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特開2023-67820吸水膨潤性構造体およびその製造方法ならびに該構造体を含むフィルター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067820
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】吸水膨潤性構造体およびその製造方法ならびに該構造体を含むフィルター
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20230509BHJP
   D01F 8/08 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
B01J20/26 D
D01F8/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171771
(22)【出願日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2021178428
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 治貴
(72)【発明者】
【氏名】中村 正治
【テーマコード(参考)】
4G066
4L041
【Fターム(参考)】
4G066AC13B
4G066AD15B
4G066AE06B
4G066BA03
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA38
4G066DA08
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA21
4L041BC02
4L041CA44
4L041CA48
4L041CA55
(57)【要約】
【課題】吸引減圧装置や給油装置などにおいては、これらの装置における気体や有機液体の流路において、下流側に水分を通過させないようにするために吸水フィルターが用いられている。かかるフィルターは、多量の水分が流入した際に、吸水性繊維の吸水膨潤によりフィルターを閉塞させ、止水するものである。しかしながら、止水のためには高密度の吸水繊維層が必要となることから、高コストであり、また気体や有機液体の通過性が低下する問題がある。本発明は、吸水性繊維の密度が低くても、十分な止水効果を得ることのできる吸水膨潤性構造体および該構造体を含むフィルターを提供することを目的とする。
【解決手段】吸水膨潤層と、開孔を5~200個/cm有し、平均開孔径が0.05~2.0mmである開孔シートが積層されている吸水膨潤性構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水膨潤層と、開孔を5~200個/cm有し、平均開孔径が0.05~2.0mmである開孔シートが積層されている吸水膨潤性構造体。
【請求項2】
吸水膨潤層が、吸水率500~50000質量%である吸水性繊維を50~100質量%含有している吸水性繊維構造体であることを特徴とする請求項1に記載の吸水膨潤性構造体。
【請求項3】
吸水性繊維が、開孔シートの少なくとも一部の開孔に入り込んでいることを特徴とする請求項2に記載の吸水膨潤性構造体。
【請求項4】
吸水性繊維が、芯部分がアクリロニトリル系重合体である芯鞘構造を有し、かつ、0.5~5.5mmol/gの塩型カルボキシル基を有するものであることを特徴とする請求項2に記載の吸水膨潤性構造体。
【請求項5】
吸水性繊維構造体が、厚み1~20mmかつ目付100~3500g/mである不織布構造体であることを特徴とする請求項2に記載の吸水膨潤性構造体。
【請求項6】
開孔シートの厚みが10~500μmであることを特徴とする請求項1に記載の吸水膨潤性構造体。
【請求項7】
