重を印加した場合のシミュレーション結果を示す。水平の一方向荷重(X方向荷重)の場合を例に説明する。5N、10N、15Nの水平の一方向荷重が、フルブリッジ回路40、41、42および43のフルブリッジ回路40からフルブリッジ回路43方向(+X方向)に印加された場合のひずみ分布を図9に示す。〇は周方向ひずみ、□は径方向ひずみを示す。ひずみは基板1の中心に対して、両者とも2回対称の回転対象性を有する分布となる。同図の横軸は、中心からの距離であり、±1.9mmから外側は固定境界条件となっている。
【0073】
周方向ひずみは、力を印加する側(フルブリッジ回路40側)の起歪部3の内径位置で負の大きな値(圧縮)をとり、基板1の中心に向かって0に近づき、中心から正の値に転じ、反対側(フルブリッジ回路43側)の起歪部3の内径位置で、大きな正の値(引張)をとる。ひずみ量の絶対値は、起歪部3の内径のやや外側で最大になっている。ひずみは起歪部3では単調減少し、外側の固定境界で0になっている。
【0074】
一方、径方向ひずみは、力を印加する側の内径近傍で周方向ひずみを大きく上回る負の値(圧縮)になり、基板1の中心に向かって、ひずみは急激に減少し、中心で0になる。反対側のフルブリッジ回路43が位置する起歪部3の内径側に向かってひずみは増加し、反対側のフルブリッジ回路43が位置する起歪部3の起歪領域の内周縁部で正の最大値をとる。
【0075】
径方向ひずみは、周方向ひずみが起歪部3で穏やかな変化を示すのとは異なり、起歪部3内部で急激に変化し、起歪部3の起歪領域の内側と外側で正負の最大値を示している。起歪部3の起歪領域の内周縁部と外周縁部との間の中央付近で径方向ひずみは0となる。
【0076】
周方向ひずみと径方向ひずみの合成は、起歪部3の起歪領域の内周縁部で、両者とも同じ符号を持つので、合成は加算となり大きな値となる。各フルブリッジの対辺をなす一の組の導電性部材401と導電性部材403はこの位置に配置されている。一方、起歪部3の起歪領域の外周縁部は、周方向ひずみと径方向ひずみは符号が異なるが、径方向ひずみの絶対値が大きく上回る。この近傍には他の組を構成する導電性部材400と導電性部材402が配置されている。前述のように、導電性部材4の材料は、径方向ひずみを感知する能力の高い、すなわち横感度の高いCr-N薄膜を用いている。従って、水平方向荷重の場合も、高感度なブリッジの形成が可能となる。なお、フルブリッジ回路41および42に発生するひずみは極めて小さいので、図示は省略する。
【0077】
X方向荷重は、フルブリッジ回路40とフルブリッジ回路43の出力の差で表される。すなわち、フルブリッジ回路40とフルブリッジ回路43のそれぞれのブリッジ出力をそれぞれ、EX40、EX43とすると、X方向荷重はEX40―EX43に線形的に比例する。
【0078】
X方向荷重と直角に交差する水平方向荷重(Y方向荷重)の場合も同じ議論が成立し、フルブリッジ回路41からフルブリッジ回路42への方向(+Y方向)に印加された荷重は、フルブリッジ回路41とフルブリッジ回路42のブリッジ出力をそれぞれ、EY41、EY42とすると、Y方向荷重はEY41―EY42に線形的に比例する。
【0079】
該シミュレーション結果から荷重と各フルブリッジ回路40、41、42および43のそれぞれの関係を計測した。基板1の突起部2の頂点にフォースセンサ(アイコーエンジニアリング社、RZ5、50Nレンジ)の先端を突き当てて垂直方向に荷重を印加して、各フルブリッジ回路40、41、42および43のそれぞれのブリッジ出力を得た。フォースセンサの先端には、ゲージアタッチメント(アイコーエンジニアリング社、012B)を取り付けた。
【0080】
図12は、フルブリッジ回路41とフルブリッジ回路42のブリッジ出力と印可した垂直荷重の関係を示す図である。横軸は、フォースセンサの印加荷重値、縦軸はフルブリッジ回路41とフルブリッジ回路42のブリッジ出力である。なお、本図でのブリッジ出力は、アンプ基板73を用いず、デジタルボルトメータ(キーサイト社、34972A)を用いた値のもので、ブリッジ出力そのものを示している。ブリッジ出力は、低荷重領域(5N以下)から40N付近まで、良好な線形性が成立している。ブリッジ出力は、5Nで約-2.5mV、10Nで約-5mV、20Nで約-9.5mV、40Nで約-19mVである。フルブリッジ回路40とフルブリッジ回路43も、図示しないが同様に線形性に良い応答を示した。
【0081】
