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特開2023-68269リンとカルシウムを含む物質を利用した二酸化炭素の固定化方法及び固定化装置。
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  • 特開-リンとカルシウムを含む物質を利用した二酸化炭素の固定化方法及び固定化装置。 図1
  • 特開-リンとカルシウムを含む物質を利用した二酸化炭素の固定化方法及び固定化装置。 図2
  • 特開-リンとカルシウムを含む物質を利用した二酸化炭素の固定化方法及び固定化装置。 図3
  • 特開-リンとカルシウムを含む物質を利用した二酸化炭素の固定化方法及び固定化装置。 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068269
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】リンとカルシウムを含む物質を利用した二酸化炭素の固定化方法及び固定化装置。
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/50 20170101AFI20230510BHJP
   C01F 11/18 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
C01B32/50
C01F11/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179185
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】717005512
【氏名又は名称】原田 英信
(71)【出願人】
【識別番号】518381651
【氏名又は名称】太田 洋文
(71)【出願人】
【識別番号】520040245
【氏名又は名称】川上 則明
(72)【発明者】
【氏名】太田 洋文
【テーマコード(参考)】
4G076
4G146
【Fターム(参考)】
4G076AA16
4G076AB05
4G076BA34
4G076BB08
4G076BC02
4G076BD01
4G076DA30
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC22
4G146JC28
4G146JC39
(57)【要約】
【課題】
二酸化炭素の固定化方法において、余剰な新たなエネルギー投入が不要であり、環境負荷が少ない。
【解決手段】
炭酸水2中で二酸化炭素バブル6を供給し、リンとカルシウムを含む物質3(例えば、ハイドロキシアパタイト、リン酸一カルシウム、リン酸二カルシウム、及びリン酸三カルシウムより選択される少なくとも一つを含む)と、リン酸基と共有結合する物質5(例えば、タンパク質、アミノ酸、ブドウ糖、及びショ糖より選択される少なくとも一つを含む)を反応させ、共有結合物4及び炭酸カルシウム11を生成する。
【選択図】図3



