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特開2023-67581たわみ計測方法、たわみ計測システム、および、たわみ計測プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067581
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】たわみ計測方法、たわみ計測システム、および、たわみ計測プログラム
(51)【国際特許分類】
   E01C 23/01 20060101AFI20230509BHJP
   G01C 7/04 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
E01C23/01
G01C7/04
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178967
(22)【出願日】2021-11-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・令和3年10月14日、第34回日本道路会議の論文・事例報告集(論文番号:3030) ・令和3年10月14日、第34回日本道路会議の論文・事例報告集(論文番号:3031) ・令和3年10月14日、第34回日本道路会議の論文・事例報告集(論文番号:3033) ・令和3年10月14日、第34回日本道路会議の論文・事例報告集(論文番号:3034)
(71)【出願人】
【識別番号】301031392
【氏名又は名称】国立研究開発法人土木研究所
(71)【出願人】
【識別番号】390019998
【氏名又は名称】東亜道路工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597010628
【氏名又は名称】協立電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171640
【氏名又は名称】電子技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(71)【出願人】
【識別番号】520236723
【氏名又は名称】アールテックコンサルタント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592179067
【氏名又は名称】株式会社ガイアート
(71)【出願人】
【識別番号】000233653
【氏名又は名称】ニチレキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 康
(72)【発明者】
【氏名】川名 太
(72)【発明者】
【氏名】藪 雅行
(72)【発明者】
【氏名】寺田 剛
(72)【発明者】
【氏名】綾部 孝之
(72)【発明者】
【氏名】塚本 真也
(72)【発明者】
【氏名】梅田 隼
(72)【発明者】
【氏名】川口 恵之
(72)【発明者】
【氏名】山口 和郎
【テーマコード(参考)】
2D053
【Fターム(参考)】
2D053AA35
2D053AB06
2D053AD01
2D053FA02
(57)【要約】
【課題】たわみ速度含む車両走行面との相対速度から車両の動きに由来する速度を除去することで、最大たわみ量の確度向上を図る。
【解決手段】仰角変動計21と、複数のドップラー振動計LDV1~3とが剛結されたセンサ架台20が剛結された載荷用車両10を走行させ、仰角変動計21およびドップラー振動計LDV1~3から測定値を取得し、複数のドップラー振動計LDV1~3から取得された測定値の差をとることで、測定値から車両の上下動に由来する変動速度を除去し、車両の上下動に由来する変動速度が除去された値および仰角変動計21から取得された車両進行方向の車両仰角の変動に基づく角速度を用いて、車両の仰角変動に由来する変動速度を除去し、車両の上下動に由来する変動速度と車両の仰角変動に由来する変動速度が除去されたたわみ速度から最大たわみ量を算出する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
たわみが生じ得る車両走行面のたわみを動的に計測するたわみ計測方法であって、
車両進行方向の車両仰角の変動を検出する仰角変動計と、たわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する複数のドップラー振動計とが剛結されたセンサ架台が剛結された載荷用車両を走行させるステップと、
前記載荷用車両の走行中に、前記仰角変動計および前記複数のドップラー振動計から測定値を取得するステップと、
前記複数のドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで、前記測定値から車両の上下動に由来する変動速度を除去するステップと、
前記車両の上下動に由来する変動速度が除去された値および前記仰角変動計から取得された車両進行方向の車両仰角の変動に基づく角速度を用いて、車両の仰角変動に由来する変動速度を除去するステップと
前記車両の上下動に由来する変動速度および車両の仰角変動に由来する変動速度が除去されたたわみ速度から最大たわみ量を算出するステップと、を含むことを特徴とするたわみ計測方法。
【請求項2】
前記最大たわみ量を算出するステップは、
wをたわみ量とし、Vを前記載荷用車両の走行速度とし、xを距離とし、
tを時間とし、dw/dtをたわみ速度とし、aを最大たわみ量とし、bをたわみ形状に関する係数とし、dを最大たわみの発生位置とするとき、以下の数式(F1)、(F2)を用いて最大たわみ量aを算出することを特徴とする請求項1記載のたわみ計測方法。
【数1】
【請求項3】
前記最大たわみ量を算出するステップは、
wをたわみ量とし、xを距離とし、aを最大たわみ量とし、bをたわみ形状に関する係数とし、dを最大たわみの発生位置とするとき、以下の数式(F3)、(F4)を用いて最大たわみ量aを算出することを特徴とする請求項1記載のたわみ計測方法。
【数2】
【請求項4】
たわみが生じ得る車両走行面のたわみを動的に計測するたわみ計測システムであって、
載荷用車両に剛結されるセンサ架台と、
前記センサ架台に剛結され、車両進行方向の車両仰角の変動を検出する仰角変動計と、
前記センサ架台に剛結され、たわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する複数のドップラー振動計と、
前記複数のドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで、前記測定値から車両の上下動に由来する変動速度を除去すると共に、前記車両の上下動に由来する変動速度が除去された値および前記仰角変動計から取得された車両進行方向の車両仰角の変動に基づく角速度を用いて、車両の仰角変動に由来する変動速度を除去し、前記車両の上下動に由来する変動速度および車両の仰角変動に由来する変動速度が除去されたたわみ速度から最大たわみ量を算出する演算部と、を備え、
前記複数のドップラー振動計は、前記載荷用車両のいずれかの車輪の車両進行方向に対する前方または後方の少なくとも一方においてたわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する位置に設けられていることを特徴とするたわみ計測システム。
【請求項5】
前記複数のドップラー振動計のうち、少なくとも一つは、前記車輪の車両進行方向に対する前方のたわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する位置に設けられ、残りの一つ以上は前記車輪の車両進行方向に対する後方のたわみ速度を含む車両走行面の変動速度を検出する位置に設けられていることを特徴とする請求項4記載のたわみ計測システム。
【請求項6】
前記仰角変動計は、ジャイロセンサ、変位計、および、傾斜計のいずれかであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のたわみ計測システム。
【請求項7】
載荷用車両に剛結されるセンサ架台と、前記センサ架台に剛結され、車両進行方向の車両仰角の変動を検出する仰角変動計と、前記センサ架台に剛結され、たわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する複数のドップラー振動計と、を含むたわみ計測装置によって、たわみが生じ得る車両走行面のたわみを動的に測定して得られた測定値を用いて、最大たわみ量を算出するたわみ計測プログラムであって、
前記たわみ計測装置から前記測定値を取得する処理と、
前記複数のドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで、前記測定値から車両の上下動に由来する変動速度を除去する処理と、
