(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006802
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】樹脂成形歯車、樹脂成形歯車の芯材、および、樹脂成形歯車の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/06 20060101AFI20230111BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20230111BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
F16H55/06
F16H55/17 Z
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109584
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519329885
【氏名又は名称】株式会社プラリンク
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 祐啓
(74)【代理人】
【識別番号】100201514
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 悦
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 大樹
(72)【発明者】
【氏名】新堀 信義
(72)【発明者】
【氏名】山喜 政彦
【テーマコード(参考)】
3J030
4F206
【Fターム(参考)】
3J030AC10
3J030BA01
3J030BB06
3J030BC01
3J030BC02
3J030BC08
3J030BC10
3J030CA10
4F206AD03
4F206AD05
4F206AD24
4F206AF01
4F206AG13
4F206AG23
4F206AG24
4F206AH12
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF05
4F206JL02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】歯車の周方向および幅方向に素早く均一に溶融樹脂を誘導できる樹脂成形歯車、該樹脂成形歯車の芯材、および、樹脂成形歯車の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の樹脂成形歯車は、芯材2と、芯材2の外周面または内周面に樹脂で成形され、複数の山部および複数の谷部からなる複数の歯35を有する樹脂成形歯部材3から構成される。樹脂成形歯部材3は、芯材2と接合する接合面(芯材2の内周面)上であって、複数の谷部の各々と対向する位置に形成された複数の凸条部31を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、
前記芯材の外周面または内周面に樹脂で成形され、複数の山部および複数の谷部からなる複数の歯を有する樹脂成形歯部材と、からなり、
前記樹脂成形歯部材は、前記芯材と接合する接合面上であって、前記複数の谷部の各々と対向する位置に形成された複数の凸条部を有する、樹脂成形歯車。
【請求項2】
前記樹脂成形歯部材の側面と前記芯材の側面とで形成される樹脂成形歯車の第一の側面に、前記凸条部の少なくとも一つを跨ぐように2つの異なる前記凸条部を連結して形成された架橋部を有する架橋連結部を有する、
請求項1に記載の樹脂成形歯車。
【請求項3】
前記架橋連結部と連結している前記凸条部の高さが、前記架橋連結部と連結していない他の前記凸条部の高さよりも高い、請求項2に記載の樹脂成形歯車。
【請求項4】
前記架橋連結部にゲート痕が存在する、請求項2から3のいずれか一項に記載の樹脂成形歯車。
【請求項5】
前記ゲート痕は、前記架橋連結部の前記樹脂成形歯部材の周方向に延伸する架橋部に存在する、請求項4に記載の樹脂成形歯車。
【請求項6】
隣接する2つの前記架橋連結部の間に存在する前記凸条部の数と、1つの前記架橋連結部が跨ぐ前記凸条部の数が同一である、請求項2から5のいずれか一項に記載の樹脂成形歯車。
