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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068161
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】着色剤及びその関連技術
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
G01N31/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048703
(22)【出願日】2023-03-24
(62)【分割の表示】P 2021554701の分割
【原出願日】2020-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】390039583
【氏名又は名称】株式会社松井色素化学工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100095522
【弁理士】
【氏名又は名称】高良 尚志
(72)【発明者】
【氏名】北川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】水原 智浩
(57)【要約】
【課題】 水又は水を含有する液体によって可及的に明確に変色し得る組成物及び着色剤、その着色剤の製造方法、その着色剤が保持された変色可能体、前記着色剤が配合された水分検知材及び着色用材料、並びにその着色用材料が適用されて前記着色剤が固着した変色可能体の提供。
【解決手段】 少なくとも電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物及び前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物による呈色を妨げる作用を有する呈色調整剤からなる組成物であって、前記呈色調整剤は親水性を有するものであり、水又は水を含有する液体によって変色し得る組成物。その組成物が所定微小体に保持又は担持されてなり、水又は水を含有する液体によって変色し得るものであり、前記所定微小体は、前記保持又は担持している組成物に水又は水を含有する液体が接し得る着色剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも電子供与性呈色性有機化合物及び電子受容性化合物と呈色調整剤からなり、対象物に適用して水又は水を含有する液体を検知するための組成物であって、
前記呈色調整剤は、親水性で、水分がない場合には、前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる作用を発揮する一方、水又は水を含有する液体によって、当該電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる作用が抑えられるものであり、
水を含有させることなく前記組成物が対象物に適用された場合には、当該組成物は、前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色が前記呈色調整剤により妨げられた状態で対象物に適用され、検知対象である水又は水を含有する液体によって、当該組成物における前記呈色調整剤の前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる作用が抑えられることにより、当該電子供与性呈色性有機化合物が電子受容性化合物との間の電子の授受により呈色し、当該水又は水を含有する液体を検知し得るものであり、
対象物に適用する前記組成物に水を含有させた場合、当該含有させた水によって、対象物に適用する前の当該組成物における電子供与性呈色性有機化合物が、電子受容性化合物との電子の授受により呈色した状態となるものであることを特徴とする組成物。
【請求項2】
上記呈色調整剤が、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール1000、ポリエチレングリコール2000、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000、ポリプロピレングリコール20000、ポリプロピレングリコール400、ポリプロピレングリコール750、1,3プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール及び1,3シクロヘキサンジオールからなる群から選ばれる1又は2以上である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
上記呈色調整剤はポリビニルピロリドン及びその他の高分子ポリマーを除くものである請求項1記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物及び前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物による呈色を妨げる作用を有する呈色調整剤からなる組成物であって、
前記呈色調整剤は、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール1000、ポリエチレングリコール2000、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000、ポリプロピレングリコール20000、ポリプロピレングリコール400、ポリプロピレングリコール750、1,3プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール及び1,3シクロヘキサンジオールからなる群から選ばれる1又は2以上であり、
水又は水を含有する液体によって変色し得るものであることを特徴とする組成物。
【請求項5】
上記電子受容性化合物と呈色調整剤の溶解度パラメーター(δ)の差がプラスマイナス3以内である請求項1乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
上記呈色調整剤の水に対する溶解度(g/100gHO)が、使用環境温度において100以上である請求項1乃至5の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】
上記呈色調整剤の20℃における蒸気圧が0.01mmHg以下である請求項1乃至6の何れか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の組成物が所定微小体に保持又は担持されてなり、水又は水を含有する液体によって変色し得るものであり、
前記所定微小体は、前記保持又は担持している組成物に水又は水を含有する液体が接し得るものであることを特徴とする着色剤。
【請求項9】
上記所定微小体が多孔性物質である請求項8記載の着色剤。
【請求項10】
上記多孔性物質の細孔容積が0.3cm/g以上である請求項9記載の着色剤。
【請求項11】
上記多孔性物質の平均細孔径が20オングストローム以上である請求項9又は10記載の着色剤。
【請求項12】
上記所定微小体に保持又は担持されている組成物が、使用環境において固体又は粘稠体である請求項8乃至11の何れか1項に記載の着色剤。
【請求項13】
少なくとも電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物及び前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物による呈色を妨げる作用を有する呈色調整剤を、溶融及び溶解の一方又は両方により液状化した組成物とすることと、
その液状化した組成物を所定微小体に適用し、その組成物が固化した状態又は粘稠体となった状態で前記所定微小体に保持又は担持させることを含む請求項12記載の着色剤の製造方法。
【請求項14】
請求項8乃至12の何れか1項に記載の着色剤が少なくとも表面部に保持され、水又は水を含有する液体により変色し得る変色可能体。
【請求項15】
吸水性樹脂粉末又はその他の吸水性材料に請求項8乃至12の何れか1項に記載の着色剤が配合された水分検知材。
【請求項16】
溶媒及び分散媒の一方又は両方と、対象物に固着するための固着用樹脂を含む、非水溶性ビヒクルに、少なくとも請求項8乃至12の何れか1項に記載の着色剤が配合されてなる着色用材料。
【請求項17】
請求項16記載の着色用材料が適用されて少なくとも上記着色剤が固着した、水又は水を含有する液体により変色し得る変色可能体。
【請求項18】
少なくとも電子供与性呈色性有機化合物及び電子受容性化合物と呈色調整剤からなる組成物を対象物に適用して水又は水を含有する液体を検知する方法であって、
前記呈色調整剤は、親水性で、水分がない場合には、前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる作用を発揮する一方、水又は水を含有する液体によって、当該電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる作用が抑えられるものであり、
水を含有させることなく前記組成物を対象物に適用することにより、当該組成物は、前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色が前記呈色調整剤により妨げられた状態で対象物に適用され、検知対象である水又は水を含有する液体によって、当該組成物における前記呈色調整剤の前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる作用が抑えられることにより、当該電子供与性呈色性有機化合物が電子受容性化合物との間の電子の授受により呈色し、当該水又は水を含有する液体を検知し得るものであり、
