(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067702
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】歯科用ハンドピースに用いるリーマ、リーマの製造方法及びこのリーマを備えた歯科用ハンドピース
(51)【国際特許分類】
A61C 5/42 20170101AFI20230509BHJP
【FI】
A61C5/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022047552
(22)【出願日】2022-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2021191577
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504230246
【氏名又は名称】鈴木 計芳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 計芳
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA16
4C052DD02
4C052DD10
(57)【要約】
【課題】 歯根を積極的に掘ったり穿通したりしようとする治療を行おうとする場合には、従来のファイルでは力不足である。そこで歯根を積極的に掘ったり穿通したりすることが出来るような専用の治療具やその製造方法を提供する。
【解決手段】
リーマ100は歯科用ハンドピースに挿着するための挿着部101とこれにインサート成型された針部102とから成る。針部102には全長が25mm、先端径が0.25mm、テーパー角が2/100のステンレス合金製のものを用いて(S1)、断面が円形の針部102の先端部103をプレス加工して平らに成形することにより平らな部分の両端部に突起104が形成される(S2)。すなわち計2個の突起104が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーマの針部の先端部に複数の突起が形成されていることを特徴とする、歯科用ハンドピースに用いるリーマ。
【請求項2】
針部の先端部の4回対称の位置に4つの突起が形成されている、請求項1に記載の歯科用ハンドピースに用いるリーマ。
【請求項3】
針部の周囲に滑性の良いメッキが施されている、請求項1に記載の歯科用ハンドピースに用いるリーマ。
【請求項4】
前記メッキがカーボンコーティングまたはDLC(Diamond-Like Carbon)コーティングによるものである、請求項3に記載の歯科用ハンドピースに用いるリーマ。
【請求項5】
リーマの針部の先端部に円盤状回転刃にて切れ目を入れることによって前記突起を設ける、歯科用ハンドピースに用いるリーマの製造方法。
【請求項6】
リーマの針部の先端部の角部に旋盤にて谷部を作ることにより前記突起を設ける、歯科用ハンドピースに用いるリーマの製造方法。
【請求項7】
リーマの針部の先端部にレーザー彫刻機にて切れ目を入れることにより前記突起を設ける、歯科用ハンドピースに用いるリーマの製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のリーマを備えた歯科用ハンドピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯科用ハンドピースに取り付けて、歯根の穿通等の治療に用いるリーマに関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科医師が患者の虫歯の根の壁面をこそぎ取ったり、根の先に詰まっている膿の塊や、以前の治療の跡である充填材を取り去ったり、神経を抜いたりするなどの根管等の治療を行うに当たり、ファイルやリーマを用いるのが一般的である。リーマはリーミング(広げる)からファイルはファイリング(やする)から名付けられたものである。これ等は用途やサイズによって柄に色分けが為されたり記号や数字が記載されたりしている。またこれ等は根管内に挿入される針部とその後部の把持部とから成り、針部はステンレススチールやニッケルチタンなどの金属素材による細長い金属板を捻り加工して成るものが一般的である。
【0003】
