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特開2023-68302繊維材散布装置およびコンクリート構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068302
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】繊維材散布装置およびコンクリート構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/16 20060101AFI20230510BHJP
【FI】
B28B1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179267
(22)【出願日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521531300
【氏名又は名称】バルチップ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502391600
【氏名又は名称】株式会社テクノコア
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】室賀 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 政次
【テーマコード(参考)】
4G052
【Fターム(参考)】
4G052AB29
4G052AB42
(57)【要約】
【課題】打設した固化前のコンクリートの表層部に繊維材を均一に散布して、表層部に繊維材が埋め込まれたコンクリート構造体を効率よく製造できる繊維材散布装置およびコンクリート構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】本体部2に繊維材60が収容される収容部3と収容部3に収容された繊維材60が排出される排出口4とが設けられていて、本体部2に車輪6が接続されている繊維材散布装置1を、打設した固化前のコンクリート51の表層部51a上で移動させる。そして、車輪6を表層部51a上で転動させるとともに、車輪6の回転に連動して排出口4から排出される繊維材60の散布量を所望量に調整する散布量調整機構8により、表層部51a上に繊維材60を散布する。これにより、表層部51aに繊維材60が埋め込まれたコンクリート構造体50を製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設した固化前のコンクリートの表層部に繊維材を散布する繊維材散布装置において、
前記繊維材が収容される収容部および前記収容部に収容された前記繊維材が排出される排出口を有する本体部と、前記本体部に接続されていて前記表層部上を転動する車輪と、前記車輪の回転に連動して前記排出口から排出される前記繊維材の散布量を所望量に調整する散布量調整機構とを備えたことを特徴とする繊維材散布装置。
【請求項2】
前記散布量調整機構が、前記収容部と前記排出口との間に設けられていて、前記車輪の回転に連動して前記収容部に収容されている所望量の前記繊維材をほぐすほぐし機構を有している請求項1に記載の繊維材散布装置。
【請求項3】
前記ほぐし機構が、前記車輪の回転に連動して揺動する揺動部を有している請求項2に記載の繊維材散布装置。
【請求項4】
前記散布量調整機構が、前記収容部と前記排出口との間に設けられた中途開口部と、前記車輪の回転に連動して前記中途開口部の開口状態と閉口状態とを切り換える切り換え機構とを有する請求項1~3のいずれかに記載の繊維材散布装置。
【請求項5】
前記散布量調整機構が、前記収容部と前記排出口との間に配置されていて、前記車輪の回転に連動して回転する羽根車を有している請求項1~4のいずれかに記載の繊維材散布装置。
【請求項6】
前記車輪の回転駆動力を前記散布量調整機構に伝達させる伝達機構を有する請求項1~5のいずれかに記載の繊維材散布装置。
【請求項7】
前記排出口から排出された前記繊維材を前記表層部に向けて押圧する押圧機構を有する請求項1~6のいずれかに記載の繊維材散布装置。
【請求項8】
表層部に繊維材が埋め込まれたコンクリート構造体を製造する方法において、
