(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068057
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】自動車フード
(51)【国際特許分類】
B62D 25/10 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
B62D25/10 D
B62D25/10 E
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043768
(22)【出願日】2023-03-20
(62)【分割の表示】P 2020565722の分割
【原出願日】2019-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2019002993
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亨
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】河内 毅
(72)【発明者】
【氏名】古賀 敦雄
(72)【発明者】
【氏名】大石 拓哉
(57)【要約】
【課題】自動車フードにおいて軽量化を達成しつつ、十分な張り剛性および耐デント性を確保する。
【解決手段】自動車フード1は、パネル2と、補強部材3と、パネル2と補強部材3とを接合している接合部4とを有する。補強部材3は、六角形の環状の複数のユニット7が最密に配置された構造を含む。ユニット7は、床11と、縦壁12と、天板13と、を有する。床11はパネル2に隣接している。天板13とパネル2とは離隔している。縦壁12は、床11と天板13の間に配置されている。ユニット7の六角形の環状の第1稜線31が縦壁12と床11の間に位置している。第1稜線31の1辺の長さL1は40mm以上75mm以下である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルと、
補強部材と、
前記パネルと前記補強部材とを接合している接合部と、を備え、
前記補強部材は、六角形の環状の複数のユニットが最密に配置された構造を含み、
前記ユニットは、床と、縦壁と、天板と、を有し、
前記床は、前記パネルに隣接し、
前記天板と前記パネルとは離隔しており、
前記縦壁は、前記床と前記天板の間に配置され、
前記ユニットの六角形の環状の稜線が前記縦壁と前記床の間にあり、
前記床は、前記環状のユニットの中央を中心とする環状の端部を有し、
前記六角形の環状の前記稜線の一辺の長さは40mm以上75mm以下である、
自動車フード。
【請求項2】
前記稜線は、前記縦壁における前記床側の端部の稜線である、請求項1に記載の自動車フード。
【請求項3】
前記六角形の環状のユニットの6辺のうち、前記接合部と接している前記辺は、前記辺の延びる方向に関して、前記辺の20%以上の範囲に亘って前記接合部と接している、請求項1または請求項2に記載の自動車フード。
【請求項4】
前記パネルは、鋼板であり、
前記パネルの板厚が0.35mm~0.60mmである、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の自動車フード。
【請求項5】
前記パネルは、アルミ合金板であり、
前記パネルの板厚が0.50mm~1.00mmである、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の自動車フード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車フードに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車フードが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1には、車両のフードパネル構造が開示されている。このフードパネル構造は、歩行者がフードパネルに衝突したときに歩行者に与える傷害値を低減することを主眼としている。
【0004】
特許文献2には、自動車用外装品としての自動車用フードが開示されている。この自動車用フードは、歩行者が自動車用フードに接触したときに、自動車の内方へ少ない量変形するだけで接触のエネルギーを吸収することを主眼としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-193863号公報
【特許文献2】特開2017-1553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車フードは、更なる軽量化、張り剛性の向上、および、耐デント性の向上を要求されている。しかしながら、軽量化のために鋼板製の自動車フードのパネルを0.6mmより薄くすると、張り剛性と耐デント性の双方が無視できないほどに低下する。
【0007】
特許文献1,2の何れにおいても、軽量化を達成しつつ十分な張り剛性と耐デント性の双方を確保する観点での課題および構成は、何ら開示されていない。
【0008】
本開示の目的の一つは、自動車フードにおいて軽量化を達成しつつ、パネルの十分な張り剛性および耐デント性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、下記の自動車フードを要旨とする。
【0010】
(1)パネルと、
補強部材と、
前記パネルと前記補強部材とを接合している接合部と、を備え、
前記補強部材は、六角形の環状の複数のユニットが最密に配置された構造を含み、
前記ユニットは、床と、縦壁と、天板と、を有し、
前記床は、前記パネルに隣接し、
前記天板と前記パネルとは離隔しており、
前記縦壁は、前記床と前記天板の間に配置され、
前記ユニットの六角形の環状の稜線が前記縦壁と前記床の間にあり、
前記床は、前記環状のユニットの中央を中心とする環状の端部を有し、
前記六角形の環状の前記稜線の一辺の長さは40mm以上75mm以下である、