【請求項7】
前記第一の側面に対向する、前記樹脂成形歯部材の側面と前記芯材の側面とで形成される樹脂成形歯車の第二の側面に、前記凸条部の少なくとも一つを跨ぐように2つの異なる前記凸条部を連結して形成された架橋部を有する架橋連結部が配置され、
前記第二の側面に配置された前記架橋連結部は、前記第一の側面に配置された隣接する2つの前記架橋連結部の間に存在する前記凸条部を跨ぐように2つの異なる前記凸条部を連結しており、前記第一の側面に配置された隣接する2つの前記架橋連結部と前記凸条部を介して接続している、請求項2から6のいずれか一項に記載の樹脂成形歯車。
【請求項8】
前記樹脂成形歯車側面における前記谷部の谷底部の長さが、前記樹脂形成歯車側面における前記凸条部の長さよりも小さい、請求項1から7のいずれか一項に記載の樹脂成形歯車。
【請求項9】
前記樹脂成形歯車側面における前記架橋連結部と前記凸条部との接続部における長さと、前記樹脂形成歯車側面における前記凸条部の長さとが同じである、請求項2から8のいずれか一項に記載の樹脂成形歯車。
【請求項10】
外周面または内周面に溶融樹脂を案内して複数の山部および複数の谷部からなる複数の歯を有する樹脂成形歯部材を形成し、前記樹脂成形歯部材と一体となって樹脂成形歯車を構成する芯材であって、
前記樹脂成形歯部材が形成される接合面上であって、前記複数の谷部の各々が形成される位置と対向する位置に形成された複数の凹条部を有する、芯材。
【請求項11】
前記樹脂成形歯部材の側面と一体となって前記樹脂成形歯車の側面を形成する面に、前記凹条部を跨ぐように2つの異なる前記凹条部を連結して形成された架橋部を有する架橋溝部を有する、請求項10に記載の芯材。
【請求項12】
芯材を金型内に配置する工程と、
溶融樹脂を前記金型内に充填して前記芯材の外周面または内周面に複数の山部および複数の谷部からなる複数の歯を有する樹脂成形歯部材を形成して前記芯材と前記樹脂成形歯部材とが一体となった樹脂成形歯車を形成する工程と、を有し、
前記芯材は、前記樹脂成形歯部材が形成される面上であって、前記複数の谷部の各々が形成される位置と対向する位置に形成された複数の凹条部を有し、前記凹条部が前記溶融樹脂を前記樹脂成形歯車の幅方向に案内する、樹脂成形歯車の製造方法。
【請求項13】
前記芯材は、前記樹脂成形歯部材の側面と一体となって前記樹脂成形歯車の側面を形成する面に、前記凹条部を跨ぐように2つの異なる前記凹条部を連結して形成された架橋部を有する架橋溝部を有し、前記架橋溝部のゲートから注入された前記溶融樹脂を前記樹脂成形歯車の周方向に案内し、前記凹条部が前記架橋溝部から案内された前記溶融樹脂を前記樹脂成形歯車の幅方向に案内する、請求項12に記載の樹脂成形歯車の製造方法。
【請求項14】
前記架橋溝部のゲートから注入された前記溶融樹脂が、前記谷部の谷底部に対応する前記金型に行き当たり、前記谷部の谷底部を分岐点として前記谷部の両側2つの前記山部を形成するように前記溶融樹脂が2つの方向に分岐して案内される、請求項13に記載の樹脂成形歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、芯材の外周面または内周面に樹脂で成形した樹脂成形歯車、該樹脂成形歯車の芯材、および樹脂成形歯車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芯材を有し、芯材と異なる合成樹脂で歯部を形成した樹脂成形歯車の技術が知られている。例えば、特許文献1には、芯材である第1の部材と、第1の部材とは異なる合成樹脂である第2部材とからなる複合歯車が紹介されている。この文献では、第1の部材が内側円筒部と外側円筒部を有し、第2の部材が歯部を有し、外側円筒部に貫通穴を設け、貫通穴と歯部の間に厚肉部を複数の歯をまたがるように設け、周方向に溶融樹脂を流動させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、樹脂成形歯車においては、歯の強度および耐久性を高めるため、樹脂繊維の配向が歯車の歯形に沿って周方向に揃い、かつ、歯先または歯底(谷底部)にウェルドが配置されるように形成することが好ましい。つまり、歯車の幅方向に均等に溶融樹脂を流し込むことが望ましい。
