(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067711
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】ボールペンリフィル及びボールペン
(51)【国際特許分類】
B43K 1/08 20060101AFI20230509BHJP
B43K 7/02 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
B43K1/08 130
B43K7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022076687
(22)【出願日】2022-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2021178197
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 悠一郎
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA08
2C350KC05
2C350KC06
(57)【要約】
【課題】ボールの受け座及び先端方向への押圧部材を単一の部材として形成しつつも、十分なボール保持力を確保し、併せて毛筆のような描線表現を可能なボールペンリフィルの提供。
【解決手段】内部にインクを収容する合成樹脂製のインク収容管と、前記インク収容管の先端に装着される合成樹脂製のボールホルダーと、前記ボールホルダーの内部に装着されるボール押圧棒と、前記ボールホルダーの先端に収容されるとともに前記ボール押圧棒により後端側が保持される筆記ボールと、を備えたボールペンリフィルであって、前記ボール押圧棒は、ボールホルダーに対して固定される固定部と、ボールホルダーに対して前後方向に摺動可能な可動部と、前記固定部と可動部とを連結する圧縮部と、前記固定部の先端から突設されるとともに、圧縮部の後端との間に間隙が設けられる後退規制部と、を備えたことを特徴とするボールペンリフィル。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にインクを収容する合成樹脂製のインク収容管と、
前記インク収容管の先端に装着される合成樹脂製のボールホルダーと、
前記ボールホルダーの内部に装着されるボール押圧棒と、
前記ボールホルダーの先端に収容されるとともに前記ボール押圧棒により後端側が保持される筆記ボールと、
を備えたボールペンリフィルであって、
前記ボール押圧棒は、
ボールホルダーに対して固定される固定部と、
ボールホルダーに対して前後方向に摺動可能な可動部と、
前記固定部と可動部とを連結する圧縮部と、
前記固定部の先端から突設されるとともに、圧縮部の後端との間に間隙が設けられる後退規制部と、
を備えたことを特徴とするボールペンリフィル。
【請求項2】
前記圧縮部が蛇腹形状であることを特徴とする、請求項1に記載のボールペンリフィル。
【請求項3】
前記ボールホルダーの先端から後方に向けてスリットが形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のボールペンリフィル。
【請求項4】
前記ボールホルダーの先端から後方に向けてスリットが形成されていることを特徴とする、請求項2に記載のボールペンリフィル。
【請求項5】
前記インクを除く全ての部材が合成樹脂製であることを特徴とする、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のボールペンリフィル。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のボールペンリフィルが軸筒の中に収容されたことを特徴とするボールペン。
【請求項7】
請求項5に記載のボールペンリフィルが軸筒の中に収容されたことを特徴とするボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンリフィル及びボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アウターの作用で筆記角度による筆記描線の太細を描き分けられるボールペンが開示されている。特許文献2には、ボール受座に樹脂を用い、金属によるカバーを取り付けたボールペンが開示されている。特許文献3には、樹脂製のインク誘導芯をボール受座に用いたボールペンが開示されている。特許文献4には、ボールを保持する筒体の中に挿入される筒状の受け座部材の後端に、弾発作用を有する支持部材が装着されたボールペンが開示されている。特許文献5には、スプリングによりボールを先端方向に押圧するボールペンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-252655号公報
