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特開2023-67850媒体の物理的特性を決定する方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067850
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】媒体の物理的特性を決定する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
A61B8/06
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022173584
(22)【出願日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】21315228
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】508291928
【氏名又は名称】スーパー ソニック イマジン
【氏名又は名称原語表記】SUPER SONIC IMAGINE
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100227927
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 拓
(72)【発明者】
【氏名】ランベール,ウィリアム
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD03
4C601DE06
4C601EE02
4C601GB04
4C601HH02
4C601HH05
4C601JB24
4C601JB34
4C601JC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、媒体の物理的特性を決定するための方法を提供する。
【解決手段】方法は、(d)少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連する媒体の超音波信号データを処理して、少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI(r),I(r),I(r)をそれぞれ提供することと、ここで、少なくとも3つの放射された超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと各々が第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する、(e)第1のIQデータセットI(r)と少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れ、及び/又は、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数として、物理的特性を決定することとを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体(11)の物理的特性を決定する方法であって、
(d)少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連する媒体の超音波信号データを処理して、少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI(r),I(r),I(r)をそれぞれ提供すること、ここで、前記少なくとも3つの放射された超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと各々が第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する、
(e)第1のIQデータセットI(r)と、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れ、及び/又は、前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数として、前記物理的特性を決定すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記物理的特性を決定すること(e)は、さらに、
前記第1のIQデータセットI(r)に、及び/又は、前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和に補償位相遅れを導入することによって、前記第1のIQデータセットI(r)を前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和と同位相に設定することを含む
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記物理的特性を決定すること(e)は、さらに、
πから補償位相遅れを引いた値を導入することによって、前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和に対して逆位相の前記第1のIQデータセットI(r)を設定することを含む
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のIQデータセットI(r)と前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の前記第1の位相遅れφ(r)は、
(r)の位相とI(r),I(r)の和の位相との差、又は、
(r)とI(r),I(r)の和とのスカラー積の位相、及び/又は
【数1】
によって測定され、及び/又は
補償位相遅れは、前記第1の位相遅れφ(r)の関数として決定される
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r)とI(r)との間の前記第2の位相遅れφ(r)は、I(r)の位相とI(r)の位相との差、又はI(r)とI(r)とのスカラー積の位相によって、及び/又は
【数2】
によって測定される
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記物理的特性を決定すること(e)は、さらに、
前記第1の位相遅れの関数としての第1のセグメンテーションマップ、及び/又は前記第2の位相遅れの関数としての第2のセグメンテーションマップを決定することを含み、
前記物理的特性は、前記第1及び/又は前記第2のセグメンテーションマップの関数として決定される
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記物理的特性は、
第1のセグメンテーションマップと第2のセグメンテーションマップとを組み合わせて生成される第3のセグメンテーションマップの関数として決定される、及び/又は第1のセグメンテーションマップから第2のセグメンテーションマップの成分を除去することによって決定される
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のセグメンテーションマップは、前記媒体の関心領域をセグメント化するように構成され、及び/又は
前記第2のセグメンテーションマップは、前記IQデータセットI(r),I(r),I(r)のノイズを検出及び/又は低減するように構成される
請求項6及び7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のセグメンテーションマップは、
【数3】
によって決定され、
ここで、φ min及びφ maxは、所定値である、及び/又は
前記第2のセグメンテーションマップは、
【数4】
によって決定され、
ここで、φ maxは所定値である、及び/又は
第3のセグメンテーションマップは、
【数5】
によって決定される
請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記物理的特性が、1つ
所定の造影超音波診断法、
前記IQデータセットI(r),I(r),I(r)のコヒーレント加算、
式(1b):
【数6】
式(1c):
【数7】
式(1d):
【数8】
式(1e):
【数9】
式(1f):
【数10】
式(1g):
【数11】
のうちの少なくとも1つに基づいて決定される
請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
超音波信号データを処理すること(d)の前に、さらに、
(b)超音波(We)の放射シーケンス(ES)を媒体(11)に送信すること、ここで、前記放射シーケンス(ES)は、前記第1の放射パルスと前記少なくとも2つの補助放射パルスとを含む、
(c)前記媒体から超音波(Wr)の応答シーケンス(RS)を受信すること、ここで、前記超音波信号データは前記超音波(Wr)の応答シーケンス(RS)に基づく、
を含み、及び/又は、
前記超音波(We)の放射シーケンス(ES)を送信すること(b)の前に、
(a)前記媒体に造影剤を導入することを含み、
第1のセグメンテーションマップは、前記媒体中の造影剤をセグメント化するように構成される
請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも2つの補助放射パルスは、前記媒体に対して互いに空間的にオフセットされており、及び/又は
第2パルスと第3パルスとが異なる開口変調で放射され、及び/又は、
第1パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子のセットが、少なくとも2つの補助パルスを放射するためにそれぞれ使用される少なくとも2つのサブセットに分割され、及び/又は
第1のサブセットは、第1の補助パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の奇数番号に対応し、第2のサブセットは、第2の補助パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の偶数番号に対応する
請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
媒体(11)の複数の領域の物理的特性を決定するための方法であって、
請求項1から12のいずれか1項に記載の方法を繰り返し実行することを含み、各繰り返しにおいて、別の領域の超音波信号データが処理される
方法。
【請求項14】
第1、第2及び第3のセグメンテーションマップのうちの少なくとも1つは、前記複数の領域の関数として決定され、及び/又は
前記複数の領域の決定された物理的特性に基づいて画像が形成される
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
データ処理システムによって実行されると、前記データ処理システムに、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法を実行させるコンピュータ可読命令を含む
コンピュータプログラム。
【請求項16】
媒体の物理的特性を決定するためのシステム(11)であって、
処理ユニットを備え、前記処理ユニットは、
少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連する媒体の超音波信号データを処理して、少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI(r),I(r),I(r)をそれぞれ提供し、ここで、前記少なくとも3つの放射された超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと各々が第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する、
第1のIQデータセットI(r)と、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れ、及び/又は、前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数として、前記物理的特性を決定する
ように構成される、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、媒体の物理的特性を決定するための方法及びシステムに関する。具体的には、本方法は、トランスデューサ装置によって走査される媒体の画像データを提供するのに適している。例えば、本方法は、例えば医療機器であり得る超音波システムのような機器で使用され得る。
【背景技術】
【0002】
例えば医用画像処理、レーダ、ソナー、地震探査、無線通信、電波天文学、音響学及び生物医学の分野において、通信、画像処理又は走査を行う目的で複数のトランスデューサ素子装置又はトランシーバ(例えばアレイとして配置される)を使用することが知られている。一例として、超音波イメージングが挙げられる。
【0003】
従来の超音波イメージングでは、超音波トランスデューサ素子のセットを有する超音波トランスデューサ装置(超音波プローブとも呼ばれる)を使用して、送信動作において、関心媒体に超音波を照射する超音波パルスを生成し得る。媒体は、例えば、脂肪、筋肉、骨、及び血管などの1つ又はいくつかの組織を含み得る。次に、受信動作において、エコー信号のセットが一組のトランスデューサ素子によって媒体から受信される。特に、トランスデューサ素子の各々は、受信したエコー信号を、例えば電気信号に変換する。信号は、超音波システムによってさらに処理できる。例えば、それらはデジタル化され、復調され、フィルタリングされ、及び/又は信号調整動作が実行され得る。
【0004】
超音波照射(すなわち、媒体に送られる超音波励起)の前に、造影剤(例えば、微小気泡)が媒体に導入され得る。特に、造影超音波検査(CEUS)の応用において、超音波造影剤をより良好に画像化するために、専用の送信シーケンス(すなわち、送信パルスの組合せ)に続いて媒体が超音波照射される。
【0005】
造影剤は、患者の血管系に注入され、造影超音波スキャン中に画像化される。この手法の目的は、特に疑わしい腫瘍内及び周囲での気泡の挙動を分析することである。
【0006】
造影剤をよりよく観察するために、組織と造影剤とを区別するパルス変調技術が提案されている。これらの技術は、組織の線形応答と比較して、気泡応答の非線形性を利用している。特に、CEUSイメージングは、(軟部組織の線形応答と比較して)超音波造影剤の非線形応答に依存している。振幅及び/又は位相変調によって、超音波造影剤によって生成された後方散乱信号が、組織によって生成されたエコーから分離される。そのようなプロセスは、異なる振幅及び/又は位相に関連付けられた送信パルスで、媒体を連続的に照射することを必要とする(例えば非特許文献1)。
【0007】
さらに、特許文献1は、媒体内の正確な位置の物理的特徴を決定する方法を記載している。当該方法は、造影剤を媒体に導入するステップと、異なる振幅を有する放射パルスを含む放射シーケンスを送信するステップと、放射パルスのエコーに対応する受信パルスを含む受信シーケンスを受信するステップと、放射パルスに対する受信パルス間の位相差を計算するステップと、当該位相差に基づいて物理的特性を決定するステップとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3097432号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tremblay-Darveau C, Sheeran PS, Vu CK, et al. The Role of Microbubble Echo Phase Lag in Multipulse Contrast-Enhanced Ultrasound Imaging. IEEE Trans Ultrason Ferroelectr Freq Control. 2018; 65(8):1389-1401. doi:10.1109/TUFFC.2018.2841848
【発明の概要】
【0010】
現在、決定された特性の品質をさらに高めることが可能な、媒体の物理的特性を決定するための方法及びシステムを提供することが依然として望まれている。特に、媒体の信号データ、例えば導入された造影剤の画像データにおいて、関心のある情報をより効果的にフィルタリングすることが依然として望ましい。さらに、媒体の信号データのノイズを低減すること、及び/又はCEUSイメージングモードで軟組織によって生成される信号をより良好にフィルタリング及び/又はキャンセルすることが望ましい。
【0011】
したがって、本開示の実施形態によれば、媒体の物理的特性を決定するための方法に関し、本方法は、
(d)少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連する媒体の超音波信号データを処理して、少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI(r),I(r),I(r)をそれぞれ提供すること、ここで、当該少なくとも3つの放射された超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと、各々が第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する、
(e)第1のIQデータセットI(r)と、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れ、及び/又は少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数として、物理的特性を決定することを含む。