自動車フード。
【0011】
(2)前記稜線は、前記縦壁における前記床側の端部の稜線である前記(1)に記載の自動車フード。
【0012】
(3)前記六角形の環状のユニットの6辺のうち、前記接合部と接している前記辺は、前記辺の延びる方向に関して、前記辺の20%以上の範囲に亘って前記接合部と接している前記(1)または(2)に記載の自動車フード。
【0013】
(4)前記パネルは、鋼板であり、前記パネルの板厚が0.35mm~0.60mmである前記(1)~(3)の何れか1項に記載の自動車フード。
【0014】
(5)前記パネルは、アルミ合金板であり、
前記パネルの板厚が0.50mm~1.00mmである、前記(1)~(3)の何れか1項に記載の自動車フード。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、自動車フードにおいて軽量化を達成しつつ、十分な張り剛性および耐デント性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る自動車フードの模式的な分解斜視図である。
【
図2】
図2は、自動車フードの補強部材の平面図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線に沿う模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、
図2のIV-IV線に沿う断面図であり、断面の背後に現れる部分の図示を省略している。
【
図6】
図6は、自動車フードの一つのユニットの周辺を拡大した平面図である。
【
図7】
図7は、自動車フードの一つのユニットの周辺を拡大した斜視図である。
【
図8】
図8は、自動車フードにおける接合部の配置の一例を説明するための図である。
【
図9】
図9は、本開示の第1変形例の主要部を示す概念的な平面図であり、接合部が設けられる箇所を示している。
【
図10】
図10は、本開示の第2変形例の主要部を示す概念的な平面図であり、接合部が設けられる箇所を示している。
【
図11】
図11は、本開示の第3変形例の主要部を示す概念的な平面図であり、接合部が設けられる箇所を示している。
【
図12】
図12は、本開示の第4変形例の主要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、まず、本開示を想到するに至った経緯を説明し、次に、実施形態を詳細に説明する。
【0018】
[本開示を想到するに至った経緯]
本明細書では、張り剛性は、比較的ゆるやかな曲面を持つとともに板厚に対して表面積が非常に大きなプレス成形品、例えば、自動車フードの外側のパネルに、外部から力が作用した場合の、当該パネルの剛性をいう。張り剛性は、パネルを手で押したときの、弾力的な抵抗感やたわみ変形の感覚に対応する。この特性は通常、荷重をかけた際のたわみ量で表され、一定の荷重をかけた際のたわみ量が小さいほど、張り剛性が高い。
【0019】
本明細書では、耐デント性は、何らかの原因でパネルに局所的な荷重が加わった場合、この荷重を除去した後におけるくぼみ(デント)の残留のし難さをいう。実際の自動車のボディでは、ドアなどの外側パネルを指や手のひらで強く押した場合、あるいは走行中に飛び石が当たった場合などに発生する。デントは、パネルにおいて荷重が付加された箇所が塑性変形することで発生する。したがって、パネルへの負荷時におけるパネルのひずみが一定の大きさに達すると、除荷後にもひずみが残留し、デントが発生する。パネルに一定の残留ひずみを発生させる荷重の最小値をデント荷重と言い、デント荷重が大きい方が耐デント性に優れる。
【0020】
自動車フードにおいては、パネルの板厚を薄くすればするほど、張り剛性と耐デント性の双方が低下する。そして、従来、自動車フードに関して、軽量化を達成しつつ張り剛性と耐デント性の双方を十分に確保するという観点を主眼とした改良が行われているとはいえない。
【0021】
軽量化、張り剛性、および、耐デント性について、より具体的に説明する。まず、張り剛性の定義は、前述した通りである。すなわち、張り剛性とはパネルのたわみにくさである。例えば、自動車フードのパネルを手で押したとき、張り剛性が高いとパネルがたわみにくい。また、耐デント性の定義は前述した通りである。すなわち、耐デント性とは凹み疵のつきにくさである。例えば、小石がパネルに当たったとき、耐デント性が低いとパネルに容易に凹み疵がつく。
【0022】
近年、自動車の軽量化のため、自動車を構成する部材の高強度化が進んでいる。一般に、部材の強度(引張強さ)を高めれば、部材の薄肉化ができる。その結果、部材を軽量化できると考えられている。しかし、自動車のパネル等の外装材には、このような、高強度化による軽量化が単純に成り立つわけではない。なぜなら、自動車の外装材に要求される張り剛性と耐デント性は、外装材の強度だけで決まるわけではないからである。
【0023】
上述した、自動車フードの外側のパネルにおける張り剛性が反映される、たわみの発生は、主にパネルの弾性率と板厚に依存する。そして、鋼板において、低強度材も高強度材もヤング率の値に差が無い。故に、単に低強度材を高強度材に置き換えても張り剛性は改善しない。一方で、低強度材を高強度材に置き換えると、塑性変形に対する耐性の一種である耐デント性は、向上する。しかしながら、耐デント性に対する鋼材強度の影響は、耐デント性に対するパネルの板厚の影響と比べて格段に小さい。よって、単に低強度材を高強度材に置き換えても、耐デント性の向上は、さほど期待できない。
【0024】
また、パネルの張り剛性と耐デント性について、パネルの板厚との関係をさらに述べると、パネルを薄くすると、前述したように、張り剛性と耐デント性の双方が低下する。故に、張り剛性と耐デント性を確保しつつ軽量化するには限界がある。その限界とされるパネルの厚さは鋼板製の場合で0.65mm程度である。しかし、軽量化のために自動車のパネルが0.65mmより薄くなることが望まれている。
【0025】