【特許文献2】特開2012-148423号公報
【特許文献3】特開2001-113874号公報
【特許文献4】特開2019-10843号公報
【特許文献5】特開2019-10844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の実施態様は、ボールの受け座及び先端方向への押圧部材を単一の部材として形成しつつも、十分なボール保持力の確保及び毛筆のような描線表現の可能なボールペンリフィル及びボールペンの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の第1態様は、内部にインクを収容する合成樹脂製のインク収容管と、前記インク収容管の先端に装着される合成樹脂製のボールホルダーと、前記ボールホルダーの内部に装着されるボール押圧棒と、前記ボールホルダーの先端に収容されるとともに前記ボール押圧棒により後端側が保持される筆記ボールと、を備えたボールペンリフィルであって、前記ボール押圧棒は、ボールホルダーに対して固定される固定部と、ボールホルダーに対して前後方向に摺動可能な可動部と、前記固定部と可動部とを連結する圧縮部と、前記固定部の先端から突設されるとともに、圧縮部の後端との間に間隙が設けられる後退規制部と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
本願の第1態様の構成によると、ボール押圧棒で、ボールの受け座と、筆記ボールの前後摺動を可能とするスプリングの役割を兼用することができる。
【0007】
本願の第2態様は、前記第1態様の構成に加え、前記圧縮部が蛇腹形状であることを特徴とする。この構成によると、ボール押圧棒を合成樹脂の射出成形で形成することが容易になるとともに、この蛇腹形状で弾発力を確保することが可能となる。
【0008】
本願の第3態様は、前記第1態様又は第2態様の構成に加え、前記ボールホルダーの先端から後方に向けてスリットが形成されていることを特徴とする。
【0009】
本願の第4態様は、前記第1態様から前記第3態様までのいずれかの構成に加え、前記インクを除く全ての部材が合成樹脂製であることを特徴とする。この構成によると、ボールペンリフィルルに金属材料を使用することがないので、金属との分別廃棄が不要になるとともに、部材のリサイクルが容易となる。
【0010】
本願の第5態様のボールペンは、前記第1態様から前記第4態様までのいずれかのボールペンリフィルが軸筒の中に収容されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示の実施態様は上記のように構成されているので、ボールの受け座及び先端方向への押圧部材を単一の部材として形成しつつも、十分なボール保持力を確保し、併せて毛筆のような描線表現を可能なボールペンリフィル及びボールペンの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態のボールペンを、正面図(A)、側面図(B)及び(A)のI-I断面図(C)で示す。
【
図2】
図1の第1実施形態のボールペンに用いられるボールペンリフィルを、正面図(A)、側面図(B)及び(B)のII-II断面図(C)で示す。
【
図4】
図2のボールペンリフィルに用いられるボールホルダーを、正面図(A)、側面図(B)、底面図(C)、平面図(D)、先端側斜視図(E)、後端側斜視図(F)及び(B)のIV-IV断面図(G)で示す。
【
図5】
図2のボールペンリフィルに用いられるボール押圧棒を、正面図(A)、左側面図(B)、右側面図(C)、底面図(D)、平面図(E)、先端側斜視図(F)及び後端側斜視図(G)で示す。
【
図6】
図2のボールペンリフィルにおいて筆記ボールの押圧状態を、正面図(A)、側面図(B)及び(B)のVI-VI断面図(C)で示す。
【
図8】
図5のボール押圧棒の圧縮状態を、正面図(A)、左側面図(B)、右側面図(C)、底面図(D)、平面図(E)、先端側斜視図(F)及び後端側斜視図(G)で示す。
【
図9】第2実施形態のボールペンに用いられるボールペンリフィルを、正面図(A)、側面図(B)及び(B)のIX-IX断面図(C)で示す。
【
図11】
