(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067638
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】球状結晶性シリカ粒子材料及びその製造方法、球状結晶性シリカ粒子材料含有スラリー、並びに球状結晶性シリカ粒子材料含有樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 33/12 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
C01B33/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179059
(22)【出願日】2021-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲羽▼田 光希
(72)【発明者】
【氏名】新井 雄己
(72)【発明者】
【氏名】萩本 伸太
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA30
4G072AA32
4G072BB05
4G072BB07
4G072DD03
4G072DD04
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4G072GG02
4G072GG03
4G072HH01
4G072HH14
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4G072HH28
4G072JJ11
4G072JJ45
4G072MM02
4G072MM03
4G072MM23
4G072MM26
4G072MM31
4G072MM36
4G072QQ07
4G072TT01
4G072TT30
4G072UU09
(57)【要約】
【課題】球状で有り不純物が少ない球状結晶性シリカ粒子材料を提供すること。
【解決手段】全体の質量を基準として石英結晶が70%以上かつ真比重が2.53g/cm3以上である。その製造方法は、本発明の球状結晶性シリカ粒子材料を製造する方法であって、金属ケイ素からなる原料粒子材料を酸化炎中に投入するか、又は二酸化ケイ素からなる原料粒子材料を高温雰囲気中に投入するかにより球状シリカ粒子材料を得る球状シリカ粒子形成工程と、前記球状シリカ粒子材料をアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の存在下、シリカの軟化点未満の温度で加熱することで、二酸化ケイ素全体の質量基準で70%以上を石英結晶にした粗球状結晶性シリカ粒子材料とする石英化工程と、前記粗球状結晶性シリカ粒子材料を水で洗浄して球状結晶性シリカ粒子材料を得る洗浄工程とを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体の質量を基準として石英結晶が70%以上、クリストバライト結晶が1%以下、真比重が2.53g/cm3以上である球状結晶性シリカ粒子材料。
【請求項2】
抽出水の電気伝導度が50μS/cm以下である請求項1に記載の球状結晶性シリカ粒子材料。
【請求項3】
平均粒子径(D50)が、0.1~10μmである請求項1又は2に記載の球状結晶性シリカ粒子材料。
【請求項4】
平均円形度が、0.90以上である請求項1~3の何れか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子材料。
【請求項5】
22体積%で樹脂材料中に充填して作製した樹脂組成物のホットディスク法で測定した熱伝導率が、前記樹脂材料のみの熱伝導率を100とした時、150以上となる請求項1~4の何れか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子材料。
【請求項6】
有機ケイ素化合物からなる表面処理剤を反応させた請求項1~5の何れか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子材料。
【請求項7】
請求項1~6のうちの何れか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子材料と、前記球状結晶性シリカ粒子材料を分散する溶媒とを有する球状結晶性シリカ粒子材料含有スラリ一組成物。
【請求項8】
請求項1~6のうちの何れか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子材料と、前記球状結晶性シリカ粒子材料を分散する樹脂材料と、を有する球状結晶性シリカ粒子材料含有樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~6のうちの何れか1項に記載の球状結晶性シリカ粒子材料を製造する方法であって、
金属ケイ素からなる原料粒子材料を酸化炎中に投入するか、又は二酸化ケイ素からなる原料粒子材料を高温雰囲気中に投入するかにより球状シリカ粒子材料を得る球状シリカ粒子形成工程と、
前記球状シリカ粒子材料をアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の存在下、シリカの軟化点未満の温度で加熱することで、二酸化ケイ素全体の質量基準で70%以上を石英結晶化した粗球状結晶性シリカ粒子材料とする石英化工程と、
前記粗球状結晶性シリカ粒子材料を水で洗浄して球状結晶性シリカ粒子材料を得る洗浄工程と、
