(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068127
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】難燃性組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230509BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20230509BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/016
C08K3/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023046029
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】591040557
【氏名又は名称】太平化学産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】下道 寛之
(72)【発明者】
【氏名】大山 遼
(72)【発明者】
【氏名】山上 敏弘
(57)【要約】
【課題】樹脂組成物を有効利用するために、再生成形(リグラインド)において難燃性を維持する亜リン酸アルミニウムを含む難燃性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の難燃性組成物は、亜リン酸アルミニウムを含有した熱可塑性組成物を再生成形し、JISK7201に準拠する酸素指数試験において、難燃性を維持する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜リン酸アルミニウムを含有した熱可塑性樹脂組成物を成形した後の粉砕品と、成形に使用していない樹脂とを混ぜ合わせて再生成形(リグラインド)を行い、得られた成形品をJISK7201に準拠する酸素指数試験において難燃性が維持することを特徴とする難燃性組成物。
【請求項2】
前記亜リン酸アルミニウムは下式で表される発泡性の球状亜リン酸アルミニウムである請求項1に記載の難燃性組成物。
Alx(OH)y(HPO3)3・zH2O
式中、
xは2.01以上、2.50以下
yは0.03以上、1.50以下
zは0~4の整数をそれぞれ、意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂を有効利用するために、亜リン酸アルミニウムを含有した熱可塑性樹脂組成物を再生成形した難燃性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物は、その優れた成形性、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気特性などから、幅広い用途で使用されている。しかしながら海洋プラスチック問題などに代表される、プラスチック廃棄物問題は、喫緊の世界的課題として認識され、革新的な解決策が求められている。樹脂組成物は一般的に難燃性が悪いため、用途によっては難燃剤が使用されるが、上記問題解決のためにリサイクルなど再利用しようとすると、熱履歴などにより難燃性が低下する場合がある。例えば特開平7-290454号公報に、難燃性ポリスチレン樹脂をリサイクルする際にさらに難燃剤を添加することにより、難燃性の低下を抑制する方法が開示されているが、このように特別な工程を経ずとも難燃性が維持できる難燃性組成物は限られている。
流動性、防火性能などに優れた難燃剤(防燃剤)として、本出願人は、特許文献1に球状亜リン酸アルミニウム結晶およびその製造方法を開示している。上記亜リン酸アルミニウムは、50℃以上に加熱した亜リン酸水溶液にアルミナ水和物を添加し反応させて得られた粘稠な亜リン酸アルミニウムスラリーを、50~90℃で撹拌しながら微細な結晶を徐々に析出させて球状体に成長させた後、遠心脱水したものを、200℃で16時間乾燥することにより製造されるものであり、発泡性を有している。上記亜リン酸アルミニウムは、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂の難燃性向上剤として有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、樹脂組成物を有効利用するために、難燃性樹脂組成物を再生成形する工程を経ても、難燃性を維持する亜リン酸アルミニウムを含む難燃性組成物を提供する。
【0005】
以下、本明細書では、成形体を粉砕して成形体の製造に用いる原料として再生させることを「リグラインド」と呼び、得られた粉砕成形物を「リグラインド材」と称する。これに対し、成形体の製造に使用していない原料から得られた成形物を「バージン材」と称する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得た本発明の構成は以下のとおりである。
[1]亜リン酸アルミニウムを含有した熱可塑性樹脂組成物を成形した後の粉砕品と、成形に使用していない樹脂とを混ぜ合わせて再生成形(リグラインド)を行い、得られた成形品をJISK7201に準拠する酸素指数試験において難燃性が維持することを特徴とする難燃性組成物。
[2]前記亜リン酸アルミニウムは下式で表される発泡性の球状亜リン酸アルミニウムである請求項1に記載の難燃性組成物。
Alx(OH)y(HPO3)3・zH2O
式中、
xは2.01以上、2.50以下