図9のボールペンリフィルに用いられるボールホルダーを、正面図(A)、側面図(B)、底面図(C)、平面図(D)、先端側斜視図(E)、後端側斜視図(F)、(B)のXI-XI断面図(G)、(E)の先端部分の拡大図(H)及び(G)の先端部分の拡大図(I)で示す。
【
図12】
図9のボールペンリフィルの先端部分の拡大斜視図である。
【
図13】
図9のボールペンリフィルにおいて筆記ボールの押圧状態を、正面図(A)、側面図(B)及び(B)のXIII-XIII断面図(C)で示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、「先端」とはボールペンにおいて筆記ボールが設けられている側を指し、「後端」はその反対側を指す。また、各図面において共通している符号は、以下の図面についての説明において特に言及がなくても同一の部材又は部位を示す。また、各図面においては、図面の右側が先端側かつ底面側で、左側が後端側かつ平面側である。
【0014】
(1)第1実施形態
<外観>
図1は、第1実施形態のボールペン10を、正面図(A)、側面図(B)及び
図1(A)におけるI-I断面図(C)で示す。これらの図に示すように、本実施形態のボールペン10は、後端に尾栓40が装着されている軸筒30の先端に、クリップ37を備えたキャップ36が装着された外観を呈している。軸筒30、尾栓40及びキャップ36はいずれも、たとえばポリカーボネートのような合成樹脂により形成されている。
【0015】
図1(C)の断面図に示すように、本実施形態のボールペン10においては、インク24を収容するボールペンリフィル20が軸筒30に内蔵されており、また、このボールペンリフィル20の後端は尾栓40に当接して支持されている。このボールペンリフィル20において、インク24を収容するインク収容管23の先端には、ボールホルダー60が装着されている。このボールホルダー60の先端には筆記ボール26が抱持されている。また、ボールホルダー60の内部には、筆記ボール26を先端方向に付勢するボール押圧棒50が装着されているが、その構造については後述する。さらに、ボールペンリフィル20に収容されているインク24の後端にはグリース状のフォロワー25が注入されている。インク24及びフォロワー25については後に詳述する。また、軸筒30は、先端部分が先細りに形成された円筒形状を呈し、先端に設けられた開口部からはボールホルダー60の先端部分が突出している。
【0016】
<ボールペンリフィル20>
図2は、
図1のボールペン10に用いられるボールペンリフィル20を、正面図(A)、側面図(B)及び
図2(B)におけるII-II断面図(C)で示す。前述したように、前記ボールペンリフィル20は、円柱状の合成樹脂製のインク収容管23の先端に、たとえば、ポリアセタール又はポリエーテルエーテルケトンのような合成樹脂製の筆記ボール26を抱持したボールホルダー60が装着された外観を呈している。
図2のボールペンリフィル20は、筆記ボール26に筆圧がかかっていない状態を示している。
【0017】
図2(C)の断面図に示すように、ボールホルダー60の先端には筆記ボール26が抱持されている。また、ボールホルダー60の内部には、筆記ボール26を先端方向に付勢するボール押圧棒50が装着されている。さらに、インク収容管23には、前記したようにインク24が収容されている。
【0018】
<インク24>
本実施形態のインク24は、水性ゲルインクである。このインク24には、着色顔料、分散樹脂としてのポリビニルアルコール系樹脂、アルカリ膨潤会合型増粘剤を含有することが好ましい。以下、各成分について説明する。
【0019】
着色顔料としては、無機着色顔料、有機着色顔料のいずれも用いることができる。具体的には、カーボンブラック等の黒色顔料;パーマネントカーミンFB、レーキレッドC、パーマネントレッドFGR、ファーストレッド等の赤色顔料;フタロシアニンブルー、ファーストスカイブルー、群青等の青色顔料、及びこれらの混合物を用いることができる。
【0020】
インクの着色顔料として代表的に用いられるカーボンブラックとしては、市販のカーボンブラック又はゴム用カーボンブラック等を用いることができるが、好ましくはインキ、塗料等の黒色着色剤用として市販のカーボンブラックである。カーボンブラックの種類としては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等のいずれを用いることもできる。カーボンブラックの粒径としては、10~80nmであることが好ましい。カーボンブラックの表面性状としては、酸性、中性、アルカリ性のいずれを使用することも可能であるが、好ましくはpH=7.5~8.5のカーボンブラックが好ましく用いられる。