を有する球状結晶性シリカ粒子材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状結晶性シリカ粒子材料及びその製造方法、球状結晶性シリカ粒子材料含有スラリー、並びに球状結晶性シリカ粒子材料含有樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
石英は、機械的及び化学的特性に優れている。また、熱膨張係数も低く、寸法安定性にも優れている。結晶構造を有することから、熱的特性にも優れている。そのため、石英からなる粒子材料を樹脂中に充填した石英粒子材料含有組成物は、半導体の封止材、アンダーフィル、基板材料などに適した材料である。また、石英粒子材料含有組成物は、石英の透明性と石英の低い複屈折から高品質の光学要素をつくる材料として好ましい。
【0003】
石英粒子材料含有組成物は、流動性が高いことが要求される。そのため含有される石英粒子材料の円形度が高いことが望まれる。円形度が高い石英粒子材料を得る方法の1つとしては、結晶形を問わない二酸化ケイ素からなる球状粒子材料を製造した後に結晶形を石英に変換する方法がある。
【0004】
例えば、金属ケイ素からなる粒子材料を酸化炎中に透過することで酸化させて非晶質シリカからなる球状シリカ粒子材料を得た後、加熱することで石英にする方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-297914号公報
【特許文献2】特開2006-306691号公報(請求項4など)
【特許文献3】WO2018-186308
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chemistry Letters Vol.34, No.1 (2005) Preparation of Spherical Particles with Quartz Single Crystal
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法では、石英の軟化点以上である1700℃で加熱することで非晶質シリカを石英に変換している。そのため、粒子間で熱融着してしまって粒子状にすることが困難である。軟化変形するため特に円形度が高い石英粒子材料を得ることが困難である。
【0008】
特許文献2では、シリカ多孔体に対して、表面張力が70dyn/cm以下の溶媒に浸漬し、その溶媒をシリカ多孔体の細孔内部に含浸させた後、アルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩0.1~30重量部、ホウ素化合物0.1~20重量部、を溶解させた水溶液に浸漬し、細孔内部に含浸させた溶媒をその水溶液に置換させ、600℃~1200℃で焼成し、その後常温まで冷却することで、シリカ粒体を製造する方法が開示されている。この方法では多孔体の細孔内部に不純物になり得るアルカリ金属塩などを含む水溶液を含浸させるために不純物が少ない粒子材料を得ることが困難である。
【0009】
特許文献3の方法では得られた結晶性シリカ中にクリストバライト相が一定量含まれている。クリストバライト相は220℃付近でα-β相転移が起こり、相転移に伴う急激な膨張が起こる。この急激な膨張は封止材において樹脂とチップまたは基板との剥離を引き起こしてしまうため、クリストバライト相の含有率は低いほうが好ましい。
【0010】
文献1の方法では湿式合成したシリカを原料として石英を作製している。湿式により合成したシリカは粒度分布のCV値が0.15%以下であり、単分散である。フィラーの粒度分布のCV値が0.15%以下であると樹脂への充填性が悪いと言われている。
【0011】
また、湿式合成により合成したシリカは数%程度水分を含んでいる。フィラーに水分が多く含まれていると、封止工程でのリフロー時に水分の気化により半導体パッケージにクラックを引き起こす恐れがある。これらのことから、広い粒度分布を有しており、水分が少ないことが好ましい。
【0012】
本発明は、球状で有り不純物が少ない球状結晶性シリカ粒子材料及びその製造方法、球状結晶性シリカ粒子材料含有スラリー、並びに球状結晶性シリカ粒子材料含有樹脂組成物を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の球状結晶性シリカ粒子材料は、全体の質量を基準として石英結晶が70%以上、クリストバライト結晶が1%以下、真比重が2.53g/cm3以上である。
【0014】
上記課題を解決する本発明の球状結晶性シリカ粒子材料の製造方法は、本発明の球状結晶性シリカ粒子材料を製造する方法であって、金属ケイ素からなる原料粒子材料を酸化炎中に投入するか、又は二酸化ケイ素からなる原料粒子材料を高温雰囲気中に投入するかにより球状シリカ粒子材料を得る球状シリカ粒子形成工程と、前記球状シリカ粒子材料をアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の存在下、シリカの軟化点未満の温度で加熱することで、二酸化ケイ素全体の質量基準で70%以上を石英結晶にした粗球状結晶性シリカ粒子材料とする石英化工程と、前記粗球状結晶性シリカ粒子材料を水で洗浄して球状結晶性シリカ粒子材料を得る洗浄工程とを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の球状結晶性シリカ粒子材料は、石英を主成分とし、球状であって不純物が少ない粒子材料である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例の試験例3のSEM写真、XRDスペクトル、粒度分布を示した図である。