yは0.03以上、1.50以下
zは0~4の整数をそれぞれ、意味する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、再生成形(リグラインド)において難燃性を維持する亜リン酸アルミニウムを含む難燃性組成物を提供することにより、樹脂組成物を有効利用ができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の難燃性組成物(以下、単に組成物と略記する場合がある。)は、亜リン酸アルミニウムおよび熱可塑性樹脂組成物を含む。
【0009】
(1)亜リン酸アルミニウム
本発明に用いられる亜リン酸アルミニウムは、下式で表される発泡性の球状亜リン酸アルミニウムである。
Alx(OH)y(HPO3)3・zH2O
式中、
xは2.01以上、2.50以下
yは0.03以上、1.50以下
zは0~4の整数をそれぞれ、意味する。
【0010】
上記特許文献1に記載の亜リン酸アルミニウムは、上式においてx=2.00、y=0である点で、本発明に用いられる上記亜リン酸アルミニウムと相違する。
【0011】
上記亜リン酸アルミニウムにおいて、より高い発泡倍率を得るためには、xは2.03以上、2.40以下が好ましい。
【0012】
また、より高い発泡倍率を得るためには、yは0.05以上、1.20以下が好ましい。
【0013】
上記亜リン酸アルミニウムは水和物であっても良く、zは0~4の整数である。
【0014】
上記亜リン酸アルミニウムは球状である。ここで「球状」とは、球体および球体に近似する形状を有しており、直径が約0.1~500μmの範囲に分布し、平均直径が4~50μm程度のものを意味する。
上記亜リン酸アルミニウムの形状は、例えば前述した特許文献1の
図1~3を参照することができる。球状であることは、後記する実施例の欄に記載のとおり、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して確認している。
【0015】
上記亜リン酸アルミニウムは、高い発泡性を有している点に特徴がある。ここで「発泡性」とは、約300℃~1350℃に加熱したときに発泡するものを意味し、本発明の亜リン酸アルミニウムは、約1200℃まで安定して発泡する。本発明では、後記する実施例に記載の方法で発泡倍率を測定する。当該実施例では、亜リン酸アルミニウムを500℃で1時間加熱した前後の体積変化量に基づいて発泡倍率を測定しており、外観などに基づいて発泡倍率の概算を測定する方法に比べて、精度の高い発泡倍率を算出できる。上記亜リン酸アルミニウムの組成比を上記範囲に制御することにより、約30~40倍程度の発泡倍率が得られる。
【0016】
上記亜リン酸アルミニウムを製造するためには、亜リン酸アルミニウムを構成するAlおよびPの配合比(モル比)を、Al:P=2.01~2.50:3となるように、すなわち化学量論比(Al:P=2.00:3)に対してAlリッチとなるように制御することが必要であり、それ以外は上記特許文献1と同じ方法で製造すれば良い。上記Al供給源としては、例えば水酸化アルミニウム、アルミナ水和物、ベーマイトなどが挙げられる。またP供給源としては、亜リン酸、亜リン酸二水素アルミニウムなどが挙げられる。
【0017】
ここで、好ましく用いられる球状の亜リン酸アルミニウムを得るためには、前述した特許文献1と同様、所定温度に加熱した亜リン酸水溶液中に水酸化アルミニウムを添加することが重要であって、その逆、すなわち、所定温度に加熱した水酸化アルミニウムに亜リン酸水溶液を添加したとしても、球状、且つ、発泡倍率の高い亜リン酸アルミニウムは得られない。
【0018】
また、化学量論比組成を満足する亜リン酸アルミニウムに、水酸化アルミニウムを更に添加した例としても、単一の化合物でなく混合物が得られるに過ぎず、発泡倍率も従来例と同程度のものしか得られないことを確認している。すなわち、所望とする亜リン酸アルミニウムを製造するためには、原料段階でAlとPを適切に制御することが必要である。
【0019】
例えば製造方法の一例として、Al供給源としてアルミナ水和物、P供給源として亜リン酸水溶液を用意して、Al:Pのモル比がAl:P=2.01~2.50:3となるように撹拌機に投入して混合した後、50~90℃で撹拌しながらスラリー状態から粘稠性の液体(反応生成物)へと進行させ、微細な結晶を徐々に析出させて球状体に成長させる。その後、遠心分離して脱水した亜リン酸アルミニウムを、120~200℃で1~48時間乾燥する方法が挙げられる。
【0020】
本発明では、上記亜リン酸アルミニウム添加による作用を有効に発揮させるため、難燃性組成物100質量部に対する亜リン酸アルミニウムの含有比率は、5~70質量部であることが好ましい。上記比率を下回ると亜リン酸アルミニウムの添加効果が有効に発揮されず、耐熱性が低下する。一方、上記比率を超えると混練作業が困難になる。上記含有比率は、より好ましくは20~60質量部である。
【0021】
(2)熱可塑性樹脂組成物
本発明に用いられる樹脂として、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、スチレン樹脂、ポリオレフィンオキシド樹脂、ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂が好ましく挙げられ、より好ましくはポリアミド樹脂またはポリエステル樹脂である。上記熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。
【0022】