【0021】
着色顔料の含有量は、着色顔料の種類により異なるが、インクの全量に対して8~25重量%であることが好ましい。8重量%未満では、分散樹脂量との関係で、着色が不十分となって、描線の色彩の品質を満足できない。一方、25重量%超では、着色顔料を安定的に分散させるために必要とされるポリビニルアルコール系樹脂量も増やす必要があることから、結果として粘度が高く、筆記感が重くなってしまう。
【0022】
分散樹脂としてのポリビニルアルコール系樹脂は、カーボンブラック等の着色顔料を水中で均一に分散させるための水溶性樹脂及び紙への固着剤として含有される。
【0023】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られるものであればよく、好ましくは重合度300~2000、ケン化度80~95モル%のポリビニルアルコールが好ましい。重合度が低くなりすぎると、インクの粘度が低下しすぎて、アルカリ膨潤会合型増粘剤との併用においても、インクのボテを十分抑制できないおそれがある。また、ケン化度が低くなりすぎると、描線の耐水性が低下する。
【0024】
また、本実施形態で使用するポリビニルアルコール系樹脂は、酢酸ビニル100%のポリ酢酸ビニルのケン化物に限定されず、10モル%程度以下であれば他のビニル系モノマーを共重合してなるポリビニルアルコール系コポリマーや、アセチル化などの後変性されたポリビニルアルコール系樹脂を用いてもよいが、好ましくは酢酸ビニル100%のポリ酢酸ビニルのケン化物である。ポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、インクの全量に対して2~10重量%であることが好ましい。2重量%未満では着色顔料の分散の安定化が不十分となり、経時的に着色顔料が沈降してくるなど、保存安定性が低下する。10重量%を越えると粘度が増加しすぎて、筆記感が重くなってしまう。
【0025】
アルカリ膨潤会合型増粘剤は、インクに、チキソトロピー性挙動を付与することができる。すなわち、静置状態のインクが高粘度であっても、筆記時には、高せん断力がかかることにより、粘度が低下して、筆記が可能となる。
【0026】
アルカリ膨潤会合型増粘剤とは、未中和のアクリル系ポリマーであるアルカリ膨潤型増粘剤のうち、疎水基で修飾した水溶性又は水膨潤性ポリマー、及びその水溶液、エマルジョンであり、疎水性に修飾されたアルカリ可溶性エマルジョン、疎水性に修飾されたポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸共重合体、その混合物、及びその水溶液、エマルジョンなどが挙げられる。疎水基としては、鎖状、環状の炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン化アルキル基、オルガノシリコン基、フッ化炭素基などが挙げられ、疎水基の修飾は、疎水性連鎖移動剤(たとえば、ドデシルメルカプタン)、疎水性モノマー(たとえば、デシルメタクリレート、非イオン性ビニルモノマー)、疎水基含有アルコール(たとえば、ドデカノール)、非イオン性界面活性剤でのエステル化などにより行うことができる。以上のような構成を有するアルカリ膨潤会合型増粘剤は、アルカリで中和されて、網状構造を形成し、膨潤しながら分散媒中に広がることによりインクを増粘させる。さらに、分子中の親水基又は疎水基同士、さらには分散樹脂との間で水素結合等の形成により会合することができる。会合により増粘するが、高せん断力により会合状態が破壊され、粘度が低下することで良好な流動性を発揮できる。
【0027】
このように、アルカリ膨潤会合型増粘剤の添加により、インクにチキソトロピー性を付与できる。具体的には、アルカリ膨潤会合型増粘剤の添加により、回転型粘度計で測定される6rpmでの粘度(η6)に対する0.6rpmでの粘度(η0.6)の比率(η0.6/η6)で表わされるチキソトロピー指数(TI値)を3.0以上とすることが可能である。TI値は、3.0~10程度が好ましい。チキソトロピー指数が上記範囲内にあって、かつ6rpmでの粘度が0.3Pa・s以上であることが好ましい。着色顔料及びポリビニルアルコール系樹脂の含有量を調節することにより、チキソトロピー指数を上記範囲とすることは可能であるが、増粘効果が不十分で、6rpmでの粘度が低すぎると、静止時の粘度が低いことになり、ひいてはインクのボテを十分に防止できない。この点、アルカリ膨潤会合型増粘剤の添加により、インクのボテ防止と筆記性の双方を満足できるような粘度増加及びチキソトロピー性の付与を可能とする。一方、アルカリ膨潤会合型増粘剤の添加量を調節することにより、増粘しても、インクにおけるEM型回転粘度計による測定で回転数6rpmのときの粘度を25Pa・s未満とすることができる。せん断力がかかっている状態での粘度を25Pa・s未満となる範囲で増粘することにより、筆記性を損なうことなく、粘度増大によるインクのボテレの防止を可能とすることができる。