【0012】
このような方法を提供することにより、決定された特性の品質を向上させることが可能になる。
【0013】
特に、(e)第1のIQデータセットI(r)と少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れの関数として物理的特性を決定することによって、導入された造影剤の画像データなど、超音波信号データ内の関心のある情報をより効果的に検出することが可能になる。
【0014】
それから、(e)少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数として物理的特性を決定することによって、超音波信号データ内のノイズを検出することも可能になる。
【0015】
更なる結果として、超音波信号データ内の望ましくないデータは、関心のある検出された情報及び検出されたノイズを除外することによって決定され得る。換言すれば、関心のある情報又はノイズとして検出されないすべては、望ましくないデータとして分類され得る。そのような望ましくないデータは、特に、媒体内に存在する組織の超音波信号データを含み得る。
【0016】
したがって、本方法は、決定された物理的特性(又は後述する物理的特性のマップの値)を、関心のある情報、ノイズ、及び望ましくないデータ(例えば、組織)の3つのカテゴリのうちの1つに分類するステップをさらに含むことができる。
【0017】
例えば、関心のある情報として分類された決定された物理的特性が強調される一方で、ノイズ又は望ましくないデータとして分類された決定された物理的特性は抑制又はキャンセルされ得る。したがって、関心のある情報として分類された決定された物理的特性は、ノイズ又は望ましくないデータとして分類された任意の決定された物理的特性から、よりよく区別され得る。
【0018】
関心のある情報及び/又はノイズを検出することは、関心のある情報及び/又はノイズを特徴付ける、認識する、強調する、ハイライトする、又は一般的に認識することのうちの少なくとも1つを含み得る。
【0019】
超音波信号データは、複素IQデータセットを提供(又は取得)するために処理され得る。したがって、これは、各IQデータセットがそれぞれ放射された超音波パルスに関連付けられることを意味し得る。
【0020】
少なくとも2つの補助放射パルスは、同じ(第2の)強度及び/又は同じ振幅を有し得る。
【0021】
補助放射パルスの振幅の和(例えば、ピーク値)は、第1の放射パルスの振幅(例えば、ピーク値)に対応し得る。
【0022】
IQデータセットは、復調されたIQ超音波データセット及び/又はIQビーム形成データセットであり得る。
【0023】
より一般的には、IQデータセットはIQデータを含み得る。例えば、IQデータセットは、同相値及び直交位相値の少なくとも1つの対を含むことができる。したがって、IQデータは、復調されたIQ超音波データ及び/又はIQビーム形成データであってもよい。
【0024】
物理特性を決定すること(e)は、さらに、第1のIQデータセットI(r)に、及び/又は、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和に補償位相遅れを導入することによって、第1のIQデータセットI(r)を少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和と同位相に設定することを含み得る。換言すれば、追加の位相遅れは、I(r)とI(r),I(r)の和との間の位相遅れが低減及び/又は補償されるように選択され得る。したがって、最適なコヒーレント加算が有利に得られる。
【0025】
物理特性を決定すること(e)は、さらに、第1のIQデータセットI(r)に位相シフトπを導入することによって、任意選択でπから補償位相遅れを引いた値(すなわち、下記の数式(1d)に挙げるように、(π-φ(r)))を導入することによって、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和に対して逆位相の第1のIQデータセットI(r)を設定することを含み得る。この位相シフトは、決定された物理的特性の改善されたノイズ低減を有利に導き得る。
【0026】
第1のIQデータセットI(r)と少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れφ(r)は、
(r)の位相と、I(r),I(r)の和の位相との差、又は
(r)とI(r),I(r)の和とのスカラー積の位相、すなわち次の式で表される:
【数1】
によって測定され得る。
【0027】
補償位相遅れは、φ(r)の関数として決定され得る。急激すぎない補償を得るために、φを部分的にのみ(すなわち、すべてではなく)補償することも可能である。換言すれば、第1のIQデータセットI(r)と少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和とが、より同相又は逆位相になる(任意選択で、完全に同相又は逆位相になることなく)ように、補償位相遅れを挿入することが関心になり得る。
【0028】
少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r)及びI(r)の間の第2の位相遅れφ(r)は、
(r)の位相とI(r)の位相との差、又は
(r)とI(r)とのスカラー積の位相であって、特に次の式で表され得る:
【数2】
によって測定され得る(又は対応し得る)。
【0029】
物理的特性を決定すること(e)は、さらに、第1の位相遅れの関数としての第1のセグメンテーションマップ、及び/又は第2の位相遅れの関数としての第2のセグメンテーションマップを決定することを含み得る。次いで、物理的特性は、第1及び/又は第2のセグメンテーションマップの関数として決定され得る。
【0030】
物理的特性は、第1のセグメンテーションマップと第2のセグメンテーションマップとを組み合わせて生成される第3のセグメンテーションマップの関数として決定され得る。例えば、第1のセグメンテーションマップから第2のセグメンテーションマップの内容を除去することによって決定され得る。
【0031】
したがって、決定された特性(及び、任意選択で、当該特性に基づいて形成された画像データ)の品質は、特に、媒体内の関心領域のIQデータを強化することによって、及びノイズ及び望ましくないデータ(例えば、組織信号)を低減することによって、強化され得る。
【0032】
第1のセグメンテーションマップは、媒体の関心領域をセグメント化するように構成され得る。例えば、関心領域は(後述するように)媒体が造影剤を含む領域であってもよい。第1のセグメンテーションマップは、例えば、形成された画像に示され得る、又は表示され得る関心領域を捉える(又は強調する)ために使用できる。
【0033】
マップは、データ値をデータフィールドに割り当てるように構成されたマトリックス又はテーブルとして理解できる。例えば、媒体内の領域に物理的特性の値を割り当てることができる。マップは、2次元又はそれ以上の次元であり得、列の数と行の数とは同じでもよいし、異なってもよい。一例では、例えば画像を形成する、複数のピクセルを含み得る。
【0034】
ただし、セグメンテーションマップは1つの値のみを含む場合もある。この場合、セグメンテーションマップは大域(global)フィルタとして機能する。例えば、第1及び/又は第2のセグメンテーションマップが物理的特性をゼロと判断した場合、対応する出力が生成され、ユーザ又は処理システムに提供され得る。例えば、当該出力は、超音波信号データが媒体の物理的特性を決定するために適していないことを示してもよい(例えば、ノイズが多すぎるか、又はデータ品質が不十分であるため)。この場合、本方法が繰り返されるか、又は補充(repletion)が示唆され得る。
【0035】
さらに、セグメンテーションマップはバイナリフィルタとして使用されてもよい。すなわち、セグメンテーションマップは、値ごとに、使用されるか、又は無視されるかを定義してもよい。しかし、セグメンテーションマップは、ソフトフィルタ及び/又は空間フィルタとして使用することもできる。例えば、セグメンテーションマップは各値に重み付け(例えば、0と1との間で)を割り当てることができる。
【0036】
さらに、決定された補償位相遅れに関して、例えば空間及び/又は時間フィルタを使用して、滑らかな補償方法を適用することもできる。
【0037】
第2のセグメンテーションマップは、IQデータセットI(r),I(r),I(r)における望ましくない信号及び/又はノイズを検出及び/又は低減するように構成され得る。例えば、ノイズは、媒体及び/又は電子ノイズに由来する可能性がある。
【0038】
第1のセグメンテーションマップは、次のように決定できる。
【数3】
ここで、φ min及びφ maxは事前定義された値である。一般に、これらの値は、媒体内の関心領域が捕捉され、他の部分が除外されるように定義できる。したがって、φ min及びφ maxは、関心領域及び他の領域に関連付けられたIQデータ間の位相遅れの関数として事前定義され得る。例示的な値は、φ min=-2.5ラジアン及び/又はφ max=-0.5ラジアンを含み得るが、異なる値であってもよい。例えば、φ minは、例えば3から-2ラジアンの範囲で定義することもでき、φ maxは、例えば-1から0ラジアンの範囲で定義することもできる。これらの場合においても、関心のある情報を十分に検出できること、すなわち望ましくないデータ(例えば組織からのデータ)と十分に区別できることを確保できる。
【0039】
第2のセグメンテーションマップは、次のように決定できる。
【数4】
ここで、φ2 maxは事前定義された値である。一般に、この値はIQデータにおけるノイズを強調するように定義できる。したがって、φ2 maxは、ノイズを生成する領域と他の領域に関連付けられたIQデータ間の位相遅れの関数として定義できる。例示的な値は、φ2 max=0.5ラジアンを含み得るが、異なる値であってもよい。例えば、φ2 maxは、例えば0.4から0.6ラジアンの範囲、又はより広くは0.25から1ラジアンの範囲で定義することもできる。これらの場合においても、ノイズが関心のある情報から十分に区別できることを確保できる。
【0040】
第3のセグメンテーションマップは、次のように決定できる。
【数5】
【0041】
物理的特徴は、以下のうちの少なくとも1つに基づいて決定され得る:
所定の造影超音波診断法、
前記IQデータセットI(r),I(r),I(r)のコヒーレント加算、
式(1b):
【数6】
式(1c):
【数7】
式(1d):
【数8】
式(1e):
【数9】
式(1f):
【数10】
式(1g):
【数11】
【0042】
本方法は、超音波信号データを処理する前に、さらに、
(b)超音波の放射シーケンスを媒体(11)に送信すること、ここで、放射シーケンスは、第1の放射パルスと少なくとも2つの補助放射パルスとを含む、
(c)媒体から超音波の応答シーケンスを受信すること、ここで、超音波信号データは超音波の応答シーケンスに基づく、
を含む。
【0043】
送信及び受信は、同じ又は異なるトランスデューサ素子によって、又は異なるトランスデューサ装置によってさえ実行され得る。
【0044】
少なくとも2つの補助放射パルスは、例えば、媒体に関して、特にパルスによって超音波照射された領域に関して互いに空間的に異なっていてもよい。換言すれば、2つの補助パルスのうちの第1のパルスは、媒体において第2のパルスとは異なる領域に超音波照射し得る。しかしながら、それぞれ照射された領域は、大部分が重なっていてもよい。補助放射パルスは、例えば、トランスデューサ装置の異なるトランスデューサ素子によって生成され得る。
【0045】
補助放射パルスが異なる開口変調で放射されることも可能である。例えば、パルスを放射するために使用されるトランスデューサ装置は、調整可能な開口(aperture)を有し得る。それから、当該開口は、第2及び第3のパルスに対して異なる方法で変調され得る。
【0046】
放射されたシーケンスは、複数の超音波トランスデューサ素子を備える超音波トランスデューサ装置を使用して送信され得る。
【0047】
第1のパルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子のセットは、少なくとも2つの補助パルスを放射するためにそれぞれ使用される少なくとも2つのサブセットに分割できる。例えば、第1のサブセットは、第1の補助パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の奇数番号に対応し得、第2のサブセットは、第2の補助パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の偶数番号に対応し得る。
【0048】
したがって、異なる補助パルスに対してトランスデューサ素子の異なるサブセットを使用することによって、トランスデューサ装置の実効開口をパルスごとに変調できる。
【0049】
前述の偶数及び奇数パルス以外のトランスデューサ素子の他の構成を第2及び第3のパルスに使用することも可能である。例えば、第1パルスに使用されるトランスデューサ素子の数を更なるパルス(すなわち、第2及び第3パルス、ならびに任意の補助パルス)に均等に分配する任意の構成を使用できる。換言すれば、第1のパルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子のセットは、少なくとも2つ(又はそれ以上)の補助パルスを放射するためにそれぞれ使用される少なくとも2つ(又はそれ以上)の等しいサブセットに分割され得る。
【0050】
例えば、(各)サブセットはまた、連続するトランスデューサ素子の少なくとも1つのグループ(例えば、2~10)を含んでもよい。したがって、(各)グループのトランスデューサ素子は、トランスデューサ装置内で連続して(すなわち、互いに隣り合って)配置され得る。(各)サブセットが2つ以上のグループを含む場合、異なるサブセットのグループ(すなわち、異なる補助パルスに関連する)は、交互であってもよい。
【0051】
第1のパルスは、第2の強度のパルスと比較して逆の極性を有し得る。例えば、式(1b)を参照すると、逆極性が使用される場合、式(1b’)にεを導入することで、式を適合させることができる。
【数12】
ここで、ε=-1である。また、更なる式(1c)から(1g)は、対応して適合され得る。
【0052】
一例では、第1の放射パルスは、第1の数のトランスデューサ素子を使用して生成され得、補助放射パルスの各々は、第2の数のトランスデューサ素子を使用して生成され得る。第1の数は、第2の数に補足放射パルスの数を乗じた数に対応し得る。
【0053】
応答シーケンスは、後方散乱信号のセットであってもよい。例えば、トランスデューサ素子は、媒体から後方散乱信号を受信し、それらを例えば電気信号に変換できる。
【0054】
例えば、放射パルスは、所与の点に集束する円筒波及び/又は平面波及び/又は発散波による媒体の超音波照射を含むことができる。応答シーケンスは、この超音波照射の後方散乱エコーを含み得る。
【0055】
より具体的には、複数の超音波を関心領域に送信でき、それに応答して、各超音波に応答してトランスデューサ素子のセットによって未加工データのセットを取得でき、超音波は異なる空間周波数成分を有する。
【0056】
受信された信号のセットは、超音波信号のセットであり得る。
【0057】
トランスデューサ装置は、超音波トランスデューサ装置であってもよい。トランスデューサ素子は、例えばトランスデューサアレイ、例えば1Dトランスデューサアレイ(トランスデューサ素子のラインを有する)、1.5Dトランスデューサアレイ(送信トランスデューサ素子の1ライン又は2ラインと、受信トランスデューサ素子の1ライン又は2ラインとを有する)、又は2Dトランスデューサアレイ若しくはマトリックストランスデューサアレイ(トランスデューサ素子の複数のラインを有する)状であってもよい。しかしながら、本トランスデューサ素子は、超音波システムのトランスデューサ素子に限定されない。代わりに、トランスデューサ装置は、任意の種類の波を放射及び受信できる。更なる例は、レーダシステム、ソナーシステム、地震探査システム、無線通信システム、電波天文システム、音響システム、非破壊検査(NDT)システム、及び/又は生物医学システムなどのトランスデューサ装置を含む。
【0058】
本方法は、超音波の放射シーケンスを送信する前に、
(a)媒体に造影剤を導入することを含み、
ここで、第1のセグメンテーションマップは、媒体中の造影剤をセグメント化するように構成されている。
【0059】
本開示はさらに、媒体の複数の領域の物理的特性を決定するための方法であって、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法を繰り返し実行することを含み、各繰り返しにおいて、別の領域の超音波信号データが処理される方法に言及する。
【0060】
したがって、各領域について応答シーケンスを受信するために、放射された一連の超音波も複数の領域のそれぞれに送信され得る。
【0061】
したがって、複数の物理的特性値、例えば、領域ごとに1つの値を含む物理的特性のマップを決定できる。一例では、物理的特性のマップは、例えば画像を形成するために、複数のピクセルを含むことができる。換言すれば、各物理特性値は、ピクセルによって表され得る。
【0062】
