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特開2023-68255植生袋、植生マットおよび法面緑化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068255
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】植生袋、植生マットおよび法面緑化方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/50 20180101AFI20230510BHJP
   A01G 24/44 20180101ALI20230510BHJP
【FI】
A01G24/50
A01G24/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179163
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000226747
【氏名又は名称】日新産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友人
(72)【発明者】
【氏名】石田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】長沼 寛
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AA03
2B022AB02
2B022AB06
2B022AB08
2B022BB02
2B022BB05
(57)【要約】
【課題】地面または法面をより早期かつ効率的に緑化することを可能とする植生袋を提供する。
【解決手段】植生袋100は、地面側に配置され、地面に接地する接地部位102bを有する底壁部102、および、地面の反対側の上方に配置される頂壁部104を有する袋体101と、袋体101に充填され、母材112および肥料材113を含有する植生材料111と、を備える。頂壁部104は、遮水性を有する遮水領域105を含み、袋体101の遮水領域105以外の部位が、透水性を有する透水領域103からなる。肥料材113は、袋体101内部の接地部位102bから離れた部分に充填され、遮水領域105によって上方から覆われている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑化すべき地面に設置される植生袋であって、
地面側に配置され、地面に接地する接地部位を有する底壁部、および、地面の反対側の上方に配置される頂壁部を有する袋体と、
前記袋体に充填され、母材および肥料材を含有する植生材料と、を備え、
前記頂壁部は、遮水性を有する遮水領域を含み、前記袋体の前記遮水領域以外の部位が、透水性を有する透水領域を含み、
前記肥料材は、前記袋体内部の前記接地部位から離れた部分に充填され、前記遮水領域によって上方から覆われていることを特徴とする植生袋。
【請求項2】
前記肥料材が、前記袋体内部の上側部分に充填され、前記遮水領域によって側方から覆われており、
前記母材の少なくとも一部が、前記袋体内部の下側部分に充填され、前記透水領域によって側方から覆われていることを特徴とする請求項1に記載の植生袋。
【請求項3】
前記遮水領域は、遮水性および断熱性を有する遮水シートによって形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の植生袋。
【請求項4】
前記肥料材は、前記母材に混合された状態で、前記袋体内部の前記接地部位から離れた部分に充填されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の植生袋。
【請求項5】
法面緑化に使用される植生マットであって、
請求項1から4のいずれか一項に記載の1または複数の植生袋と、
前記1または複数の植生袋を表面側に設置し、縦横に平面状に延在して地面に敷設される透水性の植生シートと、を備え、
前記植生シートは、植生植物の種子が播種された種子付シートを含み、前記種子付シートの表面上に前記1または複数の植生袋が載置され、
前記植生袋の肥料材が、前記種子付シートの表面から母材を介して離間した位置に配置されていることを特徴とする植生マット。
【請求項6】
前記植生マットが法面に敷設されたとき、前記植生袋の遮水領域を介して鉛直上方からの降水が前記袋体の内部に浸透することが規制され、前記植生袋の透水領域を介して前記法面を傾斜方向に流れる法面流水が前記袋体の内部を通過することが許容され、前記肥料材が前記法面流水の流路より上方に位置することを特徴とする請求項5に記載の植生マット。
【請求項7】
法面緑化に使用される植生マットであって、
縦横に平面状に延在して地面に敷設される透水性の植生シートと、
前記植生シートの表面側の所定領域に保持され、母材および肥料材を含有する植生材料と、を備え、
前記植生マットには、遮水性を有する遮水領域、および、透水性を有する透水領域が形成され、
前記肥料材は、前記植生シートの表面から離れた部分に保持され、前記遮水領域によって上方から覆われていることを特徴とする植生マット。
【請求項8】
法面を緑化する方法であって、請求項5から7のいずれか一項に記載の植生マットを法面に設置する工程を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面などの地面を緑化するための植生袋、植生マットおよび法面緑化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種法面や新規造成地等の施工面においては、その緑化を積極的に行って、法面等の美化と共に土砂の流失を防止することが行われている。従来、法面を緑化すべく、土壌、土壌改良材、種子、肥料、保水材、土壌菌などの植生材料が植生用の袋体(以下、植生袋という)に充填され、この植生袋が緑化すべき地面に設置される。あるいは、植生袋を装着した植生シート(以下、植生マットという)が緑化すべき地面に設置される。
【0003】
