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特開2023-67751ロボットハンド及びロボットハンドの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067751
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】ロボットハンド及びロボットハンドの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134687
(22)【出願日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2021177799
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000106944
【氏名又は名称】シナノケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100135622
【弁理士】
【氏名又は名称】菊地 挙人
(72)【発明者】
【氏名】井出 健太
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 幸男
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 岳
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707DS01
3C707ES03
3C707ET03
3C707EU02
3C707EW12
3C707HS27
3C707KS22
3C707KS30
3C707KS31
3C707LV10
3C707LV23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡易な手法により不特定多種のワークを適切な把持力で把持することができるロボットハンド及び制御方法を提供する。
【解決手段】モータの回転に応じてワークを把持する複数の爪と、モータの回転位置を検出するエンコーダと、回転位置に応じて爪がワークを把持するようにモータのトルクを制御する制御装置とを備え、トルクをトルク制限値以下に制限する制限処理を実行する制限部と、制限処理中に回転位置の変化速度が閾値以下になった場合に爪がワークに接触したと推定する推定部と、爪がワークに接触してからトルクをトルク制限値よりも徐々に増大させる増大処理を実行する増大部と、増大処理中に回転位置に基づいて爪がワークに接触した位置から現在の位置までの移動量を算出する算出部と、増大処理中にトルク上限値以上となった際のトルク、又は移動量上限値以上となった際のトルクを維持する維持処理を実行する維持部とを含むロボットハンド。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの回転に応じてワークを把持する複数の爪と、
前記モータの回転位置を検出するエンコーダと、
前記回転位置に応じて前記爪が前記ワークを把持するように前記モータのトルクを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記トルクをトルク制限値以下に制限する制限処理を実行する制限部と、
前記制限処理の実行中に前記回転位置の変化速度が閾値以下になった場合に、前記爪が前記ワークに接触したと推定する推定部と、
前記爪が前記ワークに接触してから前記トルクを前記トルク制限値よりも徐々に増大させる増大処理を実行する増大部と、
前記増大処理の実行中に前記回転位置に基づいて前記爪が前記ワークに接触した位置から現在の位置までの移動量を算出する算出部と、
前記増大処理の実行中に前記トルクが前記トルク制限値よりも大きいトルク上限値以上となった際の前記トルク、又は前記移動量が移動量上限値以上となった際の前記トルクを維持する維持処理を実行する維持部と、を含む、ロボットハンド。
【請求項2】
前記制限部は、前記制限処理において前記トルクを前記トルク制限値以下の一定に維持する、請求項1のロボットハンド。
【請求項3】
前記増大部は、前記トルクを一定の増大率で増大する、請求項1又は2のロボットハンド。
【請求項4】
ワークを把持するように複数の爪を駆動するモータのトルクをトルク制限値以下に制限する制限処理を実行し、
前記制限処理の実行中に前記モータの回転位置の変化速度が閾値以下になった場合に、前記爪が前記ワークに接触したと推定し、
前記爪が前記ワークに接触してから前記トルクを前記トルク制限値よりも徐々に増大させる増大処理を実行し、
前記増大処理の実行中に前記回転位置に基づいて前記爪が前記ワークに接触した位置から現在の位置までの移動量を算出し、