【
図2】実施例の試験例4のSEM写真、XRDスペクトルを示した図である。
【
図3】実施例の試験例5のSEM写真、XRDスペクトルを示した図である。
【
図4】実施例の試験例9のSEM写真、XRDスペクトル、粒度分布を示した図である。
【
図5】比較例のSEM写真、XRDスペクトル、粒度分布を示した図である。
【
図6】試験例10-17のIRスペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の球状結晶性シリカ粒子材料及びその製造方法、その球状結晶性シリカ粒子材料を含有するスラリー及び樹脂組成物について以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。なお、本明細書において記載されている数値は、その数値を含んでいても、又は含んでいなくても良い、数値範囲の上限値や下限値として任意に使用可能である。
【0018】
(球状結晶性シリカ粒子材料)
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料は、全体の質量を基準として石英結晶が70%以上かつ真比重が2.53g/cm3以上である。本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料は、組成式SiO2を主成分としている。組成式SiO2以外の組成式をもつ結晶を含有したり、石英結晶中に他の原子が混入していても良い。組成式SiO2以外の組成(不純物)は、全体の質量を基準として3%以下の範囲で含有することができる。不純物の上限値は、2%、1%、0.5%、0.1%とすることができる。特にアルカリ金属の含有量が少ないことが好ましい。例えばアルカリ金属は、4000ppm以下、2000ppm以下、1500ppm以下であることが好ましい。
【0019】
石英結晶の割合(石英化率)は、X線回折装置(XRD)にて得られた回折ピークを、標準試料と比較することで算出した。具体的には、(石英化率)=(測定試料の26.6°付近のピークの積分強度)/(標準試料の26.6°付近のピークの積分強度)×100 として石英化率を測定・算出した。標準試料は、遊離けい酸分析用石英(公益社団法人日本作業環境測定協会:X線回折法用)を用いた。石英結晶の割合の下限値としては、70%、75%、80%から任意の値を採用できる。
【0020】
クリストバライト結晶の割合(クリストバライト化率)はX線回折装置(XRD)にて得られた回折ピークを、標準試料と比較することで算出した。具体的には、(クリストバライト化率)=(測定試料の21.9°付近のピークの積分強度)/(標準試料の21.9°付近のピークの積分強度)×100として石英化率を測定・算出した。標準試料は、遊離けい酸分析用クリストバライト(公益社団法人日本作業環境測定協会:X線回折法用)を用いた。クリストバライト化率は、1%以下であり、上限値が0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0%とすることができる。石英結晶とクリストバライト相以外に含まれる結晶としては特に限定しないが、トリディマイト相、キータイト相が例示できる。
【0021】
真比重の値は、ヘリウムを用いた乾式自動密度計を用いて測定した。試料室の測定条件は、25℃、0.13MPa(ゲージ圧)とした。真比重の値の下限値としては、2.60g/cm3、2.58g/cm3、2.55g/cm3、2.53g/cm3から任意の値を採用できる。
【0022】
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料は、平均粒子径(D50)が0.1μm以上、10μm以下であることが好ましい。特に平均粒子径の下限値としては、0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.5μmが例示でき、上限値としては、10μm、3μm、1μmが例示でき、それらの下限値と上限値とを任意に組み合わせることが可能である。D50は、レーザー回折・散乱法により測定する。
【0023】
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料は、樹脂への添加量が多いほど、樹脂組成物の放熱特性が良くなる。より多くの粒子を樹脂へ添加をするためには、最密充填の考えから、粒度分布のCV値が高いほうが好ましく、CV値が大きすぎると粗大粒子の量が多くなり、ギャップが狭いアンダーフィルなどに用いた際にギャップ内への入性や充填性が低下するため粒度分布のCV値が低いほうが好ましい。CV値はレーザー回折・散乱法により測定した粒度分布から下記の式で算出した。CV値は、上限値が75%、70%、65%、60%が例示でき、下限値が0.2%、1%、10%、30%が例示できる。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせ可能である。
【0024】
CV値(%)=標準偏差σ÷平均粒径μ×100
ここで標準偏差σは粒径が対数軸で算出した標準偏差であり、下記式で算出される。
【数1】
【0025】
測定対象となる粒子径範囲(最大粒子径:x
1,最小粒子径:x
n+1)をn分割し、それぞれの粒子径区間を、[x
j,x