【0005】
そこで、本開示の目的は、歯車の幅方向に素早く均一に溶融樹脂を誘導でき、歯車の周方向に素早く均一に溶融樹脂を誘導できる樹脂成形歯車、該樹脂成形歯車の芯材、および、樹脂成形歯車の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の樹脂成形歯車は、芯材と、芯材の外周面または内周面に樹脂で成形され、複数の山部および複数の谷部からなる複数の歯を有する樹脂成形歯部材と、からなり、樹脂成形歯部材は、芯材と接合する接合面上であって、複数の谷部の各々と対向する位置に形成された複数の凸条部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、樹脂成形歯部材が凸条部を有するため、樹脂配向を揃えることができ、樹脂成形歯車の強度及び精度を高めることができる。
【0008】
特に、凸条部を複数の谷部の各々と対向する位置に設けたため、凹条部から流出した溶融樹脂が山部で合流する。このため、樹脂成形歯車の歯先または歯底(谷底部)にウェルドが形成される。このため、歯の強度が格段に高められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図1の樹脂成形歯車を樹脂成形歯部材および芯材に分解した分解斜視図である。
【
図3】
図2の樹脂成形歯部材の要部Eの拡大図である。
【
図4】
図2の芯材の、(a)平面図、(b)底面図である。
【
図5】
図4の芯材の(a)AA線断面図、(b)BB線断面図、(c)CC線断面図である。
【
図6】
図1の樹脂成形歯車における溶融樹脂の流動方向を示す模式図である。
【
図7】
図1の樹脂成形歯車における繊維配向を示す模式図である。
【
図8】実施例1の変形例1による樹脂成形歯車を樹脂成形歯部材および芯材に分解した分解斜視図である。
【
図9】
図8の樹脂成形歯部材の要部Fの拡大図である。
【
図10】
図8の芯材の、(a)平面図、(b)底面図である。
【
図11】
図10の芯材の(a)AA線断面図、(b)BB線断面図、(c)CC線断面図である。
【
図12】実施例1の変形例1による樹脂成形歯車における、(a)溶融樹脂の流動方向、(b)繊維配向を示す模式図である。
【
図13】実施例1の変形例2による樹脂成形歯車を樹脂成形歯部材および芯材に分解した分解斜視図である。
【
図14】
図13の芯材の、(a)平面図、(b)底面図である。
【
図15】
図14の芯材の(a)AA線断面図、(b)BB線断面図、(c)CC線断面図である。
【
図16】実施例1の変形例2による樹脂成形歯車における、(a)溶融樹脂の流動方向、(b)繊維配向を示す模式図である。
【
図18】
図17の樹脂成形歯車を樹脂成形歯部材および芯材に分解した分解斜視図である。
【
図19】
図18の芯材の、(a)平面図、(b)底面図である。
【
図20】
図19の芯材の(a)AA線断面図、(b)BB線断面図、(c)CC線断面図である。
【
図21】実施例2の変形例1による樹脂成形歯車を樹脂成形歯部材および芯材に分解した分解斜視図である。
【
図22】
図21の芯材の、(a)平面図、(b)底面図である。
【
図23】
図22の芯材の(a)AA線断面図、(b)BB線断面図、(c)CC線断面図である。
【
図24】実施例2の変形例2による樹脂成形歯車を樹脂成形歯部材および芯材に分解した分解斜視図である。
【
図25】
図24の芯材の、(a)平面図、(b)底面図である。
【
図26】
図25の芯材の(a)AA線断面図、(b)BB線断面図、(c)CC線断面図である。
【
図27】内歯車の樹脂成形歯部材の凸条部(芯材の凹条部)の形状のバリエーションを示す(a)平面模式図、(b)底面模式図である。ハッチ部分は、樹脂成形歯部材を示す。
【
図28】内歯車の樹脂成形歯部材の凸条部(芯材の凹条部)の形状のバリエーションを示す平面模式図である。ハッチ部分は、樹脂成形歯部材を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を樹脂成形歯車に具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1~13は本開示の実施例1を示し、
