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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067829
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】化学変性パルプ繊維
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/20 20060101AFI20230509BHJP
   D06M 13/184 20060101ALI20230509BHJP
   D06M 13/256 20060101ALI20230509BHJP
   D06M 13/292 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
D21H11/20
D06M13/184
D06M13/256
D06M13/292
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172423
(22)【出願日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2021177414
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021182175
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304040072
【氏名又は名称】丸住製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 朱十
【テーマコード(参考)】
4L033
4L055
【Fターム(参考)】
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA16
4L033BA28
4L033BA39
4L055AF10
4L055AG36
4L055EA16
4L055EA32
(57)【要約】
【課題】取り扱い性に優れ、かつ優れた膨潤性を有する化学変性パルプ繊維を提供する。
【解決手段】セルロースの構成単位の少なくとも一部に一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)からなる群から選ばれる1種の構造を有するパルプ繊維であり、一般式(1)を有する場合のSO Zの導入量、一般式(2)を有する場合のCO Zの導入量および一般式(3)を有する場合のPO 2-Zの導入量が、それぞれ0.8mmol/g以上5mmol/g以下であり、パルプ繊維は、繊維の径方向の変化率が、1.3以上、8以下であり、変化率は、水を吸収した状態における平均膨潤繊維幅を、乾燥状態における平均非膨潤繊維幅で除した値である。繊維が径方向に沿って伸縮可能な構造であるので、本発明の化学変性パルプ繊維は、様々な分野への利用できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースの構成単位の少なくとも一部に下記の一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)からなる群から選ばれる1種の構造を有するパルプ繊維であり、
前記一般式(1)を有する場合のSO Zの導入量、前記一般式(2)を有する場合のCO Zの導入量および前記一般式(3)を有する場合のPO 2-Zの導入量が、それぞれ0.8mmol/g以上5mmol/g以下であり、
前記パルプ繊維は、
繊維の径方向の変化率が、1.3以上、8以下であり、
該変化率は、
水を吸収した状態における平均膨潤繊維幅を、乾燥状態における平均非膨潤繊維幅で除した値である
ことを特徴とする化学変性パルプ繊維。

(一般式(1))
【化1】

(式中、Rは、SO Z又はHを示す。ただし、Rは、同一でも異なっていてもよい。またSO Zを少なくとも1以上含む。Zは、水素イオン、金属イオン、オニウムイオンまたはカチオン性有機化合物を示す。nは1以上の整数を示す。)

(一般式(2))
【化2】
(式中、Rは、CO Z又はHを示す。ただし、Rは、同一でも異なっていてもよい。またCO Zを少なくとも1以上含む。Zは、水素イオン、金属イオン、オニウムイオンまたはカチオン性有機化合物を示す。nは1以上の整数を示す。)

(一般式(3))
【化3】

(式中、Rは、PO 2-Z又はHを示す。ただし、Rは、同一でも異なっていてもよい。またPO 2-Zを少なくとも1以上含む。Zは、水素イオン、金属イオン、オニウムイオンまたはカチオン性有機化合物を示す。nは1以上の整数を示す。)
【請求項2】
前記パルプ繊維は、
復元率が、0.8以上、1.3以下であり、
該復元率は、
乾燥状態のパルプ繊維の平均非膨潤繊維幅に対する、該乾燥状態のパルプ繊維に水を吸収させて膨潤したパルプ繊維を乾燥させた乾燥状態における平均非膨潤繊維幅の割合を、下記式により算出した値である
ことを特徴とする請求項1記載の化学変性パルプ繊維。

復元率=(乾燥状態のパルプ繊維Aに水を吸収させて膨潤したパルプ繊維を乾燥させた状態における平均非膨潤繊維幅)/(乾燥状態のパルプ繊維Aの平均非膨潤繊維幅)
【請求項3】
前記パルプ繊維は、
水を吸収した状態における平均膨潤繊維幅が、60μm以上であり、
該平均膨潤繊維幅は、
偏光顕微鏡を用いて測定された固形分濃度が0.1質量%に調整した状態におけるパルプ繊維の平均膨潤繊維幅(10本の膨潤繊維幅の合計値/10)である
ことを特徴とする請求項1または2記載の化学変性パルプ繊維。