本体部に前記繊維材が収容される収容部と前記収容部に収容された前記繊維材が排出される排出口とが設けられていて、前記本体部に車輪が接続されている繊維材散布装置を、打設した固化前のコンクリートの前記表層部上で移動させて、前記車輪を前記表層部上で転動させるとともに、前記車輪の回転に連動して前記排出口から排出される前記繊維材の散布量を所望量に調整する散布量調整機構により、前記表層部上に前記繊維材を散布することを特徴とするコンクリート構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材散布装置およびコンクリート構造体の製造方法に関し、さらに詳しくは、打設した固化前のコンクリートの表層部に繊維材を均一に散布して、表層部に繊維材が埋め込まれたコンクリート構造体を効率よく製造できる繊維材散布装置およびコンクリート構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートに多数の細かな繊維材(短繊維)を埋め込むことによって、コンクリート構造体の引張りに対する耐久性を高める工法が知られている(例えば、特許文献1参照)。従来では、生コンクリート(以下、生コンという)を運搬するアジテータ車のドラム内に繊維材を投入し、ドラムを高速回転させることで生コンと繊維材とを混合している。そして、繊維材が混合された生コンを打設して固化させることにより、全体に繊維材が埋め込まれたコンクリート構造体を製造している。
【0003】
しかしながら、この製造方法では、コンクリート構造体の不要な箇所にも繊維材が埋め込まれた状態となるため、非経済的である。また、打設作業後にはアジテータ車のドラムに繊維材が付着して残るため、ドラムの洗浄に多大な労力を要し、洗浄後に生じる処理水も多くなる。繊維材が混合された残コンを処分するにも多くの手間とコストを要するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-178755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、打設した固化前のコンクリートの表層部に繊維材を均一に散布して、表層部に繊維材が埋め込まれたコンクリート構造体を効率よく製造できる繊維材散布装置およびコンクリート構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の繊維材散布装置は、打設した固化前のコンクリートの表層部に繊維材を散布する繊維材散布装置において、前記繊維材が収容される収容部および前記収容部に収容された前記繊維材が排出される排出口を有する本体部と、前記本体部に接続されていて前記表層部上を転動する車輪と、前記車輪の回転に連動して前記排出口から排出される前記繊維材の散布量を所望量に調整する散布量調整機構とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明のコンクリート構造体の製造方法は、表層部に繊維材が埋め込まれたコンクリート構造体を製造する方法において、本体部に前記繊維材が収容される収容部と前記収容部に収容された前記繊維材が排出される排出口とが設けられていて、前記本体部に車輪が接続されている繊維材散布装置を、打設した固化前のコンクリートの前記表層部上で移動させて、前記車輪を前記表層部上で転動させるとともに、前記車輪の回転に連動して前記排出口から排出される前記繊維材の散布量を所望量に調整する散布量調整機構により、前記表層部上に前記繊維材を散布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、打設した固化前のコンクリートの表層部上で繊維材散布装置を移動させて車輪を転動させるだけで、車輪の回転に連動して散布量調整機構により所望量の繊維材が排出口から排出される。それ故、作業者の技量によらず、コンクリートの表層部に繊維材を均一に散布することができ、表層部に繊維材が埋め込まれたコンクリート構造体を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る実施形態の繊維材散布装置を使用してコンクリートの表層部上に繊維材を散布している状況を側面視で例示する説明図である。
図2図1の繊維材散布装置の内部構造を縦断面視で例示する説明図である。
図3図2のA矢視図である。
図4図2のB-B断面矢視図である。
図5図2の繊維材散布装置が所定距離移動した状態の内部構造を縦断面視で例示する説明図である。
図6】本発明に係る別の実施形態の繊維材散布装置を牽引してコンクリートの表層部上に繊維材を散布している状況を側面視で例示する説明図である。
図7図6の繊維材散布装置を押してコンクリートの表層部上に繊維材を散布している状況を側面視で例示する説明図である。
図8】本発明に係るさらに別の実施形態の繊維材散布装置を使用してコンクリートの表層部上に繊維材を散布している状況を側面視で例示する説明図である。
図9】本発明に係るさらに別の実施形態の繊維材散布装置を使用してコンクリートの表層部上に繊維材を散布している状況を縦断面視で例示する説明図である。