前記車両の上下動に由来する変動速度が除去された値および前記仰角変動計から取得された車両進行方向の車両仰角の変動に基づく角速度を用いて、車両の仰角変動に由来する変動速度を除去する処理と、
前記車両の上下動に由来する変動速度および車両の仰角変動に由来する変動速度が除去されたたわみ速度から最大たわみ量を算出する処理と、を含むことを特徴とするたわみ計測プログラム。
【請求項8】
前記最大たわみ量を算出する処理は、
wをたわみ量とし、Vを前記載荷用車両の走行速度とし、xを距離とし、
tを時間とし、dw/dtをたわみ速度とし、aを最大たわみ量とし、bをたわみ形状に関する係数とし、dを最大たわみの発生位置とするとき、以下の数式(F5)、(F6)を用いて最大たわみ量aを算出することを特徴とする請求項7記載のたわみ計測プログラム。
【数3】
【請求項9】
前記最大たわみ量を算出する処理は、
wをたわみ量とし、Vを載荷用車両の走行速度とし、xを距離とし、tを時間とし、
dw/dtをたわみ速度とし、aを最大たわみ量とし、bをたわみ形状に関する係数とし、dを最大たわみの発生位置とするとき、以下の数式(F7)、(F8)を用いて最大たわみ量aを算出することを特徴とする請求項7記載のたわみ計測プログラム。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たわみ計測方法、たわみ計測システム、および、たわみ計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
舗装は、車両の走行等に伴う繰り返し荷重による路盤、路床の損傷、地震動のような偶発的な作用、または地下水の影響等により、路盤、路床、路体に空洞や不等沈下といった変状が生じる場合がある。そのため、わだち掘れやひび割れ等の破損だけでなく、舗装の支持力を計測することで、こうした変状を把握し、舗装の健全度を維持していく必要がある。このため、舗装の支持力を非破壊的に計測する舗装の健全度評価方法が従来から求められている。
【0003】
舗装の健全度評価に用いられる非破壊式計測機として、重錘落下式たわみ計測機であるFWD(Falling Weight Deflectometer:以下、単に「FWD」という。)が広く用いられている。しかしながら、FWDは静止状態で測定する必要があることから、交通規制が必要であるとともに、測定に時間を要する。そのため、広域に亘る舗装全体の健全度を評価するには、莫大な時間と費用を伴う。また、連続的な測定が困難であることから、局所的な変状を見落としてしまう恐れがある。
【0004】
このような事情に鑑みて、特許文献1では、載荷用車両(以下、単に「車両」ということもある)を走行させながら舗装のたわみ速度を非破壊的に計測できる動的たわみ計測装置(MWD:Moving Wheel Deflectometer:以下、単に「MWD」という。)が提案されている。MWDは、連続的に車両走行面に発生するたわみを速度信号として測定可能であり、効率的に舗装の健全度を評価可能な一方で、走行させながら測定するため、測定値である速度信号に車両の動きに由来する速度が含まれてしまう。そのため、測定値から車両の動きに由来する速度を除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-23537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載のたわみ計測方法では、測定値から車両の動きに由来する速度の除去を試みている。車両の動きに由来する速度には車両の上下動に由来する変動速度と車両の仰角変動に由来する変動速度等があるが、特許文献1では車両の仰角に由来する変動速度については明確に考慮されていない。また、特許文献1に記載のたわみ計測方法では解析手法にウェーブレット解析を用いているため、測定値からたわみ速度の一部が除去される可能性がある。このため、舗装の最大たわみ量をより正確に算出するための方法が求められていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、測定値から車両の動きに由来する速度を効果的に除去することで、たわみ速度に関する物理量を抽出し、算出される最大たわみ量の確度向上を可能にした、たわみ計測方法、たわみ計測システム、および、たわみ計測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、たわみが生じ得る車両走行面のたわみを動的に計測するたわみ計測方法であって、車両進行方向の車両仰角の変動を検出する仰角変動計と、たわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する複数のドップラー振動計とが剛結されたセンサ架台が、剛結された載荷用車両を走行させるステップと、前記載荷用車両の走行中に、前記仰角変動計および前記複数のドップラー振動計から測定値を取得するステップと、前記複数のドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで、前記測定値から車両の上下動に由来する変動速度を除去するステップと、前記車両の上下動に由来する変動速度が除去された値および、前記仰角変動計から取得された車両進行方向の車両仰角の変動に基づく角速度を用いて、車両の仰角変動に由来する変動速度を除去するステップと、前記車両の上下動に由来する変動速度と車両の仰角変動に由来する変動速度が除去されたたわみ速度に関する物理量から最大たわみ量を算出するステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
このように、本発明においては、複数のドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで車両の上下動に由来する変動速度を除去することから、ドップラー振動計から取得された測定値から車両の上下動に由来する変動速度のみが除去されることとなり、算出される最大たわみ量の確度を向上させることができる。また、車両の上下動に由来する変動速度だけでなく、車両の仰角変動に由来する変動速度についても除去された値を用いて最大たわみ量が算出されることから、車両の仰角変動に由来する変動速度の除去を考慮していない場合と比較して、算出される最大たわみ量の確度をさらに向上させることが可能となる。
【0010】
(2)本発明のたわみ計測方法において、前記最大たわみ量を算出するステップは、wをたわみ量とし、Vを前記載荷用車両の走行速度とし、xを距離とし、tを時間とし、
dw/dtをたわみ速度とし、aを最大たわみ量とし、bをたわみ形状に関する係数とし、dを最大たわみの発生位置としたとき、以下の数式(F1)、(F2)を用いて最大たわみ量aを算出することを特徴とする。
【数1】
【0011】
このように、車両走行面のたわみ形状と類似するガウス関数を用いることから、ドップラー振動計から取得された測定値から最大たわみ量を算出することができる。また、車両の動きに由来する速度が除去された値から最大たわみ量を算出するため、算出される最大たわみ量の確度を向上させることが可能となる。
【0012】
(3)本発明のたわみ計測方法において、前記最大たわみ量を算出するステップは、wをたわみ量とし、Vを前記載荷用車両の走行速度とし、xを距離とし、tを時間とし、
dw/dtをたわみ速度とし、aを最大たわみ量とし、bをたわみ形状に関する係数とし、dを最大たわみの発生位置としたとき、以下の数式(F3)、(F4)を用いて最大たわみ量aを算出することを特徴とする。
【数2】
【0013】
このように、車両走行面のたわみ形状と類似する関数を用いることから、ドップラー振動計から取得された測定値から最大たわみ量を算出することができる。また、車両の動きに由来する速度が除去された値から最大たわみ量を算出するため、算出される最大たわみ量の確度を向上させることが可能となる。
【0014】
(4)本発明のたわみ計測システムは、たわみが生じ得る車両走行面のたわみを動的に計測するたわみ計測システムであって、載荷用車両に剛結されるセンサ架台と、前記センサ架台に剛結され、車両進行方向の車両仰角の変動を検出する仰角変動計と、前記センサ架台に剛結され、たわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する複数のドップラー振動計と、前記複数のドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで、前記測定値から車両の上下動に由来する変動速度を除去すると共に、前記車両の上下動に由来する変動速度が除去された値および前記仰角変動計から取得された車両進行方向の車両仰角の変動に基づく角速度を用いて、車両の仰角変動に由来する変動速度を除去し、前記車両の上下動に由来する変動速度および車両進行方向の車両の仰角変動に由来する変動速度が除去されたたわみ速度に関する物理量から最大たわみ量を算出する演算部と、を備え、前記複数のドップラー振動計は、前記載荷用車両のいずれかの車輪の車両進行方向に対する前方または後方の少なくとも一方においてたわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する位置に設けられていることを特徴とする。