j+1](j=1,2,・・・・n)とする。この場合の分割は対数スケール上での等分割とする。対数スケールに基いてそれぞれの粒子径区間での代表粒子径は、
【数2】
で表される。
【0026】
さらにq
j(j=1,2,・・・・n)を、粒子径区間[x
j,x
j+1]に対応する相対粒子量(差分%)とし、全区間の合計を100%とすると。対数スケール上での平均粒径μは、
【数3】
となる。
【0027】
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料は、抽出水の電気伝導度が50μS/cm以下であることが好ましい。抽出水の電気伝導度の測定は、試料3.5gとイオン交換水35mlを50mLの遠沈管に量り取り、混合した。振とう機にて30分振とうしたのちに、遠心分離機にて試料を沈殿させた。採取した上澄み液をECメーターにて測定して得られた値を抽出水の電気伝導度とする。抽出水の電気伝導度の上限値は、45μS/cm、30μS/cm、20μS/cmが例示できる。
【0028】
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料は、水分量が1%以下であることが好ましい。水分量の上限値は、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%が挙げられる。
【0029】
水分量の測定は、25℃から200℃まで加熱したときに生成する水分量をカールフィッシャー法にて測定することで行う。200℃で加熱することにより物理吸着水の量が脱離・測定されている。
【0030】
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料は、円形度が高い方が好ましい。円形度は平均円形度の値で判断し、平均円形度は、0.9以上が好ましく、0.93以上がより好ましく、0.95以上が更に好ましく、0.99以上が特に好ましい。なお、「平均」と記載せずに「円形度が高い」とのみ記載した場合でも複数の粒子が全体として(つまり平均値として)円形度が高いことを意味する場合もある。
【0031】
平均円形度は、無作為に選択された粒子30個について測定した円形度の平均値を採用した。円形度は、SEMで粒子画像を記録し、その粒子の面積と周囲長から、(円形度)=(面積が等しい真円の周囲長)/(粒子の周囲長)で算出した。
【0032】
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料は、下記試験で測定した熱伝導率の値が150以上であることが好ましく、160以上であることがより好ましく、170以上であることが更に好ましく、185以上であることが特に好ましい。熱伝導率の値は、樹脂材料としてアクリル樹脂(PPG社製 CR-39)に対して、本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料を樹脂組成物全体の体積を基準として22%含有するように混練した樹脂組成物に対して硬化剤(BPO)を添加し、95℃で2時間加熱硬化して得られた樹脂硬化物について、ホットディスク法で熱伝導率Aを測定する。本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料を含有しない樹脂硬化物について同様に熱伝導率Bを測定して熱伝導率Aを除して100を掛けることで測定対象の球状結晶性シリカ粒子材料の熱伝導率(=熱伝導率A÷熱伝導率B×100)とする。
【0033】
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料は、表面処理されたものでも良い。表面処理としては特に限定しないが、化学結合により表面に結合されるものであったり、吸着などにより表面に付着しているものであったりするものが採用できる。球状結晶性シリカ粒子材料は、SiOH構造を表面に有することが多く、そのOH基に化学的に結合可能な化合物、例えばシラン化合物により表面処理されたものが例示できる。シラン化合物としては、SiH構造をもつもの、SiOH構造やSiOR構造(Rはアルキル基)をもつ有機ケイ素化合物が好ましい。更に、Si原子には直接又は他の化学構造を介して有機官能基が結合しているものが好ましい。有機官能基としては、フェニル基、エポキシ基、アミノ基、フェニルアミノ基、ビニル基、メトキシ基、アクリル基、イソシアネート基、シリコーン(ポリシロキサン構造)が例示できる。表面処理剤の量としては、球状結晶性シリカ粒子材料の表面に存在するSiOHなどの表面処理剤と反応可能な官能基の数を100としたときに表面処理剤の反応可能な官能基の数(表面処理剤数)が50~200程度で設定可能である。表面処理剤数が100であると球状結晶性シリカ粒子材料の表面に存在する反応可能な官能基のほぼ全てに対して表面処理剤を反応させることが可能である。
【0034】
表面処理を行うことで球状結晶性シリカ粒子材料の屈折率を制御することができる。例えば、球状結晶性シリカ粒子材料を樹脂材料中に分散させた樹脂組成物を製造した際に、表面処理剤の種類及び処理量を制御して、樹脂材料の屈折率に近い屈折率をもつようにすることで、得られた樹脂組成物の光学的特性(特にヘイズ)が向上できる。
【0035】
(球状結晶性シリカ粒子材料の製造方法)