上述したような歯の神経の治療方法については下記インターネットサイトの記事が分かりやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】インターネットWWWサイト<URL:http://mushiba-labo.com/?p=10133>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さてリーマは歯の根管をリーミング(広げる)するものであり、ファイルは歯の根管をファイリング(やする)するものである。しかしながら根管の壁面を広げたりやすったりする治療だけでなく、もっと歯根を積極的に掘ったり穿通したりしようとする治療を行おうとする場合には、上記では力不足であることが分かった。
【0006】
そこでこの発明は、上述したような問題を解決して、歯根を積極的に掘ったり穿通したりすることが出来るような専用の治療具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決に先立ち当発明者は次のような問題に気が付いた。すなわち根管の形状は患者個々人により、また同一患者であっても個々の歯によって異なるものである。根管は一般的に直線状ではなくて先方が曲がっていたりする。このため上記リーマやファイルは根管の壁面に作用を及ぼすのであるが、逆に上記の課題を解決するためには根管の壁面に作用を及ぼすことが少ないとしても、根管の先端部分には十分な作用を及ぼすことことが出来るようなものでなくてはならない。そうでないと根管の曲がっている箇所の壁面に対して往復運動による打撃を加え続けることになったりするからである。歯根を掘ったり穿通したりする治療がより確かにより手早く行えることは、患者にとっても歯科医師にとっても、疲労が少なく安楽なものとなり、また長期に亘って安定した治療が行えることは治療費の抑制にも寄与するはずである。
【0008】
そこで針部とその後部の把持部(指先で持つことも可能ではあるが歯科用ハンドピースに取り付ける部位となるもの)とから成るリーマを改良しようと言うことにした。ここでリーマと称する理由は、歯根を掘ったり穿通したりするすなわち歯根を一種リーミング(広げる)するためのものだからである。しかしながらこの発明を穿通ファイルと称しても問題はない。
【0009】
さて上記の課題は、リーマの針部の先端部に複数の突起が形成されていることを特徴とする歯科用ハンドピースに用いるリーマを提供することによって達成される。これまでのリーマやファイルでは針部のテーパー角は一般的に2度である。この発明のリーマの針部でもこれを踏襲すれば良いが、必ずしもこれに拘るものではない。この発明に特徴的なことは、針部の周囲が例えば縫い針のように滑らかに形成されている点と、針部の先端部に複数の突起が形成されている点とである。
【0010】
針部の周囲が滑らかに形成されているため、根管の曲がっている箇所に沿って屈曲する場合に根管の壁面に作用を及ぼすことが少ないと言う利点がある。針部は滑らかに根管を往復動して、その先端部にある複数の突起で歯根を掘ったり穿通したりする治療を行える利点がある。これまでのリーマやファイルの針の先端部は、この発明の複数の突起のような構造を有していなかった。
【0011】
ところで従来のファイルの針に関しては、次のような問題点を有していることに当発明者は気付いていた。ファイルを歯科用ハンドピースに装着して用いる場合、ハンドピースは筐体と、該筐体に往復動自在に設けられた歯の切削用のファイルの着脱部と、前記筐体に収められ前記着脱部にマイクロモータの高速回転を往復運動に変えて与えることによりファイルを往復動させる往復動発生部とから成るものが一般的である。このような歯科用ハンドピースに装着するファイルの規格として、針部の先端部分の直径に付いては例えば規格品の#25であれば1/100の0.25mm、ここから16mm後方の直径はテーパーが2/100であることから0.57mmとなる。
【0012】
当発明者は、このような形状のファイルを歯科用ハンドピースに装着して用いる場合、ファイルが高速で往復動を行う際にファイルの針部の先端部分に撓り過ぎが発生して根管壁をやする力が弱まる場合があることを見出していた。先端部分が撓り過ぎてしまうと、根管拡大の効率が下がったり感染象牙質やガッタパーチャの取り残しなどの不都合が生じるのである。上掲例の#25での撓り過ぎる部分を注意深く観察してみると、先端部分からおよそ3mm分であった。
【0013】