(膨潤繊維幅は、偏光顕微鏡を用いて測定された固形分濃度が0.1質量%に調整した状態における1本のパルプ繊維のうち繊維幅が最も大きい箇所の繊維幅の値である。)
【請求項4】
前記パルプ繊維は、針葉樹を原料とするものである
ことを特徴とする請求項1または2記載の化学変性パルプ繊維。
【請求項5】
前記水のpHは、5~9である
ことを特徴とする請求項1または2記載の化学変性パルプ繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学変性パルプ繊維に関する。さらに詳しくは、セルロースにアニオン性の置換基が導入された化学変性パルプ繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
木材パルプは、主にセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンから構成される木材がリグニンやヘミセルロースにより固着されたセルロースを主とする木材繊維(針葉樹:主に仮道管、広葉樹:主に道管と木繊維)を単繊維化することにより得られる。樹種や樹齢、製造法によって得られるパルプ繊維の大きさ(長さや幅)は異なるが、得られたパルプの繊維幅は数十マイクロスケールの大きさであり、セルロースの高い物理的・化学的安定性により形状変化(とくに繊維幅を増幅させるような変化)が乏しいことが知られている。
【0003】
そこで、このような形状変化が乏しいパルプを強アルカリ条件にすることにより、パルプの繊維を径方向へ増幅させる技術が提案されている(例えば、非特許文献1、2)。これらの文献には、パルプをアルカリ性の水溶液(例えば、固形分濃度の高い水酸化ナトリウム水溶液)に浸漬させることにより繊維を膨潤させることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】SHUAI ZHANG, WEN-CONG WANG, FA-XUE LI and JIAN-YONG YU, Cellulose Chem. Technol., 47 (9-10), 671-679 (2013).
【非特許文献2】Monica Spinu, Nuno Dos Santos, Nicolas Le Moigne and Patrick Navard, Cellulose 18, 247-256 (2011).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的にパルプ繊維は、水分を吸収すれば幅方向に若干大きくなるものの、それ以上の大きさにすることは難しいことは知られている。そして、上記文献の技術では、水分を吸収した状態よりも膨潤させることができるものの、特定の条件下でのみという条件付きの技術である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、取り扱い性に優れ、かつ優れた膨潤性を有する化学変性パルプ繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべき鋭意検討を重ねた結果、本発明者は、上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明の化学変性パルプ繊維は、セルロースの構成単位に所定のアニオン性の置換基が導入されたパルプ繊維であり、該パルプ繊維は、繊維の径方向の変化率が、1.3以上、8以下であり、該変化率は、水を吸収した状態における平均膨潤繊維幅を乾燥状態における平均非膨潤繊維幅で除した値であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化学変性パルプ繊維は、繊維の径方向に沿って伸縮可能な構造であるので、様々な分野への利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】繊維幅の測定方法の概念図を示した図である。
図2】実験結果の一例を示した図である。
図3】実験結果の一例を示した図である。
図4】実験結果の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本実施形態の化学変性パルプ繊維は、セルロースに所定のアニオン性の性質を有する置換基を導入したパルプ繊維であり、繊維の径方向に伸縮可能な構造にしたことに特徴を有している。
具体的には、本実施形態の化学変性パルプ繊維は、水分を吸収すれば繊維の径方向に径が伸び(拡径)、水分を除去すれば繊維の径方向に径が縮む(縮径)構造になっている。この繊維の径方向における変化率は、一般的なパルプ繊維のものとは異なる変化率となるように形成されている。例えば、一般的なパルプ繊維は、乾燥状態から水を吸収した際の膨潤状態との変化率が1.1程度であるのに対して、本実施形態の化学修飾セルロース微細繊維は、この値よりも径方向における変化率が大きくなるような構造に形成されている。
【0012】
上記のごとく径方向に伸縮する本実施形態の化学変性パルプ繊維は、以下に示す製造方法を用いて製造することができる。
【0013】
(本実施形態の化学変性パルプ繊維の製造方法)
まず、本実施形態の化学変性パルプ繊維の製造方法(以下、本製法という)の概略を示す。
本製法は、セルロースを含む繊維原料(例えば木材パルプなど)を所定の化学処理工程に供することによって製造する方法である。
この化学処理工程は、供給された繊維原料を反応液に接触(接触工程)させた後、加熱反応(反応工程)に供してセルロースに所定の置換基を導入するというものである。つまり、セルロース(セルロース分子ともいう)は、下記一般式(1)(式中のmは整数を示す。)によって示されるD-グルコースがβ(1→4)グリコシド結合した鎖状の高分子であり、このセルロースが複数集合したものがパルプ繊維である。そして、このセルロースに所定のアニオン性の置換基(SO Z、CO Z、PO 2-Z)が導入されたパルプ繊維が本実施形態の化学変性パルプ繊維である。具体的には、この化学変性パルプ繊維は、セルロースの構成単位の少なくとも一部に一般式(2)、一般式(3)および一般式(4)からなる群から選ばれる1種の構造を有するように製造されたパルプ繊維である。
【0014】
なお、本明細書にいう繊維原料とは、セルロース分子を含む繊維状の部材をいい、例えば、木材等を原料するパルプなどが含まれる。パルプとは、パルプ繊維が集合した部材(パルプ繊維の集合体)であり、パルプ繊維とは、複数のセルロース繊維から構成された繊維状の部材を意味する。そして、セルロース繊維とは、複数の微細繊維(例えば、ミクロフィブリル等)が集合した繊維状の部材であり、微細繊維とは、D-グルコースがβ(1→4)グリコシド結合した鎖状の高分子であるセルロース分子(セルロース)が複数集合した部材を意味する。
【0015】
本製法において、繊維原料は、そのまま使用してもよいが、使用前に洗浄したものを用いてもよい。洗浄する方法はとくに限定されない。例えば、200メッシュもしくは235メッシュのふるい上で水を使ってろ過脱水することで、微細繊維やゴミをふるい落とすことができるので、製造時の取扱性を向上させることができる。言い換えれば、200メッシュや235メッシュの残渣となり得るサイズの繊維が、事前に洗浄した際に用いられるパルプ繊維である。繊維原料の詳細は後述する。
【0016】
以下、化学処理工程の各工程について説明する。
【0017】
(接触工程)
化学処理工程における接触工程は、繊維原料に対して反応液に含まれるアニオン性の置換基の導入に必要な化合物を接触させる工程である。
接触工程における接触方法は、とくに限定されない。例えば、反応液に繊維原料(例えば、木材パルプなど)を浸漬等して繊維原料に反応液を含浸させてもよいし、繊維原料に対して反応液を塗布してもよいし、繊維原料に対して上記化合物を直接塗布(複数の化合物を使用する場合にはそれぞれ別々に塗布)したり、含浸させたり、スプレー噴霧してもよい。例えば、反応液に繊維原料を浸漬させる方法を採用すれば、均質に繊維原料と反応液を接触させ易いという利点が得られる。
【0018】
なお、反応液の溶媒は、上記化合物を溶解または分散させることができるものであればとくに限定されない。
例えば、水(イオン交換水や蒸留水等の純水はもちろんのこと水道水等を含む)のみの場合のほか、エタノールやメタノール、酢酸、ギ酸、2‐プロパノール、ニトロメタン、アンモニア水のようなプロトン性極性溶媒や、アセトンや、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルフィド(DMS)、ジメチルアセトアミド(DMA)等の非プロトン性極性溶媒や、ジエチルエーテルや、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、クロロホルム、1,4-ジオキサン等の非極性溶媒などを挙げることができ、これらを単体で使用してもよいし、2種以上を混合したものを使用してもよい。
【0019】
反応液に用いる化合物は、上述したようにセルロース(一般式(1)に示す)に所定の置換基を導入できるものであれば、とくに限定されない。
例えば、下記の一般式(2)で示す構成単位を少なくとも有する場合には、スルファミン酸を挙げることができ、下記の一般式(3)で示す構成単位を少なくとも有する場合には、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)を挙げることができる。また、下記の一般式(4)で示す構成単位を少なくとも有する場合には、リン酸二水素アンモニウムを挙げることができる。
【0020】
なお、アニオン性の置換基を導入することを本明細書では単に置換といい、反応後にセルロースを構成する少なくとも一部の水酸基に、置換反応や酸化反応などにより所定のアニオン性の置換基が結合した状態のことを意味する。
具体的には、本明細書のセルロースが構成単位であるDグルコースにSO Zが1個以上導入されたものや、CO Zが1個以上導入されたもの、PO 2-Zが1個以上導入されたDグルコースをセルロースの構成単位の一部に少なくとも有することを意味する。
例えば、セルロースの構成単位であるDグルコースの6位の水酸基が置換反応によりアニオン性のSO ZまたはPO 2-Zが導入された構造(上記置換基がいわゆるエステル結合した構造、例えば一般式(5)や一般式(7))や、Dグルコースの6位の水酸基が酸化反応によりCO Zに置き換わった(置換された)構造(例えば、一般式(6))を挙げることができる。
【0021】
なお、Dグルコースの6位にのみ上記置換基が導入された構造としては、一般式(5)、一般式(6)または一般式(7)を挙げることができるが、置換基の導入位置はこれらに限定されない。
例えば、上述したようにDグルコースの2位、3位、6位のいずれかに上記置換基のいずれかが導入された構造のほか、これらの導入可能な位置に2つ導入された構造や、3つ導入された構造であってもよい。
【0022】
(一般式(1))
【化1】
【0023】
(一般式(2))
【化2】