例えば、特許文献1は、法面に対する植生を行うことができる植生材袋(植生袋)を開示している。以下、当該段落において、()内に特許文献1の符号を示す。植生材袋(10)は、肥料、土壌改良材、保水材等の植生基材(30)を包み込んで形成されて、植生用網状体(20)の袋状部(21)内に収納される。この植生材袋(10)の谷側となる下側約半分を水に対して非溶解性の材料によって非溶解部(11)を形成するとともに、植生材袋(10)の山側となる上側約半分を水に対して溶解性のある材料によって溶解部(12)を形成した。雨等が降れば、溶解部(12)は、その溶解を始めて当該植生材袋(10)内の植生基材(30)が水分を吸収し得る状態にするとともに、徐々にまたは十分な雨があれば早期に消失する。これに対して、植生材袋(10)の非溶解部(11)は雨等に対して溶解しないので、例えば植生用網状体(20)の袋状部(21)内に残留したままであるとともに、この非溶解部(11)は山側に向けて開口した状態を維持するものとなる。このため、植生材袋(10)内に包まれていた植生基材(30)の一部は、この非溶解部(11)によって保持されたままとなる。非溶解部(11)は、植生材袋(10)内に包まれていた植生基材(30)の一部の保持を行っているものであり、これによって法面(40)の植生作用が継続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-7027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、植生袋は、法面に載置されることで、降雨や散水の際、植生材料が水分を吸収し、吸水した水分を通じて地面に肥料などの栄養分や水分を補給し、種子の発芽や植生植物の成長を促進するものである。特に、植生材料に化学肥料などの肥料材を適切に用いて、生育期の植生植物に適量の肥料分を供給することで、植生植物の発育不良を効果的に防ぐことができる。一方で、植物を種子から発芽させて生育する場合、種子の発芽において肥料分が必要ないにもかかわらず、種子の発芽前段階で散水または降雨によって肥料分が地面に流出して損失することが避けられない。種子の発芽前の時期の肥料分の流出は、生育期の植生植物への肥料分の供給量を減少させ、地面の緑化において効率的ではない。むしろ、肥料材が種子に接触して存在したり、種子近傍の土壌の肥料濃度が高くなったりすることで、肥料分が種子の発芽を阻害し、悪影響を及ぼすこともまた知られている。すなわち、従来の植生袋は、種子の発芽前の時期の肥料分の流出に対処できず、地面への植生導入が遅れることが課題として挙げられる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、種子の発芽前の時期に肥料分が流出することを抑え、地面または法面をより早期に緑化することを可能とする植生袋、植生マット、および、法面緑化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態の植生袋は、緑化すべき地面に設置される植生袋であって、
地面側に配置され、地面に接地する接地部位を有する底壁部、および、地面の反対側の上方に配置される頂壁部を有する袋体と、
前記袋体に充填され、母材および肥料材を含有する植生材料と、を備え、
前記頂壁部は、遮水性を有する遮水領域を含み、前記袋体の前記遮水領域以外の部位が、透水性を有する透水領域を含み、
前記肥料材は、前記袋体内部の前記接地部位から離れた部分に充填され、前記遮水領域によって上方から覆われていることを特徴とする。
【0008】
本発明の一形態の植生袋によれば、頂壁部が遮水領域を含み、袋体の遮水領域以外の部位が透水領域を含み、肥料材が袋体内部の底壁部の接地部位から離れた部分に充填され、遮水領域によって上方から覆われている。肥料材が底壁部の接地部位近傍に存在しないことにより、肥料分が、地面側に播種された種子に接触または近接して、種子の発芽を阻害することを抑えることができる。また、頂壁部の遮水領域が、肥料材の上方からの降水を遮蔽することで、降水が肥料材(当初の肥料材充填部分)を直接通過することを防止し、適量の肥料分が透水領域から流出する時期を遅らせることができる。したがって、本発明の植生袋は、植生植物の発芽前段階(設置初期)に流出する肥料分の量を軽減させ、発芽後の植生植物に時間差で適量の肥料分を供給することで、地面をより早期に緑化することを可能とする。
【0009】
本発明のさらなる形態の植生袋は、上記形態の植生袋において、前記肥料材が、前記袋体内部の上側部分に充填され、前記遮水領域によって側方から覆われており、前記母材の少なくとも一部が、前記袋体内部の下側部分に充填され、前記透水領域によって側方から覆われていることを特徴とする。すなわち、植生袋が法面に設置されたときに、法面を傾斜方向に流れる法面流水が、袋体の下側部分の透水領域を介して側方から植生袋内部を通過する。このとき、遮水領域が肥料材を側方から覆っていることにより、法面流水が、肥料材(当初の肥料材充填部分)を直接通過することを防止し、より効果的に、適量の肥料分が透水領域から流出する時期を遅らせることができる。
【0010】
本発明のさらなる形態の植生袋は、上記形態の植生袋において、前記遮水領域は、遮水性および断熱性を有する遮水シートによって形成されることを特徴とする。すなわち、遮水領域が断熱性を有することにより、直射日光に曝される頂壁部の表面温度を低下させ、植生袋に吸収された水分の蒸発量をより一層軽減させることができる。よって、植生袋は、より改善した保水性を有する。
【0011】
本発明のさらなる形態の植生袋は、上記形態の植生袋において、前記肥料材は、前記母材に混合された状態で、前記袋体内部の前記接地部位から離れた部分に充填されていることを特徴とする。肥料材を母材に混合させることで、肥料材の固結を抑えることができる。
【0012】
本発明の一形態の植生マットは、
上記形態の1または複数の植生袋と、
前記1または複数の植生袋を表面側に設置し、縦横に平面状に延在して地面に敷設される透水性の植生シートと、を備え、
前記植生シートは、植生植物の種子が播種された種子付シートを含み、前記種子付シートの表面上に前記1または複数の植生袋が載置され、