ニードルパンチ加工によって吸水膨潤層と開孔シートを複合させる工程を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の吸水膨潤性構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の吸水膨潤性構造体を含むことを特徴とするフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水膨潤層と開孔シートを積層してなる吸水膨潤性構造体、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吸引減圧装置や給油装置などにおいては、これらの装置における気体や液体の流路において、下流側に水分を通過させないようにするために吸水フィルターが用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の液体侵入防止装置は、吸引ポンプ等で負圧にすることにより液体が注入される液体収集容器に取り付けられる装置であり、吸引ポンプに液体が侵入しないようにする役目を有している。かかる液体侵入防止装置には、吸水性繊維が組み込まれており、液体収集容器内の液面の上昇など、液体が液体侵入防止装置に達するような条件下では該繊維の膨潤により繊維間の隙間が消滅、すなわち目づまり状態となって液体の侵入が停止することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ヒドロゲル外層部とアクリロニトリル系重合体および/または他の重合体内層部との多層構造を有する水膨潤性繊維を用いた含水油用除水フィルターが開示されている。かかる除水フィルターは、絶縁油、潤滑油、有機溶剤などの有機液体類を通過させることにより、有機液体類に含まれる水分を除去できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-201452号公報
【特許文献2】特公平1-008561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような従来の液体侵入防止装置では、吸水性繊維の膨潤により繊維間等の空隙を塞いで止水するために多量の吸水性繊維(高密度の吸水層)を必要とするが、吸水性繊維は高価であるためコストアップ要因となる。一方、コストアップを抑制するために、吸水層を低密度にすると吸水膨潤しても空隙を塞ぎ切れなくなるとともに、通液速度も速くなり吸水時間も不十分となるため、止水性能が不足する。
【0007】
また、特許文献2のような従来の除水フィルターでは、有機液体類の通液性を確保しなければならないため高密度化には限界があるが、高密度にできないことにより、大量の水が通過したときには止水できず、下流側に水が漏出してしまう。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑み、従来よりも吸水性繊維の密度が低くても、十分な止水効果を得ることのできる吸水膨潤性構造体および該構造体を含むフィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、吸水膨潤層と穴の開いたシートを積層することにより、上述の目的が達成できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、かかる構成においては、シートの穴からしか通液しないため、止水に際しては、シートの穴のだけを塞げばよく、吸水性繊維が少量(低密度)である吸水膨潤層であっても、止水できるようになり、また、吸水膨潤層を低密度にできることにより、ガソリン等の有機液体類の通液性も確保できるのである。
【0010】
すなわち、本発明は以下の手段により達成される。
(1) 吸水膨潤層と、開孔を5~200個/cm有し、平均開孔径が0.05~2.0mmである開孔シートが積層されている吸水膨潤性構造体。
(2) 吸水膨潤層が、吸水率500~50000質量%である吸水性繊維を50~100質量%含有している吸水性繊維構造体であることを特徴とする(1)に記載の吸水膨潤性構造体。
(3) 吸水性繊維が、開孔シートの少なくとも一部の開孔に入り込んでいることを特徴とする(2)に記載の吸水膨潤性構造体。
(4) 吸水性繊維が、芯部分がアクリロニトリル系重合体である芯鞘構造を有し、かつ、0.5~5.5mmol/gの塩型カルボキシル基を有するものであることを特徴とする(2)に記載の吸水膨潤性構造体。
(5) 吸水性繊維構造体が、厚み1~20mmかつ目付100~3500g/mである不織布構造体であることを特徴とする(2)に記載の吸水膨潤性構造体。
(6) 開孔シートの厚みが10~500μmであることを特徴とする(1)に記載の吸水膨潤性構造体。
(7) ニードルパンチ加工によって吸水膨潤層と開孔シートを複合させる工程を含むことを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の吸水膨潤性構造体の製造方法。
(8) (1)~(6)いずれかに記載の吸水膨潤性構造体を含むことを特徴とするフィルター。