図10図9の繊維材散布装置が所定距離移動した状態を縦断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の繊維材散布装置およびコンクリート構造体の製造方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1に示すように、本発明では、打設した固化前のコンクリート51の表層部51aに繊維材散布装置1を使用して繊維材60を散布し、表層部51aに繊維材60が埋め込まれたコンクリート構造体50を製造する。ここでいう表層部51aは、例えば、打設したコンクリート51の表面に対する深さが0mm~200mm程度の範囲である。この実施形態では、コンクリート構造体50として、鉄筋52が配筋された鉄筋コンクリート構造のスラブを製造する場合を例示する。以下では、繊維材60の散布時に繊維材散布装置1を移動させる方向を前後方向とし、前後方向に対して水平に直交する方向を左右方向として説明する。
【0012】
繊維材60は、太さ(幅、直径)が0.3mm~1.5mm程度で、長さが10mm~50mm程度の細かな短繊維である。図面では繊維材60を模式的に大きく図示しているが、実際の繊維材60は非常に細かく、繊維材60どうしは絡み合い易くダマ(塊)になり易い。繊維材60としては、例えば、樹脂で形成されたポリプロピレン繊維やビニロン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維などが用いられる。その他にも繊維材60として、例えば、鋼繊維や炭素繊維、ガラス繊維などを用いる場合もある。多数の繊維材60をコンクリート51の表層部51aに埋め込むことで、繊維材60による繊維補強効果によりコンクリート51のひび割れの拡大が抑制され、コンクリート構造体50の引張りに対する耐久性が向上する。
【0013】
図1に例示するように、繊維材散布装置1は、内空部を有する本体部2と、本体部2に接続された車輪6と、本体部2の内空部に設けられた散布量調整機構8とを備えている。図2図4に例示するように、本体部2は、内空部を有するケーシングを有して構成されており、繊維材60が収容される収容部3と、収容部3に収容された繊維材60が排出される排出口4とを有している。収容部3は本体部2の上部に設けられていて、収容部3よりも下方に排出口4が設けられている。この実施形態では、本体部2の上部に収容部3としてホッパー3aが設けられていて、ホッパー3aの投入口3bから本体部2の内空部に繊維材60が投入される。
【0014】
本体部2の前部には前方に向かって延在するフレーム部2aが設けられていて、フレーム部2aの前部に車軸5を介して左右一対の車輪6が回転可能に接続されている。車輪6は例えば、ゴム製のタイヤで構成される。一対の車輪6は、本体部2の外側に配置されている。フレーム部2aの前部には持ち手7が連結されている。持ち手7は上下に高さ位置を変更できる構成になっている。作業者が持ち手7をもって繊維材散布装置1を牽引することで、一対の車輪6は打設した固化前のコンクリート51の表層部51a上を転動する。
【0015】
車輪6が固化前のコンクリート51上を転動する際には、車輪6がコンクリート51の表面から5mm~20mm程度沈み込むため、排出口4は車輪6の下端面よりも例えば、50mm~200mm程度高い位置に配置するとよい。車輪6のコンクリート51に接触する面(走行面)は、コンクリート51や繊維材60が付着し難い構成にするとよい。
【0016】
散布量調整機構8は、車輪6の回転に連動して排出口4から排出される繊維材60の散布量を所望量に調整する。言い換えると、散布量調整機構8は、車輪6の回転量、即ち、繊維材散布装置1の移動距離に対応して排出口4から排出される繊維材60の散布量を所望量に調整する。散布量調整機構8は、本体部2の内空部の収容部3と排出口4との間に設けられている。収容部3に収容された繊維材60は散布量調整機構8を介して排出口4からコンクリート51の表層部51a上に排出される。なお、図2では繊維材散布装置1の内部構造が分かり易いように繊維材60を省略して図示している。図3および図4では、繊維材散布装置1の内部の繊維材60を省略して図示している。
【0017】
この実施形態の散布量調整機構8は、収容部3と排出口4との間に設けられた中途開口部9と、収容部3に設けられたほぐし機構11と、中途開口部9の近傍に設けられた切り換え機構14と、中途開口部9と排出口4との間に配置された羽根車16とを有して構成されている。この実施形態の繊維材散布装置1は、車輪6の回転駆動力を散布量調整機構8に伝達させる伝達機構19を有している。
【0018】
中途開口部9は、開口面積が収容部3の投入口3よりも狭く設定されていている。繊維材60どうしは絡み合い易いため、散布量調整機構8が稼働していない状態では、投入口3bから収容部3に投入された繊維材60はまとまった状態で中途開口部9の上方に滞留した状態になる。羽根車16の回転軸18は左右方向に延在していて、本体部2に軸支されている。羽根車16は回転軸18の外周に、複数の羽根17が放射状に配設された構造になっている。