(式中、Rは、SO Z又はHを示す。ただし、Rは、同一でも異なっていてもよい。またSO Zを少なくとも1以上含む。Zは、水素イオン、金属イオン、オニウムイオンまたはカチオン性有機化合物を示す。nは1以上の整数を示す。)
【0024】
なお、SO Zは、セルロースのD-グルコースに最大で3個結合することができる。このため、Zは、水素イオン、アルカリ金属の陽イオン、1価の遷移金属イオン、オニウムイオン(アンモニウムイオン、脂肪族アンモニウムイオン、芳香族アンモニウムイオン等)、カチオン性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種とすることができる。また、Zが、アルカリ土類金属の陽イオンまたは多価金属の陽イオン、ジアミンのようなカチオン性官能基を分子内に2以上含有する化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の場合もある。
【0025】
(一般式(3))
【化3】
(式中、Rは、CO Z又はHを示す。ただし、Rは、同一でも異なっていてもよい。またCO Zを少なくとも1以上含む。Zは、水素イオン、金属イオン、オニウムイオンまたはカチオン性有機化合物を示す。nは1以上の整数を示す。)
【0026】
なお、CO Zは、セルロースのD-グルコースに最大で3個結合することができる。このため、Zは、水素イオン、アルカリ金属の陽イオン、1価の遷移金属イオン、オニウムイオン(アンモニウムイオン、脂肪族アンモニウムイオン、芳香族アンモニウムイオン等)、カチオン性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種とすることができる。また、Zが、アルカリ土類金属の陽イオンまたは多価金属の陽イオン、ジアミンのようなカチオン性官能基を分子内に2以上含有する化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の場合もある。
【0027】
(一般式(4))
【化4】
(式中、Rは、PO 2-Z又はHを示す。ただし、Rは、同一でも異なっていてもよい。またPO 2-Zを。少なくとも1以上含む。Zは、水素イオン、金属イオン、オニウムイオンまたはカチオン性有機化合物を示す。nは1以上の整数を示す。)
【0028】
なお、PO 2-Zは、セルロースのD-グルコースに最大で3個結合することができる。このため、Zは、水素イオン、アルカリ金属の陽イオン、1価の遷移金属イオン、オニウムイオン(アンモニウムイオン、脂肪族アンモニウムイオン、芳香族アンモニウムイオン等)、カチオン性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種とすることができる。また、Zが、アルカリ土類金属の陽イオンまたは多価金属の陽イオン、ジアミンのようなカチオン性官能基を分子内に2以上含有する化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の場合もある。
【0029】
(一般式(5))
【化5】
【0030】
(一般式(6))
【化6】
【0031】
(一般式(7))
【化7】
【0032】
なお、一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)の式中のnは、1以上の整数である。式中のnは、セルロースに導入されるアニオン性の置換基の導入量に応じて適宜調整される。例えば、化学変性パルプ繊維を構成するセルロースの重合度が3000とした場合、nは60以上であり、好ましくは300以上であり、より好ましくは600以上である。
【0033】
また、上記例では、本実施形態の化学変性パルプ繊維を構成するセルロースの構成単位の少なくとも一部のDグルコースにおいて、2位、3位、6位に置換反応や酸化反応により上記置換基(SO Z、CO Z、またはPO 2-Z)が導入された場合について説明したが、上記構造以外に、各位の炭素に上記置換基が導入されたDグルコース(例えば、-C-SO Z、-C-CO Z、-C-PO 2-Zを有する構造)を構成単位に有していても良い。これらの構造としては、例えば、上述したようにDグルコースの2位、3位、6位のいずれかの炭素に上記置換基のいずれかが直接導入された構造のほか、これらの導入可能な位置に上記置換基のいずれかが2つ導入された構造や、上記置換基のいずれかが3つ導入された構造であってもよい。
【0034】
(構成単位に一般式(2)を有する場合)
以下、本実施形態の化学変性パルプ繊維のセルロースの構成単位の一部に上記一般式(2)を有する場合(セルロースにSO Zが導入されたもの)について具体的に説明する。
【0035】
まず、反応液には、スルファミン酸と尿素を水に溶解させた溶液を用いることができる。なお、接触工程により繊維原料に反応液(スルファミン酸と尿素)を接触させた状態のものを以下、反応液含浸繊維という。
なお、反応液に含まれる尿素は、主に触媒として機能するものである。
【0036】
(反応液の混合比)
反応液に繊維原料を浸漬させて繊維原料に対して反応液を含浸させる方法を採用する場合、反応液に含まれるスルファミン酸と尿素の混合比は、とくに限定されない。例えば、後述する実施例に記載の混合比にすることができる。
【0037】
(反応液の接触量)
繊維原料に接触させる反応液の量は、繊維原料に対して反応液中のスルファミン酸と尿素が所定の割合となるように接触させる。
具体的には、後述する反応工程に供する際の反応液含浸繊維中の繊維原料に対する反応液中のスルファミン酸の量と尿素の量が適切な量となるように接触させる。
【0038】
例えば、スルファミン酸の接触量は、スルファミン酸の接触量を尿素の接触量で除した値が、0.5以上となるように調整する。具体的には、反応液は、スルファミン酸と尿素の混合割合が、質量比において、スルファミン酸/尿素≧0.5となるように調製する。より好ましくは、スルファミン酸と尿素の混合割合が、質量比において、0.5以上4.0以下であり、さらに好ましくは0.6以上4.0以下となるように反応液を調製する。