【0028】
なお、会合型増粘剤としては、ウレタンモノマー等で修飾したウレタンブロックコポリマー水溶液等がある。ウレタン会合型増粘剤も、せん断力の大きさに応じて、分子の会合、分離を繰り返すチキソトロピー性を付与することができるが、増粘レベルが不十分、あるいは高せん断力下での粘度低下が不十分である。
【0029】
アルカリ膨潤会合型増粘剤は、インクの全量に対して0.1~5.0重量%であることが好ましい。0.1重量%未満ではチキソトロピー性の付与が不十分となる。5.0重量%を越えると粘度が増加しすぎて、筆記性が悪くなってしまう。
【0030】
本実施形態のインクにおいて、アルカリ膨潤会合型増粘剤が、有効にチキソトロピー性を付与するためには、インクが中性~アルカリ性であること、具体的にはpH7.0~9.5が好ましい。
【0031】
したがって、インクのpHを上記範囲内とするために、アルカリ性化合物を添加してもよい。アルカリ性化合物としては、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、アンモニアなどを用いることができる。
【0032】
本実施形態のインクは、さらに、必要に応じて、分散安定助剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤等の添加剤が含有されていてもよい。分散安定助剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどが好ましく用いられる。
【0033】
以上のような成分を含有するインクは、チキソトロピー性を有する。具体的には、EM型回転型粘度計で測定される6rpmでの粘度(η6)に対する0.6rpmでの粘度(η0.6)の比率(η0.6/η6)で表わされるチキソトロピー指数(TI値)が3.0以上で、かつ6rpmでの粘度が0.3Pa・s以上であることが好ましい。前記チキソトロピー指数は、より好ましくは3.5以上である。また、6rpmでの粘度は、0.5Pa・s以上であることがより好ましい。
【0034】
また、回転型粘度計で測定される回転数6rpmのときの粘度が25Pa・s以下であることが好ましい。なお、粘度はEM型回転粘度計における回転数100rpm、25℃での値である。
【0035】
また、
図2(C)に示すように、インク24の後端側には、インク24がインク収容管23の後端から流出するのを防止するために、グリース状のフォロワー25が注入されている。このフォロワー25は、筆記によってインク24が消費されていくのに伴い、先端方向へ追随していく。なお、このフォロワー25の中に、比重がフォロワー25と同じになるように調整した合成樹脂製の円柱状のフロートを浮遊させることとしてもよい。
【0036】
<ボールホルダー60>
図3は、
図2(C)の先端部分の拡大図である。ボールホルダー60は、インク収容管23の先端に装着されるとともに、先端に筆記ボール26を抱持している。また、ボールホルダー60の内部には、筆記ボール26を先端方向に付勢するボール押圧棒50が装着されている。
【0037】
図4は、
図2及び
図3のボールペンリフィル20に用いられるボールホルダー60を、正面図(A)、側面図(B)、底面図(C)、平面図(D)、先端側斜視図(E)、後端側斜視図(F)及び
図4(B)のIV-IV断面図(G)で示す。ボールホルダー60は、たとえば、ポリアセタール又はポリエーテルエーテルケトンのような合成樹脂製で、
図3にも示されるように、後端側から、取付部61、フランジ部62、中間部63及び先端部64により構成されている。
【0038】
取付部61は、略円筒形を呈し、
図3に示すように、インク収容管23の先端に圧入される部分である。取付部61の後端には、内部に通ずる開口である後端開口65が形成されている。また、フランジ部62は取付部61の先端側で拡径する円盤状の部位であり、取付部61がインク収容管23の先端に圧入された際に、インク収容管23の先端に当接してそれ以上の圧入を阻止する部分である。フランジ部62の左右両側には平面状に削がれた形状の面削部62Aが形成されている。この面削部62Aは、ボールホルダー60がインク収容管23に挿入される際に工具にて把持される部分である。