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸水膨潤構造体は、吸水膨潤層と穴の開いたシートを積層することで、シートの穴からしか通液しないため、止水に関しては、シートの穴だけを塞げばよく、吸水性繊維が少量(低密度)である吸水膨潤層であっても止水できることを特徴とする。また、低密度にできるためガソリン等の有機液体類を実用レベルの速度で通液することもできるという特徴を有する。かかる特徴を有する本発明の吸水膨潤性構造体は、例えば、生活資材、医療、建築、土木、農園芸、衛生材料などの様々な分野において、除水/止水材や除水/止水フィルターなどとして応用展開が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の吸水膨潤性構造体は吸水膨潤層と開孔シートが積層されてなるものである。本発明においては、吸水膨潤層を構成する吸水性繊維や吸水性ポリマー粒子の吸水膨潤により開孔シートの開孔部が閉塞されることによって止水効果が発現する。
【0013】
本発明の吸水膨潤性構造体における積層構造としては、本発明の効果が得られる限り特に制限はないが、代表的な例として吸水膨潤層/開孔シートの2層構造や吸水膨潤層/開孔シート/吸水膨潤層の3層構造が挙げられる。また、吸水膨潤層と開孔シート以外の層が積層されていてもよいが、優れた止水効果を得る観点からは、吸水膨潤層と開孔シートが隣接していることが好ましい。また、本発明の吸水膨潤性構造体の全体形状としては、平板状、コイン状が代表的な形状であるが、紐状や糸状などであってもよい。
【0014】
本発明の吸水膨潤性構造体に採用する開孔シートは、開孔を5~200個/cm有し、平均開孔径が0.05~2.0mmである。
【0015】
開孔シートの平均開孔径が0.05mmに満たない場合、ガソリン等の有機液体類の通液が困難になるという不都合が起こる。逆に平均開孔径が2.0mmを超えると開孔部が大きすぎるため吸水性繊維や吸水性ポリマーの吸水膨潤によって閉塞しきれずに止水が困難になるといった不都合が起こる。かかる平均開孔径は0.08~1.8mmであることが好ましく、0.1~1.5mmであることがより好ましい。
【0016】
また、開孔シートの開孔数が5個に満たない場合、ガソリン等の有機液体類の通液が困難になるという不都合が起こる。逆に200個を超えると開孔部が多すぎるため吸水性繊維や吸水性ポリマーの吸水膨潤によって閉塞しきれずに止水が困難になるといった不都合やシートの強度が弱くなってしまい破れてしまうなどの不都合が起こる。かかる開孔数は10~180個/cmであることが好ましく、20~160個/cmであることがより好ましい。
【0017】
また、かかる開孔シートとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニルなどのプラスティックフィルムや鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属箔が挙げられ、これらを複合あるいは積層したものであってもよい。これらの中から、通液する液体に対して溶解などが起こらない耐久性の良い材質を選定して使用することが好ましい。
【0018】
さらに、かかる開孔シートの厚みは10~500μmであることが好ましい。厚みが10μmに満たない場合、吸水膨潤性構造体への加工や使用の際に破れるなどの不具合が起こる恐れがある。逆に500μmを超えると狙いとする形に加工できないなどの不具合が生じる恐れがある。かかる開孔シートの厚みは13~450μmであることがより好ましく、15~400μmであることがさらに好ましい。
【0019】
次に、本発明における吸水膨潤層は、吸水することにより膨潤する素材を含有する層である。かかる吸水膨潤層に水を含む液体が通液すると吸水膨潤が起こり、上述した開孔シートの開孔部が閉塞されて止水効果が発現する。ここで、吸水することにより膨潤する素材としては、吸水性繊維や吸水性ポリマー粒子を使用することができる。特に、吸水性繊維は吸水性ポリマー粒子と比較し、より脱落等が少ないことや、接着剤等を使用せず繊維同士の絡まりのみで繊維構造体を形成できるため好ましい。
【0020】
かかる吸水性繊維の吸水率は500~50000質量%であることが好ましい。吸水率が500質量%に満たない場合は吸水による膨潤が不十分となり、除水/止水能力を十分に発揮できない恐れがある。50000質量%を超える場合は吸水による膨潤が大きすぎて形態安定性が損なわれるといった不具合が生じる恐れがある。かかる吸水性繊維の吸水率は700~45000質量%がより好ましく、1000~40000質量%がさらに好ましい。
