(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067840
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】判定装置および判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
G01N27/02 D
G01N27/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】32
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172827
(22)【出願日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2021177340
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000128094
【氏名又は名称】株式会社エヌエフホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角川 高則
(72)【発明者】
【氏名】武内 康明
(72)【発明者】
【氏名】馬谷原 崇
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AA09
2G060AA15
2G060AD06
2G060AE16
2G060AE21
2G060AF06
2G060AG03
2G060EA06
2G060HC01
2G060HC10
2G060HC11
2G060HC14
(57)【要約】
【課題】ノイズが十分に抑制されたデータに基づき時系列で判定が可能であり、短時間での判定およびコンピュータのソフトウェアによる自動判定が可能な判定装置および判定方法を提供する。
【解決手段】時間経過と共に測定対象物2のインピーダンスの測定を繰り返し、測定対象物2の電気化学的性質が所定の状態になったことを判定する判定装置1が、時間経過とインピーダンスとの時系列の関係を関係関数Z
f(n)で表し、測定を行った時間経過の所定の測定点におけるインピーダンスと関係関数Z
f(n)の値との差に基づいて推定誤差情報を算出する分析部5と、時間経過にともなう推定誤差情報の変化を時系列で監視し、推定誤差情報が所定の判定基準を満たした時点で、測定対象物2の電気化学的性質が所定の状態になったと判定する判定部6と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間経過と共に測定対象物のインピーダンスの測定を繰り返し、前記測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったことを判定する判定装置において、
前記時間経過と前記インピーダンスとの時系列の関係を関係関数で表し、測定を行った前記時間経過の所定の測定点における前記インピーダンスと前記関係関数の値との差に基づいて推定誤差情報を算出する分析部と、
前記時間経過にともなう前記推定誤差情報の変化を時系列で監視し、前記推定誤差情報が所定の判定基準を満たした時点で、前記測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったと判定する判定部と、
を備える判定装置。
【請求項2】
前記判定基準を満たした時点が、前記推定誤差情報が所定の閾値をよぎった時点、前記推定誤差情報を一次微分した結果が極大値となった時点、または、前記推定誤差情報を二次微分以上した結果が極大値となった時点である、請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
繰り返しの前記インピーダンスの測定が、前記測定対象物に少なくとも1つのステップを有する少なくとも1つの制御条件を複数のサイクルで印加して、必要な前記ステップで前記測定対象物のインピーダンスを測定するものである、請求項1に記載の判定装置。
【請求項4】
前記制御条件が、温度、電流および電圧のうち少なくとも1つを制御して印加するものである、請求項3に記載の判定装置。
【請求項5】
前記制御条件のうち、第1制御条件Aにおける前記測定対象物の第1インピーダンス、Z
AO(n)と、第2制御条件Bにおける前記測定対象物の第2インピーダンスZ
BO(n)とに対し、
補正を加えたZ
AO(n)をZ
AOC(n)、
補正を加えたZ
BO(n)をZ
BOC(n)、
サイクル数nにおけるZ
AO(n)の第1測定時刻をt
ZAO(n)、
前記第1測定時刻t
ZAO(n)よりも時系列が前の、サイクル数nにおけるZ
BO(n)の第2測定時刻をt
ZBO(n)、および、
補正係数をrとするとき、
サイクル数nにおける前記補正係数rをr(n)として前記r(n)を(数2)により算出し、(数1)により、前記第2インピーダンスZ
BO(n)を補正して補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)を求めるか、
前記補正係数rを、所定範囲のサイクル数における補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)と前記第1インピーダンスZ
AO(n)の相関係数が最大となる値にして、(数1)により、前記第2インピーダンスZ
BO(n)を補正して前記補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)を求めるか、
サイクル数nにおける前記補正係数rをr(n)として前記r(n)を(数4)により算出し、(数3)により、前記第1インピーダンスZ
AO(n)を補正して補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)を求めるか、または、
前記補正係数rを、所定範囲のサイクル数における補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)と第2インピーダンスZ
BO(n)の相関係数が最大となる値にして、(数3)により、前記第1インピーダンスZ
AO(n)を補正して前記補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)を求める、請求項3に記載の判定装置。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【請求項6】
前記分析部が、前記時間経過と前記インピーダンスとの時系列の関係をカーブフィットで近似して前記関係関数で表す、請求項1に記載の判定装置。
【請求項7】
前記制御条件が少なくとも2つの前記ステップを有し、前記分析部が、1つの前記ステップで測定した前記測定対象物のインピーダンスを別の前記ステップで測定したインピーダンスで除して比例係数を算出し、前記別のステップで測定したインピーダンスに前記比例係数を乗じて、前記複数のサイクルと前記インピーダンスとの時系列の関係を前記関係関数で表す、請求項3に記載の判定装置。
【請求項8】
前記制御条件のうち、第1制御条件における前記測定対象物の第1インピーダンスと、第2制御条件における前記測定対象物の第2インピーダンスとの相関を近似した回帰曲線で前記関係関数を表す、請求項3に記載の判定装置。
【請求項9】
前記インピーダンスとして、前記インピーダンスの絶対値、前記インピーダンスの実部および前記インピーダンスの虚部のうち少なくとも1つを用いる、請求項1に記載の判定装置。
【請求項10】
前記インピーダンスとして、前記インピーダンスから算出される電荷移動抵抗の推定値を用いる、請求項1に記載の判定装置。
【請求項11】
前記インピーダンスの測定値に基づくコールコールプロットを、前記コールコールプロット上の2点以上を用いて半円に近似して、当該半円の直径を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、
前記コールコールプロット上の2点以上を用いた前記インピーダンスの実部の差を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、
前記コールコールプロット上の2点以上を用いた前記インピーダンスの差の絶対値を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、
前記コールコールプロットを、前記コールコールプロット上の3点以上を用いて楕円に近似して、当該楕円の実軸方向の直径を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、または、
前記コールコールプロットを、前記コールコールプロット上の3点以上を用いて円弧に近似して、当該円弧の虚部=0Ωにおける実部の差を前記電荷移動抵抗の推定値とする、請求項10に記載の判定装置。
【請求項12】
前記分析部が推定誤差量を算出し、前記推定誤差量が前記時間経過の所定の測定点において前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差である、請求項1に記載の判定装置。
【請求項13】
前記推定誤差量が、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除したものであるか、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和であるか、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除した値の累乗根であるか、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和の累乗根であるか、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の累乗根であるか、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗であるか、または、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差である、請求項12に記載の判定装置。
【請求項14】
前記分析部が推定誤差量を算出し、推定誤差量の正規化を行った推定誤差情報を得て、前記判定部が前記推定誤差情報の変化を監視して判定を行う、請求項1に記載の判定装置。
【請求項15】
前記インピーダンスの最初の測定値から直近の測定値の平均値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、
前記インピーダンスの最初の測定値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、
前記インピーダンスの直近の測定値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、または、
前記推定誤差量の正規化を行わない、請求項14に記載の判定装置。
【請求項16】
前記測定対象物が、PCRによる特定DNAの増幅のための溶液、PCRによる特定RNA配列を転写したDNAの増幅のための溶液、太陽電池、蓄電池または燃料電池である、請求項1に記載の判定装置。
【請求項17】
測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったことを判定する判定方法において、
時間経過と共に前記測定対象物のインピーダンスの測定を繰り返す測定工程と、
前記時間経過と前記インピーダンスとの時系列の関係を関係関数で表し、前記時間経過の所定の測定点における前記インピーダンスと前記関係関数の値との差に基づいて推定誤差情報を算出する算出工程と、
前記時間経過にともなう前記推定誤差情報の変化を時系列で監視して前記測定の所定の間隔毎に前記推定誤差情報を抽出し、前記推定誤差情報が所定の判定基準を満たした時点で、前記測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったと判定する判定工程と、
を含む判定方法。
【請求項18】
前記判定基準を満たした時点が、前記推定誤差情報が所定の閾値をよぎった時点、前記推定誤差情報を一次微分した結果が極大値となった時点、または、前記推定誤差情報を二次微分以上した結果が極大値となった時点である、請求項17に記載の判定方法。
【請求項19】