第1、第2、及び第3のセグメンテーションマップのうちの少なくとも1つは、複数の領域の関数として決定され得る。したがって、マップは、領域の数に適合した解像度(又は値の数)を有できる。
【0063】
複数の領域の決定された物理的特性に基づいて、画像を形成できる。
【0064】
本開示はさらに、データ処理システムによって実行されると、当該データ処理システムに、方法の先行請求項のいずれかによる方法を実行させるコンピュータ可読命令を含む、コンピュータプログラムに言及する。
【0065】
本開示はまた、コンピュータによって実行される場合に、本開示による方法を実行するための命令を含むコンピュータプログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体にも関する。
【0066】
本開示はさらに、媒体の物理的特性を決定するためのシステムに言及し、当該システムは、
少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI(r),I(r),I(r)をそれぞれ提供するために、少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連する媒体の超音波信号データを処理し、ここで、少なくとも3つの放射された超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと、それぞれが第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和が第1の強度に対応する、
第1のIQデータセットI(r)と少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れ、及び/又は、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数として、物理的特性を決定する
ように構成された処理ユニットを備える。
【0067】
本システムは、トランスデューサ装置を含んでもよい。システムは、特に、トランスデューサ装置を含み得るプローブ(例えば、超音波プローブ)を含んでもよい。
【0068】
本システムは超音波システムであってもよい。
【0069】
本システム及び/又はプラットフォームは更なる機能特性を備えてもよく、及び/又は上述の方法ステップに対応して構成されてもよい。
【0070】
本開示及びその実施形態は、ヒト、植物、又は動物専用の医療システムの文脈で使用されてもよいが、考慮されるべき任意の(非生物)軟質材料の文脈でも使用されてもよい。
【0071】
他の点で矛盾しない限り、上述の要素と本明細書内の要素との組み合わせが可能であることが意図される。
【0072】
前述の発明の概要及び以下の詳細な説明は、例示及び説明のみを目的としており、特許請求の範囲の開示を限定するものではないことを理解されたい。
【0073】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、例示を目的として提供されており、また本開示の実施形態を説明と共に示し、その原理を支持し、かつ例示する役割を果たしている。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】本開示の実施形態による方法の例示的な実施形態を示す図である。
図2】本開示の例示的な実施形態による方法を実行するシステムを示す図である。
図3】本開示の別の例示的な実施形態による方法を実行するシステムを示す図である。
図4】本開示の実施形態による異なるタイプの放射パルスを概略的に示す図である。
図5】本開示による第1のセグメンテーションマップを決定する手順を概略的に示す図である。
図6】本開示に従って第2のセグメンテーションマップを決定する手順を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
ここで、本開示の例示的な実施形態を詳細に参照し、その例を添付の図面に示す。便宜上、同じ参照符号は、図面全体を通して同じ又は同様の部分を指すために使用される。さらに、特定の実施形態、例えば図1の実施形態との関連で説明される特徴は、異なって記載されない限り、適宜、他の実施形態のうちのいずれにも同様に当てはまる。
【0076】
図1は、本開示の実施形態による方法の例示的な実施形態を示す図である。本方法は、システム1によって、より具体的には超音波プラットフォーム20によって実行されてもよい。いくつかの例を、図2及び図3に関連して説明する。
【0077】
本方法は、超音波システムによって実行される超音波方法であってもよい。利用可能な超音波方法は、Bモード撮像、せん断波エラストグラフィ撮像(本出願人によって開発されたShearWave(登録商標)モード、ドップラーイメージング、Mモードイメージング、ultrafast(商標)イメージング、又はAngio P.L.U.S(商標)という名称のangioモードの超音波イメージング、又は例えば気泡を用いたモード及び/又は造影剤を用いたモードなどを含む他の任意の超音波イメージングモードを含む。
【0078】
しかしながら、本開示による方法は、超音波検査以外の他の技術分野にも同様に適用されてもよい。具体的には、被検査媒体又は環境のデータ/信号を取得するために複数のトランスデューサ素子を使用する、かつ/又は収集されたデータ/信号に基づいてビーム形成技術を任意選択的に使用することができる、任意の技術分野が考えられる。いくつかの例は、レーダシステム、ソナーシステム、地震探査システム、無線通信システム、電波天文システム、音響システム、非破壊検査(NDT)システム、及び生物医学システムを使用する方法を含む。トランスデューサ素子の組み合わせの、異なる数のトランスデューサ素子をそれぞれ選択することにより(例えば、すべてのトランスデューサ素子、又は奇数/偶数のみ)、異なる強度のパルスを放射する原理は、従来では同数のチャネル数をもたらすが、いずれの場合も同様である。
【0079】
したがって、本開示による方法は、これらの場合のそれぞれにおいて、上記と同様の肯定的な技術的効果、例えば決定された物理的特徴の質の向上などを実現することができる。しかしながら、ここで本開示を単に例示することを目的として、以下では超音波方法の例に言及する。
【0080】
この方法は、例えば造影超音波法(CEUS)であってもよい。CEUS法では、媒体の関心領域に造影剤が提供され(操作(a)を参照)、次にスキャンされる(操作(b)、(c)を参照)。
【0081】
より詳細には、任意選択の操作(a)において、造影剤が媒体に導入(又は注入)される。造影剤は、例えば微小気泡を含み得る。造影剤は、媒体の関心領域の物理的特性のコントラストを改善するように構成され得る。超音波を照射すると、このような造影剤は非線形エコーを生成する。当該操作(a)は、注射器具(図示せず)によって実行されてもよい。注射器具は、媒質の血管内に所定量の造影剤を含む流体を注入するように構成され得る。
【0082】
任意選択の操作(b)では、放射された一連の超音波が媒体に送信される。放射シーケンスは、第1の放射パルス及び少なくとも2つの補助放射パルスを含む。第1の放射パルスは第1の強度を有し、少なくとも2つの補助放射パルスはそれぞれ第2の強度を有し、第2の強度の和は第1の強度に対応する。例えば、パルスの送信は、所与の点に集束する円筒波及び/又は異なる角度の平面波による媒体の超音波照射を含み得る。より具体的には、パルスを送信することは、複数の超音波を撮像領域に送信することを含み得る。
【0083】
任意選択の操作(c)では、超音波の応答シーケンスが媒体から受信される。当該応答シーケンスは、次の操作(d)で処理される超音波信号データの基礎を形成するか、又は対応し得る。例えば、操作(c)では、操作(b)の超音波照射の後方散乱エコーを使用できる。より具体的には、操作(c)において、未加工データのセットは、各放射パルスに応答してトランスデューサ素子のセットによって取得され得る。
【0084】
操作(a)から(c)は任意選択であり、操作(d)及び(e)に使用されるシステム以外の任意のシステムによって実行されてもよい。データは、シミュレーション装置、ファントムへの超音波照射などの他の機能によっても提供され得る。操作(d)で処理された超音波信号データが事前に保存され、例えばデータストレージ、通信インターフェースなどによって提供されることも可能である。
【0085】
操作(d)において、少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連付けられた媒体の超音波信号データは、少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI(r),I(r),I(r)をそれぞれ提供(又は取得)するために処理される。3つの放射超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと、それぞれが第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する。しかしながら、3つ以上のIQデータセット(例えば4)をそれぞれ提供するために、3つ以上の放射超音波パルス(例えば4つ)が処理されることも可能である。
【0086】
操作(e)において、第1のIQデータセットI(r)と、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れ及び/又は少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数としての物理的特性が決定される。
【0087】
任意選択の操作(f)では、物理的特性に基づく、及び/又は決定された物理的特性に基づいて更なる方法を実行する超音波検査画像が生成される。例えば、決定された物理的特性は、更なるアルゴリズム(例えば、AIベースのアルゴリズム)で使用されて、媒体の診断を決定又は予測できる。
【0088】
操作(a)から(e)は、連続的に、すなわち順次実行できる。しかしながら、操作(b)から(e)及び/又は(d)から(e)は、任意選択のループL1又はL2により、前に数回実行されてもよい。したがって、操作(f)は、各々の複数の決定された特性に基づいて実行され得る。例えば、各反復において、当該異なる領域に関連するそれぞれの複数の決定された特徴を決定するために、媒体の別の領域が操作(b)で超音波照射され得る。次いで、当該決定された特性は、決定された特性のマップ、マトリックス又はテーブルを形成し、及び/又は、その直後又は将来に、ローカル又はリモートで潜在的に表示及び/又は分析される画像を形成するのに役立ち得る。
【0089】
操作(b)及び(c)は、例えば超音波プローブに取り付けられたトランスデューサ装置12によって実行され得る。トランスデューサ装置は、ハンドヘルドシステムであることが望ましい。システム1の出力は、インターフェース10を介して、処理ユニット13を有する中央又はメイン又は外部処理システムに送信され得る(図2及び図3参照)。
【0090】
操作(d)及び(e)は、処理ユニット13によって実行され得る。操作(f)は、処理システム4に関連付けられたディスプレイ又はスクリーン4aによって実行され得る。
【0091】
図2は、本開示の例示的な実施形態による方法を実行するシステムを示す。
【0092】
システム100は、例えば、媒体11内の位置の特性を決定するように、又は例えば、媒体11内の領域を画像化する目的で構成され得る。
【0093】
媒体11は、例えば、生体、特にヒト又は動物の体であるか、又は任意の他の生物学的又は物理化学的媒体(例えば、体外媒体)であり得る。媒体は、その物理的特性に変化を含んでもよい。例えば、媒体は、脂肪、筋肉、骨、及び血管などの組織を含むことができ、それぞれが様々な物理的特性を有する。
【0094】
例えば、組織は、機能障害及び/又は病気(例えば、癌細胞、筋肉断裂など)を患っている領域、又は媒体の他の領域と比較して様々な物理的特性を有する任意の他の単一領域を含み得る。媒体11のいくつかの部分は、これらの部分の物理的特性のコントラストを改善するために、追加の造影剤(例えば微小気泡)を含み得る。超音波を照射すると、このような造影剤は非線形エコーを生成する。したがって、そのような造影剤の可能な用途は、血管又は身体の専用部分(dedicated part(s))の内部への所定量の造影剤を含む流体の注入である。しかしながら、造影剤は、別の方法で媒体に導入することもできる。例えば、血管以外の体の他の部分又は循環系に注入できる。また、吸い込んだり、飲み込んだりすることもある。次いで、このような血管の物理的特徴は、造影剤を含まない組織の物理的特徴と比較して、より容易に検出できる。
【0095】
超音波を介して媒質を感知する方法によって検出できる物理的特性は、硬さなどの媒質の機械的特性であってもよい。本方法は、当該物理的特性の値及び/又は変動を識別する。例えば、本方法は、媒体中の2つの材料間の機械的界面を検出できる。例えば、本方法はバブルシェルを検出できる。すなわち、超音波造影剤は一般に、音波が物質間の界面から反射される様々な方法に依存している。これは、小さな気泡又はより複雑な構造の表面(すなわち、シェル)である可能性がある。
【0096】
システム100は、トランスデューサ装置を備えるプローブ12を含むことができる。当該トランスデューサ装置は、例えばx軸に沿って配置されたトランスデューサアレイの形態で、1つ又は複数の超音波トランスデューサ素子20を備えてもよい。各トランスデューサ素子20は、信号を超音波に変換する(放射)、及び/又は超音波を信号に変換する(受信)ように適合され得る。
【0097】
システム100は、電子処理ユニット13をさらに含み得る。当該ユニットは、放射/受信に同じプローブが使用される場合、両方のモード(受信及び/又は放射)でプローブ内のトランスデューサを任意に制御できる。放射/受信又は走査された媒体への適切な適合のいずれかのために、異なるプローブを使用することもできる。送信トランスデューサと受信トランスデューサとは同一であってもよく、1つのプローブ又は異なるプローブに配置された異なるものでもよい。
【0098】
さらに、ユニット13は、超音波信号データを処理し、媒体の特性及び/又は当該特性の画像を決定できる。
【0099】
プローブ12は、プローブの前の所定位置へのz軸方向への超音波集束を実行するように、湾曲したトランスデューサを備えてもよい。プローブ12はまた、トランスデューサの線形アレイを含んでもよい。さらに、プローブ12は、二次元(2D)平面への超音波集束を実行するように、x軸に沿って並置された数十個のトランスデューサ素子(例えば、124、258、又は64から300)を備えてもよい。プローブ12は、3次元(3D)ボリュームへの超音波集束を実行するように、2次元アレイを備えてもよい。さらに、プローブはまた、いくつかのトランスデューサ装置を含んでもよく、例えば、少なくとも1つは放射用であり、少なくとも1つは受信用であってもよい。
【0100】
図1に示される方法の第1の構成は、媒体11内の位置P0の物理的特性を決定するためのものであり、当該位置P0は、実質的に正確な位置、又は当該位置P0の周囲の媒体内の小さな領域(位置P0の近傍)である。
【0101】
上記の処理ユニット13及びプローブ12は、超音波Weの放射シーケンスESを媒体11内に位置P0に向けて送信するように構成でき、放射シーケンスESは、少なくとも3つの放射パルスを含む。これらの3つの放射超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと、それぞれが第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する。上記の処理ユニット13及びプローブ12はさらに、放射されたパルスに応答して位置P0から超音波4の受信シーケンスRS(すなわち、超音波信号データ)を受信するように構成され得る。
【0102】
当該位置に向かう、又は当該位置からの超音波We、Wrは集束波(ビーム)であっても非集束ビームであってもよい。これに関連して、例えば所定のビームフォーミング方法を使用できる。放射された超音波Weは、遅延されてトランスデューサアレイの各トランスデューサに送信される、複数のトランスデューサ信号によって生成され得る。受信超音波Wrは、受信シーケンスRSを生成するために遅延及び加算によって結合される複数のトランスデューサ信号から構成されてもよい。
【0103】
放射されるパルスの少なくとも2つの異なる強度又は振幅(すなわち、第1のパルスは第1の強度を有し、第2及び第3のパルスはそれぞれ同じ第2の強度を有する)は、送信電圧を変化させることによって、又は開口サイズ(すなわち、図4に関連してさらに説明するように、放射される超音波の放射に寄与するトランスデューサ素子の数を変えることによって)を変化させることによって生成され得る。開口は、素子の2つ以上のグループに分割することもできる。
【0104】
図3は、本開示の別の例示的な実施形態による方法を実行するシステムを示す。
【0105】
第2の例示的な実施形態は、概して、第1の例示的な実施形態に対応し得る。特に、本方法は、以上に開示した図2のシステム100の同一又は類似の要素を使用できる。
【0106】
しかし、本方法の第2の例示的な実施形態では、媒体11の複数の領域の物理的特性を決定できる。例えば、決定された物理的特性は、媒体11内の領域Rの画像を決定するために使用され得る。
【0107】
本方法によって生成される画像は、複数のピクセル(例えば、K個のピクセル)から構成されてもよく、各ピクセルは、領域R内の異なる位置(Pk)に対応し、kは、領域R内の各ピクセルを識別するインデックスである。任意選択で、画像は1つのピクセルのみから構成されてもよい。しかしながら、画像は、1万(100×100ピクセル)を超えるピクセルを含んでもよい。