対象物に適用する前記組成物に水を含有させた場合、当該含有させた水によって、対象物に適用する前の当該組成物における電子供与性呈色性有機化合物が、電子受容性化合物との電子の授受により呈色した状態となるものであることを特徴とする検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水又は水を含有する液体によって変色し得る組成物及び着色剤、その着色剤の製造方法、その着色剤が保持された変色可能体、前記着色剤が配合された水分検知材及び着色用材料、並びにその着色用材料が適用されて前記着色剤が固着した変色可能体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、湿度変化や水分若しくは湿度変化等によって、変色(発色・消色・色相変化・その他の色の要素の変化等)が生じる検知剤が知られている。
【0003】
例えば、濾紙やシリカゲルに塩化コバルトを担持した湿度検知剤は、乾燥時は青色を呈し、吸湿時には赤色又はピンク色を呈する。また、特許4597001号公報には、発がん性や強い毒性を有する塩化コバルトに代えて人体に安全性が高いとされるサフラニンをシリカゲルに担持した湿度検知剤が開示され、特開2002-200423号公報には、塩化第二銅をシリカゲルに担持した湿度検知剤が開示されている。
【0004】
しかし、これらの検知剤は、空気中の湿度変化の検知に用いられるものであって、乾燥剤等と共に保管する必要がある敏感なものであるため、例えば日常生活での水分の有無や液体としての水の検知には適さない。
【0005】
特許3396971号公報には、水に濡れることで消色する水分インジケーター用インキ組成物であって大気中で安定的に保存することができるものとして、有機酸、有機酸の存在により発色する呈色性有機化合物、吸水性粉末、および高分子結着剤から成る組成物が非水溶媒中に溶解もしくは分散されてなるものが開示されている。また、特開2008-111774号公報には、電子供与性呈色化合物、常温において固体である酸性化合物、及び水系樹脂エマルジョン又は水溶性高分子化合物水溶液からなる水分インジケーターが開示されている。
【0006】
しかしながら、前者は含有する有機酸、後者は含有する常温において固体である酸性化合物に対し、呈色性化合物の溶解性が低いので、何れも発色濃度が低く、水分検知剤としての視認性が十分とは言えない。また、前者における高分子結着剤は、水分検知成分である呈色性有機化合物及び有機酸並びに吸水性粉末を対象物に固着するために用いられる、有機溶剤に可溶な熱可塑性樹脂であるため、検知すべき水分は、親油性熱可塑性樹脂である高分子結着剤を介して水分検知成分に到達することとなり、検知に時間を要する。後者は、水分検知成分である電子供与性呈色化合物と常温において固体である酸性化合物を水系樹脂エマルジョン又は水溶性高分子化合物水溶液に配合した水性塗料であるから、水分との接触において塗料が流れ出して水分インジケーターとしての視認性に問題が生じるおそれがある。更に、前者は含有する有機酸、後者は含有する常温において固体である酸性化合物が、検知する水分に溶出し、肌接触用途の場合は安全性が危惧される。
【0007】
特許5996400号公報には、電子供与性呈色性有機化合物、フェノール性水酸基を有する酸と水酸基とカルボン酸基を有する酸とカルボン酸基を複数有する酸から選ばれた少なくとも1種、水溶性及び油溶性樹脂、シクロデキストリン、及び溶剤を含有する水分インジケーター用組成物であって、水分インジケータ用組成物を基材に塗布後、かつ水分検知前に無色ではあるが、水分を検知して十分に発色することができるとされるものが開示されている。
【0008】
この水分インジケーター用組成物は、シクロデキストリンを含有することにより、ポリビニルピロリドン等の水溶性及び油溶性樹脂を用いた場合の減感作用を抑制させ、発色及び消色の程度を明確にさせることができ、目視にて容易に確認することができるものとされているが、シクロデキストリンの空孔の内径はα体で0.45~0.6nm、β体で0.6~0.8nm、γ体で0.8~0.95nmと極めて小さく、電子供与性呈色性有機化合物やフェノール性水酸基を有する酸のような比較的大きい分子を包接することは困難と考えられ、水溶性及び油溶性樹脂による減感作用を十分には防止できず、水分に接触した場合の発色濃度は未だ十分なものではなかった。
【0009】
特開昭55-36326号公報には、少なくとも吸収部と該吸収部に接する水不透過性シートを有する使い捨ておむつにおいて、水不透過性シートにおける該吸収部と接する側に、水により膨潤する性質のある高分子物質と、粉末若しくは固形状の酸若しくは塩基から選ばれる薬剤と、該薬剤の水溶液のpHにより変色する染料とを混合した混合物を溶融塗布した使い捨ておむつの発明が開示されている。
【0010】
しかしながら、この発明においては、粉末若しくは固形状の酸若しくは塩基の尿による水溶液でpH指示薬(染料)を呈色させるものであるから、肌接触用途の場合は安全性が危惧され、また水分接触でpH指示薬(染料)は拡散するので十分な発色濃度が得られ難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許4597001号公報
【特許文献2】特開2002-200423号公報
【特許文献3】特許3396971号公報
【特許文献4】特開2008-111774号公報
【特許文献5】特許5996400号公報
【特許文献6】特開昭55-36326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、水又は水を含有する液体によって可及的に明確に変色し得る組成物及び着色剤、その着色剤の製造方法、その着色剤が保持された変色可能体、前記着色剤が配合された水分検知材及び着色用材料、並びにその着色用材料が適用されて前記着色剤が固着した変色可能体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、例えば次のように表すことができる。
【0014】
(1) 少なくとも電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物及び前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物による呈色を妨げる作用を有する呈色調整剤からなる組成物であって、
前記呈色調整剤は親水性を有するものであり、
水又は水を含有する液体によって変色し得るものであることを特徴とする組成物。
【0015】
(2) 上記電子受容性化合物と呈色調整剤の溶解度パラメーター(δ)の差がプラスマイナス3以内である上記(1)記載の組成物。
【0016】
(3) 上記呈色調整剤の水に対する溶解度(g/100gHO)が、使用環境温度において100以上である上記(1)又は(2)記載の組成物。
【0017】
(4) 上記呈色調整剤の20℃における蒸気圧が0.01mmHg以下である上記(1)乃至(3)の何れか1項に記載の組成物。
【0018】
(5) 上記(1)乃至(4)の何れか1項に記載の組成物が所定微小体に保持又は担持されてなり、水又は水を含有する液体によって変色し得るものであり、
前記所定微小体は、前記保持又は担持している組成物に水又は水を含有する液体が接し得るものであることを特徴とする着色剤。
【0019】
(6) 上記所定微小体が多孔性物質である上記(5)記載の着色剤。
【0020】
(7) 上記多孔性物質の細孔容積が0.3cm/g以上である上記(6)記載の着色剤。
【0021】
(8) 上記多孔性物質の平均細孔径が20オングストローム以上である上記(6)又は(7)記載の着色剤。
【0022】
(9) 上記所定微小体に保持又は担持されている組成物が、使用環境において固体又は粘稠体である上記(5)乃至(8)の何れか1項に記載の着色剤。
【0023】
(10) 少なくとも電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物及び前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物による呈色を妨げる作用を有する呈色調整剤を、溶融及び溶解の一方又は両方により液状化した組成物とすることと、
その液状化した組成物を所定微小体に適用し、その組成物が固化した状態又は粘稠体となった状態で前記所定微小体に保持又は担持させることを含む上記(9)記載の着色剤の製造方法。
【0024】
(11) 上記(5)乃至(9)の何れか1項に記載の着色剤が少なくとも表面部に保持され、水又は水を含有する液体により変色し得る変色可能体。
【0025】
(12) 吸水性樹脂粉末又はその他の吸水性材料に上記(5)乃至(9)の何れか1項に記載の着色剤が配合された水分検知材。
【0026】
(13) 溶媒及び分散媒の一方又は両方と、対象物に固着するための固着用樹脂を含む、非水溶性ビヒクルに、少なくとも上記(5)乃至(9)の何れか1項に記載の着色剤が配合されてなる着色用材料。
【0027】
(14) 上記(13)記載の着色用材料が適用されて少なくとも上記着色剤が固着した、水又は水を含有する液体により変色し得る変色可能体。
【発明の効果】
【0028】
本発明の組成物及び着色剤は、水又は水を含有する液体によって変色し得る。そのため、本発明の組成物又は着色剤の変色を、水又は水を含有する液体の検知に利用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施するための形態を説明する。