前記測定工程が、前記測定対象物に少なくとも1つのステップを有する少なくとも1つの制御条件をサイクル毎に印加する工程と、必要な前記ステップで前記測定対象物のインピーダンスを測定する工程とを含み、
前記判定工程が、前記サイクルを終了するサイクル終了条件を満たしたか否かを監視し、あるサイクルを行った後に、前記サイクル終了条件を満たしていなければ前記サイクルを繰り返し、前記サイクル終了条件を満たせば、前記推定誤差情報が所定の判定基準を満たした時点で、前記測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったと判定し、そのサイクル番号を得る工程を含む、請求項17に記載の判定方法。
【請求項20】
前記制御条件が、温度、電流および電圧のうち少なくとも1つを制御して印加するものである、請求項19に記載の判定方法。
【請求項21】
前記制御条件のうち、第1制御条件Aにおける前記測定対象物の第1インピーダンス、Z
AO(n)と、第2制御条件Bにおける前記測定対象物の第2インピーダンスZ
BO(n)とに対し、
補正を加えたZ
AO(n)をZ
AOC(n)、
補正を加えたZ
BO(n)をZ
BOC(n)、
サイクル数nにおけるZ
AO(n)の第1測定時刻をt
ZAO(n)、
前記第1測定時刻t
ZAO(n)よりも時系列が前の、サイクル数nにおけるZ
BO(n)の第2測定時刻をt
ZBO(n)、および、
補正係数をrとするとき、
サイクル数nにおける前記補正係数rをr(n)として前記r(n)を(数6)により算出し、(数5)により、前記第2インピーダンスZ
BO(n)を補正して補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)を求めるか、
前記補正係数rを、所定範囲のサイクル数における補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)と前記第1インピーダンスZ
AO(n)の相関係数が最大となる値にして、(数5)により、前記第2インピーダンスZ
BO(n)を補正して前記補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)を求めるか、
サイクル数nにおける前記補正係数rをr(n)として前記r(n)を(数8)により算出し、(数7)により、前記第1インピーダンスZ
AO(n)を補正して補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)を求めるか、または、
前記補正係数rを、所定範囲のサイクル数における補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)と前記第2インピーダンスZ
BO(n)の相関係数が最大となる値にして、(数7)により、前記第1インピーダンスZ
AO(n)を補正して前記補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)を求める、請求項19に記載の判定方法。
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【請求項22】
前記時間経過と前記インピーダンスとの時系列の関係をカーブフィットで近似して前記関係関数で表す、請求項17に記載の判定方法。
【請求項23】
前記制御条件が少なくとも2つの前記ステップを有し、1つの前記ステップで測定した前記測定対象物のインピーダンスを別の前記ステップで測定したインピーダンスで除して比例係数を算出し、前記別のステップで測定したインピーダンスに前記比例係数を乗じて、複数の前記サイクルと前記インピーダンスとの時系列の関係を前記関係関数で表す、請求項19に記載の判定方法。
【請求項24】
前記制御条件のうち、第1制御条件における前記測定対象物の第1インピーダンスと、第2制御条件における前記測定対象物の第2インピーダンスとの相関を近似した回帰曲線で前記関係関数を表す、請求項19に記載の判定方法。
【請求項25】
前記インピーダンスとして、前記インピーダンスの絶対値、前記インピーダンスの実部および前記インピーダンスの虚部のうち少なくとも1つを用いる、請求項17に記載の判定方法。
【請求項26】
前記インピーダンスとして、前記インピーダンスから算出される電荷移動抵抗の推定値を用いる、請求項17に記載の判定方法。
【請求項27】
前記インピーダンスの測定値に基づくコールコールプロットを、前記コールコールプロット上の2点以上を用いて半円に近似して、当該半円の直径を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、
前記コールコールプロット上の2点以上を用いた前記インピーダンスの実部の差を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、
前記コールコールプロット上の2点以上を用いた前記インピーダンスの差の絶対値を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、
前記コールコールプロットを、前記コールコールプロット上の3点以上を用いて楕円に近似して、当該楕円の実軸方向の直径を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、または、
前記コールコールプロットを、前記コールコールプロット上の3点以上を用いて円弧に近似して、当該円弧の虚部=0Ωにおける実部の差を前記電荷移動抵抗の推定値とする、請求項26に記載の判定方法。
【請求項28】
推定誤差量を算出し、前記推定誤差量が前記時間経過の所定の測定点において前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差である、請求項17に記載の判定方法。
【請求項29】
前記推定誤差量が、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除したものであるか、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和であるか、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除した値の累乗根であるか、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和の累乗根であるか、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の累乗根であるか、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗であるか、または、
前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差である、請求項28に記載の判定方法。
【請求項30】
推定誤差量を算出し、推定誤差量の正規化を行った推定誤差情報を得て、前記推定誤差情報の変化を監視して判定を行う、請求項17に記載の判定方法。
【請求項31】
前記インピーダンスの最初の測定値から直近の測定値の平均値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、
前記インピーダンスの最初の測定値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、
前記インピーダンスの直近の測定値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、または、
前記推定誤差量の正規化を行わない、請求項30に記載の判定方法。
【請求項32】
前記測定対象物が、PCRによる特定DNAの増幅のための溶液、PCRによる特定RNA配列を転写したDNAの増幅のための溶液、太陽電池、蓄電池または燃料電池である、請求項17に記載の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったことを判定する判定装置および判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液相での拡散過程および界面での化学反応の解析や、多孔質電極の解析等に用いる手法として、電気化学インピーダンス法(Electrochemical Impedance Spectroscopy、EIS)が知られている。(以下、「EIS法」という。)EIS法は、耐食性評価、電析プロセスの評価、各種センサの性能評価、電池等のエネルギー変換デバイスの性能評価、および、誘電材料の電気特性評価等の様々な分野において用いられていることが報告されている。
【0003】
EIS法は、電極に電位または電流信号を入力し、その応答電流または電位を解析する電極反応の非定常解析において、入力信号とその応答を比較することで、電極反応の伝達関数としてインピーダンスまたはアドミッタンスを決定する交流インピーダンス測定法である。EIS法は、非定常解析法の中でも広範囲の周波数を利用することが可能であり、複雑な界面現象の諸要因を分離して測定できるため、汎用性が高いと言われている。
【0004】
この測定法には、インピーダンスブリッジ法や、オシロスコープ上で変調電位と電流を直接比較する方法、リサージュ法、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transfer、FFT)法、周波数応答解析装置(Frequency Response Analyzer、FRA)法、等の方法があるとされる。中でも、FRA法が現在の主流であると言われている。
【0005】
原理的には、信号発生器、デジタルマルチメータ、および、位相計の組合せで測定することも可能であるが、FRAを用いることで、より手軽に短時間で精度良く測定することができる。FRA法では、入力周波数を変えることによって、異なる時定数を持つ素過程を分離することができる。すなわち、交流電圧を印加したときの出力電流はデジタル処理によるフーリエ積分によってその複素量が求められ、そこからインピーダンスの振幅と位相が計算される。
【0006】
FFT法では、パルス入力等に対する時間領域のデータを周波数領域のデータとして処理することで、FRA法と同様の解析を行うことができるが、精度の点では一般的にFRA法の方が優れている。
【0007】
このような中、DNA鎖を増幅して検出を行うDNAの分析および定量手法であって、例えば新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)等のウイルス感染の確定診断の手法として採用されている、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction、PCR)において、EIS法で測定対象物中の目的とするDNAを検出する手法が提案されている(例えば、特許文献1および非特許文献1)。
【0008】
この手法は、EIS法による、インピーダンスを測定することによって溶液中に存在する対象物質を検出する方法である。例えば、対象物質が初期値から増加すると、当初存在していたインピーダンス変動物質Bが対象物質に取り込まれることから減少し、インピーダンス観測物質Aの電荷移動性を変動させる。この電荷移動性の変動をインピーダンス応答という形で検出することにより、対象物質の増加を検出する。
【0009】
特許文献1および非特許文献1では、所定の測定サイクルが終了した後に、サイクル毎の電荷移動抵抗(Charge Transfer Resistance)Rctの増加量を確認し、Rctが急激に増加し始めた時点付近で、二本鎖DNAが顕著に増加したと判断している。
【0010】
Rctは、電荷移動反応の速度が電流と比例関係にあることから、反応の起こりにくさの指針となる。電荷移動反応が起こりやすい場合にはRctが小さくなり、起こりにくい場合にはRctが大きくなる。Rctは、EIS法で得られたインピーダンスをコールコールプロットで描いたときの半円状プロットの直径がほぼRctとなり、コールコールプロットから直感的にも分かりやすくなっている。
【0011】
