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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068254
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】植生袋および植生マット
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/50 20180101AFI20230510BHJP
【FI】
A01G24/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179162
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000226747
【氏名又は名称】日新産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友人
(72)【発明者】
【氏名】石田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】長沼 寛
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AB02
2B022AB20
2B022BB05
(57)【要約】
【課題】保水性を改善し、地面または法面をより効果的に緑化することを可能とする植生袋を提供する。
【解決手段】植生袋100は、地面側に配置される底壁部102、および、地面の反対側の上方に配置される頂壁部104を有する袋体101と、袋体101に内包される植生材料111と、を備える。頂壁部104は、遮水性を有する遮水領域105を含む。袋体101の遮水領域105以外の部位が、透水性を有する透水領域103を含み、遮水領域105が植生材料111を上方から覆うように延在する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑化すべき地面に設置される植生袋であって、
地面側に配置される底壁部、および、地面の反対側の上方に配置される頂壁部を有する袋体と、
前記袋体に内包される植生材料と、を備え、
前記頂壁部は、遮水性を有する遮水領域を含み、前記袋体の前記遮水領域以外の部位が、透水性を有する透水領域を含み、前記遮水領域が前記植生材料を上方から覆うように延在することを特徴とする植生袋。
【請求項2】
前記遮水領域は、遮水性および断熱性を有する遮水シートによって形成されることを特徴とする請求項1に記載の植生袋。
【請求項3】
前記遮水シートは、発泡樹脂材料からなることを特徴とする請求項2に記載の植生袋。
【請求項4】
前記頂壁部の表面積の60%以上に前記遮水領域が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の植生袋。
【請求項5】
前記袋体の側方を向く部位に前記透水領域が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の植生袋。
【請求項6】
法面緑化に使用される植生マットであって、
請求項1から5のいずれか一項に記載の1または複数の植生袋と、
縦横に平面状に延在し、前記地面に敷設される透水性の植生シートと、を備え、
前記1または複数の植生袋が前記植生シートに装着されていることを特徴とする植生マット。
【請求項7】
法面緑化に使用される植生マットであって、
縦横に平面状に延在して地面に敷設される透水性の植生シートと、
前記植生シートの表面側の所定領域に保持される植生材料と、を備え、
前記植生マットには、遮水性を有する遮水領域、および、透水性を有する透水領域が形成され、前記遮水領域が前記植生材料を上方から覆うように延在することを特徴とする植生マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面などの地面を緑化するための植生袋および植生マットに関する。
【背景技術】
【0002】
各種法面や新規造成地等の施工面においては、その緑化を積極的に行って、法面等の美化と共に土砂の流失を防止することが行われている。従来、法面を緑化すべく、土壌、土壌改良材、種子、肥料、保水材、土壌菌などの植生材料が植生用の袋体(以下、植生袋という)に充填され、この植生袋が緑化すべき地面に設置される。
【0003】