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料の製造方法は、本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料を製造する方法であり、非晶質の球状シリカを製造する球状シリカ粒子形成工程と、球状シリカ粒子を石英結晶化して粗球状結晶性シリカ粒子材料を製造する石英化工程と、粗球状結晶性シリカ粒子材料を洗浄して球状結晶性シリカ粒子材料を得る洗浄工程とを有する。
【0036】
球状シリカ粒子形成工程は、いわゆるVMC法や溶融法と称される方法により非晶質の球状シリカを製造する工程である。VMC法は、金属ケイ素からなる原料粒子材料を酸化炎中に投入することで爆発的に燃焼させた後、急冷することで非晶質の球状シリカを得る方法である。溶融法は、二酸化ケイ素からなる原料粒子材料を高温雰囲気中に投入することで原料粒子材料が溶融し、その後急冷することで非晶質の球状シリカを得る方法である。何れの工程でも非晶質の球状シリカを得ることができる。得られた球状シリカ粒子の粒子径が、製造される球状結晶性シリカ粒子材料の粒子径と相関するため必要な大きさの球状シリカ粒子を製造するか、球状シリカ粒子を製造後に分級により必要な粒度分布とすることができる。VMC法により得られる球状シリカ粒子の粒度分布を調整する方法としては、原料粒子材料の粒度分布を制御したり、原料粒子材料を酸化炎中に投入する条件を制御したりすることで可能である。ここで、用いられる原料粒子材料は純度が高いものが好ましい。例えば、シリカ以外の不純物が2000ppm以下であることが好ましい。
【0037】
石英化工程は、球状シリカ粒子をアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の存在下で加熱する工程である。アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが例示され、特にリチウム塩が好ましい。リチウム塩としては、リチウムの有機酸塩、特に酢酸リチウムが好ましい。アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩の添加量の下限値は、球状シリカ粒子の質量を基準として、0.05質量%、0.1質量%、0.2質量%程度が好ましく、上限値としては、5質量%、3質量%、2質量%、1質量%程度が好ましい。これらの上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。下限値以上にすることで石英化を促進する十分な効果を得ることができ、上限値以下にすることで粒子の融着の抑制および洗浄工程の生産効率を向上させることができる。
【0038】
アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩は、球状シリカ粒子の表面に存在するようにして加熱することが好ましい。具体的には、使用するアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を適正な溶媒(例えば水)に溶解させた溶液とし、その溶液中に球状シリカ粒子を浸漬した後、溶媒を除去することで行うことができる。溶媒の除去は、加熱により行ったり、減圧により行ったり、両者の組み合わせにより行ったりできる。
【0039】
加熱温度は、シリカの軟化点未満の温度である。加熱温度の下限値としては、700℃、750℃、800℃が例示でき、上限値としては、950℃、900℃、850℃が例示できる。これらの上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。下限値以上にすることで石英化を十分に進行させることができ、上限値以下にすることで粒子の融着の抑制および石英相を選択的に生成させることができる。
【0040】
加熱時間は、二酸化ケイ素全体の質量基準で70%以上を石英結晶化した粗球状結晶性シリカ粒子材料になるまで行う。例えば、下限値としては、1時間、3時間、5時間が例示でき、上限値としては、96時間、72時間、48時間が例示できる。これらの上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。下限値以上にすることで石英化を十分に進行させることができ、上限値以下にすることで粒子の融着の抑制および生産効率を向上させることができる。
【0041】
洗浄工程は、粗球状結晶性シリカ粒子材料を純水で洗浄する工程である。洗浄方法としては、粗球状結晶性シリカ粒子材料を純水中に浸漬する方法、粗球状結晶性シリカ粒子材料中に純水を通過させる方法などがあり、浸漬する方法は、浸漬しながら震とうや撹拌を行うこともできる。洗浄時間は特に限定しないが、石英化工程で用いたアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を十分に除去できる長さにする。例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の量が2000ppm以下になるまで行うことが好ましく、1500ppm以下になるまで行うことが更に好ましい。具体的には、洗浄時間の下限値としては、30分、45分、60分が例示できる。
【0042】
洗浄に用いる純水としては、常温でも良いし、加熱しても良い。加熱する場合には、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上などにすることができる。純水としては、イオン交換水を採用することが好ましい。純水の量の下限値としては、粗球状結晶性シリカ粒子材料の質量を基準として、20倍量、25倍量、30倍量を採用でき、上限値としては、80倍量、70倍量、60倍量を採用できる。