【0030】
本発明の組成物は、少なくとも電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物及び前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物による呈色を妨げる作用を有する呈色調整剤からなる組成物であって、前記呈色調整剤は親水性を有するものであり、水又は水を含有する液体によって変色し得るものである。
【0031】
また本発明の着色剤は、前記本発明の組成物が所定微小体に保持又は担持されてなり、水又は水を含有する液体によって変色し得るものであり、前記所定微小体は、前記保持又は担持している組成物に水又は水を含有する液体が接し得るものである。
【0032】
(1) 電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物は、両者の間で電子の授受が行われることにより呈色するが、第三の成分としての溶媒が存在すると電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の結合は切断され消色状態となる。
【0033】
従来の一般的な感温変色性色素の場合は、第三の成分としての溶媒が融点以上の液体状態ではその電子の結合は切断されて消色状態となり、融点以下の固体状態では電子の授受による結合がなされ呈色することが知られている。すなわち、電子の授受が可逆的に生じることにより可逆的に変色する。
【0034】
一方、本発明は、少なくとも電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と呈色調整剤の3成分からなる組成物において、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色が前記呈色調整剤の作用により妨げられるが、その呈色調整剤が親水性を有するものであることにより、水又は水を含有する液体によって前記作用が抑えられ、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受により呈色することとなるという新たな知見に基づくものである。
【0035】
本発明の組成物又は本発明の着色剤における組成物は、上記少なくとも3成分からなるものであり、それらの3成分以外のものを含んでいたとしても、その3成分によって、水又は水を含有する液体により変色し得るものである。
【0036】
(2) 電子供与性呈色性有機化合物
【0037】
電子供与性呈色性有機化合物は、電子受容性化合物(顕色性物質)と呈色反応を生起して呈色する成分であり、ロイコ色素として知られているものが代表的な電子供与性呈色性有機化合物である。
【0038】
電子供与性呈色性有機化合物としては、例えば、感圧複写紙用色素又は感熱記録紙用色素として知られているロイコ色素や、その他の感温変色性組成物を構成するものとして従来公知のロイコ色素を用いることができるが、これらに限るものではない。
【0039】
使用し得る電子供与性呈色性有機化合物の具体例としては、トリフェニルメタンフタリド系、フルオラン系、フェノチアジン系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系、スピロピラン系、ローダミンラクタム系、トリフェニルメタン系、トリアゼン系、スピロフタランキサンテン系、ナフトラクタム系、アゾメチン系の各化合物が挙げられる。
【0040】
電子供与性呈色性有機化合物のより具体的な例としては、
3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジブトキシフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-クロロフルオラン、3-ジエチルアミノ-7フェニルアミノフルオラン、3-クロロ-6-フェニルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6,8-ジメチルフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-クロロフルオラン、3,3ビス(1-n-ブチル-2-メチル-インドール-3イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノフェノール)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチル)フェニル-3-(1,2-ジメチルインドール-3-イル)フタリド、3-ジエチルアミノ-7,8-ベンゾフラン、6-(ジメチルアミノ)-3,3-ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフラン、3-(2-メチル-4ジエチルアミノフェノール)-3-(1-メチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、2-(N-フェニル-N-メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェノール)-3-(1-エチル-2-メトキシインドール-3-イル)-4-アザフタリド、7-(4-ジエチルアミノ-2-ヘキシルオキシ-フェニル)-7-(1-エチル-2-メチル-1H-インドール-3-イル)-7H-フロ(3,4-b)ピリジン-5-ワン、3,3-ビス(p-ジエチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3,3’-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)フタリド、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、3-シクロヘキシルアミノ-6-クロロフルオラン、スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9’-[9H]キサンテン]-3-ワン,6’(プロピルメチルアミノ)-3’-メチル-2’-フェニルアミノ、3-ブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9’-[9H]キサンテン]-3-ワン,6’-(イソブチルエチルアミノ)-3’-メチル-2’-フェニルアミノ、スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9’-[9H]キサンテン]-3-ワン,6’-(シクロヘキシルメチルアミノ)-3’-メチル-2’-フェニルアミノ、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-クロロ-アニリノフルオラン、2’-(2-クロロアニリノ)-6’-ジブチルアミノスピロ(フタリド-3,9’-キサンテン)、3,3ビス(1-エチル-2-メチル-インドール-3-イル)フタリド、3-(4-エチルフェノール)アミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3,6-ビスジフェニルアミノフルオラン、5’-クロロ-6’-メチル-3,6-ビスジフェニルアミノフルオラン、2-(ジブチルアミノ)-8-(ジエチルアミノ)-4-メチルスピロ[5H-(1)ベンゾピラノ(2,3-d)ピリミジン-5,1’(3’H)-イソベンゾフラン]-3’-オン、3,3-ビス(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-4-アザフタリド
等を挙げることができるが、これらに限るものではない。
【0041】
本発明における上記少なくとも3成分からなる組成物は、その成分として電子供与性呈色性有機化合物を何れか1種用いるか又は2種以上組み合わせて用いることにより、前記組成物の発色状態の色相を任意に調整することができる。
【0042】
(3) 電子受容性化合物
【0043】
電子受容性化合物(顕色性物質)は、ロイコ色素等の電子供与性呈色性有機化合物との呈色反応により呈色するようにするための成分である。
【0044】
電子受容性化合物(顕色性物質)としては、例えば、感圧複写紙用顕色剤、感熱記録紙用顕色剤、感温変色性組成物用顕色剤として従来知られているものや、その他の有機系顕色性物質、その他の酸顕色性物質を用いることができ、具体例としては、ビスフェノール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体等の親油性を有する物質を挙げることができる。
【0045】