【0039】
中間部63は、わずかに先細りの円筒形状を呈し、その外径は取付部61の外径より小さい。中間部63の先端側には、より外径が小さい略円筒形状の先端部64が形成されている。中間部63と先端部64との間の段差である突当部63Aは、ボールペンリフィル20が軸筒30に装着される際に、軸筒30の先端開口の内側に突き当たる部分である(
図1(C)参照)。また、先端部64の先端側部分は先細に形成されたテーパ部64Aとなっており、その先端に設けられている開口部である先端開口68の周囲は内方に縮径されたカシメ部64Bとなっている。
【0040】
ボールホルダー60の内部は、
図4(G)に示すような中空構造となっている。この中空構造は、後端開口65から先端方向に向かって段階的に内径が縮小するバック孔66と、バック孔66と先端開口68とを連絡するインク孔67とで構成されている。バック孔66は、中間部63の半ば付近の段差である後方縮径部66Aと、中間部の先端付近の段差である中間縮径部66Bとで段階的に縮径している。また、バック孔66からインク孔67にかけて、これらの間の段差である先端縮径部66Cで段階的に縮径している。すなわち、ボールホルダー60は、後端開口65から、バック孔66及びインク孔67を経て、先端開口68まで貫通している。
【0041】
図5は、ボールホルダー60の内部に装着されるボール押圧棒50を、正面図(A)、左側面図(B)、右側面図(C)、底面図(D)、平面図(E)、先端側斜視図(F)及び後端側斜視図(G)で示す。ボール押圧棒50は、固定部51と、押圧部53を備えた可動部52と、固定部51と可動部52との間に介在する圧縮部54と、固定部51から先端方向へ突設される後退規制部55とで構成される。
【0042】
固定部51、圧縮部54及び可動部52はいずれも略円柱形状を呈するものの、対向する二面が平面状に削がれた大平面部50A及び小平面部50Bとして形成され、また、別の対向する二面にそれぞれ溝状のインク溝57が穿設されることで、
図5(E)に示すような平面形状を呈することとなっている。大平面部50Aの面積は、小平面部50Bの面積より大きく形成されている。
【0043】
固定部51は、より大径な圧入部51Aが、バック孔66の後方縮径部66A(
図4(G)参照)の前方部分に圧入されることで、ボール押圧棒50がボールホルダー60に装着される際に、ボールホルダー60に対して固定される部分である(
図3参照)。可動部52は、ボールホルダー60に対して相対的に前後方向に摺動可能な部分である。可動部52の前端縁である後方当接部52Aは、ボール押圧棒50がボールホルダー60に装着される際に、バック孔66の中間縮径部66B(
図4(G)参照)に当接する部分である(
図3参照)。
【0044】
可動部52から先端方向へ突設される押圧部53は、ボール押圧棒50がボールホルダー60に装着される際に、筆記ボール26の後端に当接する部分であり(
図3参照)、後方側に位置し、より幅広の広幅部53Aと、前方側に位置し、より幅狭の狭幅部53Cとで構成される。また、広幅部53Aと狭幅部53Cとの間の段差は前方当接部53Bとなっている。前方当接部53Bは、ボール押圧棒50がボールホルダー60に装着される際に、バック孔66の先端縮径部66C(
図4(G)参照)に当接する部分である。さらに、前方当接部53Bが先端縮径部66Cに当接した状態で、狭幅部53Cはインク孔67の内部に位置し、その先端に設けられるボール押当面53Dが筆記ボール26の後端と当
接する(
図3参照)。換言すると、筆記ボール26は、ボール押圧棒50の押圧部53により後端側が保持されている。
【0045】
圧縮部54は、固定部51と可動部52との間を、蛇腹形状に2回屈曲した形状で連結している。後方側の屈曲部分が後方屈曲部54Aで、前方側の屈曲部分が前方屈曲部54Bである。また、後退規制部55は、固定部51から可動部52へ向けて延伸した板状形状を呈し、ボール押圧棒50がボールホルダー60に装着され、筆記ボール26に筆圧がかかっていない状態では、可動部52との間に間隙が生じている(
図3参照)。この間隙は、可動部52が後退可能な範囲としての後退間隙56となっている。
【0046】
図2(C)及び
図3に示すようにインク収容管23に収容されているインク24は、ボールホルダー60のバック孔66からインク孔67を経て、筆記ボール26に至りそこで筆記面に対し転写されることで描線が形成される。このとき、ボールホルダー60の内部に装着されているボール押圧棒50にはインク溝57と大平面部50A及び小平面部50Bが形成され、さらに押圧部53も平板形上となっていることで、ボール押圧棒50がインク24の先端方向への流動を阻止することはない。