【0021】
また、吸水性繊維は、芯部分がアクリロニトリル系重合体である芯鞘構造を有し、かつ0.5~5.5mmol/gの塩型カルボキシル基を有するものであることが好ましい。アクリロニトリル系重合体は吸水性を有さないため、芯部分がアクリロニトリル系重合体である芯鞘構造を有することにより、吸水した際も形状が安定し、繊維が脱落する等の問題が発生しにくいという利点が得られる。また、塩型カルボキシル基量が0.5mmol/gに満たない場合は十分な吸水膨潤性を発現する吸水膨潤性構造体が得られないという問題が起こる恐れがある。逆に5.5mmol/gを超える場合は吸水量が多すぎるために膨潤が大きくなりすぎ形態安定性が損なわれるといった不具合が生じる可能性がある。かかる塩型カルボキシル基量は0.7~5.0mmol/gがより好ましく、1.0~4.5mmol/gがさらに好ましい。
【0022】
さらに、吸水性繊維は、繊度が0.5~15.0dtexであることが好ましい。繊度0.5dtex以上とすることで十分な強度が確保でき、吸水した際も形状が安定し、繊維が脱落する等の問題が発生しにくいという利点が得られる。繊度が15.0dtexを超えると、表面積が低下し、水との接触面積が小さくなるため、膨潤速度が低下して、止水性能が低下する恐れがある。
【0023】
加えて、吸水性繊維は、繊維長が10~200mmであることが好ましい。かかる範囲であれば、吸水膨潤性構造体への加工におけるカード機によるカードウェブの作製の際に良好な加工性を得ることが可能である。かかる繊維長は15~170mmあることが好ましく、20~150mmであることがより好ましい。
【0024】
本発明における吸水膨潤層はかかる吸水性繊維を50~100質量%含有している吸水性繊維構造体であることが好ましい。吸水性繊維の含有率が50質量%未満の場合は、膨潤した際に上述した開孔シートの開孔部を閉塞できずに止水効果が不十分となる恐れがある。かかる吸水性繊維の含有率は55質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。
【0025】
また、かかる吸水性繊維構造体に含有させることのできる上記の吸水性繊維以外の繊維としては、パルプ、コットン、麻、シルク、およびウールなどの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アクリル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成繊維などを使用することができる。
【0026】
また、かかる吸水性繊維構造体には熱融着性繊維を含有させることが好ましい。本発明の吸水膨潤性構造体は、吸水性繊維が膨潤し、空隙を埋めることで止水できるものであるが、熱融着性繊維を含有させ、融着させることにより、吸水膨潤性構造体自体の体積を増加させる外向きの膨潤が抑えられ、吸水膨潤性構造体内の空隙をより効率的に埋めることができる。かかる熱融着性繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性ポリマーを用いたものを挙げることができる。また、かかる熱融着性繊維としては、融点の異なる2種類以上のポリマーを利用し、芯部に高融点、鞘部に低融点のポリマーを用いた芯鞘構造やサイドバイサイド構造などを使用することもできる。
【0027】
さらに、上記吸水性繊維構造体は厚み1~20mmであることが好ましい。厚みが1mmに満たない場合、通液する液体との接触時間が十分得られず、除水や止水の効果が得られないといった問題が起こる恐れがある。逆に20mmを超える場合は目的の形に加工するのが困難となる可能性がある。かかる吸水性繊維構造体の厚みは1.2~17mmがより好ましく、1.5~15mmがさらに好ましい。なお、かかる厚みは、吸水膨潤性構造体中に吸水性繊維構造体が複数枚積層されている場合には積層されている吸水性繊維構造体の合計の厚みを指す。
【0028】
また、上記吸水性繊維構造体は目付100~3500g/mであることが好ましい。目付が100g/mに満たない場合、十分な除水や止水の効果が得られないといった問題が起こる恐れがある。逆に3500g/mを超える場合は加工が困難となる可能性がある。かかる吸水性繊維構造体の目付は120~3200g/mがより好ましく、150~3000g/mがさらに好ましい。なお、かかる目付は、吸水膨潤性構造体中に吸水性繊維構造体が複数枚積層されている場合には積層されている吸水性繊維構造体の合計の目付を指す。