【0019】
この実施形態の伝達機構19は、車輪6の車軸5に設けられた第1プーリー20と、羽根車16の回転軸18に設けられた第2プーリー21と、第1プーリー20および第2プーリー21に掛け回されたベルト22とを有して構成されている。ここでいう第1プーリー20および第2プーリー21はスプロケットを含んでおり、ベルト22はチェーンを含んでいる。車輪6および車軸5とともに第1プーリー20が回転すると、その回転駆動力がベルト22を介して第2プーリー21に伝達され、車輪6の回転に連動して羽根車16(回転軸18)が車輪6の回転方向(前後方向)に回転する構成になっている。
【0020】
切り換え機構14は、車輪6の回転に連動して中途開口部9の開口状態と閉口状態とを切り換える機構である。この実施形態の切り換え機構14は、中途開口部9に支軸10を介して本体部2に回転可能に接続された開閉蓋部15を有している。開閉蓋部15は例えば、板バネ部材で構成される。図2に示すように、開閉蓋部15の下端部が羽根車16の羽根17によって前方に押されていない状態では、開閉蓋部15によって中途開口部9が塞がれた状態となる。この実施形態では、板バネ部材の付勢力により開閉蓋部15が中途開口部9の縁に押し付けられた状態となる。
【0021】
図5に示すように、羽根車16が回転して羽根17によって開閉蓋部15の下端部が前方に押されると、支軸10を中心にして開閉蓋部15が前後方向に回動することで、中途開口部9が開口した状態となる。羽根車16がさらに回り、羽根17によって開閉蓋部15の下端部が前方に押される状態が解除されると、開閉蓋部15によって中途開口部9は再び塞がれた状態となる。即ち、この実施形態では、第1プーリー20、ベルト22および第2プーリー21とともに羽根車16が、車輪6の回転駆動力を切り換え機構14に伝達させる伝達機構19として機能する。なお、図5では繊維材散布装置1の内部構造が分かり易いように繊維材60を省略して図示している。
【0022】
ほぐし機構11は、車輪6の回転に連動して収容部3に収容されている所望量の繊維材60をほぐす機構である。この実施形態のほぐし機構11は、支軸10を介して本体部2に回転可能に連結された左右一対のアーム部12と、一対のアーム部12の上部に架け渡された揺動部13とを有して構成されている。支軸10を中心にして開閉蓋部15が前後方向に回動すると、それにともない、支軸10を中心にしてアーム部12および揺動部13が前後方向に揺動(回動)する構成になっている。即ち、この実施形態では、第1プーリー20、ベルト22、第2プーリー21および羽根車16とともに開閉蓋部15が、車輪6の回転駆動力をほぐし機構11に伝達させる伝達機構19として機能する。
【0023】
車輪6の回転に連動してアーム部12および揺動部13が収容部3の下部で揺動することで、収容部3の下部に溜まっている所望量の繊維材60がほぐされる。そして、ほぐし機構11によってほぐされた所望量の繊維材60が順次開口した状態の中途開口部9を通り、羽根車16に向かって落下する構成になっている。揺動部13は、例えば、棒状部材や板状部材で構成される。櫛状の揺動部13や凹凸形状の揺動部13にすることもできる。
【0024】
羽根車16の羽根17どうしの間に落下した繊維材60は、羽根車16が回転すると排出口4に向かって落下し、落下した繊維材60は排出口4からコンクリート51の表層部51a上に排出される。繊維材散布装置1の移動を停止させると、羽根車16の回転も停止した状態となり、開閉蓋部15を構成する板バネ部材の付勢力により中途開口部9は閉口状態となる。これにより、繊維材散布装置1の停止時は、排出口4から繊維材60は排出されない状態となる。
【0025】
次に、繊維材散布装置1を使用したコンクリート構造体50の製造方法を説明する。
【0026】
型枠の設置と鉄筋52の配筋を行ない、型枠の内側にコンクリート51(生コン)を打設する。次いで、打設したコンクリート51を荒均しした後に、繊維材散布装置1を打設した固化前のコンクリート51上に配置する。繊維材散布装置1の収容部3には繊維材60を収容した状態にする。この実施形態では、ホッパー3aの投入口3bから繊維材60を投入することで中途開口部9よりも上方の収容部3に繊維材60が収容された状態となる。収容部3に収容されている繊維材60は互いに絡まり合った状態になっている。
【0027】