図14~26は本開示の実施例2を示す。なお、各実施例において、同一又は類似する構成要素については、図面に同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
また、以下の説明では、芯材2の一の側面である表面2aと樹脂成形歯部材3の一の側面である表面3aとで形成された樹脂成形歯車1の側面を樹脂成形歯車1の第一側面1aと、第一側面1aに対向する、芯材2の他の側面である裏面2bと樹脂成形歯部材3の他の側面である裏面3bとで形成される樹脂成形歯車の側面を第二側面1bとして説明する。
【実施例0012】
図1に示すように、実施例1の樹脂成形歯車1は内歯車であって、ノズル51からゲート52を介して溶融樹脂を注入することによって成形される。ゲート52は、樹脂成形歯車1の外周縁に等間隔に配設される。
【0013】
図2に示すように、樹脂成形歯車1は、芯材2と、芯材2の内周面に樹脂で成形され、複数の山部35aおよび複数の谷部35bからなる複数の歯35を有する樹脂成形歯部材3から構成され、樹脂成形歯部材3は、芯材2と接合する接合面上であって、複数の谷部35bの各々と対向する位置に形成された複数の凸条部31を有する。このとき、樹脂成形歯部材3の凸条部31は、谷部35bの各々と平行するように幅方向に形成されていることが好ましい。
【0014】
本開示では、凸条部31は、断面略V字型に設けられているが、断面略U字型、スリット状(
図27参照)、断面逆台形状(
図28参照)等に設けることも可能である。特に、断面略V字型に設けた場合には、凹条部21の開口部に向けて強く溶融樹脂を押し出し、溶融樹脂を迅速に歯先35cに向かわせることが可能となる。
【0015】
芯材2の材質としては、金属や樹脂を採用することができ、例えば、アルミ合金、マグネシウム合金、鉄合金などの金属、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂を採用できる。また、樹脂成形歯部材3の材質としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルスルホン(PES)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラメチレンアジパミド(PA46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(PA66)、ポリノナメチレンテレフタラミド(PA9T)、ポリデカメチレンテレフタラミド(PA10T)、ポリドデカメチレンテレフタラミド(PA12T)などの合成樹脂材料を採用できる。
【0016】
芯材2と樹脂成形歯部材3の材質の選択および組み合わせとしては、樹脂成形歯部材3が芯材2にくっつきやすく、密着性の高いものが好ましい。この場合、特に、樹脂成形歯部材3の材質として、エポキシ樹脂等を採用することが好ましい。なお、樹脂成形歯部材3は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などで補強されていることが好ましい。また、樹脂成形歯部材3は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、シリコン樹脂、二硫化モリブデン、グラファイトなどの潤滑剤を配合し、摩擦特性を付与することも可能である。
【0017】
樹脂成形歯車1においては、樹脂成形歯部材3の表面3aと芯材2の表面2aとで形成される樹脂成形歯車1の第一側面1aに、凸条部31の少なくとも一つを跨ぐように2つの異なる凸条部31を連結して形成された架橋部33を有する架橋連結部32を有するように構成することができる。
【0018】
架橋連結部32の架橋部33は、凸条部31の突出方向に向けて張り出すように形成されている。また、架橋部33の形状は、特に限定されないが、少なくとも一つの凸条部31を跨いで異なる凸条部31を架橋している構造であればよく、例えば、コの字型、U字型、扇型、アーチ型等を好ましく選択できる。また、架橋部33をコの字型、U字型とした場合には、架橋連結部32と凸条部31との接続部を互いに略平行となるように設けることも可能である。該接続部を互いに略平行となるように設けた場合には、ゲート52から注入された溶融樹脂をよりスムーズに凸条部31に流入させることが可能となる。
【0019】