【0015】
このように、本発明において、複数のドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで車両の上下動に由来する変動速度を除去することから、ドップラー振動計から取得された測定値から車両の上下動に由来する変動速度のみが除去されることとなり、算出される最大たわみ量の確度を向上させることができる。また、車両の上下動に由来する変動速度だけでなく、車両の仰角変動に由来する変動速度についても除去された値を用いて最大たわみ量が算出されることから、車両の仰角変動に由来する変動速度の除去を考慮していない場合と比較して、算出される最大たわみ量の確度をさらに向上させることが可能となる。
【0016】
(5)本発明のたわみ計測システムにおいて、前記複数のドップラー振動計のうち、少なくとも一つは、前記車輪の車両進行方向に対する前方のたわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する位置に設けられ、残りの一つ以上は前記車輪の車両進行方向に対する後方のたわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する位置に設けられていることを特徴とする。
【0017】
このように、複数あるドップラー振動計が、車輪の前方および後方のそれぞれに少なくとも1つずつ設けられることから、ドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで車両の上下動に由来する変動速度を除去した際に、たわみ速度の差が大きくなるため、正確な最大たわみ量の算出が可能となる。
【0018】
(6)本発明のたわみ計測システムにおいて、前記仰角変動計は、ジャイロセンサ、変位計、および、傾斜計のいずれかであることを特徴とする。このように、仰角変動計がジャイロセンサ、変位計、および、傾斜計のいずれかから、載荷用車両における車両仰角の変動を測定することができる。また、仰角変動計がジャイロセンサである場合には、載荷用車両の角速度が直接測定できるため、測定値から角速度を算出する必要がある変位計および傾斜計と比較して、計算の手間を削減することができる。
【0019】
(7)本発明のたわみ計測プログラムは、載荷用車両に剛結されるセンサ架台と、前記センサ架台に剛結され、車両進行方向の車両仰角の変動を検出する仰角変動計と、前記センサ架台に剛結され、たわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する複数のドップラー振動計と、を含むたわみ計測装置によって、たわみが生じ得る車両走行面のたわみを動的に測定して得られた測定値を用いて、最大たわみ量を算出するたわみ計測プログラムであって、前記たわみ計測装置から前記測定値を取得する処理と、前記複数のドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで、前記測定値から車両の上下動に由来する変動速度を除去する処理と、前記車両の上下動に由来する変動速度が除去された値および前記仰角変動計から取得された車両進行方向の車両仰角の変動に基づく角速度を用いて、車両の仰角変動に由来する変動速度を除去する処理と、前記車両の上下動に由来する変動速度および車両の仰角変動に由来する変動速度が除去されたたわみ速度に関する物理量から最大たわみ量を算出する処理と、を含むことを特徴とする。
【0020】
このように、本発明において、複数のドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで車両の上下動に由来する変動速度を除去することから、ドップラー振動計から取得された測定値から車両の上下動に由来する変動速度のみが除去されることとなり、算出される最大たわみ量の確度を向上させることができる。また、車両の上下動に由来する変動速度だけでなく、車両の仰角変動に由来する変動速度についても除去された値を用いて最大たわみ量が算出されることから、車両の仰角変動に由来する変動速度の除去を考慮していない場合と比較して、算出される最大たわみ量の確度をさらに向上させることが可能となる。
【0021】
(8)本発明のたわみ計測プログラムにおいて、前記最大たわみ量を算出する処理は、wをたわみ量とし、Vを前記載荷用車両の走行速度とし、xを距離とし、
tを時間とし、dw/dtをたわみ速度とし、aを最大たわみ量とし、bをたわみ形状に関する係数とし、dを最大たわみの発生位置とするとき、以下の数式(F5)、(F6)を用いて最大たわみ量aを算出することを特徴とする。
【数3】
【0022】
このように、車両走行面のたわみ形状と類似するガウス関数を用いることから、ドップラー振動計から取得された測定値から最大たわみ量を算出することができる。また、車両の動きに由来する速度が除去された値から最大たわみ量を算出するため、算出される最大たわみ量の確度を向上させることが可能となる。
【0023】
(9)本発明のたわみ計測プログラムにおいて、前記最大たわみ量を算出する処理は、wをたわみ量とし、Vを載荷用車両の走行速度とし、xを距離とし、
tを時間とし、dw/dtをたわみ速度とし、aを最大たわみ量とし、bをたわみ形状に関する係数とし、dを最大たわみの発生位置とするとき、以下の数式(F7)、(F8)を用いて最大たわみ量aを算出することを特徴とする。
【数4】
【0024】
このように、車両走行面のたわみ形状と類似する関数を用いることから、ドップラー振動計から取得された測定値から最大たわみ量を算出することができる。また、車両の動きに由来する速度が除去された値から最大たわみ量を算出するため、算出される最大たわみ量の確度を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、算出される最大たわみ量の確度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】たわみ曲線および最大たわみ量を模式的に説明する説明図である。
図2A】設置角度を模式的に説明する説明図である。
図2B】車両仰角を模式的に説明する説明図である。
図3】走行速度と最大たわみ発生位置との関係性を示すグラフである(松井邦人ほか,“走行型路面たわみ測定試験機の現状と我が国における取組み”,土木技術資料52-12,2013年より抜粋)。
図4】数式(1)と数式(19)の曲線形状を示すグラフである。
図5】本実施形態に係るたわみ計測装置の構成を示す模式図である。
図6】本実施形態に係るたわみ計測装置の変更例の一例を示した模式図である。
図7】本実施形態に係るたわみ計測装置の変更例の一例を示した模式図である。
図8】本実施形態に係るたわみ計測装置における仰角変動計の変更例の一例を示した模式図である。
図9】本実施形態に係るたわみ計測システムの概略構成を示すブロック図である。
図10】本実施形態におけるたわみ計測方法の流れを示すフロー図である。
図11】本実施形態に係る上下ひずみの差と車輪の荷重との関係式の一例を示すグラフである。
図12】実施例1における走行距離に対する車両仰角の変動について示すグラフである。
図13】実施例1における車両仰角の変動に対するsinθの変動を示すグラフである。
図14】実施例1における車両仰角の変動に対するcosθの変動を示すグラフである。
図15】実施例2におけるドップラー振動計の速度差および角速度を示すグラフである。
図16】実施例3におけるドップラー振動計の速度差および角速度を示すグラフである。
図17】実施例4および比較例1における最大たわみ量aを示すグラフである。
図18】実施例5および比較例1における最大たわみ量aを示すグラフである。
図19】実施例6および比較例1における最大たわみ量aを示すグラフである。
図20】実施例7および比較例1における最大たわみ量aを示すグラフである。
図21】実施例4、実施例8および比較例1における最大たわみ量aを示すグラフである。
図22】実施例9、実施例10および比較例1における最大たわみ量aを示すグラフである。
図23】実施例4と比較例1における最大たわみ量aを示すグラフである。
図24】比較例1と比較例2における最大たわみ量aを示すグラフである。
図25】実施例4と比較例1との相関関係を示す散布図である。
図26】比較例1と比較例2との相関関係を示す散布図である。
図27】実施例4と実施例5における最大たわみ量aの計測結果を示すグラフである。
図28A】実施例11および実施例12における最大たわみ量aの計測結果を示すグラフである。
図28B】実施例11および実施例12における走行速度の測定結果を示すグラフである。
図29】実施例13および比較例3における最大たわみ量aの計測結果を示すグラフである。