なおコールコールプロットは、インピーダンスの実部を横軸にし、インピーダンスの虚部を負を上向きにして縦軸に表示した、ナイキストプロットの一種であり、電気回路の構成に応じて特徴的な軌跡が描かれ、スペクトルの概要を視覚的に捉えやすくなっている。FRAによる自動測定では、一般に、コールコールプロットを作成する機能を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開WO2019/026517号公報
【0013】
【非特許文献1】応用物理学会編 特別WEBコラム『新型コロナウイルス禍に学ぶ応用物理』 https://www.jsap.or.jp/columns-covid19/covid19_4-3-3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1および非特許文献1では、本質的にノイズを増大させる処理である微分処理、すなわちRctの増加量を監視し、そのピークの有無によってDNAの増加を判定している。したがって、測定結果を判断する際に、ノイズとピークに大きな違いが見られず、熟練した人間が目視で確認する必要があり、コンピュータのソフトウェアで自動的にピークを検出することが困難、すなわちDNAの増加を判定することが困難であるという課題がある。そのため、予め定めたPCRサイクル数をすべて実施することになるので、DNAの増加を判定するのに不必要に長い時間を要してしまうという問題がある。また、ノイズが大きい場合、ピークの検出そのものができないおそれがあり、すなわち、DNAの増加を判定できないおそれがある。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ノイズが十分に抑制されたデータに基づいて時系列で判定が可能であり、短時間での判定およびコンピュータのソフトウェアによる自動判定が可能な判定装置および判定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明はかかる課題を解決するため、時間経過と共に測定対象物のインピーダンスの測定を繰り返し、前記測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったことを判定する判定装置において、前記時間経過と前記インピーダンスとの時系列の関係を関係関数で表し、測定を行った前記時間経過の所定の測定点における前記インピーダンスと前記関係関数の値との差に基づいて推定誤差情報を算出する分析部と、前記時間経過にともなう前記推定誤差情報の変化を時系列で監視し、前記推定誤差情報が所定の判定基準を満たした時点で、前記測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったと判定する判定部と、を備える判定装置を提供する。
【0017】
前記判定装置では、前記判定基準を満たした時点が、前記推定誤差情報が所定の閾値をよぎった時点、前記推定誤差情報を一次微分した結果が極大値となった時点、または、前記推定誤差情報を二次微分以上した結果が極大値となった時点である、としてもよい。
【0018】
前記判定装置では、繰り返しの前記インピーダンスの測定が、前記測定対象物に少なくとも1つのステップを有する少なくとも1つの制御条件を複数のサイクルで印加して、必要な前記ステップで前記測定対象物のインピーダンスを測定するものである、としてもよい。
【0019】
前記判定装置では、前記制御条件が、温度、電流および電圧のうち少なくとも1つを制御して印加するものである、としてもよい。
【0020】
前記判定装置では、前記制御条件のうち、第1制御条件Aにおける前記測定対象物の第1インピーダンス、Z
AO(n)と、第2制御条件Bにおける前記測定対象物の第2インピーダンスZ
BO(n)とに対し、補正を加えたZ
AO(n)をZ
AOC(n)、補正を加えたZ
BO(n)をZ
BOC(n)、サイクル数nにおけるZ
AO(n)の第1測定時刻をt
ZAO(n)、前記第1測定時刻t
ZAO(n)よりも時系列が前の、サイクル数nにおけるZ
BO(n)の第2測定時刻をt
ZBO(n)、および、補正係数をrとするとき、サイクル数nにおける前記補正係数rをr(n)として前記r(n)を(数2)により算出し、(数1)により、前記第2インピーダンスZ
BO(n)を補正して補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)を求めるか、前記補正係数rを、所定範囲のサイクル数における補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)と前記第1インピーダンスZ
AO(n)の相関係数が最大となる値にして、(数1)により、前記第2インピーダンスZ
BO(n)を補正して前記補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)を求めるか、サイクル数nにおける前記補正係数rをr(n)として前記r(n)を(数4)により算出し、(数3)により、前記第1インピーダンスZ
AO(n)を補正して補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)を求めるか、または、前記補正係数rを、所定範囲のサイクル数における補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)と前記第2インピーダンスZ
BO(n)の相関係数が最大となる値にして、(数3)により、前記第1インピーダンスZ
AO(n)を補正して前記補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)を求める、としてもよい。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0021】
前記判定装置では、前記分析部が、前記時間経過と前記インピーダンスとの時系列の関係をカーブフィットで近似して前記関係関数で表す、としてもよい。
【0022】
前記判定装置では、前記制御条件が少なくとも2つの前記ステップを有し、前記分析部が、1つの前記ステップで測定した試料のインピーダンスを別の前記ステップで測定したインピーダンスで除して比例係数を算出し、前記別のステップで測定したインピーダンスに前記比例係数を乗じて、前記複数のサイクルと前記インピーダンスとの時系列の関係を前記関係関数で表す、としてもよい。
【0023】
前記判定装置では、前記制御条件のうち、第1制御条件における試料の第1インピーダンスと、第2制御条件における試料の第2インピーダンスとの相関を近似した回帰曲線で前記関係関数を表す、としてもよい。
【0024】
前記判定装置では、前記インピーダンスとして、前記インピーダンスの絶対値、前記インピーダンスの実部および前記インピーダンスの虚部のうち少なくとも1つを用いる、としてもよい。
【0025】
前記判定装置では、前記インピーダンスとして、前記インピーダンスから算出される電荷移動抵抗の推定値を用いる、としてもよい。
【0026】
前記判定装置では、前記インピーダンスの測定値に基づくコールコールプロットを、前記コールコールプロット上の2点以上を用いて半円に近似して、当該半円の直径を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、前記コールコールプロット上の2点以上を用いた前記インピーダンスの実部の差を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、前記コールコールプロット上の2点以上を用いた前記インピーダンスの差の絶対値を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、前記コールコールプロットを、前記コールコールプロット上の3点以上を用いて楕円に近似して、当該楕円の実軸方向の直径を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、または、前記コールコールプロットを、前記コールコールプロット上の3点以上を用いて円弧に近似して、当該円弧の虚部=0Ωにおける実部の差を前記電荷移動抵抗の推定値とする、としてもよい。
【0027】
前記判定装置では、前記分析部が推定誤差量を算出し、前記推定誤差量が前記時間経過の所定の測定点において前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差である、としてもよい。
【0028】
前記判定装置では、前記推定誤差量が、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除したものであるか、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和であるか、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除した値の累乗根であるか、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和の累乗根であるか、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の累乗根であるか、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗であるか、または、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差である、としてもよい。
【0029】
前記判定装置では、前記分析部が推定誤差量を算出し、推定誤差量の正規化を行って推定誤差情報を得て、前記判定部が前記推定誤差情報の変化を監視して判定を行う、としてもよい。
【0030】
前記判定装置では、前記インピーダンスの最初の測定値から直近の測定値の平均値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、前記インピーダンスの最初の測定値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、前記インピーダンスの直近の測定値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、または、前記推定誤差量の正規化を行わない、としてもよい。
【0031】
前記判定装置では、前記測定対象物が、PCRによる特定DNAの増幅のための溶液、PCRによる特定RNA配列を転写したDNAの増幅のための溶液、太陽電池、蓄電池または燃料電池である、としてもよい。
【0032】
本発明はまた、測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったことを判定する判定方法において、時間経過と共に前記測定対象物のインピーダンスの測定を繰り返す測定工程と、前記時間経過と前記インピーダンスとの時系列の関係を関係関数で表し、前記時間経過の所定の測定点における前記インピーダンスと前記関係関数の値との差に基づいて推定誤差情報を算出する算出工程と、前記時間経過にともなう前記推定誤差情報の変化を時系列で監視して前記測定の所定の間隔毎に前記推定誤差情報を抽出し、前記推定誤差情報が所定の判定基準を満たした時点で、前記測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったと判定する判定工程と、を含む判定方法を提供する。
【0033】
前記判定方法では、前記判定基準を満たした時点が、前記推定誤差情報が所定の閾値をよぎった時点、前記推定誤差情報を一次微分した結果が極大値となった時点、または、前記推定誤差情報を二次微分以上した結果が極大値となった時点である、としてもよい。
【0034】
前記判定方法では、前記測定工程が、前記測定対象物に少なくとも1つのステップを有する少なくとも1つの制御条件をサイクル毎に印加する工程と、必要な前記ステップで前記測定対象物のインピーダンスを測定する工程とを含み、前記判定工程が、前記サイクルを終了するサイクル終了条件を満たしたか否かを監視し、あるサイクルを行った後に、前記サイクル終了条件を満たしていなければ前記サイクルを繰り返し、前記サイクル終了条件を満たせば、前記推定誤差情報が所定の判定基準を満たした時点で、前記測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったと判定し、そのサイクル番号を得る工程を含む、としてもよい。
【0035】