【0108】
さらに、決定された物理的特性は、画像を形成する以外の目的にも使用できる。例えば、決定された物理的特性は、領域Rに関する更なる特徴及び/又は診断を決定するために、別の方法で処理されてもよい。決定された物理的特性は、AIシステム又は機能に、それらを訓練するため、及び/又は診断をサポートするため、及び/又は別のシステムに入力を提供するため、及び/又はエンドユーザに情報を表示するために、送信されてもよい。
【0109】
第2の実施形態(図3に示す)は、例えば当該領域の画像を生成するために領域R内の複数の位置を走査することにより、本方法の前述した第1の実施形態と主に異なる。
【0110】
領域R内の各位置Pkにおいて、処理ユニット13及びプローブ12は、超音波Weの放射シーケンスESを当該位置に向けて送信するように構成され、放射シーケンスESは、少なくとも3つの放射パルスを含み、当該パルスは異なる強度を有し、当該位置から超音波Wrの受信シーケンスRSを受信し、受信パルスは、放射パルスからの応答(エコー)である。
【0111】
同様に、前述の実施形態と同様に、超音波Weは、既知の技術に従って集束又は非集束波とすることができる。放射信号及び受信信号(パルスを表す)も、図4に示されるものと同様又は同一であり得、対応する上記の説明は、本方法の第2の構成にも適用される。
【0112】
図4は、本開示の実施形態による異なるタイプの放射パルスを概略的に示す。特に、図4は、放射された3つの超音波パルスP1、P2、P3を示す。第1放射パルスP1は第1の強度を有し、2つの補助放射パルスP2、P3はそれぞれ第2の強度を有し、第2の強度の和は第1の強度に対応する。したがって、この例では、第1の強度は第2の強度の2倍である。
【0113】
この例における異なる強度は、パルスを生成するために使用されるトランスデューサ素子20の数による。したがって、第1のパルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の数は、すべての補助パルスを放射するためのトランスデューサ素子の総数に対応し得る。より具体的には、第1のパルスは、所定の数の隣接するトランスデューサ素子20(すなわち、「フル」("full")パルス)を使用して生成され得る。第2のパルスは、偶数番号のトランスデューサ素子20を使用して生成され(すなわち、「偶数」("EVEN")パルス)、第3のパルスは、奇数番号のトランスデューサ素子20を使用して生成される(すなわち、「奇数」("ODD")パルス)。奇数パルスと偶数パルスとは、逆であってもよい。
【0114】
第2及び第3のパルス、偶数及び奇数パルスに対してトランスデューサ素子20の他の構成を使用することも可能である。例えば、第1パルスに使用されるトランスデューサ素子の数を、更なるパルス(すなわち、第2及び第3パルス、並びに任意選択の補助パルス)に均等に分配する任意の構成を使用できる。換言すれば、第1のパルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子のセットは、少なくとも2つ(又はそれ以上)の補助パルスを放射するためにそれぞれ使用される少なくとも2つ(又はそれ以上)の等しいサブセットに分割され得る。
【0115】
例えば、サブセットはまた、連続するトランスデューサ素子の少なくとも1つのグループ(例えば2~10)を含んでもよい。したがって、グループのトランスデューサ素子は、トランスデューサ装置内で連続的に(すなわち、互いに隣り合って)配置され得る。サブセットが2つ以上のグループを含む場合、異なるサブセットのグループ(すなわち、異なる補助パルスに関連する)は交互であってもよい。
【0116】
パルスは、時間の経過とともにループし得る。すなわち、最初にパルスP1が放射され、次にP2、次にP3が放射される。このシーケンスは繰り返すことができる。特に、設定された走査線についてループすることによってシーケンスを繰り返すことができる。換言すれば、放射パルスの走査線又は焦点は、反復ごとにx方向(図2を参照)にオフセットされ得る。したがって、P1、P2、P3の放射後、本方法は、空間的にオフセットされたP1’、P2’、P3’の放射を続けることができる。上記のオフセットとは別に、P1’、P2’、P3’は、P1、P2、P3に対応する場合がある。
【0117】
さらに、走査線に沿った焦点が、別のループで媒体の深さ方向にオフセットされる可能性がある(つまり、図2のz軸に沿って)。このようにして、媒体の異なる領域を走査でき、各領域は少なくとも3つのパルスによって照射される。
【0118】
したがって、これらのパルスに基づいて、媒体の決定された物理的特性のマップ(又はマトリックス又はテーブル)を形成できる。当該マップは、媒体を画像化する、及び/又は別の方法、例えば、機械学習アルゴリズム、特に1つ又はいくつかのニューラルネットワークを含む(AIベースの)アルゴリズムにフィードするのに役立ち得る。
【0119】
特に「フル」パルス、「偶数」パルス、及び「奇数」パルスを含む上記3つのパルスP1、P2、P3は、「造影超音波」(CEUS)法で使用できる。
【0120】
CEUSモードに関して、例えば患者の血管系に造影剤を注入し、造影超音波スキャン中に対応する関心領域をスキャンできる。この手法の目標は、特に疑わしい腫瘍内及びその周辺での造影剤の挙動を分析することである。造影剤をよりよく観察するために、パルス振幅及び/又は位相変調技術を適用して、組織と造影剤とを有利に識別でき、特に造影剤の微小気泡の観察が診断の鍵となる場合に有効である。これらの技術は、組織の線形応答と比較して、造影剤応答の非線形性を利用している。
【0121】
振幅変調(AM)は、様々な強度を特徴とする連続パルスで媒体を励起する技術の1つである。例えば、図4に関連して上述したパルスを使用できる。「フル」と称する1つのパルスは、特定の開口のすべてのプローブトランスデューサによって生成され、「偶数」及び「奇数」と称する他の2つのパルスは、半分の選択されたトランスデューサによって生成される(例として、2つのうちの1つのトランスデューサ)。
【0122】
振幅変調は、(励起トランスデューサ素子の電圧を変化させることにより)送信パルスの振幅、デューティサイクル(トランスデューサ素子が電気信号によって励起される期間中の超音波の送信期間のパーセント)などの送信ビームの他の特性を変更することによって実行することもできる。
【0123】
各パルスに対して、超音波照射された領域の反射性を推定するために、ビーム形成プロセスが実行され得る。次に、各パルスに関連付けられた複素IQマップが取得され、Ifull(r)(すなわちI(r))、IEVEN(r)(すなわちI(r))、及びIODD(r)(すなわちI(r))と称される。
【0124】
Iceus(r)と称されるCEUS複素画像は、ビーム形成されたマップのコヒーレント加算から得られる。
【数13】
【0125】
この画像の係数(modulus)は、対数変換され、場合によってはフィルタリングされて保存され、別のデバイスに送信され、及び/又は画面に表示され、又は任意の表示技術(ホログラム、接続されたメガネなど)を使用して表示される。
【0126】
半分の選択したトランスデューサを使用することにより、第2及び第3の送信パルスの強度レベルは、第1のパルスの約半分になる。一方、媒体は一般に線形応答を有することがある。式(1a)のコヒーレント加算は、CEUSマップ内の関連する応答を大幅に打ち消す。他方で、造影剤の非線形応答は、同じ加算を実行するとき、それらの応答を完全には打ち消さない。
【0127】
造影剤の非線形性により、「フル」パルスと「奇数」又は「偶数」パルスとの間に位相遅れが生じる。それらに関連する後方散乱信号は、もはや同相ではなく、これは打ち消しが完全に機能していないことを意味する。すなわち、信号は補償されない。
【0128】
本開示は、この位相遅れを利用してCEUS画像の品質を向上に取り組む。この強化は、特に2つの異なるプロセスの潜在的な組み合わせから生じる。1つは造影剤からの信号を改善し、もう1つは組織及び電子ノイズによって生成される信号レベルを低下させる。
【0129】
上述のプロセスのそれぞれの前に、複素マップI(r)、I(r)、及びI(r)をはじめに計算でき、造影剤をセグメント化できる。
【0130】
図5は、本開示に従って第1のセグメンテーションマップφ1 seg(r)を決定する手順を概略的に示す。造影剤をセグメント化するために、第1の操作は、フルIQデータと奇数及び偶数IQデータの和との間の位相遅れを測定することにある。これは、例として、I(r)とI(r)及びI(r)の和との間のスカラー積の位相を測定することによって達成できる。
【数14】
軟部組織などの線形散乱体は、πに近い位相遅れφを生成するはずである。つまり、Iと(I+I)とはより同相になる。逆に、造影剤は、例えば約-2ラジアンの位相遅れを誘発する可能性がある。この観察に基づいて、特定の位相遅れに関連する造影剤を分離するためにセグメンテーションを行うことができる。
【数15】
例示的な値は、φ1 min=-2.5ラジアン及び/又はφ1 max=-0.5ラジアンを含み得る。ただし、値は場合によって異なり、媒体、造影剤、及びその他のパラメータによっても異なる場合がある。このセグメンテーションは、造影剤20を捕捉できる。図5に示すように、造影剤20は、より明白に示されている、すなわち、第1のセグメンテーションマップφ1 seg(r)においてより良いコントラストを有している。したがって、マップに基づいて画像が生成される場合、画像はより見やすくなるという利点がある。
【0131】
ただし、エッジ(すなわち、媒体の超音波照射領域の周辺領域)及び大きな深さでは、電子ノイズ21も捕捉する可能性がある。実際、このノイズはランダムで予測不可能である。したがって、その一部が選択範囲[φ1 min、φ1 max]に含まれる場合がある。
【0132】
図6は、本開示による第2のセグメンテーションマップφ2 seg(r)を決定する手順を概略的に示す。電子ノイズ21を造影剤から分離するために、IODD(r)とIEVEN(r)との間の位相差を調査できる。これは、IとIとの間のスカラー積を測定することによって行うことができる。
【数16】
φは、結果として、例えば媒体の超音波照射領域中央に関連付けられた点と、造影剤(すなわち、関心のある情報)とについては、0に近くなる可能性がある。実際、各点で受信される強度レベルは奇数パルスと偶数パルスとで同じである。その結果、電子ノイズのみがこれらの2つのパルス間に位相遅れを生成し得る一方、造影剤と組織信号とは両方とも同相であり得る。次に、第2のセグメンテーションを実行できる。
【数17】
例示的な値は、φ2 max=0.5ラジアンを含む。ただし、値は異なってもよい。
【0133】
φ1 seg(r)とφ2 seg(r)とを組み合わせることで、造影剤をよりよくセグメント化できる第3のセグメンテーションマップφ3 seg(r)を形成し得る。
【数18】
【0134】
したがって、物理的特性は、以下のように決定できる。
【数19】
【0135】
考慮される信号において、まだいくらかのノイズが残っている場合、ノイズは造影剤信号よりも散乱しているため、例として空間フィルタを用いて除去できる。
【0136】
1つのオプションでは、IQデータセットのコントラストをさらに向上させることができる。例えば、既に上述したように、造影剤の位相遅れφは、現在の媒体、造影剤及び/又は考慮されるデータに基づいて知ることができ、例えば、約-2ラジアンの値を有し得る。さらに、既に上述したように、CEUS画像はI(r)とI(r)+I(r)とのコヒーレント加算に起因する。そのため、位相差-2では最適なコヒーレント加算が得られない場合がある。これを強化するために、Iceus(r)の構築中に、最適なコヒーレント加算が発生するような追加の位相遅れを導入できる。この位相差は、例えば、セグメンテーションマップφに基づいて適用される。
【数20】
【0137】
造影剤セグメンテーションφ3 seg(r)により、IQデータ内の組織信号を変更することなく、得られる造影剤信号を強調できる。例えば、造影剤の平均的な信号は、およそ3dB、及び最大で10dB向上させることができる。
【0138】
更なるオプションとして、ノイズキャンセリング及び/又は媒体キャンセリングが最適化され得る。ノイズとして検出された信号(例えばφ)については、Iのような位相遅れが挿入され、結果としてIとIとの和が逆位相になることがある。
【数21】
更なる強化では、この処理は、造影剤(1-φ)とみなされないあらゆる信号に対して適用できる。
【数22】
【0139】
例えば、当該キャンセリングは、ノイズレベルを約1.5dB低減させることができる。
【0140】
最後に、決定された物理特性のデータ品質をさらに向上させるように、フィルタリング及び強調の両処理を組み合わせ得る。すなわち、次のようにしてもよい。
【数23】
更なる強化では、以下のようにしてもよい。
【数24】
【0141】
特許請求の範囲を含む本明細書全体を通して、「~を含む(comprising a)」という用語が、特に明記しない限り「少なくとも1つを含む(comprising at least one)」と同義であると理解されるべきである。さらに、特許請求の範囲を含む本明細書に記載されたあらゆる範囲が、特に明記しない限り、その1つ又は複数の最終値を含むものと理解されるべきである。記載されている要素の特定の値が、当業者に知られている許容製造公差又は産業公差内にあると理解されるべきであり、また「実質的に(substantially)」並びに/又は「およそ(approximately)」及び/若しくは「ほぼ(generally)」という用語を使用することにより、そのような許容公差内にあることを意味していると理解されるべきである。
【0142】
本明細書における本開示が特定の実施形態を参照して説明されているが、これらの実施形態が、本開示の原理及び用途を単に例示したものにすぎないことを理解されたい。
【0143】
本明細書及び実施例が例示的なものとしてのみ考慮され、本開示の真の範囲が、以下の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
【0144】
先行技術として特定された特許文献又は他の任意の事項への本明細書における言及は、当該文献若しくは他の事項が公知であること、又はそれが含む情報が特許請求の範囲のいずれかの優先日における共通の一般知識の一部であったことを認めるものと解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-02-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体(11)の物理的特性を決定する方法であって、
(d)少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連する媒体の超音波信号データを処理して、少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI(r),I(r),I(r)をそれぞれ提供すること、ここで、前記少なくとも3つの放射された超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと各々が第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する、
(e)第1のIQデータセットI(r)と、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れ、及び/又は前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数として、前記物理的特性を決定すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記物理的特性を決定すること(e)は、さらに、
前記第1のIQデータセットI(r)に、及び/又は、前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和に補償位相遅れを導入することによって、前記第1のIQデータセットI(r)を前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和と同位相に設定することを含む
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記物理的特性を決定すること(e)は、さらに、
πから補償位相遅れを引いた値を導入することによって、前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和に対して逆位相の前記第1のIQデータセットI(r)を設定することを含む
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のIQデータセットI(r)と前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の前記第1の位相遅れφ(r)は、
(r)の位相とI(r),I(r)の和の位相との差、又は、
(r)とI(r),I(r)の和とのスカラー積の位相、及び/又は
【数1】
によって測定され、及び/又は
補償位相遅れは、前記第1の位相遅れφ(r)の関数として決定される