例えば、特許文献1は、法面に対する植生を行うことができる植生材袋(植生袋)を開示している。以下、当該段落において、()内に特許文献1の符号を示す。植生材袋(10)は、肥料、土壌改良材、保水材等の植生基材(30)を包み込んで形成されて、植生用網状体(20)の袋状部(21)内に収納される。この植生材袋(10)の谷側となる下側約半分を水に対して非溶解性の材料によって非溶解部(11)を形成するとともに、植生材袋(10)の山側となる上側約半分を水に対して溶解性のある材料によって溶解部(12)を形成した。雨等が降れば、溶解部(12)は、その溶解を始めて当該植生材袋(10)内の植生基材(30)が水分を吸収し得る状態にするとともに、徐々にまたは十分な雨があれば早期に消失する。これに対して、植生材袋(10)の非溶解部(11)は雨等に対して溶解しないので、例えば植生用網状体(20)の袋状部(21)内に残留したままであるとともに、この非溶解部(11)は山側に向けて開口した状態を維持するものとなる。このため、植生材袋(10)内に包まれていた植生基材(30)の一部は、この非溶解部(11)によって保持されたままとなる。非溶解部(11)は、植生材袋(10)内に包まれていた植生基材(30)の一部の保持を行っているものであり、これによって法面(40)の植生作用が継続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-7027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、植生袋は、降雨により植生材料が水分を吸収し、吸水した水分を通じて地面に肥料などの栄養分を補給し、植生植物の成長を促進するものである。また、植生袋は、法面に載置されることで、降雨や植生領域への散水などの際、水分を吸収して地面に水分を供給するように機能し得る。しかしながら、従来の植生袋では、夏季の晴天時などの高温環境下において、地面に散水したとしても、植生袋に吸収された水分がすぐに蒸発し、植生袋およびその内部の植生材料が乾燥してしまうことが問題であった。すなわち、従来の植生袋は、高温環境等において、その保湿状態を長時間維持することができず、その乾燥によって植生植物の生育に十分に寄与することができないことが課題として挙げられる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、保水性を改善し、地面または法面をより効果的に緑化することを可能とする植生袋および植生マットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態の植生袋は、緑化すべき地面に設置される植生袋であって、
地面側に配置される底壁部、および、地面の反対側の上方に配置される頂壁部を有する袋体と、
前記袋体に内包される植生材料と、を備え、
前記頂壁部は、遮水性を有する遮水領域を含み、前記袋体の前記遮水領域以外の部位が、透水性を有する透水領域を含み、前記遮水領域が前記植生材料の少なくとも一部を上方から覆うように延在することを特徴とする。
【0008】
本発明の一形態の植生袋によれば、地面の反対側に配置される頂壁部が遮水領域を含み、該遮水領域以外の部位が透水性を有する透水領域からなる。透水領域を介して、植生袋が内部に水分を吸収するとともに、植生袋内部から(植生すべき)地面へと給水することができる。また、遮水領域が植生材料を上方から覆うように延在することで、植生袋に吸収された水分の蒸発量が軽減され、より長時間、保水することが可能となる。したがって、本発明の植生袋は、より改善した保水性を有し、地面をより効果的に緑化することを可能とする。
【0009】
本発明のさらなる形態の植生袋は、上記形態の植生袋において、前記遮水領域は、遮水性および断熱性を有する遮水シートによって形成されることを特徴とする。また、遮水シートは発泡樹脂材料からなってもよい。すなわち、遮水領域が断熱性を有することにより、直射日光に曝される頂壁部の表面温度を低下させ、植生袋に吸収された水分の蒸発量をより一層軽減させることができる。よって、植生袋は、より改善した保水性を有する。
【0010】
本発明のさらなる形態の植生袋は、上記形態の植生袋において、前記頂壁部の表面積の60%以上に前記遮水領域が形成されている。これにより、植生袋に吸収された水分の蒸発量を十分に軽減させることができる。
【0011】
本発明のさらなる形態の植生袋は、上記形態の植生袋において、前記袋体の側方を向く部位に前記透水領域が形成されている。植生袋を法面に設置したときに、植生袋の透水領域を介して法面の傾斜方向に流れる法面流水が袋体の内部を通過することが許容され、水分を効果的に吸収することが可能である。
【0012】
本発明の一形態の植生マットは、上記形態の1または複数の植生袋と、縦横に平面状に延在し、前記地面に敷設される透水性の植生シートと、を備え、前記1または複数の植生袋が前記植生シートに装着されていることを特徴とする。すなわち、植生マットは、法面に設置されることにより、上記植生袋の作用効果を発揮しつつ、地面をより効果的に緑化することが可能である。