図30】実施例14および比較例4における最大たわみ量aの計測結果を示すグラフである。
図31】実施例15および比較例5における最大たわみ量aの計測結果を示すグラフである。
図32】実施例4および実施例16における最大たわみ量aの計測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[最大たわみ量を算出する原理]
図1~4を参照して、ドップラー振動計の測定値に含まれる載荷用車両の動きに由来する速度と、それを考慮した最大たわみ量の算出方法の原理について説明する。図1は、たわみ曲線および最大たわみ量を模式的に説明する説明図であり、図2Aは、ドップラー振動計の設置角度を模式的に説明する説明図であり、図2Bは、車両仰角を模式的に説明する説明図である。また、図3は、走行速度と最大たわみ発生位置との関係性を示すグラフであり、図4は、数式(1)と数式(19)の曲線形状を示すグラフである。
【0028】
本実施形態では、車輪1の直下を原点とする局所座標系を定義する。この局所座標系では、載荷用車両10が走行する方向である車両進行方向TDをx軸とし、車軸1aの延伸方向をy軸とし、車両走行面Vsに荷重がかかる載荷方向LDをz軸とし、車両進行方向TDをx軸の負の方向とし、載荷方向LDをz軸の正の方向としている。
【0029】
図1は、載荷用車両10の走行時において、車輪1によって荷重がかけられた車両走行面Vsの断面図である。車両走行面Vsは、車輪1によって凹状のたわみ曲線wを描く。
【0030】
載荷用車両10が停止している場合、車軸1aの中心を通る鉛直線Ax上にたわみ曲線wの頂点Poが位置する。本発明では動的にたわみを計測するため、車軸1aの中心を通る鉛直線Axよりも後方にたわみ曲線wの頂点Poが位置する。このとき、局所座標系の原点と、たわみ曲線wの頂点Poとの間の距離を最大たわみ発生位置dとする。最大たわみ発生位置dは、「松井邦人ほか,“走行型路面たわみ測定試験機の現状と我が国における取組み”,土木技術資料55-12,2013年」の資料による。
【0031】
たわみ曲線wは、最大たわみ量をaとし、たわみ形状に関する係数をbとし、最大たわみ発生位置をdとし、距離をx、走行速度をVとしたとき、数式(1)によって、求められる。また、数式(2)によって、たわみ速度dw/dtが求められる。
【数5】
【0032】
図2Aは、載荷用車両10が有する車輪1周辺に設けられたドップラー振動計LDVを模式的に示した模式図である。本実施形態では、1つのたわみ計測装置100に対して、車輪1の前方に1つ、後方に2つ、合計3つのドップラー振動計LDV1~3が設けられている場合について説明する。
【0033】
3つのドップラー振動計LDV1~3について、車両進行方向TDの前方から順に、第1のドップラー振動計LDV1、第2のドップラー振動計LDV2、第3のドップラー振動計LDV3とする。また、第1のドップラー振動計LDV1と第2のドップラー振動計LDV2との間に車輪1が配置されている。
【0034】
各ドップラー振動計LDV1~3は、照射口IP1~3から車両走行面Vsに対してレーザー光を照射する。ここで、ドップラー振動計LDV1において、設置角度θLDV1とは、図2Aに示すように、二点鎖線で示すレーザー光と、レーザーの照射口IP1を通る鉛直線SPとの間の角度である。ドップラー振動計LDV1においてレーザー光の光路長r1は、数式(3)によって示すことができ、光路長r1を時間tで微分した値dr1/dtについては、数式(4)によって示される。また、r1同様にr2においては数式(5)(6)、r3においては数式(7)(8)によって示される。
【数6】
【0035】
このとき、光路長がr1であり、測定時間がtであり、ドップラー振動計LDV1の照射口IP1から交点Iまでの距離がLxである。また、設置高さがhであり、車両仰角がθであり、設置角度がθLDV1である。r2、r3も同様に変数を定義している。
【0036】
設置高さhとは、車両仰角θが0°のときにおけるドップラー振動計が設置される高さのことであり、ドップラー振動計LDV1~3の照射口IP1~3を通る線SLと、たわみが発生していない車両走行面Vsとの間の距離のことを指す。交点Iとは、車両仰角θが0°のときにおけるドップラー振動計1~3の照射口IP1~3を通ってx軸に沿って伸びる線と、回転中心Mを通ってz軸に沿って伸びる線との交点のことである。
【0037】
車両仰角θとは、図2Bに示すように、車両走行面Vsと載荷用車両10のなす角度のことであり、ドップラー振動計LDV1~3の照射口IP1~3を通る線SLと、車両走行面Vsとの間の角度のことを指す。なお、車両仰角θは、図2Bで示される矢印の向きを正とする。車両仰角θは、載荷用車両10の走行時に変動する。
【0038】
上記の数式(1)~(4)を用いて、ドップラー振動計LDV1から取得される測定値uについて、以下の数式(9)で表すことができる。なお、載荷用車両10の上下動に由来する変動速度をVzとする。また、数式(9)の通り、測定値uには、車両走行面Vsのたわみ速度dw/dt以外の値が含まれている。
【数7】
【0039】
また、たわみ計測装置100に設けられたドップラー振動計が3つの場合、各ドップラー振動計LDV1~3から取得される測定値u1~3は以下の数式(10)の通りである。なお、L12は、第1のドップラー振動計の照射口IP1および第2のドップラー振動計の照射口IP2間の距離であり、L23は、第2のドップラー振動計の照射口IP2および第3のドップラー振動計の照射口IP3間の距離である。すなわち、ドップラー振動計LDV2から取得される測定値uについては、上述したように、Lxを(Lx+L12)に置き換え、θLDV1をθLDV2に置き換えることによって示すことができる。ドップラー振動計LDV3から取得される測定値uについては、上述したように、Lxを(Lx+L12+L23)に置き換え、θLDV1をθLDV3に置き換えることによって示すことができる。
【数8】
【0040】
上述した通り、ドップラー振動計LDV1~3から取得される測定値u1~3には、車両走行面Vsのたわみ速度dw/dt以外の値が含まれている。具体的には、車両仰角θの変動に由来する変動速度と、車両の上下動に由来する変動速度Vzと、走行速度Vとが含まれている。車両仰角θの変動に由来する変動速度とは、載荷用車両10が車両仰角方向に変動する速度のことである。車両の上下動に由来する変動速度Vzとは、載荷用車両10が上下方向に変動する速度のことである。走行速度Vとは、載荷用車両10が車両進行方向TDに直進する動きに由来する速度のことである。すなわち、車両仰角θの変動に由来する変動速度と、車両の上下動に由来する変動速度Vzと走行速度Vに由来する速度とは、いずれも載荷用車両10の動きに基づく速度であり、車両走行面Vsのたわみには起因しない。このことから、車両仰角θの変動に由来する変動速度と、車両の上下動に由来する変動速度Vzと、走行速度Vは、測定値u1~3から除去する必要があるといえる。
【0041】
次に、車両仰角θの変動に由来する変動速度と、車両の上下動に由来する変動速度Vzと、走行速度Vとを除去したうえで、最大たわみ量aを算出する原理について説明する。初めに、各ドップラー振動計LDV1~3から取得された測定値u1~3の差をとることで車両の上下動に由来する変動速度Vzを除去する。以下の数式(11)、(12)は、車両進行方向TDの最前に位置する第1のドップラー振動計LDV1から取得された測定値uから、他のドップラー振動計LDV2、LDV3から取得された測定値u、uをそれぞれ減算した式を示している。
【数9】
【0042】
また、cosθは、角度θの変動に応じてあまり値が変動しないことから、cosθ、cosθLDV1およびcosθLDV2について1.0として計算してもよい。さらに、sinθLDV1・sinθ、sinθLDV2・sinθおよびsinθについても、かなり小さい値となり、算出されるたわみ量への影響が小さいことから、0.0として計算してもよい。
【0043】
ここで、車両走行面Vsのたわみ速度dw/dtの差について、数式(2)を用いて表すと以下の数式(13)となり、数式(11)を用いて表すと数式(14)となる。ここでx1、2は図2Aの車輪直下を原点とする局所座標系において、ドップラー振動計LDV1、2のx軸上におけるレーザー光照射位置である。
【数10】
【0044】
数式(13)と数式(14)とは等号で繋げられる関係であることから、以下の数式(15)のように変形することで最大たわみ量aを算出する式となる。
【数11】
【0045】
また、第2のドップラー振動計LDV2の測定値uの代わりに第3のドップラー振動計LDV3の測定値uを用いると、以下の式(16)の通りとなる。ここでx3は図2Aの車輪直下を原点とする局所座標系において、ドップラー振動計LDV3のx軸上におけるレーザー光照射位置である。
【数12】
【0046】