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r)とI(r)との間の前記第2の位相遅れφ(r)は、I(r)の位相とI(r)の位相との差、又はI(r)とI(r)とのスカラー積の位相によって、及び/又は
【数2】
によって測定される
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記物理的特性を決定すること(e)は、さらに、
前記第1の位相遅れの関数としての第1のセグメンテーションマップ、及び/又は前記第2の位相遅れの関数としての第2のセグメンテーションマップを決定することを含み、
前記物理的特性は、前記第1及び/又は前記第2のセグメンテーションマップの関数として決定される
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記物理的特性は、
前記第1のセグメンテーションマップと前記第2のセグメンテーションマップとを組み合わせて生成される第3のセグメンテーションマップの関数として決定される、及び/又は前記第1のセグメンテーションマップから前記第2のセグメンテーションマップの成分を除去することによって決定される
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のセグメンテーションマップは、前記媒体の関心領域をセグメント化するように構成され、及び/又は
前記第2のセグメンテーションマップは、前記IQデータセットI(r),I(r),I(r)のノイズを検出及び/又は低減するように構成される
請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のセグメンテーションマップは、
【数3】
によって決定され、
ここで、φ min及びφ maxは、所定値である、及び/又は
前記第2のセグメンテーションマップは、
【数4】
によって決定され、
ここで、φ maxは所定値である、及び/又は
前記第1のセグメンテーションマップと前記第2のセグメンテーションマップとを組み合わせて生成される第3のセグメンテーションマップは、
【数5】
によって決定される
請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記物理的特性が、
所定の造影超音波診断法、
前記IQデータセットI(r),I(r),I(r)のコヒーレント加算、
式(1b):
【数6】
式(1c):
【数7】
式(1d):
【数8】
式(1e):
【数9】
式(1f):
【数10】
式(1g):
【数11】
のうちの少なくとも1つに基づいて決定される
請求項1に記載の方法。
【請求項11】
超音波信号データを処理すること(d)の前に、さらに、
(b)超音波(We)の放射シーケンス(ES)を媒体(11)に送信すること、ここで、前記放射シーケンス(ES)は、前記第1の放射パルスと前記少なくとも2つの補助放射パルスとを含む、
(c)前記媒体から超音波(Wr)の応答シーケンス(RS)を受信すること、ここで、前記超音波信号データは前記超音波(Wr)の応答シーケンス(RS)に基づく、
を含み、及び/又は、
前記超音波(We)の放射シーケンス(ES)を送信すること(b)の前に、
(a)前記媒体に造影剤を導入することを含み、
前記第1の位相遅れの関数としての第1のセグメンテーションマップは、前記媒体中の造影剤をセグメント化するように構成される
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも2つの補助放射パルスは、前記媒体に対して互いに空間的にオフセットされており、及び/又は
第2パルスと第3パルスとが異なる開口変調で放射され、及び/又は、
第1パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子のセットが、少なくとも2つの補助パルスを放射するためにそれぞれ使用される少なくとも2つのサブセットに分割され、及び/又は
第1のサブセットは、第1の補助パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の奇数番号に対応し、第2のサブセットは、第2の補助パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の偶数番号に対応する
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
媒体(11)の複数の領域の物理的特性を決定するための方法であって、
請求項1から12のいずれか1項に記載の方法を繰り返し実行することを含み、各繰り返しにおいて、別の領域の超音波信号データが処理される
方法。
【請求項14】
前記第1の位相遅れの関数としての第1のセグメンテーションマップ前記第2の位相遅れの関数としての第2のセグメンテーションマップ、及び前記第1のセグメンテーションマップと前記第2のセグメンテーションマップとを組み合わせて生成される第3のセグメンテーションマップのうちの少なくとも1つは、前記複数の領域の関数として決定され、及び/又は
前記複数の領域の決定された物理的特性に基づいて画像が形成される
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
データ処理システムによって実行されると、前記データ処理システムに、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法を実行させるコンピュータ可読命令を含む
コンピュータプログラム。
【請求項16】
媒体の物理的特性を決定するためのシステム(11)であって、
処理ユニットを備え、前記処理ユニットは、
少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連する媒体の超音波信号データを処理して、少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI(r),I(r),I(r)をそれぞれ提供し、ここで、前記少なくとも3つの放射された超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと各々が第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する、
第1のIQデータセットI(r)と、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れ、及び/又は前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数として、前記物理的特性を決定する
ように構成される、システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、媒体の物理的特性を決定するための方法及びシステムに関する。具体的には、本方法は、トランスデューサ装置によって走査される媒体の画像データを提供するのに適している。例えば、本方法は、例えば医療機器であり得る超音波システムのような機器で使用され得る。
【背景技術】
【0002】
例えば医用画像処理、レーダ、ソナー、地震探査、無線通信、電波天文学、音響学及び生物医学の分野において、通信、画像処理又は走査を行う目的で複数のトランスデューサ素子装置又はトランシーバ(例えばアレイとして配置される)を使用することが知られている。一例として、超音波イメージングが挙げられる。
【0003】
従来の超音波イメージングでは、超音波トランスデューサ素子のセットを有する超音波トランスデューサ装置(超音波プローブとも呼ばれる)を使用して、送信動作において、関心媒体に超音波を照射する超音波パルスを生成し得る。媒体は、例えば、脂肪、筋肉、骨、及び血管などの1つ又はいくつかの組織を含み得る。次に、受信動作において、エコー信号のセットが一組のトランスデューサ素子によって媒体から受信される。特に、トランスデューサ素子の各々は、受信したエコー信号を、例えば電気信号に変換する。信号は、超音波システムによってさらに処理できる。例えば、それらはデジタル化され、復調され、フィルタリングされ、及び/又は信号調整動作が実行され得る。
【0004】
超音波照射(すなわち、媒体に送られる超音波励起)の前に、造影剤(例えば、微小気泡)が媒体に導入され得る。特に、造影超音波検査(CEUS)の応用において、超音波造影剤をより良好に画像化するために、専用の送信シーケンス(すなわち、送信パルスの組合せ)に続いて媒体が超音波照射される。
【0005】
造影剤は、患者の血管系に注入され、造影超音波スキャン中に画像化される。この手法の目的は、特に疑わしい腫瘍内及び周囲での気泡の挙動を分析することである。
【0006】
造影剤をよりよく観察するために、組織と造影剤とを区別するパルス変調技術が提案されている。これらの技術は、組織の線形応答と比較して、気泡応答の非線形性を利用している。特に、CEUSイメージングは、(軟部組織の線形応答と比較して)超音波造影剤の非線形応答に依存している。振幅及び/又は位相変調によって、超音波造影剤によって生成された後方散乱信号が、組織によって生成されたエコーから分離される。そのようなプロセスは、異なる振幅及び/又は位相に関連付けられた送信パルスで、媒体を連続的に照射することを必要とする(例えば非特許文献1)。
【0007】
さらに、特許文献1は、媒体内の正確な位置の物理的特徴を決定する方法を記載している。当該方法は、造影剤を媒体に導入するステップと、異なる振幅を有する放射パルスを含む放射シーケンスを送信するステップと、放射パルスのエコーに対応する受信パルスを含む受信シーケンスを受信するステップと、放射パルスに対する受信パルス間の位相差を計算するステップと、当該位相差に基づいて物理的特性を決定するステップとを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3097432号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tremblay-Darveau C, Sheeran PS, Vu CK, et al. The Role of Microbubble Echo Phase Lag in Multipulse Contrast-Enhanced Ultrasound Imaging. IEEE Trans Ultrason Ferroelectr Freq Control. 2018; 65(8):1389-1401. doi:10.1109/TUFFC.2018.2841848
【発明の概要】
【0010】
現在、決定された特性の品質をさらに高めることが可能な、媒体の物理的特性を決定するための方法及びシステムを提供することが依然として望まれている。特に、媒体の信号データ、例えば導入された造影剤の画像データにおいて、関心のある情報をより効果的にフィルタリングすることが依然として望ましい。さらに、媒体の信号データのノイズを低減すること、及び/又はCEUSイメージングモードで軟組織によって生成される信号をより良好にフィルタリング及び/又はキャンセルすることが望ましい。
【0011】
したがって、本開示の実施形態によれば、媒体の物理的特性を決定するための方法に関し、本方法は、
(d)少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連する媒体の超音波信号データを処理して、少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI(r),I(r),I(r)をそれぞれ提供すること、ここで、当該少なくとも3つの放射された超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと、各々が第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する、
(e)第1のIQデータセットI(r)と、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れ、及び/又は少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数として、物理的特性を決定することを含む。
【0012】
このような方法を提供することにより、決定された特性の品質を向上させることが可能になる。
【0013】
特に、(e)第1のIQデータセットI(r)と少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れの関数として物理的特性を決定することによって、導入された造影剤の画像データなど、超音波信号データ内の関心のある情報をより効果的に検出することが可能になる。
【0014】
それから、(e)少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数として物理的特性を決定することによって、超音波信号データ内のノイズを検出することも可能になる。
【0015】
更なる結果として、超音波信号データ内の望ましくないデータは、関心のある検出された情報及び検出されたノイズを除外することによって決定され得る。換言すれば、関心のある情報又はノイズとして検出されないすべては、望ましくないデータとして分類され得る。そのような望ましくないデータは、特に、媒体内に存在する組織の超音波信号データを含み得る。
【0016】
したがって、本方法は、決定された物理的特性(又は後述する物理的特性のマップの値)を、関心のある情報、ノイズ、及び望ましくないデータ(例えば、組織)の3つのカテゴリのうちの1つに分類するステップをさらに含むことができる。
【0017】
例えば、関心のある情報として分類された決定された物理的特性が強調される一方で、ノイズ又は望ましくないデータとして分類された決定された物理的特性は抑制又はキャンセルされ得る。したがって、関心のある情報として分類された決定された物理的特性は、ノイズ又は望ましくないデータとして分類された任意の決定された物理的特性から、よりよく区別され得る。
【0018】
関心のある情報及び/又はノイズを検出することは、関心のある情報及び/又はノイズを特徴付ける、認識する、強調する、ハイライトする、又は一般的に認識することのうちの少なくとも1つを含み得る。
【0019】
超音波信号データは、複素IQデータセットを提供(又は取得)するために処理され得る。したがって、これは、各IQデータセットがそれぞれ放射された超音波パルスに関連付けられることを意味し得る。
【0020】
少なくとも2つの補助放射パルスは、同じ(第2の)強度及び/又は同じ振幅を有し得る。
【0021】
補助放射パルスの振幅の和(例えば、ピーク値)は、第1の放射パルスの振幅(例えば、ピーク値)に対応し得る。
【0022】
IQデータセットは、復調されたIQ超音波データセット及び/又はIQビーム形成データセットであり得る。
【0023】
より一般的には、IQデータセットはIQデータを含み得る。例えば、IQデータセットは、同相値及び直交位相値の少なくとも1つの対を含むことができる。したがって、IQデータは、復調されたIQ超音波データ及び/又はIQビーム形成データであってもよい。
【0024】
物理特性を決定すること(e)は、さらに、第1のIQデータセットI(r)に、及び/又は、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和に補償位相遅れを導入することによって、第1のIQデータセットI(r)を少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和と同位相に設定することを含み得る。換言すれば、追加の位相遅れは、I(r)とI(r),I(r)の和との間の位相遅れが低減及び/又は補償されるように選択され得る。したがって、最適なコヒーレント加算が有利に得られる。
【0025】
物理特性を決定すること(e)は、さらに、第1のIQデータセットI(r)に位相シフトπを導入することによって、任意選択でπから補償位相遅れを引いた値(すなわち、下記の数式(1d)に挙げるように、(π-φ(r)))を導入することによって、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和に対して逆位相の第1のIQデータセットI(r)を設定することを含み得る。この位相シフトは、決定された物理的特性の改善されたノイズ低減を有利に導き得る。
【0026】
第1のIQデータセットI(r)と少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れφ(r)は、
(r)の位相と、I(r),I(r)の和の位相との差、又は
(r)とI(r),I(r)の和とのスカラー積の位相、すなわち次の式で表される:
【数1】
によって測定され得る。
【0027】
補償位相遅れは、φ(r)の関数として決定され得る。急激すぎない補償を得るために、φを部分的にのみ(すなわち、すべてではなく)補償することも可能である。換言すれば、第1のIQデータセットI(r)と少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和とが、より同相又は逆位相になる(任意選択で、完全に同相又は逆位相になることなく)ように、補償位相遅れを挿入することが関心になり得る。
【0028】
少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r)及びI(r)の間の第2の位相遅れφ(r)は、
(r)の位相とI(r)の位相との差、又は
(r)とI(r)とのスカラー積の位相であって、特に次の式で表され得る:
【数2】