電子受容性化合物(顕色性物質)のより具体的な例としては、5-ブチルベンゾトリアゾール、ビスベンゾトリアゾール-5-メタン、1,1’-ビフェニル-4,4’-ジオール、o-メチレンビスフェノール、p-メチレンビスフェノール、2,2’-ビスフェノール、4,4’-イソプロピリデンジフェノール、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルフェート、4,4’-(2-エチルヘキシリデン)ビスフェノール、4,4’-ヘキシリデンビスフェノール、4,4’-オクチリデンビスフェノール、4,4’-(4-メチルオクチリデン)ビスフェノール、4,4’-デシリデンビスフェノール、4,4’-(1,3-ジメチルブチリデン)ビスフェノール、4,4’-(1,5-ジメチルヘキシリデン)ビスフェノール、4,4’-(1-メチル-4-メチルヘプチリデン)ビスフェノール、4,4’-(2-エチル-ヘキシリデン)ビスフェノール、4,4’-(1-エチル-オクチリデン)ビスフェノール、4,4’-エチリデンビスフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチルフェノール)、4,4’-(1-メチル-エチリデン)ビス(2-メチルフェノール)、4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノール、4,4’-(1-フェニルエチリデン)ビスフェノール、4,4’-(1-メチル-プロピリデン)ビスフェノール、4,4’-(2-メチル-プロピリデン)ビスフェノール、4,4’-シクロペンチリデンビスフェノール、4,4’-(フェニルメチレン)ビスフェノール、ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、4-ヒドロキシ-4-イソプロポキシジフェニルスルホン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン、パラオキシ安息香酸、没食子酸、ハイドロキノン等を挙げることができるが、これらに限るものではない。
【0046】
本発明における上記少なくとも3成分からなる組成物は、その成分として電子受容性化合物(顕色性物質)を何れか1種用いるか又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0047】
(4) 呈色調整剤
【0048】
(4-1) 呈色調整剤は、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物による呈色を妨げる作用を有するものであり、本発明における上記少なくとも3成分からなる組成物において、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる作用(減感作用)を有する。その一方において、この呈色調整剤が親水性を有するものであることにより、前記組成物における呈色調整剤の前記作用は、水又は水を含有する液体によって抑えられ、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を生じ、組成物が変色することとなる。
【0049】
(4-2) 「電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる呈色調整剤の作用が、水又は水を含有する液体によって抑えられる」というのは、上記組成物が水又は水を含有する液体と接することや水又は水を含有する液体に濡れることにより、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる呈色調整剤の作用が抑えられることを意味する。呈色調整剤の親水性が温度によって変化する場合において親水性が低い状態においては、上記組成物が水又は水を含有する液体と接し或いは水又は水を含有する液体に濡れても、前記呈色調整剤の作用が抑えられないこと又は抑える程度が低いこともあり得る。なお、前記呈色調整剤の作用は、上記組成物の周囲の空気等の湿度変化のみによっては抑え難いものと考えられる。
【0050】
(4-3) 呈色調整剤は、本発明における水又は水を含有する液体による変色機能の根幹にかかわる成分であり、親水性を有することを要する。
【0051】
本発明の組成物又は着色剤の、水又は水を含有する液体による変色(特にその視認性)を明確なものとする上で、電子受容性化合物と呈色調整剤の溶解度パラメーター(δ)の差は、例えばプラスマイナス3以内とすることができる。好ましくはプラスマイナス2以内、より好ましくはプラスマイナス1.5以内である。
【0052】
すなわち、電子受容性化合物(顕色性物質)と呈色調整剤を、両者の溶解度パラメーター(δ)が互いに可及的に近い値であるものとすることにより、本発明における上記少なくとも3成分からなる組成物において、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる呈色調整剤の作用(減感作用)を可及的に高めることができる。これにより、前記組成物の、水又は水を含有する液体による変色前の状態における電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を可及的に防ぐことができ、水又は水を含有する液体によって電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受により呈色状態となった場合との差異(変色、特にその視認性)を、明確なものとすることができる。
【0053】
(4-5) 溶解度パラメーター(SP値)(δ)[単位:(cal/cm1/2]は下記式[1]に従ってFedors法により計算することができる。
δ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2 ....[1]
[式[1]中、"Δei"は、原子及び原子団の蒸発エネルギー(cal/mol)、"Δvi"は、モル体積(cm/mol)である。なお、計算に必要な原子及び原子団の各パラメーターは、R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.14,147(1974)を参照する。]
【0054】
(4-6) また、本発明の組成物又は着色剤の、水又は水を含有する液体による変色(特にその視認性)を明確なものとする上で、呈色調整剤は、水に対する溶解度(g/100gH2O)が、少なくとも本発明の組成物又は着色剤の使用環境温度(少なくとも水又は水を含有する液体が存在し得る温度であり、例えば、常温、1乃至40℃、5乃至30℃、40乃至80℃、60乃至90℃、0乃至100℃等)において、100以上であるものを用いることが好ましい。より好ましくは200以上、更に好ましくは無限大である。なお、使用環境というのは、例えば、水若しくは水を含有する液体による本発明の組成物又は着色剤の変色が求められる環境である。
【0055】
呈色調整剤として、水に対する溶解度が可及的に高いものを用いることにより、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる呈色調整剤の作用(減感作用)が、水又は水を含有する液体によって可及的に効果的に抑えられ、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を可及的に効果的に生じさせる(例えば、高い濃度で発色させる)こととなるので、水又は水を含有する液体によって変色する前の状態との差異(変色、特にその視認性)を、より明確なものとすることができる。
【0056】
なお、本発明の組成物又は本発明の着色剤における組成物に水又は水を含有する液体が接し又は水又は水を含有する液体に前記組成物が濡れて変色する場合のメカニズムについては、例えば、その組成物中の呈色調整剤の水に対する溶解度(g/100gH2O)が100以上である場合のように十分に大きい場合に、その呈色調整剤が水と接することにより溶解度パラメーターが大きい水(δ=23.4)との混合溶媒となり、その結果、その混合溶媒と電子受容性化合物の溶解度パラメーター(δ)の差が開き、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる呈色調整剤の作用(減感作用)が働かなくなるために変色が生じるものと考えることができるが、本発明は、このメカニズムの説明に従うものと限るものではない。
【0057】
(4-7) 呈色調整剤の具体例としては、
1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール1000、ポリエチレングリコール2000、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000、ポリプロピレングリコール20000、ポリプロピレングリコール400、ポリプロピレングリコール750、1,3プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール、1,3シクロヘキサンジオール等が挙げられるがこれらに限るものではない。
【0058】
本発明における上記少なくとも3成分からなる組成物は、その成分として、呈色調整剤を何れか1種用いるか又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0059】
(4-8) また、呈色調整剤として、蒸気圧が20℃で0.01mmHg以下のものを用いることにより、日常環境で揮発することが十分に防がれ、本発明の組成物又は着色剤が水又は水を含有する液体によって変色する機能を長期にわたり安定的に維持することができる。
【0060】
呈色調整剤は、本発明の組成物又は着色剤の使用環境温度において、単体の場合に液体であるものであっても、固体であるものであっても、塑性若しくは流動性を有するものであってもよい。
【0061】
(5) 所定微小体
【0062】
(5-1) 本発明の着色剤における所定微小体は、上記少なくとも電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と呈色調整剤からなる組成物を保持又は担持して、水又は水を含有する液体によって変色し得る着色剤を構成するためのものであり、前記保持又は担持している組成物に水又は水を含有する液体が接し得るものである。
【0063】