次いで、打設したコンクリート51が固化する以前、具体的には例えば、コンクリート51を打設してから0時間~1時間以内に、繊維材散布装置1を使用してコンクリート51の表層部51a上に繊維材60を散布する。具体的には、作業者は持ち手7を持って、繊維材散布装置1をコンクリート51の表層部51a上で牽引して前方に移動させる。繊維材散布装置1を表層部51a上で移動させると、車輪6が表層部51a上で転動し、車輪6の回転駆動力が伝達機構19(第1プーリー20、ベルト22および第2プーリー21)によって羽根車16に伝達され、車輪6の回転に連動して羽根車16が回転する。
【0028】
そして、羽根車16の回転に連動して、開閉蓋部15が支軸10を中心にして前後に回動することで中途開口部9の開口状態と閉口状態とが交互に切り換えられるとともに、ほぐし機構11により収容部3に収容されている所望量の繊維材60がほぐされる。これにより、車輪6の回転量に対応した所望量の繊維材60が、収容部3から中途開口部9を通って羽根車16に向かって落下する。羽根車16の羽根17どうしの間に落下した繊維材60は、羽根車16が回転することで順次排出口4に向かって落下し、排出口4からコンクリート51の表層部51a上に排出される。
【0029】
このように、繊維材散布装置1を固化前のコンクリート51上で移動させることで、車輪6の回転量、即ち、繊維材散布装置1の移動距離に応じた所望量の繊維材60がコンクリート51の表層部51a上に散布される。散布量調整機構8は、例えば、1m2当たり繊維材60が50g~300g程度散布されるように、散布量調整機構8による繊維材60の散布量を設定するとよい。
【0030】
コンクリート51の表層部51a上に繊維材60を散布した後には、繊維材60を上から押圧して繊維材60を表層部51a中に沈め込ませるタンピング作業と最終的な表面の均し作業を行う。その後、コンクリート51を所定期間養生してコンクリート51を固化させる。以上の工程により、表層部51aに繊維材60が埋め込まれたコンクリート構造体50の製造が完了する。
【0031】
このように、本発明では、打設した固化前のコンクリート51の表層部51a上で繊維材散布装置1を移動させて車輪6を転動させるだけで、車輪6の回転に連動して散布量調整機構8により所望量の繊維材60が排出口4から排出される。それ故、作業者の技量によらず、コンクリート51の表層部51aに繊維材60を均一に散布することができ、表層部51aに繊維材60が埋め込まれたコンクリート構造体50を効率よく製造できる。特に、繊維材60を手でほぐしながら広範囲に散布するには多大な労力と時間を要するが、本発明では繊維材散布装置1を移動させるだけで広範囲に繊維材60を散布できるので、作業者の軽労化を図るとともに、工期の短縮を図ることができる。さらに、繊維材散布装置1を使用することで、繊維材60を手で散布する場合よりも品質の安定したコンクリート構造体50を製造できる。
【0032】
また、この製造方法では、コンクリート構造体50の表層部51aのみに繊維材60を埋め込むことで、全体に繊維材60を埋め込む場合に比して、耐久性に優れたコンクリート構造体50をより低コストで製造できる。さらに、コンクリート51の表層部51aに繊維材60を均一に埋め込むことができるので、コンクリート構造体50の一部に応力が集中し難くなり、コンクリート構造体50の耐久性を高めるには有利になる。アジテータ車のドラムを利用して生コンと繊維材60とを混合する必要もないため、ドラムの洗浄や残コンの処理に要する労力やコストも低減できる。
【0033】
散布量調整機構8がほぐし機構11を有する構成にすると、車輪6の回転に連動してほぐし機構11が収容部3に収容されている所望量の繊維材60をほぐすことで、簡素な構成でありながら、排出口4から排出される繊維材60の散布量を比較的精度よく調整できる。また、収容部3に収容されていた繊維材60がほぐし機構11によってほぐされた後に排出口4から散布されるので、繊維材60がダマになった状態で散布されることをより確実に回避できる。それ故、繊維材60を均一に散布するには有利になる。この実施形態のように、車輪6の回転駆動力をほぐし機構11に伝達する伝達機構19を有する構成にすると、ほぐし機構11にモータなどの駆動装置を設ける必要がないため、繊維材散布装置1を非常に簡素に構成できる。
【0034】
ほぐし機構11がアーム部12および揺動部13を有する構成にすると、揺動部13が揺動することで、収容部3に収容されている繊維材60を効率的にほぐしつつ、そのほぐした繊維材60を中途開口部9にスムーズに誘導できる。それ故、収容部3から中途開口部9を通過する繊維材60の量が安定し、繊維材60を均一に散布するにはより有利になる。また、ほぐし機構11は、車輪6の回転に連動して収容部3に収容されている所望量の繊維材60をほぐすことができる構成であれば、例示した実施形態と異なる構成にすることもできる。
【0035】