前記植生袋の肥料材が、前記種子付シートの表面から母材を介して離間した位置に配置されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の一形態の植生マットによれば、該植生マットを法面に敷設することにより、1または複数の植生袋を地面に設置することが可能である。すなわち、植生マットは、上記形態の植生袋の作用効果を効果的に発揮することが可能である。したがって、本発明の植生マットは、植生植物の発芽前段階(設置初期)に流出する肥料分の量を軽減させ、発芽後の植生植物に時間差で適量の肥料分を供給することで、法面をより早期に緑化することを可能とする。
【0014】
本発明のさらなる形態の植生マットは、上記形態の植生マットにおいて、前記植生マットが法面に敷設されたとき、前記植生袋の遮水領域を介して鉛直上方からの降水が前記袋体の内部に浸透することが規制され、前記植生袋の透水領域を介して前記法面を傾斜方向に流れる法面流水が前記袋体の内部を通過することが許容され、前記肥料材が前記法面流水の流路より上方に位置することを特徴とする。すなわち、法面流水が、肥料材(当初の肥料材充填部分)を直接通過することを防止し、より効果的に、適量の肥料分が透水領域から流出する時期を遅らせることができる。
【0015】
本発明の一形態の植生マットによれば、法面緑化に使用される植生マットであって、
縦横に平面状に延在して地面に敷設される透水性の植生シートと、
前記植生シートの所定領域に保持され、母材および肥料材を含有する植生材料と、を備え、
前記植生マットには、遮水性を有する遮水領域、および、透水性を有する透水領域が形成され、
前記肥料材は、前記植生シートの表面から離れた部分に保持され、前記遮水領域によって上方から覆われていることを特徴とする。
【0016】
本発明の一形態の植生マットによれば、肥料材が植生シートの表面から離れた部分に充填され、遮水領域によって上方から覆われている。肥料材が植生シート表面近傍に存在しないことにより、肥料分が、地面側に播種された種子に接触または近接して、種子の発芽を阻害することを抑えることができる。また、遮水領域が、肥料材の上方からの降水を遮蔽することで、降水が肥料材(当初の肥料材含有部分)を直接通過することを防止し、適量の肥料分が透水領域から流出する時期を遅らせることができる。したがって、本発明の植生マットは、植生植物の発芽前段階(設置初期)に流出する肥料分の量を軽減させ、発芽後の植生植物に時間差で適量の肥料分を供給することで、地面をより早期に緑化することを可能とする。
【0017】
本発明の一形態の方法は、法面を緑化する方法であって、上記形態の植生マットを法面に設置する工程を含むことを特徴とする。本発明の方法は、種子の発芽前の時期(設置初期)に流出する肥料分の量を軽減させ、発芽後の植生植物に時間差で適量の肥料分を供給することで、法面をより早期に緑化することを可能とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の植生袋、植生マットおよび法面緑化方法は、地面または法面をより早期かつ効率的に緑化することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態の植生袋の概略斜視図。
図2図1の植生袋の断面図。
図3】本発明の一実施形態の植生マットの概略斜視図。
図4】本発明の一実施形態の植生袋を地面に設置したときの形態を示す模式図。
図5】従来の植生袋を地面に設置したときの形態であって、(a)雨天(散水)時、(b)晴天時の形態を示す模式図。
図6】本発明の一実施形態の植生袋および植生マットを設置した設置構造の経時的変化を(a)~(c)で段階的に示す模式図。
図7】本発明の植生袋の保水性を説明する模式図。
図8】本発明の植生袋および植生マットの実証試験に係る(a)比較例1、(b)比較例2、(c)比較例3、(d)比較例4および(e)実施例の植生袋を示す模式図。
図9】本発明の植生袋および植生マットの実証試験に係る植生マットの所定期間(4週間)経過後の写真であって、(a)比較例1、(b)比較例2、(c)比較例3、(d)比較例4および(e)実施例を示す。
図10】本発明の植生袋および植生マットの実証試験に係る植生マットの所定期間(6週間)経過後の写真であって、(a)比較例1、(b)比較例2、(c)比較例3、(d)比較例4および(e)実施例を示す。
図11】本発明の植生袋および植生マットの第2の実証試験に係る植生マットの所定期間経過後(4週間)の写真であって、(a)参考例1、(b)参考例2、および(c)参考例3を示す。
図12】本発明の植生袋の変形例を示す模式図。
図13】本発明の植生マット(主に植生シート)の変形例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状寸法を説明する上での概念図又は概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0021】
本発明の一実施形態の植生袋100および植生マット10は、法面等の斜面に設置されることで、植生植物による法面緑化の促進を可能とするものである。なお、本明細書では、植生袋100および植生マット10が法面に敷設されたときに法面の傾斜方向に沿う方向を「縦」方向とし、斜面の等高線方向に沿う方向を「横」方向として定義する。
【0022】
本発明の一実施形態の植生袋100は、緑化すべき地面に設置され、該植生袋100から地面へ水分や肥料分等を供給することにより、地面の植生植物の発芽および成長を補助するものである。図1は、植生袋100の概略斜視図である。ここで、説明の便宜上、植生袋100の一部が切り欠かれて描写されている。図2は、植生袋100の概略断面図である。図1に示すように、植生袋100は、細長い長筒状に形成されている。植生袋100は、内部空間を画定する袋体101と、該袋体101に内包される植生材料111とを備える。
【0023】
袋体101は、地面側に配置される底壁部102、および、地面の反対側の上方に配置される頂壁部104を有する。図2に示すように、袋体101は、横断面視長円(または楕円)形状を有する。底壁部102および頂壁部104は、それぞれ、長手方向に延びる矩形状の可撓性シートである。これらシートの(長手方向に直交する)幅方向の両端縁および長手方向の両端縁を接合(例えば、縫合、溶着、接着)することによって、内部に植生材料111を保持可能な長筒形状(または袋形状)をなしている。また、底壁部102には、袋体101の側方を向く部位として下方側部102a、および、袋体101の下方を向く部位として地面に接地する接地部位102bが定められる。他方、頂壁部104には、袋体101の側方を向く部位として上方側部104aが定められる。そして、頂壁部104は、遮水性を有する遮水領域105を含み、袋体101の遮水領域105以外の部位が、透水性を有する透水領域103からなる。なお、袋体101は、全体として、粒子状の植生材料111を袋体101の内部に保持可能な素材からなる。