しかし、パネルの板厚を0.65mmよりも薄くすることは、現在のところなされていない。なぜなら、パネルの板厚を薄くするほど、ワックス掛け等のために手でパネルに触れた際のパネルのたわみ量が大きくなるからである。換言すると、自動車に高級感を感じられなくなるためである。一方で、このようなたわみを抑制したり、衝突時に歩行者に対する傷害を軽減するために、パネルのうち車両内面側に補強部材を取り付けることが、これまでなされている。
【0026】
補強部材を用いてパネルの張り剛性を向上するためには、補強部材の剛性を高くすることが好ましい。しかしながら、補強部材の剛性を高くするために補強部材の板厚を大きくすると、補強部材が重くなり、自動車フードの軽量化にとって好ましくない。また、耐デント性は補強部材の剛性を高めても向上するとは限らない。このような課題があるため、単に補強部材を用いても、自動車フードを軽量化しつつ、張り剛性および耐デント性の双方を確保することは、困難である。
【0027】
本願発明者は、鋭意研究の結果、上記の問題点に着目するに至り、更なる鋭意研究を行った。そして、自動車フードの補強部材として、強度と重量のバランスを考慮してハニカム構造を採用するという着想を得た。しかしながら、単にハニカム構造を採用することのみでは、高い張り剛性と高い耐デント性の双方を確保するのに不十分である。なぜならば、ハニカム構造を構成する六角形の環状のユニットにおける一辺の長さが短いほど、パネルの支持スパンをより短くできるため、張り剛性の向上には好ましい。一方、上記一辺の長さが短か過ぎると、パネルの弾性的なたわみの許容値が小さくなるため、耐デント性が低下する。さらに、上記一辺の長さが短いほど、補強部材の質量密度が高くなり、補強部材が重くなる。本願発明者は、補強部材をハニカム構造で形成することを想到した後も、鋭意研究を続けることで初めて、上述の知見を得るに至った。そして、この知見を基に、軽量化、張り剛性の確保、および、耐デント性の確保の全てを満たす構成を想到するに至った。すなわち、以下に一例が示される本開示を想到した。
【0028】
[実施形態の説明]
以下、本開示の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1は、本開示の一実施形態に係る自動車フード1の模式的な分解斜視図である。
図2は、自動車フード1の補強部材3の平面図である。
図3は、
図2のIII-III線に沿う模式的な断面図である。
図4は、
図2のIV-IV線に沿う断面図であり、断面の背後に現れる部分の図示を省略している。なお、
図3および
図4では、
図2では現れていないパネル2を想像線である2点鎖線で示している。
【0030】
図5は、
図3の一部を拡大した図である。
図6は、自動車フード1の一つのユニット7の周辺を拡大した平面図である。
図6では、中央の一つのユニット7以外の他のユニット7は、中央のユニット7と識別し易いように、中央のユニット7よりも細い線で図示している。
図7は、自動車フード1の一つのユニット7の周辺を拡大した斜視図である。
図8は、自動車フード1における接合部4の配置の一例を説明するための図である。以下では、特記なき場合、
図1~
図8を適宜参照して説明する。
【0031】
自動車フード1は、自動車の前部に設けられるフロントフードであり、ボンネットとも称される。自動車フード1が設けられる自動車は、例えば、乗用車である。上記乗用車の一例として、セダン型乗用車、クーペ型乗用車、ハッチバック型乗用車、ミニバン型乗用車、SUV(Sport Utility Vehicle)型乗用車等を挙げることができる。
【0032】
なお、本明細書では、自動車フード1が自動車に装着され且つ自動車フード1が閉じられているときを基準として、前後、左右、および、上下をいう。前とは、自動車が前進する方向である。後とは、自動車が後進する方向である。右とは、前進中の自動車が右折するときの当該自動車の転回方向である。左とは、前進中の自動車が左折するときの当該自動車の転回方向である。また、本実施形態では、自動車フード1が装着される自動車の車幅方向を車幅方向Xという。また、自動車フード1が装着される自動車の車長方向を車長方向Yという。また、自動車フード1が装着される自動車の車高方向を車高方向Zという。
【0033】
自動車フード1は、パネル2と、補強部材3と、パネル2と補強部材3とを接合している接合部4と、を有している。
【0034】
パネル2は、自動車フード1において自動車の外面の一部を構成する部分である。パネル2は、例えば、軟鋼板または高張力鋼板等の金属材料で形成されている。高張力鋼板として、引張強さ340MPa以上の鋼板を例示でき、好ましくは、440MPa~590MPaの鋼板を例示できる。パネル2は、例えば、一枚の鋼板をプレス加工すること等により形成されている。パネル2の板厚t1(鋼板の板厚)は、0.60mm以下に設定されており、好ましくは、0.50mm以下に設定されており、より好ましくは、0.40mm以下に設定されている。パネル2の板厚t1の下限は、好ましくは、0.35mmである。パネル2の板厚t1は、例えば、0.35mm~0.60mmである。このように、パネル2の板厚を薄くするほど、自動車フード1をより軽くできる。
【0035】
パネル2は、アルミニウム合金板であってもよい。この場合、パネル2の板厚は、鋼板製のパネル2の板厚に対して張り剛性および耐デント性の観点から等価な値に設定される。より具体的には、張り剛性は、材料のヤング率と板厚とに依存する。また、耐デント性は、材料の降伏応力と板厚とに依存する。よって、アルミニウム合金板のパネル2の板厚が、鋼板製のパネル2の板厚の略1.5~1.6倍であれば、張り剛性および耐デント性の観点からアルミニウム合金製のパネル2と鋼板製のパネル2とが等価であるといえる。
【0036】
パネル2がアルミニウム合金板である場合、引張強さ250MPa以上のアルミニウム合金板を例示でき、好ましくは、300MPa~350MPaのアルミニウム合金板を例示できる。この場合のパネル2の板厚t1(アルミニウム合金板の板厚)は、1.00mm以下に設定されており、好ましくは、0.80mm以下に設定されており、より好ましくは、0.64mm以下に設定されている。パネル2の板厚t1の下限は、好ましくは、0.50mmである。パネル2の板厚t1は、例えば、0.50mm~1.00mmである。