前記判定方法では、前記制御条件が、温度、電流および電圧のうち少なくとも1つを制御して印加するものである、としてもよい。
【0036】
前記判定方法では、前記制御条件のうち、第1制御条件Aにおける前記測定対象物の第1インピーダンス、Z
AO(n)と、第2制御条件Bにおける前記測定対象物の第2インピーダンスZ
BO(n)とに対し、補正を加えたZ
AO(n)をZ
AOC(n)、補正を加えたZ
BO(n)をZ
BOC(n)、サイクル数nにおけるZ
AO(n)の第1測定時刻をt
ZAO(n)、前記第1測定時刻t
ZAO(n)よりも時系列が前の、サイクル数nにおけるZ
BO(n)の第2測定時刻をt
ZBO(n)、および、補正係数をrとするとき、サイクル数nにおける前記補正係数rをr(n)として前記r(n)を(数6)により算出し、(数5)により、前記第2インピーダンスZ
BO(n)を補正して補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)を求めるか、前記補正係数rを、所定範囲のサイクル数における補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)と前記第1インピーダンスZ
AO(n)の相関係数が最大となる値にして、(数5)により、前記第2インピーダンスZ
BO(n)を補正して前記補正後の第2インピーダンスZ
BOC(n)を求めるか、サイクル数nにおける前記補正係数rをr(n)として前記r(n)を(数8)により算出し、(数7)により、前記第1インピーダンスZ
AO(n)を補正して補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)を求めるか、または、前記補正係数rを、所定範囲のサイクル数における補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)と前記第2インピーダンスZ
BO(n)の相関係数が最大となる値にして、(数7)により、前記第1インピーダンスZ
AO(n)を補正して前記補正後の第1インピーダンスZ
AOC(n)を求める、としてもよい。
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0037】
前記判定方法では、前記時間経過と前記インピーダンスとの時系列の関係をカーブフィットで近似して前記関係関数で表す、としてもよい。
【0038】
前記判定方法では、前記制御条件が少なくとも2つの前記ステップを有し、1つの前記ステップで測定した試料のインピーダンスを別の前記ステップで測定したインピーダンスで除して比例係数を算出し、前記別のステップで測定したインピーダンスに前記比例係数を乗じて、複数の前記サイクルと前記インピーダンスとの時系列の関係を前記関係関数で表す、としてもよい。
【0039】
前記判定方法では、前記制御条件のうち、第1制御条件における試料の第1インピーダンスと、第2制御条件における試料の第2インピーダンスとの相関を近似した回帰曲線で前記関係関数を表す、としてもよい。
【0040】
前記判定方法では、前記インピーダンスとして、前記インピーダンスの絶対値、前記インピーダンスの実部および前記インピーダンスの虚部のうち少なくとも1つを用いる、としてもよい。
【0041】
前記判定方法では、前記インピーダンスとして、前記インピーダンスから算出される電荷移動抵抗の推定値を用いる、としてもよい。
【0042】
前記判定方法では、前記インピーダンスの測定値に基づくコールコールプロットを、前記コールコールプロット上の2点以上を用いて半円に近似して、当該半円の直径を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、前記コールコールプロット上の2点以上を用いた前記インピーダンスの実部の差を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、前記コールコールプロット上の2点以上を用いた前記インピーダンスの差の絶対値を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、前記コールコールプロットを、前記コールコールプロット上の3点以上を用いて楕円に近似して、当該楕円の実軸方向の直径を前記電荷移動抵抗の推定値とするか、または、前記コールコールプロットを、前記コールコールプロット上の3点以上を用いて円弧に近似して、当該円弧の虚部=0Ωにおける実部の差を前記電荷移動抵抗の推定値とする、としてもよい。
【0043】
前記判定方法では、推定誤差量を算出し、前記推定誤差量が前記時間経過の所定の測定点において前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差である、としてもよい。
【0044】
前記判定方法では、前記推定誤差量が、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除したものであるか、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和であるか、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除した値の累乗根であるか、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の総和の累乗根であるか、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗の累乗根であるか、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差の累乗であるか、または、前記インピーダンスから前記関係関数の値を引いた差である、としてもよい。
【0045】
前記判定方法では、推定誤差量を算出し、推定誤差量の正規化を行った推定誤差情報を得て、前記推定誤差情報の変化を監視して判定を行う、としてもよい。
【0046】
前記判定方法では、前記インピーダンスの最初の測定値から直近の測定値の平均値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、前記インピーダンスの最初の測定値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、前記インピーダンスの直近の測定値の累乗で前記推定誤差量の正規化を行うか、または前記推定誤差量の正規化を行わない、としてもよい。
【0047】
前記判定方法では、前記測定対象物が、PCRによる特定DNAの増幅のための溶液、PCRによる特定RNA配列を転写したDNAの増幅のための溶液、太陽電池、蓄電池または燃料電池である、としてもよい。
【発明の効果】
【0048】
本発明の判定装置および判定方法によれば、ノイズが十分に抑制されたデータに基づいて時系列の判定が可能なので、測定サイクルの途中で測定対象物の電気化学的性質が所定の状態になったことを判定することができ、測定時間を最小限にすることができる。また、コンピュータのソフトウェアによる自動判定が可能となるので、測定の省力化や人件費の削減に貢献し、多数の試料の自動測定にも適する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】本発明の判定装置の好適な一実施形態としての基本構成例を示す図である。
【
図2】好適な一実施形態において、条件制御部によって測定対象物に印加される制御条件の1サイクルの一例を模式的に示す概略図である。
【
図3】好適な一実施形態において、EIS法の測定対象物の一般的な等価回路の一例を示す図である。
【
図4】好適な一実施形態において、条件制御部により制御条件を測定対象物に印加し、サイクルを繰り返したときに、横軸にサイクル数、縦軸に特定の周波数におけるインピーダンスの測定値の絶対値をプロットした様子を模式的に示す概略図である。
【
図5】好適な一実施形態において、判定方法のフローチャートの一例を示す図である。
【
図6】好適な一実施形態において、EIS法におけるコールコールプロットの一例を模式的に示す概略図である。
【
図7】実施例で用いた測定対象物のインピーダンスの絶対値|Z|と、インピーダンスの実部Z
realとを、サイクル数に対してプロットしたグラフである。
【
図8】好適な一実施形態に係るコールコールプロットにおいて、高低2つの周波数で半円に近似して、その半円の直径をインピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctとする際の電荷移動抵抗R
ctの求め方を模式的に示す概略図である。
【
図9】好適な一実施形態に係るコールコールプロットにおいて、高低2つの周波数で測定したインピーダンスにおける実部の差、または、インピーダンスの差の絶対値をインピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctとすることを模式的に示す概略図である。
【
図10】好適な一実施形態に係るコールコールプロットにおいて、3つの周波数で楕円に近似して、その楕円の実軸方向の直径をインピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctとすることを模式的に示す概略図である。
【
図11】好適な一実施形態に係るコールコールプロットにおいて、3つの周波数で円弧に近似して、その円弧の虚部=0Ωにおける実部の差をインピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctとすることを模式的に示す概略図である。
【
図12】相関近似の例において、横軸をサイクル数、縦軸をZ
AO(n)の2階微分としたグラフである。
【
図13】相関近似の例において、Z
AO(n)とZ
BO(n)の相関のプロットと、サイクル数の範囲を1~7で作成した一次の近似関数f
BA(Z
BO(n))のグラフである。
【
図14】相関近似の例において、横軸をサイクル数、縦軸をZ
AO(n)とZ
BO(n)とZ
f(n)としたグラフである。
【
図15】好適な一実施形態において、推定誤差情報をサイクル数に対してプロットした場合の一例を模式的に示す概略図である。
【
図16】推定誤差情報をサイクル数で一次微分処理した結果を、サイクル数に対してプロットした場合の一例を模式的に示す概略図である。
【
図17】実施例1において、DNA濃度100ng/mlの溶液に対して、制御条件として98℃の変性ステップを60秒間、55℃のアニーリングステップを70秒間、および、68℃の合成ステップ(伸長ステップ)を60秒間行い、これを1サイクルとして40サイクルを印加し、周波数f=1Hzで68℃の合成ステップにおけるインピーダンスの測定をした結果を示す図である。
【
図18】従来技術である特許文献1および非特許文献1に記載の方法に基づいて、
図13のインピーダンスの測定値に対して、各サイクルの前後の差分(増減)をプロットした図である。
【
図19】実施例1において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスとしてインピーダンスの絶対値を用いて、基準のインピーダンスのカーブフィットにより関係関数Z
f(n)を表し、(数14)により推定誤差量E(n)を算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。
【
図20】実施例2において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスおよび近似関数の算出に用いるインピーダンスとしてインピーダンスの絶対値を用い、基準のインピーダンスは(数13)によって関係関数Z
f(n)を表し、(数20)により推定誤差量E(n)を算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。
【
図21】実施例3において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスおよび比例係数の算出に用いるインピーダンスとしてインピーダンスの絶対値を用いて、(数10)および(数11)により関係関数Z
f(n)を表し、(数14)により推定誤差量E(n)を算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。