散布量調整機構8が中途開口部9および切り換え機構14を有する構成にすると、切り換え機構14により、車輪6の回転に連動して中途開口部9の開口状態と閉口状態とを切り換えることで、簡素な構成でありながら、排出口4から排出される繊維材60の散布量を精度よく調整できる。切り換え機構14を板バネ部材で構成された開閉蓋部15を有する構成にすると、切り換え機構14を簡素に構成できる。切り換え機構14は、車輪6の回転に連動して中途開口部9の開口状態と閉口状態とを切り換えられる構成であれば、例示した実施形態と異なる構成にすることもできる。
【0036】
散布量調整機構8が、車輪6の回転に連動して回転する羽根車16を有する構成にすると、中途開口部9を通って落下した繊維材60どうしが、回転する羽根車16によってより細かく分散される。それ故、排出口4から繊維材60がダマになった状態で排出されることをより確実に回避でき、繊維材60を均一に散布するにはより有利になる。
【0037】
車輪6の回転駆動力を散布量調整機構8に伝達させる伝達機構19を有する構成にすると、散布量調整機構8を構成するそれぞれの機構にモータなどの駆動装置を設けずとも、車輪6を転動させるだけで散布量調整機構8を稼働させることができる。それ故、繊維材散布装置1を非常に簡素に構成でき、繊維材散布装置1に電源装置を装備する必要がなくなる、或いは、装備する電源装置の軽量化を図ることができる。そのため、繊維材散布装置1の利便性がより高くなる。なお、伝達機構19の構成は、例示した実施形態と異なる構成にすることもできる。
【0038】
この実施形態のように、伝達機構19を第1プーリー20、第2プーリー21およびベルト22を有する構成にすると、伝達機構19を非常に簡素に構成できる。例えば、車軸5に径の異なる複数の第1プーリー20とギア変更機構を設けて、第1プーリー20の回転数に対応する第2プーリー21の回転数を変更できる構成にすることもできる。ギア変更機構を設けると、使用する繊維材60の種類やコンクリート構造体50に要求される引張強度などに応じて、車輪6の回転量に対応する繊維材60の散布量を変更することが可能になる。それ故、繊維材散布装置1の汎用性がより高くなる。例えば、回転軸18に径の異なる複数の第2プーリー21とギア変更機構を設けた場合にも同様の効果を奏することができる。
【0039】
図6および図7に本発明に係る別の実施形態の繊維材散布装置1を例示する。
【0040】
この実施形態の繊維材散布装置1は、先に例示した実施形態の繊維材散布装置1と基本的な構成は同じであるが、本体部2に対する車輪6の配置と、持ち手7の構造が異なっている。その他の構成は先に例示した実施形態の繊維材散布装置1と概ね同じである。
【0041】
この実施形態では、本体部2の後部に車輪6が配置されていて、排出口4の前端が車輪6の前端よりも前方に位置している。また、持ち手7が本体部2の前後に回動可能な構造になっている。図6に示すように、持ち手7を本体部2の前方に配置することで、繊維材散布装置1を牽引して移動させることができる。図7に示すように、持ち手7を本体部2の後方に配置することで、繊維材散布装置1を押して移動させることができる。
【0042】
図6に示すように、通常は、持ち手7を本体部2の前方に配置して作業者が繊維材散布装置1を牽引して移動させることで、表層部51aから繊維材60が剥がれるリスクや散布された繊維材60が乱れるリスクが低い状態で繊維材60を効率的に散布できる。図7に示すように、柱や壁などがある隅に繊維材60を散布する場合には、持ち手7を本体部2の後方に配置して作業者が繊維材散布装置1を押して移動させることで、繊維材散布装置1により、隅まで繊維材60を均一に散布することができる。この実施形態では、車輪6の前端よりも排出口4の前端を前方に配置していることで、隅に繊維材60を散布する場合にも、車輪6が邪魔にならず、隅まで繊維材60を円滑に散布できる。
【0043】
この実施形態では、持ち手7が本体部2の前後に回動する構造にしているが、例えば、持ち手7を本体部2に対して着脱可能な構成とし、本体部2に対する持ち手7の配置を前後に変更できる構成にすることもできる。また、例えば、本体部2の前方と後方の両側にそれぞれ持ち手7を設けて、繊維材散布装置1を押して移動させる場合には、前方の持ち手7を排出口4の前端よりも後方に移動させる構成や、前方の持ち手7を取り外す構成にすることもできる。
【0044】
図8に本発明に係る別の実施形態の繊維材散布装置1を例示する。
【0045】
この実施形態の繊維材散布装置1は、図1図5に例示した実施形態の繊維材散布装置1に押圧機構30を付加している。その他の構成は図1図5に例示した実施形態の繊維材散布装置1と同じである。
【0046】