より具体的には、スルファミン酸の接触量は、上記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量100質量部に対して、60質量部以上となるように調整する。この値は、好ましくは60質量部以上250質量部以下となるように調製する。
【0039】
一方、尿素の接触量は、上記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量に対してスルファミン酸との上記関係を維持しつつ、当該繊維原料の固形分質量100質量部に対して、20質量部以上となるように調整する。この値は、好ましくは30質量部以上であり、より好ましくは30質量部以上120質量部以下となるように調製する。
【0040】
とくに、スルファミン酸の接触量が上記反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量に対して60質量部以上150質量部以下のとき、尿素の接触量が30質量部以上100質量部以下、かつ質量比においてスルファミン酸/尿素が0.5以上4.0以下となるように調製するのが好ましい。なお、かかる条件下で得られる本実施形態の化学変性パルプ繊維におけるアニオン性の置換基であるSO Zの導入量は、0.8mmol/g以上1.5mmol/g以下である。
【0041】
また、スルファミン酸の接触量が上記反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量に対して180質量部以上240質量部以下のとき、尿素の接触量が90質量部以上120質量部以下、かつ質量比においてスルファミン酸/尿素が2.0となるように調製するのが好ましい。なお、かかる条件下で得られる本実施形態の化学変性パルプ繊維におけるアニオン性の置換基であるSO Zの導入量は、1.5mmol/g以上2.0mmol/g以下である。
【0042】
さらに、繊維原料に接触させる水の量は、上記加熱反応に供する直前の反応液含浸繊維中の繊維原料の固形分質量に対して、スルファミン酸及び尿素の接触量が上記関係を維持しつつ、当該繊維原料の固形分質量100質量部に対して、1000質量部以下となるように調製する。この値は、好ましくは500質量部以上900質量部以下であり、より好ましくは600以上900質量部以下である。
【0043】
上記繊維原料の固形分質量100質量部に対するスルファミン酸の接触量および尿素の接触量は、後述する反応工程に供する際の反応液含浸繊維の状態に応じて適宜算出される。この具体的な算出方法は、例えば、後述する実施例に記載の算出方法を採用することができる。
【0044】
上述した、次工程の反応工程に供する際の反応液含浸繊維の状態としては、例えば、反応液含浸繊維をそのままの状態つまり繊維原料と反応液を接触させた状態のままで積極的な水分除去を行わない状態のものや、繊維原料と反応液を接触させた状態のものから水分を積極的に除去した状態のもの、などを挙げることができる。
【0045】
前者(積極的な水分除去を行わない状態)の反応液含浸繊維とは、繊維原料と反応液を接触させた状態(例えば、スラリー状の状態などを含む)のものや、反応液と繊維原料を接触させた状態のものから繊維原料を取り出して静置して調製したものなどを含むことを意味する。
一方、後者(積極的な水分除去を行った状態)の反応液含浸繊維とは、繊維原料と反応液を接触させた状態から水分を意識的に除去したものをいい、例えば、反応液と繊維原料を接触させた状態から繊維原料を取り出して風乾等により自然乾燥させて調製したものや、反応液と繊維原料を接触させた状態のものを脱水ろ過して調製したもの、この脱水ろ過したものをさらに風乾して調製したもの、この脱水ろ過したものをさらに循環送風式の乾燥機を用いて乾燥し調製したもの、この脱水ろ過したものをさらに加熱式の乾燥機を用いて乾燥して調製したもの、反応液と繊維原料を接触させた状態のものを循環送風式の乾燥機や加熱式の乾燥機を用いて乾燥して調製したもの、などを含むことを意味する。
【0046】
このため、反応工程に供する際の反応液含浸繊維は、上述した積極的な水分除去を行わない状態のものや、積極的な水分除去を行ってある程度の水分を除去した状態のままであってよい。また、乾燥により水分を除去する場合には、乾燥後の水分率が1%程度であってもとくに問題がない。
とくに、後者の方法を採用すれば、反応工程へ供給する際の反応液含浸繊維中の水分を低くできるので、反応工程の加熱反応における反応時間を短くできる。このため、スルホン化パルプの生産性を向上させることができるという利点が得られる。また、脱水処理を行う方法を採用すれば、反応液を多量に処理する際より効率よく反応液含浸繊維を調製することができるという利点が得られる。
【0047】
なお、積極的に乾燥する方法を採用する場合、反応液含浸繊維の水分率が1%程度まで乾燥してもよく、1%よりもかなり低い絶乾状態にまで乾燥する方法で水分を除去してもよい。
本明細書中では、反応液含浸繊維の水分率が1%以上の非絶乾状態のものを湿潤状態ともいう。例えば、反応液を含浸等させたままの状態のものやある程度脱水処理した状態のものはもちろん、ある程度乾燥処理した状態のものも本願明細書では湿潤状態ということがある。
また、本明細書中の絶乾とは、例えば、塩化カルシウムや五酸化二リンなどの乾燥剤を入れたデシケーター等で減圧したり、長時間加熱乾燥処理を行って水分率を1%よりも低くした状態のものを意味する。
したがって、接触工程において、上記後者の方法を採用する場合には、反応液含浸繊維の水分率を非絶乾状態にする方法を採用してもよいし、絶乾状態にする方法を採用してもよいが、好ましくは非絶乾状態の方法を採用するのがよい。
【0048】
なお、本明細書中の水分率は、下記式を用いて算出される。