【
図22】実施例4において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスとしてインピーダンスの実部を用いて、基準のインピーダンスのカーブフィットにより関係関数Z
f(n)を表し、(数14)により推定誤差量E(n)を算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。
【
図23】実施例5において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスおよび近似関数の算出に用いるインピーダンスとしてインピーダンスの実部を用い、基準のインピーダンスは(数13)によって関係関数Z
f(n)を表し、(数20)により推定誤差量E(n)を算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。
【
図24】実施例6において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスおよび比例係数の算出に用いるインピーダンスとしてインピーダンスの実部を用いて、(数10)および(数11)により関係関数Z
f(n)を表し、(数14)により推定誤差量E(n)を算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。
【
図25】実施例7において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスとしてインピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctを用いて、基準のインピーダンスのカーブフィットにより関係関数Z
f(n)を表し、(数14)により推定誤差量E(n)を算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。
【
図26】実施例8において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスおよび近似関数の算出に用いるインピーダンスとしてインピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctを用い、基準のインピーダンスは(数13)によって関係関数Z
f(n)を表し、(数20)により推定誤差量E(n)を算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。
【
図27】実施例9において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスおよび比例係数の算出に用いるインピーダンスとしてインピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctを用いて、(数10)および(数11)により関係関数Z
f(n)を表し、(数14)により推定誤差量E(n)を算出し、推定誤差量の正規化を行って推定誤差情報を算出した結果を示すグラフである。
【
図28】実施例10において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスとしてインピーダンスの絶対値を用いて、基準のインピーダンスのカーブフィットにより関係関数Z
f(n)を表し、(数14)により推定誤差量E(n)を算出し、推定誤差量の正規化を行って推定誤差情報を算出した結果を示すグラフである。
【
図29】実施例11において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスおよび近似関数の算出に用いるインピーダンスとしてインピーダンスの絶対値を用い、基準のインピーダンスは(数13)によって関係関数Z
f(n)を表し、(数20)により推定誤差量E(n)を算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。
【
図30】実施例12において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスおよび比例係数の算出に用いるインピーダンスとしてインピーダンスの絶対値を用いて、(数10)および(数11)により関係関数Z
f(n)を表し、(数14)により推定誤差量E(n)を算出し、推定誤差量の正規化を行って推定誤差情報を算出した結果を示すグラフである。
【
図31】実施例13において、実施例1で求めた推定誤差情報の一次微分のグラフである。
【
図32】実施例14において、実施例2で求めた推定誤差情報の一次微分のグラフである。
【
図33】実施例15において、実施例3で求めた推定誤差情報の一次微分のグラフである。
【
図34】実施例16において、実施例2の推定誤差情報の算出と同様の計算を、Z
BO(n)の代わりにZ
BO(n)を(数1)で補正したZ
BOC(n)を用いて算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。
【
図35】実施例17において、実施例3の推定誤差情報の算出と同様の計算を、Z
BO(n)の代わりにZ
BO(n)を(数1)で補正したZ
BOC(n)を用いて算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、図面を参照して、本発明の判定装置および判定方法の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載され、または発明を実施するための形態に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能である。そのような変形や変更もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0051】
<判定装置の構成>
図1は、本発明の判定装置1の好適な一実施形態としての基本構成例を示す図である。判定装置1は、時間経過と共に測定対象物2のインピーダンスの測定を繰り返し、測定対象物2の電気化学的性質が所定の状態になったことを判定する。測定対象物2は、電気化学インピーダンスを測定される対象物であり、例えば、PCRによる特定DNAの増幅のための溶液、PCRによる特定RNA配列を転写したDNAの増幅のための溶液、太陽電池、蓄電池または燃料電池等である。電気化学的性質が所定の状態になったとは、例えば、測定対象物2の化学反応が所定の状態まで進んだということを意味し、例えばPCRでは、測定対象物2中の目的とするDNAが十分に増幅された状態になったということを意味する。判定装置1は、条件制御部3と、インピーダンス測定部4と、分析部5と、判定部6と、を備える。なお、条件制御部3および/またはインピーダンス測定部4は、判定装置1とは別個の装置としてもよい。
【0052】
測定対象物2には、第1電極7および第2電極8の少なくとも2つの電極が設けられ、これらの2つの電極7、8間のインピーダンスが測定される。図中、2つの電極7、8が対向して配置されているが、配置方法は任意である。
【0053】
条件制御部3は、時間経過と共にインピーダンスの測定を繰り返す際に、例えば、測定対象物2に少なくとも1つのステップを有する少なくとも1つの制御条件を複数のサイクルで印加することができる。制御条件は、例えば、温度、充電電流、放電電流および印加電圧のうち少なくとも1つを制御して印加するものである。
【0054】
図2は、条件制御部3によって測定対象物2に印加される制御条件の1サイクルの一例を模式的に示す概略図である。制御条件は、例えば制御条件AおよびBの2つのステップを有するが、少なくとも1つのステップでインピーダンスの測定を行えばよい。図中では、各制御条件AおよびBにおいて、それぞれ測定対象物2のインピーダンスZ
AおよびZ
Bの測定を行うことを示している。制御条件として、制御条件AおよびB以外に、インピーダンスの測定を行わない制御条件αや制御条件βを印加してもよい。この1サイクルの制御条件の印加が、複数回繰り返して行われる。
【0055】
例えば、PCRでは、測定対象物2に制御条件として3つの温度を1サイクルとして印加して、当該サイクルを繰り返す。温度や工程は一例であり、後述する実施例の説明の都合上制御条件AとBの順序が前後するが、例えば、制御条件Bとして98℃の変性ステップ、制御条件βとして55℃のアニーリングステップ、および、制御条件Aとして68℃の合成ステップ(伸長ステップ)を1サイクルとする。この場合、印加する順序は最初に制御条件B、次に制御条件β、最後に制御条件Aの順である。この1サイクルで、測定対象物2の目的とするDNAが2倍になる。インピーダンスの変化についてみると、変性ステップではDNAは一重鎖となりインピーダンスに影響を与えないが、合成ステップでDNAは二重鎖となり、インピーダンスを変化させる。
【0056】
インピーダンス測定部4は、必要なステップで測定対象物2のインピーダンスを測定するものであり、測定対象物2の特定の周波数におけるインピーダンスを、例えば四端子法により測定する。この特定の周波数は、単一の周波数でもよいし、複数の周波数を切り替えて複数回の測定としてもよい。インピーダンス測定部4は、特定の周波数の信号を印加する信号源(図示せず)と、その周波数の電流および電圧を測定する手段(図示せず)を有し、例えば上記のFRAを用いることができる。
【0057】
分析部5は、時間経過とインピーダンスとの時系列の関係を関係関数で表し、時間経過の所定の測定点におけるインピーダンスと関係関数の値との差から推定誤差量を算出する。さらに分析部5は、推定誤差量に基づいて推定誤差情報を算出する。
【0058】
判定部6は、時間経過にともなう推定誤差情報の変化を時系列で監視し、推定誤差情報が所定の判定基準を満たした時点で、測定対象物2の電気化学的性質が所定の状態になったと判定する。判定基準を満たした時点は、推定誤差情報が所定の閾値をよぎった時点、推定誤差情報を一次微分した結果が極大値となった時点、および、推定誤差情報を二次微分以上した結果が極大値となった時点の3通りである。判定部6は複数のサイクルに対して推定誤差情報の変化を監視して判定を行ってもよい。
【0059】
図3は、EIS法の測定対象物2の一般的な等価回路の一例を示す図である。このような等価回路については、EIS法における従来技術で知られているところであり、簡単に説明する。測定対象物2の種類によっては、図中の等価回路と異なる場合もある。
【0060】
溶液抵抗Rsは、測定対象物2である溶液の抵抗率等で決まる電気抵抗成分である。電荷移動抵抗Rctは、電極界面での溶液の反応による抵抗である。電気二重層静電容量Cdlは、溶液の静電容量成分を表す。ワールブルグインピーダンスWは、拡散抵抗を表す。
【0061】
測定対象物2中の電荷移動を担う物質が取り込まれるような条件において、一例として、測定対象物2のインピーダンスの測定に基づく電荷移動抵抗Rctに関する測定により、測定対象物2の化学的性質の変化の進捗を知ることができる。
【0062】
このような等価回路のインピーダンスは、例えば、数kHz程度以上の高い周波数における測定では、ほぼ溶液抵抗Rsとなる。等価回路で、電気二重層静電容量Cdlが短絡と近似できる周波数領域に相当するからである。
【0063】
電気二重層静電容量Cdlによる容量リアクタンスの絶対値に対して電荷移動抵抗Rctの絶対値が無視できない程度の大きさとなるような周波数、例えば、数百Hzから数Hz程度の周波数領域では、コールコールプロットにおいて半円状のインピーダンスを示す。測定を行う周波数として、当該半円の頂点付近になる周波数を選択すれば、インピーダンスの虚部は電荷移動抵抗Rctの半分程度になる。すなわち、一つの周波数による測定におけるインピーダンスの虚部によって、インピーダンス測定を行うことが可能である。また、当該半円の頂点付近になる周波数を複数選択して測定を行い、そのインピーダンスの虚部の値の平均をとることなども可能である。
【0064】