【0043】
下限値以上にすることで抽出水の電気伝導度を十分低減することができ、上限値以下にすることで純水除去工程での生産効率を向上することができる。
【0044】
純水で洗浄後、適正な方法により純水を除去する。純水の除去方法としては、濾過、遠心分離などにより行うことができる。洗浄は複数回行うこともできる。純水を除去した後、適正な方法により乾燥することで本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料を得ることができる。得られた球状結晶性シリカ粒子材料は、凝集している場合もあり、解砕工程により球状結晶性シリカ粒子材料を一次粒子にまで解砕することが好ましい。
【0045】
その他の工程として表面処理剤で表面処理を行う表面処理工程を有することができる。表面処理工程は、球状シリカ粒子形成工程以後に行うことができ、特に石英化工程後に行うことが好ましい。特に洗浄工程の前後や洗浄工程中に行うことが好ましい。
【0046】
表面処理工程は、アルコールや水などの適正な溶媒中に表面処理剤を溶解させた溶液を表面処理対象物の表面に接触させたり、液体状又は気体状の表面処理剤を表面処理対象物の表面に接触させたりすることができる。洗浄工程中に行う場合には、洗浄に用いる純水中に表面処理剤を含有させた状態でも洗浄を行うことができる。表面処理を行う際や行った後には加熱して反応を促進することもできる。表面処理剤の反応後に行う加熱は、100℃以上が好ましく、120℃以上が更に好ましい。
【0047】
(球状結晶性シリカ粒子材料含有スラリー及び樹脂組成物)
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料含有スラリーは、上述した本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料と、その球状結晶性シリカ粒子材料を分散する溶媒とを有する。溶媒としては、特に限定しないが、メタノール、エタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンなどのアルカンやシクロアルカン、水などが挙げられる。球状結晶性シリカ粒子材料は、混合する溶媒との親和性を考慮して表面処理を行うこともできる。
【0048】
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料含有スラリーは、球状結晶性シリカ粒子材料を何らかの材料中に混合する際に用いたり、それ自身で用いたりできる材料である。特に球状結晶性シリカ粒子材料の含有量を向上することが好ましい。例えば、球状結晶性シリカ粒子材料の含有量は、本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料含有スラリー全体の体積を基準として30%~80%程度にすることが好ましい。特に含有量の下限値は、40%、45%、50%程度にすることができる。
【0049】
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料含有樹脂組成物は、本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料と、その球状結晶性シリカ粒子材料を分散する樹脂材料とを有する。樹脂材料としては特に限定しないが、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ウレア樹脂などの公知の樹脂材料を採用することができる。組み合わせる樹脂材料に合わせて球状結晶性シリカ粒子材料に表面処理を行うことが好ましい。特に樹脂材料に対して親和性や反応性があるような官能基を球状結晶性シリカ粒子材料の表面に導入することが好ましい。
【0050】
樹脂材料としては、重合反応前の単量体及び前駆体や、ある程度の重合を行ったプレポリマーなどであって液体状のものも含む概念である。液体状の樹脂材料を用いて樹脂組成物を調製後、樹脂材料を重合して硬化させることも可能であり、その場合には硬化前後のいずれも本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料含有樹脂組成物に該当する。
【0051】
本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料含有樹脂組成物は、半導体の封止材、アンダーフィル、基板材料、光学材料などに用いることができる。特に球状結晶性シリカ粒子材料の含有量を向上することが好ましい。例えば、球状結晶性シリカ粒子材料の含有量は、本実施形態の球状結晶性シリカ粒子材料含有樹脂組成物全体の体積を基準として10%~85%程度にすることが好ましい。特に含有量の下限値は、10%、15%、20%程度にすることができる。
【実施例0052】
本発明の球状結晶性シリカ粒子材料について実施例に基づき以下詳細に説明を行う。
【0053】
・試料の調製
(試験例1)
非晶質シリカ粒子(アドマテックス製アドマファインSO-C1:VMC法:平均粒子径0.3μm)1500gとイオン交換水3500gと酢酸リチウム68g(シリカに対してLiが4600ppm)をよく混合してスラリーとした。得られたスラリーを乾燥機にいれ、120℃で12時間乾燥させた。
【0054】
乾燥物を800℃で12時間焼成した(石英化工程)。得られた焼成物を解砕し、解砕後のフィラー350gとイオン交換水1000gをよく混合した後に、120時間静置し、上澄み溶液を回収した。回収した上澄み溶液を乾燥機に入れ、120℃で12時間乾燥させた。得られた乾燥物を解砕することで試験例1のサンプルを得た。