【0037】
パネル2の形状には特に制約は無い。なお、本実施形態では、パネル2は、中央部が車高方向Zの上方に凸の形状である。
【0038】
補強部材3は、パネル2の下面2aに接合されることでこのパネル2を補強している。これにより、補強部材3は、パネル2の張り剛性および耐デント性の双方を高めている。すなわち、本実施形態では、パネル2の張り剛性および耐デント性は、パネル2の板厚を大きくすることで確保するのではなく、補強部材3により確保されている。補強部材3は、例えば、鋼板等の金属材料で形成されている。補強部材3は、例えば、一枚の鋼板をプレス加工することにより形成されている。補強部材3は、一体成形品であってもよいし、複数の部材同士を接合することで形成されていてもよい。本実施形態では、補強部材3は、一体成形品である。補強部材3の板厚t2(鋼板の板厚)は、好ましくは、0.3mm~0.8mmである。補強部材3の板厚t2の上限は、好ましくは0.6mmである。補強部材3の板厚t2は、パネル2の板厚t1未満であってもよいし、パネル2の板厚t1と同じであってもよいし、パネル2の板厚t1より大きくてもよい。
【0039】
補強部材3は、アルミニウム合金板であってもよい。この場合、補強部材3の板厚は、鋼板の補強部材3の板厚に対して張り剛性および耐デント性の観点から等価な値に設定される。このため、パネル2の場合と同様に、アルミニウム合金製の補強部材3の板厚が、鋼板製の補強部材3の板厚の略1.5~1.6倍であれば、張り剛性および耐デント性の観点からアルミニウム合金製の補強部材3と鋼板製の補強部材3とが等価であるといえる。補強部材3がアルミニウム合金製の場合、補強部材3の板厚t1(アルミニウム合金板の板厚)は、0.4~1.3mmである。補強部材3の板厚t2の上限は、好ましくは1.0mmである。
【0040】
補強部材3は、外周部5と、この外周部5に取り囲まれるように配置されたハニカム構造体6と、を有している。
【0041】
外周部5は、パネル2の外周部に沿って配置された部分である。パネル2がエンジンルームを閉じているとき、パネル5の外周縁部5aは、パネル2の外周部とともに車体(図示せず)に受けられている。これにより、パネル2の上面2bに作用する荷重は、補強部材3を介して車体に受けられる。外周部5の内周縁部5bは、ハニカム構造体6を取り囲むように配置されハニカム構造体6と結合されている部分である。
【0042】
ハニカム構造体6は、パネル2の上面2bに作用する荷重を受けるために設けられた立体構造を有している。ハニカム構造体6は、断面V字形状(断面ハット形状)の部材を組み合わせることで形成されている。
【0043】
ハニカム構造体6は、複数のユニット7と、外周部5の内周縁部5bに隣接し当該外周部5に連続する複数の部分ユニット8と、を有している。
【0044】
補強部材3の外周部5に隣接するユニット7は、直接、または、部分ユニット8を介して外周部5に接続されている。
【0045】
部分ユニット8は、六角形のユニット7の円周方向に沿ってユニット7の一部分を切り取った構成に相当する構成を有している。部分ユニット8は、ユニット7の後述する辺部10と同様の辺部を有している。そして、この辺部が外周部5の内周縁部5bに連続している。
【0046】
各ユニット7は、車高方向Zの平面視で六角形の環状に形成されている。これ以降、単に平面視と表現する場合、車高方向Zの平面視を意味する。本実施形態では、各ユニット7は、実質的に正六角形に形成されている。正六角形とは、各辺の長さがすべて等しく、内角も120度と一定な六角形である。また、「実質的に正六角形」とは、本明細書では、パネル2の張り剛性の観点および耐デント性の観点において、正六角形として扱うことができる六角形をいう。各ユニット7の形状は、実質的に同じに形成されている。なお、この場合の「実質的に同じ」とは、パネル2の湾曲形状に合わせた形状に各ユニット7の形状が合わせられている点以外の構成が同じであることを示している。
【0047】
各ユニット7は、正六角形以外の六角形に形成されていてもよい。正六角形以外の六角形として、各辺の長さが不均一な六角形、および、内角が120度で統一されていない六角形を例示できる。各辺の長さが不均一な六角形として、前端辺の長さおよび後端辺の長さが所定の第1長さに設定され、且つ、第1長さとは異なる所定の第2長さにそれぞれ設定された四辺を有する六角形を例示できる。
【0048】
ハニカム構造体6は、六角形の環状のユニット7が複数最密に配置された構造を有している。この場合の「最密」とは、ユニット7の各辺部10が隣接する他のユニット7を有している場合に、当該他のユニット7の1つの辺部10と隙間無く配置されていることをいう。具体的にはユニット7は他のユニットと天板13の中で区画されている。
図6に示されているように、天板13の先端13bが、当該先端13bを含む天板13の境界を形成している。この境界は、平面視で六角形状に形成されている。このような最密六角形配置がされていることにより、ハニカム構造体6は、平面視における全領域において車高方向Zを含む、あらゆる方向の荷重に略同様に抗することができる。
【0049】
複数のユニット7は、本実施形態では、全体として車幅方向Xに対称に形成されている。具体的には、ユニット7は、本実施形態では、車幅方向Xの中央において、前後に3つ並んでいる。そして、平面視において、この3つのユニット7における車幅方向Xの中央を通り前後に延びる仮想線A1を基準として、複数のユニット7が車幅方向Xに対称に配置されている。これに限らず、張り剛性と耐デント性と質量はユニット7の方向に依存しないため、ユニット7の方向に制約は無い。
【0050】
