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特開2023-67826非可逆回路素子及びこれを備える通信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067826
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】非可逆回路素子及びこれを備える通信装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/383 20060101AFI20230509BHJP
   H01P 1/36 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
H01P1/383 A
H01P1/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171968
(22)【出願日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】202111270567.7
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513197840
【氏名又は名称】ティーディーケイ大連電子有限公司
【住所又は居所原語表記】No.68 West Huaihe Road, Dalian Economic & Technical Development Zone, Liaoning, Postal Code 116600, China
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】大波多 秀典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 航輔
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 英行
(57)【要約】
【課題】誘電体基板に設けられた貫通孔に磁気回転子が収容された構造を有する非可逆回路素子において挿入損失を低減する。
【解決手段】非可逆回路素子1は、貫通孔11aを有する誘電体基板10と、貫通孔11aに収容された磁気回転子Mと、磁気回転子Mに磁界を印加する永久磁石20とを備える。磁気回転子Mは、貫通孔11aの内壁と接することなく誘電体基板10に支持されている。このように、非可逆回路素子1は、磁気回転子Mが貫通孔11aの内壁と接していないことから、挿入損失を低減することが可能となる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する誘電体基板と、
前記貫通孔に収容された磁気回転子と、
前記磁気回転子に磁界を印加する永久磁石と、を備え、
前記磁気回転子は、前記貫通孔の内壁と接することなく前記誘電体基板に支持されている非可逆回路素子。
【請求項2】
前記磁気回転子と前記貫通孔の内壁との最小距離は、50μm以上である請求項1に記載の非可逆回路素子。
【請求項3】
前記磁気回転子と前記貫通孔の内壁との最小距離は、100μm以上である請求項2に記載の非可逆回路素子。
【請求項4】
前記磁気回転子と前記貫通孔の内壁との最小距離は、150μm以下である請求項2に記載の非可逆回路素子。
【請求項5】
前記誘電体基板の上面に形成され、前記磁気回転子に接続される接続パターンと、前記誘電体基板の下面に形成され、前記接続パターンに接続される端子電極と、前記誘電体基板の前記下面に形成されたグランドパターンとをさらに備え、
前記接続パターンと前記グランドパターンの重なりによって整合容量が構成される請求項1に非可逆回路素子。
【請求項6】
前記誘電体基板、前記磁気回転子及び前記永久磁石を挟み込む上部ヨーク及び下部ヨークをさらに備え、
前記誘電体基板の前記下面は、前記下部ヨークの一部を収容する凹部を有している請求項5に記載の非可逆回路素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の非可逆回路素子を備えた通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は非可逆回路素子及びこれを備える通信装置に関し、特に、誘電体基板に設けられた貫通孔に磁気回転子が収容された構造を有する非可逆回路素子及びこれを備える通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気装置の一種であるアイソレータやサーキュレータ等の非可逆回路素子は、上部ヨークと下部ヨークによって磁気回転子及び永久磁石を挟み込む構成を有している。特許文献1~3に記載された非可逆回路素子は、誘電体基板に設けられた貫通孔の内部に磁気回転子を収容した構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-043808号公報
【特許文献2】特開平9-321504号公報
【特許文献3】特開平11-234003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの研究によれば、磁気回転子が貫通孔の内壁に接すると、挿入損失が増加することが明らかとなった。
【0005】
したがって、本開示は、誘電体基板に設けられた貫通孔に磁気回転子が収容された構造を有する非可逆回路素子において、挿入損失を低減することを目的とする。また、本開示は、このような非可逆回路素子を備える通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示による非可逆回路素子は、貫通孔を有する誘電体基板と、貫通孔に収容された磁気回転子と、磁気回転子に磁界を印加する永久磁石とを備え、磁気回転子は、貫通孔の内壁と接することなく誘電体基板に支持されている。
【0007】
また、本開示による通信装置は、上記の非可逆回路素子を備える。
【0008】
本開示に係る技術によれば、磁気回転子が貫通孔の内壁と接していないことから、挿入損失を低減することが可能となる。
【0009】