図2に示すように、樹脂成形歯部材3は、ノズル51からゲート52を介して溶融樹脂を注入した際のゲート痕34を有する。ゲート痕34は、架橋連結部32に設けることができる。また、ゲート痕34は、例えば、架橋連結部32の樹脂成形歯部材3の周方向に延伸する架橋部33に存在するように設けることができる。このとき、ゲート痕34は、架橋部33上であれば、どの位置に設けても良いが、特に、架橋部33の中央部に設けることがより好ましい。ゲート痕34を架橋部33の中央部に設けることにより、架橋部33に沿って時計回りおよび反時計回りに、均一に溶融樹脂を案内できるからである。
【0020】
ここで、樹脂成形歯車1が大きい場合には、架橋部33に限られず、各々の歯35や凸条部31にゲート痕34を有するように形成してもよい。一方、樹脂成形歯車1が小さい場合には、架橋部33にゲート痕34を有するように形成することが好ましい。これは、歯車が小さい場合には、各々の凸条部31にゲート52を配置すると、製造時の手間とコストが増加するからである。
【0021】
樹脂成形歯車1の樹脂成形歯部材3は、隣接する2つの架橋連結部32の間に存在する凸条部31の数と、1つの架橋連結部32が跨ぐ凸条部31の数が同一となるように設けることが好ましい。これらの凸条部31の数を同一に設けることにより、各々の凸条部31に均一に溶融樹脂を流入させることができるからである。
【0022】
歯35の谷部35bには、谷底部35dが形成されている。ここで、樹脂成形歯車1の第一側面1aおよび第二側面1bにおける谷部35bの谷底部35dの長さLaが、樹脂成形歯車1の第一側面1aおよび第二側面1bにおける凸条部31の長さLbよりも小さくなるように設けることが好ましい。溶融樹脂を分岐させて山部35aに向かわせるように、溶融樹脂の流れを最適化できるからである。
【0023】
樹脂成形歯車1の第一側面1aおよび第二側面1bにおける架橋連結部32と凸条部31との接続部における長さLcと、樹脂成形歯車1の第一側面1aおよび第二側面1bにおける凸条部31の長さLbとが同じであるように設けることが好ましい。架橋連結部32から凸条部31に向けて、溶融樹脂をスムーズに流すことができるからである。
【0024】
芯材2は、芯材2の内周面に溶融樹脂を案内して複数の山部35aおよび複数の谷部35bからなる複数の歯35を有する樹脂成形歯部材3を形成し、樹脂成形歯部材3と一体となって樹脂成形歯車1を構成する芯材2であって、樹脂成形歯部材3が形成される接合面上であって、複数の谷部35bの各々が形成される位置と対向する位置に形成された複数の凹条部21を有する。凹条部21は、複数の谷部35bと平行するように形成されていることが好ましい。
【0025】
本開示では、凹条部21は、断面略V字型に設けられているが、断面略U字型、スリット状(
図27参照)等に設けることも可能である。特に、断面略V字型に設けた場合には、凹条部21の開口部に向けて強く溶融樹脂を押し出し、溶融樹脂を迅速に歯先35cに向かわせることが可能となる。一方、凹条部21を断面逆台形形状に設けることにより、芯材2と樹脂成形歯部材3との密着強度を向上させる方法を選択しても良い(
図28参照)。
【0026】
また、芯材2は、樹脂成形歯部材3の表面3aと一体となって樹脂成形歯車1の第一側面1aを形成する表面2aに、凹条部21を跨ぐように2つの異なる凹条部21を連結して形成された架橋部23を有する架橋溝部22を有することが好ましい。
【0027】
架橋溝部22は、凹条部21の凹み方向に向けて張り出すように形成されている。また、架橋溝部22の架橋部23の形状は、特に限定されないが、少なくとも一つの凸条部31を跨いで異なる凹条部21を架橋している構造であればよく、例えば、コの字型、U字型、扇型、アーチ型等を好ましく選択できる。また、架橋部23をコの字型、U字型とした場合には、架橋溝部22と凹条部21との接続部をAA線に沿って、放射状に設けることも可能である。AA線に沿って設けた場合には、ゲート52から注入された溶融樹脂をよりスムーズに凹条部21に流入させることが可能となる。
【0028】
上記のように構成された樹脂成形歯車1の製造方法を
図6,7に従って説明する。
図6の矢印は、溶融樹脂が案内される向きを示し、
図7の矢印は、溶融樹脂が