【0024】
本実施形態では、底壁部102は、粒子状の植生材料111を袋体101の内部に保持可能であり、かつ、(水分の通過を許容する)透水性を有する透水シートから形成されている。つまり、底壁部102全体が透水領域103を形成している。例えば、透水シートは、(本発明を限定しないが)不織布、織布、網状シート又はこれらの組み合わせ等から選択され得る。より具体的には、不織布および織布の素材は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ乳酸、レーヨン、コットン又はこれらの混合物等から選択可能である。あるいは、紙や樹脂フィルムなどのような、透水性を有しないシート材料が選択された場合、複数の開口が連続的に面状に形成されたメッシュ状とすることで、透水性が確保されてもよい。
【0025】
本実施形態では、頂壁部104は、粒子状の植生材料111を袋体101の内部に保持可能であり、かつ、(水分の通過を遮断する)遮水性を有する遮水シートから形成されている。つまり、頂壁部104全体が遮水領域105を形成している。また、遮水領域105は、断熱性を有することがより好ましい。例えば、遮水シートは、(本発明を限定しないが)紙、樹脂フィルム(例えば、ポリエチレン製防水ラミネートシート)、発泡樹脂シート又はこれらの組み合わせなどから選択され得る。なお、本実施形態では、遮水シートの素材は、断熱性を有する独立気泡成型による発泡ポリエチレンシートが選択された。所定の断熱性を発揮するには、発泡ポリエチレンシートの厚みが約0.5mm以上であることが好ましい。
【0026】
植生材料111は、袋体101の内部空間に充填されて保持されている。植生材料111は、植生に用いられる材料であって、母材112と、肥料材113とを含有する。母材112は、主に、土壌改良材、保水材、撥水抑制材、土砂、生育基盤材、これらの組み合わせなどから選択され得る。肥料材113は、化学肥料、有機肥料、化成肥料などの一般的な肥料(またはこれらの混合物)から選択され得る。肥料材113は、生育期の植生植物の生長を補助可能な適量の肥料分を含むものであり、上記肥料と母材とを所定の割合で混合したものであってもよい。肥料材113の肥料分は、植生材料111に吸収された水分に経時とともに徐々に溶け出すものである。また、肥料分の溶出により、肥料材113自体の体積が減少してもよく、肥料材113中の肥料濃度が低下してもよく、あるいは、その両方であってもよい。さらに、母材112は、肥料材113と比べて明らかに低い肥料濃度であれば、僅かな肥料分を含有してもよい。
【0027】
図2に示すように、植生材料111が袋体101に隙間なく充填されることで、袋体101が横断面視長円形状に膨らんでいる。母材112および肥料材113は、一様に混合されることなく、袋体101の内部空間に区分けして充填されている。肥料材113が袋体101内部の接地部位102bから離れた部分にのみ充填され、残りの内部空間に母材112が充填されている。肥料材113が袋体101の内部空間で上方(頂壁部104側)に偏っている。つまり、植生材料111の上側部分の一部領域に、接地部位102bから離隔した肥料材113の充填領域が位置し、肥料材113よりも下側の領域(上側部分の一部と下側部分)に、接地部位102bに隣接する母材112の充填領域が位置している。本実施形態では、肥料材113は、植生袋100の長手方向全体に亘って配置された。しかしながら、本発明はこれに限定されず、植生植物に適量の肥料分を供給することが可能であれば、肥料材が植生袋の長手方向の一部に配置されてもよい。
【0028】
本実施形態では、袋体101の開放された状態で、肥料材113が頂壁部104内面に接して充填され、残りの空間に母材112が充填された後、袋体101の開放端が封止される。また、肥料材113は、透水性の袋に入れられた状態で、袋体101に充填されてもよい。あるいは、袋体101の頂壁部104の内面側に、肥料材113を充填するためのポケットが設けられてもよい。
【0029】
本実施形態の植生袋100では、遮水領域105が植生材料111を上方から覆うように延在している。また、遮水領域105が袋体101の側方を向く上方側部104aに延在している。そして、遮水領域105が植生材料111の上側部分を上方および側方の両方向から覆っている。すなわち、植生材料111の肥料材113は、袋体101内部の上側部分にのみ充填され、遮水領域105によって上方および側方から覆われている。また、母材112の一部も袋体101内部の上側部分に充填され、遮水領域105によって上方および側方から覆われている。遮水領域105は、降雨や植生領域への散水などの際、流水の通過を遮断するとともに、吸収した水分が蒸発した水蒸気の通過を遮断するように機能する。また、遮水領域105は、所定の断熱性を有していることから、直射日光などにより加熱されたときに、相対的に高熱になりにくい特性を有する。他方、透水領域103が袋体101の側方を向く下方側部102aに延在し、かつ、接地部位102bに亘って延在している。つまり、袋体101の側方を向く部位に透水領域103が形成されている。そして、透水領域103が植生材料111の下側部分を下方および側方の両方向から覆っている。すなわち、植生材料111の母材112の少なくとも一部が、袋体101内部の下側部分に充填され、透水領域103によって側方および下方から覆われている。植生袋100は、降雨や植生領域への散水などの際、透水領域103を介して、袋体101内部に水分を吸収して地面に水分や(植生材料111から水分中に溶け出した)栄養分を供給するように機能し得る。
【0030】