【0013】
本発明の一形態の植生マットは、法面緑化に使用される植生マットであって、
縦横に平面状に延在して地面に敷設される透水性の植生シートと、
前記植生シートの表面側の所定領域に保持される植生材料と、を備え、
前記植生マットには、遮水性を有する遮水領域、および、透水性を有する透水領域が形成され、前記遮水領域が前記植生材料を上方から覆うように延在することを特徴とする。
【0014】
本発明の一形態の植生マットによれば、透水領域を介して、植生材料に水分を吸収するとともに、植生材料から(植生すべき)地面へと給水することができる。また、遮水領域が植生材料を上方から覆うように延在することで、植生材料に吸収された水分の蒸発量が軽減され、より長時間、保水することが可能となる。したがって、本発明の植生マットは、より改善した保水性を有し、地面をより効果的に緑化することを可能とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の植生袋および植生マットは、地面または法面をより効果的に緑化することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態の植生袋の概略斜視図。
図2図1の植生袋の断面図。
図3】本発明の一実施形態の植生マットの概略斜視図。
図4】本発明の一実施形態の植生袋を地面に設置したときの形態を示す模式図。
図5図4の植生袋の保水性を説明する模式図、および、(b)従来の植生袋の特徴を示す模式図。
図6】本発明の植生袋および植生マットの実証試験に係る(a)比較例1、(b)比較例2、(c)実施例1および(d)実施例2の植生袋を示す模式図。
図7】本発明の植生袋および植生マットの実証試験に係る植生マットの所定期間経過後の写真であって、(a)比較例1、(b)比較例2、(c)実施例1および(d)実施例2を示す。
図8】本発明の植生袋の変形例を示す模式図。
図9】本発明の植生マット(主に植生シート)の変形例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状寸法を説明する上での概念図又は概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0018】
本発明の一実施形態の植生袋100および植生マット10は、法面等の斜面に設置されることで、植生植物による法面緑化の促進を可能とするものである。なお、本明細書では、植生袋100および植生マット10が法面に敷設されたときに法面の傾斜方向に沿う方向を「縦」方向とし、斜面の等高線方向に沿う方向を「横」方向として定義する。さらに、植生袋100および植生マット10が法面に敷設されたときに法面の法肩側(上方または高所側)に配置される側を「上」位置とし、法面の法尻側(下方または低所側)に配置される側を「下」位置として定義する。
【0019】
本発明の一実施形態の植生袋100は、緑化すべき地面に設置され、該植生袋100から地面へ水分や肥料分等を供給することにより、地面の植生植物Pの発芽および成長を補助するものである。図1は、植生袋100の概略斜視図である。ここで、説明の便宜上、植生袋100の一部が切り欠かれて描写されている。図2は、植生袋100の概略断面図である。図1に示すように、植生袋100は、細長い長筒状に形成されている。植生袋100は、内部空間を画定する袋体101と、該袋体101に内包される植生材料111とを備える。
【0020】
袋体101は、地面側に配置される底壁部102、および、地面の反対側の上方に配置される頂壁部104を有する。図2に示すように、袋体101は、横断面視長円(または楕円)形状を有する。底壁部102および頂壁部104は、それぞれ、長手方向に延びる矩形状の可撓性シートである。これらシートの(長手方向に直交する)幅方向の両端縁および長手方向の両端縁を接合(例えば、縫合、溶着、接着)することによって、長筒形状(または袋形状)をなしている。また、底壁部102には、袋体101の側方を向く部位として下方側部102a、および、袋体101の下方を向く部位として地面に接地する接地部位102bが定められる。他方、頂壁部104には、袋体101の側方を向く部位として上方側部104aが定められる。そして、頂壁部104は、遮水性を有する遮水領域105を含み、袋体101の遮水領域105以外の部位が、透水性を有する透水領域103からなる。なお、袋体101は、全体として、粒子状の植生材料111を袋体101の内部に保持可能な素材からなる。
【0021】