前記増大処理の実行中に前記トルクが前記トルク制限値よりも大きいトルク上限値以上となった際の前記トルク、又は前記移動量が移動量上限値以上となった際の前記トルクを維持する維持処理を実行する、ロボットハンドの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットハンド及びロボットハンドの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを把持する爪を備えたロボットハンドが知られている。このような従来のロボットハンドでは、事前に決められた特定の形状や材質のワークを把持するように把持力を設定して動作させる。ところが、不特定多種のワークを従来のロボットハンドで把持させようとすると、ワークの材質に対して爪の把持力が強すぎるとワークを損傷してしまうおそれがあり、ワークの材質に対して把持力が弱すぎるとワークの把持中にワークが落下するおそれがある。このように従来のロボットハンドでは、ワークの種類に応じた把持力設定変更を行わずに不特定多種のワークを適切な把持力を以って把持することは困難であった。不特定多種のワークについて「固いワークはしっかりと把持し柔らかいワークは微細な力で把持する」といった制御を実現するために、把持力を検出するための圧力センサをロボットハンドに設けて、把持力を調整することが考えられる。しかしながら圧力センサを設けると、製造コストが増大する。一方で、爪の変位量と把持力とを関係づけたワークの変形率を事前に取得しておき、この変形率に従って爪の把持力を制御する技術がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-069381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようにワークの変形率を取得するためには、事前準備が必要となる。
【0005】
そこで本発明は、簡易な手法により不特定多種のワークを種類ごとの把持力変更設定を行うこと無く適切な把持力で把持することができるロボットハンド及びロボットハンドの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、モータと、前記モータの回転に応じてワークを把持する複数の爪と、前記モータの回転位置を検出するエンコーダと、前記回転位置に応じて前記爪が前記ワークを把持するように前記モータのトルクを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記トルクをトルク制限値以下に制限する制限処理を実行する制限部と、前記制限処理の実行中に前記回転位置の変化速度が閾値以下になった場合に、前記爪が前記ワークに接触したと推定する推定部と、前記爪が前記ワークに接触してから前記トルクを前記トルク制限値よりも徐々に増大させる増大処理を実行する増大部と、前記増大処理の実行中に前記回転位置に基づいて前記爪が前記ワークに接触した位置から現在の位置までの移動量を算出する算出部と、前記増大処理の実行中に前記トルクが前記トルク制限値よりも大きいトルク上限値以上となった際の前記トルク、又は前記移動量が移動量上限値以上となった際の前記トルクを維持する維持処理を実行する維持部と、を含む、ロボットハンドによって達成できる。
【0007】
また、上記目的は、ワークを把持するように複数の爪を駆動するモータのトルクをトルク制限値以下に制限する制限処理を実行し、前記制限処理の実行中に前記モータの回転位置の変化速度が閾値以下になった場合に、前記爪が前記ワークに接触したと推定し、前記爪が前記ワークに接触してから前記トルクを前記トルク制限値よりも徐々に増大させる増大処理を実行し、前記増大処理の実行中に前記回転位置に基づいて前記爪が前記ワークに接触した位置から現在の位置までの移動量を算出し、前記増大処理の実行中に前記トルクが前記トルク制限値よりも大きいトルク上限値以上となった際の前記トルク、又は前記移動量が移動量上限値以上となった際の前記トルクを維持する維持処理を実行する、ロボットハンドの制御方法によっても達成できる。
【発明の効果】
【0008】
簡易な手法により不特定多種のワークを種類ごとの把持力変更設定を行うこと無く適切な把持力で把持することができるロボットハンド及びロボットハンドの制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ロボットハンドの概略構成図である。
図2図2は、ロボットハンドの制御装置の概略構成を示したブロック図である。
図3図3は、把持制御の一例を示したフローチャートである。
図4図4は、制限処理の一例を示したフローチャートである。
図5図5は、増大処理の一例を示したフローチャートである。
図6図6は、軟質なワークを把持する場合の爪の位置とモータのトルクとの推移を示したタイミングチャートである。