また、基板1の突起部2にフォースセンサの先端をつき当ててフルブリッジ回路43からフルブリッジ回路40への方向の水平荷重を印加した(X方向荷重)。フォースセンサの先端には、ゲージアタッチメント(015B)を取り付けた。
【0082】
図13Aは各フルブリッジ回路40、41、42および43のそれぞれのブリッジ出力、図13Bはブリッジ出力をアンプ基板73で増幅した後のアンプ出力である。両グラフともに横軸は、印加水平荷重(―X方向荷重)で、約4N及び約8Nの2通りの場合がプロットされている。ブリッジ出力を見ると、フルブリッジ回路40とフルブリッジ回路43は、それぞれ符号が反対で近い値が示されている。この場合、フルブリッジ回路43側からX軸方向荷重が印加されているので、フルブリッジ回路43側が負(圧縮)で、反対側となるフルブリッジ回路40は正(引張)となっている。一方、フルブリッジ回路43及びフルブリッジ回路40のそれぞれから90°回転した位置に配置されるフルブリッジ回路41とフルブリッジ回路42の出力は、極めて小さい値に留まっている。従って、フルブリッジ回路43及びフルブリッジ回路40のそれぞれのブリッジ出力は、印可X方向荷重に対して良い線形関係を示す。
【0083】
アンプ基板73の倍率は50倍を選択した。印加X方向荷重が約8Nの場合は、フルブリッジ回路43のブリッジ出力は、図13Aによれば-8.3mVであり、これに対応するアンプ出力は、図13Bが示すように、-407mVである。倍率を算出すると、約49倍であり、アンプICは正常に機能している。同図が示すように、アンプ出力も良い線形性を示す。
【0084】
次に基板1の突起部2にフォースセンサの先端をつき当ててフルブリッジ回路41からフルブリッジ回路42への方向の水平荷重を印加した(Y方向荷重)。フォースセンサの先端には、ゲージアタッチメント(015B)を取り付けた。
【0085】
図14Aは各フルブリッジ回路40、41、42および43のそれぞれのブリッジ出力、図14Bはブリッジ出力をアンプ基板73で増幅した後のアンプ出力である。両グラフともに横軸は、印加水平荷重(+Y方向荷重)で、約4N及び約8Nの2通りの場合がプロットされている。ブリッジ出力を見ると、フルブリッジ回路41とフルブリッジ回路42は、それぞれ符号が反対で近い値が示されている。この場合、フルブリッジ回路41側からY軸方向荷重が印加されているので、フルブリッジ回路41側が負(圧縮)で、反対側となるフルブリッジ回路42は正(引張)となっている。一方、フルブリッジ回路41及びフルブリッジ回路42のそれぞれから90°回転した位置に配置されるフルブリッジ回路40とフルブリッジ回路43の出力は、極めて小さい値に留まっている。従って、フルブリッジ回路41及びフルブリッジ回路42のそれぞれのブリッジ出力は、印可Y方向荷重に対して良い線形関係を示す。
【0086】
アンプ基板73の倍率はこの場合も同じく50倍を選択した。印加Y方向荷重が約8Nの場合は、フルブリッジ回路41のブリッジ出力は、図14Aによれば-8.5mVであり、これに対応するアンプ出力は、図14Bが示すように、―420mVである。倍率を算出すると、約49.4倍であり、アンプICは正常に機能している。同図が示すように、アンプ出力も良い線形性を示す。
【0087】
以上、実測データから、本発明の3軸力覚センサは、小型化を達成しながら、X、Y、Zの3軸に対する力センサとして正常な動作を果たしているといえる。
【0088】
図15Aは、フルブリッジ回路41を構成する各導電性部材410、411、412および413のそれぞれの電気抵抗値と垂直荷重との関係を示す図である。ここで、電気抵抗値変化(ΔR)は、荷重印加後の電気抵抗値から、印加前の電気抵抗値を引いた値である。横軸は印加荷重である。5N以下の低荷重から、7通り行い、最大は約40Nである。各荷重の印加時間は約20秒とした。図15Aを参照すると、各導電性部材410、411、412および413のそれぞれは、印加荷重に対して良好な線形性を示した。印加荷重が約40Nでは、導電性部材411の変化量(ΔR2)と導電性部材412の変化量(ΔR3)は負の値で、約-0.5Ω前後、一方、導電性部材410の変化量(ΔR1)と導電性部材413の変化量(ΔR4)は正となり、約1Ωを超す値になっている。これらの特徴は、図示しないが、他のフルブリッジ回路40、42および43のそれぞれにも同様に認められた。
【0089】
このように、各フルブリッジ回路40、41、42および43をなす各導電性部材4の電気抵抗値変化は、荷重に対して良好な線形性を示しているので、この変化を基に生ずるブリッジ出力も良好な線形性を有していることが裏付けられる。
【0090】