図3は、本実施形態の複数の植生袋100を装着した植生マット10の概略斜視図である。すなわち、植生マット10は、(1または)複数の植生袋100と、縦横に平面状に延在し、地面に敷設される透水性の植生シート11と、を備える。そして、(1または)複数の植生袋100が植生シート11に縦方向に所定の間隔で装着されている。植生シート11は、植生植物の種子が播種された種子付シート12と、該種子付シート12の表面に接着剤等の任意の結合手段で貼り付けられた網状シート13とを備える。種子付シート12は、複数の種子が貼り付けられた、平面状に延在するシート体から構成されている。種子付シート12は、紙、織布または不織布から形成され得る。また、この網状シート13は、法面の土砂の流出などを抑える法面の保護効果を有する。
【0031】
植生袋100は、網状シート13を介して種子付シート12の表面上に載置される。植生袋100は、ピンやアンカーなどで植生シート11に固定される。このとき、植生袋100の長手方向が、植生シート11の横方向に沿って配置される。植生マット10を法面に設置した際、植生袋100が法面の傾斜方向に直交する方向に延在することにより、法面流水をより効率的に吸水することができるからである。
【0032】
植生マット10の特徴は、以下のように表され得る。植生マット10は、法面緑化に使用される植生マット10であって、縦横に平面状に延在して地面に敷設される透水性の植生シート11と、植生シート11の表面側の所定領域に保持され、母材112および肥料材113を含有する植生材料111と、を備え、植生マット10には、遮水性および断熱性を有する遮水領域105、および、透水性を有する透水領域103が形成され、肥料材113は、植生シート11(種子付シート12)の表面から離れた部分にのみ保持され、遮水領域105によって上方から覆われていることを特徴とする。
【0033】
図4を参照して、本実施形態の植生袋100および植生マット10を法面に設置した設置構造について説明する。設置構造において、植生マット10は、その縦方向が法面の傾斜方向に沿うように配置され、アンカー等で法面に固定される。植生袋100は、その長手方向が植生マット10の横方向に沿って植生マット10に装着されていることから、斜面の等高線方向に沿って配列する。
【0034】
図4に示すように、植生袋100が法面に設置された際、透水領域103が法面の地面方向および(地面近傍で)傾斜方向を向き、遮水領域105が法面の地面の反対方向(上方向)および(地面から離隔して)傾斜方向を向いている。すなわち、遮水領域105が、袋体101の内部空間の上半分の植生材料111(肥料材113)を鉛直上方および側方(傾斜方向または幅方向)から覆っている。遮水領域105が、傘のように植生材料111を覆うことにより、降雨や散水の際、鉛直上方からの降水が袋体101の内部に直接的に流れ込むことが防止される。また、法面を流れ落ちる法面流水が、袋体101の内部空間の上半分を直接通過することも防止される。一方で、法面流水は、法面近傍で側方を向く透水領域103を介して、植生袋100の内部に入り込む。水分は、まず、袋体101の内部空間の下半分の植生材料111に吸収され、緩やかに上半分へと浸透する。植生袋100に吸水された水分は、例えば、降雨や散水の後の晴天時において、透水領域103を介して、植生植物の生育を補助するために地面へと徐々に供給される。
【0035】
図5は、従来の植生袋1を法面に設置した設置構造を示している。図5では、植生袋1の袋体2全体が透水性素材で形成されている。袋体2内部に肥料材を混合した植生材料4が保持されている。図5(a)に示すように、降雨や散水の際、袋体2の透水領域3を介して、植生材料4が鉛直上方からの降水および法面を流れ落ちる法面流水の両方を吸水することができる。降水および法面流水は、植生袋1の内部全体を通過して外部に流出する。このとき、植生材料4内の肥料分の多くが水中に溶け出して法面へと流れていく。そして、発芽前の種子に対して肥料分が供給される。発芽前の種子は肥料分を必要とせず、むしろ種子への肥料分の供給は発芽を阻害する。また、植生材料は、肥料分の早期の損失により、発芽後の植生材料に適切な量の肥料分を持続的に供給することも困難となる。その結果として、法面の緑化が遅延する。
【0036】
これに対し、本実施形態の植生袋100および植生マット10は、図6(a)~(c)に模式的に示すように、植生植物に対して、より適切なタイミングで肥料分を最初の降雨または散水から時間差で供給するように作用する。以下、図6(a)~(c)を参照して、本実施形態の植生袋100および植生マット10の経時的な作用について詳細に説明する。
【0037】
図6(a)に示すように、植生マット10の設置後の初期の発芽前段階では、種子付シート12の種子はまだ発芽していない。設置後の最初の降雨または散水の際、遮水領域105が傘のように植生材料111を覆うことにより、降水および法面流水が、袋体101の上半分の領域を通過することが防止される。すなわち、植生袋100の側方の上部に遮水領域105が及んでいるため、袋体101の下半分の透水領域103の箇所に流路108が定められ、流路108より上側に、直接流水が流れ込むことが抑えられる。透水領域103を介して下半分の植生材料111に吸収された水分は、緩やかに上半分へと浸透し、植生材料111全体に水分が含まれることになる。しかしながら、流水が肥料材113を直接通過することがないので、肥料材113からの肥料分の流水への溶出や、外部への無駄な流出が抑えられる。そして、降雨または散水の停止後、植生袋100は、透水領域103を介して、法面への水分(または、種子の発芽に障害を及ぼさない程度の低濃度の肥料分を含む水分)を持続的に供給する。すなわち、発芽前段階では、植生袋100は、発芽前の種子に対して、高濃度の肥料分を供給することなく、発芽に必要な水分を供給することが可能である。また、発芽前段階での肥料材113からの肥料分の損失量も抑えられる。
【0038】
発芽前段階から2回目以降の降雨または散水を経た発芽段階では、種子から発芽した植生植物の生育に(生育期の適量濃度と比べて)比較的低濃度の肥料分が供給されることが望ましい。図6(b)に示すように、発芽段階では、肥料材113の肥料分の一部が、経時とともに植生材料111全体に溶け出している。これにより、母材112は、肥料材113に対して相対的に低濃度の肥料分を含有する。そして、法面流水が透水領域103を介して流路108を通過することで、植生袋100は、水分とともに(生育期の適量濃度と比べて)比較的低濃度の肥料分を発芽後の植生植物へと供給することが可能である。