このような所定微小体の例としては、粉末状の多孔性物質等の微小体としての多孔性物質のように、多数の細孔等に保持又は担持している前記組成物に外部の水又は水を含有する液体が直接又は細孔を通じて接し得るものや、多孔性のマイクロカプセルのように、内部に保持又は担持された前記組成物に、外部の、水又は水を含有する液体が、多数の細孔を通じて接し得るものを挙げることができる。尤も、本発明において用い得る所定微小体はこれらに限るものではない。
【0064】
このように前記少なくとも3成分からなる組成物が所定微小体に担持されてなる着色剤とすることにより、前記組成物の組成を個々の所定微小体において保ちながら、水又は水を含有する液体によって安定的に且つ可及的に速やかに変色し得るものすることができる。なお、所定微小体は、保持又は担持した前記組成物の変色が可及的にはっきりと表れるもの、特に明確に視認されるものとする上で、無色、白色又は淡色であることや透明性を有することが好ましいが、これらに限るものではない。
【0065】
(5-2) 本発明の着色剤において、前記組成物は、固体の状態で所定微小体に保持又は担持されていることが好ましいが、これに限らず、例えば、粘稠体やその他の塑性若しくは流動性を有する状態で所定微小体に保持又は担持(例えば粉末状の多孔性物質の多数の細孔に吸着・付着若しくは含浸、又は、多孔性のマイクロカプセルに内包)されているものであってもよい。
【0066】
本発明の着色剤は、少なくとも電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と呈色調整剤を、例えば、加熱溶融溶解により又は加熱溶融混合により又は加熱溶解により、好ましくは液状の組成物として、又は、その他の塑性若しくは流動性を有する状態の組成物として、所定微小体に適用した後(例えば組成物を所定微小体に付着、吸着、含浸又は内包させた後)、使用環境(例えば使用環境温度)において、所定微小体に、好ましくは固体として、保持又は担持した状態としたもの、又は、例えば粘稠体やその他の塑性若しくは流動性を有する状態で、保持又は担持(例えば付着、吸着、含浸又は内包)した状態としたものとすることができる。
【0067】
(5-3) 本発明の着色剤における所定微小体の好ましい例としては、粉末状の多孔性物質等の多孔性物質を挙げることができる。
【0068】
(a) 所定微小体としての多孔性物質の細孔容積及び細孔径の一方又は両方は、少なくとも電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と呈色調整剤からなる組成物が、多孔性物質に安定的に担持され、水又は水を含有する液体による電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受によって生じる呈色が効果的に視認される(例えば、高い濃度で視認される)ものとする上で、次のようなものとすることが好ましい。
【0069】
すなわち、多孔性物質の細孔容積は、0.3cm/g以上であることが好ましい。より好ましくは0.4cm/g以上、更に好ましくは0.5cm/g以上である。
【0070】
また、多孔性物質の細孔径は、20オングストローム以上であることが好ましい。より好ましくは50オングストローム以上、更に好ましくは100オングストローム以上である。
【0071】
(b) 本発明の着色剤における多孔性物質としては、例えば、
ミズカシルP-78D(「ミズカシル」は水澤化学工業株式会社の商標)、ミズカシル78A、ミズカシルP707、ミズカシルC-444、ミズカシルNo30、ミズカシルP58C、ミズカシル758C、サイリシア350(「サイリシア」は富士シリシア化学株式会社の商標)、サイリシア420、サイリシア430、ゴッドボールE-90C(「ゴッドボール」は鈴木油脂工業株式会社の商標)、ゴッドボールD11C、ゴッドボールSF-16C、ゴッドボールG-6C、ゴッドボールB-6C、ゴッドボールB-25CなどのSiO(二酸化ケイ素);
ミズカエース300(「ミズカエース」は水澤化学工業株式会社の商標)などの酸性白土;
SIPERNAT820A(「SIPERNAT」はEvonik社の商標)、ガレオンニュートラルD2-Y(「ガレオン」は水澤化学工業株式会社の商標)などのSiO/Al(二酸化ケイ素/アルミナ複合体)
の他、珪藻土類、ベントナイト類、クレー類などを用いることができるが、これらに限るものではない。
【0072】
本発明の着色剤における多孔性物質としては、何れか1種を用いるか又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0073】
(c) 所定微小体が多孔性物質である場合の本発明の着色剤は、例えば、少なくとも電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と呈色調整剤を、例えば、加熱溶融溶解により又は加熱溶融混合により又は加熱溶解により、好ましくは液状の組成物として、又は、その他の塑性若しくは流動性を有する状態の組成物として、所定微小体としての多孔性物質に付着、吸着又は含浸等させた後、使用環境において、多孔性物質に、好ましくは固体として保持又は担持(例えば付着若しくは吸着)した状態としたもの、又は、例えば、粘稠体やその他の塑性若しくは流動性を有する状態で保持又は担持(例えば付着、吸着若しくは含浸)した状態としたものとすることができる。
【0074】
前記少なくとも3成分からなる組成物を所定微小体としての多孔性物質に付着、吸着又は含浸等させて保持又は担持させる操作は、例えば、前記少なくとも3成分を、加熱溶融溶解又は加熱溶融混合又は加熱溶解により液状(又は、その他の塑性若しくは流動性を有する状態)として、継続的に攪拌している粉末状の多孔性物質等の所定微小体としての多孔性物質群に対し加えることにより行うことができる。
【0075】
具体的には次のように行い得る。
【0076】
例えば、耐熱性容器内で電子供与性呈色性有機化合物1部並びに溶解度パラメーター(δ)の差がプラスマイナス2以内の電子受容性化合物3乃至5部及び呈色調整剤5乃至20部を100乃至160℃で加熱溶融して混合した組成物を準備し、細孔容積が0.3cm/g以上であり細孔径が20オングストローム以上の粉末状の多孔性物質を別の耐熱容器内で継続的に攪拌し、その容器内に前記加熱溶融状態の組成物を徐々に投入してその組成物を前記粉末状の多孔性物質群に吸着(又は含浸等)させて担持させることができる。
【0077】
或いは例えば、前記と同様の多孔性物質を耐熱性容器内で100乃至160℃に加熱しつつ継続的に撹拌し、これに対し、前記加熱溶融状態の組成物を徐々に投入してその組成物を前記粉末状の多孔性物質群に吸着(又は含浸等)させて担持させることができる。
【0078】
このような操作により、前記少なくとも3成分からなる組成物を粉末状の多孔性物質等の所定微小体としての多孔性物質群に保持又は担持させる場合に、保持又は担持させることができる最大量(飽和保持又は担持量)を超えていないか超えているかは、前記少なくとも3成分を、液状(又は、その他の塑性若しくは流動性を有する状態)として、継続的に攪拌している所定微小体としての多孔性物質群に対し加えた後、粉体等の微小体の群の状態であるか、否か(例えば、微小体群と液状物又はその他の塑性若しくは流動性を有する物との混合状態である、或いは、半流動体状であるか)、により判断し得る。なお、前記組成物の量が飽和保持又は担持量に達していない場合でも、前記組成物を所定微小体としての多孔性物質群に保持又は担持させるための攪拌等の操作が不十分な場合は、同様に粉体等の微小体の群の状態とならないことがあり得る。
【0079】
(d) 前記組成物を粉末状の多孔性物質等の所定微小体としての多孔性物質に保持又は担持させることができる最大量(飽和保持又は担持量)は、主に、多孔性物質の細孔容積と細孔径により異なるが、概ね、多孔性物質1部に対し前記組成物が0.5乃至1.5部の範囲の量である。
【0080】
本発明の着色剤が水又は水を含有する液体によって変色することによる変色前後の差異(特にその視認性)を可及的に明確なものとする上で、飽和保持又は担持量(又はそれに近い量、例えば飽和保持又は担持量の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上)の前記少なくとも3成分からなる組成物を粉末状の多孔性物質等の所定微小体としての多孔性物質に保持又は担持させたものとすることが好ましい。
【0081】
飽和保持又は担持量(或いは、前記組成物を所定微小体としての多孔性物質群に保持又は担持させるための攪拌等の操作が不十分な場合において飽和保持又は担持量よりも少ない量)の前記組成物を保持又は担持した所定微小体としての多孔性物質の群と、所定微小体としての多孔性物質に保持又は担持されていない前記組成物の混合状態である場合は、経時的に前記組成物がブリードする恐れや、空気中の湿度変化により生じる微量の水(液体)によって、前記組成物中の呈色調整剤が電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物による呈色を妨げる作用が不十分となってやや呈色した状態となる恐れがある。
【0082】
(6) 本発明の組成物、すなわち上記少なくとも電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と呈色調整剤からなる組成物は、水分による変色が生じない非変色性の顔料又は染料を含有するものとすることができる。
【0083】
この場合の本発明の組成物は、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色が前記呈色調整剤の作用により妨げられた状態においても、また、水又は水を含有する液体によって前記作用が抑えられ、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受により呈色した状態においても、前記非変色性の顔料又は染料による色が加わった状態となる。