【0055】
(試験例2)
非晶質シリカ粒子(アドマテックス製アドマファインSO-C1:VMC法:平均粒子径0.3μm)1500gとイオン交換水3500gと酢酸リチウム68g(シリカに対してLiが4600ppm)を混合した。得られたスラリーを乾燥機にいれ、120℃で12時間乾燥させた。
【0056】
乾燥物を800℃で12時間焼成した(石英化工程)。得られた焼成物を解砕し、解砕後のフィラー350gとイオン交換水3500gを加熱攪拌タンクにて、液温を60℃以上に保った状態で30分間攪拌を行った。固液分離することで洗浄後のケーキサンプルを得た。洗浄後のケーキサンプル350gとイオン交換水1000gを混合したのちに、120時間静置し、上澄み溶液を回収した。回収した上澄み溶液を乾燥機に入れ、120℃で12時間乾燥させた。得られた乾燥物を解砕することで試験例2のサンプルを得た。
【0057】
(試験例3)
非晶質シリカ粒子(アドマテックス製アドマファインSO-C1:VMC法:平均粒子径0.3μm)1500gとイオン交換水3500gと酢酸リチウム68g(シリカに対してLiが4600ppm)を混合した。得られたスラリーを乾燥機にいれ、120℃で12時間乾燥させた。
【0058】
乾燥物を800℃で12時間焼成した(石英化工程)。得られた焼成物を解砕し、解砕後のフィラー350gとイオン交換水7000gを加熱攪拌タンクにて、液温を60℃以上に保った状態で30分間攪拌を行った。固液分離することで洗浄後のケーキサンプルを得た。洗浄後のケーキサンプル350gとイオン交換水1000gを混合したのちに、120時間静置し、上澄み溶液を回収した。回収した上澄み溶液を乾燥機に入れ、120℃で12時間乾燥させた。得られた乾燥物を解砕することで試験例3のサンプルを得た。
【0059】
(試験例4)
非晶質シリカ粒子(アドマテックス製アドマファイン:SO-C1:VMC法:平均粒子径0.3μm)1500gとイオン交換水3500gと酢酸リチウム68g(シリカに対してLiが4600ppm)を混合した。得られたスラリーを乾燥機にいれ、120℃で12時間乾燥させた。乾燥物を1000℃で5時間焼成した。得られた焼成物を解砕することで試験例4のサンプルを得た。
【0060】
(試験例5)
非晶質シリカ粒子(アドマテックス製アドマファイン:SO-C1:VMC法:平均粒子径0.3μm)1500gとイオン交換水3500gと酢酸リチウム68g(シリカに対してLiが4600ppm)を混合した。得られたスラリーを乾燥機にいれ、120℃で12時間乾燥させた。乾燥物を675℃で5時間焼成した。得られた焼成物を解砕することで試験例5のサンプルを得た。
【0061】
(試験例6)
非晶質シリカ粒子(アドマテックス製アドマファイン:SO-C1:VMC法:平均粒子径0.3μm)1500gとイオン交換水3500gと酢酸リチウム44g(シリカに対してLiが3000ppm)を混合した。得られたスラリーを乾燥機にいれ、120℃で12時間乾燥させた。乾燥物を800℃で5時間焼成した。得られた焼成物を解砕することで試験例6のサンプルを得た。
【0062】
(試験例7)
非晶質シリカ粒子(アドマテックス製アドマファイン:SO-C1:VMC法:平均粒子径0.3μm)1500gとイオン交換水3500gと酢酸リチウム72g(シリカに対してLi10000ppm)を混合した。得られたスラリーを乾燥機にいれ、120℃で12時間乾燥させた。乾燥物を800℃で12時間焼成した。得られた焼成物を解砕することで試験例7のサンプルを得た。
【0063】
(試験例8)
非晶質シリカ粒子(アドマテックス製アドマファイン:SO-C6:VMC法:平均粒子径2.0μm)1500gとイオン交換水3500gと酢酸リチウム33g(シリカに対してLi2300ppm)を混合した。得られたスラリーを乾燥機にいれ、120℃で12時間乾燥させた。乾燥物を900℃で12時間焼成した。得られた焼成物を解砕することで試験例8のサンプルを得た。
【0064】
(試験例9)
非晶質シリカ粒子(アドマテックス製アドマファイン:SO-C6:VMC法:平均粒子径2.0μm)1500gとイオン交換水3500gと酢酸リチウム33g(シリカに対してLiが2300ppm)を混合した。得られたスラリーを乾燥機にいれ、120℃で12時間乾燥させた。乾燥物を800℃で12時間焼成した。得られた焼成物を解砕した。解砕後のフィラー350gとイオン交換水7000gを加熱攪拌タンクにて、液温を60℃以上に保った状態で30分間攪拌を行った。固液分離することで洗浄後のケーキサンプルを得た。洗浄後のケーキサンプルを乾燥機に入れ、120℃で12時間乾燥させた。得られた乾燥物を解砕することで試験例9のサンプルを得た。
【0065】
(比較例)
非晶質シリカ粒子(アドマテックス製アドマファイン:SO-C1:VMC法:平均粒子径0.3μm)を比較例のサンプルとした。
【0066】
・評価
試験例1~9及び比較例のサンプルについて平均円形度、抽出水の電気伝導度、Li含有量、屈折率、透過率、熱伝導率を測定した。Li含有量は、SPECTRO社のSPECTRO ARCOS EOP を使用し、シリカを硝酸-フッ酸混合液に溶解させた溶液を加熱濃縮後、イオン交換水で希釈して測定した。屈折率の測定は、複数の屈折率をもつ溶媒中にサンプルを浸漬し、透明になった溶媒の屈折率をサンプルの屈折率とした。透過率の測定は、サンプルと同じ屈折率をもつ溶媒中に3質量体積%の濃度でサンプルを分散させた分散液について波長589nmの光線を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0067】