【0047】
<動作>
図6は、
図2に示す状態のボールペンリフィル20の先端の筆記ボール26に筆圧がかかって押圧された状態を、正面図(A)、側面図(B)及び
図6(B)におけるVI-VI断面図(C)で示す。この状態では、筆記ボール26はボールホルダー60の内部へ後退している。また、
図6(C)の先端部分の拡大図である
図7に示すように、筆記ボール26への筆圧による押圧によって可動部52が後退し、可動部52の後方当接部52Aとバック孔66の中間縮径部66Bとの間が離間する。その一方で、可動部52は後退規制部55と当接し、
図3に示す状態では空いていた後退間隙56がなくなっている。
【0048】
図8は、
図7に示す状態におけるボール押圧棒50を、正面図(A)、左側面図(B)、右側面図(C)、底面図(D)、平面図(E)、先端側斜視図(F)及び後端側斜視図(G)で示す。これらの図に示すように、可動部52の後退により圧縮部54が撓んで圧縮し、これにより可動部52の後端縁と後退規制部55の後端縁とが接触し、
図5に示すような後退間隙56が消失している。
【0049】
以上より、後退規制部55の先端縁が筆記ボール26の押圧による後退の限界となっている。また、バック孔66の中間縮径部66Bが、ボール押圧棒50の前進の限界となっている。また、圧縮部54によるバネ効果によって、筆記ボール26は常に前方に付勢されることとなっている。さらに、筆記ボール26に筆圧がかかると、可動部52を通じて圧縮部54が圧縮して撓むことで、ペン先が撓るような筆記感をユーザに与えることが可能となっている。これにより、毛筆のようなトメ、ハネ、ハライのような描線表現が可能となっている。
【0050】
また、ボールホルダー60及びボール押圧棒50は、合成樹脂による射出成形可能な形状となっているとともに、ボール押圧棒50に設けられているインク溝57並びに大平面部50A及び小平面部50Bによってボールホルダー60の内部でのインクの流路が確保されている。さらには、ボールペン10を構成する部材は、インクを除き全て合成樹脂製であり金属部品を使用していないため、廃棄の際に分別の手間がかからないとともに、合成樹脂素材のリサイクルも容易となっている。
【0051】
(2)第2実施形態
<外観>
第2実施形態のボールペン10の外観は、
図1(A)の正面図、
図1(B)の側面図及び
図1(C)の断面図に示すとおり、第1実施形態と同様である。
【0052】
<ボールペンリフィル20>
図9は、第2実施形態のボールペン10に用いられるボールペンリフィル20を、正面図(A)、側面図(B)及び
図9(B)におけるIX-IX断面図(C)で示す。第2実施形態のボールペンリフィル20の構造は、後述する延伸部64D(
図10参照)が設けられていること以外は第1実施形態と同様である。また、インク24についても第1実施形態と同様である。
【0053】
<ボールホルダー60>
図10は、
図9(C)の先端部分の拡大図である。ボールホルダー60は、インク収容管23の先端に装着されるとともに、先端に筆記ボール26を抱持している。ボールホルダー60の先端には先端方向へ延伸した延伸部64Dが形成されている。また、ボールホルダー60の内部には、筆記ボール26を先端方向に付勢するボール押圧棒50が装着されている。
【0054】
図11は、
図9及び
図10のボールペンリフィル20に用いられるボールホルダー60を、正面図(A)、側面図(B)、底面図(C)、平面図(D)、先端側斜視図(E)、後端側斜視図(F)、
図11(B)のXI-XI断面図(G)、
図11(E)の先端部分の拡大図(H)及び
図11(G)の先端部分の拡大図(I)で示す。ボールホルダー60は、たとえば、ポリアセタール又はポリエーテルエーテルケトンのような合成樹脂製で、
図10にも示されるように、後端側から、取付部61、フランジ部62、中間部63及び先端部64により構成されている。なお、取付部61の構造については第1実施形態と同様である。
【0055】
中間部63の構造については、第1実施形態と同様である。先端部64の構造についても、カシメ部64Bの先端縁から先端方向へ延伸した延伸部64Dが形成されている点以外は第1実施形態と同様である。
【0056】
ボールホルダー60の内部は、
図11(G)に示すような中空構造となっている。この中空構造についても、第1実施形態と同様である。
【0057】
なお、カシメ部64Bの内周面には、筆記ボール26の外周面と当接するシール面64Cが形成されている(