【0029】
上述してきた吸水性繊維構造体の形態としては、カードウェブなどの不織布、編地、または織物等、後述する製造方法において上述した開孔シートと複合化できるものであればどのような形態でもよい。
【0030】
さらに、本発明の吸水膨潤性構造体においては、上述した吸水性繊維が開孔シートの少なくとも一部の開孔に入り込んでいる状態であることが好ましい。このような状態においては、吸水性繊維の吸水膨潤による開孔部の閉塞がより確実となるので、吸水性繊維の含有量が少なくても効率的な止水が可能である。
【0031】
また、本発明の吸水膨潤性構造体においては、上述してきた開孔シートと吸水膨潤層に加えて、その他の層が積層されていてもよい。かかるその他の層としては、吸水性を有さないポリエステル繊維の不織布などを挙げることができる。かかるポリエステル繊維の不織布を吸水膨潤性構造体の最外層に用いると、吸水膨潤性構造体の強度向上や表面の毛羽立ち抑制などの効果を得ることができる。
【0032】
以上に説明してきた本発明の吸水膨潤性構造体の製造方法としては、上述してきた吸水膨潤層と開孔シートを接着剤などによって貼り合わせる方法や、ニードルパンチ加工によって複合させる方法を挙げることができる。特に後者の方法は、吸水膨潤層が吸水性繊維を含む吸水性繊維構造体である場合に好適な方法である。
【0033】
すなわち、ニードルパンチ加工においては、吸水膨潤層と開孔シートを重ねて多数の針で突き通すため、上述した「吸水性繊維が開孔シートの少なくとも一部の開孔に入り込んでいる状態」を容易に形成することができる。また、ニードルパンチ加工においては、開孔シートの代わりに開孔の無いシートを用いた場合でも、針の貫通により該シートに開孔を形成しながら一体化させることができるので、より簡便に本発明の吸水膨潤性構造体を形成することもできる。
【0034】
また、本発明に採用しうる吸水性繊維としては、芯部分がアクリロニトリル系重合体であり、鞘部分がカルボキシル基を有するアクリル酸系重合体である芯鞘構造を有する繊維が代表的な例である。
かかる吸水性繊維は、アクリロニトリル系重合体でなる繊維(以下アクリロニトリル系繊維という)の表層部に対して、架橋導入処理と加水分解処理を施し、カルボキシル基を生成させることにより製造することができる。以下、かかる製造方法について詳しく説明する。
【0035】
まず、原料となるアクリロニトリル系繊維を構成するアクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリルを70質量%以上、好ましくは75質量%以上含む重合体が望ましい。共重合モノマーとしては塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデン類:アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸およびこれらの塩類:(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類:ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、P-スチレンスルホン酸等のエチレン系不飽和スルホン酸およびこれらの塩類:(メタ)アクリルアミド、シアン化ビニリデン、メタアクリロニトリル等のビニル化合物類等があげられる。かかる重合体を用いて公知の方法により、湿式紡糸等を行うことで、アクリロニトリル系繊維を得ることができる。
【0036】
次に、該アクリロニトリル系繊維にヒドラジン系化合物とアルカリ性金属化合物とを共存させた水性溶液を付着させ、加熱することによって、ヒドラジン系化合物による架橋の導入と加水分解を同時に行う。
【0037】
具体的には、ヒドラジン系化合物とアルカリ性金属化合物とを共存させた水性溶液を、前述のアクリロニトリル系繊維の乾燥質量に対する付着量が、アルカリ性金属化合物については1.0~20.0meq/g、好ましくは2.5~15.0meq/g、ヒドラジン系化合物については、N純分換算で0.01~2.0質量%、好ましくは0.05~1.5質量%の範囲内になるように付着させた繊維を調整し、該繊維を80℃以上の温度で1~120分間加熱、好ましくは100~150℃の湿熱雰囲気下で5~40分間加熱する手段を採用することが望ましい。
【0038】