【0039】
発芽段階から降雨または散水を経てさらに経時し、植生植物が生育期にある生育段階では、適量の濃度の肥料分が持続的に供給されることが望ましい。図6(c)に示すように、生育段階では、複数回の降雨または散水と経時によって、肥料材113の肥料分が、植生材料111全体に溶け出している。これにより、植生材料111は、全体としてほぼ同じ濃度の肥料分を含有する。そして、法面流水が透水領域103を介して流路108を通過することで、植生袋100は、生育期に必要な適量の肥料分を植生植物へと供給することが可能である。
【0040】
したがって、本実施形態の植生袋100および植生マット10は、植生植物の発芽前段階、発芽段階および生育段階の各段階に応じて、植生袋100から適切に水分および/または肥料分を植生植物に供給し、地面または法面をより早期かつ効率的に緑化することを可能とする。
【0041】
また、従来の植生袋1の設置構造では、図5(b)に示すように、降雨や散水の後の晴天時において、袋体2に吸収された水分は、透水領域3を介して、空気より軽い水蒸気となって空中に霧散してしまう。そのため、植生袋1は、すぐに乾燥してしまうので、降雨や散水後の短時間しか地面への水分の供給をすることができない。つまり、従来の植生袋1は、十分な保水性を有さず、長時間、植生植物の生育を補助することができない。
【0042】
これに対し、図7は、植生袋100の保水性を示す模式図である。図7では、説明の便宜上、肥料材の描写を省略した。図7に示すように、本実施形態の植生袋100では、遮水領域105が植生材料111を上方から覆うように延在することで、蒸発した水分(水蒸気)が頂壁部104を通過することなく、袋体101の内部に滞留する。特に、水蒸気は、空気よりも軽いことから、袋体101の下半分に形成された透水領域103を介して積極的に流出することがないと考えられる。さらに、遮水領域105が断熱性を有することにより、直射日光等による植生袋100の温度上昇が効果的に抑えられる。その結果、該植生袋100に吸収された水分の蒸発量が減少する。したがって、本実施形態の植生袋100は、より長時間、保水性を維持することで、植生植物の生育をより効率的に補助することが可能である。
【0043】
なお、上記実施形態では、頂壁部104全体が遮水領域105をなし、遮水領域105が植生材料111全体を上方から覆うように延在しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、遮水領域が植生材料の一部を上方から覆うように延在すれば、植生袋の保水性を相対的に改善することが可能である。好ましくは、頂壁部の表面積の約60%以上に遮水領域が形成されていれば、水分が蒸発する量を十分に軽減することが可能である。
【0044】
発明者らは、上述した本発明の植生袋および植生マットの作用効果を確認するために実証試験を行った。実証試験は、法面と同様の環境を擬似的に構築するように、約45度傾斜させて設置したトレイに土壌を形成し、土壌表面に各種形態の植生袋を植生シートに装着した植生マットを設置し、そして、その経時変化を観察することによって実施された。この実証試験は、外部からの立ち入りが禁止された完全に非公開の敷地内において、3月下旬~4月下旬の植物の生育に適切な気候の下、屋外にて実施された。
【0045】
図8(a)~(e)は、実証試験における比較例1~4および実施例の植生袋の形態を模式的に示している。図8(a)に示す比較例1の植生袋は、袋体全体が透水シート(不織布)から形成され、植生材料が母材と肥料材とを含有し、母材と肥料材とを一様に混合したものである。図8(b)に示す比較例2の植生袋は、底壁部が透水シート(不織布)から形成され、頂壁部が断熱性を有する遮水シート(発泡ポリエチレンシート)から形成され、植生材料が母材と肥料材とを含有し、母材と肥料材とを一様に混合したものである。図8(c)に示す比較例3の植生袋は、植生袋の底壁部が透水シート(不織布)から形成され、頂壁部が断熱性を有する遮水シート(発泡ポリエチレンシート)から形成され、植生材料が母材のみからなり、肥料材を含有しない。図8(d)に示す比較例4の植生袋は、底壁部が透水シート(不織布)から形成され、頂壁部が断熱性を有する遮水シート(発泡ポリエチレンシート)から形成され、植生材料が母材と肥料材とを含有し、底壁部に接触する下側部分に肥料材を充填したものである。図8(e)に示す実施例の植生袋は、上記実施形態の植生袋100に対応し、底壁部が透水シート(不織布)から形成され、頂壁部が断熱性を有する遮水シート(発泡ポリエチレンシート)から形成され、植生材料が母材と肥料材とを含有し、頂壁部に接触する上側部分に肥料材を充填したものである。ここで、各比較例および実施例において、母材として等量の土壌改良材(パーライト)が選択され、肥料材として等量の化成肥料(比較例3を除く)が選択された。100ccパーライトに対し、10gの化成肥料を使用した。植生シートは、種子付シートおよび網状シートの2層から構成された。各トレイごとに、2つの植生袋が植生マットの横方向に沿ってピンで植生シートに固定された。
【0046】
評価方法として、植生マットを設置してから4週間経過後、および6週間経過後に種子付シートからの種子の発芽状態および植物の生育状態を撮影および観察して、各比較例および実施例を目視により比較し、緑化進行度の順位を付した。また、目視による観察により、植生シート表面の植生植物の割合に基づいて緑化被覆率を計測した。さらに、植生植物の草丈の最大値を測定した。
【0047】
図9(a)~(e)は、実証試験の試験結果として、植生マットを設置してから4週間経過後の比較例1~4および実施例の植生マットの写真を示している。図9に示すように、4週間経過した試料は、生育段階の初期に位置づけられることが分かる。この時点での観察結果を以下の表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