押圧機構30は、排出口4から排出された繊維材60をコンクリート51の表層部51aに向かって押圧する。この実施形態の押圧機構30は、本体部2の後方に配置されたローラ31で構成されている。ローラ31は上下位置を変更できる構成になっている。ローラ31の下端の上下位置は、コンクリート51の表面と同じ高さに設定するとよい。繊維材散布装置1をコンクリート51上で移動させて、排出口4から繊維材60が表層部51a上に散布されると、排出口4よりも後方に配置されたローラ31によって、散布された繊維材60が上から押圧される。これにより、散布された繊維材60がコンクリート51の表層部51a中に沈み込む。
【0047】
このように、押圧機構30を設けると、繊維材散布装置1をコンクリート51上で移動させるだけで、散布した繊維材60をコンクリート51の表層部51a中に埋め込ませることができ、タンピング作業を省略する、或いは、タンピング作業に要する時間を短縮できる。それ故、作業者の軽労化を図るとともに工期の短縮を図るにはより一層有利になる。押圧機構30をローラ31で構成すると、押圧機構30を非常に簡易に構成できる。
【0048】
図9および図10に本発明に係るさらに別の実施形態の繊維材散布装置1を例示する。
【0049】
この実施形態の繊維材散布装置1は、図8に例示した実施形態の繊維材散布装置1とは異なる構成の押圧機構30を有している。その他の構成は図8に例示した実施形態と同じである。なお、図9および図10では、繊維材散布装置1の内部の繊維材60を省略して図示している。
【0050】
この実施形態の押圧機構30は、本体部2の後方に配置された第3プーリー32、リンク機構33および押圧部34を有して構成されている。第2プーリー21および第3プーリー32にベルトが掛け回されていて、車輪6とともに第1プーリー20が回転すると、その回転駆動力が第2プーリー21を介して第3プーリー32に伝達される。押圧部34は、排出口4から表層部51a上に散布された繊維材60を上から押圧する板状部材または網状部材である。
【0051】
リンク機構33は第3プーリー32の回転駆動を押圧部34の上下移動に変換する機構であり、第3プーリー32の回転に連動させて押圧部34を上下移動させる。図9に示すように、押圧部34が最も下がった状態では押圧部34の下端面が表層部51aに当接した状態となる。図10に示すように、押圧部34が上昇すると押圧部34の下端面が表層部51aから離間した状態となる。
【0052】
繊維材散布装置1をコンクリート51上で移動させて、排出口4から繊維材60が表層部51a上に散布されると、排出口4よりも後方に配置された上下移動する押圧部34によって散布された繊維材60が上から押圧される。これにより、散布された繊維材60がコンクリート51の表層部51a中に沈み込む。このように、車輪6の回転駆動力を利用して押圧部34が上下移動する構成にすると、繊維材60をより効果的に表層部51a中に沈み込ませることができる。なお、リンク機構33は、第3プーリー32の回転駆動を押圧部34の上下移動に変換できる気候であればよく、図示している構造と異なる構造にすることもできる。
【0053】
上記では、コンクリート構造体50としてスラブを製造する場合を例示したが、繊維材散布装置1はその他のコンクリート構造体50の製造に使用することもできる。上記で例示した散布量調整機構8を構成するほぐし機構11、切り換え機構14および羽根車16は、それぞれ任意で設けることができ、それぞれ任意に組み合わせることができる。例えば、散布量調整機構8が切り換え機構14を有さずに、ほぐし機構11と羽根車16を有する構成にすることもできる。
【0054】
また、散布量調整機構8は、車輪6の回転に連動して排出口4に排出される繊維材60の散布量を所望量に調整できる構成であれば、上記で例示した実施形態に限定されず他にも様々な構成にすることができる。例えば、車輪6の回転量を計測するセンサを設けて、センサの計測データに基づいて、収容部3から排出口4に排出する繊維材60の散布量を電子的に制御する構成にすることもできる。
【符号の説明】
【0055】
1 繊維材散布装置
2 本体部
2a フレーム部
3 収容部
3a ホッパー
3b 投入口
4 排出口
5 車軸
6 車輪
7 持ち手
8 散布量調整機構
9 中途開口部
10 支軸
11 ほぐし機構
12 アーム部
13 揺動部
14 切り換え機構
15 開閉蓋部
16 羽根車
17 羽根
18 回転軸
19 伝達機構
20 第1プーリー
21 第2プーリー
22 ベルト
30 押圧機構
31 ローラ
32 第3プーリー
33 リンク機構
34 押圧部
50 コンクリート構造体
51 コンクリート
51a 表層部
52 鉄筋
60 繊維材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10