周波数が低いと、電気二重層静電容量Cdlが開放と近似できる周波数領域に近づくため、等価回路のインピーダンスは、溶液抵抗Rsと電荷移動抵抗Rctの和に近づく。すなわち、測定を行う周波数としてこのような低い周波数を選択すれば、インピーダンスの実部は溶液抵抗Rsと電荷移動抵抗Rctの和に近くなる。つまり、一つの周波数による測定におけるインピーダンスの実部によって、インピーダンス測定を行うことが可能である。また、当該電気二重層静電容量Cdlが開放と近似できる周波数を複数選択して測定を行い、そのインピーダンスの実部の値の平均をとることなども可能である。さらに、インピーダンスの実部の代わりにインピーダンスの絶対値を用いることも可能であり、特に、当該周波数においてインピーダンスの虚部がゼロではない場合に有効な場合がある。
【0065】
例えば、数Hz以下のようなさらに低い周波数領域では、ワールブルグインピーダンスWによる変化が支配的になるようなインピーダンスの変化を示す。すなわち、周波数が低くなるにつれて、インピーダンスの実部と虚部が共に増加するような変化が生じる。
【0066】
<EIS法におけるインピーダンスの変化>
図4は、条件制御部3により制御条件を測定対象物2に印加し、サイクルを繰り返したときに、横軸にサイクル数、縦軸に特定の周波数におけるインピーダンスの測定値の絶対値をプロットした様子を模式的に示す概略図である。
【0067】
電気化学における測定対象物2のインピーダンスは、特定の条件で制御されたサイクルを繰り返すことで、化学反応が順調に促進される範囲では、ある関係関数で近似することができる。この関係関数を、サイクル数(または、サイクル番号、以下同様)をnとして、Z
f(n)とする。
図4に示すように、化学反応が順調に促進される範囲では、サイクル数がkまでのような変化をし、順調に進めばサイクル数がk+1以降でも関係関数Z
f(n)で表すことができる。例えばPCRでは、測定対象物2中に、目的とするDNAが存在しない場合に相当する。
【0068】
これに対し、化学反応がある程度進み、例えば、測定対象物2中の電荷移動抵抗R
ctに影響する溶液成分の濃度がそれまでの化学反応の促進を維持できる範囲を外れる場合、インピーダンスは関係関数Z
f(n)からずれ始める。
図4では、インピーダンスの測定値がZ
f(n)からずれ始める様子を、サイクル数がk+1以降のプロットで示している。例えばPCRでは、測定対象物2中に目的とするDNAが存在し、DNAが十分に増幅された場合に相当する。
【0069】
<判定方法>
図5に、本実施形態の判定方法のフローチャートの一例を示す。当該判定方法では、時間経過と共に測定対象物2のインピーダンスの測定を繰り返し、測定対象物2の電気化学的性質が所定の状態になったことを判定する。ここでは、具体的な一例として、測定対象物2に複数のサイクルで制御条件を印加する場合について例示する。これは、時間経過として複数のサイクルを繰り返す場合を採用する一例である。
【0070】
まず、工程S1において、条件制御部3が、
測定対象物2に少なくとも1つのステップを有する少なくとも1つの制御条件をステップ毎に印加する。
【0071】
次に、工程S2において、インピーダンス測定部4が、
必要なステップで測定対象物2のインピーダンスを測定する。
【0072】
次に、工程S3において、分析部5が、
時間経過としての複数のサイクルとインピーダンスとの時系列の関係を関係関数で表す。
【0073】
次に、工程S4において、分析部5が、
時間経過としての複数のサイクルの所定の測定点におけるインピーダンスと関係関数の値との差に基づいて推定誤差情報を算出する。なお、工程S2~S4は、必ずしも全てのサイクルにおいて毎回実行する必要はなく、一例として2サイクルに1回などの任意の間隔で実行すればよい。
【0074】
次に、工程S5において、判定部6が、
サイクル終了条件を満たしたか否かを監視する。サイクル終了条件を満たしていなければ工程S1に戻り、サイクル終了条件を満たせば工程S6に進む。なお、サイクル終了条件は例えば、「所定のサイクル数を終了した」「推定誤差情報が所定の判定基準を満たした」のいずれか一方または両方である。判定は、全サイクルで推定誤差情報を抽出して実行してもよいし、一例として2サイクルに1回などの任意の間隔で推定誤差情報を抽出して実行してもよい。なお、判定頻度は、上記の推定誤差情報の算出頻度とは関係なく決定することができ、推定誤差情報を算出したサイクルから判定を実行するサイクルを任意に選択することができる。
【0075】
最後に、工程S6において、判定部6が、
推定誤差情報が所定の判定基準を満たした時点で、測定対象物2の電気化学的性質が所定の状態になったと判定し、そのサイクル番号を得る。(なお、推定誤差情報が判定基準を満たさずにサイクル終了条件を満たした場合は、サイクル番号は「なし」となる。)
【0076】
上記の方法では、
判定基準を満たした時点を、推定誤差情報が所定の閾値をよぎった時点、推定誤差情報を一次微分した結果が極大値となった時点、または、推定誤差情報を二次微分以上した結果が極大値となった時点とすることができる。
【0077】
上記の方法では、分析部5が、
時間経過とインピーダンスとの時系列の関係をカーブフィットで近似して関係関数で表すことができる。
【0078】
上記の方法では、
制御条件が少なくとも2つのステップを有し、分析部5が、1つのステップで測定した試料のインピーダンスを別のステップで測定したインピーダンスで除して比例係数を算出し、別のステップで測定したインピーダンスに比例係数を乗じて、複数のサイクルとインピーダンスとの時系列の関係を関係関数で表すことができる。
【0079】
上記の方法では、
制御条件のうち、第1制御条件における試料の第1インピーダンスと、第2制御条件における試料の第2インピーダンスの相関を近似した回帰曲線で関係関数を表すことができる。
【0080】
上記の方法では、
制御条件が、温度、電流および電圧のうち少なくとも1つを制御して印加するものであるとすることができる。
【0081】
上記の方法では、
制御条件のうち、第1制御条件Aにおける測定対象物の第1インピーダンス、ZAO(n)と、第2制御条件Bにおける測定対象物の第2インピーダンスZBO(n)とに対し、
補正を加えたZAO(n)をZAOC(n)、
補正を加えたZBO(n)をZBOC(n)、
サイクル数nにおけるZAO(n)の第1測定時刻をtZAO(n)、
第1測定時刻tZAO(n)よりも時系列が前の、サイクル数nにおけるZBO(n)の第2測定時刻をtZBO(n)、および、
補正係数をrとするとき、
サイクル数nにおける補正係数rをr(n)としてr(n)を(数2)により算出し、(数1)により、第2インピーダンスZBO(n)を補正して補正後の第2インピーダンスZBOC(n)を求めるか、
補正係数rを、所定範囲のサイクル数における補正後の第2インピーダンスZBOC(n)と第1インピーダンスZAO(n)の相関係数が最大となる値にして、(数1)により、第2インピーダンスZBO(n)を補正して補正後の第2インピーダンスZBOC(n)を求めるか、
サイクル数nにおける補正係数rをr(n)としてr(n)を(数4)により算出し、(数3)により、第1インピーダンスZAO(n)を補正して補正後の第1インピーダンスZAOC(n)を求めるか、または、
補正係数rを、所定範囲のサイクル数における補正後の第1インピーダンスZAOC(n)と第2インピーダンスZBO(n)の相関係数が最大となる値にして、(数3)により、第1インピーダンスZAO(n)を補正して補正後の第1インピーダンスZAOC(n)を求めることができる。
【0082】
上記の方法では、
インピーダンスとして、インピーダンスの絶対値、インピーダンスの実部およびインピーダンスの虚部のうち少なくとも1つを用いることができる。
【0083】
上記の方法ではまた、
インピーダンスとして、インピーダンスから算出される電荷移動抵抗の推定値を用いることができる。
【0084】
上記の方法では、
インピーダンスの測定値に基づくコールコールプロットを、コールコールプロット上の2点以上を用いて半円に近似して、当該半円の直径を電荷移動抵抗の推定値とするか、
コールコールプロット上の2点以上を用いたインピーダンスの実部の差を電荷移動抵抗の推定値とするか、
コールコールプロット上の2点以上を用いたインピーダンスの差の絶対値を電荷移動抵抗の推定値とするか、
コールコールプロットを、コールコールプロット上の3点以上を用いて楕円に近似して、当該楕円の実軸方向の直径を電荷移動抵抗の推定値とするか、または、
コールコールプロットを、コールコールプロット上の3点以上を用いて円弧に近似して、当該円弧の虚部=0Ωにおける実部の差を電荷移動抵抗の推定値とすることができる。
【0085】
上記の方法では、分析部5が、
推定誤差量を算出し、推定誤差量が時間経過の所定の測定点においてインピーダンスから関係関数の値を引いた差であるとすることができる。
【0086】
上記の方法では、
推定誤差量が、
インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除したものであるか、
インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗の総和であるか、
インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除した値の累乗根であるか、
インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗の総和の累乗根であるか、
インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗の累乗根であるか、
インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗であるか、または、
インピーダンスから関係関数の値を引いた差であるとすることができる。
【0087】
上記の方法では、
推定誤差量を算出し、推定誤差量の正規化を行った推定誤差情報を得て、推定誤差情報の変化を監視して判定を行うことができる。
【0088】
上記の方法では、
インピーダンスの最初の測定値から直近の測定値の平均値の累乗で推定誤差量の正規化を行うか、
インピーダンスの最初の測定値の累乗で推定誤差量の正規化を行うか、
インピーダンスの直近の測定値の累乗で推定誤差量の正規化を行うか、または、
推定誤差量の正規化を行わないことができる。
【0089】
上記の方法では、
測定対象物2が、PCRによる特定DNAの増幅のための溶液、PCRによる特定RNA配列を転写したDNAの増幅のための溶液、太陽電池、蓄電池または燃料電池であるとすることができる。
【0090】
(試料のインピーダンス)
サイクル数をnとしたときの制御条件Aにおける測定対象物2としての試料のインピーダンスの測定値をZAO(n)としたとき、本実施形態の判定方法では、ZAO(n)として、例えば以下の4通りのいずれかの値を用いることができる。PCRの例では、ZAO(n)として、合成ステップでのインピーダンスの測定値を用いることができる。
(1)1以上の周波数fで測定したインピーダンスの絶対値
(2)1以上の周波数fで測定したインピーダンスの実部
(3)1以上の周波数fで測定したインピーダンスの虚部
(4)2以上の周波数fで測定したインピーダンスから推定した電荷移動抵抗Rct
【0091】
インピーダンスの絶対値、インピーダンスの実部およびインピーダンスの虚部は、電荷移動抵抗Rctの定性的には、いずれも類似した振る舞いを示す。そのため、例えば判定基準として閾値を用いる場合、絶対値自体はさほど重要ではない、所定の値を閾値として大小関係の判定を行う本実施形態のような用途では、インピーダンスの絶対値、インピーダンスの実部およびインピーダンスの虚部のいずれであっても、閾値Ethを適宜設定することで、ほぼ同様の判定結果を得ることができる場合が多い。
【0092】
インピーダンス測定は、複素インピーダンスとして測定する場合、ベクトル演算が必要となり、処理が複雑になるが、実部や虚部のみでよければ、演算処理を省略または簡略化することができる。
【0093】
図6は、EIS法におけるコールコールプロットの一例を模式的に示す概略図である。このコールコールプロットから分かるように、インピーダンスの絶対値|Z|と、インピーダンスの実部Z
realとの間には大きな相違はない。インピーダンスの虚部も同様の傾向を示す。
【0094】
図7は、後述する実施例で用いた測定対象物2のインピーダンスの絶対値|Z|と、インピーダンスの実部Z
realとを、サイクル数に対してプロットしたグラフである。全サイクル数にわたって、インピーダンスの絶対値|Z|と、インピーダンスの実部Z