ここで、乾燥繊維質量に対するヒドラジンの付着量が上記下限に満たない場合には、得られた芯鞘構造を有する繊維の吸水時のゲル強度が低くなるため、ゲルが脱落してしまう可能性がある。一方、上限を超えると、得られた芯鞘構造を有する繊維の吸水性能が不十分となる可能性がある。
【0039】
ここに使用するヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン等が例示される。また、アルカリ性金属化合物とは、1.0質量%水溶液としたときのpHが7.5以上を示す物質をいい、かかる物質の例としては、Na、K、Li等のアルカリ金属の水酸化物または炭酸、酢酸、ギ酸等の有機酸のNa、K、Li等のアルカリ金属塩をあげることができる。また、水性溶液を作製する溶媒としては、工業上は水が好ましいが、アルコール、アセトン、ジメチルホルムアミド等の水混和性有機溶媒と水との混合溶媒でも良い。
【0040】
上述してきた本発明の吸水膨潤性構造体は種々の用途に使用できる可能性があり、例えば油用水除去フィルター、有機溶剤用水除去フィルター、油水分離フィルター、液体侵入防止フィルターなどで使用することができる。
【0041】
油用水除去フィルターとして使用する例としては、本発明の吸水膨潤性構造体をシート状に成型し、蛇腹状に折ったものをフィルターの枠にはめ込んで使用する例や、シート状のものをフィルターホルダーのサイズに合わせて切り取り、該フィルターホルダーにセットして用いる例が挙げられる。かかる例においては、シート状の吸水膨潤性構造体に絶縁油、潤滑油、有機溶剤などの液体を通液させることで、該液体中に混入した水を除去し、また大量に水が混入している場合は吸水性繊維が膨潤しフィルターの空隙を埋めることで通液を止めることにより、フィルターの下流側に水を含む液体が通過することを防止することができる。
【0042】
また、液体侵入防止フィルターとして使用する例としては、本発明の吸水膨潤性構造体をコイン状に成型し、手術等で用いられる血液等の吸引器に設けられたフィルターホルダーにセットして用いる例が挙げられる。かかる例においては、血液等を吸引し、吸引器の液体収集容器が満タンになるとコイン状の吸水膨潤性構造体に血液等が接触して膨潤が起こり、空隙を埋めることで吸引をストップすることができる。これにより血液等が真空配管や真空ポンプ等に漏洩すること防止できる。
【実施例0043】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。
【0044】
<開孔径の評価方法>
吸水膨潤性構造体から開孔シートを取り出し、2cm角の大きさに切り取る。切り取った開孔シートをマイクロスコープで観察し、任意に選択した開孔20個について各開孔の最も長い径を測定し、平均値を開孔径とする。
【0045】
<開孔数の評価方法>
吸水膨潤性構造体から開孔シートを取り出し、1cm角の大きさに切り取る。切り取った開孔シートをルーペで観察し、開孔数を数える。
【0046】
<吸水性繊維の吸水率の評価方法>
試料約0.5gを純水中へ浸漬し、25℃に保ち30分間後、ナイロン濾布(200メッシュ)に包み、遠心脱水機(160G×5分、但しGは重力加速度)により繊維間の水を除去する。このようにして調整した試料の重量を測定する(W2[g])。次に該試料を80℃真空乾燥機中で恒量になるまで乾燥して重量を測定する(W3[g])。以上の測定結果から、次式によって算出する。
吸水率=(W2-W3)/W3
【0047】
<全カルボキシル基量の評価方法>
繊維試料約1gを、50mlの1mol/l塩酸水溶液に30分間浸漬する。次いで、繊維試料を、浴比1:500で水に浸漬する。15分後、浴pHが4以上であることを確認したら、乾燥させる(浴pHが4未満の場合は、再度水洗する)。次に、十分乾燥させた繊維試料約0.4gを精秤し(W1[g])、100mlの水を加え、さらに、15mlの0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液、0.4gの塩化ナトリウムおよびフェノールフタレインを添加して撹拌する。15分後、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで0.1mol/l塩酸水溶液で滴定し、塩酸水溶液消費量(V1[ml])を求める。得られた測定値から、次式によって全カルボキシル基量を算出する。
全カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V1)/W1