図6のように案内されたことによって形成される樹脂繊維の配向を示す。
【0029】
本開示の樹脂成形歯車1の製造方法は、芯材2を金型内に配置する工程と、溶融樹脂を金型内に充填して芯材2の内周面に複数の山部35aおよび複数の谷部35bからなる複数の歯35を有する樹脂成形歯部材3を形成して芯材2と樹脂成形歯部材3とが一体となった樹脂成形歯車1を形成する工程を有する。芯材2は、樹脂成形歯部材3が形成される面上であって、複数の谷部35bの各々が形成される位置と対向する位置に形成された複数の凹条部21を有しており、凹条部21が溶融樹脂を樹脂成形歯車の幅方向に案内する。このとき、凹条部21は、複数の谷部と平行に形成されていることが好ましい。
【0030】
また、芯材2は、樹脂成形歯部材3の表面3aと一体となって樹脂成形歯車1の第一側面1aを形成する面に、凹条部を跨ぐように2つの異なる凹条部21を連結して形成された架橋部23を有する架橋溝部22を有することが好ましい。この場合には、架橋溝部22のゲート52から注入された溶融樹脂を樹脂成形歯車1の周方向に案内し、凹条部21が架橋溝部22から案内された溶融樹脂を樹脂成形歯車1の幅方向に案内する。
【0031】
ここで、架橋溝部22のゲート52から注入された溶融樹脂が、谷部35bの谷底部35dに対応する金型に行き当たり、谷部35bの谷底部35dを分岐点として谷部35bの両側2つの山部35aを形成するように溶融樹脂が2つの方向に分岐して案内される。
【0032】
このように、ゲート52から第一側面1aの架橋部23に注入された溶融樹脂は、架橋溝部22を周方向に流動し、凹条部21に流入する(
図6参照)。そして、凹条部21に流入した溶融樹脂は、凹条部21に沿って幅方向に案内される。
【0033】
そして、溶融樹脂は、凹条部21から周方向にも流出し、芯材2の内周面2dを流動する。そして、凹条部21と対向する谷部35bの谷底部35dに対応する金型に行き当たり、谷底部35dを分岐点として谷部35bの両側2つの山部35aを形成するように、2つの方向に分岐して案内される。
【0034】
分岐して案内された溶融樹脂は、隣接する凹条部21から流出した溶融樹脂と谷部35bで合流し、谷底部35dにウェルド53が形成される。また、
図7に示すように、凹条部21の樹脂導入凹部21bを介して幅方向に樹脂を流動させ、続いて周方向に平行して流動させることで、歯35の形状に沿って繊維が配向される。このようにして、芯材2と樹脂成形歯部材3とが一体となった樹脂成形歯車1が形成される。
【0035】
最後に、溶融樹脂31が硬化すると、
図7に示すように、溶融樹脂の会合部である谷底部35dにウェルド53が形成され、溶融樹脂の樹脂繊維は溶融樹脂の流動経路に沿って、矢印の向きに配向される。
【0036】
以上の構成の実施例1の樹脂成形歯車1によれば、凸条部31を設けたため、樹脂成形歯車1の強度と精度を高めることができる。特に、芯材2に設けた樹脂導入凹部21bにより、まず、幅方向に溶融樹脂を流動させ、続いて、周方向に並走するように流動させ、歯35の形状に沿って繊維を配向をさせることができる。また、歯車の各谷部35bと対向するように凸部を設けたため、回転方向への抵抗力及び芯材との密着強度を向上させることが可能となる。
【0037】
特に、谷底部35dと対向する位置に凸条部31(凹条部21)を設けたため、凹条部21から流出した溶融樹脂が谷部35bの谷底部35dに対応する金型に行き当たり、谷部の谷底部を分岐点として谷部の両側2つの山部を形成するように溶融樹脂が2つの方向に分岐して案内される。さらに、架橋連結部32を樹脂成形歯車1に均等に配置することにより、架橋連結部32の中央部と対向する位置、つまり、架橋連結部32が跨ぐ凸条部31の数が偶数であれば歯先35c、架橋連結部32が跨ぐ凸条部31の数が奇数であれば谷底部35dにウェルド53を設けることができる。
【0038】
また、樹脂成形歯部材3に架橋連結部32を設け、芯材2に架橋溝部22を設け、架橋部33,23にゲート52を配置することとしたため、各凸条部31、各凹条部21にゲート52を配置する場合に比べて、ゲート数を削減し、コストを削減できるという効果も有する。
【0039】