【0084】
前記非変色性の顔料は、無機顔料でも有機顔料でもよく、例えば、黒色顔料としてのカーボンブラック顔料、酸化鉄顔料等;赤色顔料としてのアゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、クロモフタル系顔料、アンスラキノン系顔料等;黄色顔料としてのアゾ系顔料、イミダゾロン系顔料、チタン系顔料等;オレンジ顔料としてのインダンスレン系顔料、アゾ系顔料等;青色又は緑色顔料としてのフタロシアニン系顔料等;紫色顔料としてのジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料等を用いることができるが、これらに限るものではない。
【0085】
前記非変色性の染料としては、分散染料、酸性染料、カチオン染料等を用いることができるが、これらに限るものではない。
【0086】
前記非変色性の顔料又は染料は、前記組成物を構成する呈色調整剤に予め分散又は溶解させた状態で用いることが好ましい。
【0087】
また、前記非変色性の顔料又は染料の使用量は、本発明の組成物又は本発明の着色剤の水又は水を含有する液体による変色の視認性を阻害しない範囲とすることが好ましい。具体的には、本発明の組成物100部に対し概ね0.0001乃至1部の範囲で配合するのが好ましい。
【0088】
(7) 本発明の着色剤の用法・用途等
【0089】
(7-1) 本発明の着色剤は、例えば、
所要の対象物(紙や合成樹脂製フィルム等のシート状物品、木・合成樹脂・金属若しくはその他の材料製の板状物品又はその他の形状の物)に視認し得るように着色剤が固着した形態(様々な配置の複数の部分又は列状・格子状若しくはマトリックス状に配列した部分にそれぞれ同一又は異なる着色剤が固着したものを含む)、
水分が浸透し得ると共に外部から視認し得る保持体(例えば、袋、容器、シート状・板状若しくはその他の形態の材料同士の間隙)に着色剤が封入された形態(様々な配置の複数の保持体又は列状・格子状若しくはマトリックス状に配列した保持体にそれぞれ同一又は異なる着色剤が封入されたものを含む)、
吸水性樹脂粉末等の吸水性材料に混合した形態、
水を加えて混合又は混練することができる材料に混合した形態等
で保持された状態で用いることができるが、これらに限るものではない。
【0090】
(7-2) このように様々な形態で本発明の着色剤が保持されたものの用途としては、例えば、
シート状水分の検知;
物品が水に濡れたことや水に浸かったこと(水没)の検知;
水又は水を含有する液体の水位の表示;
衣類、帽子、手袋、靴下、履物、傘、各種雑貨、玩具、建造物の壁面・屋根、歩道や車道等の道路等に(例えば少なくともそれらの物の表面部に)本発明の着色剤が保持され、水分により変色するもの(変色により例えば文字・記号・図形・絵等が表れるものを含む);
紙や合成樹脂製フィルム等のシート状物品、木・合成樹脂・金属若しくはその他の材料製の板状物品又はその他の形状の物の表面部に本発明の着色剤が保持され、水又は水を含有する液体により(例えば、指で、或いは、水又は水を含有する液体を所要部分に供給し得るペン、筆、刷毛、インクジェット印刷装置を用いて)所要部分を同一の着色剤による一定の色又は異なる着色剤による複数種の異なる色に変色させて文字を書いたり絵を描くこと等ができるもの;
使い捨ておむつやその他の吸水用物品の吸水部に用いられる吸水性樹脂粉末等の一部又は全部に着色剤を混合させ、又は、吸水用物品の吸水部を覆う防水シート部の一部又は全体に着色剤を固着させることにより、尿の排泄等による水分を視認し得るもの;
小麦粉粘土粉末(又はその他の粘土材料)に一種類又は複数種の着色剤が配合され、白色または淡色の小麦粉粘土粉末(又はその他の粘土材料)に水を加えて粘土状に加工することにより、又は後で水を加えて混練することにより、単色若しくは種々の色が混じった色の小麦粉粘土(又はその他の粘土材料)又は単色若しくは種々の色が混じった色に変色する小麦粉粘土(又はその他の粘土材料)が得られるもの;
シリコンパテ粘土(又はその他の粘土)に一種類又は複数種の着色剤が配合され、白色または淡色のシリコンパテ粘土(又はその他の粘土)を混練したものに、水を塗布し又は水を加えて再混練することにより、単色若しくは種々の色が混じった色のシリコンパテ粘土(又はその他の粘土)が得られるもの
を挙げることができるが、これらに限るものではない。
【0091】
(7-3) 少なくとも本発明の着色剤を、溶媒及び分散媒の一方又は両方と、対象物に固着するための固着用樹脂を含む、非水溶性ビヒクルに配合することにより、少なくとも本発明の着色剤を含有する印刷インク(例えばグラビア印刷インク、フレキソ印刷インク、オフセット印刷インク、スクリーン印刷インク、インクジェットインク)、塗料又はコーティング材料等の着色用材料を得ることができる。
【0092】
この印刷インク、塗料又はコーティング材料等の着色用材料を対象物(例えば対象物の表面部)に適用することにより、少なくとも本発明の着色剤を対象物(例えば、紙や合成樹脂製フィルム等のシート状物品、木・合成樹脂・金属若しくはその他の材料製の板状物品又はその他の形状の物の表面部)に固着させ、水又は水を含有する液体により変色し得る変色可能体が得られる。
【0093】
本発明の着色剤を配合する前記ビヒクルは、非水溶性である。水溶性ビヒクルの場合、本発明の着色剤を配合すると、その時点で本発明の着色剤が水分により変色するので、使用すべきでない。
【0094】
非水溶性ビヒクルに用いる固着用樹脂としては、例えば、親油性有機溶剤に可溶なポリエステル樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ロジン酸エステル樹脂等(これらに限るものではない。)の何れか一種を用いるか又は二種以上を混合して用いることができる。このような固着用樹脂を、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤等の親油性有機溶剤に溶解させることにより、ビヒクルが得られる。
【0095】
また非水溶性ビヒクルには、消泡剤、増粘剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、吸湿剤、水分による変色が生じない非変色性の有機若しくは無機顔料又は染料等を配合することができる。
【0096】
得られた非水溶性ビヒクル100部に対し、本発明の着色剤を例えば1乃至50部配合することにより、印刷インク(例えばグラビア印刷インク、フレキソ印刷インク、オフセット印刷インク、スクリーン印刷インク、インクジェットインク)、塗料又はコーティング材料等の着色用材料が得られる。この着色用材料の粘度等の特性は、それぞれの印刷、塗装、コーティング等の方式や用途に適したものとする。
【実施例0097】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の説明中、部及び%はそれぞれ重量部及び重量%を意味する。
【0098】
[実施例1]
【0099】
容量1リットルの耐熱性ガラス容器内で
3-(4-ジエチルアミノフェノール)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3イル)フタリド[電子供与性呈色性有機化合物:青色ロイコ色素] 4部、
4,4’-(1,3-ジメチルブチリデン)ビスフェノール[電子受容性化合物:溶解度パラメーターδ1=11.88] 16部、
ポリエチレングリコール400[呈色調整剤:溶解度パラメーターδ2=11.1、蒸気圧9×10-5mmHg[100℃]、水に対する溶解度=∞] 36部
を混合した後、100℃に加熱して混合することにより液状の組成物を作成した(δ1-δ2=0.78)。
【0100】
次いで、別の容量2リットルの耐熱性ガラス容器に
ミズカシルP-78D[粉末状の白色の多孔性物質:水澤化学工業株式会社製SiO、細孔容積=1.7cm/g、平均細孔径=170オングストローム] 44部
を計量し、この粉末状の多孔性物質を110℃に加熱してミキサー撹拌しながら、この粉末状の多孔性物質に対し、前記100℃の液状の組成物を徐々に投入し且つ十分に攪拌することによって、前記組成物が多孔性物質に担持された白色の粉体を得た。
【0101】
かくして得られた白色の粉体は、水(液体)を供給すると、瞬時に白色から濃い青色に変色する粉末着色剤であることが確認された。
【0102】
得られた白色の粉体を水に触れさせずに常温で1年間保管したところ、白色のままであり、これに水(液体)を供給すると、瞬時に白色から濃い青色に変色し、経時的な変化は認められなかった。
【0103】
結果を表1に示す。
【0104】
[実施例2]
【0105】
容量1リットルの耐熱性ガラス容器内で
2-(N-フェニル-N-メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン[電子供与性呈色性有機化合物:緑色ロイコ色素] 3.5部、
4,4’-(1-フェニルエチリデン)ビスフェノール[電子受容性化合物:溶解度パラメーターδ1=12.34] 15部、
ポリエチレングリコール200[呈色調整剤:溶解度パラメーターδ2=12.76、蒸気圧0.000075mmHg[20℃]、水に対する溶解度=∞] 37.5部
を混合した後、100℃に加熱して混合することにより液状の組成物を作成した(δ1-δ2=-0.42)。
【0106】
次いで、別の容量2リットルの耐熱性ガラス容器に