本実施形態では、底壁部102は、粒子状の植生材料111を袋体101の内部に保持可能であり、かつ、(水分の通過を許容する)透水性を有する透水シートから形成されている。つまり、底壁部102全体が透水領域103を形成している。例えば、透水シートは、(本発明を限定しないが)不織布、織布、網状シート又はこれらの組み合わせ等から選択され得る。より具体的には、不織布および織布の素材は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ乳酸、レーヨン、コットン又はこれらの混合物等から選択可能である。あるいは、紙や樹脂フィルムなどのような、透水性を有しないシート材料が選択された場合、複数の開口が連続的に面状に形成されたメッシュ状とすることで、透水性が確保されてもよい。
【0022】
本実施形態では、頂壁部104は、粒子状の植生材料111を袋体101の内部に保持可能であり、かつ、(水分の通過を遮断する)遮水性を有する遮水シートから形成されている。つまり、頂壁部104全体が遮水領域105を形成している。また、遮水領域105は、断熱性を有することがより好ましい。例えば、遮水シートは、(本発明を限定しないが)紙、樹脂フィルム(例えば、ポリエチレン製防水ラミネートシート)、発泡樹脂シート又はこれらの組み合わせなどから選択され得る。なお、本実施形態では、遮水シートの素材は、断熱性を有する独立気泡成型による発泡ポリエチレンシートが選択された。所定の断熱性を発揮するには、発泡ポリエチレンシートの厚みが約0.5mm以上であることが好ましい。
【0023】
植生材料111は、袋体101の内部空間に充填されて保持されている。植生材料111は、植生に用いられる材料であって、種子、肥料、土壌改良材、保水材、撥水抑制材、土砂、生育基盤材などを少なくとも1つ含むものである。図2に示すように、植生材料111が袋体101に隙間なく充填されることで、袋体101が横断面視長円形状に膨らんでいる。本実施形態では、袋体101の長手方向の一端が開放された状態で、植生材料111が開放端から充填される。そして、植生材料111を詰めた後に開放端が封止される。
【0024】
本実施形態の植生袋100では、遮水領域105が植生材料111を上方から覆うように延在している。また、遮水領域105が袋体101の側方を向く上方側部104aに延在している。そして、遮水領域105が植生材料111の上側部分を上方および側方の両方向から覆っている。遮水領域105は、降雨や植生領域への散水などの際、流水の通過を遮断するとともに、吸収した水分が蒸発した水蒸気の通過を遮断するように機能する。また、遮水領域105は、所定の断熱性を有していることから、直射日光などにより加熱されたときに、相対的に高熱になりにくい特性を有する。他方、透水領域103が袋体101の側方を向く下方側部102aに延在し、かつ、接地部位102bに亘って延在している。つまり、袋体101の側方を向く部位に透水領域103が形成されている。そして、透水領域103が植生材料111の下側部分を下方および側方の両方向から覆っている。植生袋100は、降雨や植生領域への散水などの際、透水領域103を介して、袋体101内部に水分を吸収して地面に水分を供給するように機能し得る。
【0025】
図3は、本実施形態の複数の植生袋100を装着した植生マット10の概略斜視図である。すなわち、植生マット10は、(1または)複数の植生袋100と、縦横に平面状に延在し、地面に敷設される透水性の植生シート11と、を備える。そして、(1または)複数の植生袋100が植生シート11に装着されている。植生シート11は、植生植物の種子が播種された種子付シート12と、該種子付シート12の表面に接着剤等の任意の結合手段で貼り付けられた網状シート13とを備える。種子付シート12は、複数の種子が貼り付けられた、平面状に延在するシート体から構成されている。種子付シート12は、紙、織布または不織布から形成され得る。また、この網状シート13は、法面の土砂の流出などを抑え、法面保護に用いられる。
【0026】
植生袋100は、網状シート13を介して種子付シート12の表面上に載置される。植生袋100は、ピンやアンカーなどで植生シート11に固定される。このとき、植生袋100の長手方向が、植生シート11の横方向に沿って配置される。植生マット10を法面に設置した際、植生袋100が法面の傾斜方向に直交する方向に延在することにより、法面流水をより効率的に吸水することができるからである。
【0027】