数式(15)と数式(16)とを等号で繋げると以下の数式(17)となる。この式から、たわみ形状に関する係数bを求めることができる。
【数13】
【0047】
このとき、最大たわみ発生位置dについては、例えば、図3に示すグラフに基づいて算出された近似式から算出することができる。図3は、走行速度Vと最大たわみ発生位置dとの関係性を示したグラフである(松井邦人ほか,“走行型路面たわみ測定試験機の現状と我が国における取組み”,土木技術資料55-12,2013年より抜粋)。この場合の近似式としては、例えば、以下の数式(18)が挙げられる。
【数14】
【0048】
算出されたたわみ形状に関する係数bと、最大たわみ発生位置dとを、数式(15)または数式(16)に代入することで、最大たわみ量aが算出される。
【0049】
なお、上記では、ガウス関数を用いた最大たわみ量aの算出方法について述べたが、最大たわみ量aの算出に用いる関数は、たわみ曲線wの形状に近似した曲線であればよく、例えば、数式(19)で示される関数であってもよい。図4に示すように、数式(19)はガウス関数に近似した曲線を描く関数である。
【数15】
【0050】
なお、ドップラー振動計が2つの場合については、過去の測定実績等から仮定したたわみ形状に関する係数bと、最大たわみ発生位置dとを、数式(15)または数式(16)に代入することで、最大たわみ量aが算出される。
【0051】
上述した通り、本発明者らは、鋭意研究の結果、ドップラー振動計から取得された測定値のなかには、載荷用車両の動きに由来する速度として、車両の上下動に由来する変動速度と、車両の仰角変動に由来する変動速度と、走行速度とが含まれることをまず発見した。そして、本発明者らは、車両の上下動に由来する変動速度については、複数のドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで除去し、車両の仰角変動に由来する変動速度については、仰角変動計から取得された仰角の変動に基づく角速度を用いて除去し、走行速度に由来する速度については、ドップラー振動計の設置角を用いて除去し、車両の上下動に由来する変動速度、車両の仰角変動に由来する変動速度、および走行速度を除去したたわみ速度に関する物理量から、最大たわみ量を算出する方法を見出し、本発明に至った。
【0052】
[たわみ計測装置の構成]
図5~11を参照して、本実施形態のたわみ計測装置、たわみ計測システム、たわみ計測方法を具現化した一実施形態について説明する。以下では、最大たわみ量の算出にガウス関数を用いる場合について説明するが、上述の通りガウス関数以外の関数によって算出されてもよい。
【0053】
まず、図5~8を参照して、たわみ計測装置について説明する。たわみ計測装置100は、たわみが生じ得る車両走行面Vsのたわみを動的に測定する。車両走行面Vsとは、車両が走行可能であり、健全度を評価する対象として、たわみを測定することが有効である走行面のことを指し、例えば、アスファルトコンクリートまたはセメントコンクリート等で舗装された舗装路面、鉄道のレール、建物の床などが挙げられる。
【0054】
図5は、センサ架台20および車輪1周辺におけるたわみ計測装置100を模式的に表した部分拡大図である。図5に示すように、たわみ計測装置100は、載荷用車両10の車体2に剛結されるセンサ架台20と、センサ架台20に剛結され、車両仰角θの変動を検出する仰角変動計21と、センサ架台20に剛結され、車両走行面Vsのたわみ速度を含む車両走行面との相対速度を測定値として検出する複数のドップラー振動計LDV1~3と、を含む。剛結とは、部材同士をぶれなく結合させることを指し、例えば、ボルトナットによる締結、はめ込み、溶接、接着等の手法が挙げられる。
【0055】
載荷用車両10は、車体2にセンサ架台20を剛結可能であり、車両走行面Vsに荷重をかける車輪1を有していればよく、例えば、中型車両などが挙げられる。このとき、車両走行面Vsに対して車輪1が荷重をかける方向を載荷方向LDとする。載荷用車両10は、必ずしも載荷用車両10自体が動力源を有している必要はなく、図6に示すように、けん引式の装置であってもよい。この場合、他の車両を動力源として、載荷用車両10を走行させてもよいし、手動で走行させてもよい。
【0056】
上述した通り、仰角変動計21と、ドップラー振動計LDVとが剛結されたセンサ架台20は、車体2に剛結されている。センサ架台20の形状は特に限定されないが、仰角変動計21やドップラー振動計LDV等のセンサを剛結して一体化させ、センサとセンサ架台20とが同じ動きをさせる必要があるため、剛性の高い材料を用いて変形しない構造となるようにする必要がある。例えば、鉄が挙げられる。
【0057】
ドップラー振動計LDV1~3は、レーザー光によって、下方に位置する車両走行面Vsのたわみ速度を含む車両走行面との相対速度を測定する。図2Aに示すように、車輪1の前方に位置するドップラー振動計LDV1は、下方に向いたたわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出し、後方に位置するドップラー振動計LDV2および3は、上方に向いたたわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出する位置に設置することが望ましい。
【0058】
ドップラー振動計LDVは複数あればよく、3つ以上あればなおよく、ドップラー振動計LDVの数が多いほど算出される最大たわみ量aの確度が向上する。一方、ドップラー振動計LDVの数が少ないほど最大たわみ量aの算出に要する計算量を減らすことができる。
【0059】
ドップラー振動計LDVの取付位置と取付数については、図5に示すように、車両進行方向TDに対して、車輪1の前方および後方のそれぞれにおいて、少なくとも1つ以上ドップラー振動計LDVが設けられていることが望ましい。車輪1の前方および後方のそれぞれにおいて、少なくとも1つ以上ドップラー振動計LDVが設けられていることから、ドップラー振動計LDVから取得された測定値uの差をとることで車両の上下動に由来する変動速度による影響を除去した後の値が大きくなる。
【0060】
また、ドップラー振動計LDV1~3は、図7に示すように、車輪1の後方だけに設けられてもよいし、前方だけに設けられてもよい。要は、載荷用車両10のいずれかの車輪1の車両進行方向TDに対する前方または後方において車両走行面Vsのたわみ速度を含む車両走行面との相対速度を検出できる位置に設けられていればよい。
【0061】
仰角変動計21は、例えば、ジャイロセンサ、変位計、傾斜計である。仰角変動計21は、車両仰角θの変動、すなわち、車両仰角方向における載荷用車両10の仰角θの変動を測定できればよい。
【0062】
なお、仰角変動計21がジャイロセンサまたは傾斜計である場合には、センサ架台20に1つ設けられていればよい。一方、仰角変動計21が変位計である場合には、たわみ計測装置100の前方および後方に設ける必要がある。
【0063】
仰角変動計21が変位計または傾斜計の場合には、以下の数式(21)から角速度Gを算出する必要がある。このとき、θd12は、架台20と車両走行面Vsとの角度である。なお、θd12は、図8で示される矢印の向きを正とする。
【数16】
【0064】
数式(21)は、図8から導き出せる以下の数式(22)に基づく。図8は、仰角変動計21が変位計である場合のたわみ計測装置100を示している。図8では、ドップラー振動計LDV、速度計22、歪み計25等について省略している。図8に示すように、車両10の前方に位置する変位計21の底面から車両走行面Vsまでの距離をhd1とし、後方に位置する変位計21の底面から車両走行面Vsまでの距離をhd2とし、変位計21間のx軸方向における距離をLd12とする。
【数17】
【0065】
なお、図5に示すように、たわみ計測装置100には、速度計22と、2つ以上の歪み計25とがさらに設けられていても良い。速度計22は、載荷用車両10の走行速度Vを測定する。歪み計25は、車両走行面Vsにかかる荷重を計測するために設けられ、車両走行面Vsに荷重をかける車輪1の車軸1aを中心として、上下方向において互いに向き合うように取り付けられる。
【0066】
[たわみ計測システムの構成]
図9に示すように、たわみ計測システム500は、上述したたわみ計測装置100によって測定された測定データに基づいて、車両走行面Vsの最大たわみ量aを算出する。
【0067】
図9に示すように、たわみ計測システム500は、たわみ計測装置100と、たわみ算出装置200と、表示部300とから構成される。たわみ計測装置100は、最大たわみ量aの算出に要するデータを収集し、たわみ算出装置200へ出力する。
【0068】
たわみ算出装置200は、たわみ計測装置100から出力された測定データから最大たわみ量aを算出する。図9に示すように、たわみ算出装置200は、信号処理部201、記憶部202、演算部203および操作部204を備える。なお、たわみ算出装置200は、1つまたは複数のたわみ計測装置100から測定データが入力されてもよい。