表2は、図8に示した垂直荷重(40N)が印加された場合のシミュレーションより求めたひずみ値である。ここではフルブリッジ回路41を例にとり説明するが、フルブリッジ回路40、42、43も同様である。各導電性部材410、411、412および413のそれぞれの電気抵抗値変化(ΔR1、ΔR2、ΔR3、ΔR4)と各導電性部材410、411、412および413のそれぞれの定常状態における電気抵抗値との比(電気抵抗値変化(ΔR)/定常状態における電気抵抗値)は、各導電性部材410、411、412および413のそれぞれの縦感度係数と周方向ひずみ量の積((縦感度係数)×(周方向ひずみ量))と各導電性部材410、411、412および413のそれぞれの横感度係数と径方向ひずみ量の積((横感度係数)×(径方向ひずみ量))の和で表現される。
【0091】
【表2】
【0092】
図15Bは、表2に示すシミュレーションから得られるひずみ値を用いて、フルブリッジ回路41の各導電性部材410、411、412および413の電気抵抗値変化を算出した図である。縦感度係数は別途の予備実験で求め、15であった。横感度係数は、縦感度係数と同じ15と仮定した。前述した実測値である図15Aと、計算値である図15Bとは、垂直荷重40Nにおいて、数値に若干の違いはあるものの概ね一致した。
【0093】
図16は、各導電性部材410、411、412および413のそれぞれの電気抵抗値変化の感度係数依存性を示したものである。縦感度係数と横感度係数の数値(仮想値)を変化させて、フルブリッジ回路41を構成する各導電性部材410、411、412および413のそれぞれの電気抵抗値変化を算出した。係数の組み合わせを表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
表3のケース2が図15Bの場合であり、ケース6は、横感度係数を0と仮定した場合である。これより、電気抵抗値変化は、感度係数に大きく依存することが明白であるが、まず、横感度係数の減少に伴ってΔRは減少する。特に、導電性部材410のΔR及び導電性部材412のΔRは横感度係数が5以下では負から0に極めて近づき、横感度係数が3程度で、導電性部材410のΔRも0から正の値に転ずる。横感度係数が0の場合は、導電性部材410のΔR及び導電性部材412のΔRは0.2Ωに近い正の値になる。これは、起歪部3付近に大きな径方向ひずみが生じても、横感度係数が低い場合には、このひずみを感知することができず、結果として高感度なひずみゲージになり得ないことを示している。横感度係数としては3以上の値が必要であり、実用的には5以上の値が望ましい。
【0096】
一方、ケース2とケース1の比較は、同じ横感度係数を持つ場合の縦感度係数の影響を示すものである。ケース1は、ケース2に対して縦感度係数が15から20に増加した場合を想定したものである。周方向ひずみと径方向ひずみの符号が同じ正である起歪部3の起歪領域の内周縁部においては、導電性部材411のΔR及び導電性部材413のΔRは縦感度係数の増加に伴って、加算されて増加する。その一方、周方向ひずみが正で、径方向ひずみが負である起歪部3の起歪領域の外周縁部では、導電性部材410のΔRと導電性部材412のΔRは、縦感度係数の増加に伴って、周方向のひずみによる正の値が加算されるので、負の絶対値が減少することが示されている。
【0097】
上記の考察から、ΔRの数値は感度係数に大きく依存しているので、感度係数の決定に用いるひずみゲージは、そのパターンが縦感度と横感度の切り分けができるようなものが望ましいことが示唆される。
【符号の説明】
【0098】
1‥基板、2‥突起部、3‥起歪部、4‥導電性部材、5‥電極パッド、7‥ホルダ部、10‥一面、11‥他面、40~43‥フルブリッジ回路、61‥電源部、62‥接地部、63‥連結部、70‥トップホルダ、71‥ボトムホルダ、72‥センサ基板、73‥アンプ基板、75‥接続線、400~403、410~413、420~423、430~433‥導電性部材、700‥一面(トップホルダ)、701‥他面(トップホルダ)、704‥孔(トップホルダ)、705‥貫通部(トップホルダ)、706‥ザグリ部(トップホルダ)、710‥一面(ボトムホルダ)、711‥他面(ボトムホルダ)、712‥板(ボトムホルダ)、714‥孔(ボトムホルダ)、715‥貫通部(ボトムホルダ)、716‥ザグリ部(ボトムホルダ)、717‥突出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16
図17A
図17B
図18A
図18B