図7図7は、硬質なワークを把持する場合の爪の位置とモータのトルクとの推移を示したタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、ロボットハンド1の概略構成図である。ロボットハンド1は、制御装置10、エンコーダ20、モータ30、駆動歯車40、従動歯車50、及び爪60を含む。制御装置10は、ロボットハンド1全体の動作を制御する。モータ30は、爪60を開閉するための駆動源であり、例えばステッピングモータやブラシレスDCモータである。エンコーダ20は、モータ30の回転軸32の基端に設けられており、モータ30の回転位置(モータ30の回転軸32の回転角度)を検出する。エンコーダ20は光学式であってもよいし磁気式であってもよい。駆動歯車40は、モータ30の回転軸32の先端に設けられており、従動歯車50と噛合っている。モータ30の回転力は、回転軸32を経て駆動歯車40から従動歯車50へ伝達される。従動歯車50は略半円状であり、円弧状の外周面に歯が形成されている。駆動歯車40と従動歯車50の噛合機構は、例えばウォームギヤであるが、ネジ歯車であってもよいし、その他の歯車であってもよい。爪60の基端部は、従動歯車50に固定されている。図1には、従動歯車50及び爪60が2対だけ図示されているが、これに限定されず、3対以上の従動歯車50及び爪60を備えていてもよい。
【0011】
モータ30が順方向に回転することにより、従動歯車50が駆動歯車40との噛合に応じた一方向に揺動して爪60の先端部同士が互いに接近する。モータ30が逆方向に回転することにより、従動歯車50が前述の一方向の逆である反対方向に揺動し、爪60の先端部同士が互いに離間する。爪60の先端部同士が互いに接近することにより、把持対象であるワークを把持することができる。また爪60の先端部同士が互いに離間することによりワークを放すことができる。このように、モータ30の回転を順回転と逆回転とに切換えることで爪60の開閉を行うことができるのである。
【0012】
図2は、制御装置10の概略構成を示したブロック図である。ロボットハンド1は、ロボットアームの先端に固定されて使用される。また、ロボットハンド1及びロボットアームの全体の動作を制御するロボットコントローラ100からの指令を受けて、制御装置10がモータ30の駆動を制御する。制御装置10は、制御部11及びドライバ回路13を含む。制御部11は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御部11における各処理は、ROM等の実体的なメモリ(すなわち、読出可能な一時的な有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いた専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
【0013】
制御部11は、エンコーダ20からの検出信号に基づいて爪60の位置や移動量を算出する。前述の通り、爪60の開閉はモータ30の回転によって駆動歯車40から従動歯車50に回転力が伝達されることによって行われるため、爪60の開閉の状況はエンコーダ20からの検出信号によって得られる回転軸32の回転角度によって把握できるからである。モータ30がステッピングモータであるならば、ドライバ回路13は各相のコイルの通電を制御するスイッチング素子を有し、モータ30の各相の巻線のそれぞれの通電を切り替えることにより、モータ30の駆動を制御する。ドライバ回路13において、モータ30を制御するための汎用的なICの機能を利用するほか、シャント抵抗を設けてその電位差をA/D変換する。これにより、制御部11はモータ30の各相のコイルの電流を把握することができる。また同様にドライバ回路13において、モータ30を制御するための汎用的なICの機能を利用することにより、モータ30のコイルの各相の通電をPWMなどの変調により実効値を設定することができる。さらに、制御部11は、各相のコイルの電流やエンコーダ20からの検出信号に基づいてモータ30のトルクTを推定することが可能である。また、前述の通り制御部11はモータ30の各相のコイルの電流を制御できる。このため、制御部11はエンコーダ20からの検出信号を参照してモータ30の各相のコイルの電流を設定することにより、任意にトルクTを設定できる。このようにして、制御部11は、エンコーダ20からの検出信号に基づいてドライバ回路13に指令を出すことにより、モータ30の駆動を制御して最終的に爪60の開閉を制御することができるのである。
【0014】
次に、制御装置10の制御部11が実行する把持制御について説明する。図3は、把持制御の一例を示したフローチャートである。制御部11は、最初にモータ30のトルクTを制限する制限処理を実行し(ステップS10)、次にモータ30のトルクTを増大する増大処理を実行し(ステップS20)、次にモータ30のトルクTを維持する維持処理を実行する(ステップS30)。制限処理について以下に説明する。
【0015】
図4は、制限処理の一例を示したフローチャートである。制御部11は、ロボットコントローラ100からの指令に基づいて爪60の目標位置Pt、爪60の移動速度S、及びモータ30のトルク制限値Trを取得する(ステップS11)。次に、制御部11はモータ30のトルクTがトルク制限値Tr以下の一定となるように、ドライバ回路13に指令を出してモータ30に印加される電流を制限しつつ(ステップS12)、爪60が現在の位置から目標位置Ptに向けて移動速度Sで移動するようにモータ30を制御する(ステップS13)。これにより、モータ30のトルクTがトルク制限値Tr以下の比較的弱いトルクで、爪60が閉じるように移動する。