【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンとカルシウムを含む物質と、リン酸基と共有結合する物質を、炭酸水中で反応させ、炭酸カルシウムを生成する二酸化炭素の固定化方法。
【請求項2】
前記リンとカルシウムを含む物質は、ハイドロキシアパタイト、リン酸一カルシウム、リン酸二カルシウム、及びリン酸三カルシウムより選択される少なくとも一つを含む請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
前記リン酸基と共有結合する物質は、タンパク質、アミノ酸、ブドウ糖、及びショ糖より選択される少なくとも一つを含む請求項1または2に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項4】
前記炭酸水中での反応は、pH4.65以下で行うカルシウム分離工程と、中性領域で行う炭酸カルシウム生成工程を有する請求項1~3の何れか一項に記載の二酸化炭素の固定化方
【請求項5】
リンとカルシウムを含む物質と、リン酸基と共有結合する物質を、炭酸水中で反応させ、炭酸カルシウムを生成する二酸化炭素の固定化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンとカルシウムを含む物質を利用した二酸化炭素の固定化方法及び固定化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の主原因物質である炭酸ガスの大気中への放出を抑制する二酸化炭素の固定回収技術として、ゼオライトや活性炭などの吸着剤を用いた物理的吸収法、モノエタノールアミンなどのアルカリ性吸収液などの化学反応を利用する化学吸収法、膜分離法或いは炭酸塩にする方法などが提案されている。
【0003】
炭酸塩として固定する方法として、特許文献1及び特許文献2に開示される方法がある。
特許文献1には、高炉スラグを粉砕した後、水100重量部に対して高炉スラグが5~15重量部になるように水、高炉スラグおよびNaOHを混合し、この混合物に二酸化炭素を供給して水熱反応を行って、高品質のCaCO3(炭化カルシウム)とする方法が提案されている。
【0004】
特許文献2には人工石材の製造方法として、人工石材の原料である微粉材料粗粒材料のうち、粗粒材料として高炉水砕スラグを用い、この水砕スラグにCO2を供給し、CaCO3として固定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-95662号公報
【特許文献2】特開2000-247711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記何れの方法も余剰な新たなエネルギー投入が必要であり環境負荷の少ないものが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る二酸化炭素の固定化方法は、リンとカルシウムを含む物質と、リン酸基と共有結合する物質を、炭酸水中で反応させ、炭酸カルシウムを生成する。
【0008】
請求項2に係る二酸化炭素の固定化方法は、前記リンとカルシウムを含む物質が、ハイドロキシアパタイト、リン酸一カルシウム、リン酸二カルシウム、及びリン酸三カルシウムより選択される少なくとも一つを含む。
【0009】
請求項3に係る二酸化炭素の固定化方法は、前記リン酸基と共有結合する物質が、タンパク質、アミノ酸、ブドウ糖、及びショ糖より選択される少なくとも一つを含む。
【0010】
請求項4に係る二酸化炭素の固定化方法は、前記炭酸水中での反応が、pH4.65以下で行うカルシウム分離工程と、中性領域で行う炭酸カルシウム生成工程を有する。
【0011】
請求項5に係る二酸化炭素の固定化装置は、リンとカルシウムを含む物質と、リン酸基と共有結合する物質を、炭酸水中で反応させ、炭酸カルシウムを生成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、廃棄物の有効活用をベースとした省エネの二酸化炭素固定化技術であり、二酸化炭素排出抑制が求められる全世界、全産業で応用可能である。また、余剰な新たなエネルギー投入を必要とせずに二酸化炭素固定化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態1に係る二酸化炭素の固定化装置(カルシウム分離工程)の概略図である。
図2】本実施形態1に係る二酸化炭素の固定化装置(炭酸カルシウム生成工程)の概略図である。
図3】本実施形態2に係る二酸化炭素の固定化装置(2槽式)の概略図である。
図4】Wikipediaフリー百科事典によるエリンガムダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係る二酸化炭素の固定化方法及び固定化装置について説明する。ただし、以下の各実施形態に限定されるものではなく、また、任意の組み合わせでも良く、従来の対応する如何なる技術も利用することができる。
【0015】
<実施形態1>
図1は本実施形態1に係る二酸化炭素の固定化方法及び固定化装置の概略図である。
図1で示されているように、二酸化炭素の固定化装置1において、二酸化炭素は供給管7より装置の底部から二酸化炭素バブル6となって、常時炭酸水2に供給されており、この炭酸水2中でリンとカルシウムを含む物質3と、リン酸基と共有結合する物質5が反応し共有結合物4が生成する。
図1は、このような環境負荷が少ない中でのリンとカルシウムを含む物質3からカルシウムを分離させることを示すものである。
【0016】
なお、図には示されていないが、上記分離されたカルシウムは水に可溶な炭酸水素カルシウム水溶液の状態となるものの、さらにCO2と結合して水に不溶な炭酸カルシウムとなり、二酸化炭素の固定化が行われる。
これは、例えば石灰水に息(CO2)を吹き込んで白濁させる周知の方法と同様の原理である(下記参照。)。

Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O
(水に可溶) (水に不溶)

本実施形態1はこのような二酸化炭素の固定化を行うものを含み得るが、この場合、過剰にCO2を吹き込み続けると酸性度の高い炭酸水になることで、折角出来た炭酸カルシウムを再溶解してしまうことがある(下記参照。)。

CaCO3 + CO2 + H2O → Ca(HCO32
(水に不溶) (水に可溶)