本発明において、上記樹脂を含む組成物100質量部に対する樹脂の含有比率は、30~95質量部であることが好ましい。上記比率を下回ると混錬トルクが上昇し、作業性が著しく低下する。一方、上記比率を超えると、所望とする耐熱性が得られない。
【0023】
(3)他の添加剤
本発明の難燃性組成物は、更に以下の添加剤を含有しても良い。
【0024】
例えば樹脂の強度、剛性などを補強する目的で無機充填材を更に含有しても良い。本発明に用いられる無機充填材の種類は特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、アラミド繊維、マイカ、タルク、カオリン、ワラストナイトなど通常用いられるものが挙げられる。これらは単独で添加しても良いし、二種以上の混合物を添加しても良い。これらのなかでも、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、タルク、カオリン、ワラストナイト、およびこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0025】
本発明において、樹脂を含む上記組成物100質量部に対する無機充填材の含有比率は、5~60質量部であることが好ましい。上記比率を下回ると無機充填材の添加効果が有効に発揮されず、樹脂の強度等の補強が困難となる。一方、上記比率を超えると混錬作業が困難になる。
【0026】
上記要件を満足する本発明の難燃性組成物は、例えば電気電子部品、自動車、建築物内装品などの様々な分野に適用可能である。
【0027】
本発明には、上記難燃性組成物を含む成形品;フィルムまたはシート;繊維または繊維加工品も包含される。上記成形品として、例えば電気、電子機器の部品、OA機器の部品、絶縁材料などが挙げられる。上記繊維加工品として、例えば電子材料用緩衝材、家電用緩衝材、自動車内装緩衝材などが挙げられる。
【実施例0028】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0029】
実施例1
本実施例では、以下のようにして、亜リン酸アルミニウムを製造した。
亜リン酸アルミニウムを構成するAlおよびPの配合比(モル比)がAl:P=2.01~2.50:3となるように、すなわち化学量論比(Al:P=2.00:3)に対してAlリッチとなるように制御したこと以外は上記特許文献1と同じ方法で製造した。
上記製造方法で得られたものを、商品名「NSF」とした。
【0030】
このようにして得られた亜リン酸アルミニウムにおける「AlとPの組成比」、「結晶形」および「発泡倍率」をそれぞれ、以下のようにして測定した。
【0031】
(AlとPの組成比)
まず上記亜リン酸アルミニウムを0.1g秤量し、20mLの王水を添加して、約100℃(煮沸)に加熱して溶解した。このようにして得られた溶液のAl含有量およびP含有量を、ICP発光分光分析装置(エスアイアイナノテクノロジー株式会社製のSPS3520V)を用いて測定したところ、AlとPの配合比はAl:P=2.01~2.50:3であり、上記式Alx(OH)y(HPO3)3・zH2Oに照らせば、x=2.01~2.50、y=0.03~1.50であった。
【0032】
(結晶形)
上記亜リン酸アルミニウムの結晶形を、走査型電子顕微鏡[(株)ハイテクノロジーズ製のTM-1000 Miniscope]を用いて観察したところ、球形であることが確認された。
【0033】
(発泡倍率)
20mLのスクリュー管[(株)マルエム製のNo.5]に、上記亜リン酸アルミニウム0.2gを入れて、卓上マッフル炉[デンケン・ハイデンタル(株)製のKDF S80]を用いて500℃で1時間加熱した。加熱前後の体積変化量を測定して、上記亜リン酸アルミニウムの発泡倍率を算出したところ、発泡倍率は30~40倍であった。
【0034】
次に、上記のようにして得られた亜リン酸アルミニウム35部に、ナイロン66樹脂50部、およびガラス繊維15部を配合して、ヘンシェルミキサーでブレンドした。この混合物を、東芝機械(株)製二軸押出機(スクリュー径45mmφ)にてシリンダー温度280℃、スクリュー回転数200rpmで溶融混練りして、ストランド状のガットを成形し、カッターで造粒してペレットを得た。得られたペレットを、東芝機械(株)製射出試験機IS80を用いて、バレル温度280度で成形し、得られた成形 品をバージン材とした。次いで本バージン材を(株)シュトルツ製粉砕機SX-250-Tを用いて、粉砕処理を行い、その粉砕したリグラインドペレット50重量%と未粉砕のバージンペレット50重量%となるよう混合して、再び射出成形し、得られた成形品をリグラインド材とした。あとは同様にリグラインド材を粉砕処理して、未粉砕のバージンペレットと混合する再生成形作業を5回まで繰り返し行い、バージン材および1~5回再生成形を行ったリグラインド材の成形品を得た。
【0035】
(難燃性の評価)
上記のようにして製造した成形品を用いて、JISK7201に準拠する酸素指数試験において、バージン材および各リグラインド材の難燃性を評価した。
【0036】
難燃性の評価基準は、バージン材の酸素指数値を100とし、各リグラインド材の酸素指数値の増減を百分率にて増減率として表す。
【0037】
本評価結果を表1に併記する。
【0038】
【0039】
本発明のように50重量%で再生成形したリグラインド材においても、バージン材の難燃性を維持することを確認できた。したがって樹脂組成物リサイクルの観点から有用な難燃樹脂組成物を提供することができる。