【0069】
信号処理部201は、たわみ計測装置100から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0070】
記憶部202は、フラッシュメモリ等から構成され、演算部203の処理に必要なプログラムやデータを記憶している。記憶部202は、信号処理部201にて変換されたデジタル信号の値について、計測日時と対応づけて記憶する。また、演算部の最大たわみ量算出に関するデータを記憶する。
【0071】
演算部203は、CPUやRAMを含み、記憶部202に記憶されたプログラムやデータに基づいて、信号処理部201によって変換されたデジタル信号の値から、最大たわみ量aを算出する。
【0072】
操作部204は、例えば、キーボード、タッチパネル、マウスなどである。ユーザは、操作部204によって、最大たわみ量aを算出する際に用いられるパラメータや計算式等を任意に変更可能である。
【0073】
表示部300は、たわみ算出装置200によって算出された最大たわみ量aを含む情報を表示する。表示部300は、たわみ算出装置200から出力された情報を視覚的に出力可能であればよく、例えば、モニターやタブレット等である。表示部300は、有線もしくは無線通信を介して、たわみ算出装置200から情報を受け取る。
【0074】
[最大たわみ量の計測方法]
次に、図10を参照して、最大たわみ量の計測方法の一例を説明する。図10は、本発明の最大たわみ量の計測方法を示すフローチャートである。
【0075】
最初に、載荷用車両10を走行させ、車両走行面Vsのたわみを動的に測定する(ステップS1)。このとき、載荷用車両10の走行速度Vは、一定であってもよいし、不定であってもよい。走行速度が不定である場合には、速度計22によって、走行速度Vが測定されている必要がある。これにより、供用中の道路における交通の流れを乱すことなく測定が可能となる。
【0076】
このとき、各種測定値の補正係数の設定に要する測定を行なっても良い。具体的には、仰角変動計に関する補正係数k12、k13を算出するための測定を行っていても良い。以下に、仰角変動計21に関する補正係数の設定方法について詳述する。
【0077】
まず、たわみ計測装置100を搭載した車両を停止させた状態で、走行時の車両仰角θの変動を想定して、車両を仰角方向に動かし、車両の仰角θのみを変動させ、各ドップラー振動計1~3の測定値u1~3と、角速度Gとを測定する。仰角変動計21が変位計または傾斜計の場合には、前述の通り、測定値から角速度Gを算出する。そして、以下の数式(23)、(24)によって、仰角変動計に関する補正係数k12、k13を算出する。なお、振幅値は、片振幅であっても両振幅であってもよい。
k12=u1-u2の振幅値/角速度Gの振幅値 …(23)
k13=u1-u3の振幅値/角速度Gの振幅値 …(24)
【0078】
次に、たわみ算出装置200は、たわみ計測装置100から測定データを取得する(ステップS2)。このとき、アナログ信号については、その値をデジタル信号に変換する。
【0079】
たわみ算出装置200は、各ドップラー振動計の設置角度θLDV1~3を用いて、ドップラー振動計LDV1~3から取得された測定値u1~3における設置角度θLDV1~3の影響を補正してもよい。この際に、走行速度Vにより重畳された速度成分の除去を同時に行なっても良い。たわみ算出装置200は、以下の数式(25)によって測定値u1~3の補正値WV1~3を算出する。これにより、走行速度Vを除去することができる。
WV1=u1-V・sin(θLDV1
WV2=u2-V・sin(θLDV2
WV3=u3-V・sin(θLDV3) …(25)
【0080】
次に、たわみ算出装置200は、ドップラー振動計LDVから取得された測定値uの差をとることによって、測定値uから車両の上下動に由来する変動速度を除去し、車両の上下動に由来する変動速度が除去された値および仰角変動計から取得された車両仰角の変動に基づく角速度を用いて、車両の仰角変動に由来する変動速度を除去する(ステップS3)。
【0081】
すなわち、第1のドップラー振動計LDV1から取得された測定値uの補正値をWV1とし、第2のドップラー振動計LDV2から取得された測定値uの補正値をWV2とし、第3のドップラー振動計LDV3から取得された測定値uの補正値をWV3とし、仰角変動計に関する補正係数をk12、k13とし、ジャイロセンサにより測定された角速度をGYROとするとき、第1のドップラー振動計LDV1の測定値uと第2のドップラー振動計LDV2の測定値u2の差から車両の仰角変動に由来する変動速度を除去した値であるSIG12が数式(26)から算出され、第1のドップラー振動計LDV1の測定値uと第3のドップラー振動計LDV3の測定値u3の差から車両の仰角変動に由来する変動速度を除去した値であるSIG13が数式(27)から算出される。これにより、ドップラー振動計LDV1~3から取得された測定値u1~3から、走行速度と車両の上下動に由来する変動速度と車両の仰角変動に由来する変動速度とが除去される。
SIG12=WV1-WV2-k12・GYRO …(26)
SIG13=WV1-WV3-k13・GYRO …(27)
【0082】
次に、最大たわみ発生位置dを求める(ステップS4)。前述の通り、最大たわみ発生位置dは近似式である数式(18)から算出してもよい。
【0083】
次に、たわみ算出装置200は、以下の数式(28)を用いて、たわみ形状に関する係数bを求める(ステップS5)。ここでx1~3は図2Aの車輪直下を原点とする局所座標系において、ドップラー振動計LDV1~3のx軸上におけるレーザー光照射位置である。
【数18】
【0084】
次に、たわみ算出装置200は、以下の数式(29)を用いて、最大たわみ量aを算出する(ステップS6)。算出された最大たわみ量aは、計測日時と対応づけられて記憶部202に記録される。
【数19】
【0085】
ドップラー振動計LDVは複数あればよく、3つ以上あればなおよく、ドップラー振動計LDVの数が多いほど算出される最大たわみ量aの確度が向上する。一方、ドップラー振動計LDVの数が少ないほど最大たわみ量aの算出に要する計算量を減らすことができる。
【0086】
なお、ドップラー振動計が2つの場合については、たわみ形状に関する係数bを過去の測定実績などから仮定して数式(29)を用いて、最大たわみ量aを算出する。
【0087】
たわみ算出装置200は、最大たわみ量aに対して、荷重補正を行なっても良い(ステップS7)。荷重補正とは、車両走行面Vsにかかる荷重を任意の値に補正することである。最大たわみ量aに補正係数kwを乗算することによって、車両走行面Vsにかかる荷重が任意の値であるときの最大たわみ量aに補正できる。補正係数kwは、任意の荷重値をEとし、傾きをαとし、切片をβとし、車軸1a上側に位置する歪み計25で測定されたひずみをε1とし、車軸1a下側に位置する歪み計25で測定されたひずみをε2としたとき、以下の数式(30)によって算出される。これにより、車両走行面Vsにかかる荷重を任意の荷重値Eに補正することができ、車両走行面Vsのたわみを評価しやすくなる。また、車両走行面Vsにかかる荷重が異なる他のたわみ計測装置100で計測されたデータとの比較が容易となる。
kw=E/(α(ε1-ε2)+β) …(30)
【0088】
なお、傾きαと切片βは、図11に示す一次関数の傾きと切片である。図11はy軸を車輪1の荷重とし、x軸を上下ひずみの差ε1-ε2とした関係式の一例を示すグラフである。傾きαと切片βは載荷用車両10に応じて変動するため、載荷用車両10を変更する場合には、車輪1の荷重と、上下ひずみの差ε1-ε2との関係式を新たに求める必要がある。
【0089】
車輪1の荷重と、上下ひずみの差ε1-ε2との関係式は、車輪1の荷重が異なる条件で複数回ひずみを測定して求める。具体的には、平坦な地面の上に車両重量計を設置し、設置した車両重量計の上に車輪1が位置するように載荷用車両10を移動させ、歪み計25が設置された車輪1付近のフレームをジャッキアップ等により車輪1に作用する荷重を変化させ、車輪1の荷重および車軸1aの上側と下側におけるひずみを測定する。ジャッキアップ等により車輪1に生じる荷重を変えながら、同様の手順で車輪1の荷重および車軸1aの上側と下側におけるひずみを複数回測定する。測定結果から回帰直線の傾きαと切片βを求める。
【0090】
たわみ算出装置200は、算出された最大たわみ量aと計測時間とが対応づいたデータに対して、メディアンフィルタをかけてもよい。このとき、フィルタ長は、評価したい車両走行面Vsの距離、サンプリングレート、走行速度V等を考慮して定められる。例えば、走行速度Vが20km/h、サンプリングレートが2000Hzという条件で測定された測定データについて、評価区間長5mにおける車両走行面Vsの最大たわみ量aを評価したい場合、フィルタ長は1500~2000が望ましい。