図11(G)及び(I)参照)。このシール面64Cによって、非筆記時における先端からのインク流出を防ぐことができる。さらに、カシメ部64Bの先端辺縁が先端方向に延伸し、この部分が延伸部64Dとなっている。この延伸部64Dの先端縁から、後方のカシメ部64Bの先端縁の近傍まで複数のスリット64Eが形成されている。
【0058】
本実施形態のボールペンリフィル20では、
図12の先端部分の拡大斜視図に示すように、カシメ部64Bからさらに延伸した延伸部64Dによって、先端から露出する筆記ボール26を抱持している。ここで、延伸部64Dを有さない第1実施形態のボールペンリフィル20では、カシメ部64Bの先端縁からの筆記ボール26の出寸法は筆記ボール26の直径の30%程度である。一方、本実施形態のボールペンリフィル20では、延伸部64Dが設けられていることによって、延伸部64Dの先端縁からの筆記ボール26の出寸法は筆記ボール26の直径の20%程度となり、より抱持される領域が拡がっている。さらに、延伸部64Dに設けられている複数のスリット64Eによって、延伸部64Dがあってもインク24の流出が妨げられないこととなっている。
【0059】
ボールホルダー60の内部に装着されるボール押圧棒50(
図10参照)については、第1実施形態と同様である。
【0060】
図13は、
図9に示す状態のボールペンリフィル20の先端の筆記ボール26に筆圧がかかって押圧された状態を、正面図(A)、側面図(B)及び
図13(B)におけるXIII-XIII断面図(C)で示す。この状態では、筆記ボール26はボールホルダー60の内部へ後退している。また、
図13(C)の先端部分の拡大図である
図14に示すように、筆記ボール26への筆圧による押圧によって可動部52が後退し、可動部52の後方当接部52Aとバック孔66の中間縮径部66Bとの間が離間する。その一方で、可動部52は後退規制部55と当接し、
図10に示す状態では空いていた後退間隙56がなくなっている。なお、
図14に示すボール押圧棒50の形状については、第1実施形態において
図8に示すとおりである。
【0061】
以上、本実施形態においても、第1実施形態と同様、後退規制部55の先端縁が筆記ボール26の押圧による後退の限界となっている。また、バック孔66の中間縮径部66Bが、ボール押圧棒50の前進の限界となっている。また、圧縮部54によるバネ効果によって、筆記ボール26は常に前方に付勢されることとなっている。さらに、筆記ボール26に筆圧がかかると、可動部52を通じて圧縮部54が圧縮して撓むことで、ペン先が撓るような筆記感をユーザに与えることが可能となっている。これにより、毛筆のようなトメ、ハネ、ハライのような描線表現が可能となっている。
【0062】
また、ボールホルダー60及びボール押圧棒50は、合成樹脂による射出成形可能な形状となっているとともに、ボール押圧棒50に設けられているインク溝57並びに大平面部50A及び小平面部50Bによってボールホルダー60の内部でのインクの流路が確保されている。さらには、ボールペン10を構成する部材は、インクを除き全て合成樹脂製であり金属部品を使用していないため、廃棄の際に分別の手間がかからないとともに、合成樹脂素材のリサイクルも容易となっている。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、ボールペンリフィル及びこれを使用するボールペンに利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 ボールペン
20 ボールペンリフィル 23 インク収容管 24 インク
25 フォロワー 26 筆記ボール
30 軸筒 36 キャップ 37 クリップ
40 尾栓
50 ボール押圧棒 50A 大平面部 50B 小平面部
51 固定部 51A 圧入部
52 可動部 52A 後方当接部
53 押圧部 53A 広幅部 53B 前方当接部
53C 狭幅部 53D ボール押当面
54 圧縮部 54A 後方屈曲部 54B 前方屈曲部
55 後退規制部 56 後退間隙 57 インク溝
60 ボールホルダー 61 取付部
62 フランジ部 62A 面削部
63 中間部 63A 突当部
64 先端部 64A テーパ部 64B カシメ部
64C シール面 64D 延伸部 64E スリット
65 後端開口
66 バック孔 66A 後方縮径部 66B 中間縮径部
66C 先端縮径部
67 インク孔 68 先端開口
【手続補正書】
【提出日】2022-10-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】