ミズカシルP-78D[粉末状の白色の多孔性物質:水澤化学工業株式会社製SiO、細孔容積=1.7cm/g、平均細孔径=170オングストローム] 44部
を計量し、この粉末状の多孔性物質を110℃に加熱してミキサー撹拌しながら、この粉末状の多孔性物質に対し、前記100℃の液状の組成物を徐々に投入し且つ十分に攪拌することによって、前記組成物が多孔性物質に担持された白色の粉体を得た。
【0107】
かくして得られた白色の粉体は、水(液体)を供給すると、瞬時に白色から濃い緑色に変色する粉末着色剤であることが確認された。
【0108】
得られた白色の粉体を水に触れさせずに常温で1年間保管したところ、白色のままであり、これに水(液体)を供給すると、瞬時に白色から濃い緑色に変色し、経時的な変化は認められなかった。
【0109】
結果を表1に示す。
【0110】
[実施例3]
【0111】
容量1リットルの耐熱性ガラス容器内で
3-(4-ジエチルアミノフェノール)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3イル)フタリド[電子供与性呈色性有機化合物:青色ロイコ色素] 2.5部、
4,4’-(1,3-ジメチルブチリデン)ビスフェノール[電子受容性化合物:溶解度パラメーターδ1=11.88] 10部、
ポリエチレングリコール400[呈色調整剤:溶解度パラメーターδ2=11.1、蒸気圧9×10-5mmHg[100℃]、水に対する溶解度=∞] 32部
を混合した後、100℃に加熱して混合することにより液状の組成物を作成した(δ1-δ2=0.78)。
【0112】
次いで、別の容量2リットルの耐熱性ガラス容器に
SIPERNAT820A[粉末状の白色の多孔性物質:Evonik社製SiO/Al、細孔容積=0.47cm/g、平均細孔径=200オングストローム] 55.5部
を計量し、この粉末状の多孔性物質を110℃に加熱してミキサー撹拌しながら、この粉末状の多孔性物質に対し、前記100℃の液状の組成物を徐々に投入し且つ十分に攪拌することによって、前記組成物が多孔性物質に担持された白色の粉体を得た。
【0113】
かくして得られた白色の粉体は、水(液体)を供給すると、瞬時に白色から濃い青色に変色する粉末着色剤であることが確認された。
【0114】
得られた白色の粉体を水に触れさせずに常温で1年間保管したところ、白色のままであり、これに水(液体)を供給すると、瞬時に白色から濃い青色に変色し、経時的な変化は認められなかった。
【0115】
結果を表1に示す。
【0116】
[実施例4]
【0117】
容量1リットルの耐熱性ガラス容器内で
3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェノール)-3-(1-エチル-2-メトキシインドール-3-イル)-4-アザフタリド[電子供与性呈色性有機化合物:青色ロイコ色素] 3.5部、
4,4’-(2-エチルヘキシリデン)ビスフェノール[電子受容性化合物:溶解度パラメーターδ1=11.61] 13.5部、
トリプロピレングリコール[呈色調整剤:溶解度パラメーターδ2=12.06、蒸気圧0.00105mmHg[25℃]、水に対する溶解度=∞] 30部
を混合した後、100℃に加熱して混合することにより液状の組成物を作成した(δ1-δ2=-0.45)。
【0118】
次いで、別の容量2リットルの耐熱性ガラス容器に
ミズカシルC-444[粉末状の白色の多孔性物質:水澤化学工業株式会社製SiO、細孔容積=1.6cm/g、平均細孔径=180オングストローム] 53部
を計量し、この粉末状の多孔性物質を110℃に加熱してミキサー撹拌しながら、この粉末状の多孔性物質に対し、前記100℃の液状の組成物を徐々に投入し且つ十分に攪拌することによって、前記組成物が多孔性物質に担持された白色の粉体を得た。
【0119】
かくして得られた白色の粉体は、水(液体)を供給すると、瞬時に白色から濃い青色に変色する粉末着色剤であることが確認された。
【0120】
得られた白色の粉体を水に触れさせずに常温で1年間保管したところ、白色のままであり、これに水(液体)を供給すると、瞬時に白色から濃い青色に変色し、経時的な変化は認められなかった。
【0121】
結果を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
[比較例1]
【0124】
容量1リットルの耐熱性ガラス容器内で
3-(4-ジエチルアミノフェノール)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3イル)フタリド[電子供与性呈色性有機化合物:青色ロイコ色素] 4部、
4,4’-(1,3-ジメチルブチリデン)ビスフェノール[電子受容性化合物:溶解度パラメーターδ1=11.88] 16部、
プロピレングリコール[呈色調整剤:溶解度パラメーターδ2=15.91、蒸気圧0.08mmHg[20℃]、水に対する溶解度=∞] 36部
を混合した後、100℃に加熱して混合することにより液状の組成物を作成した(δ1-δ2=-4.03)。
【0125】
次いで、別の容量2リットルの耐熱性ガラス容器に
ミズカシルP-78D[粉末状の白色の多孔性物質:水澤化学工業株式会社製SiO、細孔容積=1.7cm/g、平均細孔径=170オングストローム] 44部
を計量し、この粉末状の多孔性物質を110℃に加熱してミキサー撹拌しながら、この粉末状の多孔性物質に対し、前記100℃の液状の組成物を徐々に投入し且つ十分に攪拌することによって、前記組成物が多孔性物質に担持された青色の粉体を得た。
【0126】
かくして得られた青色の粉体に水(液体)を供給すると、青色から濃い青色に変化したが、その変化の視認性は良くなかった。この点は、電子受容性化合物と呈色調整剤の溶解度パラメーター差が大きいことによるものと考えられる。
【0127】
得られた青色の粉体(水を供給していないもの)を水に触れさせずに常温で1年間保管したところ、青色が濃いものとなり、これに水(液体)を供給すると、より濃い青色に変色したが、その変化の視認性は更に低下した。このような経時的な変化は、呈色調整剤として使用したプロピレングリコールの蒸気圧が高いために経時的な揮発量が多いことによるものであると考えられる。
【0128】
結果を表2に示す。
【0129】
[比較例2]
【0130】
容量1リットルの耐熱性ガラス容器内で
3-(4-ジエチルアミノフェノール)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3イル)フタリド[電子供与性呈色性有機化合物:青色ロイコ色素] 4部、
4,4’-(1,3-ジメチルブチリデン)ビスフェノール[電子受容性化合物:溶解度パラメーターδ1=11.88] 16部、
ポリエチレングリコール20000[呈色調整剤:溶解度パラメーターδ2=9.41、蒸気圧7×10-3mmHg[20℃]未満、水に対する溶解度50以上] 36部
を混合した後、100℃に加熱して混合することにより液状の組成物を作成した(δ1-δ2=2.47)。
【0131】
次いで、別の容量2リットルの耐熱性ガラス容器に
ミズカシルP-78D[粉末状の白色の多孔性物質:水澤化学工業株式会社製SiO、細孔容積=1.7cm/g、平均細孔径=170オングストローム] 44部
を計量し、この粉末状の多孔性物質を110℃に加熱してミキサー撹拌しながら、この粉末状の多孔性物質に対し、前記100℃の液状の組成物を徐々に投入し且つ十分に攪拌することによって、前記組成物が多孔性物質に担持された薄い青色の粉体を得た。
【0132】
かくして得られた薄い青色の粉体に水(液体)を供給すると、薄い青色から濃い青色に変化したが、その変化の視認性は良好ではなかった。この点は、呈色調整剤であるポリエチレングリコール20000の水への溶解性が低いことと、電子受容性化合物と呈色調整剤の溶解度パラメーター差がやや大きいことによるものと考えられる。
【0133】
得られた薄い青色の粉体(水を供給していないもの)を水に触れさせずに常温で1年間保管したところ、保管前と同じ薄い青色のままであり、これに水(液体)を供給すると、保管前と同様に濃い青色に変色し、経時的な変化は認められなかった。
【0134】
結果を表2に示す。
【0135】
[比較例3]
【0136】
容量1リットルの耐熱性ガラス容器内で
3-(4-ジエチルアミノフェノール)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3イル)フタリド[電子供与性呈色性有機化合物:青色ロイコ色素] 4部、
4,4’-(1,3-ジメチルブチリデン)ビスフェノール[電子受容性化合物:溶解度パラメーターδ1=11.88] 16部、
ポリエチレングリコール400[呈色調整剤:溶解度パラメーターδ2=11.1、蒸気圧9×10-5mmHg[100℃]、水に対する溶解度=∞] 36部
を混合した後、100℃に加熱して混合することにより液状の組成物を作成した(δ1-δ2=0.78)。
【0137】
次いで、別の2Lの耐熱性ガラス容器に
ガレオンニュートラルD2-Y[粉末状の白色の多孔性物質:水澤化学工業株式会社製、SiO/Al、細孔容積=0.3cm/g、平均細孔径=2.3オングストローム] 44部
を計量し、この粉末状の多孔性物質を110℃に加熱してミキサー撹拌しながら、この粉末状の多孔性物質に対し、前記100℃の液状の組成物を徐々に投入し且つ攪拌したが、粉体とはならず粘土状若しくは塑性物状を呈していた。
【0138】