この為、本実施形態1においては、カルシウム分離工程と炭酸カルシウム生成工程を有することが望ましい。
【0017】
そこで、まずカルシウム分離工程について以下説明を行う。
(なお、カルシウム分離工程と炭酸カルシウム生成工程に分けて行わない場合については後述する。)
カルシウム分離工程は、前述したとおり、図1で示される二酸化炭素の固定化装置1において、炭酸水2中で二酸化炭素バブル6を供給し、リンとカルシウムを含む物質3と、リン酸基と共有結合する物質5を反応させ、共有結合物4を生成するものであり、環境負荷が少ない状態でリンとカルシウムを含む物質3からカルシウムを分離させる工程である。この工程では、カルシウムは水に可溶な炭酸水素カルシウム水溶液となっている状態である。
【0018】
ここで、リンとカルシウムを含む物質とは、例えば、ハイドロキシアパタイト、リン酸一カルシウム、リン酸二カルシウム、及びリン酸三カルシウムより選択される少なくとも一つを含んでいることが望ましい。
【0019】
上記リンとカルシウムを含む物質として挙げたこれら4種の物質の概要は以下のとおりである。
(1)ハイドロキシアパタイト(六方晶系、三斜晶系)
hydroxyapatite
Ca5(PO4)3OH
骨の主要構成成分
(2)リン酸一カルシウム(三斜晶系)
Monobasic Calcium Phosphate、Calcium Dihydrogen Phosphate
Ca(H2PO4)2
カルシウム補給を目的とする食品添加物、ベーキングパウダー、バイオ薬剤、発泡樹脂膨張剤
(3)リン酸二カルシウム(六方晶系、斜方晶系、単斜晶系)
Calcium Secondary Phosphate、Calcium Hydrogen Phosphate
CaHPO4
カルシウム補給を目的とする食品添加物
(4)リン酸三カルシウム(単斜晶系、六方晶系)
Tricalcium phosphate
Ca3(PO4)2
カルシウム補給を目的とする食品添加物、骨を焼成して得られる物質
【0020】
また、リン酸基と共有結合する物質とは、例えば、タンパク質、アミノ酸、ブドウ糖、及びショ糖より選択される少なくとも一つを含んでいることが望ましい。
【0021】
上記リン酸基と共有結合する物質として、ブドウ糖(グルコース:C6H12O6)のリン酸化でグルコース6リン酸が生じるが、電荷(負帯電)を与えられるため細胞壁を通過できなくなることが知られている。
この場合、pH4.6の酸性環境下であれば脱灰(カルシウムの遊離)反応を生ずる。
なお、脱灰反応の例としては、例えば、歯に穴が空く現象が知られている。
【0022】
また、同様に上記リン酸基と共有結合する物質として挙げたショ糖(スクロース:C12H22O11)は、虫歯の原因物質の1つで、虫歯菌と歯垢によって中性化する唾液の侵入を防ぎ酸性環境とすることで、エナメル質が分解し生じたリン酸基がショ糖をリン酸化する。
この場合、pH4.6の酸性環境下であれば、ブドウ糖と同様に脱灰(カルシウムの溶脱)反応を生ずる。
【0023】
本実施形態1では、リンとカルシウムを含む物質として、ハイドロキシアパタイト(例えば骨や歯)Ca5(PO4)3OHを、また、リン酸基と共有結合する物質として、タンパク質を用いる。
【0024】
すなわち、ハイドロキシアパタイトを炭酸に溶かし、タンパク質(例えば、牛乳等)と反応させるとガゼイン(負電荷物質)が生成する。そこで、pH4.6未満の等電点にしてCaを手放す。このカルシウムは水溶性の炭酸水素カルシウム(Ca(HCO3)2)となり、炭酸溶液中に溶解するが、後述するように炭酸カルシウム生成工程において炭酸溶液が中性化すると炭酸カルシウム(CaCO3)になって沈殿製造される。
上記ハイドロキシアパタイト(以下「HA」という。):Ca5(PO4)3(OH)は動物の骨の主要構成成分である。
また、通常、HAの溶解開始酸性度はpH5.8、臨界平均値はpH5.15、純粋物最大値はpH4.65である。
このため、pH4.65を下回る酸性溶液にHAは溶解することになる。
【0025】
また、実施形態1では炭酸水に温暖化物質である排気ガス(CO2)を有効活用する。
具体的には有害物質を取り除いた排気ガス(CO2)を水に通すと、比較的簡単に炭酸水が得られる。
反応酸性溶液である炭酸水(H2CO3)は通常pH4.60であり、HAの溶解酸性度(最大値pH4.65)との比較からHAは炭酸水に溶解する。
【0026】
但し、溶解液を単純に中和するとHAが再結晶化するだけである。
これは、リン酸がH2よりCaを、Caが炭酸よりリン酸との結合をより好むことによる。
これについて、例えば、図4のエリンガムダイアグラムを参酌すると、一般的な冶金学では、カルシウム酸化物を還元してカルシウムを得ることは、とてもエネルギーのかかること、すなわち、金属元素ではCa以上にイオン結合力の強い物質は見当たらないことが理解できる。
なお、図4は、Wikipediaフリー百科事典[令和3年11月2日検索]によるエリンガムダイアグラムである(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%A0%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0)。
このため、本発明はイオン結合より強力な共有結合種を探ることとした。
【0027】
リン酸基と共有結合する物質(例えばタンパク質)のリン酸化については、2価の金属イオン(Ca)の触媒効果(キナーゼ)により反応が促進される。
【0028】
結合の強さは一般的に以下の順序である。
共有結合(≒配位結合)>イオン結合>金属結合>水素結合>ファンデルワールス力
【0029】
共有結合で生じたリンタンパク質は中性領域では負帯電状態のため、触媒を担った2価の金属陽イオン(Ca)はファンデルワールス力(非常に弱い力)で付着している状態となっている。
そして、pHを4.6とすることでリンタンパク質は等電点状態となり、Caはリンタンパク質より遊離する(カルシウム分離工程)。
【0030】
例えば、前述の(2)リン酸一カルシウム:Ca(H4PO4)2とセリン:C3H7NO3との反応について、化学式を用いて以下説明を行う。