【0016】
次に制御部11は、このようなモータ30のトルクTが制限された状態で、全ての爪60がワークに接触したか否かを判定する(ステップS14)。具体的には、モータ30の回転位置の変化速度(回転軸32の回転角度の単位時間あたりの変化量)が閾値α以下になったか否かが判定される。閾値αは、上述した移動速度Sに対応したモータ30の回転位置の変化速度よりも小さい値に設定されている。即ち、移動速度Sが、閾値αに対応した移動速度にまで低下したか否かが判定される。回転位置の変化速度は、エンコーダ20により所定時間内でのモータ30の回転量に基づいて算出される。モータ30の回転位置の変化速度が閾値αより大きい場合には、全ての爪60はまだワークには接触していないと判定される。モータ30の回転位置の変化速度が閾値α以下にまで低下した場合には、全ての爪60がワークに接触したものと判定される。ステップS14でNoの場合には、再度ステップS13の処理が実行される。ステップS14でYesの場合には制限処理は終了し、次に上述した増大処理が実行される。
【0017】
増大処理について説明する。図5は、増大処理の一例を示したフローチャートである。制御部11は、トルク上限値Tmax及び移動量上限値ΔPmaxを取得する(ステップS21)。トルク上限値Tmax及び移動量上限値ΔPmaxは、上述のROMに予め記憶されているものを使用するほか、ロボットコントローラ100から転送された数値を上述のRAMに保持して使用してもよい。トルク上限値Tmaxはトルク制限値Trよりも大きい値である。次に、制御部11は、制限処理において全ての爪60がワークに接触したと判定された接触開始位置P1をメモリに一時的に記憶する(ステップS22)。次に制御部11は、トルクTを1段階だけ増大する(ステップS23)。具体的には、モータ30として採用するモータの制御特性に応じてトルクが増大するように制御設定を変更する。例えば、モータ30の各相のコイルの電流の絶対値を増大させたり、PWM制御のデューティー比を高くする。ここで、「1段階の増大」とは、モータ30のトルクTを離散的に増大させることであり、増大の前後でトルクTが変動して前述の駆動歯車40と従動歯車50の噛合機構における摩擦損失に対して、大きいエネルギーをモータ30から駆動歯車40に伝達することを意味する。噛合機構では、噛合速度が低下すると摩擦損失により噛合が停止してしまうおそれがある。詳細には、それまで作用していた摩擦が動摩擦から静摩擦に変化し、静摩擦が動摩擦より大きいため、噛合機構は言わば固着状態に陥るおそれがある。再び噛合機構が動き出すために離散値的なトルクTの増大により噛合機構にトルク衝撃を与え、静摩擦から動摩擦へ遷移させることができる。
【0018】
次に制御部11は、トルクTがトルク上限値Tmax以上か否かを判定する(ステップS24)。ステップS24でYesの場合には増大処理が終了し、現状のモータ30のトルクTをトルク上限値Tmaxに維持する維持処理が実行される(ステップS30)。
【0019】
ステップS24でNoの場合には、制御部11は爪60の現在位置P2をメモリに一時的に記憶する(ステップS25)。次に制御部11は、接触開始位置P1と現在位置P2の差分となる爪60の移動量ΔPを算出する(ステップS26)。次に制御部11は、算出された移動量ΔPが移動量上限値ΔPmax以上か否かを判定する(ステップS27)。ステップS27でNoの場合には、再度ステップS23の処理が実行される。この場合、ステップS23により更にトルクTが1段階増大される。この結果、ステップS27及びS24でNoと判定されている限り、トルクTは一定の増大率で増大する。ステップS27でYesの場合には本増大処理が終了し、現状のモータ30のトルクTを維持する維持処理が実行される(ステップS30)。
【0020】
次にワークを把持する場合の爪60の位置Pとモータ30のトルクTとの推移について説明する。図6は、軟質なワークを把持する場合の位置Pとモータ30のトルクTとの推移を示したタイミングチャートである。時刻t0でトルクTが、トルク制限値Tr以下のトルクT0に略一定に維持され、爪60の位置Pは初期位置P0から徐々に移動する。時刻t1で爪60の位置Pは、全ての爪60がワークに接触する接触開始位置P1に到達する。爪60の位置Pが移動しないため時刻t2で全ての爪60がワークに接触したものと判定されると、トルクTは増大して爪60の位置Pが移動し始める。時刻t3で現在位置P2と接触開始位置P1との差分である移動量ΔPが移動量上限値ΔPmaxとなると、トルクTはその時点でのトルクT1に維持される。このように、軟質のワークを破損しない程度の弱い把持力で把持することができる。