本開示において、磁気回転子と貫通孔の内壁との最小距離は、50μm以上であっても構わない。これによれば、挿入損失を十分に低減することが可能となる。また、磁気回転子と貫通孔の内壁との最小距離は、100μm以上であっても構わない。これによれば、挿入損失の低減効果を最大限に得ることが可能となる。さらに、磁気回転子と貫通孔の内壁との最小距離は、150μm以下であっても構わない。これによれば、誘電体基板の有効面積を確保しつつ、挿入損失を低減することが可能となる。
【0010】
本開示による非可逆回路素子は、誘電体基板の上面に形成され、磁気回転子に接続される接続パターンと、誘電体基板の下面に形成され、接続パターンに接続される端子電極と、誘電体基板の下面に形成されたグランドパターンとをさらに備え、接続パターンとグランドパターンの重なりによって整合容量を構成しても構わない。これによれば、誘電体基板の下面を実装面として用いることができることから、インサートモールド成型が必要な複合パーツが不要となる。また、誘電体基板自体にキャパシタパターンが設けられていることから、整合用のチップコンデンサを用いる必要がなく、部品点数を削減することができる。
【0011】
本開示による非可逆回路素子は、誘電体基板、磁気回転子及び永久磁石を挟み込む上部ヨーク及び下部ヨークをさらに備え、誘電体基板の下面は、下部ヨークの一部を収容する凹部を有していても構わない。これによれば、表面実装する際に下部ヨークと実装基板の干渉が生じない。
【発明の効果】
【0012】
このように、本開示に係る技術によれば、誘電体基板に設けられた貫通孔に磁気回転子が収容された構造を有する非可逆回路素子において、挿入損失を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本開示に係る技術の一実施形態による非可逆回路素子1の外観を示す略斜視図であり、上側から見た状態を示している。
図2図2は、本開示に係る技術の一実施形態による非可逆回路素子1の外観を示す略斜視図であり、下側から見た状態を示している。
図3図3は、非可逆回路素子1から下部ヨーク40を取り外した状態を示す略斜視図である。
図4図4は、非可逆回路素子1から永久磁石20及び上部ヨーク30を取り外した状態を示す略斜視図である。
図5図5は、誘電体基板10の略斜視図である。
図6図6は、磁気回転子Mの構造を説明するための略平面図である。
図7図7は、磁気回転子Mから中心導体81を除去した状態を示す略斜視図である。
図8図8は、貫通孔11aと磁気回転子Mの位置関係を説明するための略平面図である。
図9図9は、磁気回転子Mと貫通孔11aの内壁の距離Lと挿入損失との関係を説明するためのグラフである。
図10図10は、非可逆回路素子を用いた通信装置200の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本開示に係る技術の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1及び図2は、本開示に係る技術の一実施形態による非可逆回路素子1の外観を示す略斜視図であり、図1は上側から見た図、図2は下側から見た図である。
【0016】
本実施形態による非可逆回路素子1は表面実装型の非可逆回路素子であり、図1及び図2に示すように、誘電体基板10及び永久磁石20と、これらを挟み込む上部ヨーク30及び下部ヨーク40を備えている。誘電体基板10の下面12には、端子電極51~56と、グランドパターン50が設けられている。上部ヨーク30は、xy平面を有する天板部31と、yz平面を有する折り曲げ部32,33を有している。下部ヨーク40は、xy平面を有する底板部41と、xz平面を有する折り曲げ部42,43を有している。下部ヨーク40の折り曲げ部42,43は、上部ヨーク30の天板部31と嵌合し、これにより閉磁路が形成される。
【0017】
図3は、非可逆回路素子1から下部ヨーク40を取り外した状態を示す略斜視図である。図4は、非可逆回路素子1から永久磁石20及び上部ヨーク30を取り外した状態を示す略斜視図である。図5は、誘電体基板10の略斜視図である。
【0018】
図3図5に示すように、誘電体基板10はxy平面を構成する上面11及び下面12を有するとともに、その略中央部には誘電体基板10をz方向に貫通する貫通孔11aが設けられている。貫通孔11aには、磁気回転子Mが収容される。誘電体基板10の上面11は平坦であるのに対し、誘電体基板10の下面12にはy方向に延在する凹部12aが設けられており、この部分において誘電体基板10の厚みが薄くなっている。凹部12aには、下部ヨーク40の底板部41が収容される。これにより、下部ヨーク40の底板部41が誘電体基板10の下面12から突出することがない。
【0019】
誘電体基板10の上面11には、接続パターン61~63が設けられている。接続パターン61~63は、それぞれ磁気回転子MのポートP1~P3に接続される。また、接続パターン61~63のうち、下面12のグランドパターン50と重なる部分は、キャパシタの容量電極を兼用する。つまり、誘電体基板10の上面11に形成された接続パターン61~63と、誘電体基板10の下面12に形成されたグランドパターン50は、キャパシタパターンを構成する。接続パターン61は、誘電体基板10の側面13に設けられた接続パターン71を介して、誘電体基板10の下面12に設けられた端子電極51に接続される。接続パターン62は、誘電体基板10の側面14に設けられた接続パターン72を介して、誘電体基板10の下面12に設けられた端子電極52に接続される。接続パターン63は、誘電体基板10の側面13に設けられた接続パターン73を介して、誘電体基板10の下面12に設けられた端子電極53に接続される。側面13,14はyz平面を構成する。端子電極54~56は、グランドパターン50及び下部ヨーク40の底板部41を介して、磁気回転子Mに含まれるグランド導体80に接続される。
【0020】
図6は、磁気回転子Mの構造を説明するための略平面図である。
【0021】