水分率(%)=100-(反応液含浸繊維における固形分質量(g)/水分率測定時における反応液含浸繊維(g))×100
【0049】
なお、反応液を接触させる際の繊維原料の状態はとくに限定されない。例えば、乾燥した状態であってもよいしウェットの状態(つまり湿潤状態)であってもよい。
【0050】
(反応工程)
上記のごとく接触工程で調製された反応液含浸繊維は、次工程の反応工程へ供給される。
化学処理工程における反応工程は、接触工程から供給された反応液含浸繊維中の、繊維原料に含まれるセルロースとスルファミン酸と尿素とを反応させる工程である。具体的には、反応液含浸繊維に含まれるパルプ等を構成するセルロースにSO Zを導入する工程である。
【0051】
この反応工程は、反応液含浸繊維の繊維原料中のセルロースにSO Zを導入することができる反応であれば、とくに限定されない。
例えば、反応液含浸繊維を加熱することにより反応を促進させる方法(加熱反応)を採用することができる。以下では、反応工程において、加熱反応を用いた製法を代表として説明する。
【0052】
(反応工程における反応温度)
反応工程における反応温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、上記繊維原料を構成するセルロースにSO Zを導入できる温度であれば、とくに限定されない。
例えば、反応工程に供給した反応液含浸繊維の雰囲気温度が100℃以上200℃以下となるように調整する。好ましくは雰囲気温度が120℃以上200℃以下である。
加熱時における雰囲気温度が200℃よりも高くなると、繊維の熱分解が起こったり、繊維の変色の進行が早くなったりする。一方、反応温度が100℃よりも低くすると、得られる反応後の繊維の透明性が低くなる傾向にある。
したがって、得られる反応後の繊維の透明性を向上させるという観点では、反応工程における反応温度(具体的には雰囲気温度)は、100℃以上200℃以下が好ましい。より好ましくは120℃以上180℃以下であり、さらに好ましくは120℃以上160℃以下である。
【0053】
なお、反応工程に用いられる加熱器などは、接触工程後の反応液含浸繊維を直接的または間接的に上記要件を満たしながら加熱することができるものであれば、とくに限定されない。
例えば、公知の乾燥機や、減圧乾燥機、マイクロ波加熱装置、オートクレーブ、赤外線加熱装置、熱プレス機(例えば、アズワン(株)製、AH―2003C)を用いたホットプレス法等を採用することができる。とくに、操作性の観点では、反応工程でガスが発生する可能性があるので、循環送風式の乾燥機を使用するのが好ましい。
【0054】
(反応工程における反応時間)
反応工程として上記加熱方法を採用した場合の加熱時間(つまり反応時間)は、反応液含浸繊維を構成するセルロースにSO Zを適切に導入することができれば、とくに限定されない。
例えば、反応工程における反応時間は、反応温度を上記範囲となるように調整した場合、1分以上となるように調整することができる。好ましくは、5分以上であり、より好ましくは10分以上であり、さらに好ましくは15分以上である。
反応時間が1分よりも短い場合は、セルロースに対する置換反応がほとんど進行していないと推察される。一方、加熱時間をあまり長くしてもSO Zの導入量の向上が期待できない傾向にある。
したがって、反応工程として上記加熱方法を採用した場合の反応時間は、反応時間や操作性の観点においては、5分以上300分以内が好ましい。より好ましくは5分以上120分以内とするのがよい。
【0055】
(接触工程の予備乾燥工程)
上記例で、接触工程における反応液含浸繊維の調製方法において、積極的な水分除去を行った状態の反応液含浸繊維を調製する方法について説明したが、この製法で加熱しながら水分を除去する方法(予備乾燥工程)を採用する場合(例えば、反応液と繊維原料を接触させた状態のものを直接加熱乾燥したり、脱水処理したものを加熱乾燥するような場合など)には、加熱温度が所定の温度以下となるように調整するのが望ましい。
この予備乾燥工程における乾燥温度は、反応液含浸繊維に含まれる水分や周囲の水分を除去でき、かつ上記反応が進行しない程度の温度となるように調整されていれば、とくに限定されない。
例えば、予備乾燥工程における乾燥温度として、反応液含浸繊維の雰囲気温度が100℃以下となるように調整することができる。一方、作業性の観点では、50℃以上となるように調整するのが好ましい。
したがって、接触工程における予備乾燥工程の乾燥温度は、50℃以上100℃以下となるように調整するのが好ましく、より好ましくは70℃以上100℃以下である。
【0056】
(繊維原料)
本製法に用いられる繊維原料は、上述したようにセルロースを含むものであれば、とくに限定されない。
例えば、一般的にパルプといわれるものを用いてもよいし、ホヤや海藻などから単離されるセルロースなどを含むものを繊維原料として採用することができるが、セルロース分子で構成されたものであれば、どのようなものであってもよい。
上記パルプとしては、例えば、木材系(針葉樹や広葉樹などを原料とするもの)のパルプ(以下単に木材パルプという)や、溶解パルプ、コットンリンタなどの綿系のパルプ、麦わらや、バガス、楮、三椏、麻、ケナフのほか、果物等などの非木材系のパルプ、新聞古紙、雑誌古紙やダンボール古紙などから製造された古紙系のパルプなどを挙げることができるが、これらに限定されない。なお、入手のし易さの観点から、木材パルプが繊維原料として採用しやすい。
【0057】
この木材パルプには、様々な種類が存在するが、使用に際してとくに限定されない。例えば、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)などの製紙用パルプなどを挙げることができる。
なお、繊維原料として、上記パルプを使用する場合に上述した種類のパルプ1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
(接触工程における水分調整工程)
接触工程において、反応液と接触させる繊維原料を水分率が所定の範囲内に入るように水分調整工程を含んでもよい。
この水分調整工程は、繊維原料が所定の水分率となるように乾燥したり、加湿したりして所望の水分量となるように調整する工程である。この水分調整工程を含むことにより、反応液等と接触させる際の繊維原料中の水分量をある程度均質にすることができるので、連続操業における製品安定性を向上させる可能性がある。
また、繊維原料をある程度乾燥して水分量を少なくすれば(例えば、水分率が1%以上10%以下)、保管性を向上させることができるという利点がある。
【0059】
(反応工程の後の洗浄工程)
化学処理工程における反応工程の後に、反応後の繊維を洗浄する洗浄工程を含んでもよい。
SO Zを導入した後の繊維は、スルファミン酸等の影響により表面が酸性になっていることがある。また、反応液を過剰に接触させれば、未反応の反応液が残存する可能性がある。このような場合、反応を確実に終了させ、余分な反応液を除去して中性状態にする洗浄工程を設けることにより、取り扱い性を向上させることが可能となる。
【0060】
この洗浄工程は、反応後の繊維を水で洗浄した際の洗浄水がほぼ中性になるように洗浄することができれば、とくに限定されない。
例えば、反応後の繊維が中性になるまで純水等を用いて洗浄してもよいし、アルカリ等を用いた中和洗浄を行ってもよい。
なお、中和洗浄を行う場合、アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物としては、無機アルカリ化合物、有機アルカリ化合物などを挙げることができる。そして、無機アルカリ化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等を挙げることができる。有機アルカリ化合物としては、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物、複素環式化合物の水酸化物などを挙げることができる。