【0021】
図7は、硬質なワークを把持する場合の爪60の位置Pとモータ30のトルクTとの推移を示したタイミングチャートである。図6に示した場合と同様に、時刻t0、t1、及びt2となった後、トルクTは増大するが、現在位置P2は接触開始位置P1から移動しない。このため、トルクTは更に増大し、時刻t3でトルクTはトルク上限値Tmax以上となり、トルクTは上限値Tmaxに維持される。このようにして、硬質なワークが落下しない程度の強い把持力で把持することができる。
【0022】
前述の制限処理(ステップS10)について、ここで補足する。制限処理の主旨はワークの存在位置の検出であり、換言するとワークの存在を探るための爪60の制御である。ワークの存在位置の検出のためにワークを破損させてしまうことがないようトルクTを比較的弱い値としている。一方でトルクTを弱く(低い値に)すると、採用するドライバ回路13の種類や制御方式によって、あるいは採用するモータ30の種類によっては、モータ30の回転速度が遅くなりワークの存在位置の検出に時間がかかる場合がある。このような不都合を避けるために、制限処理の際にモータ30を高速回転かつ低トルクな制御領域で動作させ、増大処理および維持処理の際にモータ30を低速回転かつ高トルクな制御領域で動作させるという選択も可能である。例えば、モータ30として内転型のブラシレスDCモータを採用する場合には、固定子巻線の結線を切り替えて極の励磁を変更することにより実現可能である。また、モータ30に変速比が変更可能な変速機(図示しない)を備えていてモータ30の回転速度と駆動歯車40の回転速度の比率を変更できる場合には、制限処理の際にモータ30を低い減速比の高速回転かつ低トルクな状態で回転させ、増大処理および維持処理の際にモータ30を高い減速比の低速回転かつ高トルクな状態で回転させるという方法も可能である。
【0023】
以上のように、不特定多種のワークに対応するためにワークの種類ごとの把持力の設定の変更や、ワークの変形率を予め取得するような事前準備、エンコーダ20により検出されるモータ30の回転位置に基づいて把持力を測定する圧力センサなどが不要となる。このため、簡易な手法によりワークの硬度に応じた適切な把持力でワークを把持することができる。
【0024】
前述したような実施例の特徴により、本実施例のロボットハンドを適用したロボットは更に以下の利点がある。まず、一のロボットハンドで不特定多種のワークに動的に対応できる。このため、量産ラインを構築する際のティーチングや段取替えの工数を削減できる。また、増大処理による各ワークの把持力決定後において、トルクTおよび移動量△Pを得ることができる。このため、例えば同一種類のワークを連続して流す生産ラインにおいて、本実施例のロボットハンドをワークの把持とともに計測器として使用できる。これにより、把持力決定後のトルクTや移動量△Pを各ワークの物性と見なして、統計的にワークの良否判定を行って、規格外のワークを判別することができる。類似した応用として、複数種類のワークを連続して流す生産ラインにおいて、把持力決定後のトルクTや移動量△Pに基づいて各ワークを分別することも可能である。
【0025】
前述の通り増大処理において各ワークの把持力決定の時点で得られるトルクTや移動量△Pに加えて、制限処理において全ての爪がワークに接触したと判定した際の爪の位置P1や、移動量ΔPが移動量上限値ΔPmax以上になるまでの所要時間(t3―t2)なども、各ワークの物性を表す。各ワークの物性を表すこれら複数の物理量を、把持パラメータとする。この把持パラメータを用いることで、本実施例のロボットハンドを広く利用できる。前述の同一種類のワークを連続して流す生産ラインの場合、ワークの良否判定のために良品の範囲を規定する閾値を設定し、各ワークの把持によって得られる把持パラメータとこの閾値とを比較することで、不良品を精度よく検出できる。また、良否判定の基準となる複数の良品のワークを予め用意し、この良品群のワークの把持を連続して行って把持パラメータを取得して統計的な処理を施し、良品の範囲を規定する閾値を生成する。これにより、以降の生産ライン稼働時において各ワークの把持パラメータとこの閾値とを比較することで不良品を検出できる。また、生産ライン工程設計者が把持パラメータを具体的な数値として取り扱う必要がないため、入力ミスや作業工数を削減でき、省力化できる。
【0026】
前述の、把持パラメータの取得、閾値の生成、把持パラメータと閾値との比較は、制御部11が行ってもよいし、必要な情報を外部のロボットコントローラ100などとやりとりして他のロボットハンドと統括的に実行してもよい。
【0027】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 ロボットハンド
10 制御装置
20 エンコーダ
30 モータ
32 回転軸
40 駆動歯車
50 従動歯車
60 爪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7