realとの間には大きな相違はないことが分かる。
【0095】
図8は、コールコールプロットにおいて、高低2つの周波数で半円に近似して、その半円の直径をインピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctとする際の電荷移動抵抗R
ctの求め方を模式的に示す概略図である。図中、溶液抵抗R
s、および、中心点が実軸上にある半円上の1点a-jbの2点が定まれば、b:(a-R
s)=(R
s+R
ct-a):bなので、以下の式により、高低2つの周波数fで測定したインピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctが求められる。溶液抵抗R
sは、例えば少なくとも1回、例えば1kHz以上の高い周波数におけるインピーダンスの測定により溶液抵抗R
sに相当するインピーダンスを測定すればよく、例えば、周波数f=1kHzにおけるインピーダンス測定値の実部Z
realとすることができる。
【0096】
【0097】
インピーダンスの絶対値、虚部、実部のいずれかを用いる場合は、1つの周波数の測定結果でも複数の周波数の測定結果でもよいことを前述した。一方、この半円への近似による方法では、最低2つの周波数(コールコールプロット上の2点)における測定結果が必要である。さらに、より多くの周波数における測定結果を用いて半円への近似を行い、それらの平均を取るなどの方法も可能である。
【0098】
図9は、コールコールプロットにおいて、高低2つの周波数で測定したインピーダンスにおける実部の差、またはインピーダンスの差の絶対値(ベクトル差の絶対値)を、インピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctとすることを模式的に示す概略図である。この方法においても、最低2つの周波数(コールコールプロット上の2点)における測定結果が必要である。さらに、より多くの周波数における測定結果を用いて、それらの平均を取るなどの方法も可能である。
【0099】
図10は、コールコールプロットにおいて、3つの周波数で楕円に近似して、その楕円の実軸方向の直径をインピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctとすることを模式的に示す概略図である。具体的な対象物における実測結果では、半円が縦につぶれたようなコールコールプロットになることも多いので、楕円に近似することによってより正確な近似を行うことができる場合がある。この方法においては、最低3つの周波数(コールコールプロット上の3点)における測定結果が必要である。さらに、より多くの周波数における測定結果を用いて、それらの平均を取るなどの方法も可能である。なお、具体的な対象物における実測結果において、もし半円が縦に伸びたようなコールコールプロットであっても(すなわち、実軸方向の直径が短径であっても)、同様に近似が可能である。
【0100】
図11は、コールコールプロットにおいて、3つの周波数で円弧に近似して、その円弧の虚部=0Ωにおける実部の差をインピーダンスから推定した電荷移動抵抗R
ctとすることを模式的に示す概略図である。半円の中心が実軸よりも下側にあるような状態に近いコールコールプロットにおいては、円弧に近似することによってより正確な近似を行うことができる場合もある。この方法においても、最低3つの周波数(コールコールプロット上の3点)における測定結果が必要である。さらに、より多くの周波数における測定結果を用いて、それらの平均を取るなどの方法も可能である。
【0101】
かように、インピーダンスから推定する電荷移動抵抗Rctの求め方は例示しているだけでも5通りある。試料のインピーダンスの求め方は、インピーダンスの実部・虚部・絶対値を加えて、例示しているだけでも8通りあることになるが、これらに限定するものではない。
【0102】
(基準のインピーダンス)
基準のインピーダンスは、上記の関係関数Zf(n)で表す。関係関数Zf(n)を求める方法は、例えば、以下の(1)から(3)の3通りがある。関係関数Zf(n)は、分析部5が、時間経過(複数のサイクル)とインピーダンスとの時系列の関係を関係関数で表して求める。
【0103】
(1)サイクル数をnとしたときの制御条件Aにおける測定対象物2のインピーダンスの測定値であるZAO(n)の所定範囲のサイクル数(一例として、サイクル数1~n)に対する関係をカーブフィットにより近似して、関係関数Zf(n)を得る。カーブフィットには、例えば最小二乗法等の周知のカーブフィット法を用いることができる。後述の実施例の表題では、この方法のことを「カーブフィット」と略記する。
【0104】
(2)サイクル数をnとしたときの制御条件Bにおける測定対象物2としての試料のインピーダンスの測定値をZBO(n)としたとき、ZBO(n)に比例係数Knを乗じた値を関係関数Zf(n)とする。ZBO(n)も、ZAO(n)と同様に8通りのインピーダンスの求め方がある。比例係数Knは、各サイクルにおいて、ZAO(n)をZBO(n)で除して求める。後述の実施例の表題では、この方法のことを「比例係数」と略記する。数式で表すと以下の通りである。
【0105】
【0106】
【0107】
(3)サイクル数をnとしたときの制御条件Aにおける測定対象物2としての試料のインピーダンスの測定値をZAO(n)とし、サイクル数をnとしたときの制御条件Bにおける測定対象物2としての試料のインピーダンスの測定値をZBO(n)としたとき、インピーダンスZAO(n)と、インピーダンスZBO(n)との相関を近似した回帰曲線で関係関数Zf(n)を表す。
【0108】
所定範囲のサイクル数における、ZAO(n)とZBO(n)の相関を近似した回帰曲線をfBA(ZBO(n))として、左記関数fBA(ZBO(n))を用いて関係関数Zf(n)を得る式を数12に示す。
【0109】
【0110】
fBA(ZBO(n))の作成に用いるサイクル数の範囲として、以下の(3-1)、(3-2)、(3-3)の3つがある。
(3-1)全てのサイクル数の範囲
(3-2)事前に指定したサイクル数の範囲
(3-3)測定結果ZAO(n)および関係関数Zf(n)を用いて所定の手順により算出したサイクル数の範囲。例えば、ZAO(n)をサイクル数で2階微分した際に極大値をとるサイクル数をnd2max、極小値をとるサイクル数をnd2minとして、事前に指定したサイクル数(例えば1)~(2nd2max-nd2min)を範囲とする。
【0111】
インピーダンスZAO(n)と、インピーダンスZBO(n)との相関を近似した回帰曲線の一例として、例えば、ZAO(n)とZBO(n)の関係を一次関数に近似して、その回帰直線の係数をa、bとした場合、以下の式となる。
【0112】
【0113】
計算の例として、DNA濃度100ng/ml、周波数1Hzの測定結果に対して、(数13)を反映した結果を次に示す。
【0114】
Z
AO(n)を68℃の合成ステップにおけるインピーダンスの絶対値とし、Z
BO(n)を98℃の変性ステップにおけるインピーダンスの絶対値とする。本例では、近似関数f
BA(Z
BO(n))の作成に用いるサイクル数の範囲は、上記(3-3)の例で示す方法で求めるものとする。
図12は、横軸をサイクル数、縦軸をZ
AO(n)の2階微分としたグラフであり、極大値となるサイクル数n
d2maxが13、極小値となるサイクル数n
d2minが19である。したがって、(2n
d2max-n
d2min)=2×13―19=7より、近似関数f
BA(Z
BO(n))の作成に用いるサイクル数の範囲は1~7となる。
【0115】
図13は、Z
AO(n)とZ
BO(n)の相関のプロットと、サイクル数の範囲を1~7で作成した一次の近似関数f
BA(Z
BO(n))のグラフである。Z
BO(n)が2500より小さい範囲では、Z
AO(n)とZ
BO(n)の関係が一次関数に良く近似できていることが分かる。また、
図14は横軸をサイクル数、縦軸をZ
AO(n)とZ
BO(n)とZ
f(n)としたグラフであり、10サイクル以下の範囲では、Z
AO(n)とZ
f(n)のグラフが重なることが分かる。
【0116】
後述の実施例の表題では、この(3)の方法のことを「相関近似」と略記する。
【0117】
なお、上記では一次関数で近似して係数を求めたが、これに限定するものではない。二次関数、それ以上の次数の関数や、他の任意の関数で近似して係数を求めることも可能である。
【0118】
また、回帰曲線の係数を求めるには一般的に最小二乗法が用いられるが、本手法はこれに限定するものではない。例えば、ZBO(n)を横軸、ZAO(n)を縦軸に置いた散布図上で、回帰曲線と測定点の距離の合計が最小になる係数を選択するといった方法を用いても良い。
【0119】
PCRの例では、ZBO(n)として、変性ステップでのインピーダンスの測定値を用いることができる。これは、ZBO(n)が目的とするDNAの量の影響を受けにくいのに対して、ZAO(n)はPCRによって目的とするDNAが増幅されると変化する、という特性を利用した方法である。
【0120】
ZBO(n)も、ZAO(n)と同様に、1以上の周波数fで測定したインピーダンスの絶対値、1以上の周波数fで測定したインピーダンスの実部、1以上の周波数fで測定したインピーダンスの虚部、および、2以上の周波数fで測定したインピーダンスから推定した電荷移動抵抗Rct(5通り)の8通りのいずれを用いることもできる。したがって、基準のインピーダンスの求め方と試料のインピーダンスの求め方の組合せは、例示しているだけでも24通りある。
【0121】
(推定誤差量)
分析部5は、複数のサイクルの所定の測定点における、試料のインピーダンスZAO(n)と、基準のインピーダンスの関係関数Zf(n)の値との差から推定誤差量を算出する。このような推定誤差量を、本発明では「推定誤差量E(n)」と称する。推定誤差量E(n)は例えば以下の7通りの式で求めることができるが、これらに限定するものではない。なお、以下の式中では、自乗と平方根を例示しているが、累乗と累乗根を用いることもできるので、式の表題では累乗や累乗根と記載している。
【0122】
[インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除したもの]
【数14】
【0123】
[インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗の総和]
【数15】
【0124】
[インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗の総和を測定回数で除した値の累乗根]
【数16】
【0125】
[インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗の総和の累乗根]
【数17】
【0126】
[インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗の累乗根]
【数18】
【0127】
[インピーダンスから関係関数の値を引いた差の累乗]
【数19】
【0128】
[インピーダンスから関係関数の値を引いた差]
【数20】
【0129】
(推定誤差量の正規化と推定誤差情報)
分析部5が推定誤差量E(n)を正規化し、判定部6が異なるDNA濃度の場合や電極表面状態が違う場合でも同程度の推定誤差量E(n)になるように正規化した推定誤差量E(n)の変化を監視して判定を行うこともできる。このような方法を、本発明では「推定誤差量の正規化」と称する。また、推定誤差量の正規化を行ったものと行わないものを総称して、本発明では「推定誤差情報」と称し、判定に用いることができる。
【0130】
推定誤差量の正規化の方法は、例えば以下の3通りがある。推定誤差量の正規化を行わない場合も含めると、例えば4通りがある。ZAO(1)はインピーダンス測定の繰り返しにおける最初の測定値であり、ZAO(n)は直近の測定値である。
(1)(ZAO(1)~ZAO(n)の平均値)の累乗で正規化する
(2)ZAO(1)の累乗で正規化する
(3)ZAO(n)の累乗で正規化する
【0131】