本実施形態では、車幅方向Xの中央位置に配置された上記3つのユニット7から右側へ向けて、順に、車長方向Yに並ぶ4つのユニット7が配置され、さらに、車長方向Yに並ぶ3つのユニット7が配置され、さらに、車長方向Yに並ぶ2つのユニット7が配置され、さらに、車長方向Yに並ぶ2つのユニット7が配置されている。また、上記と同様にして、車幅方向Xの中央位置に配置された上記3つのユニット7から左側へ向けて、順に、車長方向Yに並ぶ4つのユニット7が配置され、さらに、車長方向Yに並ぶ3つのユニット7が配置され、さらに、車長方向Yに並ぶ2つのユニット7が配置され、さらに、車長方向Yに並ぶ2つのユニット7が配置されている。
【0051】
各ユニット7は、6つの辺部10(10a~10f)を有している。本実施形態では、各ユニット7において、前辺部10aと後辺部10dがそれぞれ、車幅方向Xに沿って延びている。そして、各ユニット7において、残りの4つの辺部10が、平面視において車長方向Yに対して傾斜する方向に延びている。
【0052】
各辺部10(10a~10f)は、床11と、縦壁12と、天板13と、を有している。
【0053】
床11は、パネル2に隣接しており、辺部10においてパネル2に最も近接配置されている部分である。床11は、帯板状部分である。床11は、辺部10におけるフランジ部分であり、6つの辺部10の床11は六角形状のフランジを形成している。そして、6つの床11の内側端部11aが、全体として環状のユニット7の中央を中心とする環状の端部を構成している。ユニット7の中心側における床11の内側端部11aは、ユニット7の中央側に配置された端部である。床11の上面11bの幅W1(辺部10の長手方向と直交する断面における幅)は、床11の内側端部11aと外側端部11cとの間の距離である。辺部10の長手方向と直交する断面(
図5に示す断面)において、外側端部11cは、床11の上面11b(直線部分)を含む仮想線V1と、縦壁12の上側面12aの中間部(直線部分)を含む仮想線V2の交点である。仮想線V1,V2の交点は、外側端部11cであるとともに、第1稜線31でもある。本実施形態のように、床11と縦壁12とが湾曲状に接続されている場合、外側端部11cは、仮想の端部となる。すなわち、本実施形態では、第1稜線31は、仮想線となる。一方、床11と縦壁12とが直線状に尖った形状で接続されている場合、外側端部11cは、これらの接続点となる。この場合、第1稜線31は、実線となる。幅W1は、例えば5mm~15mm程度に設定されていることが好ましい。
【0054】
本実施形態では、第1稜線31は、六角形の環状の稜線である。第1稜線31は、床11の一部でもあり、縦壁12の一部でもある。第1稜線31は、パネル2に隣接している。
【0055】
床11の長手方向の両端部は、それぞれ、平面視で湾曲した形状に形成されており、隣接する辺部10の床11と滑らかに連続している。各ユニット7において、少なくとも一部の辺部10の床11は、上面11bにおいて接合部4に接着されており、この接合部4を介してパネル2に接着されている。
【0056】
図5に示す通り、床11から縦壁12が下方に向けて延びている。
【0057】
縦壁12は、床11と天板13の間に配置されており、床11と天板13とを接続している。縦壁12は、当該縦壁12が設けられている辺部10の長手方向の全域に亘って設けられている。縦壁12が床11に対してなす角度θ1、例えば、縦壁12の上側面12aと床11の上面11bとがなす角度θ1は、40度~90度の範囲に設定されていることが好ましい。上記角度θ1が上記の下限以上であることにより、縦壁12を柱として十分に機能させることができるので、パネル2から床11に伝達された荷重を縦壁12が少ない変形量で受けることができる。また、上記角度θ1が上記の上限以下であることにより、ユニット7を、下方に進むに従い末広がりの形状(車高方向Zの下側ほど向かい合う縦壁12,12の間隔が広くなる形状)となり、成形し易い。
【0058】
車高方向Zにおける縦壁12の長さは、第1稜線31と第2稜線32との間の距離のうち車高方向Zの成分であり、本実施形態では、約16mmである。辺部10の長手方向と直交する断面において、第2稜線32は、天板13の下側面13cの頂部の接線である仮想線V3と、仮想線V2との交点である。仮想線V2,V3の交点は、第2稜線32であるとともに、天板13の内側端部13dでもある。本実施形態のように、縦壁12と天板13とが湾曲状に接続されている場合、第2稜線32は、仮想の稜線となる。一方、縦壁12と天板13とが直線状に尖った形状で接続されている場合、第2稜線32は、実線である。第2稜線32は、縦壁12の一部といえるし、天板13の一部ともいえる。
【0059】
本実施形態では、第2稜線32は、第1稜線31と同様に六角形の環状の稜線である。第2稜線32は、縦壁12の下端の外周に位置しており、パネル2とは離隔している。第1稜線31は、「縦壁と床の間における六角形の環状の稜線」の一例であり、縦壁12における床11側の端部の稜線である。第1稜線31と第2稜線32は、本実施形態では、平面視で互いに相似である。平面視において、第2稜線32の全長は、第1稜線31の全長よりも長い。車高方向Zにおいて、パネル2から第2稜線32までの距離は、パネル2から第1稜線31までの距離よりも長い。
【0060】
第1稜線31の1辺の長さL1は、本実施形態では、40mm以上75mm以下に設定されている。第1稜線31の1辺の長さL1が上記の下限未満であると、一つのユニット7がパネル2を支持するスパンが短く、張り剛性は高くできる。しかしながら、パネル2のたわみの許容値が小さくなり、耐デント性は低下する。さらに、最密に配置される六角形の環状のユニット7の数が多くなり過ぎる結果、補強部材3が重くなる。一方、第1稜線31の1辺の長さL1が上記の上限を超えると、一つのユニット7がパネル2を支持するスパンが長くなり過ぎる結果、十分な張り剛性を確保し難い。そして、第1稜線31の1辺の長さL1を上記の範囲に設定することで、補強部材3を軽くしつつ、十分な張り剛性および十分な耐デント性を確保できる。よって、自動車フード1において、パネル2の軽量化を達成しつつ、パネル2に十分な張り剛性および耐デント性を確保できる。なお、縦壁12の傾斜角θ1が小さいほど、第1稜線31の1辺の長さL1に対する第2稜線32の1辺の長さの比は、大きくなる。よって、第2稜線32の1辺の長さは、40mm以上95mm以下に設定されていることが好ましい。