図6に示すように、磁気回転子Mは、中心導体81~83とフェライトコア90を備えている。中心導体81~83はそれぞれ絶縁フィルムで覆われているが、図面の見やすさを考慮して、これら絶縁フィルムは図示されていない。また、図7には中心導体81を除去した状態が示されている。中心導体81~83は、互いに略120°の角度で交差する複数の金属導体によって構成される。図6及び図7に示す例では、中心導体81が4本の金属導体からなり、中心導体82,83がそれぞれ2本の金属導体からなる。中心導体83の導体幅は、特性調整のため中心部において拡大されている。中心導体81,82の導体幅は一定である。中心導体81~83の一端はそれぞれポートP1~P3に接続され、他端はフェライトコア90の裏面側に位置するグランド導体80に共通に接続される。これにより、フェライトコア90は、中心導体81~83とグランド導体80に挟まれることになる。
【0022】
かかる構成により、中心導体81は接続パターン61,71を介して端子電極51に接続され、中心導体82は接続パターン62,72を介して端子電極52に接続され、中心導体83は接続パターン63,73を介して端子電極53に接続される。さらに、グランド導体80は、下部ヨーク40の底板部41及びグランドパターン50を介して、端子電極54~56に接続される。
【0023】
図8は、貫通孔11aと磁気回転子Mの位置関係を説明するための略平面図である。
【0024】
図8に示すように、磁気回転子Mは、貫通孔11aの内壁と接することなく誘電体基板10に支持されている。つまり、貫通孔11aの内部においては、磁気回転子Mが浮いた状態で支持されている。このような構造を採用しているのは、磁気回転子Mが貫通孔11aの内壁と接すると、挿入損失が増加するからである。
【0025】
図9は、磁気回転子Mと貫通孔11aの内壁の距離Lと挿入損失との関係を説明するためのグラフである。
【0026】
図9に示すように、挿入損失は、磁気回転子Mと貫通孔11aの内壁の距離Lが離れるほど低減する。特に、距離Lが50μm以下の領域では、距離Lの増大による挿入損失の低減効果が顕著である。この点を考慮すれば、距離Lは50μm以上であることが好ましい。また、距離Lが100μm程度になると、距離Lの増大による挿入損失の低減効果がほぼ飽和する。この点を考慮すれば、距離Lは100μm以上であることが好ましい。さらに、距離Lが150μm程度になると、距離Lの増大による挿入損失の低減効果は完全に飽和する。距離Lを150μm超に設計しても構わないが、この場合には、誘電体基板10の平面サイズが増加するか、或いは、誘電体基板10の有効面積が減少することから、距離Lは150μm以下であることが好ましい。
【0027】
距離Lは磁気回転子Mの全周に亘って一定であっても構わないし、ばらつきが存在していても構わない。挿入損失の低減効果は、磁気回転子Mと貫通孔11aの内壁との最小距離に依存することから、距離Lにばらつきが存在する場合には、距離Lを最小距離によって定義すれば良い。
【0028】
ここで、上面11に設けられた接続パターン61~63の一部は、下面12に設けられたグランドパターン50とz方向に重なりを有している。接続パターン61~63とグランドパターン50の重なりによって得られる容量成分は、整合容量として利用される。これにより、誘電体基板10に整合用のチップコンデンサを搭載する必要がなくなることから、部品点数を削減することができる。整合容量のキャパシタンスは、接続パターン61~63の形状や面積によって調整可能である。また、誘電体基板10と下部ヨーク40は別部材であることから、インサートモールド成型が必要な複合パーツを用いる必要がない。
【0029】
しかも、本実施形態においては、誘電体基板10に貫通孔11aが設けられ、貫通孔11aに磁気回転子Mが収容されていることから、非可逆回路素子1を低背化することが可能となる。
【0030】
図10は、上記実施形態による非可逆回路素子1を用いた通信装置200の構成を示すブロック図である。
【0031】
図10に示す通信装置200は、例えば移動体通信システムにおける基地局に備えられるものであって、受信回路部200Rと送信回路部200Tとを含み、これらが送受信用のアンテナANTに接続されている。受信回路部200Rは、受信用増幅回路201と、受信された信号を処理する受信回路202とを含んでいる。送信回路部200Tは、音声信号、映像信号などを生成する送信回路203と、電力増幅回路204とを含んでいる。
【0032】
このような構成を有する通信装置200において、アンテナANTから受信回路部200Rに到る経路や、送信回路部200TからアンテナANTに至る経路に、非可逆回路素子211,212が挿入される。非可逆回路素子211,212は、上記実施形態による非可逆回路素子1を用いることができる。図10に示す例では、非可逆回路素子211がサーキュレータとして機能し、非可逆回路素子212が終端抵抗器R0を有するアイソレータとして機能する。
【0033】
以上、本開示に係る技術の実施形態について説明したが、本開示に係る技術は、上記の実施形態に限定されることなく、その主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本開示に係る技術の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0034】
1 非可逆回路素子
10 誘電体基板
11 誘電体基板の上面
11a 貫通孔
12 誘電体基板の下面
12a 凹部
13,14 誘電体基板の側面
20 永久磁石
30 上部ヨーク
31 天板部
32,33 折り曲げ部
40 下部ヨーク
41 底板部
42,43 折り曲げ部
50 グランドパターン
51~56 端子電極
61~63,71~73 接続パターン
80 グランド導体
81~83 中心導体
90 フェライトコア
200 通信装置
200R 受信回路部
200T 送信回路部
201 受信用増幅回路
202 受信回路
203 送信回路
204 電力増幅回路
211,212 非可逆回路素子
ANT アンテナ
M 磁気回転子
P1~P3 ポート
R0 終端抵抗器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10