従来のファイルの針部の撓り過ぎは針部の跳ねや振動に繋がるため、この発明のリーマに於いても、針部の先端部の複数の突起へ集中されるべき歯科用ハンドピースからの力が殺がれてしまう場合があると考えるのであれば、次のような解決策を提供することが出来る。すなわちテーパー角を大凡2度とした針部に付き、その先端部からおおよそ3mm分が切断されて新たな先端部が形成されおり、この新たな先端部に複数の突起が形成されているリーマとした。針部のテーパー角に付いては、これまでのリーマやファイルが一般的に針部のテーパー角を2度としている点を踏襲すれば良いが、必ずしもこの角度に拘るものではない。
【0014】
なおファイル先端部分の撓り過ぎを抑制するために2/100の規定角度を守りつつ、当初より撓り過ぎとなるであろう部分を除いた短いサイズの針部を作るのでも良い。すなわち初めから先端部分の直径が0.31mmのものを作れば良い。このような先端部分に複数の突起を形成するのである。
【0015】
この発明の構成によれば、不思議なことではあるが、針部の全体として根管を進むのに必要な撓りがあるも撓り過ぎる部分のないリーマを得ることが出来た。こうして撓り過ぎが無くなり、歯根を掘ったり穿通したりする力を削ぐことが少なくなり、歯根を掘ったり穿通したりする効率が上がっている。
【0016】
さて上述の請求項1の発明に付き、針部の先端部の4回対称の位置に4つの突起が形成されているものとすることが出来る。突起は2回対称、3回対称、4回対称、5回対称などと言うように、回転対称に設けられていることが好ましいが、余り数を多くしても先端部の加工が難しくなる。そこで後述する実施例では、2回対称のもの、3回対称のもの、4回対称のものを取り上げている。
【0017】
突起の製造方法に付いて、リーマの針部の先端部に、針部の軸に直交する面を形成して置いて、この円状の面の角部の4回対称の位置に、例えば自動旋盤による微細切削加工で谷部を削り出して焼き入れをして4つの突起を形成する方法を上げる。クラウン加工や多スリ割り加工などとしても良い。谷部の間は山部であるが、更にここに同心円状に段部を形成するなどしても良い。また上記円状の面に対して、切断抵抗を小さくすべく回転する刃具に超音波振動を与える種のカッターを用いて、円状の面を横断する1本のスリット(切れ目)を入れることにより2回対称の2つの突起を形成する方法を上げる。切れ目を入れた所が谷部となり切れ目の間が山部すなわち突起となる。削り出した部分にメッキを施す工程を加えるようにしても良い。
【0018】
また突起の製造方法に付いて、リーマの針部の先端部に、例えばレーザー彫刻機により針部を横断する1本のスリット(切れ目)を入れて2回対称の2つの突起を形成する方法を上げる。また上述のような円状の面を設けてからレーザー彫刻を施すようにすることが出来る。レーザー彫刻機によれば微細な彫刻が可能であるから奇数である3回対称、切れ目が十文字である4回対称となるような、より細かな突起を形成することが可能である。
【0019】
次に、針部の周囲に滑性の良いメッキを施すようにすることが出来る。直線状とは限らない形状の根管内にあって、針部の側面部の根管の壁面に及ぼす作用をより小さなものにすることが可能である。
【0020】
このメッキをカーボンコーティングまたはDLC(Diamond-Like Carbon)コーティングとすることが出来る。カーボンをコーティングすることによって針部の表面の周囲により良い滑性を付与することが出来る。ダイヤモンドライクカーボンとはダイヤモンドと黒鉛との中間的な物性を持つ非晶質の硬質炭素であり、このコーティングによって金属表面にナノレベルの薄膜を形成することが出来る。コストは幾分高くはなるが、根管を往復動するのに都合の良い低摩耗係数の表面すなわち潤滑性の高い金属表面を得ることが出来る。
【0021】
さてこの発明のリーマは歯科用ハンドピースにより駆動されるが、歯科用ハンドピースがこの発明のリーマを着脱出来るように構成すると良い。リーマは歯科用ハンドピースに備え付けとされていても良いが、歯科用ハンドピースのヘッドごと洗浄するのはある意味大変なことである。そこでリーマを付け替えて使用することを可能にすれば、衛生的にも非常に好ましいものとなる。なおこの発明のリーマを装着して成る歯科用ハンドピースもこの発明の権利範囲内のものである。
【0022】
この他、この発明に特徴的なことは、針部の周囲が例えば縫い針のように滑らかに形成されている点と針部の先端部に複数の突起が形成されている点とである。このように縫い針の滑らかさを得るには、針部がただ1本の金属棒から成るものでなくとも、例えば3本の金属棒を束ねて撚りを加えて成るものであっても、針部の周囲に抵抗が少ないものであれば十分使用可能である。従って、撚線で構成されたリーマの針部の先端部を解すことにより、リーマの針部の先端部に複数の突起を設ける歯科用ハンドピースに用いるリーマの製造方法も、この発明の権利範囲内のものとなる。1本の金属板に捻り加工を施して設けた針部に付いても、針部の周囲が滑らかに形成されていると共に、針部の先端部に複数の突起が形成されているものは、この発明の権利範囲内のものである。