【0061】
(SO Zの導入量)
上記のごとき製法を用いることにより、アニオン性の置換基であるSO Zが所定の範囲内となるように導入された本実施形態の化学変性パルプ繊維を得ることができる。
本実施形態の化学変性パルプ繊維におけるアニオン性の置換基であるSO Zの導入量は、例えば、0.8mmol/g以上7mmol/g以下である。より好ましくは、0.8mmol/g以上5mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.8mmol/g以上2.5mmol/g以下である。
なお、SO Zの導入量は、実施例に記載の方法により算出することができる。
【0062】
(セルロースの構成単位に少なくとも上記一般式(2)を有する本実施形態の化学変性パルプ繊維)
以上のごとき製法を用いて製造された本実施形態の化学変性パルプ繊維は、上述したようにセルロースの構成単位に少なくとも上記一般式(2)を有するパルプ繊維である。そして、繊維の径方向の変化率が、1.1よりも大きく、10以下の範囲で拡径や縮径ができる構造を有する繊維である。この変化率は、好ましくは1.3以上10以下であり、より好ましくは1.3以上8.0以下であり、さらに好ましくは2.0以上8.0である。
【0063】
本実施形態の化学変性パルプ繊維は、セルロースの構成単位に少なくとも上記一般式(2)を有する構造になっている。
【0064】
なお、本実施形態の化学変性パルプ繊維は、上述したようにセルロースの構成単位に上記一般式(2)を有する以外にも、上述した水酸基が結合している2位、3位、6位の一部または全部の炭素に直接SO Zが結合した構造を構成単位の一部に有していてもよい。
また、本明細書では、セルロースの構成単位のDグルコースにSO Zが導入された構造にすることを、エステル化またはエステル化反応と称することがある。
【0065】
以下、本実施形態の化学変性パルプ繊維の変化率について説明する。
変化率とは、本実施形態の化学変性パルプ繊維が水を吸収した状態における平均膨潤繊維幅を、本実施形態の化学変性パルプ繊維の乾燥状態における平均非膨潤繊維幅で除した値である。
【0066】
(平均膨潤繊維幅の測定方法)
まず、平均膨潤繊維幅の概略算出方法について説明する。
平均膨潤繊維幅は、本実施形態の化学変性パルプ繊維を固形分濃度が0.1質量%に調整した分散体を偏光顕微鏡を用いて測定された膨潤繊維幅を平均化することにより算出することができる。例えば、10本の繊維の膨潤繊維幅の合計を10で除して算出される。
なお、平均膨潤繊維幅の詳細な算出方法は、実施例に記載の方法を参照。
【0067】
本実施形態の化学変性パルプ繊維の平均膨潤繊維幅は、繊維原料により変動することがある。
例えば、針葉樹を原料とした場合には、本実施形態の化学変性パルプ繊維は、平均膨潤繊維幅が50μm以上となるように形成されている。好ましくは60μm以上であり、より好ましくは70μm以上、さらに好ましくは80μm以上となるように形成されている。また、広葉樹を原料とした場合には、本実施形態の化学変性パルプ繊維は、平均膨潤繊維幅が50μm以上となるように形成されている。好ましくは60μm以上であり、より好ましくは70μm以上、さらに好ましくは80μm以上となるように形成されている。
【0068】
上記分散体の繊維を偏光顕微鏡を用いて撮影した偏光顕微鏡写真から任意の1本の繊維を選択する。
この繊維において、最も繊維幅が大きい箇所を見つける。つぎに、この箇所における最大の繊維幅(本明細書にいう膨潤繊維幅)を測定する。同様に、偏光顕微鏡写真から10本の膨潤繊維幅を測定する。得られた10本の繊維の膨潤繊維幅の合計を10で除することにより、平均膨潤繊維幅を算出することができる。
【0069】
(平均非膨潤繊維幅の測定方法)
つぎに、平均非膨潤繊維幅の概略算出方法について説明する。
平均非膨潤繊維幅は、本実施形態の化学変性パルプ繊維を乾燥した状態(乾燥状態)における繊維を電子顕微鏡を用いて測定された非膨潤繊維幅を平均化することにより算出することができる。例えば、10本の繊維の非膨潤繊維幅の合計を10で除して算出される。
なお、平均非膨潤繊維幅の詳細な算出方法は、実施例に記載の方法を参照。
【0070】
本実施形態の化学変性パルプ繊維を所定の乾燥状態にする。
この乾燥状態の本実施形態の化学変性パルプ繊維を電子顕微鏡を用いて撮影した電子顕微鏡写真から任意の1本の繊維を選択する。この繊維において、最も繊維幅が大きい箇所を見つける。つぎに、この箇所における最大の繊維幅(本明細書にいう非膨潤繊維幅)を測定する。同様に、電子顕微鏡写真から10本の非膨潤繊維幅を測定する。得られた10本の繊維の非膨潤繊維幅の合計を10で除することにより、平均非膨潤繊維幅を算出することができる。
【0071】
なお、本製法に用いられる繊維原料には、非膨潤繊維幅が60μmよりも大きな繊維が一部含まれることがある。
例えば、広葉樹を原料とした場合には、道管(ベッセル)のような非膨潤繊維幅が140μm程度の繊維が含まれている。このような繊維を任意にカウントし平均非膨潤繊維幅を算出すると、平均非膨潤繊維幅の数値が大きくなり真値を得られない。
このため、平均非膨潤繊維幅の算出に用いる膨潤繊維幅は、事前に100本以上の繊維を観察し、明らかに誤差を与える要素を除いた10本の繊維を選出し、これらの繊維から算出する。
【0072】
また、本実施形態の化学変性パルプ繊維の平均非膨潤繊維幅は、繊維原料により変動することがある。
例えば、針葉樹を原料とした場合には、本実施形態の化学変性パルプ繊維は、平均非膨潤繊維幅が20μm以上50μm以下となるように形成されている。好ましくは20μm以上40μm以下であり、より好ましくは20μm以上30μm以下となるように形成されている。また、広葉樹を原料とした場合には、本実施形態の化学変性パルプ繊維は、平均非膨潤繊維幅が10μm以上60μm以下となるように形成されている。好ましくは20μm以上40μm以下であり、より好ましくは20μm以上30μm以下となるように形成されている。
【0073】
非膨潤繊維幅を測定に用いられる本実施形態の化学変性パルプ繊維は、外観上、乾燥した状態であれば、とくに限定されない。
例えば、本実施形態の化学変性パルプ繊維の水分率は、20%以下が好ましく、より好ましくは15%以下である。下限値は、とくに限定されず、例えば、絶乾状態(水分率が0%)のものであってもよい。
なお、本実施形態の化学変性パルプ繊維の非膨潤繊維幅を測定する際、水分率が上記範囲内となるように調整することができれば、その乾燥方法はとくに限定されない。例えば、自然乾燥のほか、熱乾燥、真空凍結乾燥、デシケーターなどを用いて乾燥してもよい。
また、水分率の算出方法は、実施例に記載したパルプの水分率の算出方法と同様の方法により算出することができる。
【0074】
また、本実施形態の化学変性パルプ繊維は、所定の復元率を発揮するような構造でもある。
具体的には、本実施形態の化学変性パルプ繊維は、復元率が、0.6以上、1.5以下の範囲で復元できる構造となっている。この復元率は、好ましくは0.7以上、1.4以下であり、より好ましくは0.8以上、1.3以下である。
【0075】
この復元率とは、本実施形態の化学変性パルプ繊維の平均非膨潤繊維幅と、この乾燥状態の繊維に水を吸収させて膨潤させた繊維を再度乾燥状態にした状態における平均非膨潤繊維幅と、の関係性を示したものである。
【0076】
復元率は、下記式を用いて算出することができる。