【0048】
<H型カルボキシル基量および塩型カルボキシル基量の評価方法>
上記の全カルボキシル基量の測定方法において、最初の1mol/l塩酸水溶液への浸漬およびそれに続く水洗を実施しないこと以外は同様にして、H型カルボキシル基量を算出する。かかるH型カルボキシル基量を上記の全カルボキシル基量から差し引くことで、塩型カルボキシル基量を算出する。
【0049】
<芯鞘構造の確認方法>
試料をカチオン染料で染色処理した後、繊維断面を光学顕微鏡で観察する。芯鞘構造の場合、表層部と中心部で色の濃さや色相が異なっていることが確認できる。
【0050】
<繊度>
試料を20℃×65%RH雰囲気下の恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして調湿させた繊維をJIS L 1015:2010の正量繊度A法に準じて測定する。
【0051】
<繊維長>
試料を20℃×65%RH雰囲気下の恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして調湿させた繊維をJIS L1015:2010の平均繊維長ステープルダイヤグラム法(A法)に準じて測定する。
【0052】
<吸水性繊維構造体の厚みの評価方法>
吸水膨潤性構造体試料を10cm×10cmに切り出した後、乾燥させ、ノギスを用い圧縮しないようにして吸水膨潤性構造体の厚みを測定する。同様の測定を別の任意の2箇所でも行い、全3箇所の測定結果の平均値を算出する。かかる平均値から吸水性繊維構造体以外の層の厚みを差し引くことにより、吸水性繊維構造体の厚みを算出する。
【0053】
<吸水性繊維構造体の目付けの評価方法>
カードウェブ試料を10cm×10cmに切り出した後、105℃2時間乾燥させ、試料の重量(W6[g])を測定する。以上の結果から、次式によって算出した数値を吸水性繊維構造体の目付けとする。
目付け(g/m)=W6/(0.1×0.1)
【0054】
<止水性能の評価方法>
止水性能を評価するための装置は、柴田科学株式会社のろ過器(品番:061630-4705)を使用して行った。ろ過器とは吸引ろ過瓶にガラスフィルターベースを取り付け、その上にフィルターホルダーをセットしたものである。このろ過器のガラスフィルターベースとフィルターホルダーの間に10cm角にカットした吸水性繊維構造体を挟み、-80kPaで吸引した状態で、上から水400mlを供給し、ろ過瓶に落下した水の量を測定する。この値が15mlを超えると実使用においても水が通液してしまい、フィルターとして適さない。
【0055】
<通液性の評価方法>
通液性の評価は、止水性能の評価方法と同様に行う。ただし使用する液体はキシレンであり、400ml通液するまでにかかる時間を測定する。キシレンが通液しない、もしくは通液に30秒以上かかる場合は、本来の目的である有機液体等の通液ができないことや時間がかかりすぎてしまうために、実使用には適さない。
【0056】
<吸水性繊維の製造方法>
アクリロニトリル90%およびアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、水洗、延伸、乾燥、捲縮付与、熱処理、カットを経て、原料となるアクリロニトリル系繊維を得た。次に、かかるアクリロニトリル系繊維にヒドラジン0.10%および水酸化ナトリウム35.0%を含む混合水溶液を付着させた後、繊維質量に対する吸液量が100%になるように絞り、109℃×15分間架橋加水分解処理を行い、水洗した。水洗後の繊維を0.1%硫酸水溶液に30℃×1時間浸漬した後、脱水し、油剤を付与し、脱水、開繊した後、アンモニアガスを吹きかけ乾燥することで、芯部分がアクリロニトリル系重合体であり、鞘部分がカルボキシル基を有するアクリル酸系重合体である芯鞘構造を有する吸水性繊維を得た。かかる吸水性繊維は、繊度5.6dtex、繊維長51mm、吸水率20000質量%、塩型カルボキシル基量1.6mmol/gであった。
【0057】
[実施例1~3]
上記記載の方法で得られた吸水性繊維のみを用いて表1に記載の繊維構造体の目付の半分の目付である2枚のカードウェブを作製した。次に、ポリエステル繊維のスパンボンド不織布(東洋紡社製エクーレ(登録商標)3201A、厚み0.15mm、目付20g/m)/該カードウェブ/ポリエチレン製シート(厚み50μm)/該カードウェブ/ポリエステル繊維のスパンボンド不織布(東洋紡社製エクーレ(登録商標)3201A、厚み0.15mm、目付20g/m)の順で積層し、ニードルパンチ加工を表、裏、表の順番で3回施すことで5層構造である実施例1~3の吸水膨潤性構造体を得た。これらの吸水膨潤性構造体の評価結果を表1に示す。なおニードルパンチ加工には大和機工株式会社製のニードルパンチ機を使用し、針はオルガン針株式会社社製のFPD-1 40Cを用いた。