植生マット10の特徴は、以下のように表され得る。植生マット10は、法面緑化に使用される植生マット10であって、縦横に平面状に延在して地面に敷設される透水性の植生シート11と、植生シート11の表面側の所定領域に保持される植生材料111と、を備え、植生マット10には、遮水性および断熱性を有する遮水領域105、および、透水性を有する透水領域103が形成され、遮水領域105が植生材料111を上方から覆うように延在する。
【0028】
図4を参照して、本実施形態の植生袋100および植生マット10を法面に設置した設置構造について説明する。設置構造において、植生マット10は、その縦方向が法面の傾斜方向に沿うように配置され、アンカー等で法面に固定される。植生袋100は、その長手方向が植生マット10の横方向に沿って植生マット10に装着されていることから、斜面の等高線方向に沿って配列する。
【0029】
図4に示すように、植生袋100が法面に設置された際、透水領域103が法面の地面方向および(地面近傍で)傾斜方向を向き、遮水領域105が法面の地面の反対方向(上方向)および(地面から離隔して)傾斜方向を向いている。すなわち、遮水領域105が、袋体101の内部空間の上半分の植生材料111を上方および側方(傾斜方向または幅方向)から覆っている。遮水領域105が、傘のように植生材料111を覆うことにより、降雨や散水の際、鉛直上方からの降水が袋体101の内部に直接的に流れ込むことが防止される。また、法面を流れ落ちる法面流水が、袋体101の内部空間の上半分を直接通過することも防止される。一方で、法面流水は、法面近傍で側方を向く透水領域103を介して、植生袋100の内部に入り込む。水分は、まず、袋体101の内部空間の下半分の植生材料111に吸収され、緩やかに上半分へと浸透する。例えば、降雨や散水の後の晴天時において、植生袋100に吸水された水分は、透水領域103を介して、植生植物の生育を補助するために地面へと徐々に供給される。
【0030】
図5(b)は、従来の植生袋1を法面に設置した設置構造を示している。図5(b)では、植生袋1の袋体2全体が透水性素材で形成されている。降雨や散水の際、袋体2の透水領域3を介して、植生材料4が鉛直上方からの降水および法面流水の両方を吸水することができる。一方で、降雨や散水の後の晴天時において、袋体2に吸収された水分は、透水領域3を介して、空気より軽い水蒸気となって空中に霧散してしまう。そのため、植生袋1は、すぐに乾燥してしまうので、降雨や散水後の短時間しか地面への水分の供給をすることができない。つまり、従来の植生袋1は、十分な保水性を有さず、長時間、植生植物の生育を補助することができない。
【0031】
これに対し、図5(a)に示すように、本実施形態の植生袋100では、遮水領域105が植生材料111を上方から覆うように延在することで、蒸発した水分(水蒸気)が頂壁部104を通過することなく、袋体101の内部に滞留する。特に、水蒸気は、空気よりも軽いことから、袋体101の下半分に形成された透水領域103を介して積極的に流出することがないと考えられる。さらに、遮水領域105が断熱性を有することにより、直射日光等による植生袋100の温度上昇が効果的に抑えられる。その結果、該植生袋100に吸収された水分の蒸発量が減少する。したがって、本実施形態の植生袋100は、より長時間、保水性を維持することで、植生植物の生育をより効率的に補助することが可能である。
【0032】
なお、上記実施形態では、頂壁部104全体が遮水領域105をなし、遮水領域105が植生材料111全体を上方から覆うように延在しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、遮水領域が植生材料の一部を上方から覆うように延在すれば、植生袋の保水性を相対的に改善することが可能である。好ましくは、頂壁部の表面積の約60%以上に遮水領域が形成されていれば、水分が蒸発する量を十分に軽減することが可能である。
【0033】
発明者らは、上述した本発明の植生袋および植生マットの作用効果を確認するために実証試験を行った。実証試験は、法面と同様の環境を擬似的に構築するように、約45度傾斜させて設置したトレイに土壌を形成し、土壌表面に各種形態の植生袋を植生シートに装着した植生マットを設置し、そして、その経時的な結果を観察することによって実施された。この実証試験は、外部からの立ち入りが禁止された完全に非公開の敷地内において、3月下旬~4月下旬の植物の生育に適切な気候の下、屋外にて実施された。
【0034】