また、試験例3(
図1)、試験例4(
図2)、試験例5(
図3)、試験例9(
図4)、比較例(
図5)についてSEM写真及びXRDスペクトルを示す。試験例3、9、及び比較例については粒度分布も併せて示す。
【0068】
【0069】
試験例1~3および7は、石英化率が高いために、比較例よりも熱伝導率が高いことが分かった。また、試験例1~3は、比較例と粒子径がほぼ同じであり、石英化工程による粒子径の変化はほぼ無視できることが分かった。
図1より明らかなように、試験例3の粒子材料の円形度が高いことが分かった。試験例1及び2についての試験例3と同様であった。
【0070】
試験例2、3は、試験例1に加えて、純水中での洗浄を行った結果、抽出水の電気伝導度が比較例と同等の大幅に低い値を示しており、抽出水の電気伝導度を低下させるには純水中での洗浄が効果的であることが分かった。純水の量が多いほど抽出水の電気伝導度を低下させる効果が高いことが分かった。
【0071】
試験例4では、石英化工程での温度が1000℃にしたことで粒子間での融着が進行し、かつクリストバライト相が生成した(
図2)。石英化工程に供する際のLi添加量や、粒子径、加熱時間などの組み合わせによっては1000℃よりも低い温度で石英化工程を行うことが好ましいことが分かった。
【0072】
試験例5では、石英化工程での温度が675℃にしたことで石英化率が56%と70%以上に到達できなかった。従って、石英化工程に供する際のLi添加量や、粒子径、加熱時間などの組み合わせによっては675℃よりも高い温度で石英化工程を行うことが好ましいことが分かった。
図3より明らかなように、石英化の程度が低いため、円形度は高いままであった。
【0073】
試験例6では、Liの添加量を3000ppmにしたことで石英化率72%と試験例1と比べて石英化率が低くなった。Liの添加量を少なくすることで石英化率が低くなることが分かった。石英化工程を行う温度を高くしたり、時間を長くしたり、粒子径を小さくしたりすることにより石英化率を向上できる可能性がある。
【0074】
試験例7では、Liの添加量を10000ppmにしたことで石英化率が90%と70%以上に到達した。しかし円形度が0.90と試験例1と比べて低下した。Liの添加量を多くすることで粒子同士の融着が進行し、円形度が低下することが分かった。石英化工程を行う温度を低くしたり、時間を短くしたり、粒子径を大きくしたりすることにより融着を抑制できる可能性がある。
【0075】
試験例8及び9の結果から、試験例1~3と同様に、洗浄工程を行う試験例9は抽出水の電気伝導度を大幅に低下できることが分かった。また、
図4より明らかなように、高い石英化率を示すことと高い円形度を保っていることが分かった。 試験例1及び3のサンプルについて、それぞれ所定の表面処理剤にて表面処理を行った。具体的には、試験例1のサンプルを用いたものとして、試験例10がサンプルそのまま、試験例11がトリメチルシランで表面処理、試験例12がフェニルアミノシランで表面処理、試験例13がビニルシランで表面処理し、試験例3のサンプルを用いたものとして、試験例14がサンプルそのまま、試験例15がトリメチルシランで表面処理、試験例16がフェニルアミノシランで表面処理、試験例17がビニルシランで表面処理したものとした。表面処理をしたものについては、サンプル40gに対して表面処理剤0.4gを反応させた。表面処理剤による反応は、サンプルを撹拌しながら表面処理剤を投入した後、25℃で8時間保持して反応を完了させた。
【0076】
各試験例のサンプルについて、炭素量、表面のシラノール基の有無、エポキシ樹脂(ZX1059)中に分散させた樹脂組成物の粘度、Li含有量をそれぞれ測定した。炭素量は、カーボンアナライザーを用いて、試料に含まれるC量を測定した。表面のシラノール基の有無は、フーリエ変換赤外分光分析装置を用いて3740cm-1付近のピークの有無を測定し、ピークが存在するときに表面のシラノール基が存在すると判断した。粘度測定は、サンプル12gとエポキシ樹脂(ZX1059)8gを混合し、レオメーター(ARES-G2、TA Instruments製)を用いて粘度測定を行った。粘度の測定条件としては、25℃、シェアレート5(1/s)とした。試験例10の粘度の値を1として換算した値を採用した。結果を表2に示す。
【0077】
【0078】
表より明らかなように、洗浄を行っていない試験例1の試料を用いた試験例10~13と、洗浄を行ったこと以外は試験例1の試料と同等の試験例3の試料を用いた試験例14~17とについて、対応する表面処理を行ったもの同士を比較した結果、洗浄を行うことで抽出水の電気伝導度が低くなるばかりか、粘度も低下することが分かった。
【0079】
また、洗浄の有無に関わらず、表面処理を行うことで粘度を低下することができることが分かった。
【0080】
試験例10~17の試料について、フーリエ変換赤外分光分析装置を用いたIRスペクトルを測定した結果を
図6に示す。このようなスペクトルの3750cm
-1、3740cm
-1、3720cm
-1の吸光度の値から、吸光度比=(3740cm
-1の吸光度)/{(3750cm
-1の吸光度+3720cm
-1の吸光度)/2}を算出した。その吸光度比が1.1以上のときにシラノピークがあると判断した。