リン酸カルシウムを水溶液中に溶解すると、(1)反応が起こり右辺のような存在形態となる。
リン酸一カルシウム 水 水酸化カルシウム リン酸
(1)式 Ca(H2PO4)2 + 2H2O ⇒ Ca(OH) + 2H3PO4

ここにタンパク質の元材料であるセリン(アミノ酸の1種)を投入するとリン酸化物が生成する。
リン酸 セリン(アミノ酸) リン酸化セリン(リンタンパク質)
(2)式 H3PO4 + C3H7NO3 ⇒ H2N-CH-COOH・CH2OPO(OH)2(側鎖)
水溶液中で側鎖はCH2OPO2OH-となり負帯電状態
(1)式と(2)式より、

リン酸一カルシウム セリン(アミノ酸) リン酸化セリン(リンタンパク質)
水酸化カルシウム
(3)式 Ca(H2PO4)2 + 2C3H7NO3 ⇒ 2(H2N-CH-COOH・CH2OPO(OH)2
+Ca(OH)2
【0031】
ここで浮遊選鉱の要領で濃集したリンタンパク質を水溶液の上方より固液分離しながら回収する。
【0032】
以上の反応を、単純な水溶液に二酸化炭素を吹き込んだ炭酸溶液中で行うと、以下のような溶液性状変化となる。

CO2 + H2O → H2CO3
【0033】
他方、リン酸化セリン反応は(3)式のとおり進行し、pH4.6付近では等電点化で負帯電状態が解消され、斥力が無くなることでリン酸化セリンの濃集が促進する。また、リンタンパク質の等電点化により遊離可能となったカルシウムイオンは、(3)式右辺の水酸化カルシウムを経て、更に過剰なCO2との反応が進み、水溶性の炭酸水素カルシウムとなり溶液中に溶け込んだ状態となる(カルシウム分離工程)。

Ca(OH)2 + CO2 → Ca(HCO3)2
(水に可溶)
【0034】
続いて、炭酸カルシウム生成工程を以下説明する。
炭酸カルシウム生成工程では、上記得られた炭酸水素カルシウム水溶液を中性化することで水に不溶な炭酸カルシウムを得るものである。
具体的には、カルシウム分離工程で用いた固定化装置1(カルシウム分離槽)において、図2で示すように二酸化炭素の供給を止めた上で、新たに曝気装置10を用いて水溶液中に空気(Air)8を曝気させることにより、過剰なCO2を追い出し、溶液を中性化(pH6.0以上ph8.0以下の中性領域)し、水溶性の炭酸水素カルシウムから非水溶性の炭酸カルシウム化を促進させ、炭酸カルシウム結晶11(CaCO3)を沈殿析出させることができる(下記反応式参照。)。