各試料間では、種子の発芽状況および植生植物の生育状況において有意な差が観察された。実施例(図9(e))および比較例3(図9(c))の緑化進行度が相対的に最も高い。そして、比較例1(図9(a))および比較例4(図9(d))の緑化進行度が相対的に最も低い。比較例1では、頂壁部素材が透水性であり、かつ、種子または地面に肥料分が隣接していることから、種子の発芽が阻害されていることが分かる。比較例2(図9(b))では、頂壁部素材が遮水性であり、植生袋が比較例1よりも保水性に優れていることから、比較例1よりも相対的に緑化進行度が高いことが考えられる。比較例4では、比較例2と比べて高濃度の肥料分が種子または地面に隣接していることから、比較例2よりも相対的に緑化進行度が遅いことが考えられる。この試験結果から、実施例は、種子または地面から肥料分を遠ざけるように肥料材を袋材の上側部分に配置したことにより、(肥料分を含まない)比較例3と同様に、発芽前段階において、種子に余分な肥料分が供給されることが抑えられ、種子の発芽に肥料分の悪影響を与えないことが実証された。
【0050】
図10(a)~(e)は、実証試験の試験結果として、植生マットを設置してから6週間経過後の比較例1~4および実施例の植生マットの写真を示している。図10に示すように、6週間経過した試料は、生育段階に位置づけられることが分かる。この時点での観察結果を以下の表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
各試料間では、植生植物の生育状況において有意な差が観察された。実施例(図10(e))の緑化進行度が相対的に最も高い。4週間経過時点の結果と同様に、比較例1(図10(a))の緑化進行度が相対的に最も低い。比較例3(図10(c))について、4週間経過の時点での緑化進行度が最も高かったが、6週間経過すると順位が4位に下がっている。比較例3は、植生材料に肥料材を含まないので、生育期の植生植物に必要な肥料分を供給することができず、肥料分の不足によって、植生植物の成長が遅れていることが分かる。比較例2(図10(b))、4(図10(d))は、生育期の植生植物に肥料分を供給することにより、それぞれ順位が2位、3位に上がっているものの、実施例と比べて緑化進行度が低いことが分かった。
【0053】
上記試験結果によって、本発明の実施例に係る植生袋および植生マットは、発芽前段階に種子に余分な肥料分を供給せずに、生育段階に植生植物に必要な肥料分を適切に供給することにより、地面の緑化を早期化することができることが実証された。
【0054】
次に、頂壁部の素材について、遮水性を有する素材と、遮水性および断熱性の両方を有する素材とを比較検証した結果を示す。
【0055】
参考例1の植生袋は、植生袋全体が透水シート(不織布)から形成された。参考例2の植生袋は、植生袋の底壁部が透水シート(不織布)から形成され、頂壁部が遮水シート(ポリエチレン製防水ラミネートシート)から形成された。参考例3の植生袋は、植生袋の底壁部が透水シート(不織布)から形成され、頂壁部が断熱性を有する遮水シート(発泡ポリエチレンシート)から形成された。ここで、保水性を比較検証するために、各参考例において、植生材料は、肥料分を含まず、土壌改良材(パーライト)から構成された。植生シートは、種子付シートおよび網状シートの2層から構成された。各トレイごとに、2つの植生袋が植生マットの横方向に沿ってピンで植生シートに固定された。
【0056】
評価方法として、植生マットを設置してから4週間経過後に種子付シートからの種子の発芽状態および植物の生育状態を撮影および観察して、各参考例を目視により比較し、緑化進行度の順位を付した。また、目視による観察により、植生シート表面の植生植物の割合に基づいて緑化被覆率を計測した。さらに、気温25.5℃の晴天(直射日光あり)の条件で、植生袋の表面の温度測定を実施した。
【0057】
図11(a)~(c)は、実証試験の試験結果として、植生マットを設置してから4週間経過後の参考例1~3の植生マットの写真を示している。また、試験結果を以下の表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
より詳細には、図11(a)によれば、参考例1では、発芽した種子の割合が最も低く、緑化被覆率が5%以下となっており、緑化進行度が最も低い。図11(b)によれば、参考例2では、発芽した種子の割合がより高く、緑化被覆率が10~15%程度となっており、緑化進行度が比較的高い。図11(c)によれば、参考例3では、発芽した種子の割合が最も高く、緑化被覆率が15~20%程度となっており、緑化進行度が最も高い。すなわち、各試料間では、有意な差が観察され、緑化進行度が参考例3、参考例2、参考例1の順で高いという試験結果を得られた。また、植生袋の表面温度については、頂壁部が透水領域である方(参考例1)が、遮水領域を設けたもの(参考例2、3)よりも表面温度が上がりにくいことが分かる。一方で、遮水領域を断熱性としたこと(参考例3)により、表面温度の上昇が緩やかになることも分かった。この結果から、参考例2,3の植生マット(または植生袋)は、参考例1と比べて、遮水領域が植生材料を上方から覆うように延在することで、植生袋に吸収された水分の蒸発量が軽減され、より長時間、保水することが可能となることが分かった。さらに、参考例3の植生マット(または植生袋)は、参考例2と比べて、植生袋の温度上昇を抑えたことにより、植生袋内の水分の蒸発量をより一層減少させ、地面への水分の供給を効果的に維持可能であることもまた考察される。
【0060】
以上を踏まえ、本発明の一実施形態の植生袋100および植生マット10の作用効果について説明する。
【0061】
本実施形態の植生袋100または植生マット10によれば、頂壁部104が遮水領域105を含み、袋体101の遮水領域105以外の部位が透水領域103を含み、肥料材113が袋体101内部の底壁部102の接地部位102bから離れた部分にのみ充填され、遮水領域105によって上方から覆われている。肥料材113が底壁部102の接地部位102b近傍に存在しないことにより、肥料分が、地面側に播種された種子に接触または近接して、種子の発芽を阻害することを抑えることができる。また、頂壁部104の遮水領域105が、肥料材113の上方および側方からの降水および法面流水を遮蔽することで、降水および法面流水が肥料材113(当初の肥料材充填部分)を直接通過することを防止し、適量の肥料分が透水領域103から流出する時期を遅らせることができる。したがって、本実施形態の植生袋100および植生マット10は、植生植物の発芽前段階(設置初期)に流出する肥料分の量を軽減させ、発芽後の植生植物に時間差で適量の肥料分を供給することで、地面をより早期に緑化することを可能とする。