【発明の効果】
【0023】
この発明はリーマの針部の先端部に複数の突起を形成して成るものであるから、これを歯科用ハンドピースに取り付けて根管治療を行うと、歯根を掘ったり穿通したりする治療がより確かにより手早く行えると言う効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図5】 実施例2を先端方向から見た説明図である。
【
図8】 実施例3を先端方向から見た説明図である。
【
図12】 実施例5を先端方向から見た説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下ではこの発明の実施例を図面に基づいて説明するが、この発明はこれ等に限定されるものではない。
【実施例0026】
図1乃至
図3でこの実施例を説明する。リーマ100は歯科用ハンドピースに挿着するための挿着部101とこれにインサート成型された針部102とから成る。針部102には全長が25mm、先端径が0.25mm、テーパー角が2/100のステンレス合金製のものを用い(S1)、断面が円形の針部102の先端部103をプレス加工して平らに成形することにより、平らな部分の両端部に突起104が形成される(S2)。両端部にであるから、計2個の突起104が設けられていることになる。
【0027】
このステップ(S1)~ステップ(S2)の製造方法によれば、先端部103に2個の突起104があるリーマ100を得ることが出来た。これを歯科用のハンドピース200に取り付けて根管治療を行うと、歯根を掘ったり穿通したりする治療が、より確かにより手早く行えるようになる。
【0028】
リーマ100をハンドピース200に取り付けた状態を
図3で表す。このハンドピース200は、図示しないチェアーユニットの電動モータの回転軸に接続されて回転駆動されるように構成されている。またこの電動モータのスイッチは図示しない足踏み式のフットスイッチである。このハンドピース200は支持部201に振動側筐体202が取り付けられ、この振動側筐体202に振動筒204が装着されたものである。この振動筒204は振動側筐体202の内側にあって、リーマ100の前後方向である軸方向(
図3の上下方向)に振動可能に設けられていると共に、矢線で表すごとくリーマ100の回動方向である軸周りに回動可能に設けられている。チェアーユニットの電動モータの回転軸の延長部分が支持部201を通る回転軸300であり、この回転軸300の先端部に偏心させて設けられたピン301が、支持部201の先端部に位置している。
【0029】
次に上記振動側筐体202の先端部には振動筒装着口203が開口されており、ここに振動筒204が装着されている。また振動筒204は後端部に設けたピン穴205に上記ピン301が挿入されている。また振動筒204の後端部分には、実施例1の製造方法に成るリーマ100を挿着するための挿着口207が開口されており、リーマ100をここから挿着するとその針部102が振動筒204の針通し孔206から抜け出して、リーマ100の挿着部101の先端部が上記針通し孔206の内側に接触するまで押し込むことが出来るように構成されている。内側にネジが切られた挿着口207にはネジ蓋208を捻じ込むことでリーマ100を固定することが出来る。従ってリーマ100の交換はネジ蓋208を着脱することによって行うことになる。
【0030】
図示しないフットスイッチを操作して電動モータを回転駆動させると、回転軸300の先端部に偏心状態で取り付けられたピン301が、振動筒204の側面部に設けたピン穴205に係合していることにより、ピン301が円運動を行うと振動筒204に往復運動が生ずると共に、振動筒204が上述の軸周りに回動運動を行う。この結果可動筒204に取り付けたリーマ100の針部102がその前後方向である軸方向に往復運動を行うと共にリーマ100の回動方向である軸周りに回動運動を行って、歯根の掘削や穿通が為されることになる。
従って針部102の先端部106に入れた切れ目107の両側の2個の突起が、歯根を掘ったり穿通したりする治療を行う部位となる。これまでのリーマやファイルの針の先端部は、この実施例の2個の突起のような構造を有していなかった。