図8~12に示す実施例1の変形例1の樹脂成形歯車1では、樹脂成形歯部材3において、架橋連結部32と連結している凸条部31’の高さHaが、架橋連結部32と連結していない他の凸条部31の高さHbよりも高く(Ha>Hb)設けられている。また、芯材2において、架橋溝部22と連結している凹条部21’の深さDaは、架橋溝部22と連結していない凹条部21の深さDbよりも深く(Da>Db)設けられている。また、凸条部31’の高さHaは、架橋連結部32の張り出す長さLdと一致している。このため、架橋連結部32と凸条部31’の接続範囲が実施例1と比較して拡大される。言い換えると、架橋部22と凹条部21’の接続範囲が実施例1と比較して拡大される。
【0040】
また、樹脂成形歯部材3の裏面3bにおいて、凸条部31の外周部を面取りして形成した面取部31aが設けられている。同様に、
図15(a)に示すように、芯材2の裏面2bにおいて、凹条部21が緩やかに浅くなる曲面部21aが形成されている。面取部31aおよび曲面部21aを設けたことにより、凹条部21’に沿って幅方向に誘導された溶融樹脂を、凹条部21’の開口部に向かわせることができる。
【0041】
以上の構成の実施例1の変形例1の樹脂成形歯車1によれば、架橋連結部32と連結している凸条部31’、架橋溝部22と連結している凹条部21’によって、より多量の溶融樹脂を、樹脂成形歯車1の幅方向に素早く流動させることができ、樹脂成形歯車1の生産効率を高めることができる。
【0042】
図13~16に示す変形例2の樹脂成形歯車1では、第一側面1aに対向する、樹脂成形歯部材3の裏面3bと芯材2の裏面2bとで形成される樹脂成形歯車1の第二側面1bに、凸条部31の少なくとも一つを跨ぐように2つの異なる凸条部31を連結して形成された架橋部33’を有する架橋連結部32’が配置され、第二側面1bに配置された架橋連結部32’は、第一側面1aに配置された隣接する2つの架橋連結部32の間に存在する凸条部31を跨ぐように2つの異なる凸条部31を連結しており、第一側面1aに配置された隣接する2つの架橋連結部32と凸条部31を介して接続している。
【0043】
架橋連結部32’も、架橋連結部32と同じく、凸条部31の突出方向に向けて張り出すように形成されている。
【0044】
ここで、
図13~16に示すように、実施例1の変形例1と同じように、架橋連結部32と連結している凸条部31’の高さHaを、架橋連結部32と連結していない他の凸条部31の高さHbよりも高く(Ha>Hb)設けることができる。このとき、架橋溝部22と連結している凹条部21’の深さDaは、架橋溝部22と連結していない凹条部21の深さDbよりも深くなる(Da>Db)。
【0045】
あるいは、本開示では図示しないが、実施例1と同じように、架橋連結部32と連結している凸条部31’の高さHaを、架橋連結部32と連結していない他の凸条部31の高さHbと同じ高さ(Ha=Hb)に設けることができる。このとき、架橋溝部22と連結している凹条部21’の深さDaは、架橋溝部22と連結していない凹条部21の深さDbと同じ深さとなる(Da=Db)。
【0046】
以上の構成の変形例2の樹脂成形歯車1によれば、樹脂成形歯部材3に架橋連結部32を設け、芯材2に架橋溝部22を設けたため、第二側面1bに流動した溶融樹脂が、さらに、架橋連結部32’、架橋溝部22’を介して凸条部31、凹条部21に流入するため、第一側面1a側の凸条部31、凹条部21よりも流入タイミングが遅延する第二側面1b側の凸条部31、凹条部21にも迅速に溶融樹脂を供給し、より均質な樹脂成形歯車1を形成できる。また、架橋連結部32’は、架橋連結部32と互い違いに形成されるため、樹脂成形歯部材3の芯材2に対するアンカーとして機能し、樹脂成形歯部材3が芯材2から脱落することを防止できる。
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各部の形状や構成を適宜に変更して実施することも可能である。例えば、二色成形のハスバ歯車の内歯車、外歯車に採用することも可能である。
また、本開示では、架橋連結部32が跨ぐ凸条部の数が3つ(奇数)であるため、ウェルド53は谷底部35dに形成され、谷底部35dの強度が高められている。一方、架橋連結部32が跨ぐ凸条部31の数が2つ、4つといった偶数の場合には、ウェルド53は歯先部35cに形成され、谷底部35dの強度が格段に高められることとなる。