そこで、ガレオンニュートラルD2-Yを40部を追加して加熱攪拌することにより粉体状とはなったが、前記組成物が多孔性物質の細孔に吸着されずに多孔性物質の表面に塗されたような状態の薄い青色を呈するものであった。これに対し水(液体)を供給すると、青色がやや濃くなったが、実施例1の水(液体)供給後の粉体の濃い青色に比べてかなり薄い青色であり、変色の視認性が低く、水を検知するインジケーターとして使用できるものではなかった。
【0139】
この結果は、多孔性物質として使用したガレオンニュートラルD2-Yの平均細孔径が小さく、細孔容積も大きいものではないことから、前記組成物を細孔に十分に吸着して担持することができなかったことによるものであると考えられる。
【0140】
得られた薄い青色の粉体(水を供給していないもの)を水に触れさせずに常温で1年間保管したところ、保管前と同じ薄い青色のままであり、これに水(液体)を供給すると、保管前と同様に、やや濃くなった程度の薄い青色となった。このように、変色の視認性が低い点を含めて経時的な変化は認められなかった。
【0141】
結果を表2に示す。
【0142】
[比較例4]
【0143】
容量1リットルの耐熱性ガラス容器内で
2-(N-フェニル-N-メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン[電子供与性呈色性有機化合物:緑色ロイコ色素] 4部、
4,4’-(1,3-ジメチルブチリデン)ビスフェノール[電子受容性化合物:溶解度パラメーターδ1=11.88] 16部、
エチレングリコール[呈色調整剤:溶解度パラメーターδ2=17.83、蒸気圧0.05mmHg[20℃]、水に対する溶解度=∞] 36部
を混合した後、100℃に加熱して混合することにより液状の組成物を作成した(δ1-δ2=-5.95)。
【0144】
次いで、別の容量2リットルの耐熱性ガラス容器に
ミズカシルP-78D[粉末状の白色の多孔性物質:水澤化学工業株式会社製SiO、細孔容積=1.7cm/g、平均細孔径=170オングストローム] 44部
を計量し、この粉末状の多孔性物質を110℃に加熱してミキサー撹拌しながら、この粉末状の多孔性物質に対し、前記100℃の液状の組成物を徐々に投入し且つ十分に攪拌することによって、前記組成物が多孔性物質に担持された濃い緑色の粉体を得た。
【0145】
かくして得られた濃い緑色の粉体に水(液体)を供給すると、更に濃い緑色に変化したが、その変化の視認性は低いものであった。この点は、電子受容性化合物と呈色調整剤の溶解度パラメーター差が大きいことによるものと考えられる。
【0146】
得られた濃い緑色の粉体(水を供給していないもの)を水に触れさせずに常温で1年間保管したところ、濃い緑色が更に濃いものとなり、これに水(液体)を供給しても変色は確認できなかった。このような経時的な変化は、呈色調整剤として使用したエチレングリコールの蒸気圧が高いために経時的な揮発量が多いことによるものであると考えられる。
【0147】
結果を表2に示す。
【0148】
【表2】
【0149】
[実施例5]
【0150】
バイロン670(東洋紡STC株式会社製:飽和ポリエステル樹脂) 30部、キシレン 69部、TSE-350(モーメンティブ社製:消泡剤)1部からなる非水溶性ビヒクルに、実施例1により得られた粉末着色剤 30部を配合してスクリーン印刷用インクを作成した。
【0151】
このスクリーン印刷用インクを用いて、120メッシュスクリーン版で上質紙基材上の全面に2回重ねてプリントした。
【0152】
これを、60℃で乾燥させることにより、インク印刷面が全面白色の、紙製のインジケーターシートを得た。
【0153】
得られたインジケーターシートのインクが印刷された面に、水を含ませた毛筆でアルファベットのMの文字を書いたところ、濃い青色のMの文字が瞬時に表れた。
【0154】
[実施例6]
【0155】
アルコンM100(荒川化学工業株式会社製:石油樹脂)50部、トルエン 49部、TSE-350(モーメンティブ社製:消泡剤)1部からなる非水溶性ビヒクルに、実施例1により得られた粉末着色剤 50部とトルエン50部を配合してコーティング用インクを作成し、得られたインクを50μm厚のポリエステルフィルム基材上にワイヤーバーコーターを用いて50g/mの塗布量で塗工した。
【0156】
これを、50℃で乾燥させることにより、インク塗布面が全面白色の、ポリエステルフィルム製のインジケーターフィルムを得た。
【0157】
得られたインジケーターフィルムを1m×2cmに裁断し、貯水タンクの簡易水量計として用いたところ、インジケーターフィルムのインク塗布面のうち水位が到達した部分が濃い青色に変色した。
【0158】
[実施例7]
【0159】
バイロン670(東洋紡STC株式会社製:飽和ポリエステル樹脂) 20部、キシレン 49部、TSE-350(モーメンティブ社製:消泡剤)1部からなる非水溶性ビヒクルに、実施例1により得られた粉末着色剤 30部を配合してスクリーン印刷用インクを作成した。
【0160】
このスクリーン印刷用インクを用いて、直径1mmの水玉模様の120メッシュスクリーン版で、白色上質紙のステッカー基材上に水玉模様を印刷した。
【0161】
これを60℃で乾燥させた後、3cm×3cmにカットすることにより、白色上質紙ステッカー上に白色水玉模様が印刷された水没確認用ステッカーを得た。
【0162】
得られた水没確認用ステッカーを内部に貼り付けた電子機器を10分間水没させたところ、水没確認用ステッカーに印刷された白色の水玉模様が濃い青色の水玉模様に変化しており、水没を確認することができた。
【0163】
[実施例8]
【0164】
サンウェットIM-1000(三洋化成工業株式会社製:吸水性樹脂粉末) 99部と、実施例1により得られた粉末着色剤 1部を、パウダーブレンダー機で均一に混合した。
【0165】
得られた吸水性樹脂粉末混合物10部に対し、生理食塩水300部を排尿に代替して吸収させ、変色状況を確認した。その結果を表3に記す。
【0166】
[実施例9]
【0167】
実施例1により得られた粉末着色剤1部を、実施例2により得られた粉末着色剤1部に代えたこと以外は、実施例8と同様に処理し、変色状況を確認した。その結果を表3に記す。
【0168】
[実施例10]
【0169】
実施例1により得られた粉末着色剤1部を、実施例3により得られた粉末着色剤1部に代えたこと以外は、実施例8と同様に処理し、変色状況を確認した。その結果を表3に記す。
【0170】
[実施例11]
【0171】
実施例1により得られた粉末着色剤1部を、実施例4により得られた粉末着色剤1部に代えたこと以外は、実施例8と同様に処理し、変色状況を確認した。その結果を表3に記す。
【0172】
[実施例12]
【0173】
実施例8で得られた吸水性樹脂粉末混合物を使い捨ておむつの吸水層に用いたものについて実際に着用試験を行ったところ、排尿により使い捨ておむつの外側フィルムを介して白色の吸水層が濃い青色に変化したことを視認することができ、排尿のインジケーター機能を有する使い捨ておむつであることが確認できた。
【0174】
[比較例5]
【0175】
実施例1により得られた粉末着色剤1部を、比較例1により得られた粉末着色剤1部に代えたこと以外は、実施例8と同様に処理し、変色状況を確認した。その結果を表3に記す。
【0176】
[比較例6]
【0177】
実施例1により得られた粉末着色剤1部を、比較例2により得られた粉末着色剤1部に代えたこと以外は、実施例8と同様に処理し、変色状況を確認した。その結果を表3に記す。
【0178】
[比較例7]
【0179】
実施例1により得られた粉末着色剤1部を、比較例3により得られた粉末着色剤1部に代えたこと以外は、実施例8と同様に処理し、変色状況を確認した。その結果を表3に記す。
【0180】
[比較例8]
【0181】
実施例1により得られた粉末着色剤1部を、比較例4により得られた粉末着色剤1部に代えたこと以外は、実施例8と同様に処理し、変色状況を確認した。その結果を表3に記す。
【0182】
【表3】
【0183】
(評価基準)
○視認性に優れる
×視認性に劣る
××極めて視認性に劣る
【手続補正書】
【提出日】2023-04-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも電子供与性呈色性有機化合物及び電子受容性化合物と呈色調整剤からなり、対象物に適用して水又は水を含有する液体を検知するための組成物であって、
前記呈色調整剤は、親水性で、水分がない場合には、前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる作用を発揮する一方、水又は水を含有する液体によって、当該電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる作用が抑えられるものであり、
水を含有させることなく前記組成物が対象物に適用された場合には、当該組成物は、前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色が前記呈色調整剤により妨げられた状態で対象物に適用され、検知対象である水又は水を含有する液体によって、当該組成物における前記呈色調整剤の前記電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物の間の電子の授受による呈色を妨げる作用が抑えられることにより、当該電子供与性呈色性有機化合物が電子受容性化合物との間の電子の授受により呈色し、当該水又は水を含有する液体を検知し得るものであり、
対象物に適用する前記組成物に水を含有させた場合、当該含有させた水によって、対象物に適用する前の当該組成物における電子供与性呈色性有機化合物が、電子受容性化合物との電子の授受により呈色した状態となるものであることを特徴とする組成物。