Ca(HCO3)2(水に可溶)⇒ CaCO3(水に不溶)+H2O+CO2

こうすることで、適切に二酸化炭素の固定化が可能となる。
【0035】
そして、目詰まりを防止した固液分離装置で容易に炭酸カルシウムは分離可能である。
また、この生成直後の炭酸カルシウム(数十μmサイズ)は不図示のフィルタープレス等の固液分離装置にて水溶液中から系外へ抜き出し、回収してもよい。
回収した炭酸カルシウムは、例えば、酸性土壌の改質中和剤などで利用可能である。
【0036】
また、固体の生成物となったリンタンパク質4も同様に固液分離にて、比較的粗いメッシュで系外排出でき、回収されたリンタンパク質(ガゼイン他)は肥料原料などに有効利用できる。
【0037】
なお、中性化にあたっては、曝気装置10を用いずとも、他の公知の方法であっても構わない。例えば、アンモニア添加による中性化方法等であってもよい。
【0038】
本実施形態1により、ある程度分別された廃棄物を原料として二酸化炭素の炭酸カルシウムでの固定化が実現できる。
また、副次的に生じたリンタンパク質は生分解プラスチック原料や肥料原料としての活用もできるため極めて環境負荷が少ない。
【0039】
なお、医学分野では、多発性骨髄腫や骨粗しょう症など骨芽(HA化)の阻害事例が認められる。
特に多発性骨髄腫ではMタンパク(タンパク質)がHA化を阻害することが知られている。
これは、リン酸基(H2PO4-)(非金属)がタンパク質(非金属)と共有結合する現象による。
(リン酸基とタンパク質の共有結合が、HA化のイオン結合より優勢であることによる。)
このことにより、実反応工程に投入するタンパク質は大豆かす等タンパク質系食品残渣を対象とできる。
【0040】
なお、本実施形態1において、カルシウム分離工程と炭酸カルシウム生成工程に分けて行わない場合、つまり、カルシウム分離と炭酸カルシウム生成を同時に行う場合には、生成直後の炭酸カルシウムは非常に小さいので、効率良く選鉱するには、浮遊選鉱技術を適用することも可能である。
例えば、投入する二酸化炭素を負帯電化したマイクロバブルとすることで、微細な炭酸カルシウムは二酸化炭素バブルに付着し二酸化炭素バブルと共に炭酸水2の上方に移動し、浮遊選鉱方式で回収可能となる。
これは、炭酸カルシウム(Vaterite)の結晶構造が、六方晶系P63MMCであり表面正帯電のグラファイトと同じことによる。
【0041】
炭酸カルシウムをより生成しやすく安定化する方向は、炭酸カルシウムの溶解度が下がる方向である。溶解度が下がる条件は酸性よりも中性側、温度は高温側がより低溶解度となる。
なお、炭酸と水を比重比較すると炭酸の方が水よりも重いので、水に炭酸ガスを吹き入れた水槽では炭酸が水より下部へ分布することになる。このことにより上方ほど炭酸濃度が低くなることで、上方は下部よりも中性側となる。
また、温度は通常通り上部の方が高くなることで、pHと温度勾配双方の観点より上方側で炭酸カルシウムが析出しやすくなるので、上方から回収することがより調和的であり、望ましい。
【0042】
なお、本実施形態1による生成物はCaCO3(石灰岩)であり、この生成物を系外に排出した後に、酸性環境に暴露させなければ長期的なCO2固定化物として存在し続ける。
比較であるが、葉緑体を利用したカルビンサイクルによるCO2固定生産物の場合は、時間軸に幅はあるものの将来において温室効果ガス成分(発酵メタンガス、石油・コークス経由CO2)に回帰してしまう懸念がある。
【0043】
<実施形態2>
図3は本実施形態2に係る二酸化炭素の固定化方法及び固定化装置(2槽式)の概略図である。
実施形態2は実施形態1と同様であるが、炭酸カルシウム生成槽9を別途設け、そこで炭酸カルシウム生成工程を行う点が異なる。
すなわち、カルシウム分離工程と炭酸カルシウム生成工程をそれぞれ別の槽にて行うことにより効率的に炭酸カルシウムを生成することができる。
【0044】
具体的には、カルシウム分離工程はカルシウム分離槽1(pH4.6領域)で行われ、炭酸水とカルシウムの反応は過剰に二酸化炭素を吹き込んだ状態となっており、炭酸カルシウムに更に炭酸水が寄与した以下のような状態となっている。

CaCO3(水に不溶)+H2O+CO2⇒Ca(HCO3)2(水に可溶)
【0045】
このようなpH4.6領域のままでは炭酸カルシウムを効果的に回収することができないので、生成している炭酸水素カルシウムCa(HCO3)2を水溶液の状態で移送装置13により炭酸カルシウム生成槽9へ移送し、炭酸カルシウム生成工程を行う。この炭酸カルシウム生成槽9では曝気装置10で水溶液中に空気(Air)8を曝気させることにより、過剰なCO2を追い出し、溶液を中性化(pH6.0以上ph8.0以下の中性領域)し、水溶性の炭酸水素カルシウムから非水溶性の炭酸カルシウム化を促進させ、効率よく炭酸カルシウム結晶11(CaCO3)を沈殿析出させることができる(下記反応式参照。)。