【0062】
[変形例]
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形例を取り得る。以下、本発明の変形例を説明する。
【0063】
(1)本発明の植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。図12に示す植生袋200は、頂壁部204を遮水層204-1および断熱層204-2の2層で構成したものである。例えば、頂壁部204の上層を遮水性シート(例えば、ポリエチレン製防水ラミネートシート)とし、下層に透水性および断熱性を有する発泡樹脂材を設けてもよい。また、本発明の植生袋の頂壁部は、少なくとも遮水性を有せば、従来技術と比べて、格別な作用効果を発揮することが分かっており(表3を参照)、遮水領域が断熱性を有さなくてもよい。
【0064】
(2)本発明の植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態では、遮水領域が、植生材料の上側部分を上方および側方の両方から覆うように延在しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明は、遮水領域が植生材料の上側部分を側方から覆っていない場合であっても、遮水領域が植生材料(および肥料材)を少なくとも上方から覆うことで、従来技術と比べて、早期の肥料分の溶け出しを抑え、相対的に有利な作用効果を発揮することができる。
【0065】
(3)本発明の植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態では、袋体の内部空間において、肥料材が上側半分の領域内であり、かつ、頂壁部内面に接するように配置されたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明は、肥料材が接地部位から離れた部分に充填され、かつ、遮水領域によって上方から覆われていればよく、内部空間内で任意に肥料材の充填領域の位置が変更されてもよい。例えば、図12に示す植生袋200では、肥料材213は、頂壁部204から離間した位置に設けられたが、遮水領域205によって上方および側方から覆われている。
【0066】
(4)本発明の植生袋は、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態の植生袋は、長筒状に形成されたものであるが、本発明の植生袋の形状は長筒状に限定されない。例えば、植生袋は、所定厚みの円板、矩形板状等の任意の形状をとり得る。そして、網状体を介さずに、植生袋をつなぎ合わせて植生マットを構成してもよい。あるいは、植生袋を1つの大きい所定厚みの平板形状とし、袋内部に植生材料が移動しないように複数の仕切りを設けてもよい。
【0067】
(5)本発明の植生マットは、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態の植生マットでは、植生シートの表面に植生袋が固定されて装着されたが、本発明はこれに限定されない。図13(a)、(b)は、本発明の変形例の植生マット10’の概略斜視図および断面図を示している。植生マット10’では、植生袋100を収容して保持するための長筒状の収容部24を有する植生シート21が採用された。植生シート21は、種子付シート22と、該種子付シート22の表面に貼り付けられた網状シート23とを備える。網状シート23には、網状体が2重となる複数の箇所を有し、当該箇所に横方向に長筒状に延びる複数の収容部24が設けられている。収容部24は、長手方向に延伸する網状の長筒体から構成され、植生袋100を保持可能に構成されている。各収容部24は、植生シート21の横方向に亘って長手状に延在している。より具体的には、網状の収容部24は、縦方向に位置する複数の縦糸と、該縦糸を連結する横糸とにより構成されて、横糸を表裏に分割してこれら各横糸のそれぞれに各縦糸を横方向に対して交互に編み込むことにより筒状を形成したものである。つまり、収容部24は、2枚の網状体が重ね合わされた袋状に形成されている。なお、収容部24は、目が粗い粗部24a、及び、目が細かい密部24bを組み合わせてなってもよい。好ましくは、植生シート21が法面に設置されたときに、粗部24aが斜面の上側に位置し、密部24bが斜面の下側に位置する。そして、収容部24は、その長手方向が植生シート21の横方向に沿うように一端から他端に亘って延在している。該収容部24の長手方向の端部の一端又は両端が開口し、筒状の植生袋100を開口から挿入可能に構成されている。すなわち、本形態の植生マット10’では、複数の植生袋100を複数の収容部24にそれぞれ挿入していくことにより、複数の植生袋100を所定の間隔で植生シート21に容易に装着することが可能である。
【0068】
(6)本発明の植生マットは、上記実施形態に限定されず、種々の形態を取り得る。上記実施形態の植生マットは、植生シートおよび植生袋が独立し、植生シートに植生袋を装着したものであるが、本発明はこれに限定されない。植生シートおよび植生袋が一体的に形成されてもよい。この場合、植生シートは、植生材料を植生シートの表面側の所定領域に保持する袋状の保持部を有し、保持部の頂壁部に遮水領域が形成され、遮水領域が植生材料を上方から覆うように延在する。
【0069】
(7)上記実施形態では、植生袋および植生マットが法面の緑化に用いられているが、本発明の植生袋および植生マットは法面以外の緑化にも使用されてもよい。
【0070】
なお、本発明は上述した複数の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0071】
10 植生マット
11 植生シート
12 種子付シート
13 網状シート
100 植生袋
101 袋体
102 底壁部
102a 下方側部
102b 接地部位
103 透水領域
104 頂壁部
104a 上方側部
105 遮水領域
108 流路
111 植生材料
112 母材
113 肥料材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13