【0061】
また、本実施形態では、では、第1稜線31の1辺の長さL1を100%としたとき、床11の上面11bの幅W1が40%以下に設定されている。このように、床11のうち接合部4が配置される箇所の幅が広くなりすぎないようにすることで、床11の重量をより小さくできる。
【0062】
本実施形態では、辺部10の長手方向と直交する断面(
図5に示す断面)において、縦壁12の長さ(稜線31,32間の距離)は、床11の上面11bの長さよりも長く、また、天板13の上面13aの長さよりも長い。縦壁12の長さおよび角度θ1を設定することで、ユニット7の厚み(車高方向Zの長さ)を設定することができる。縦壁12の上端に、床11が連続している。縦壁12の下端に、天板13が連続している。辺部10の長手方向と直交する断面において、床11と縦壁12とは、滑らかに湾曲する形状で互いに連続しており、応力集中が生じにくい態様で接続されている。同様に、天板13と縦壁12とは、滑らかに湾曲する形状で互いに連続しており、応力集中が生じにくい態様で接続されている。
【0063】
天板13は、ユニット7においてパネル2から最も離隔した部分である。天板13は、下方に向けて凸となる湾曲形状か、または、略水平に延びる形状に形成されている。天板13は、当該縦壁12が設けられている辺部10の長手方向の全域に亘って設けられている。辺部10の長手方向と直交する断面において、ユニット7の半径方向の内側から外側に向かって、床11、縦壁12、天板13の順に並んでいる。一のユニット7における天板13の先端13bは、隣接するユニット7における天板13の先端13bと一体である。
【0064】
次に、接合部4について、主に
図5および
図8を参照しながら、より具体的に説明する。接合部4は、本実施形態では、接着剤である。この接着剤として、マスチックシーラー(マスチック接着剤)を例示できる。このマスチックシーラーとして、樹脂系接着剤を例示できる。接着剤は、常温(例えば摂氏20度)で硬化する性質であってもよいし、加熱工程または乾燥工程を経ることにより硬化する性質であってもよい。
【0065】
接合部4は、自動車フード1の軽量化を達成しつつ張り剛性および耐デント性の双方を十分に確保するように設けられている。具体的には、接合部4は、6つの辺部10の少なくとも互いに平行な2つの辺部10に設けられている。そして、本実施形態では、各ユニット7において、6つの辺部10の全てに接合部4が設けられている。本実施形態では、各辺部10の床11の上面11bにおいて、辺部10の長手方向の全域に亘って接合部4が設けられており、隣接する辺部10に設けられた接合部4同士が一体化している。これにより、本実施形態では、各ユニット7において、接合部4は、六角形形状である。
【0066】
接合部4の厚みt3は、例えば、数mm程度であり、パネル2の板厚t1および補強部材3の板厚t2の何れに対しても極めて大きな値となる。よって、接合部4は、自動車フード1において材料コストおよび重量の面で占める割合を無視できない。このため、接合部4は、材料コスト、および、自動車フード1の軽量化の観点から、可及的に少ない使用量であることが好ましい。一方で、接合部4は、パネル2からの荷重をユニット7に伝達するために設けられる荷重伝達部でもある。このため、軽量化と張り剛性向上と耐デント性向上の全てを達成する観点から、各ユニット7における接合部4のより好ましい使用態様を規定することができる。
【0067】
図9は、本開示の第1変形例の主要部を示す概念的な平面図であり、接合部4が設けられる箇所を示している。上記本実施形態の第1変形例として、
図9に示す以下の構成を挙げることができる。すなわち、接合部4は、環状の各ユニット7の6つの辺部10(10a~10f)における一部の辺部10に設けられている。そして、本開示の変形例では、接合部4は、6つの辺部10のうちの、少なくとも互いに平行に向かい合う2つの辺部10であって、互いに離隔している2つの辺部10に設けられている。接合部4が設けられている辺部10において、接合部4は、辺部10の長手方向に沿って直線の筋状に延びている。
【0068】
平面視における接合部4の長さW2は、床11の長手方向における床11の全長W3の20%~100%の範囲に設定されており、好ましくは、50%~100%の範囲に設定されている。
図9では、長さW2=全長W3の例が示されている。接合部4の長さW2を上記の下限以上とすることで、接合部4が設けられている床11とパネル2との結合強度を十分に確保できる。さらに、接合部4を加熱によってパネル2および床11に接着する工程が採用される場合、接合部4の加熱工程における加熱に起因して、パネル2および補強部材3に熱歪みが生じる。しかしながら、接合部4をユニット7における6つの辺部10の一部にのみ設けることにより、上記の熱歪みを少なくできる。
【0069】
このように、第1変形例においては、各ユニット7において、6つの辺部10のうちの一部の辺部10に接合部4が設けられているとともに、残りの辺部10は接合部4を設けられてない。この残りの辺部10の全体は、パネル2と直接上下に向かい合っている。
【0070】
図9に示すように、6つの辺部10のうちの4つの辺部10が、接合部4に接合されており、当該接合部4によってパネル2に結合されている。すなわち、平面視において互いに平行に向かい合う一対の辺部10が二組、接合部4を与えられている。そして、残りの2つの互いに離れた辺部10(隣接していない2つの辺部10)は、接合部4を設けられておらず、直接(空気のみを介して)パネル2に隣接している。
【0071】
より具体的には、接合部4は、6つの辺部10のうち、互いに平行に延びる前辺部10aおよび後辺部10dと、互いに平行に延びる右後辺部10cおよび左前辺部10fと、に設けられている。すなわち、接合部4は、ユニット7において、右前辺部10bおよび左後辺部10eを除く4つの辺部10に設けられている。これにより、ハニカム構造体6において矢印B1に示すように、左後から右前に向けて(右斜め前方に向けて)、接合部未設定領域14が設けられている。