図6(a)~(d)は、実証試験における比較例1,2および実施例1,2の植生袋の形態を模式的に示している。図6(a)に示す比較例1の植生袋は、植生袋全体が透水シート(不織布)から形成された。図6(b)に示す比較例2の植生袋は、植生袋の底壁部が遮水シート(ポリエチレン製防水ラミネートシート)から形成され、頂壁部が透水シート(不織布)から形成された。図6(c)に示す実施例1の植生袋は、植生袋の底壁部が透水シート(不織布)から形成され、頂壁部が遮水シート(ポリエチレン製防水ラミネートシート)から形成された。図6(d)に示す実施例2の植生袋は、植生袋の底壁部が透水シート(不織布)から形成され、頂壁部が断熱性を有する遮水シート(発泡ポリエチレンシート)から形成された。ここで、比較例および実施例において、植生材料は、土壌改良材(パーライト)から構成された。植生シートは、種子付シートおよび網状シートの2層から構成された。各トレイごとに、2つの植生袋が植生マットの横方向に沿ってピンで植生シートに固定された。
【0035】
評価方法として、植生マットを設置してから4週間経過後に種子付シートからの種子の発芽状態および植物の生育状態を撮影および観察して、各比較例および実施例を目視により比較し、緑化進行度の順位を付した。また、目視による観察により、植生シート表面の植生植物の割合に基づいて緑化被覆率を計測した。さらに、気温25.5℃の晴天(直射日光あり)の条件で、植生袋の表面の温度測定を実施した。
【0036】
図7(a)~(d)は、実証試験の試験結果として、植生マットを設置してから4週間経過後の比較例1,2および実施例1,2の植生マットの写真を示している。また、試験結果を以下の表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
より詳細には、図7(a)によれば、比較例1の植生マットでは、発芽した種子の割合が最も低く、緑化被覆率が5%以下となっており、緑化進行度が最も低い。図7(b)によれば、比較例2の植生マットでは、発芽した種子の割合が低く、緑化被覆率が5~10%程度となっており、緑化進行度が低い。つまり、比較例2の緑化進行度は比較例1より高い。一方で、図7(c)によれば、実施例1の植生マットでは、発芽した種子の割合がより高く、緑化被覆率が10~15%程度となっており、緑化進行度が比較的高い。つまり、実施例1の緑化進行度は比較例1、2より高い。図7(d)によれば、実施例2の植生マットでは、発芽した種子の割合が最も高く、緑化被覆率が15~20%程度となっており、緑化進行度が最も高い。つまり、実施例2の緑化進行度は、実施例1、比較例1、2より高い。すなわち、各試料間では、有意な差が観察され、緑化進行度が実施例2、実施例1、比較例2、比較例1の順で高いという試験結果を得られた。また、植生袋の表面温度については、頂壁部が透水領域である方(比較例1,2)が、遮水領域を設けたもの(実施例1,2)よりも表面温度が上がりにくいことが分かる。一方で、遮水領域を断熱性としたこと(実施例2)により、表面温度の上昇が緩やかになることも分かった。この結果から、実施例2の植生マット(または植生袋)は、実施例1と比べて、植生袋の温度上昇を抑えたことにより、植生袋内の水分の蒸発量をより一層減少させ、地面への水分の供給を効果的に維持可能であることが考察される。
【0039】
上記試験結果によって、本発明の実施例に係る植生袋および植生マットは、遮水領域が植生材料を上方から覆うように延在することで、植生袋に吸収された水分の蒸発量が軽減され、より長時間、保水することが可能となることが実証された。したがって、本発明の植生袋および植生マットは、より改善した保水性を有し、地面をより効果的に緑化することを可能とする。
【0040】
以上を踏まえ、本発明の一実施形態の植生袋100および植生マット10の作用効果について説明する。
【0041】
本実施形態の植生袋100または植生マット10によれば、地面の反対側に配置される頂壁部104が遮水領域105を含み、該遮水領域105以外の部位が透水性を有する透水領域103からなる。透水領域103を介して、植生袋100が内部に水分を吸収するとともに、植生袋100内部から(植生すべき)地面へと給水することができる。また、遮水領域105が植生材料を上方から覆うように延在することで、植生袋100に吸収された水分の蒸発量が軽減され、より長時間、保水することが可能となる。したがって、本実施形態の植生袋100および植生マット10は、より改善した保水性を有し、地面をより効果的に緑化することを可能とする。
【0042】
[変形例]
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形例を取り得る。以下、本発明の変形例を説明する。
【0043】
(1)本発明の植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。図8に示す植生袋200は、頂壁部204を遮水層204-1および断熱層204-2の2層で構成したものである。例えば、頂壁部204の上層を遮水性シート(例えば、ポリエチレン製防水ラミネートシート)とし、下層に透水性および断熱性を有する発泡樹脂材を設けてもよい。