【0058】
[実施例4]
実施例1において、2枚のカードウェブの代わりに、上記の吸水性繊維を用いた525g/mのカードウェブを4枚作製すること、および、実施例1で使用したのと同じスパンボンド不織布/該カードウェブ2枚/ポリエチレン製シート(厚み50μm)/該カードウェブ2枚/実施例1で使用したのと同じスパンボンド不織布の7層構造とすること以外は同様として、実施例4の吸水膨潤性構造体を得た。かかる吸水膨潤性構造体の評価結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
実施例2においてニードルパンチ加工を表、裏、表、裏、表の順番で5回施すこと以外は同様として、実施例5の吸水膨潤性構造体を得た。かかる吸水膨潤性構造体の評価結果を表1に示す。
【0060】
[実施例6]
実施例2においてニードルパンチ加工を表、裏の順番で2回施すこと以外は同様として、実施例6の吸水膨潤性構造体を得た。かかる吸水膨潤性構造体の評価結果を表1に示す。
【0061】
[実施例7]
吸水性繊維を用いて表1に記載の繊維構造体の目付の半分の目付である2枚のカードウェブを作製した。次に、実施例1で使用したのと同じスパンボンド不織布/該カードウェブ/1.0mmの開孔を8個/cm有するポリエチレン製シート(厚み50μm)/該カードウェブ/実施例1で使用したのと同じスパンボンド不織布の順で積層し、各層を接着剤で点接着することで5層構造である実施例7の吸水膨潤性構造体を得た。かかる吸水膨潤性構造体の評価結果を表1に示す。
【0062】
[実施例8]
実施例2において、上記記載の方法で得られた吸水性繊維の代わりに、吸水率5880質量%、塩型カルボキシル基量7.3mmol/gを有し、芯鞘構造でない吸水性繊維(帝人フロンティア社製「ベルオアシス(登録商標)」、繊度11dtex、繊維長52mm)を用いること以外は同様として、実施例8の吸水膨潤性構造体を得た。かかる吸水膨潤性構造体の評価結果を表1に示す。
【0063】
[実施例9]
実施例2において、吸水性繊維のみを用いる代わりに、上記記載の方法で得られた吸水性繊維60質量%とポリエステル繊維40質量%を混綿してカードウェブを作成すること以外は同様として、実施例9の吸水膨潤性構造体を得た。かかる吸水膨潤性構造体の評価結果を表1に示す。
【0064】
[実施例10]
実施例2において、吸水性繊維のみを用いる代わりに、吸水性繊維60質量%と熱融着ポリエステル繊維40質量%を混綿してカードウェブを作成すること、およびニードルパンチ加工後に130℃で5分間加熱して、熱融着させること以外は同様として、実施例10の吸水膨潤性構造体を得た。かかる吸水膨潤性構造体の評価結果を表1に示す。
【0065】
[実施例11]
実施例2において、スパンボンド不織布を積層しないこと以外は同様にして、3層構造である実施例11の吸水膨潤性構造体を得た。これらの吸水膨潤性構造体の評価結果を表1に示す。
【0066】
[比較例1]
実施例2において、開孔シートを用いないこと以外は同様として比較例1の吸水膨潤性構造体を得た。かかる吸水膨潤性構造体の評価結果を表1に示す。比較例1については、開孔シートが積層されていないために、十分な止水性能が得ることができなかった。
【0067】
[比較例2、3]
実施例7において、開孔径、開孔数が異なるポリエチレン製シートを用いること以外は同様にして比較例2および3の吸水膨潤性構造体を得た。これらの吸水膨潤性構造体の評価結果を1に示す。比較例2については、開孔径が小さすぎるために、止水性能は有するものの、通液性がなく、実使用には適さないものとなった。比較例3については開孔径が大きいために、十分な止水性能が得ることができなかった。
【0068】
[比較例4、5]
実施例2において、繊維構造体の目付を表1記載の値に変更すること以外は同様にして比較例4および5の吸水膨潤性構造体を得た。これらの吸水膨潤性構造体の評価結果を1に示す。比較例4については、吸水性繊維構造体の目付が低いために十分な止水性能が得ることができなかった。比較例5については、目付が高すぎるため通液性が低くなると同時に、厚くなりすぎひだ折りや打ち抜きなどの加工が困難になることが懸念された。
【0069】
【表1】