【0091】
たわみ算出装置200は、最大たわみ量aに対して温度補正を行なっても良い(ステップS8)。温度補正とは、測定対象面がアスファルト混合物層の場合においてはアスファルト混合物層のたわみ量が測定時の温度によって異なるため、測定した最大たわみ量より、標準温度で測定した場合の最大たわみ量aに補正するものである。温度補正する方法としては、たとえば、「(公社)日本道路協会、“舗装性能評価法”、平成25年4月」に記載されている、測定時のアスファルト混合物層の温度およびアスファルト混合物層の層厚から補正する方法などがある。
【0092】
次に、たわみ算出装置200は、データの出力を行なう(ステップS9)。たわみ算出装置200は、算出した最大たわみ量aを含むデータを表示部300に出力する。表示部300は、たわみ算出装置200から出力されたデータを表示する。
【0093】
このように算出された最大たわみ量は、車両の上下動に由来する変動速度と車両の仰角変動に由来する変動速度とを考慮せずに算出された場合と比較して、最大たわみ量aの算出の確度が向上されており、車両走行面のたわみを正確に把握することを可能にする。
【0094】
(実施例1)
まず、発明者らは、ドップラー振動計LDVの設置角度と車両仰角の和(θLDVM)が変動する範囲と、sin(θLDV+θM)およびcos(θLDV+θM)に対する影響について検証した。設置角度θLDVが2.0°程度となるように、ドップラー振動計LDVを設置した。
【0095】
図12に示すように、約1400m走行し、その間のドップラー振動計LDVの設置角度と仰角の和(θLDV+θM)の変動を変位計によって計測した結果、1.3°~2.5°の間で変動することが分かった。これを鑑みて、θが0.0°~3.0°の範囲におけるsinθとcosθの変動についてグラフで示した。図13は、sinθの変動を示し、図14は、cosθの変動を示している。図13および図14で示す結果から、sinθは、θの変動に影響を受けやすいことに対して、cosθは、θの変動にあまり影響を受けないことが分かった。このことから、cosθの変動は、最大たわみ量aの算出にほぼ影響を与えないことから、cosθ=1.0として計算しても支障はない。
【0096】
(実施例2、3)
次に、本発明者らは、仰角変動計21に関する補正係数k12、k13の要否について検討した。
【0097】
実施例2および実施例3における最大たわみ量aを算出するために、第1のドップラー振動計LDV1、第2のドップラー振動計LDV2を設置した。なお、第1のドップラー振動計の設置角度θLDV1は2.31°であり、第2のドップラー振動計の設置角度θLDV2は2.09°であった。そして、たわみ計測装置100を停止させた状態で、走行時の車両仰角θの変動を想定して、車両の仰角方向に車両を動かした。図15図16に示すように、10秒の間、各ドップラー振動計によって測定値uを測定し、ジャイロセンサによって角速度Gを測定した。
【0098】
実施例2は、第1のドップラー振動計LDV1の測定値u1と第2のドップラー振動計LDV2の測定値u2との差をとったものをu1-u2とし、ジャイロセンサにより測定された角速度Gに対して補正係数k12を乗算しない場合である。図15は、このようなドップラー振動計の速度差および補正前の角速度を示したものである。
【0099】
実施例3は、第1のドップラー振動計LDV1の測定値u1と第2のドップラー振動計LDV2の測定値u2との差をとったものをu1-u2とし、ジャイロセンサにより測定された角速度に対して補正係数k12を乗算したものを角速度Gとした場合である。補正係数k12を0.438とし、補正係数k13を0.703とした。図16は、このようなドップラー振動計の速度差および補正後の角速度を示すグラフである。
【0100】
上述したように、図15は、実施例2の結果を示し、図16は実施例3の結果を示している。このとき、左側の縦軸は速度(m/s)であり、右側の縦軸は角速度(rad/s)であり、横軸は計測時間(s)である。図15図16とを比較すると、図15では、位相については一致しているが、値は一致していない。これに対し、図16では、第1のドップラー振動計LDV1の測定値u1と第2のドップラー振動計LDV2の測定値u2との差と、角速度Gと、が一致していることが分かる。このことから、補正係数k12が必要であることが分かる。なお、補正係数k13も同様である。
【0101】
(実施例4~7、比較例1)
次に、本発明者らは、FWDによる計測結果と、本発明による計測結果とを比較した。また、補正係数k12、k13を用いた車両の仰角変動に由来する変動速度の除去の有効性についても合わせて検証した。
【0102】
実施例4は、図5のように、3つのドップラー振動計LDV1~3とジャイロセンサ21とをたわみ計測装置100に設置した。このとき、第1のドップラー振動計LDV1の設置角度θLDV1は2.31°であり、第2のドップラー振動計LDV2の設置角度θLDV2は2.09°であり、第3のドップラー振動計LDV3の設置角度θLDV3は2.12°であった。また、走行速度Vを20km/hとして測定を行なった。また、最大たわみ量aの算出の際には、補正係数k12、k13を用いた車両の仰角変動に由来する変動速度の除去を行った。補正係数k12を0.438とし、補正係数k13を0.703とした。また、サンプリングレートを2000Hzとし、荷重補正後の荷重を49kNとし、メディアンフィルタのフィルタ長を1600とした。また、ドップラー振動計1~3による車両走行面の照射位置を、車輪直下を0.000mとしてそれぞれ-0.207m、+0.205m、+0.615mとした。
【0103】
実施例5は、走行速度を40km/hとしたことを除いて、実施例4と同様である。
実施例6は、最大たわみ量aの算出の際に、補正係数k12、k13を用いた車両の仰角変動に由来する変動速度の除去をしないことを除いて、実施例4と同様である。
【0104】
実施例7は、走行速度を40km/hとし、最大たわみ量aの算出の際に補正係数k12、k13を用いた車両の仰角変動に由来する変動速度の除去をしないことを除いて、実施例4と同様である。
【0105】
また、比較例1として、FWDにより測定を行なった。比較例1は、車両走行面Vsにかかる荷重を49kNとし、5mおきに測定した。
【0106】
図17~20は、比較例1であるFWDによる計測結果と、各実施例の計測結果とを表したグラフである。図17は、実施例4の結果を示しており、図18は、実施例5の結果を示している。図19は、実施例6の結果を示しており、図20は実施例7の結果を示している。縦軸は算出された最大たわみ量aを示し、横軸は走行距離を示している。
【0107】
実施例4および実施例5は、図17図18に示すように、FWDによる計測結果とほぼ相違ない結果を示していることが分かる。
【0108】
これに対して、実施例6および実施例7は、図19図20に示すように、FWDによる計測結果と似た傾向を示しているが、最大たわみ量aの変動が激しく、車両走行面Vsのたわみを把握しにくい。
【0109】
(実施例4、実施例8~10、比較例1)
次に、本発明者らは、ドップラー振動計を設置する位置と、荷重補正が与える影響について検証した。
【0110】
実施例8は、荷重補正を行なわなかったことを除いて、実施例4と同様である。
実施例9は、図7に示すように、車軸1aの後方に3つのドップラー振動計LDVが設けられていることを除いて、実施例4と同様である。
実施例10は、荷重補正を行なわなかったことを除いて、実施例9と同様である。
【0111】
図21および図22において、比較例1の結果を実線で示している。また、図21では、実施例4の結果を二点鎖線で示しており、実施例8の結果を点線で示しており、図22では、実施例9の結果を二点鎖線で示しており、実施例10の結果を点線で示している。なお、図21図22の縦軸は最大たわみ量aであり、横軸は走行距離である。
【0112】
図21では、FWDの結果である比較例1を示す実線と、実施例4,8の結果を示す二点鎖線および点線との差が小さいことに対し、図22では、実線とそれ以外の線との差が大きい。このことから、ドップラー振動計を車輪の前方および後方に少なくとも1つ設けるように設置することで車両走行面に由来するたわみ速度の差を大きくすることができ、FWDによる測定結果とほぼ同様の結果を得ることができる。
【0113】
また、図21において、荷重補正を行なった実施例4を示す二点鎖線と、荷重補正を行なっていない実施例8を示す点線とを比較すると、実施例4の方が、最大たわみ量aの変動や大きさが比較例1と近い。このことから、荷重補正を行なうことで、算出される最大たわみ量aの確度を向上させ、車両走行面の最大たわみ量aを正確に評価することができる。
【0114】
(実施例4、比較例1、2)