によって測定され得る(又は対応し得る)。
【0029】
物理的特性を決定すること(e)は、さらに、第1の位相遅れの関数としての第1のセグメンテーションマップ、及び/又は第2の位相遅れの関数としての第2のセグメンテーションマップを決定することを含み得る。次いで、物理的特性は、第1及び/又は第2のセグメンテーションマップの関数として決定され得る。
【0030】
物理的特性は、第1のセグメンテーションマップと第2のセグメンテーションマップとを組み合わせて生成される第3のセグメンテーションマップの関数として決定され得る。例えば、第1のセグメンテーションマップから第2のセグメンテーションマップの内容を除去することによって決定され得る。
【0031】
したがって、決定された特性(及び、任意選択で、当該特性に基づいて形成された画像データ)の品質は、特に、媒体内の関心領域のIQデータを強化することによって、及びノイズ及び望ましくないデータ(例えば、組織信号)を低減することによって、強化され得る。
【0032】
第1のセグメンテーションマップは、媒体の関心領域をセグメント化するように構成され得る。例えば、関心領域は(後述するように)媒体が造影剤を含む領域であってもよい。第1のセグメンテーションマップは、例えば、形成された画像に示され得る、又は表示され得る関心領域を捉える(又は強調する)ために使用できる。
【0033】
マップは、データ値をデータフィールドに割り当てるように構成されたマトリックス又はテーブルとして理解できる。例えば、媒体内の領域に物理的特性の値を割り当てることができる。マップは、2次元又はそれ以上の次元であり得、列の数と行の数とは同じでもよいし、異なってもよい。一例では、例えば画像を形成する、複数のピクセルを含み得る。
【0034】
ただし、セグメンテーションマップは1つの値のみを含む場合もある。この場合、セグメンテーションマップは大域(global)フィルタとして機能する。例えば、第1及び/又は第2のセグメンテーションマップが物理的特性をゼロと判断した場合、対応する出力が生成され、ユーザ又は処理システムに提供され得る。例えば、当該出力は、超音波信号データが媒体の物理的特性を決定するために適していないことを示してもよい(例えば、ノイズが多すぎるか、又はデータ品質が不十分であるため)。この場合、本方法が繰り返されるか、又は補充(repletion)が示唆され得る。
【0035】
さらに、セグメンテーションマップはバイナリフィルタとして使用されてもよい。すなわち、セグメンテーションマップは、値ごとに、使用されるか、又は無視されるかを定義してもよい。しかし、セグメンテーションマップは、ソフトフィルタ及び/又は空間フィルタとして使用することもできる。例えば、セグメンテーションマップは各値に重み付け(例えば、0と1との間で)を割り当てることができる。
【0036】
さらに、決定された補償位相遅れに関して、例えば空間及び/又は時間フィルタを使用して、滑らかな補償方法を適用することもできる。
【0037】
第2のセグメンテーションマップは、IQデータセットI(r),I(r),I(r)における望ましくない信号及び/又はノイズを検出及び/又は低減するように構成され得る。例えば、ノイズは、媒体及び/又は電子ノイズに由来する可能性がある。
【0038】
第1のセグメンテーションマップは、次のように決定できる。
【数3】
ここで、φ min及びφ maxは事前定義された値である。一般に、これらの値は、媒体内の関心領域が捕捉され、他の部分が除外されるように定義できる。したがって、φ min及びφ maxは、関心領域及び他の領域に関連付けられたIQデータ間の位相遅れの関数として事前定義され得る。例示的な値は、φ min=-2.5ラジアン及び/又はφ max=-0.5ラジアンを含み得るが、異なる値であってもよい。例えば、φ minは、例えば3から-2ラジアンの範囲で定義することもでき、φ maxは、例えば-1から0ラジアンの範囲で定義することもできる。これらの場合においても、関心のある情報を十分に検出できること、すなわち望ましくないデータ(例えば組織からのデータ)と十分に区別できることを確保できる。
【0039】
第2のセグメンテーションマップは、次のように決定できる。
【数4】
ここで、φ2 maxは事前定義された値である。一般に、この値はIQデータにおけるノイズを強調するように定義できる。したがって、φ2 maxは、ノイズを生成する領域と他の領域に関連付けられたIQデータ間の位相遅れの関数として定義できる。例示的な値は、φ2 max=0.5ラジアンを含み得るが、異なる値であってもよい。例えば、φ2 maxは、例えば0.4から0.6ラジアンの範囲、又はより広くは0.25から1ラジアンの範囲で定義することもできる。これらの場合においても、ノイズが関心のある情報から十分に区別できることを確保できる。
【0040】
第3のセグメンテーションマップは、次のように決定できる。
【数5】
【0041】
物理的特徴は、以下のうちの少なくとも1つに基づいて決定され得る:
所定の造影超音波診断法、
前記IQデータセットI(r),I(r),I(r)のコヒーレント加算、
式(1b):
【数6】
式(1c):
【数7】
式(1d):
【数8】
式(1e):
【数9】
式(1f):
【数10】
式(1g):
【数11】
【0042】
本方法は、超音波信号データを処理する前に、さらに、
(b)超音波の放射シーケンスを媒体(11)に送信すること、ここで、放射シーケンスは、第1の放射パルスと少なくとも2つの補助放射パルスとを含む、
(c)媒体から超音波の応答シーケンスを受信すること、ここで、超音波信号データは超音波の応答シーケンスに基づく、
を含む。
【0043】
送信及び受信は、同じ又は異なるトランスデューサ素子によって、又は異なるトランスデューサ装置によってさえ実行され得る。
【0044】
少なくとも2つの補助放射パルスは、例えば、媒体に関して、特にパルスによって超音波照射された領域に関して互いに空間的に異なっていてもよい。換言すれば、2つの補助パルスのうちの第1のパルスは、媒体において第2のパルスとは異なる領域に超音波照射し得る。しかしながら、それぞれ照射された領域は、大部分が重なっていてもよい。補助放射パルスは、例えば、トランスデューサ装置の異なるトランスデューサ素子によって生成され得る。
【0045】
補助放射パルスが異なる開口変調で放射されることも可能である。例えば、パルスを放射するために使用されるトランスデューサ装置は、調整可能な開口(aperture)を有し得る。それから、当該開口は、第2及び第3のパルスに対して異なる方法で変調され得る。
【0046】
放射されたシーケンスは、複数の超音波トランスデューサ素子を備える超音波トランスデューサ装置を使用して送信され得る。
【0047】
第1のパルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子のセットは、少なくとも2つの補助パルスを放射するためにそれぞれ使用される少なくとも2つのサブセットに分割できる。例えば、第1のサブセットは、第1の補助パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の奇数番号に対応し得、第2のサブセットは、第2の補助パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の偶数番号に対応し得る。
【0048】
したがって、異なる補助パルスに対してトランスデューサ素子の異なるサブセットを使用することによって、トランスデューサ装置の実効開口をパルスごとに変調できる。
【0049】
前述の偶数及び奇数パルス以外のトランスデューサ素子の他の構成を第2及び第3のパルスに使用することも可能である。例えば、第1パルスに使用されるトランスデューサ素子の数を更なるパルス(すなわち、第2及び第3パルス、ならびに任意の補助パルス)に均等に分配する任意の構成を使用できる。換言すれば、第1のパルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子のセットは、少なくとも2つ(又はそれ以上)の補助パルスを放射するためにそれぞれ使用される少なくとも2つ(又はそれ以上)の等しいサブセットに分割され得る。
【0050】
例えば、(各)サブセットはまた、連続するトランスデューサ素子の少なくとも1つのグループ(例えば、2~10)を含んでもよい。したがって、(各)グループのトランスデューサ素子は、トランスデューサ装置内で連続して(すなわち、互いに隣り合って)配置され得る。(各)サブセットが2つ以上のグループを含む場合、異なるサブセットのグループ(すなわち、異なる補助パルスに関連する)は、交互であってもよい。
【0051】
第1のパルスは、第2の強度のパルスと比較して逆の極性を有し得る。例えば、式(1b)を参照すると、逆極性が使用される場合、式(1b’)にεを導入することで、式を適合させることができる。
【数12】
ここで、ε=-1である。また、更なる式(1c)から(1g)は、対応して適合され得る。
【0052】
一例では、第1の放射パルスは、第1の数のトランスデューサ素子を使用して生成され得、補助放射パルスの各々は、第2の数のトランスデューサ素子を使用して生成され得る。第1の数は、第2の数に補足放射パルスの数を乗じた数に対応し得る。
【0053】
応答シーケンスは、後方散乱信号のセットであってもよい。例えば、トランスデューサ素子は、媒体から後方散乱信号を受信し、それらを例えば電気信号に変換できる。
【0054】
例えば、放射パルスは、所与の点に集束する円筒波及び/又は平面波及び/又は発散波による媒体の超音波照射を含むことができる。応答シーケンスは、この超音波照射の後方散乱エコーを含み得る。
【0055】
より具体的には、複数の超音波を関心領域に送信でき、それに応答して、各超音波に応答してトランスデューサ素子のセットによって未加工データのセットを取得でき、超音波は異なる空間周波数成分を有する。
【0056】
受信された信号のセットは、超音波信号のセットであり得る。
【0057】
トランスデューサ装置は、超音波トランスデューサ装置であってもよい。トランスデューサ素子は、例えばトランスデューサアレイ、例えば1Dトランスデューサアレイ(トランスデューサ素子のラインを有する)、1.5Dトランスデューサアレイ(送信トランスデューサ素子の1ライン又は2ラインと、受信トランスデューサ素子の1ライン又は2ラインとを有する)、又は2Dトランスデューサアレイ若しくはマトリックストランスデューサアレイ(トランスデューサ素子の複数のラインを有する)状であってもよい。しかしながら、本トランスデューサ素子は、超音波システムのトランスデューサ素子に限定されない。代わりに、トランスデューサ装置は、任意の種類の波を放射及び受信できる。更なる例は、レーダシステム、ソナーシステム、地震探査システム、無線通信システム、電波天文システム、音響システム、非破壊検査(NDT)システム、及び/又は生物医学システムなどのトランスデューサ装置を含む。
【0058】
本方法は、超音波の放射シーケンスを送信する前に、
(a)媒体に造影剤を導入することを含み、
ここで、第1のセグメンテーションマップは、媒体中の造影剤をセグメント化するように構成されている。
【0059】
本開示はさらに、媒体の複数の領域の物理的特性を決定するための方法であって、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法を繰り返し実行することを含み、各繰り返しにおいて、別の領域の超音波信号データが処理される方法に言及する。
【0060】
したがって、各領域について応答シーケンスを受信するために、放射された一連の超音波も複数の領域のそれぞれに送信され得る。
【0061】
したがって、複数の物理的特性値、例えば、領域ごとに1つの値を含む物理的特性のマップを決定できる。一例では、物理的特性のマップは、例えば画像を形成するために、複数のピクセルを含むことができる。換言すれば、各物理特性値は、ピクセルによって表され得る。
【0062】
第1、第2、及び第3のセグメンテーションマップのうちの少なくとも1つは、複数の領域の関数として決定され得る。したがって、マップは、領域の数に適合した解像度(又は値の数)を有できる。
【0063】
複数の領域の決定された物理的特性に基づいて、画像を形成できる。
【0064】
本開示はさらに、データ処理システムによって実行されると、当該データ処理システムに、方法の先行請求項のいずれかによる方法を実行させるコンピュータ可読命令を含む、コンピュータプログラムに言及する。
【0065】
本開示はまた、コンピュータによって実行される場合に、本開示による方法を実行するための命令を含むコンピュータプログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体にも関する。
【0066】
本開示はさらに、媒体の物理的特性を決定するためのシステムに言及し、当該システムは、
少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI(r),I(r),I(r)をそれぞれ提供するために、少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連する媒体の超音波信号データを処理し、ここで、少なくとも3つの放射された超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと、それぞれが第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和が第1の強度に対応する、
第1のIQデータセットI(r)と少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れ、及び/又は、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数として、物理的特性を決定する
ように構成された処理ユニットを備える。
【0067】
本システムは、トランスデューサ装置を含んでもよい。システムは、特に、トランスデューサ装置を含み得るプローブ(例えば、超音波プローブ)を含んでもよい。
【0068】
本システムは超音波システムであってもよい。
【0069】
本システム及び/又はプラットフォームは更なる機能特性を備えてもよく、及び/又は上述の方法ステップに対応して構成されてもよい。
【0070】
本開示及びその実施形態は、ヒト、植物、又は動物専用の医療システムの文脈で使用されてもよいが、考慮されるべき任意の(非生物)軟質材料の文脈でも使用されてもよい。
【0071】
他の点で矛盾しない限り、上述の要素と本明細書内の要素との組み合わせが可能であることが意図される。
【0072】
前述の発明の概要及び以下の詳細な説明は、例示及び説明のみを目的としており、特許請求の範囲の開示を限定するものではないことを理解されたい。
【0073】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、例示を目的として提供されており、また本開示の実施形態を説明と共に示し、その原理を支持し、かつ例示する役割を果たしている。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】本開示の実施形態による方法の例示的な実施形態を示す図である。
図2】本開示の例示的な実施形態による方法を実行するシステムを示す図である。
図3】本開示の別の例示的な実施形態による方法を実行するシステムを示す図である。
図4】本開示の実施形態による異なるタイプの放射パルスを概略的に示す図である。
図5】本開示による第1のセグメンテーションマップを決定する手順を概略的に示す図である。
図6】本開示に従って第2のセグメンテーションマップを決定する手順を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
ここで、本開示の例示的な実施形態を詳細に参照し、その例を添付の図面に示す。便宜上、同じ参照符号は、図面全体を通して同じ又は同様の部分を指すために使用される。さらに、特定の実施形態、例えば図1の実施形態との関連で説明される特徴は、異なって記載されない限り、適宜、他の実施形態のうちのいずれにも同様に当てはまる。
【0076】
図1は、本開示の実施形態による方法の例示的な実施形態を示す図である。本方法は、システム1によって、より具体的には超音波プラットフォーム20によって実行されてもよい。いくつかの例を、図2及び図3に関連して説明する。
【0077】
本方法は、超音波システムによって実行される超音波方法であってもよい。利用可能な超音波方法は、Bモード撮像、せん断波エラストグラフィ撮像(本出願人によって開発されたShearWave(登録商標)モード、ドップラーイメージング、Mモードイメージング、ultrafast(商標)イメージング、又はAngio P.L.U.S(商標)という名称のangioモードの超音波イメージング、又は例えば気泡を用いたモード及び/又は造影剤を用いたモードなどを含む他の任意の超音波イメージングモードを含む。
【0078】
しかしながら、本開示による方法は、超音波検査以外の他の技術分野にも同様に適用されてもよい。具体的には、被検査媒体又は環境のデータ/信号を取得するために複数のトランスデューサ素子を使用する、かつ/又は収集されたデータ/信号に基づいてビーム形成技術を任意選択的に使用することができる、任意の技術分野が考えられる。いくつかの例は、レーダシステム、ソナーシステム、地震探査システム、無線通信システム、電波天文システム、音響システム、非破壊検査(NDT)システム、及び生物医学システムを使用する方法を含む。トランスデューサ素子の組み合わせの、異なる数のトランスデューサ素子をそれぞれ選択することにより(例えば、すべてのトランスデューサ素子、又は奇数/偶数のみ)、異なる強度のパルスを放射する原理は、従来では同数のチャネル数をもたらすが、いずれの場合も同様である。