【0072】
このような構成により、ハニカム構造体6において、左後から右前に延びるジグザグの筋状の接合部4の集合体15が、複数設けられている。このようなハニカム構造体6の構成であれば、軽量化、張り剛性の確保および耐デント性の確保の3つの要求を高次元で満たすことができる。
【0073】
なお、
図9に示す接合部4の相対的な位置関係を満たす限り、接合部4の配列を変更しても同等の効果が得られる。例えば、
図9に示す第1変形例での複数の接合部4の全体としての配列を車幅方向Xに対称に置き換えてもよい。
【0074】
また、
図9に示す第1変形例に代えて、
図10の第2変形例に示す態様で接合部4が配置されていてもよい。
図10では、接合部4は、例えば、ユニット7における6つの辺部10のうち、互いに平行に延びる2辺としての右前辺部10bおよび左後辺部10eと、これらの2辺部10の何れかの両端に接する2つの辺部10と、に設けられている。すなわち、接合部4は、ユニット7において、4つの辺部10に設けられている。この第2変形例では、後辺部10dおよび左前辺部10fに接合部4が設けられていないユニット7の集合体としての第1ユニット21と、前辺部10aおよび右後辺部10cに接合部4が設けられていないユニット7の集合体としての第2ユニット22と、が設けられている。第1ユニット21では、左後方から右前方に向けてユニット7が連なっている。同様に、第2ユニット22は、左後方から右前方に向けてユニット7が連なっている。そして、第1ユニット21と第2ユニット22とが、交互に配置されている。
【0075】
なお、
図10に示す接合部4の相対的な位置関係を満たす限り、接合部4の配列を変更しても同等の効果が得られる。例えば、
図10に示す第2変形例での複数の接合部4の全体としての配列を車幅方向Xに対称に置き換えてもよい。
【0076】
上述の第1変形例および第2変形例では、各ユニット7において4つの辺部10に接合部4を設け、2つの辺部10には接合部4を設けない形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、
図11の第3変形例に示すように、各ユニット7において、6つの辺部10のうちの2つの辺部10に接合部4が設けられていてもよい。すなわち、平面視において互いに平行に向かい合う2つの辺部10,10が一組、接合部4を与えられている。そして、残りの4つの辺部10は、接合部4を設けられていないことにより、直接パネル2に隣接している。
【0077】
図11に示す第3変形例では、接合部4は、例えば、ユニット7における6つの辺部10のうち、互いに平行に延びる右後辺部10cおよび左前辺部10fのみに設けられている。これにより、各ユニット7において、4つの辺部10には接合部4が設けられていない。このように、各ユニット7において、6つの辺部10の一部である2つの辺部10に接合部4が設けられている構成であれば、軽量化、および、張り剛性の確保および耐デント性の確保の3つの要求を高次元で満たすことができる。
【0078】
なお、
図11に示す第3変形例に代えて、6つの辺部10のうち、互いに平行な前辺部10aおよび後辺部10dにのみ接合部4を設ける変形例(図示せず)と、互いに平行な右前辺部10bおよび左後辺部10eにのみ接合部4を設ける変形例(図示せず)と、を例示できる。
【0079】
接合部4についての上述の実施形態および各変形例の何れかの構成が採用されることで、パネル2の性能向上(張り剛性と耐デント性の向上)と軽量化とを実現できる。
【0080】
なお、上述の実施形態および各変形例において、接合部4が設けられている辺部10において、接合部4は、連続した直線状に形成された場合に限定されず、間欠的に点状に配置されていてもよい。
【0081】
本実施形態の自動車フード1によれば、ユニット7の6つの辺部10のうち、接合部4が設けられている辺部10は、辺部10の延びる方向に関して、辺部10の20%以上の範囲に亘って接合部4と接している。この構成によれば、パネル2の張り剛性および耐デント性の双方をより高くできる。特に、接合部4が辺部10で連続して延びる直線状であれば、六角形のコーナー部において接合部4を点状に設けた場合や、接合部4を辺部10の中央に点状に設けた場合と比べて、パネル2の張り剛性および耐デント性の双方をより高くできる。
【0082】
また、本実施形態の自動車フード1によれば、鋼板パネル2の板厚t1が0.6mm以下である。このように、パネル2の板厚t1が0.6mm以下である場合、パネル2の板厚t1が0.65mm以上の場合と比べて、パネル2自体の剛性から得られる張り剛性と耐デント性とが、極端に低下する。より具体的には、パネル2の張り剛性は、パネル2のヤング率と板厚に依存し、特に、板厚の二乗で変化する。そして、鋼板で形成されたパネル2の設計板厚が0.65mmから0.6mmに変更されると、パネル2が単体で確保できる張り剛性は、極端に低下する。この剛性低下は、特に人間の手でパネル2を押したときにおける感触の面で顕著であり、自動車の商品性低下の原因となる。このように、鋼製のパネル2の張り剛性について、板厚t1が0.6mmと0.65mmとの間に臨界的意義が存在する。そして、本実施形態のように、板厚t1が0.6mm以下という薄いパネル2が用いられる場合でも、補強および補剛のための補強部材3とパネル2とを組み合わせることで、自動車フード1として、パネル2の板厚t1が0.65mmの場合と略同等の張り剛性および耐デント性を確保できる。その上、パネル2の板厚t1が小さくされているので、パネル2の軽量化を通じて自動車フード1の軽量化も達成できる。
【0083】