次に、本発明者らは、従来の動的たわみ計測装置による最大たわみ量aの計測方法(特開2016-23537号公報)と、本発明の計測方法とを比較した。また、FWDによる計測結果とそれぞれの結果を比較することで、最大たわみ量aの確度を評価した。本発明の計測方法としては、実施例4と同様の条件で行なった。FWDによる計測は、比較例1と同様の条件で行なった。
【0115】
比較例2は、従来技術(特開2016-23537号公報)であるウェーブレット解析によって、最大たわみ量aを算出した点とドップラー振動計1~3による車両走行面の照射位置が実施例4と異なる。すなわち、測定については、ドップラー振動計1~3による車両走行面の照射位置が異なる以外は実施例4と同様の条件で行った。また、ウェーブレット逆変換時のウェーブレット係数(フィルタレベル)を12とし、ドップラー振動計1~3の照射位置について、車輪直下を0.000mとして、それぞれ+0.155m、+0.357m、+0.560mとした。
【0116】
図23図24は、最大たわみ量aを示すグラフである。縦軸は最大たわみ量aを示し、横軸は走行距離を示す。図23は、実施例4と比較例1とを比較したグラフであり、図24は、比較例1と比較例2とを比較したグラフである。図23図24において、実施例4と比較例2の計測結果は、実線で示されており、比較例1の計測結果は、点線で示されている。
【0117】
図25図26は、比較例1との相関関係を示す散布図である。図25の縦軸は、実施例4における最大たわみ量aを示し、図26の縦軸は、比較例2の最大たわみ量aを示す。図25および図26の横軸は、比較例1の最大たわみ量aを示す。
【0118】
また、図25図26では、近似直線が点線で示されている。また、近似直線の式と決定係数Rが右下に示されている。図25の通り、実施例4における近似直線は、y=1.0606x-0.2502であり、決定係数Rは、0.7582である。図26の通り、比較例2における近似直線は、y=0.7981x+0.0871であり、決定係数Rは、0.4104である。
【0119】
実施例4は、図23に示すように、外れ値の数が少なく、比較例1と近い値を示している。また、図25における近似直線の傾きが1に近いことが分かる。
【0120】
これに対して、比較例2は、図24においてばらつきが多いことや、図26における近似直線の傾きや決定係数Rの値が1より遠いことから、FWDの計測結果である比較例1との相関が実施例4よりも弱いことが分かる。また、図26からも、比較例2は、比較例1と極端にずれた値が見受けられる。
【0121】
このことから、比較例2よりも実施例4の方がFWDの計測結果と相関関係が強いことから、従来技術と比較して本発明の計測方法では、車両走行面のたわみを動的に計測しつつ、FWDで計測した場合と近い結果が得られるといえる。また、比較例2のウェーブレット解析では、車両の動きに由来する速度をウェーブレット解析によって除去することから計算が複雑になりやすいが、実施例4ではドップラー振動計の測定値の差をとる等して車両の動きに由来する速度を除去するため、最大たわみ量aの算出にかかる計算量を減らすことができる。
【0122】
また、実施例4では、ある時刻に測定されたデータが1つでもあれば、最大たわみ量aを算出可能である。これに対して、比較例2では、ウェーブレット解析に基づいて車両の動きに由来する速度を除去するため、ある時間幅における連続した測定データが必要である。実施例4によれば、ドップラー振動計の測定値の差をとる等して車両の動きに由来する速度を除去するため、ある測定時刻における1点の測定データから最大たわみ量aを算出可能となる。
【0123】
(実施例4、実施例5、実施例11、実施例12)
次に、発明者らは、走行速度の変動が最大たわみ量aの計測に及ぼす影響を検討した。
【0124】
走行速度が一定な実施例として、実施例4と実施例5と同様の条件でそれぞれ2回ずつ計測した。走行速度が不定な実施例として、走行速度を10~25km/hの範囲で変動させた実施例11と、10~40km/hの範囲で変動させた実施例12とを、それぞれ2回ずつ計測した。なお、実施例11、実施例12は、走行速度を除いて、実施例4と同様の条件である。
【0125】
図27は、実施例4と実施例5の最大たわみ量aの計測結果を示しており、図28Aは、実施例11と実施例12の最大たわみ量aの計測結果を示しており、図28Bは、実施例11および実施例12の走行速度の測定結果を示している。
【0126】
図27図28Aとを比較すると、最大たわみ量aはほぼ同じ値を示している。このことから、走行速度の変化の有無は、算出される最大たわみ量aの値にほぼ影響がないことが分かった。また、図27または図28Aにおいて、1回目と2回目の計測における差異がほぼないことから、再現性が高い結果が得られることが分かった。また、走行速度が異なる実施例4および5間と、実施例11および12間とにおける計測結果の差異がほぼないことから、どのような走行速度であっても、ほぼ変わりない結果を得られるといえる。また、図28Bに示すように、実施例11および12では、走行速度の変動の仕方に多少の差異があるが、算出される最大たわみ量aの値にほぼ影響がないことが分かった。
【0127】
つまり、走行速度の大小や変動の有無は、計測結果にほぼ影響を与えないことから、走行速度を変動させたとしても、車両走行面Vsのたわみを計測可能である。そのため、交通規制をせずとも、たわみの計測を可能であるから、実道におけるたわみの計測が容易となる。
【0128】
(実施例13~15、比較例3~5)
次に、異なる場所において検証した。実施例13~15として、つくば市内の実道の様々な場所において2回ずつ計測を行なった。図29は実施例13(測定箇所A)と比較例3の結果を示しており、図30は実施例14(測定箇所B)と比較例4の結果を示しており、図31は実施例15(測定箇所C)と比較例5の結果を示している。なお、比較例3~5は、測定場所が異なる以外は比較例1と同様である。
【0129】
実施例13~15において、それぞれ、比較例3~5と最大たわみ量aがほぼ同じ値を示していることから、異なる場所であっても、最大たわみ量aを正確に計測できていることを確認した。
【0130】
(実施例4、実施例16)
次に、本発明者らは、最大たわみ量の算出にガウス関数以外のたわみ曲線wの形状に近似した関数を用いても、ガウス関数と同様の結果を得られるか検証した。
【0131】
実施例16は、数式(19)を用いて最大たわみ量aを算出した点が実施例4と異なる。図32は、実施例4と実施例16の最大たわみ量aの計測結果を示している。図32に示すように、関数が異なってもほぼ同様の値を示していることを確認した。
【0132】
以上説明したように、本実施形態によれば、複数のドップラー振動計から取得された測定値の差をとることで車両の上下動に由来する変動速度を除去することから、ドップラー振動計から取得された測定値から車両の上下動に由来する変動速度のみが除去されることとなり、算出される最大たわみ量の確度を向上させることができる。また、車両の上下動に由来する変動速度だけでなく、車両の仰角変動に由来する変動速度についても除去された値を用いているため、算出される最大たわみ量の確度をさらに向上させることが可能となる。さらに、走行速度に変動があっても、最大たわみ量aを算出可能であることから、実道での計測が容易となる。
【符号の説明】
【0133】
1 車輪
1a 車軸
2 車体
10 載荷用車両
20 センサ架台
21 仰角変動計
22 速度計
25 歪み計
100 たわみ計測装置
200 たわみ算出装置
201 信号処理部
202 記憶部
203 演算部
204 操作部
300 表示部
500 たわみ計測システム
a 最大たわみ量
b たわみ形状に関する係数
d 最大たわみ発生位置
h 設置高さ
r 光路長
t 計測時間
u 測定値
V 走行速度
w たわみ曲線
x 距離
dw/dt たわみ速度
dr/dt 光路長rを時間微分した値
Ax 車軸の中心を通る鉛直線
I 交点
IP 照射口
LD 載荷方向
d1 車両10の前方に位置する変位計の底面から車両走行面Vsまでの距離
d2 車両10の後方に位置する変位計の底面から車両走行面Vsまでの距離
d12 変位計12間のx軸方向における距離
LDV ドップラー振動計
LDV1 第1のドップラー振動計
LDV2 第2のドップラー振動計
LDV3 第3のドップラー振動計
Lo 各ドップラー振動計間の距離
Lx ドップラー振動計の照射口IPから交点Iまでの距離
Lz 回転中心Mから交点Iまでの距離がLz
12 第1のドップラー振動計および第2のドップラー振動計間の距離
23 第2のドップラー振動計および第3のドップラー振動計間の距離
M 仰角中心
Po たわみ曲線の頂点
SP 照射口IPを通る鉛直線
SL ドップラー振動計LDVの照射口IPを通る線
TD 車両進行方向
Vs 車両走行面
Vz 車両の上下動に由来する変動速度
θLDV 設置角度
θ 車両仰角
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28A
図28B
図29
図30
図31
図32