【0044】
(2)本発明の植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態では、遮水領域が、植生材料の上側部分を上方および側方の両方から覆うように延在しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明は、遮水領域が植生材料の上側部分を側方から覆っていない場合であっても、遮水領域が植生材料を少なくとも上方から覆うことで、従来技術と比べて、吸収する水分の蒸発量を抑え、相対的に有利な作用効果を発揮することができる。
【0045】
(3)本発明の植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態の植生袋は、長筒状に形成されたものであるが、本発明の植生袋の形状は長筒状に限定されない。例えば、植生袋は、所定厚みの円板、矩形板状等の任意の形状をとり得る。そして、網状体を介さずに、植生袋をつなぎ合わせて植生マットを構成してもよい。あるいは、植生袋を1つの大きい所定厚みの平板形状とし、袋内部に植生材料が移動しないように複数の仕切りを設けてもよい。
【0046】
(4)本発明の植生マットは、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態の植生マットでは、植生シートの表面に植生袋が固定されて装着されたが、本発明はこれに限定されない。図9(a)、(b)は、本発明の変形例の植生マット10’の概略斜視図および断面図を示している。植生マット10’では、植生袋100を収容して保持するための長筒状の収容部24を有する植生シート21が採用された。植生シート21は、種子付シート22と、該種子付シート22の表面に貼り付けられた網状シート23とを備える。網状シート23には、網状体が2重となる複数の箇所を有し、当該箇所に横方向に長筒状に延びる複数の収容部24が設けられている。収容部24は、長手方向に延伸する網状の長筒体から構成され、植生袋100を保持可能に構成されている。各収容部24は、植生シート21の横方向に亘って長手状に延在している。より具体的には、網状の収容部24は、縦方向に位置する複数の縦糸と、該縦糸を連結する横糸とにより構成されて、横糸を表裏に分割してこれら各横糸のそれぞれに各縦糸を横方向に対して交互に編み込むことにより筒状を形成したものである。つまり、収容部24は、2枚の網状体が重ね合わされた袋状に形成されている。なお、収容部24は、目が粗い粗部24a、及び、目が細かい密部24bを組み合わせてなってもよい。好ましくは、植生シート21が法面に設置されたときに、粗部24aが斜面の上側に位置し、密部24bが斜面の下側に位置する。そして、収容部24は、その長手方向が植生シート21の横方向に沿うように一端から他端に亘って延在している。該収容部24の長手方向の端部の一端又は両端が開口し、筒状の植生袋100を開口から挿入可能に構成されている。すなわち、本形態の植生マット10’では、複数の植生袋100を複数の収容部24にそれぞれ挿入していくことにより、複数の植生袋100を所定の間隔で植生シート21に容易に装着することが可能である。
【0047】
(5)本発明の植生マットは、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態の植生マットは、植生シートおよび植生袋が独立し、植生シートに植生袋を装着したものであるが、本発明はこれに限定されない。植生シートおよび植生袋が一体的に形成されてもよい。この場合、植生シートは、植生材料を植生シートの表面側の所定領域に保持する袋状の保持部を有し、保持部の頂壁部に遮水領域が形成され、遮水領域が植生材料を上方から覆うように延在する。
【0048】
(6)上記実施形態では、植生袋および植生マットが法面の緑化に用いられているが、本発明の植生袋および植生マットは法面以外の緑化にも使用されてもよい。
【0049】
なお、本発明は上述した複数の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0050】
10 植生マット
11 植生シート
12 種子付シート
13 網状シート
100 植生袋
101 袋体
102 底壁部
102a 下方側部
102b 接地部位
103 透水領域
104 頂壁部
104a 上方側部
105 遮水領域
111 植生材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9