【0079】
したがって、本開示による方法は、これらの場合のそれぞれにおいて、上記と同様の肯定的な技術的効果、例えば決定された物理的特徴の質の向上などを実現することができる。しかしながら、ここで本開示を単に例示することを目的として、以下では超音波方法の例に言及する。
【0080】
この方法は、例えば造影超音波法(CEUS)であってもよい。CEUS法では、媒体の関心領域に造影剤が提供され(操作(a)を参照)、次にスキャンされる(操作(b)、(c)を参照)。
【0081】
より詳細には、任意選択の操作(a)において、造影剤が媒体に導入(又は注入)される。造影剤は、例えば微小気泡を含み得る。造影剤は、媒体の関心領域の物理的特性のコントラストを改善するように構成され得る。超音波を照射すると、このような造影剤は非線形エコーを生成する。当該操作(a)は、注射器具(図示せず)によって実行されてもよい。注射器具は、媒質の血管内に所定量の造影剤を含む流体を注入するように構成され得る。
【0082】
任意選択の操作(b)では、放射された一連の超音波が媒体に送信される。放射シーケンスは、第1の放射パルス及び少なくとも2つの補助放射パルスを含む。第1の放射パルスは第1の強度を有し、少なくとも2つの補助放射パルスはそれぞれ第2の強度を有し、第2の強度の和は第1の強度に対応する。例えば、パルスの送信は、所与の点に集束する円筒波及び/又は異なる角度の平面波による媒体の超音波照射を含み得る。より具体的には、パルスを送信することは、複数の超音波を撮像領域に送信することを含み得る。
【0083】
任意選択の操作(c)では、超音波の応答シーケンスが媒体から受信される。当該応答シーケンスは、次の操作(d)で処理される超音波信号データの基礎を形成するか、又は対応し得る。例えば、操作(c)では、操作(b)の超音波照射の後方散乱エコーを使用できる。より具体的には、操作(c)において、未加工データのセットは、各放射パルスに応答してトランスデューサ素子のセットによって取得され得る。
【0084】
操作(a)から(c)は任意選択であり、操作(d)及び(e)に使用されるシステム以外の任意のシステムによって実行されてもよい。データは、シミュレーション装置、ファントムへの超音波照射などの他の機能によっても提供され得る。操作(d)で処理された超音波信号データが事前に保存され、例えばデータストレージ、通信インターフェースなどによって提供されることも可能である。
【0085】
操作(d)において、少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連付けられた媒体の超音波信号データは、少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI(r),I(r),I(r)をそれぞれ提供(又は取得)するために処理される。3つの放射超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと、それぞれが第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する。しかしながら、3つ以上のIQデータセット(例えば4)をそれぞれ提供するために、3つ以上の放射超音波パルス(例えば4つ)が処理されることも可能である。
【0086】
操作(e)において、第1のIQデータセットI(r)と、少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)の和との間の第1の位相遅れ及び/又は少なくとも2つの更なるIQデータセットI(r),I(r)間の第2の位相遅れの関数としての物理的特性が決定される。
【0087】
任意選択の操作(f)では、物理的特性に基づく、及び/又は決定された物理的特性に基づいて更なる方法を実行する超音波検査画像が生成される。例えば、決定された物理的特性は、更なるアルゴリズム(例えば、AIベースのアルゴリズム)で使用されて、媒体の診断を決定又は予測できる。
【0088】
操作(a)から(e)は、連続的に、すなわち順次実行できる。しかしながら、操作(b)から(e)及び/又は(d)から(e)は、任意選択のループL1又はL2により、前に数回実行されてもよい。したがって、操作(f)は、各々の複数の決定された特性に基づいて実行され得る。例えば、各反復において、当該異なる領域に関連するそれぞれの複数の決定された特徴を決定するために、媒体の別の領域が操作(b)で超音波照射され得る。次いで、当該決定された特性は、決定された特性のマップ、マトリックス又はテーブルを形成し、及び/又は、その直後又は将来に、ローカル又はリモートで潜在的に表示及び/又は分析される画像を形成するのに役立ち得る。
【0089】
操作(b)及び(c)は、例えば超音波プローブに取り付けられたトランスデューサ装置12によって実行され得る。トランスデューサ装置は、ハンドヘルドシステムであることが望ましい。システム1の出力は、インターフェース10を介して、処理ユニット13を有する中央又はメイン又は外部処理システムに送信され得る(図2及び図3参照)。
【0090】
操作(d)及び(e)は、処理ユニット13によって実行され得る。操作(f)は、処理システム4に関連付けられたディスプレイ又はスクリーン4aによって実行され得る。
【0091】
図2は、本開示の例示的な実施形態による方法を実行するシステムを示す。
【0092】
システム100は、例えば、媒体11内の位置の特性を決定するように、又は例えば、媒体11内の領域を画像化する目的で構成され得る。
【0093】
媒体11は、例えば、生体、特にヒト又は動物の体であるか、又は任意の他の生物学的又は物理化学的媒体(例えば、体外媒体)であり得る。媒体は、その物理的特性に変化を含んでもよい。例えば、媒体は、脂肪、筋肉、骨、及び血管などの組織を含むことができ、それぞれが様々な物理的特性を有する。
【0094】
例えば、組織は、機能障害及び/又は病気(例えば、癌細胞、筋肉断裂など)を患っている領域、又は媒体の他の領域と比較して様々な物理的特性を有する任意の他の単一領域を含み得る。媒体11のいくつかの部分は、これらの部分の物理的特性のコントラストを改善するために、追加の造影剤(例えば微小気泡)を含み得る。超音波を照射すると、このような造影剤は非線形エコーを生成する。したがって、そのような造影剤の可能な用途は、血管又は身体の専用部分(dedicated part(s))の内部への所定量の造影剤を含む流体の注入である。しかしながら、造影剤は、別の方法で媒体に導入することもできる。例えば、血管以外の体の他の部分又は循環系に注入できる。また、吸い込んだり、飲み込んだりすることもある。次いで、このような血管の物理的特徴は、造影剤を含まない組織の物理的特徴と比較して、より容易に検出できる。
【0095】
超音波を介して媒質を感知する方法によって検出できる物理的特性は、硬さなどの媒質の機械的特性であってもよい。本方法は、当該物理的特性の値及び/又は変動を識別する。例えば、本方法は、媒体中の2つの材料間の機械的界面を検出できる。例えば、本方法はバブルシェルを検出できる。すなわち、超音波造影剤は一般に、音波が物質間の界面から反射される様々な方法に依存している。これは、小さな気泡又はより複雑な構造の表面(すなわち、シェル)である可能性がある。
【0096】
システム100は、トランスデューサ装置を備えるプローブ12を含むことができる。当該トランスデューサ装置は、例えばx軸に沿って配置されたトランスデューサアレイの形態で、1つ又は複数の超音波トランスデューサ素子20を備えてもよい。各トランスデューサ素子20は、信号を超音波に変換する(放射)、及び/又は超音波を信号に変換する(受信)ように適合され得る。
【0097】
システム100は、電子処理ユニット13をさらに含み得る。当該ユニットは、放射/受信に同じプローブが使用される場合、両方のモード(受信及び/又は放射)でプローブ内のトランスデューサを任意に制御できる。放射/受信又は走査された媒体への適切な適合のいずれかのために、異なるプローブを使用することもできる。送信トランスデューサと受信トランスデューサとは同一であってもよく、1つのプローブ又は異なるプローブに配置された異なるものでもよい。
【0098】
さらに、ユニット13は、超音波信号データを処理し、媒体の特性及び/又は当該特性の画像を決定できる。
【0099】
プローブ12は、プローブの前の所定位置へのz軸方向への超音波集束を実行するように、湾曲したトランスデューサを備えてもよい。プローブ12はまた、トランスデューサの線形アレイを含んでもよい。さらに、プローブ12は、二次元(2D)平面への超音波集束を実行するように、x軸に沿って並置された数十個のトランスデューサ素子(例えば、124、258、又は64から300)を備えてもよい。プローブ12は、3次元(3D)ボリュームへの超音波集束を実行するように、2次元アレイを備えてもよい。さらに、プローブはまた、いくつかのトランスデューサ装置を含んでもよく、例えば、少なくとも1つは放射用であり、少なくとも1つは受信用であってもよい。
【0100】
図1に示される方法の第1の構成は、媒体11内の位置P0の物理的特性を決定するためのものであり、当該位置P0は、実質的に正確な位置、又は当該位置P0の周囲の媒体内の小さな領域(位置P0の近傍)である。
【0101】
上記の処理ユニット13及びプローブ12は、超音波Weの放射シーケンスESを媒体11内に位置P0に向けて送信するように構成でき、放射シーケンスESは、少なくとも3つの放射パルスを含む。これらの3つの放射超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと、それぞれが第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する。上記の処理ユニット13及びプローブ12はさらに、放射されたパルスに応答して位置P0から超音波4の受信シーケンスRS(すなわち、超音波信号データ)を受信するように構成され得る。
【0102】
当該位置に向かう、又は当該位置からの超音波We、Wrは集束波(ビーム)であっても非集束ビームであってもよい。これに関連して、例えば所定のビームフォーミング方法を使用できる。放射された超音波Weは、遅延されてトランスデューサアレイの各トランスデューサに送信される、複数のトランスデューサ信号によって生成され得る。受信超音波Wrは、受信シーケンスRSを生成するために遅延及び加算によって結合される複数のトランスデューサ信号から構成されてもよい。
【0103】
放射されるパルスの少なくとも2つの異なる強度又は振幅(すなわち、第1のパルスは第1の強度を有し、第2及び第3のパルスはそれぞれ同じ第2の強度を有する)は、送信電圧を変化させることによって、又は開口サイズ(すなわち、図4に関連してさらに説明するように、放射される超音波の放射に寄与するトランスデューサ素子の数を変えることによって)を変化させることによって生成され得る。開口は、素子の2つ以上のグループに分割することもできる。
【0104】
図3は、本開示の別の例示的な実施形態による方法を実行するシステムを示す。
【0105】
第2の例示的な実施形態は、概して、第1の例示的な実施形態に対応し得る。特に、本方法は、以上に開示した図2のシステム100の同一又は類似の要素を使用できる。
【0106】
しかし、本方法の第2の例示的な実施形態では、媒体11の複数の領域の物理的特性を決定できる。例えば、決定された物理的特性は、媒体11内の領域Rの画像を決定するために使用され得る。
【0107】
本方法によって生成される画像は、複数のピクセル(例えば、K個のピクセル)から構成されてもよく、各ピクセルは、領域R内の異なる位置(Pk)に対応し、kは、領域R内の各ピクセルを識別するインデックスである。任意選択で、画像は1つのピクセルのみから構成されてもよい。しかしながら、画像は、1万(100×100ピクセル)を超えるピクセルを含んでもよい。
【0108】
さらに、決定された物理的特性は、画像を形成する以外の目的にも使用できる。例えば、決定された物理的特性は、領域Rに関する更なる特徴及び/又は診断を決定するために、別の方法で処理されてもよい。決定された物理的特性は、AIシステム又は機能に、それらを訓練するため、及び/又は診断をサポートするため、及び/又は別のシステムに入力を提供するため、及び/又はエンドユーザに情報を表示するために、送信されてもよい。
【0109】
第2の実施形態(図3に示す)は、例えば当該領域の画像を生成するために領域R内の複数の位置を走査することにより、本方法の前述した第1の実施形態と主に異なる。
【0110】
領域R内の各位置Pkにおいて、処理ユニット13及びプローブ12は、超音波Weの放射シーケンスESを当該位置に向けて送信するように構成され、放射シーケンスESは、少なくとも3つの放射パルスを含み、当該パルスは異なる強度を有し、当該位置から超音波Wrの受信シーケンスRSを受信し、受信パルスは、放射パルスからの応答(エコー)である。
【0111】
同様に、前述の実施形態と同様に、超音波Weは、既知の技術に従って集束又は非集束波とすることができる。放射信号及び受信信号(パルスを表す)も、図4に示されるものと同様又は同一であり得、対応する上記の説明は、本方法の第2の構成にも適用される。
【0112】
図4は、本開示の実施形態による異なるタイプの放射パルスを概略的に示す。特に、図4は、放射された3つの超音波パルスP1、P2、P3を示す。第1放射パルスP1は第1の強度を有し、2つの補助放射パルスP2、P3はそれぞれ第2の強度を有し、第2の強度の和は第1の強度に対応する。したがって、この例では、第1の強度は第2の強度の2倍である。
【0113】
この例における異なる強度は、パルスを生成するために使用されるトランスデューサ素子20の数による。したがって、第1のパルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の数は、すべての補助パルスを放射するためのトランスデューサ素子の総数に対応し得る。より具体的には、第1のパルスは、所定の数の隣接するトランスデューサ素子20(すなわち、「フル」("full")パルス)を使用して生成され得る。第2のパルスは、偶数番号のトランスデューサ素子20を使用して生成され(すなわち、「偶数」("EVEN")パルス)、第3のパルスは、奇数番号のトランスデューサ素子20を使用して生成される(すなわち、「奇数」("ODD")パルス)。奇数パルスと偶数パルスとは、逆であってもよい。
【0114】
第2及び第3のパルス、偶数及び奇数パルスに対してトランスデューサ素子20の他の構成を使用することも可能である。例えば、第1パルスに使用されるトランスデューサ素子の数を、更なるパルス(すなわち、第2及び第3パルス、並びに任意選択の補助パルス)に均等に分配する任意の構成を使用できる。換言すれば、第1のパルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子のセットは、少なくとも2つ(又はそれ以上)の補助パルスを放射するためにそれぞれ使用される少なくとも2つ(又はそれ以上)の等しいサブセットに分割され得る。
【0115】
例えば、サブセットはまた、連続するトランスデューサ素子の少なくとも1つのグループ(例えば2~10)を含んでもよい。したがって、グループのトランスデューサ素子は、トランスデューサ装置内で連続的に(すなわち、互いに隣り合って)配置され得る。サブセットが2つ以上のグループを含む場合、異なるサブセットのグループ(すなわち、異なる補助パルスに関連する)は交互であってもよい。
【0116】
パルスは、時間の経過とともにループし得る。すなわち、最初にパルスP1が放射され、次にP2、次にP3が放射される。このシーケンスは繰り返すことができる。特に、設定された走査線についてループすることによってシーケンスを繰り返すことができる。換言すれば、放射パルスの走査線又は焦点は、反復ごとにx方向(図2を参照)にオフセットされ得る。したがって、P1、P2、P3の放射後、本方法は、空間的にオフセットされたP1’、P2’、P3’の放射を続けることができる。上記のオフセットとは別に、P1’、P2’、P3’は、P1、P2、P3に対応する場合がある。
【0117】
さらに、走査線に沿った焦点が、別のループで媒体の深さ方向にオフセットされる可能性がある(つまり、図2のz軸に沿って)。このようにして、媒体の異なる領域を走査でき、各領域は少なくとも3つのパルスによって照射される。
【0118】
したがって、これらのパルスに基づいて、媒体の決定された物理的特性のマップ(又はマトリックス又はテーブル)を形成できる。当該マップは、媒体を画像化する、及び/又は別の方法、例えば、機械学習アルゴリズム、特に1つ又はいくつかのニューラルネットワークを含む(AIベースの)アルゴリズムにフィードするのに役立ち得る。
【0119】
特に「フル」パルス、「偶数」パルス、及び「奇数」パルスを含む上記3つのパルスP1、P2、P3は、「造影超音波」(CEUS)法で使用できる。
【0120】
CEUSモードに関して、例えば患者の血管系に造影剤を注入し、造影超音波スキャン中に対応する関心領域をスキャンできる。この手法の目標は、特に疑わしい腫瘍内及びその周辺での造影剤の挙動を分析することである。造影剤をよりよく観察するために、パルス振幅及び/又は位相変調技術を適用して、組織と造影剤とを有利に識別でき、特に造影剤の微小気泡の観察が診断の鍵となる場合に有効である。これらの技術は、組織の線形応答と比較して、造影剤応答の非線形性を利用している。