Ca(HCO3)2(水に可溶)⇒CaCO3(水に不溶)+H2O+CO2
【0046】
このように実施形態2では2槽式とすることで、カルシウム分離工程と炭酸カルシウム生成工程を同時に進行させることができ、実施形態1よりも効率的に二酸化炭素の固定化が可能となる。
なお、ここで生じる過剰なCO2は、前工程のpH4.6とするカルシウム分離槽1に繰り返し利用することができる。
また、この生成直後の炭酸カルシウム(数十μmサイズ)は不図示のフィルタープレス等の固液分離装置にて水溶液中から系外へ抜き出し、回収することができる。
回収した炭酸カルシウムは、例えば、酸性土壌の改質中和剤などで利用可能である。
また、pH4.6のカルシウム分離槽1では固液分離にて、固体の生成物となったリンタンパク質4を比較的粗いメッシュで系外排出でき、回収されたリンタンパク質(ガゼイン他)は肥料原料などに有効利用できる。
【実施例0047】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
本実施例(実験)においては、リン酸カルシウム(リンとカルシウムを含む物質)とタンパク質(リン酸基と共有結合する物質)を炭酸水中で反応させて、炭酸カルシウムが生成すること(二酸化炭素が固定化されること)、を確認する。
【0049】
・実験に使用した原料は下記のとおりである。
(1)リン酸カルシウム原料(一般食品)
(2)タンパク質原料(WHEY PROTEIN)
(3)炭酸水(pH4.01)
【0050】
・実験に使用した主な設備等は以下の通りである。
(1)ビーカー
(2)リン酸カルシウムを分析する機器(Ca、Pを測定)
(3)pH測定器
(4)漏斗
(5)ろ紙
(6)実験・研究用さじ(スプーン)
【0051】
<実施内容>
(1)リン酸カルシウム原料の分析(CaとPの割合を分析し、Ca/Pを求めた([表1]参照)。)。
(2)リン酸カルシウム36g、タンパク質原料20g及び炭酸水40ccをビーカー中で混合し、混合溶液を作成した(但し、炭酸水は飽和溶解程度とした。)。なお、混合溶液中ではイオン化したリン酸基がタンパク質と共有結合し、リンタンパク質を形成する(但し、等電点で帯電なし)。
(3)混合溶液のpHが4.6を保つように調整を行った。pH調整(等電点化)には、CO2を吹き込んだり、微量の塩酸を滴下したりした。
(4)時間経過と共にやや白濁した状態(中性化が進行しCaCO3が晶出された)となった。Caイオンはリンタンパク質に付着することができず、pH4.6付近では炭酸水素カルシウムとして溶液中に溶解状態となる。
(5)この状態で、ろ過(固液分離)を行い、リンタンパク質(固体)と炭酸水素カルシウム含有溶液(液体)を分離した。
(6)ろ過中にも傾向が見られるが、ろ液の炭酸が抜けて中性化(pH6.0以上pH8.0以下)が進行すると液に不溶な炭酸カルシウムとして晶出した。
(7)ろ液の分析(CaとPの割合を分析し、Ca/Pを求めた(表1参照)。)。
【0052】
<実施結果>
以下、表1で示すとおり、ろ液中のCa/P比が上昇した。
これは、リン酸カルシウム中のCa成分がリン酸基から離れ溶液中に分配されたことを示すものである。
また、Ca成分は溶液中に分配された後、炭酸カルシウムとして晶出した。すなわち、二酸化炭素の固定化が行われたことが実験で明らかになった。
【0053】
[表1]
実施内容(1) 実施内容(7)
リン酸カルシウム原料 ろ液
Ca 29.49% 0.65%
P 20.12% 0.25%
Ca/P 1.47 2.60
【産業上の利用可能性】
【0054】
本技術の最適な対象工場は清掃工場である。これは燃焼系統排ガス(CO2)、動物系廃棄物(HA)、食品残渣(タンパク質)など原料が揃っているためである。
【符号の説明】
【0055】
1 二酸化炭素の固定化装置(カルシウム分離槽)
2 炭酸水(pH4.65以下。遊離したカルシウムイオンが溶解)
3 リンとカルシウムを含む物質
4 共有結合物(リンタンパク質等)
5 リン酸基と共有結合する物質
6 二酸化炭素バブル
7 供給管(水槽最下部から全体に供給)
8 空気(Air)
9 二酸化炭素の固定化装置(曝気槽・炭酸カルシウム生成槽)
10曝気装置
11炭酸カルシウム沈殿物
12炭酸水(pH6.0以上pH8.0以下)
13移送装置(カルシウム分離槽から炭酸カルシウム生成槽への移送を行う。)
図1
図2
図3
図4