試料のインピーダンスZAO(1)~ZAO(n)やZBO(1)~ZBO(n)は、1以上の周波数fで測定したインピーダンスの絶対値、1以上の周波数fで測定したインピーダンスの実部、1以上の周波数fで測定したインピーダンスの虚部、および、2以上の周波数fで測定したインピーダンスから推定した電荷移動抵抗Rctのうち、推定誤差量E(n)を求める際に用いたものを用いる。
【0132】
(閾値と判定基準)
図15は、推定誤差情報をサイクル数に対してプロットした場合の一例を模式的に示す概略図である。推定誤差情報の求め方として積分処理的な方法(推定誤差量E(n)を表す数式中に総和記号Σが含まれているもの)を使用する場合は、ノイズは十分に抑制される。推定誤差情報が、予め設定した閾値E
thをよぎった場合に、測定対象物2が所定の化学的性質に到達したと判定する。閾値E
thをよぎるとは、推定誤差情報が増加する場合には推定誤差情報が閾値E
th以上になることを意味し、推定誤差情報が減少する場合には推定誤差情報以下となることを意味する。同図では、サイクル数がk+1の時点で閾値E
thをよぎっている。閾値E
thをよぎったと判定した時点で測定を中止することもできる。コンピュータのソフトウェアで自動判定を行う場合、判定結果の出力としては、例えば、表示器を設けたり、音で知らせたりすることができる。
【0133】
推定誤差情報が閾値Ethをよぎるかどうかの監視は、n=1からではなく、例えばn=5以降で行うようにしてもよい。何サイクル目から監視するかは、例えば、ある特定の測定対象物2に対して予備実験をした結果から適宜決定することで、以後、同様の測定対象物2に対して適用することができる。
【0134】
閾値Ethは、例えば、ある特定の測定対象物2に対して予備実験をした結果から適宜決定することで、以後、同様の測定対象物2に対して適用することができる。
【0135】
(微分と判定基準)
図16は、推定誤差情報をサイクル数で一次微分処理した結果を、サイクル数に対してプロットした場合の一例を模式的に示す概略図である。推定誤差情報の一次微分が極大値となるサイクル数で、測定対象物2が所定の化学的性質に到達したと判定する。本判定の結果を、前述の「閾値と判定基準」で示す閾値E
thによる所定の化学的性質への到達の判定の代わりに用いることができる。
図16では、サイクル数がk+1の時点で推定誤差情報の一次微分が極大値になっている。
【0136】
なお、上記では一次微分で処理した結果を用いて判定を行ったが、これに限定するものではない。二次微分、それ以上の次数の微分で処理した結果を用いて判定することも可能である。なお、上記では極大値となるサイクル数で判定を行ったが、これに限定するものではない。極小値となるサイクル数、0をよぎるサイクル数、変曲点となるサイクル数によって判定することも可能である。
【0137】
(サイクル補正)
複数の制御条件にてそれぞれインピーダンスの測定を行う場合、同一のサイクル数nにおける測定結果であっても、測定する制御条件ごとに測定の時刻が異なることになる。試薬の性質は各サイクルの途中でも時刻と共に変化し続けるため、複数の制御条件におけるインピーダンスの測定結果同士を比較する場合、制御条件の差異によるインピーダンスの変化に加えて測定時刻が異なることによるインピーダンスの変化が表れることになる。制御条件によるインピーダンスの変化に着目する場合、前記測定時刻が異なることによるインピーダンスの変化の影響を取り除くことが望ましい。以下では前記測定時刻が異なることによるインピーダンスの変化の影響を補正する方法を示す。
【0138】
各サイクルにおいて、所定の複数のタイミングで測定が実行され、それにより、サイクル数nにおける試料のインピーダンスZAO(n)とZBO(n)が得られるとする。ZBO(n)を得るための測定は、ZAO(n)を得るための測定よりも前に実行されたものとする。例えばPCRでは、変性ステップでのインピーダンスの測定値をZBO(n)、合成ステップでのインピーダンスの測定値をZAO(n)としてもよい。
【0139】
ZAO(n)の測定時刻に合わせてZBO(n)に補正を加える方法(サイクル補正1)と、ZBO(n)の測定時刻に合わせてZAO(n)に補正を加える方法(サイクル補正2)の2つの方法を説明する。
【0140】
(サイクル補正1)
<ZBO(n)へ補正を加える>
補正を加えたZBO(n)をZBOC(n)とする。補正に用いる0以上1以下の補正係数をrとする。ZBOC(n)の計算式は(数1)になる。
【0141】
補正に用いる補正係数rを求める方法として、測定時刻による方法と相関係数による方法の2つがある。
【0142】
(サイクル補正1、測定時刻による補正係数rの算出)
サイクル数nにおけるZBO(n)の測定時刻をtZBO(n)、サイクル数nにおけるZAO(n)の測定時刻をtZAO(n)とする。サイクル数nにおける補正係数rをr(n)とした場合の、r(n)の計算式は(数2)になる。
【0143】
(サイクル補正1、相関係数による補正係数rの算出)
補正係数rを、所定範囲のサイクル数(一例として、サイクル数1~8)におけるZBOC(n)とZAO(n)の相関係数が最大となる値にする。
【0144】
ここでは、補正に用いる補正係数rの算出方法として、測定時刻による方法と相関係数による方法を示したが、これに限定するものではない。例えば、制御条件として印加する温度や電圧または電流の設定値とそれらの印加時間から補正係数rを算出することが可能である。
【0145】
(サイクル補正2)
<ZAO(n)へ補正を加える>
補正を加えたZAO(n)をZAOC(n)とする。補正に用いる0以上1以下の補正係数をrとする。ZAOC(n)の計算式は(数3)になる。
【0146】
補正に用いる補正係数rを求める方法として、測定時刻による方法と相関係数による方法の2つがある。
【0147】
(サイクル補正2、測定時刻による補正係数rの算出)
サイクル数nにおけるZBO(n)の測定時刻をtZBO(n)、サイクル数nにおけるZAO(n)の測定時刻をtZAO(n)とする。サイクル数nにおける補正係数rをr(n)とした場合の、r(n)の計算式は(数4)になる。
【0148】
(サイクル補正2、相関係数による補正係数rの算出)
補正係数rを、所定範囲のサイクル数(一例として、サイクル数1~8)におけるZBO(n)とZAOC(n)の相関係数が最大となる値にする。
【0149】
ここでは、補正に用いる補正係数rの算出方法として、測定時刻による方法と相関係数による方法を示したが、これに限定するものではない。例えば、制御条件として印加する温度や電圧または電流の設定値とそれらの印加時間から、補正係数rを算出することが可能である。
【0150】
以上、試料のインピーダンスの求め方、基準のインピーダンスの求め方、推定誤差量の求め方、推定誤差量の正規化の方法、判定基準、および、サイクル補正の方法について説明したが、本発明の判定方法に用いるデータの組合せは、例示しているだけでも、以下の各通りを掛け合わせて、10,080通り(8×3×7×4×3×5=10,080)ある。本実施形態はこれらのすべての組合せを含み、いずれの組合せであっても、本発明の判定装置1および判定方法が実現可能である。また、例示している以外であっても、本発明の判定装置1および判定方法が実現可能であれば、本発明の範囲内である。
(1)試料のインピーダンスの求め方:8通り
(2)基準のインピーダンスの求め方:3通り
(3)推定誤差量E(n)の求め方:7通り
(4)推定誤差量の正規化の方法:4通り(正規化しない場合を含む)
(5)判定基準:3通り
(6)サイクル補正の方法:5通り(サイクル補正を行わない場合を含む)
【0151】
以上のように、本実施形態の、時間経過と共に測定対象物2のインピーダンスの測定を繰り返し、測定対象物2の電気化学的性質が所定の状態になったことを判定する判定装置1は、時間経過とインピーダンスとの時系列の関係を関係関数Zf(n)で表し、測定を行った時間経過の所定の測定点におけるインピーダンスと関係関数Zf(n)の値との差に基づいて推定誤差情報を算出する分析部5と、時間経過にともなう推定誤差情報の変化を時系列で監視し、推定誤差情報が所定の判定基準を満たした時点で、測定対象物2の電気化学的性質が所定の状態になったと判定する判定部6と、を備える。
【0152】
この場合、ノイズが十分に抑制されたデータに基づき時系列の判定が可能であるので、測定サイクルの途中で測定対象物2の電気化学的性質が所定の状態になったことを判定することができ、測定時間を最小限にすることができる。また、コンピュータのソフトウェアによる自動判定が可能となるので、測定の省力化や人件費の削減に貢献し、多数の試料の自動測定にも適する。
【0153】
以下、例示している10,080通りの組合せのうち一部の組合せについて、実施例を示して説明する。ただし、少なくとも例示している10,080通りの組合せすべてについて本発明の判定装置1および判定方法が適用できることは上記で述べた通りである。また、PCRの用途についてのみ開示するが、その他の用途にも応用可能であることは説明するまでもない。また、実施例における周波数、測定対象物2である溶液の濃度および温度は、出願を早期に行うために一部の条件での実験結果を開示するに過ぎず、これらに限定されるものではない。以下の実施例では1Hzの周波数についてのみ開示するが、それ以上および以下の周波数でも同様の傾向が得られることを確認済みである。検出の目的とするDNAを含む溶液は、100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの3通りの濃度の溶液を用意したが、溶液の濃度は、飽くまでも一例であり、その他の溶液の濃度でも、本発明の判定装置1および判定方法の効果が得られることは、説明するまでもない。制御条件の温度についても同様である。また、PCRは、通常行われている方法により行ったものであり、詳細な説明を省略する。
【0154】
実施例1~実施例17において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、制御条件として98℃の変性ステップを60秒間、55℃のアニーリングステップを70秒間、および、68℃の合成ステップを60秒間行い、これを1サイクルとして40サイクルを実行した。
【実施例0155】
<インピーダンスの絶対値、カーブフィット、(数14)、正規化なし>
図17は、DNA濃度100ng/mlの溶液に対して、制御条件として上記のサイクルを印加し、周波数f=1Hzで68℃の合成ステップにおけるインピーダンスの測定をした結果を示す図である。17サイクル付近でインピーダンスの増加傾向が若干変化している。
【0156】
図18は、従来技術である特許文献1および非特許文献1に記載の方法に基づいて、
図17のインピーダンスの測定値に対して、各サイクルの前後の差分(増減)をプロットした図である。17サイクル付近にピークが見られるが、例えば5サイクル付近等のその他のサイクルにおいてもピークが存在し、目的とするDNAが増幅したことを示すピークであるのかノイズであるのかの判別が困難であり、目的とするDNAが増幅して検出されたかどうかを時系列の監視の途中では自動で判定することが困難である。
【0157】
図19は、本実施例において、DNA濃度100ng/ml、1ng/mlおよび0.01ng/mlの溶液に対して、試料のインピーダンスとしてインピーダンスの絶対値を用いて、基準のインピーダンスのカーブフィットにより関係関数Z
f(n)を表し、(数14)により推定誤差量E(n)を算出した結果の推定誤差情報を示すグラフである。推定誤差量の正規化は用いていない。Z
AO(n)は68℃の合成ステップにおけるインピーダンスである。周波数は1Hzである。
【0158】
いずれもノイズは十分に抑制されており、推定誤差情報が立ち上がる付近では単調増加しており、所定の閾値Ethを設定しておくことで、目的とするDNAが十分増幅して検出されたことを時系列の監視の途中に自動で判定することが可能であることが分かった。なお、DNA濃度100ng/mlの溶液では、閾値Ethを適切に設定することで、上述の17サイクルで十分に検出が可能であることを示している。時系列で判定を行う際には、推定誤差情報が予め定めた閾値Ethをよぎった17サイクルで、測定対象物2の電気化学的性質が所定の状態になったと判定し、そのサイクル番号「17」を得る。同じ閾値Ethを用いて同様に判定した場合の一例として、DNA濃度1ng/mlの溶液ではサイクル番号「23」、DNA濃度0.01ng/mlの溶液ではサイクル番号「27」が得られる。