【0121】
振幅変調(AM)は、様々な強度を特徴とする連続パルスで媒体を励起する技術の1つである。例えば、図4に関連して上述したパルスを使用できる。「フル」と称する1つのパルスは、特定の開口のすべてのプローブトランスデューサによって生成され、「偶数」及び「奇数」と称する他の2つのパルスは、半分の選択されたトランスデューサによって生成される(例として、2つのうちの1つのトランスデューサ)。
【0122】
振幅変調は、(励起トランスデューサ素子の電圧を変化させることにより)送信パルスの振幅、デューティサイクル(トランスデューサ素子が電気信号によって励起される期間中の超音波の送信期間のパーセント)などの送信ビームの他の特性を変更することによって実行することもできる。
【0123】
各パルスに対して、超音波照射された領域の反射性を推定するために、ビーム形成プロセスが実行され得る。次に、各パルスに関連付けられた複素IQマップが取得され、Ifull(r)(すなわちI(r))、IEVEN(r)(すなわちI(r))、及びIODD(r)(すなわちI(r))と称される。
【0124】
Iceus(r)と称されるCEUS複素画像は、ビーム形成されたマップのコヒーレント加算から得られる。
【数13】
【0125】
この画像の係数(modulus)は、対数変換され、場合によってはフィルタリングされて保存され、別のデバイスに送信され、及び/又は画面に表示され、又は任意の表示技術(ホログラム、接続されたメガネなど)を使用して表示される。
【0126】
半分の選択したトランスデューサを使用することにより、第2及び第3の送信パルスの強度レベルは、第1のパルスの約半分になる。一方、媒体は一般に線形応答を有することがある。式(1a)のコヒーレント加算は、CEUSマップ内の関連する応答を大幅に打ち消す。他方で、造影剤の非線形応答は、同じ加算を実行するとき、それらの応答を完全には打ち消さない。
【0127】
造影剤の非線形性により、「フル」パルスと「奇数」又は「偶数」パルスとの間に位相遅れが生じる。それらに関連する後方散乱信号は、もはや同相ではなく、これは打ち消しが完全に機能していないことを意味する。すなわち、信号は補償されない。
【0128】
本開示は、この位相遅れを利用してCEUS画像の品質を向上に取り組む。この強化は、特に2つの異なるプロセスの潜在的な組み合わせから生じる。1つは造影剤からの信号を改善し、もう1つは組織及び電子ノイズによって生成される信号レベルを低下させる。
【0129】
上述のプロセスのそれぞれの前に、複素マップI(r)、I(r)、及びI(r)をはじめに計算でき、造影剤をセグメント化できる。
【0130】
図5は、本開示に従って第1のセグメンテーションマップφ1 seg(r)を決定する手順を概略的に示す。造影剤をセグメント化するために、第1の操作は、フルIQデータと奇数及び偶数IQデータの和との間の位相遅れを測定することにある。これは、例として、I(r)とI(r)及びI(r)の和との間のスカラー積の位相を測定することによって達成できる。
【数14】
軟部組織などの線形散乱体は、πに近い位相遅れφを生成するはずである。つまり、Iと(I+I)とはより同相になる。逆に、造影剤は、例えば約-2ラジアンの位相遅れを誘発する可能性がある。この観察に基づいて、特定の位相遅れに関連する造影剤を分離するためにセグメンテーションを行うことができる。
【数15】
例示的な値は、φ1 min=-2.5ラジアン及び/又はφ1 max=-0.5ラジアンを含み得る。ただし、値は場合によって異なり、媒体、造影剤、及びその他のパラメータによっても異なる場合がある。このセグメンテーションは、造影剤20を捕捉できる。図5に示すように、造影剤20は、より明白に示されている、すなわち、第1のセグメンテーションマップφ1 seg(r)においてより良いコントラストを有している。したがって、マップに基づいて画像が生成される場合、画像はより見やすくなるという利点がある。
【0131】
ただし、エッジ(すなわち、媒体の超音波照射領域の周辺領域)及び大きな深さでは、電子ノイズ21も捕捉する可能性がある。実際、このノイズはランダムで予測不可能である。したがって、その一部が選択範囲[φ1 min、φ1 max]に含まれる場合がある。
【0132】
図6は、本開示による第2のセグメンテーションマップφ2 seg(r)を決定する手順を概略的に示す。電子ノイズ21を造影剤から分離するために、IODD(r)とIEVEN(r)との間の位相差を調査できる。これは、IとIとの間のスカラー積を測定することによって行うことができる。
【数16】
φは、結果として、例えば媒体の超音波照射領域中央に関連付けられた点と、造影剤(すなわち、関心のある情報)とについては、0に近くなる可能性がある。実際、各点で受信される強度レベルは奇数パルスと偶数パルスとで同じである。その結果、電子ノイズのみがこれらの2つのパルス間に位相遅れを生成し得る一方、造影剤と組織信号とは両方とも同相であり得る。次に、第2のセグメンテーションを実行できる。
【数17】
例示的な値は、φ2 max=0.5ラジアンを含む。ただし、値は異なってもよい。
【0133】
φ1 seg(r)とφ2 seg(r)とを組み合わせることで、造影剤をよりよくセグメント化できる第3のセグメンテーションマップφ3 seg(r)を形成し得る。
【数18】
【0134】
したがって、物理的特性は、以下のように決定できる。
【数19】
【0135】
考慮される信号において、まだいくらかのノイズが残っている場合、ノイズは造影剤信号よりも散乱しているため、例として空間フィルタを用いて除去できる。
【0136】
1つのオプションでは、IQデータセットのコントラストをさらに向上させることができる。例えば、既に上述したように、造影剤の位相遅れφは、現在の媒体、造影剤及び/又は考慮されるデータに基づいて知ることができ、例えば、約-2ラジアンの値を有し得る。さらに、既に上述したように、CEUS画像はI(r)とI(r)+I(r)とのコヒーレント加算に起因する。そのため、位相差-2では最適なコヒーレント加算が得られない場合がある。これを強化するために、Iceus(r)の構築中に、最適なコヒーレント加算が発生するような追加の位相遅れを導入できる。この位相差は、例えば、セグメンテーションマップφに基づいて適用される。
【数20】
【0137】
造影剤セグメンテーションφ3 seg(r)により、IQデータ内の組織信号を変更することなく、得られる造影剤信号を強調できる。例えば、造影剤の平均的な信号は、およそ3dB、及び最大で10dB向上させることができる。
【0138】
更なるオプションとして、ノイズキャンセリング及び/又は媒体キャンセリングが最適化され得る。ノイズとして検出された信号(例えばφ)については、Iのような位相遅れが挿入され、結果としてIとIとの和が逆位相になることがある。
【数21】
更なる強化では、この処理は、造影剤(1-φ)とみなされないあらゆる信号に対して適用できる。
【数22】
【0139】
例えば、当該キャンセリングは、ノイズレベルを約1.5dB低減させることができる。
【0140】
最後に、決定された物理特性のデータ品質をさらに向上させるように、フィルタリング及び強調の両処理を組み合わせ得る。すなわち、次のようにしてもよい。
【数23】
更なる強化では、以下のようにしてもよい。
【数24】
【0141】
本開示の態様
(第1態様)
媒体(11)の物理的特性を決定する方法であって、
(d)少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連する媒体の超音波信号データを処理して、少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI (r),I (r),I (r)をそれぞれ提供すること、ここで、前記少なくとも3つの放射された超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと各々が第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する、
(e)第1のIQデータセットI (r)と、少なくとも2つの更なるIQデータセットI (r),I (r)の和との間の第1の位相遅れ、及び/又は、前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI (r),I (r)間の第2の位相遅れの関数として、前記物理的特性を決定すること
を含む、方法。
【0142】
(第2態様)
前記物理的特性を決定すること(e)は、さらに、
前記第1のIQデータセットI (r)に、及び/又は、前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI (r),I (r)の和に補償位相遅れを導入することによって、前記第1のIQデータセットI (r)を前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI (r),I (r)の和と同位相に設定することを含む
第1態様に記載の方法。
【0143】
(第3態様)
前記物理的特性を決定すること(e)は、さらに、
πから補償位相遅れを引いた値を導入することによって、前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI (r),I (r)の和に対して逆位相の前記第1のIQデータセットI (r)を設定することを含む
第1又は第2態様に記載の方法。
【0144】
(第4態様)
前記第1のIQデータセットI (r)と前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI (r),I (r)の和との間の前記第1の位相遅れφ (r)は、
(r)の位相とI (r),I (r)の和の位相との差、又は、
(r)とI (r),I (r)の和とのスカラー積の位相、及び/又は
【数1】
によって測定され、及び/又は
補償位相遅れは、前記第1の位相遅れφ (r)の関数として決定される
第1から第3態様のいずれか1つに記載の方法。
【0145】
(第5態様)
前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI (r)とI (r)との間の前記第2の位相遅れφ (r)は、I (r)の位相とI (r)の位相との差、又はI (r)とI (r)とのスカラー積の位相によって、及び/又は
【数2】
によって測定される
第1から第4態様のいずれか1つに記載の方法。
【0146】
(第6態様)
前記物理的特性を決定すること(e)は、さらに、
前記第1の位相遅れの関数としての第1のセグメンテーションマップ、及び/又は前記第2の位相遅れの関数としての第2のセグメンテーションマップを決定することを含み、
前記物理的特性は、前記第1及び/又は前記第2のセグメンテーションマップの関数として決定される
第1から第5態様のいずれか1つに記載の方法。
【0147】
(第7態様)
前記物理的特性は、
第1のセグメンテーションマップと第2のセグメンテーションマップとを組み合わせて生成される第3のセグメンテーションマップの関数として決定される、及び/又は第1のセグメンテーションマップから第2のセグメンテーションマップの成分を除去することによって決定される
第6態様に記載の方法。
【0148】
(第8態様)
前記第1のセグメンテーションマップは、前記媒体の関心領域をセグメント化するように構成され、及び/又は
前記第2のセグメンテーションマップは、前記IQデータセットI (r),I (r),I (r)のノイズを検出及び/又は低減するように構成される
第6及び第7態様のいずれか1つに記載の方法。
【0149】
(第9態様)
前記第1のセグメンテーションマップは、
【数3】
によって決定され、
ここで、φ min 及びφ max は、所定値である、及び/又は
前記第2のセグメンテーションマップは、
【数4】

によって決定され、
ここで、φ max は所定値である、及び/又は
第3のセグメンテーションマップは、
【数5】
によって決定される
第6から第8態様のいずれか1つに記載の方法。
【0150】
(第10態様)
前記物理的特性が、1つ
所定の造影超音波診断法、
前記IQデータセットI (r),I (r),I (r)のコヒーレント加算、
式(1b):
【数6】
式(1c):
【数7】
式(1d):
【数8】
式(1e):
【数9】
式(1f):
【数10】
式(1g):
【数11】
のうちの少なくとも1つに基づいて決定される
第1から第9態様のいずれか1つに記載の方法。
【0151】
(第11態様)
超音波信号データを処理すること(d)の前に、さらに、
(b)超音波(We)の放射シーケンス(ES)を媒体(11)に送信すること、ここで、前記放射シーケンス(ES)は、前記第1の放射パルスと前記少なくとも2つの補助放射パルスとを含む、
(c)前記媒体から超音波(Wr)の応答シーケンス(RS)を受信すること、ここで、前記超音波信号データは前記超音波(Wr)の応答シーケンス(RS)に基づく、
を含み、及び/又は、
前記超音波(We)の放射シーケンス(ES)を送信すること(b)の前に、
(a)前記媒体に造影剤を導入することを含み、
第1のセグメンテーションマップは、前記媒体中の造影剤をセグメント化するように構成される
第1から第10態様のいずれか1つ項に記載の方法。
【0152】
(第12態様)
前記少なくとも2つの補助放射パルスは、前記媒体に対して互いに空間的にオフセットされており、及び/又は
第2パルスと第3パルスとが異なる開口変調で放射され、及び/又は、
第1パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子のセットが、少なくとも2つの補助パルスを放射するためにそれぞれ使用される少なくとも2つのサブセットに分割され、及び/又は
第1のサブセットは、第1の補助パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の奇数番号に対応し、第2のサブセットは、第2の補助パルスを放射するために使用されるトランスデューサ素子の偶数番号に対応する
第1から第11態様のいずれか1つに記載の方法。
【0153】
(第13態様)
媒体(11)の複数の領域の物理的特性を決定するための方法であって、
第1から第12態様のいずれか1つに記載の方法を繰り返し実行することを含み、各繰り返しにおいて、別の領域の超音波信号データが処理される
方法。
【0154】
(第14態様)
第1、第2及び第3のセグメンテーションマップのうちの少なくとも1つは、前記複数の領域の関数として決定され、及び/又は
前記複数の領域の決定された物理的特性に基づいて画像が形成される
第13態様に記載の方法。
【0155】
(第15態様)
データ処理システムによって実行されると、前記データ処理システムに、第1から第14態様のいずれか1つに記載の方法を実行させるコンピュータ可読命令を含む
コンピュータプログラム。
【0156】
(第16態様)
媒体の物理的特性を決定するためのシステム(11)であって、
処理ユニットを備え、前記処理ユニットは、
少なくとも3つの放射された超音波パルスに関連する媒体の超音波信号データを処理して、少なくとも3つの同相及び直交位相(IQ)データセットI (r),I (r),I (r)をそれぞれ提供し、ここで、前記少なくとも3つの放射された超音波パルスは、第1の強度を有する第1の放射パルスと各々が第2の強度を有する少なくとも2つの補助放射パルスとを含み、第2の強度の和は第1の強度に対応する、
第1のIQデータセットI (r)と、少なくとも2つの更なるIQデータセットI (r),I (r)の和との間の第1の位相遅れ、及び/又は、前記少なくとも2つの更なるIQデータセットI (r),I (r)間の第2の位相遅れの関数として、前記物理的特性を決定する
ように構成される、システム。
【0157】
特許請求の範囲を含む本明細書全体を通して、「~を含む(comprising a)」という用語が、特に明記しない限り「少なくとも1つを含む(comprising at least one)」と同義であると理解されるべきである。さらに、特許請求の範囲を含む本明細書に記載されたあらゆる範囲が、特に明記しない限り、その1つ又は複数の最終値を含むものと理解されるべきである。記載されている要素の特定の値が、当業者に知られている許容製造公差又は産業公差内にあると理解されるべきであり、また「実質的に(substantially)」並びに/又は「およそ(approximately)」及び/若しくは「ほぼ(generally)」という用語を使用することにより、そのような許容公差内にあることを意味していると理解されるべきである。
【0158】
本明細書における本開示が特定の実施形態を参照して説明されているが、これらの実施形態が、本開示の原理及び用途を単に例示したものにすぎないことを理解されたい。
【0159】
本明細書及び実施例が例示的なものとしてのみ考慮され、本開示の真の範囲が、以下の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
【0160】
先行技術として特定された特許文献又は他の任意の事項への本明細書における言及は、当該文献若しくは他の事項が公知であること、又はそれが含む情報が特許請求の範囲のいずれかの優先日における共通の一般知識の一部であったことを認めるものと解釈されるべきではない。
【外国語明細書】