復元率=(乾燥状態の本実施形態の化学変性パルプ繊維Aに水を吸収させて膨潤させた繊維を再度乾燥状態にした際の平均非膨潤繊維幅β)/(乾燥状態の本実施形態の化学変性パルプ繊維Aの平均非膨潤繊維幅α)

式の分子中の「乾燥状態の本実施形態の化学変性パルプ繊維A」と分母中の「乾燥状態の本実施形態の化学変性パルプ繊維A」は同じ繊維である。
式中の「水を吸収させて膨潤させた繊維」とは、乾燥状態の本実施形態の化学変性パルプ繊維Aを固形分濃度が0.1質量%となるように調整した分散体を調製し、所定の時間(例えば30分)静置した後の繊維である。
式中の「乾燥状態の本実施形態の化学変性パルプ繊維A」と「再度乾燥状態にした際」の繊維の水分率は、同じ値か同程度の値(例えば、±10%以内)となるように調整する。
【0077】
(構成単位に一般式(3)を有する場合)
以下、本実施形態の化学変性パルプ繊維のセルロースの構成単位の一部に上記一般式(3)を有する場合について具体的に説明する。
【0078】
なお、平均膨潤繊維幅の測定方法、平均非膨潤繊維幅の測定方法、復元率の算出方法などは、置換基がSO Zの場合と同様にして測定または算出される。
【0079】
繊維原料を構成するセルロースの構成単位であるDグルコースにCO Zを導入するには、TEMPO酸化触媒反応を採用することができる。繊維原料に対して水中でTEMPO(またはその誘導体)-触媒/臭化ナトリウム-酸化促進剤/次亜塩素酸ナトリウム-酸化剤を接触させ、室温で反応することによりCO Zが導入される。このTEMPO酸化触媒反応の具体的な操作に関しては、例えば Tsuguyuki Saito, Satoshi Kimura, Yoshiharu Nishiyama and Akira Isogai, Biomacromolecules, 8 (8), 2485-2491 (2007).を参考とすることができる。
【0080】
(TEMPO酸化触媒)
繊維原料を酸化する際に用いるTEMPO酸化触媒は、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシルの分子骨格を有する誘導体を用いても良い。具体的には、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカルを発生する化合物が好ましい。
【0081】
(酸化促進剤)
繊維原料の酸化に用いる臭化物またはヨウ化物としては、水中で解離してイオン化可能な化合物、例えば臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などを使用することができる。臭化物またはヨウ化物の使用量は酸化反応を促進できる範囲で選択できる。
【0082】
(酸化剤)
繊維原料であるパルプ繊維の酸化に用いる酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。中でも、生産コストの観点から、現在工業プロセスにおいて最も汎用されている安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが特に好ましい。
【0083】
TEMPO酸化触媒反応は、温和な条件であっても繊維原料の酸化反応を円滑に効率良く進行させることができるため、反応温度は15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められるが、酸化反応を効率良く進行させるためには水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して反応液のpHを9~12、好ましくは10~11程度に維持することが望ましい。
反応の終点は、pHの低下が認められなくなるまで行うことが望ましい。しかしながら、長時間アルカリ性溶液に繊維原料を接触すると繊維の分解によって短繊維化を生じる恐れがあることと、生産効率の観点から、2時間程度が望ましい。
【0084】
(セルロースの構成単位に少なくとも上記一般式(3)を有する本実施形態の化学変性パルプ繊維)
以上のごとき製法を用いて製造された本実施形態の化学変性パルプ繊維は、上述したようにセルロースの構成単位に少なくとも上記一般式(3)を有するパルプ繊維である。そして、繊維の径方向の変化率が、1.1よりも大きく、10以下の範囲で拡径や縮径ができる構造を有する繊維である。この変化率は、好ましくは1.3以上10以下であり、より好ましくは1.3以上8.0以下であり、さらに好ましくは2.0以上8.0以下である。
また、本実施形態の化学変性パルプ繊維におけるアニオン性の置換基の導入量は、例えば、0.8mmol/g以上7mmol/g以下である。より好ましくは、0.8mmol/g以上5mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.8mmol/g以上2.5mmol/g以下である。
【0085】
なお、本実施形態の化学変性パルプ繊維は、上述したようにセルロースの構成単位に上記一般式(3)を有する以外にも、上述した水酸基が結合している2位、3位、6位の一部または全部の炭素に直接CO Zが結合した構造を構成単位の一部に有していてもよい。
【0086】
(構成単位に一般式(4)を有する場合)
以下、本実施形態の化学変性パルプ繊維のセルロースの構成単位の一部に上記一般式(4)を有する場合について具体的に説明する。
【0087】
なお、平均膨潤繊維幅の測定方法、平均非膨潤繊維幅の測定方法、復元率の算出方法などは、置換基がSO Zの場合と同様にして測定または算出される。
【0088】
繊維原料であるパルプ繊維を構成するセルロースの構成単位であるDグルコースにPO 2-Zを導入するには、リン酸エステル化反応を採用することができる。繊維原料に対して水中でリン酸二水素アンモニウム-リン酸化剤/尿素-触媒を接触させ、120℃から180℃で加熱反応することによりPO Zが導入される。このリン酸化反応の具体的な操作に関しては、例えば Yuichi Noguchi, Ikue Homma and Yusuke Matsubara, Cellulose, 24, 1295-1305 (2017). を参考とすることができる。
【0089】
(リン酸化剤)
繊維原料と反応するような化合物として、リン酸由来の基を有する化合物を用いる場合、特に限定されないが、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらの塩またはエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である。これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、PO 2-Zを有する化合物が好ましいが、特に限定されない。
【0090】
PO 2-Zを有する化合物としては特に限定されないが、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウムが挙げられる。更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムが挙げられる。更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムが挙げられる。更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
これらのうち、PO 2-Z導入の効率が高く、工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウムがより好ましく、リン酸二水素アンモニウムがさらに好ましいが、特に限定されない。
【0091】
(PO 2-Z導入工程)
繊維原料へのPO 2-Z導入時の反応を促進するため、加熱する方法が特に有効である。PO 2-Zの導入における加熱処理温度は特に限定されないが、該繊維原料の熱分解や加水分解等が起こりにくい温度帯であることが好ましい。例えば、繊維原料としてセルロースを含む繊維原料を選択した場合は熱分解温度の観点から、250℃以下であることが好ましく、セルロースの加水分解を抑える観点から、100~180℃で加熱処理することが好ましい。また、加熱処理時間は該繊維原料の熱分解や加水分解等を抑制する観点、および製造効率の観点から短時間であることが望ましく、具体的には2時間以内が望ましい。
【0092】
(セルロースの構成単位に少なくとも上記一般式(4)を有する本実施形態の化学変性パルプ繊維)
以上のごとき製法を用いて製造された本実施形態の化学変性パルプ繊維は、上述したようにセルロースの構成単位に少なくとも上記一般式(4)を有するパルプ繊維である。そして、繊維の径方向の変化率が、1.1よりも大きく、10以下の範囲で拡径や縮径ができる構造を有する繊維である。この変化率は、好ましくは1.3以上10以下であり、より好ましくは1.3以上8.0以下であり、さらに好ましくは2.0以上8.0である。
また、本実施形態の化学変性パルプ繊維におけるアニオン性の置換基の導入量は、例えば、0.8mmol/g以上7mmol/g以下である。より好ましくは、0.8mmol/g以上5mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.8mmol/g以上2.5mmol/g以下である。
【0093】
なお、本実施形態の化学変性パルプ繊維は、上述したようにセルロースの構成単位に上記一般式(4)を有する以外にも、上述した水酸基が結合している2位、3位、6位の一部または全部の炭素に直接PO 2-Zが結合した構造を構成単位の一部に有していてもよい。
【実施例0094】
本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例によってなんら制限を受けるものではない。
【0095】
(繊維原料)
繊維原料として、実施例1から6および比較例1から3では丸住製紙製の針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、実施例7および比較例4では丸住製紙製の広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)をそれぞれ使用した。NBKPは平均膨潤繊維幅28μm、LBKPは平均膨潤繊維幅22μmであった。また、このNBKPおよびLBKPは物性値の比較例として用いた(比較例3、4)。以下では、実験に供したNBKPおよびLBKPを単にパルプとして説明する。
【0096】
パルプは、大量のイオン交換水(オルガノ社製のイオン交換水生成装置、型番;G-5DSTSET)で測定される電気伝導度の値の範囲が0.1~0.2μS/cm。以降、純水と表記する)で洗浄後、目開き75μm(200メッシュ)のステンレスふるいで水を切り、固形分濃度を25.0質量%に調整した乾燥履歴が1度もない湿潤状態のパルプ(単に湿潤パルプと称する)を実験に供した。つまり、実験に供した湿潤パルプ400gには、パルプが100g含有されたものを使用した。
【0097】
(化学処理工程)
以下の化学処理工程を行うことにより繊維原料中のセルロースにアニオン性の置換基であるSO Zが導入された実施形態の一般式(2)を構成単位に有する化学変性パルプ繊維を得た。
【0098】
実験では、まず、パルプを反応液が入った容器に入れてパルプに反応液を含浸させた。本実施形態の「化学処理工程」における「接触工程」に相当する。
実験では、繊維原料中のセルロースの構成単位であるDグルコースにアニオン性のSO Zを導入した。
【0099】
反応液は、以下のように調製した。
1Lビーカーに純水600mLを入れ、スルファミン酸(純度99.8%、扶桑化学工業製)と尿素(純度99.0%、富士フィルム和光純薬社製、型番;特級試薬)を次の比率で添加した。スルファミン酸(g)/尿素(g)=60/60(実施例1)、60/90(実施例2)、60/30(実施例3)、120/30(実施例4)、180/90(実施例5および7)、240/120(実施例6)、60/150(比較例1)、40/20(比較例2)。スルファミン酸と尿素は室温で完全に溶解するまで撹拌し、反応液を調整した。
得られた反応液に湿潤パルプを400g添加し、約10分含浸させた。
【0100】
パルプの「固形分質量(g)」とは、測定対象のパルプ自体の乾燥重量をいう。
乾燥パルプの重量は、乾燥機を用いて温度105℃、2時間乾燥したものを測定して、水分率が平衡状態になるまで乾燥した。
実験での平衡状態の評価方法は、恒温槽の温度を所定の温度(例えば、50℃もしくは105℃)に設定した上記乾燥機にて1時間乾燥後、連続して測定した2回の重量の変化量が乾燥開始時の重量に対して1%以内となった状態を平衡状態にあるとした(ただし、2回目の重量の測定は1回目に要した乾燥時間の半分以上とした)。
水分率の測定は、下記式により算出した。