さらに、鋼製のパネル2および補強部材3であれば、アルミニウム合金製のパネルおよび補強部材と比べて、材料コストの点で優位性がある。さらに、アルミニウム合金製の自動車フードでは、そもそも、パネルの下方の補強部材で張り剛性を確保するという着想が従来存在していない。また、アルミニウム合金は鋼に比べヤング率が低いため、アルミニウム合金の剛性は鋼の剛性より低い。このため、アルミニウム合金製の自動車フードにおいて鋼製の自動車フード1と同等の剛性を確保するためには、部材の板厚をより大きくする必要がある。よって、アルミニウム合金製のパネルにおいて張り剛性および耐デント性の双方を満たすためには、板厚が増してしまう。よって、本実施形態のように、パネル2および補強部材3の板厚を小さくしつつ、張り剛性および耐デント性の双方を向上する観点は、アルミニウム合金製の自動車フードには存在しない。但し、上述したように、張り剛性および耐デント性の観点から、鋼板のパネルおよび補強部材と、アルミニウム合金板のパネルおよび補強部材とは、性能が等価となる厚みを設定できる。よって、本実施形態では、パネル2および補強部材3は、鋼板であってもよいし、アルミニウム合金板であってもよい。
【0084】
以上、本開示の実施形態および変形例について説明した。しかしながら、本開示は、上述の実施形態および変形例に限定されない。本開示は、特許請求の範囲に記載の範囲において種々の変更が可能である。
【0085】
上述の実施形態および変形例では、補強部材3の断面形状(辺部10の長手方向と直交する断面での形状、
図5に示す断面での形状)が、互いに連続する2つのユニット7部分においてV字形状(ハット形状)である形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、
図12に示すように、各ユニット7の断面形状が、中実形状であってもよい。
図12は、本開示の第4変形例の主要部を示す断面図である。この場合の中実形状として、丸形形状、多角形形状を例示できる。また、各ユニット7の断面形状は、中空形状であってもよい。
【実施例0086】
図1~
図8に示す実施形態の自動車フード1の形状モデルをCAD(Computer Aided Design)ソフトを用いてコンピュータ上で作成した。すなわち、パネル2と補強部材3と接合部4とを有する自動車フード1をコンピュータ上で作成した。そして、自動車フード1の形状モデルについてCAE(Computer Aided Engineering)解析することで、すなわち、コンピュータシュミュレーションを行うことで、張り剛性、および耐デント性を評価した。なお、各部の特性は以下の通りとした。
【0087】
パネル2と補強部材3の材料:鋼板。
ケース1:
パネル2:引張強さ=590MPa、板厚t1=0.4mm。
補強部材3:引張強さ=270MPa、板厚t2=0.3mm。
ケース2:
パネル2:引張強さ=590MPa、板厚t1=0.5mm。
補強部材3:引張強さ=270MPa、板厚t2=0.3mm。
ケース3:
パネル2:引張強さ=590MPa、板厚t1=0.4mm。
補強部材3:引張強さ=270MPa、板厚t2=0.4mm。
【0088】
[第1稜線31の1辺の長さL1]
第1稜線31の1辺の長さL1は、以下のように設定した。
比較例1:30mm
本開示例1:40mm
本開示例2:55mm
本開示例3:75mm
比較例2:85mm
【0089】
CAE解析では、パネル2のうち最弱部となる、ユニット7の中心位置上の点C1(
図3参照)を荷重点に設定し、この荷重点に所定の荷重Pを付与した。その結果を、張り剛性と耐デント性の評価として用いた。
【0090】
[張り剛性の評価条件]
張り剛性の評価に際しては、荷重Pを49Nとした。そして、49Nを付与した時のパネル2のたわみ量の最大値が1.8mm未満の場合をexcellent、2.0mm未満の場合をgood、2.0mm以上の場合をpoorの評価とした。
【0091】
[耐デント性の評価条件]
耐デント性の評価に際しては、荷重Pを245Nとした。そして、245Nを付与した時のパネル2の塑性変形量の最大値が0.23mm未満の場合をexcellent、0.35mm未満の場合をgood、0.35mm以上の場合をpoorの評価とした。
【0092】
張り剛性および耐デント性のそれぞれの評価結果を表1に示す。
【表1】
【0093】
表1に示されているように、比較例1,3,5は、第1稜線31の1辺の長さL1が短く、張り剛性を確保できるパネル2の支持スパンを実現できているものの、パネル2のたわみを十分に許容できない結果、耐デント性がpoorの評価となった。また、比較例2,4,6は、第1稜線31の1辺の長さL1が長く、パネル2の支持スパンが長くなり過ぎたため、パネル2がたわみ易くなり過ぎる結果となり、耐デント性を確保できているものの、張り剛性がpoorの評価となった。
【0094】
一方、本開示例1~9は、第1稜線31の1辺の長さL1が適度な値に設定されていることから、パネル2の支持スパンが適正であり、パネル2の張りを十分に維持できるとともにパネル2の適度なたわみを許容している。その結果、張り剛性および耐デント性の双方について、良好な結果を得られた。とくに、本開示例2,5,8では、張り剛性および耐デント性の双方について、極めて良好な結果(excellent)を得られた。すなわち、第1稜線31の1辺の長さL1が40mm以上75mm以下であること、特に55mm前後であることが、フード1を軽量化しつつ、張り剛性および耐デント性の双方を確保するのに適切である点、実証された。さらに、ケース1の本開示例1~3において特に明らかなように、パネル2の板厚t1を0.4mmという極めて小さな値にするとともに補強部材3の板厚t2を0.3mmという極めて小さな値にすることで自動車フード1を軽量にした場合でも、張り剛性および耐デント性の双方を確保できることが実証された。
【0095】
なお、前述したように、鋼板のパネル2および鋼板の補強部材3と、アルミニウム合金板のパネル2およびアルミニウム合金板の補強部材3とは、張り剛性および耐デント性の観点から板厚を性能が等価な厚みとすることで、同様の張り剛性および耐デント性を確保できる。よって、アルミニウム合金板に本発明を適用しても同様の結果を得られることは明らかである。