水分率(%)=100-(パルプの固形分質量(g)/水分率測定時におけるパルプ質量(g))×100
【0101】
反応液を含浸させたパルプを容器から取り出し、80℃雰囲気下の乾燥機に入れて乾燥して反応液含浸パルプ(本実施形態の「反応液含浸繊維」に相当する)を調製した。
【0102】
つぎに、調製した反応液含浸パルプを加熱を利用した反応工程(本実施形態の「化学処理工程」における「反応工程」に相当する)に供した。
反応条件は以下のとおりとした。
加熱には、乾燥機を用いた
乾燥機の恒温槽の温度:140℃、加熱時間:30分
【0103】
加熱反応後、反応液含浸パルプを中性になるまで洗浄して、化学変性パルプ繊維を得た。
【0104】
(分散体の調製)
化学変性パルプ繊維を水に分散させて固形分濃度が1.0質量%のパルプスラリーを調製した。
固形分濃度は、下記式により算出した。

固形分濃度(%)=(パルプの固形分質量(g)/パルプスラリーの質量(g))×100
【0105】
(SO Zの導入量の測定)
得られた化学変性パルプ繊維に導入されたSO Z量は、電気伝導度測定により測定した。
化学変性パルプ繊維は、中和に使用した炭酸水素ナトリウムの影響により、Naが静電的な相互作用で結合した塩となっている。この状態では、電気伝導度測定ができないため、一度、Na塩を除去し、プロトンが結合したH型とする必要がある。このため、まず、調製された化学変性パルプ繊維を以下のようにしてH型へ変換したのち、水酸化ナトリウム水溶液による滴定によって測定した。
【0106】
パルプスラリー50g(固形分質量0.5g)をビーカに入れ、このビーカに、純水で塩酸(富士フィルム和光純薬社製、型番;特級試薬)を希釈し0.5Mに調整したもの250mLを加えた。1時間以上振とう処理を行った。その後、目開き46μmのメッシュ(330メッシュ)上に注いだ後、多量の水で洗浄してH型の化学変性パルプ繊維を調製した。
調製したH型の化学変性パルプ繊維は、固形分質量が0.2gとなるようにビーカに入れ、純水を加えて全量を50gにした。このビーカを電気伝導度計(水質計(東亜ディーケーケー社製、型番;MM‐43X)、電気伝導度電極(東亜ディーケーケー社製、型番;CT-58101B)で行った)にセットしてSO Z導入量を測定した。
【0107】
アルカリを用いた滴定では5M水酸化ナトリウム溶液(富士フィルム和光純薬社製、製品名;5mol/L水酸化ナトリウム溶液)を純水で1Mに希釈した溶液を用いて、20μL~100μLずつ滴下していき電気伝導度計の値の変化を計測し、縦軸に電気伝導度、横軸に水酸化ナトリウム滴定量としてプロットし曲線を得て、得られた曲線から変曲点を確認した。滴下初期は電気伝導度が低下していくが、ある地点で変曲を示す。この変曲点までに要した水酸化ナトリウムの滴定量がSO Z量に相当するため、この変曲点の水酸化ナトリウム量を測定に供した化学変性パルプ繊維のパルプ固形分質量で除することで、化学変性パルプ繊維中のSO Z量すなわちSO Zの導入量を測定した。
【0108】
(化学変性パルプ繊維の膨潤繊維幅の測定)
調製したパルプスラリー(分散体)からサンプルを分取して、固形分濃度0.1質量%のサンプル液を調製した。サンプル液のpHは、5~7の範囲内となるように調整した。なお、本実験のpHとは緩衝溶液のようなpH調整された溶液ではなく、単に純水のpHである。
このサンプル液から測定サンプルをスライドガラスに50~100μL滴下し、カバーガラスを乗せて、偏光顕微鏡(例えば、ニコン社製、ECLIPSE LV100ND)を用いて撮影した。観測倍率は10~50倍で行った。撮影は、ランダムに5か所以上行った。
撮影した偏光顕微鏡写真の繊維から以下の測定方法により化学変性パルプ繊維の膨潤した状態の繊維幅(膨潤繊維幅)を測定した。
写真から1本の繊維を選択する。この繊維の径方向(幅方向)における最も大きくなった箇所を見つける(図1参照)。この箇所の最も長い距離を測定し、この距離を膨潤繊維幅とする。
距離の測定方法は、例えば、上記箇所の外側に面した部分に接線を引き、この接線に対して接点を基準に垂線を引き、垂線と交わる他方の外側の面と交わる点を交点とする。そして、接点と交点との距離を測定することにより膨潤繊維幅を測定することができる。図1参照。
【0109】
平均潤繊維幅は、10本の繊維の膨潤繊維幅の合計を10で除することにより算出した。
【0110】
(化学変性パルプ繊維の非膨潤繊維幅の測定)
まず、化学変性パルプ繊維を水分率が15%以下に乾燥した。
化学変性パルプ繊維の形状は、とくに限定されない。調製したパルプスラリー(分散体)、シート状のもの、綿状のものなどを用いることができる。
調製したパルプスラリー(分散体)の場合、所定量を分取して、水分率が15%以下となるように乾燥機を用いて乾燥した。乾燥後の化学変性パルプ繊維の水分率は、約5%であった。
シート状のものは、切片を調製して、水分率が15%以下となるように乾燥機を用いて乾燥した。乾燥後の化学変性パルプ繊維の水分率は、約5%であった。
水分率は、上記のパルプの水分率と同様にして算出した。
【0111】
乾燥状態の化学変性パルプ繊維は、走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子社製、型番;JMS-IT300LA)を用いて撮影した。撮影は、ランダムに5か所以上行った。観察前処理として、白金を蒸着装置(日本電子社製、型番;JFC-1600 AUTOFINE COATER)を用いて60秒蒸着した。
【0112】
観測条件は以下の通りとした。
電圧:5.0kV
観測倍率:200~1000倍
【0113】
撮影したSEM写真の繊維から以下の測定方法により化学変性パルプ繊維の乾燥状態の繊維幅(非膨潤繊維幅)を測定した。
写真から1本の繊維を選択する。この繊維の径方向(幅方向)における最も大きくなった箇所を見つける(図1参照)。この箇所の最も長い距離を測定し、この距離を非膨潤繊維幅とする。
距離の測定方法は、例えば、上記箇所の外側に面した部分に接線を引き、この接線に対して接点を基準に垂線を引き、垂線と交わる他方の外側の面と交わる点を交点とする。そして、接点と交点との距離を測定することにより非膨潤繊維幅を測定することができる。
【0114】
平均非潤繊維幅は、10本の繊維の非膨潤繊維幅の合計を10で除することにより算出した。
【0115】
(化学変性パルプ繊維の変化率)
化学変性パルプ繊維の繊維の径方向における変化率は、下記式により算出した。

変化率=(水を吸収した状態における平均膨潤繊維幅)/(乾燥状態における平均非膨潤繊維幅)
【0116】
(化学変性パルプ繊維の復元率)
化学変性パルプ繊維の繊維の径方向における復元率は、下記式により算出した。

復元率=平均非膨潤繊維幅β/平均非膨潤繊維幅α

平均非膨潤繊維幅β:化学変性パルプ繊維Aに水を吸収させて膨潤した化学変性パルプ繊維を再度乾燥させた状態における平均非膨潤繊維幅
平均非膨潤繊維幅α:乾燥状態の化学変性パルプ繊維Aの平均非膨潤繊維幅
【0117】
(実験結果)
図2に実施例および比較例の物性値を示す。
図3に代表として実施例5の平均膨潤繊維幅測定に用いた偏光顕微鏡写真を示す。
図4に代表として実施例5の平均非膨潤繊維幅測定に用いたSEM写真を示す。
実験結果に示すように、スルファミン酸/尿素比が0.67から4.0で調製された化学変性パルプ繊維は、セルロースに0.84から1.93mmol/gのSO Zが導入されていた。
一方、比較例1では、スルファミン酸/尿素比が0.40の場合、SO Zの導入量は0.51mmol/gであった。また、比較例2では、スルファミン酸/尿素比が2.0に調整されていても繊維原料に対するスルファミン酸の接触量が少ないと、SO Zの導入量は0.32mmol/gであった。
また、本発明の化学変性パルプ繊維は、平均膨潤繊維幅が63μmから160μmと、従来のパルプ(比較例3、4)に比べて繊維幅の大きな繊維を調製できた。
また、非膨潤繊維幅を測定し、平均膨潤繊維幅/平均非膨潤繊維幅から算出された変化率は、2.5から6.4であった。一方、従来のパルプ(比較例3、4)の変化率は、1.2程度であった。このため、これまでのパルプにはない新規な特性を有する繊維原料を調製できた。
さらに、膨潤と収縮の繰り返し性(本実施形態の復元率に相当する)を評価するため、乾燥状態の繊維(このときの繊維の平均非膨潤繊維幅を平均非膨潤繊維幅αとする)を水に30分静置し吸水させたものを再び乾燥状態としたときの繊維の平均非膨潤繊維幅(このときの繊維の平均非膨潤繊維幅を平均非膨潤繊維幅βとする)を求めた。
そして、平均非膨潤繊維幅β/平均非膨潤繊維幅αの式から復元率を算出したところ、1.0程度を示した。このことから、本発明のセルロースの構成単位の一部に上記一般式(2)を有する化学変性パルプ繊維は、膨潤と収縮を繰り返することができる性質を有する繊維であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の化学変性パルプ繊維は、特殊な繊維形状を有していることから、吸水性や吸湿性、保水性といった繊維の含水性をコントロールできる機能性材料として使用できる。また、繊維形状を有しているため、湿式抄紙が可能であり、特殊な機能紙や不織布の材料として適している。
図1
図2
図3
図4